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特開2024-127802ポリヒドロキシアルカン酸フィルム、包装体、農林水産業資材、生分解方法、農林水産素材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127802
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸フィルム、包装体、農林水産業資材、生分解方法、農林水産素材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240912BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240912BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B65D65/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027178
(22)【出願日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2023036330
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036331
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036332
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036333
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023036334
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光隆
(72)【発明者】
【氏名】巽 規行
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渉
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086AD05
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB51
3E086BB85
3E086CA01
4F071AA43
4F071AA84
4F071AC05
4F071AC09
4F071AE22
4F071AF06Y
4F071AF14Y
4F071AF21Y
4F071AF36Y
4F071AF43Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH01
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC02
4F071BC12
4F100AB10B
4F100AK41A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100GB01
4F100GB04
4F100GB15
4F100JA03A
4F100JA04A
4F100JA11A
4F100JC00
4F100JD04B
4F100JG04A
4F100JK01A
4F100JK07
4F100JK08
(57)【要約】
【課題】生分解性に加えてフィルムの欠点数が少ない品位に優れたポリヒドロキシアルカン酸フィルム、およびそれを用いた包装体、農林水産業資材を提供する。
【解決手段】180℃における溶融比抵抗が3MΩ・cm以上400MΩ・cm以下であり、フィルムの融点より30℃高い温度で30分間保持した際の重量保持率が97%以上であるポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃における溶融比抵抗が3MΩ・cm以上400MΩ・cm以下であり、フィルムの融点より30℃高い温度で30分間保持した際の重量保持率が97%以上であるポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項2】
フィルムの融点が165℃以下である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項3】
主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2が式(i)、および式(ii)を満たす、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
25MPa≦S1≦280MPa・・・式(i)
25MPa≦S2≦280MPa・・・式(ii)
【請求項4】
以下の測定装置および測定条件で求めた、突刺強度(厚み20μm換算値)が60gf以上である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
【請求項5】
熱機械分析装置(TMA)で求められる熱収縮曲線において、フィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)がいずれも40℃以上150℃以下である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項6】
120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率をH1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率をH2(%)がいずれも0%以上20%以下である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項7】
主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上400%以下である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項8】
CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲の配向度0.50以上のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PBの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上80nm以下である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項9】
少なくとも片面にさらに機能層を有する、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項10】
包装用途に用いられる、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項11】
農林水産業用途に用いられる、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項12】
請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む包装体。
【請求項13】
請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む農林水産業資材。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムをコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項15】
