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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127589
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】不燃性基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/04 20060101AFI20240912BHJP
   C09K 21/06 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09K21/04
C09K21/06
C08F230/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036839
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 忠
(72)【発明者】
【氏名】古川 拓郎
【テーマコード(参考)】
4H028
4J100
【Fターム(参考)】
4H028AA08
4H028AA46
4H028AA49
4H028BA03
4H028BA04
4J100AP07P
4J100BA65Q
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA18
4J100FA28
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】白華現象が抑制され、かつ、不燃性に優れた基材およびその製造方法の提供。
【解決手段】本発明による不燃性基材は、基材に有機シラン化合物を含浸させ、前記有機シラン化合物を含浸させた基材に下記一般式(1):
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
で表されるポリマーを含浸させ、前記ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に有機シラン化合物を含浸させ、
前記有機シラン化合物を含浸させた基材に下記一般式(1):
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
で表されるポリマーを含浸させ、
前記ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする、不燃性基材。
【請求項2】
ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーター試験で測定した加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/M以下である、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項3】
前記有機シラン化合物の含浸量が、含浸前の基材の質量に対して1質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項4】
前記ポリマーの含浸量が、含浸前の基材の質量に対して20質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項5】
前記ホウ素化合物の含浸量が、含浸前の基材の質量に対して30質量%以上130質量%以下である、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項6】
前記有機シラン化合物が、テトラアルコキシシランを含む、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項7】
前記ホウ素化合物が、ホウ酸およびホウ砂の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項8】
前記基材が、木材、紙、織物、不織布、および樹脂からなる群から選択される、請求項1に記載の不燃性基材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の不燃性基材の製造方法であって、
基材に有機シラン化合物を含浸させる第1工程と、
前記有機シラン化合物を含浸させた基材に前記ポリマーを含浸させる第2工程と、
前記ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させる第3工程と、
を含むことを特徴とする、不燃性基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材、紙材、樹脂、布などの基材は、一般に、燃焼しやすく、それに伴って有害ガスが発生する。そのため、公共の建築物や規模の大きい建築物の内装に使用される基材は、建築基準法から、防火上の制限を受ける場合がある。また、一般住宅で使用される基材においても、安全面の問題から難燃性を求める声は増えており、今後も、基材に対する難燃化のニーズは増加することが予想される。
【0003】
一般に、基材に対して難燃性を付与する技術としては、リン化合物やハロゲン化合物、ホウ酸・ホウ砂混合物等を含んだ薬剤を基材に含浸させる方法等が知られている。特にこれらの中でも、ホウ酸・ホウ砂混合物を含んだ薬剤は、安定性が高いことから広く利用されている。例えば、ホウ酸とホウ砂を含有する水溶液に、一定の加熱および冷却処理を施して得られたホウ素化合物の水溶液を、木材や和紙等に含浸させることで、これらが高い難燃性を示すことが開示されている(特許文献1)。また、ホウ素化合物と糖類とを特定の割合で添加した難燃組成物を、ポリエステル不織布やポリプロピレン不織布等に含浸させると、これらの不織布が高い難燃性を示すことが開示されている(特許文献2)。しかしながら、上記技術では、基材の難燃性を高めることができるものの、多湿の環境下で使用し続けると、基材に含まれたホウ素化合物が潮解して溶出し、その結果、基材の表面にホウ素化合物が白く析出するという、いわゆる白華現象が発生し、外観が悪くなるという問題があった。
【0004】
上記問題を解決する手段として、基材に難燃性を与え、かつ、白華現象を抑制するために、例えば、難燃剤、リン酸イオン、マグネシウムイオンおよびアンモニウムイオンを含有する酸性水溶液を木質材料に注入し、次に、この木質材料をアルカリ性水溶液に接触させて、木質材料の表面や内部に難溶性物質であるリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させることにより、難燃剤の溶脱を抑制する技術が開示されている(特許文献3)。また、ホウ素化合物を木材に含浸させて乾燥させた後、塩化カルシウム等でホウ素化合物を不溶化させ、さらに、木材の表面を防湿性の樹脂で覆う技術が開示されている(特許文献4)。しかしながら、これらの技術は、ホウ素化合物を固定させるために、多くの薬剤を必要とし、また、製造工程が多く煩雑であり非常に手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4439234号公報
【特許文献2】特開2011-162743号公報
【特許文献3】特開2012-121274号公報
