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特開2024-127717D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127717
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/90 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C12N9/90
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175143
(22)【出願日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】202310215892.6
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521424024
【氏名又は名称】ヘナン・ジョンダ・ヘンユアン・バイオテクノロジー・ストック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HENAN ZHONGDA HENGYUAN BIOTECHNOLOGY STOCK CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】EAST OF JINGER ROAD, NORTH OF WEIER ROAD, LINYING INDUSTRIAL PARK, LUOHE CITY, HENAN, CHINA, 462600
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サンイン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ジヘン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンジュン・ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リンジェン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ロンロン・シエ
(72)【発明者】
【氏名】ティアンイ・パン
(57)【要約】
【課題】D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法を提供する。
【解決手段】D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液にリゾチームを加え、醗酵液がOD600≦1となるように攪拌して酵素液を得るステップと、アルカリ溶液で酵素液を弱アルカリ性に調整し、弱アルカリ性の酵素液を室温条件下で保存するステップと、を含むことを特徴とするD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液にリゾチームを加え、醗酵液がOD600≦1となるように攪拌して酵素液を得るステップと、アルカリ溶液で酵素液を弱アルカリ性に調整し、弱アルカリ性の酵素液を室温条件下で保存するステップと、を含むことを特徴とするD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項2】
前記リゾチームの濃度≧0.06g/Lである、ことを特徴とする請求項1に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項3】
前記リゾチームの濃度が0.06~0.2g/Lである、ことを特徴とする請求項2に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項4】
前記リゾチームの濃度が0.1g/Lである、ことを特徴とする請求項3に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項5】
前記のアルカリ溶液で酵素液を弱アルカリ性に調整するためのアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム溶液,水酸化カリウム溶液,リン酸水酸二ナトリウム溶液またはリン酸水酸二カリウム溶液であり、アルカリ溶液で調整した酵素液のpHは7.5~8.5である、ことを特徴とする請求項1に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項6】
前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム溶液であり、アルカリ溶液で調整した酵素液のpHは8.0である、ことを特徴とする請求項5に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【請求項7】
前記の弱アルカリ性の酵素液を室温条件下で保存する際の室温≦30℃である、ことを特徴とする請求項1に記載のD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物工学の分野に関し、特に、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アルロース(D-psicose)は希少糖であり、D-フルクトース(D-fructose)のエピマーであり、その甘味度はショ糖の70%に相当するが、カロリーはショ糖の0.3%でしかなく、ショ糖の代替品として優れている。研究によると、D-アルロースは、フルクトースやグルコースの体内吸収を抑制する作用を果たし、脂肪の蓄積量を低下させ、I I型糖尿病や過度肥満などの病症のリスクを低減することができる。現在、D-アルロースは、食品、ヘルスケア製品への幅広い応用が期待されている。
【0003】
D-アルロースの工業的調製方法は、主に生物酵素法、すなわちフルクトースを基質とし、D-アルロース-3-異性化酵素を用いてフルクトースをD-アルロースに変換する方法に基づいている。このうち、D-アルロース-3-異性化酵素のほとんどは、構築された工学的細菌のスケール醗酵培養によって得られ、D-アルロース-3-異性化酵素の醗酵液中の酵素の放出と酵素液の保存は、D-アルロースの工業的生産に非常に重要である。
【0004】
従来のD-アルロース-3-異性化酵素の醗酵液の処理および保存工程は、遠心分離、再溶解、低温ホモジナイズ、二次遠心分離を経て、低温条件(一般的に4℃)で保存する。しかし、保存時間が長くなると、D-アルロース-3-異性化酵素の失活が深刻になり、また、15日間低温保存後には酵素液に臭いが出始め(酵素活性が低下し)、企業のD-アルロースの生産コストが増加していた。
