(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127613
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】溶融成形装置および振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/02 20060101AFI20240912BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20240912BHJP
F23D 14/56 20060101ALI20240912BHJP
F23D 14/58 20060101ALI20240912BHJP
F23D 14/84 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C03B19/02 A
C03B20/00 E
F23D14/56 D
F23D14/58 A
F23D14/84 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036877
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
【テーマコード(参考)】
3K017
4G014
【Fターム(参考)】
3K017CB02
3K017CC00
3K017CD01
3K017CD03
3K017CG03
3K017CH02
3K017CH04
4G014AH08
(57)【要約】
【課題】振動子の溶融成形装置を提供する。
【解決手段】溶融成形装置は、平坦な上面と、上面に垂直な第1軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部と、第1軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形装置は、第1軸と同軸の第2軸を備えており、溶融成形型の上方に配置されており、先端部から穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナを備える。先端部には、燃料ガスを噴出可能に構成されている第1開口が、第2軸を中心とした回転対称に配置されている。第2軸の方向からみたときに、第1開口が支柱を取り囲んでいるとともに、第1開口が支柱に重複していない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な上面と、前記上面に垂直な第1軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部と、前記第1軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱と、を備える溶融成形型と、
前記第1軸と同軸の第2軸を備えており、前記溶融成形型の上方に配置されており、先端部から前記穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、
を備える溶融成形装置であって、
前記先端部には、燃料ガスを噴出可能に構成されている第1開口が、前記第2軸を中心とした回転対称に配置されており、
前記第2軸の方向からみたときに、前記第1開口が前記支柱を取り囲んでいるとともに、前記第1開口が前記支柱に重複していない、
溶融成形装置。
【請求項2】
前記第1開口は、前記第2軸を中心とした円環形状である、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項3】
前記円環形状の前記第1開口は、波打っている縁部を備えている、請求項2に記載の溶融成形装置。
【請求項4】
前記第1開口は複数備えられており、
複数の前記第1開口が、前記第2軸を中心とした回転対称に配置されている、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項5】
複数の前記第1開口の各々が有する開口面積は、前記第2軸からの距離が大きいほど大きくなっている、請求項4に記載の溶融成形装置。
【請求項6】
前記第2軸を含むように前記先端部に配置されている第2開口をさらに備えており、
前記第2開口の周囲に前記第1開口が配置されており、
前記第2開口の開口面積は、前記第1開口の開口面積よりも小さい、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項7】
前記第2軸の方向からみたときに、前記第1開口が前記穴部の外周を取り囲んでいるとともに、前記第1開口が前記穴部に重複していない、請求項1に記載の溶融成形装置。
【請求項8】
平坦な上面と、前記上面に垂直な第1軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部と、前記第1軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱と、を備える溶融成形型と、
