(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127664
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】皮膚のバリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240912BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20240912BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q19/00
A61K31/702
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037005
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】篠原 健志
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC372
4C083AC482
4C083AD092
4C083AD211
4C083AD212
4C083DD41
4C083EE12
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】 タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる新規の剤を提供する。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の素材について検討した結果、フルクトオリゴ糖が、表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の産生を促進することにより、皮膚のバリア機能を改善する作用を有することを見出した。本発明は、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤。
【請求項2】
フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、クローディン1発現促進剤。
【請求項3】
フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、カスパーゼ-14発現促進剤。
【請求項4】
フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の皮膚のバリア機能改善用組成物を含む、皮膚に適用するための化粧料。
【請求項6】
フルクトオリゴ糖を皮膚に与えることを含む、皮膚のバリア機能を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のバリア機能を改善する剤、組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、乾燥および異物侵入などのストレスから生体を防御するために、バリア機能を有している。皮膚の角層直下の顆粒層第二層には、細胞同士を接着させるタイトジャンクション(細胞接着装置)が存在し、角層とともに皮膚のバリア機能を担っている。タイトジャンクションが強固になると、皮膚(肌)のバリア機能が向上することが知られている。
【0003】
通常のヒト皮膚モデルでは、角層のpHは弱酸性に保たれている。これに対し、タイトジャンクションの働きが低下したヒト皮膚モデルでは、pHが中性に近づくことが報告されている。角層は、pHが弱酸性に保たれることにより作られ、その機能を発揮する。このことから、タイトジャンクションの働きが低下すると、皮膚のpHが中性に近づくことによって、角層にさまざまな異常が生じることが示唆されている。また、タイトジャンクションは、生体内の水分の流出の防御にも重要である。
【0004】
このように、皮膚のバリア機能を高めるためには、タイトジャンクションを強固にすることが有用である。
【0005】
特許文献1には、表皮のバリア機能因子として、表皮タイトジャンクション関連因子の発現を増強させる剤が開示されている。特許文献2には、細胞間接着因子の発現増大剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-149767号公報
【特許文献2】特開2022-077456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
皮膚のバリア機能を改善するために、タイトジャンクションを強固にすることができる効果の高い成分の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる新規の剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる新規の成分について検討した。本発明者らは、種々の物質について検討した結果、フルクトオリゴ糖が、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の産生を促進してpHを低下させることを見出した。実際にフルクトオリゴ糖配合化粧料を顔に連用したところ、水分蒸散量が低減し、皮膚のバリア機能を高めることが示された。
【0010】
