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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127625
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】熱回収部材及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/00 20060101AFI20240912BHJP
   F28F 1/40 20060101ALI20240912BHJP
   F28F 21/04 20060101ALI20240912BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20240912BHJP
   F28D 7/10 20060101ALI20240912BHJP
   B23P 11/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F28F1/00 E
F28F1/40 J
F28F21/04
F28F21/08 F
F28D7/10 A
B23P11/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036907
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉原 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA01
3L103AA37
3L103BB17
3L103BB26
3L103BB37
3L103CC08
3L103CC12
3L103CC27
3L103DD03
3L103DD33
3L103DD38
(57)【要約】
【課題】金属管とハニカム構造体との接触が良好であり、熱回収性能を安定して向上させることが可能な熱回収部材を提供する。
【解決手段】ストレート部11を有する金属管10と;外周壁21と、外周壁21の内側に配設され、第1端面22から第2端面23まで延びる複数のセル24を区画形成する複数の隔壁25とを有し、金属管10のストレート部11に配置されたハニカム構造体20とを備える熱回収部材100である。金属管10のストレート部11は、ハニカム構造体20のセル24が延びる方向に平行な外周壁21に締り嵌め固定されている。熱回収部材100は、以下の式(1)の関係を満たす。
締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径[mm]×金属管10の降伏点における公称ひずみ[%]/100≦(ハニカム構造体20の外径[mm]-締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径[mm]) ・・・(1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレート部を有する金属管と、
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する複数の隔壁とを有し、前記金属管の前記ストレート部に配置されたハニカム構造体と
を備え、
前記金属管の前記ストレート部は、前記ハニカム構造体の前記セルが延びる方向に平行な前記外周壁に締り嵌め固定されており、
以下の式(1)の関係を満たす、熱回収部材。
締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]×前記金属管の降伏点における公称ひずみ[%]/100≦(前記ハニカム構造体の外径[mm]-締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]) ・・・(1)
【請求項2】
前記金属管の軸方向に平行な断面において、以下の式(2)によって表される前記ハニカム構造体と前記金属管との接触指数Xが0以上である、請求項1に記載の熱回収部材。
X=(Lhsinθ-(Dhcosθ-Dp))/2 ・・・(2)
式中、Lhは、前記ハニカム構造体の前記第1端面又は前記第2端面の前記軸方向における位置の差[mm]、θは、前記軸方向に直交する方向と前記第1端面又は前記第2端面とのなす角(°)、Dhは、前記ハニカム構造体の前記セルが延びる方向の長さ、Dpは、締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]である。
【請求項3】
前記ハニカム構造体は、内周壁を更に有し、前記外周壁と前記内周壁との間に前記隔壁が配設されている中空型のハニカム構造体である、請求項1又は2に記載の熱回収部材。
【請求項4】
前記ハニカム構造体は、Si-SiC系材料から構成されている、請求項1又は2に記載の熱回収部材。
【請求項5】
前記金属管がステンレス管である、請求項1又は2に記載の熱回収部材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱回収部材と、
前記金属管の外周を流体が流通可能となるように、前記金属管の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒部材と
