(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127600
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】金属回収システム及び金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/14 20060101AFI20240912BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20240912BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240912BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240912BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20240912BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C25B1/14
B01D61/04
B01D61/44 510
C02F1/44 Z
C02F1/469
B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036855
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土山 貴大
(72)【発明者】
【氏名】倉品 大輔
(72)【発明者】
【氏名】東谷 賢一
(72)【発明者】
【氏名】藤木 賢治
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA17
4D006HA41
4D006JA42A
4D006JA56Z
4D006JA63Z
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4K021AB01
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4K021BB01
4K021BB03
4K021BC01
4K021BC03
4K021DB31
(57)【要約】
【課題】海水等の処理対象液から効率的に特定金属を回収すると共に、処理対象液の淡水化も行うことのできる金属回収システムを実現する。
【解決手段】金属回収システムは、ポンプで加圧した処理対象液から逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、淡水化装置から排される第1排液から金属イオン交換膜を用いて金属イオンを回収する金属回収装置と、制御装置と、を備え、制御装置は、交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、淡水化装置へ流入する処理対象液の流入流量が予め定めた第1流量となるようにポンプの通電を制御するポンプ制御部と、交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、第1排液における金属イオンの濃度である第1イオン濃度に基づいて、金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電を制御する交換膜制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象液を加圧して送り出すポンプと、
前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、
前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、
前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、
前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、
前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、
前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御するポンプ制御部と、
前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する交換膜制御部と、
を有する、
金属回収システム。
【請求項2】
前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、
前記第2排液を排水する排水路と、
前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、
前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、
を備え、
前記制御装置は、前記制御弁の動作を制御する弁制御部を更に備え、
前記弁制御部は、
前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって、且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときは、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、
前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか、又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときは、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する、
請求項1に記載の金属回収システム。
【請求項3】
前記ポンプ制御部は、
前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御し、
前記交換膜制御部は、
前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する、
請求項1に記載の金属回収システム。
【請求項4】
前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、
前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される、
請求項3に記載の金属回収システム。
【請求項5】
前記ポンプ制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する、
請求項1に記載の金属回収システム。
【請求項6】
前記特定金属はリチウムである、
請求項1に記載の金属回収システム。
【請求項7】
前記処理対象液は海水である、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の金属回収システム。
【請求項8】
処理対象液を加圧して送り出すポンプと、前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、を備える金属回収システムのコンピュータが実行する金属回収方法であって、
前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第1ポンプ制御ステップと、
前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する第1交換膜制御ステップと、
