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特開2024-127722情報処理装置、プログラム、及び情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127722
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】情報処理装置、プログラム、及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240912BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
H01J49/00 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188002
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2023036908
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 さつき
(72)【発明者】
【氏名】吉川 千明
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA09
2G041LA03
2G041LA11
2G041MA04
(57)【要約】
【課題】 多元系共重合高分子の解析も可能にする質量分析データ解析方法を提供する。
【解決手段】 繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する取得部と、前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出部と、複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類部と、を有する、情報処理装置。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する取得部と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出部と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類部と、を有する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記Nは、2以上である、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記分類部は、前記ピーク群を、前記ポリマーの前記繰り返し単位の構造以外の構造の種類に応じて分類する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記ピーク群に含まれるピークを、マススペクトルデータとして表示制御する表示制御部を有する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記マススペクトルデータにおいて、前記ピーク群に含まれるピークを区別可能に表示制御する表示制御部を有する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記分類部は、前記ピーク群に含まれるピークの数が1であるときに、該ピークに由来する化合物が前記ポリマー以外の成分である可能性が高いと分類する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記分類部は、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]、RE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]、・・・RE-KMD値[DMn]及びRKM値[RMn]のうち、RE-KMD値[DMm]及びRKM値[RMm](但し、m≦n)が前記類似度を満たすピークを抽出し、前記ピーク群に分類する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記算出部は、XN=round(MN)の初期条件のもと、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記取得部は、ユーザの操作に応じて前記初期条件とは異なるXNに関する値を取得し、
前記算出部は、取得した前記XNに基づいて、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記取得部は、ユーザの操作に応じてXNに関する値を取得し、
前記算出部は、取得した前記XNに基づいて、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項11】
情報処理装置に、
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有するポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する質量分析工程と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出工程と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類工程と、を実行させる、
プログラム。
【請求項12】
情報処理装置が、
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有するポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する質量分析工程と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出工程と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類工程と、を実行する、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析データ解析方法に係わる情報処理装置、プログラム、及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析では、横軸を質量電荷比M/Zとして縦軸をイオン強度とするマススペクトルが得られる。ホモポリマーのマススペクトルでは、ホモポリマーを構成する1種のモノマーの分子量/電荷の間隔でピークが現れる。そのため、ホモポリマーを複数種含む混合物のマススペクトルから、混合したホモポリマーの種類数や、各ホモポリマーの重合度分布状態を読み取ることができる。
【0003】
マススペクトルからポリマーの種類・分布情報を可視化する手法の一つにKendrick MassDefect Plotがある(例えば、非特許文献1を参照,以下、「KMD Plot」ともいう。)。また、Kendrick Mass Plotの測定誤差の伝播程度や分解能を改良した可視化手法として、Resolution-enhanced KMD (RE-KMD) PlotやRemainders of Kendrick Mass (RKM) Plotも提案されている。(非特許文献2,3を参照。以下、「RE-KMD Plot」、「RKM Plot」ともいう。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2014, 25, 1346.
【非特許文献2】Mass Spectrom. 2017, 6, A0055.
【非特許文献3】Anal. Chem. 2018, 90, 2404.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Kendrick Mass Defect(以下、単に「KMD」ともいう。)解析では、精密質量データに、着目したい繰り返し単位(例えば、-CH2-,-CH2CH2O-等)から決まる係数(繰り返し単位の整数質量/精密質量)を掛けた値をKendrick Mass(KM)と定義する。KMは、以下の式(1)で定義される。