【特許文献4】特開2007-136992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、特許文献1~4に記載の技術では、白華現象の抑制と基材への不燃性の付与を両立させるには不十分であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、白華現象が抑制され、かつ、不燃性に優れた基材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、基材に有機シラン化合物、下記一般式(1)で表されるポリマー(以下、「ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマー」という)、およびホウ素化合物の順で含浸させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 基材に有機シラン化合物を含浸させ、
前記有機シラン化合物を含浸させた基材に下記一般式(1):
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
で表されるポリマーを含浸させ、
前記ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする、不燃性基材。
[2] ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーター試験で測定した加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/M以下である、[1]に記載の不燃性基材。
[3] 前記有機シラン化合物の含浸量が、含浸前の基材の質量に対して1質量%以上30質量%以下である、[1]または[2]に記載の不燃性基材。
[4] 前記ポリマーの含浸量が、含浸前の基材の質量に対して20質量%以上80質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の不燃性基材。
[5] 前記ホウ素化合物の含浸量が、含浸前の基材の質量に対して30質量%以上130質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の不燃性基材。
[6] 前記有機シラン化合物が、テトラアルコキシシランを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の不燃性基材。
[7] 前記ホウ素化合物が、ホウ酸およびホウ砂の少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の不燃性基材。
[8] 前記基材が、木材、紙、織物、不織布、および樹脂からなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかに記載の不燃性基材。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の不燃性基材の製造方法であって、
基材に有機シラン化合物を含浸させる第1工程と、
前記有機シラン化合物を含浸させた基材に前記ポリマーを含浸させる第2工程と、
前記ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させる第3工程と、
を含むことを特徴とする、不燃性基材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、白華現象が抑制され、かつ、不燃性に優れた基材およびその製造方法を提供することができる。このような不燃性基材は、不燃材料の認定を要求される建材用として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[不燃性基材]
本発明の不燃性基材は、基材に有機シラン化合物を含浸させ、有機シラン化合物を含浸させた基材に特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させ、ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させた基材にホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする。不燃性基材は、白華現象が抑制され、かつ、不燃性に優れるものである。このような不燃性基材は、不燃材料の認定を要求される建材用として好適に使用することができる。
【0012】
本発明においては、基材に有機シラン化合物、特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマー、およびホウ素化合物の順で含浸させることで、白華現象が抑制され、かつ、不燃性に優れる不燃性基材を得ることができる。この理由としては、最初に基材に有機シラン化合物を含浸することで、特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマー水溶液の含浸の過程で、加水分解によりSi-O-Siの構造が形成され、不燃性付与の効果が得られると推察される。
一方、仮に最初に、基材に特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させた場合、その後に、有機シラン化合物およびホウ素化合物を含浸させたとしても、本発明の効果が十分に得られなくなる。この理由としては、有機シラン化合物は、水と酸(または塩基)条件下で加水分解・重縮合するため、有機シラン化合物(酸)を最初に含浸して乾燥してしまうとP-O-P構造となり、水分も無いため、Si-O-Siの構造が形成され難く、不燃性付与の効果が得られないと推察される。
また、仮に最初に、基材にホウ素化合物を含浸させた場合、その後に、有機シラン化合物および特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させたとしても、本発明の効果が十分に得られなくなる。この理由としては、ホウ素化合物の含浸後では、基材への有機シラン化合物および特定のビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの含浸が阻害されて、十分な含浸量が得られないと推察される。
【0013】
本発明の不燃性基材は、ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーター試験で測定した加熱開始後20分間の総発熱量が、8MJ/M以下であり、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴がない状態で、優れた不燃性を有するものである。
なお、不燃性基材の総発熱量は、ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、放射熱強度50kW/mにて加熱したときに、加熱開始後20分間の総発熱量を測定した値である。
【0014】
(基材)
本発明で使用する基材は、不燃性を付与する対象の基材であれば特に限定されず、例えば、木材、紙、織物、不織布、樹脂等が挙げられる。
【0015】
木材は、特に限定されず、従来公知の木材を使用することができる。木材としては、例えば、杉材、エゾマツ、ヒノキ、キリ、ベニヤ、ケヤキ、SPF集成材(スプルス(エゾマツ)、パイン(マツ)、ファー(モミ))、竹等が挙げられる。
