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特開2024-127689歯車スライス工具およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127689
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】歯車スライス工具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 21/02 20060101AFI20240912BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240912BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20240912BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B23F21/02
B23B27/14 A
B23P15/28 A
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023085313
(22)【出願日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】202310220212.X
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521560414
【氏名又は名称】ジエンスー エックスシーエムジー コンストラクション マシーナリー リサーチ インスティチュート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シンチュン
(72)【発明者】
【氏名】ビー,モンシュエ
(72)【発明者】
【氏名】フォン, セン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF10
3C046FF16
3C046FF20
3C046FF25
4K029AA29
4K029BA07
4K029BA17
4K029BA58
4K029BA60
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA03
4K029CA06
4K029CA13
4K029DA08
4K029DB03
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC39
4K029DD06
4K029FA04
4K029FA06
(57)【要約】
【課題】切削工具の耐用寿命が改善された歯車スライス工具とその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示は歯車スライス工具とその製造方法に関する。歯車スライス工具は、工具面に複数の凹部および/または凸部が形成され、複数の凹部および/または凸部は少なくとも1つの方向に沿って工具面に間隔を置いて配置されている歯車スライス工具本体と、工具面に配設された複合膜層とを含む。複合膜層は工具面に形成されて複数の凹部および/または凸部の表面を覆い、金属を含む金属膜層と、金属膜層の工具面とは反対の側に配設された遷移膜層であって、金属膜層の上に形成された第1膜層と第1膜層の上に形成された第2膜層とを含み、第1膜層の材料は金属の窒化物を含み、第2膜層の材料は金属およびアルミニウム合金窒化物を含む遷移膜層と、遷移膜層の工具面とは反対の側に配設され、金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む機能膜層と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車スライス工具であって、前記歯車スライス工具は、
歯車スライス工具本体(10)であって、複数の凹部および/または凸部(20)が前記歯車スライス工具本体(10)の工具面に形成され、前記複数の凹部および/または凸部(20)は、少なくとも1つの方向に沿って前記工具面に間隔を置いて配置される、歯車スライス工具本体(10)と、
前記工具面に配設された複合膜層(30)と、
を備え、
前記複合膜層(30)は、
前記工具面に形成されて前記複数の凹部および/または凸部(20)の表面を覆う金属膜層(31)であって、前記金属膜層(31)の材料は金属を含む、金属膜層(31)と、
前記金属膜層(31)の前記工具面とは反対の側に配設された遷移膜層(32)であって、前記遷移膜層(32)は、前記金属膜層(31)に形成された第1膜層(321)と、前記第1膜層(321)に形成された第2膜層(322)とを備え、前記第1膜層(321)の材料は前記金属の窒化物を含み、前記第2膜層(322)の材料は前記金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む、遷移膜層(32)と、
前記遷移膜層(32)の前記工具面とは反対の側に配設された機能膜層(33)であって、前記機能膜層(33)の材料は前記金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む、機能膜層(33)と、
を備えることを特徴とする、歯車スライス工具。
【請求項2】
前記金属はクロムまたはチタンであることを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項3】
前記金属膜層(31)の厚さは0.2~0.3μmであり、および/または前記遷移膜層(32)の厚さは0.5~0.8μmであり、および/または前記機能膜層(33)の厚さは1~3μmであり、ことを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項4】
前記工具面は前方工具面(12)を備え、前記複数の凹部および/または凸部(20)は複数の円形凹状部(21)、複数の横溝(22)、複数の扇状溝(23)、または複数の三日月形凹状部(24)を備え、前記複数の円形凹状部(21)、前記複数の横溝(22)、前記複数の扇状溝(23)、または前記複数の三日月形凹状部(24)は前記前方工具面(12)に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項5】
前記工具面は前方工具面(12)と後方工具面(13)とを備え、前記複数の凹部および/または凸部(20)は複数の円形凹状部(21)と複数の横溝(22)とを備え、前記複数の円形凹状部(21)および前記複数の横溝(22)は前記前方工具面(12)および前記後方工具面(13)に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項6】
前記横溝(22)のそれぞれは第1の方向に沿って延在し、前記複数の横溝(22)は前記第1の方向に垂直な第2の方向に沿って間隔を置いて配置され、前記複数の円形凹状部(21)は、前記第2の方向に沿って間隔を置いて配置された前記円形凹状部(21)の列を複数備え、前記円形凹状部(21)の各列は対応する前記横溝(22)に少なくとも部分的に位置することを特徴とする、請求項5に記載の歯車スライス工具。