前記第1軸と同軸の第2軸を備えており、前記溶融成形型の上方に配置されており、先端部から前記穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、
を備える溶融成形装置であって、
前記上面を含んだ平面上における前記火炎の温度分布が、前記第2軸の温度よりも、前記第2軸の周囲の温度の方が高い分布を有している、
溶融成形装置。
【請求項9】
平坦な上面と、前記上面に垂直な第1軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部と、前記第1軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱と、を備える溶融成形型と、
前記溶融成形型の上方に配置されており、前記穴部と対向して配置されている先端部を有しており、前記先端部から前記穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナと、
前記上面と平行な平面方向において、前記火炎の位置を移動可能に制御する火炎位置制御部と、
を備える溶融成形装置を用いた振動子の製造方法であって、
前記上面に、前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記先端部から火炎を発生させる工程と、
前記火炎位置制御部によって、前記平面方向における前記火炎の位置を、前記第1軸を中心とした回転対称な軌跡で移動させる加熱工程と、
を備え、
前記第1軸の方向からみたときに、前記軌跡が前記支柱と交わっていない、
振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、振動子の溶融成形装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカを振動子に用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的な製造方法を説明する。上面の一部に穴部が形成されている溶融成形型を準備する。穴部は、成形型の上面に垂直な中心軸を中心として、上面の一部に形成されている。穴部を塞ぐように被加工材料(例:石英板)を配置し、被加工材料の下面を減圧し、被加工材料の上面をバーナで加熱する。穴部の内部に入り込むように被加工材料を溶融変形させることで、半球形状の振動子を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バーナによる火炎の温度分布は、火炎の中心部が高温であり、外周部に向かって温度が低くなる分布を持つ。従来の溶融成形装置では、火炎の中心部が穴部の中心(支柱)に位置しているため、熱伝導方向が、支柱から外周へ向かう一方向であった。そのため、平面方向の温度分布は、中心である支柱が高く、支柱の外周方向に離れるほど低下していた。その結果、支柱と穴部の縁部との温度差が大きくなっており、作製されるガラス振動子の形状対称性を上げられないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する溶融成形装置は、平坦な上面と、上面に垂直な第1軸を中心とした円筒状にくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部と、第1軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱と、を備える溶融成形型を備える。溶融成形装置は、第1軸と同軸の第2軸を備えており、溶融成形型の上方に配置されており、先端部から穴部に向けて火炎を発生させることが可能に構成されているバーナを備える。先端部には、燃料ガスを噴出可能に構成されている第1開口が、第2軸を中心とした回転対称に配置されている。第2軸の方向からみたときに、第1開口が支柱を取り囲んでいるとともに、第1開口が支柱に重複していない。
【0006】
上記の構成によると、火炎の中心部を、支柱の周囲に回転対称に配置することができる。これにより、熱伝導方向を、火炎中心から内周(支柱)へ向かう方向と、火炎中心から外周へ向かう方向の2方向にすることができる。その結果、支柱と穴部の縁部との温度差を小さくすることができる。被加工材料の変形しやすさの、場所による差を小さくすることができるため、形状対称性の良い振動子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1の溶融成形装置1の断面概略図である。
【
図4】振動子の製造工程を説明するフロー図である。
【
図5】従来の溶融成形装置1001における断面側面図である。
【
図8】実施例2のバーナ先端部250sの平面図である。
【
図9】実施例2の変形例におけるバーナ先端部250sを示す図である。
【
図10】実施例3のバーナ先端部350sの平面図である。
【
図11】実施例4の溶融成形装置401における断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0008】
(溶融成形装置1の構成)
図1に、溶融成形装置1の断面概略図を示す。
