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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127741
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】膜成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/36 20060101AFI20240912BHJP
   B29C 41/14 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 5/04 20060101ALI20240912BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240912BHJP
   C08K 5/40 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B29C41/36
B29C41/14
C08L23/26
C08L5/04
C08K3/22
C08K5/40
C08L1/26
C08L29/04
C08L33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217816
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023035603
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593119527
【氏名又は名称】白石カルシウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】奥西 良太
(72)【発明者】
【氏名】菅野 昭弘
【テーマコード(参考)】
4F205
4J002
【Fターム(参考)】
4F205AA04A
4F205AA45
4F205AB03A
4F205AB07A
4F205AC05
4F205AG06
4F205AH70
4F205GA08
4F205GB01
4F205GC01
4F205GF01
4F205GF02
4F205GN29
4J002AB033
4J002AB052
4J002BB271
4J002BE023
4J002BG013
4J002DE106
4J002EV167
4J002FD096
4J002FD157
4J002FD206
4J002GB00
4J002GC00
4J002GG00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境負荷が小さく、成膜性に優れ、かつ高い強度物性を有する膜成形体を製造する方法の提供。
【解決手段】膜成形用型の表面に、カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液を付着させる工程と、膜成形用型を、クロロスルホン化ポリエチレンのラテックスと、アルギン酸ナトリウムと、水性亜鉛華、活性亜鉛華およびこれらの混合物から選択される亜鉛華と、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドおよびこれらの2以上の混合物から選択される加硫促進剤と、を含むラテックス組成物に浸す工程と、膜成形用型をラテックス組成物から引き上げ、膜成形用型の表面に膜成形体を成形する工程とを備え、前記凝固溶液におけるカルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が、凝固溶液の重量を基準として15%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜成形体の製造方法であって、
膜成形用型の表面に、カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液を付着させる付着工程と、
前記付着工程の後、前記膜成形用型を、以下の成分:
クロロスルホン化ポリエチレンのラテックスと、
アルギン酸ナトリウムと、
水性亜鉛華、活性亜鉛華およびこれらの混合物からなる群より選択される亜鉛華と、
テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドおよびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される加硫促進剤と、を含むラテックス組成物に浸す浸漬工程と、
前記膜成形用型を前記ラテックス組成物から引き上げ、前記膜成形用型の表面に膜成形体を成形する成形工程と、を備え、
