(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127673
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】分割復位式ワークを使った追加工による歯科技工物の製作方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/007 20060101AFI20240912BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61C13/007
A61C13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023050628
(22)【出願日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】593190951
【氏名又は名称】中野田 紳一
(72)【発明者】
【氏名】中野田 紳一
(57)【要約】
【課題】 目的形状に直接サポートを設置することなく切削を完了することによって、ソフトウェアプログラムあるいは、追加工用治具の別途開発やそれらの採用ができない場合においても、追加工ができる方法を提供する。
【解決手段】 目的形状に直接サポートを設置することなく造形を完了するために、一次加工面に異種素材を注入し、製作した複合素材を二次加工することを特徴とする追加工による歯科技工物の製造方法おいて、CAMソフトウェアを変更、補正することなく、また加工機に追加工用治具を取り付けることなく、ワークの脱着復位、上下反転が可能な分割復位式ワークを採用することを最も主要な特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素として少なくとも、ワーク固定部と、ワーク可撤部と、を備える工作機械切削用途の分割復位式ワークであって、前記構成要素のうち少なくとも2つの構成要素が組合された際に、当該2つの構成要素が加工機の水平面に対して上下左右前後方向に分解、回転しないように抵抗方向に溝、爪、突起が形成され、組み立てられた分割復位式ワーク。
【請求項2】
構成要素として少なくとも、前記請求項1記載のワーク固定部と、ワーク製作用外枠部と、を備える請求項1記載の分割復位式ワークを製作するための外枠であって、前記構成要素のうち少なくとも2つの構成要素が組合された際に、当該2つの構成要素が加工機の水平面に対して上下左右前後方向に離脱、回転しないように溝、爪、突起が形成され、組み立てられた分割復位式ワーク製作用外枠。
【請求項3】
構成素材として、石膏材と、ワックス材と、レジン材と、石膏系あるいはリン酸塩系埋没材と、金属材と、セラミック材と、による工作機械切削用途の複合素材ワークであって、前記構成素材のうち少なくとも2つの構成素材である少なくとも第一素材と第二素材が組合された、請求項1記載の分割復位式ワーク。
【請求項4】
前記請求項3記載の複合素材ワークであって、第一素材加工後の加工面に第二素材を注入することで、複合素材ワークを製作する工程と、目的とする歯科技工物の形状データに基づいて、当該複合素材ワークを切削加工して前記歯科技工物を製作する工程とを備える、歯科技工物の製造方法。
【請求項5】
前記請求項4記載の歯科技工物の製造方法であって、第一素材の外周全周の辺縁に第二素材が露出するように複合素材ワークを切削加工することで第一素材の位置を第二素材で固定することを特徴とする歯科技工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に歯科用において機械加工用ワークを追加工する際にワークの脱着を容易にする分割復位式ワークの構造とその製作方法並びに分割復位式ワークを使った歯科技工物の製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削加工ではワークと呼ばれる被切削材を機械に固定し、専用工具を使ってワークを連続一回加工することで切削を完了することが一般的である。他方、例えば、既製品形状の穴径のみ拡大する場合や、溝を追加する必要がある場合に、既に一次加工が完了した市販品をワークとして使い、必要な個所だけ二次加工する場合がある。あるいは、完成形状が複合素材である場合、第一素材の一次加工を行った後、加工面に第二素材を追加して、複合素材としてのワークを二次加工する場合もある。本発明では、このように製品化されている既製品に対して再加工を行う場合のみならず、必要に応じて不連続的に複数回にわたりワークを再加工することもあわせて追加工とする。また、工具によって切削加工を行う対象をワークとし、被削材と同義語とする。
【0003】
これまでには、特許文献1に開示されているように、歯科用として市販されているワークを加工することで歯科技工物を製作するCAD/CAMシステムが広く応用されてきた。このような加工機を使った歯科技工物の製作法では、複数軸を有する高度な加工機を採用することで、連続一回加工によってその切削を完了する場合が多い。
【0004】
他方、多様化する要求や高付加価値化の要請に応じて、追加工が必要になることも近年少なくない。たとえば、歯科用高分子樹脂素材のワークから義歯床研磨面を大まかに一次加工した後、歯科用人工歯を接着固定して複合素材化すると、人工歯の接着界面部に介在する接着剤層の厚み量依存的にCAD計算値よりも厚み方向に浮き上がることがある。そこで、この差分を機械加工する場合に、追加工を行う。このような際に、人工歯を接着固定するこのような作業ではワークを一時的に加工機から取り外す場合がある。
