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特開2024-127793受光素子用有機薄膜、およびそれを用いた受光素子
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  • 特開-受光素子用有機薄膜、およびそれを用いた受光素子 図1
  • 特開-受光素子用有機薄膜、およびそれを用いた受光素子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127793
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】受光素子用有機薄膜、およびそれを用いた受光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20240912BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20240912BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20240912BHJP
   H10K 30/20 20230101ALI20240912BHJP
   H10K 30/30 20230101ALI20240912BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20240912BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240912BHJP
【FI】
H10K30/60
C07D495/04 103
H10K30/86
H10K30/20
H10K30/30
H10K50/18
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024351
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023035383
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島 大和
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 由香
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優太
【テーマコード(参考)】
3K107
4C071
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107CC11
3K107CC24
3K107DD71
3K107DD78
4C071AA01
4C071AA07
4C071BB01
4C071BB06
4C071CC01
4C071CC21
4C071DD04
4C071EE13
4C071FF03
4C071GG05
4C071JJ01
4C071JJ05
4C071KK01
4C071LL05
5F149AA03
5F149AB11
5F149BA01
5F149BA05
5F149BA30
5F149BB03
5F149BB06
5F149GA02
5F149GA03
5F149GA04
5F149XA01
5F149XA43
(57)【要約】
【課題】高耐熱性で正孔輸送能力に優れた受光素子用有機薄膜の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物を含む、受光素子用有機薄膜。Rは水素原子、重水素原子またはアルキル基を表す。Ar、Arは一般式(a)~(c)のいずれかの基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含む、受光素子用有機薄膜。
【化1】
(一般式(1)中、R~R16は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12は、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、前記ベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、下記一般式(a)~(c)のいずれかで表される基を表す。ただし、ArおよびArの一方が一般式(c)で表される基であるとき、他方は一般式(b)で表される基である。)
【化2】
(一般式(a)~(c)中、R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。R31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、隣り合う炭素原子に結合する2つのR、隣り合う炭素原子に結合する2つのRは、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、前記ベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。3つのRは同一でも異なってもよく、3つのRは同一でも異なってもよく、4つのRは同一でも異なってもよい。*は窒素原子への結合部位を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、ArおよびArは前記一般式(a)で表される同一の基である、請求項1に記載の受光素子用有機薄膜。
【請求項3】
前記一般式(1)において、ArおよびArは前記一般式(b)で表される同一の基である、請求項1に記載の受光素子用有機薄膜。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Arは前記一般式(b)で表される基であり、Arは前記一般式(c)で表される基である、請求項1に記載の受光素子用有機薄膜。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の受光素子用有機薄膜を備えた受光素子。
【請求項6】
前記受光素子用有機薄膜を電子ブロッキング層として備える請求項5に記載の受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子に用いる有機薄膜、およびその有機薄膜を用いた受光素子に関するものであり、詳しくはベンゾチエノインドール環を有する化合物を含む有機薄膜、およびその有機薄膜を用いた受光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
受光素子は、撮像素子や太陽電池、光センサー等に広く利用されている。その中でも撮像素子であるイメージセンサーは、テレビカメラやスマートホンに搭載されるカメラだけでなく、運転支援システム用のカメラにも利用され始めるなど、用途、市場共に広がりをみせている。