【0005】
現在、D-アルロース-3-異性化酵素液の保存効果を改善し、酵素活性を確保することに関連する報告も登場しており、例えば特許文献1(中国特許出願公開第115074350号明細書)には、D-アルロース3異性化酵素液酵素活性の低下を抑える方法が開示されており、この方法は、二次遠心分離後、上澄み液(すなわち酵素液)にMgSOまたはNaCOを添加し、低温(すなわち4℃)で保存するものである。この方法は、酵素液の保存時間をある程度延長することができるが、その醗酵液の処理ステップは依然として非常に複雑であり、保存過程中、酵素液が臭くなる(酵素活性が低下する)ことに変わりはなく、4℃の低温で酵素液を保存する必要があり、スケール培養で得られた酵素液の量が大きい場合が多く、企業は酵素液を保存するために多数の冷凍庫を必要とするだけでなく、保存過程中の電気エネルギー消費量も大きい。
【0006】
以上のことから、D-アルロース-3-異性化酵素の醗酵液の処理ステップが煩雑であり、酵素液の保存コストが高いという問題をどのように解決するかは、D-アルロースの工業的生産に大きな意義がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許出願公開第115074350号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のことを鑑み、本発明は、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法を提供し、この方法の処理ステップは簡単で、保存過程中の酵素活性を確保するだけでなく、室温条件下でD-アルロース-3-異性化酵素液の長期間保存を実現することができ、酵素液の保存コストを削減するだけでなく、D-アルロースの生産コストも削減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的解決策を採用する。
【0010】
本発明はD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法を提供し、前記保存方法は、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液にリゾチームを加え、醗酵液がOD600≦1となるように攪拌して酵素液を得るステップと、アルカリ溶液で酵素液を弱アルカリ性に調整し、弱アルカリ性の酵素液を室温条件下で保存するステップと、を含む。
【0011】
本発明において、本発明は工学的細菌の醗酵終了後、リゾチームを添加して酵素液を得、次に酵素液を弱アルカリ性に調整すれば室温で長期間保存することができ、保存時間を最長で60日以上とすることができ、この方法は簡単で確実であり、工学的細菌の醗酵液の処理ステップを簡略化することができる。
【0012】
本発明では、醗酵液にリゾチームを加えることにより、醗酵した工学的細菌を溶解し、工学的細菌胞内のD-アルロース-3-異性化酵素を放出する一方、保存過程中、リゾチームは、生存している工学的細菌が分泌するタンパク質酵素がD-アルロース-3-異性化酵素を分解することを回避でき、保存過程中の他の微生物の増殖による分泌したタンパク質酵素がD-アルロース-3-異性化酵素を分解することを回避することもできる。
【0013】
本発明では、得られた酵素液を弱アルカリ性条件下で室温保存することにより、酵素液中の微生物の増殖を抑制し、保存過程中、酵素液が臭くなり、酵素活性が深刻に低下するといった事態を可能な限り回避することができる一方、室温保存により冷凍庫などの低温保存設備が不要となり、冷凍庫の削減のみならず、消費電力も削減することができる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、前記リゾチームの濃度≧0.06g/Lである。すなわち、1Lの醗酵液に少なくとも0.06gリゾチームを添加し、醗酵後の工学的細菌をできるだけ溶解させることができる。
【0015】
本発明のより好ましい実施形態では、前記リゾチームの濃度は0.06~0.2g/Lである。すなわち、1Lの醗酵液中のリゾチームの使用量は0.06~0.2gであることが好ましい。より好ましくは、前記リゾチームの濃度は0.1g/Lである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、前記のアルカリ溶液で酵素液を弱アルカリ性に調整するためのアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム溶液,水酸化カリウム溶液,リン酸水酸二ナトリウム溶液またはリン酸水酸二カリウム溶液であり、アルカリ溶液で調整した酵素液のpHは7.5~8.5である。本発明では、酵素液のpHを調節するとき、強アルカリ溶液(例えば実験で一般的に使用される水酸化ナトリウム溶液)だけでなく、リン酸水酸二ナトリウム溶液またはリン酸水酸二カリウム溶液などの弱アルカリ溶液を使用することもでき、実際の状況に応じてアルカリ溶液を柔軟に選択すればよく、さらに、本発明では、酵素液のpHを7.5~8.5に調節することにより、酵素液中の微生物の増殖を効果的に抑制し、保存過程中、酵素液が臭くなり、酵素活性が深刻に低下するといった事態を防止することができる。より好ましくは、前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム溶液であり、アルカリ溶液で調整した酵素液のpHは8.0である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、前記の弱アルカリ性の酵素液を室温条件下で保存する際の室温≦30℃である。春・秋の室内温度は一般に20℃であり、冬の室内温度は一般に10℃以内であり、夏の室内温度は一般に30℃以下である。本発明の保存方法は、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液を一年四季中の室温で保存することができ、酵素液の酵素活性を確保して臭気を回避することができるだけでなく、消費電力も削減でき、D-アルロースの工業的生産コストを削減して、D-アルロース生産企業の振興に大きな意義がある。
【0018】
先行技術(すなわち遠心分離+ホモジナイズ+遠心分離+4℃保存)と比較すると、本発明は以下の利点を有する。
【0019】
