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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127628
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車速推定装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/105 20120101AFI20240912BHJP
【FI】
B60W40/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036921
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA50
3D241CE02
3D241CE04
3D241DB01A
3D241DB03A
(57)【要約】
【課題】多様な路面状況において車速の推定精度を高く維持することができる車速推定装置を提供する。
【解決手段】BCU12は、複数の車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrに基づいて第1の車速候補値V1を演算し、衛星信号を用いて測位した自車位置の緯度Y及び経度Xの変化量に基づいて第2の車速候補値V2を演算し、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのスリップ状態を判定し、路面の勾配状態を判定し、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2の車速推定に対する各寄与度C1,C2をスリップ状態及び路面勾配に基づいてそれぞれ設定し、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2を各寄与度C1,C2に応じてそれぞれ反映させた車速推定値Vを演算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪の車輪速に基づいて第1の車速候補値を演算する第1の車速候補値演算手段と、
衛星からの信号を用いて測位した自車位置の緯度及び経度の変化量に基づいて第2の車速候補値を演算する第2の車速候補値演算手段と、
前記複数の車輪のスリップ状態を判定するスリップ判定手段と、
自車両が走行する路面の勾配状態を判定する勾配判定手段と、
前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値の車速推定に対する各寄与度を前記スリップ状態及び前記勾配状態に基づいてそれぞれ設定し、前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値を前記各寄与度に応じてそれぞれ反映させた車速推定値を演算する車速推定値演算手段と、を備えたことを特徴とする車速推定装置。
【請求項2】
前記車速推定値演算手段は、前記複数の車輪におけるスリップ率の最大値が予め設定した第1の閾値以上であり、且つ、路面勾配の絶対値が予め設定した第2の閾値以上であるとき、前記路面勾配を用いて前記第2の車速候補値を補正し、補正後の前記第2の車速候補値の前記寄与度を前記第1の車速候補値の前記寄与度よりも相対的に高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車速推定装置。
【請求項3】
前記車速推定値演算手段は、前記複数の車輪におけるスリップ率の最大値が予め設定した第1の閾値未満であり、且つ、路面勾配の絶対値が予め設定した第2の閾値以上であるとき、前記第1の車速候補値の前記寄与度を前記第2の車速候補値の前記寄与度よりも相対的に高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車速推定装置。
【請求項4】
前記車速推定値演算手段は、前記複数の車輪におけるスリップ率の最大値が予め設定した第1の閾値以上であり、且つ、路面勾配の絶対値が予め設定した第2の閾値未満であるとき、前記第2の車速候補値の前記寄与度を前記第1の車速候補値の前記寄与度よりも相対的に高く設定することを特徴とする請求項1に記載の車速推定装置。
【請求項5】
車両に設けられたプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
複数の車輪の車輪速に基づいて第1の車速候補値を演算し、
衛星からの信号を用いて測位した自車位置の緯度及び経度の変化量に基づいて第2の車速候補値を演算し、
前記複数の車輪のスリップ状態を判定し、
自車両が走行する路面の勾配状態を判定し、
