(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127720
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】回転機器の振動データ分析方法及び分析システム
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20240912BHJP
【FI】
G01M13/045
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180005
(22)【出願日】2023-10-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2023034393
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501465757
【氏名又は名称】新川センサテクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳司
(72)【発明者】
【氏名】安田 千秋
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】回転機器のノイズが大きい転がり軸受の場合であっても、軸受の欠陥に起因する振動を抽出できるため、欠陥発生後に異常診断を実施し易くする。
【解決手段】加速度センサ1を用いて取得した波形データについて、ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)推定を行い、その推定されたARMAモデルの周波数応答を算出し、算出された周波数応答のピーク周波数(Fpeak)に基づいてバンドパスフィルタの通過周波数を決定し、この決定した通過周波数を用いて、振動の波形データのノイズを除去し、ノイズを除去した振動の波形データについてエンベロープ解析してピーク周波数成分の振幅値を算出し、所定期間においてのピーク周波数成分の振幅値を用いて、ピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向が確認できる場合に、軸受2に異常有りの可能性があると判定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器に備えられた軸受の異常の有無を分析する回転機器の振動データ分析方法であって、
前記軸受で発生した振動の波形データを、加速度センサを用いて取得し、
前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、自己回帰モデルと移動平均モデルとを用いたARMAモデルの推定を行い、その推定された前記ARMAモデルの周波数応答を算出し、
算出された前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数に基づいて、特定の周波数帯のみを抽出するバンドパスフィルタの通過周波数を決定し、この決定した前記通過周波数を用いて、前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データのノイズを除去し、
ノイズが除去された前記振動の波形データについてエンベロープ解析し、エンベロープ解析で得られたピーク周波数成分の振幅値を算出し、
所定期間に亘って測定した前記振動の波形データについて算出される前記ピーク周波数成分の振幅値を用いて、時間経過に対する前記ピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向が確認できる場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する、ことを特徴とする回転機器の振動データ分析方法。
【請求項2】
前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数が、前記軸受の仕様に基づいて算出される固有振動数に対して予め定めた範囲以内の値である場合に、前記ピーク周波数に基づいて前記通過周波数を決定することを特徴とする請求項1に記載の回転機器の振動データ分析方法。
【請求項3】
前記所定期間のうちの第1の期間と、該第1の期間より直近の第2の期間とのそれぞれにおいて前記ピーク周波数成分の振幅値の傾きを算出し、前記第2の期間における傾きの方が大きい場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機器の振動データ分析方法。
【請求項4】
回転機器に備えられた軸受の異常の有無を分析する回転機器の振動データ分析システムであって、
前記軸受で発生した振動の波形データを取得する加速度センサと、
前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、自己回帰モデルと移動平均モデルとを用いたARMAモデルの推定を行い、その推定された前記ARMAモデルの周波数応答を算出するARMAモデル推定部と、
算出された前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数に基づいて、特定の周波数帯のみを抽出するバンドパスフィルタの通過周波数を決定し、前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、前記通過周波数を用いてノイズを除去するバンドパスフィルタ部と、