【0005】
図1は、加工機の切削場面において、追加工を行う際の課題を説明するための説明図である。工具1があらかじめ出力された加工経路に基づいて移動することによって、ワーク2に先行加工される穴形状3を切削する。このような切削実行中に、目的形状4がワーク2から脱落しないように支持するために、サポート5をあえて削り残しながら切削作業を進めていく。たとえば
図1矢印に示すように、一時的に機械からワーク2を取り外す場合、先行加工された穴形状3と、これから追加で加工する穴形状6との位置関係がずれることがないように、元あった位置に正確にワークをもどさなければならない追加工特有の困難さがある。
【0006】
そこで、追加工の実施おいては、2種類の機能拡張が必要である。すなわち、人の手を借りることなく、ワークの着脱を機械制御できるようCAMソフトウェアで管理する方法や、工作機械に着脱可能な専用の金属製アタッチメントのような追加工用治具を準備することの片方もしくはこれら両方である。もしも、オペレーターがこれらを採用せずに、一次加工後にワークを機械から取り外すような作業を行い、再度、追加工を開始するならば、オペレータは必ずワークを元あった位置にきわめて正確に復位しなければならない。
【0007】
以上のように、一次加工終了後に加工機から取り外して、元の位置に復位する際の困難さを解決するためには、比較的大掛かりな改良が必要であり、この必要条件が高付加価値な製品製造に必要な追加工をより高度で困難な術式にしている。
【0008】
また、一般的に機械による切削加工では、加工中に三次元方向に工具の加工圧力がワークに作用する。そこで、目的形状がワークから意図ぜず脱落、変形することを防止する目的でサポートと呼ばれる固定源をあえて削り残して切削を終える方法が一般的である。その後、目的形状を得るためにこのサポートをワークから切断し、その切断面を整えるような煩雑な後加工と呼ばれる手作業が必要である。しかし、これまでもたとえば、特許文献1から3においてもサポートの設置に関する言及はない。このように、そもそもサポート5は最終的な目的形状4を得るためには不要になるにもかかわらず、切削造形時にサポートを採用しないという選択肢はないといえる。
【0009】
とはいえ、切削加工時における脱落変形防止用サポートは、目的形状が歯科用インレーと呼ばれる歯科技工物のように形状が比較的小さい場合、あるいは、切削体が比較的軟質の樹脂素材である鋳造原型のような場合に、そこに無数のサポートが付着していると、その後の手作業が高度に複雑になるだけでなく、離型後の内部応力緩和による切削体の寸法精度などに対する悪影響が懸念される場合も少なくなかった。そこで、サポート自体を追加工によって正確に削除する方法を試みたが、この場合においても、追加工用治具やCAMソフトウェアの機能拡張は必須であった。
【0010】
たとえば、これまでも追加工に近い考え方として、一次加工済みワークの未使用領域を再度二次加工する方法に関して特許文献2のように、加工機側の固定部に適合する溝をワークの側面に設置する方法や、特許文献3にて開示されているように、ワーク周縁に目印を形成する方法のように、ワークと加工機との位置関係を再現する目印を利用する方法は、既にいくつか提案されているが、いずれも同様に追加工用治具やCAMソフトウェアの機能拡張が実装されている場合にのみ採用が限られている。
【0011】
本発明は、分割復位式構造を有するワーク構造とその製作法を提供する。特に、分割復位式ワークの一次加工面に石膏、鋳造用鋳型材、樹脂等の異種素材を注入することで目的形状にサポートを直接植立することなく切削造形を完了する方法に関する。
【0012】
本発明における分割復位式ワークによれば、加工機本体の元あった位置へ容易にワークを脱着可能であり、一次加工後にワークをいったん分割分離し、別途、歯科技工室において中間処理を行った後、ワークを元あった位置に復位して二次加工することへの経済的、技術的負担が軽減されることによって、より付加価値の高い歯科技工物製作のしやすさに寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2016-535610号公報
【特許文献2】特開2018-47017号公報
【特許文献3】特開2021-087559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、追加工によって目的形状に直接サポートを設置することなく切削を完了することである。そして、ソフトウェアプログラムあるいは、追加工用治具の別途開発やそれらの採用ができない場合においても、追加工ができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、追加工による歯科技工物の製造方法おいて、CAMソフトウェアを変更、補正することなく、また加工機に追加工用治具を取り付けることなく、ワークの脱着復位、上下反転が可能な分割復位式ワークを採用することを最も主要な特徴とする。なお、歯科用途におけるワーク素材には石膏、ワックス、レジン、埋没材、金属、セラミックを挙げることができるが、本発明における異種素材とは、これら化学的性質が異なる場合のみならず、同種であっても用途、目的、役割が異なる材料である場合を含み異種素材とした。