請求項12に記載の包装体をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項16】
請求項13に記載の農林水産業資材をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
【請求項17】
農林水産素材の被覆に用いられるフィルムであって、前記農林水産素材が肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む、請求項1~11のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
【請求項18】
請求項1~11のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆されたことを特徴とする農林水産素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸フィルム、包装体、農林水産業資材、生分解方法、農林水産素材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の抑制の観点から、世界各国でカーボンニュートラルの目標達成に向けた様々な取り組みが進められている。中でもプラスチック製品は、製造や廃棄時に多くのCOを排出することから使用量、廃棄量の削減が求められている。包装用プラスチックは各種プラスチック製品の中でも特に使用量が多く、さらにその多くが使い捨てとなることから、フィルムをはじめとした包装用プラスチックの使用量、廃棄量の削減や、リサイクル、植物由来材料への置き換えが求められている。
【0003】
また、近年では、海洋に流入するプラスチックの環境汚染問題も注目されている。例えば、魚類、海鳥、海洋哺乳動物が海洋に漂流したプラスチック製品を誤って摂取し死亡する被害や、波や紫外線で微細化されたマイクロプラスチックが海洋中の食物連鎖で生体濃縮され、魚類などを摂食する人体への影響が指摘されている。これらの課題は、適切な方法で廃棄されなかった包装用プラスチックならびに農業用途で使用されるプラスチック資材が、河川を経由して海洋に流入することや、漁業、養殖業で用いられた後に投棄されたプラスチック資材が海を漂流したりすることによって引き起こされる。そのため、包装用プラスチックや農林水産業資材用プラスチックが適切に廃棄されなかった場合に備え、生分解性機能を付与したプラスチックへの置き換えも求められている。
【0004】
かかる背景のなか、室温でのコンポスト化適性や海洋生分解性を有するプラスチックとして、ポリヒドロキシアルカン酸が注目されており、包装用フィルムなどを想定した検討が進められている。例えば、特許文献1では、ポリヒドロキシアルカン酸の一種であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)の溶融押出シートを製造工程における流れ方向(MD方向)、および流れ方向と直交する方向(TD方向)に1.1倍以上に引き延ばす技術の提案がされている。
【0005】
一方、プラスチックフィルムの品位向上のために溶融比抵抗を特定の範囲とする検討も行われており、特許文献2ではポリ乳酸を主体とするポリエステルフィルム、特許文献3ではポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルフィルムについて、溶融比抵抗を適切な範囲に調整する提案が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-62759号公報
【特許文献2】特開2005-139280号公報
【特許文献3】特開2011-26484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、ポリヒドロキシアルカン酸からなる溶融押出シートの二軸延伸に関する製造方法の技術が開示されているものの、特に溶融押出シートの品位の向上には検討の余地があった。また、特許文献2および特許文献3には、ポリ乳酸やポリエチレンテレフタレートからなるポリエステルフィルムの溶融比抵抗の設計技術が開示されているものの、ポリヒドロキシアルカン酸のような熱分解しやすい材料に適用しては欠点が生じやすい課題があった。
【0008】
本発明は、生分解性に加えてフィルムの欠点数が少ない品位の優れたポリヒドロキシアルカン酸フィルム、およびそれを用いた包装体、農林水産業資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の好ましい一態様は、以下の構成を有する。
(1)180℃における溶融比抵抗が3MΩ・cm以上400MΩ・cm以下であり、フィルムの融点より30℃高い温度で30分間保持した際の重量保持率が97%以上であるポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(2)フィルムの融点が165℃以下である、(1)に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(3)主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2が式(i)、および式(ii)を満たす、(1)または(2)に記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
25MPa≦S1≦280MPa・・・式(i)
25MPa≦S2≦280MPa・・・式(ii)
(4)以下の測定装置および測定条件で求めた、突刺強度(厚み20μm換算値)が60gf以上である、(1)~(3)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
測定装置: KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
(5)熱機械分析装置(TMA)で求められる熱収縮曲線において、フィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)がいずれも40℃以上150℃以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(6)120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率をH1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率をH2(%)がいずれも0%以上20%以下である、(1)~(5)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(7)主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上400%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(8)CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲の配向度0.50以上のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PBの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上80nm以下である、(1)~(7)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(9)少なくとも片面にさらに機能層を有する、(1)~(8)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(10)包装用途に用いられる、(1)~(9)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(11)農林水産業用途に用いられる、(1)~(9)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(12)(1)~(9)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む包装体。
