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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127594
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】管理システムおよび管理方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E21D9/093 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036844
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】平野 享
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 裕介
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054AC06
2D054BA07
2D054CA03
2D054FA02
2D054GA10
2D054GA12
2D054GA15
2D054GA17
2D054GA68
2D054GA93
(57)【要約】
【課題】 添加剤の逸失量の管理が容易となる管理システムおよび管理方法を提供すること。
【解決手段】 管理システムは、掘削土砂と添加剤とを混合しながら掘削を行う掘削機において、添加剤の逸失量を管理するためのシステムであり、掘削土砂と添加剤とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、一定量の添加剤が逸失した場合の第1の密度と、添加剤が逸失しない場合の第2の密度とを算出する演算部50と、掘削機において掘削した掘削土砂と注入した添加剤とを混合した泥土の密度を第3の密度として測定する測定手段31と、算出した第1の密度および第2の密度と、測定した第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成する生成部53とを含む。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削土砂と添加剤とを混合しながら掘削を行う掘削機において、前記添加剤の逸失量を管理するためのシステムであって、
掘削土砂と添加剤とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、一定量の添加剤が逸失した場合の第1の密度と、添加剤が逸失しない場合の第2の密度とを算出する演算手段と、
前記掘削機において掘削した掘削土砂と注入した添加剤とを混合した泥土の密度を第3の密度として測定する測定手段と、
算出した前記第1の密度および前記第2の密度と、測定した前記第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成する生成手段と
を含む、管理システム。
【請求項2】
前記添加剤は、気泡であり、前記第1の密度は、前記気泡に内包する空気が一定量逸失した場合の前記泥土の密度である、請求項1に記載の管理システム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記掘削土砂の間隙に存在する空気を含む混合後の前記泥土の気相成分の一定量を、逸失する前記気泡に内包する空気の一定量として前記第1の密度を算出する、請求項2に記載の管理システム。
【請求項4】
前記演算手段は、前記掘削土砂の単位体積当たりに混合する前記気泡の体積と、前記気泡の密度と、前記掘削土砂の密度と、前記気泡に内包する空気が一定量逸失する場合の漏洩率とを用いて、前記第1の密度を算出する、請求項3に記載の管理システム。
【請求項5】
前記演算手段は、前記気泡の体積と、前記気泡の密度と、前記掘削土砂の密度とを用いて、前記第2の密度を算出する、請求項4に記載の管理システム。
【請求項6】
前記気泡の体積を監視する監視手段を含む、請求項4または5に記載の管理システム。
【請求項7】
前記掘削土砂の密度は、前記泥土を処分する際に測定された締固め密度、もしくは該締固め密度をボーリング調査で得られた密度との相関により補正した密度である、請求項4または5に記載の管理システム。
【請求項8】
掘削土砂と添加剤とを混合しながら掘削を行う掘削機において、前記添加剤の逸失量を管理する方法であって、管理システムが、