を有する、
金属回収方法。
【請求項9】
前記金属回収システムは、前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、前記第2排液を排水する排水路と、前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、を備え、
前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときに、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、及び、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときに、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する、還流制御ステップを有する、
請求項8に記載の金属回収方法。
【請求項10】
前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第2ポンプ制御ステップと、
前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する第2交換膜制御ステップと、
を有する、
請求項8に記載の金属回収方法。
【請求項11】
前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、
前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される、
請求項10に記載の金属回収方法。
【請求項12】
前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第3ポンプ制御ステップを含む、
請求項8ないし11のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属回収システム及び金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
また、近年、リチウムイオン電池や核融合炉の燃料製造に用いられる物質として、産業におけるリチウム(Li)の重要性が高まっている。
【0004】
特許文献1には、チタン酸リチウムランタン等のリチウムイオン伝導体(イオン伝導体)で構成された選択透過膜を用いたリチウム回収装置が開示されている。このリチウム回収装置では、平板状の選択透過膜により、処理槽を2つの空間に仕切り、選択透過膜の両主面に設けられたメッシュ電極により主面間に電界を印加して、上記仕切られた処理槽の一方の区画に導入される海水から、他方の区画を満たす回収液へ、上記海水中のリチウムイオンが回収される。
【0005】
特許文献2には、RO膜(逆浸透膜、Reverse Osmosis膜)を用いて、海水から不純物を取り除いて淡水を得る海水淡水化システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-131863号公報
【特許文献2】特許第5974386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二次電池に関する技術においては、二次電池の材料となるリチウム(Li)等の金属を安定且つ豊富に確保することが課題である。一方、上記2つの従来技術は、共に海水を処理するものではあるものの、それぞれ、リチウムイオン回収及び海水淡水化という単一の海水処理を行うものであり、海水からの効率的な資源抽出という意味では、改善の余地がある。
【0008】
本願は上記課題の解決のため、Li等の回収対象となる特定金属のイオンを含む海水等の処理対象液から、効率的に上記特定金属を回収すると共に、処理対象液の淡水化も行うことのできる金属回収システムを実現することを目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、処理対象液を加圧して送り出すポンプと、前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御するポンプ制御部と、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する交換膜制御部と、を有する、金属回収システムである。
本発明の他の態様によると、前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、前記第2排液を排水する排水路と、前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、を備え、前記制御装置は、前記制御弁の動作を制御する弁制御部を更に備え、前記弁制御部は、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって、且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときは、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか、又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときは、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する。
本発明の他の態様によると、前記ポンプ制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御し、前記交換膜制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する。
本発明の他の態様によると、前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される。
本発明の他の態様によると、前記ポンプ制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する。
本発明の他の態様によると、前記特定金属はリチウムである。
本発明の他の態様によると、前記処理対象液は海水である。
本発明の他の態様は、処理対象液を加圧して送り出すポンプと、前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、を備える金属回収システムのコンピュータが実行する金属回収方法であって、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第1ポンプ制御ステップと、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する第1交換膜制御ステップと、を有する、金属回収方法である。
本発明の他の態様によると、前記金属回収システムは、前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、前記第2排液を排水する排水路と、前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、を備え、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときに、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、及び、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときに、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する、還流制御ステップを有する。