【0016】
紙は、特に限定されず、従来公知の紙を使用することができる。紙としては、例えば、和紙、ふすま紙、洋紙等が挙げられる。
【0017】
織物は、特に限定されず、従来公知の織物を使用することができる。織物としては、例えば、綿布、ポリエステル織布、ポリプロピレン織布、ナイロン織布、アクリル織布、ビニロン織布、アラミド織布、ポリエチレンテレフタレート織布等が挙げられる。
【0018】
不織布は、特に限定されず、従来公知の不織布を使用することができる。不織布としては、例えば、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、アクリル不織布、ナイロン不織布、アラミド不織布等が挙げられる。
【0019】
樹脂は、特に限定されず、従来公知の樹脂を使用することができる。樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン(硬質、軟質)、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ブタジエンゴム、ネオプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、イソブテンイソプレンゴムおよびこれらの複合材料の成型体およびフィルム等が挙げられる。
【0020】
(有機シラン化合物)
基材に含浸させる有機シラン化合物としては、例えば、テトラアルコキシシランを好適に用いることができる。テトラアルコキシシランのアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4である。具体的には、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびテトライソプロポキシシラン等が挙げられる。
【0021】
有機シラン化合物の含浸量は、含浸前の基材の質量に対して、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上15質量%以下であり、さらにより好ましくは4質量%以上10質量%以下である。有機シラン化合物の含浸量が上記数値範囲内であれば、基材の白華現象を抑制しながら、基材に不燃性を付与することができる。
【0022】
(ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマー)
基材に含浸させるビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーは、下記一般式(1):
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。)
で表される。このようなビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸ポリマー、ビニルホスホン酸ジメチルポリマーおよびビニルホスホン酸ジエチルポリマーが挙げられる。これらの中でも、水への溶解性の点でビニルホスホン酸ポリマーが好ましい。
【0023】
ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは500以上100000以下であり、より好ましくは1000以上50000以下であり、さらに好ましくは2000以上30000以下である。また、ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1.0以上5.0以下であり、より好ましくは1.2以上4.5以下であり、さらに好ましくは1.5以上4.0以下である。重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)が上記数値範囲内であれば、ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの水への溶解性を高めることができ、また、含浸に用いるビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの水溶液の粘度が抑えられるため、基材への処理が容易になる。
【0024】
ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの含浸量は、含浸前の基材の質量に対して、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上78質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上76質量%以下であり、さらにより好ましくは50質量%以上74質量%以下である。ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの含浸量が上記数値範囲内であれば、基材の白華現象を抑制しながら、基材に不燃性を付与することができる。
【0025】
ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーの重合方法としては、ビニルホスホン酸(ジアルキル)モノマーを用いて、一般的に用いられるラジカル重合法を用いることで分子量を目的の範囲とすることが可能となる。
【0026】
ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーのラジカル重合法としては、特に限定されないが、重合開始剤の存在下、有機溶媒または水溶性の溶媒中でビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを加熱重合する方法が挙げられる。
【0027】
重合開始剤としては、従来公知のもの、例えば、ケトンパーオキシド、ジアシルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシケタール、アルキルパーオキシエステル、パーオキシカーボネート等の過酸化物系重合開始剤、アゾニトリル、アゾエステル、アゾアミド等のアゾ系重合開始剤を使用することができる。過酸化物系重合開始剤の具体例としては、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等を挙げることができる。アゾ系化合物の重合開始剤は取り扱いの安全性が優れる点で好ましい。これらの重合開始剤は単独若しくは混合して用いることができる。
【0028】
溶媒としては、重合開始剤が可溶な溶媒であれば特に限定されない。重合溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等を挙げることができる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
加熱する温度は、重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよいが、50~180℃の範囲が好ましく、60~170℃がより好ましい。加熱温度を50℃以上とすることで、反応の低下を防止することができ、180℃以下とすることで、重合開始剤の分解を防止することができる。
【0030】
(ホウ素化合物)
基材に含浸させるホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸およびホウ砂の少なくとも1種を好適に用いることができる。ホウ素化合物としては、ホウ酸およびホウ砂の両方を用いることがより好ましい。
