(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127637
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】板紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/00 20060101AFI20240912BHJP
D21H 11/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
D21H27/00 E
D21H11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036937
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】桐原 佑太
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG72
4L055AH16
4L055AJ01
4L055BD18
4L055CD25
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA32
4L055FA13
4L055FA14
4L055FA15
4L055GA06
(57)【要約】
【課題】広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる板紙を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層、中層及び裏層を備え、表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であり、中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、中層における雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、中層における広葉樹未晒クラフトパルプ及び雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であり、総坪量に対する表層の坪量の割合が12%以上28%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層、中層及び裏層を備え、
上記表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、
上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、
上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であり、
上記中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、
上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、
上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、
上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であり、
総坪量に対する上記表層の坪量の割合が12%以上28%以下である板紙。
【請求項2】
上記中層の坪量に対する上記表層の坪量の割合が65%以上125%以下である、請求項1に記載の板紙。
【請求項3】
上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が30質量%以上40質量%以下であり、
上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で0.5kg/パルプt以上1.0kg/パルプt以下であり、
上記表層の坪量が40g/m2以上50g/m2以下であり、
上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が20質量%以上30質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の板紙。
【請求項4】
JIS-P8220(1998)に準拠して離解した表層の離解パルプのフリーネスが300ml以上450ml以下である請求項3に記載の板紙。
【請求項5】
裏層が段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、
上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上25質量%以下であり、
裏層の離解パルプのフリーネスが400ml以上550ml以下である請求項3に記載の板紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
梱包用包装容器に用いられる段ボールには、一般的な品質の多層紙が用いられている。多層紙は、木製や樹脂容器製に比べて軽量であり、クッション性を有することから内容物の破損しにくいため、精密機器をはじめ様々な分野で用いられている。
【0003】
このような梱包用包装容器に用いられる多層紙としては、例えば特許文献1には、第1層、第2層、第3層を順に有する紙製基材において、中層である第2層の密度よりも、外層である第1層及び第3層の密度を高くすることで、優れた両面印刷適性と両面ラミネート加工適性を有する紙製基材を得ることができる技術が開示されている(特許文献1参照)。ここでは、各層構成における密度の特性を変えることで印刷やラミネート加工適性を改善可能とする旨が開示されている。
【0004】
また、このような段ボール用途においては、高い強度が要求されることから、表層を構成するパルプとしては、針葉樹未晒クラフトパルプが広く用いられている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-002433号公報
