(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127656
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20240912BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240912BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036997
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 亮太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701EA01
3J701FA15
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB26
3J701XB39
(57)【要約】
【課題】車輪用軸受装置を大型化した場合に、複列の転動体の軸方向における距離を適切な値に設定して、軸受剛性を向上させることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】
外方部材24と、内側軌道面29および車輪取付フランジ25を有するハブ輪31と、ハブ輪31に連結されて外径に内側軌道面30を有する内輪28と、から構成される内方部材と、それぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の鋼球32と、を備えた車輪用軸受装置であって、側面断面視において、アウター側の鋼球の接触角をθ1、インナー側の鋼球の接触角をθ2とし、アウター側の鋼球中心から延びる接触角θ1方向の仮想直線L1と車体取付用フランジ23のアウター側根元部43との間の距離fがf>0、かつ、インナー側の鋼球中心から延びる接触角θ2方向の仮想直線L2と車体取付用フランジ23のインナー側根元部44との間の距離gがg>0となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に設けられた複列の外側軌道面と、車体に取り付けるための車体取付用フランジと、を有する外方部材と、
内側軌道面および車輪取付フランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結されて外径に内側軌道面を有する軌道面形成部材と、から構成される内方部材と、
前記内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の鋼球と、を備えた車輪用軸受装置であって、
鋼球径eと鋼球間中心距離jの関係が0.20e<j-e<0.53eとなり、
側面断面視において、アウター側の鋼球の接触角をθ1、インナー側の鋼球の接触角をθ2とし、アウター側の鋼球中心から延びる前記接触角θ1方向の仮想直線L1と前記車体取付フランジのアウター側根元部との間の距離fがf>0、かつ、インナー側の鋼球中心から延びる前記接触角θ2方向の仮想直線L2と前記車体取付フランジのインナー側根元部との間の距離gがg>0となる、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記内方部材は、車輪に取り付けるための車輪取付フランジを有し、
前記車輪取付フランジ端面からインナー側鋼球中心の距離aと前記車輪取付フランジ端面から前記車体取付用フランジのインナー側端面の距離bとの関係がa>bかつ、前記車輪取付フランジ端面から前記車体取付用フランジのアウター側端面の距離cと前記車輪取付フランジ端面からアウター側鋼球中心の距離dとの関係がc>dとなる、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記各鋼球中心から延びる接触角θ1方向の直線および接触角θ2方向の直線の交点は、前記車体取付用フランジのボルト取付孔の内径側端部よりも外径側に存在する、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外方部材の前記ボルト取付孔中心が反路面側を基準とし、-30°~+30°の間に一つ以上設けられる、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に転動部材が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
このような転がり軸受構造を備えた車輪用軸受装置において、内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体を備えた転がり軸受構造が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。複列の転動体は軸方向において一定の距離を離間して配置される。車輪用軸受装置の長寿命化を図る手段の一つとして複列の転動体の軸方向における距離および各転動体のピッチ円直径を大きくすることにより剛性の向上を図っていた。しかしながら、このような構造では、車輪用軸受装置全体の寸法が大型化せざるを得なくなる。