KM=(精密質量データ)×(繰り返し単位の整数質量/精密質量)…(1)
【0006】
このとき、ポリマーに繰り返し単位と異なる部分、例えば末端構造や付加イオンなどが含まれている場合、そのポリマーのKendrick Mass(KM)は整数値からずれる。この「ずれ」をKMDと呼び、KMを四捨五入した整数KM (Nominal KM; NKM)とKMとの差分として表す。KMDは、以下の式(2)で定義される。
KMD=NKM-KM…(2)
NKM=round(KM)…(3)
【0007】
このKMDを質量電荷比M/ZやNKMに対してプロットすることにより、サンプル中に含まれる様々な化合物の化学組成の分布を散布図として表現できる。縦軸をKMDとし、横軸を質量電荷比M/ZもしくはKMを四捨五入した整数KM(Nominal KM)とする座標で示されるこの散布図を、KMDプロットという。
【0008】
例えば、図1(a)に示すように、繰り返し単位は同じ(例えば、-CH2CH2-等)で、末端構造が異なる3種のポリマーの混合物のマススペクトルを考える。このとき、図1(b)に示すように、末端構造が同じホモポリマーはおよそ同じKMDを有し、末端構造が異なるホモポリマーは異なるKMDを有する。したがって、末端構造が異なる3種のホモポリマーを含むサンプルのマススペクトルをKMDプロットで分析することで、マススペクトルに含まれる各ピークを末端構造等の相違、すなわちKMDの相違として分類することができる(図1(c))。
【0009】
なお、マススペクトルに出現した各ピークの観測精密質量(観測IUPAC質量)をKMへ変換する方法について、メチレン基(CH2)を繰り返し単位とした場合を例にして補足する。KMへの変換では、上記式(1)における精密質量データとして観測IUPAC質量を用い、繰り返し単位(CH2)の整数質量として14を用い、繰り返し単位(CH2)の理論質量として、IUPAC質量スケールの精密質量(理論値:14.01565)を用いる。したがって、この場合のKMの換算式は以下の通りとなる。
KM=(精密質量データ)×(繰り返し単位の整数質量/精密質量)…(1)
=(観測IUPAC質量)×(14.00000/14.01565)
【0010】
またKMD解析の派生技術であるRE-KMD解析では、KMを導出する式(1)にディバイザーと呼ばれるパラメータXを組み込むことにより、データの分離幅を調整することが可能である。Xは0.5<繰り返し単位の精密質量/X<1.5を満たす任意の整数と定義される。X = 繰り返し単位の整数質量のときRE-KMD = KMDとなる。
【0011】
一方で、もう一つの派生技術であるRKM解析では、RKM値は観測された精密質量値を繰り返し単位の精密質量値で除した値の小数部分として定義され、KMD値より測定誤差の影響を受けにくい指標となっている。RKM Plotにおいても、KMD Plotと同様に、横軸を質量電荷比M/ZもしくはNKM、縦軸をRKMとした2次元座標に各ピークをプロットすることにより、同末端の繰り返しピークを整列させることが可能である。
【0012】
上記のようにRKM PlotやRE-KMD Plotを用いることで、マススペクトルからポリマーの種類・分布情報を可視化することが可能である。しかしながら、繰り返し構造を2種類以上持つコポリマーや端構造が複数存在する場合では、各構造の組み合わせによりマススペクトルのピークの数が乗算的に増える。そのため、RKM PlotやRE-KMD Plotを適用したとしても、従来のようにマススペクトルからポリマーの種類・分布情報をヒトが認識可能なレベルで可視化することは実質不可能となり、混合ポリマー種の数や重合度の分布の情報を得ることは難しい。
【0013】
この点を説明するために、2種類の繰り返し構造M1,M2を持つコポリマーのマススペクトルをKMD Plot(RE-KMD PlotにおいてX = 繰り返し単位の整数質量である場合)で分類することを考える。
【0014】
まず、このコポリマーのマススペクトルでは、2種類の繰り返し構造M1,M2のそれぞれの分子量に応じた間隔のピークが観測される(図2(a)参照)。
【0015】
これに対して、KMD Plotでの解析方法を採用した場合、コポリマーにおいても、2つの繰り返し構造M1,M2のうち1つの繰り返し構造の重合度が同じで、もう1つの繰り返し構造の重合度が異なるイオンが、直線上に配置される。即ち、図2(a)に示すような2元系コポリマーの複雑なマススペクトルに対してKMD Plotでの解析方法を採用すると、それぞれの繰り返し構造M1,M2の重合度が同じイオンが直線上に並ぶため、図2(b)に示すように、格子状のパターンが得られる。
【0016】
しかしながら、繰り返し単位構造の種類(N)が増加するにつれ、KMD Plotによる可視化が有効ではなくなり、結果の把握が困難となる。例えば、繰り返し単位M1,M2,M3を含む3元系コポリマーの場合、KMD Plotにより2次元プロットを行うと、図3Aのように2元系の場合の格子状パターンがさらに新たな軸に沿って整列するような形となり、プロットがより込み合うようになる。加えて、端構造が複数存在する場合には、図3Bのように末端構造の分M/Zがシフトしたピーク群が混ざって観測される。
【0017】
このように、繰り返しの単位構造の種類数Nの増加と末端構造の混在により、KMD Plotを適用したとしても、従来のようにマススペクトルからポリマーの種類・分布情報をヒトが認識可能なレベルで可視化することは実質不可能となる。この点は、RE-KMD PlotやRKM Plotにおいても本質的に相違しない。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ポリマーの分子構造中の繰り返し単位構造の種類、繰り返し単位の末端基構造の種類が、複数存在している場合であっても、それらを分離し、ポリマーの種類と分布情報をヒトが容易に認識できる状態に変換可能な情報処理装置、プログラム、及び情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する取得部と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出部と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類部と、を有する、
情報処理装置。
〔2〕
前記Nは、2以上である、
〔1〕に記載の情報処理装置。
〔3〕
前記分類部は、前記ピーク群を、前記ポリマーの前記繰り返し単位の構造以外の構造の種類に応じて分類する、
〔1〕又は〔2〕に記載の情報処理装置。
〔4〕
前記ピーク群に含まれるピークを、マススペクトルデータとして表示制御する表示制御部を有する、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔5〕
前記マススペクトルデータにおいて、前記ピーク群に含まれるピークを区別可能に表示制御する表示制御部を有する、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔6〕
前記分類部は、前記ピーク群に含まれるピークの数が1であるときに、該ピークに由来する化合物が前記ポリマー以外の成分である可能性が高いと分類する、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔7〕
前記分類部は、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]、RE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]、・・・RE-KMD値[DMn]及びRKM値[RMn]のうち、RE-KMD値[DMm]及びRKM値[RMm](但し、m≦n)が前記類似度を満たすピークを抽出し、前記ピーク群に分類する、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔8〕
前記算出部は、XN=round(MN)の初期条件のもと、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔9〕
