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特開2024-127776遊離脂肪酸生産藻類とその製造方法、および脂肪酸製造方法
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  • 特開-遊離脂肪酸生産藻類とその製造方法、および脂肪酸製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127776
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】遊離脂肪酸生産藻類とその製造方法、および脂肪酸製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/13 20060101AFI20240912BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240912BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20240912BHJP
   C12R 1/89 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12N1/13 ZNA
C12N15/55
C12N15/11 Z
C12P7/40
C12R1:89
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020449
(22)【出願日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023036698
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発 産業用物質生産システム実証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(71)【出願人】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】西山 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】門脇 太朗
(72)【発明者】
【氏名】愛知 真木子
(72)【発明者】
【氏名】高谷 信之
(72)【発明者】
【氏名】小俣 達男
(72)【発明者】
【氏名】池田 和貴
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA83X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA10
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】藻類が生来備える内在性遺伝子を高発現させた非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類とさらに光合成機能を強化した遺伝子組換え型遊離脂肪酸生産藻類、非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類の製造方法、遊離脂肪酸生産藻類を用いた遊離脂肪酸製造方法を提供すること。
【解決手段】藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入し、別種由来の遺伝子を有さない非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類、さらに、katG遺伝子およびsodB遺伝子を導入した遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類、藻類に生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入する非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類の製造方法、および、遊離脂肪酸生産藻類を用いる脂肪酸の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入し、
別種由来の遺伝子を有さない非遺伝子組換え型であることを特徴とする遊離脂肪酸生産藻類。
【請求項2】
シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)を親株とすることを特徴とする請求項1に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
【請求項3】
dAS1_g21r株(受託番号FERM BP-22463)であることを特徴とする請求項1に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
【請求項4】
藻類に、生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入することを特徴とする非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類の製造方法。
【請求項5】
藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入し、
さらに、katG遺伝子およびsodB遺伝子を導入し、
遺伝子組換え型であることを特徴とする遊離脂肪酸生産藻類。
【請求項6】
dAS1_g21r_KS株(受託番号FERM BP-22489)であることを特徴とする請求項5に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
【請求項7】