前記バンドパスフィルタ部によりノイズが除去された前記振動の波形データについてエンベロープ解析を行い、エンベロープ解析で得られたピーク周波数成分の振幅値を算出するエンベロープ処理部と、
所定期間に亘って測定した前記振動の波形データについて前記エンベロープ処理部において算出される前記ピーク周波数成分の振幅値を用いて、時間経過に対する前記ピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向が確認できる場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する異常判定部と、を備えた、ことを特徴とする回転機器の振動データ分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機、ポンプ、ファン等の回転機器に備えられる転がり軸受の異常の有無及び軸受故障の種類を分析する回転機器の振動データ分析方法及び分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、転がり軸受は、広範な機器の回転部分に数多く使用されている。これらの転がり軸受に異常が発生すると、その機械設備の停止などいろいろ不都合が生じる。一般に、転がり軸受は精度が高く、適正な使用条件下では、繰り返し疲労による疲れ破壊が生ずるまで長時間使用することができる。そこで、回転機器における軸受異常の有無及び軸受故障の種類を診断することが重要である。
【0003】
転がり軸受の予期しない故障は、潤滑剤の不適正あるいは回転軸のミスアライメント、転がり軸受の不適切な組込み等のストレスのかかるメカニカルな状態から生じる。転がり軸受の故障原因として多いのはゴミの混入、潤滑剤の劣化等の不適切な潤滑が大半を占めている。その転がり軸受の故障診断方法としては、種々の手段が提案されている。例えば、加速度センサを用いて軸受の振動を測定し、この軸受振動値が許容値を超えると警報を発する方法がある。軸受振動の周波数の解析により、その故障の原因を推定する方法がある。軸受振動値の増加傾向を予測することにより、その軸受異常の診断と共に寿命を予知する方法がある。その他にも、ショックパルス法やAE(Acoustic Emission)法等が提案されている。
【0004】
回転機器について機械設備を分解することなく、振動加速度信号により軸受異常の有無及び軸受故障の種類の診断に関する技術が種々提案されている。例えば特許文献1の特開2018-155494号公報「軸受異常診断システム及び軸受異常診断方法」のように、軸受、又は該軸受を支持する軸受ハウジングに取り付けられた振動加速度センサから、前記軸受又は軸受ハウジングの振動加速度を検出し、該振動加速度センサからの振動加速度信号に基づく周波数スペクトルの周波数解析を行い、前記周波数スペクトルに基づいて、軸受異常の有無を診断し、前記周波数スペクトルから検出されたピーク周波数の発生次数パターンにより前記軸受異常の種類を特定する、軸受異常診断方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、軸受、又は軸受を支持する軸受ハウジングに取り付けられた振動加速度センサから、前記軸受又は軸受ハウジングの振動加速度を検出し、該振動加速度センサからの振動加速度信号に基づく周波数スペクトルの周波数解析を行い、前記周波数スペクトルに基づいて、軸受異常の有無を診断し、前記軸受異常と診断された場合、前記振動加速度センサの振動加速度信号の振動最大値と振動RMS値(root mean square)との比である波高率により前記軸受異常の種類を特定する軸受異常診断方法も提案されている。
【0006】
特許文献1に開示された軸受異常診断システムは、
図8に示すように、軸受、又は該軸受を支持する軸受ハウジング51に取り付けられ、軸受又は軸受ハウジング51の振動加速度を検出する振動加速度センサ52と、振動加速度センサ52からの振動加速度信号に基づく周波数スペクトルの周波数解析を行う振動分析部53と、周波数スペクトルに基づいて、軸受異常の有無を診断する第1の異常診断部54と、周波数スペクトルから検出されたピーク周波数の発生次数パターンにより軸受異常の種類を特定する第2の異常診断部55を有する診断装置56と、更にモニタと警報機等の出力装置57を備えたシステムである。このシステムでは、
図9(a)に示す第1の異常診断部で周波数スペクトルから検出されたピーク周波数の発生次数パターンを算出し、
図9(b)に示す第2の異常診断部で振動加速度信号の振動最大値と振動RMS(Root mean square)との比である波高率を算出することにより軸受異常の種類を判別して、機械設備を分解することなく、一つの振動加速度信号により軸受異常の有無及び軸受故障の種類を診断するシステムである。
【0007】
WCCS(Whitened Cross-Correlation Spectrum)と称される異常診断を行う解析方法が提案されている。この解析方法は、