【0003】
これまで、撮像素子の光電変換材料には、Si膜やSe膜といった無機材料が使用されており、その撮像方法としてはプリズムを用いて色を分ける3板式と、カラーフィルターを用いた単板式の2つが主流であった。しかし、3板式は、光の利用率は高いもののプリズムを使用するため小型化が難しく、単板式は、プリズムを使用しないため小型化は比較的容易であるが、代わりにカラーフィルターを使用するため解像度、光の利用率が悪かった(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
そこで、近年、有機物を用いた光電変換材料を利用するための研究開発が盛んに行われている。有機物は、無機物と比較して光吸収の波長選択性が高いため、3原色のそれぞれに対応した吸収波長を示す材料を組み合わせることで、プリズムを使用せずとも3原色の光を効率よく利用できる撮像素子を構築することができる。これにより、光の利用効率が高くて小型の撮像素子を実現することが可能となる。また、有機系の光電変換材料は、可視光に限らず、材料の選定次第で、近赤外光や赤外光のセンシングが可能になることの他、無機物では達成することのできない、素子のフレキシブル化や塗布プロセスを用いた素子の大面積化も実現できるというメリットがある(非特許文献2)。
【0005】
このようなことから、有機物を光電変換材料に用いた受光素子は、次世代の撮像素子への展開が期待されており、そうした受光素子の例が、これまでにもいくつか報告されている。例えばキナクリドン、キナゾリン誘導体を用いた受光素子(特許文献1参照)、ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体を用いた受光素子(特許文献2参照)、インドロカルバゾールを用いた受光素子(特許文献3参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4945146号公報
【特許文献2】特開2018-170487号公報
【特許文献3】特開2018-085427号公報
【特許文献4】特開2011-187937号公報
【特許文献5】国際公開第2012/114928号
【特許文献6】国際公開第2014/038417号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】映像情報学会メディア協会誌、60,3,291(2006)
【非特許文献2】Adv.Mater.28,4766(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、撮像素子には特性の指標としてコントラストや電力といったものがあり、これらの特性を向上させるためには、光が入射していないときに流れる電流(暗電流)を低減する必要がある。こうした暗電流を低減する手法の一つとして、受光部と電極部の間に、正孔ブロッキング層や電子ブロッキング層(以下、「電荷ブロッキング層」と総称する)を挿入する手法が知られている。これらの電荷ブロッキング層は、素子を構成する電極または導電性を有する膜と、その上に積層された膜との界面に配置され、正孔または電子の逆移動を制御しながら、必要な電荷を速やかに電極や導電性膜に伝達させる機能を持つ。
【0009】
しかしながら、これまでの電荷ブロッキング層は、製造プロセスで加わる熱に対して耐熱性が不十分であるという課題がある。例えば、撮像素子の製造プロセスでは、カラーフィルターの設置や保護膜の設置、素子のハンダ付け等の多数の工程で電荷ブロッキング層に熱が加わる。そのため、撮像素子に使用される電荷ブロッキング層には、有機EL素子などの他の有機エレクトロニクスデバイスで使用される場合よりも、高い熱安定性が求められる。これに対して、特許文献4では、ガラス転移温度(Tg)が140℃以上である電子ブロッキング材料を使用することにより、素子の熱安定性が向上したことが報告されている。しかし、同文献で実現されている耐熱性は、受光素子の耐熱性としては不十分であった。
【0010】
本発明は上記の状況を鑑みてなされたものであり、耐熱性が高く、良好な正孔輸送能力を有する受光素子用有機薄膜を提供すること、および、優れた暗電流特性と高い変換効率を有する受光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ベンゾチエノインドール環を有する化合物が高いガラス転移温度を有すること、またベンゾチエノインドール環に、フルオレニル基やビフェニル基やカルバゾリル基で置換されたアミノアリール基を導入することにより、優れた正孔輸送性が発現することを見出した。そして、こうしたベンゾチエノインドール誘導体で薄膜を形成することにより、受光素子の正孔輸送性、暗電流特性の向上に寄与する受光素子用有機薄膜が実現するとの知見を得た。本発明はこうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0012】
1) 下記一般式(1)で表される化合物を含む、受光素子用有機薄膜。
【0013】
【化1】
【0014】
(一般式(1)中、R~R16は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12は、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、前記ベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、下記一般式(a)~(c)のいずれかで表される基を表す。ただし、ArおよびArの一方が一般式(c)で表される基であるとき、他方は一般式(b)で表される基である。)
【0015】
【化2】
【0016】
(一般式(a)~(c)中、R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。R31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、隣り合う炭素原子に結合する2つのR、隣り合う炭素原子に結合する2つのRは、互いに結合してベンゼン環を形成してもよく、前記ベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。3つのRは同一でも異なってもよく、3つのRは同一でも異なってもよく、4つのRは同一でも異なってもよい。*は窒素原子への結合部位を表す。)
【0017】
2) 前記一般式(1)において、ArおよびArは前記一般式(a)で表される同一の基である、1)に記載の受光素子用有機薄膜。
【0018】
3) 前記一般式(1)において、ArおよびArは前記一般式(b)で表される同一の基である、1)に記載の受光素子用有機薄膜。
【0019】
4) 前記一般式(1)において、Arは前記一般式(b)で表される基であり、Arは前記一般式(c)で表される基である、1)に記載の受光素子用有機薄膜。