前記取得部は、ユーザの操作に応じて前記初期条件とは異なるXNに関する値を取得し、
前記算出部は、取得した前記XNに基づいて、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
〔8〕に記載の情報処理装置。
〔10〕
前記取得部は、ユーザの操作に応じてXNに関する値を取得し、
前記算出部は、取得した前記XNに基づいて、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の情報処理装置。
〔11〕
情報処理装置に、
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有するポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する質量分析工程と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出工程と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類工程と、を実行させる、
プログラム。
〔12〕
情報処理装置が、
繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有するポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータを取得し、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する質量分析工程と、
前記繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出工程と、
複数の前記ピークを、前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類工程と、を実行する、
情報処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリマーの分子構造中の繰り返し単位構造の種類、繰り返し単位の末端基構造の種類が、複数存在している場合であっても、それらを分離し、ポリマーの種類と分布情報をヒトが容易に認識できる状態に変換可能な情報処理装置、プログラム、及び情報処理方法を提供することができる。
【0021】
また、上述の本発明の質量分析データ解析方法によれば、多元系コポリマーを繰り返し単位以外の構造別にピーク分離して出力できるため、人力による地道な帰属を必要とせず、一瞬でポリマーの種類数や分布情報を絞り込むことができる。また、繰り返しを持たない添加剤のようなデータも分離抽出される。これにより、複雑なポリマーの解析を容易に行えるようになり、解析のハイスループット化が可能である。
【0022】
さらに、本発明によれば、従来の人力による帰属では見落としがちなピークも解析できるようになることから、従来の質量分析計及び質量分析方法と比較して、解析が可能な試料の範囲を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】マススペクトルからKMDプロットへの変換の概略説明図である。
図2】2元系コポリマーのマススペクトルからKMDプロットへの変換の概略説明図である。
図3A】3元系コポリマーのマススペクトルからKMDプロットへの変換の概略説明図である。
図3B】3元系コポリマーについてさらに末端構造の違いによるマススペクトルからKMDプロットへの変換の概略説明図である。
図4】本実施形態の情報処理装置の概略構成の一例を示す図である。
図5A】ピークデータのデータ構造の一例を示す概念図である。
図5B】各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに、図5A中のハイライトを反映させた概念図である。
図5C図5AにおいてRE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]に基づいてピークを分類処理したときの概念図である。
図5D】各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに、図5C中のハイライトを反映させた概念図である。
図5E図5CにおいてRE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]に基づいてピークを分類処理したときの概念図である。
図5F】各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに、図5E中のハイライトを反映させた概念図である。
図5G図5EにおいてRE-KMD値[DM3]及びRKM値[RM3]に基づいてピークを分類処理したときの概念図である。
図5H】各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに、図5G中のハイライトを反映させた概念図である。
図6】本実施形態で用い得る質量分析計の概略構成の一例を示す図である。
図7】本実施形態の情報処理装置を用いて行われるマススペクトルデータの解析処理のフローチャートの一例を示す。
図8】RE-KMD値とRKM値とを合わせて考慮することによる分離能の向上について説明する概念図である。
図9】本実施形態の情報処理装置を用いて行われる解析処理において、ユーザの操作に応じてXNに関する値を取得した場合の処理のフローチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下に説明されている構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1.情報処理装置
本実施形態の情報処理装置は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータから、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する取得部と、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、ピーク毎の精密質量情報と、に基づいて、ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する算出部と、複数のピークを、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する分類部と、を有する。
【0026】
図4に、本発明の質量分析データ解析方法を実施するための情報処理装置の概略構成図を示す。図4に示すように、情報処理装置100は、例えば、プロセッサ110、通信インターフェース120、入出力インターフェース130、メモリ140、ストレージ150、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数のバス160を含む。
【0027】
情報処理装置100は、上記機能部を有するものであれば特に制限されず、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)などの公知の質量分析計が備えるコンピュータであってもよいし、これら質量分析計と独立したコンピュータであってもよい。
【0028】
プロセッサ110は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ(MPU、画像処理装置(GPU)、プロセッサコア、マルチプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け集積回路(FPGA)等を含み、集積回路(IC)チップ、LS)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、又は、方法を実現してもよい。
【0029】
通信インターフェース120は、ネットワークを介して他の装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース120は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0030】
