(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127663
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/702 20060101AFI20240912BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240912BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240912BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K31/702
A61K8/60
A61Q19/00
A61P17/00 101
A61P17/10
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037004
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】篠原 健志
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD211
4C083AD212
4C083CC02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA90
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】 表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌によって選択的に資化され、短鎖脂肪酸の生成を促進することができる新規の剤を提供する。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の素材について検討した結果、特定のオリゴ糖が、特定の皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の生成を促進することを見出した。本発明は、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤。
【請求項2】
前記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤。
【請求項3】
グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物。
【請求項4】
前記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項3に記載の皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物を含む、皮膚に適用するための化粧料。
【請求項6】
グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を皮膚常在菌に与えることを含む、短鎖脂肪酸生成を促進する方法。
【請求項7】
前記皮膚常在菌が、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌およびコリネバクテリウムからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の短鎖脂肪酸の生成を促進する剤、組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短鎖脂肪酸は、腸内環境において優れた効果をもたらすことが知られている。短鎖脂肪酸とは、酪酸、プロピオン酸、酢酸および乳酸などの有機酸であり、腸内では腸内細菌が難消化性食物などを発酵分解することにより産生される。
【0003】
腸内で生成された短鎖脂肪酸は、腸内pHを低下させ、悪玉菌を減少させて善玉菌を増加させ、腸内細菌叢のバランスを改善することが知られている。また、短鎖脂肪酸は、腸管上皮のバリア機能を強化による病原菌の感染防止、アレルギー性炎症の改善、および腸の蠕動運動の促進にも寄与することが知られている。
【0004】
腸内環境の改善を目的として、腸内の短鎖脂肪酸を増加するための剤がいくつか報告されている。たとえば、特許文献1には、セルロース誘導体を有効成分として含む腸内短鎖脂肪酸増加剤が開示されている。また、特許文献2には、紅麹又はその加工物を含有する、腸内における短鎖脂肪酸生成促進剤が開示されている。
【0005】
このように、短鎖脂肪酸は、腸内における高い有用性が知られているものの、皮膚(肌)における有用性はほとんど知られていない。また、短鎖脂肪酸は、特有の臭いを有し、刺激性や揮発性を有することから、化粧品などへの利用は難しいと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-119222号公報
【特許文献2】特開2022-84466号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hillebrand GG et al.、“New wrinkles on wrinkling: an 8-year longitudinal study on the progression of expression lines into persistent wrinkles.”、Br J Dermatol.、 2010年(Jun)、162巻(6)、p.1223-41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、短鎖脂肪酸の皮膚(肌)における有用性はほとんど知られていない。また、短鎖脂肪酸は、特有の臭いを有し、刺激性や揮発性を有することから、化粧品などに配合して直接皮膚に添加することは難しいという問題がある。
【0009】
皮膚には、表面および毛穴などに、善玉菌である表皮ブドウ球菌、日和見菌であるアクネ菌の他、悪玉菌である黄色ブドウ球菌などが存在する。表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌およびコリネバクテリウムなどの皮膚常在菌は、脂肪酸を生成することにより肌を弱酸性に保ち、黄色ブドウ球菌の繁殖を抑制する。そのため、表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌に資化させて効率よく短鎖脂肪酸を生成し、肌のpHを持続的に低下させることができれば、黄色ブドウ球菌等の繁殖を効果的に抑制することができる。また、皮膚のpHが低い人は、しわが少ない傾向があるという報告もある(非特許文献1)。
【0010】