【請求項7】
前記工具面は前方工具面(12)と後方工具面(13)とを備え、前記複数の凹部および/または凸部(20)は複数の円形凹状部(21)と複数の三日月形凹状部(24)とを備え、前記複数の円形凹状部(21)と前記複数の三日月形凹状部(24)とは前記前方工具面(12)および前記後方工具面(13)に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項8】
前記複数の円形凹状部(21)と前記複数の三日月形凹状部(24)とはアレイ状に配置され、前記複数の円形凹状部(21)と前記複数の三日月形凹状部(24)とは前記アレイの少なくとも1つの配置方向に沿って交互に配設されていることを特徴とする、請求項7に記載の歯車スライス工具。
【請求項9】
前記工具面は前方工具面(12)と後方工具面(13)とを備え、前記複数の凹部および/または凸部(20)は複数の円形凸状部(25)を備え、前記複数の円形凸状部(25)は前記前方工具面(12)および前記後方工具面(13)に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の歯車スライス工具。
【請求項10】
前記複数の凹部および/または凸部(20)は複数の円形凹状部(21)、複数の扇状溝(23)、または複数の三日月形凹状部(24)を更に備え、前記複数の円形凹状部(21)、前記複数の扇状溝(23)、または前記複数の三日月形凹状部(24)は前記前方工具面(12)および前記後方工具面(13)に形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の歯車スライス工具。
【請求項11】
前記複数の円形凸状部(25)はアレイ状に配置され、
前記複数の円形凹状部(21)、前記複数の扇状溝(23)、または前記複数の三日月形凹状部(24)はアレイ状に配置されて、前記アレイの少なくとも1つの方向に沿って前記複数の円形凸状部(25)と交互に配設されていることを特徴とする、請求項10に記載の歯車スライス工具。
【請求項12】
前記円形凹状部(21)は直径が30~50μm、深さが10~150μmであり、隣接し合う前記円形凹状部(21)の間の距離は40~100μmであることを特徴とする、請求項4~8、10~11の何れか一項に記載の歯車スライス工具。
【請求項13】
前記円形凸状部(25)は直径が30~50μm、高さが10~150μmであり、隣接し合う前記円形凸状部(25)の間の距離は40~100μmであることを特徴とする、請求項9~11の何れか一項に記載の歯車スライス工具。
【請求項14】
前記横溝(22)は幅が40~100μm、深さが10~150μmであり、隣接し合う前記横溝(22)の間の距離は40~100μmであることを特徴とする、請求項4~6の何れか一項に記載の歯車スライス工具。
【請求項15】
前記扇状溝(23)は直径が30~50μm、扇状挟角が40°~60°、深さが10~150μmであり、隣接し合う前記扇状溝(23)の間の距離は40~100μmであることを特徴とする、請求項4、10、または11に記載の歯車スライス工具。
【請求項16】
前記三日月形凹状部(24)は最大幅が30~50μm、最大長が50~60μm、深さが10~150μmであり、前記三日月形凹状部(24)の下端鋭角部の角度は20°~30°であり、隣接し合う前記三日月形凹状部(24)の間の距離は40~100μmであることを特徴とする、請求項4、7~8、10~11の何れか一項に記載の歯車スライス工具。
【請求項17】
請求項1~11の何れか一項に記載の歯車スライス工具の製造方法であって、
歯車スライス工具本体(10)を設けるステップと、
複数の凹部および/または凸部(20)を前記歯車スライス工具本体(10)の工具面に形成するステップであって、前記複数の凹部および/または凸部(20)は少なくとも1つの方向に沿って前記工具面に間隔を置いて配置される、ステップと、
複合膜層(30)を前記工具面に配設するステップと、
を含み、前記複合膜層(30)を配設するステップは、
金属膜層(31)を前記工具面に形成して前記複数の凹部および/または凸部(20)の表面を前記金属膜層(31)で覆うサブステップであって、前記金属膜層(31)の材料は金属を含む、サブステップと、
第1膜層(321)を前記金属膜層(31)の上に形成するサブステップであって、前記第1膜層(321)の材料は前記金属の窒化物を含む、サブステップと、
第2膜層(322)を前記第1膜層(321)の上に形成するサブステップであって、前記第2膜層(322)の材料は前記金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む、サブステップと、
機能膜層(33)を前記第2膜層(322)の上に形成するサブステップであって、前記機能膜層(33)の材料は前記金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む、サブステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項18】
前記金属膜層(31)はパルスアーク法によって形成され、前記第1膜層(321)、前記第2膜層(322)、および前記機能膜層(33)は何れもマグネトロンスパッタリング法によって堆積されることを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記複数の凹部および/または凸部(20)を形成するステップの前に、超音波洗浄および窒素ガスブロー乾燥を前記歯車スライス工具本体(10)に対して実施するステップを更に含むことを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
前記複合膜層(30)を配設するステップの前に、真空加熱およびアルゴンガス洗浄を前記歯車スライス工具本体(10)に対して実施するステップを更に含むことを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具の技術分野に関し、特に、歯車スライス工具とその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
基本的な構成要素としての歯車の設計構造形態および製造精度は、伝動要素および建設機械伝動システムの性能に直接影響する。現在、歯車ホブ切りおよび歯車形削など、従来の歯車製造技術は、逃げ溝のない内歯および二重歯車などの軽量歯車部品の加工および伝動要素の画期的な研究開発に対応できていない。歯車リングは、薄肉歯車リングの歯車形削加工時に変形し易く、且つ低精度(8~9級)および低加工効率(40~50分/個)であるので、ハイエンド伝動要素の高精度および効率的製作に対応できず、建設機械のハイエンド開発を著しく制限している。
【0003】
