(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127800
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】脂肪族ポリエステルフィルムおよび包装体、農林水産業資材、生分解方法、農林水産素材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240912BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240912BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027176
(22)【出願日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2023036330
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036331
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036332
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036333
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036334
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】巽 規行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光隆
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渉
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD01
3E086AD05
3E086BA04
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3E086BA15
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3E086BB05
4F071AA43X
4F071AF14
4F071AF15
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4F071AF61
4F071AG28
4F071AH01
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4F071BC12
4F100AK41A
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CB00B
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4F100GB01
4F100GB04
4F100JA03A
4F100JA11A
4F100JC00
4F100JD02B
4F100JK01A
4F100JK08A
4F100JL12B
4F100JL16
(57)【要約】
【課題】優れた生分解性を有しながら、高搬送速度や高張力でフィルムを搬送しても破れにくく、かつ金属を蒸着した場合の水蒸気バリア性に優れる脂肪族ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークを少なくとも1つ以上有し、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に存在するピークのうち最も強度の高いピークの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上60nm以下である脂肪族ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークを少なくとも1つ以上有し、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に存在するピークのうち最も強度の高いピークの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上60nm以下である脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項2】
CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に配向度が0.50以上のピークを少なくとも1つ以上有する請求項1に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムの全質量100質量%に対し、ポリヒドロキシアルカン酸を45質量%以上含有する、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項4】
CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが10°以上15°以下の範囲に1つ以上のピークを有し、回折角2θが10°以上15°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPA、回折角2θが19°以上21°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PAの回折ピークの積分強度(SA)とPBの回折ピークの積分強度(SB)の比(SA/SB)が0.05以上1.60以下である請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項5】
CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが10°以上15°以下の範囲に1つ以上のピークを有し、回折角2θが10°以上15°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPA、回折角2θが19°以上21°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PAの回折ピークの高さ(IA)とPBの回折ピークの高さ(IB)の比(IA/IB)が0.01以上1.00以下である請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項6】
ラマン分光評価の断面観察により求めた主配向軸方向における配向パラメータFm、および主配向軸方向と直交する方向における配向パラメータFtがいずれも1.1以上3.0以下である請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項7】
ラマン分光評価の表面観察において、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲に1つ以上のピークを有し、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPrとした際に、Prの半値幅Hrが11cm-1以上20cm-1以下である請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項8】
主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2がいずれも30MPa以上280MPa以下である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項9】
主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上350%以下である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項10】
以下の測定装置および測定条件による突刺試験により得られた突刺強度(厚み20μm換算値)が150gf以上である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
【請求項11】
以下の測定装置および測定条件による突刺試験により得られた突刺変位が2.0mm以上4.5mm以下である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
【請求項12】
熱機械分析装置(TMA)で求められる熱収縮曲線において、フィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)がいずれも40℃以上150℃以下である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項13】
120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率をF1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率をF2(%)としたとき、F1、F2がいずれも0%以上20%以下である、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項14】
少なくとも片面にさらに機能層を有する請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項15】
請求項1または2に記載の、蒸着用脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項16】
包装用途に用いられる、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項17】
農林水産業用途に用いられる、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項18】
請求項1または請求項2の脂肪族ポリエステルフィルムを含む包装体。
【請求項19】
請求項1または請求項2の脂肪族ポリエステルフィルムを含む農林水産業資材。
【請求項20】
請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルムをコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項21】
請求項18に記載の包装体をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項22】
請求項19に記載の農林水産業資材をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項23】
農林水産素材の被覆に用いられるフィルムであって、前記農林水産素材が肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項24】
請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された農林水産素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルフィルム、包装体、農林水産業資材、生分解方法、農林水産素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州を中心に生ゴミの分別回収やコンポスト処理が進められており、生ゴミと共にコンポスト処理できる生分解プラスチック製品や包装材料が望まれている。生分解性プラスチックの中でも、脂肪族ポリエステル樹脂が高い生分解性を有する点から注目されており、包装材料用などへ適用することが検討されている。しかしながら、一般的にフィルム化が容易で強度に優れるとされるポリ乳酸は低温環境下では土壌中における生分解性の進行が遅く、対して生分解性に優れるポリヒドロキシアルカン酸は延伸加工が困難な樹脂であり、機械的強度や熱寸法安定性に劣る問題がある。
【0003】
そこでポリヒドロキシアルカン酸フィルムの機械的強度を改良した延伸フィルムとして、一旦結晶化させた樹脂シートを、樹脂の軟化温度以下かつガラス転移温度以上の温度でロール圧延により一次延伸を行い、その後さらに二次延伸を行うことで、強度の高いフィルムを得る方法が提案されている(特許文献1)。また同様にして、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂シートを当該シートの融点-25℃以上融点以下の温度領域で一次延伸として部分融解延伸させ、次いで二次延伸することで強度の高いフィルムを得る方法が提案されている(特許文献2)。さらにはポリヒドロキシアルカン酸フィルムとしてポリ(3-ヒドロキシブチレート)樹脂をブレンドし得られたシートをロール圧延することなく、フィルム製造工程における流れ方向(MD方向)及びそれと直交する方向(TD方向)へそれぞれ、延伸倍率1.1倍以上で、連続的に二軸延伸する製造方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-168159号公報
【特許文献2】特開2003-311825号公報