掘削土砂と添加剤とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、一定量の添加剤が逸失した場合の第1の密度と、添加剤が逸失しない場合の第2の密度とを算出するステップと、
前記掘削機において掘削した掘削土砂と注入した添加剤とを混合した泥土の密度を第3の密度として測定するステップと、
算出した前記第1の密度および前記第2の密度と、測定した前記第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成するステップと
を含む、管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤の逸失量を管理するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
泥土圧シールド工法は、シールドマシンのチャンバー内の掘削土砂に添加剤を注入して泥土に変換し、泥土によって切羽を安定させる工法である。泥土圧シールドでは、添加剤の全てがチャンバー内の泥土に混合されていることが理想であり、掘削地山周辺への漏出は地山を緩めてしまうことになる。また、泥土圧シールドでは、掘削と排出との比の管理が重要で、この比が過多もしくは過少になると、掘削地山の隆起や陥没等のリスクとなる。
【0003】
そこで、掘削中のチャンバー内の土砂の特性をリアルタイムで正確かつ安全に計測する装置や、連続的に搬送される計測対象物の物性情報を効率的かつ的確に取得する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7066907号公報
【特許文献2】特開2022-114142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の技術では、結局のところ、量的バランスに基づいて掘削と排出との比や漏出量の推定を行うことになるが、直接的に計測で特定できない変数が多いため、添加剤の逸失量を管理するのが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、掘削土砂と添加剤とを混合しながら掘削を行う掘削機において、添加剤の逸失量を管理するためのシステムであって、
掘削土砂と添加剤とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、一定量の添加剤が逸失した場合の第1の密度と、添加剤が逸失しない場合の第2の密度とを算出する演算手段と、
掘削機において掘削した掘削土砂と注入した添加剤とを混合した泥土の密度を第3の密度として測定する測定手段と、
算出した第1の密度および第2の密度と、測定した第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成する生成手段と
を含む、管理システムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、添加剤の逸失量の管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】泥土圧シールドについて説明する図。
図2】量的バランスについて説明する図。
図3】本実施形態に係る管理システムのハードウェア構成の一例を示した図。
図4】管理システムの機能構成の一例を示したブロック図。
図5】チャンバー内の泥土モデルの一例を示した図。
図6】添加剤の逸失量を管理するための処理の一例を示したフローチャート。
図7】逸失量を管理するために生成される管理密度図の一例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、泥土圧シールドについて説明する図である。シールド10は、前方の土砂を削り、崩壊しようとする掘削面を押さえながら、削り取った量とバランスする量の掘削土砂を坑外へ排出して前進する掘削機である。
【0010】
シールド10は、鋼製の外筒であるスキンプレート11の一端(先端)に、前方の土砂を削るためのカッターヘッド12を有する。カッターヘッド12は、回転可能な略円形の面板もしくはスポークと呼ばれる棒に、放射状に配列する複数の切削用のビットを備える。スキンプレート11内のカッターヘッド12の背面側には、隔壁13が設けられ、掘削面を押さえる土圧をかけながら掘削土砂を排出可能に塑性流動化させるための撹拌室としてチャンバー14が形成される。チャンバー14内には、掘削土砂を塑性流動化させるために、粘土、ベントナイト、気泡、水溶性高分子等の添加剤が注入される。
【0011】