【0020】
5) 1)~4)のいずれかに記載の受光素子用有機薄膜を備えた受光素子。
【0021】
6) 前記受光素子用有機薄膜を電子ブロッキング層として備える5)に記載の受光素子。
【発明の効果】
【0022】
一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜は、耐熱性が高く、良好な正孔輸送能力を持つ。この受光素子用有機薄膜を用いることにより、優れた暗電流特性と高い変換効率を有する受光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の受光素子の構成例を示す概略断面図である。
図2】本発明の受光素子の他の構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、「水素原子」との記載は「H(プロチウム」(通常の水素原子)を意味し、「重水素原子」との記載は「H(デューテリウムD)」を意味する。
本明細書において、「透明」とは、可視光の透過率が50%以上であることをいい、例えば80%以上、例えば90%以上、例えば99%以上である。可視光の透過率は紫外・可視分光光度計により測定することができる。
本発明は、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜、および、その受光素子用有機薄膜を使用した受光素子に関するものである。以下において、本発明で用いる一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0025】
<一般式(1)で表される化合物>
【化3】
【0026】
一般式(1)において、R~R16は、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。R~R16は、互いに同一であっても異なっていてもよい。例えばR~R16は、すべて水素原子であってもよいし、R~R16の一部が水素原子で、残りが重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。また、R~R16のすべてが重水素原子であってもよいし、R~R16のすべてが、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。R~R16の中に、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であるものが2つ以上存在するとき、それらのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
~R16が表す「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」の炭素原子数は、1、2、3、4、5および6のいずれであってもよく、例えば1~3の中から選択してもよい。「炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などを挙げることができる。ここで、アルキル基における水素原子は、すべて非置換(H)であってもよいし、水素原子の一部が重水素原子で置換されていてもよいし、水素原子のすべてが重水素原子で置換されていてもよい。
【0028】
とR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12は、互いに結合してベンゼン環を形成してもよい。形成されるベンゼン環は、コア骨格のベンゼン環(以下、「ベンゼンコア」という)や隣接するベンゼン環と縮合して縮合環を構成する。RとR、およびRとRの少なくとも1つの組合せが互いに結合して形成するベンゼン環とベンゼンコアの縮合環として、ナフタレン環、アントラセン環を挙げることができ、例えばナフタレン環を選択することができる。RとR、RとR10、R10とR11、およびR11とR12の少なくとも1つの組合せが互いに結合して形成するベンゼン環とベンゼンコアの縮合環として、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環を挙げることができ、例えばナフタレン環を選択することができる。ここで、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12が互いに結合して形成するベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」についての説明は、上記のR~R16が表す「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」についての記載を参照することができる。
【0029】
一般式(1)において、ArおよびArは、相互に同一でも異なってもよく、下記一般式(a)~(c)のいずれかで表される基を表す。ArおよびArは、互いに同一であっても異なってもよい。ただし、ArおよびArの一方が一般式(c)で表される基であるとき、他方は一般式(b)で表される基である。ArおよびArは、両方が一般式(a)で表される基であってもよいし、両方が一般式(b)で表される基であってもよい。ArおよびArは、いずれか一方が一般式(a)で表される基であり、他方が一般式(b)で表される基であってもよい。
【0030】
【化4】
【0031】
一般式(a)~(c)において、R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、相互に同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表す。R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、3つのRは、互いに同一であっても異なってもよく、3つのRは、互いに同一であっても異なってもよく、4つのRは、互いに同一であっても異なってもよい。
【0032】
21~R24と3つのRは、すべて水素原子であってもよいし、その一部が水素原子で、残りが重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。また、R21~R24と3つのRは、すべて重水素原子であってもよいし、すべて、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。R21~R24と3つのRの中に、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であるものが2つ以上存在するとき、それらのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