前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値の車速推定に対する各寄与度を前記スリップ状態及び前記勾配状態に基づいてそれぞれ設定し、前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値を前記各寄与度に応じてそれぞれ反映させた車速推定値を演算することを特徴とする車速推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位衛星からの信号に基づいて位置座標を取得可能な車両に設けられた車速推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両は、自車両の車速を推定するための車速推定装置を有する。このような車速推定装置には、各車輪に設けられた車輪速センサが接続されている。各車輪速センサは、例えば、各車輪のホイールロータの回転速に基づいて、各車輪速を検出する。車速推定装置は、基本的には、各車輪の車輪速に基づいて、自車両の車速を推定する。
【0003】
ところで、車両の走行時において、各車輪は、路面状況等に起因する外乱によってスリップする場合がある。これに対し、例えば、特許文献1には、スリップ発生時においても車速の推定精度を高く維持するための車速検出装置(車速推定装置)が開示されている。この車速推定装置は、衛星信号に基づく第1車速と、車輪の回転数に基づく第2車速と、を算出する。さらに、車速推定装置は、第1車速と第2車速とに基づいて車体のスリップ率を算出する。そして、車速推定装置は、スリップ率が閾値よりも大きい場合に、スリップの影響のない第1車速を外部に出力する。一方、車速推定装置は、スリップ率が閾値よりも小さい場合に、第2車速を外部に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-10142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、第1車速或いは第2車速を、スリップ率に応じて選択的に出力する構成を採用している。従って、特許文献1に開示された技術では、車速の推定精度を高く維持することが困難となる虞がある。例えば、衛星信号に基づく車速の算出精度と、車輪速に基づく車速の算出精度と、が共に低下する路面状況において、特許文献1に開示された技術では、車速の推定精度を高く維持することが困難となる虞がある。
【0006】
本発明は、多様な路面状況において車速の推定精度を高く維持することができる車速推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車速推定装置は、複数の車輪の車輪速に基づいて第1の車速候補値を演算する第1の車速候補値演算手段と、衛星からの信号を用いて測位した自車位置の緯度及び経度の変化量に基づいて第2の車速候補値を演算する第2の車速候補値演算手段と、前記複数の車輪のスリップ状態を判定するスリップ判定手段と、自車両が走行する走行路の路面勾配を取得する路面勾配取得手段と、前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値の車速推定に対する各寄与度を前記スリップ状態及び前記路面勾配に基づいてそれぞれ設定し、前記第1の車速候補値及び前記第2の車速候補値を前記各寄与度に応じてそれぞれ反映させた車速推定値を演算する車速推定値演算手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車速推定装置によれば、様々な路面状況において車速の推定精度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】駆動力制御装置を搭載した車両の概略構成図
図2】車速推定値演算ルーチンを示すフローチャート
図3】勾配路を走行する車両の実際の走行距離と道路地図上の走行距離とを示す説明図
図4】路面状況に応じた車速推定値の演算方法を示す図表
図5】車速推定値の演算時に路面状況に応じて変化する各車速の寄与度を例示するタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係り、図1は、駆動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【0011】
図1に示す車両(自車両)1は、例えば、エンジン(E/G)2の駆動力を、左右前輪5fl,5fr及び左右後輪5rl,5rrに対して伝達可能な四輪駆動車である。この車両1の駆動系は、エンジン2と、自動変速機(T/M)3と、センタディファレンシャル装置Dcと、フロントディファレンシャル装置Dfと、リアディファレンシャル装置Drと、を有する。
【0012】
エンジン2の出力軸は、自動変速機3に連結されている。また、自動変速機3の出力軸は、センタディファレンシャル装置Dcを介して、フロントディファレンシャル装置Df及びリアディファレンシャル装置Drに連結されている。
【0013】