を備える熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱回収部材及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器には、耐食性などの特性が要求されることが多いことから、セラミック製の熱交換器が用いられている。熱交換器は、化学業界や製薬業界などにおいて、酸(臭素酸、硫酸、弗酸、硝酸、塩酸など)、アルカリ(苛性アルカリなど)、ハロゲン化物、食塩水、有機化合物などを含む各種流体の加熱、冷却、凝縮に利用されている。また、熱交換器は、エンジン始動時に冷却水、エンジンオイル、オートマチックトランスミッションフルード(ATF:Automatic Transmission Fluid)などを早期に暖めてフリクション(摩擦)損失を低減するシステムや、排ガス浄化用触媒を早期に活性化するために触媒を加熱するシステムにも利用されている。
【0003】
セラミック製の熱交換器には、金属管内にハニカム構造体(柱状セラミック体)を収容した構造を有する熱回収部材が用いられる。このような構造を有する熱回収部材は、内部でハニカム構造体が破損しても、流体同士が交じり合わないという利点がある。
金属管内にハニカム構造体を収容する方法としては、金属管を加熱し、ハニカム構造体を金属管内の所定の位置に挿入した後に冷却する焼き嵌め法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6510283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼き嵌め法などの締り嵌め法によって製造された従来の熱回収部材は、金属管とハニカム構造体との接触が不十分であることがあり、所望の熱回収性能を安定して得ることが難しかった。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、金属管とハニカム構造体との接触が良好であり、熱回収性能を安定して向上させることが可能な熱回収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属管をハニカム構造体の外周壁に締り嵌め固定した熱回収部材について鋭意研究を行った結果、特定の関係を満たすように熱回収部材を構成することで、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のように例示される。
【0007】
[1] ストレート部を有する金属管と、
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する複数の隔壁とを有し、前記金属管の前記ストレート部に配置されたハニカム構造体と
を備え、
前記金属管の前記ストレート部は、前記ハニカム構造体の前記セルが延びる方向に平行な前記外周壁に締り嵌め固定されており、
以下の式(1)の関係を満たす、熱回収部材。
締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]×前記金属管の降伏点における公称ひずみ[%]/100≦(前記ハニカム構造体の外径[mm]-締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]) ・・・(1)
【0008】
[2] 前記金属管の軸方向に平行な断面において、以下の式(2)によって表される前記ハニカム構造体と前記金属管との接触指数Xが0以上である、[1]に記載の熱回収部材。
X=(Lhsinθ-(Dhcosθ-Dp))/2 ・・・(2)
式中、Lhは、前記ハニカム構造体の前記第1端面又は前記第2端面の前記軸方向における位置の差[mm]、θは、前記軸方向に直交する方向と前記第1端面又は前記第2端面とのなす角(°)、Dhは、前記ハニカム構造体の前記セルが延びる方向の長さ、Dpは、締り嵌め固定領域以外の領域の前記ストレート部の内径[mm]である。
【0009】
[3] 前記ハニカム構造体は、内周壁を更に有し、前記外周壁と前記内周壁との間に前記隔壁が配設されている中空型のハニカム構造体である、[1]又は[2]に記載の熱回収部材。
【0010】
[4] 前記ハニカム構造体は、Si-SiC系材料から構成されている、[1]~[3]のいずれか一つに記載の熱回収部材。
【0011】
[5] 前記金属管がステンレス管である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の熱回収部材。
【0012】
[6] [1]~[5]のいずれか一つに記載の熱回収部材と、
前記金属管の外周を流体が流通可能となるように、前記金属管の径方向外側に間隔をおいて配置される外筒部材と
を備える熱交換器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属管とハニカム構造体との接触が良好であり、熱回収性能を安定して向上させることが可能な熱回収部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る熱回収部材の製造過程を説明するための概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る熱回収部材に使用可能な金属管の軸方向に平行な断面図である。