31~R39と3つのRは、すべて水素原子であってもよいし、その一部が水素原子で、残りが重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。また、R31~R39と3つのRは、すべて重水素原子であってもよいし、すべて、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。R31~R39と3つのRの中に、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であるものが2つ以上存在するとき、それらのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
41~R45と4つのRは、すべて水素原子であってもよいし、その一部が水素原子で、残りが重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。また、R41~R45および4つのRは、すべて重水素原子であってもよいし、すべて、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であってもよい。R41~R45と4つのRの中に、重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であるものが2つ以上存在するとき、それらのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0035】
21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rが表す「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」の説明については、上記のR~R16が表す「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」についての記載を参照することができる。
【0036】
31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、隣り合う炭素原子に結合する2つのR、隣り合う炭素原子に結合する2つのRは、互いに結合してベンゼン環を形成してもよい。形成されるベンゼン環は、ベンゼンコア(コア骨格が縮合環である場合には、縮合環を構成しているベンゼン環)や隣接するベンゼン環と縮合して縮合環を構成する。縮合環の具体例については、上記のRとR、RとR10、R10とR11、およびR11とR12の少なくとも1つの組合せが互いに結合して形成するベンゼン環とベンゼンコアの縮合環の具体例を参照することができる。
31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、隣り合う炭素原子に結合する2つのR、隣り合う炭素原子に結合する2つのRが互いに結合して形成するベンゼン環の少なくとも1つの水素原子は、重水素原子、または重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」についての説明は、上記のR~R16が表す「重水素原子で置換されていてもよい炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」についての記載を参照することができる。
【0037】
一般式(a)~(c)において、*は窒素原子への結合部位を表す。*の結合手の位置(結合部位)は、その結合手が掛かるベンゼン環のいずれかの位置である。結合部位*は、例えば一般式(a)では、フルオレン環の1~4位のいずれの位置(例えば2位または3位、例えば2位、例えば3位)であってもよく、一般式(b)では、カルバゾール環の1~4位のいずれの位置(例えば2位または3位、例えば2位、例えば3位)であってもよく、一般式(c)では、ベンゼン環のフェニル基の結合位置に対するオルト位、メタ位およびパラ位のいずれの位置であってもよい(例えばメタ位、例えばパラ位)。
【0038】
本発明の好ましい一態様では、正孔輸送性の観点から、一般式(1)のArおよびArは同一である。
本発明のより好ましい一態様では、一般式(1)のArおよびArは一般式(a)で表される同一の基である(態様1)。
本発明のより好ましい一態様では、一般式(1)のArおよびArは一般式(b)で表される同一の基である(態様2)。
本発明のより好ましい一態様では、一般式(1)において、Arは一般式(b)で表される基であり、Arは一般式(c)で表される基である(態様3)。
本発明の一態様では、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12は、互いに結合してベンゼン環を形成していない(態様a)。
本発明の一態様では、R31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、隣り合う炭素原子に結合する2つのR、隣り合う炭素原子に結合する2つのRは、互いに結合してベンゼン環を形成していない(態様b)。
本発明の一態様では、R~R16、R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、水素原子である(態様I)。
本発明の一態様では、R~R16、R21~R24、R31~R39、R41~R45、R、R、Rは、水素原子または重水素原子であって、少なくとも1つは重水素原子である(態様II)。
本発明では、例えば(態様1)と(態様a)と(態様I)を満たす群、(態様1)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様1)と(態様a)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様1)と(態様a)と(態様II)を満たす群、(態様1)と(態様b)と(態様II)を満たす群、(態様1)と(態様a)と(態様b)と(態様II)を満たす群の中のいずれか1つの群に属する化合物を選択してもよい。
本発明では、例えば(態様2)と(態様a)と(態様I)を満たす群、(態様2)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様2)と(態様a)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様2)と(態様a)と(態様II)を満たす群、(態様2)と(態様b)と(態様II)を満たす群、(態様2)と(態様a)と(態様b)と(態様II)を満たす群の中のいずれか1つの群に属する化合物を選択してもよい。
本発明では、例えば(態様3)と(態様a)と(態様I)を満たす群、(態様3)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様3)と(態様a)と(態様b)と(態様I)を満たす群、(態様3)と(態様a)と(態様II)を満たす群、(態様3)と(態様b)と(態様II)を満たす群、(態様3)と(態様a)と(態様b)と(態様II)を満たす群の中のいずれか1つの群に属する化合物を選択してもよい。