入出力インターフェース130は、各種操作を入力する入力装置、及び、処理結果などを出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース130は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、及び表示装置131などの情報出力装置を含んでもよい。なお、情報処理装置100は、外付けの入出力インターフェース130を接続することで、所定の入力を受け付けてもよいし、所定の出力を実行してもよい。
【0031】
メモリ140は、ストレージ150からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ110に対して作業領域を提供する。メモリ140には、プロセッサ110がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ140は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0032】
ストレージ150は、プログラム、各機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ150は、例えば、ピークデータ151を格納してもよい。ピークデータ151は、本実施形態の情報処理装置100において、ピークのM/Z,精密質量情報などが含まれてもよいし、算出部112が算出したピーク毎のRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]が記録されてもよいし、分類部113が分類したピーク群が記録されていてもよい。
【0033】
また、ストレージ150は、例えば、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ150の他の例としては、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。
【0034】
プロセッサ110は、ストレージ150に記憶されるプログラムに含まれるコード、又は、命令によって実現する処理、機能、又は、方法を実行する。図4に示すように、本実施形態のプロセッサ110は、取得部111、算出部112、分類部113、及び表示制御部114として機能してもよい。以下、各機能部について説明する。
【0035】
取得部111は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータから、該マススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得する。また、後述するように、取得部111は、ユーザの操作に応じて、XNに関する値を取得してもよい。
【0036】
情報処理装置100が質量分析計200が備えるコンピュータである場合、情報処理装置100の取得部111は、質量分析計200から精密質量情報を取得してもよい。
【0037】
また、情報処理装置100が質量分析計200と独立したコンピュータである場合、情報処理装置100は、ネットワークを介して質量分析計200と接続されてもよいし、接続されなくてもよい。情報処理装置100がネットワークを介して質量分析計200と接続される場合には、情報処理装置100の取得部111は、ネットワークを介して、質量分析計200から精密質量情報を取得してもよい。また、情報処理装置100がネットワークを介して質量分析計200と接続されない場合には、情報処理装置100は、所定の情報が記録された記録媒体を介して、精密質量情報を取得してもよい。
【0038】
本実施形態において、「精密質量」とは、それぞれの元素において最も存在度が高く質量数の小さな同位体の質量を用い、比較する測定値の精度、正確度に基づいた有効数字を用いて計算したイオンや分子の質量である。例えば、ベンゼン(C6H6)の精密質量を考える。炭素には質量が12と13の同位体が存在し、水素には質量が1.00794と2.01410の同位体が存在する。それぞれの元素において最も存在度が高く質量数の小さな同位体は、C=12,H=1.00794であるため、ベンゼン(C6H6)の精密質量は78.05(=12*6+1.00794*6)と算出される。
【0039】
他方で、「分子量」とは、同位体の存在比から補正された原子量の和であり、「精密質量」とは厳密には区別される。
【0040】
また、取得部111が取得するマススペクトルデータの測定対象であるサンプルは、一又は複数の繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含む。具体的には、本実施形態が対象とするサンプルは、異なる末端構造を有する2種以上のホモポリマーの混合物であってもよいし、異なる末端構造を有する2種以上のコポリマーの混合物であってもよいし、コポリマーとホモポリマーの混合物であってもよい。
【0041】
取得部111は、マススペクトルデータのピークに関する情報を、ストレージ150のピークデータ151に記録してもよい。また、マススペクトルに関する情報を、ストレージ150にさらに記録してもよい。
【0042】
算出部112は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、ピーク毎の精密質量情報と、に基づいて、ピーク毎にRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する。
【0043】
算出部112によるRE-KMD値の算出方法の一例について説明する。算出部112は、取得部111が取得した各ピークの精密質量情報Mを、下記式(1)に基づいてKMに変換し、下記式(2)及び(3)に基づいて、KMとNKMの差からRE-KMD値を算出してもよい。式(1)中のXNはディバイザーと呼ばれるパラメータであり、0.5 < MN / XN < 1.5を満たす範囲で任意に調節することにより、データの分離度を変更することが可能である。中でも、XN=round(MN)、つまりディバイザーを繰り返し単位の整数質量と指定したとき、式(1)は通常のKMDの導出式と一致する。上記のようにして得られる、ピーク毎のRE-KMDは、KMの小数点以下部に関する値を反映したものとなる。RE-KMDは、繰り返し数nに依存しない値である。一般に、RE-KMDは-0.5から+0.5までの間の値をとる。
【数1】
【数2】
【0044】
なお、算出部112は、一つのピークに対して、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]毎に、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する。言い換えれば、算出部112は、繰り返し単位が2種であれば、その繰り返し単位に応じて2つのRE-KMD値を算出し、繰り返し単位が3種であれば、その繰り返し単位に応じて3つのRE-KMD値を算出する。
【0045】
RE-KMD解析では、M/ZもしくはNKMを表す横軸とRE-KMDを表す縦軸とで定義される二次元座標系に対して、マススペクトルのピークに対応する複数の要素(例えば円)が配置される。これにより、RE-KMDプロットが生成される。RE-KMDプロットにおいて、同じ末端構造を有するポリマーのピークに対応する複数の要素は、横軸に平行に均等間隔で並ぶ。その間隔は繰り返し単位に相当する。
【0046】
算出部112によるRKM値の算出方法の一例について説明する。算出部112は、取得部111が取得した各ピークの精密質量情報Mと、繰り返し単位の精密質量に基づいて、下記式(4)によりRKM値を算出してもよい。以下のようにして得られるピーク毎のRKM値は、末端基の質量とカチオン化剤の質量の合計値を繰り返し単位の質量で除して得られる値における小数を反映したものとなる。RKMは繰り返し数nに依存しない値である。一般に、RKMは、0から1.0までの間の値をとる。
【数3】
【0047】