請求項1~3、5~6のいずれかに記載の遊離脂肪酸生産藻類を用いることを特徴とする脂肪酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離脂肪酸生産藻類と、遊離脂肪酸生産藻類の製造方法、および、遊離脂肪酸生産藻類を用いた脂肪酸製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料依存からの脱却を目指して、エネルギー物質の持続可能な生産技術の開発が世界中で進められている。その中で、細胞内にトリアシルグリセロール(TAG)等の脂質を蓄積することのできる藻類が注目されている。このような藻類の細胞内に蓄積した脂質は、ジェット燃料やバイオディーゼル燃料(BDF:登録商標)の原料に用いることができるため、燃料生産に関する研究が行われている。しかしながら、これらの藻類は、細胞内にTAG等の脂質を蓄積するが、蓄積した脂質を取り出すには、培養した藻類菌体を回収・乾燥し、有機溶媒等で抽出する必要がある(細胞内生産法)。特に、藻類菌体の回収・乾燥及び有機溶媒による抽出工程は、燃料物質の生産に係る投与エネルギーの50%以上を要するため、実用化の弊害となっている。
【0003】
そのため、遺伝子組換え藻類を用いた遊離脂肪酸(Free Fatty Acid:以下、FFAともいう)の細胞外生産系が注目されている。
従来の細胞外生産系である遺伝子組換え藻類の脂肪酸代謝経路の模式図を図5に示す。
藻類は、光合成によって同化したCOからアシルACPを合成して膜脂質を生合成する。膜脂質からリパーゼの働きによりFFAが切り出されるが、FFAはアシルACP合成酵素(Aas)によりアシルACPへと変換されて膜脂質の生合成に再利用されるため、通常は細胞外にFFAは放出されない。しかし、アシルACP合成酵素遺伝子(aas)を破壊すると、細胞内にFFAが蓄積し過剰量のFFAは細胞外へと放出される。さらに、外来のチオエステラーゼ遺伝子(tes)を導入することにより、直接、アシルACPからFFAを切り出すことが可能となり、FFA生産量が大きく増大する。
【0004】
本発明者らは、非特許文献1において、シアノバクテリアの一種である、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus
PCC 7942、以下、7942株ともいう)のSPc株由来で、遺伝子操作によって内在性のアシルACP合成酵素(Aas)の欠損したdAS1株、非特許文献2において、dAS1株に大腸菌由来のアシルACPチオエステラーゼをコードする遺伝子(`t
esA)を導入したFFA生産能に優れたdAS1T株を提案している。
非特許文献3において、7942株の硝酸イオン輸送体欠損株であるNA3を親株として、アシルACP合成酵素(Aas)の欠損と大腸菌由来のチオエステラーゼ(`tes
A)を導入したdAS2T株に、FFAを細胞外に排出するためのrndA1B1を過剰発現するためのプラスミド(pRND1)を導入した細胞外へのFFA放出能に優れたdAS2T/pRND1株を提案している。
【0005】
FFAを細胞外に放出する細胞外放出系により、細胞内生産法よりもエネルギー効率に優れたバイオ燃料製造が可能である。しかしながら、上記したように、細胞外放出系の遊離脂肪酸生産藻類は、別種由来の遺伝子(以下、外来遺伝子ともいう)が導入されている。
このような外来遺伝子を組み込んだ自然界には存在しない生物は、環境中に漏洩すると、生態系に悪影響を及ぼしかねない。そのため、外来遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え藻類による遊離脂肪酸の工業生産実用化のためには、遺伝子組換え藻類の漏洩を防ぐための設備や管理などが必要である。そのため、外来遺伝子を用いることなく、親株である藻類が生来備える内在性遺伝子を高発現させた、非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類を実現することが求められている。
【0006】
ここで、FFAを高生産させるには光合成を盛んに行わせればよい。しかし、遊離脂肪酸生産藻類を含む藻類は強い光に弱く、強光条件下では、増殖、光合成が停止してしまう場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takatani N, Use K, Kato A, Ikeda K, Kojima K, Aichi M, et al.(2015) Essential role of acyl-ACP synthetase in acclimation of the cyanobacterium Synechococcus elongatus strain PCC 7942 to high-light conditions. Plant Cell Physiol. 56:1608-15.
【非特許文献2】Kato A, Use K, Takatani N, Ikeda K, Matsuura M, Kojima K, Aichi M, et al. (2016) Modulation of the balance of fatty acid production and secretion is crucial for enhancement of growth and productivity of the engineered mutant of the cyanobacterium Synechococcus elongatus. Biotechonol for Biofu. Vol. 9, 91
【非特許文献3】Kato A, Takatani N, Use K, Uesaka K, Ikeda K, Chang Y, et al. (2015)Identification of a cyanobacterial RND-type efflux system involved in export of free fatty acids. Plant Cell Physiol. 56:2467-77.