本発明の他の態様によると、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第2ポンプ制御ステップと、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する第2交換膜制御ステップと、を有する。
本発明の他の態様によると、前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される。
本発明の他の態様によると、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第3ポンプ制御ステップを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回収対象となる特定金属のイオンを含む海水等の処理対象液から、効率的に上記特定金属を回収すると共に、処理対象液の淡水化も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る金属回収システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、金属回収システムの動作の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、金属回収システムが実行する金属回収方法の処理の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[1.金属回収システムの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る金属回収システム1の構成を示す図である。金属回収システム1は、処理対象液から淡水を得ると共に、回収対象である特定金属の金属イオンを処理対象液から回収する。本実施形態では、例えば、処理対象液は、海Sから取水された海水であり、回収対象である特定金属はリチウム(Li)である。
【0013】
金属回収システム1は、処理対象液を加圧して送り出すポンプ2と、ポンプ2で加圧した処理対象液から逆浸透膜3により淡水を得る淡水化装置4と、処理対象液のうち淡水化装置4から排される排水液である第1排液から、回収対象とする特定金属の金属イオンを金属イオン交換膜5を用いて回収する金属回収装置6と、を有する。
【0014】
淡水化装置4は、従来技術(例えば、上述の特許文献2に記載の技術)に従って、公知の逆浸透膜3を用いて処理対象液から淡水を得る。また、金属回収装置6は、従来技術(例えば、上述の特許文献1に記載の技術)に従い、公知の金属イオン交換膜5に設けられた電極5a、5bに通電することにより当該金属イオン交換膜5に電界を印加して、処理対象液から金属イオンを回収する。本実施形態では、金属イオン交換膜5は、リチウムイオンを回収するリチウムイオン交換膜である。
【0015】
例えば、淡水化装置4において処理対象液から得られた淡水は、淡水貯蔵槽14に貯蔵され、金属回収装置6により回収された金属イオンを含む回収液は、回収液貯蔵槽15に貯蔵される。回収液貯蔵槽15に貯蔵された回収液に含まれる金属イオンは、従来技術に従い、後処理工程において金属化合物や単体金属として取り出される。
【0016】
金属回収システム1は、また、ポンプ2から淡水化装置4へ流入する処理対象液の流入流量を検知する流量センサ7と、金属イオン交換膜5の温度である交換膜温度を検出する温度センサ8と、第1排液における上記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサ9と、を備える。金属回収システム1は、また、淡水化装置4から排される第1排液のうち金属回収装置6を通って当該金属回収装置6から排される排水液である第2排液の、上記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサ10を備える。
【0017】
金属回収システム1は、また、第2排液をポンプ2の吸込口に還流する還流路11と、第2排液を海Sへ戻す排水路12と、第2排液を還流路11へ流入させるか又は排水路12へ流入させるかを制御する制御弁13と、を備える。制御弁13は、例えば、アクチュエータを備えて流路切替を行う電磁弁である。
【0018】
図1において、海Sからの海水は、取水管17に挿入されたメッシュフィルタ16により異物が除去され、処理対象液としてポンプ2の吸込口に流入する。ポンプ2は、処理対象液を加圧して吐出口から出力し、加圧された処理対象液を流入管18を介して淡水化装置4へ流入させる。淡水化装置4から排される第1排液は連絡管19を介して金属回収装置6へ流入する。金属回収装置6から排される第2排液は、排液管20を通って制御弁13に流入し、還流路11又は排水路12を通って、ポンプ2の吸込口に還流されるか、又は海Sへ戻される。還流路11及び排水路12は、具体的には、取水管17等と同様の、パイプまたはチューブで構成される管路である。
【0019】
ここで、淡水化装置4と金属回収装置6とは、上記のように連絡管19により直列に接続されているので、1台のポンプ2の通電を制御することにより、淡水化装置4への処理対象液の流入流量を制御することができると共に、淡水化装置4から金属回収装置6へ流入する第1排液の流量も制御することができる。
【0020】
金属回収システム1は、更に、金属回収装置6の金属イオン交換膜5に電界を印加するための電極5a、5bへの通電制御、ポンプ2への通電制御、及び制御弁13の流路切替制御を行う制御装置30を備える。
【0021】
上記の構成を有する金属回収システム1では、淡水化装置4により処理対象液から淡水を抽出し、当該淡水が抽出されて単位体積当たりの金属イオンの含有量が豊富となった、淡水化装置4からの排液である第1排液を、金属回収装置6に流入させる。このため、金属回収装置6では、回収対象の金属を第1排液から効率的に回収することができる。その結果、金属回収システム1では、処理対象液の淡水化と、処理対象液からの効率的な金属回収とを同時に実現することができる。
【0022】
[2.制御装置]
次に、金属回収システム1を構成する制御装置30について説明する。
図1を参照し、制御装置30は、金属回収システム1のオペレータが操作するオペレータ端末40と接続されている。オペレータ端末40は、例えば、タッチパネルを備える。オペレータ端末40は、オペレータから入力される金属回収システム1についての稼働開始指示や稼働停止指示等の動作指示を制御装置30へ入力する。オペレータ端末40は、制御装置30からの指示により金属回収システム1の動作状態(例えば、流量センサ7等の各センサのセンサデータや、制御弁13の状態など)を示す監視画面を表示してもよい。
【0023】
制御装置30は、プロセッサ31と、メモリ32と、を備える。メモリ32は、例えば、揮発性及び又は不揮発性の半導体メモリ、及び又はハードディスク装置等により構成される。
【0024】
プロセッサ31は、例えば、CPU等を備えるコンピュータである。プロセッサ31は、プログラムが書き込まれたROM、データの一時記憶のためのRAM等を有する構成であってもよい。そして、プロセッサ31は、機能要素又は機能ユニットとして、ポンプ制御部33と、交換膜制御部34と、弁制御部35と、を備える。
【0025】
ポンプ制御部33は、ポンプ2への通電を制御する。また、交換膜制御部34は、金属イオン交換膜5に電界を印加する電極5a、5bへの通電を制御する。弁制御部35は、制御弁13を制御して、第2排液の流路を排水路12又は還流路11に切り替える。