カッターヘッド12は、掘削土砂を取り込む開口を有する。カッターヘッド12の開口を通してチャンバー14内に取り込まれた掘削土砂には、添加剤が注入され、掘削土砂と添加剤とが撹拌棒15により撹拌混合される。撹拌棒15は、カッターヘッド12の背面に配設され、カッターヘッド12の回転とともに回転し、掘削土砂と添加剤との混練りを促進し、掘削土砂の付着や堆積を防止する。
【0012】
チャンバー14内で混合された掘削土砂と添加剤との混合物は、泥土として、隔壁13を貫通するスクリューコンベア16により取り出される。取り出された泥土は、排土として、ベルトコンベア17により坑外へ搬出される。
【0013】
シールド10は、隔壁13の後方に、セグメント18と呼ばれるトンネル覆工ブロックをリング状に組立てるためのエレクター19を備える。エレクター19は、セグメント18を把持し、所定の位置まで搬送して設置する。また、シールド10は、スキンプレート11の内周に沿って所定の間隔で複数配置されるシールドジャッキ20を備える。シールド10は、エレクター19により組み立てられたセグメント18にシールドジャッキ20を押し当て、シールドジャッキ20を伸ばすことにより前進する。
【0014】
シールド10は、セグメント18の背部(セグメント18と掘削したトンネル壁面との間)に注入材を注入する裏込め注入装置21を備える。
【0015】
泥土圧シールドでは、添加剤として、上記の粘土や気泡等を用いることができるが、以下、泥土圧シールドを、気泡を用いた気泡シールドとして説明する。
【0016】
気泡は、起泡剤を圧縮空気で発泡させることにより発生させることができる。このため、シールド10は、起泡剤を収容する容器と、圧縮空気を吐出するブロワもしくは圧縮機とを備える。起泡剤を圧縮空気で発泡させると、微細なシェービングクリーム状の気泡が発生し、掘削土砂の粒子間に入り、流動性と止水性を向上させ、チャンバー14内での掘削土砂の付着を防止する。起泡剤としては、これに限られるものではないが、例えばアルキルエーテル硫酸エステル塩等の界面活性剤系の起泡剤を用いることができる。
【0017】
掘削土砂と気泡とが混合された泥土は、坑外へ排出される際、気泡が消泡し、気泡注入前の掘削土砂に戻るため、運搬や処分が容易となる。
【0018】
ところで、掘削土砂に注入された気泡は、全てがチャンバー14内で掘削土砂と混合され、チャンバー14内に留まっていることが理想であるが、カッターヘッド12に開口を有し、何等かの要因で破泡することがあるため、チャンバー14内から気泡空気として漏出し得る。掘削地山周辺への気泡空気の漏出は、地山を緩める原因となる。
【0019】
泥土圧シールドでは、掘削面を押さえる土圧をかけながら掘削土砂を排出可能に塑性流動化させるため、掘削と排出の比を管理することが重要である。掘削と排出の比が過多もしくは過少となると、掘削地山の隆起や陥没等のリスクとなる。
【0020】
従来においては、量的バランスに基づいて掘削と排出の比や漏出量の推定を行い、気泡の逸失量を管理している。気泡の逸失は、気泡シールドの特長を損ない、排土バランスを見誤らせるため警戒すべき対象である。
【0021】
図2を参照して、量的バランスについて説明する。掘削対象である地山を掘削し、シールド10のチャンバー14内に取り込んだ掘削土砂の量は、掘削断面外からの過剰な取り込みがないとした設計上の状態で、地山密度ρと掘削断面にあたる地山の体積Vとから掘削土砂の重量Mとして算出される。また、この掘削土砂に添加する気泡の添加量は、空気の重量がほぼ0であることから、溶液部分の重量にほぼ等しく、起泡剤の体積と密度から添加重量Mとして算出される。そして、前記Mと前記Mとの和が量的バランスにおける掘削量になる。
【0022】
一方、量的バランスにおける排土量は、例えばベルトコンベア位置で秤量された排土重量Mappである。あるいは、前記Mappは、チャンバー14内の泥土の密度ρappと、ベルトコンベア位置でスキャンニングされた排土の体積Vappからも求めることができる。
【0023】
量的バランスが適正に管理されて外部に不均衡を与えていなければ、チャンバー14内に入る掘削量と、チャンバー14内から出る排土量は等しくなければならない。すなわち、概ねM+M=Mappである。
【0024】
しかしながら、実際の施工管理においては、地山密度ρが想定と異なることがあり、気泡も漏出しないとは限らないことから、M+Mが増減し、M+M>MappもしくはM+M<Mappとなり得る。前記M+Mの増減を認めた場合、それをもたらすρの変化や気泡の漏出量Δとして特定したいところであるが、どちらも直接的に計測で特定することができないため、解が不定の状態となる。
【0025】