歯車スライス技術とは、21世紀に徐々に発展してきた新しい歯車加工技術であり、逃げ溝のない内歯および二重歯車などの軽量歯車部品の加工の実現ばかりでなく、乾式切削の実現も可能にする。その加工精度はGB/T6級以上に達し、その加工効率は歯車ホブ切りおよび歯車形削の効率より3~4倍高く、高精度、高効率、環境保護などの卓越した特徴が実現される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調査を通して、発明者らは、歯車スライス技術の工業化過程にはボトルネック問題が存在することを見出した。すなわち、歯車スライス工具は摩耗が速く、耐用寿命が短いため、歯車スライス技術のバッチ適用を制限している。
【0005】
上記に鑑みて、本開示の複数の実施形態は、切削工具の耐用寿命を改善できる、歯車スライス工具とその製造方法とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの態様において、歯車スライス工具が提供される。この歯車スライス工具は、歯車スライス工具本体であって、複数の凹部および/または凸部が歯車スライス工具本体の工具面に形成され、この複数の凹部および/または凸部は、少なくとも1つの方向に沿って間隔を置いて工具面に配置されている、歯車スライス工具本体と、工具面に配設された複合膜層とを含む。この複合膜層は、工具面に形成されて複数の凹部および/または凸部の表面を覆う金属膜層であって、金属膜層の材料は金属を含む、金属膜層と、金属膜層の工具面とは反対の側に配設された遷移膜層であって、遷移膜層は金属膜層の上に形成された第1膜層と第1膜層の上に形成された第2膜層とを含み、第1膜層の材料は金属窒化物を含み、第2膜層の材料は金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む、遷移膜層と、遷移膜層の工具面とは反対の側に配設された機能膜層であって、機能膜層の材料は金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む、機能膜層と、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、金属はクロムまたはチタンである。
【0008】
いくつかの実施形態において、金属膜層の厚さは0.2~0.3μmであり、および/または遷移膜層の厚さは0.5~0.8μmであり、および/または機能膜層の厚さは1~3μmである。
【0009】
いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面を含み、複数の凹部および/または凸部は、複数の円形凹状部、複数の横溝、複数の扇状溝、または複数の三日月形凹状部を含み、複数の円形凹状部、複数の横溝、複数の扇状溝、または複数の三日月形凹状部は、前方工具面に形成される。
【0010】
いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面と後方工具面とを含み、複数の凹部および/または凸部は、複数の円形凹状部と複数の横溝とを含み、複数の円形凹状部および複数の横溝は、前方工具面および後方工具面に形成される。
【0011】
いくつかの実施形態において、横溝はそれぞれ第1の方向に沿って延在し、複数の横溝は、第1の方向に垂直な第2の方向に沿って間隔を置いて配置され、複数の円形凹状部は、第2の方向に沿って間隔を置いて配置された円形凹状部の列を複数含み、円形凹状部の各列は、対応する横溝に少なくとも部分的に位置する。
【0012】
いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面と後方工具面とを含み、複数の凹部および/または凸部は、複数の円形凹状部と複数の三日月形凹状部とを含み、複数の円形凹状部および複数の三日月形凹状部は、前方工具面および後方工具面に形成される。
【0013】
いくつかの実施形態において、複数の円形凹状部と複数の三日月形凹状部とはアレイ状に配置され、複数の円形凹状部と複数の三日月形凹状部とは、アレイの少なくとも1つの配置方向に沿って交互に配設される。
【0014】
いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面と後方工具面とを含み、複数の凹部および/または凸部は、複数の円形凸状部を含み、複数の円形凸状部は前方工具面および後方工具面に形成される。
【0015】
いくつかの実施形態において、複数の凹部および/または凸部は、複数の円形凹状部、複数の扇状溝、または複数の三日月形凹状部を更に含み、複数の円形凹状部、複数の扇状溝、または複数の三日月形凹状部は、前方工具面および後方工具面に形成される。
【0016】
いくつかの実施形態において、複数の円形凸状部はアレイ状に配置され、複数の円形凹状部、複数の扇状溝、または複数の三日月形凹状部もアレイ状に配置されて、アレイの少なくとも1つの方向に沿って複数の円形凸状部と交互に配設される。
【0017】
いくつかの実施形態において、円形凹状部は、直径が30~50μm、深さが10~150μm、隣接し合う円形凹状部の間の距離が40~100μmである。
【0018】
いくつかの実施形態において、円形凸状部は、直径が30~50μm、高さが10~150μm、隣接し合う円形凸状部の間の距離が40~100μmである。
【0019】
いくつかの実施形態において、横溝は、幅が40~100μm、深さが10~150μm、隣接し合う横溝の間の距離が40~100μmである。
【0020】
いくつかの実施形態において、扇状溝は、直径が30~50μm、扇状挟角が40°~60°、深さが10~150μm、隣接し合う扇状溝の間の距離が40~100μmである。
【0021】
いくつかの実施形態において、三日月形凹状部は、最大幅が30~50μm、最大長が50~60μm、深さが10~150μm、三日月形凹状部の下端鋭角部の角度が20°~30°、隣接し合う三日月形凹状部の間の距離が40~100μmである。
【0022】
本開示の1つの態様においては、上記歯車スライス工具の製造方法が提供される。本方法は、歯車スライス工具本体を設けるステップと、複数の凹部および/または凸部を歯車スライス工具本体の工具面に形成するステップであって、複数の凹部および/または凸部は少なくとも1つの方向に沿って間隔を置いて工具面に配置される、ステップと、複合膜層を工具面に配設するステップと、を含み、複合膜層を配設するステップは、金属膜層を工具面に形成して複数の凹部および/または凸部を金属膜層で覆うサブステップであって、金属膜層の材料は金属を含む、サブステップと、第1膜層を金属膜層の上に形成するサブステップであって、第1膜層の材料は金属窒化物を含む、サブステップと、第2膜層を第1膜層の上に形成するサブステップであって、第2膜層の材料は金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む、サブステップと、機能膜層を第2膜層の上に形成するサブステップであって、機能膜層の材料は金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む、サブステップと、を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、金属膜層はパルスアーク法によって形成され、第1膜層、第2膜層、および機能膜層は、何れもマグネトロンスパッタリング法によって堆積される。