【0039】
一般式(1)で表される化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示す。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物は、これらの具体例によって限定的に解釈されるものではない。
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
【化7】
【0043】
【化8】
【0044】
<一般式(1)で表される化合物の合成方法>
一般式(1)で表される化合物は、例えば以下のようなスキーム等によって最終物前駆体であるハロゲン化体を合成でき、このハロゲン化体とパラジウムを用いた一般的なカップリング反応を行うことで合成できる。この合成方法の手順や条件については、国際公開第2014/038417号(特許文献6)の記載を参照することができる。
【0045】
【化9】
【0046】
これらの化合物の精製は、カラムクロマトグラフィーによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移温度(Tg)とHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位(HOMO準位)の測定を行うことが好ましい。ガラス転移温度(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、HOMOのエネルギー準位は正孔輸送性の指標となるものである。
【0047】
<受光素子用有機薄膜>
本発明の受光素子用有機薄膜は、一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。一般式(1)で表される化合物についての説明は、上記の<一般式(1)で表される化合物>の欄の記載を参照することができる。
受光素子用有機薄膜は、一般式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいし、一般式(1)で表される化合物の他に、一般式(1)で表される化合物以外の化合物を含んでいてもよい。また、受光素子用有機薄膜が含む一般式(1)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物群の中から選択された1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0048】
本発明の受光素子用有機薄膜は、一般式(1)で表される化合物を、蒸着法、スピンコート法およびインクジェット法などの公知の成膜方法にて成膜することにより形成することができる。このとき、一般式(1)で表される化合物は、1種類単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもできる。更に本発明の効果を損なわない範囲で、一般式(1)で表される化合物以外の化合物と混合して成膜することもできる。
【0049】
本発明で用いる一般式(1)で表される化合物は、ガラス転移温度(Tg)が比較的高く、HOMOのエネルギー準位が正孔輸送材料のエネルギー準位として適切であり、また、電子ブロッキング性を有する。そのため、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜は、耐熱性が高く、優れた正孔輸送性と電子ブロッキング性を示す。ここで、本明細書中における「電子ブロッキング」とは、陽極に有機薄膜を隣接させて設けたとき、陽極から有機薄膜への電子注入が、その隣接界面で妨げられることを意味する。例えば受光素子において、対象となる有機薄膜を設けた場合の方が、その有機薄膜を設けない場合よりも暗電流が小さくなることを観測することをもって、この有機薄膜が電子ブロッキング性を有すると判定することができる。
一般式(1)で表される化合物は電子ブロッキング材料として有用であり、この化合物を含む有機薄膜(本発明の受光素子用有機薄膜)は、各種の受光素子、特に撮像素子の電子ブロッキング層として効果的に用いられる。
【0050】
<受光素子>
次に、本発明の受光素子について説明する。
本発明の受光素子は、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜を備えることを特徴とする。
本発明における「受光素子」は、光エネルギーを電気に変換する素子のことを意味する。本発明の受光素子は、撮像素子を構成する受光素子として好適に用いることができる。
本発明で用いる受光素子用有機薄膜の説明については、上記の<受光素子用有機薄膜>の欄の記載を参照することができる。
【0051】
一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜は、陽極と光電変換層の間に配置する電子ブロッキング層として用いることができる。この場合、本発明の受光素子は、少なくとも陽極、電子ブロッキング層、光電変換層、および陰極をこの順に有して構成され、このうち電子ブロッキング層は、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜で構成される。本発明の受光素子には、図1に示すように、ガラス基板1/透明陽極2/電子ブロッキング層3/光電変換層4/陰極5の順で積層された積層構造を有する受光素子が含まれる。また、本発明の受光素子には、図2に示すように、ガラス基板1/陰極5/光電変換層4/電子ブロッキング層3/透明陽極2の順で積層された積層構造を有する受光素子が含まれる。ただし、本発明の受光素子は、図1および図2に示す態様に限定されるものではない。例えば、本発明の受光素子は、少なくとも陽極、電子ブロッキング層、光電変換層および陰極をこの順に有している限り、さらに各層の間に他の層を有していてもよい。そのような構造を有する素子として、順に陽極、電子ブロッキング層、光電変換層、正孔ブロッキング層、陰極を有する素子が挙げられる。
また、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜は、受光素子の光電変換層に使用することもできる。
以下において、本発明の受光素子に用いうる各部材および各層について説明する。
【0052】
(基板)
本発明の受光素子における基板としては、特に限定は無く、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができ、また透明であっても不透明であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルまたはポリアリレート類、有機無機ハイブリッド樹脂等のプラスチック基板、ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウムスズ酸化物等の無機基板、金、銅、クロム、チタン、アルムニウム等の金属基板等を挙げることができる。これらのうち、トランジスタの形成の観点から、ガラス、およびシリコンが好ましい。