【特許文献3】特開2022-62759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の方法で得られるフィルムはいずれも二次延伸することにより強度を向上させているが、一軸方向への多段延伸であり強度が向上するのは一方向である。特許文献3の製造方法では製膜時の面積延伸倍率が小さくポリヒドロキシアルカン酸の分子鎖伸張が不十分であり、更なる強度向上に改良の余地がある。また、これらフィルムは生分解性に有利な結晶構造ではなく生分解性に課題があった。これらフィルムは一方向のみの強度向上であったり、強度向上自体が不足することから、加工時のフィルム搬送張力に対して破れやすく、またフィルムが極端に変形し易いことで、金属を蒸着する工程で蒸着層にクラックが発生しガスバリア性が損なわれるという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、優れた生分解性を有しながら、高搬送速度や高張力でフィルムを搬送しても破れにくく、かつ金属を蒸着した場合の水蒸気バリア性に優れる脂肪族ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、以下の本発明に至った。すなわち本発明の好ましい一態様は以下の通りである。
(1)CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークを少なくとも1つ以上有し、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に存在するピークのうち最も強度の高いピークの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上60nm以下である脂肪族ポリエステルフィルム。
(2)CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に配向度が0.50以上のピークを少なくとも1つ以上有する(1)に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(3)フィルムの全質量100質量%に対し、ポリヒドロキシアルカン酸を45質量%以上含有する、(1)または(2)に記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(4)CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが10°以上15°以下の範囲に1つ以上のピークを有し、回折角2θが10°以上15°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPA、回折角2θが19°以上21°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PAの回折ピークの積分強度(SA)とPBの回折ピークの積分強度(SB)の比(SA/SB)が0.05以上1.60以下である(1)~(3)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(5)CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが10°以上15°以下の範囲に1つ以上のピークを有し、回折角2θが10°以上15°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPA、回折角2θが19°以上21°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PAの回折ピークの高さ(IA)とPBの回折ピークの高さ(IB)の比(IA/IB)が0.01以上1.00以下である(1)~(4)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(6)ラマン分光評価の断面観察により求めた主配向軸方向における配向パラメータFm、および主配向軸方向と直交する方向における配向パラメータFtがいずれも1.1以上3.0以下である(1)~(5)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(7)ラマン分光評価の表面観察において、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲に1つ以上のピークを有し、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPrとした際に、Prの半値幅Hrが11cm-1以上20cm-1以下である(1)~(6)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(8)主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2がいずれも30MPa以上280MPa以下である、(1)~(7)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(9)主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上350%以下である、(1)~(8)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(10)以下の測定装置および測定条件による突刺試験により得られた突刺強度(厚み20μm換算値)が150gf以上である、(1)~(9)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
(11)以下の測定装置および測定条件による突刺試験により得られた突刺変位が2.0mm以上、4.5mm以下である、(1)~(10)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
(12)熱機械分析装置(TMA)で求められる熱収縮曲線において、フィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)がいずれも40℃以上150℃以下である、(1)~(11)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(13)120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率をF1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率をF2(%)としたとき、F1、F2がいずれも0%以上20%以下である、(1)~(12)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(14)少なくとも片面にさらに機能層を有する(1)~(13)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(15)(1)~(14)のいずれかに記載の、蒸着用脂肪族ポリエステルフィルム。
(16)包装用途に用いられる、(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(17)農林水産業用途に用いられる、(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(18)(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムを含む包装体。(19)(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムを含む農林水産業資材。
(20)(1)~(17)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムをコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(21)(18)に記載の包装体をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(22)(19)に記載の農林水産業資材をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(23)農林水産素材の被覆に用いられるフィルムであって、前記農林水産素材が肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む、(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルム。
(24)(1)~(15)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された農林水産素材。
【発明の効果】
【0008】
本発明により優れた生分解性を有しながら、高搬送速度や高張力でフィルムを搬送しても破れにくく、かつ金属を蒸着した場合の水蒸気バリア性に優れる脂肪族ポリエステルフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】広角X線回析測定におけるX線源、試料、回折像の位置関係の概要を示す斜め俯瞰図である。
【
図2】
図1におけるA-B方向から見た際の図である。
【
図3】
図1におけるB-C方向から見た際の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの好ましい一態様について詳細に説明する。以下好ましい範囲について上限と下限が別々に記載されている場合、その組み合わせは任意とすることができる。また、本明細書において、以下脂肪族ポリエステルフィルムを単にフィルムと称する場合がある。また、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムにおいて、「厚み方向」とはフィルム面に垂直な方向をいう。「長手方向」とは、フィルム製造工程における流れ方向に対応する方向(以下、「MD」という場合がある。)であり、「幅方向」とは、前記のフィルム製造工程における流れ方向とフィルム面内で直交する方向(以下、「TD」という場合がある。)である。フィルムサンプルがリール、ロール等の形状の場合は、フィルム巻き取り方向が長手方向といえる。また、本発明における主配向軸は以下の方法にて定義するものである。まず、任意の方向を上に向けて、長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプル<1>とし、サンプル<1>の長辺の方向を0°と定義する。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取する。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取する。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(エー・アンド・デイ製“テンシロン万能試験機”RTG-1210)に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離30mmでセットし、25±5℃、65±10%RHの温湿度の雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行う。このときサンプルが破断した際の荷重から試験前の試料の断面積で除した値を破断強度(単位:MPa)として算出し、各サンプルについて同様の測定を5回ずつ行って平均値を採用する。本発明においては、当該方法よって得られた破断強度が最大であった測定方向を主配向軸とし、これに直交する方向を主配向軸方向と直交する方向とする。
【0011】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの好ましい一態様は、後述する方法で測定される、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークを少なくとも1つ以上有し、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に存在するピークのうち最も強度の高いピーク(以下、PBと称する場合がある)の半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上60nm以下である脂肪族ポリエステルフィルムである。
【0012】
発明者らは本態様とすることにより、驚くことに、優れた生分解性を有しながら、強度と柔軟性を両立したフィルムとすることができることを見出した。これは、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークを有するということから、結晶格子の間隔dが約0.22nmであり、分子鎖がらせん構造などをとらず伸び切った状態である結晶構造(以下結晶Bと称する場合がある)であると推察され、分子鎖のエステル基が露出しやすいために優れた生分解性を有すると考えられる。また、それらの結晶子サイズが5nm以上である脂肪族ポリエステルフィルムは、分子鎖が伸び切った状態である結晶Bが過剰に溶融や崩壊がしていない状態で存在しており、脂肪族ポリエステルフィルムの生分解性を良好なものとしつつ、伸び切り鎖であり強度がありつつも脆化しにくい結晶Bが程よい大きさで存在するためフィルムの高強度化と脆化防止を両立できると推察される。高強度化と脆化防止を両立できることにより、高搬送速度や高張力でフィルムを搬送しても破れにくくなり、また脂肪族ポリエステルフィルムを例えば包装用途に用いた際に、金属を蒸着する工程で蒸着層にクラックが発生することによるガスバリア性(以下、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性と省略する場合がある)の低下を防ぐことができる。
【0013】
また、上記の回折ピークの結晶子サイズが60nm以下である脂肪族ポリエステルフィルムは、結晶Bが過剰に粗大化せずに存在しており、フィルム中の結晶Bがより均一に存在することでフィルムの過剰な柔軟化を抑えることができると推察され、高搬送速度や高張力でフィルムを搬送しても破れにくくなり、また脂肪族ポリエステルフィルム例えば包装用途に用いた際に、加工工程で発生するシワや弛みによる加工性(以下、脂肪族ポリエステルフィルムの加工性と省略する場合がある)の低下を防ぐことができる。また、生分解性もより良好にすることができる。