図2に、溶融成形装置1の上面図を示す。
図1は、
図2のI-I線における断面図に対応している。なお
図2では、バーナ50、放射温度計60、可動機構53およびステージ45の記載を省略している。
【0009】
ステージ45は、xy方向(水平方向)に移動可能に構成されている。ステージ45は、平坦な載置面45sを備えている。載置面45s上には、ヒートシンク40およびプレート10を介して、成形型20が載置されている。
【0010】
ヒートシンク40は、ステージ45と成形型20との間に配置されている。ヒートシンク40は、プレート10の下面10rと接触している。ヒートシンク40の内部には、循環配管41が配置されている。循環配管41は、チラー設備42に接続されている。循環配管41には、チラー設備42によって恒温化(例:35℃)された熱媒が循環している。これによりヒートシンク40は、工程中に一定の温度を保ち続けることができる。
【0011】
プレート10は、ヒートシンク40上に配置されている。プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は、成形型20を冷却する機能を備えている。プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1が形成されている。第1連絡孔10c1は、貫通孔20eに対応した位置に配置されており、貫通孔20eと接続している。第1連絡孔10c1は、第1連絡路10p1を介して負圧発生手段81に接続されている。負圧発生手段81は、穴部20hに負圧を発生させることが可能な手段である。負圧発生手段81は、例えば真空ポンプであってもよい。
【0012】
成形型20は、プレート10の表面10s上に配置されている。成形型20は、石英板30を溶融変形させて半球形状の振動子を成形するための型である。成形型20の材料はグラファイトとした。本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円柱形状である。成形型20は、下面20r、上面20s、穴部20h、支柱20p、貫通孔20e、を備える。下面20rおよび上面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。上面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心として円筒状にくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱である。底面20bには、下面20rに貫通している複数の貫通孔20eが形成されている。貫通孔20eは第1連絡孔10c1に連通している。
【0013】
成形型20の上面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、振動子を形成するための被加工材料である。石英板30は、溶融シリカ製とした。石英板30の厚さは、例えば100μmである。本実施例では石英板30は正方形であるが、円形や正六角形であってもよい。
【0014】
支柱20pの上端面は、成形型20の上面20sよりも低い位置にある。これにより、石英板30の下面と支柱20pの上端面との間には、ギャップGA1が形成されている。ギャップGA1は任意の値でよく、例えば100~500μmである。ギャップGA1が形成されていることで、後述する加熱工程(ステップS50)において、支柱20pへの熱伝導経路が形成されない。これにより、支柱20pへ与えられる熱ダメージを抑制することができる。また後述するステップS100において、不要な平坦部をCMPなどでカットする際に、支柱20pを消失させないことができる。
【0015】
バーナ50は、中心軸CAの上方に配置されている。バーナ50は、予混合室50c、チューブ50t、バーナ先端部50s、を備えている。予混合室50cには、ガス流量調整器52から、燃料ガスG1(例:プロパン)および酸素ガスG2が供給される。ガス流量調整器52は、不図示のマスフローコントローラを備えており、燃料ガスG1および酸素ガスG2の流量の制御および監視が可能である。チューブ50tは、予混合室50cから下方側へ延びている。チューブ50tは、上下方向に延びるバーナ中心軸BAを有する、円筒形状の部材である。チューブ50tの下端には、穴部20hと対向するバーナ先端部50sが配置されている。バーナ先端部50sから穴部20hに向けて火炎を発生させることにより、石英板30を加熱することができる。
【0016】
バーナ50は、可動機構53に固定されている。可動機構53は、上下方向(±z方向)に移動可能な機構である。可動機構53は、バーナ先端部50sを、中心軸CAに沿って上下に移動させることができる。
【0017】
放射温度計60の焦点を支柱20pに当てることによって、放射温度計60は、支柱20pの温度を非接触で測定できる。支柱20pの温度は、加工中の石英板30の温度に応じた温度を示す。放射温度計60の測定点である焦点を透明な石英板30に合わせることは非常に難しいため、支柱20pの温度を測定することにより、間接的に石英板30の温度を測定することが可能である。