本発明者らは、フルクトオリゴ糖が表皮ブドウ球菌によって資化されて産生される短鎖脂肪酸について検討したところ、短鎖脂肪酸がタイトジャンクションに関連するクローディン1の発現を促進することを見出した。本発明者らはまた、短鎖脂肪酸が皮膚のバリア機能に重要なカスパーゼ-14の発現を促進することを見出した。本発明者らは、これらの知見から、フルクトオリゴ糖が、表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の産生を促進することにより、皮膚のバリア機能を改善する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供する。
【0012】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、クローディン1発現促進剤を提供する。
【0013】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、カスパーゼ-14発現促進剤を提供する。
【0014】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善用組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記皮膚のバリア機能改善用組成物を含む、皮膚に適用するための化粧料を提供する。
【0016】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を皮膚に与えることを含む、皮膚のバリア機能を改善する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、フルクトオリゴ糖を用いて表皮ブドウ球菌に資化させることにより、皮膚上に短鎖脂肪酸を産生させ、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる。本発明はまた、タイトジャンクションに関連するクローディン1の発現を促進するとともに、皮膚のバリア機能に重要なカスパーゼ-14の発現を促進することができる。本発明は、フルクトオリゴ糖を表皮ブドウ球菌に資化させることによって短鎖脂肪酸を低濃度で持続的に生成させるため、皮膚のバリア機能を安全かつ持続的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】短鎖脂肪酸を三次元皮膚モデルに適用して一定期間培養した後の水分蒸散量(TEWL)を示すグラフ。
【
図2】フルクトオリゴ糖配合化粧料を2週間連用した場合の連用前後の水分蒸散量(TEWL)を示すグラフ。
【
図3】短鎖脂肪酸存在下でのクローディン1の発現量を示すグラフ。
【
図4】短鎖脂肪酸存在下での細胞生存率(MTT)を示すグラフ。
【
図5】短鎖脂肪酸存在下での炎症性サイトカインIL-1αの発現量を示すグラフ。
【
図6】短鎖脂肪酸存在下でのカスパーゼ-14の発現量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供する。
【0020】
本明細書において「皮膚のバリア機能」とは、皮膚(肌)が本来備えている保護機能を意味する。皮膚のバリア機能には、たとえば皮膚の水分保持、皮膚の乾燥(水分の喪失)の防止、ならびにウイルス、細菌およびアレルゲン等の有害物質の生体内への侵入の防止などが含まれる。「皮膚のバリア機能の改善」には、皮膚の水分量の増加もしくは維持、皮膚の水分量減少の抑制、ならびに皮膚のバリア機能低下により引き起こされる疾患または症状の改善または予防が含まれる。皮膚のバリア機能低下により引き起こされる疾患および症状には、たとえば肌荒れ、炎症、かゆみ、敏感肌、乾燥肌、シワ、たるみ、感染症、湿疹、かさつき、キメの乱れ、透明感の低下、落屑および皮膚常在菌の乱れなどが含まれる。
【0021】
本明細書において「改善」には、改善対象の疾患または症状の緩和および軽減、ならびに該疾患または症状の進行の抑制が含まれる。本明細書において「予防」には、予防対象の疾患または症状の発症の抑制および遅延が含まれる。
【0022】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、クローディン1発現促進剤を提供する。
【0023】
クローディン1は、皮膚の顆粒層第二層に存在するタイトジャンクション(細胞接着装置)の構成タンパク質の1つである。タイトジャンクションは、細胞同士を接着させることにより、皮膚のバリア機能を担っている。クローディン1の発現が促進されることにより、タイトジャンクションの機能が強化され、皮膚のバリア機能が向上する。
【0024】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、カスパーゼ-14発現促進剤を提供する。
【0025】
カスパーゼ-14(Caspase-14)は、皮膚のバリア機能および保湿機能に重要な酵素の一つである。カスパーゼ-14は、表皮のフィラグリンタンパク質を分解して天然保湿因子(NMF)を生成させ、肌の保湿機能を促進する機能を有する。また、カスパーゼ-14は、皮膚の表面にある角層の成熟を促進し、バリア機能を形成する機能を担っている。
【0026】
