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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012771
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】原子力プラントの信頼性改善方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20240124BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20240124BHJP
   G21C 19/307 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G21C17/00 100
G21D1/00 W
G21C19/307 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114489
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075BA03
2G075CA03
2G075DA14
2G075EA08
2G075FA20
2G075GA05
(57)【要約】
【課題】腐食電位を主要な監視指標とした信頼性重視保全の適用によって、流れ加速型腐食に対する効率的な予防保全を行って原子力プラントの信頼性を改善する原子力プラントの信頼性改善方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントの信頼性改善方法は、流れ加速型腐食のリスクの高い配管部位を選定する選定ステップと、選定された配管部位の流れ加速型腐食の腐食速度を監視する監視ステップと、配管部位の腐食速度を低減する予防保全実行ステップと、配管部位を流れる冷却水の水質パラメータを制御する是正ステップと、是正ステップを行っても腐食速度が目標範囲に入らない場合に、選定された配管部位の材料を交換する改善ステップと、選定ステップ、監視ステップ、予防保全実行ステップ、是正ステップおよび改善ステップによって、原子力プラントの配管の腐食速度を管理するライフサイクルマネジメントステップと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ加速型腐食のリスクの高い配管部位を選定する選定ステップと、
選定された前記配管部位の流れ加速型腐食の腐食速度を監視する監視ステップと、
前記配管部位の前記腐食速度を低減する予防保全実行ステップと、
前記配管部位を流れる冷却水の水質パラメータを制御する是正ステップと、
前記是正ステップを行っても前記腐食速度が目標範囲に入らない場合に、選定された前記配管部位の材料を交換する改善ステップと、
前記選定ステップ、前記監視ステップ、前記予防保全実行ステップ、前記是正ステップおよび前記改善ステップによって、原子力プラントの配管の前記腐食速度を管理するライフサイクルマネジメントステップと、
を有する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記選定ステップにおいて、原子力プラントの構造物、システムおよび機器に関する重要度分類に基づいて、リスク解析ツールおよび人為的リスク解析のうちの少なくとも一つを利用して前記配管部位を選定する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項3】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記監視ステップにおいて、選定された前記配管部位の腐食電位を監視して、前記腐食電位に基づいて推定される前記配管部位の流れ加速型腐食の腐食速度を監視する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項4】
請求項3に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記監視ステップにおいて、前記腐食電位と、前記配管部位の化学組成、前記冷却水の水質、前記冷却水の温度、および、前記配管部位における前記冷却水の流体力学的特性のうちの少なくとも一つに基づいて前記腐食速度を推定する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項5】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記監視ステップにおいて、前記冷却水の酸素濃度、前記冷却水の過酸化水素濃度、前記冷却水の電気伝導率のうちの少なくとも1つを測定し、当該測定結果を前記腐食速度の校正に用いる原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項6】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記予防保全実行ステップにおいて、酸素注入、過酸化水素注入および酸化チタンのうちの少なくとも1つを行う原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項7】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記是正ステップにおいて、前記冷却水への酸素注入量の増加、前記冷却水への過酸化水素注入量の増加、および、前記冷却水への水素注入量の減少のうちの少なくとも1つを実施する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項8】
請求項1に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記ライフサイクルマネジメントステップにおいて、前記選定ステップ、前記監視ステップ、前記予防保全実行ステップ、前記是正ステップおよび前記改善ステップの繰り返しの過程で蓄積した前記腐食速度を表すデータと、前記配管部位について実測した肉厚の検査結果を表すデータ、および、他のプラントで収集された流れ加速型腐食の腐食速度を表すデータのうちの少なくとも1つとに基づいて、原子力プラント毎且つ配管部位毎のデータベースを構築する原子力プラントの信頼性改善方法。
【請求項9】
請求項8に記載の原子力プラントの信頼性改善方法であって、
前記データベースに基づいて、前記配管部位毎の肉厚検査の時間間隔を延長し、延長された期間における前記配管部位毎の腐食電位の監視によって、前記配管部位毎の流れ加速型腐食に対する機器信頼性を確保する原子力プラントの信頼性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの信頼性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力プラントや原子力プラントでは、配管の材料として、炭素鋼が多用されている。炭素鋼製の配管は、高流速の流体が流れる特定の条件下で、流れ加速型腐食(Flow-accelerated corrosion:FAC)を生じることが知られている。FACは、流速に依存した電気化学的な腐食を主因として生じる。FACは配管の肉厚の減少をもたらすため、FACの予防策が適用されている。
【0003】
原子力プラントの場合、圧力容器の外部に設置される炉外配管に、炭素鋼が多用されている。プラントの設計段階では、高流速の冷却水が流れる炭素鋼製の配管に対して、腐食代が予め設けられている。腐食代は、プラントの供用期間中のFACによる減肉量を見込んで設けられている。供用期間中には、腐食代の減肉量が定期的に検査されている。
【0004】
近年では、炭素鋼製の配管について、予め腐食代を設けるだけでなく、供用期間を通じた予防保全の適正化も望まれている。プラントの安全性の向上や、設備利用率のような経済性の向上や、高経年化への対応の観点からも、FACに対する効率的な対策が求められている。FACを生じ易い炭素鋼製の配管について、検査時期や交換時期の適正化を図り、低コストで合理的な対策で機器信頼性を確保することが望まれている。
【0005】
原子力プラントの場合、FACを抑制する措置としては、材料面では、炭素鋼から低合金鋼やステンレス鋼等の耐食性材料への変更が行われている。また、水質管理面では、冷却水への酸素注入が行われている。FACは、溶存酸素濃度が15~20ppb以下に低下すると生じる。溶存酸素濃度が低下すると、配管の内面に酸化皮膜が形成され難くなり、母材の保護が失われてFACが生じ易くなる。
【0006】
沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)では、給水・復水系統への酸素注入が国内外で広く行われている。原子炉で発生した蒸気等には、水の放射線分解で生成された酸素が含まれている。しかし、復水器で蒸気が凝縮すると、酸素の多くが気相側に残る。そのため、復水は、溶存酸素濃度が10ppb以下に低下することが多い。復水が流れる配管は、酸化皮膜が形成され難くなるため、高温・高流速の冷却水が流れる場合に、FACが生じ易くなる。このような配管のFACは、酸素注入によって対策されている。
【0007】
加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)では、二次系への酸素注入やpH調整が行われている。二次系の冷却水は、アンモニア等の添加によってアルカリ側に調整されている。アルカリ側では、酸化皮膜による母材の保護が失われ難くなり、ヒドラジンの添加や脱気により溶存酸素濃度が10ppb程度に低下しても、FACが進行し難くなることが知られている。
【0008】
FACに関する水質管理の指標としては、主に、冷却水の溶存酸素濃度、pHおよび鉄濃度が用いられている。水質管理の対象としては、給水、復水、炉水、蒸気凝縮水、サプレッションプール水等がある。これらの冷却水が流れる配管系統については、冷却水の流速や、冷却水の温度や、配管径や、エルボ、ベント等の配管の幾何学的形状等の考慮の下で、FACによる減肉量が管理されている。
【0009】
従来、沸騰水型原子炉(BWR)の一部では、冷却水に接液する材料の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)への対策として、水素注入や貴金属注入が行われている。SCCに関する水質管理の指標としては、冷却水の溶存酸素濃度等よりも上位の指標として、腐食電位(Electrochemical Corrosion Potential:ECP)が用いられている。ステンレス鋼は、ECPが-300~-200mV(vs.SHE)程度よりも低くなると、SCC感受性が低くなることが知られている。
【0010】
従来、原子力プラントでは、SCCやエロージョン・コロージョン等の各種の腐食現象に対して、腐食速度の評価に基づく種々の対策が行われている。
【0011】