なお、算出部112は、一つのピークに対して、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]毎に、RKM値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する。言い換えれば、算出部112は、繰り返し単位が2種であれば、その繰り返し単位に応じて2つのRKM値を算出し、繰り返し単位が3種であれば、その繰り返し単位に応じて3つのRKM値を算出する。
【0048】
RKMプロットの横軸はM/ZもしくはNKMを示し、その縦軸はRKMを示す。RKMプロットにおいても、KMDプロット同様、ポリマーに相当する複数の要素が横軸と並行に等間隔で並ぶ。
【0049】
算出部112がRE-KMD値及びRKM値を算出する際に用いるモノマーの精密質量MNとディバイザーXNは、ユーザが入力した値を用いてもよい。例えば、ポリマーとしてエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)共重合体を含むサンプルを解析することを考える。この場合、ユーザは、EO(-CH2CH2O-)の精密質量M1(44.0262)と、PO(-CH2CH(CH3)O-)の精密質量M2(58.0419)とを、入出力インターフェース130のキーボードやタッチパネルなどを利用して予め入力する。またXNについても同様に、ユーザーが0.5<繰り返し単位の精密質量/XN<1.5を満たす整数の範囲で入力する。そして、算出部112は、取得部が取得したマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報と、ユーザが入力した精密質量M1,M2,X1,X2に基づいて、2つのRE-KMD値と2つのRKM値を算出する。
【0050】
また、算出部112は、上記のようにして算出した、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を、各ピークと対応付けて、ストレージ150のピークデータ151に記録してもよい。また、この時、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の精密質量も併せて記録してもよい。
【0051】
さらに、算出部112は、ピークの間隔などの情報から繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報を推定し、推定した精密質量情報をRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]の算出処理に使用してもよい。
【0052】
以上で詳説したように、RE-KMD値もRKM値も繰り返し数nに依存しない値であり、その末端構造等に依存する値となる。つまり、ある2つのピークについて、RE-KMD値とRKM値を算出したときに、2つのピークでRE-KMD値が偶然類似していたとしてもRKM値が異なるのであればそれは異なるポリマー種であるし、2つのピークでRKM値が偶然類似していたとしてもRE-KMD値が異なるのであればそれは異なるポリマー種であると判定できるが、2つのピークでKMD値もRKM値も類似しているのであれば、そのポリマーの末端構造は同じでありそれらは同じポリマー種であると判定できる。
【0053】
この判定を、各ピークに対して[DM1,RM1]、[DM2,RM2]…、[DMN,RMN]のRE-KMD値とRKM値のセット毎に行うことで、[DM1,RM1]、[DM2,RM2]…、[DMN,RMN]のRE-KMD値とRKM値が一致するピークは同じポリマー種であると分類することが可能である。
【0054】
また、上記例では、RE-KMD値とRKM値の全てが一致するピークは同じポリマー種であると分類するということを述べたが、質量分析計の測定誤差等があり、それによりRE-KMD値とRKM値は影響を受ける。そのため、KMD値とRKM値の全てが一致するピークは同じポリマー種であると分類するという基準は、本来的に同じポリマー種であるピークを別のピークとして分類する可能性があり、現実を反映しない恐れがある。
【0055】
このような観点から、分類部113は、マススペクトルデータの複数のピークを、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する。類似度は、予め定めておいてもよいし、ユーザが規定してもよい。類似度は、特に限定されないが、例えば、ある値に対する±α等の値域によって表現してもよい。また、RE-KMD値はディバイザーXを変えることで複数セット計算することが可能なため、複数のRE-KMD値を計算して同様のデータ分離を検討することで、データ分離の正確性を補ってもよい。
【0056】
RE-KMD値とRKM値の類似度に基づいてポリマー種を分類するという分類部113の分類処理は上記のとおりであるが、以降ではさらに分類部113による分類処理を具体的に説明するために、ストレージ150のピークデータ151のデータ構造について、概念図を用いて説明する。
【0057】
図5Aに、ピークデータ151のデータ構造の概念図を示す。図5Aには、M/Zで特定される各ピークに対して、マススペクトルデータから読み取れるIntensityと、算出部112が算出したRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]が対応付けて記録されたデータ構造を示す。また、図5Bに、各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに対して、図5A中のハイライトを反映させた概念図を示す。
【0058】
まず、分類部113は、分散処理として、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]がともに類似するピークを抽出し、分類する。図5Aの例では、RE-KMD値[DM1]の値が「A」であり、RKM値[RM1]の値が「a」である、M/Zが211.1361、315.1987、419.2613の3つのピークがハイライトされており、これらが抽出され分類される。
【0059】
図5Cに、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]に基づいて211.1361、315.1987、及び419.2613のピークを分類処理したときの概念図を示す。なお、図5Cは、分類されたピークと分類されていないピークを、区別して表示した概念図であり、ピークデータ151は分類処理の過程においてこれと同様のデータ構造を有しなくともよい。また、図5Dに、各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに対して、図5C中のハイライトを反映させた概念図を示す。
【0060】
次に、分類部113は、分散処理として、M/Zが211.1361、315.1987、及び419.2613であるピークのRE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]に着目し、その値と同じRE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]を有するピークを抽出し、分類する。図5Cの例では、RE-KMD値[DM2]の値が「K」であり、RKM値[RM2]の値が「k」であるM/Zが265.1831及び319.2301のピークと、RE-KMD値[DM3]の値が「L」であり、RKM値[RM3]の値が「l」であるM/Zが369.2457のピークと、がハイライトされており、これらが抽出され分類される。
【0061】
図5Eに、RE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]に基づいて265.1831、319.2301、及び369.2457のピークを分類処理したときの概念図を示す。なお、図5Eは、分類されたピークと分類されていないピークを、区別して表示した概念図であり、ピークデータ151は分類処理の過程においてこれと同様のデータ構造を有しなくともよい。また、図5Fに、各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに対して、図5E中のハイライトを反映させた概念図を示す。
【0062】