そこで、ρとΔのいずれか一方を固定し、他方を様々に変化させて推定するシミュレーションを網羅的に行うことができる。しかしながら、毎回このようなシミュレーションを行うことは、手間がかかり、容易に気泡の逸失量を管理することはできない。
【0026】
本実施形態に係る管理システムでは、所定の経過時間あるいはトンネルの進行毎に、地山密度ρは固定して、気泡の漏出量Δを変数とするシミュレーションを、気泡漏出なしのケースと、気泡から一定量の空気分が漏出したケースとの、これら2つのケースだけ実施する。そして、その結果もたらされるチャンバー14内の泥土の密度を各々算出する。ここで、漏出なしのケースから得た密度は、漏出の程度で変動するうちの最小値ρlowerに対応し、気泡から一定量の空気分が漏出したケースから得た密度は、漏出の程度で変動するうちの最大値ρupperに対応すると考える。最後に、チャンバー14内の泥土の密度ρappを実測定して、これがρupperとρlowerで挟まれたバンドの中でどの位置にあるかを示す。これを続ければ、気泡の逸失量の管理限界までの安全率を傾向(トレンド)およびリアルタイムの両面から確認でき、安全な気泡シールドの施工に寄与できる。
【0027】
図3は、管理システムのハードウェア構成の一例を示した図である。管理システムは、情報処理装置30と、シールド10のチャンバー14内に取り付けられる密度を測定するための測定手段31とを含む。
【0028】
情報処理装置30は、例えばデスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)、ゲーム機等を用いることができる。測定手段31は、例えば土圧勾配換算による密度測定を行うため、土圧勾配を測定する複数の土圧計を用いることができる。土圧勾配を得るために、チャンバー14内の上中下左右および斜め位置のように、5個~数十個といった必要数の土圧計を設置することができる。
【0029】
情報処理装置30は、一般的のコンピュータと同様、CPU32、ROM33、RAM34、HD35、HDDコントローラ36、ディスプレイ37、通信I/F38、バス39、キーボード40、ポインティングデバイス41を備える。情報処理装置30は、そのほか、マイク、スピーカ、外部機器接続I/F、メディアI/F等を備えていてもよい。
【0030】
CPU32は、情報処理装置30全体の動作を制御する。ROM33は、ブートローダ等のCPU32の駆動に用いられるプログラムを記憶する。RAM34は、CPU32に対して作業領域を提供する。HD35は、各種のプログラムやデータ等を記憶する。なお、各種プログラム等を記憶する記憶装置としては、HD35に限らず、SDD(Solid State Drive)等を使用してもよい。HDDコントローラ36は、CPU32の制御に従ってHD35に対する各種データの読み出し、書き込みを制御する。
【0031】
ディスプレイ37は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等であり、カーソル、メニュー、ウィンドウ、文字や画像等の各種情報を表示する。通信I/F38は、測定手段31との間で通信を行う。通信は、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。また、通信I/F38は、ネットワークに接続し、ネットワークを介して他の機器と通信を行うこともできる。バス39は、CPU32等の各構成要素を接続する。キーボード40は、文字、数値、各種指示等の入力のための複数のキーを備える。ポインティングデバイス41は、各種指示の選択や実行、処理対象の選択、カーソルの移動等を行う。
【0032】
図4は、情報処理装置30の機能構成の一例を示したブロック図である。情報処理装置30は、上記のシミュレーションの実行や実測定がバンドに対してどの位置にあるかを示すための各機能部を有し、各機能部は、図3に示したCPU32によって実現することができる。なお、各機能部は、CPU32のほか、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現してもよい。
【0033】
情報処理装置30は、演算部50と、監視部51と、通信部52と、生成部53とを含む。演算部50は、上限として気泡から一定量の空気分が漏出したケースをシミュレーションし、掘削土砂と気泡とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、一定量の気泡が逸失した場合の第1の密度を算出する。また、演算部50は、下限として漏出なしケースをシミュレーションし、掘削土砂と気泡とを混合した泥土の泥土モデルを使用し、気泡が逸失しない場合の第2の密度とを算出する。