特許文献1には、原子力プラントの冷却水と接する構造部材の応力腐食割れの発生を管理する原子力プラントの管理方法が記載されている。この方法では、冷却水と接触する構造部材のECP、および、冷却水に含まれる不純物イオンの濃度を測定している。これらの情報に基づいて、応力腐食割れの発生時間を求めている。発生時間が設定時間よりも短いとき、ECPおよび不純物イオンの濃度のうち少なくとも1つを減少させている。
【0012】
特許文献2には、発電プラント等における配管系の減肉評価システムが記載されている。このシステムでは、配管温度の測定結果または配管内部流体温度の測定結果、配管内流体湿り度の測定結果、および、配管内流体速度の測定結果をパラメータとして、減肉速度を表現する数学式を構築している。配管系における最大減肉速度に基づいて、点検インターバル、配管の余寿命、肉厚測定年次計画スケジュールを求めている。
【0013】
特許文献3には、機器及び配管装置類のエロージョン・コロージョンによる減肉計算及び評価法が記載されている。この方法では、実機プラントの系統毎に、オンライン減肉監視システムを構成している。実機プラントにおける減肉データによって、実機プラントの減肉測定データの追加、関数式の補正、減肉計算式のデータベースの追加・修正を行い、エロージョン・コロージョン因子のランク付け及び重み付けを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5483385号公報
【特許文献2】特開2006-138480号公報
【特許文献3】特開平8-178172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の原子力プラントにおいて、配管の腐食を防止する対策は、個々に行われるのが一般的であった。例えば、応力腐食割れ(SCC)に対する対策では、SCCの進展の抑制や、SCCが発見された配管の交換や、交換された配管の健全性の確認が、配管部位毎に個別に行われていた。SCCを許容してプラントを運転する場合には、進展量を評価した上で、既に発生したSCCを継続的に検査する作業が行われていた。
【0016】
流れ加速型腐食(FAC)の場合も同様であり、個々の配管部位毎に対策が行われていた。プラントの設計段階では、特定の配管に対して、供用期間中のFACによる減肉量を見込んだ腐食代が設けられていた。このような腐食代の減肉量は、個別に定期的に検査されていた。個々の配管部位毎の対策や検査に基づいて、将来的な減肉量を予測・管理していくのが、標準的なFACの管理方法であった。
【0017】
しかし、従来のFACの管理方法では、管理対象の配管部位が膨大になるという問題がある。プラント全体におけるFACの予防保全の観点からは、FACが発生する可能性がある配管部位のうち、一定の割合について、定期的な検査を行う必要がある。定期的な検査によって、所定の年数以内に到達すると予測される減肉量が設計範囲内であることを、継続的に確認しなければならない。管理対象の個数や範囲が膨大であると、検査コスト、プラントの稼働率、ヒューマンエラー等が問題となる。
【0018】
特許文献1には、材料の腐食電位(ECP)の測定結果を応力腐食割れ(SCC)の発生時間の推定に利用する技術が記載されている。しかし、ECPの測定結果は、モデル式に対する入力や補正に用いられている。モデル式の確かさは、実測による検査結果と比較して確認する必要がある。従来の技術では、依然として、管理対象が膨大になるという問題がある。
【0019】
モデル式に基づいて腐食速度を推定した場合、将来的な検査計画の策定が可能になる。しかし、管理対象が膨大である場合、或る配管部位についてみると、定期的な検査の時間間隔が長くなる。次回の検査時までに設計範囲を超える腐食減肉が生じないという保証はない。モデル式に基づく推定のみでは、検査の時間間隔を延長して合理化を図ることについて、十分な妥当性が示されているとはいえない。
【0020】
近年、原子力プラントでは、信頼性重視保全(Reliability Centered Maintenance:RCM)の導入が世界的に進められている。RCMに関する代表的な文書としては、米国原子力発電協会(Institute of Nuclear Power Operations:INPO)のAP913がある。RCMでは、機器信頼性確保(Established Reliability:ER)のために、重要な構造物、システムおよび機器(Structures, Systems and Components:SSC)や、最適な保全方法や、保全措置の実施時期を選定し、最適な保全プログラムを策定する。
【0021】
今後、原子力プラントでは、検査コストの削減、プラントの稼働率の向上、ヒューマンエラーの低減等の観点から、RCMの導入が重要となってくる。RCMの導入によって、プラント全体におけるSSCのERが必要になる。しかし、現在のところ、原子力プラントの信頼性に影響するFACに関して、RCMに基づく定型的なERプロセスは存在していない。従来のFACを防止する対策は、状態監視保全(Condition Base Maintenance:CBM)が主流であり、対策内容や管理対象毎に、個々に適用されるに留まっている。
【0022】
RCMでは、ERの状態を示すために、特定の性能指標を常時監視する必要がある。しかし、FACに関しては、RCMに基づく定型的なERプロセスが存在していないため、常時監視する性能指標も定まっていない現状がある。常時監視する性能指標として、妥当性が高い指標があれば、FACによる腐食速度を推定した場合に、推定結果の妥当性を担保することが可能になる。定期的な検査の時間間隔を延長しても、SSCのERが可能になるため、検査が合理化されたFACに対する予防保全の実現が期待される。
【0023】
そこで、本発明は、腐食電位(ECP)を主要な監視指標とした信頼性重視保全(RCM)の適用によって、流れ加速型腐食(FAC)に対する効率的な予防保全を行って原子力プラントの信頼性を改善する原子力プラントの信頼性改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するため、本発明に係る原子力プラントの信頼性改善方法は、流れ加速型腐食のリスクの高い配管部位を選定する選定ステップと、選定された前記配管部位の流れ加速型腐食の腐食速度を監視する監視ステップと、前記配管部位の前記腐食速度を低減する予防保全実行ステップと、前記配管部位を流れる冷却水の水質パラメータを制御する是正ステップと、前記是正ステップを行っても前記腐食速度が目標範囲に入らない場合に、選定された前記配管部位の材料を交換する改善ステップと、前記選定ステップ、前記監視ステップ、前記予防保全実行ステップ、前記是正ステップおよび前記改善ステップによって、原子力プラントの配管の前記腐食速度を管理するライフサイクルマネジメントステップと、を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、腐食電位(ECP)を主要な監視指標とした信頼性重視保全(RCM)の適用によって、流れ加速型腐食(FAC)に対する効率的な予防保全を行って原子力プラントの信頼性を改善する原子力プラントの信頼性改善方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法が適用される原子力プラントの一例を示す図である。
図3】原子力プラントの原子炉冷却材浄化系の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法のフローの具体例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法のフローのBWRへの適用例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法が適用される原子力プラントの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法について説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
≪原子力プラントの信頼性改善方法≫
本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法は、信頼性重視保全(RCM)の適用によって、流れ加速型腐食(FAC)に対する構造物、システムおよび機器(SSC)の信頼性を確保する方法に関する。RCMにおいて常時監視する監視対象は、FACのリスクが高いと予測された配管部位である。常時監視する性能指標は、監視対象の腐食電位(ECP)とすることができる。性能指標としては、配管部位の肉厚を用いることもできるが、ECPを用いることが好ましい。
【0029】
本明細書において、常時監視とは、測定サイクルの大部分の時間範囲で測定対象の傾向を把握できる程度に、測定による情報の収集を継続的に行うことを意味する。常時監視には、任意の時間間隔で行う測定サイクルの一部において、測定機器の交換等のための短時間の測定の停止期間が含まれてもよい。
【0030】
本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法では、監視対象のECP等の性能指標の測定や、ECP等の性能指標の測定結果に基づくFACの腐食速度(FAC速度)の推定や、推定されたFAC速度に基づくFACに対する措置を、プラントのライフサイクルにわたって実施して、FACに対するERプロセスを実現する。RCMの適用によって、FACに対する措置の最適化や、実測を伴う定期的な検査の対象の最適化や、定期的な検査の時間間隔の最適化を図る。これらの最適化によって、検査が合理化されたFACに対する効率的な予防保全を実現し、原子力プラントの信頼性を改善する。
【0031】
監視対象の配管部位としては、原子力プラントの配管のうち、適宜の区間を採用できる。監視対象の配管部位は、単体の配管で構成される区間、単体の配管の一部で構成される区間、および、互いに連結した複数の配管で構成される区間のいずれであってもよい。FACに対する措置は、監視対象の配管部位を含む区間を対象とすることができる。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法は、選定ステップS1と、監視ステップS2と、予防保全実行ステップS3と、是正ステップS4と、改善ステップS5と、ライフサイクルマネジメントステップS6と、を有する。図1は、INPOのAP913のダイアグラムに基づき、新たにFACのために監視指標と各ステップを考案したものである。
【0033】
選定ステップS1は、機器ないし部位を分類して重要な要素を監視対象として選定するステップである。選定ステップS1では、原子力プラントの流れ加速型腐食(FAC)のリスクの高い配管部位を選定する。
【0034】
監視ステップS2は、システムや要素のパフォーマンスを監視するステップである。監視ステップS2では、監視対象として選定された配管部位のECP等の性能指標を監視して、性能指標に基づいて推定される配管部位の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度(FAC速度)を監視する。
【0035】