しかし、多くの菌によって資化されることが可能な単糖などを用いれば、善玉菌だけでなく悪玉菌も利用できてしまい、悪玉菌の繁殖を促進してしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌によって選択的に資化され、短鎖脂肪酸の生成を促進することができる新規の剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の素材について検討した結果、特定のオリゴ糖が、特定の皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の生成を促進することを見出した。
【0013】
本発明は、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤を提供する。
【0014】
本発明はまた、上記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤を提供する。
【0015】
本発明はまた、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物を提供する。
【0016】
本発明はまた、上記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物を含む、皮膚に適用するための化粧料を提供する。
【0018】
本発明はまた、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を皮膚常在菌に与えることを含む、短鎖脂肪酸生成を促進する方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、上記皮膚常在菌が、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌およびコリネバクテリウムからなる群より選択される1種または2種以上である、短鎖脂肪酸生成を促進する方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、上記短鎖脂肪酸が、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸からなる群より選択される1種または2種以上である、短鎖脂肪酸生成を促進する方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、特定のオリゴ糖を用いて特定の表皮常在菌に資化させることにより、皮膚上に低濃度の短鎖脂肪酸を持続的に生成させることができる。皮膚上で短鎖脂肪酸を持続的に生成させると、肌のpHを持続的に低下させることができる。肌のpH低下により、肌のバリア機能向上およびしわの改善などの効果が期待できる。
【0022】
また、オリゴ糖は、栄養源として利用できる菌が限られており、単糖などの多くの菌が利用可能な糖と比較して選択性が高い。そのため、皮膚に悪い影響をもたらす悪玉菌の繁殖を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進剤を提供する。
【0024】
短鎖脂肪酸は、SCFA(Short-chain fatty acid)とも呼ばれ、炭素が鎖状につながったアルキル部分の炭素数が6以下の脂肪酸である。本発明において、短鎖脂肪酸とは、表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌によってオリゴ糖が資化されて生じる短鎖脂肪酸を意味する。短鎖脂肪酸のアルキル部分は、任意の置換基によって置換されてもよい。任意の置換基には、たとえばヒドロキシル基、ハロゲン、ケトン基、オキソ基、および炭素数1~6のアルコキシ基などが含まれる。短鎖脂肪酸には、たとえば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、イソカプロン酸、コハク酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、3-メトキシプロピオン酸、メチル酪酸およびジメチル酪酸などが含まれる。本発明により生成が促進される短鎖脂肪酸は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0025】
本明細書において「短鎖脂肪酸の生成を促進する」ことには、短鎖脂肪酸の生成量または存在量を増加させること、および短鎖脂肪酸を持続的に生成させることが含まれる。短鎖脂肪酸の生成の促進は、本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤を用いない場合と比較して、短鎖脂肪酸の生成量または存在量の増加、短鎖脂肪酸の減少の抑制、生成した短鎖脂肪酸によるpHの低下および低いpHのより長い持続などによって表されることができる。
【0026】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、特定の皮膚常在菌によって資化されることにより短鎖脂肪酸の生成を促進する。本発明において、皮膚常在菌は、皮膚に存在し、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖および/またはガラクトオリゴ糖を資化することができる菌であればよく、特に限定されないが、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌およびコリネバクテリウムからなる群より選択される1種または2種以上であることができる。
【0027】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、短鎖脂肪酸の生成を促進することにより、皮膚のpHを低下させることができる。また、本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、短鎖脂肪酸を直接皮膚に添加するのではなく、皮膚常在菌に資化させることによって短鎖脂肪酸を生成させるため、低濃度の短鎖脂肪酸を持続的に放出させることができる。したがって、本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、皮膚のpHを安全に、かつ持続的に低下させることができる。本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤を用いることにより、皮膚のpHは、好ましくは弱酸性、たとえばpH4.5~6.5、より好ましくはpH5.0~6.0に低下および維持されることができる。
【0028】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する。本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖のいずれか1つを単独で含有してもよいし、2つ以上を含有してもよい。