次に、分類部113は、分散処理として、M/Zが211.1361、315.1987、419.2613、265.1831、319.2301、及び369.2457であるピークのRE-KMD値[DM3]及びRKM値[RM3]に着目し、その値と同じRE-KMD値[DM3]及びRKM値[RM3]を有するピークを抽出し、分類する。図5Eの例では、RE-KMD値[DM3]の値が「S」であり、RKM値[RM3]の値が「s」であるM/Zが264.1626、317.1891、370.2156のピークと、RE-KMD値[DM3]の値が「U」であり、RKM値[RM3]の値が「u」であるM/Zが368.2252のピークと、RE-KMD値[DM3]の値が「T」であり、RKM値[RM3]の値が「t」であるM/Zが318.2096、371.2361のピークと、RE-KMD値[DM3]の値が「V」であり、RKM値[RM3]の値が「v」であるM/Zが372.2566のピークと、がハイライトされており、これらが抽出され分類される。
【0063】
図5Gに、RE-KMD値[DM3]及びRKM値[RM3]に基づいて264.1626、317.1891、318.2096、368.2252、370.2156、371.2361、372.2566のピークを分類処理したときの概念図を示す。なお、図5Eは、分類されたピークと分類されていないピークを、区別して表示した概念図であり、ピークデータ151は分類処理の過程においてこれと同様のデータ構造を有しなくともよい。また、図5Hに、各ピークのRE-KMD値[DM1]に基づきプロットしたRE-KMD Plotに対して、図5G中のハイライトを反映させた概念図を示す。
【0064】
上記のように、分類部113は、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]、RE-KMD値[DM2]及びRKM値[RM2]、・・・RE-KMD値[DMn]及びRKM値[RMn]のうち、RE-KMD値[DMm]及びRKM値[RMm](但し、m≦n)が所定の類似度を満たすピークを抽出して、ピーク群に分類する。図5A図5Hを用いた説明では、一例として、ステップバイステップで分類処理を実行する流れを示したが分類処理はこれに制限されない。
【0065】
このように、分類部113が、前記ピーク群を、RE-KMD値[DMm]及びRKM値[RMm](但し、m≦n)が所定の類似度を満たすピークを抽出して分離する処理は、サンプルが含むポリマーの繰り返し単位の構造以外の構造の種類に応じて分類する処理であるともいえる。「繰り返し単位の構造以外の構造」としては、特に限定されないが、例えば、末端構造、一部変性構造、付加イオンなどが挙げられる。
【0066】
類似度は、ユーザが予め設定してもよいし、分類部113がRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]に基づいて設定してもよい。ここで、類似度は、「誤差許容範囲δ」ともいい、RE-KMD値[DM1]の値が「A」である場合、「A±δ」のように、値の範囲として設定することができる。また、RKM値についても同様に、RKM値[RM1]の値が「a」である場合、「a±δ」のように値の範囲として設定することができる。本実施形態では、この値の範囲を類似度という。なお、RE-KMD値[DM]において設定する値の類似度と、RKM値[RM]において設定する値の類似度は異なっていてもよい。
【0067】
このような類似度を考慮することにより、質量分析計によりピークの精密質量の測定精度にばらつきが生じる場合でも、ピーク群への分類処理を適切に行うことができる。
【0068】
またRE-KMD値はー0.5から0.5を循環する値のため、RE-KMD値が0.5もしくはー0.5付近の場合、測定誤差による値のずれがその境界を跨いでしまう場合が存在する。その場合の対応策として、ディバイザーXを変えた2つ目のRE-KMD値を計算し、同様に分離を検討することにより、処理の妥当性を確認してもよい。またこの確認作業においては、2つ以上のRE-KMD値を計算し、一度に判別するようなアルゴリズムを用いてもよい。
【0069】
また、分類部113は、ピーク群に含まれるピークの数が1であるときに、該ピークに由来する化合物がサンプルに含まれるポリマー以外の成分である可能性が高いと分類してもよい。ピーク群に含まれるピークの数が1であるということは、繰り返し単位を含まない化合物(非ポリマー成分ともいう)である可能性が高く、ホモポリマーやコポリマーではないと容易に推定することができる。なお、分子量が一つの値に決まるポリマーもピークの数が1となり得る。
【0070】
表示制御部114は、ピーク群に含まれるピークを、マススペクトルデータとして表示制御してもよい。例えば、表示制御部114は、分類部113が分類したピーク群に属するスペクトルデータだけを、未分類のピーク群、又は、分類済みの他のピーク群とは、色などを変えて表示制御してもよい。
【0071】
また、表示制御部114は、マススペクトルデータにおいて、ピーク群に含まれるピークを区別可能に表示制御してもよい。具体的には、表示制御部114は、特定のピーク群のスペクトルデータだけを色付け表示などをして区別可能に表示制御してもよい。
【0072】
2.質量分析計
次に、本実施形態で用いる質量分析計200の一態様について簡単に説明する。図6に、質量分析計200の概略構成の一例を示す図である。質量分析計200は、イオン源210、質量分析部220、検出部230、処理部240、操作部250、表示部260、記憶部270を有してもよい。また、質量分析計200は、必要に応じて、情報処理装置100を備えていてもよい。
【0073】
イオン源210は、所定の方法でサンプルに含まれる各成分をイオン化し、生成されたイオンは質量分析部220に導入される。
【0074】
質量分析部220は、イオン源210で生成されたイオンを分離する。例えば、質量分析部220を飛行時間型質量分析部とする場合には、質量電荷比M/Zに応じた飛行時間の違いに基づいて、イオンを分離する。
【0075】
検出部230は、質量分析部220で分離されたイオンを検出する。具体的には、検出部230は、検出部230に入射するイオンの量(強度)に応じたアナログ信号を出力する。出力されたアナログ信号は処理部240へ送信される。処理部240へ送信されたアナログ信号は、処理部240でデジタル信号に変換されて質量分析データとして記憶部270に格納されてもよい。
【0076】
処理部240は、プロセッサ等を含むハードウェアと、イオン源210、質量分析部220、検出部230を制御するための装置制御プログラム及び質量分析データを処理するためのデータ処理プログラムとから構成されてもよい。
【0077】
操作部250は、ユーザが情報を入力するためのもので、入力された情報を処理部240に出力する。操作部250の機能は、各種のスイッチ(押しボタン等)、タッチパネル、キーボード等により実現できる。
【0078】
表示部260は、各種の情報を、文字や画像により表示する。例えば、操作部250に入力された情報(情報の確認用)、検出部230で検出した結果、処理部4における処理の条件、処理部240における処理の結果等を、表示部260に表示させることが可能である。表示部260の機能は、各種のディスプレイにより実現できる。
【0079】
3.動作処理
次に、図7を参照し、本実施形態の情報処理装置100による各処理と各機能部の詳細について説明する。図7は、情報処理装置100を用いて行われるマススペクトルデータの解析処理を示すフローチャートの一例を示す。なお、以下で説明する処理手順は一例に過ぎず、各処理は、本開示の技術思想の範囲内において可能な限り変更されてよく、また、適宜、ステップの省略、置換、および追加が可能である。
【0080】
<ステップS1>
まず、ステップS1において、測定対象試料を、イオン源210に導入し、マススペクトルを測定する。具体的には、イオン源210でサンプルをイオン化し、質量分析部220でイオンを質量電荷比に応じて分離し、分離されたイオンを検出部230で検出し、得られた検出信号を処理部240を介してデジタル信号に変換して取り込むことにより、マススペクトルデータを取得する。