【0026】
プロセッサ31が備えるこれらの機能要素は、例えば、コンピュータであるプロセッサ31が、メモリ32に保存されたプログラムを実行することにより実現される。なお、プログラムは、コンピュータ読み取り可能な任意の記憶媒体に記憶させておくことができる。これに代えて、プロセッサ31が備える上記機能要素の全部又は一部を、それぞれ一つ以上の電子回路部品を含むハードウェアにより構成することもできる。
【0027】
制御装置30の動作は、暖機運転と、通常運転と、回復運転と、に分けられる。暖機運転は、金属回収システム1の稼働開始から、温度センサ8により取得される交換膜温度が予め定められた所定の動作温度範囲(以下、所定温度範囲ともいう)に達するまでの、暖機期間における動作である。通常運転は、交換膜温度が上記所定温度範囲まで上昇した状態である定格運転状態における動作である。また、回復運転とは、交換膜温度が所定温度範囲を超えて上昇した異常状態を、定格運転状態に回復させる動作である。ここで、所定温度範囲とは、所定温度範囲の上限温度T1及び下限温度T2により規定される、当該上限温度T1以下であって且つ下限温度T2以上である温度範囲をいうものとする。
【0028】
以下、通常運転、暖機運転、及び回復運転に分けて、制御装置30が備えるポンプ制御部33、交換膜制御部34、及び弁制御部35の動作を更に説明する。
【0029】
なお、通常運転、暖機運転、及び回復運転に共通する動作として、ポンプ制御部33、交換膜制御部34、及び弁制御部35は、温度センサ8により交換膜温度を所定の時間間隔で繰り返し取得する。また、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量を、流量センサ7から所定の時間間隔で取得し、交換膜制御部34は、淡水化装置4から排されて金属回収装置6へ流入する第1排液の金属イオン濃度(本実施形態では、リチウムイオン濃度。以下、同じ。)である第1イオン濃度を、第1濃度センサ9により所定の時間間隔で取得する。また、弁制御部35は、金属回収装置6から排される第2排液の金属イオン濃度である第2イオン濃度を、第2濃度センサ10により所定の時間間隔で取得する。
【0030】
[2.1 通常運転での動作]
まず、通常運転での動作について説明する。
通常運転では、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が予め定めた第1流量F1となるように、ポンプ2の通電を制御する。第1流量F1は、例えば、淡水化装置4における淡水化処理の処理能力(例えば、時間当たりの処理水量)に基づいて定められる。これに加えて、第1流量F1は、金属回収装置6における処理能力にも基づいて定められるものとしてもよい。
【0031】
また、通常運転では、交換膜制御部34は、淡水化装置4から排されて金属回収装置6へ流入する第1排液の金属イオン濃度である第1イオン濃度に基づいて、金属イオン交換膜5の電極5a、5bへの通電電圧(以下、膜電圧ともいう)を制御する。例えば、交換膜制御部34は、第1イオン濃度が上昇するにつれて膜電圧を増加させ、金属イオン交換膜5を介した金属イオンの回収率(すなわち、時間当たりの回収量)を増加させる。この膜電圧の制御は、通常運転においては、その金属イオン交換膜5について予め定められた所定の動作電圧範囲(以下、所定電圧範囲ともいう)の範囲内で行われる。ここで、所定電圧範囲とは、所定電圧範囲の上限電圧V1及び下限電圧V2により規定される、上限電圧V1以下であって且つ下限電圧V2以上である電圧範囲をいうものとする。
【0032】
弁制御部35は、交換膜温度が所定温度範囲の上限温度T1以下であるときは、金属回収装置6から排される第2排液の金属イオン濃度である第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値Cth以上であるときに、第2排液が還流路11へ流れるように制御弁13を設定する。また、弁制御部35は、通常運転においては、第2イオン濃度が上記予め定めた濃度閾値Cth未満であるときに、第2排液が排水路12へ流れるように制御弁13を設定する。これにより、第2排液において未だ金属イオン濃度が濃度閾値Cthより高いときには、第2排液を取水管17に戻して還流させ、第2排液に含まれる金属イオンを、再度、金属回収装置6に流入させて回収することができるので、金属回収の効率を高めることができる。
【0033】
[2.2 暖機運転での動作]
次に、暖機運転での動作について説明する。
一般に、金属イオン交換膜を用いる金属回収装置の暖機運転では、金属イオン交換膜の電極に印加する電圧を徐々に上げ、イオン浸透処理に伴って発生する熱により金属イオン交換膜の温度が均等に徐々に上がるように制御される。これは、電極への印加電圧を定格動作電圧範囲まで急激に上げると、イオン浸透処理に伴って発生する熱により金属イオン交換膜のうち処理対象液側の主面温度が上昇し、これに対向する回収液側の主面温度との温度差が大きくなって、金属イオンの回収率(時間当たりの回収量)が低下したり、温度勾配によりセル(金属イオン交換膜と電極とで構成されるアセンブリ部分)の破損などにも影響を与える可能性があるためである。
【0034】
本実施形態の金属回収システム1では、特に、金属回収装置6における金属イオン回収処理が、暖機期間においても安定に且つできるだけ高い回収率で行われるように、金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を制御すると共に、ポンプ2の通電を制御して、処理対象液の流路に沿って淡水化装置4の下流に接続された金属回収装置6への第1排液の流入量を制御する。
【0035】
具体的には、まず、交換膜制御部34は、暖機運転において、交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を制御する。例えば、交換膜制御部34は、交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲になる値として予め定められた所定の電圧増加率で、時間と共に膜電圧を上昇させる。
【0036】
また、暖機運転においては、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が、上述した通常運転時において設定する第1流量F1より少ない第2流量F2となるように、ポンプ2の通電を制御する。したがって、淡水化装置4から金属回収装置6へ流入する第1排液の流量も、通常運転の際の流量に比べて暖機運転の際の流量が少なくなる。これにより、暖機運転の期間において金属回収装置6へ流入する冷たい第1排液の量を制限して、金属イオン交換膜5の温度を安定して増加させることができる。
【0037】
特に、本実施形態では、上記第2流量F2は、交換膜温度の増加又は時間経過に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定される。これにより、暖機運転の開始から交換膜温度が上昇するにつれて又は時間が経過するにつれて金属イオン交換膜5におけるイオン浸透処理の処理能力が増加することに伴い、金属回収装置6に流入する第1排液の量を増加させて、暖機運転中における金属イオンの回収率を向上することができる。
【0038】