【特許文献2】特開2014-173207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、洋紙需要の低減と包装洋紙需要の増大から、針葉樹クラフトパルプの需給バランスも崩れるリスクが高い。よって、針葉樹クラフトパルプ代替として広葉樹未晒クラフトパルプの配合が考えられる。しかしながら、広葉樹未晒パルプを配合する場合、針葉樹に比べて繊維が細く短いことで、針葉樹未晒クラフトパルプより罫線割れ抑制性が低下するおそれがある。
【0007】
一方、近年、木材資源の保護と経済性の観点から、古紙を原料パルプとして用いることが指向されている。再生紙の原材料となる古紙パルプとしては、茶系の古紙パルプとして段ボール古紙が広く知られている。しかしながら、段ボール古紙パルプは、雑誌、新聞系古紙パルプと異なり、再生紙の品質低下の要因となる粘着異物が多く、色味が安定しないという課題を有している。
【0008】
また、従来から、段ボール用途の板紙には、罫線割れ抑制性のみならず、印刷適性及びバキューム適性も重視されている。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる板紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層、中層及び裏層を備え、上記表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であり、上記中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であり、総坪量に対する上記表層の坪量の割合が12%以上28%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる板紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層、中層及び裏層を備え、上記表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であり、上記中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であり、総坪量に対する上記表層の坪量の割合が12%以上28%以下である。
【0013】
このように、上記表層が、繊維が細く短い広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、段ボール用の梱包材として最表面側に位置する表層の広葉樹未晒クラフトパルプの含有量を20質量%以上50質量%以下とすることで、表層の繊維が密に詰まり、印刷適性を向上できる。また、表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であることで、罫線割れを抑制しつつ広葉樹未晒クラフトパルプを含有していても強度を良好に維持できる。そのため、印刷適性の向上と罫線割れ抑制性の維持を図ることができる。また、上記中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを配合し、かつ中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であることで、古紙パルプの再利用を図りつつ、破裂強度性能を向上できる。さらに、総坪量に対する上記表層の坪量の割合が12%以上28%以下であることで、当該板紙は適度な透気度を有し、バキューム適性を担保できる。従って、当該板紙は、広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる。
さらに、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下とすることで、強度の保持と多層紙のクッション性及びバキューム適性を担保でき、かつ再生紙の品質低下の要因となる粘着異物を低減し、色味の安定性を向上できる。
【0014】
上記中層の坪量に対する上記表層の坪量の割合が65%以上125%以下であることが好ましい。上記中層の坪量に対する上記表層の坪量の割合が65%以上125%以下であることで、当該板紙は、段ボール用途に求められる強度を確保しながら印刷適性を向上させることができる。
【0015】
当該板紙においては、上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が30質量%以上40質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で0.5kg/パルプt以上1.0kg/パルプt以下であり、上記表層の坪量が40g/m2以上50g/m2以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が20質量%以上30質量%以下であることが好ましい。当該板紙の表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が30質量%以上40質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で0.5kg/パルプt以上1.0kg/パルプt以下であり、さらに、上記表層の坪量が40g/m2以上50g/m2以下であることで、より罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる。
【0016】
JIS-P8220(1998)に準拠して離解した表層の離解パルプのフリーネスが300ml以上450ml以下であることが好ましい。当該板紙の離解パルプのフリーネスが300ml以上450ml以下であることで、当該板紙は比破裂強度を向上できる。離解パルプのフリーネスは、JIS-P8220-1(2012)のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS-P8121-2(2012)のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定される。
【0017】