【0004】
例えばピッチ円直径が転動体である鋼球径の6倍より大きい構成の車輪用軸受装置が公知となっている(例えば、特許文献2参照)。このように構成することにより、スパンを減少させることなく、車輪用軸受装置の軸受剛性の低下を防止する。しかし、鋼球径の大径化に伴い、車輪用軸受装置全体の寸法が大型化せざるを得なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-108449号公報
【特許文献2】米国特許第07413349号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、近年、EV車の普及が進んでいる。EV車はバッテリーを搭載しており、車両質量が増加しやすい傾向にあるため、車輪用軸受装置の軸受剛性を向上させる必要がある。また、EVのモータ駆動に起因するトルク増加によって、等速ジョイントのスプラインサイズが大型化するのに伴い、車輪用軸受装置においては、転動輪のピッチ円径が大径化して重量が増加していた。
【0007】
車輪用軸受装置の重量増加を抑制するために、複列の転動体の軸方向における距離を小さくすることが考えられる。また、車両重量が増加すると、車体取付用フランジに係る旋回荷重が大きくなり、車体取付用フランジを厚肉化する必要が生じるが、重量増加を抑制する観点から厚肉化には限界があった。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、車輪用軸受装置を大型化した場合に、複列の転動体の軸方向における距離を適切な値に設定して、軸受剛性を向上させることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、内周に設けられた複列の外側軌道面と、車体に取り付けるための車体取付用フランジと、を有する外方部材と、
外周に複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の鋼球と、を備えた車輪用軸受装置であって、
鋼球径eと鋼球間中心距離jの関係が0.20e<j-e<0.53eとなり、
側面断面視において、アウター側の鋼球の接触角をθ1、インナー側の鋼球の接触角をθ2とし、アウター側の鋼球中心から延びる前記接触角θ1方向の仮想直線L1と前記車体取付フランジのアウター側根元部との間の距離fがf>0、かつ、インナー側の鋼球中心から延びる前記接触角θ2方向の仮想直線L2と前記車体取付フランジのインナー側根元部との間の距離gがg>0となるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋼球間中心距離を接近させて、かつ、軸受からの荷重が最もかかる接触角方向の外方部材の肉厚を増加させることができるので、軸方向の転動体間距離を適切な値に設定しつつ軸受剛性を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態における各部材間の距離を示す断面一部拡大図。
【
図3】車輪用軸受装置の第一実施形態における外方部材を示す側面図。
【
図4】第二実施形態における車輪用軸受装置を示す上部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、
図1を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0013】
図1は、軸受中心軸を含む仮想平面(アキシアル平面)における車輪用軸受装置1の断面を示す。
図1に示す実施形態の車輪用軸受装置1は、内周に複列の軌道面21、22を一体に設け、外周に車体取付用フランジ23を一体に有する外方部材24と、一端に車輪取付フランジ25、他端に円筒状小径段部26を設け、その小径段部26の外径に内輪28を圧入して、圧入した内輪28に外方部材24の軌道面22に対向する軌道面30を形成したハブ輪31と、外方部材24とハブ輪31のそれぞれの軌道面間に介在する複列の転動体である鋼球32と、ハブ輪31と外方部材24との間に介在し、複列の転動体である複数の鋼球32を各列に円周方向等間隔に支持する保持器33と、を備える。内方部材は、ハブ輪31と内輪28とによって構成されている。また、アウター側の外側軌道面21と対向する軌道面29をハブ輪31の外径に直接形成した構造を有する。
【0014】
内輪28と外方部材24の両端には、外部からの異物の侵入や内部に充填したグリースの漏出を防止するためにインナー側シール部材35およびアウター側シール部材36を装着している。ハブ輪31の車輪取付フランジ25の円周方向等間隔位置に車輪ホイールを固定するためのハブボルト37が取り付けられている。また、外方部材24の車体取付用フランジ23には、ナックル(図示せず)を介して車体の懸架装置が取り付けられている。
【0015】
ハブ輪31は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪31は、略円筒状に形成され、例えば、S53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪31のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部26が設けられている。ハブ輪31のアウター側端部には車輪取付フランジ25が一体的に設けられている。