図10のフロー図に示すようにARモデル推定を用いて計算されたWhitening Filter(白色化フィルタ)に信号を入力し、特徴的なパルスのみを強調した波形(Vω)と波形(Vω)にヒルベルト変換を行った波形(Venv)を掛け会わせた波形(Vcc)に対し周波数解析を行うことによって軸受異常診断を行う解析方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の「軸受異常診断システム及び軸受異常診断方法」では、一般的に回転機械の軸受部で観測される加速度振動には、軸の回転数成分とその整数倍、軸受部に異常があればそれに起因する振動、さらには雑多なノイズ成分が含まれる。その中から軸受部の異常に起因する振動を抽出するのにノイズ等の雑多な信号を除去した上で各種分析を行い、軸受の異常原因を特定すべきと考えられる。しかしながら、特許文献1の軸受異常診断方法では、事前のノイズ処理がされていないため、異常原因の特定が困難であるという問題を有していた。
【0010】
また、特許文献1は、ノイズが大きい加速度信号では、異常由来の信号に加えてノイズも含まれるためRMS値も大きくなり、波高率が下がるため軸受異常の種類を判別できないという問題を有していた。例えば、波高率が何の異常を表しているか判別できないという問題を有していた。
【0011】
WCCS解析方法は、特徴的なパルスのみを強調した波形(Vω)と波形(Vω)にヒルベルト変換を行った波形(Venv)を掛け会わせた波形(Vcc)に対し周波数解析を行うことによって軸受異常診断を行う解析方法であるが、この特徴的なパルスの振幅がノイズ振幅に対して2倍程度と低い場合では、特徴が強調できず、異常が判断しづらいという問題を有していた。
【0012】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、回転機器のノイズが大きい軸受の場合であっても、軸受の欠陥に起因する振動を抽出できるため、欠陥発生後に異常診断を実施し易くすることができる回転機器の振動データ分析方法及び分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の回転機器の振動データ分析方法は、回転機器に備えられた軸受の異常の有無を分析する回転機器の振動データ分析方法であって、
前記軸受で発生した振動の波形データを、加速度センサを用いて取得し、
前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、自己回帰モデルと移動平均モデルとを用いたARMAモデルの推定を行い、その推定された前記ARMAモデルの周波数応答を算出し、
算出された前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数に基づいて、特定の周波数帯のみを抽出するバンドパスフィルタの通過周波数を決定し、この決定した前記通過周波数を用いて、前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データのノイズを除去し、
ノイズが除去された前記振動の波形データについてエンベロープ解析し、エンベロープ解析で得られたピーク周波数成分の振幅値を算出し、
所定期間に亘って測定した前記振動の波形データについて算出される前記ピーク周波数成分の振幅値を用いて、時間経過に対する前記ピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向が確認できる場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する、ことを特徴とする。
回転機器の振動データ分析方法は、前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数が、前記軸受の仕様に基づいて算出される固有振動数に対して予め定めた範囲以内の値である場合に、前記ピーク周波数に基づいて前記通過周波数を決定する、こととしてもよい。
また、回転機器の振動データ分析方法は、前記所定期間のうちの第1の期間と、該第1の期間より直近の第2の期間とのそれぞれにおいて前記ピーク周波数成分の振幅値の傾きを算出し、前記第2の期間における傾きの方が大きい場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する、こととしてもよい。
【0014】
本発明の振動データ分析システムは、回転機器に備えられた軸受の異常の有無を分析する回転機器の振動データ分析システムであって、
前記軸受で発生した振動の波形データを取得する加速度センサと、
前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、自己回帰モデルと移動平均モデルとを用いたARMAモデルの推定を行い、その推定された前記ARMAモデルの周波数応答を算出するARMAモデル推定部と、
算出された前記ARMAモデルの周波数応答のピーク周波数に基づいて、特定の周波数帯のみを抽出するバンドパスフィルタの通過周波数を決定し、前記加速度センサにより取得した前記振動の波形データについて、前記通過周波数を用いてノイズを除去するバンドパスフィルタ部と、
前記バンドパスフィルタ部によりノイズが除去された前記振動の波形データについてエンベロープ解析を行い、エンベロープ解析で得られたピーク周波数成分の振幅値を算出するエンベロープ処理部と、
所定期間に亘って測定した前記振動の波形データについて前記エンベロープ処理部において算出される前記ピーク周波数成分の振幅値を用いて、時間経過に対する前記ピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向が確認できる場合に、前記軸受に異常有りの可能性があると判定する異常判定部と、を備えた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の振動データ分析方法では、ノイズが大きい軸受(2)の場合でも欠陥に起因する振動を抽出できるため、回転機器の欠陥発生後に異常診断を実施し易くすることが可能になる。軸受(2)の軸受情報と回転数情報のみ設定を行うことで異常診断が可能になる。