前記凝固溶液における前記カルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が、該凝固溶液の重量を基準として15%以下であることを特徴とする、膜成形体の製造方法。
【請求項2】
前記亜鉛華が、前記クロロスルホン化ポリエチレンのラテックスの重量に対して1部~20部含まれる、請求項1に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項3】
前記アルギン酸ナトリウムの数平均分子量は40万~300万である、請求項1または2に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項4】
前記アルギン酸ナトリウムの数平均分子量は40万~300万である、請求項3に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ラテックス組成物は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つをさらに含む、請求項1または2に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ラテックス組成物は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つをさらに含む、請求項3に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程の前に、前記凝固溶液を付着させた前記膜成形用型を加熱し、乾燥させる加熱工程をさらに備える、請求項1または2に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項8】
前記浸漬工程の前に、前記凝固溶液を付着させた前記膜成形用型を加熱し、乾燥させる加熱工程をさらに備える、請求項3に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項9】
前記浸漬工程の前に、前記加熱工程において加熱した前記膜成形用型を冷却する冷却工程をさらに備える、請求項7に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項10】
前記浸漬工程の前に、前記加熱工程において加熱した前記膜成形用型を冷却する冷却工程をさらに備える、請求項8に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項11】
前記膜成形体を前記膜成形用型から取り外す脱型工程をさらに備え、
前記脱型工程では、前記膜成形用型の表面に成形された前記膜成形体の水洗を行う、請求項1または2に記載の膜成形体の製造方法。
【請求項12】
前記膜成形体を前記膜成形用型から取り外す脱型工程をさらに備え、
前記脱型工程では、前記膜成形用型の表面に成形された前記膜成形体の水洗を行う、請求項3に記載の膜成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜成形用型を用いて膜成形体を成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの膜が備える伸縮性や追従性を利用した製品として、手袋、風船、サック等の種々の膜成形体が製造されている。このような膜成形体には、伸縮性および追従性だけでなく、用途に応じて、種々の特性が求められている。たとえば、化学品を取り扱う化学工場などにおいて、取り扱う化学物質から作業者の手を保護するために用いられるゴム手袋には、高濃度の強酸や強アルカリ、有機溶剤等に侵食されない高い耐薬品性や、耐熱性が要求される。クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)製のゴム手袋は、耐薬品性、耐熱性に優れており、作業用手袋として適している。
【0003】
膜成形体を作製する方法として、ゴムを含む液状の組成物に型を浸漬し、引き上げて乾燥させる浸漬法と呼ばれる方法が知られている。たとえば特許文献1には、スルホハロゲン化ポリオレフィンラテックス組成物を用いて被膜を製造することが開示されている。一方特許文献2には、CSMラテックスとアルギン酸ナトリウムとを含むラテックス組成物を用いて、膜成形体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-145232号公報
【特許文献2】特許第7033242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているキャスト成膜方法にてスルホハロゲン化ポリオレフィンラテックス組成物から製造した被膜(膜成形体)は、所望の引張強度を有していた。しかし、特許文献1に開示されたスルホハロゲン化ポリオレフィンラテックス組成物を用いて浸漬法にて被膜を製造したところ、所望の高い強度物性を有する物が得られないことがわかった。一方、ラテックス組成物をゲル化させる機能を有するアルギン酸ナトリウムを添加することで、製造される膜成形体の強度物性が改善するかどうかは、特許文献2には特に開示されていない。