【0014】
上記同様の観点から、前記結晶子サイズは、6nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、9nm以上であることがさらに好ましく、11nm以上であることが特に好ましい。また、上記同様の観点から、前記結晶子サイズは、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲に配向度0.50以上のピークを少なくとも1つ以上有することが好ましい。上記の配向度(以下、結晶配向度と称する場合がある)が0.50以上である結晶Bを有する脂肪族ポリエステルフィルムは分子鎖が伸び切った状態である結晶Bが十分に存在しながらそれらの配向がフィルムの平面方向に高いため、分子鎖同士の相互作用が強く、衝撃を受けた際にそれらが破断の起点になり難く、高強度化でき、また脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性の低下を防ぐことができる。また、当該配向度は結晶Bの量とも関係が深いため、上記態様とすることで生分解性も向上させることができる。結晶配向度の上限は特に限定されるものではないが、結晶配向度は0.99以下であることが好ましい。本態様とすることにより、結晶Bが過剰に配向することで突刺などの部分的な破壊の起点になることを抑制し、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性低下や加工性低下を防ぐことができる。上記同様の観点から結晶配向度は、0.60以上であることがより好ましく、0.80以上であることがさらに好ましく、0.90以上であることが特に好ましく、0.93以上であることが殊更に好ましく、0.95以上であることが最も好ましい。また、上記同様の観点から、結晶配向度は0.98以下であることがより好ましく、0.97以下であることがさらに好ましい。なお、配向が平面方向に高いフィルムを適切に測定する観点から、実施例に記載の方法で結晶配向度を求める際における配向プロファイルの最も強度が高いピーク位置(以下、配向角度と称する場合がある)が円周角90°±10°以内に現れることが好ましい。
【0016】
上記範囲に結晶配向度や結晶子サイズに制御する方法は、特に限定されるものではないが、例えば後述するように、脂肪族ポリエステルフィルムの組成を好ましい範囲とした上で、フィルムの延伸前の予熱工程で結晶Bに予備配向を加えた状態で、面積倍率36.0倍以下の倍率で延伸することで予備配向した結晶Bに効率的に延伸応力を与える、または熱処理することで結晶Bの成長度合いを制御する方法が挙げられる。
【0017】
結晶Bの結晶サイズを制御するために、より具体的には延伸前の予熱工程において、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-100℃)~(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-10℃)の温度(以下、結晶生成温度と称する)に制御したロール群や連続オーブンを設置し、それらを通過する前後での搬送速度差を100.2%以上130%以下とした後に、長手方向の一軸延伸倍率を1.5倍以上6.0倍以下、幅方向の延伸倍率を1.5倍以上6.0倍以下とすることにより達成可能である。また、当該延伸後に(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-100℃)~(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-5℃)の温度で熱処理および弛緩処理する方法も好ましく用いられる。ここで脂肪族ポリエステルの融点は後述する方法によって確認することができる。搬送速度差が上記範囲より低いと生成した結晶Bの予備配向が不十分となり結晶配向度が不足する場合があり、搬送速度差が上記範囲より高いと予備配向が過剰に進行する場合や延伸が困難となる場合がある。
【0018】
また、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは後述する方法で測定される、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲の配向度0.50以上のピークのうち最も強度の高いピークの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上60nm以下であることがより好ましい。上記の回折ピークはフィルムの強度や柔軟性、生分解性に寄与する脂肪族ポリエステルの結晶構造に由来するものであり、配向度が0.50以上であるとは、フィルムの中に生分解性に優れる結晶構造が存在しながらそれらの配向性が面方向に高く、衝撃時にそれらが破断の起点になり難いことを示し、フィルムの柔軟性を高めことができる。このような配向度を有する結晶の結晶子サイズを5nm以上とすることで、配向性が十分に高い結晶構造を形成することができ、脂肪族ポリエステルフィルムの生分解性低下を防ぐことができる。加えて、本フィルムを例えば包装用途や農林水産用として用いる際に生じうる蒸着加工時や搬送時のたるみを抑制し、また張力に対してフィルムを破れにくくすることができる。また、当該結晶子サイズを60nm以下とすることで、上記結晶構造が製造過程で過剰に成長せずに存在させることができ、脂肪族ポリエステルフィルムの強度低下を防ぐことができる。加えて、本フィルムを例えば包装用途や農林水産用として用いる際に、フィルムが極端に変形することを防ぎ、蒸着などの機能層を設けた際の当該機能層の割れやフィルムの劈開によって生じる特性低下を軽減することができる。上記同様の観点から、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲の配向度0.50以上のピークのうち最も強度の高いピークの半値幅から求めた結晶子サイズは、6nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、9nm以上であることがさらに好ましく、11nm以上であることが特に好ましい。また、上記同様の観点から当該結晶子サイズは、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが10°以上15°以下の範囲にある最も強度の高いピークをPAとした際に、前記PBとのピークの積分強度比(SA/SB)が0.05以上、1.60以下であることが好ましく、また、ピーク高さ比(IA/IB)が0.01以上、1.00以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、PAとPBは由来する結晶構造がそれぞれ異なるが、PAの結晶構造(以下、結晶Aと称する場合がある)の結晶格子の間隔dは、PBの結晶構造の結晶格子の間隔dより大きく、結晶Aはらせん構造などをしており、結晶Bに比べて生分解性と強度向上の寄与が小さいものと考えられる。したがって、結晶Aと結晶Bの存在量や結晶の成長状態の比は脂肪族ポリエステルフィルムの特性に影響する。
【0021】
脂肪族ポリエステルフィルム中に存在する結晶存在量の比を示すSA/SBが0.05以上であると、強度の高い結晶Bが過剰に存在することによるバリア性の低下を抑制できる。また、SA/SBが1.60以下であると、生分解性に劣る結晶構造が減少することによる生分解性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、SA/SBは0.10以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、SA/SBは1.40以下であることがより好ましく、1.35以下であることがさらに好ましく、1.20以下であることが特に好ましい。
【0022】
脂肪族ポリエステルフィルム中に存在する結晶の成長状態の比を示すIA/IBが0.01以上であると、PAに由来する結晶構造の結晶部の成長の偏りがPBに対して過剰に大きいことを示し、結晶Aの秩序性低下による加工性の低下を抑制できる。また、IA/IBが1.00以下であるとPAに由来する結晶構造の成長状態がPBに対して過剰に均一化していることを示し、結晶Aの粗大化によるバリア性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、IA/IBは0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、IA/IBは0.90以下であることがより好ましく、0.70以下であることがさらに好ましい。
【0023】
上記範囲にSA/SBやIA/IBを調整する方法は特に限定されるものではないが、例えば後述するように、脂肪族ポリエステルフィルムの組成を好ましい範囲とした上で、フィルムの製膜条件によって制御する方法が挙げられる。
【0024】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの好ましい一態様は、後述する方法で測定されるラマン分光評価の断面観察により求めた主配向軸方向における配向パラメータFm、および主配向軸方向と直交する方向における配向パラメータFtがいずれも1.1以上3.0以下であることが好ましい。
【0025】
ラマン分光評価の断面観察により求めた主配向軸方向における配向パラメータは、フィルム断面における厚み方向と面方向に向いたエステル基の配向状態を示し、主配向軸方向における配向パラメータFm、および主配向軸方向と直交する方向における配向パラメータFtは、生分解性に寄与する脂肪族ポリエステル分子鎖のエステル基部分の回転のしづらさに由来するものである。FmおよびFtは、分子鎖間の相互作用や立体障害が無くエステル基部分が自由回転しやすい状態であるほど、および、分子鎖がらせん構造などをとらず伸び切った状態である結晶Bが少なくなるほど1に近づく。また、FmおよびFtはフィルム平面方向に配向している結晶Bが多くなるほど、および、フィルム中で回転が阻害されたエステル基が多くなるほど大きくなる。
【0026】
Fm、Ftのいずれも1.1以上である脂肪族ポリエステルフィルムは生分解性に優れる結晶Bが十分に存在し、かつ、それらの配向がフィルムの平面方向に高く、衝撃を受けた際に結晶構造が破断の起点になり難いことを示す。このため、Fm、Ftのいずれもを1.1以上とすることで、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性を高めることができる。また、Fm、Ftのいずれもが3.0以下である脂肪族ポリエステルフィルムは結晶Bが過剰に配向することで包装材や農林水産業資材として使用した際の内包物等の突起の突刺による亀裂などの部分的な破壊の起点になることを抑制できるほか、脂肪族ポリエステルフィルムの加工性やバリア性低下を防ぐことができる。
【0027】
上記同様の観点からFm、Ftは、いずれも1.2以上であることがより好ましく、いずれも1.3以上であることがさらに好ましく、1.5以上であることが特に好ましい。また、上記同様の観点からFm、Ftは、いずれも2.7以下であることがより好ましく、いずれも2.4以下がさらに好ましく、2.3以下であることが特に好ましい。
【0028】
上記のような範囲にFm、Ftを制御する方法は特に限定されるものではないが、例えば、前述した結晶配向度の制御と同様の方法で行うことが好ましい。
【0029】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定されるラマン分光評価の表面観察において、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲に1つ以上のピークを有し、1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピークをPrとした際に、Prの半値幅Hrが11cm-1以上20cm-1以下であることが好ましい。
【0030】
Hrは分子鎖のエステル基部分に由来する結晶性の程度を示し、脂肪族ポリエステルの結晶化に由来するものである。結晶化度が低い場合や分子鎖の規則性が低下している場合はHrは大きくなり、延伸や熱処理などで結晶化が進行するほどHrは小さくなる。
【0031】
Hrが11cm-1以上である脂肪族ポリエステルフィルムは、エステル基に由来する結晶化の過剰な進行が抑えられていることを示し、加工性の低下を防ぐことができる。またHrが20cm-1以下である脂肪族ポリエステルフィルムは、エステル基に由来する結晶化度が十分に保たれていることで、バリア性の低下を防ぐことができる。
【0032】
上記同様の観点からHrは13cm-1以上であることがより好ましく、14cm-1以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点からHrは18cm-1以下であることがより好ましく、16cm-1以下であることがさらに好ましい。
【0033】
上記のような範囲にHrを制御する方法は特に限定されるものではないが、例えば後述するように、脂肪族ポリエステルフィルムの組成を好ましい範囲とした上で、フィルムの製膜条件によって制御する方法が挙げられる。
【0034】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2がともに30MPa以上280MPa以下であることが好ましい。
【0035】