【0053】
(光電変換層)
光電変換層は、光エネルギーを電気に変換するための層である。光電変換層は、より具体的には、光エネルギーにより電荷分離状態を生じて正孔と電子を生成する層であり、受光した光量に応じた信号電荷を発生する。
光電変換層を構成する材料は、有機材料でも無機材料でもよく、受光した光量に応じた信号電荷を発生することができればよい。また、光電変換層は少なくとも1層の有機半導体膜を有するものであってもよい。光電変換層を構成する有機半導体膜の数は、1層であっても複数の層であってもよい。光電変換層が1層の有機半導体膜からなる場合、その有機半導体膜は、p型有機半導体膜であっても、n型有機半導体膜であってもよく、p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜であってもよい。混合膜は2種の材料を混合したものであってもよく、3種以上の材料を混合したものであってもよい。複数の有機半導体膜で構成された光電変換層の例として、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、および、p型有機半導体とn型有機半導体の混合膜からなる群より選択される2つ以上を積層した構造を挙げることができる。ここで、隣り合う有機半導体膜同士の間にはバッファ層を挿入してもよい。また、光電変換層は、p型有機半導体とn型有機半導体が三次元的なp-n接合を形成したバルクヘテロ構造を有していてもよい。
【0054】
光電変換層に用いられる無機材料としては、結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコン、結晶セレン、アモルファスセレン、および、カルコパライト系化合物であるCuInGaSe、CuInSe、AgAlSe2、AgInS2、III-V族化合物であるGaAs、InP、AlGaAs、InGaP、AlGaInP、更には、CdSe、CdS、InSe、BiSe、PbSe、PbS等の化合物半導体材料を挙げることができる。これらの材料から成る量子ドットを光電変換層に使用することも可能である。
【0055】
光電変換層に用いられるp型有機半導体は、ドナー性の有機半導体であり、主に正孔輸送性の有機化合物に代表される電子を供与しやすい性質がある化合物である。p型有機半導体としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、複素環化合物を配位子とする金属錯体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、ジアントラセノチエノチオフェン誘導体、ベンゾビスベンゾチオフェン誘導体、チエノビスベンゾチオフェン、ジベンゾチエノビスベンゾチオフェン誘導体、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体、ジベンゾチエノジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ナフトジチオフェン誘導体、アントラセノジチオフェン誘導体、テトラセノジチオフェン誘導体、ペンタセノジチオフェン誘導体に代表されるチエノアセン系材料、トリアリールアミン化合物およびカルバゾール化合物などのアミン系誘導体、インデノカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0056】
光電変換層に用いられるn型有機半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表される電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、ペリレンジイミド、フルオランテン、またはこれらの誘導体)、キナクドリン、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5~7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラゾピリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、前記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0057】
(陽極および陰極)
陽極、陰極としては、一般に電極として用いられている導電材料であれば特に制限なく用いることができ、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、およびこれらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物;酸化窒化チタン(TiN)、窒化チタン(TiN)等の金属窒化物;金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属;更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物;これらの有機導電性化合物とITOとの積層物、などが挙げられる。
【0058】
(電子ブロッキング層)
電子ブロッキング層は、光電変換層で生じた正孔を陽極に輸送するとともに、陽極から電子が注入されることによる暗電流を低減するための層である。
本発明の光電変換素子では、電子ブロッキング層を、一般式(1)で表される化合物を含む受光素子用有機薄膜で構成する。受光素子用有機薄膜の説明については、<受光素子用有機薄膜>の欄の記載を参照することができる。
電子ブロッキング層の厚さは、例えば3~100nmであり、好ましくは5~20nmである。
【0059】
(正孔ブロッキング層)
本発明の受光素子には、必要に応じて、陰極と光電変換層との間に正孔ブロッキング層が挿入されていてもよい。
正孔ブロッキング層は、光電変換層で生じた電子を陰極に輸送するとともに、陰極から正孔が注入されることによる暗電流を低減するための層である。
正孔ブロッキング層に用いられる材料は、仕事関数またはHOMO準位の絶対値が電子ブロッキング層に用いられる材料の仕事関数またはHOMO準位の絶対値よりも大きい材料であることが好ましい。例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン、インドール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、フェナントロリンのような含窒素複素環を含む有機化合物および有機金属錯体などが挙げられ、可視光領域の吸収が少ない材料であることが好ましい。また、5nmから20nm程度の薄膜で形成する場合には、可視光領域に吸収を有するフラーレンおよびその誘導体などを用いることもできる。