【非特許文献4】Kato A, Takatani N, Ikeda K, Maeda SI, Omata T (2017) Removal of the product from the culture medium strongly enhances free fatty acid production by genetically engineered Synechococcus elongatus. Biotechnol Biofuels 10:141.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、藻類が生来備える内在性遺伝子を高発現させた非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類と、この非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類の製造方法と、非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類を親株として光合成機能を強化した遊離脂肪酸生産藻類と、遊離脂肪酸生産藻類を用いた遊離脂肪酸製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入し、
別種由来の遺伝子を有さない非遺伝子組換え型であることを特徴とする遊離脂肪酸生産藻類。
2.シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)を親株とすることを特徴とする1.に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
3.dAS1_g21r株(受託番号FERM BP-22463)であることを特徴とする1.に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
4.藻類に、生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入することを特徴とする非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類の製造方法。
5.藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入し、
さらに、katG遺伝子およびsodB遺伝子を導入し、
遺伝子組換え型であることを特徴とする遊離脂肪酸生産藻類。
6.dAS1_g21r_KS株(受託番号FERM BP-22489)であることを特徴とする5.に記載の遊離脂肪酸生産藻類。
7.1.~3.、5.~6.のいずれかに記載の遊離脂肪酸生産藻類を用いることを特徴とする脂肪酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、別種由来の遺伝子(外来遺伝子)を有さない非遺伝子組換え型であるため、仮に環境中に漏洩したとしても、生態系へ悪影響を及ぼす可能性が低い。本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、藻類が生来備える遺伝子を高発現させたものであり、様々な藻類から製造することができる。脂肪酸製造を行う現場に生息する在来の藻類を親株として非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類を製造することにより、非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類が環境中に漏洩した際に生態系へ及ぼす影響を極めて小さくすることができる。
【0011】
本発明の遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、光合成機能が強化されており、強光条件下でも光合成を行うことができ、遊離脂肪酸をより効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類の代謝経路の模式図。
図2】実験1における菌量(A)と遊離脂肪酸濃度(B)の経時変化を示すグラフ。
図3】実験2における菌量(A)と遊離脂肪酸濃度(B)の経時変化を示すグラフ。
図4】実験2における菌量(A)と遊離脂肪酸濃度(B)の経時変化を示すグラフ。
図5】従来の細胞外生産系である遺伝子組換え藻類の脂肪酸代謝経路の模式図。
図6】実験3におけるdAS1_g21r_KS株の異なる光強度での菌量(A)と遊離脂肪酸濃度(B)の経時変化を示すグラフ。
図7】実験4における遺伝子組換え型であるdAS1_g21r_KS株と非遺伝子組換え型であるdAS1_g21r株とを、光強度400μE/m・sで培養したときの菌量(A)と遊離脂肪酸濃度(B)の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
・非遺伝子組換え型
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、別種由来の遺伝子を有さない非遺伝子組換え型であり、親株として用いた藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAからなる群から選ばれる1種以上を導入したものである。
【0014】
非遺伝子組換え型で、遊離脂肪酸生産藻類を構築するためには、(1)内在性のアシルACP合成酵素(Aas)の欠損、(2)外来のチオエステラーゼと同等以上のFFA生産が可能なリパーゼの高発現が必要である。また、FFAの細胞内での生産速度が細胞外への放出速度を上回ってしまうと、細胞内に過剰量のFFAが蓄積して生育阻害を引き起こすおそれがあるため、(3)FFAを細胞外へと排出する輸送体の高発現が必要である。
【0015】
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類の代謝経路の模式図を図1に示す。
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、親株として用いた藻類が生来備えるリパーゼをコードするDNA(以下、リパーゼDNAともいう)、生来備える遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNA(以下、輸送体DNAともいう)からなる群から選ばれる1種以上を導入したものである。これにより上記した(2)リパーゼの高発現と(3)輸送体の高発現のいずれか、または両方が可能となる。