(13)(1)~(9)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む農林水産業資材。
(14)(1)~(11)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムをコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(15)(12)に記載の包装体をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(16)(13)に記載の農林水産業資材をコンポスト機材で分解する、生分解方法。
(17)農林水産素材の被覆に用いられるフィルムであって、前記農林水産素材が肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む、(1)~(11)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルム。
(18)(1)~(11)のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆されたことを特徴とする農林水産素材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、生分解性に加えてフィルムの欠点数が少ない。これにより包装体や農林水産業資材として用いた際に、製造コストの抑制や製品の品位を良好とする効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて詳細に説明する。本明細書において、好ましい範囲として上限と下限が別々に記載されている場合、その組み合わせは任意とすることができる。本明細書において、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムを単にフィルムと称する場合がある。本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて、厚み方向とは、フィルム面に垂直な方向を指し、ZDと称する場合がある。本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて、長手方向とは、フィルム製造工程における流れ方向に対応する方向を指し、MDと称する場合がある。本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて、幅方向とは、前記のフィルム製造工程における流れ方向とフィルム面内で直交する方向を指し、TDと称する場合がある。フィルムサンプルがリール、ロール等の形状の場合は、フィルムの巻き取り方向が長手方向といえる。
【0012】
延伸方向(長手方向と幅方向)が不明である場合は、後述する引張試験で破断する破断強度を測定し、測定値の最も大きい方向を主配向軸方向とする。具体的には以下の方法により主配向軸方向を特定する。フィルムを準備し、任意の方向を上に向けて、長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出してサンプル<1>とし、サンプル<1>の長辺の方向を0°と定義する。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取する。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取する。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(例えば、エー・アンド・デイ製“テンシロン万能試験機”RTG-1210)に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離30mmでセットし、25±5℃、65±10%RHの温湿度の雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行う。このときサンプルが破断するまでの最大荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×幅)で除した値を破断強度として算出し、破断強度が最大であったサンプルの長辺方向をポリヒドロキシアルカン酸フィルムの主配向軸方向とする。またこれにフィルム面内で直交する方向をポリヒドロキシアルカン酸フィルムの主配向軸方向と直交する方向とする。
【0013】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、室温でのコンポスト化適性や海洋での生分解性を良好とする観点から、フィルムの全質量を100質量%とした際に、50質量%を超えて100質量%以下のポリヒドロキシアルカン酸樹脂を含有することが好ましい。ここで、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂とは、ヒドロキシアルカン酸を構成成分として含むポリマーであり、例えば、[-CHR-CH-CO-O-]の一般式で示される3-ヒドロキアルカノエート繰り返し単位(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1~15の整数である。)を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HAとも称する)などが挙げられる。なお、ポリヒドロキシアルカン酸の主鎖における、エステル結合間の炭素数は2以上であることが好ましく、2であることがより好ましい。ヒドロキシアルカン酸樹脂を構成するヒドロキシアルカン酸は、1種類のみの単独重合体であってもよいし、2種類以上の共重合体構成でもよい。また、本発明におけるポリヒドロキシアルカン酸樹脂は、複数のヒドロキシアルカン酸樹脂の混合物の構成でも構わない。
【0014】
P3HAは、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシバレレート)(P3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-3-ヒドロキシバレレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-3-ヒドロキシバレレート-cо-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-cо-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HBP3HD)等が挙げられる。
【0015】
P3HAとしては、化学合成されるもの(例えば、対応するラクトンの開環重合により得られるもの)、微生物により産生されるもののいずれでもよいが、植物油等のバイオマス原料を用いて製造しやすい観点からは、微生物により産生されるP3HAが好ましい。微生物から産生されるP3HAの中でも、工業的に生産しやすい観点からは、P3HB、P3HV、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB3HV3HH、P3HB4HBが好ましく用いられる。