【0016】
第一の発明に係る、分割復位式ワークは、その構成要素として少なくとも、ワーク固定部と、ワーク可撤部と、を備える工作機械切削用途の分割復位式ワークであって、前記構成要素のうち少なくとも2つの構成要素が組合された際に、当該2つの構成要素が三次元方向に分解、回転しないように抵抗方向に溝、爪、突起が形成され、組み立てられることを特徴とする。また、当該分割復位式ワークは、少なくとも、前記ワーク固定部と、ワーク製作用外枠部と、を備える分割復位式ワーク製作用外枠によって製作することができる。
【0017】
第二の発明に係る、複合材料である分割復位式ワークを使った歯科技工物の製造方法は、構成素材として少なくとも、石膏と、ワックスと、レジンと、埋没材と、金属と、セラミックと、による工作機械切削用途の複合素材ワークであって、前記構成素材のうち少なくとも2つの構成素材が組合された分割復位式ワークを採用することを特徴とする。また、当該複合素材ワークであって、第一素材加工後の加工面に第二素材を注入することで、複合素材ワークを製作する工程と、目的とする歯科技工物の形状データに基づいて、当該複合素材ワークを切削加工して前記歯科技工物を製作する工程とを備える、歯科技工物の製造方法であることを特徴とする。さらに、第一素材の外周全周の辺縁に第二素材が露出するように複合素材ワークを切削加工することで第一素材の位置を第二素材で固定することを特徴とする歯科技工物の製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明を採用すれば、術者は自由に追加工が可能になり、目的形状に直接サポートを設置することなく切削を完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1はワーク切削後における工具と固定金具、脱着方向を示した説明図である。
【
図2】
図2は分割復位式ワークの外観例とワーク製作用外枠の俯瞰図による説明図である。
【
図3】
図3は分割復位式ワークの固定部品と可撤部品との脱着機能部を示した説明図である。
【
図4】
図4は分割復位式ワークを活用し、サポートを目的形状に直接設置しない実施例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
分割復位式ワークの構造を、最小の部品数で実現した。
【実施例0021】
本発明における分割復位式ワークは最少2種類の部材に分類できる。すなわち
図2に示す、ワーク固定部7、ワーク可撤部9である。
図2は分割復位式ワークの外観例と各部材相互の位置関係を示し、矢印は手動によるワーク可撤部9の脱着方向を示したものである。ワーク固定部7には、2種類の役割がある。すなわち、ワーク製作用外枠8とともに、ワーク可撤部9を製作するための外枠としての役割と、切削加工中に分割復位式ワークを機械に固定しながら、ワーク可撤部9を脱落させないよう保持する役割である。したがって、ワーク固定部7には、外枠機能用として、ワーク製作用外枠8が脱着できるように突起部10が嵌入する嵌入部11を備える。さらに、加工中の脱落保持機能用として、上下的脱着方向に抵抗するための溝部12、水平的離脱方向に抵抗する爪部13、そして可撤部の回転に抵抗する回転防止突起嵌入部14を備える。
【0022】
以上のようにワーク可撤部9を製作するための外枠は、ワーク固定部7とワーク製作用外枠8との外枠機能によって組み立てることができる。この組立てに寄与する嵌入部11は、切削時にワークの機械への固定を阻害しないように、突起ではないことが望ましい。
【0023】
ワーク可撤部9の実際の製作においては、外枠7内面および外枠8内面に必要に応じてワセリンなどの離型材を塗布し、任意のワーク料を注入して製作することができる。歯科医療用途の材料は、歯科用石膏、歯科用ワックス、歯科用レジン、歯科用埋没材などを利用できる。注入した材料の硬化後に、ワーク製作用外枠8だけを離型することによって、ワーク固定部7とワーク可撤部9が残り、両者が脱着できることを特徴とする分割復位式ワークを製作できる。
【0024】
分割復位式ワークの構造の特徴は、本来の機械加工用ワークとしての機能を満たすだけでなく、同時に必要に応じてワークを正確に脱着できる機能を有することである。
図3は、矢印方向にワーク固定部7とワーク可撤部9の可撤機序を説明するために拡大した説明図である。
【0025】
図3に示す通り、爪部13が爪保持部15に嵌合することでy軸方向の離脱力に抵抗し、溝部12が溝保持部16に嵌合することでz軸方向の離脱力に抵抗しする。さらに、ワーク固定部7が全体でワーク可撤部9を広く抱きかかえるように保持することによってx軸方向の離脱力に抵抗し、回転防止突起嵌入部14に、ワーク可撤部9の突起が嵌入することでワーク可撤部9の回転に抵抗することを特徴としながらも、爪部13に永久ひずみが残らない弾性限界までの変形によって、
図3矢印方向に向かって、比較的容易にワーク可撤部9を可撤できることをその特徴としている。
【0026】
特筆すべきは、ワーク固定部7は3Dプリンターで容易に造形することができるが、市販の歯科用ワーク切削後のディスク廃材を再加工整形することによっても製作できることであり、本発明は廃材利用の観点からも有用であるといえる。