S1、S2がいずれも30MPa以上であることにより、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性や生分解性の低下を抑制できる。また、S1、S2がいずれも280MPa以下であることにより、脂肪族ポリエステルフィルムの加工性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、S1、S2は、いずれも35MPa以上であることがより好ましく、いずれも40MPa以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、S1、S2は、いずれも240MPa以下であることがより好ましく、いずれも200MPa以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上350%以下であることが好ましい。
【0037】
L1、L2がいずれも10%以上であることにより、脂肪族ポリエステルフィルムの加工性の低下を抑制できる。また、L1、L2がいずれも350%以下であることにより、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性や生分解性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、L1、L2は、いずれも50%以上であることがより好ましく、いずれも90%以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、L1、L2はいずれも330%以下であることがより好ましく、いずれも310%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される突刺強度が150gf/20μm以上であることが好ましい。脂肪族ポリエステルフィルムの突刺強度を150gf/20μm以上とすることでフィルム強度を高め、加工性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、突刺強度は、200gf/20μm以上であることがより好ましく、250gf/20μm以上であることがさらに好ましい。尚、突刺強度の上限は、特に限定されるものでは無いが、フィルムな過剰な高強度化はバリア性低下に繋がる場合があるため、突刺強度は1500gf/20μm以下であることが好ましい。
【0039】
なお、強度を高める観点から本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは二軸配向脂肪族ポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0040】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される突刺変位が2.0mm以上4.5mm以下であることが好ましい。脂肪族ポリエステルフィルムの突刺変位を2.0mm以上とすることで、蒸着加工時などの搬送工程での弛みが原因となる加工性の低下を抑制できる。また脂肪族ポリエステルフィルムの突刺変位を4.5mm以下とすることで、適度な柔軟性を持たせてバリア性の低下を抑制できる。上記同様の観点から、突刺変位は、2.5mm以上であることがより好ましく、3.0mm以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、突刺変位は、4.0mm以下であることがより好ましく、3.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定されるフィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)がいずれも40℃以上150℃以下であることが好ましい。T1、T2がいずれも40℃以上であることにより、脂肪族ポリエステルフィルムの寸法安定性が十分高いものとなり、例えば包装用途に用いた際に生じうる蒸着時の熱で脂肪族ポリエステルフィルムが膨張することなく適度に収縮側に変形することにより、ピンホールやクラックといった欠陥が発生することを抑制し、バリア性を良好なものとすることができる。なおT1、およびT2をいずれも150℃を超えるようするためには製膜時に150℃を超す熱処理を施す必要であり、製膜時に破膜するなど生産性が劣る観点から、T1、T2はいずれも150℃以下であることが好ましい。
【0042】
上記同様の観点から、T1、T2はいずれも45℃以上であることがより好ましく、いずれも50℃以上であることがさらに好ましく、いずれも55℃以上であることが特に好ましい。また、上記同様の観点から、T1、T2は、いずれも145℃以下であることがより好ましく、いずれも140℃以下であることがさらに好ましく、いずれも135℃以下であることが特に好ましい。
【0043】
上記のような範囲にS1、S2およびL1、L2、突刺強度、突刺変位、T1、T2を制御する方法は特に限定されるものではないが、例えば、後述するポリヒドロキシアルカン酸含有量や製造方法によって、脂肪族ポリエステルフィルムの結晶配向度や結晶子サイズを好ましい範囲とすることで達成可能である。
【0044】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、後述する方法で測定される120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率をF1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率をF2(%)としたとき、F1、F2がいずれも0%以上20%以下であることが好ましい。
【0045】
120℃15分間の加熱処理は脂肪族ポリエステルフィルムの加工工程を想定したものであり、熱収縮率は当該工程における寸法変化量を示し、F1、F2は120℃の環境下で不安定となるフィルム中の結晶構造に由来するものである。
【0046】
F1、F2がいずれも0%以上20%以下である脂肪族ポリエステルフィルムは本発明の結晶構造、配向構造を維持しながら、適度な緊張構造を有していることを示し、例えば包装用途に用いた際に生じうる蒸着時の熱で脂肪族ポリエステルフィルムが膨張することなく適度に収縮側に変形することにより、高速蒸着加工時の破れ発生やピンホール、クラックといった欠陥の発生を抑制することができる。
【0047】
上記同様の観点から、F1、F2がいずれも15%以下であることがより好ましく、F1、F2がいずれも12%以下であることがさらに好ましく、F1、F2のいずれかが12%以下で、もう一方が11%以下あることが特に好ましくF1、F2がいずれも11%以下であることが殊更に好ましく、F1、F2がいずれも10%以下であることが最も好ましい。熱膨張によって高速加工時のシワや弛みを防止して加工性を良好なものとすることができる観点から、F1、F2がいずれも0.2%以上であることがより好ましく、F1、F2がいずれも0.5%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
上記のような範囲にF1、F2を制御する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、後述するように特定の樹脂成分を含むポリヒドロキシアルカン酸を用いる方法や、製膜時の延伸倍率を調整する方法、延伸後の熱処理、弛緩処理の条件を調整する方法が挙げられる。
【0049】
<脂肪族ポリエステル>
本発明は脂肪族ポリエステルフィルムに関する。ここで脂肪族ポリエステルとはポリヒドロキシ酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリアルキレンジカルボン酸のいずれかに分類される、芳香環構造を持たない高分子化合物である。本発明で用いうるポリヒドロキシ酸の具体例としてはポリグリコール酸、ポリ乳酸などや、ポリヒドロキシアルカン酸が挙げられる。ポリヒドロキシアルカン酸の具体例としてはポリヒドロキシブチレン酸、ポリヒドロキシバレリル酸、ポリヒドロキシヘキサン酸などが挙げられる。ポリアルキレンジカルボン酸の具体例としてはポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどが挙げられる。本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、フィルム全質量に対して脂肪族ポリエステルを50質量%以上含むことが好ましい。
【0050】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、生分解性の点から、フィルム全質量に対してポリヒドロキシアルカン酸を45質量%以上含むことが好ましい。なお、ポリヒドロキシアルカン酸の主鎖におけるエステル結合間の炭素数は2以上であることが好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸の主鎖におけるエステル結合間の炭素数は2であることがより好ましい。
【0051】
本発明に用いるポリヒドロキシアルカン酸は、3-ヒドロキシブチレートを繰り返し単位とすることが好ましい。すなわち本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、生分解性の点から、フィルム全質量に対してポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を45質量%以上含むことが好ましい。当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体と1種または2種以上の共重合体の混合物、又は、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co- 3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。-co-は共重合であることを意味する。中でも、工業的に生産が容易であることから、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート)、およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)より選ばれる1種以上であることが好ましい。更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、強度、耐熱性などの物性を変化させることができること、また、工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂はポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)であることが好ましい。特に、180℃以上の加熱下で熱分解しやすい特性を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)は融点を低くすることができ、低温での成型加工が可能となる観点からも好ましい。
【0052】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムにおいて、ポリヒドロキシアルカン酸の含有量をフィルム全質量に対して45質量%以上とすることで、フィルム中に生分解性に優れる樹脂成分を増やすだけでなく、結晶Bが生成しやすい樹脂からなる連続相を形成することができる。これにより、結晶Bの高配向化を促すことが可能となり、生分解性の低下を防ぐことに加え、脂肪族ポリエステルフィルムのバリア性の低下を抑制できる。
【0053】
上記同様の観点から、ポリヒドロキシアルカン酸の含有量は、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0054】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムに用いるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量Mwは延伸後のフィルムの強度と製膜安定性を両立する観点から10×104以上200×104以下が好ましい。また重量平均分子量Mwが10×104未満の場合、溶融押出後の未延伸シートの分子量が低下しすぎて製膜が困難となる場合がある。またポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量Mwが200×104を超えると、押出時内の溶融樹脂の圧力が高くなりすぎ、スクリュー等への機械的な負荷が大きくなり過ぎる場合がある。上記同様の観点から、脂肪族ポリエステルフィルムに用いるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量Mwは、30×104以上であることがより好ましく、40×104以上であることがさらに好ましい。また、上記同様の観点から、脂肪族ポリエステルフィルムに用いるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量Mwは、150×104以下であることがより好ましく、100×104以下であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムがポリヒドロキシアルカン酸以外の脂肪族ポリエステルを含む場合、高張力・高速搬送時の加工性向上の観点から、生分解性を損なわない範囲でポリ乳酸を含むことが好ましい。すなわち、高張力・高速搬送時の加工性向上の観点から、生分解性を損なわない範囲でポリ乳酸を含む、および/または、上記した好ましい範囲の結晶子サイズ・配向度とすることが好ましい。