【0016】
P3HAをはじめとするポリヒドロキシアルカン酸樹脂は、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点や結晶性を調整することが可能である。ポリヒドロキシアルカン酸樹脂は熱分解しやすいことが一般的に知られているが、2種類以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体構成として融点を低く設計することで、溶融押出加工が可能な温度域と熱分解温度域とに十分な温度差を設けることが可能となる。
【0017】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムに用いるポリヒドロキシアルカン酸樹脂について、重量平均分子量Mwは二軸延伸後のフィルムの突刺強度や破断強度と製膜安定性を両立する観点から、1.0×10~2.0×10が好ましく、3.0×10~1.5×10がより好ましい。
【0018】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて、重量平均分子量Mwは二軸延伸後のフィルムの強度と加工適性、包装体や農林水産業資材として用いる際の安定性を両立する観点から、5.0×10~2.0×10が好ましく、1.0×10~1.5×10がより好ましい。上記範囲とすることで、製膜時の端材をリサイクル原料として用いる場合や、フィルムを回収してリサイクルする場合の製膜安定性も良好とすることができる。
【0019】
なお、重量平均分子量Mwは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0020】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、180℃における溶融比抵抗が3MΩ・cm以上400MΩ・cm以下であることが好ましい。ここで、溶融比抵抗とは、溶融ポリマー中に2本の銅製電極を平行に挿入し、電極間に直流電圧を加えた際に流れる電流の最大値から求められる値であり、式(iii)より算出される。
溶融比抵抗(MΩ・cm)=(V×S)/(I×D)/10・・・式(iii)
なお、式(iii)において、V(V)は直流電圧、S(cm)は電極面積、I(A)は電極間に直流電圧を加えた際に流れる電流の最大値、D(cm)は2本の電極間の間隙を指す。なお、D=1(cm)、Vは5000(V)とし、測定条件は実施例に記載の方法とする。
【0021】
ポリヒドロキシアルカン酸樹脂は、樹脂の組成によらず、おおよそ180℃を超えると熱分解が加速し、熱分解によるガス発生や過度な流動性の向上が起こることが知られている。そのため、熱分解が過度に進行しない180℃での樹脂特性が重要な指標となる。なお、溶融比抵抗の値は樹脂組成、特に金属成分の寄与が大きいため、フィルムの溶融比抵抗値を本発明の範囲とすることは、フィルムが含有する樹脂の溶融比抵抗値が同様の範囲であることを意味し、これにより、フィルムの品位を良好なものとすることができる。また、上記範囲とすることで、製膜時の端材をリサイクル原料として用いる場合や、フィルムを回収してリサイクルする場合のフィルムの品位も良好とすることができる。
【0022】
ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの180℃における溶融比抵抗が400MΩ・cmを超えると、溶融樹脂シートが帯電しにくくなることから、フィルムを製造する際に、溶融樹脂シートを静電印加法で冷却ドラムに密着させることが困難になる。フィルムの製造においては、冷却ドラムの回転を高速にするほど生産速度が向上するため製造コスト面で有利となるが、フィルムの溶融比抵抗が400MΩ・cmを超えると、溶融樹脂シートの冷却ドラムへの密着性が低下し、空気の噛みこみによる欠点や厚み斑の要因となるほか、延伸工程などの後工程での製膜性の低下や外観品位の低下の要因となる場合がある。また、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの溶融比抵抗が3MΩ・cm未満であると、溶融樹脂シートが過度に帯電しやすくなることから、静電印加法で電圧を印加した際に、電荷がシート内に留まらず冷却ドラムに流れてしまう異常放電が生じる場合がある。そのため、溶融樹脂シートと冷却ドラムとの間に空気が噛みこむことによる欠点や厚み斑の要因となりフィルム欠点が生じるほか、後工程での製膜性の低下や外観品位の低下や後述する蒸着層などの機能層を設けたフィルムとしたときの機能層にピンホール等の欠陥を発生してバリア性低下の要因となる場合がある。
【0023】
フィルムの品位を良好とする観点から、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの溶融比抵抗は、5MΩ・cm以上200MΩ・cm以下がより好ましく、6MΩ・cm以上150MΩ・cm以下がさらに好ましく、7MΩ・cm以上100MΩ・cm以下が特に好ましい。
【0024】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、フィルムの品位を良好とする観点から、フィルムの融点より30℃高い温度で30分保持した際の重量保持率が97%以上であることが好ましい。ここで、重量保持率とは、熱重量分析(TGA)において、窒素雰囲気下で所望の温度まで昇温後、一定温度、一定時間保持前後の重量から算出した重量保持率を指し、実施例に記載の方法で求めたものである。フィルムの融点より30℃高い温度で30分保持した際の重量保持率が97%以上であることは、フィルムが含有する樹脂の融点より30℃高い温度で30分保持した際の重量保持率が97%以上であることを意味する。重量保持率は樹脂の熱分解性の指標であり、所定の温度におけるフィルムの重量保持率が高い場合、当該温度におけるフィルムを構成する樹脂の熱分解性が低いと解釈することができる。フィルムの製造において、樹脂の溶融押出は融点以上の温度で樹脂を溶融して行うが、安定的な押出のため、溶融押出工程の設定温度を樹脂の融点より30℃程度高い温度に設定することが一般的に行われる。また、押出機から口金までの輸送、滞留時間は、装置構成によって異なるものの、部分的な滞留も考慮すると、30分程度の長時間となる場合も想定される。そのため、フィルムの融点より30℃高い温度で30分保持した際の重量保持率が97%以上であれば、樹脂の溶融押出工程における熱分解を抑制することができ、樹脂の熱分解による揮発ガスに起因する溶融押出時の気泡の発生による製膜安定性の低下や、溶融樹脂シートに生じる表面欠点を低減することができ、フィルムの品位を良好とすることができる。
【0025】
ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの品位をより良好とする観点からは、フィルムの融点より30℃高い温度で30分保持した際の重量保持率は97.1%以上が好ましく、97.5%以上がより好ましく、98.0%以上がさらに好ましく、99.0%以上が特に好ましい。