また、本実施形態では、特に、上記流量増加率は、交換膜温度が前記動作温度範囲より低温の予め定めた温度閾値T3以上であるときは、交換膜温度が温度閾値T3未満であるときに比べて大きな値に設定される。これにより、流量増加率は、交換膜温度の上昇に伴って大きな値に変更されるので、例えば、金属イオン交換膜5におけるイオン浸透処理の処理能力の増加率が交換膜温度の増加に対して非線形に上がっていく場合に、金属イオンの回収率を更に向上することができる。
【0039】
本実施形態では、流量増加率は、例えば、時間経過に対する増加率として設定され、交換膜温度が温度閾値T3未満であるときは所定値k1に設定され、交換膜温度が温度閾値T3以上であるときはk1より大きな所定値k2に設定される。
【0040】
弁制御部35は、通常運転における動作と同様に、交換膜温度が所定温度範囲の下限温度T2未満となる暖機運転においては、第2排液の第2イオン濃度が濃度閾値Cth以上であるときに、第2排液が還流路11へ流れるように制御弁13を設定し、第2イオン濃度が上記濃度閾値Cth未満であるときに、第2排液が排水路12へ流れるように制御弁13を設定する。
【0041】
暖機運転においては、金属イオン交換膜5は、交換膜温度が所定温度範囲に到達していないため、イオン浸透処理の所定能力が小さく、第2排液の第2イオン濃度は、通常運転時の濃度よりも大きくなる。このため、第2排液の第2イオン濃度は、暖機運転の期間においては、通常運転における値よりも大きくなり、従って、濃度閾値Cth以上のまま推移し得る。その結果、弁制御部35は、制御弁13の状態を、第2排液が還流路11へ流れる状態のままに維持することとなり得る。
【0042】
第2排液は、金属回収装置6において、時間経過と共に温度上昇した金属イオン交換膜5により暖められて排出されるので、上記のように暖機運転の期間において第2排液を還流路11へ流したままにすることで、金属回収装置6へ流入する第1排液の温度も徐々に上がることとなり、金属イオン交換膜5の交換膜温度をゆるやかに上昇させることが容易となる。
【0043】
[2.3 回復運転での動作]
次に、回復運転での動作について説明する。
上述したとおり、金属イオン交換膜5の交換膜温度が所定温度範囲より高温であるときに、回復運転が開始される。
回復運転では、ポンプ制御部33は、淡水化装置4へ流入する処理対象液の流入流量が、通常運転における第1流量F1よりも多い第3流量F3となるように、ポンプ2の通電を制御する。これにより、金属回収装置6へ流入する第1排液の流量を増加させて、金属イオン交換膜5を速やかに冷却することができる。
【0044】
また、弁制御部35は、回復運転では(すなわち、金属イオン交換膜5の交換膜温度が所定温度範囲を超えたときは)、第2排液が排水路12へ流れるように制御弁13を設定する。これにより、金属回収装置6の内部で暖められた第2排液が還流して、温かい第1排液となって金属回収装置6へ再流入するのを防止し、金属イオン交換膜5を更に速やかに冷却することができる。
【0045】
ポンプ制御部33および弁制御部35における上記動作により、所定温度範囲を超えて高温となった金属イオン交換膜5は速やかに冷却されるので、交換膜制御部34では、通常運転における動作を継続するものとすることができる。すなわち、交換膜制御部34は、第1排液の第1イオン濃度に基づき、所定電圧範囲内において、金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を制御する。
【0046】
[3.金属回収システムの動作例]
次に、金属回収システム1の動作例について説明する。
図2は、金属回収システム1の動作の一例を示す図である。
図2には、図示上下方向に並べて5つのグラフが示されている。図示上段より、
図2の(a)は、金属イオン交換膜5の交換膜温度の時間変化を示すグラフであり、(b)は、金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加される膜電圧の時間変化を示すグラフである。また、
図2の(c)は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量の時間変化を示すグラフであり、(d)は、金属回収装置6から排される第2排液の第2イオン濃度の時間変化を示すグラフである。また、
図2の(e)は、制御弁13の設定状態の時間変化を示すグラフである。
【0047】
図2の(a)、(b)、(c)、(d)、及び(e)に示す各グラフにおいて、横軸は、同じ時刻の時間推移を表す時間軸である。なお、個々の時刻を示す符号は、
図2の(e)の時間軸にのみ示されている。
【0048】
図2(a)の交換膜温度グラフには、上限温度T1以下、下限温度T2以上の範囲として規定される所定温度範囲と、温度閾値T3と、が示されている。
また、
図2(b)の膜電圧グラフには、上限電圧V1以下、下限電圧V2以上の範囲として規定される所定電圧範囲が示されている。
また、
図2(e)の制御弁設定グラフでは、第2排液を還流路11へ流す設定状態(以下、還流路接続ともいう)が高レベル状態として示されており、第2排液を排水路12へ流す設定状態(以下、排水路接続ともいう)が低レベル状態として示されている。
【0049】
図2において、金属回収システム1は、初期状態として稼働が停止した状態であり、時刻t0において稼働が開始する。時刻t0において、交換膜温度は所定温度範囲より低いため、制御装置30は、暖機運転を開始する。
【0050】
暖機運転を開始した制御装置30では、まず、弁制御部35は、時刻t0において金属回収装置6の第2排液の第2イオン濃度が濃度閾値Cthを超えていることから(
図2(d))、制御弁13を還流路接続の状態に設定する(
図2(e))。ここで、時刻t0までの期間の制御弁13の状態は不定であってもよい。例えば、時刻t0までの期間の制御弁13の状態は、その前の金属回収システム1の稼働停止時において設定された状態であり得る。
【0051】
また、制御装置30の交換膜制御部34は、時刻t0において金属イオン交換膜5の電極5a、5bへの膜電圧の印加を開始し、交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように予め定められた所定の電圧増加率で、時間と共に膜電圧を上昇させる(
図2(b))。
【0052】
また、制御装置30のポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が、通常運転時において設定する第1流量F1より少ない第2流量F2となるように、ポンプ2の通電を制御する(
図2(c))。ここで、第2流量F2は、本実施形態では、時間経過に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定される。具体的には、ポンプ制御部33は、交換膜温度が温度閾値T3未満である時刻t0からt1までの間は、流量増加率を所定値k1に設定する。また、ポンプ制御部33は、交換膜温度が温度閾値T3に達する時刻t1において、流量増加率を、所定値k1より大きな値である所定値k2に設定する。ここで、
図2(c)において、時刻t0から後述する時刻t2までの期間の、図示太線で示すライン部分が第2流量F2を示している。
【0053】
上記動作により、金属回収装置6の第2排液の第2イオン濃度は、膜電圧の印加開始に伴って、時刻t0から徐々に低下していく(
図2(d))。
また、上記の暖機運転により、交換膜温度は徐々に増加し、時刻t2において交換膜温度が所定温度範囲の下限温度T2に到達すると、暖機運転が終了して通常運転が開始される(
図2(a))。
【0054】