このような構成により、自動変速機3は、エンジン2の出力回転数を変速によって変化させる。また、自動変速機3は、変速後のエンジン出力を、センタディファレンシャル装置Dcに伝達する。センタディファレンシャル装置Dcは、自動変速機3から伝達されたエンジン出力を、フロントディファレンシャル装置Df及びリアディファレンシャル装置Drに伝達する。フロントディファレンシャル装置Dfは、センタディファレンシャル装置Dcから伝達されたエンジン出力を、左右前輪5fl,5frに伝達する。また、リアディファレンシャル装置Drは、センタディファレンシャル装置Dcから伝達されたエンジン出力を、左右後輪5rl,5rrに伝達する。
【0014】
左右前輪5fl,5fr及び左右後輪5rl,5rrのハブには、例えば、液圧式サービスブレーキのホイールシリンダ8fl,8fr,8rl,8rrが設けられている。各ホイールシリンダ8fl,8fr,8rl,8rrには、ハイドロリックコントロールユニット(H/U)6が接続されている。
【0015】
ハイドロリックコントロールユニット6は、マスタシリンダと、加圧ポンプと、複数の制御弁と、を有する(何れも図示せず)。
【0016】
マスタシリンダは、ドライバによるブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量に応じて、ブレーキフルードを加圧する。加圧ポンプは、マスタシリンダとは独立して、ブレーキフルードを加圧する。各制御弁は、各ホイールシリンダ8fl,8fr,8rl,8rrに付与するブレーキフルード液圧を増減させ、または、保持する。これにより、ハイドロリックコントロールユニット6は、各ホイールシリンダ8fl,8fr,8rl,8rrに対し、個別に調圧したブレーキフルード液圧を供給することが可能となっている。
【0017】
このような車両1の走行制御を行うための制御系は、エンジン制御ユニット(ECU)10と、トランスミッション制御ユニット(TCU)11と、ブレーキ制御ユニット(BCU)12と、を有する。各制御ユニット10~12は、CAN(Controller Area Network)等を介して、相互通信可能に接続されている。
【0018】
ECU10には、アクセルペダルセンサ及びクランク角センサ等(何れも図示せず)の各種センサ類が接続されている。また、TCU11には、例えば、BCU12から自車両1の車速推定値V(後述する)が入力される。ECU10は、アクセルペダルセンサ等からの各種入力信号、及び、BCU12からの車速推定値V等に基づいて、要求トルクを算出する。そして、ECU10は、要求トルクに基づいて、燃料噴射量、点火時期、及び、スロットル開度等を制御する。これにより、ECU10は、エンジン2に対する駆動制御を行う。
【0019】
TCU11には、シフトポジションセンサ等(図示せず)の各種センサ類が接続されている。また、TCU11には、例えば、BCU12から自車両1の車速推定値Vが入力される。TCU11は、例えば、シフトポジションセンサ等からの各種入力信号、及び、BCU12からの車速推定値V等に基づいて、自動変速機3の変速比を制御する。例えば、TCU11は、自動変速機3に設けられた各摩擦係合要素に対する油圧制御を行うことにより、自動変速機3の変速比を制御する。
【0020】
BCU12には、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrに設けられた車輪速センサ17fl,17fr,17rl,17rr、及び、勾配センサ18等の各種センサ類が接続されている。また、BCU12には、ロケータユニット19が接続されている。
【0021】
各車輪速センサ17fl,17fr,17rl,17rrは、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのホイールロータの回転速に基づいて、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrの車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrを検出する。
【0022】
勾配センサ18は、自車両1が走行している走行路の路面勾配θを検出する。本実施形態において、勾配センサ18は、例えば、自車両1の前後方向の勾配を、路面勾配θとして検出する。
【0023】
ロケータユニット19には、GNSS受信器20と、道路地図データベース21と、が接続されている。
【0024】
GNSS受信器20は、複数の測位衛星から発信される信号(測位信号)を受信する。これにより、GNSS受信器20は、自車位置を示す座標(緯度y及び経度x等)を測位する。
【0025】