【0016】
回転機器に備えられた軸受(2)の交換周期又は交換時期が確定し、より効率的な回転機器の保守が可能となる。例えば、発電所における回転機器については、稼働率の高い夏場を避けて秋季にその軸受(2)の交換を実施するといった計画を容易に立てることができる。また、従来は、定期点検を余儀なくされていた設備に対し、早期の異常判断が可能なことから、点検周期の長期化、劣化データの採取が容易になり、従来の定期点検体制から回転機器の状態に応じて保守を行う状態基準保守体制への移行を効率化することができる。
また、コンパクトな装置により容易かつ正確に回転機器に備えられた軸受(2)の寿命を高精度に推定することができ、更にインターネット回線に接続することにより、遠隔地において所定の軸受(2)の異常を容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の振動データ分析システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図2】本発明の振動データ分析方法の動作手順を説明するフロー図である。
【
図3】本発明の振動データ分析方法における「異常あり」と判断する動作手順を説明する前半のフロー図である。
【
図4】本発明の振動データ分析方法におけるピーク周波数の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の振動データ分析方法におけるエンベロープ解析結果の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明の振動データ分析方法における欠陥周波数の度数分布を示す概略図である。
【
図7】本発明の振動データ分析方法における欠陥周波数の振幅値の増加(傾き)の一例を示す概略図である。
【
図8】従来の軸受異常診断システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図9】従来の軸受異常診断システムの動作手順を説明するフロー図であり、(a)は第1の異常診断部の動作手順、(b)は第2の異常診断部の動作手順である。
【
図10】WCCS(Whitened Cross-Correlation Spectrum)異常診断解析方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、撹拌機、ポンプ、ファン等の回転機器に備えられた軸受の異常の有無を判定、分析する回転機器の振動データ分析方法である。
【実施例0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<回転機器の振動データ分析システムの構成>
図1は本発明の回転機器の振動データ分析システムを構成する振動データ分析装置の一例を示ブロック図である。
本発明の回転機器の振動データ分析システムは、主に加速度センサ1と、ARMAモデル推定部3と、バンドパスフィルタ(BPF)部4と、エンベロープ処理部5と、データベース6と、異常判定部7と、BPF変更判定部8を備えたシステムである。この振動データ分析システムを用いて、回転機器に備えられた軸受2の異常の有無、及び軸受故障の種類を分析する。
【0020】
加速度センサ1は、回転機器に備えられた軸受2で発生した振動の波形データを取得する。ARMAモデル推定部3は、この加速度センサ1により採取した波形データについて、ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)推定を行い、その推定されたARMAモデルの周波数応答を算出する。このARMAモデル推定部3において算出された固有振動数に関するデータはデータベース6に保存する。
ARMAモデル推定部3におけるARMAモデルの推定は、自己回帰モデル(ARモデル)と移動平均モデル(MAモデル)とを用いた数値モデルの推定手法であり、既存の技術を利用することができる。例えば、MathWorks(登録商標)社のMATLAB(登録商標)のプログラムに設定された指令(例えば、armax)を用いることで、振動の波形データを入力してARMAモデルの各パラメータを算出することができる。
【0021】
またARMAモデルの周波数応答の算出についても、既存の技術を利用することができる。例えば、MATLAB(登録商標)に設定されたデジタルフィルターの周波数応答の指令(例えば、freqz)を用いて、各パラメータが推定されたARMAモデルの周波数応答を算出することができる。これにより、横軸を周波数とし、縦軸に振幅値をプロットした周波数応答を算出することができるし、周波数応答のピーク周波数を固有振動数として算出する等、固有振動数に関するデータを取得することができる。
BPF変更判定部8は、ARMAモデル推定部3が推定した通過周波数について、ノイズを除去するためにバンドパスフィルタ(BPF)部4に変更するかについて判定する。
【0022】
バンドパスフィルタ(BPF)部4は、加速度センサ1により採取した波形データについて、波形データからノイズを除去する。