【0056】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは結晶核剤を含んでいることが好ましい。結晶核剤はフィルムの結晶性を高める特性を有する造核剤であり、このような結晶核剤としては、脂肪酸アミド、尿素誘導体、ソルビトール系化合物、窒化ホウ素、脂肪酸塩、芳香族脂肪酸塩、多価アルコール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素より選ばれる1種以上であることが好ましい。多価アルコールとしてはペンタエリスリトール、ガラクチトール、マンニトール等が好ましく挙げられる。本発明においてはポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールがより好ましい。
【0057】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色剤、着色防止剤などを含有してもよい。
【0058】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、包装用、離型用ならびにその工程フィルム、衛生用品、農業用品、農林水産用品、建築用品、医療用品など様々な用途に広く使用でき、特に、包装用途や農林水産用途に用いる際、優れた生分解性を有しながら、加工工程ならびに使用工程で破断もしくは変形することなく使用できる脂肪族ポリエステルフィルムとして好適に用いることができる。
【0059】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは、用途に応じて設定することができるが、例えば一般包装用、離型用、農林水産用途のうちシート状で用いる用途等において、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは6μm以上200μm以下であることが好ましく、加工時や使用時のハンドリングの観点から脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。当該用途において、適度な柔軟性を持たせてバリア性の低下を抑制できる観点から脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0060】
また、各種用途においてトレー成型等の成型工程を含む用途や自立性を求められる用途においては、加工性やハンドリング性の観点から、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは10μm以上300μm以下であることが好ましく、コストや製膜性の観点から脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは250μm以下であることがより好ましく、220μm以下であることがさらに好ましい。また、当該用途において、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。
【0061】
<機能層を有する脂肪族ポリエステルフィルム>
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、用途に応じて機能層を設けることも好ましい。以下、機能層を有する脂肪族ポリエステルフィルムについて説明する。なお機能層を設けた本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを単に「積層体」と称することがある。脂肪族ポリエステルフィルムに積層しうる機能層としては、ガスバリア層、粘着層、ヒートシール層、易接着層、着色層、印刷層、易剥離層、離型層、易滑層、多孔質層、不織布等を挙げることができる。機能層の積層方法は、機能層に応じて選択すればよいが、例えば、蒸着、スパッタリング、コーティング、グラビア印刷やオフセット印刷等の各種印刷法、熱接着、接着層を介しての積層等により積層することができる。例えば、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを包装用途に用いる場合、ガスバリア性を付与するコーティング層や蒸着層、ヒートシール層が機能層として好ましく選択される。また例えば、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを肥料、飼料、種苗、薬剤などの農林水産素材の被覆に用いる場合、圧着性を付与する粘着層や熱圧着性を付与するヒートシール層などが接着性を付与する機能層として好ましく選択される。なお、本発明の効果を損なわない観点からは、機能層は生分解性を有するか、毒性の低いものとすることが好ましい。
【0062】
本発明の積層体に用いうるガスバリア層としては、高いバリア性能を発揮できる観点から特に蒸着層が好ましく用いられる。ガスバリア層は、脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属と無機化合物を合計で50質量%を超えて100質量%以下含む層(D層)であることが好ましい。ここで、「金属と無機化合物を合計で50質量%を超えて100質量%以下含む層」とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、金属のみを50質量%より多く含む層、無機化合物のみを50質量%より多く含む層、金属と無機化合物をいずれも含み、それらの合計が50質量%を超える層のいずれかを指す。D層の金属及び/又は無機化合物としては、フィルムとの密着性向上、フィルムに積層した際のガスバリア性発現、及び環境負荷低減の観点から、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはこれらの混合物のいずれかが好適に用いられる。また、内容物の視認性の観点からは、無機化合物、特に酸化アルミニウム、酸化珪素またはこれらを含む混合物を用いることがより好ましい。積層体におけるD層の厚みは、積層体を樹脂あるいはフィルムとして再利用するリサイクル性の観点や亀裂によるガスバリア性の低下を抑制する観点から200nm以下が好ましい。上記同様の観点から、積層体におけるD層の厚みは、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。下限は特に限定されないが、バリア性発現の観点から積層体におけるD層の厚みは1nm以上であることが好ましい。
【0063】
また、本発明の積層体において、D層と脂肪族ポリエステルフィルム表面の間には、コーティング等により厚み1μm以下の樹脂層を設けてもかまわない。かかる樹脂層を設けることで、D層と脂肪族ポリエステルフィルムの密着性を向上させるなどの効果を得られる場合がある。但し、製造コストの観点からは、該樹脂層を有さない態様(すなわち、D層が、脂肪族ポリエステルフィルムの最表面上に直接積層される態様)が好ましい。
【0064】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムにD層を形成して積層体とする方法としては、コーティング、蒸着、ラミネート等が挙げられるが、湿度依存性が小さく、薄膜で優れたガスバリア性を発現できることから、蒸着が特に好ましい。蒸着方法としては、真空蒸着法、EB(電子線)蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着法、プラズマCVD等の各種化学蒸着法を用いることができるが、生産性の観点からは真空蒸着法が特に好ましく用いられる。
【0065】
また、本発明の積層体において、ガスバリア性の向上、D層の蒸着欠陥や亀裂によるガスバリア性の低下を抑制する観点から、D層上にオーバーコート層を設けてもかまわない。
【0066】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムに、機能層として粘着層やヒートシール層などの接着性を付与する層(E層)を積層する場合、それらは脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも片面に積層することが好ましい。E層に用いうる樹脂成分としては、高いヒートシール強度を有する観点から、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体等、あるいはこれらの混合物のいずれかが好適に用いられる。複数のフィルムを積層する場合は最終製品の厚みを抑える観点から、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系ホットメルト接着剤、オレフィン系ホットメルト接着剤、ゴム系ホットメルト接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、ポリアミド系ホットメルト接着剤、ポリウレタン系ホットメルト接着剤等、あるいはこれらの混合物のいずれかがより好適に用いられ、積層体全体の生分解性を高める観点から、例えば、前記に例示したポリヒドロキシアルカン酸の共重合成分を調整した樹脂成分や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート等の、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムよりも軟化点または融点が低い生分解性樹脂等、あるいはこれらの混合物のいずれかがさらに好適に用いられる。
【0067】
積層体におけるE層の厚みは、高い接着強度を発現させる観点から0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、3.0μm以上がさらに好ましい。また積層体の生分解性の低下を抑える観点や、複数のフィルムを積層する場合に最終製品の厚みを抑える観点から積層体におけるE層の厚みは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0068】
また、積層体において、E層と脂肪族ポリエステルフィルム表面の間には、コーティング等により厚み1μm以下の樹脂層を設けてもかまわない。かかる樹脂層を設けることで、E層と脂肪族ポリエステルフィルムの密着性を向上させるなどの効果を得られる場合がある。但し、製造コストの観点からは、該樹脂層を有さない態様(すなわち、E層が、脂肪族ポリエステルフィルムの最表面上に直接積層される態様)が好ましい。
【0069】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムにE層を形成して積層体とする方法としては、コーティングやラミネートが特に好ましい。コーティング方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることができ、ラミネート方法としてはドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出ラミネート法、共押出法等を用いることができるが、生産性の観点からはグラビアコーティング法、ダイコーティング法、押出ラミネート法、共押出法がさらに好ましく用いられる。
【0070】
また、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、優れた生分解性を有しながら、フィルム強度や柔軟性が向上することで、加工時のフィルム搬送張力に対して破れやすく、フィルムが極端に変形し易い課題や、例えば金属を蒸着する工程で蒸着層にクラックが発生しガスバリア性が損なわれるといった課題が解決されるため、蒸着用途に好適に用いることができる。蒸着用途とは、蒸着用基材として用いることをいう。なかでも蒸着工程においてかかる最大搬送張力が50N/m以上となる、高張力搬送がなされる蒸着工程で用いられることがより好ましい。
【0071】
<包装材、梱包体>
以下、本発明の包装材、梱包体について説明する。本発明の包装材は、本発明の脂肪族ポリエステルフィルム、及び本発明の積層体の少なくとも一方を用いる。本発明の包装材は、印刷等の後加工や、ガスバリア層として設ける蒸着層の蒸着加工工程の搬送張力でも破断もしくは変形することなく、ハンドリング性に優れることから、包装材料として好適に用いることができる。また蒸着層の亀裂によるガスバリア性の低下を抑制できることから、水蒸気や酸素により劣化しやすいものの包装に好適に用いることができる。
【0072】
本発明の梱包体は、本発明の包装材により内容物が梱包されている。その態様は特に制限されない。例えば、ヒートシールにより本発明の包装材を袋状に加工し、その中に内容物を入れることで得られる梱包体、トレー状の容器に内容物を充填もしくは盛りつけたのち、本発明の包装材を用いて封止した梱包体等が挙げられる。
【0073】
<農林水産業資材>
以下、本発明の農林水産業資材について説明する。本発明の農林水産業資材は、本発明の脂肪族ポリエステルフィルム、及び本発明における前記積層体の少なくとも一方を用いる。本発明の農林水産業資材は、優れた生分解性と強度、柔軟性を両立することを特徴とし、土壌用マルチフィルム、植生フィルム、燻蒸フィルム、保水用フィルム、肥料被覆材、飼料被覆材、種苗被覆材、薬剤被覆材、養殖サポートフィルム、海洋生物付着抑制フィルム、環境保全資材など、使用後は生分解することが利点となる用途に好適に用いられる。
【0074】
<農林水産素材の被覆フィルム>
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む農林水産素材の被覆に用いることで、被覆した農林水産素材を保護して劣化による品質低下や漏洩による環境汚染を防止しながら、土壌中や海洋中で生分解することで、肥料、飼料、薬剤を適切な時期に拡散、飛散させることや、種苗の定着、定床までの期間を保護した後、生分解することでそれらの成長の妨げになることを防ぐことができる。ここでの農林水産素材とは農林水産資材に内包される素材、成分を示し、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、公知のもの広く使用することができる。