【0031】
ホウ酸としては、工業的に入手可能であれば、特に限定されない。ホウ酸としては、例えば、HBO(オルトホウ酸)やHBO(ホウ酸)等が挙げられる。これらのホウ酸は、1種単独で使用してもよく、また、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0032】
ホウ砂としては、工業的に入手可能であれば、特に限定されない。ホウ砂としては、例えば、Na・10HO(4ホウ酸ナトリウム10水和物)やNa(4ホウ酸ナトリウム無水物)等が挙げられる。これらのホウ砂は、1種単独で使用してもよく、また、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0033】
ホウ酸およびホウ砂の両方を用いる場合、ホウ酸をXおよびホウ砂をYとした場合の、ホウ酸とホウ砂の質量比X/Yは、特に制限されないが、例えば、0.6~1.2が好ましく、0.6~1.0がより好ましい。このような質量比とすることで、含浸に用いる溶液を中性付近に保つことができ、含浸時に基材の変質を防ぎやすくなる。
【0034】
ホウ素化合物の含浸量(特に、ホウ酸およびホウ砂の合計含浸量)は、含浸前の基材の質量に対して、好ましくは30質量%以上130質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上125質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以上120質量%以下であり、さらにより好ましくは80質量%以上115質量%以下である。ホウ素化合物の含浸量が上記数値範囲内であれば、基材の白華現象を抑制しながら、基材に不燃性を付与することができる。
【0035】
(他の添加剤)
基材には、上記の有機シラン化合物、ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマー、およびホウ素化合物以外にも、他の添加剤を含浸させてもよい。他の添加剤としては、例えば、メタノール、エタノール、IPA、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの浸透剤や水性ポリウレタンエマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンなどの塗膜形成剤が挙げられる。
【0036】
添加剤の含浸量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、含浸前の基材の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0037】
[不燃性基材の製造方法]
本発明の不燃性基材の製造方法は、下記の第1工程~第3工程を含むものである。
【0038】
(第1工程)
第1工程は、基材に有機シラン化合物を含浸させる工程である。基材および有機シラン化合物については、上述の通りである。
【0039】
(第2工程)
第2工程は、有機シラン化合物を含浸させた基材に、上記一般式(1)で表されるビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させる工程である。当該ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーについては、上述の通りである。
【0040】
(第3工程)
第3工程は、ビニルホスホン酸(ジアルキル)ポリマーを含浸させた基材に、ホウ素化合物を含浸させる工程である。ホウ素化合物については、上述の通りである。
【0041】
上記の第1工程~第3工程において、含浸方法は特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、各成分を含む溶液に基材を浸漬する方法や、当該溶液を基材に塗布する方法が挙げられる。
【0042】
基材を上記溶液中に浸漬する方法としては、例えば、基材を上記溶液中に投入し、必要に応じて、加熱および/または加圧するのが好ましい。温度や圧力の条件としては基材の種類や形状などにより適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は40℃~140℃が好ましく、圧力は2~10気圧が好ましい。加熱および/または加圧のために、例えば、オートクレーブ等の装置を使用することができる。
【0043】
基材に上記溶液を塗布する方法としては、公知の塗布方法を挙げることができ、基材の種類や形状、上記溶液の粘性などにより適宜設定すればよい。例えば、塗布方法としては、刷毛塗り法、ブレード法、噴霧法などが挙げられる。
【0044】
上記の第1工程~第3工程においては、上記溶液で基材を処理した後、当該溶液中に含まれている溶媒(水分)を除去するために乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理の方法およびその条件としては、特に限定されず、溶媒(水分)が除去され、各成分および基材が変質、変形しない限り適宜設定すればよい。例えば、乾燥温度は、好ましくは105~155℃であり、乾燥時間は好ましくは24~48時間である。
【実施例0045】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0046】
<分子量の測定>
下記合成例において得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリエチレンオキサイド試料を用いた換算値から算出した。
(GPCの条件)
GPC測定装置:SHIMADZU社製LC-Solution
カラム:Shodex GPC SB-G 6B+SB-805
HQ+SB-804 HQ(レゾナック製)
カラム温度:40℃
移動相:0.2M NaCl水溶液
流量:0.5mL/min
検出器:RI検出器
【0047】
<ビニルホスホン酸ポリマーの合成例>
容器内へ、撹拌子と、ビニルホスホン酸(EUTICALS製)72kg(666mol)、重合開始剤(2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、富士フイルム和光純薬(株)製、商品名VA-044)3.2kg(9.9mol、モノマーに対して1.5mol%)を加えた。
重合開始剤(VA-044)が溶解するまで撹拌を行い、8時間撹拌しながら65℃に加熱し、重合反応を行った。重合終了後、容器を冷却して重合を停止し、ビニルホスホン酸ポリマー(以下、「P0P」と称する)を得た。
得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は11,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.83であった。
【0048】
<不燃性基材の製造>
[実施例1]
まず、4cm角の木材(杉)を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。その後、乾燥後の木材を、蒸留水129.4g、テトラエトキシシラン(TEOS)209.3g、エタノール129.3gを混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間以上加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0049】
