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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127782
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】無電解ニッケルめっき浴の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20240912BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20240912BHJP
   C25D 21/16 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
C23C18/32
C25D21/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021957
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023034535
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】田代 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 英夫
(72)【発明者】
【氏名】梅田 泰
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022BA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本件発明は、亜鉛が溶存した無電解ニッケルめっき浴からより容易に亜鉛を除去し再生する方法の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を解決するため、亜鉛が溶存する無電解ニッケルめっき浴の陽極として自溶性ニッケル電極を用い、陰極として銅電極、または鉄電極を用いて、低電解することにより陰極電極表面にニッケルと亜鉛とを共析させることにより容易に亜鉛除去を行うことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴の再生方法を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛が溶存した無電解ニッケルめっき浴から亜鉛を除去し再生する方法であって、
亜鉛が溶存する無電解ニッケルめっき浴の陽極として自溶性ニッケル電極を用い、陰極として銅電極、または鉄電極を用いて、低電解することにより陰極電極表面にニッケルと亜鉛とを共析させることにより容易に亜鉛除去を行うことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴の再生方法。
【請求項2】
前記低電解は、0.1A/dm以上4.8A/dm以下、0.5時間以上20時間以下で行う請求項1に記載の無電解ニッケルめっき浴の再生方法。
【請求項3】
浴温度を15℃以上30℃以下で行う請求項1に記載の無電解ニッケルめっき浴の再生方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、亜鉛が溶存した無電解ニッケルめっき浴から亜鉛を除去し再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルめっき処理は、複雑な形状の部品に対して均一な厚さのニッケルめっき皮膜を成膜することができるため、電子部品、精密機械部品などに対して利用されている。一般的に、無電解ニッケルめっき処理においては、めっき処理によって消耗した成分を定期的に補給しつつめっき処理が行われてきた。
【0003】
また、無電解ニッケルめっき浴は、連続して使用することで亜鉛がめっき液中に蓄積し、これが無電解ニッケルめっきの密着性、外観ムラに悪影響を及ぼす原因となっている。
【0004】
そのため、ジンケート処理を施した素材に無電解ニッケルめっきを行った場合、無電解ニッケルめっき浴に亜鉛が混入するが、めっき浴中の亜鉛が一定の濃度を超えると、析出速度が低下し、一定回数めっきを行った後に、無電解ニッケルめっき浴を廃棄し、新しい無電解ニッケルめっき浴に入れ替えている。
【0005】
そこで、特許文献1では、次亜リン酸水溶液を主成分とする無電解ニッケルめっき液を原液とした無電解めっき工程で副生した亜リン酸イオンを含む老化液を、陰イオン交換膜で区切られた電気透析槽に、交流電流を印加し、亜リン酸イオンを効率よく回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-102348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明は、無電解ニッケルめっき浴に溶存した亜鉛を、より容易に除去することができる無電解ニッケルめっき浴の再生方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0009】
亜鉛が溶存した無電解ニッケルめっき浴から亜鉛を除去し再生する方法であって、
亜鉛が溶存する無電解ニッケルめっき浴の陽極として自溶性ニッケル電極を用い、陰極として銅電極、または鉄電極を用いて、低電解することにより陰極電極表面にニッケルと亜鉛とを共析させることにより容易に亜鉛除去を行うことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴の再生方法。