【0034】
監視部51は、チャンバー14内へ注入する気泡の量を監視する。通信部52は、測定手段31との間で通信を行い、測定手段31から測定結果を取得する。
【0035】
生成部53は、通信部52が測定手段31から取得した測定結果を第3の密度とし、演算部50により算出された第1の密度および第2の密度と、第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成する。測定結果は、泥土の密度を得るために必要な情報であってもよく、土圧勾配を得るためのチャンバー14内の各位置での土圧等であってもよい。この場合、生成部53は、各位置での土圧等の情報から第3の密度を算出する。なお、各位置で測定された土圧は、土圧分布としてコンター図で表現し、チャンバー14内の撹拌均一性を評価するために使用してもよい。
【0036】
演算部50は、最初にチャンバー14内の泥土モデルを作成し、作成した泥土モデルを用いて仮想のトラブル状態、例えば気泡の一定量が逸失した場合をモデルで構成し、モデルの式からチャンバー14内の理論密度を、第1の密度として算出する。また、演算部50は、対比として、気泡を含め一切の逸失がない場合のチャンバー14内の理論密度を、第2の密度として算出する。
【0037】
図5は、チャンバー14内の泥土モデルの一例を示した図である。入力状態モデルは、チャンバー14内に入力される物質をモデル化したもので、掘削土砂を構成する土粒子、土粒子間に介在する間隙水、間隙空気と、気泡を構成する気泡空気、溶液部分として起泡剤を含む。
【0038】
掘削土砂の体積Vを単位量として1とする。注入される気泡は秤量され、その体積はVとされる。気泡空気、間隙空気の重量は、W=0と近似することができる。したがって、掘削土砂の重量Wは、土粒子の重量と間隙水の重量とを加算したものとされる。また、気泡の重量Wは、気泡密度ρが既知であるから、V×ρにより算出される。
【0039】
以降の計算を簡単にするため、実現象として混合するか否かに関係なく、チャンバー14内で撹拌棒15により撹拌混合すると、間隙水と起泡剤が混合して混合液相となり、気泡空気と間隙空気が混合して混合気相となると考える。
【0040】
気泡の漏出なしケースでは、泥土全体の重量がW+Wとなり、泥土全体の体積が1+Vとなる。気泡から一定量の空気分が漏出したケースでは、混合気相の一部が漏洩気相として漏出すると考える。泥土全体の体積に対する漏洩気相の体積の割合を漏洩率Xとすると、チャンバー14内に残存する泥土の体積の割合は1-Xとなるが、漏洩気相の重量はゼロとしているので、チャンバー14内の泥土の重量はW+Wのままである。
【0041】
図5に示す泥土モデルから上限ρupperと下限ρlowerの理論密度を算出する。具体的には、上限密度をもたらす気泡から一定量の空気分が漏出したケースでは、ρupper=(W+W)/{(1-X)(1+V)}により理論密度を算出することができる。これは、間隙空気と気泡空気とから構成される混合後の泥土の気相成分の一定量を、気泡から漏出する一定量の空気分としてみなして理論密度を算出するものである。下限の気泡の漏出なしケースでは、ρlower=(W+W)/(1+V)により理論密度を算出することができる。
【0042】
次に、既往の技術を用いてチャンバー14内の密度測定を行う。例えば、複数の土圧計により測定した土圧を用い、土圧勾配換算による密度測定を行うことができる。測定した密度を実績値とみなし、算出された理論密度との対比から気泡空気の逸失状況を評価する。その対比に際して、密度管理図を使用することができる。
【0043】
密度管理図における理論密度と実績値との差異の原因として、仮定した地山密度ρが適切であるならば、その密度差をもたらす何か物体のチャンバー14外への逸失が起きているとしか考えられない。
【0044】
例えば、何等かの要因で添加気泡が破泡し、破泡により切羽(掘削面)の遮水性が損なわれ、気泡として内包していた空気が地山内に浸潤することにより、気泡の逸失が生じると考えられる。気泡として内包していた空気は、地山内に浸潤すると、比重差により上方へ移動し、圧力が開放されて体積が膨張する。その結果、地山が崩壊するおそれがある。
【0045】
気泡の逸失量の推定に用いた、図5に示す泥土モデルでは、地山を土粒子・間隙水・間隙空気と3相に区分けしているが、これらの構成比を求めるには飽和度や間隙比を求める土質試験等を実施しなければならず、それは面倒である。
【0046】