【0016】
本発明において、親株として使用する藻類は、外来遺伝子を有さないものであれば特に制限されず、シネココッカス属、シネコシスティス属等を用いることができる。具体的には、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株が挙げられる。なお、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株は、パスツール研究所(フランス)等から入手可能である。また、遊離脂肪酸製造を行う現場に生息している野生の藻類を採取して親株として使用することもできる。
【0017】
通常、藻類は、複数種のリパーゼ、複数種の輸送体を有しており、リパーゼをコードするDNAとして複数種のDNA、遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAとして複数種のDNAを有する。
本発明において、親株である藻類に導入するDNAとしては、親株が生来備えるリパーゼDNA、親株が生来備える輸送体DNAからなる群から選ばれる1種以上であり、例えば、親株が生来備えるリパーゼDNAの1種または2種以上を導入することもでき、親株が生来備える輸送体DNAの1種または2種以上を導入することもでき、親株が生来備えるリパーゼDNAの1種以上と親株が生来備える輸送体DNAの1種以上を導入することもできる。親株が有するリパーゼDNAと輸送体DNAの中から、遊離脂肪酸生産性を高めることのできる1種または2種以上を選択することができる。
遺伝子の導入方法は特に制限されず、自然形質転換、相同組換え等により行うことができる。この際、組み込むDNAの上流に、光化学系IIの反応中心D1タンパク質をコードするpsbAIIのプロモーターに対して、ネガティブエレメント配列を取り除き恒常的に発現するようにしたpsbAIIプロモーターを接続することにより、導入するリパーゼDNA、輸送体DNAを強く発現することができる。
【0018】
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類として、dAS1_g21r株を用いることができる。dAS1_g21r株は受託番号FERM BP-22463として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2022年12月13日付で国際寄託されている。
【0019】
dAS1_g21r株は、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株を親株とする非遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類である。シネココッカス・エロンガタスPCC7942株は、22個のリパーゼDNAを有すると推定されている。dAS1_g21r株は、親株に対して、Galp2リパーゼをコードするDNAであるgalp2(配列番号1)と、Galp1リパーゼをコードするDNAであるgalp1(配列番号2)と、遊離脂肪酸を細胞外に排出する輸送体をコードするDNAであるrndA(配列番号3)とrndB(配列番号4)とをrndAB(配列番号5)として導入したものである。
【0020】
本発明の非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、(1)内在性のアシルACP合成酵素(Aas)の欠損のみを施した親株と比較した、細胞乾燥重量(DCW:Dry Cell Weight)あたりの遊離脂肪酸生産速度が、1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましく、3倍以上であることがよりさらに好ましく、4倍以上であることがよりさらに好ましい。
【0021】
・遺伝子組換え型
本発明の遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類は、上記した非遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類に、さらに、7942株由来のkatG遺伝子およびsodB遺伝子を大腸菌由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子と共に導入した遺伝子組換え型である。
katG遺伝子(配列番号6)は、カタラーゼをコードするDNAである。SodB遺伝子(配列番号7)は、スーパーオキシドディムスターゼをコードするDNAである。katG遺伝子とsodB遺伝子は、光合成により生じる活性酸素を除去する酵素であるカタラーゼとスーパーオキシドディムスターゼをコードしており、katG遺伝子とsodB遺伝子とを導入することにより、光合成機能を強化することができる。
【0022】
本発明の遺伝子組換え型である遊離脂肪酸生産藻類として、dAS1_g21r_KS株を用いることができる。dAS1_g21r_KS株は、dAS1_g21r株にkatG遺伝子とsodB遺伝子を導入した遺伝子組換え型の遊離脂肪酸生産藻類である。dAS1_g21r_KS株は、受託番号FERM BP-22489として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2023年12月22日付で国際寄託されている。
【0023】
本発明の遊離脂肪酸生産藻類を培養することにより、脂肪酸を製造することができる。
培養する際の温度は、例えば、15℃以上40℃以下であり、20℃以上が好ましく、22℃以上がより好ましく、24℃以上がさらに好ましく、また、38℃以下が好ましく、36℃以下がより好ましく、34℃以下がさらに好ましい。