時刻t2から開始する通常運転では、交換膜制御部34は、所定電圧範囲内において膜電圧を制御する。上述したように、交換膜制御部34は、通常運転においては、淡水化装置4の第1排液における第1イオン濃度に基づいて膜電圧を制御する。このように、交換膜制御部34における制御が時刻t2において暖機運転から通常運転に切り換わることに応じて、膜電圧は、時刻t2において上昇し得る(
図2(b))。
【0055】
また、時刻t2において通常運転が開始すると、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が第1流量F1となるように、ポンプ2を制御する。これにより、上記流入流量は、時刻t2において第2流量F2から第1流量F1へ増加し得る(
図2(c))。
【0056】
時刻t2において、交換膜制御部34が第1イオン濃度に基づき所定電圧範囲内において膜電圧の制御を開始すると、金属イオン交換膜5におけるイオン浸透処理の処理量は一気に増加し、第2排液における第2イオン濃度は急速に低下する(
図2(d))。そして、第2イオン濃度が濃度閾値Cth未満となる時刻t3に、弁制御部35は、制御弁13を排水路接続の状態に設定する。
【0057】
その後、例えば、海Sからの取水により供給される処理対象液の金属イオン含有量の揺らぎ等により、時刻t4において第2イオン濃度が濃度閾値Cth以上になると(
図2(d))、弁制御部35は、制御弁13を還流路接続の状態に設定する(
図2(e))。これにより、第2排液は、処理対象液と混ざりあい、第1排液として再び金属回収装置6に流入し、当該第2排液に含まれていた金属イオンが回収されることとなる。
【0058】
その後、時刻t5において第2イオン濃度が濃度閾値Cth未満になると(
図2(d))、弁制御部35は、制御弁13を排水路接続の状態に設定する(
図2(e))。以降は、交換膜温度が所定動作範囲内に維持されている間、上記の通常運転が繰り返される。
【0059】
さらに時間が経過し、例えば、第1排液における金属イオンの含有量の揺らぎにより金属イオン交換膜5の電極5a、5b間に流れる電流が増加すること等により、交換膜温度が上昇し、時刻t6において交換膜温度が所定温度範囲の上限温度T1を超えると(
図2(a))、制御装置30は、回復運転を開始する。
【0060】
回復運転では、まず、ポンプ制御部33は、淡水化装置4への処理対象液の流入流量が第1流量F1より大きな第3流量F3となるように、ポンプ2を制御する(
図2(c))。また、弁制御部35は、温まった第2排液が処理対象液と合流しないように、制御弁13を排水路接続に設定する(
図2(e))。なお、時刻t6の前に、第2イオン濃度がCth未満であることにより制御弁13が既に排水路接続に設定されているときは、弁制御部35は、その排水路接続の設定を維持する。
【0061】
上記の動作により、その後の時刻t7において、交換膜温度が所定温度範囲の上限温度T1以下に下がると、制御装置30は、通常運転に復帰する。すなわち、ポンプ制御部33は、淡水化装置4への処理対象液の流入流量が第1流量F1となるようにポンプ2を制御し(
図2(c))、弁制御部35は、第2イオン濃度が濃度閾値Cth未満であるか否かに応じて、制御弁13を排水路接続又は還流路接続に設定する(
図2(e))。
図2の例では、弁制御部35は、時刻t7において、第2イオン濃度がCthを超えていることから、制御弁13を還流路接続に設定している。
【0062】
時刻t7において通常運転に復帰した後は、制御装置30は、時刻t1からt6までにおける動作を繰り返す。例えば、弁制御部35は、時刻t8において第2イオン濃度が濃度閾値Cth未満となったことに応じて、制御弁13を排水路接続に切り替える(
図2(d)(e))。
【0063】
[4.金属回収システムにおける処理手順]
次に、金属回収システム1が行う金属回収方法の処理の手順について説明する。
図3は、金属回収システム1のコンピュータである制御装置30のプロセッサ31が実行する金属回収方法の処理の手順を示すフロー図である。
図3に示す処理は、金属回収システム1を構成するポンプ2及び制御装置30を含む、各装置の電源がオンされたとき、又は、各装置の電源がオンされた状態において、オペレータ端末40を介してオペレータから、金属回収システム1の稼働開始の指示が入力されたことに応じて開始する。
【0064】
なお、
図3に示す処理と並行して、制御装置30のポンプ制御部33、交換膜制御部34、及び弁制御部35は、温度センサ8により交換膜温度を所定の時間間隔で繰り返し取得する。また、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量を、流量センサ7から所定の時間間隔で取得し、交換膜制御部34は、第1排液の金属イオン濃度である第1イオン濃度を第1濃度センサ9により所定の時間間隔で取得する。また、弁制御部35は、第2排液の金属イオン濃度である第2イオン濃度を第2濃度センサ10により所定の時間間隔で取得する。
【0065】
図3において処理を開始すると、まず、制御装置30の弁制御部35は、現在の第2イオン濃度が濃度閾値Cth以上であるか否かを判断する(S100)。そして、現在の第2イオン濃度が濃度閾値Cth以上であるときは(S100、YES)、弁制御部35は、制御弁13を還流路接続に設定する(S102)。一方、現在の第2イオン濃度が濃度閾値Cth未満であるときは(S100、NO)、弁制御部35は、制御弁13を排水路接続に設定する(S104)。
【0066】
続いて、ポンプ制御部33及び交換膜制御部34は、交換膜温度が所定温度範囲内であるか否かを判断する(S106)。そして、交換膜温度が所定温度範囲内であるときは(S106、YES)、制御装置30は、通常運転を行う。すなわち、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が第1流量F1となるようにポンプ2の通電を制御する(S108)。また、交換膜制御部34は、第1排液の第1イオン濃度に基づいて、金属回収装置6の金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を、所定電圧範囲内において制御する(S110)。
【0067】
その後、交換膜制御部34は、稼働停止指示があったか否かを判断する(S128)。ここで、稼働停止指示は、オペレータ端末40を介してオペレータから入力される稼働停止の指示、又は制御装置30の電源がオフされることであり得る。
【0068】
そして、稼働停止指示がないときは(S128、NO)、交換膜制御部34は、ステップS100に処理を戻す。一方、稼働停止指示があったときは(S128、YES)、ポンプ制御部33、交換膜制御部34、及び弁制御部35は、稼働停止処理を行ったのち(S130)、本処理を終了する。稼働停止処理では、例えば、ポンプ制御部33はポンプ2の通電を停止し、交換膜制御部34は膜電圧の出力を停止し、弁制御部35は制御弁13を排水路接続の状態に設定する。
【0069】
また、一方、ステップS106において、交換膜温度が所定温度範囲内でないときは(S106、NO)、ポンプ制御部33及び交換膜制御部34は、交換膜温度が所定温度範囲より低いか否かを判断する(S112)。そして、交換膜温度が所定温度範囲より低いとき(S112、YES)、すなわち、所定温度範囲の下限温度T2より低いときは、制御装置30は、暖機運転を行う。すなわち、交換膜制御部34は、交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を制御する(S114)。例えば、本実施形態では、交換膜制御部34は、交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲になる値として予め定められた所定の電圧増加率で、時間と共に膜電圧が上昇するように、膜電圧を制御する。