本発明は、工学的細菌の醗酵終了後、一定割合のリゾチームを添加して酵素液を得、次に酵素液を弱アルカリ性に調整し、室温で長期間保存することができ、従来の二回遠心分離と高圧ホモジナイズなどのステップを完全に省略することができ、醗酵液の処理と保存をより簡単かつ便利にすることができ、本発明で処理した酵素液は室温条件下で60日以上保存して臭気が発することがなく、室温で60日間保存した後の酵素活性の低下率を15%以内に抑え(冬の室温条件下で60日間保存した際に、酵素液の酵素活性は基本的に低下しない)、企業のD-アルロースの工業的生産要件に応えることができる。
【0020】
本発明は、醗酵液にリゾチームを加えることにより、醗酵した工学的細菌を溶解し、工学的細菌胞内のD-アルロース-3-異性化酵素を放出させる一方、保存過程中、リゾチームは生存している工学的細菌が分泌したタンパク質酵素がD-アルロース-3-異性化酵素を分解することを回避し、他の微生物の増殖により分泌したタンパク質酵素がD-アルロース-3-異性化酵素を分解することを抑制することができる。
【0021】
本発明は、得られた酵素液を弱アルカリ性条件下で室温保存することにより、酵素液中の微生物の増殖を抑制し、保存過程中、酵素液が臭くなり、酵素活性が深刻に低下するといった事態を可能な限り回避することができる一方、室温保存により冷凍庫などの低温保存設備が不要となり、冷凍庫の削減のみならず、消費電力も削減することができる。
【0022】
4000Lの酵素液の保存を例にすると、従来の4℃保存条件で、4000Lの酵素液を保存する場合、300L容量の冷凍庫が20台必要で、冷凍庫の1日の消費電力は1kWh、60日間低温保存の総消費電力は1200kWhであり、年間300日稼働させる場合、年間消費電力量は3.6万kWh(すなわち3.6万度)となり、本発明は、年間室温で保存でき、冷凍庫を完全に必要とせず、少なくとも20台の冷凍庫の設備投資を節約することができ、省エネ効果が顕著であり(年間少なくとも3.6万度の電力を節約することができ)、企業の生産コストを削減し、幅広い普及に大きな意義がある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、具体的な実施例を参照して本発明を詳細に説明する。このうち、特に指定しない限り、本発明で使用される設備はいずれも通常の実験装置であり、使用される試薬は通常の試薬である。
【0024】
なお、本発明の各実施例における酵素活性はいずれも以下の方法によって測定され:質量分率1%のフルクトース溶液(フルクトース溶液はpH=8.0のリン酸カリウム緩衝液を用いて調製され、リン酸カリウム緩衝液は1mMのMn2+を含有する)を基質とし、適当な割合の酵素液を添加し、60℃で10分反応させ、反応終了後、沸騰水浴中で5分処理し、HPLCを用いて生成物D-アルロースの含有量を測定し、測定したD-アルロースの含有量および反応時間(すなわち10分)に基づいてD-アルロース-3-異性化酵素液の酵素活性を算出する。本発明中の酵素活性は、pH8.0、60℃で、1分間に1μmolのD-アルロースを生成することを酵素活性の1単位(U)と定義する。
【0025】
なお、本発明の各実施例で言及されたD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌とは、いずれも組換え枯草菌工学的細菌B-3-1である(この菌株は、中国発明特許CN202010496928.9で開示されており、この特許の発明名称は「アルロース3異性化酵素変異体、該変異体を発現する工学的細菌、および応用」である)。なお、本発明の各実施例で使用されるD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液は、以下のステップにより醗酵させてなる。
【0026】
ステップS1:培地(種培地、醗酵培地およびフィードバッチ培地を含む)の調製。
種培地:ペプトン10g/L、イースト粉5g/L、塩化ナトリウム10g/L、121℃で20分減菌した後、無菌条件下でカナマイシンを50mg/Lとなるように添加する。
醗酵培地:ペプトン10g/L、イースト粉5g/L、リン酸二水素カリウム2.5g/L、リン酸水酸二カリウム15g/L、塩化マンガン四水和物0.1g/L、グルコース6g/L、121℃で20分減菌する。
フィードバッチ培地:50質量%のグルコース、121℃で20分減菌する。
【0027】

ステップS2:種培地を用いてD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の種菌液を得る。組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を種培地に接種し、37℃、200rpm条件下で14時間培養し、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の種菌液を得る。
【0028】
ステップS3:種菌液を醗酵培養してD-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液を得る。種菌液を0.1%の体積比で醗酵培地に接種し(すなわち、1mlの醗酵培地に0.1%mlの種菌液を接種)醗酵培養を行い、醗酵培養条件は、醗酵温度37℃、初期攪拌回転数200rpm、曝気量1vvmであり、醗酵過程中、溶存酸素に応じて溶存酸素が常に10%以上となるように攪拌回転数を調整し、醗酵過程中、フィードバッチ培地を供給しサンプリングしてOD600値を検出し、OD600値が上昇しなくなった時点で醗酵終了とし、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液を得る。
【実施例0029】
〔実施例1〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵が終了した後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった後)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチームの濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、20℃(春秋は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0030】
〔実施例2〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチームの濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、30℃(夏季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0031】