【0006】
本発明者らは、特許文献2の膜成形体の製造方法をさらに検討した。特許文献2の製造方法においては、膜成形用型の表面に付着させた凝固溶液が、ラテックス組成物中のアルギン酸ナトリウムと反応し、ラテックス組成物をゲル化し、成膜させる作用を有する。このため、膜成形用型の表面にはラテックス組成物の膜が形成され、その後、膜成形用型を加熱すると、ラテックスが加硫(架橋)して膜成形体が完成する。本発明者らがこの製造方法を詳細に検討したところ、用いられる凝固溶液がCSMの加硫に何らかの影響を及ぼしていると考えうる挙動が多く見られることが判明した。そこで、本発明は、CSMラテックスとアルギン酸ナトリウムとを含むラテックス組成物を用いて、環境負荷が小さく、成膜性に優れ、かつ高い強度物性を有する膜成形体を製造することが可能な膜成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、膜成形体の製造方法である。
前記膜成形体の製造方法は、
膜成形用型の表面に、カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液を付着させる付着工程と、
前記付着工程の後、前記膜成形用型を、以下の成分:
クロロスルホン化ポリエチレンのラテックスと、
アルギン酸ナトリウムと、
水性亜鉛華、活性亜鉛華およびこれらの混合物からなる群より選択される亜鉛華と、
テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドおよびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される加硫促進剤と、を含むラテックス組成物に浸す浸漬工程と、
前記膜成形用型を前記ラテックス組成物から引き上げ、前記膜成形用型の表面に膜成形体を成形する成形工程と、を備え、
前記凝固溶液における前記カルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が、該凝固溶液の重量を基準として15%以下であることを特徴とする。
【0008】
前記亜鉛華が、前記クロロスルホン化ポリエチレンのラテックスの重量に対して1部~20部含まれることが好ましい。
【0009】
前記アルギン酸ナトリウムの数平均分子量は40万~300万であることが好ましい。
【0010】
前記ラテックス組成物は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。
【0011】
前記浸漬工程の前に、前記凝固溶液を付着させた前記膜成形用型を加熱し、乾燥させる加熱工程をさらに備えることが好ましい。
【0012】
前記浸漬工程の前に、前記加熱工程において加熱した前記膜成形用型を冷却する冷却工程をさらに備えることが好ましい。
【0013】
前記膜成形体を前記膜成形用型から取り外す脱型工程をさらに備え、
前記脱型工程では、前記膜成形用型の表面に成形された前記膜成形体の水洗を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
凝固溶液の種類や濃度およびラテックス組成物の配合を適切にした膜成形体の製造方法は、環境負荷が小さく、成膜性に優れ、かつ強度物性に優れた膜成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態の膜成形体の製造方法について説明する。実施形態において、膜成形体とは、一般的な意味で用いられ、面積に対して無視できるほどの厚さを有する薄い形状を有する成形体のことを指す。実施形態の膜成形体の製造方法は、付着工程と、浸漬工程と、成形工程と、を備える。
【0016】
付着工程は、膜成形用型(以下、単に「型」ということがある。)の表面に、カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液を付着させる工程である。型は、膜成形体の形状と対応する形状を有するものが好ましく用いられる。膜成形体の一例である手袋の作製に用いられる型は、人の手(手首から指先にかけての部分を含む。袖と対応する腕の部分をさらに含む場合がある。)の形状を模った物体であり、たとえばセラミックや金属の一体成形品である。カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液は、好ましくは水溶性のカルシウム塩が溶解した水溶液である。カルシウムイオンを発生させる化合物とは、溶媒(特に水)に溶解してカルシウムイオンを発生させる化合物のことを指し、カルシウム塩であることが好ましい。