道路地図データベース21は、ハードディスク等の大容量記憶媒体によって構成されている。この道路地図データベース21には、例えば、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。道路地図情報は、例えば、車両の走行車線データとして、車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、及び、制限速度データ等を含んでいる。走行車線データは、道路地図上の各車線に、数メートル間隔で格納されている。
【0026】
ロケータユニット19は、GNSS受信器20において測位した自車位置を基準とする所定範囲の道路地図情報を、道路地図データベース21から読み出す。さらに、ロケータユニット19は、GNSS受信器20において測位した自車両1の位置座標(緯度y及び経度x)を周知のマップマッチング処理によって補正する。なお、以下の説明において、マップマッチング処理による補正後の位置座標を、適宜、「緯度Y」及び「経度X」を用いて表記する。
【0027】
BCU12は、自車両1の車速推定値Vを演算するための車速推定装置としての機能を有する。この車速推定値Vの演算に際し、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2を演算する。
【0028】
例えば、BCU12は、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrの車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrに基づいて、第1の車速候補値V1を演算する。すなわち、BCU12は、例えば、各車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrの平均値を、第1の車速候補値V1として演算する。
【0029】
また、BCU12は、例えば、マップマッチング処理後の自車両1の位置座標(緯度Y及び経度X)に基づいて、第2の車速候補値V2を演算する。すなわち、BCU12は、道路地図上における位置座標(緯度Y及び経度X)を設定時間毎に取得する。そして、BCU12は、設定時間毎の位置座標の変化量に基づいて、第2の車速候補値V2を演算する。
【0030】
また、BCU12は、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのスリップ状態を判定する。
【0031】
すなわち、BCU12は、各車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrに基づいて、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのスリップ率Sfl,Sfr,Srl,Srrを算出する。例えば、ある車輪5のスリップ率Sは、以下の(1)式を用いて算出することが可能である。
【0032】
S=[(V1-Vw)/V1]×100 …(1)
なお、(1)式において、V1は、第1の車速候補値である。また、Vwは、ある車輪5の車輪速である。
【0033】
さらに、BCU12は、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのスリップ率Sfl,Sfr,Srl,Srrのうちの最大値を抽出する。そして、スリップ率の最大値が予め設定した第1の閾値Sth以上であるとき、BCU12は、車輪のスリップがあると判定する。一方、スリップ率の最大値が第1の閾値Sth未満であるとき、BCU12は、車輪のスリップがないと判定する。
【0034】
なお、第1の閾値Sthは、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのうちの少なくとも何れか1つに、第1の車速候補値V1の演算精度を低下させるレベルのスリップが発生しているか否かを判定するための閾値である。このような第1の閾値Sthは、実験やシミュレーション等に基づいて設定される。
【0035】
また、BCU12は、自車両1が走行する路面の勾配状態を判定する。この勾配状態は、例えば、勾配センサ18によって検出した路面勾配θに基づいて判定される。
【0036】
すなわち、路面勾配θの絶対値が予め設定した第2の閾値θth以上であるとき、BCU12は、路面勾配があると判定する。一方、路面勾配θの絶対値が第2の閾値θth未満であるとき、BCU12は、路面勾配がないと判定する。
【0037】
なお、第2の閾値θthは、第2の車速候補値V2の演算精度を低下させるレベルの勾配が路面にあるか否かを判定するための閾値である。このような第2の閾値θthは、実験やシミュレーション等に基づいて設定される。
【0038】
さらに、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2に基づいて、車速推定値Vを演算する。その際、BCU12は、車輪のスリップ状態及び路面の勾配状態に基づいて、車速推定値Vに対する第1の車速候補値V1の寄与度(第1の寄与度C1)及び第2の車速候補値V2の寄与度(第2の寄与度C2)をそれぞれ設定する。なお、本実施形態において、第1の寄与度C1及び第2の寄与度C2は、これらの合算値が「1」となるように設定される。