本方法では、掘削土砂と気泡との撹拌混合後の泥土内の気相、液相において、地山由来の間隙空気と気泡由来の気泡空気、地山由来の間隙水と気泡由来の起泡剤の区別がつかないことを逆手にとり、上記の土質試験等を行わないことを特徴としている。
【0047】
図6は、本方法の処理の流れを示したフローチャートである。本方法は、ステップ100で、資料や土質試験等で地山密度ρを仮定する。
【0048】
ステップ101で、チャンバー14内の泥土モデルを定義する。ステップ102で、図5に示したような入力状態モデルを確定する。ステップ103で、演算部50が、単位量とした掘削土砂の体積V=1と、地山密度ρとを用いて、地山重量Wを算出する。
【0049】
ステップ104で、監視部51が、気泡の体積Vをモニタリングする。ステップ105で、演算部50が、ρ、V、ρを用いて、逸失なしケースの理論密度ρlowerを算出し、ステップ106で、演算部50が、ρ、V、ρに加えて、指定した漏洩率Xを用い、気泡の一定量が逸失したケースの理論密度ρupperを算出する。
【0050】
ステップ107で、測定手段31が、チャンバー14内の泥土の密度ρappを測定する。ステップ108で、通信部52が、測定手段31から密度ρappを取得する。そして、生成部53が、算出された理論密度ρupperを第1の密度とし、理論密度ρlowerを第2の密度とし、測定した密度ρappとし、第1の密度および第2の密度と、第3の密度との密度差を示す管理密度図を生成し、情報処理装置30のディスプレイ37等の表示部に表示させる。
【0051】
作業員は、表示部に表示された管理密度図を参照することで、管理限界としてのρupperおよびρlowerまでの実績値ρappとの密度差がどれくらいあるかにより、安全率をトレンドおよびリアルタイムの両面から確認することができる。
【0052】
図7は、管理密度図の一例を示した図である。管理密度図は、例えば横軸に経過時間もしくはトンネル進行方向の距離等をとり、縦軸に管理密度をとったグラフである。ρupperは、例えば気泡空気相当量に等しい漏洩率Xを用いて、管理限界値として定めることができる。気泡空気相当量は、例えば掘削土砂に混合した気泡に内包された気泡空気が全て漏出した場合の量とすることができる。
【0053】
作業員は、管理密度図において、実績値ρappが、ρlowerとρupperとの間にあるように管理する。なお、実績値ρappのトレンドからρupperに近づいている等の傾向が分かるので、ρupperを超える前に対策を取ることができる。
【0054】
例えば、破泡しやすいために漏出量が増加している場合、漏れやすい地山である可能性があり、気泡添加に先行して加水撹拌することで地山を濡らしておく対策をとることができる。なお、これは一例であるので、この対策に限定されるものではない。
【0055】
本発明によれば、気泡等の添加剤の逸失量を管理するためのシステムや方法を提供することができる。このような管理は、比較的簡易なチャンバー14内の泥土モデルから導いた管理密度図で行うもので、現場の掘削管理において容易に導入することが可能である。
【0056】
導入のためには、地山密度とチャンバー14内の密度の2つが必要になるが、地山密度は、例えば坑外へ搬出された排土の産廃処理の一貫として行うコーン指数測定に合わせて、締固め密度として得られるものを用いることができる。締固めても地山状態と異なる差異は、文献で取得したボーリング調査で得られた密度との相関で補正することができる。
【0057】
チャンバー14内の泥土の密度は、既往の複数提案されている方法のいずれを採用してもよく、一例として、上記の土圧勾配換算による密度測定を採用することができる。このため、導入に際して、これまでにないような観測値を新たに得る必要がない。
【0058】
これまで本発明の管理システムおよび管理方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
10…シールド
11…スキンプレート
12…カッターヘッド
13…隔壁
14…チャンバー
15…撹拌棒
16…スクリューコンベア
17…ベルトコンベア
18…セグメント
19…エレクター
20…シールドジャッキ
21…裏込め注入装置
30…情報処理装置
31…測定手段
32…CPU
33…ROM
34…RAM
35…HD
36…HDDコントローラ
37…ディスプレイ
38…通信I/F
39…バス
40…キーボード
41…ポインティングデバイス
50…演算部
51…監視部
52…通信部
53…生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7