カルシウム塩として、たとえば、硝酸カルシウムおよび塩化カルシウムを挙げることができる。実施形態において、特に、硝酸カルシウムを好ましく用いることができる。カルシウムイオンを発生させる化合物を含む凝固溶液は、後述するラテックス組成物中のアルギン酸ナトリウムと反応し、ラテックス組成物をゲル化し、凝固させる作用を有する。凝固溶液におけるカルシウムイオンを発生させる化合物の濃度は、凝固溶液の重量を基準として15%以下であることが好ましい。また凝固溶液におけるカルシウムイオンを発生させる化合物の濃度は、凝固溶液の重量を基準として3%以上、特に5%以上であることが好ましい。カルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が3%未満であると、ラテックス組成物をゲル化させる作用が十分に得られ難い。またカルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が15%を超えると、最終的に形成される膜成形体の強度がやや劣ることがある。凝固溶液におけるカルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が、最終的に形成される膜性形態の強度に影響を及ぼすメカニズムは必ずしも明らかではない。カルシウムイオンを発生させる化合物の濃度が高すぎることで、カルシウムイオンとアルギン酸ナトリウムとのネットワークが過大に形成され、ラテックス組成物の加硫の進行を何らかの形で阻害する、等の理由が考えられる。なお、型への凝固溶液の付着は、たとえば、浸漬や塗布により行われる。
なお、本明細書において%は、特に断らない限りは「重量%」を意味するものとする。
【0017】
浸漬工程は、付着工程の後、型を、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)のラテックスと、アルギン酸ナトリウムと、亜鉛華と、加硫促進剤とを含むラテックス組成物に浸す工程である。CSMのラテックスは、CSMの微粒子を水中に分散させたエマルションである。CSMの微粒子は、ラテックス組成物中、たとえば、30~60%含まれる。CSMのラテックスを膜成形体の原料とすることで、耐薬品性、耐熱性、耐候性等に優れた膜成形体が得られる。また、CSMのラテックスを膜成形体の原料とすることで、有機溶剤にCSMの固形ゴムを溶かしたものを原料として用いる場合と比べ、環境への負荷が小さい。
【0018】
アルギン酸ナトリウムとは、アルギン酸のカルボキシル基がナトリウムイオンと結合した中性の塩である。アルギン酸ナトリウムは水によく溶解し、粘性の高い水溶液を形成する化合物である。アルギン酸ナトリウムを水に溶解させると、水中に存在するカルシウムイオンと速やかに反応し、ラテックス組成物をゲル化させる機能を有する。アルギン酸ナトリウムがラテックス組成物に含まれていることで、型に付着したラテックス組成物の流動が抑制され、液だれが抑制されることにより、型の表面に良好な皮膜が形成される。すなわち、本実施形態の膜成形体の製造方法は、成膜性に優れる。アルギン酸ナトリウムは、ラテックス組成物の粘度を高めることができる成分であるため、ラテックス組成物から型を引き上げたときに、型に多くのラテックス組成物が付着し、膜成形体をなす皮膜の膜厚を効果的に厚くすることができる。ラテックス組成物にアルギン酸ナトリウムが含まれていないと、カルシウムイオンとの反応によるゲル化が起きないので、ラテックス組成物の粘度を高くしても、液だれを抑えることができず、良好な皮膜が形成されない。また、皮膜の膜厚を厚くすることが困難となる。実施形態において、アルギン酸ナトリウムの数平均分子量は20万~400万、好ましくは40万~300万、さらに好ましくは50万~200万である。このような分子量を持つアルギン酸ナトリウムによれば、ラテックス組成物の粘度を上述の範囲に調節しやすいので、引き上げた型に付着するラテックス組成物の量が多く、型の表面に形成される皮膜の膜厚を効果的に厚くすることができる。本明細書において分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定したものをいう。
【0019】
ラテックス組成物中のアルギン酸ナトリウムの濃度は、好ましくは0.1~1.0%であり、より好ましくは0.4~0.6%である。アルギン酸ナトリウムの濃度が上記範囲より低いと、ラテックス組成物を十分にゲル化させることができない恐れがある。また、ラテックス組成物の粘度を十分に高められない場合がある。アルギン酸ナトリウムの濃度が上記範囲より高いと、型の表面に形成された皮膜の表面に多量の未加硫ゲルが残ることによって、膜成形体の脱型が困難となる場合がある。アルギン酸ナトリウムは、CSMのラテックス100重量部に対し、好ましくは0.3~4.0重量部であり、より好ましくは1.0~2.0重量部である。