【0081】
<ステップS2>
次に、ステップS2において、処理部240は、得られたマススペクトルデータに対してノイズと分離するための適宜な閾値を用いてピーク抽出処理を行い、抽出されたピークのリストを作成する。このピークのリストは、低質量側から番号付けされたピークごとに観測質量電荷比M/Zの値と強度値(Intensity)を記載したリストであってもよい。表示部260は、このようなピークリストに基づいて、図1(a)や図2(a)のようにマススペクトルを表示制御してもよい。
【0082】
なお、このステップS2では、処理部240は、同位体のピークを1つにまとめるDeisotope処理を行うことにより、ピークの本数を減少させることが好ましい。
【0083】
上述のとおり、情報処理装置100は質量分析計200が備えるコンピュータであってもよいし、これら質量分析計と独立したコンピュータであってもよい。情報処理装置100が質量分析計が備えるコンピュータである場合には、情報処理装置100の取得部111は、処理部240から繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得してもよい。
【0084】
また、情報処理装置100が質量分析計200が備えるコンピュータではなく、質量分析計200と独立した装置である場合には、ネットワークを介して、質量分析計200から精密質量情報を取得してもよいし、所定の情報が記録された記録媒体を介して、質量分析計200から精密質量情報を取得してもよい。
【0085】
<ステップS3>
次に、ステップS3において、ユーザは、予め知られている試料の組成情報に基づいて、情報処理装置100の入出力インターフェース130等を介して、各繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報を入力してもよい。この際に、ユーザは、入出力インターフェース130により、予め知られている試料の組成情報に基づいて、各繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の構造に関する情報を入力することで、算出部112に対して、各繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報を入力してもよい。
【0086】
また、構造に関する情報を経ることなく、ユーザは、入出力インターフェース130により、算出部112に対して、各繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報を直接入力してもよい。例えば、繰り返し構造M1がC24O、繰り返し構造M2がC36Oであることが既知であった場合、C24Oの精密質量44.02621及び整数質量44を、繰り返し構造M1の精密質量情報として、C36Oの精密質量58.04132及び整数質量58を繰り返し構造M2の精密質量情報として、装置側が取得している状態であればよい。
【0087】
さらに、繰り返し構造が既知でないものについては、ユーザが推定する代わりに、算出部112が、マススペクトルから各繰り返し構造を推定又は特定し、各繰り返し構造の精密質量情報を取得するようにしてもよい。例えば、算出部112は、ピークの間隔などの情報から繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の構造に関する情報や分子量に関する情報を推定し、精密質量情報を推定してもよい。
【0088】
<ステップS4>
次に、ステップS4において、情報処理装置100の算出部112は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にKendrick Mass演算を行い、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]に関するRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する。
【0089】
即ち、前述の例(繰り返し構造M1がC24O、繰り返し構造M2がC36O)でいえば、情報処理装置100の算出部112は繰り返し構造M1の精密質量情報とディバイザーX1に基づき「各ピークの精密質量/X1×44.00000/44.02621」の演算を行うことにより各ピークのKendrick Mass(KM)値を求め、求めたKM値に最も近い整数値を求めることにより整数Kendrick Mass(NKM)値を求め、KM値とNKM値の差分を求めることにより各ピークの繰り返し構造M1についてのRE-KMD値DM1を求める。
【0090】
同様に、情報処理装置100の算出部112は、繰り返し構造M2の精密質量情報とディバイザーX2に基づき「各ピークの精密質量/X2×58.00000/58.04132」の演算を行うことにより各ピークのKendrick Mass(KM)値を求め、求めたKM値に最も近い整数値を求めることにより整数Kendrick Mass(NKM)値を求め、KM値とNKM値の差分を求めることにより各ピークの繰り返し構造M2についてのRE-KMD値DM2を求める。
【0091】
算出部112は、このようにして各ピークについて繰り返し構造毎に求められたRE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を、例えば図5Aに示されるように、ピークリストの各ピークの精密質量情報と対応付けて記録してもよい。
【0092】
<ステップS5>
次に、ステップS5において、情報処理装置100の算出部112は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]の分子量に関する情報と、前記ピーク毎の前記精密質量情報と、に基づいて、前記ピーク毎にRemainders of Kendrick Mass(RKM)値[RM1,RM2,…,RMN]を算出する。
【0093】
即ち、前述の例(繰り返し構造M1がC24O、繰り返し構造M2がC36O)でいえば、情報処理装置100の算出部112は繰り返し構造M1の精密質量情報に基づき「各ピークの精密質量/44.02621」の演算を行うことにより各ピークのRemainder値を求め、求めたRemainder値の小数点以下を切り捨てることにより整数Remainder値を求め、Remainder値と整数Remainder値の差分を求めることにより各ピークの繰り返し構造M1についてのRKM値RM1を求める。
【0094】
同様に、情報処理装置100の算出部112は、繰り返し構造M2の精密質量情報に基づき「各ピークの精密質量/58.04132」の演算を行うことにより各ピークのRemainder値を求め、求めたRemainder値の小数点以下を切り捨てることにより整数Remainder値を求め、Remainder値と整数Remainder値の差分を求めることにより各ピークの繰り返し構造M1についてのRKM値RM2を求める。
【0095】
算出部112は、このようにして各ピークについて繰り返し構造毎に求められたRKM値[RM1,RM2,…,RMN]を、例えば図5Aに示されるように、ピークリストの各ピークの精密質量情報と対応付けて記録してもよい。
【0096】
<ステップS6>
次にステップS6において、ユーザは、類似度としてRE-KMD値DとRKM値Rの誤差許容範囲δD,δRを設定してもよい。類似度は、後述するピーク分離の際に使用する。類似度の値については計測装置の質量精度や測定データの質量範囲によるため指定はしないが、数値処理の原理上、RE-KMD値の誤差許容範囲δDは装置の質量精度をおおよそそのまま反映し、RKM値の誤差許容範囲δRは装置の質量精度より小さくなる性質がある。そのため、良好なデータ分離を行うために、測定装置の測定精度は±10PPM以内が好ましく、測定誤差が小さいほどより好ましい。ユーザは、その測定データの精度に合わせてδを設定することが好ましい。
【0097】
<ステップS7>