【0039】
そして、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2を各寄与度C1,C2に応じてそれぞれ反映させた車速推定値Vを演算する。
【0040】
例えば、図4に示すように、車輪のスリップがない場合(すなわち、路面μが高い場合)、第1の車速候補値V1の演算精度(信頼度)は、車輪のスリップがある場合に比べて高くなる。また、路面勾配がない場合、第2の車速候補値V2の演算精度(信頼度)は、路面勾配がある場合に比べて高くなる。
【0041】
そこで、車輪のスリップがなく且つ路面勾配がない場合、BCU12は、例えば、第1の寄与度C1及び第2の寄与度C2を、ともに「0.5」に設定する。そして、BCU12は、例えば、以下の(2)式を用いて、車速推定値Vを算出する。
【0042】
V=(C1×V1)+(C2×V2) …(2)
なお、このような場合、BCU12は、第1の車速候補値V1と第2の車速候補値V2とは略同じ値となることが想定される。従って、BCU12は、第1の寄与度C1或いは第2の寄与度C2のうちの何れか一方を「1」に設定し、他方を「0」に設定することも可能である。
【0043】
また、車輪のスリップがなく且つ路面勾配がある場合、BCU12は、第1の寄与度C1を第2の寄与度C2よりも相対的に大きな値に設定する。例えば、BCU12は、第1の寄与度C1を「1」に設定し、第2の寄与度C2を「0」に設定する。そして、BCU12は、例えば、上述の(2)式を用いて、車速推定値Vを算出する。
【0044】
また、車輪のスリップがあり且つ路面勾配がない場合、BCU12は、第2の寄与度C2を第1の寄与度C1よりも相対的に大きな値に設定する。例えば、BCU12は、第1の寄与度C1を「0」に設定し、第2の寄与度C2を「1」に設定する。そして、BCU12は、例えば、上述の(2)式を用いて、車速推定値Vを算出する。
【0045】
また、車輪のスリップがあり且つ路面勾配がある場合、BCU12は、路面勾配θを用いて、第2の車速候補値V2に対する補正を行う。すなわち、例えば、図3に示すように、勾配路において、自車両1が実際に単位時間当たりに走行する距離L'は、道路地図上の緯度Y及び経度Xの変化量から求まる単位時間当たりの距離Lよりも大きくなる。そこで、BCU12は、例えば、以下の(3)式を用いて第2の車速候補値V2を補正する。
【0046】
V2'=V2/cosθ …(3)
ここで、(3)式において、V2'は、補正後の第2の車速候補値である。そして、BCU12は、以下の(2)'式を用いて車速推定値Vを算出する。
【0047】
V=(C1×V1)+(C2×V2') …(2)'
このように、本実施形態において、BCU12は、第1の車速候補値演算手段、第2の車速候補値演算手段、スリップ判定手段、勾配判定手段、及び、車速推定値演算手段の一具体例に相当する。
【0048】
なお、本実施形態のBCU12は、例えば、車輪のスリップがあると判定された際に、制動制御を用いてトラクションコントロール制御(TCS)を行うことが可能である。この場合、BCU12は、ECU10との協調制御により、エンジン2の出力を抑制する。さらに、BCU12は、ハイドロリックコントロールユニット6を用いてブレーキフルード液圧の制御を行い、スリップしている車輪に制動力を発生させる。
【0049】
次に、BCU12において実行される車速推定値Vの演算について、図2に示す車速推定値演算ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは、BCU12において、設定時間毎に繰り返し実行される。
【0050】
ルーチンがスタートすると、ステップS101において、BCU12は、第1の車速候補値V1を演算する。すなわち、BCU12は、例えば、各車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrの平均値を、第1の車速候補値V1として演算する。
【0051】
続くステップS102において、BCU12は、第2の車速候補値V2を演算する。すなわち、BCU12は、例えば、単位時間当たりの自車位置の緯度Y及び経度Xの変化量に基づいて第2の車速候補値V2を演算する。
【0052】
続くステップS103において、BCU12は、自車両1が走行中であるか否かを判定する。例えば、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2が共に「0」である場合、BCU12は、自車両1が停車中であると判定する。また、例えば、第1の車速候補値V1或いは第2の車速候補値V2のうちの少なくとも何れか一方が「0」でない場合、BCU12は、自車両1が走行中であると判定する。