【0018】
制御部70は、ステージ45、可動機構53、ガス流量調整器52、放射温度計60、負圧発生手段81に接続されている。制御部70は、これらの機器から各種情報を取得するとともに、これらの機器を制御する。制御部70は、例えば例えばPCであってもよい。
【0019】
(バーナ50の構成)
図3(A)に、バーナ先端部50sの平面図を示す。
図3(B)に、
図3(A)のB-B線における断面図を示す。バーナ先端部50sには、燃料ガスを噴出可能に構成されている外周開口OT1が配置されている。外周開口OT1は、バーナ中心軸BAを中心とした円環形状である。すなわち外周開口OT1は、バーナ中心軸BAを中心とした回転対称に配置されている。
【0020】
図3(B)に示すように、外周開口OT1の上部は配管GPに接続されている。配管GPの上部は、予混合室50cへ接続されている。これにより、予混合室50cで生成された混合ガスを、配管GPを介して外周開口OT1から噴出させることができる。
【0021】
また
図2に、バーナ中心軸BAの方向(+z方向)からみたときの外周開口OT1の位置を、一点鎖線で示している。外周開口OT1は、穴部20hの外周付近に位置している。外周開口OT1と穴部20hの外周とは、中心軸CAを中心とする同心円を形成している。外周開口OT1の直径は、穴部20hの直径より小さくてもよいし、大きくてもよいし、同等であってもよい。本実施例では、外周開口OT1の直径が、穴部20hの直径よりも大きい場合を説明している。外周開口OT1は、支柱20pおよび穴部20hを取り囲んでいる。また外周開口OT1は、支柱20pおよび穴部20hに重複していない。
【0022】
(振動子の製造工程)
図4のフロー図を用いて、振動子の製造工程を説明する。ステップS10において、チラー設備42から循環配管41に熱媒を常時循環させることで、ヒートシンク40を恒温状態にする。またプレート10の表面10sに、成形型20を設置する。
【0023】
ステップS20において、成形型20の上面20sに石英板30を配置する。このとき、中心軸CAと石英板30の中心とが一致するように位置決めする。制御部70からの信号により負圧発生手段81は、第1連絡孔10c1の真空引きを行う。これにより、貫通孔20eを介して穴部20hも真空引きされ、石英板30が成形型20の上面20sに吸着固定される。これにより、
図1および
図2に示す状態となる。
【0024】
ステップS30において、制御部70は、放射温度計60による支柱20pの温度の測定を開始する。ステップS40において、制御部70は、バーナ50に着火する。着火は、バーナ先端部50sが石英板30の表面から十分に離れている退避位置において行われる。
【0025】
ステップS50において制御部70は、可動機構53を制御することによりバーナ50を下降させて、バーナ先端部50sと石英板30との距離を小さくする。これにより、火炎による石英板30の加熱工程が開始される。
【0026】
下降を開始するタイミング、および、バーナ先端部50sと石英板30との距離は、様々な態様で制御することが可能である。例えば、ステップS40でバーナ50に着火してから予め設定した時間が経過することに応じて下降を開始し、バーナ先端部50sと石英板30とが予め定めた距離まで近づくことによって下降を停止してもよい。また例えば、放射温度計60で支柱20pの温度を計測し、温度フィードバック制御により、下降タイミングやバーナ先端部50sと石英板30との距離を決定してもよい。
【0027】
石英板30には、大気圧と穴部20h内の負圧との差圧による分布荷重が印加されている。よって、石英板30が軟化温度(約1600℃)まで加熱されることに応じて、穴部20hに入り込むように石英板30を溶融変形させることができる。ステップS60において、石英板30の溶融変形が完了したと判断されると(S60:YES)、ステップS70へ進む。加工終点の検出方法は様々であって良い。例えば、支柱20pの温度が、加工終点を示す温度まで上昇したことを検出してもよい。また例えば、所定時間の経過を検出してもよい。
【0028】
ステップS70において制御部70は、可動機構53を制御し、バーナ50を上昇させる。ステップS80において制御部70は、可動機構53を制御することにより、バーナ50の上昇を停止する。また火炎を消火する。
【0029】
ステップS90において制御部70は、冷却の完了を待機する。冷却が完了すると、制御部70は、負圧発生手段81を停止する。これにより穴部20hが大気開放される。ステップS100において、溶融成形された石英板30を成形型20から取り外す。石英板30の外周の未成形領域をCMP法やレーザーカット法などによって除去することで、振動子が完成する。
【0030】
(課題)
従来の溶融成形装置1001を用いて課題を説明する。
図5に、溶融成形装置1001における断面側面図を示す。
図5(A)は、火炎FL0を石英板30に当てている状態を示している。