培養する際のpHは、例えば、pH7.5以上12.0以下であり、pH7.8以上が好ましく、pH8.0以上がより好ましく、また、pH11.0以下が好ましく、pH10.5以下がより好ましく、pH10.0以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明の遊離脂肪酸生産藻類は、光合成により遊離脂肪酸を生産する。そのため、培養時には光合成のための光を照射することが必要である。
遊離脂肪酸生産藻類が非遺伝子組換え型である場合は、光の強度は、30μE/m・s以上1500μE/m・s以下が好ましく、50μE/m・s以上がより好ましく、100μE/m・s以上がさらに好ましく、150μE/m・s以上がよりさらに好ましく、また、1200μE/m・s以下がより好ましく、1000μE/m・s以下がさらに好ましく、800μE/m・s以下がよりさらに好ましく、600μE/m・s以下がよりさらに好ましく、400μE/m・s以下がよりさらに好ましい。
【0025】
遊離脂肪酸生産藻類が遺伝子組換え型である場合は、光の強度は、100μE/m・s以上1500μE/m・s以下が好ましく、150μE/m・s以上がより好ましく、200μE/m・s以上がさらに好ましく、250μE/m・s以上がよりさらに好ましく、300μE/m・s以上がよりさらに好ましく、また、1200μE/m・s以下がより好ましく、1000μE/m・s以下がさらに好ましく、800μE/m・s以下がよりさらに好ましく、600μE/m・s以下がよりさらに好ましい。
【0026】
本発明の遊離脂肪酸生産藻類は、光合成により水と二酸化炭素から脂肪酸を製造する。そのため、脂肪酸の生産性向上の点からは、二酸化炭素濃度が高いことが好ましく、二酸化炭素濃度0.04%(v/v)以上のガスを吹き込むことが好ましい。吹き込むガス中の二酸化炭素濃度は0.1%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましく、1.0%以上であることがよりさらに好ましく、1.5%以上であることがよりさらに好ましい。一方、二酸化炭素濃度が高くなりすぎると、藻類の生育が阻害される場合がある。そのため、吹き込むガス中の二酸化炭素濃度は、4.0%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。
【実施例0027】
非特許文献1では、シアノバクテリアの一種である、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942、以下、7942株ともいう)のSPc株由来で、遺伝子操作によって内在性のアシルACP合成酵素遺伝子(aas)のコード領域に、カナマイシン耐性遺伝子(nptI)とスクロース存在下で細胞死を誘導するレバンスクラーゼをコードする遺伝子(sacB)を導入したdAS1_sacB株が作製された。
また、非特許文献1では、aas遺伝子の1950塩基のコード領域のうち、705-1,366にあたる塩基が欠失したDNAプラスミドが作製され、dAS1_sacB株に作製したDNAプラスミドを自然形質転換と相同組換えによって導入し、スクロース添加培地で選抜することにより、nptIとsacBが取り除かれ、aas遺伝子の一部が欠失して機能が喪失したdAS1株が作製された。
【0028】
psbAIIプロモーターに接続したgalp1及びrndABを、上記に示したaas遺伝子の欠失領域内に導入したDNAプラスミドを作製した。作製したDNAプラスミドをdAS1_sacB株にそれぞれ導入し、スクロース添加培地で選抜してdAS1_galp1及びdAS1_rndAB株を作製した。
【0029】
aas遺伝子の欠失領域内に、psbAIIプロモーターに接続したgalp1、psbAIIプロモーターに接続したrndABをタンデムに接続したDNAプラスミドを作製した。作製したDNAプラスミドをdAS1_sacB株に導入し、スクロース添加培地で選抜してdAS1_galp1_rndAB株を作製した。dAS1_galp2_rndAB株も同様に作製した。
【0030】
aas遺伝子の欠失領域内にgalp2、galp1、rndABをそれぞれpsbAIIプロモーターに接続し、順番にタンデムに接続したDNAプラスミドを作製し、dAS1_sacB株に導入し、スクロース添加培地で選抜してdAS1_g21r株(dAS1_galp2_galp1_rndAB株)を作製した。
【0031】
培養には、BG-11培地を一部改変した基本培地(Suzuki I.,Kikuchi H.,Nakanishi S.,Fujita Y.,Sugiyama T.,Omata T.(1995)、A novel nitrite reductase gene from the cyanobacterium Plectonema boryanum. J.Bacteriol.177:6137-6143.)を用いた。
基本培地のpHは、グッドバッファーであるTESを使用し、水酸化カリウムの添加によりpH8.2に調整した。
藻類を植菌する際には、硫酸アンモニウムをアンモニウムイオンの終濃度が7.5mMとなるように加えて窒素源とした。
【0032】
「実験1:非遺伝子組換え型」
・実施例1
90mL容量のガラス製培養管に基本培地50mLを入れてオートクレーブにより滅菌処理(121℃、15分)を施した後、dAS1_galp1株を植菌し、70μE/m・sの連続光照射下でOD730が0.5~1.0になるまで培養した(前培養)。
続いて、前培養液を新しい基本培地へOD730が0.05となるように植菌し、培地中の遊離脂肪酸を回収するためにミリスチン酸イソプロピルを重層した。
ガスボンベによる2%(v/v)CO供給と電球色のLEDライトによる700μE/m・sの連続光照射下で、32℃で16日間培養した。
・比較例1
dAS1株を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0033】
「実験2:非遺伝子組換え型」
・実施例2
90mL容量のガラス製培養管に基本培地50mLを入れてオートクレーブにより滅菌処理(121℃、15分)を施した後、dAS1_rndAB株を植菌し、70μE/m・sの連続光照射下でOD730が0.5~1.0になるまで培養した(前培養)。