【0016】
内輪28は、ハブ輪31の小径段部26に圧入されている。内輪28の外周面には、軌道面30が設けられている。内輪28は、ハブ輪31のインナー側端が径方向の外側に向かって塑性変形(加締め)されている。つまり、ハブ輪31のインナー側には、内輪28によって内側軌道面30が構成されている。ハブ輪31は、インナー側端部の内輪28に設けられている軌道面30が外方部材24のインナー側の軌道面22に対向し、アウター側に設けられている軌道面29が外方部材24のアウター側の外側軌道面21に対向している。
【0017】
転動体である複数の鋼球32は、保持器33によって保持されることにより構成されている。インナー側の鋼球32の列は、内輪28の軌道面30と、外方部材24のインナー側の軌道面22との間に転動自在に挟まれている。アウター側の鋼球32の列は、ハブ輪31の軌道面29と、外方部材24のアウター側の外側軌道面21との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側の鋼球32の列とアウター側の鋼球32の列とは、外方部材24と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。外方部材24は、インナー側の鋼球32の列およびアウター側の鋼球32の列を介してハブ輪31および内輪28を回転可能に支持している。
【0018】
次に、
図2を用いて各部材間の距離について説明する。
図2は、軸受中心軸を含む仮想平面(アキシアル平面)における車輪用軸受装置1の一部断面を示す。
図2に示すように、インナー側の鋼球32の列と、アウター側の鋼球32の列とは、軸方向において並列に配置されている。
図2に示すように、車輪取付フランジ25のアウター側端面を基準とした各部材との距離を定義する。車輪取付フランジ25のアウター側端面からインナー側の鋼球32中心との距離をaとする。また、車輪取付フランジ25のアウター側端面から車体取付用フランジ23のインナー側端面との距離をbとする。また、車輪取付フランジ25のアウター側端面から車体取付用フランジ23のアウター側端面との距離をcとする。また、車輪取付フランジ25のアウター側端面からアウター側の鋼球32中心との距離をdとする。また鋼球32の直径である鋼球径はeと定義する。
【0019】
ここで、鋼球32中心間の軸方向における距離をjとすると、鋼球間中心距離jは、aとdとの差となる。鋼球間中心距離jから鋼球径eを減算すると、インナー側の鋼球32の軸方向におけるアウター側端部の位置からアウター側の鋼球32の軸方向におけるインナー側端部の位置までの長さが算出される。当該長さが短ければ短いほど車輪用軸受装置1自体の軸方向の幅が狭まる。一方で、当該長さが短すぎると保持器33のリング部41の軸方向の厚みを十分にとることができず、軸受運転時に保持器33の強度が不足して破断する可能性があった。
【0020】
そこで、本実施形態においては、鋼球径eと鋼球間中心距離jの関係が0.20e<j-e<0.53eが望ましい。このように構成することにより、車輪用軸受装置1自体の軸方向の幅を狭めつつ、軸受運転時の保持器33の強度を確保することができる。
【0021】
また、車輪取付フランジ25端面からインナー側鋼球32中心の距離aと車輪取付フランジ25端面から車体取付用フランジ23のインナー側端面の距離bとの関係がa>bとなるのが好ましい。a>bとなることで、インナー側の鋼球32中心よりもアウター側に車体取付用フランジ23が位置することとなり、インナー側の仮想直線L2の延びる方向において、外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受からの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。
【0022】
また、車輪取付フランジ25のアウター側端面から車体取付用フランジ23のアウター側端面との距離cと車輪取付フランジ25のアウター側端面からアウター側の鋼球32中心との距離dとの関係が、c>dとなるのが好ましい。c>dとなることで、アウター側の鋼球32中心よりもインナー側に車体取付用フランジ23が位置することとなり、アウター側の仮想直線L1の延びる方向において、外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受からの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。
【0023】
アウター側の仮想直線L1について説明する。アウター側の鋼球32は、モーメント荷重などに対応するため、ハブ輪31および外方部材24との接触角θ1を有する玉軸受としている。転動体接触角θ1は、30°以上45°以下であるのが好ましい。
【0024】