予防保全実行ステップS3は、機器条件等について予防保全措置を実行するステップである。予防保全実行ステップS3では、監視対象として選定された配管部位の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度(FAC速度)を低減する予防保全措置を実行する。
【0036】
是正ステップS4は、改良保全等の是正措置を実行するステップである。是正ステップS4では、監視対象として選定された配管部位を流れる冷却水の水質パラメータを制御する是正措置を実行する。
【0037】
改善ステップS5は、機器信頼性を継続的に改善する改善措置を実行するステップである。改善ステップS5では、監視対象として選定された配管部位の材料を交換する改善措置を実行する。
【0038】
ライフサイクルマネジメントステップS6は、システムや要素について監視による寿命延長等を管理するステップである。ライフサイクルマネジメントステップS6では、選定ステップS1、監視ステップS2、予防保全実行ステップS3、是正ステップS4および改善ステップS5の繰り返しによって、原子力プラントの配管の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度(FAC速度)を管理する。
【0039】
ステップS3~S5では、ステップS1で監視対象として選定された配管部位に対して、FAC速度が目標範囲に入るように、各種のFACに対する措置を行う。ステップS3~S5の実行によって、ステップS1で選定された配管部位のFACのリスクが低減される。その結果、プラント内の配管部位の中で、FACのリスクの順位が変化する。ステップS6では、このような順位の変化に応じて、監視対象の配管部位を選定し直しながら、監視対象の性能指標の測定や、性能指標の測定結果に基づくFAC速度の推定や、FACに対する措置を繰り返す。
【0040】
なお、監視ステップS2は、適宜の段階で実行することができる。例えば、監視ステップS2は、選定ステップS1、予防保全実行ステップS3、是正ステップS4、改善ステップS5等の実行後に、任意に実行することができる。各ステップの実行後の監視ステップS2の結果に応じて、次のステップの選定や、ステップの実行の要否を判断することができる。
【0041】
本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法によると、FACのリスクの高い配管部位を監視対象として、ECP等の性能指標を常時監視するため、ECP等の性能指標に基づいて推定される監視対象のFAC速度を、目標範囲に入るように管理することができる。そのため、原子力プラントの構造物、システムおよび機器(SSC)の全体について、FACのリスクを、予防保全を合理的に実施可能な水準(As Low As Reasonably Practicable:ALARP)まで低下させることができる。コンフィグレーション管理上で、各SSCが、設計通りのあるべき状態であることや、あるべき性能を発揮していることが示されることになるため、プラントのFACに対する機器信頼性が良好であることを明示することができる。
【0042】
よって、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法によると、RCMの適用によって、FACに対する効率的な予防保全を行って原子力プラントの信頼性を改善することができる。FACを防止する個々の対策は、RCMの導入によって、全体に適用される管理手順と連携させることが可能である。このような連携によって、原子力プラントのライフサイクル全体にわたって長期的且つ継続的に、プラント全体の信頼性を向上するプロセスを構築することが可能になる。従来は、FACによる配管の減肉量を、膨大な配管部位を対象として、実測を伴う定期的な検査で確認する必要があった。これに対し、RCMの適用によると、長期的な観点からは、FACによる減肉量の定期的な検査の一部をECP等の監視指標の常時監視で代替できる。検査の時間間隔の延長や、検査の頻度の軽減や、検査の部位の削減が可能であるため、機器信頼性を確保しつつ、検査を合理化して、検査のコストを低減できる。
【0043】
本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法は、適宜の型式の原子力プラントの適用できる。原子力プラントの型式としては、沸騰水型原子炉(BWR)、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)、加圧水型原子炉(PWR)、天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(GCR)、改良型ガス冷却炉(AGR)、高温ガス炉(HTR)、重水炉(HWR)、溶融塩炉(MSR)、高速増殖炉(FBR)等が挙げられる。
【0044】
≪原子力プラントの構成例≫
図2は、本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法が適用される原子力プラントの一例を示す図である。図2には、沸騰水型原子炉(BWR)を例示する。
図2に示すように、原子力プラントP100は、原子炉P1、タービンP3、復水器P4や、原子炉冷却材浄化系、給水系等を備えている。原子力プラントP100は、運転時に水素注入と貴金属注入との組み合わせを実施可能に設けられている。
【0045】
原子炉P1は、格納容器P11の内部に格納されている。原子炉P1は、圧力容器P12を備えている。圧力容器P12の内部には、炉心P13が内包されており、炉心P13の周囲を取り囲むように、円筒状のシュラウドP15が設置されている。シュラウドP15は、圧力容器P12の内部に取り付けられたシュラウドサポートP41によって、圧力容器P12の内側に支持されている。
【0046】
炉心P13には、複数の燃料集合体が装荷されている。燃料集合体は、チャンネルボックスの内部に複数の燃料棒を格子状に収納することによって形成されている。燃料棒は、核燃料物質で形成された複数の燃料ペレットを被覆管の内部に収納している。炉心P13には、中性子束を計測するための中性子計装管P38が挿入されている。
【0047】
圧力容器P12の内面とシュラウドP15の外面との間には、環状のダウンカマP17が形成されている。圧力容器P12の底部には、複数のジェットポンプP21が設置されている。ジェットポンプP21の出口は、ダウンカマP17の下部に位置している。ジェットポンプP21は、圧力容器P12のダウンカマP17に存在する冷却水を、圧力容器P12の下部の空間である下部プレナムに吐出する。
【0048】
圧力容器P12には、給水系が接続されている。給水系は、給水配管P10や、給水ポンプP5、復水浄化装置P6、給水ポンプP7、低圧給水加熱器P8、高圧給水加熱器P9等によって構成されている。これらの機器は、給水配管P10上に、この順に設置されている。給水配管P10は、復水器P4から圧力容器P12までを管路で接続している。
【0049】
給水系には、水素注入装置P16が、水素注入配管P18を介して接続されている。水素注入配管P18は、給水配管P10のうち、復水浄化装置P6と給水ポンプP7との間の区間に接続している。水素注入配管P18には、開閉自在な開閉弁P19が設けられている。水素注入装置P16は、水素注入を行うための装置であり、原子炉P1に給水される冷却水に対して水素ガスを注入する。
【0050】
給水系には、貴金属注入装置P31が、貴金属注入配管P32を介して接続されている。貴金属注入配管P32は、給水配管P10のうち、高圧給水加熱器P9と圧力容器P12との間の区間に接続している。貴金属注入配管P32には、開閉自在な開閉弁P33が設けられている。貴金属注入装置P31は、貴金属注入を行うための装置であり、原子炉P1に給水される冷却水に対して貴金属化合物の溶液を注入する。
【0051】
圧力容器P12には、原子炉冷却材浄化系が接続されている。浄化系は、ボトムドレン配管P34、浄化系配管P20や、浄化系隔離弁P23、再生熱交換器P25、非再生熱交換器P26、浄化系ポンプP24、炉水浄化装置P27等によって構成されている。これらの機器は、浄化系配管P20上に、この順に設置されている。ボトムドレン配管P34は、圧力容器P12の底部に接続されている。浄化系配管P20は、ボトムドレン配管P34の一端から、給水配管P10の高圧給水加熱器P9と圧力容器P12との間の区間までを管路で接続している。
【0052】
浄化系には、酸素注入装置P43が、酸素注入配管P44を介して接続されている。酸素注入配管P44は、浄化系配管P20のうち、圧力容器P12と再生熱交換器P25との間の区間に接続している。酸素注入配管P44には、開閉自在な開閉弁P45が設けられている。酸素注入装置P43は、酸素注入や過酸化水素注入を行うための装置であり、原子炉P1から抜き出された冷却水に対して酸素ガスや過酸化水素の水溶液を注入する。
【0053】
圧力容器P12には、再循環系が接続されている。再循環系は、再循環系配管P30や、再循環系ポンプP37等によって構成されている。再循環系配管P30は、圧力容器P12のダウンカマP17の下部から、ダウンカマP17の上部までを、圧力容器P12の外部を経由して管路で接続している。再循環系配管P30は、再循環系ポンプP37の上流で分岐している。分岐した配管は、開閉自在な開閉弁P23を介して、浄化系配管P20に合流している。
【0054】
浄化系には、腐食電位センサP35aが設置されている。腐食電位センサP35aは、ボトムドレン配管P34から分岐した分岐配管P34aに設置されている。腐食電位センサP35aは、分岐配管P34a上に連結されたフランジP36に取り付けられている。分岐配管P34aは、冷却水のサンプリングライン等に接続される。
【0055】
再循環系には、腐食電位センサP35bが設置されている。腐食電位センサP35bは、再循環系配管P30に設置されている。腐食電位センサP35bは、再循環系配管P30上に連結されたフランジP36に取り付けられている。
【0056】
腐食電位センサP35a,P35bは、圧力容器P12から抜き出された冷却水の水質の下で、冷却水に接液する材料の腐食電位(ECP)を測定する。腐食電位センサP35a,P35bは、材料の電位を測定する作用極と、冷却水中で基準電位を発生する参照極を備えている。腐食電位センサP35a,P35bは、水素注入や貴金属注入による応力腐食割れ(SCC)の抑制の効果を確認するために設けられている。
【0057】
なお、SCCの抑制の効果を確認するための腐食電位センサは、圧力容器P12の内部に設置することもできる。図2において、下部プレナムには、腐食電位センサP35cが設置されている。炉心13には、腐食電位センサP35dが設置されている。これらの腐食電位センサP35c,P35dは、圧力容器P12の内部の冷却水の水質の下で、冷却水に接液する材料の腐食電位(ECP)を測定する。
【0058】
図2に示す原子力プラントP100において、冷却水は、給水系の給水配管P10から圧力容器P12の内部に供給される。冷却水は、ダウンカマP17の上方で給水スパージャから噴出し、ジェットポンプP21によって炉心P13に供給される。冷却水は、炉心P13において、核燃料物質の核分裂で発生した熱で加熱される。加熱された気液二相流の冷却水は、気水分離器で蒸気と水に分離される。