本明細書において、「発現を促進する」ことには、対象となるタンパク質(遺伝子)の発現の増加、発現の減少の抑制およびタンパク質量の増加などが含まれる。本発明において、「発現が促進されている」こととは、たとえば発現促進剤を用いていない状態と比較して、発現促進剤を用いた場合に、タンパク質(遺伝子)の発現量が有意に亢進していること、たとえば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上または200%以上亢進していることを意味し得る。
【0027】
フルクトオリゴ糖(fructo-oligosaccharides:FOS)は、フラクトオリゴ糖とも呼ばれ、グルコースとフルクトース2~4分子とが結合したオリゴ糖である。フルクトオリゴ糖は、たとえばショ糖に酵素を作用させて得ることができる。フルクトオリゴ糖として、たとえばCLR社製の「マルチモイストCLR」、伊藤忠精糖社製の「フラクトオリゴ糖」および日本オリゴ社製の「フラクトオリゴ糖」などを用いることができる。
【0028】
本発明の剤は、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化されることにより皮膚上に短鎖脂肪酸を産生させ、pHを低下させることができる。本発明の剤はまた、タイトジャンクションに関連するクローディン1の発現を促進するとともに、皮膚のバリア機能に重要なカスパーゼ-14の発現を促進することができる。本発明の剤は、これらの作用により、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる。また、本発明の剤は、皮膚常在菌に資化させることによって短鎖脂肪酸を低濃度で持続的に生成させるため、皮膚のバリア機能を安全かつ持続的に維持することができる。
【0029】
本発明の剤は、特に限定されないが、たとえば皮膚に適用される医薬組成物、医薬部外組成物および化粧料などに配合することができる。本発明の剤が配合される医薬組成物、医薬部外組成物および化粧料は、たとえばゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬品;ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬部外品;ならびにジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、パック剤、ファンデーション、乳液、美容液、マッサージ化粧料、ハンドクリーム、ボディローションおよびボディクリームなどの化粧料であることができる。
【0030】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善用組成物を提供する。本発明の皮膚のバリア機能改善用組成物は、皮膚に適用される医薬品、医薬部外品または化粧料に含ませることができ、たとえばゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬品;ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、貼付剤、パック剤およびエアゾール剤などの皮膚外用医薬部外品;ならびにジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、パック剤、ファンデーション、乳液、美容液、マッサージ化粧料、ハンドクリーム、ボディローションおよびボディクリームなどの化粧料に含ませることができる。
【0031】
本発明の皮膚のバリア機能改善用組成物ならびにこれを含む医薬品、医薬部外品および化粧料は、所望の剤形にするための基剤および/または添加剤を含有してもよい。このような基剤および/または添加剤には、特に限定されないが、たとえば水、低級アルコールおよび多価アルコール等の水性基剤;油類、鉱物油、ワックス類、ロウ類、エステル油、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸、脂肪酸エステル高級アルコール、コレステロール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチルおよびシリコーンオイル等の油性基剤;界面活性剤、増粘剤、緩衝剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料、清涼化剤、着色剤、分散剤、流動化剤および湿潤剤等の添加剤などが含まれる。
【0032】
また、本発明の皮膚のバリア機能改善用組成物ならびにこれを含む医薬品、医薬部外品および化粧料は、本発明の効果を妨げない範囲で、皮膚外用組成物に通常配合される成分をさらに含有してもよい。このような成分には、特に限定されないが、たとえば抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、老化防止剤、収斂剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、美容成分、ビタミン類およびアミノ酸等が含まれる。
【0033】
本発明はまた、フルクトオリゴ糖を皮膚に与えることを含む、皮膚のバリア機能を改善する方法を提供する。
【0034】