【0010】
そして、前記低電解は、0.1A/dm以上4.8A/dm以下で、0.5時間以上20時間以下で行うことが好ましく、10時間以下がより好ましい。
【0011】
前記低電解は、浴温度を15℃以上30℃以下で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係る無電解ニッケルめっき浴の再生方法は、整流器に接続した陽極と、被めっき材とを、無電解ニッケルめっき浴に浸漬し、低電解することにより、被めっき材表面にニッケルと亜鉛とを共析させることで、亜鉛除去を行うものである。かつ、従来よりも容易に亜鉛除去を行えることで、大幅なコスト削減、建浴負荷低減などを達成できる無電解ニッケルめっき浴の再生方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】装置の模式図を示した画像である。
図2】実施例1の計測結果を示した画像である。
図3】実施例2の計測結果を示した画像である。
図4】実施例3の計測結果を示した画像である。
図5】実施例4の計測結果を示した画像である。
図6】実施例5の計測結果を示した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本件発明に係る無電解ニッケルめっき浴から亜鉛をより容易に除去し再生する方法について説明する。
【0015】
本件発明では、亜鉛が溶存する無電解ニッケルめっき浴の陽極として自溶性ニッケル電極を用いる。陰極として被めっき材の素材は亜鉛の回収が可能であれば特に限定されない。無電解ニッケルめっき浴を低電解することにより陰極電極表面にニッケルと亜鉛とを共析させることにより亜鉛除去を行っている。陽極に自溶性ニッケルを用いることで、亜鉛とニッケルを共析させても、陽極からニッケルイオン供給があるため。めっき浴中のニッケル濃度を低下させることなく、亜鉛除去を行うことが可能となる。以下、実施形態について説明する。
【0016】
被めっき材として使用する素材は、特に限定は要さないが、銅または鉄を用いることが好ましい。これらは、前処理として酸活性を行い、余分な酸化膜を除去して用いることが好ましい。
【0017】
低電解は0.1A/dm以上4.8A/dm以下で行うのが好ましく、0.8A/dm以上1.6A/dm以下で行うのがより好ましい。0.1A/dm未満であると、陰極電極表面にニッケルと亜鉛とを十分に共析させることができず、亜鉛除去が行えないため好ましくない。一方、4.8A/dmを超えると、陽極の自溶性ニッケル電極表面にめっき浴成分が析出するため好ましくない。
【0018】
また、低電解を行う時間は、0.5時間以上20時間以下で行うのが好ましい。0.5時間未満であると、陰極電極表面にニッケルと亜鉛を十分に共析させることができず、亜鉛除去が行えないため好ましくない。一方、20時間を超えると、陽極の自溶性ニッケル電極表面にめっき浴成分が析出し、亜リン酸の濃度が増加するため好ましくない。また、無電解ニッケルめっき浴中の亜鉛濃度により通電時間を変化させるが10時間以下で行うことがより好ましい。
【0019】
無電解ニッケルめっき浴の浴温度は、15℃以上30℃以下が好ましい。浴温度が15℃未満の場合は亜鉛とニッケルとの共析反応が遅くなり好ましくない。一方、浴温度が30℃を超えると、無電解反応が促進され、亜リン酸の濃度が増加するため好ましくない。
【0020】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、陰極に用いる被めっき材は特に限定されないため、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0021】
実施例1は、被めっき材に銅を用いて、以下の工程1から2で行った。
工程1:前処理として銅電極を65℃に加熱された100g/LのNaOH水溶液に2分 間、浸漬させた。次に、10%の硫酸で酸活性を行った。
工程2:浴温度を23℃として、クーロン量を一定で電解条件を0.5Aで10h(0.8A/dm)と、1.0Aで5h(1.6A/dm)と、2.0Aで2.5h(3.1A/dm)と、3.0Aで1.67h(4.8A/dm)とでそれぞれ通電し、低電解を行い、各電解条件におけるニッケルと、ビスマスと、亜鉛と、次亜リン酸と、亜リン酸との変化量を計測した。
【実施例0022】
実施例2は、工程1までは、実施例1と同様に行った。工程2は、クーロン量を一定での電解時間を変化させた。電解条件は、0.5Aで3h(0.8A/dm)と、0.5Aで20h(1.7A/dm)と、1.0Aで1.5h(0.9A/dm)と、1.0Aで10h(1.6A/dm)とでそれぞれ通電を行い、実施例1と同様に計測を行った。
【実施例0023】
実施例3は、工程1までは、実施例1と同様に行った。工程2は、電解条件を1.0Aで8hで固定し、めっき浴のpHを変化させた。めっき浴のpH変化は、pH3.0と、pH4.0と、pH4.5と、pH5.0とでそれぞれ通電を行い、実施例1と同様に計測を行った。
【実施例0024】
実施例4は、工程1までは、実施例1と同様に行った。工程2は、電解条件を1.0Aで8hと、陽極面積を108.0cmで固定し、陰極面積を37.2cmと、60.3cmと、74.4cmとでそれぞれ低電解を行い、実施例1と同様に計測を行った。
【実施例0025】