〔実施例3〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチームの濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、10℃(冬季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0032】
〔実施例4〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.06g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチーム濃度は0.06g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、30℃(夏季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0033】
〔実施例5〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.15g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチーム濃度は0.15g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、30℃(夏季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0034】
〔実施例6〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチーム濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを7.5に調節し、30℃(夏季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0035】
〔実施例7〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチーム濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.5に調節し、30℃(夏季は室温)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0036】
〔比較例1〕
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチームの濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次にNaOH溶液で酵素液のpHを8.0に調節し、4℃で保存し、10日間サンプリングして酵素活性を検出する。
【0037】
〔比較例2〕遠心分離+再溶解+ホモジナイズ+4℃冷蔵
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液を5000rpmで30分遠心分離し、上澄み液を除去して醗酵菌体を得、醗酵菌体をpH=8.0のリン酸カリウム緩衝液で等体積再溶解し(すなわち再溶解後の体積は元のD-アルロース-3-異性化酵素の醗酵液の体積と等しい)、その後ホモジナイザーでホモジナイズして細胞内菌体を放出させ、ホモジナイザーは、温度4℃、稼働圧力800barで動作し、ホモジナイズ後、10000rpm条件下で20分遠心分離し、得られた上澄み液を4℃(低温冷蔵)で保存し、10日毎にサンプリングして酵素活性を検出する。
【0038】
〔比較例3〕本比較例では酵素液のpHが調節されない
D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵終了後(すなわち醗酵液のOD600値が上昇しなくなった)、曝気を停止し、0.1g/Lの割合でリゾチームを添加し(すなわち醗酵液中のリゾチームの濃度は0.1g/Lである)、醗酵液のOD600値≦1となるまで攪拌し、組換え枯草菌工学的細菌B-3-1を溶解してD-アルロース-3-異性化酵素の酵素液を得、次に30℃で保存し、10日間サンプリングして酵素活性を検出する。
【0039】
上記実施例1~7と比較例1~3の酵素活性を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から分かるように、従来の遠心分離+高圧ホモジナイズ方法を用いて醗酵液を処理した後(すなわち比較例2)は、4℃の低温で保存しても、保存時間の延長に伴い、酵素活性の低下が深刻であり、60日目の酵素活性は330であり、酵素活性の低下は22%以上であり、酵素活性の低下は大きく、15日目から、酵素液は刺激臭を発し始め、この酵素液の使用に影響を及ぼす。また、比較例3は、60日目の酵素活性は341であり、酵素活性の低下は20%と高く、20日目から酸っぱい臭いがした。
【0042】
本発明の実施例1~7と比較例1を比較して分かるように、4℃冷蔵と比較すると、比較例1の酵素活性が比較的大きいものの、依然として冷凍庫冷蔵が必要であるのに対して、本発明の実施例1~7は、室温で保存して60日目以降も酸臭がなく、保存温度が30℃であっても、60日目の酵素液は依然として非常に良好な酵素活性を有し(初期酵素活性の91.0%)、酵素活性の低下が小さく、酵素液は酸臭がなく、室温が10℃の場合、その酵素活性は4℃冷蔵条件下の酵素活性と基本的に同じである。すなわち、本発明の保存方法は、冷凍庫冷蔵を必要とせず、酵素液の室温保存を完全に達成することができ、省エネ効果が顕著である。
【0043】
本発明の実施例1~7は、いずれも保存過程中刺激臭を示さなかったことから、本発明の保存方法は、室温条件下においても酵素液に出現する微生物を回避でき、酵素液の酵素活性および品質を確保することができる。また、実施例1~7から分かるように、本発明の保存方法により60日間保存後の酵素活性は初期酵素活性の89.4%~95.3%であり、本発明はD-アルロース-3-異性化酵素液の室温保存を達成でき、保存過程中微生物の増殖による酸臭の発生を回避することができるだけでなく、酵素活性を確保することもできる。
【0044】
上記の実施例は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、本発明の実施形態は上記実施例によって限定されるものではなく、本発明の精神および原理を逸脱することなく行われた変更、修正、置換、組み合わせ、簡略化は、いずれも等価置換として本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、生物工学の分野に関し、特に、D-アルロース-3-異性化酵素工学的細菌の醗酵液の保存方法に利用できる。