次に、ステップS7において、分類部113は、複数の前記ピークを、ステップS4,S5で求めた前記RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及び前記RKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類する。これにより、ピークを末端構造の種類ごと分類することができる。この分類手法について、以下に説明する。
【0098】
まず、分類部113は、任意の1ピークに対し、(DM1,RM1)がステップS6で定義した許容誤差範囲δD,δR内において一致するデータを全て分離抽出する。以後、インプットである分離抽出前のデータを全データ、抽出したデータを抽出データ、残ったデータを残存データと表記する。
【0099】
繰り返し単位M1,M2,M3を有する3次元コポリマーの具体的なインプットとアウトプットの様子を図5A図5Hに示す。まず、分類部113は、図5A図5Bに示すように、多数のプロットの中から繰り返し単位M1に関して、RE-KMD値[DM1]及びRKM値[RM1]がともに類似するピークを抽出し、分類する。この操作は、最初に選択した任意の1ピークに対し、M1軸方向に整列した点群を抽出する操作に該当する。このとき、RE-KMD値DM1だけでも一列を抽出できるが、RKM値RM1も使用して点群を指定することにより、KMD値だけでは分離できないピークを別成分として認識して分離することが可能となる。
【0100】
RKM値の導入による分離能向上の理由を、より具体的に説明する。簡便のため2元系コポリマーの例で説明する。1成分目(M1)に対するRE-KMDプロットを表示すると、高分子の繰り返し単位M1以外の構造が同じ物同士がM1軸方向に並んだドット表示となる(図8(a))。続いて、図8(a)にRKMの結果を反映させ、直交する2軸にそれぞれRE-KMDとRKMをプロットすると、繰り返し単位M1以外の構造が同じ物同士が1点に集約されたプロットとなる(図8(b))。この次元圧縮により、例えばRE-KMDプロット(図8(a))では分離しきれていなかった点群Aと点群Bが、RE-KMD値とRKM値の2次元プロットで分離できていることが分かる。従って、RE-KMD値とRKM値の2つの値で指定してピーク分離を行うことで、RE-KMDプロットでは分離できないようなプロットも分離能を向上させることが可能である。このように次元圧縮、分離、再配列を行うことで、数値処理による機械的なピーク分離が可能となる。
【0101】
このように本発明は、異なるポリマーの繰り返し構造や、異なる繰り返し構造の末端が混在しているサンプルであっても、RE-KMD値とRKM値を応用した数値処理を行うことで、容易に情報を把握することが可能となる。
【0102】
続いて、分類部113は、図5C~図5Dに示すように、残存データの中から繰り返し単位M2に関して(DM2,RM2)が、先ほど抽出したデータの(DM2,RM2)と許容誤差範囲δD,δR内において一致するデータを全て分離し、抽出データに合算する(図5E参照)。具体的なアウトプットの様子を図5Eに示す。この操作は、図5Dに示すように、(DM1,RM1)に基づいて抽出した抽出データに対し、M2軸方向に整列した点群を抽出する操作に該当する。これにより、2次元コポリマーのデータ群から、末端構造が同じポリマー由来のピークを全て抽出できたことになる。
【0103】
3元系以上のコポリマーデータに対しても、図5F~図5Hに示すように、(DM3,RM3)、(DM4,RM4)と同様に処理をしていくことで、分離が可能であることは明らかである。
【0104】
<ステップS8~ステップS10>
次に、ステップS8において、分類部113は、抽出データに含まれるピークの数が2点以上かどうかを判断する。ピークの数が2点以上であれば、それらのピークは繰り返し構造を有するポリマー由来データと考えられる。そのため、ステップS9に進み、分類部113は、ポリマーデータに分類する。データ点数が1点の場合、繰り返し構造がないと考えられるため、添加物などの成分由来と判断し、ステップS10に進み、分類部113は、繰り返しなしデータに分類する。これにより、添加剤由来のデータも判別可能となる。
【0105】
<ステップS11>
次に、ステップS11において、分類部113は、残存データに含まれるピークの数が1点以上存在するかどうかを判断する。残存データに含まれるピークの数が1点以上あれば、ステップS7に戻り、残存データに対してデータ処理を繰り返す。最後、残存データ数が0点になることを合図にループ処理を終了し、処理の過程で生成した分離データを出力する。
【0106】
本実施例では、分かりやすさのため、数学的処理をM1軸、M2軸と順を追って説明したが、上記操作は数値判断のみに基づくため、本来は一括で抽出可能である。RE-KMD値とRKM値を用い、同様のアウトプットが得られるコンピュータプログラムを構成しても良い。
【0107】
次に、図9を参照し、本実施形態の情報処理装置を用いて行われる解析処理において、ユーザの操作に応じてXNに関する値を取得した場合の処理のフローチャートについて説明する。なお、以下で説明する処理手順は一例に過ぎず、各処理は、本開示の技術思想の範囲内において可能な限り変更されてよく、また、適宜、ステップの省略、置換、および追加が可能である。
【0108】
ステップS21において、取得部111は、繰り返し単位[M1,M2,…,MN]を有する一又は複数のポリマーを含むサンプルのマススペクトルデータの複数のピークの精密質量情報を取得し、ステップS22において、算出部112は、XN=round(MN)の初期条件のもと、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出する。ここで算出されるRE-KMD値はKMD値となる。
【0109】
次いで、ステップS23において、分類部113は、複数のピークを、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]及びRKM値[RM1,RM2,…,RMN]の類似度に応じて、ピーク群に分類処理し、その結果を表示制御部114は表示制御してもよい。ステップS24において、ユーザが分類が分解能よく実行されていると判断する場合には、ここで処理を停止してもよい。
【0110】
一方で、分類の分解能を改善する場合には、ユーザは入力インターフェースに対する操作により、初期条件(XN=round(MN))とは異なるXNに関する値を入力し、ステップS25において、取得部111はその値を取得してもよい。そして、ステップS26において、算出部112は、取得したXNに基づいて、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を再度算出する。ここで算出されるRE-KMD値はKMD値とは異なった値となる。その後、改めてステップS23において、分類部113が分類処理を実行し、その結果を表示制御部114は表示制御してもよい。
【0111】
以上の処理により、ユーザは入力インターフェースに対する操作によりXNの値を調整することで、所望の分類が得られるまで分類処理を繰り返し行うことができる。
【0112】
また、上記では、初期条件としてXN=round(MN)を使用したが、これに代えて、最初から、取得部111はユーザの操作に応じてXNに関する値を取得し、算出部112は、取得したXNに基づいて、RE-KMD値[DM1,DM2,…,DMN]を算出してもよい。
【0113】
なお、上述した情報処理装置100や質量分析計200の各構成要素のうち、一部の構成要素を省略した構成や、複数の構成要素を兼ねている構成要素を有する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0114】
100…情報処理装置、110…プロセッサ、111…取得部、112…算出部、113…分類部、114…表示制御部、120…通信インターフェース、130…入出力インターフェース、131…表示装置、140…メモリ、150…ストレージ、151…ピークデータ、160…バス、200…質量分析計、210…イオン源、220…質量分析部、230…検出部、240…処理部、250…操作部、260…表示部、270…記憶部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6
図7
図8
図9