【0075】
前述した通り、優れた生分解性と高い強度、適度な柔軟性を有する本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを本用途に用いることで、ピンホールやクラック、被覆厚みが不均一な部分から内容物である農林水産素材が漏洩してしまうことを防ぐことが可能であり、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの厚みによって、土壌中や海洋中での拡散、飛散速度を制御が可能となる。加えて、肥料、飼料、種苗、薬剤の農林水産素材を2種類以上一緒に被覆することもできる。例えば、種苗と作用させたい肥料、薬剤を一緒に被覆することで、発芽と同時に作物の成長を高めることも可能となるため好ましい。
【0076】
上記観点から、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みは、前述した好ましい範囲内で土壌中や海洋中での拡散、飛散速度に合わせて選択することが好ましく、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みが過剰に薄いと強度が不足して、内容物の保護性が低下する場合や、加工時に破れが発生する場合がある。また、脂肪族ポリエステルフィルムの厚みが過剰に厚いと柔軟性が不足して、後述する好ましい形状への加工が困難となる場合がある。例えば即効性の肥料には生分解後に拡散、飛散が早くなるような厚みが薄いフィルムを選択し、遅効性の肥料には生分解後に拡散、飛散が遅くなるような厚みが厚いフィルムを選択しておき、それらの被覆肥料を一緒に撒くことで、農業従事者の作業を低減することができる。
【0077】
更に、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの特徴を生かして被覆を多層構造とすることができる。具体的には、遅効性の肥料を本発明の脂肪族ポリエステルフィルムで被覆して作製した後、即効性の肥料と本発明の脂肪族ポリエステルフィルムで周りを被覆することで、遅効性の肥料と即効性の肥料を順番に本発明の脂肪族ポリエステルフィルムで被覆した肥料を作製することが可能となる。また、同様の方法で種苗と肥料や飼料、薬剤を順番に被覆することで、生育した農水産物に適切なタイミングで肥料や飼料、薬剤を作用させる効果が期待できる。
【0078】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された農林水産素材は、上記の通り、意図しない漏洩による環境汚染を防止しながら、特に肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される農林水産素材の効果を高めることが可能となり、土壌中や海洋中において適切な時期に拡散、飛散することで、効能の向上効果や作業従事者の作業を低減することができ、農林水産分野において特に好適に用いることができる。
【0079】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された肥料、飼料、種苗、薬剤の形態としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、ペレット状、顆粒状、ブロック状、パウチ状、ロープ状、シート状など、様々な形態で使用することができる。具体的には農業用の被覆された肥料であれば、散布機に対応したブロック状、ペレット状、顆粒状が好ましく、被覆された種苗であれば、作業低減が期待できるロープ状やシート状が好ましい。
【0080】
<製造方法>
以下、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0081】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法の好ましい一態様は、脂肪族ポリエステルを含む樹脂原料を溶融する溶融工程、溶融して口金からシート状に吐出し、支持体上で冷却固化するキャスト工程、得られたシートを直交する二方向に延伸する延伸工程、及び、延伸工程で得られたフィルムに熱処理および弛緩処理を施す熱処理工程を、この順に行うものである。また、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、層構成については特に限定されず、例えばA層/B層の2種2層構成、A層/B層/A層の2種3層構成、A層/B層/C層(ここでC層はA層、B層とは異なる層を意味する。)の3種3層構成等を採用することができる。
【0082】
以下、A層からなる単層構成の脂肪族ポリエステルフィルムを例に挙げて、その製造方法についてより具体的に説明するが、本発明の脂肪族ポリエステルフィルム及びその製造方法は必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0083】
まず、脂肪族ポリエステルを含む樹脂原料を、単軸押出機で溶融させる。押出温度150℃~220℃に設定した単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルタを通過させて異物等を取り除く。続いてこの溶融樹脂をスリット状口金から押出する。このとき、脂肪族ポリエステルの劣化を防ぎフィルムの強度を高める観点から、原料投入ホッパー内の酸素濃度を0.10体積%以下に制御することが好ましい。
【0084】
次に、スリット状口金から押し出された溶融樹脂シートを、表面温度が10℃~40℃に制御されたキャスティングドラム上で冷却固化させ、未延伸シートを得る。溶融シートのキャスティングドラムへの密着方法としては、静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法等のうちいずれの手法を用いてもよく、また複数の方法を組み合わせてもよい。
【0085】
本発明においては、上記の方法により得られた未延伸シートを、長手方向と幅方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸することにより、配向を付与することが好ましい。
【0086】
まず、逐次二軸延伸または同時二軸延伸を行う際は、延伸を行う前に、複数のロール群や連続オーブンに導いて未延伸シートを予熱する。本発明では、延伸前の予熱工程で生成する結晶Bに、一定の範囲の搬送速度差を与えて予備配向を加えた後、延伸することで前述した結晶配向度や結晶子サイズを高い精度で制御することができる。より具体的には、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-100℃)~(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-10℃)の温度に制御したロール群や連続オーブンを通過する前後での搬送速度差を、100.2%以上130%以下とすることが好ましい。
【0087】
脂肪族ポリエステルフィルムの結晶配向度を高める観点や、結晶子サイズが過剰に小さくなることを抑制する観点から、上記の搬送速度差は101.0%以上がより好ましく、105.0%以上がさらに好ましい。また、結晶配向度の過剰な増加を抑える観点や、結晶子サイズの過剰な成長を抑制する観点から、上記の搬送速度差は120%以下がより好ましく、115%以下がさらに好ましい。なお、上記の搬送速度差は、未延伸シートを支持するロール群の回転速度の差や、連続オーブンに導く際にフィルム端部を把持するクリップの移動速度の差によって与えることができる。予熱工程の通過時間は0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。ここで、ロールが複数連続する場合の搬送速度差は、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-100℃)~(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-10℃)の温度に制御したロール群の合計値とする。
【0088】
次いで予熱した未延伸シートを冷却することなく、脂肪族ポリエステルの融点以下の温度で保持したロール群や連続オーブンに導いて、長手方向に一軸延伸、または長手方向と幅方向に同時二軸延伸する。予熱工程で生成し、予備配向した結晶Bに一定の範囲の延伸応力をかけることで、結晶配向度や結晶子サイズを制御することができる。より具体的には長手方向の一軸延伸倍率、または同時二軸延伸における長手方向と幅方向におけるそれぞれの延伸倍率を1.5倍以上6.0倍以下の倍率の範囲となるよう延伸応力をかけることで結晶配向度や結晶子サイズを制御することができる。脂肪族ポリエステルフィルムの結晶子サイズの成長を抑制する観点から当該延伸倍率は2.3倍以上がより好ましく、2.8倍以上がさらに好ましく、3.0倍以上が特に好ましい。また結晶配向度の過剰な低下を抑制する観点から当該延伸倍率は5.0倍以下がより好ましく、4.5倍以下がさらに好ましく、4.0倍以下が特に好ましい。長手方向一軸延伸または同時二軸延伸における延伸区間の通過時間は、0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。
【0089】
上記で長手方向に一軸延伸を行った場合、次いで、得られた延伸フィルムの端部をクリップで把持させた後、脂肪族ポリエステルの融点以下の温度帯に制御した連続オーブンに導いて、幅方向に延伸することが好ましい。一軸延伸工程で生成、配向した結晶Bに、追加で、一定の範囲の変形応力をかけることで、結晶配向度や結晶子サイズを制御することができる。より具体的には、幅方向に1.5倍以上6.0倍以下の倍率の範囲となるよう延伸応力を追加でかけることで結晶配向度や結晶子サイズを制御することができる。脂肪族ポリエステルフィルムの結晶配向度の過剰な向上を抑制する観点から当該延伸倍率は2.3倍以上がより好ましく、2.8倍以上がさらに好ましく、3.0倍以上が特に好ましい。また結晶サイズの過剰な低下を抑制する観点から当該延伸倍率は5.0倍以下がより好ましく、4.5倍以下がさらに好ましく、4.0倍以下が特に好ましい。幅方向の延伸工程における工程通過時間は、予熱区間で1秒以上1000秒以下、延伸区間で0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。
【0090】
また、フィルムの面倍率としては、2.3倍以上36倍以下とすることが好ましい。脂肪族ポリエステルフィルムの結晶配向度、結晶子サイズを好ましい範囲に制御する観点からは、フィルムの面倍率は5.3倍以上がより好ましく、7倍以上がさらに好ましく、9倍以上が特に好ましい。また、同様の観点からフィルムの面倍率は28倍以下がより好ましく、20倍以下がさらに好ましく、16倍以下が特に好ましい。
【0091】
次いで、得られた延伸フィルムの端部をクリップで把持したまま、連続オーブンに導いて、熱処理及び弛緩処理を施すことが好ましい。フィルムの熱処理及び弛緩処理工程において、延伸で得られた結晶構造に一定の温度帯での熱処理を与えることで、熱収縮性を抑制しながら結晶子サイズを制御することができる。より具体的には、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-100℃)~(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-5℃)の温度に制御した連続オーブンを通過する中で、長手方向および/または幅方向に2%以上20%以下の弛緩処理を与えることが好ましい。脂肪族ポリエステルフィルムの結晶子サイズを好ましい範囲に制御する観点からは、熱処理温度及び弛緩処理温度は、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-70℃)以上の温度とすることがより好ましく、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-50℃)以上の温度とすることがさらに好ましい。また同様の観点から、熱処理温度及び弛緩処理温度は(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-10℃)以下の温度とすることがより好ましく、(脂肪族ポリエステルの融点(℃)-20℃)以下の温度とすることがさらに好ましい。熱処理及び弛緩処理工程における工程通過時間は0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。
【0092】
また、脂肪族ポリエステルフィルムの熱収縮率を好ましい範囲に制御する観点では、熱収縮率を測定する処理条件に即した熱処理及び弛緩処理を与えることが好ましく、具体的には熱処理温度及び弛緩処理温度を50℃以上150℃以下の温度で1秒以上行うことが好ましい。熱処理温度及び弛緩処理温度は100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。また、熱処理温度及び弛緩処理温度は145℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましい。熱処理及び弛緩処理工程における工程通過時間はそれぞれ60秒以下が好ましく、45秒以下がより好ましい。熱処理及び弛緩処理工程における工程通過時間は4秒以上がより好ましく、8秒以上がさらに好ましい。
【0093】