【0026】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムにおいて、180℃における溶融比抵抗、ならびに融点より30℃高い温度で30分間保持した際の重量保持率をそれぞれ単独で本願範囲内に設計すること自体は特段の困難を伴わない。例えば、溶融比抵抗を本願範囲まで低く調整するには金属などの導電成分を一定量含有させる方法が挙げられる。また、重量保持率を本願範囲まで高く調整するには金属などの熱分解を促進する成分を一定範囲まで低減させる方法が挙げられる。ただし、溶融比抵抗と重量保持率は金属量に対してトレードオフの関係となることから、特に熱分解しやすいポリヒドロキシアルカン酸フィルムにおいて、溶融比抵抗と重量保持率を本願範囲内で両立させることは、通常取りうる手法のみに拠ることでは困難であった。本発明では、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムにおいて、180℃における溶融比抵抗、ならびに融点より30℃高い温度で30分間保持した際の重量保持率の両方を本願範囲に調整して両立する方法として、例えば、低融点かつ高流動性で、特定の金属成分を多量に含有したマスターチップを作製し、低融点かつ低流動性のポリヒドロキシアルカン酸樹脂ペレットとともに押出機に投入し、金属成分の量(金属元素量)が質量基準で150ppm超過1000ppm未満、より好ましくは200ppm以上800ppm以下の樹脂を185℃未満の温度で押出する方法、前記マスターチップ等を含有する層をフィルムの両表層に配置し、フィルムの両表層のみ金属成分を特定量とする方法、前記マスターチップ等を押出機のサイドフィーダーから投入することでフィルムの主成分を構成するポリヒドロキシアルカン酸樹脂と金属成分間の反応時間を短縮する方法などの手法を採用することで、従来困難であった溶融比抵抗と重量保持率を本願範囲内で両立させうることを見出した。
【0027】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、フィルム製造時の熱分解を抑制する観点から、融点が165℃以下であることが好ましい。ここで、フィルムの融点とは、示差走査熱量測定(DSC)から求めた-50℃から200℃まで20℃/分で昇温した際の昇温DSC曲線において、最大ピーク温度を指し、その具体的な測定条件は実施例に記載の条件とする。熱分解の抑制効果を高める観点からは、フィルムの融点は160℃以下がより好ましく、155℃以下が特に好ましい。一方で、耐熱性を良好とする観点からは、フィルムの融点は140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましい。
【0028】
ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの融点を165℃以下にする方法としては、フィルムの製造に用いるポリヒドロキシアルカン酸樹脂の共重合成分や共重合比率を調整して低融点化する方法、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂以外の低融点樹脂を特定量含有させる方法などが挙げられる。
【0029】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、印刷や蒸着などの機能層を形成する加工工程での変形や破れの抑制、ならびに機能層積層後のフィルムが撓んだ際の機能層へのクラック発生による各種機能低減を抑制する観点から、主配向軸方向の破断強度をS1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度をS2(MPa)とした際に、S1、S2の少なくとも一方が式(iv)、式(v)を満たすことが好ましく、いずれもが式(iv)、式(v)を満たすことがより好ましい。
25MPa≦S1≦280MPa・・・式(iv)
25MPa≦S2≦280MPa・・・式(v)
S1、S2は、それぞれ、より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは35MPa以上、特に好ましくは40MPa以上である。また、S1、S2はそれぞれ、より好ましくは250MPa以下、さらに好ましくは240MPa以下、特に好ましくは220MPaMPa以下である。なお、破断強度は実施例に記載の方法にて測定するものとする。
【0030】
破断強度を式(iv)、および式(v)の範囲にする方法としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂の結晶化速度を早める結晶核剤を含有させた組成とし、かつフィルム製造時に冷却ドラムの回転速度に対するMD延伸工程までのフィルム搬送速度の比率を特定の範囲に調整し、さらに面積倍率4倍以上に二軸延伸を行う方法が挙げられる。
【0031】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、フィルム欠点が少なく、後述する蒸着層などの機能層を設けたフィルムとしたときの機能層のピンホール等の欠陥を抑制してバリア性に優れ、包装体として用いた際の内容物保存性や、農林水産業資材として用いた際の各種保護性を良好とする観点から、突刺強度(厚み20μm換算値)が60gf以上であることが好ましい。包装体や農林水産業資材として用いた際の特性をより良好とする観点からは、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの突刺強度(厚み20μm換算値)は80gf以上がより好ましく、150gf以上がさらに好ましく、特に好ましくは250gf以上である。突刺強度は高いほど好ましいが、包装体や農林水産業資材として最終的に加工する際のトリミング性の観点からは、1500gf以下が好ましく、1000gf以下がより好ましく、800gf以下が特に好ましい。なお、突刺強度(厚み20μm換算値)は実施例に記載の方法にて測定するものとする。
【0032】
突刺強度を60gf以上の範囲とする方法としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂の結晶化速度を早める結晶核剤を含有させた構成とし、かつフィルム製造時に冷却ドラムの回転速度に対するMD延伸工程までのフィルム搬送速度の比率を特定の範囲に調整し、さらに面積倍率4倍以上に二軸延伸し、二軸延伸後の熱処理、弛緩処理の条件調整を行う方法が挙げられる。
【0033】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、熱機械分析装置(TMA)で求められる熱収縮曲線において、フィルムの主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)の少なくとも一方が40℃以上150℃以下であることが好ましく、いずれもが40℃以上150℃以下であることがより好ましい。T1、T2の少なくとも一方を40℃以上150℃以下とすることで、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの寸法安定性が良好となり、印刷や蒸着などの機能層を形成する際のフィルムの加熱を伴う加工工程において、膨張が起こらず適度な張りを生じさせうることから、機能層のピンホールや塗布斑などの欠陥を抑制し、機能層の特性を向上させることができる。機能層の特性をより良好とする観点からは、T1、T2はいずれも45℃以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは50℃以上、殊更に好ましくは55℃以上である。一方で、フィルム製造時の製膜性を安定化させる観点やフィルム加工性を良好なものとする観点からは、T1、T2はいずれも145℃以下であることがさらに好ましく、140℃以下が特に好ましく、135℃以下が殊更に好ましく、115℃以下が最も好ましい。なお、各収縮開始温度は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0034】
T1、T2を40℃以上150℃以下の範囲とする方法としては、例えば、テンター延伸後の熱処理、弛緩条件を調整する方法が挙げられる。