続いて、前培養液を本培養の培地へOD730が0.05となるように植菌し、培地中の遊離脂肪酸を回収するためにミリスチン酸イソプロピルを重層した。本培養の培地は硫酸アンモニウムの終濃度が15mMとなるようにした。dAS1T株のみ窒素源を硫酸アンモニウムではなく、硝酸カリウムにして終濃度が15mMとなるようにした。
ガスボンベによる2%CO供給と電球色のLEDライトによる200μE/m・sの連続光照射下で、32℃で10日間培養した。
【0034】
・実施例3
dAS1_galp1_rndAB株を用いた以外は実施例2と同様にした。
・実施例4
dAS1_galp2_rndAB株を用いた以外は実施例2と同様にした。
・実施例5
dAS1_g21r株を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0035】
・比較例2
dAS1株を用いた以外は実施例2と同様にした。
・参考例
非特許文献1に記載のdAS1T株を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0036】
FFA濃度は、Free Fatty Acid Quantification Kit(Biovision)で測定した。
細胞乾燥重量(g/L)は非特許文献4より、0.218×OD730+0.014の式から算出した。
OD730(菌体濁度)とFFA濃度を定期的に測定した。
16日後(実験1)または10日後(実験2)のFFA濃度と細胞乾燥重量(DCW)を求め、ミリスチン酸イソプロピル中のFFA濃度から培地当たりのFFA濃度を算出した。さらに培地当たりのFFA濃度を培養日数(16日、10日)で割り、FFA生産速度を求め、FFA生産速度を細胞乾燥重量で割り、細胞乾燥重量当たりのFFA生産速度を求めた。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
・結果
「実験1」より、Aasの欠損のみを施した比較例1と比較して、リパーゼDNAであるgalp1を高発現させた実施例1の遊離脂肪酸生産藻類は、遊離脂肪酸が高蓄積しており(図2)、生産性が向上していた。
「実験2」より輸送体DNAであるrndABを発現させた実施例2~5の遊離脂肪酸生産藻類は、Aasの欠損のみを施した比較例2より遊離脂肪酸が高蓄積しており(図3)、生産性が向上していた。輸送体DNAとリパーゼDNAを共発現した実施例3~5の遊離脂肪酸生産藻類は、Aasの欠損のみを施した比較例2と比較した細胞乾燥重量当たりのFFA生産速度が4倍以上にもなっており、特に、実施例5の遊離脂肪酸生産藻類は、培地当たりの蓄積脂肪酸量が高く遊離脂肪酸の生産性に優れていた。
さらに実施例5の遊離脂肪酸生産藻類は、非特許文献2で示される外来のチオエステラーゼを導入した遺伝子組換え株である参考例よりも遊離脂肪酸が高蓄積しており(図4)、細胞乾燥重量あたりのFFA生産速度が高く、非遺伝子組換え型であっても遺伝子組換え藻類と同等以上の遊離脂肪酸の生産性を達成できることが確かめられた。
【0039】
「実験3:遺伝子組換え型」
7942株のニュートラルサイトである0084遺伝子の領域内に、psbAIIプロモーターに接続したkatG遺伝子およびsodB遺伝子とクロラムフェニコール耐性遺伝子を導入したDNAプラスミドを作製した。作製したプラスミドをdAS1_g21r株に導入してクロラムフェニコール添加培地で選抜し、dAS1_g21r_KS株を作製した。
【0040】
・実施例6
90mL容量のガラス製培養管に基本培地50mLを入れてオートクレーブにより滅菌処理(121℃、15分)を施した後、dAS1_g21r_KS株を植菌し、70μE/m・sの連続光照射下でOD730が0.5~1.0になるまで培養した(前培養)。
続いて、前培養液を本培養の培地へOD730が0.05となるように植菌し、培地中の遊離脂肪酸を回収するためにミリスチン酸イソプロピルを重層した。本培養の培地は硫酸アンモニウムの終濃度が15mMとなるようにした。
ガスボンベによる2%CO供給と様々な光強度の電球色のLEDライト照射下で、25℃で12日間培養した。OD730(菌体濁度)とFFA濃度を定期的に測定した。結果を図6、表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
・結果
dAS1_g21r_KS株を様々な光強度で培養したところ、光強度200μE/m・sで増殖速度が最も高まった。一方、FFA生産は、光強度400μE/m・sで409mg-FFA/Lと最も高い生産量を示し、FFA生産速度は培養12日目に70mg-FFA/g-DCW/日に達した。さらに強い光強度の下では、生育が阻害され、バイオマス当たりのFFA生産速度は向上したが、FFA生産量は減少した。したがって、FFA生産量とFFA生産速度の双方の指標から、この株は光強度400μE/m・sで最も優れたFFA生産性を示すことが考えられる。
【0043】
「実験4:遺伝子組換え型と非遺伝子組換え型の比較」
・実施例7
dAS1_g21r_KS株の光耐性を評価するために、dAS1_g21r_KS株を用いて培養試験を行った。本培養の光強度を400μE/m・sに固定した以外は実験3と同様に行った。
・参考例2
dAS1_g21r株を用いた以外は実施例7と同様にした。
【0044】
OD730(菌体濁度)とFFA濃度を定期的に測定した。結果を図7と表3に示す。
【表3】
【0045】
・結果
12日目のFFA生産量は、dAS1_g21r株は288mg/Lに対し、dAS1_g21r_KS株は409mg/Lを示した。さらにdAS1_g21r_KS株のDCW当たりのFFA生産速度はdAS1_g21r株の1.8倍であった。
katG遺伝子およびsodB遺伝子を導入することにより、強光耐性が付与され、FFA生産を促進できることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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