図3】典型的な金属管の公称ひずみと公称応力との関係を表すグラフである。
図4】締り嵌め代の条件を変えて作製した熱回収部材において熱回収量を評価した結果である。
図5】熱回収部材の金属管の軸方向に平行な断面図である。
図6A】典型的なハニカム構造体の軸方向に垂直な断面図である。
図6B】典型的な別のハニカム構造体の軸方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る熱回収部材の製造過程を説明するための概略図(熱回収部材の軸方向に平行な断面図)である。なお、以下では、締り嵌めとして焼き嵌めを例に挙げて説明するが、焼き嵌め以外の締り嵌め(例えば、冷やし嵌めなど)であってもよいことに留意すべきである。
図1において、状態Aは、熱回収部材を構成する材料(金属管及びハニカム構造体)の原料段階の状態を表す。状態Bは、締り嵌め(焼き嵌め)を行うために金属管を加熱した状態を表す。状態Cは、締り嵌め(焼き嵌め)を行った状態、すなわち、締り嵌め(焼き嵌め)によって得られた熱回収部材の状態を表す。
【0017】
図1に示されるように、熱回収部材100は、金属管10及びハニカム構造体20を備える。
金属管10は、ストレート部11を有する。ここで、本明細書において「ストレート部11」とは、原料段階の状態(状態A)において、ハニカム構造体20に対する締り嵌めが可能な直管状の部分を意味する。なお、図1では、ストレート部11のみから構成される金属管10の例を示したが、ストレート部11以外の構造(拡径部、縮径部など)を有していてもよい。例えば、図2(金属管10の軸方向に平行な断面図)に示されるように、ストレート部11及び拡径部12を有する金属管10としてもよい。金属管10は、ストレート部11を有していれば、その他の部分の構造は限定されないことに留意すべきである。
【0018】
ハニカム構造体20は、外周壁21と、外周壁21の内側に配設され、第1端面22から第2端面23まで延びる複数のセル24を区画形成する複数の隔壁25とを有する。熱回収部材100において、ハニカム構造体20は、金属管10のストレート部11に配置されている。
【0019】
金属管10のストレート部11は、ハニカム構造体20のセル24が延びる方向に平行な外周壁21に締り嵌め固定されている。
締り嵌め固定は、図1の状態B(金属管10を加熱した状態)に示すように、金属管10を加熱することによって金属管10のストレート部11を拡径した後、金属管10のストレート部11にハニカム構造体20を挿入して冷却することにより行うことができる。金属管10の加熱温度は、金属管10を拡径可能な温度であれば特に限定されず、金属管10の種類に応じて適宜調整すればよい。典型的な加熱温度は、900~1200℃である。
【0020】
図1の状態C(締り嵌めを行った状態)において、締り嵌め固定領域R1の金属管10のストレート部11は、その内部に配置されたハニカム構造体20の存在により、締り嵌め固定領域R1以外の領域R2の金属管10のストレート部11よりも径(内径及び外形)が大きくなっている。一方、締り嵌め固定領域R1以外の領域R2の金属管10のストレート部11は、状態Bにおいて拡径するものの、冷却すると状態A(原料段階の状態)の径に戻る。したがって、締り嵌め固定領域R1以外の領域R2の金属管10のストレート部11は、状態A(原料段階の状態)における金属管10のストレート部11径と実質的に同じである。
【0021】
熱回収部材100は、以下の式(1)の関係を満たす。
締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径[mm]×金属管10の降伏点における公称ひずみ[%]/100≦(ハニカム構造体20の外径[mm]-締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径[mm]) ・・・(1)
【0022】
ここで、典型的な金属管10の公称ひずみと公称応力との関係を表すグラフを図3に示す。図3に示されるように、金属管10の変形域は、降伏点において弾性変形域と塑性変形域とに分けることができる。弾性変形域では、応力を取り除くと元の形に戻る一方、塑性変形域では、応力を取り除いても元の形に戻らず変形が残る。
熱回収部材100において、ハニカム構造体20に金属管10を締め付けて固定(締り嵌め固定)し、金属管10とハニカム構造体20との接触を良好にするためには、金属管10の塑性変形域で締り嵌め固定を行うことが重要である。
【0023】
上記の式(1)の左辺は、金属管10の塑性変形域で締り嵌め固定を行うのに必要な締め付け圧力を与える締り嵌め代を表す。また、締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径は、状態A(原料段階の状態)における金属管10のストレート部11径と実質的に同じであることから、上記の式(1)の右辺は、原料段階の状態(状態A)における締り嵌め代(ハニカム構造体20の外径から金属管10のストレート部11の内径を引いた値)を表す。そして、上記の式(1)の関係を満たすことにより、金属管10の塑性変形域においてハニカム構造体20に金属管10を締め付けて固定(締り嵌め固定)することができる。上記の式(1)の関係を満たさない場合、金属管10の弾性変形域においてハニカム構造体20に金属管10を締め付けて固定することになるため、金属管10とハニカム構造体20との接触が不十分になる。