裏層が段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上25質量%以下であり、裏層の離解パルプのフリーネスが400ml以上550ml以下であることが好ましい。裏層が段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上25質量%以下であり、裏層の離解パルプのフリーネスが400ml以上550ml以下であることで、古紙パルプの再利用を図りつつ、バキューム適性及び比破裂強度を向上できる。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<板紙>
本発明の実施形態に係る板紙は、少なくとも表層、中層及び裏層をこの順に備える。また、当該板紙は、上記中層と上記裏層との間に単層又は複数の層を備えていてもよい。すなわち、当該板紙は、少なくとも3層以上の多層紙であればよく、4層以上の多層紙である場合、上記中層と上記裏層との間に第2の中層を備える構成や、上記中層と上記裏層との間に第2の裏層を備える構成であることが好ましい。このように、中層、裏層又はこれらの組み合わせを多層構造とすることが好ましく、このような構造とすることにより、当該板紙は紙層の柔軟性を高め、強度のみならず製函適性の向上を図ることができる。
【0020】
[表層]
上記表層は、広葉樹未晒クラフトパルプを含有する。
【0021】
広葉樹未晒クラフトパルプとは、広葉樹に由来する未晒のクラフトパルプである。クラフトパルプとは、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを主成分とするアルカリ性薬剤を用いて木材から得られたパルプである。
【0022】
上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量の下限としては、20質量%であり、30質量%が好ましい。段ボール用の梱包材として最表面側に位置する表層の広葉樹未晒クラフトパルプの含有量を20質量%以上とし、含有割合を高めることで、印刷適性を良好にできる。表層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量の上限としては、50質量%であり、40質量%が好ましい。表層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が50%以下とすることで、罫線割れ抑制性を良好にできる。
【0023】
JIS-P8220(1998)に準拠して離解した表層の離解パルプのフリーネスが300ml以上450ml以下であることが好ましい。当該板紙の離解パルプのフリーネスが300ml以上450ml以下であることで、当該板紙は比破裂強度を向上できる。離解パルプのフリーネスは、JIS-P8220-1(2012)のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS-P8121-2(2012)のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定される。
【0024】
[中層]
上記中層は、広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有する。
【0025】
段ボール古紙パルプは、公益社団法人古紙再生促進センターで定義する「事業所、家庭、市中等より発生する段ボール古紙」及び「製函工場から発生する段ボールの裁落及び損紙である新段ボール古紙」から得られた古紙パルプである。また、雑誌古紙パルプとは、公益社団法人古紙再生促進センターで定義する「家庭、会社及び官公庁等より発生する雑誌、書籍及び返本・残本(印刷冊子を含む)、取扱説明書、小冊子(パンフレット、カタログ、案内書など本の形をしたもの)を加えた綴じられたもの等の雑誌古紙」から得られた古紙パルプである。
【0026】
中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量の上限としては35質量%である。上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量の含有量の下限としては、10質量%である。上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量としては、10質量%以上35質量%以下であることで、段ボール古紙パルプの含有量を高め、古紙パルプの再利用を図りつつ、破裂強度を向上できる。
【0027】
中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、上記中層における上記雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であることで、古紙パルプの再利用を図りつつ、罫線割れ抑制性及びバキューム適性を向上できる。
【0028】
[裏層]
裏層は、裏層が段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有することが好ましい。段ボール用の梱包材として最裏面側に位置する裏層の原料パルプとして、段ボール古紙パルプと、雑誌古紙パルプとの併用を図ることで、良好な貼合性を備えつつ、バキューム適性及び比破裂強度を向上できる。さらに、裏層の原料パルプとして段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを用いることで、古紙パルプの再利用を図ることができる。
【0029】
裏面における雑誌古紙パルプの含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15がより好ましい。上記雑誌古紙パルプの含有量の含有量の上限としては、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。当該板紙は、梱包材として最裏面側に位置する裏層の原料パルプとして上記雑誌古紙パルプの含有量を上記範囲にすることで、雑誌古紙パルプの利用促進を図りつつ、板紙に要求される製函適性を向上できる。
【0030】