【0020】
ラテックス組成物は、亜鉛華を含む。亜鉛華は、水性亜鉛華、活性亜鉛華およびこれらの混合物からなる群より選択される。亜鉛華は、ラテックス組成物の加硫剤、または加硫の際に生成する酸性物質を中和する受酸剤の機能を有する。亜鉛華は、CSMラテックスの重量に対して1部~20部、好ましくは5部~10部含まれる。なお、受酸剤として、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、水酸化カルシウムを用いることもできるが、亜鉛華に加えてこれらの中から選択される化合物を追加で添加するように用いることが好ましい。上記の通り、カルシウムを発生させる化合物を含む凝固溶液によるCSMラテックス組成物の加硫への影響をなくす、あるいは最小限にするためには、受酸剤の種類と量の選択が重要である。
【0021】
さらにラテックス組成物は、加硫促進剤を含む。加硫促進剤は、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドおよびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される。加硫促進剤は、ゴムの加硫速度を増進し、加硫に必要とされる温度を低下させ、時間を短縮する薬剤のことである。加硫促進剤として、上記のチウラム系の化合物のほか、チアゾール系(たとえば2-メルカプトベンゾチアゾール)、チオウレア系(たとえばジエチルチオウレア)、ジチオカルバミン酸系(たとえばジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)グアニジン酸系(たとえばジフェニルグアニジン)から選択される加硫促進剤を追加で添加しても良い。実施形態において、上記のようなカルシウムを発生させる化合物を含む凝固溶液を用いると、ラテックス組成物の加硫が進行しにくくなる場合があることが判明した。このような場合は、加硫促進の効果がより大きいチウラム系の化合物を含む加硫促進剤を主に添加することが好ましい。
なお、本明細書において「加硫」とは、ラテックス組成物中のCSMが架橋して、ラテックス組成物が硬化することを意味するものとする。
【0022】
実施形態においてラテックス組成物は、ポリアミン、ポリオール、亜鉛華以外の金属酸化物あるいは有機過酸化物等の加硫剤をさらに含んでいて良い。加硫剤を含む場合、その量は、ラテックス組成物中、CSMラテックス100重量部に対し、たとえば0.2~10.0重量部である。また、ラテックス組成物は、気泡の少ない膜成形体を得るため、シリコーンエマルション系、金属石鹸系、ポリエーテルエステル系等の消泡剤をさらに含むことが好ましい。消泡剤を含む場合、その量は、ラテックス組成物中、CSMラテックス100重量部に対し、たとえば0.2~0.8重量部である。
【0023】
ラテックス組成物は、上記の成分のほかに、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸ナトリウムの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。これらの物質は、ラテックス組成物の粘度を高める機能を有する。これらの物質を添加すると、ラテックス組成物の粘度をさらに高めることができ、皮膜の膜厚を厚くすることに貢献する。ラテックス組成物中のこれらの物質の合計の濃度は、好ましくは0.1~1.0%であり、より好ましくは0.3~0.7%である。
【0024】
ラテックス組成物の粘度に関して、回転速度を6rpmとして回転粘度計を用いてJIS Z8803:2011に従い、測った25℃での粘度は、好ましくは500~20000mPa・sであり、より好ましくは2000~15000mPa・sである。また、回転速度を60rpmとした点を除いて上記と同様に測った粘度は、好ましくは100~5000mPa・sであり、より好ましくは500~4000mPa・sである。ラテックス組成物の粘度が上記範囲に調整されていることにより、型の表面に形成される皮膜の膜厚を厚くし、膜厚を調節しやすくなる。ラテックス組成物の粘度は、アルギン酸ナトリウムの配合量や分子量の調整、所定の物質の添加等により調整できる。
【0025】
浸漬工程では、皮膜の膜厚を厚くするため、ラテックス組成物の温度を30℃以下に維持することが好ましく、10~25℃に維持することがより好ましい。この温度範囲に維持することで、ラテックス組成物の粘度を高め、皮膜の膜厚を厚くする効果を向上させることができる。
【0026】
浸漬工程における型の浸漬時間は30~180秒であることが好ましく、60~120秒であることがより好ましい。浸漬時間が上記範囲より短いと、型を浸漬したラテックス組成物中でのゲル化が不十分となり、引き上げた後の液だれを抑制し難くなる。浸漬時間が上記範囲より長いと、膜成形体の生産性を向上させ難い。