【0024】
金属管10の降伏点における公称ひずみ[%]は、金属管10の材質及び形状によって異なる。金属管10の降伏点における公称ひずみ[%]は、JIS Z2241:2011に準拠して公称ひずみと公称応力との関係を表すグラフを作成することによって求めることができる。
【0025】
ここで、実際に、締り嵌め代の条件を変えて作製した熱回収部材100において熱回収量を評価した結果を図4に示す。図4において、x軸は締り嵌め代であり、y軸は熱回収量である。ここで、締り嵌め代は、締り嵌め固定時の金属管10のひずみと比例関係にあり、締り嵌め代が大きくなるほど、締り嵌め固定時の金属管10のひずみも大きくなる。
図4に示されるように、締り嵌め代が大きくなるほど(すなわち、締り嵌め固定時の金属管10のひずみが大きくなるほど)、熱回収量が増大している。このグラフは、図3の金属管10の公称ひずみと公称応力との関係を表すグラフと同じ挙動を示しており、金属管10の塑性変形域で締り嵌め固定を行うことにより、金属管10とハニカム構造体20との接触が向上し、熱回収量が向上することを表している。
【0026】
上記の評価は、同じ材質及び形状のハニカム構造体20を用い、金属管10のストレート部11の内径を変更することにより、締り嵌め代を調整した。熱回収量は、熱回収部材100の金属管10の径方向外側に、水の流路を構成するように間隔をもって外筒部材を配置した熱交換器を作製し、熱回収部材100のハニカム構造体20のセル24に、400℃(Tg1)の空気を10g/sec(Mg)の流量で供給するとともに、熱回収部材100の外周部に水を166g/sec(Mw)の流量で供給して水を回収した。上記の各条件にて、熱交換器に対して空気及び水の供給を開始し、定常状態に達した後に、外筒部材に設けた供給管における水の温度(Tw1)及び排出管における水の温度(Tw2)を測定し、水によって回収される熱量(熱回収量)Qを求めた。この熱回収量Qは、次式で表される。
Q(kW)=ΔTw×Cpw×Mw
式中、ΔTw=Tw2-Tw1、Cpw(水の比熱)=4182J/(kg・K)である。
【0027】
熱回収部材100における金属管10とハニカム構造体20との接触を向上させる観点からは、締り嵌め固定領域R1において、金属管10のストレート部11と、ハニカム構造体20のセル24が延びる方向に平行な外周壁21とは平行であることが好ましい。しかしながら、熱回収部材100の実際の製造においては、締り嵌め固定領域R1において、金属管10のストレート部11と、ハニカム構造体20のセル24が延びる方向に平行な外周壁21とが平行にならないことがある。このような状態の熱回収部材100の金属管10の軸方向に平行な断面図を図5に示す。
【0028】
このような状態でも金属管10とハニカム構造体20との接触を向上させる観点からは、熱回収部材100は、金属管10の軸方向に平行な断面において、以下の式(2)によって表されるハニカム構造体20と金属管10との接触指数Xが0以上であることが好ましい。
X=(Lhsinθ-(Dhcosθ-Dp))/2 ・・・(2)
式(2)中、Lhは、ハニカム構造体20の第1端面22又は第2端面23の軸方向における位置の差L[mm]、θは、軸方向に直交する方向と第1端面22又は第2端面23とのなす角(°)、Dhは、ハニカム構造体20のセル24が延びる方向の長さ、Dpは、締り嵌め固定領域R1以外の領域R2のストレート部11の内径[mm]である。
【0029】
上記の式(2)によって表される接触指数Xは、ハニカム構造体20の傾きによる金属管10とハニカム構造体20との接触を表す指標である。接触指数Xを0以上とすることにより、ハニカム構造体20に対する金属管10の締め付け圧力が十分であるため、金属管10とハニカム構造体20との間の接触を安定して確保することができる。一方、接触指数Xが0未満であると、ハニカム構造体20に対する金属管10の締め付け圧力が不十分であるため、金属管10とハニカム構造体20との間に隙間が生じてしまうことがある。
【0030】
熱回収部材100を構成する金属管10の材質は、特に限定されないが、耐熱性及び耐食性を有するものが好ましい。例えば、金属管10として、ステンレス管、銅管、真鍮管、チタン管、Ni合金管、Al合金管などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び耐食性に加えてコストなどの観点からステンレス管が好ましい。また、金属管10として、例示した各種管の2つ以上が接合された接合管を用いてもよい。
【0031】
金属管10のストレート部11の内径は、原料段階の状態(図1の状態A)において、ハニカム構造体20の外径よりも小さい。金属管10のストレート部11の内径とハニカム構造体20の外径との差は締り嵌め代であり、上記の式(1)の右辺に相当する。したがって、締り嵌め代は、上記の式(1)を満たすような範囲であれば特に限定されない。
【0032】
ハニカム構造体20の外形は、特に限定されず、軸方向(セル24が延びる方向)に垂直な断面が、円形状、楕円形状、円弧が複合されたオーバル形状、四角形、又はその他の多角形の形状のものとすることができる。また、ハニカム構造体20は、軸方向に垂直な断面において中央部に中空部を有する中空型であってもよい。