【0024】
いくつかの実施形態において、本製造方法は、複数の凹部および/または凸部を形成するステップの前に、超音波洗浄および窒素ガスブロー乾燥を歯車スライス工具本体に対して実施するステップを更に含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、本製造方法は、複合膜層を配設するステップの前に、真空加熱とアルゴンガス洗浄とを歯車スライス工具本体に対して実施するステップを更に含む。
【0026】
したがって、本開示の複数の実施形態によると、間隔を置いて配置される複数の凹部および/または凸部は、歯車スライス工具本体の工具面に形成され、複合膜層は工具面に配設され、複数の凹部および/または凸部によって工具面に対する複合膜層の付着効果が高められ得る、更には切削工具の耐摩耗性が改善され得る。複合膜層は、金属膜層と、金属窒化物と金属およびアルミニウムの合金窒化物とを含む遷移膜層と、金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む機能膜層とを含む。金属膜層は、遷移膜層を付着させるためのベースとして使用され、遷移膜層は、複合膜層と歯車スライス工具本体との間の結合力を改善するように、機能膜層と金属膜層との間の急な応力変化の影響を和らげるために使用される。したがって、歯車スライス工具本体は、機能膜層によって、高速切削および他の場面において、より良好な耐摩耗性および耐高温酸化性を確実に有し得る。
【0027】
添付の図面は、本説明の一部を形成するものであり、本開示の複数の実施形態を示し、本開示の原理を本説明と共に説明するために役立つ。
【0028】
本開示は、添付の図面を参照した以下の詳細な説明からより明確に理解され得る。
【0029】
図面に示されているさまざまな部分の寸法は、実際の大小関係に従って描かれていないことを理解されたい。加えて、同じ、または同様の、参照符号は、同じ、または同様の、部材を指している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態の一加工場面の概略図である。
図2】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態の概略構造図である。
図3図2の円Aの拡大概略図である。
図4】本開示による歯車スライス工具の一実施形態における歯車スライス工具本体に配設されて複数の凹部および/または凸部を覆う複合膜層の概略図である。
図5】本開示による歯車スライス工具の一実施形態における複合膜層の概略構造図である。
図6】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の一形態の概略図である。
図7】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図8】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図9】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図10】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図11】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図12】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図13】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図14】本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面上の複数の凹部および/または凸部の別の形態の概略図である。
図15】本開示による歯車スライス工具の製造方法のいくつかの実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、添付の図面を参照して、本開示のさまざまな例示的実施形態を詳細に説明する。各例示的実施形態の説明は単なる例示であり、本開示およびその適用または使用に対する限定として意図されているものでは決してない。本開示は、多くの異なる形態で具現化され得るので、本願明細書に記載の実施形態だけに限定されない。これら実施形態は、本開示を周到かつ完全なものにし、本開示の範囲を当業者に十分に示すために提供されている。なお、これら実施形態に記載の構成要素およびステップの相対配置、材料成分、数式、および数値は、別様に指定されていない限り、単なる例示であると制約なく解釈されるべきであることに留意されたい。
【0032】
本開示に使用されている「第1(first)」、「第2(second)」、および同様の単語は、何れかの順番、量、または重要度を示すものではなく、複数の異なる部分を単に区別するために使用されている。「を含む(include)」または「を備える(comprise)」および同様の単語は、前記単語の前の要素が前記単語の後に列挙されている複数の要素を包含するが、他の要素を包含する可能性を排除していないことを意味することを意図している。「上方(upper)」、「下方(lower)」、「左(left)」、「右(right)」、および同様の単語は、相対的な位置関係を示すために使用されており、記載の物体の絶対位置が変化すると、それに応じて相対位置関係も変化し得る。
【0033】
本開示において、特定の装置が第1の装置と第2の装置との間に位置すると記載されているとき、その特定の装置と第1の装置または第2の装置との間に中間装置が存在しても存在しなくてもよい。特定の装置が他の複数の装置に接続されると記載されているとき、その特定の装置は、他の装置に中間装置なしに直接接続されても、他の装置に中間装置を介して間接的に接続されてもよい。
【0034】
特に別様に規定されていない限り、本開示に使用されている(技術用語または科学用語を含む)全ての用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。一般に使用されている辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈における意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本願明細書に明示的に定義されていない限り、理想化された、または過度に形式張った、意味で解釈されないことを更に理解されるであろう。
【0035】