【0070】
また、ポンプ制御部33は、交換膜温度が、所定温度範囲より低温の(すなわち、下限温度T2より低い)温度閾値T3未満であるか否かを判断する(S116)。そして、交換膜温度が温度閾値T3未満であるときは(S116、YES)、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が、時間に対し所定値k1の流量増加率で増加するように、ポンプ2を制御する(S118)。その後、ポンプ制御部33は、ステップS128に処理を移す。
【0071】
一方、ステップS116において、交換膜温度が温度閾値T3以上であるときは(S116、NO)、ポンプ制御部33は、上記流入流量が、時間に対し、上記所定値k1より大きい所定値k2の流量増加率で増加するように、ポンプ2を制御する(S120)。その後、ポンプ制御部33は、ステップS128に処理を移す。
【0072】
また、一方、交換膜温度が所定温度範囲内でなく(S106、NO)、且つ、所定温度範囲より低くないとき(S112、NO)、すなわち、交換膜温度が所定温度範囲より高いときは、制御装置30は、回復運転を行う。すなわち、ポンプ制御部33は、淡水化装置4に流入する処理対象液の流入流量が第1流量F1より大きい第3流量F3となるようにポンプ2の通電を制御する(S122)。また、弁制御部35は、制御弁13を排水路接続に設定する(S124)。また、交換膜制御部34は、第1排液の第1イオン濃度に基づいて、金属回収装置6の金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を、所定電圧範囲内において制御する(S126)。その後、交換膜制御部34は、ステップS128に処理を移す。
【0073】
ここで、
図3において、ステップS108及びS110は、それぞれ、本開示における第1ポンプ制御ステップ及び第1交換膜制御ステップに相当する。また、ステップS100、S102、及びS104は、本開示における還流制御ステップに相当する。また、ステップS114は、本開示における第2交換膜制御ステップに相当する。また、ステップS118及びS120は、本開示における第2ポンプ制御ステップに相当する。また、ステップS122は、第3ポンプ制御ステップに相当する。
【0074】
[5.他の実施形態]
暖機運転時の第2流量F2の流量増加率は、上述した実施形態では時間経過に対する増加率であるものとしたが、交換膜温度の上昇に対する増加率であってもよい。
また、交換膜制御部34は、上述した実施形態では金属イオン交換膜5の電極5a、5bに印加する膜電圧を制御するものとしたが、電極5a、5bに通電する電流値を制御するものとしてもよい。
【0075】
また、金属回収システム1の処理対象液は、上述した実施形態では海水であるものとしたが、金属イオンを含む任意の液であり得る。例えば、処理対象液は、古くなったバッテリ電解液の排液(バッテリ処理液)でもよい。例えば、金属回収システム1は、Liバッテリ処理液を処理対象液として、リチウムを回収することができる。
【0076】
また、金属回収システム1は、上述した実施形態では海水に含まれるリチウムを回収するものとしたが、金属回収システム1の構成は、イオン交換膜を用いて抽出するこのできる任意の金属の回収に用いることができる。例えば、金属回収システム1は、金属イオン交換膜5に代えて目的とする金属イオンに適した金属イオン交換膜を用いることにより、海水に含まれるナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などの金属の回収が可能であり、また、Liバッテリー処理液に含まれるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)などの金属を回収することができる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0078】
[6.上記実施形態によりサポートされる構成]
上述した実施形態は、以下の構成をサポートする。
【0079】
(構成1)処理対象液を加圧して送り出すポンプと、前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御するポンプ制御部と、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する交換膜制御部と、を有する、金属回収システム。
構成1の金属回収システムによれば、淡水化装置により処理対象液から淡水を抽出すると共に、単位体積当たりの金属イオンの含有量が豊富となった淡水化装置の第1排液から、金属回収装置により金属イオンを回収するので、処理対象液の淡水化と、処理対象液からの金属回収とを同時に実現することができる。また、構成1の金属回収システムによれば、1台のポンプにより、淡水化装置への処理対象液の流入量と金属回収装置への第1排液の流入量とを制御し得ると共に、第1排液の金属イオン濃度である第1イオン濃度に基づいて金属イオン交換膜の電極への通電が制御されるので、金属回収装置における金属イオンの回収を、単純なシステム構成で効率的に行うことができる。
【0080】
(構成2)前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、前記第2排液を排水する排水路と、前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、を備え、前記制御装置は、前記制御弁の動作を制御する弁制御部を更に備え、前記弁制御部は、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって、且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときは、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか、又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときは、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する、構成1に記載の金属回収システム。
構成2の金属回収システムによれば、金属回収装置から排される第2排液において未だ金属イオン濃度が濃度閾値より高いときには、第2排液を還流させて、第2排液に含まれる金属イオンを金属回収装置において更に回収することができるので、金属イオンの回収効率を更に高めることができる。
【0081】
(構成3)前記ポンプ制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御し、前記交換膜制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する、構成1又は2に記載の金属回収システム。
構成3の金属回収システムによれば、交換膜温度がイオン浸透処理に適した所定温度範囲に到達するまでの暖機運転期間において、金属回収装置へ流入する冷たい第1排液の量を制限して金属イオン交換膜の温度がゆるやかに安定して増加し得るようにしつつ、金属イオン交換膜のイオン浸透処理量を徐々に上げて金属イオンの回収も行うことができる。
【0082】
(構成4)前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される、構成3に記載の金属回収システム。