【0033】
ここで、典型的なハニカム構造体20の軸方向に垂直な断面図を図6A及び6Bに示す。
図6Aに示されるハニカム構造体20は、外周壁21と、外周壁21の内側に配設され、第1端面22から第2端面23まで延びる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有する。また、図6Bに示されるハニカム構造体20は、外周壁21と、内周壁26と、外周壁21と内周壁26との間に配設され、第1端面22から第2端面23まで延びる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有する。内周壁26を有するハニカム構造体20は、中空型のハニカム構造体と称される。このような構造を有するハニカム構造体20は、隔壁25を有することにより、セル24を流通する流体からの熱を効率良く集熱し、外部に伝達することができる。
なお、ハニカム構造体20の軸方向に垂直な断面におけるセル24の形状は、図示した形状に限定されず、円形、楕円形、三角形などの多角形などとしてもよい。
【0034】
ハニカム構造体20の軸方向に垂直な断面におけるセル密度(即ち、単位面積当たりのセル24の数)は、特に限定されず、用途などに応じて適宜調整すればよいが、4~320セル/cm2の範囲であることが好ましい。セル密度を4セル/cm2以上とすることにより、隔壁25の強度、ひいてはハニカム構造体20自体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)を十分に確保することができる。また、セル密度を320セル/cm2以下とすることにより、流体が流れる際の圧力損失の増大を防止することができる。
【0035】
ハニカム構造体20の隔壁25の厚みは、目的に応じて適宜設計すればよく、特に限定されない。隔壁25の厚みは、50μm~2mmとすることが好ましく、60μm~600μmとすることがより好ましい。隔壁25の厚みを50μm以上とすると、機械的強度が向上して衝撃や熱応力による破損を防止できる。一方、隔壁25の厚みを2mm以下とすると、ハニカム構造体20側に占めるセル容積の割合が大きくなることによって流体の圧力損失が小さくなり、熱交換率を向上させることができる。
【0036】
ハニカム構造体20の外周壁21及び内周壁26の厚みも、目的に応じて適宜設計すればよく、特に限定されない。外周壁21及び内周壁26の厚みは、一般的な熱回収用途に用いられる場合は、0.3mm超過10mm以下であることが好ましく、0.5mm~5mmであることがより好ましく、1mm~3mmであることが更に好ましい。また、熱回収部材100が蓄熱用途に用いられる場合は、外周壁21の厚みを10mm以上として外周壁21の熱容量を増大させてもよい。
【0037】
外周壁21、隔壁25及び内周壁26の気孔率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。また、外周壁21、隔壁25及び内周壁26の気孔率は0%とすることもできる。外周壁21、隔壁25及び内周壁26の気孔率を10%以下とすることにより、熱伝導率を向上させることができる。
【0038】
ハニカム構造体20は、セラミックスを主成分とすることが好ましい。「セラミックスを主成分とする」とは、全質量に占めるセラミックスの質量比率が50質量%以上であることをいう。
ハニカム構造体20は、熱伝導性が高いSiC(炭化珪素)を主成分として含むことが好ましい。「SiC(炭化珪素)を主成分として含む」とは、全質量に占めるSiC(炭化珪素)の質量比率が50質量%以上であることを意味する。
具体的には、ハニカム構造体20の材料として、Si含浸SiCや(Si+Al)含浸SiCなどのSi-SiC系材料、金属複合SiC、再結晶SiC、Si34、及びSiCなどを採用することができる。その中でも、安価に製造でき、高熱伝導であることからSi-SiC系材料を採用することが好ましい。
【0039】
ハニカム構造体20の熱伝導率は、25℃において、50W/(m・K)以上であることが好ましく、100~300W/(m・K)であることがより好ましく、120~300W/(m・K)であることが更に好ましい。ハニカム構造体20の熱伝導率を、このような範囲とすることにより、熱伝導性が良好となり、柱状セラミックス体内の熱を外部に効率良く伝達させることができる。なお、熱伝導率の値は、レーザーフラッシュ法(JIS R1611:1997)により測定した値である。
【0040】
ハニカム構造体20のアイソスタティック強度は、100MPa超過が好ましく、150MPa以上がより好ましく、200MPa以上が更に好ましい。ハニカム構造体20のアイソスタティック強度が、100MPa超過であると、ハニカム構造体20が耐久性に優れたものとなる。ハニカム構造体20のアイソスタティック強度は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505-87に規定されているアイソスタティック破壊強度の測定方法に準じて測定することができる。
【0041】
ハニカム構造体20は、当該技術分野において公知の方法によって製造することができる。