【0027】
成形工程は、型をラテックス組成物から引き上げ、型の表面に膜成形体を成形する工程である。付着工程にて型に付着させたカルシウムイオンを発生させる化合物と、浸漬工程にて型を浸したラテックス組成物中のアルギン酸ナトリウムとが反応してゲル化し、型の表面にはゲル化したラテックス組成物が付着している。型に付着したラテックス組成物中のCSMを架橋させるため、成形工程では、加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理は、好ましくは60~160℃、より好ましくは70~120℃の雰囲気下、好ましくは30~180分間、より好ましくは60~120分間行われる。加熱処理は、まず30~120分間程度加熱処理し、型を冷却し、続いて再度30~60分間程度追加で加熱処理する、加熱処理と追加熱処理とを組み合わせた方法により行うこともできる。加熱処理によりCSMが架橋することで、型の表面に膜成形体となる皮膜が形成される。手袋を作製する場合の加熱処理は、ラテックス組成物から引き上げた型を、指先と対応する型の部分を上にして行われるのが好ましい。
【0028】
成形工程では、加熱処理を行う前に、ラテックス組成物から引き上げた型を、クロロプレンゴム(CR)やニトリルゴム(NBR)等の異種ラテックスの配合液(他のゴムのラテックス組成物)に浸漬する浸漬処理をさらに行ってもよい。このような成形工程を行うことにより、膜成形体であるCSMゴムの層および他のゴムの層が積層された複層構造の膜製品が得られる。
【0029】
以上の膜成形体の製造方法は、環境負荷が小さく、成膜性に優れ、強度、耐薬品性、耐熱性、耐候性等に優れた膜成形体を製造することができる。膜成形体は、CSMが有する伸縮性、追従性、柔軟性等の特性を備えており、手袋、風船、サック、スポイト、チューブ、袖カバー、シューズカバー等として好適である。
また、本実施形態の膜成形体の製造方法では、ポリビニルメチルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルポリオール等のいわゆる感熱化剤をラテックス組成物に含ませる必要がなく、したがって、浸漬工程の前に型を予め加熱(予熱)する必要がない。
【0030】
本実施形態の膜成形体の製造方法により得られる膜成形体をなす皮膜の膜厚は、好ましくは0.1~2.0mmであり、より好ましくは0.20~0.50mmである。上記範囲の膜厚は、膜成形体が手袋、指サック等である場合に好ましい。また、一方で、膜成形体をなす皮膜の膜厚は、膜成形体がシューズカバー等である場合に、好ましくは1.0~2.0mmである。
【0031】
なお、実施形態の膜成形体の製造方法は、加熱工程をさらに備えることが好ましい。加熱工程は、浸漬工程の前に、凝固溶液が付着した型が乾燥するよう、型を加熱する工程を指す。型を加熱することにより、浸漬工程の前に、凝固溶液が付着した型を速く乾燥させることができ、膜成形体の生産性が向上する。凝固溶液が乾燥していることにより、ラテックス組成物をゲル化させる効果が型の表面において均一に得られ、膜成形体をなす皮膜の膜厚にムラが発生することを抑えられる。
【0032】
加熱工程は、付着工程の後に行うことが好ましいが、付着工程の前に行うことも好ましく、付着工程の前後のそれぞれにおいて行うことも好ましい。型は、好ましくは60~80℃に加熱される。60℃未満であると、凝固溶液を速く乾燥させることができず、膜成形体の生産性を向上させ難い。80℃を超えると、浸漬工程を行う際の型の温度が高すぎて、型と接するラテックス組成物の粘度が下がり、型に付着するラテックス組成物の量が少なくなるので、膜成形体の膜厚が薄くなりやすい。
【0033】
膜成形体の生産性を確保する観点からは、浸漬工程の前に、加熱工程により加熱した型の冷却を行わないことが好ましいが、一方で、加熱工程により加熱された型を、浸漬工程の前に、冷却することも好ましい。すなわち、実施形態の膜成形体の製造方法は、浸漬工程の前に、加熱工程において加熱した型を冷却する冷却工程をさらに備えることが好ましい。これにより、浸漬工程の際に、型と接するラテックス組成物の粘度が下がり、型に付着するラテックス組成物の量が少なくなることを抑え、膜成形体の膜厚を効果的に厚くすることができる。型の冷却は、型が、好ましくは室温(たとえば25℃)になるまで行われる。型の冷却は、膜厚のムラが生じるのを避けるため、送風等を行うことなく、放冷により行うことが好ましい。
【0034】