次に、乾燥後の木材を、上記で合成した30質量%P0P水溶液330.5gに浸漬し、1.0MPaで24時間加圧含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を、65℃で48時間以上乾燥させ、さらに115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0050】
続いて、乾燥後の木材を、蒸留水301.6g、ホウ素化合物(SPB:ホウ酸301.1gおよびホウ砂240.2gの混合物)を混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0051】
上記の測定結果を表1に示す。得られた木材は、乾燥後(含浸前)の質量に対して、TEOS含有量が5.7質量%であり、P0P含有量が68.4質量%であり、SPB含有量が87.9質量%であった。
【表1】
【0052】
[比較例1]
まず、4cm角の木材(杉)を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。その後、乾燥後の木材を、上記で合成した30質量%P0P水溶液341.4gに浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0053】
次に、乾燥後の木材を、蒸留水127.2g、テトラエトキシシラン(TEOS)208.3g、エタノール127.3gを混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間以上加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0054】
続いて、乾燥後の木材を、蒸留水299.7g、ホウ素化合物(SPB:ホウ酸239.8gおよびホウ砂299.6gの混合物)を混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0055】
上記の測定結果を表2に示す。得られた木材は、乾燥後(含浸前)の質量に対して、P0P含有量が45.7質量%であり、TEOS含有量が1.5質量%であり、SPB含有量が73.5質量%であった。
【表2】
【0056】
[比較例2]
まず、4cm角の木材(杉)を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。その後、乾燥後の木材を、上記で合成した30質量%P0P水溶液360.3g、テトラエトキシシラン(TEOS)208.3g、エタノール253.0gを混合した溶液に浸漬し、1.0MPaで24時間加圧含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を65℃で48時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。さらに、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0057】
次に、乾燥後の木材を、蒸留水300.1g、ホウ素化合物(SPB:ホウ酸240.0gおよびホウ砂301.2gの混合物)を混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0058】
上記の測定結果を表3に示す。得られた木材は、乾燥後(含浸前)の質量に対して、P0PおよびTEOSの合計含有量が40.9質量%であり、SPB含有量が53.4質量%であった。
【表3】
【0059】
[比較例3]
まず、4cm角の木材(杉)を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。その後、乾燥後の木材を、蒸留水127.9g、テトラエトキシシラン(TEOS)207.2g、エタノール129.2gを混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0060】
次に、乾燥後の木材を、蒸留水301.6g、ホウ素化合物(SPB:ホウ酸239.9gおよびホウ砂301.4gの混合物)を混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0061】
上記の測定結果を表4に示す。得られた木材は、乾燥後(含浸前)の質量に対して、TEOS含有量が14.0質量%であり、SPB含有量が108.2質量%であった。
【表4】
【0062】
[比較例4]
まず、4cm角の木材(杉)を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。その後、乾燥後の木材を、蒸留水300.4g、ホウ素化合物(SPB:ホウ酸240.2gおよびホウ砂302.7gの混合物)を混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、78℃で24時間加圧加熱含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、木材を115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0063】
次に、乾燥後の木材を、上記で合成した30質量%P0P水溶液360.5g、テトラエトキシシラン(TEOS)208.3g、エタノール252.6gを混合した溶液に浸漬し、1.0MPa、24時間加圧含浸した。含浸終了後の木材の質量を測定した。その後、65℃で48時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。さらに、115℃で24時間以上乾燥させた。乾燥後の木材の質量を測定した。
【0064】
上記の測定結果を表5に示す。得られた木材は、乾燥後(含浸前)の質量に対して、SPB含有量が59.2質量%であり、P0PおよびTEOSの合計含有量が1.4質量%であった。
【表5】
【0065】
[基材の評価]
<燃焼試験>
上記で製造した各木材について、750℃に保持したマッフル炉で20分間加熱し、加熱後の木材の質量を測定した。その測定結果から、加熱による木材の質量減少率(%)を算出した。質量減少率の値が低い方が、不燃性が高いことを示す。
【0066】
<コーンカロリーメーター試験>
上記で製造した各木材について、ISO5660-1に準拠して、コーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、放射熱強度50kW/mにて加熱したときに、加熱開始後20分間の総発熱量(MJ/M)を測定した。総発熱量の値が低い方が、不燃性が高いことを示す。また、コーンカロリーメーター試験機による発熱性試験後の基材の外観を目視で確認し、下記の基準で判定した。コーンカロリーメーター試験機による発熱性試験後の基材に裏面まで達する貫通孔が有る場合には、不燃性認定の基準を満たさない。
(外観の判断基準)
〇:裏面まで達する貫通孔が無かった。
×:裏面まで達する貫通孔が有った。
【0067】
<白華試験>
上記で製造した各木材について、目視により表面に現れた白華の有無を確認して行った。
【0068】
上記の試験結果を表6に示す。
【表6】