【0059】
気水分離器で分離された水は、ダウンカマP17を降下して冷却水に戻る。一方、気水分離器で分離された蒸気は、蒸気乾燥器で湿分を除去された後、主蒸気配管P2を通じて、タービンP3に送られる。タービンP3は、発電機と連結されている。蒸気によるタービンP3の回転によって発電が行われる。タービンP3でエネルギを消費した蒸気は、復水器P4で冷却されて冷却水に戻る。
【0060】
冷却水は、復水器P4から圧力容器12に向けて、給水配管P10を通じて供給される。冷却水は、復水器P4から排出された後、復水ポンプP5によって昇圧されて、復水浄化装置P6に導入される。復水浄化装置P6は、冷却水に含まれる不純物を除去する。浄化された冷却水は、給水ポンプP7によって昇圧されて、低圧給水加熱器P8に入った後、高圧給水加熱器P9に導入される。低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9では、冷却水がプラントの熱効率に適した温度まで段階的に加熱される。
【0061】
タービンP3と高圧給水加熱器P9とは、抽気配管P14で互いに接続されている。タービンP3に供給される蒸気から抽気された抽気蒸気は、復水器P4をバイパスして高圧給水加熱器P9に導入された後、低圧給水加熱器P8に導入される。その後、復水ポンプP5よりも上流の給水配管P10に合流する。低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9では、抽気蒸気の熱を利用して冷却水が段階的に加熱される。
【0062】
圧力容器P12の内部の冷却水には、給水時に混入していた金属腐食生成物や、圧力容器P12の構造材の腐食によって生じた金属腐食生成物等が含まれている。そのため、圧力容器P12の内部の冷却水は、一定の割合で抜き出されて、原子炉冷却材浄化系で浄化される。圧力容器P12の内部の冷却水は、圧力容器P12の下部側から浄化系配管P20に向けて、浄化系ポンプP24によって吸引される。
【0063】
圧力容器P12から抜き出された冷却水は、再生熱交換器P25に導入された後、非再生熱交換器P26に導入される。再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26では、冷却水が浄化に適した50℃程度まで冷却される。冷却された冷却水は、炉水浄化装置P27に導入される。炉水浄化装置P27は、冷却水に含まれる金属腐食生成物等の不純物を除去する。浄化された冷却水は、再生熱交換器P25に導入される。再生熱交換器P25では、冷却水がプラントの熱効率に適した温度まで加熱される。
【0064】
原子炉P1の運転の停止時には、全制御棒が炉心P13に挿入される。全制御棒の挿入によって、核燃料物質の核分裂連鎖反応が停止する。炉心P13や圧力容器P12の内部の機器に残留する熱は、冷却水の蒸発によって除去される。但し、或る程度まで冷却水の温度が下がると、蒸発による除熱効率が低下する。そのため、冷却水の温度が150℃程度になったとき、残留熱除去系が運転される。残留熱除去系は、圧力抑制プール水の熱交換、冷却水のスプレイ等を行って、炉心構造物や機器を冷却する。
【0065】
原子力プラントP100では、冷却水に接液する材料の応力腐食割れ(SCC)を抑制する対策として、水素注入、または、水素注入と貴金属注入との組み合わせが行われる。水素注入では、水素注入装置P16によって、原子炉P1に給水される冷却水に対して水素ガスが注入される。貴金属注入では、貴金属注入装置P31によって、原子炉P1に給水される冷却水に対して貴金属化合物の溶液が注入される。
【0066】
SCCの発生に関与する因子としては、材料に加わる引張応力等の力学因子や、材料が晒される環境因子や、材料の化学成分等の材料因子がある。冷却水中では、水の放射線分解によって、酸素や過酸化水素が発生することがある。酸素や過酸化水素は、SCCの環境因子であり、濃度が高いほどSCCを進展させる。そのため、原子力プラントP100では、冷却水に接液する材料のSCCを抑制するために、運転時に水素注入や貴金属注入が行われる。
【0067】
水素注入は、冷却水に水素ガスを注入して、冷却水中の酸素や過酸化水素と水素とを反応させて水に戻す技術である。給水系に注入された水素は、ダウンカマP17の上方で、給水スパージャから冷却水と共に噴出し、圧力容器P12の内部の炉水と混合する。ダウンカマP17の周辺のガンマ線の線量率は適度であるため、酸素や過酸化水素と水素との再結合反応が促進される。再結合反応によって酸素や過酸化水素が消費されるため、腐食環境が緩和される。
【0068】
貴金属注入は、冷却水に貴金属化合物の溶液を注入して、冷却水に接液する材料の表面に貴金属を付着させる技術である。貴金属化合物としては、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム等の白金族化合物が注入される。白金族化合物の溶液は、ガンマ線の照射によって、白金族酸化物のコロイド溶液となり、冷却水と接液する材料の表面に白金族元素を付着させる。白金族元素は、再結合反応を触媒するため、少ない水素注入量で腐食環境が緩和される。
【0069】
水素注入や貴金属注入を行うと、冷却水に接液する材料の腐食電位(ECP)が低下する。貴金属注入の場合は、水素が酸素に対して水の化学量論比(H:O=2:1)である2倍以上で存在すると、-500mV(vs.SHE)付近で再結合反応が進行する。再結合反応と材料の腐食との混成によって、-500mV(vs.SHE)付近まで電位が低下する。水素注入や貴金属注入を行うと、ECPの低下を伴って、SCCの発生や進展が抑制される。
【0070】
水素注入を行わない場合、冷却水の溶存酸素濃度は、通常、数百ppb程度である。一方、水素注入を行った場合、冷却水の溶存酸素濃度は、数ppb程度まで低下する。溶存酸素濃度の低下によって、冷却水に接液する材料のSCC感受性は低減することになる。しかし、水素注入や貴金属注入を行うと、溶存酸素濃度が低下するため、FACが進行し易くなる。FACは、炭素鋼製の配管を顕著に減肉させる。炭素鋼製の配管は、主に、圧力容器P12の外部の区間に用いられている。
【0071】
図3は、原子力プラントの原子炉冷却材浄化系の一例を示す図である。図3には、図2のBWRの原子炉冷却材浄化系の構成の一例を示す。
図3に示すように、原子力プラントP100の浄化系において、再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26は、それぞれ、複数段の熱交換器によって構成される。
【0072】
再生熱交換器P25は、3段の熱交換器P25a,P25b,P25cによって構成されている。非再生熱交換器P26は、2段の熱交換器P26a,P26bによって構成されている。熱交換器同士は、連絡管P42a,P42b,P42c,P42d,P42eを介して、互いに接続されている。一般に、再生熱交換器P25は3段、非再生熱交換器P26は2段で構成される。但し、熱交換器の段数は、特に限定されるものではない。
【0073】
原子炉P1から抜き出された冷却水は、浄化系配管P20を通じて、再生熱交換器P25に送られる。冷却水は、各段の熱交換器P25a,P25b,P25cにおいて、炉水浄化装置P27で浄化された冷却水との熱交換で冷却される。その後、連絡管P42dを通じて、非再生熱交換器P26に導入される。冷却水は、各段の熱交換器P26a,P26bにおいて、補機冷却水との熱交換で冷却される。その後、浄化系ポンプP24で昇圧されて、炉水浄化装置P27に導入される。
【0074】
冷却水は、再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26で冷却された後、炉水浄化装置P27で不純物が除去される。浄化された冷却水は、再生熱交換器P25に送られる。冷却水は、再生熱交換器P25の各段の熱交換器P25a,P25b,P25cにおいて、原子炉P1から抜き出された冷却水との熱交換で加熱される。その後、給水配管P10に送られて、復水と共に原子炉P1に給水される。
【0075】
再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26では、原子炉P1から抜き出された冷却水が、浄化に適した温度まで冷却される。また、再生熱交換器P25では、炉水浄化装置P27で浄化された冷却水が、プラントの熱効率に適した温度まで加熱される。非再生熱交換器P26には、補機冷却系から補機冷却水が供給される。補機冷却水は、非再生熱交換器P26の各段を通る補機冷却系を循環し、海水等との熱交換によって冷却される。
【0076】
流れ加速型腐食(FAC)は、酸化皮膜の溶解に起因する物質移動が関係した電気化学的な腐食である。FACは、冷却水の流速に加え、配管部位の化学組成、冷却水の水質、冷却水の温度、配管部位における冷却水の流体力学的特性等に依存する。FAC速度は、冷却水の流速が大きいほど速くなる。また、冷却水の温度が高いほど速くなり、一般に、130~150℃付近で極大値を示す。また、冷却水の溶存酸素濃度が15ppb程度以下になると速くなる。
【0077】
原子力プラントP100の運転時、圧力容器P12から抜き出される冷却水の温度は、280℃程度の高温となる。浄化系に抜き出された冷却水の温度は、再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26の各段を通過する毎に低下する。非再生熱交換器P26の下流側では、冷却水の温度が80℃以下となる。しかし、浄化系の上流側や下流側では、比較的高温である。また、浄化系における流速は、配管径が小さいため、数m/s程度の高流速である。
【0078】
また、原子力プラントP100の運転時、水素注入や貴金属注入を行うと、浄化系においても、冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度が低下する。特に、貴金属注入を行うと、水素が過剰に生成され易くなるため、酸素量に対する水素量が水の化学量論比を超え易くなる。冷却水中の酸素や過酸化水素は、浄化系の下流側に到達するまでに、再結合反応によって完全に消費されることもある。
【0079】
また、連絡管P42a,P42b,P42c,P42d,P42eや、浄化系配管P20のうち、圧力容器P12の外部の区間は、一般に、炭素鋼で形成されている。これらの配管は、流速に影響する構造を持つ場合がある。流速に影響する構造としては、エルボ、ベント、T字、オリフィス、バルブ等が挙げられる。
【0080】
浄化系を構成する配管、特に、再生熱交換器P25の第1段目の熱交換器P25aと第2段目の熱交換器P25bとを接続する加熱側の連絡管P42aや、第2段目の熱交換器P25bと第3段目の熱交換器P25cとを接続する加熱側の連絡管P42bや、第2段目の熱交換器P25bと第1段目の熱交換器P25aとを接続する冷却側の連絡管P42fは、炭素鋼で形成されており、高流速且つ高温に晒されるため、冷却水の酸素濃度が低下した場合に、FACのリスクが高い配管部位となる。
【0081】