裏層の離解パルプのフリーネスが400ml以上550ml以下であることが好ましく、440ml以上520ml以下であることがより好ましい。上記裏層の離解パルプのフリーネスを上記範囲とすることで、比破裂強度を向上できる。
【0031】
なお、当該板紙の各層は、上記広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプ以外にその他のパルプとして、例えば茶古紙、クラフト封筒古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ等を用いることができる。また、必要に応じて、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、晒ケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプを用いてもよい。
【0032】
[添加剤]
(紙力増強剤)
当該板紙は、各層に紙力増強剤を添加することが好ましい。紙力増強剤を添加することで、古紙の再生処理により疲弊した古紙パルプと、比較的細く短いパルプ繊維からなる広葉樹未晒クラフトパルプの繊維間の結合が強められるので、比破裂強度をより向上できる。
【0033】
紙力増強剤としては、澱粉系紙力増強剤、アクリルアミド系紙力増強剤、ビニルアルコール系紙力増強剤、アミドエポキシ系紙力増強剤などが挙げられ、これらの中でもアクリルアミド系紙力増強剤が好ましい。より好ましくは両性のポリアクリルアミド樹脂系の紙力増強剤が好ましい。両性のポリアクリルアミドはカチオンモノマー、アニオンモノマーをアクリルアミドと重合したものであり、自らのカチオン基を介して、パルプ繊維に直接定着する。また、両性のポリアクリルアミド樹脂系の紙力増強剤の特徴として分子構造、分子量をコントロールできる点がある。また、両性澱粉を更に加えることにより、各層の紙質強度が増強され、高い耐衝撃性の板紙を得ることができる。
【0034】
表層の紙力増強剤の添加量としては、0であってもよいが、固形分換算で0.5kg/パルプt以上が好ましく、0.8kg/パルプt以上がより好ましい。また、表層の紙力増強剤の添加量の上限としては、固形分換算で2.0kg/パルプtであり、1.0kg/パルプtが好ましい。表層の紙力増強剤の添加量を上記範囲とすることで、紙力増強剤による当該板紙の柔軟性低下を抑制しつつ、罫線割れ等の表層の破断を抑制できる。
【0035】
当該板紙においては、上記表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が30質量%以上40質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で0.5kg/パルプt以上1.0kg/パルプt以下であり、上記表層の坪量が40g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。当該板紙の表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、上記表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で0.5kg/パルプt以上1.0kg/パルプt以下であり、上記表層の坪量が40g/m2以上50g/m2以下であることで、より罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる。
【0036】
中層の紙力増強剤の添加量の下限としては、固形分換算で2.0kg/パルプtが好ましく、3.0kg/パルプtがより好ましい。また、中層の紙力増強剤の添加量の上限としては、固形分換算で10.0kg/パルプtが好ましく、7.5kg/パルプtがより好ましい。各層の紙力増強剤の添加量を上記範囲とすることで、紙力増強剤による当該板紙の柔軟性低下を抑制しつつ、罫線割れ等の表層の破断をより抑制できる。
【0037】
裏層の紙力増強剤の添加量の下限としては、固形分換算で0.2kg/パルプtが好ましく、0.4kg/パルプtがより好ましい。また、裏層の紙力増強剤の添加量の上限としては、固形分換算で8.0kg/パルプtが好ましく、4.0kg/パルプtがより好ましい。裏層の紙力増強剤の添加量を上記範囲とすることで、当該板紙の柔軟性を担保しつつ比破裂強度をより向上できる。
【0038】
板紙全体の紙力増強剤の添加量の下限としては、固形分換算で0.55kg/パルプtが好ましく、1.05kg/パルプtがより好ましい。また、板紙全体の紙力増強剤の添加量の上限としては、固形分換算で7.15kg/パルプtが好ましく、4.10kg/パルプtがより好ましい。板紙全体の紙力増強剤の添加量を上記範囲とすることで、当該板紙の柔軟性を担保しつつ比破裂強度を向上できる。なお、板紙全体の紙力増強剤の添加量は、各層の米坪に対して添加量を加重平均することにより算出する。
【0039】
(その他の添加剤)
本発明においては、表層、中層、裏層等の各層からなる板紙に、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種製紙用添加剤を含有させてもよい。例えば、サイズ剤、歩留まり向上剤、顔料分散剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、蛍光消去剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、硫酸バンド等の薬品定着剤、ポリアミド、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料、塩基性染料、酸性染料、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料などの公知の添加剤を単独又は2種以上を併用して添加することができる。
【0040】
[板紙の特性]
(坪量)