【実施例0060】
以下に合成例および実施例により本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<合成例1>化合物(1-1)の合成
下記の前駆体1を合成原料に用いて化合物(1-1)を合成した。
【0062】
【化10】
【0063】
反応容器に、前駆体1(2.62g)、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミン(4.60g)、炭酸カリウム(1.44g)、1,4-ジオキサン(100mL)、水(13mL)を加えた。この混合物を窒素バブリングにて脱気した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(0.16g)を加えて、加熱還流下、7時間撹拌した。反応液を放冷し、メタノールを加えて固体を析出させた後にろ過し、得られた固体を乾燥させた。固体をトルエンに溶解させ、シリカゲルを用いて吸着精製を行った後、濃縮した。得られたクルードにメタノールを加え、析出した固体をろ別した。得られた固体にトルエン/アセトン/メタノールを用いた晶析を繰り返すことで、化合物(1-1)の淡黄色粉体を収量3.10g(収率57.8%)で得た。
【0064】
得られた淡黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(DMSO-d)にて以下の30個の水素原子のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.10-8.08(1H),7.98-7.96(1H),7.73-7.70(8H),7.68-7.63(1H),7.61-7.55(3H),7.49-7.48(3H)7.39-7.35(1H),7.32-7.23(7H),7.18-7.12(3H),7.02-6.99(2H)。
【0065】
<合成例2>化合物(1-2)の合成
合成例1において、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミンに代えて、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)アミンを用い、同様の条件で反応を行い、化合物(1-2)の黄色粉体を収量2.92g(収率57.5%)で得た。
【0066】
得られた黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(DMSO-d)にて以下の40個の水素原子のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.15-8.13(2H),8.10-8.07(3H)、7.94-7.92(1H)、7.72-7.60(13H),7.55-7.47(5H),7.43-7.38(8H),7.31-7.27(3H),7.21-7.16(3H),6.97-6.95(2H)。
【0067】
<合成例3>化合物(1-3)の合成
合成例1において、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミンに代えて、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-4-ビフェニルアミンを用い、同様の条件で反応を行い、化合物(1-3)の黄色粉体を収量1.79g(収率39.0%)で得た。
【0068】
得られた黄色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(DMSO-d)にて以下の38個の水素原子のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.15(2H),8.00(1H)、7.90(1H)、7.86(1H),7.65-7.37(24H),7.32-7.27(4H),7.22-7.20(5H)。
【0069】
<比較合成例1>比較化合物(1)の合成
合成例1において、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)アミンに代えて、4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボラン-2-イル)フェニル-ビス(ビフェニリル-4-イル)アミンを用い、同様の条件で反応を行い、比較化合物(1)の白色粉体を収量1.20g(収率56.1%)で得た。
【0070】
【化11】
【0071】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
H-NMR(DMSO-d)にて以下の34個の水素原子のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.92(1H),7.86(1H),7.71-7.67(4H),7.62-7.53(13H),7.38(4H),7.30-7.24(4H),7.21-7.17(7H)。
【0072】
<ガラス転移温度の測定>
合成した各化合物について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によってガラス転移温度を測定した。また、比較化合物(EBL-1)についても同様にしてガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度の測定結果を表1にまとめて示す。
【0073】
【化12】
特許第4945146号公報の電子ブロッキング材料
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、一般式(1)の構造を有する化合物(1-1)、(1-2)および(1-3)は、いずれもガラス転移度が160℃以上であり、比較化合物(1)および(EBL-1)と比較して高いガラス転移温度を有していた。このことから、一般式(1)で表される化合物は薄膜状態としたときに安定性が高く、一般式(1)で表される化合物を用いることにより、熱安定性に優れた素子が実現できることがわかった。
【0076】
(実施例1)有機薄膜の作製
ITO付き基板の上に、真空蒸着法にて、化合物(1-1)、(1-2)、(1-3)、および比較化合物(1)、(EBL-1)をそれぞれ膜厚100nmに蒸着して、各有機薄膜を作製した。
【0077】
<HOMO準位の測定>