関連技術の当業者には公知の技術、方法、および装置は、詳述されていないこともあるが、これら技術、方法、および装置は、必要に応じて、説明の一部と見做されるべきである。
【0036】
図1は、本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態の一加工場面の概略図である。図1を参照すると、歯車スライス工具Sの軸線は、加工対象ワークWの軸線に対して傾斜しており、歯車スライス工具SおよびワークWは、速度ω2およびω1という高速でそれぞれ回転され、ワークWは、それ自身の軸線に平行な方向vにも僅かに送られ、これにより、ワークWに徐々に歯面が切削される。
【0037】
図2は、本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態の概略構造図である。図3は、図2の円Aの拡大概略図である。図1図3を参照すると、歯車スライス工具Sは、周方向に分散された複数の切削歯を有する。切削歯のさまざまな部分は、それぞれ異なる工具面に対応している。図3において、歯車スライス工具Sの本体(すなわち、歯車スライス工具本体10)は、1つの刃先11と複数の工具面とを有する。複数の工具面は、刃先11によって区切られた前方工具面12と後方工具面13とを含む。切削中、刃先11によって切削された切削屑は、主に前方工具面12を通って流れる。後方工具面13は、左後方工具面131と、上端後方工具面132と、右後方工具面133とを含み得る。
【0038】
図4は、本開示による歯車スライス工具の一実施形態において歯車スライス工具本体に配設されて複数の凹部および/または凸部を覆う複合膜層の概略図である。図5は、本開示による歯車スライス工具の一実施形態における複合膜層の概略構造図である。図1図5を参照すると、本開示の実施形態は、歯車スライス工具を提供する。歯車スライス工具は、歯車スライス工具本体10と複合膜層30とを含む。複数の凹部および/または凸部20が歯車スライス工具本体10の工具面に形成され、これら凹部および/または凸部20は、少なくとも1つの方向に沿って間隔を置いて工具面に配置される。複合膜層30は、工具面に配設される。
【0039】
ここで、複数の凹部および/または凸部20は、工具面に対して凹状の溝または凹状部を含み得、更には、工具面に対して凸状の凸状部または凸畝を含み得、更には、工具面に対して凹状の溝または凹状部と、工具面に対して凸状の凸状部または凸畝とを含み得る。
【0040】
複合膜層30は、金属膜層31と、遷移膜層32と、機能膜層33とを含む。金属膜層31は、工具面に形成されて複数の凹部および/または凸部20の表面を覆う。金属膜層31の材料は、金属を含む。ここで、金属材料は、クロム(Cr)またはチタン(Ti)などの金属単体を指す。金属膜層31は、複数の凹部および/または凸部20の表面を覆う。複数の凹部および/または凸部20を有する表面は、平滑面に比べ、より大きな表面積を有し、金属膜層31とのより十分な結合が可能であるため、より大きな結合力が得られ、複合膜層30が工具面から剥がれ難い。
【0041】
遷移膜層32は、金属膜層31の工具面とは反対の側に配設される。遷移膜層32は、金属膜層31の上に形成される第1膜層321と、第1膜層321の上に形成される第2膜層322とを含む。第1膜層321の材料は金属窒化物を含み、第2膜層322の材料は金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む。機能膜層33は、遷移膜層32の工具面とは反対の側に配置される。機能膜層33の材料は、金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む。
【0042】
本実施形態において、間隔を置いて配置される複数の凹部および/または凸部は、歯車スライス工具本体の工具面に形成され、複合膜層は工具面に配設される。複数の凹部および/または凸部によって、工具面への複合膜層の付着効果を高めることができ、切削工具の耐摩耗性を改善できる。複合膜層は、金属膜層と、金属窒化物と金属およびアルミニウムの合金窒化物とを含む遷移膜層と、金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む機能膜層と、を含む。金属膜層は、遷移膜層を付着させるためのベースとして使用される。遷移膜層は、複合膜層と歯車スライス工具本体との間の結合力を改善するように、機能膜層と金属膜層との間の急な応力変化の影響を和らげるために使用される。したがって、歯車スライス工具本体は、機能膜層によって、高速切削および他の場面における耐摩耗性および耐高温酸化性を確実に有し得る。
【0043】
金属Crを例に取ると、複合膜層は、Cr膜層、CrN-AlCrN遷移膜層、およびAlCrSiN機能膜層である。硬質フェロアロイ製の歯車スライス工具本体の場合、より強い結合力を得るために、および遷移膜層を付着させるためのベースとしての役割を果たすために、工具面に接触している複合膜層のCr膜層と歯車スライス工具本体とを相互に固溶させることができる。
【0044】
AlCrSiN機能膜の硬度値は、3500HVに達し得る。最も高い使用温度は1000℃超に達し得る。更に、高速切削下での耐摩耗性および耐高温酸化性がより良好である。機能膜層と歯車スライス工具本体との間の熱膨張係数のより大きな差を考えて、層毎の熱膨張係数の間の差を改善し、異種材料間の急な応力変化の影響を和らげるために、CrN-AlCrN遷移膜層が配設される。これにより、複合膜層と歯車スライス工具本体との間の結合力が効果的に改善される。
【0045】
金属膜層31の厚さが大き過ぎて内部応力が増すと、使用中に金属膜層31が剥がれ易く、作製効率が下がる。金属膜層31の厚さが小さ過ぎると、実現されるベース効果が明らかでない。したがって、いくつかの実施形態において、金属膜層31の厚さは、0.2μm、0.24μm、0.28μm、および0.3μmなど、0.2~0.3μmである。
【0046】
遷移膜層32の厚さが大き過ぎて内部応力が増す場合は、使用中に遷移膜層32が剥がれ易く、作製効率が下がる。遷移膜層32の厚さが小さすぎると、実現される遷移効果が明らかでない。したがって、いくつかの実施形態において、遷移膜層32の厚さは、0.5μm、0.6μm、0.7μm、および0.8μmなど、0.5~0.8μmである。
【0047】
機能膜層33の厚さが大き過ぎて内部応力が増すと、使用中に機能膜層33剥がれ易く、作製効率が下がる。機能膜層33の厚さが小さ過ぎると、実現される耐摩耗性、高温耐性、および耐酸化性が明らかでない。したがって、いくつかの実施形態において、機能膜層33の厚さは、1μm、1.6μm、2.4μm、および3μmなど、1~3μmである。
【0048】
例えば、超高硬度のナノセラミック複合膜層は、アンバランストマグネトロンスパッタリング複合パルスアーク装置によって作製可能である。コーティング装置は、Crターゲットと、AlCr合金ターゲットと、Siターゲットとを含む。作製された複合膜層は、歯車スライス工具本体の工具面から外側に向かって、Cr膜層と、CrN-AlCrN遷移膜層と、AlCrSiN機能膜層とをこの順で含む。粒子イオン化は90%より大きく、粗さは0.2未満である。Cr膜層の厚さは0.3μmであり、CrN-AlCrN遷移膜層の厚さは0.6μmであり、AlCrSiN機能膜層の厚さは2.4μmであり、複合膜層全体の厚さは3.3μmである。