原子力プラントP100では、このようなFACのリスクが高い配管部位を監視対象として選定し、監視対象のFACを抑制する措置として、酸素注入や過酸化水素注入を行うことができる。酸素注入や過酸化水素注入は、水素注入や貴金属注入と同様に、プラントの運転時に行うことができる。
【0082】
酸素注入は、冷却水に酸素ガスを注入して、冷却水の酸素濃度を上昇させる技術である。過酸化水素注入は、冷却水に過酸化水素の水容液を注入して、冷却水の過酸化水素濃度を上昇させる技術である。冷却水の酸化剤の濃度を上昇させると、冷却水と接液する材料の表面に酸化皮膜が形成される。
【0083】
例えば、炭素鋼の場合、ヘマタイト(Fe)を形成できる。ヘマタイトは、マグネタイト(Fe)と比較して、溶解度が小さく、緻密な酸化皮膜を形成する。冷却水の酸化剤の濃度を上昇させると、流速等の物質移動に関わるパラメータが増大しても、酸化皮膜が安定に維持されるため、冷却水と接液する材料のFAC速度を抑制することができる。
【0084】
図3において、再生熱交換器P25の第1段目の熱交換器P25aと第2段目の熱交換器P25bとを接続する放熱側の連絡管P42aには、腐食電位センサP35fが設置されている。また、再生熱交換器P25の第2段目の熱交換器P25bと第1段目の熱交換器P25aとを接続する受熱側の連絡管P42fには、腐食電位センサP35gが設置されている。
【0085】
腐食電位センサP35f,P35gは、冷却水に接液する材料の腐食電位(ECP)を測定するためのセンサである。腐食電位センサP35f,P35gは、材料の電位を測定する作用極と、冷却水中で基準電位を発生する参照極を備えている。腐食電位センサP35f,P35gは、連絡管P42a,P42fのFAC速度を監視するために設けることができる。
【0086】
≪FACに対するERプロセス≫
次に、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法で実施する流れ加速型腐食(FAC)に対する機器信頼性確保(ER)プロセスについて説明する。なお、以下の説明では、FACに対するERプロセスのBWRへの適用を例示する。但し、PWRや他の型式においても、監視対象を適切に選定することによって、同様の適用が可能である。
【0087】
FACに対するERプロセスは、図1に示すステップS1~S5のうち、任意のステップから開始することができる。通常は、常時監視する監視対象を特定するために、選定ステップS1から開始する。
【0088】
(選定ステップS1)
選定ステップS1では、原子力プラントの流れ加速型腐食(FAC)のリスクの高い配管部位を選定する。このステップでは、常時監視する監視対象として、FACのリスクの高い配管系統を選定する。そして、当該配管系統に含まれる配管部位のうち、FACのリスクの高い配管部位を選定する。
【0089】
配管系統および配管部位の選定は、FACに影響するパラメータや、構造物、システムおよび機器(SSC)に関する重要度分類に基づいて行う。これらに基づいて、配管系統および配管部位を、FACのリスクに応じて順位付けする。そして、FACのリスクの高い配管系統、および、当該配管系統に含まれるFACのリスクが最高である配管部位を、常時監視する監視対象として選定する。
【0090】
FACに影響するパラメータとしては、冷却水の流速、配管部位の化学組成、冷却水の水質、冷却水の温度、配管部位における冷却水の流体力学的特性等が挙げられる。冷却水の水質としては、酸素濃度、過酸化水素濃度、電気伝導率、pH、溶存水素濃度、鉄イオン等の不純物濃度が挙げられる。
【0091】
重要度分類は、安全機能を有するSSCの重要度を分類して定めたものである。重要度分類では、原子力プラントのSSCが、異常発生防止系(PS)と異常影響緩和系(MS)とに分類されている。PSおよびMSは、それぞれ、安全機能の重要度に応じて、複数のクラス1~3に分類されている。重要度分類に基づくと、原子力プラントの安全性の観点から、監視対象の優先順位を付けることができる。
【0092】
配管系統および配管部位の選定は、リスク解析ツール、人為的リスク解析、または、これらの両方を利用して行うことができる。リスク解析ツールとしては、リスクを数値化して自動で定量的な解析を行うツール等が挙げられる。人為的リスク解析としては、専門家や、実務従事者や、これらの集団による会議、経験的分析、演繹的分析等に基づく解析が挙げられる。これらを利用すると、配管系統および配管部位を、客観性を確保しつつ、FACのリスクに応じて適切に順位付けすることができる。
【0093】
監視対象として選定する配管部位としては、冷却水の流速が大きい配管部位や、冷却水の温度が130~150℃に近い配管部位や、冷却水の酸化剤の濃度が低い配管部位や、炭素鋼で形成された配管部位が挙げられる。配管系統としては、このような配管部位を含み、圧力容器P12の外部の区間が長く、炭素鋼で形成された区間が長い配管系統を選定する。例えば、浄化系や給水系を選定することができる。
【0094】
監視対象として選定する配管部位としては、浄化系を構成する配管、特に、再生熱交換器P25の第1段目の熱交換器P25aと第2段目の熱交換器P25bとを接続する加熱側の連絡管P42aや、第2段目の熱交換器P25bと第3段目の熱交換器P25cとを接続する加熱側の連絡管P42bや、第2段目の熱交換器P25bと第1段目の熱交換器P25aとを接続する冷却側の連絡管P42fが好ましい。
【0095】
選定ステップS1の実行後には、ステップS2~S5のいずれかに移行することができる。但し、通常は、監視対象のFAC速度を評価するために、監視ステップS2に移行する。ステップS2~S5では、ステップS1で選定された最新の配管系統および配管部位を対象として、ECPの監視や、FACに対する措置を行う。
【0096】
(監視ステップS2)
監視ステップS2では、監視対象として選定された配管部位の性能指標を監視して、性能指標に基づいて推定される配管部位の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度(FAC速度)を監視する。性能指標としては、腐食電位(ECP)等が挙げられる。監視対象のECP等の性能指標は、プラントの供用期間中に常時監視される。FAC速度は、ECP等の性能指標に基づいて推定される。
【0097】
配管部位のECPは、腐食電位センサによって測定することができる。腐食電位センサとしては、必要とされる耐熱性および耐圧性を有し、基準電位を発生する参照極を備え、プラントの運転温度の範囲で作動可能である限り、適宜の電極式のセンサを用いることができる。腐食電位センサは、監視対象として選定された配管部位に応じて、適宜の箇所に設置することができる。
【0098】
ECPの監視は、監視対象として選定された配管部位の近傍に設置された既存の腐食電位センサで行ってもよいし、監視対象として選定された配管部位の近傍に新たに設置した新規の腐食電位センサで行ってもよい。腐食電位センサは、配管継手状のフランジや、T字配管や、配管の周壁に形成した案内口に取り付けることができる。フランジやT字配管は、監視対象として選定された配管部位が属する配管系統の途中に連結できる。
【0099】
FAC速度は、電気化学的な腐食の側面を持つため、材料の腐食電位(ECP)における腐食電流の関数として表すことができる。FAC速度とECPとの相関関係を、配管部位毎に求めておくと、ECPの監視結果を相関関係に当てはめることによって、FAC速度を推定することができる。
【0100】
FAC速度とECPとの相関関係は、監視対象として選定された配管部位の肉厚とECPを実測して求めることができる。監視対象として選定された配管部位のECPは常時監視するが、配管部位の肉厚は、実測を伴う検査によって断続的に測定することができる。ECPは、FAC速度に関係する重要なパラメータであるため、少なくともECPを常時監視すると、FAC速度を高精度に推定できる。
【0101】
FAC速度は、物質移動が関与する側面を持つため、その他のFACに影響するパラメータを併用して推定することもできる。その他のFACに影響するパラメータは、FAC速度とECPとの相関関係の校正に用いてもよいし、物質移動を加味した流体力学的解析の入力として用いてもよい。FAC速度とECPとの相関関係は、FACに影響するパラメータのうちの一種以上を用いて、多変量回帰によって求めることもできる。流体力学的解析は、FACに影響するパラメータのうちの一種以上を入力として行うことができる。
【0102】
例えば、流体力学的解析では、監視対象として選定された配管部位の断面を表した二次元的な計算体系を構築することができる。このような計算体系において、FACに影響するパラメータのうちの一種以上を入力とした基礎方程式を計算する。基礎方程式としては、物質移動を表すモデル式や、流体力学的挙動を表すモデル式等が挙げられる。流体力学的解析においては、エロージョン・コロージョン、液滴衝突エロージョン等による影響を加味することもできる。
【0103】
これらの基礎方程式を連立的に解くと、材料の表面における物質移動やFAC速度を推定できる。物質移動の解析結果は、材料の表面の電気化学的特性を反映したものとなるため、ECPとの比較によって検定することが可能である。ECPを常時監視すると共に、その他のFACに影響するパラメータを併用することによって、ECPに基づいて推定されたFAC速度の妥当性を保証することができる。
【0104】
FAC速度は、ECPと共に、冷却水の酸素濃度、冷却水の過酸化水素濃度、冷却水の電気伝導率、冷却水の鉄イオン濃度、冷却水のpHのうちの少なくとも1つを併用して推定することが好ましい。冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度は、酸化皮膜の安定性や、配管部位を構成する鉄の溶解度等に影響する。また、冷却水の電気伝導率は、鉄イオン等の濃度と関連があり、本設機器で常時監視されている。そのため、これらのパラメータを併用すると、合理的な検査コストの範囲内で、FAC速度を高精度に推定できる。
【0105】
本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法の特徴の一つは、配管部位のECP等の性能指標を常時監視指標とした点にある。FACがBWRの運転に影響を与えていない状態をFACに関するBWRの「あるべき性能」と考え、ECP等の性能指標がFACの抑制に好適な状態であることを常時監視によって明示することが、ERの実現に重要であるとの定義に基づく。
【0106】
FAC速度は、材料の耐食性に影響される。しかし、材料の耐食性は、プラントの運転中に常時監視することができず、プラントの建設時や停止時に分析する必要がある。そのため、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法では、Cr量等の材料の化学組成を常時監視指標としない。但し、Cr量等の材料の化学組成については、実測を伴う検査によって断続的に測定することができる。
【0107】