作製した各有機薄膜について、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社、PYS-202)によってHOMOのエネルギー準位(HOMO準位)を測定した。測定されたHOMO準位の絶対値を表2にまとめて示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示すように、化合物(1-1)、(1-2)および(1-3)のHOMO準位の絶対値は5.20~5.43eVであり、アリールアミン化合物やカルバゾール化合物などの正孔輸送材料が持つHOMO準位(絶対値で5.2~5.5eV)と同等であった。このことから、一般式(1)で表される化合物が、良好な正孔輸送能力を有することが確認された。
【0080】
<LUMO準位の測定>
また、作製した各有機薄膜について紫外可視分光高度計(日立製作所株式会社、U-3000)を使用して吸収スペクトルを測定し、そのスペクトルの吸収端および上記HOMO準位からギャップを求め、LUMO準位を算出した。LUMO準位の絶対値を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
これら化合物のLUMO準位は陽極に使用される電極のフェルミ準位(例えばITO:4.7eV、金:5.1eV)より十分に小さく、電子ブロッキング性能を有することが確認された。
【0083】
(実施例2)正孔移動度測定用の素子の作製
ITO付きガラス基板上に、真空蒸着法にて、化合物(1-1)、(1-2)、(1-3)および比較化合物(EBL-1)をそれぞれ膜厚3~4μmで蒸着して、各有機薄膜を形成した。続いて、各有機薄膜の上に、アルミニウムを膜厚100nmに蒸着して電極を形成することにより、正孔移動度測定用の素子を作成した。
【0084】
<正孔移動度の測定>
水分や酸素の吸着による劣化を防止するため、有機EL用水分ゲッターシートを貼り付けたガラスキャップを用意し、作製した各素子を、窒素雰囲気下、ガラスキャップで封止した。このガラス封止した各素子について、過渡光電流測定装置により、下記の測定条件で正孔移動度を測定した。測定結果を表4にまとめて示す。
【0085】
(測定条件)
装置:タイムオブフライト測定装置TOF-401(オプテル社製)
励起光源:窒素レーザ(337.1nm)
光パルス幅:1nsec以下
測定面積:0.04cm2
試料温度:25℃
負荷抵抗:50Ω
電界強度:0.25MV/cm
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示すように、化合物(1-1)、(1-2)および(1-3)の正孔移動度は、比較化合物(EBL-1)の正孔移動度の2倍以上であった。特に化合物(1-1)は、比較化合物(EBL-1)の10倍以上の正孔移動度を有しており、良好な正孔輸送能を有することが示された。このことから、一般式(1)で表される化合物を含む有機薄膜を受光素子に用いることにより、光電変換層で発生した正孔が効果的に取り出されるようになり、受光素子の応答性および変換効率の改善が可能になることがわかった。
【0088】
(実施例3)受光素子の作製
本実施例では、透明陽極2としてのITO電極が形成ガラス基板1の上に、電子ブロッキング層3、光電変換層4、陰極5の順に蒸着して、図1の層構成を有する受光素子を作製した。ここで、蒸着は0.0001Pa以下の減圧条件で行った。
【0089】
具体的には、まず、ITO付きガラス基板1に、イソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥し、さらに、UVオゾン処理を15分間行った。このITO付きガラス基板の上に、化合物(1-1)を、膜厚が5nmとなるように蒸着して電子ブロッキング層3を形成し、この上に、SubPC(p型半導体)とC60(n型半導体)とを二元蒸着して膜厚200nmの光電変換層4を形成した。このとき、化合物の蒸着速度比はSubPC:C60=50:50とした。この光電変換層4の上に、金を膜厚100nmに蒸着して金属陰極5を形成し、受光素子1とした。
【0090】
【化13】
【0091】
【化14】
【0092】
電子ブロッキング層3の材料として化合物(1-1)の代わりに、化合物(1-2)、(1-3)、比較化合物(1)、(EBL-1)をそれぞれ用いた以外は、同様にして受光素子2、3、比較素子1、2を作製した。
【0093】
<受光素子の評価>
作製した各受光素子の外部量子効率(EQE)、明電流および暗電流を、分光感度測定装置を用いて、下記測定条件により測定した。測定時の特定波長における照射強度は、Siフォトダイオード(S1337-1010BQ、浜松フォトニクス社製)を用いて校正した。暗電流については、受光素子への分光放射強度をゼロにして、同様のバイアス条件で電流値を測定した。この測定結果を表5に示す。
【0094】
<EQE・暗電流測定条件>
装置:分光感度測定装置 SM-250A(分光計器社製)
光源:キセノン150W
分光放射照度:50μW/cm2(560nm)
有効照射面積:10×10mm
受光面積:0.04cm2
面内不均一性:±5%以内
ソースメータ:ケースレー2635B(KEITHLEY社製)
印加バイアス:-1~-3V
【0095】
【表5】
【0096】
表5に示すように、-3V印加時における暗電流は、比較素子2の-5.4×10-7A/cmに対して、受光素子1~3では-2.8×10-9~-1.5×10-8A/cmと低い値となっている。また-3V印加時の変換効率EQEにおいても、比較素子2の58%に対して、受光素子1~3では62~65%と向上している。素子における-1Vおよび-2Vのバイアス印加時にも、受光素子1~3は比較素子2と比べ、低い暗電流と高い変換効率EQEを実現した。このことは、一般式(1)で表される化合物の高い電子ブロッキング性と良好な正孔輸送性により、受光素子の暗電流特性と変換効率を大幅に改善できることを示している。
【0097】
以上の結果から、一般式(1)で表される化合物は、受光素子の暗電流抑制に必要なHOMO準位、高い耐熱性、十分な正孔移動度を有しており、その薄膜を利用することにより、暗電流値が低い受光素子が実現できることがわかった。また、この結果は、分子内のベンゾチエノインドール環が優れた耐熱性と適切なHOMO準位をもたらすことと、この環骨格に、特定の置換アミノアリール基を導入することにより適切なHOMO準位を損なうことなく高い正孔移動度をさらに付与できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の受光素子用有機薄膜は、耐熱性が高く、暗電流抑制に必要なHOMO準位と十分な正孔移動度を有している。そのため、この有機薄膜を適用した受光素子は、良好な暗電流特性と高い変換効率を示し、特に撮像素子、光センサーに効果的に用いることができ、有機太陽電池、有機発光ダイオード、有機トランジスタなどの有機デバイスにも応用することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0099】
1 ガラス基板
2 透明陽極
3 電子ブロッキング層
4 光電変換層
5 陰極
L 光
図1
図2