本実施形態の膜成形体の製造方法は、さらに、脱型工程を備えることが好ましい。脱型工程は、膜成形体を型から取り外す工程である。脱型工程では、型の表面に成形された膜成形体の水洗を行う。これにより、皮膜の表面に残った未加硫の固くなったゲルを洗い落とすことができ、CSMの皮膜が持つ柔軟性が発揮され、容易に脱型を行える。膜成形体の水洗は、たとえば、膜成形体を型ごと、水に浸漬することにより行うことができる。浸漬時間は、好ましくは60~120秒間である。水洗の際、未加硫のゲルの水への溶解を促すため、水をエアバブリングすることが好ましい。未加硫のゲルは、水に容易に溶けるので、水中で皮膜の表面を手で擦る等の作業の必要がない。
【実施例0035】
[実施例および比較例]
表1~表3に示す、ラテックス組成物と凝固溶液の種々の組み合わせを用いて膜成形体である手袋の作製を行い、製造された膜成形体の強度を測定した。手袋の作製は次の要領で行った。
洗浄し乾燥させた型の表面に凝固溶液として硝酸カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社)の水溶液を塗布し、70℃で10分間、型を加熱し乾燥させた。次いで型を、室温(25℃)に維持したラテックス組成物に10秒間浸漬し、引き上げ、指先の部分を上にして140℃で型を加熱処理し、皮膜を形成した。
【0036】
表中、ラテックス組成物は、CSMのラテックスのほか、表中に示す成分をそれぞれ含む。
【0037】
表中の表記は以下の通りである:
CSMラテックス:クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)ラテックス(住友精化株式会社、「セポレックスCSM」)
TS:テトラメチルチウラムモノスルフィド(大内新興化学工業株式会社、「ノクセラー-TS」)
TT:テトラメチルチウラムジスルフィド(大内新興化学工業株式会社、「ノクセラーTT-P」)
アルギン酸ナトリウム:株式会社キミカ、「B-8」(重量平均分子量270万~300万)
M100:100%引張応力
M300:300%引張応力
M500:500%引張応力
TB:破断強度
EB:破断点伸び
【0038】
膜成形体の物性の評価は、TB(破断強度)の値が10MPa未満のものを「不良」、10MPa以上14MPa未満のものを「良」、14MPa以上のものを「優」とした。なお、実施例および比較例にて作製した膜成形体のEB(破断点伸び)の値は、いずれも500%を超えており、CSMラテックス膜成形体としていずれも問題なかった。また、各実施例および比較例で形成された膜成形体を目視で観察し、膜の表面がなめらかであるものを「平滑」と評価し、膜の表面に粗大粒子を含む粒形状が視認されるものを「粒あり」と評価した。
【0039】
なお、実施例9と9’、実施例10と10’、実施例11と11’、実施例12と12’は、それぞれ一組の実験である。実施例9の配合によるラテックス組成物を用いてまず60分間140℃で加熱処理して加硫し、型を放冷し、得られた膜成形体の物性値を測定した(実施例9)。一方、実施例9の配合によるラテックス組成物をまず60分間140℃で加熱処理して加硫し、型を放冷し、再度140℃で30分間追加熱処理して追加硫し、型を放冷し、得られた膜成形体の物性値を測定した(実施例9’)。実施例10、実施例11および実施例12についても同様に、追加熱処理による追加硫を行い、それぞれ得られた膜成形体の物性値を測定した(実施例10’、実施例11’および実施例12’)。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
実施例および比較例によると、凝固溶液の濃度、使用する亜鉛華の種類、亜鉛華の配合量、加硫促進剤の種類と量、加硫時間を最適化することにより、CSMラテックス膜成形体の強度物性ならびに成膜状態を向上させることができる。なお、表には特に記載していないが、加熱処理して一度冷却、次いで加熱処理を行う(実施例9と9’、10と10’、11と11’、および12と12’を参照)ことにより、変色が抑制された強度物性の高い膜成形体を作製することができることがわかった。本発明の製造方法により、従来よりも強度の高い膜成形体を得ることができた。
比較例1および3は、受酸剤として酸化マグネシウムのみを用い、凝固溶液の濃度を25%とした実験例であり、得られた膜成形体の強度物性が劣っていた。また、比較例2および4は、受酸剤として酸化マグネシウムのみを用いた実験例であり、得られた膜成形体の強度物性は実施例1等と比較してやや劣り、比較例4で得られた膜成形体には粗大粒子が観察された。比較例5および6は、受酸剤として活性亜鉛華を用い、凝固溶液の濃度を高くした実験例であり、得られた膜成形体の強度物性は、実施例13~15と比較して劣っていた。
【0044】
以上、本発明の膜成形体の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および上記実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。