熱処理及び弛緩処理に次いで、室温雰囲気にて担持したクリップを解放し、フィルム幅方向両側の端部をスリットして脂肪族ポリエステルフィルムを得ることができる。上記の未延伸シート製膜、延伸、熱処理及び弛緩処理は連続工程で行ってもよいし、バッチ式で単独で行ってもよい。また本発明の目的を損なわない範囲であれば、追加の延伸処理、熱処理、弛緩処理、表面処理、コーティングなどを行ってもよい。
【0094】
本発明はかかる製造方法によって結晶構造や熱収縮率を制御することで、優れた生分解性と強度、柔軟性を有する脂肪族ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0095】
次に本発明の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された肥料や、飼料、種苗、薬剤の製造方法について、例に挙げて、より具体的に説明するが、必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0096】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムによって被覆された肥料の製造方法としては、上記の方法で得られた脂肪族ポリエステルフィルムをペレット形状の窪みに成型した上下の金型に導いた後、吸引して金型にフィルムを密着させる。次いで、下側の金型のフィルム上に被覆したい肥料を展開し、上側の金型を下降させて加熱することで上下のフィルムを接着させる。
【0097】
ここで本発明の脂肪族ポリエステルフィルムで被覆する肥料としては、ペレット状でもよく、顆粒状や、粉状、ペースト状、液状のものも使用することができる。中でもフィルムでの保護のしやすさや金型形状への追従性の観点から肥料の形状は、顆粒状、粉状、ペースト状、液状のいずれかであることが好ましい。
【0098】
さらにこの時、接着性の観点から、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムに前述したヒートシール層を接着層(E層)として設けておくことが好ましく、その場合はフィルム同士が接する面の少なくとも片側にE層が位置するように金型に配置しておくことがより好ましい。次いで、肥料を被覆したフィルムを金型から取り出し、過剰なフィルム同士の圧着部分を裁断し、除去することでペレット状に加工した被覆肥料を得ることができる。ここで裁断方法としては刃物を搭載した裁断機を用いることが好ましく、あらかじめ刃物を配置した型を用いてバッチ方式で枚葉処理する方法や、回転刃を用いて1方向に連続的に裁断してロープ状に加工した後、直交方向に周期的に裁断する方法や上記の金型に刃物を搭載させて熱圧着と裁断を同時に行う方法などが挙げられる。
【0099】
その他の農林水産素材の被覆方法としては、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムのロールを2つ準備しておき、一定周期で農林水産素材を間に挿入しながらラミネートする方法や、農林水産素材をフィルム上に保持した状態で加熱することで熱収縮させて被覆する方法、減圧によりフィルムを収縮させることで被覆する方法が挙げられる。
【0100】
本発明はかかる製造方法によって、優れた生分解性と強度、柔軟性を有する本発明の脂肪族ポリエステルフィルムに被覆された肥料や、飼料、種苗、薬剤を得ることできる。
【0101】
<分解方法>
本発明の脂肪族ポリエステルフィルム、及び、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを含む包装体、農林水産業資材は、コンポスト機材により生分解させることができる。コンポスト機材としては、60℃前後に加熱、あるいは保温して生分解性を高める産業コンポスト、土壌に穴を掘って製作する簡易コンポスト、土壌に一部または全部を埋設するコンポスト容器、コンポストバッグ等の小型コンポスト、ミミズコンポストやハエを用いたズーコンポストなどの生物利用コンポスト等、公知の機材を用いることができる。本発明の脂肪族ポリエステルフィルム、及び、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムを含む包装体、農林水産業資材が機能層を有しない場合、もしくは機能層が生分解性または低毒性の蒸着層である場合、コンポスト機材に投入し、土壌や微生物含有発酵促進材等の分解用資材との混交等の一般的な処理を施すことで分解することができる。また、生分解性を有さない機能層や他の層を併用する場合、機能層を剥離したうえでコンポスト機材に投入してもよいし、環境毒性や人体毒性等の毒性が低い層であれば、生分解性を有さない場合であってもコンポスト機材に投入し、本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの分解後に残留物を回収しても構わない。なお、コンポストの目的については、減容化による廃棄物削減、堆肥化、バイオガスの生成等があるが、本発明の脂肪族ポリエステルフィルム、包装体及び農林水産業資材は、どの目的のコンポスト機材にも適応する。
【実施例0102】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下に示す態様に限定されない。尚、各項目の評価は以下の方法により行った。
【0103】
<フィルム評価、本発明の効果判定方法>
本発明におけるフィルム評価方法、並びに本発明の効果の判定方法は次の通りである。尚、特に指定が無いものに関しては、25±5℃、65±10%RHの温湿度環境下で24時間放置したフィルムを用いて評価するものとする。
【0104】
(1)脂肪族ポリエステル、ポリヒドロキシアルカン酸の含有量
脂肪族ポリエステルフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、1H-NMRおよび13C-NMRを用いて含有量を測定した。尚、積層フィルムの場合は積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価した。なお、実施例及び比較例においては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0105】
(2)脂肪族ポリエステルの融点、フィルムの融点
示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO2 DSCvesta)を用い、JIS K7121-1987、JIS K7122-1987に準拠して測定および、解析を行った。試料を5.0mg秤量し、昇温速度20℃/分で-50℃から200℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。尚、吸熱ピークが複数存在する場合は、最も吸熱量が大きいピークを採用した。
【0106】
(3)フィルムの厚み
フィルムの任意の5箇所の厚みを、接触式のミツトヨ社製高精度デジタル測長機“ライトマチック”(登録商標)VL50Bを用いて測定した。その5箇所の厚みの算術平均値をフィルムの厚み(単位:μm)とした。
【0107】
(4)主配向軸ならびに主配向軸方向と直交する方向の決定
フィルム製造工程における流れ方向(MD)を主配向軸方向、フィルム製造工程における流れ方向とフィルム面内で直交する方向(TD)を主配向軸方向と直交する方向とした。流れ方向が不明なフィルムについては、以下の方法により主配向軸を決定した。まず、任意の方向を長辺として、長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出してサンプル<1>とし、サンプル<1>の長辺の方向を0°とする。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取した。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、サンプル<3>~<12>を採取した。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(エー・アンド・デイ製“テンシロン”(登録商標)万能試験機RTG-1210)に、長辺方向が引っ張り方向となるように初期チャック間距離30mmでセットし、25±5℃、65±10%RHの温湿度雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行った。サンプルが破断した際の荷重を試験前の試料の断面積((3)で求めたフィルム厚み×幅)で除した値を破断強度(単位:MPa)として算出した。また、サンプルが破断した際の歪みを破断伸度(単位:%)として算出する。各サンプルについて同様の測定を5回ずつ行って平均値を採用した。本発明における主配向軸は、当該方法によって得られた破断強度が最大であった測定方向を主配向軸とし、これに直交する方向を主配向軸方向と直交する方向とした。
【0108】
(5)引張評価(S1、S2ならびにL1、L2)
主配向軸方向ならびに主配向軸方向と直交する方向について(4)の引張試験で得られた測定結果から、主配向軸方向における破断強度S1、主配向軸方向における破断伸度L1、主配向軸方向と直交する方向における破断強度S2、主配向軸方向と直交する方向における破断伸度をL2とした。
【0109】
(6)厚み方向の広角X線回析
(6-1)2次元回折像の取得
フィルム試料を主配向軸方向に2cm、主配向軸方向に直交する方向に1cmの大きさに切り出し、合計厚みが100μm以上になる枚数を、主配向軸が同一方向となるように直接重ね、サンプル中心部に、主配向軸に対して垂直方向にX線をサンプル中心部に入射するようにサンプルをホルダーに固定した後、フィルム厚み方向の反射測定を以下の条件で行い、2次元のX線回折像を得た。
装置:Bruker AXS社製 D8 DISCOVER μHR Hybrid
X線源:CuKα線(多層膜ミラー使用)、波長λ=0.15418nm
出力:50kV、22mA
スリット系:(X線源側)1mm2-1mm2-0.1mmΦ(試料側)
検出器:2次元検出器(Vantec500)
スキャン:2θ=20°
仰角:ω=10°
カメラ長:10cm
積算時間:300秒/フレーム。
【0110】
(6-2)配向プロファイル
(6-1)で得られた回折像から、回折角(2θ)が19°以上21°以下の範囲を0.5°刻みに、90°を厚み方向とした円周角で40°から140°にスキャンし、それらを積算して配向プロファイルを得た。
【0111】
(6-3)配向角度、配向度
(6-2)で得られた配向プロファイルの最小値にてベースラインを設け、ガウス分布関数を用いて、最も強度が高くなるピークを分離した。この時のピーク位置を配向角度(°)とした。配向度はピークの半値幅HOから、下記式を用いて求めた。
配向度=(180-HO)/180。
【0112】
(6-4)配向方向における2θプロファイル
(6-3)から求めた配向角度±10°の範囲を0.05°刻みでスキャンし、それらを積算して2θプロファイルを得た。
【0113】
(6-5)結晶子サイズ
(6-4)で得られた2θプロファイルの最小値にてベースラインを設け、ガウス分布関数を用いて、回折角(2θ)が19°以上21°以下の範囲で最も強度が高くなるピークをPBとして分離した。結晶子サイズ(nm)は、分離したピークの半値幅から、Scherrerの式より求めた。尚、Scherrer定数は0.9とし、半値幅の補正値はNIST製のX線回折用標準Si粉末を上記の光学系で測定し、Si回折ピーク(111)から求めた。
【0114】
(6-6)ピーク積分強度比(SA/SB)、ピークの高さ比(IA/IB)
(6-5)と同様の手順で、回折角(2θ)が10°以上15°以下の範囲にある最も強度が高いピークをPAとして分離した。その後、PAの積分強度をSA、ピークの高さをIAと、PBの積分強度をSB、ピークの高さをIBとして、ガウス分布関数を用いて算出し、ピーク積分強度比SA/SB、および、ピーク高さ比IA/IBを求めた。
【0115】
(7)ラマン分光評価
(7-1)偏光ラマンスペクトルの断面評価
フィルム試料をUV硬化性樹脂で包埋して主配向軸方向にミクロトームで断面切削を行ったサンプル、および主配向軸方向に直交する方向にミクロトームで断面切削を行ったサンプルの、合計2種類のサンプルを準備した。各サンプルを断面観察ステージに固定し、以下の条件でフィルム面方向に偏光軸を持つレーザー、およびフィルム厚み方向に偏光軸を持つレーザーを断面に入射することで、2方向の偏光軸におけるラマンスペクトルを測定した。測定は、2種類の断面方向についてそれぞれ行った。
装置:Renishaw社製 InVia
条件:顕微ラマン測定モード
対物レンズ:50倍
ビーム径:2μm
光源:半導体レーザー 532nm
レーザーパワー:300mW
回折格子:Single 3000、-3000gr/mm
検出器:Renishaw社製 CCD 1024×256。
【0116】
(7-2)配向パラメータFm、Ftの算出
(7-1)で得られたラマンスペクトルにおけるC=O伸縮振動由来のピーク(1730cm-1近傍)とC-H変角振動由来のピーク(1450cm-1近傍)の強度比(C=O伸縮振動由来のピーク強度/C-H変角振動由来のピーク強度)から、配向パラメータFm、Ftを下記式を用いて計算した。なお、測定はあらかじめ断面切削サンプルを各方向についてそれぞれ3個作製しておき、それらの測定結果の平均値を採用した。
Fm=(主配向軸方向断面におけるフィルム面方向の強度比)/(同断面における厚み方向の強度比)
Ft=(主配向軸方向に直交する方向断面におけるフィルム面方向の強度比)/(同断面における厚み方向の強度比)
(7-3)ラマン分光評価の表面観察における1710cm-1以上1730cm-1以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピーク(C=O伸縮振動由来のピーク)の半値幅Hr