坪量は、JIS-P8124(2011)に準拠して測定される。本発明の更なる好ましい形態においては、板紙の全体の坪量は、120.0g/m2から350.0g/m2であることが好ましく、120.0g/m2から280.0g/m2であることがより好ましい。また、板紙を構成する表層の坪量は、30.0g/m2から70.0g/m2であることが好ましく、35.0g/m2から60.0g/m2であることがより好ましい。中層の坪量は、30.0g/m2から70.0g/m2であることが好ましく、40.0g/m2から60.0g/m2であることがより好ましい。裏層の坪量は、表層、中層の米坪を設定後、所定の米坪となるように調整することが好ましいが、60.0g/m2から210.0g/m2であることが好ましく、45.0g/m2から230.0g/m2であることがより好ましい。本発明の板紙においては、全体の坪量を上記範囲内とすることにより、製函時の成形性を良好にすることができる。
【0041】
当該板紙の総坪量に対する表層の坪量の割合の下限としては、12%であり、14%が好ましい。また、上記総坪量に対する上記表層の坪量の割合の上限としては、28%であり、26%が好ましい。上記表層の坪量の割合が上記範囲であることで、比破裂強度を保持しつつ、当該板紙の柔軟性とクッション性を担保できる。
【0042】
上記中層の坪量に対する上記表層の坪量の割合が65%以上125%以下であることが好ましい。上記中層の坪量に対する上記表層の坪量の割合が65%以上125%以下であることで、当該板紙は、段ボール用途に求められる強度を確保しながら印刷適性を向上させることができる。
【0043】
(比破裂強度)
比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に規定されている。比破裂強度は、上記JIS-P8131(2009)に準拠して測定されるキロパスカル(kPa)単位で表した紙の破裂強さを上記坪量で除した値である。当該板紙の比破裂強度の下限としては、2.70kPa・m2/gが好ましく、2.85kPa・m2/gがより好ましい。上記比破裂強度が上記範囲であることで、当該板紙は、搬送時等における耐衝撃性を向上できる。
【0044】
[板紙の製造方法]
当該板紙の製造方法は、特に限定されないが、例えば叩解工程と、抄紙工程と、塗工工程と、乾燥工程とを備える。
【0045】
(叩解工程)
叩解工程では、各層を構成する原料パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する。上記原料パルプは、広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプ又はこれらの組み合わせを含有する。始めに、パルプ繊維を水に分散させて得たスラリーに、各紙層に対応した添加剤を必要に応じ添加して混合し、各紙層の紙料を調製する。
【0046】
(抄紙工程)
次に、これらの原料スラリーを用いて、板紙のpHが6以上8以下になるように中性域で抄紙機にて抄紙する。上記抄紙工程では、走行するワイヤー上に噴出させたパルプ原料を抄紙する抄紙機を用いて原料パルプを抄紙する。抄紙機は特に限定されるものではなく、公知の抄紙機、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機を使用することができ、3層以上の多層で抄紙される。
【0047】
(塗工工程)
上記表層及び裏層においては、塗工液を塗工する工程を備えることが好ましい。塗工工程では、公知の塗工機を用いることができる。
【0048】
(乾燥工程)
次に、ドライヤーシリンダーにて紙を乾燥する。
【0049】
最後にリールに巻き取り、板紙を得る。
【0050】
当該板紙の製造方法は上記工程を備え、当該板紙の製造方法により製造される板紙において、表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有し、中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、表層および上記中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量と、中層における段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプの含有量とが上記範囲であることで、広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できる板紙を製造できる。
【0051】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
表層、中層及び裏層の各パルプスラリー中に、表に記載の原料を添加した。
添加剤のアクリルアミド系紙力増強剤として、ハリマ化成社の「ハーマイドRB-520」:両イオン性ポリアクリルアミド(固形分20%)を用いた。
【0054】
[実施例2~実施例8及び比較例1~比較例10]
原料の種類、添加量及び物性値を表1~表3に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例8及び比較例1~比較例10の板紙を得た。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
[評価]
得られた各板紙に対して、下記方法にて評価した。評価結果を表4に示す。
(1)坪量(g/m2)
JIS-P8142(1998)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した。
(2)見栄え、異物感及び地合評価
市販のJIS-LBグレードのライナー原紙と比較した地合のなめらかさ及び夾雑物(白黒や赤色の異物欠点)の発生度合いを目視判断し、総合的に3段階評価した。
評価基準を下記に示す。A及びBの場合、合格とする。
A:市販品より地合がなめらかで夾雑物も少なく、見栄えに優れている。
B:地合のなめらかさに劣るが夾雑物は少なく、ユーザーの嗜好によって評価が分かれる。
C:地合のなめらかさの悪化や夾雑物の発生個数が許容範囲を超えており、使用に耐えられないレベル
(3)罫線割れ抑制性
罫線割れ抑制性は、下記の方法を用いて4段階評価した。
JIS-P8115(2001)に記載の「紙及び板紙-耐折強さ試験方法-MIT試験機法」に準じて、20回折り曲げた際の紙の割れ度合いで評価した。