【0029】
グルコオリゴ糖は、α-グルカンオリゴサッカリドまたはマルトース・ショ糖縮合物とも呼ばれる、グルコースが2~6分子結合したオリゴ糖である。グルコオリゴ糖は、たとえばショ糖に酵素を作用させて得ることができる。また、グルコオリゴ糖として、たとえばSolabia社製の「BIOECOLIA」などを用いることができる。
【0030】
フルクトオリゴ糖(fructo-oligosaccharides:FOS)は、フラクトオリゴ糖とも呼ばれ、グルコースとフルクトース2~4分子とが結合したオリゴ糖である。フルクトオリゴ糖は、たとえばショ糖に酵素を作用させて得ることができる。フルクトオリゴ糖として、たとえばクルトリヒター社製の「マルチモイストCLR」などを用いることができる。
【0031】
ガラクトオリゴ糖は、4’-ガラクトシルラクトースを主成分とし、2~5糖のオリゴ糖が混在したものである。ガラクトオリゴ糖は、たとえば乳糖にβ-ガラクトシダーゼを作用させて得ることができる。ガラクトオリゴ糖として、たとえばヤクルト薬品工業社製の「オリゴメイト」などを用いることができる。
【0032】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤は、特に限定されないが、たとえば皮膚に適用される医薬組成物、医薬部外組成物および化粧料などに配合することができる。本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤が配合される医薬組成物、医薬部外組成物および化粧料は、たとえばゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬品;ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬部外品;ならびにジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、パック剤、ファンデーション、乳液、美容液、マッサージ化粧料、ハンドクリーム、ボディローションおよびボディクリームなどの化粧料であることができる。
【0033】
本発明はまた、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚の短鎖脂肪酸生成促進用組成物を提供する。本発明の短鎖脂肪酸生成促進用組成物は、皮膚に適用される医薬品、医薬部外品または化粧料に含ませることができ、たとえばゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬品;ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬部外品;ならびにジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、パック剤、ファンデーション、乳液、美容液、マッサージ化粧料、ハンドクリーム、ボディローションおよびボディクリームなどの化粧料に含ませることができる。
【0034】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進用組成物ならびにこれを含む医薬品、医薬部外品および化粧料は、所望の剤形にするための基剤および/または添加剤を含有してもよい。このような基剤および/または添加剤には、特に限定されないが、たとえば水、低級アルコールおよび多価アルコール等の水性基剤;油類、鉱物油、ワックス類、ロウ類、エステル油、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸、脂肪酸エステル高級アルコール、コレステロール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチルおよびシリコーンオイル等の油性基剤;界面活性剤、増粘剤、緩衝剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料、清涼化剤、着色剤、分散剤、流動化剤および湿潤剤等の添加剤などが含まれる。
【0035】
また、本発明の短鎖脂肪酸生成促進用組成物ならびにこれを含む医薬品、医薬部外品および化粧料は、本発明の効果を妨げない範囲で、皮膚外用組成物に通常配合される成分をさらに含有してもよい。このような成分には、特に限定されないが、たとえば抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、老化防止剤、収斂剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、美容成分、ビタミン類およびアミノ酸等が含まれる。
【0036】
本発明の短鎖脂肪酸生成促進剤および短鎖脂肪酸生成促進用組成物は、有効成分として含有するオリゴ糖が表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌によって資化されることにより、皮膚における短鎖脂肪酸の生成を促進する。本発明は、特定の皮膚常在菌による短鎖脂肪酸の生成を促進することにより、皮膚に低濃度の短鎖脂肪酸を持続的に放出させることができ、皮膚のpHを安全に、かつ持続的に低下させることができる。皮膚のpHを持続的に低下させることにより、皮膚のバリア機能の向上、肌のしわの改善、アトピー等の皮膚疾患の改善および肌あれの改善などの効果が期待できる。
【0037】
本明細書において「皮膚のバリア機能」とは、皮膚(肌)が本来備えている保護機能、すなわち水分保持機能、乾燥(水分の喪失)の防止機能、ならびにウイルス、細菌およびアレルゲン等の有害物質の生体内への侵入の防止機能などを意味する。本明細書において「改善」には、改善対象の疾患または症状の緩和および軽減、ならびに該疾患または症状の進行の抑制が含まれる。本明細書において「肌のしわの改善」には、肌のしわ形成を抑制すること、肌のしわの数または量を減少させることおよび肌のしわを目立たなくさせることなどが含まれる。
【0038】
本発明はまた、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を皮膚常在菌に与えることを含む、短鎖脂肪酸生成を促進する方法を提供する。
【0039】
本明細書において、オリゴ糖を皮膚常在菌に「与える」ことには、オリゴ糖を皮膚常在菌に接触させること、オリゴ糖を皮膚常在菌が接触可能な場所に置くこと、およびオリゴ糖を皮膚常在菌に資化させることが含まれる。
【0040】