図5(A)では、火炎FL0を点線で示している。また入熱プロファイルIP0を実線で示している。入熱プロファイルIP0は、火炎FL0によって石英板30に入力される熱量の、2次元分布を示している。入熱プロファイルIP0が紙面上方に位置するほど、入力される熱量が大きいことを示している。また
図5(B)に、石英板30の2次元の温度分布TP0を示す。温度分布TP0が紙面上方に位置するほど、温度が高いことを示している。入熱プロファイルIP0や温度分布TP0は、例えば赤外線カメラによって測定することが可能である。従来の溶融成形装置1001では、火炎FL0の中心部FC0が、穴部20hの中心(支柱20p)に位置している。よって支柱20pにおいて、入熱量にピークPP0を有する。
【0031】
成形型20には、石英板30に入力された熱量を排熱するための熱伝導経路が形成される。具体的には、穴部20hの外周と石英板30の下面との接触領域に、熱伝導経路HP1が形成される。一方、支柱20pには熱伝導経路が形成されない。これは、支柱20pの上面と石英板30の下面との間には、ギャップGA1が形成されており、接触していないためである。そのため、石英板30の中央が変形して支柱20pに接触するまでは、熱伝導方向が、中心部FC0(支柱20p)から外周へ向かう一方向となる(矢印Y0参照)。よって、石英板30の温度分布TP0は、中心である支柱20pが最も高く、支柱20pの外周方向に離れるほど低下していた(
図5(B)参照)。その結果、支柱20pと穴部20hの縁部20mとの温度差TD0が大きくなっていた。
【0032】
軟化点を超えた石英板30の粘性(変形しやすさ)は、温度分布に相関する。そのため、負圧発生手段81により均一な差圧を印加していても、高温に加熱された部位ほど変形量が多くなってしまう。その結果、温度差TD0の存在によって、ガラス振動子の形状対称性が崩れてしまうという問題があった。
【0033】
(効果)
本実施例の溶融成形装置1の効果を説明する。
図6に、本実施例の溶融成形装置1における断面側面図を示す。
図6(A)および(B)の内容は、前述の
図5(A)および(B)と同様である。本実施例の溶融成形装置1によると、火炎FL1の中心部FC1を、支柱20pの周囲に回転対称に配置することができる。支柱20pの外周部にピークPP1が存在するような入熱プロファイルIP1を実現することができる。これにより、熱伝導方向を、中心部FC1から支柱20pへ向かう方向(矢印Y1参照)と、中心部FC1から外周へ向かう方向(矢印Y2参照)の2方向にすることができる。中心部FC1から熱伝導経路HP1までの距離を小さくすることができるため、外周に逃げる熱量の影響を抑制することができる。また、中心部FC1から支柱20p側に熱が蓄積するように加熱することができる。その結果、石英板30の温度分布TP1における、支柱20pと穴部20hの縁部20mとの温度差TD1を、従来の温度差TD0よりも小さくすることができる(
図6(B)参照)。より小さな温度差TD1を有することにより、溶融変形しやすさの場所による差を小さくできるため、形状対称性の良いガラス振動子を作製することが可能となる。また、バーナ中心軸BA(すなわち火炎FL1の中心部FC1)と、成形型20の中心軸CAと、の軸ずれが発生した場合においても、ガラス振動子の形状に非対称性が発生してしまうことを抑制できる。
【0034】
バーナ50やチューブ50tの火口を交換するだけで、火炎FL1の中心部FC1を支柱20pの周囲に配置することができる。簡易な操作により、ガラス振動子の形状対称性を改善することが可能となる。
【0035】
支柱20pの外周部に入熱量のピークPP1を配置できるため、支柱20pの温度上昇を抑制することができる。支柱20pの劣化や痩せを抑制できるため、成形型20の耐久性を高めることが可能となる。
【0036】
(実施例1の変形例)
円環形状の外周開口OT1の縁部は、
図3(A)に示すような直線形状に限られず、様々な形状とすることができる。例えば
図7に示すように、波打っている内側縁部50iを備えていてもよい。縁部50eの波打つ形状は、
図7のように直線が組み合わされた鋭角な形状であってもよいし、曲線が組み合わされたなだらかな形状であってもよい。また波打ち形状は、内側縁部50iと外側縁部50oのいずれか一方に形成されていてもよいし、両方に形成されていてもよい。
【0037】
効果を説明する。円環形状の縁部を波打たせることで、周方向において開口幅を周期的に増減させることができる。開口幅の狭い領域を、整流板として機能させることができるため、外周開口OT1からのガスの噴出状態を一定に整えることが可能となる。
バーナ先端部250sには、4つの外周開口OT201が、バーナ中心軸BAを中心とした回転対称に配置されている。またバーナ中心軸BAの方向(+z方向)からみたときに、外周開口OT201は、支柱20pおよび穴部20hを取り囲んでいるとともに、支柱20pおよび穴部20hに重複していない。このような外周開口OT201を備えることによっても、火炎の中心部を、支柱20pの周囲に回転対称に配置することができる。よって、形状対称性の良いガラス振動子を作製することが可能となる。