【0035】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率H1(%)、主配向軸方向と直交する方向の熱収縮率H2(%)がいずれも0%以上20%以下であることが、フィルムの寸法安定性が主配向軸方向ならびに主配向軸と直交する方向の両方で十分に高いものとなり、高速加工時のシワや弛みを抑制できる観点から好ましい。上記観点から、H1、H2はいずれも15%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。またH1、H2の下限は特に限定されるものでは無いが、熱膨張によって高速加工時のシワや弛みを防止する観点からH1、H2はいずれも0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましい。本明細書において、熱収縮率は、所定方向のフィルムを120℃で15分間熱処理した前後のフィルム長さの変化率(%)として求めるものであり、具体的には実施例に記載の方法で測定するものとする。上記のような範囲にH1、H2を制御する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、後述するように特定の樹脂成分を含むポリヒドロキシアルカン酸樹脂を用いる方法や、製膜時の延伸倍率を調整する方法、延伸後の熱処理、弛緩処理の条件を調整する方法が挙げられる。
【0036】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、印刷や蒸着などの機能層の加工工程での変形や破れの抑制の観点から、主配向軸方向の破断伸度をL1(%)、主配向軸方向と直交する方向の破断伸度をL2(%)とした際に、L1、L2がいずれも10%以上400%以下であることが好ましい。加工工程での変形、破れをより起こりにくくする観点から、L1、L2はいずれも、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上であり、100%以上であると特に好ましい。また、破断強度や突刺強度とのバランスの観点から、L1、L2はいずれも、より好ましくは350%以下、さらに好ましくは340%以下であり、330%以下であると特に好ましい。なお、破断伸度は実施例に記載の方法にて測定するものとする。
【0037】
L1、L2を10%以上400%以下とする方法としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂の結晶化速度を早める結晶核剤を含有させた組成とし、かつフィルム製造時に冷却ドラムの回転速度に対するMD延伸工程までのフィルム搬送速度の比率を特定の範囲に調整し、さらに面積倍率4倍以上に二軸延伸を行う方法が挙げられる。
【0038】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、破断強度や突刺強度と生分解性を両立させる観点から、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折において、回折角2θが19°以上21°以下の範囲の配向度0.50以上のピークのうち最も強度の高いピークをPBとした際に、PBの半値幅から求めた結晶子サイズが5nm以上80nm以下であることが好ましい。生分解性を良好とする観点からは、結晶子サイズの下限は7nmがより好ましく、さらに好ましくは9nm、特に好ましくは15nmである。また、破断強度や突刺強度を良好とする観点からは、結晶子サイズの上限は、より好ましくは70nm、さらに好ましくは60nm、特に好ましくは40nmである。なお、CuKα線を用いた厚み方向の広角X線回折による測定は実施例に記載の方法で行うものとする。
【0039】
PBの半値幅から求めた結晶子サイズを5nm以上80nm以下とする方法は、例えば、MD延伸倍率を1.5~6.0倍、TD延伸倍率を1.5~6.0倍、または面積倍率を2~36倍とすることにより、延伸前の予熱区間で生成した結晶子サイズを物理的な延伸応力によって好ましい範囲に制御することができる。また二軸延伸後にポリヒドロキシアルカン酸樹脂の融点より10℃以上100℃以下低い温度で熱処理することにより、結晶の成長を制御することができる。
【0040】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色剤、着色防止剤を含有してもよい。
【0041】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、包装用途、離型用途、各種製造工程での使用の他、衛生用品、農林水産用品、建築用品、医療用品など様々な用途に広く使用できる。特に包装体や農林水産業資材の構成体として使用する際に、印刷や蒸着などの機能層を形成する際に機能層の品位、特性を良好にできることから、包装体や農林水産業資材用途として好適に用いることができる。
【0042】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、包装体として用いた際の内容物保存性や、農林水産業業資材として用いた際の各種保護性を良好とする観点から、フィルムの厚みは6μm以上200μm以下であることが好ましい。加工時の取扱性の観点からは、フィルムの厚みは8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、包装体や農林水産業資材等の最終製品としての取扱性の観点からは、フィルム厚みは100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、各種用途の要求を満たすために、フィルムの少なくとも片面に機能層を有することが好ましく、以下、機能層を有するポリヒドロキシアルカン酸フィルムについて説明する。なお、機能層を設けた本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを単に「積層体」と称することがある。ポリヒドロキシアルカン酸フィルムに形成しうる機能層としては、ガスバリア層、粘着層、ヒートシール層、易接着層、着色層、印刷層、易剥離層、離型層、易滑層、多孔質層、不織布等を挙げることができる。機能層の形成方法は、機能層に応じて選択すればよいが、例えば、蒸着、スパッタリング、コーティング、グラビア印刷やオフセット印刷等の各種印刷法、熱接着、接着層を介しての積層等により形成することができる。例えば、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを包装用途に用いる場合、ガスバリア性を付与するコーティング層や蒸着層、ヒートシール層が機能層として好ましく選択される。例えば、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを肥料、飼料、種苗、薬剤などの農林水産素材の被覆に用いる場合、圧着性を付与する粘着層や熱圧着性を付与するヒートシール層などが接着性を付与する機能層として好ましく選択される。例えば、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを肥料、飼料、種苗、薬剤などの農林水産素材の被覆に用いる場合、圧着性を付与する粘着層や熱圧着性を付与するヒートシール層などが接着性を付与する機能層として好ましく選択される。なお、本発明の効果を損なわない観点からは、機能層は生分解性を有するか、毒性の低いものとすることが好ましい。
【0044】