構成4の金属回収システムによれば、流量増加率が、交換膜温度の上昇に伴って大きな値に変更されるので、例えば、金属イオン交換膜5におけるイオン浸透処理の処理能力の増加率が交換膜温度の増加に対して非線形に上がっていく場合に、金属イオンの回収率を更に向上することができる。
【0083】
(構成5)前記ポンプ制御部は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する、構成1ないし4のいずれかに記載の金属回収システム。
構成5の金属回収システムによれば、交換膜温度がイオン浸透処理に適した所定温度範囲を超えて上昇する異常状態が発生した場合に、淡水化装置への処理対象液の流入流量を増加することで、金属回収装置に流入する第1排液の流量を増加させ、交換膜温度を所定温度範囲内の温度まで迅速に冷却することができる。
【0084】
(構成6)前記特定金属はリチウムである、構成1ないし5のいずれかに記載の金属回収システム。
構成6の金属回収システムによれば、バッテリ材料等として産業上の重要性が高いリチウムを効率的に回収することができる。
【0085】
(構成7)前記処理対象液は海水である、構成1ないし6のいずれかに記載の金属回収システム。
構成7の金属回収システムによれば、海水中に膨大に含まれる金属資源を効率的に回収することができる。
【0086】
(構成8)処理対象液を加圧して送り出すポンプと、前記ポンプで加圧した前記処理対象液から、逆浸透膜により淡水を得る淡水化装置と、前記処理対象液のうち前記淡水化装置から排される排水液である第1排液から、金属イオン交換膜を用いて、対象とする特定金属の金属イオンを回収する金属回収装置と、前記ポンプから前記淡水化装置へ流入する前記処理対象液の流入流量を検知する流量センサと、前記金属イオン交換膜の温度である交換膜温度を検出する温度センサと、前記第1排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第1イオン濃度を検出する第1濃度センサと、前記金属イオン交換膜に電界を印加する電極への通電および前記ポンプへの通電を制御する制御装置と、を備える金属回収システムのコンピュータが実行する金属回収方法であって、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記流入流量が予め定めた第1流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第1ポンプ制御ステップと、前記交換膜温度が予め定めた所定温度範囲内であるときに、前記第1イオン濃度に基づいて前記電極への通電を制御する第1交換膜制御ステップと、を有する、金属回収方法。
構成8の金属回収方法によれば、淡水化装置により処理対象液から淡水を抽出すると共に、単位体積当たりの金属イオンの含有量が豊富となった淡水化装置の第1排液から、金属回収装置により金属イオンを回収するので、処理対象液の淡水化と、処理対象液からの金属回収とを同時に実現することができる。また、構成8の金属回収方法によれば、1台のポンプにより、淡水化装置への処理対象液の流入量と金属回収装置への第1排液の流入量とを制御し得ると共に、第1排液の金属イオン濃度である第1イオン濃度に基づいて金属イオン交換膜の電極への通電が制御されるので、金属回収装置における金属イオンの回収を、単純なシステム構成で効率的に行うことができる。
【0087】
(構成9)前記金属回収システムは、前記第1排液のうち、前記金属回収装置から排される排水液である第2排液における前記特定金属の金属イオン濃度である第2イオン濃度を検出する第2濃度センサと、前記第2排液を排水する排水路と、前記第2排液を前記ポンプの吸込口に還流する還流路と、前記第2排液を前記還流路へ流入させるか又は前記排水路へ流入させるかを制御する制御弁と、を備え、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値以上であって且つ前記交換膜温度が前記所定温度範囲の上限温度以下であるときに、前記第2排液が前記還流路へ流れるよう前記制御弁を制御し、及び、前記第2イオン濃度が予め定めた濃度閾値未満であるか又は前記交換膜温度が前記所定温度範囲を超えたときに、前記第2排液が前記排水路へ流れるよう前記制御弁を制御する、還流制御ステップを有する、構成8に記載の金属回収方法。
構成9の金属回収方法によれば、金属回収装置から排される第2排液において未だ金属イオン濃度が濃度閾値より高いときには、第2排液を還流させて、第2排液に含まれる金属イオンを金属回収装置において更に回収することができるので、金属イオンの回収効率を更に高めることができる。
【0088】
(構成10)前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より少ない第2流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第2ポンプ制御ステップと、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温であるときは、前記交換膜温度の時間当たりの温度上昇率が予め定めた範囲となるように、前記電極への通電を制御する第2交換膜制御ステップと、を有する、構成8又は9に記載の金属回収方法。
構成10の金属回収方法によれば、交換膜温度がイオン浸透処理に適した所定温度範囲に到達するまでの暖機運転期間において、金属回収装置へ流入する冷たい第1排液の量を制限して金属イオン交換膜の温度がゆるやかに安定して増加し得るようにしつつ、金属イオン交換膜のイオン浸透処理量を徐々に上げて金属イオンの回収も行うことができる。
【0089】
(構成11)前記第2流量は、前記交換膜温度又は時間に対し所定の流量増加率で単調増加する値に設定され、前記流量増加率は、前記交換膜温度が前記所定温度範囲より低温の予め定めた温度閾値以上であるときは、前記交換膜温度が前記予め定めた温度閾値未満であるときに比べて大きな値に設定される、構成10に記載の金属回収方法。
構成11の金属回収方法によれば、流量増加率が、交換膜温度の上昇に伴って大きな値に変更されるので、例えば、金属イオン交換膜5におけるイオン浸透処理の処理能力の増加率が交換膜温度の増加に対して非線形に上がっていく場合に、金属イオンの回収率を更に向上することができる。
【0090】
(構成12)前記交換膜温度が前記所定温度範囲より高温であるときは、前記流入流量が前記第1流量より多い第3流量となるように、前記ポンプの通電を制御する第3ポンプ制御ステップを含む、構成8ないし11のいずれかに記載の金属回収方法。
構成12の金属回収方法によれば、交換膜温度がイオン浸透処理に適した所定温度範囲を超えて上昇する異常状態が発生した場合に、淡水化装置への処理対象液の流入流量を増加することで、金属回収装置に流入する第1排液の流量を増加させ、交換膜温度を所定温度範囲内の温度まで迅速に冷却することができる。
【符号の説明】
【0091】
1…金属回収システム、2…ポンプ、3…逆浸透膜、4…淡水化装置、5…金属イオン交換膜、5a、5b…電極、6…金属回収装置、7…流量センサ、8…温度センサ、9…第1濃度センサ、10…第2濃度センサ、11…還流路、12…排水路、13…制御弁、14…淡水貯蔵槽、15…回収液貯蔵槽、16…メッシュフィルタ、17…取水管、18…流入管、19…連絡管、20…排液管、30…制御装置、31…プロセッサ、32…メモリ、33…ポンプ制御部、34…交換膜制御部、35…弁制御部、40…オペレータ端末。