皮膚常在菌は、皮膚に存在し、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖および/またはガラクトオリゴ糖を資化することができる菌であればよく、特に限定されないが、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌およびコリネバクテリウムからなる群より選択される1種または2種以上であることができる。
【0041】
表皮ブドウ球菌とは、スタフィロコッカス・エピデルミデス(Staphylococcus epidermidis)を指し、ブドウ球菌属に属する菌の1種であり、ヒト表皮に存在する皮膚常在菌の1つであることが知られている。アクネ菌とは、キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacteriumu acnes)を指し、キューティバクテリウム属に属する菌であり、ヒト表皮に存在する皮膚常在菌の1つであることが知られている。レンサ球菌(連鎖球菌)(Streptococcus)は、乳酸菌に分類される菌属でもあり、たとえばストレプトコッカス・インファンティス(Streptococcus infantis)などが含まれる。コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium)には、たとえばコリネバクテリウム・アミコラタム(Corynebacterium amycolatum)などが含まれる。
【0042】
本発明の方法において、オリゴ糖は、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、レンサ球菌および/またはコリネバクテリウムが存在する皮膚に与えてもよい。本明細書において、皮膚に「与える」ことには、皮膚に接触させること、皮膚に投与することおよび皮膚に塗布することが含まれる。グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖を特定の皮膚常在菌に与えることにより、オリゴ糖が皮膚常在菌に資化されて短鎖脂肪酸の生成を促進することができる。本発明において、皮膚には、ヒトの皮膚だけでなく、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマおよびサルなどの哺乳動物の皮膚が含まれる。
【0043】
本発明の方法において、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1つのオリゴ糖は、上述した短鎖脂肪酸生成促進剤または短鎖脂肪酸生成促進用組成物の形態であることができる。
【0044】
本発明の方法において、特定の皮膚常在菌が存在する皮膚にオリゴ糖を与えた場合、特定の皮膚常在菌が選択的にオリゴ糖を資化することによって短鎖脂肪酸生成が促進され、皮膚のpHを低下することができる。そのため、皮膚に存在し得る任意の悪玉菌、たとえば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびマラセチア菌(Malassezia furfur、Malassezia globosa、Malassezia restricta)などの繁殖を抑制することができる。本発明の方法は、短鎖脂肪酸を直接皮膚に添加するのではなく、皮膚常在菌にオリゴ糖を資化させることによって短鎖脂肪酸を生成させるため、低濃度の短鎖脂肪酸を持続的に放出させることができる。したがって、本発明の方法は、皮膚のpHを安全に、かつ持続的に低下させることができる。
【実施例0045】
〔実施例1〕
種々の素材について、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌による資化性を評価した。試験した素材には、表1に示すように、単糖としてグルコース(陽性対照)(富士フイルム和光純薬社製)およびフルクトース(富士フイルム和光純薬社製)、二糖としてスクロース(富士フイルム和光純薬社製)、ラクトース(富士フイルム和光純薬社製)、マルトース(富士フイルム和光純薬社製)およびラクツロース(富士フイルム和光純薬社製)、オリゴ糖(三糖以上)としてグルコオリゴ糖(ソラビア社製)、フルクトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬社製)、ガラクトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬社製)、イソマルトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬社製)およびラフィノース(日本ベクトン・ディッキンソン社製)、糖アルコールとしてソルビトール(富士フイルム和光純薬社製)、マンニトール(富士フイルム和光純薬社製)、キシリトール(富士フイルム和光純薬社製)、エリスリトール(富士フイルム和光純薬社製)およびイノシトール(東京化成工業社製)、多価アルコールとしてグリセリン(富士フイルム和光純薬社製)、1,3-BG(ダイセル社製)およびDPG(ADEKA社製)を用いた。
【0046】
上記素材の水溶液を作製し、終濃度0.3%となるように基礎培地に添加し、各素材を含む培地を作製した。この培地に表皮ブドウ球菌(独立行政法人製品評価技術基盤機構)の菌液を添加し、36℃で一定期間(48時間)培養後にpHメーター(HORIBA社製)を用いてpHを測定した。
【0047】
表1は、表皮ブドウ球菌による各素材の資化性を示す。測定されたpHが6.5以上の場合には「-」、pHが6.0以上6.4以下の場合には「(+)」、pHが5.5以上5.9以下の場合には「+」、pHが5.4以下の場合には「++」と評価した。試験素材が表皮ブドウ球菌に資化されると短鎖脂肪酸が産生し、pHが低下する。すなわち、pHの評価が「+」および「++」である場合には、資化性が高いということができる。
【0048】
【0049】
表1に示す結果から、オリゴ糖のうち、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖の資化性が高いことが確認された。すなわち、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖は、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸を産生することが示された。なお、単糖および二糖の資化性も高かったが、これらは表皮ブドウ球菌以外の菌、たとえば悪玉菌などによっても代謝されてしまい、悪玉菌などの繁殖をも促すおそれがある。一方、グルコオリゴ糖、フルクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖は、栄養源として利用できる菌が限られており、表皮ブドウ球菌などの特定の皮膚常在菌によってのみ資化されるため、悪玉菌などの繁殖を抑えることができる。