本発明の機能層に用いうるガスバリア層としては、高いバリア性能を発揮できる観点から蒸着層であることが好ましい。蒸着層としては、金属と無機化合物を合計で50質量%を超えて100質量%以下含む層が好ましく用いられる。ここで、金属と無機化合物を合計で50質量%を超えて100質量%以下含む層とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、金属のみを50質量%より多く含む層、無機化合物のみを50質量%より多く含む層、金属と無機化合物をいずれも含み、それらの合計が50質量%を超える層のいずれの構成でも構わない。蒸着層の金属及び/又は無機化合物としては、フィルムとの密着性向上、フィルムに積層した際のガスバリア性向上、及び環境負荷低減の観点から、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、あるいはこれらの混合物のいずれかが好適に用いられる。また、内容物の視認性の観点からは、無機化合物、特に酸化アルミニウム、酸化珪素またはこれらを含む混合物を用いることがより好ましい。積層体における蒸着層の厚みは、積層体を樹脂あるいはフィルムとして再利用する際のリサイクル性や、使用時の亀裂によるガスバリア性の低下の抑制する観点、包装材としたときの内容物の視認性を得る観点から積層体におけるD層の厚みは、200nm以下が好ましく、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。また、下限は特に限定されないが、バリア性発現の観点から積層体におけるD層の厚みは1nm以上が好ましい。
【0045】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムに蒸着層を形成して積層体とする方法としては、真空蒸着法、EB(電子線)蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着法、プラズマCVD等の各種化学蒸着法を用いることができるが、生産性の観点からは真空蒸着法が特に好ましく用いられる。
【0046】
また、本発明の発明形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムと機能層の積層体において、蒸着層とポリヒドロキシアルカン酸フィルム表面の間には、コーティング等により樹脂層を設けてもかまわない。かかる樹脂層を設けることで、蒸着層とポリヒドロキシアルカン酸フィルムの密着性を向上させる効果を得られる場合がある。ただし、製造コストの観点からは、該樹脂層を有さない態様、すなわち、蒸着層がポリヒドロキシアルカン酸フィルムの最表面上に直接積層される態様が好ましい。
【0047】
また、本発明の積層体において、ガスバリア性の向上、蒸着層の蒸着欠陥や使用時の亀裂等の破損によるガスバリア性の低下を抑制する観点から、蒸着層のポリヒドロキシアルカン酸フィルムと相対する面にオーバーコート層を設けてもかまわない。
【0048】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムに、機能層として粘着層やヒートシール層などの接着性を付与する層(E層)を積層する場合、それらはフィルムの少なくとも片面に積層することが好ましい。E層に用いうる樹脂成分としては、高いヒートシール強度を有する観点から、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体等、あるいはこれらの混合物のいずれかが好適に用いられる。複数のフィルムを積層する場合は最終製品の厚みを抑える観点から、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系ホットメルト接着剤、オレフィン系ホットメルト接着剤、ゴム系ホットメルト接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、ポリアミド系ホットメルト接着剤、ポリウレタン系ホットメルト接着剤等、あるいはこれらの混合物のいずれかがり好適に用いられ、積層体全体の生分解性を高める観点から、例えば、前記に例示したポリヒドロキシアルカン酸の共重合成分を調整した樹脂成分や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート等の、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムよりも軟化点または融点が低い生分解性樹脂等、あるいはこれらの混合物のいずれかが好適に用いられる。
【0049】
積層体におけるE層の厚みは、高い接着強度を発現させる観点から0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましい。また積層体の生分解性の低下を抑える観点や、複数のフィルムを積層する場合に最終製品の厚みを抑える観点から積層体におけるE層の厚みは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0050】
また、積層体において、E層とポリヒドロキシアルカン酸フィルム表面の間には、コーティング等により厚み1μm以下の樹脂層を設けてもかまわない。かかる樹脂層を設けることで、E層とポリヒドロキシアルカン酸フィルムの密着性を向上させるなどの効果を得られる場合がある。但し、製造コストの観点からは、該樹脂層を有さない態様(すなわち、E層が、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの最表面上に直接積層される態様)が好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの表面上にE層を有する態様がより好ましい。
【0051】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムにE層を形成して積層体とする方法としては、コーティングやラミネートが特に好ましい。コーティング方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることができ、ラミネート方法としてはドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出ラミネート法、共押出法等を用いることができるが、生産性の観点からはグラビアコーティング法、ダイコーティング法、押出ラミネート法、共押出法がさらに好ましく用いられる。
【0052】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、生分解性、品位、各種加工性に優れることから包装用途に好ましく用いられる。本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む包装体は、食品等をはじめとした各種内容物を保護することが可能であるが、その態様は特に制限されない。例えば、ヒートシールにより本発明のフィルムまたは積層体を袋状に加工し、その中に内容物を入れること態様や、トレー状の容器に内容物を充填もしくは盛りつけたのち、本発明のフィルム又は積層体を用いて封止した態様などが挙げられる。
【0053】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、海洋を含む様々な環境での生分解性が良好であり、かつ、品位、各種加工性に優れることから、農林水産業資材として好ましく用いられる。例えば、土壌用マルチフィルム、植生フィルム、燻蒸フィルム、保水用フィルム、肥料被覆材、飼料被覆材、種苗被覆材、薬剤被覆材、養殖サポートフィルム、海洋生物付着抑制フィルム、環境保全資材など、使用後は生分解する機能が好まれる資材に好適に用いられる。
【0054】
<農林水産素材の被覆フィルム>