本明細書において、フルクトオリゴ糖を皮膚に「与える」ことには、フルクトオリゴ糖を皮膚に接触させること、皮膚に投与すること、皮膚に塗布すること、フルクトオリゴ糖を皮膚における表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が接触可能な場所に置くこと、およびフルクトオリゴ糖を皮膚における表皮ブドウ球菌に資化させることが含まれる。本発明において、皮膚には、ヒトの皮膚だけでなく、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマおよびサルなどの哺乳動物の皮膚が含まれる。
【0035】
本発明の方法において、フルクトオリゴ糖は、上述した剤または組成物の形態であることができる。
【0036】
本発明の方法は、表皮ブドウ球菌が存在する皮膚にフルクトオリゴ糖を与えるため、表皮ブドウ球菌にフルクトオリゴ糖を資化させることによって短鎖脂肪酸生成を促進し、皮膚のpHを低下させることができる。本発明の方法はまた、タイトジャンクションに関連するクローディン1の発現を促進するとともに、皮膚のバリア機能に重要なカスパーゼ-14の発現を促進することができる。本発明の方法は、これらの作用により、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を改善することができる。また、本発明の方法は、フルクトオリゴ糖を皮膚常在菌に資化させることによって短鎖脂肪酸を低濃度で持続的に生成させるため、皮膚のバリア機能を安全かつ持続的に維持することができる。
【実施例0037】
〔実施例1〕
種々の素材について、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌による資化性を評価した。試験した素材には、表1に示すように、単糖としてグルコース(陽性対照)(富士フイルム和光純薬社製)、オリゴ糖(三糖以上)としてフルクトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬社製)、イソマルトオリゴ糖(富士フイルム和光純薬社製)およびラフィノース(日本ベクトン・ディッキンソン社製)、糖アルコールとしてソルビトール(富士フイルム和光純薬社製)、マンニトール(富士フイルム和光純薬社製)、キシリトール(富士フイルム和光純薬社製)、エリスリトール(富士フイルム和光純薬社製)およびイノシトール(東京化成工業社製)、多価アルコールとしてグリセリン(富士フイルム和光純薬社製)、1,3-BG(ダイセル社製)およびDPG(ADEKA社製)を用いた。
【0038】
上記素材の水溶液を作製し、終濃度0.3%となるように基礎培地に添加し、各素材を含む培地を作製した。この培地に表皮ブドウ球菌(独立行政法人製品評価技術基盤機構)の菌液を添加し、36℃で一定期間(48時間)培養後にpHメーター(HORIBA社製)を用いてpHを測定した。
【0039】
表1は、表皮ブドウ球菌による各素材の資化性を示す。測定されたpHが6.5以上の場合には「-」、pHが6.0以上6.4以下の場合には「(+)」、pHが5.5以上5.9以下の場合には「+」、pHが5.4以下の場合には「++」と評価した。試験素材が表皮ブドウ球菌に資化されると短鎖脂肪酸が産生し、pHが低下する。すなわち、pHの評価が「+」および「++」である場合には、資化性が高いということができる。
【0040】
【0041】
表1に示す結果から、フルクトオリゴ糖は、皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸を産生することが示された。
【0042】
〔実施例2〕
短鎖脂肪酸による皮膚の水分蒸散量(TEWL)の変化を調べた。短鎖脂肪酸として、酢酸、プロピオン酸および乳酸を用いた。試験には、ジャパン・ティッシュエンジニアリング社製の三次元皮膚モデル(EPI-MODEL)を用いた。
【0043】
水分蒸散量(TEWL)は、Tewameter TM300(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。対照には、PBS(日水製薬社製)を用いた。
【0044】
TEWLの測定結果を
図1および表2に示す。酢酸、プロピオン酸および乳酸のそれぞれは、対照と比較してTEWLの値が小さかった。
【0045】
【0046】
TEWLは、皮膚のバリア機能の指標として用いられ、値が小さいほうがバリア機能が高いということができる。本実施例の結果から、短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸および乳酸は、皮膚のバリア機能を高める作用を有することが示された。したがって、フルクトオリゴ糖は、表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸を産生することにより、皮膚のバリア機能を高めることが示唆された。
【0047】
〔実施例3〕
フルクトオリゴ糖を1.0%、1,3-ブチレングリコールを5.0%、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコールを0.1%、カルボキシビニルポリマーを0.3%、水酸化カリウムを0.12%、フェノキシエタノールを0.4%、メチルパラベンを0.1%、および純水を92.98%配合し、ジェル状化粧料を作製した。この化粧料を2週間、1日二回、適量を半顔に塗布した。試験前(0w)および2週間連用した後(2w)の水分蒸散量(TEWL)をTewameter TM300(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。試験は、5人の被験者に対して行い、それぞれの測定結果の平均値を算出した。
