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  • 特開-固定子および回転電機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127777
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】固定子および回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240912BHJP
   H02K 3/48 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020551
(22)【出願日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023035839
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 瑛祐
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DA13
5H604DB01
5H604DB15
5H604DB26
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】コイルに滴下するワニスの流れを改善した固定子を提供する。
【解決手段】回転電機の固定子は、複数のスロットが内周側に形成された固定子鉄心と、スロット内にそれぞれ配置されるコイルと、内周側が開放されるように屈曲し、スロット内でコイルの外側を包み込んで配置される絶縁紙と、を備える。絶縁紙は、スロット内でコイル外周面と対向する第1領域よりも内周側に位置する第2領域に、コイルに滴下されるワニスを絶縁紙の外側に導く逃げ穴を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが内周側に形成された固定子鉄心と、
前記スロット内にそれぞれ配置されるコイルと、
内周側が開放されるように屈曲し、前記スロット内でコイルの外側を包み込んで配置される絶縁紙と、を備え、
前記絶縁紙は、スロット内でコイル外周面と対向する第1領域よりも内周側に位置する第2領域に、前記コイルに滴下されるワニスを前記絶縁紙の外側に導く逃げ穴を有する
回転電機の固定子。
【請求項2】
前記逃げ穴は、固定子の軸方向に沿って配列される
請求項1に記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記逃げ穴は、固定子の軸方向において異なるパターンで形成される
請求項2に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
複数のスロットが内周側に形成された固定子鉄心と、
前記スロット内にそれぞれ配置されるコイルと、
内周側が開放されるように屈曲し、前記スロット内でコイルの外側を包み込んで配置される絶縁紙と、を備え、
前記絶縁紙は、軸方向端部のうち少なくともバスバー側に、前記コイルに滴下されるワニスを前記絶縁紙の外側に導く逃げ穴を有する
回転電機の固定子。
【請求項5】
前記逃げ穴は、固定子の軸方向と直交する方向に沿って配列される
請求項4に記載の回転電機の固定子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の固定子と、
前記固定子の内周側に配置された回転子と、
を備える回転電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子および回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、回転電機の固定子には、固定子コアのティースにコイルが巻回される。ティースとコイル間を絶縁するために、固定子コアのスロットには絶縁紙が配置されることがある。さらに、固定子の各コイルは、形状保持のためにワニスを含浸させて全体的に固化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7069738号公報
【特許文献2】特開2006-23858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルにワニスを含浸させる工程で、固定子の内周側からコイルにワニスを滴下する場合、スロット内で絶縁紙の内側にワニスが滞留し、コイル内周側にワニスだまりが発生することがある。コイルの発熱によりワニスだまりが熱収縮すると、ワニスだまりの近傍のコイルのエナメル層が損傷し、コイルの絶縁性が損なわれる可能性がある。
【0005】
また、絶縁紙の内側のワニスは、絶縁紙を伝ってコイルの軸方向端部に設けられたバスバーのサーミスタ取付部に付着してしまうことが考えられる。こうなると、バスバーとサーミスタとの間に樹脂が存在し、サーミスタで温度が正確に検出できなくなってしまう。
【0006】
このため、従来は、コイルに滴下するワニスの流れに改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、コイルに滴下するワニスの流れを改善した固定子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る回転電機の固定子は、複数のスロットが内周側に形成された固定子鉄心と、スロット内にそれぞれ配置されるコイルと、内周側が開放されるように屈曲し、スロット内でコイルの外側を包み込んで配置される絶縁紙と、を備える。絶縁紙は、スロット内でコイル外周面と対向する第1領域よりも内周側に位置する第2領域に、コイルに滴下されるワニスを絶縁紙の外側に導く逃げ穴を有する。
【0009】
上記の一態様において、逃げ穴は、固定子の軸方向に沿って配列されていてもよい。また、逃げ穴は、固定子の軸方向において異なるパターンで形成されていてもよい。