評価基準を下記に示す。A、B及びCの場合、合格とする。
A:折り目で原紙の割れは確認できず、罫線割れ適性に優れている。
B:折り目で原紙の毛羽立ちが見られるが層の破断には至らず、罫線割れ適性に問題はない。
C:折り目で原紙の毛羽立ちが見られ、破断している層が1層見られるが、実用レベルにはある。
D:折り目で原紙の毛羽立ちが見られ、破断している層が複数層見られ、実用に適さない。
(3)印刷適性
印刷適性は、下記の方法を用いて評価した。
松尾産業社製フレキシプルーフ100にて200線のアニロックスロールを想定し、ベタ印刷した。印刷評価として、目視でインキのカスレ状態を4段階評価した。
評価基準を下記に示す。A及びBの場合、合格とする。
A:印刷部にカスレや濃淡差は見られず、印刷適性に優れている
B:印刷部にカスレは見られないが、一部濃淡差が見られるが、印刷適性に問題はない
C:印刷部の一部にカスレ・濃淡差が見られるが、実用レベルにはある
D:印刷部の40%以上でカスレており、実用に適さない
(4)低圧透気度
JIS-P8117”紙及び板紙-透気度及び透気抵抗度試験法(中間領域)-ガーレー法”に準拠して測定した。
(5)バキューム適性(バキューム搬送における適性)
バキューム適性は、低圧透気度の値及び目視による地合評価を基に総合的に3段階で判断した。
評価基準を下記に示す。A及びBの場合、合格とする。
A:重量物を梱包した荷扱い時のバキューム搬送に問題ないレベルである。
B:荷扱い時のバキューム搬送に問題ないレベルである。
C:C荷扱い時のバキューム搬送に問題があり、補助やライン変更が必要なレベルである。
(6)比破裂強度
比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に準拠して測定した。比破裂強度は、上記JIS-P8131(2009)に準拠して測定されるキロパスカル(kPa)単位で表した紙の破裂強さを上記坪量で除した。上記比破裂強度は、通常の恒室条件、具体的には23℃±1℃、50%±2%RHで測定した。
(7)破裂強度性能
JIS-P8131”板紙-破裂強さ試験方法”に則り測定JIS-P8131”板紙-破裂強さ試験方法”に準拠して測定した。JIS-LBはジャンボロール全幅の平均値で規定される。下記の3段階で評価した。A及びBの場合、合格とする。
評価基準を下記に示す。
A:JIS-LB210の規格を充分に満たしている。
B:JIS-LB210の規格を満たしているが、一部を抜き出して測定すると規格値未満の数値が出るレベルである。
C:JIS-LB210の規格を満たしていない。
【0059】
【0060】
上記表4に示されるように、表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%以上50質量%以下であり、表層における紙力増強剤の含有量が固形分換算で2.0kg/パルプt以下であり、中層が広葉樹未晒クラフトパルプ、段ボール古紙パルプ及び雑誌古紙パルプを含有し、中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%以上35質量%以下であり、中層における雑誌古紙パルプの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、中層における広葉樹未晒クラフトパルプ及び雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%以下であり、総坪量に対する表層の坪量の割合が12%以上28%以下である実施例1~実施例8は、見栄え、異物感、地合の評価、罫線割れ抑制性、印刷適性、バキューム適性及び破裂強度のいずれも良好であった。
【0061】
一方、表層における紙力増強剤の含有量が2.0kg/パルプtを超える比較例1は、罫線割れ抑制効果及び印刷適性が劣っていた。
表層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有せず、中層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%未満の比較例2は、見栄え、異物感及び地合評価並びに印刷適性が劣っていた。
表層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が50質量%を超える比較例3は、罫線割れ抑制効果及びバキューム適性が劣っていた。
中層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が35質量%以下を超える比較例4は、罫線割れ抑制効果が劣っていた。
中層が広葉樹未晒クラフトパルプを含有しない比較例5は、印刷適性が劣っていた。
表層における上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が20質量%未満の比較例6は、印刷適性が劣っていた。
中層における広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が10質量%未満の比較例7は、印刷適性が劣っていた。
総坪量に対する上記表層の坪量の割合が12%未満である比較例8は、印刷適性が劣るとともに、板紙の地合ムラがあることにより透気度についても測定値の変動が大きくなる結果、部分的にバキューム適性が低下した。
総坪量に対する上記表層の坪量の割合が29%以上の比較例9は、見栄え、異物感及び地合評価並びに破裂強度性能が劣っていた。
中層における上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び上記雑誌古紙パルプの合計含有量が50質量%を超える比較例10は、罫線割れ抑制効果が劣るとともに、板紙の地合ムラがあることにより透気度についても測定値の変動が大きくなる結果、部分的にバキューム適性が低下した。
【0062】
以上の結果、当該板紙は、広葉樹未晒パルプ及び古紙パルプの利用を図りつつ、罫線割れ抑制性、印刷適性及びバキューム適性を向上できることが示された。
当該板紙は、梱包用包装容器に用いられる段ボールシートや包装袋、固体保存用の容器用のライナーとして好適に用いることができる。