監視ステップS2では、ECP等の性能指標に基づいて推定されたFAC速度が、予防保全上で許容可能な目標範囲に入っているか否かを確認できる。性能指標に基づいて推定されたFAC速度は、FAC速度の目標範囲の上限値を規定する予め設定された閾値と比較することができる。閾値としては、監視対象である配管部位に設けられた腐食代の大きさや、プラントの供用期間の長さ等に応じて、任意の数値を設定することができる。腐食代の大きさは、配管部位の位置や、配管部位の材料や、FACの許容可能性等に基づいて設定される。
【0108】
監視ステップS2の実行後には、性能指標に基づいて推定されたFAC速度と閾値との比較の結果に応じて、ステップS3~S6のいずれかに移行することができる。
【0109】
例えば、FAC速度が閾値以下である場合、FAC速度が目標範囲に入るため、ライフサイクルマネジメントステップS6に移行することができる。一方、FAC速度が閾値を超える場合、FAC速度が目標範囲に入らないため、是正ステップS4に移行することができる。
【0110】
或いは、FAC速度が閾値を超える場合であって、是正ステップS4を行ってもFAC速度が目標範囲に入らないと予測されるとき、改善ステップS5に移行することができる。また、FAC速度が閾値を超える場合であって、是正ステップS4を行ってもFAC速度が目標範囲に入らないと予測され、且つ、予防保全措置が実行されていないとき、予防保全実行ステップS3に移行することができる。
【0111】
(予防保全実行ステップS3)
予防保全実行ステップS3では、監視対象として選定された配管部位の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度を低減する予防保全措置を実行する。予防保全措置としては、FACの腐食環境を緩和する技術である酸素注入や過酸化水素注入や酸化チタン注入を行う。また、予防保全実行ステップS3では、監視対象として選定された配管部位や、当該配管部位以外の配管部位について、標準的な検査を行うことができる。
【0112】
酸素注入や過酸化水素注入や酸化チタン注入は、配管系統毎に実施することができる。図2に示す原子力プラントP100では、酸素注入装置P43が、浄化系配管P20に接続されている。酸素注入装置P43による酸素注入は、浄化系に属する配管部位に対する予防保全措置となる。実際に、酸素注入装置は、給水配管P10の保護に使用されており、水素注入装置P16と同等の復水系に設置されている。浄化系配管P20や給水配管P10には、過酸化水素注入装置や酸化チタン注入装置を接続することもできる。
【0113】
予防保全措置としては、酸素注入、過酸化水素注入、酸化チタン注入、および、これらのうちの1種以上の組み合わせのうち、いずれを行うこともできる。過酸化水素や酸化チタンの溶液は、液体として用意されるため、ガスボンベやガス配管が不要であり、取り扱いや配管の引き回しが容易である。また、気体とは異なり、高圧力化が容易であるため、各系統に対して小型のポンプで注入できる。
【0114】
酸素ガスの注入量や、過酸化水素の水溶液の注入量や、酸化チタンの注入量は、監視対象として選定された配管部位のFAC速度が予防保全上で許容可能な目標範囲に入るように設定することができる。これらの注入量に対するFAC速度の挙動は、配管部位の肉厚の実測や、物質移動を加味した流体力学的解析を行うことによって、予め確認することができる。
【0115】
酸素注入や過酸化水素注入を行うと、監視対象として選定された配管部位が属する配管系統において、冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度を上昇させることができる。当該配管系統に属する配管部位の表面に酸化皮膜が形成され易くなるため、監視対象として選定された配管部位や、その近傍の配管部位において、FAC速度を低下させることができる。また、酸化チタン注入を行うと、酸化皮膜の溶解度が低下するため、FAC速度を低下させることができる。これらの注入を行うと、監視対象として選定された配管部位だけでなく、その近傍の配管部位についても、FACに対する健全性を確保できる。
【0116】
予防保全実行ステップS3では、監視対象として選定された配管部位や、当該配管部位以外の配管部位について、実測を伴う標準的な検査を行うこともできる。標準的な検査は、常時監視とは異なり、必要時に断続的に行われる。標準的な検査としては、配管部位の肉厚測定が行われる。肉厚は、例えば、超音波厚さ計等で測定できる。材料の組成は、通常は、プラント建設時の材料の成分表で管理される。但し、FACによる不具合が発生した場合には、併せて材料や酸化皮膜の化学組成も分析される。化学組成は、例えば、蛍光X線(X‐ray Fluorescence:XRF)分析等で測定できる。化学組成としては、母材のCr量等や、酸化皮膜のFe量、O量等が挙げられる。
【0117】
標準的な検査の検査結果は、断続的な検査の繰り返しの過程で、検査毎のデータとして蓄積できる。繰り返しの過程で蓄積したデータは、配管部位毎の時系列のデータとしてデータベース化することができる。肉厚の検査結果に関するデータベースは、性能指標に基づいて推定されたFAC速度の検定に用いることができる。材料の化学組成の検査結果に関するデータベースは、FAC速度とECPとの相関関係の校正や、流体力学的解析の入力として用いることができる。
【0118】
予防保全実行ステップS3によると、監視対象として選定された配管部位について、FACの発生や進行を未然に抑制する予防的な対策を行うことができる。予防保全実行ステップS3の実行後には、監視ステップS2に移行することができる。監視ステップS2では、予防保全実行ステップS3の実行後のFAC速度を確認することができる。
【0119】
(是正ステップS4)
是正ステップS4では、監視対象として選定された配管部位を流れる冷却水の水質パラメータを制御する是正措置を実行する。このステップでは、FACに影響するパラメータのうち、冷却水の水質に関する水質パラメータを制御して、監視対象として選定された配管部位のFAC速度を低減させる。是正ステップS4は、予防保全実行ステップS3の実行後に、監視ステップS2を経由してから行うことが好ましい。
【0120】
水質パラメータとしては、冷却水の酸素濃度、冷却水の過酸化水素濃度、冷却水の電気伝導率、冷却水のpH、冷却水の溶存水素濃度、冷却水の鉄イオン等の不純物濃度が挙げられる。水質パラメータとしては、FACへの影響が大きい点や、制御性が高い点等から、冷却水の酸素濃度、冷却水の過酸化水素濃度、冷却水の電気伝導率のうちの少なくとも1つを制御することが好ましい。
【0121】
冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度は、冷却水への酸素ガスの注入量の増加や、過酸化水素の水溶液の注入量の増加や、SCCに影響のない範囲での水素注入量の減少によって増大させることができる。また、冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度は、冷却水への酸素ガスの注入量の減少や、過酸化水素の水溶液の注入量の減少や、放射能挙動に影響のない範囲での水素注入量の増加によって低下させることができる。
【0122】
また、冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度は、運転に影響のない範囲で原子炉の運転管理によって制御することができる。例えば、原子炉の出力の低下や、原子炉の冷却水の水量の増加や、原子炉の冷却水の温度の低下によって増大させることができる。また、原子炉の出力の増大や、原子炉の冷却水の水量の減少や、原子炉の冷却水の温度の上昇によって低下させることができる。
【0123】
冷却水の電気伝導率は、不純物の濃度の調整や、酸化チタンの注入量の調整によって制御することができる。不純物としては、鉄イオン等の金属イオンや、塩化物イオン、硫酸イオン等が挙げられる。不純物の濃度は、サンプリングライン等を通じてサンプリングを行い、オフラインで分析できる。不純物の濃度は、復水浄化装置、炉水浄化装置等の浄化能力の調整によって制御できる。
【0124】
是正ステップS4では、ECPに基づいて推定されたFAC速度が、予防保全上で許容可能な目標範囲に入るように、冷却水の水質パラメータを制御する。是正ステップS4では、水質パラメータの制御によって是正されたFAC速度を、予め設定された閾値と比較することができる。閾値としては、監視ステップS2と同様に、任意の数値を設定することができる。
【0125】
是正ステップS4によると、監視対象として選定された配管部位について、FACの発生や進行を即時的に抑制する即応性高い対策を行うことができる。是正ステップS4の実行後には、監視対象のFAC速度を評価するために、監視ステップS2に移行することができる。その後、水質パラメータの制御によって是正されたFAC速度と閾値との比較の結果に応じて、ステップS5~S6のいずれかに移行することができる。
【0126】
例えば、水質パラメータの制御によって是正されたFAC速度が閾値を超える場合、是正ステップS4に戻ることができる。再度の是正ステップS4では、FAC速度が予防保全上で許容可能な目標範囲に入るように、水質パラメータの制御内容を変更することができる。
【0127】
制御内容の変更の結果、水質パラメータの制御によって是正されたFAC速度が閾値以下である場合、FAC速度が目標範囲に入るため、ライフサイクルマネジメントステップS6に移行することができる。一方、水質パラメータの制御によって是正されたFAC速度が閾値を超える場合、FAC速度が目標範囲に入らないため、改善ステップS5に移行することができる。
【0128】
水質パラメータを制御すると、冷却水の酸素濃度や過酸化水素濃度が増大して、水素注入や貴金属注入による応力腐食割れ(SCC)の抑制の効果が弱くなる。そのため、酸素ガスの注入量の増加や、過酸化水素の水溶液の注入量の増加には、腐食の予防保全上で上限がある。また、原子炉の運転管理による制御や、冷却水の電気伝導率の制御には、範囲的な限界がある。そのため、水質パラメータの制御内容を変更してもFAC速度が目標範囲に入らない場合、改善ステップS5に移行して配管部位の材料の交換を行う。
【0129】
なお、是正ステップS4では、性能指標に基づいて推定されたFAC速度が、予防保全上で許容可能な目標範囲に入るように、冷却水の水質パラメータを制御するが、水質パラメータの制御は、FAC速度に代えて、ECPを指標として行うこともできる。ECPを指標とする場合、ECPが所定の目標範囲に入るように、冷却水の水質パラメータを制御することができる。
【0130】
(改善ステップS5)
改善ステップS5では、監視対象として選定された配管部位の材料を交換する改善措置を実行する。配管部位の材料の交換は、是正ステップS4を行っても流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度が目標範囲に入らない場合や、是正ステップS4を行った上で継続的な対策が必要な場合に行うことができる。配管部位の材料の交換は、FACに対するERプロセスを管理するコンピュータによって、FAC速度の監視結果に基づいて提案することもできる。
【0131】