【0010】
また、他の態様に係る回転電機の固定子は、複数のスロットが内周側に形成された固定子鉄心と、スロット内にそれぞれ配置されるコイルと、内周側が開放されるように屈曲し、スロット内でコイルの外側を包み込んで配置される絶縁紙と、を備え、絶縁紙は、軸方向端部のうち少なくともバスバー側に、コイルに滴下されるワニスを絶縁紙の外側に導く逃げ穴を有する。
【0011】
上記の他の態様において、逃げ穴は、固定子の軸方向と直交する方向に沿って配列されてもよい。
【0012】
また、他の態様の回転電機は、上記の一態様又は他の態様の固定子と、固定子の内周側に配置された回転子と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
一態様によれば、コイル内周側でのワニスだまりの形成を抑制できる固定子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態1に係る回転電機の横断面を示す図である。
図2】実施形態1に係る固定子におけるスロット内の構成例を示す図である。
図3】実施形態1に係る絶縁紙の構成例を示す図である。
図4】実施形態1に係る絶縁紙がコイルを包み込んでいる状態を示す図である。
図5】絶縁紙における逃げ穴の配置パターンの変形例を示す図である。
図6】本発明の実施形態2に係る絶縁紙の構成例を示す図である。
図7】実施形態2に係る絶縁紙がコイルを包み込んでいる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0016】
以下の説明では、回転軸Axの延長方向と平行な方向を軸方向と称し、回転軸Axを中心とする周方向を単に周方向と称し、回転軸Axを中心とする径方向を単に径方向と称する。また、以下の説明において、「軸方向に延びる」とは、厳密に軸方向に延びる場合に加えて、軸方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また、「径方向に延びる」とは、厳密に径方向、すなわち、軸方向に対して垂直な方向に延びる場合に加えて、径方向に対して45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。
【0017】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る回転電機における回転軸Axに直交する方向の横断面を示す図である。図1に示す回転電機1は、インナーロータ型モータであり、回転子2と、回転子2の外周に配置される円筒形状の固定子3とを有する。図1において、回転電機1の回転軸Axの延長方向は紙面垂直方向である。
【0018】
回転子2は、回転軸Axに沿ってシャフト4が嵌入され、回転子2はシャフト4を中心として不図示の軸受で回転可能に軸支される。回転子2は、例えば、磁石埋込型回転子、表面磁石型回転子、かご型回転子、巻線型回転子などのいずれの構成であってもよい。また、回転子2の外周には、僅かなエアギャップを隔てて固定子3が回転子2と同心状に配置されている。
【0019】
固定子3は、回転軸Axを中心とする中央の空間部分に回転子2を収容する。固定子3の鉄心には、それぞれ回転軸Axに向けて径方向内側に突出するティース3aが内周側に複数形成されている。固定子鉄心において、ティース3aは周方向に等間隔に並んでおり、隣り合うティース3aの間にはそれぞれスロット3bが形成される。スロット3b内には、回転子2の外周に沿ってコイル6(図1では不図示)が配置される。なお、固定子3におけるスロット3b内の構成については後述する。
【0020】
回転電機1においては、コイル6の電流制御により固定子3の磁界を順番に切り替えることで、回転子2の磁界との吸引力または反発力により、回転軸Axを中心として回転子2が回転する。
【0021】
図2は、固定子3におけるスロット3b内の構成例を示す図である。上記のように、固定子3のスロット3b内には、ティース3aに巻回されるコイル6が配置される。コイル6は、例えば、複数の巻線(素線)によって構成され、巻線の表面にはエナメル層などの被覆が施される。また、スロット3b内でコイル6の外側には、固定子鉄心とコイル6を絶縁する絶縁紙11が配置されている。絶縁紙11は、スロット3bの径方向外側で屈曲してコイルを包み込んでおり、スロット3bの径方向内側が開放された状態でスロット3b内に配置されている。
【0022】
また、コイル6には、形状保持のためにワニスを含浸して全体的に固化する加工が施される。固定子3のコイル6にワニスを含浸する際には、固定子3の中心部にワニスの滴下ノズル8を下向きに配置し、固定子3を周方向に回転させつつワニスを滴下させる。これにより、絶縁紙11の開放側からコイル6にワニスが滴下され、コイル6にワニスが含浸される。
【0023】
コイル6にワニスを含浸する際に、スロット3b内で絶縁紙11の内側にワニスが滞留し、コイル内周側にワニスだまり9が発生しうる。コイル6の発熱によりワニスだまり9が熱収縮すると、ワニスだまり9の近傍でコイル6の巻線のエナメル層が損傷し、コイル6の絶縁性が損なわれる可能性がある。したがって、上記のワニスだまり9の形成を抑制するために、本実施形態の固定子3に適用される絶縁紙11は、以下の構成を有している。
【0024】
図3は、実施形態1に係る絶縁紙11の構成例を示す図である。図4は、図3の絶縁紙11がコイル6を包み込んでいる状態を示す図である。
【0025】
本実施形態の絶縁紙11は、軸方向に沿って、絶縁紙11の中央部に位置する第1領域12と、第1領域12を隔てて両側に位置する第2領域13とを有している。第1領域12は、スロット3b内でコイル6の外周面と対向し、固定子鉄心とコイル6を絶縁する機能を担う。
【0026】