フィルム試料を表面観察ステージに固定し、偏光を解消した以外は(7-1)と同じ条件にてラマンスペクトルを測定した。
【0117】
得られたラマンスペクトルにおける、1710cm-1以上1730m-1以下の範囲のピークのうち、最も強度の高いピークの半値幅をHr(cm-1)とした。尚、測定はあらかじめサンプルの3か所の位置で測定し、それらの結果の平均値を採用した。
【0118】
(8)突刺試験
JIS Z1707(2019)に準じて、以下の条件でフィルムの突刺強度(Force)と突刺変位(Strain)を測定した。なお、5回の測定を行い、各測定値を測定したフィルムの厚み(μm)で割ったあとに20(μm)を掛けた値を求め、それらの平均値を突刺強度(厚み20μm換算値)として採用した。突刺変位は測定ニードルの先端がフィルムに触れてからフィルムに穴が開く、もしくは破膜するまでのニードル押し込み長さの短い方を選択し、5回の測定値の平均値を突刺変位として採用した。
装置 :KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ。
【0119】
(9)収縮開始温度(T1、T2)
脂肪族ポリエステルフィルムの主配向軸方向、および主配向軸方向と直交する方向それぞれを長辺として幅4mm、長さ50mmの長方形の試料に切り出し、試長10mmとなるよう下記の熱機械分析装置の金属製チャックに挟み込んだ。その後、下記温度条件、荷重条件にて試長を一定保持したフィルムにおける主配向軸方向及び主配向軸方向と直交する方向の熱収縮曲線を求めた。フィルムの主配向軸方向および主配向軸方向と直交する方向についてそれぞれ1%収縮した温度を読み取り、主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)を求めた。
・装置:TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)
・温度:初期温度25℃、最大温度:160℃、昇温レート:10℃/分
・最大温度到達後の保持時間 :10分
・制御モード:Fモード(荷重制御モードで荷重一定)
・荷重:29.4mN(一定)。
【0120】
(10)120℃15分間の加熱処理によって求められる熱収縮率(F1、F2)
主配向軸方向ならびに主配向軸方向と直交する方向についてフィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出し、中央部の100mm間に油性マジックでマークをつけ、その長さを万能投影機にて測長することで初期長I0を求める。次いで測長したサンプルを120℃に調整したギア式熱風オーブンにセットし、2.1gの荷重を吊るしたフィルムの最下部に取付けて、ギアを回転させながら15分間熱処理する。その後フィルムを取出し常温に冷ましてからマーク間の長さを万能投影機にて測長することで熱収長IHを求める。測長したI0とIHから下記式より120℃熱収縮率(単位:%)を算出した。各サンプルの主配向軸方向ならびに主配向軸方向と直交する方向で同様の測定を5回ずつ行い、主配向軸方向の平均値をF1(%)、主配向軸方向と直交する方向の平均値をF2(%)とした。
120℃熱収縮率(%)=(I0-IH)/I0×100
(11)フィルムの生分解性
JIS K6954(2008)に準じて湿潤合成コンポストを1L作製し、10Lのポリプロピレン製容器の中に投入した。次いで、5cm×5cmに切り出した評価用フィルムを、内側に2cm角の正方形の形がくり抜かれたポリエチレン製ホルダーで挟み込み、ホルダー内部のフィルムが外部に露出された状態とした。
【0121】
その後、ポリプロピレン製容器内の湿潤合成コンポストに、ホルダーで固定されたフィルムサンプルを投入、28±2℃に制御したオーブン中で、60日間の培養試験をJIS K6954(2008)に準じた方法で実施した。なお、フィルムサンプルを投入する際には、ホルダー中の2cm角のフィルム露出部分がすべて湿潤合成コンポストに覆われる状態とした。また、最初の投入を行った後、2日置きにフィルムサンプルを取り出し、湿潤合成コンポストをスコップで攪拌した後、再度フィルムサンプルを投入することを繰り返し実施した。
【0122】
最初の投入から60日間経過後に、フィルムサンプルを容器から取り出し、デジタルカメラで写真を撮影した。写真の画像から、ホルダーの内側の2cm角の枠内に残存したサンプルの面積を求め、(ホルダー内のサンプル初期面積-ホルダー内のサンプル残存面積)/(ホルダー内のサンプル初期面積)×100の計算式を用いて崩壊面積比率(%)を求めた。合計3個のホルダーを同一のコンポスト内で評価し、3個の測定値の算術平均値をフィルムサンプルの崩壊面積比率(%)とし、以下の基準で判定を行った。
A:崩壊面積比率が60%以上。
B:崩壊面積比率が40%以上、60%未満。
C:崩壊面積比率が20%以上、40%未満。
D:崩壊面積比率が5%以上、20%未満。
E:崩壊面積比率が5%未満。
フィルムの生分解性はD以上が好ましい。
【0123】
(12)搬送速度・張力を変えた際の破れ発生
300mm幅、200m長(6インチ、350mm長コア巻)のフィルムを準備し、下記条件で、3インチ、350mm長コアに巻返しを行い、搬送速度、張力を増加しながらフィルムの加工性を以下の通り判定した。
S:速度12m/分、搬送張力70N/mで巻き返しても破れが発生しなかった。
A:速度10m/分、搬送張力70N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度12m/分、搬送張力70N/mに変更すると破れが発生した。
B:速度8m/分、搬送張力70N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度10m/分、搬送張力70N/mに変更すると破れが発生した。
C:速度5m/分、搬送張力70N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度8m/分、搬送張力70N/mに変更すると破れが発生した。
D:速度5m/分、搬送張力50N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度5m/分、搬送張力70N/mに変更すると破れが発生した。
E:速度5m/分、搬送張力50N/mで巻き返すと破れが発生した。
フィルムの加工性はD以上が好ましい。
【0124】
(13)Al蒸着後の水蒸気バリア性
フィルム走行装置を具備した真空蒸着装置内にフィルムをセットして、1.00×10-2Paの高減圧状態にした後に、20℃の冷却金属ドラムの上で、アルミニウム金属を加熱蒸発させながらフィルムを走行させて脂肪族ポリエステルフィルムの上に蒸着薄膜層を形成した。その際、蒸着膜の厚みが100nmになるよう制御した。蒸着後、真空蒸着装置内を常圧に戻して、巻取ったフィルムを巻き返し、40℃の温度で2日間エージングして、フィルムにAl(アルミニウム)の蒸着層が積層された積層体を得た。なお、脂肪族ポリエステルフィルムが多層フィルムである場合は後述するB層上に蒸着薄膜層を形成した。
【0125】
次いでMOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率測定装置“PERMATRAN-W”(登録商標)3/30を用いて、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。測定はサンプル毎に5回行い、得られた値の平均値を算出し、該フィルムの水蒸気透過率とした(単位:g/m2/day)。得られた水蒸気透過率より、フィルムのバリア性を以下の通り判定した。
S:15g/m2/day以下。
A:15g/m2/dayより大きく20g/m2/day以下。
B:20g/m2/dayより大きく50g/m2/day以下。
C:50g/m2/dayより大きく75g/m2/day以下。
D:75g/m2/dayより大きく100g/m2/day以下。
E:100g/m2/dayより大きい。
フィルムのバリア性はD以上が好ましい。
【0126】
[脂肪族ポリエステル樹脂]
各実施例及び比較例における脂肪族ポリエステルフィルムの製造には、以下の樹脂等を使用した。
PHA-1:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、結晶核剤:ペンタエリスリトール=1質量%、重量平均分子量Mw:45万、融点:153℃。
PHA-2:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、結晶核剤:ペンタエリスリトール=1質量%、重量平均分子量Mw:48万、融点:146℃。
PHA-3:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、結晶核剤:ペンタエリスリトール=1質量%、重量平均分子量Mw:8万、融点:146℃。
PLA-1:ポリ乳酸、融点155℃。
【0127】
(実施例1)
PHA-1を単軸押出機に供給した。ここで、押出機供給ホッパー内の酸素濃度を0.05体積%に制御し、それぞれの押出機にて温度170℃で溶融押出を行った後、250μmカットのメッシュ状フィルタで押し出された溶融樹脂から異物を除去した。その後、Tダイに導いてシート状に吐出させ、吐出させた溶融シートを30℃に保持されたキャスティングドラム上で冷却固化し未延伸シートを得た。
【0128】
次いで、未延伸シートを30℃に保持したロール群1、130℃に保持したロール群2、152℃に保持したロール群3、30℃に保持したロール群4が連続した縦延伸機に導き、ロール群2からロール群3の搬送速度差を110%、通過時間を90秒とし、ロール群3からロール群4の搬送速度差を330%、通過時間を0.5秒として長手方向に1軸延伸した。
【0129】
次いで、ロール群4を通過したフィルムをテンターに導き、幅方向両端部をクリップで把持したまま100℃に制御したオーブンで予熱し、100℃に制御したオーブンで3.3倍に幅方向に延伸した後、幅方向に5%の弛緩を与えながら110℃で熱処理を行った。この時の通過時間は予熱区間で3秒、延伸区間で3秒、熱処理区間で10秒とした。
【0130】
その後、クリップで幅方向両端部を引き続き緊張把持したまま30℃の冷却工程を経てフィルムをテンターの外側へ導き、幅方向両端部のクリップを解放し、巻取機にて厚み20μmの脂肪族ポリエステルフィルムを得た。
【0131】
得られたフィルム評価結果と脂肪族ポリエステルフィルムの特性は表に示す通り、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折にて厚み方向の配向度が0.50以上のPB(回折角2θが19°以上21°以下の範囲のピークのうち最も強度の高いピーク)が認められ、生分解性と脂肪族フィルムの加工性、バリア性のいずれに優れることが分かった。
【0132】
(実施例2~17、19~23)
表の通り、組成や製造方法を変更した以外は実施例1と同様の手順で厚み20μmの脂肪族ポリエステルフィルムを得た。
【0133】
(実施例18)
表に示す組成の通りとし、A層の原料を単軸溶融押出機Aに、B層の原料を単軸溶融押出機Bに投入し、溶融状態でB/A/B構成のフィードブロックに導いた後、Tダイに導いてシート状に吐出させた以外は実施例1と同様の手順で厚み20μmの脂肪族ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム評価結果と脂肪族ポリエステルフィルムの特性は表に示す通り、実施例17に比べて特性が優れることが分かった。
【0134】
(実施例24、25)
吐出量を調節し、製膜後のフィルム厚みを変更した以外は実施例1と同様の手順で得た。
【0135】
(比較例1、2、5)
表の通り、製造方法を変更した以外は実施例1と同様の手順で厚み20μmの脂肪族ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは加工性かバリア性のいずれかが劣ることが分かった。
【0136】
(比較例3)
実施例1と同様の手順で溶融シートを吐出させた後、氷浴バスに導いて未延伸シートを得た。その後、氷浴中で端部をクリップで把持して長手方向に1.5倍延伸した後、氷浴中で同様の手順によって幅方向に1.5倍延伸した。各方向に延伸を行った後、氷浴から取り出して厚み20μmの脂肪族ポリエステルフィルムを得た。
【0137】
脂肪族ポリエステルフィルムの特性は表に示す通り、樹脂特性から生分解性は良好であるものの、加工性とバリア性が著しく不足することから、フィルムとしての実用に足るものではなかった。
【0138】
(比較例4)
吐出量を調節し、延伸等をしないこと以外は実施例1と同様の手順で得られた厚み20μmの未延伸シートを評価した。フィルム評価結果から、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回析において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲にピークが認められなかった。
【0139】
脂肪族ポリエステルフィルムの特性は表に示す通り、樹脂特性から生分解性は良好であるものの、加工性が著しく不足することから、フィルムとしての実用に足るものではなかった。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
本発明により、優れた生分解性を有しながら例えば包装用途に用いる際、加工性やバリア性も良好な脂肪族ポリエステルフィルムを提供することができる。本発明の脂肪族ポリエステルフィルムは、上記特性を具備するため、生分解性を必要とし加工性や加工後の特性変化を抑えることが要求される包装用途や農林水産用途に好適に用いることができる。