【0049】
他のいくつかの実施形態においては、硬度が極めて高い金属Tiをベースとした複合膜層も採用され得る。すなわち、この複合膜層は、歯車スライス工具本体の工具面から外側に向かって、Ti膜層と、TiN-AlTiN遷移膜層と、AlTiSiN機能膜層とをこの順で含む。
【0050】
図6図14は、本開示による歯車スライス工具のいくつかの実施形態における工具面の複数の凹部および/または凸部の複数の異なる形態のそれぞれの概略図である。図6図9を参照すると、いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面12を含み、複数の凹部および/または凸部20は、複数の円形凹状部21、複数の横溝22、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24を含み、複数の円形凹状部21、複数の横溝22、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、前方工具面12に形成される。場合によっては、前方工具面12の刃先に近い領域における膜層の付着力を改善するように、および凹部および/または凸部の加工コストおよび時間を減らすように、複数の円形凹状部21、複数の横溝22、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、前方工具面12の刃先に近い領域に形成され得る。
【0051】
図6図8、および図9においては、複数の円形凹状部21、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、アレイを形成するために、横方向および長手方向に間隔を置いて配置されている。図7において、複数の横溝22は、これら横溝の鉛直方向に間隔を置いて配置され得る。前方工具面12に配設された、これら円形凹状部21、横溝22、扇状溝23、または三日月形凹状部24は、切削工具とワークとの間の摩擦を効果的に減らすことができ、更には、切削屑を案内して迅速に流出させることができ、更には、流体の動圧効果を生じさせるために、切削液を貯蔵することもできる。これにより、歯車スライス工具が湿式切削に使用されたときの切削工具の摩耗を更に減らすことができる。加えて、これらの構造は、界面接触面積を減らし、水膜の連続性を壊し得る。空気流が凹状部または溝に渦を発生させてエアクッションを形成する。これにより、空気流の乱れ度が増し、粒子の移動軌跡が変化し、衝突が緩衝および低減され、耐摩耗性が向上する。
【0052】
図6を参照すると、円形凹状部21の直径d1の値および隣接し合う円形凹状部21の間の距離d2は、多くの側面の要因に基づかせ得る。直径d1が大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。直径d1が小さ過ぎると、円形凹状部21の加工し難さが増す。したがって、円形凹状部21の直径d1は、30~50μmに、例えば、30μm、38μm、44μm、および50μmに、設定されることが好ましい。距離d2が大き過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における円形凹状部21の効果が減る。距離d2が小さ過ぎると、円形凹状部の加工し難さが増す。したがって、隣接し合う円形凹状部21の間の距離d2は、40~100μmに、例えば、40μm、60μm、80μm、および100μmに、設定されることが好ましい。
【0053】
図4および図6を参照すると、円形凹状部21の深さDの値は、多くの側面の要因に基づかせ得る。深さDの値が大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。深さDが小さ過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における円形凹状部21の効果が減り、加工し難さも増す。したがって、円形凹状部21の深さDは、10~150μmに、例えば、10μm、65μm、110μm、および150μmに、設定されることが好ましい。
【0054】
図7を参照すると、横溝22の幅w1および隣接し合う横溝22の間の距離d3の値は、多くの側面の要因に基づかせ得る。幅w1が大きすぎると、切削工具本体の強度に影響する。幅w1が小さ過ぎると、横溝22の加工し難さが増す。したがって、横溝22の幅w1は、40~100μmに、例えば、40μm、60μm、80μm、および100μmに、設定されることが好ましい。距離d3が大き過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における横溝22の効果が減り、距離d3が小さ過ぎると、横溝22の加工し難さが増す。したがって、隣接し合う横溝22の間の距離d3は、40~100μmに、例えば、40μm、60μm、80μm、および100μmに、設定されることが好ましい。
【0055】
図4および図7を参照すると、横溝22の深さDの値は、多くの側面の要因に基づかせ得る。深さDの値が大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。深さDが小さ過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における横溝22の効果が減り、加工し難さも増す。したがって横溝22の深さDは、10~150μmに、例えば、10μm、65μm、110μm、および150μmに、設定されることが好ましい。
【0056】
図8を参照すると、扇状溝23の直径d4の値、扇状挟角αの値、隣接し合う扇状溝23の間の距離d5は、多くの側面の要因に基づかせ得る。直径d4が大き過ぎると、扇状溝23のラジアンが平らになり過ぎ、効果が減る。直径d4が小さ過ぎると、扇状溝23の加工し難さが増す。したがって、扇状溝23の直径d4は、30~50μmに、例えば、30μm、36μm、42μm、および50μmに、設定されることが好ましい。扇状挟角αが大き過ぎるか、小さ過ぎると、扇状溝23の加工し難さが増す。したがって、扇状溝23の扇状挟角は、40°~60°に設定されることが好ましい。距離d5が大き過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における扇状溝23の効果が減る。距離d5が小さ過ぎると、扇状溝23の加工し難さが増す。したがって、隣接し合う扇状溝23の間の距離d5は、40~100μmに、例えば、40μm、60μm、80μm、および100μmに、設定されることが好ましい。
【0057】