【0053】
そして、ステップS103において、自車両1が停車中であると判定した場合(ステップS103:NO)、BCU12は、そのままルーチンを抜ける。
【0054】
一方、ステップS103において、自車両1が走行中であると判定した場合(ステップS103:YES)、BCU12は、ステップS104に進む。
【0055】
ステップS104において、BCU12は、車輪のスリップがあるか否かを調べる。
【0056】
そして、ステップS104において、車輪のスリップがあると判定した場合(ステップS104:YES)、BCU12は、ステップS108に進む。
【0057】
一方、ステップS104において、車輪のスリップがないと判定した場合(ステップS104:NO)、BCU12は、ステップS105に進む。
【0058】
ステップS104からステップS105に進むと、BCU12は、自車両1の走行路に路面勾配があるか否かを調べる。
【0059】
そして、ステップS105において、路面勾配がないと判定した場合(ステップS105:NO)、BCU12は、ステップS106に進む。
【0060】
ステップS106において、BCU12は、第1の演算方法によって車速推定値Vを演算する。ここで、ステップS106に進む場合とは、車輪のスリップがなく且つ路面勾配がない場合である。このような場合、第1の車速候補値V1の精度が高く、且つ、第2の車速候補値V2の精度が高い。そこで、BCU12は、例えば、第1の寄与度C1及び第2の寄与度C2を、ともに「0.5」に設定する。そして、BCU12は、上述の(2)式を用いて車速推定値Vを演算する。車速推定値Vを演算すると、BCU12は、ルーチンを抜ける。
【0061】
一方、ステップS105において、路面勾配があると判定した場合(ステップS105:YES)、BCU12は、ステップS107に進む。
【0062】
ステップS107において、BCU12は、第2の演算方法によって車速推定値Vを演算する。ここで、ステップS107に進む場合とは、車輪のスリップがなく且つ路面勾配がある場合である。このような場合、第1の車速候補値V1の精度が高く、且つ、第2の車速候補値V2の精度が低い。そこで、BCU12は、第1の寄与度C1を「1」に設定し、第2の寄与度C2を「0」に設定する。そして、BCU12は、上述の(2)式を用いて車速推定値Vを演算する。車速推定値Vを演算すると、BCU12は、ルーチンを抜ける。
【0063】
また、ステップS104からステップS108に進むと、BCU12は、自車両1の走行路に路面勾配があるか否かを調べる。
【0064】
そして、ステップS108において、路面勾配がないと判定した場合(ステップS108;NO)、BCU12は、ステップS109に進む。
【0065】
ステップS109において、BCU12は、第3の演算方法によって車速推定値Vを演算する。ここで、ステップS109に進む場合とは、車輪のスリップがあり、且つ、路面勾配がない場合である。このような場合、第1の車速候補値V1の信頼度が低く、且つ、第2の車速候補値V2の信頼度が高い。そこで、BCU12は、第1の寄与度C1を「0」に設定し、第2の寄与度C2を「1」に設定する。そして、BCU12は、上述の(2)式を用いて車速推定値Vを演算する。車速推定値Vを演算すると、BCU12は、ステップS111に進む。
【0066】
一方、ステップS108において、路面勾配があると判定した場合(ステップS108:YES)、BCU12は、ステップS110に進む。
【0067】
ステップS110において、BCU12は、第4の演算方法によって車速推定値Vを演算する。ここで、ステップS110に進む場合とは、車輪のスリップがあり、且つ、路面勾配がある場合である。このような場合、第1の車速候補値V1の精度が低く、且つ、第2の車速候補値V2の制御が低い。そこで、BCU12は、第2の車速候補値V2を路面勾配θによって補正する。このように補正された第2の車速候補値V2'の精度は、第1の車速候補値V1の精度よりも高くなる。そこで、BCU12は、第1の寄与度C1を「0」に設定し、第2の寄与度C2を「1」に設定する。そして、BCU12は、上述の(2)'式を用いて車速推定値Vを演算する。車速推定値Vを演算すると、BCU12は、ステップS111に進む。
【0068】
ステップS109或いはステップS110からステップS111に進むと、BCU12は、トラクションコントロール制御を作動させた後、ルーチンを抜ける。
【0069】
これにより、例えば、図5に示すように、BCU12は、路面状況(車輪のスリップ状態、及び、路面勾配)に応じて、車速推定に対する第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2の各寄与度(第1の寄与度C1及び第2の寄与度C2)を変化させながら、車速推定値Vを演算する。