エンベロープ処理部5は、このバンドパスフィルタ(BPF)部4によりノイズが除去された波形データについて、軸受2の振動の繰り返しの周期性を解析する。このエンベロープ処理部5により解析結果から算出された欠陥周波数に関するデータについても保存するデータベース6に保存する。
【0023】
異常判定部7は、ARMAモデル推定部3において算出された固有振動数と、エンベロープ処理部5において解析された欠陥周波数について、データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数及び欠陥周波数の振幅値のデータ(振動データ)を用いて、軸受2の異常の有無を判定する。
【0024】
図示していないが、このシステムをインターネット回線に接続することにより、遠隔地において所定の軸受の異常を容易に判定することも可能である。
【0025】
<回転機器の振動データ分析方法の構成>
図2は本発明の振動データ分析方法の動作手順を説明するフロー図である。
図3は振動データ分析方法における軸受の異常の判定の具体的な基準を説明する概略説明図である。
本発明の回転機器の振動データ分析方法は、発電機、ポンプ、ファン等の回転機器に加速度センサ1を取り付け、この回転機器の軸受2で発生した振動の波形データを取得する。この加速度センサ1で取得した波形データについて、ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)推定を行う。この推定されたARMAモデルの周波数応答を算出する。
【0026】
算出された周波数応答のピーク周波数(Fpeak)について、数1の数式1により求められた固有振動数(Fn)が、この固有振動数(Fn)の±5%以内の場合に軸受2の固有振動数であると仮定する。
【0027】
【0028】
なお、数式1は、軸受2のラジアル方向の固有振動数を求める簡易式であり、ピーク周波数(Fpeak)が、軸受2の内径や外径などの仕様により算出される固有振動数(Fn)と大幅に異なっていないかの確認のため使用する。ピーク周波数(Fpeak)が、固有振動数(Fn)を中央値とした±5%の数値範囲など、予め定めた範囲を超えて大きくずれている場合、波形データとして別の波形データを利用するなどの別の処理を実施することができる。この固有振動数(Fn)を求める数式は、数式1に限らず、他の固有振動数(Fn)を求める計算式を利用することができ、また必ずしも軸受2の仕様から固有振動数(Fn)を求めてピーク周波数(Fpeak)と大きく異なっているか判定する必要はなく、算出された周波数応答のピーク周波数(Fpeak)を、そのまま固有振動数であると仮定してもよい。
【0029】
通過周波数(Fpass)は、数2の数式2により決定し、この決定したピーク周波数(Fpeak)をデータベース6に保存する。
【0030】
【0031】
なお、通過周波数(Fpass)は、必ずしも数式2により決定する必要はなく、通過周波数(Fpass)に基づいて、特定の周波数帯のみを抽出可能な別の方法により決定してもよい。例えば、通過周波数(Fpass)は、ピーク周波数(Fpeak)の3分の1以上など、数式2とは別の係数を用いた乗算や除算などの計算式で決定してもよいし、ピーク周波数(Fpeak)に対して±20Hzといった絶対値を加算及び減算して決定してもよいし、ピーク周波数(Fpeak)のパーセンテージ(例えば、20%)の数分を加算及び減算して決定してもよいし、ピーク周波数(Fpeak)の値に対応して予め特定の周波数帯を定めた表データを用いて決定してもよい。
【0032】
エンベロープ処理部5は、軸受2の振動の繰り返しの周期性を解析することで、軸受2の異常部位の特定するエンベロープ解析処理をする。振動がある周期により繰り返して発生(周期性)しているかどうかを解析し、回転機器の回転に依存したものであればその周波数により、軸受2の異常を判別する。エンベロープ解析の信号処理は振動波形の包絡線(エンベロープ)を周波数解析する。
なお、軸受2の異常部位を特定するためには、予め軸受2の部位ごとに、各部位が異常を示すときの異常振動の周波数(固有振動数)を対応させた表データを準備し、エンベロープ解析処理で得られた周波数と、回転機器の回転数情報(運転回転数)とを表データに照らし合わせて比較して診断することにより、軸受2の異常部位を特定することができる。
【0033】
FTT解析処理(高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform))は、時系列に並んだデジタル信号の標本列を周波数成分の集合で表す離散フーリエ変換をコンピュータで高速に計算する手法である。フーリエ変換は信号の中にどの周波数成分がどれだけ含まれているかを抽出する処理であるが、FTT解析処理では入力波形をいくつかのグループに分け、計算順序を工夫することにより通常の計算方式よりも大幅に少ない計算量で変換を行うことができる。
【0034】
取得した波形データを数式1により求められた通過周波数(Fpass)について、バンドパスフィルタ(BPF)部4を用いてノイズを除去する。振動の波形データについてエンベロープ解析し、ピーク周波数を欠陥周波数とし、欠陥周波数と、欠陥周波数の振幅値(ピーク周波数成分の振幅値)の2つを算出した後、データベース6に保存する。
【0035】
<軸受の異常の判定について>
図4は本発明の振動データ分析方法におけるピーク周波数の一例を示す概略図である。
図5は本発明の振動データ分析方法におけるエンベロープ解析結果の一例を示す概略図である。
本発明の振動データ分析方法は、