【0048】
TEWLの測定結果を
図2および表3に示す。フルクトオリゴ糖配合化粧料を2週間連用した場合、連用前と比較して、TEWLの値が低下した。この結果から、フルクトオリゴ糖は、皮膚のバリア機能を高める作用を有することが確認された。
【0049】
【0050】
〔実施例4〕
皮膚の顆粒層第二層に存在し、第二のバリアとも呼ばれるタイトジャンクション(細胞接着装置)は、クローディン1(Claudin-1)という膜タンパク質が主な構成タンパク質である。クローディン1の発現量に対する影響を調べることにより、タイトジャンクションに対する短鎖脂肪酸の作用を調べた。
【0051】
短鎖脂肪酸である酢酸(AA)、プロピオン酸(PA)、乳酸(LA)および酪酸(BA)を用いて試験を行った。短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸をPBSで2.5mMに希釈し、表皮角化細胞(クラボウ社より入手)に添加し、通常のプロトコルに従ってウエスタンブロッティング法を行うことにより、短鎖脂肪酸存在下でのクローディン1の発現量を測定した。PBSを用いた場合を対照とし、対照における発現量を1としたときの発現量を算出した。
【0052】
短鎖脂肪酸存在下でのクローディン1の発現量を
図3および表4に示す。クローディン1の発現量は、短鎖脂肪酸、特に酢酸、プロピオン酸または酪酸の存在下、対照と比較して有意に増加することが示された。これらの結果から、短鎖脂肪酸は、クローディン1の発現を促進することにより、タイトジャンクションを強固にして皮膚のバリア機能を高めることが確認された。したがって、フルクトオリゴ糖は、表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸を産生することにより、クローディン1の発現の促進を介してタイトジャンクションを強固にし、皮膚のバリア機能を高めることが示唆された。
【0053】
【0054】
〔実施例5〕
短鎖脂肪酸の皮膚刺激性を評価した。短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸を用いて、表皮角化細胞(クラボウ社製)を使用して細胞生存率(MTT)および炎症性サイトカインIL-1αの発現量を測定した。細胞生存率(MTT)は、通常のプロトコルに従ってMTTアッセイを実施することにより測定した。IL-1αの発現量は、通常のプロトコルに従ってELISA法を実施することにより測定した。PBSを用いた場合を対照(Control;皮膚刺激性がない)とし、1%SDSを用いた場合を陽性対照(PC;皮膚刺激性がある)とした。MTTは、対照における測定結果を100として算出した。IL-1αの発現量は、IL-1αタンパク量として算出した。
【0055】
短鎖脂肪酸存在下でのMTTを
図4に示し、IL-1αの発現量を
図5に示す。短鎖脂肪酸存在下でも、MTTおよびIL-1αの発現量は対照とほとんど変わらなかった。これらの結果から、短鎖脂肪酸は、試験したような低濃度では、皮膚に対して非刺激性であることが示された。フルクトオリゴ糖は、表皮ブドウ球菌によって資化されて低濃度の短鎖脂肪酸を持続的に産生させるため、皮膚に対する刺激性が極めて低いことが示された。
【0056】
〔実施例6〕
カスパーゼ-14は、皮膚のバリア機能および保湿機能に重要な酵素の一つである。カスパーゼ-14は、皮膚の表面にある角層の形成を担う酵素である。カスパーゼ-14が減少すると、肌荒れなどの皮膚の不調をもたらすことがわかっている。
【0057】
短鎖脂肪酸によるカスパーゼ-14の発現に対する効果を調べた。短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸をPBSで2.5mMに希釈し、表皮角化細胞(クラボウ社より入手)に添加し、通常のプロトコルに従ってウエスタンブロッティング法を行うことによりカスパーゼ-14の発現量を測定した。PBSを用いた場合を対照とし、対照における発現量を1としたときの発現量を算出した。
【0058】
短鎖脂肪酸存在下でのカスパーゼ-14の発現量を
図6および表5に示す。カスパーゼ-14の発現量は、短鎖脂肪酸、特に酢酸、プロピオン酸または酪酸の存在下、対照と比較して有意に増加することが示された。これらの結果から、短鎖脂肪酸は、カスパーゼ-14の発現を促進することにより皮膚のバリア機能を高めることが確認された。したがって、フルクトオリゴ糖は、表皮ブドウ球菌によって資化され、短鎖脂肪酸の産生を促進することにより、カスパーゼ-14の発現の促進を介して皮膚のバリア機能を高めることが示唆された。
【0059】
【0060】
以上の結果から、短鎖脂肪酸が皮膚のバリア機能を向上させる作用を有することが示された。したがって、フルクトオリゴ糖は、表皮ブドウ球菌によって資化されて短鎖脂肪酸を産生させることにより、皮膚のバリア機能を向上させることができることが強く示唆された。