【0070】
このような実施形態によれば、BCU12は、複数の車輪速Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrrに基づいて第1の車速候補値V1を演算し、衛星信号を用いて測位した自車位置の緯度Y及び経度Xの変化量に基づいて第2の車速候補値V2を演算する。また、BCU12は、各車輪5fl,5fr,5rl,5rrのスリップ状態を判定し、路面の勾配状態を判定する。そして、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2の車速推定に対する各寄与度C1,C2をスリップ状態及び路面勾配に基づいてそれぞれ設定し、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2を各寄与度C1,C2に応じてそれぞれ反映させた車速推定値Vを演算する。これにより、様々な路面状況において車速(車速推定値V)の推定精度を高く維持することができる。
【0071】
すなわち、本実施形態のBCU12(車速推定装置)は、車輪のスリップ状態及び路面の勾配状態を判定することにより、第1の車速候補値V1の信頼度のみならず、第2の車速候補値V2の信頼度についても判断する。その上で、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2の信頼度に応じた寄与度C1,C2を設定し、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2を各寄与度C1,C2に応じてそれぞれ反映させた車速推定値Vの演算を行う。これにより、様々な路面状況において車速(車速推定値V)の推定精度を高く維持することができる。
【0072】
この場合において、特に、BCU12は、第1の車速候補値V1及び第2の車速候補値V2の信頼度がともに低いと判断した場合には、路面勾配θを用いて第2の車速候補値V2を補正する。そして、BCU12は、補正後の第2の車速候補値V2'に対する第2の寄与度C2を高く設定した上で、車速推定値Vの演算を行う。これにより、例えば、路面μが低く、且つ、路面勾配の大きい走行路等においても、車速推定値Vの推定精度を高く維持することができきる。
【0073】
ここで、上述の実施形態において、ECU10、TCU11、BCU12、及び、ロケータユニット19等は、CPU(プロセッサ),RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。なお、プロセッサの全部若しくは一部の機能は、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0074】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記各形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0075】
例えば、上述の実施形態においては、車輪のスリップ状態として、「スリップがある」との判定、或いは、「スリップがない」との判定をBCU12が行う構成について説明している。しかし、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、例えば、「スリップがある」場合の判定を、各車輪のスリップ率に応じて多段階に判定することも可能である。
【0076】
同様に、路面の勾配状態についても、路面勾配θに応じて多段階に判定することも可能である。そして、このような場合、第1の寄与度C1及び第2の寄与度C2についても、より細かく分類することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 … 車両(自車両)
2 … エンジン
3 … 自動変速機
5fl,5fr,5rl,5rr … 車輪
6 … ハイドロリックコントロールユニット
8fl,8fr,8rl,8rr … ホイールシリンダ
10 … エンジン制御ユニット(ECU)
11 … トランスミッション制御ユニット(TCU)
12 … ブレーキ制御ユニット(BCU)
17fl,17fr,17rl,17rr … 車輪速センサ
18 … 勾配センサ
19 … ロケータユニット
20 … GNSS受信器
21 … 道路地図データベース
C1 … 第1の寄与度
C2 … 第2の寄与度
Dc … センタディファレンシャル装置
Df … フロントディファレンシャル装置
Dr … リアディファレンシャル装置
Sfl,Sfr,Srl,Srr … スリップ率
V … 車速推定値
V1 … 第1の車速候補値
V2 … 第2の車速候補値
V2' … 第2の車速候補値(補正後)
Vwfl,Vwfr,Vwrl,Vwrr … 車輪速
x(X) … 経度
y(Y) … 緯度
θth … 第2の閾値
図1
図2
図3
図4
図5