第2領域13は、絶縁紙11がコイル6を包み込んだときに、コイル6よりも固定子3の内周側に位置する領域であり、絶縁紙11の第1領域12のマージンとして設けられている。絶縁紙11の第2領域12には、コイル6に滴下されるワニスを絶縁紙11の外側に導くための逃げ穴14が形成されている。逃げ穴14は、絶縁紙11を貫通する穴である。
【0027】
逃げ穴14は、各々の第2領域12において、例えば、軸方向に沿って等間隔で直線状に配列されるように複数形成されている。各々の逃げ穴は、ワニスが絶縁紙11を通過できる寸法であり、例えば1mm程度の円形である。
【0028】
上記の絶縁紙11に包み込まれたコイル6に対して、内周側からワニスを滴下すると、絶縁紙11内においてコイル内周側のワニスは逃げ穴14を介して絶縁紙11の外側に流れる。その後、ワニスは、固定子鉄心の径方向外周面を軸方向に流れて固定子鉄心の外側に排出される。これにより、絶縁紙11のコイル内周側でワニスが滞留しにくくなるので、コイル内周側にワニスだまり9が形成されることを抑制できる。
【0029】
また、図5(A)、(B)は、絶縁紙における逃げ穴の配置パターンの変形例を示す図である。
【0030】
図5(A)に示す絶縁紙11Aは、図中破線の矢印で示すワニスの滴下位置と対応する領域において、逃げ穴14aを軸方向の他の位置の逃げ穴14よりも大きく形成した例である。図5(A)の構成によれば、ワニスの滴下位置で他の位置よりもワニスが絶縁紙11Aの外側に流れやすくなり、絶縁紙11Aのコイル内周側でワニスがより滞留しにくくなる。
【0031】
また、図5(B)に示す絶縁紙11Bは、図中破線の矢印で示すワニスの滴下位置と対応する領域に逃げ穴14を部分的に形成した例である。図5(B)の構成によっても、ワニスの滴下位置で他の位置よりもワニスが絶縁紙11Bの外側に流れやすくなり、絶縁紙11Bのコイル内周側でワニスが滞留しにくくなる。また、図5(B)の構成では、絶縁紙11Bに逃げ穴14の形成される箇所が少なくなるので、絶縁紙11Bの強度低下を抑制しやすくなる。
【0032】
[実施形態2]
次に、本発明の実施形態2につて説明する。実施形態2において、実施形態1と相違する点は、絶縁紙に形成された逃げ穴の位置である。図6は、実施形態2に係る絶縁紙111の構成例を示す図である。図7は、図6の絶縁紙111がコイル6を包み込んでいる状態を示す図である。
【0033】
本実施形態の絶縁紙111は、軸方向に沿って、絶縁紙111の中央部に位置する第1領域112と、第1領域112を隔てて両側に位置する第2領域113とを有している。第1領域112は、スロット3b内でコイル6の外周面と対向し、固定子鉄心とコイル6を絶縁する機能を担う。
【0034】
第2領域113は、絶縁紙111がコイル6を包み込んだときに、コイル6よりも固定子3の内周側に位置する領域であり、絶縁紙111の第1領域112のマージンとして設けられている。絶縁紙111の第2領域112には、コイル6に滴下されるワニスを絶縁紙111の外側に導くための逃げ穴114が形成されている。逃げ穴114は、絶縁紙111を貫通する穴である。
【0035】
逃げ穴114は、絶縁紙111の軸方向端部に、軸方向と直交する方向に沿って等間隔で直線状に配列されるように複数形成されている。逃げ穴114のそれぞれは、ワニスが絶縁紙111を通過できる寸法であり、例えば1mm程度の円形である。
【0036】
回転電機1は、コイル6の軸方向一方側(図7における右側)に、バスバー(不図示)を有する。バスバーは、コイルエンドの外周に例えば溶接で取り付けられており、そのバスバーの一部にサーミスタ取付部が設けられている。絶縁紙111は、逃げ穴114が形成された側が軸方向一方側、即ちバスバーが配置された側に来る向きで、スロット3b内に配置される。本実施形態では、絶縁紙111は軸方向一方側にのみ逃げ穴114を有するが、絶縁紙111は軸方向一方側および軸方向他方側の両方に逃げ穴114を有してもよい。なお、逃げ穴114を有する絶縁紙111は、サーミスタ取付部の近傍のスロット3b内にだけ配置し、他のスロット3b内には逃げ穴114を有しない絶縁紙を配置してもよいが、すべてのスロット3b内に、逃げ穴114を有する絶縁紙111を配置してもよい。
【0037】
上記の絶縁紙111に包み込まれたコイル6に対して、内周側からワニスを滴下すると、絶縁紙111内においてコイル内周側のワニスは逃げ穴114を介して絶縁紙111の外側に流れる。これにより、ワニスは、バスバーの側に向かわずに、回転電機1の回転軸に対する周方向に流れ、ワニスがバスバーのサーミスタ取付部に付着するのを抑制できる。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。例えば、上記実施形態では回転電機1がモータである場合について説明したが、回転電機1は発電機であってもよい。
【0039】
また、絶縁紙の逃げ穴の形状や配置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、逃げ穴の形状は矩形状や楕円形状などの他の形状であってもよく、絶縁紙に切れ目を設けて逃げ穴としてもよい。また、実施形態1においては、絶縁紙の逃げ穴は、第2領域において二列以上に配列されていてもよい。また、実施形態2においても、絶縁紙の逃げ穴は、二列以上に配列されていてもよい。また、絶縁紙は、実施形態1の逃げ穴及び実施形態2の逃げ穴の両方が形成されたものであってもよい。また、ワニスの滴下位置と対応する領域において逃げ穴の配置間隔を他の領域よりも小さくし、ワニスの滴下位置では逃げ穴の配置密度を高くしてもよい。
【0040】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
1…回転電機、2…回転子、3…固定子、3a…ティース、3b…スロット、4…シャフト、6…コイル、11…絶縁紙、12…第1領域、13…第2領域、14、14a…逃げ穴

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7