仮想直線L1は転動体接触角θ1方向の直線であって、インナー側へ向かうにしたがって外径側へ延びる直線である。ここで、転動体接触角θ1とは、軸受中心軸に直交する仮想平面(ラジアル平面)に対して、アウター側の軌道面21、29によって鋼球32へ伝達される力の作用方向がなす角度を意味する。側面断面視において、アウター側の鋼球中心から延びる接触角θ1方向の仮想直線L1と車体取付用フランジ23のアウター側根元部43との間の距離をfとする。ここで、側面断面視とは、
図2に示す拡大断面図において車輪用軸受装置1を見た状態を意味する。アウター側根元部43は、車体取付用フランジ23のアウター側端面23bと外方部材24の外周面24aとが交わる箇所である。距離fは、アウター側根本部43の湾曲形状の接線であって、θ1に対して平行な線と仮想直線L1との間の距離である。なお、距離fは、アウター側根本部43からインナー側に引かれる場合を正とする。
【0025】
本実施形態においては、距離fはf>0となるのが望ましい。すなわち、アウター側根本部43の湾曲形状の接線からインナー側に仮想直線L1が存在することが望ましい。このように構成することにより、軸受からの荷重が最もかかる接触角方向の外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受からの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。
【0026】
次に、インナー側の仮想直線L2について説明する。インナー側の鋼球32は、モーメント荷重などに対応するため、ハブ輪31および外方部材24との接触角θ2を有する玉軸受としている。転動体接触角θ2は、30°以上45°以下であるのが好ましい。
【0027】
仮想直線L2は転動体接触角θ2方向の直線であって、アウター側へ向かうにしたがって外径側へ延びる直線である。ここで、転動体接触角θ2とは、軸受中心軸に直交する仮想平面(ラジアル平面)に対して、インナー側の軌道面22、30によって鋼球32へ伝達される力の作用方向がなす角度を意味する。側面断面視において、インナー側の鋼球中心から延びる接触角θ2方向の仮想直線L2と車体取付用フランジ23のインナー側根元部との間の距離をgとする。ここで、側面断面視とは、
図2に示す拡大断面図において車輪用軸受装置1を見た状態を意味する。インナー側根元部44は、車体取付用フランジ23のインナー側端面23cと外方部材24の外周面24bとが交わる箇所である。距離gは、インナー側根本部44の湾曲形状の接線であって、θ2に対して平行な線と仮想直線L2との間の距離である。なお、距離gは、インナー側根本部44からアウター側に引かれる場合を正とする。
【0028】
本実施形態においては、距離gはg>0となるのが望ましい。すなわち、インナー側根本部44の湾曲形状の接線からアウター側に仮想直線L2が存在することが望ましい。このように構成することにより、軸受からの荷重が最もかかる接触角方向の外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受けからの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。
【0029】
また、車輪取付フランジ25のアウター側端面からインナー側の鋼球32中心との距離aは、車輪取付フランジ25のアウター側端面から車体取付用フランジ23のインナー側端面との距離bよりも大きくなることが望ましい。このように構成することにより、転動体荷重を受ける部分がより肉厚となり、剛性向上の効果が顕著となる。
【0030】
また、車輪取付フランジ25のアウター側端面から車体取付用フランジ23のアウター側端面との距離cは、車輪取付フランジ25のアウター側端面からアウター側の鋼球32中心との距離dよりも大きくなることが望ましい。このように構成することにより、転動体荷重を受ける部分がより肉厚となり、剛性向上の効果が顕著となる。
【0031】
また、仮想直線L1および仮想直線L2の交点をP1とする。車体取付用フランジ23には、ボルトを取り付けるためのボルト取付孔23aが設けられている。ボルト取付孔23aにボルトを取り付けた場合のボルトの内径側端部から交点P1までの距離をhとする。距離hは、内径側の方向を負とする。
【0032】
本実施形態においては、距離hはh>0となるのが望ましい。すなわち交点P1は、ボルト取付孔23aの内径側端部よりも外径側に存在する。このように構成することにより、車体取付用フランジ23の腕長さが必然的に短くなる。車体取付用フランジ23の腕長さとは、
図3に示されるボルト取付孔23aの設けられた突出部の外径方向への長さである。これにより、取付箇所が軸中心に近い位置となり、取付箇所にかかるモーメントを減少させることができるので、外方部材24の軸受剛性向上の効果が顕著となる。
【0033】
また、
図3に示すように車体取付用フランジ23において、ボルト取付孔23aは軸方向視において軸心を中心とした同心円状に複数個所配置されている。このボルト取付孔23aの一つの取付中心が路面と反対側を0度とし、0度を基準とした場合に、基準から円周方向において-30°~+30°の間に配置されることが望ましい。このように構成することにより、軸受からの荷重がかかりやすい上方に厚肉部である車体取付用フランジ23を設けるので剛性向上の効果が顕著となる。