図4および図8を参照すると、扇状溝23の深さDの値は、多くの側面の要因に基づかせ得る。深さDの値が大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。深さDが小さ過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における扇状溝23の効果が減り、加工し難さも増す。したがって、扇状溝23の深さDは、10~150μmに、例えば、10μm、65μm、110μm、および150μmに、設定されることが好ましい。
【0058】
図9を参照すると、三日月形凹状部24の最大幅w2および最大長Lは、複数の三日月形凹状部24の配置方向に応じて決まる。三日月形凹状部24の下端鋭角部は、刃先の方に向いている。三日月形凹状部24の最大幅w2または最大長Lが大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。最大幅w2または最大長Lが小さ過ぎると、三日月形凹状部24の加工し難さが増す。したがって、三日月形凹状部24の最大幅は、30~50μmに、例えば、30μm、40μm、および50μmに、設定されることが好ましく、最大長は、50~60μmに、例えば、50μm、55μm、および60μmに、設定されることが好ましい。
【0059】
三日月形凹状部の下端鋭角部の角度βが大き過ぎると、水膜の連続性を壊す能力が下がる。角度βが小さ過ぎると、三日月形凹状部24の加工し難さが増す。したがって、三日月形凹状部24の下端鋭角部の角度は、20°~30°に、例えば、20°、25°、および30°に、設定されることが好ましい。
【0060】
図4および図9を参照すると、三日月形凹状部24の深さDの値が大き過ぎると、切削工具本体の強度に影響する。深さDが小さ過ぎると、摩擦の低減、切削屑の案内、等々の側面における三日月形凹状部24の効果が減り、加工し難さも増す。したがって、三日月形凹状部24の深さDは、10~150μmに、例えば、10μm、65μm、110μm、および150μmに、設定されることが好ましい。
【0061】
図4および図10を参照すると、いくつかの実施形態において、工具面は、前方工具面12と後方工具面13とを含み、複数の凹部および/または凸部20は、複数の円形凸状部25を含み、複数の円形凸状部25は前方工具面12および後方工具面13に形成されている。円形凸状部25は、より大きな切削屑を切除でき、これら切削屑の排出を促す溝を形成できるので、前方工具面12と後方工具面13との間の接触面積が減る。これは、湿式切削および乾式切削のどちらにも適している。場合によっては、刃先に近い領域における膜層付着力が増すように、更には凹部および/または凸部の加工コストおよび時間が減るように、複数の円形凸状部25は、刃先に近い前方工具面12および後方工具面13の領域に形成され得る。
【0062】
図10を参照すると、円形凸状部25の直径d7および隣接し合う円形凸状部25の間の距離d8は、多くの側面の要因に基づかせ得る。直径d7が大き過ぎると、工具面の粗さが増し、直径d7が小さ過ぎると、円形凸状部25の加工し難さが増す。したがって、円形凸状部25の直径d7は、30~50μmに、例えば、30μm、38μm、44μm、および50μmに、設定されることが好ましい。距離d8が大き過ぎると、切削屑の破断、接触面積の縮小、等々の側面における円形凸状部25の効果が減る。距離d8が小さ過ぎると、円形凸状部25の加工し難さが増す。したがって、隣接し合う円形凸状部25の間の距離d8は、40~100μmに、例えば、40μm、60μm、80μm、および100μmに、設定されることが好ましい。
【0063】
図4および図10を参照すると、円形凸状部25の高さhの値は、多くの側面の要因に基づかせ得る。高さhが大き過ぎると、工具面の粗さが増す。高さhが小さ過ぎると、切削屑の破断、接触面積の縮小、等々の側面における円形凸状部25の効果が減り、加工し難さも増す。したがって、円形凸状部25の高さhは、10~150μmに、例えば、10μm、65μm、110μm、および150μmに、設定されることが好ましい。
【0064】
切削工具の性能を改善するために、上記のさまざまな形態の凹部および/または凸部が組み合わされ得る。更なる態様の切削工具の性能を達成するために、さまざまな凹部および/または凸部の特徴が使用される。凸状部と凹状部とは一緒に組み合わされ、凸状部は切削屑の破断を実現し、凹状部はエアクッションを形成する。これにより、空気流の乱れ度が増し、粒子の移動軌跡が変化し、衝突が緩衝および低減される。この2つの組み合わせは、耐摩耗性を改善する。複数の凹状部の間の切削液の循環を溝によって実現するために、および流体の動圧効果を生じさせて切削工具の摩耗を更に減らすために、さまざまな凹状部とさまざまな溝とが一緒に組み合わされ得る。
【0065】
図11を参照すると、いくつかの実施形態において、工具面は、前方工具面12と後方工具面13とを含み、複数の凹部および/または凸部20は、複数の円形凹状部21と複数の横溝22とを含み、複数の円形凹状部21と複数の横溝22とは、前方工具面12および後方工具面13に形成されている。場合によっては、刃先に近い領域における膜層付着力を改善するように、更には凹部および/または凸部の加工コストおよび時間を減らすように、複数の円形凹状部21および複数の横溝22は、刃先に近い前方工具面12および後方工具面13の領域に形成され得る。
【0066】
図11において、それぞれの横溝22が第1の方向に沿って延在し、複数の横溝22は、第1の方向に垂直な第2の方向に沿って間隔を置いて配置され、複数の円形凹状部21は、第2の方向に沿って間隔を置いて配置された円形凹状部21の列を複数含み、円形凹状部の各列は、対応する横溝22に少なくとも部分的に位置している。
【0067】
図12を参照すると、いくつかの実施形態において、工具面は前方工具面12と後方工具面13とを含み、複数の凹部および/または凸部20は、複数の円形凹状部21と複数の三日月形凹状部24とを含み、複数の円形凹状部21と複数の三日月形凹状部24とは、前方工具面12および後方工具面13に形成されている。複数の円形凹状部21および複数の三日月形凹状部24は、刃先に近い領域における膜層付着力を改善するように、更には凹部および/または凸部の加工コストおよび時間を減らすように、刃先に近い前方工具面12および後方工具面13の領域に形成され得る。
【0068】
図12において、複数の円形凹状部21と複数の三日月形凹状部24とはアレイ状に配置され、複数の円形凹状部21と複数の三日月形凹状部24とは、アレイの少なくとも1つの配置方向に沿って交互に配設されている。
【0069】
図13および図14を参照すると、いくつかの実施形態において、複数の凹部および/または凸部20は、複数の円形凸状部25を含み、複数の円形凹状部21、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24を更に含み、複数の円形凹状部21、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、前方工具面12および後方工具面13に形成されている。複数の円形凹状部21、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、刃先に近い領域における膜層付着力を改善するように、更には凹部および/または凸部の加工コストおよび時間を減らすように、刃先に近い前方工具面12および後方工具面13の領域に形成され得る。