配管部位の材料は、FACに対する健全性が確保される限り、要求される目的や材料コスト等に応じて、適宜の材料に交換することができる。但し、交換する配管部位が長いほど、材料コストが増大する。また、耐食性が高い材料ほど、一般に高価である。また、溶接性や溶接検査の要否が材料毎に異なり、メンテナンスコストに関係する。そのため、配管部位の位置や長さに応じて、適切な材料を選定することが好ましい。
【0132】
配管部位の材料は、腐食による減肉が実質的に生じていない限り、現在の配管部位と同種の材料に変更することができる。また、現在の配管部位よりも耐食性が高い材料に変更することもできる。配管部位の材料は、長期的な健全性を確保する観点からは、耐食性が高い材料に変更することが好ましい。配管部位の材料は、異なる金属種に変更してもよいし、同じ金属種のうちの異なる化学組成に変更してもよい。
【0133】
配管部位の材料は、0.3質量%以下の不純物レベルのCrが添加された炭素鋼や、0.3質量%以上数質量%以下のCrが添加された低合金鋼や、ステンレス鋼等に交換することができる。低合金鋼は、合金元素の合計が5質量%以下である合金鋼である。低合金鋼としては、0.3~数質量%程度のCrと、0.3質量%以上のNiや、0.08質量%以上のMo等を含む合金鋼が挙げられる。ステンレス鋼としては、0.03質量%以下のCを含む低炭素ステンレス鋼等が挙げられる。
【0134】
改善ステップS5によると、監視対象として選定された配管部位について、FACの発生や進行を長期的に抑制する継続的な対策を行うことができる。改善ステップS5の実行後には、ステップS2~S3、S6のいずれかに移行することができる。監視ステップS2では、改善ステップS5の実行後のFAC速度を確認することができる。予防保全実行ステップS3では、改善ステップS5の実行後の材料に予防保全措置を実施することができる。
【0135】
(ライフサイクルマネジメントステップS6)
ライフサイクルマネジメントステップS6では、選定ステップS1、監視ステップS2、予防保全実行ステップS3、是正ステップS4および改善ステップS5の繰り返しによって、原子力プラントの配管の流れ加速型腐食(FAC)の腐食速度を管理する。ライフサイクルマネジメントステップS6は、ステップS1~5のうちの少なくとも一部を繰り返すことを内容とする。
【0136】
ライフサイクルマネジメントステップS6では、ステップS1~S5の繰り返し毎に、FACのリスクに応じて、監視対象となる配管部位を更新する。そして、監視対象として選定された配管部位について、ECP等の性能指標の測定や、性能指標に基づくFAC速度の推定や、推定されたFAC速度に基づくFACに対する措置を繰り返す。FACに対する措置の選定や、FACに対する措置の実行の要否の判断を行って、原子力プラントの配管のFACに対するERを実現する。
【0137】
ライフサイクルマネジメントステップS6では、性能指標に基づいて推定されたFAC速度に基づいて、予防保全実行ステップS3で行う標準的な検査の検査条件を変更することができる。検査条件の変更は、選定ステップS1で選定された監視対象や、監視対象以外の従来の定検対象について適用される。検査条件としては、検査を行う頻度や、検査対象とする配管部位の個数や、検査対象とする配管部位の範囲が挙げられる。
【0138】
ステップS1~S5の繰り返しの過程で、監視ステップS2において、FAC速度が閾値以下である場合、検査を行う時間間隔の延長や、検査対象とする配管部位の個数の削減や、検査対象とする配管部位の範囲の縮小を行うことができる。このような検査条件の変更を行うと、プラント全体において、実測を伴う検査を合理化することができる。
【0139】
ECP等の性能指標の測定結果や、性能指標に基づいて推定されたFAC速度の推定結果や、標準的な検査の検査結果は、ステップS1~S5の繰り返しの過程で、配管部位毎のデータとして蓄積できる。繰り返しの過程で蓄積したデータは、配管部位毎の時系列のデータとしてデータベース化することができる。性能指標の測定結果を表すデータや、FAC速度の推定結果を表すデータや、標準的な検査において配管部位について実測した肉厚の検査結果を表すデータは、原子力プラント毎に蓄積することができる。
【0140】
ライフサイクルマネジメントステップS6では、ステップS1~S5の繰り返しの過程で蓄積したFAC速度の推定結果を表すデータと、ステップS1~S5の繰り返しの過程で蓄積した配管部位について実測した肉厚の検査結果を表すデータ、および、他のプラントで収集されたFAC速度を表すデータのうちの少なくとも1つとに基づいて、原子力プラント毎、且つ、配管部位毎の保全管理用データベースを構築することができる。
【0141】
保全管理用データベースは、性能指標に基づいて推定されたFAC速度の検定に用いることができる。検定では、当該原子力プラントで収集されたFAC速度の推定結果に基づく推定減肉量と、当該原子力プラントで収集された肉厚の検査結果に基づく実測減肉量とを比較する。或いは、当該原子力プラントで収集されたFAC速度に基づく減肉量と、他の原子力プラントで収集されたFAC速度に基づく減肉量とを比較する。
【0142】
原子力プラント同士で比較を行う場合、FAC速度に基づく減肉量としては、原子力プラント同士でFACに影響するパラメータが近似した配管部位同士のデータを比較することが好ましい。FAC速度に基づく減肉量は、原子力プラント毎、且つ、配管部位毎に、実測減肉量等との比較によって、検定されていることが好ましい。
【0143】
比較の結果、減肉量同士が所定の裕度の範囲内で一致した場合、当該原子力プラントで監視対象として選定された配管部位の減肉量が確からしいと判定できる。このような場合、減肉量同士が一致した旨を、ステップS1~S5の繰り返し毎に記録することができる。ステップS1~S5の繰り返しに対して、減肉量同士の一致が所定のサイクルにわたって確認された場合、予防保全実行ステップS3で行う標準的な検査の検査条件を変更することができる。
【0144】
このような保全管理用データベースに基づく検査条件の変更を行うと、実測を伴う検査を合理化することができる。監視ステップS2において性能指標に基づいて推定されたFAC速度を閾値と比較する場合と比較して、所定のサイクルにわたって判定が行われる。そのため、検査を合理化することの妥当性をより高度に保証することができる。
【0145】
ライフサイクルマネジメントステップS6によると、プラント全体の配管について、FACに対する長期的な保全管理を行うことができる。ライフサイクルマネジメントステップS6では、監視対象の配管部位の性能指標の常時監視を前提として、監視対象の配管部位や、当該配管部位と同一の配管系統に属する他の配管部位について、検査の時間間隔の延長や、検査の頻度の軽減や、検査の部位の削減が可能になる。ライフサイクルマネジメントステップS6は、原子力プラントの供用期間中に継続することができる。
【0146】
以上の本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法で実施するFACに対するERプロセスによると、従来の技術とは異なり、プラントのあるべき性能が損なわれないことを、ECP等の性能指標を常時監視することによって担保することができる。FACのリスクに応じて監視対象を選定するため、監視対象として選定された配管部位だけでなく、監視対象以外の配管系統についてもERを実現できる。不確かさによる安全性の低下を生じることなく、検査物量を削減することが可能である。よって、このようなERプロセスによって、機器信頼性の向上と機器保全の合理化とを同時に実現することができる。定検項目の見直しや、被曝環境に対する作業者の安全性の確保が可能になる。
【0147】
従来のFACに関する水質管理では、主要な指標として、溶存酸素濃度、pH、鉄濃度が用いられているが、これらの指標では、測定を行ったとしても、FACの発生箇所が測定位置か、測定位置よりも上流か、特定できないという問題がある。これに対し、ECPを指標とすると、センサが設置された局所の腐食環境が測定されるため、FACの発生箇所を精密に知ることが可能になる。配管の材料のECPは、配管を流れる冷却水の腐食環境を表している。そのため、SCCへの対策のために設置した腐食電位センサは、FACへの対策にも使用することが可能である。ECPは、pHの影響を受けて変動する。また、流動条件によって決まる物質移動の影響を受けるため、冷却水の流速や、配管径や、管路の幾何学的形状や、冷却水の温度の影響を受けて変動する。そのため、ECPは、FACの発生箇所を精密に求めるための指標として有用である。
【0148】
≪FACに対するERプロセスの具体例≫
次に、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法で実施するFACに対するERプロセスの具体例について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法のフローの具体例を示す図である。
【0149】
図4のIに示すように、選定ステップS1では、FACのリスクの高い配管部位を選定する。配管部位の選定は、プラント単位で行ってもよいし、配管系統単位で行ってもよい。例えば、配管部位A~Hがある場合、これらの配管部位を、FACのリスクに応じて順位付けする。FACのリスクが最高である配管部位Aが、ECPを常時監視する監視対象として選定される。
【0150】
図4のIIに示すように、監視ステップS2では、監視対象として選定された配管部位のECPを監視して、ECPに基づいて推定される配管部位のFAC速度を監視する。監視対象のFAC速度は、プラントの起動から停止までの運転サイクルにおいて、所定の性能目標範囲に入るように制御する必要がある。性能目標範囲は、プラントの運転サイクル毎に予め設定することができる。監視対象のFAC速度は、実測を伴う検査によって断続的に測定される肉厚の検査データとの一致性が確認される。
【0151】
図4のIIIに示すように、ECPに基づいて推定される配管部位のFAC速度に応じて、予防保全実行ステップS3、是正ステップS4および改善ステップS5のいずれかが実行される。予防保全実行ステップS3では、例えば、酸素注入が行われる。是正ステップS4では、水質パラメータの制御が行われる。改善ステップS5では、配管部位の材料の交換が行われる。
【0152】
予防保全実行ステップS3で酸素注入を行うと、酸素注入が行われた配管系統に属する配管部位において、FAC速度が低下する。但し、FAC速度の低下の程度は、配管の材料、温度、冷却水の流れの状態、配管の幾何学的形状等に応じて異なる。例えば、監視対象として選定された配管部位Aについては、FAC速度が目標範囲に入るように、是正ステップS4で水質パラメータの制御が行われる。
【0153】
予防保全実行ステップS3や是正ステップS4では、FAC速度が目標範囲まで下がらない場合がある。例えば、配管部位B~Eは、選定ステップS1で高リスクに順位付けされたが、FAC速度が目標範囲まで下がらなかったものである。このような配管部位については、機器信頼性を継続的に改善させるために、改善ステップS5で配管部位の材料の交換が行われる。なお、FAC速度が目標範囲まで下がるか否かは、ECPに基づいて推定されたFAC速度に基づいて判断してもよいし、過去の検査実績や他のプラントにおける運転経験に基づいて判断してもよい。