図3から
図7に示すような作業手順で軸受に異常があるかどうかについて判断する。データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数及び振幅値(ピーク周波数成分の振幅値)のデータを用いて、軸受2の異常の有無を判定する。
【0036】
ピーク周波数(Fpeak)は、データベース6に保存された固有振動数であり、ARMAモデルの周波数応答によって算出されたものである。算出されたピーク周波数(Fpeak)は、軸受2の仕様によって算出した固有振動数(Fn)と比較する。そして比較した差が大きければ軸受2に異常が無いと判定し、比較した差が小さければ、異常有りの可能性があると判定する。そして、エンベロープ解析結果を、以前にデータベース6に保存された欠陥周波数の数値と比較する。
【0037】
図6は本発明の振動データ分析方法における欠陥周波数の度数分布の一例を示す概略図である。
データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数及び振幅値のデータを用いて軸受2の異常の有無を判定する際に、所定期間に亘って測定した欠陥周波数の標準偏差(σ
d)が欠陥周波数の平均値(Fave)の5%より小さいときに、軸受2に異常有りの可能性があると判定する。この値が5%以上のときは、軸受2に異常が無いと判定する。標準値を用いることも可能である。
【0038】
図7は本発明の振動データ分析方法における欠陥周波数の振幅値の増加(傾き)の一例を示す概略図である。
データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数、振幅値のデータを用いて軸受2の異常の有無を判定する際に、振幅値(振幅データ)が以前の測定値より増加している傾向にあるか比較する。振幅値が大きく増加している場合は、直近に計測した複数点の振幅値の傾きが、平均傾きより大きく、この場合、軸受2に異常有りの可能性があると判定する。平均傾きより小さいときは、軸受2に異常が無いと判定する。傾きは、最低でも3点を用いて算出することが好ましく、また、振幅値の傾きは、通常の目盛りスケールを利用して算出してもよいし、対数を用いた目盛りスケールにより算出してもよい。
【0039】
図7には、ピーク周波数成分(欠陥周波数)の振幅値を用いた判定における所定期間として、第1の期間(直近の4日間を除いた期間)と、当該第1の期間よりも直近の第2の期間(直近の4日の期間)とのそれぞれにおいての欠陥周波数の振幅値の傾きを比較した例を示している。傾きは、時間経過に対するピーク周波数成分の振幅値の増大量を直線回帰して算出でき、直近の第2の期間における傾きが第1の期間よりも大きい場合、直近の期間の振幅値が増加している傾向が確認でき、軸受2に異常有りの可能性があると判定することができる。
時間経過に対するピーク周波数成分の振幅値の増大量が大きくなっている傾向の確認には、他の方法を用いることもできる。例えば直線回帰に限らず、曲線回帰によって第1の期間と第2の期間の傾きを比較可能にしてもよいし、前回以前に計測した振幅値と、今回の振幅値との差に相当する数値を記録しておき、その数値が変動する傾向を確認してもよい。
【0040】
データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数及び振幅値のデータを用いて、前記軸受2の異常の有無を判定する際に、波形データを取得した時期から最新値を測定する期間が1週間であってもよい。但し、この期間の1週間は例示であってこれに限定されるものではなく、この1週間より長く設定することも可能である。但し、1週間より短すぎると正確に分析できないおそれがある。この場合、1日に2つ以上の波形データを取得し、1日分として2以上のピーク周波数成分の振幅値を分析対象としてもよい。例えば、一週間を所定期間とする場合において、1日に数時間の間隔を隔てて複数(例えば、3つ)の波形データを取得し、3つのピーク周波数成分の振幅値を取得して異常の有無を判定してもよい。
【0041】
なお、以下のような状況においては、異常の可能性が低いか、又は異常が無いと判定することができる。例えば、データベース6に保存された固有振動数、欠陥周波数及び振幅値のデータを用いて、所定期間に亘って測定した振動の波形データについて、欠陥周波数の標準偏差(σd)が欠陥周波数の平均値(Fave)の5%より大きい場合が例示できる。欠陥周波数の平均値(Fave)に対して一定の数値範囲以内の欠陥周波数となる波形データの数が少ないときも例示できる。直近の期間(第2の期間)の振幅値の増大量が、それ以前の期間(第1の期間)のものより大きくなっている傾向が確認できないときも例示できる。これらの場合、軸受2に異常有りの可能性が低く、異常が無いと判定してもよい。
またデータベース6へ固有振動数、欠陥周波数及び振幅値のデータを保存するタイミングは、振動の波形データを取得した日や取得したタイミングにおいて必ずしも実施する必要はない。データベース6には、取得した振動の波形データを記憶しておけばよく、複数の波形データについての固有振動数や振幅値などのデータを、まとめて算出してもよい。
【0042】
なお、本発明は、回転機器のノイズが大きい軸受の場合であっても、軸受に欠陥に起因する振動を抽出できるため、欠陥発生直後に異常診断することができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。