実施例5は、工程1までは、実施例1と同様に行った。工程2は処理時間を10時間で固定し、浴温度40℃で1.0Aでの低電解と、0Aでの非電解とを行い、浴温度23℃で1.0Aで10hの低電解を行い、実施例1と同様に計測を行った。
【0026】
〔評価〕
実施例1から実施例5は、廃棄予定の無電解ニッケルめっき浴に対して低電解前と、低電解後のめっき浴内の成分を計測し、亜鉛除去を行えているか評価した。アノードに用いたニッケルは住友SKニッケル(90mm×150mm×2mm)、被めっき材にはハルセル陰極板の銅板、整流器は株式会社山本鍍金試験管器製のYPP-15030を用いている。
【0027】
また、めっき浴内のpHはpH/ION METER(株式会社堀場製作所製、D-53)、ニッケルはキレート滴定法、ビスマスおよび亜鉛は原子吸光(株式会社日立ハイテク、ZA3300)による検量線法、次亜リン酸および亜リン酸は酸化還元滴定法で、測定を行った。
実施例1から実施例5の結果をそれぞれ図2から図6に示す。それらの結果より、めっき浴中の亜鉛除去を行えているか評価する。
【0028】
図2に示す結果より、0.5Aで10hでは、亜鉛は7.13ppm除去できており、亜リン酸が4.4g/L増加していることが分かる。2.0Aで2.5hでは、亜鉛は7.07ppm除去できており、亜リン酸が6.5g/L増加していることが分かる。また、1.0Aで5hでは、亜鉛は7.62ppm除去できており、亜リン酸が4.3g/L増加していることが分かる。次に、3.0Aで1.67hでは、亜鉛は9.28ppm除去できており、亜リン酸が8.7g/L増加していることが分かる。これらの結果を比較すると、電流値を上げると、亜リン酸の生成が多くなるため、0.8A/dm以上1.6A/dm以下の電解条件で行うのが、亜鉛の共析量が多く、亜リン酸の生成を抑制でき、亜鉛除去を効率的に行えていることを示している。
【0029】
また、図3に示す結果より、0.5Aで3h(0.8A/dm)では、亜鉛は0.98ppm除去できており、亜リン酸が2.2g/L増加していることが分かる。0.5Aで20h(0.9A/dm)では、亜鉛は13.16ppm除去できており、亜リン酸が10.8g/L増加していることが分かる。また、1.0Aで1.5h(1.7A/dm)では、亜鉛は2.19ppm除去できており、亜リン酸が変化していないことが分かる。1.0Aで10h(1.6A/dm)では、亜鉛は18.29ppm除去できており、亜リン酸が変化していないことが分かる。これらの結果を比較すると、長時間の低電解は、亜リン酸の生成が多くなるため、10時間以下の電解時間で行うのが、亜鉛の共析量が多く、亜リン酸の生成を抑制でき、亜鉛除去を効率的に行えていることを示している。
【0030】
次に、図4に示す結果より、浴pH3の場合、亜鉛は10.35ppm除去できており、亜リン酸が4.4g/L増加していることが分かる。浴pH4の場合、亜鉛は21.67ppm除去できており、亜リン酸が4.3g/L増加していることが分かる。浴pH4.5の場合、8時間電解した場合の単純計算で、亜鉛は12.19ppm除去できており、亜リン酸が6.9g/L増加していることが分かる。浴pH5の場合、亜鉛は14.39ppm除去できており、亜リン酸が8.7g/L増加していることが分かる。これらの結果を比較すると、浴pH4の場合が、最も多くの亜鉛を除去できている。だが、一般的な無電解ニッケルめっき浴のpHが4.5近辺であることを考慮すると、pH調整を行わず、そのまま低電解を行ったほうが効率的であることを示している。
【0031】
図5に示す結果より、電解条件と陽極面積とは一定で、陰極面積を37.2cmの場合、亜鉛は13.39ppm除去できており、亜リン酸が6.5g/L増加していることが分かる。次に、陰極面積を60.3cmの場合、亜鉛は16.05ppm除去できており、亜リン酸が4.3g/L増加していることが分かる。陰極面積を74.4cmの場合、亜鉛は13.88ppm除去できており、亜リン酸が6.5g/L増加していることが分かる。これらの結果を比較すると、電解条件一定で、陰極面積を変化させることで、陰極/陽極の面積比が0.34から0.69と変化するが、亜鉛除去効果に大きな差は生じていないため、陰極面積は極比1:1までは、亜鉛除去に大きく関与してい無いことを示している。
【0032】
図6に示す結果より、浴温度を23℃、電解条件を1.0Aで10hの低電解を行った場合、亜鉛は18.29ppm除去できており、亜リン酸が変化していないことが分かる。また浴温度を40℃、電解条件を1.0Aで10hの低電解を行った場合、亜鉛は31.25ppm除去できており、亜リン酸が13.0g/L増加していることが分かる。次に、浴温度を40℃、非電解で行った場合、亜鉛は0.55ppm増加しており、亜リン酸が2.2g/L増加していることが分かる。これらの結果を比較すると、浴温度が高くなると亜鉛の除去効果は高くなるが、次亜リン酸と、亜リン酸なども変化しやすくなるため、低温で行うことが好ましく、非電解では亜鉛をまったく除去できていないため、低電解によるより容易な亜鉛除去が効果的であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本件発明によれば、無電解ニッケルめっき浴に低電解することにより、亜鉛除去を行い無電解ニッケルめっき浴の再生を行うことができる。そして、低電解のみで亜鉛除去を行えるため、複雑な装置を用いる必要がなく、大幅にコストを抑えて、めっき浴中の亜鉛のみをより容易に除去するのに好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6