【0154】
ライフサイクルマネジメントステップS6では、FACのリスクの順位の変化に応じて、配管部位を選定し直しながら、監視対象のECPの測定や、ECPの測定結果に基づくFAC速度の推定や、FACに対する措置を繰り返す。このようなERプロセスによって、FACのリスクがALARPになる。監視対象として選定された配管部位について、FACのリスクが低下するため、当該配管部位と同一の配管系統に属する他の配管部位についても、FACのリスクの低下を明示できる。そのため、原子力プラントの長期的な信頼性を改善できる。
【0155】
≪FACに対するERプロセスのBWRへの適用例≫
次に、本実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法で実施するFACに対するERプロセスのBWRへの適用例について説明する。図5は、本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法のフローのBWRへの適用例を示す図である。
【0156】
図5のIに示すように、BWRでは、配管部位毎にFAC速度が異なる。選定ステップS1では、原子炉冷却材浄化系や給水系を候補として、FACのリスクの高い配管部位を選定する。これらの配管系統は、圧力容器の外部の区間が長く、炭素鋼管が多用されているため、FACのリスクの高い配管系統となる。配管部位の候補としては、再生熱交換器の連絡管、浄化系配管、給水配管等が挙げられる。
【0157】
各段の熱交換器は、管側の連絡管と胴側の連絡管を備えている。例えば、3段の熱交換器の場合、管側と胴側との合計で4箇所が候補となる。例えば、FACのリスクが最高である連絡管が、ECPを常時監視する監視対象として選定される。FACのリスクが低いと予測される配管部位については、選定の候補から予め除外することが可能である。例えば、冷却水が低温である配管部位等は、FACのリスクが低いと予測される。
【0158】
図5のIIに示すように、予防保全実行ステップS3や是正ステップS4を実行すると、配管部位毎にFAC速度が低下する。例えば、選定ステップS1で選定された連結管は、FACの腐食速度が目標範囲内となるように制御される。酸素注入によってFAC速度が目標範囲に入らない場合は、SCCに影響のない範囲での水素注入量の減少や、貴金属注入量の増加も組み合わせることができる。但し、配管部位Bのように、配管の材料、温度、冷却水の流れの状態、配管の幾何学的形状等によっては、FAC速度が低下し難い配管部位が生じる。
【0159】
図5のIIIに示すように、改善ステップS5を実行すると、材料が交換された配管部位において、FAC速度が大きく低下する。例えば、配管部位Bのように、FAC速度が低下し難い配管部位は、次回以降のサイクルにおいて、監視対象として選定されて、改善ステップS5で材料の交換が行われる。また、ボトムドレン配管P34等のように、浄化系の上流側や下流側の配管や、給水系の下流側の配管は、冷却水が高温であるため、酸素注入が困難である。このような配管部位については、改善ステップS5で材料の交換によって対策される。
【0160】
図5のIVに示すように、ライフサイクルマネジメントステップS6を実行すると、いずれの配管部位についても、FACのリスクがALARPになる。例えば、連絡管は、FACのリスクが最高である配管部位であったが、各種の措置によってFACのリスクが低下する。連絡管のFACのリスクが低下していることを、ECPの常時監視によって明示し続けることによって、連絡管以外の配管部位についても、FACのリスクが低下していることを示すことが可能になる。
【0161】
よって、ライフサイクルマネジメントステップS6を実行すると、監視対象の配管部位のECPの常時監視を前提として、監視対象の配管部位や、当該配管部位と同一の配管系統に属する他の配管部位について、検査の時間間隔の延長や、検査の頻度の軽減や、検査の部位の削減を行うことができる。被曝環境に対する作業者の安全性を確保しながら、機器信頼性を確保しつつ、検査等の機器保全の合理化を進めることができる。
【0162】
≪変形例1≫
監視ステップS2では、配管部位のECP等の性能指標と共に、補助的な性能指標を常時監視することもできる。補助的な性能指標としては、冷却水の酸素濃度、冷却水の過酸化水素濃度、冷却水の電気伝導率、冷却水の鉄イオン濃度、冷却水のpHのうちの少なくとも1つが挙げられる。また、貴金属注入や酸化チタン注入等によって配管部位の材料の表面に付着させた物質の付着量が挙げられる。
【0163】
これらの補助的な性能指標は、FAC速度との相関関係が定期的に求められる。このような相関関係に基づいて、配管部位のFAC速度を推定することができる。補助的な性能指標を常時監視すると、腐食電位センサを設置できない配管部位や、腐食電位センサの故障等でECPを測定できない期間についても、機器信頼性を保証することができる。
【0164】
なお、補助的な性能指標とFAC速度との相関関係は、原子炉の出力の影響を受けることがあり、核燃料の燃焼度、制御棒の位置、炉心の冷却水量等で変化することがある。そのため、補助的な性能指標とFAC速度との相関関係は、長期的に使用し続けることが困難である。よって、このような相関関係は、原子炉の燃料交換毎や、所定の運転時間毎に、定期的に求めて更新することが好ましい。例えば、原子炉の全燃料が置換される5年程度の期間毎に、少なくとも更新することが好ましい。
【0165】
冷却水の酸素濃度や、冷却水の過酸化水素濃度は、水素注入や貴金属注入によるSCCの抑制の効果が得られる範囲であれば、FAC速度が低下するまで増加させることができる。一方、貴金属注入は、再結合反応を触媒して、ECPを水素の酸化還元電位付近に維持するものである。よって、補助的な性能指標として、貴金属注入による付着量を用いる場合は、水素が酸素に対して水の化学量論比以上で存在することを確認することが好ましい。このような範囲であれば、貴金属注入による付着量が信頼性高い性能指標となる。
【0166】
なお、酸化チタン注入は、冷却水に酸化チタンの溶液を注入して、配管の内面に酸化チタンを付着させる技術である。酸化チタンは、チェレンコフ光の下で光触媒作用を示し、材料の腐食電位を低下させることが知られている。酸化チタンは、酸化皮膜に取り込まれて、溶解度が低いイルメナイト(FeTiO)を生成するため、FACを抑制することができる。
【0167】
冷却水の電気伝導率や、冷却水の鉄イオン濃度は、冷却水の水質や冷却水の浄化能力の範囲で、FAC速度が低下するまで低下させることができる。ECPやFAC速度の監視中には、FAC速度の上昇が、酸素注入等の対策やECPではなく、水質自体の変化によると判明することがある。このような場合、是正ステップS4や、その他のステップ中に、冷却水に対する浄化能力を高めることができる。
【0168】
≪変形例2≫
監視ステップS2では、常時監視する性能指標として、配管部位のECPに代えて、配管部位の肉厚を用いることもできる。配管部位の肉厚は、高温環境に対応した超音波厚さ計等で、プラントの運転中に直接的に測定することができる。配管部位の肉厚は、監視対象として選定された配管部位を含め、1箇所以上の測定点で測定することができる。但し、配管部位の肉厚は、ECPとは異なり、測定ノイズを生じ易い。そのため、FACに対する迅速な措置を行う観点や、措置の制御性を向上させる観点からは、ECPを常時監視することが好ましい。
【0169】
≪変形例3≫
図6は、本発明の実施形態に係る原子力プラントの信頼性改善方法が適用される原子力プラントの一例を示す図である。図6には、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)を例示する。前記の原子力プラントの信頼性改善方法は、ABWR等の他の型式の原子力プラントに適用することもできる。
図6に示すように、原子力プラントP200は、ABWRであり、原子炉P1、タービンP3、復水器P4や、原子炉冷却材浄化系、給水系等を備えている。
【0170】
原子力プラントP200は、原子力プラントP100と異なり、再循環系を備えていない。また、原子力プラントP200は、ジェットポンプP21に代えて、インターナルポンプP40を備えている。ボトムドレン配管P34の下流は、浄化系配管P20と残留熱除去系配管P20aとに分岐している。残留熱除去系配管P20aの下流は、圧力容器P12の内部のダウンカマP17に連通している。
【0171】
また、タービンP3と高圧給水加熱器P9および低圧給水加熱器P8とは、抽気配管P14で互いに接続されている。蒸気から抽気された抽気蒸気は、復水器P4をバイパスして高圧給水加熱器P9と低圧給水加熱器P8とに導入されている。高圧給水加熱器P9のドレンは、給水に戻される構成とされている。低圧給水加熱器P8のドレンは、復水に戻される構成とされている。
【0172】
原子力プラントP200において、腐食電位センサP35aは、ボトムドレン配管P34から分岐した分岐配管P34aに設置されている。また、腐食電位センサP35eが、残留熱除去系配管P20a上に連結されたフランジP36に取り付けられている。腐食電位センサP35a,P35eは、水素注入や貴金属注入による応力腐食割れ(SCC)の抑制の効果を確認するために設けられている。
【0173】
原子力プラントP200において、冷却水に接液する材料の腐食電位(ECP)を測定するための腐食電位センサは、原子力プラントP100と同様に、再生熱交換器P25の連絡管P42a,P42f等に設置することができる。また、酸素注入や過酸化水素注入や酸化チタン注入を行う注入装置は、浄化系配管P20や給水配管P10に接続することができる。
【0174】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0175】
S1 選定ステップ
S2 監視ステップ
S3 予防保全実行ステップ
S4 是正ステップ
S5 改善ステップ
S6 ライフサイクルマネジメントステップ
P100 原子力プラント
P1 原子炉
P2 主蒸気配管
P3 タービン
P4 復水器
P5 復水ポンプ
P6 復水浄化装置
P7 給水ポンプ
P8 低圧給水加熱器
P9 高圧給水加熱器
P10 給水配管
P11 格納容器
P12 圧力容器
P13 炉心
P14 抽気配管
P15 シュラウド
P16 水素注入装置
P17 ダウンカマ
P18 水素注入配管
P19 開閉弁
P20 浄化系配管
P21 ジェットポンプ
P23 浄化系隔離弁
P24 浄化系ポンプ
P25 再生熱交換器
P26 非再生熱交換器
P27 炉水浄化装置
P30 再循環系配管
P31 貴金属注入装置
P32 貴金属注入配管
P33 開閉弁
P34 ボトムドレン配管
P35 腐食電位センサ
P36 フランジ
P38 中性子計装管
P40 インターナルポンプ
P41 シュラウドサポート
P42 連絡管
P43 酸素注入装置
P44 酸素注入配管
P45 開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6