まず、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押出成形し、ハニカム成形体を作製する。このとき、適切な形態の口金及び治具を選択することにより、セル24の形状及び密度、隔壁25の数、長さ及び厚さ、外周壁21及び内周壁26の形状及び厚さなどを制御することができる。また、ハニカム成形体の材料としては、上記のセラミックスを用いることができる。例えば、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム成形体を製造する場合、所定量のSiC粉末に、バインダーと、水又は有機溶媒とを加え、得られた混合物を混練して坏土とし、成形して所望形状のハニカム成形体を得ることができる。そして、得られたハニカム成形体を乾燥し、減圧の不活性ガス又は真空中で、ハニカム成形体中に金属Siを含浸焼成することによって、ハニカム構造体20を得ることができる。
【0042】
本発明の実施形態に係る熱回収部材100の製造方法は、上記の特徴を有する熱回収部材100を製造し得る方法であれば特に限定されず、公知の締り嵌め法に準じて行うことができる。
以下、本発明の実施形態に係る熱回収部材100の製造方法の一例について説明する。
本発明の実施形態に係る熱回収部材100の製造方法では、以下の式(3)の関係を満たす金属管10及びハニカム構造体20を原料として用いる。
金属管10のストレート部11の内径[mm]×金属管10の降伏点における公称ひずみ[%]/100≦(ハニカム構造体20の外径[mm]-金属管10のストレート部11の内径[mm]) ・・・(3)
上記の式(3)の関係を満たす金属管10及びハニカム構造体20を原料として用いることにより、金属管10の塑性変形域においてハニカム構造体20に金属管10を締め付けて固定(締り嵌め固定)することができるため、金属管10とハニカム構造体20との接触を良好にすることができる。
【0043】
本発明の実施形態に係る熱回収部材100の製造方法は、金属管10の配置工程と、金属管10の加熱工程と、ハニカム構造体20の配置工程と、金属管10の冷却工程とを含む。
【0044】
金属管10の配置工程は、加熱装置の底部に設置された複数の突出し治具に金属管10の一端を被せるように配置する工程である。
突出し治具は、加熱装置内における金属管10の位置に加え、金属管10におけるハニカム構造体20の位置を定める機能を有する治具である。したがって、突出し治具は、当該機能を得るための構造を有する。例えば、突出し治具は、金属管10の一端を被せることが可能なように、金属管10のストレート部11の内径よりも小さな幅(水平方向長さ)を有する。また、金属管10のストレート部11内の所定の位置にハニカム構造体20を配置可能なように所定の位置に対応する高さ(鉛直方向長さ)を有する。さらに、締り嵌め工程後に、締り嵌め部材を除去することが可能なように、ハニカム構造体20の直径よりも小さな幅(水平方向長さ)を有する。
【0045】
突出し治具の外形は、金属管10の形状に応じて適宜設定することができる。例えば、金属管10が円筒形である場合、突出し治具の外形は、円柱状又は角柱状などの各種形状であり得るが、円柱状であることが好ましい。また、金属管10が角筒形である場合、突出し治具の外形は、円柱状又は角柱状などの各種形状であり得るが、角柱状であることが好ましい。
突出し治具は、ハニカム構造体20が中空型である場合に、中空部に挿入可能な突起部を有することが好ましい。突起部を有する突出し治具を用いることにより、締り嵌め工程の際に中空型のハニカム構造体20を正確に位置決めし易くなる。
突出し治具の材質としては、締り嵌め工程時の加熱温度に耐え得る材料から形成されていれば特に限定されない。当該材料の例としては、アルミナなどが挙げられる。
【0046】
金属管10の加熱工程は、金属管10のストレート部11を加熱によって拡径させる工程である。金属管10の加熱温度は、金属管10を拡径可能な温度であれば特に限定されず、金属管10の種類に応じて適宜調整すればよい。典型的な金属管10の加熱温度は、900~1200℃である。
【0047】
ハニカム構造体20の配置工程は、加熱によって拡径された金属管10のストレート部11にハニカム構造体20を配置する工程である。
拡径された金属管10の底部には、突出し治具が設置されているため、金属管10のストレート部11内の所定の位置にハニカム構造体20を配置することができる。ハニカム構造体20は、駆動装置の先端部に第2端面23を固定し、駆動装置を鉛直方向に駆動させることによって配置することができる。駆動装置としては、鉛直方向に駆動可能なものであれば特に限定されない。
【0048】
金属管10の冷却工程は、金属管10を冷却することによって金属管10のストレート部11をハニカム構造体20に締り嵌める工程である。
金属管10の冷却方法としては、特に限定されず、自然冷却であってもよいし、冷媒などを用いて強制的な冷却を行ってもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 金属管
11 ストレート部
12 拡径部
20 ハニカム構造体
21 外周壁
22 第1端面
23 第2端面
24 セル
25 隔壁
26 内周壁
100 熱回収部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B