【0070】
図13および図14において、複数の円形凸状部25はアレイ状に配置され、複数の円形凹状部21、複数の扇状溝23、または複数の三日月形凹状部24は、アレイ状に配置され、アレイの少なくとも1つの方向に沿って複数の円形凸状部25と交互に配設されている。
【0071】
上記の各実施形態において、凹状部、溝、または凸状部など、これら凹部および/または凸部は、実際には工具面上で微細であり、切削されたワークの表面の平滑性には殆ど影響せず、切削工具の強度および他の性能に容易に影響することはない。更に、複数の凹部および/または凸部は、特定の規則に従って配置および分散されるので、切削工具の性能を改善するように、ほら貝の表面、ヤクの角、ケラの体表、または魚のうろこ、等々と同様の相対的に耐摩耗性の構造を形成できる。
【0072】
図15は、本開示による歯車スライス工具の製造方法のいくつかの実施形態のフローチャートである。上記それぞれの実施形態による歯車スライス工具および図15に基づき、本開示の実施形態は、ステップS1~S3を含む、上記歯車スライス工具の製造方法を提供する。ステップS1において、歯車スライス工具本体10が設けられる。ステップS2において、複数の凹部および/または凸部20が歯車スライス工具本体10の工具面に形成される。複数の凹部および/または凸部20は、少なくとも1つの方向に沿って工具面に間隔を置いて配置される。
【0073】
ステップS3において、複合膜層30が工具面に配設される。ここで、複合膜層30を配設するステップは、金属膜層31を工具面に形成して凹部および/または凸部20を金属膜層31で覆うサブステップであって、金属膜層31の材料はクロムまたはチタンなどの金属を含むサブステップと、第1膜層321を金属膜層31の上に形成するサブステップであって、第1膜層321の材料は金属窒化物を含むサブステップと、第2膜層322を第1膜層321の上に形成するサブステップであって、第2膜層322の材料は金属およびアルミニウムの合金窒化物を含む、サブステップと、機能膜層33を第2膜層322の上に形成するサブステップであって、機能膜層33の材料は金属、アルミニウム、およびシリコンの合金窒化物を含む、サブステップと、を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、金属膜層31はパルスアーク法によって形成され、第1膜層321、第2膜層322、および機能膜層33は何れもマグネトロンスパッタリング法によって堆積される。
【0075】
いくつかの実施形態において、本方法は、複数の凹部および/または凸部20を形成するステップの前に、超音波洗浄および窒素ガスブロー乾燥を歯車スライス工具本体10に対して実施するステップを更に含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、本方法は、複合膜層30を配設するステップの前に、真空加熱およびアルゴンガス洗浄を歯車スライス工具本体10に対して実施するステップを更に含む。
【0077】
以下においては、例による説明のために、上記歯車スライス工具の構造および製造方法の実施形態が組み合わされている。歯車スライス工具の作製工程は、以下のとおりである。
【0078】
1)凹部および/または凸部の加工:歯車スライス工具本体は、脱脂粉末による超音波グリース洗浄に20分間かけられる。その後、歯車スライス工具本体は、超音波洗浄のために純水およびアルコールにそれぞれ30分間浸され、窒素ガスによってブロー乾燥され、待機のために、熱風乾燥炉に入れられる。凹部および/または凸部を形成する加工のために、加工対象のマイクロテクスチャ領域にレーザまたは3D印刷などの手段が使用される。歯車スライス工具本体は、待機のために、再び洗浄および乾燥される。
【0079】
2)複合膜層の作製:
【0080】
a)洗浄:ステップ1)で加工された歯車スライス工具本体は、真空室に入れられる。タレットの回転速度が2~3回転/分に調整され、真空吸引が1.5×10-3Paまで実施され、真空室は350~400℃に加熱される。その後、保熱が15分間実施され、Arが導入される。パルスバイアス電圧が800~1000Vであり、歯車スライス工具本体はArガスによって15~20分間洗浄される。
【0081】
B)膜めっき:最初に、パルスアーク法を使用してCr膜層がめっきされる。パルス周波数が15~20Hzであり、アーク電流が75~90Aであり、パルス時間が8000~12000である。遷移膜層のために、マグネトロンスパッタリング法によって、CrN膜層およびAlCrN膜層が堆積され、Nが最初に導入され、作動ガス圧が0~0.3Paであり、バイアス電圧が100~150Vであり、Cr目標電圧が~800Vである。CrN膜層が5~10分間堆積され、Nが遮断される。その後、Arが導入される。その後、作動ガス圧が0.3Paに達すると、Nが導入される。作動ガス圧は0.3Paから0.5Paまで徐々に上昇する。バイアス電圧は100~150Vであり、AlCr合金目標電圧は~800Vである。AlCrN膜層は90~120分間堆積される。最後に、マグネトロンスパッタリング法によって機能膜層が堆積され、Siターゲットがオンにされる。作動ガス圧は0.05~0.1Paであり、バイアス電圧は50~150Vである。AlCrSiN膜層が100~120分間堆積される。
【0082】
C)冷却:真空室が室温に冷却された後、2)で得られた歯車スライス工具本体が取り出される。
【0083】
これまで、本開示のそれぞれの実施形態を詳細に説明してきた。本開示のコンセプトが曖昧になることを回避するために、当該技術分野において周知の一部の詳細は説明されていない。当業者は、本願明細書に開示されている技術的解決策を上記の説明に従って具現化する方法を十分に理解できる。
【0084】
本開示のいくつかの特定の実施形態が例によって詳細に説明されているが、当業者は、上記の例は単に説明のためであり、本開示の範囲を制限するためではないことを理解されたい。当業者は、上記の各実施形態は修正可能であること、またはいくつかの技術的特徴は、本開示の範囲および精神から逸脱せずに、等価物に置換可能であることを理解されたい。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【符号の説明】
【0085】
S 歯車スライス工具
W ワーク
v 方向
ω1 速度
ω2 速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
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図14
図15
【外国語明細書】