【0034】
以上のように、内周に設けられた複列の外側軌道面21、22と、車体に取り付けるための車体取付用フランジ23と、を有する外方部材24と、内側軌道面29および車輪取付フランジ25を有するハブ輪31と、ハブ輪31に連結されて外径に内側軌道面30を有する内輪28と、から構成される内方部材と、内方部材と外方部材24のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の鋼球32と、を備えた車輪用軸受装置であって、鋼球径eと鋼球間中心距離jの関係が0.20e<j-e<0.53eとなり、側面断面視において、アウター側の鋼球の接触角をθ1、インナー側の鋼球の接触角をθ2とし、アウター側の鋼球中心から延びる接触角θ1方向の仮想直線L1と最も近い外方部材表面との距離fがf>0、かつ、インナー側の鋼球中心から延びる接触角θ2方向の仮想直線L2と最も近い外方部材表面との距離gがg>0となるものである。
【0035】
このように構成することにより、車輪用軸受装置1自体の軸方向の幅を狭めつつ、軸受運転時の保持器33の強度を確保することができる。
【0036】
またハブ輪31は、車輪に取り付けるための車輪取付フランジ25を有し、車輪取付フランジ25端面からインナー側鋼球32中心の距離aと車輪取付フランジ25端面から車体取付用フランジ23のインナー側端面の距離bとの関係がa>bかつ、車輪取付フランジ25端面から車体取付用フランジ23のアウター側端面の距離cと車輪取付フランジ25端面からアウター側鋼球32中心の距離dとの関係がc>dとなることが好ましい。
【0037】
このように構成することにより、インナー側の鋼球32中心よりもアウター側に車体取付用フランジ23が位置することとなり、インナー側の仮想直線L2の延びる方向において、外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受からの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。また、アウター側の鋼球32中心よりもインナー側に車体取付用フランジ23が位置することとなり、アウター側の仮想直線L1の延びる方向において、外方部材24の肉厚を厚くすることができ、当該部分で軸受からの荷重を受けることができるので外方部材24の軸受剛性が向上する。
【0038】
また、各鋼球32中心から延びる接触角θ1方向の仮想直線L1および接触角θ2方向の仮想直線L2の交点P1は、ボルト取付孔23aの内径側端部よりも外径側に存在する ことが好ましい。
このように構成することにより、車体取付用フランジ23の腕長さが必然的に短くなるので、外方部材の軸受剛性向上の効果が顕著となる。
【0039】
また、外方部材のボルト取付孔23a中心が反路面側60度以内に一つ以上設けられる。
【0040】
また、別の実施形態として、軌道面形成部材として、内輪28ではなく、外径に軌道面を有するCVJの外側継手部材61を採用してもよい。
図4に示すように、外側継手部材61の外径には軌道面22に対向する軌道面62を形成している。外側継手部材61は、ステム部63とマウス部64とからなり、軌道面62は、マウス部64のアウター側端部外径に設けられている。ステム部63の外周面とハブ輪31の内径とはスプライン嵌合によって回動不能に固定されている。
【0041】
また、ハブ輪31の車輪取付フランジ25にはボルト装着孔25bが設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこの車輪取付フランジ25に固定するためのハブボルト37がこのボルト装着孔25bに装着される。
【0042】
なお、本実施形態では、車輪用軸受装置1は、ハブ輪31の外周にアウター側の鋼球32の列の内側転走面30が形成されている第三世代構造の車輪用軸受装置1として構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明は、ハブ輪31に一対の内輪が圧入固定された第二世代構造であっても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 車輪用軸受装置
21 外側軌道面(アウター側)
22 外側軌道面(インナー側)
23 車体取付用フランジ
23a ボルト取付孔
24 外方部材
25 車輪取付フランジ
28 内輪
29 内側軌道面(アウター側)
30 内側軌道面(インナー側)
31 ハブ輪
32 鋼球(転動体)
a 車輪取付フランジのアウター側端面からインナー側の鋼球中心との距離
b 車輪取付フランジのアウター側端面から車体取付用フランジのインナー側端面との距離
c 車輪取付フランジのアウター側端面から車体取付用フランジのアウター側端面との距離
d 車輪取付フランジのアウター側端面からアウター側の鋼球中心との距離
e 鋼球径
f 仮想直線L1と外方部材の車体取付用フランジのアウター側根本部との間の距離
g 仮想直線L2と外方部材の車体取付用フランジのインナー側根本部との間の距離
L1 アウター側の仮想直線
L2 インナー側の仮想直線
θ1、θ2 接触角