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される1種以上を含む農林水産素材の被覆に用いることで、被覆した農林水産素材を保護して劣化による品質低下や漏洩による環境汚染を防止しながら、土壌中や海洋中で生分解することで、肥料、飼料、薬剤を適切な時期に拡散、飛散させることや、種苗の定着、定床までの期間を保護した後、生分解することでそれらの成長の妨げになることを防ぐことができる。ここでの農林水産素材とは農林水産資材に内包される素材、成分を示し、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、公知のもの広く使用することができる。前述した通り、優れた生分解性と高い強度、適度な柔軟性を有する本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを本用途に用いることで、ピンホールやクラック、被覆厚みが不均一な部分から内容物である農林水産素材の漏洩を防ぐことが可能であり、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムの厚みによって、土壌中や海洋中での拡散、飛散速度を制御が可能となる。加えて、肥料、飼料、種苗、薬剤の農林水産素材を2種類以上一緒に被覆することもできる。例えば、種苗と作用させたい肥料、薬剤を一緒に被覆することで、発芽と同時に作物の成長を高めることも可能となるため好ましい。
【0055】
上記観点から、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの厚みは、前述した好ましい範囲内で土壌中や海洋中での拡散、飛散速度に合わせて選択することが好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの厚みが過剰に薄いと強度が不足して、内容物の保護性が低下する場合や、加工時に破れが発生する場合がある。また、ポリヒドロキシアルカン酸フィルムの厚みが過剰に厚いと柔軟性が不足して、後述する好ましい形状への加工が困難となる場合がある。例えば即効性の肥料には生分解後に拡散、飛散が早くなるような厚みが薄いフィルム、遅効性の肥料には生分解後に拡散、飛散が遅くなるような厚みが厚いフィルムを選択しておき、それらの被覆肥料を一緒に撒くことで、農業従事者の作業を低減することができる。
【0056】
更に、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムの特徴を生かして被覆を多層構造とすることができる。具体的には、遅効性の肥料を本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムで被覆して作製した後、即効性の肥料と本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムで周りを被覆することで、遅効性の肥料と即効性の肥料を順番に本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムで被覆した肥料を作製することが可能となる。また、同様の方法で種苗と肥料や飼料、薬剤を順番に被覆することで、生育した農水産物に適切なタイミングで肥料や飼料、薬剤を作用させる効果が期待できる。
【0057】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆されたことを特徴とする農林水産素材は、上記の通り、意図しない漏洩による環境汚染を防止しながら、特に肥料、飼料、種苗、薬剤から選択される農林水産素材の効果を高めることが可能となり、土壌中や海洋中において適切な時期に拡散、飛散することで、効能の向上効果や作業従事者の作業を低減することができ、農林水産分野において特に好適に用いることができる。
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆されたことを特徴とする肥料、飼料、種苗、薬剤の形態としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、ペレット状、顆粒状、ブロック状、パウチ状、ロープ状、シート状など、様々な形態で使用することができる。具体的には農業用の被覆された肥料であれば、散布機に対応したブロック状、ペレット状、顆粒状が好ましく、被覆された種苗であれば、作業低減が期待できるロープ状やシート状が好ましい。
【0058】
次に、本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムの製造方法例について以下に説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0059】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムの製造方法は、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂およびその他樹脂、添加剤を加熱して混練する溶融工程、口金からシート状に吐出し、支持体上で冷却固化して樹脂シートを得るキャスト工程、樹脂シートを直交する二方向に延伸する延伸工程、及び、延伸工程で得られたフィルムに熱処理および弛緩処理を施す熱処理工程をこの順に有する。また本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムの層構成は特に限定されず、例えばA層/B層の2種2層構成、A層/B層/A層の2種3層構成、A層/B層/C層(ここでC層はA層、B層とは異なる層を意味する。)の3種3層構成等を採用することができる。以下、A層からなる単層構成のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを例に挙げて、その製造方法についてより具体的に説明するが、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルム及びその製造方法は必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0060】
まず、ポリヒドロキシアルカン酸樹脂およびその他樹脂、添加剤を単軸押出機で溶融させる。押出温度150℃~220℃に設定した単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルタを通過させて異物等を取り除く。続いてこの溶融樹脂をスリット状口金から押し出す。このときポリヒドロキシアルカン酸樹脂の酸化劣化を防ぎ、フィルムの品位を向上させたりフィルムの強度を高めたりする観点から、原料投入ホッパー内の酸素濃度を0.10体積%以下とすることが好ましい。
【0061】
次に、スリット状口金から押し出された溶融樹脂を、表面温度が10℃~40℃に制御された冷却ドラム上で冷却固化させ、樹脂シートを得る。溶融樹脂の冷却ドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法等のうちいずれの手法を用いてもよく、また複数の方法を組み合わせてもよいが、密着性の点からは静電印加法を含む手法とすることが好ましい。
【0062】
なお、二軸延伸の高倍延伸化を可能とし、フィルムの突刺強度や破断強度を良好とする観点から、冷却ドラムの回転速度に対する次工程(例えばMD延伸工程)へのフィルム搬送速度の比を101%以上120%以下とすることが好ましい。かかる範囲とすることで、次工程に搬送される途中で樹脂シート内のポリヒドロキシアルカン酸の分子鎖が適度にフィルム面内に配向でき、ポリヒドロキシアルカン酸を高濃度で含む樹脂シート組成においてもその後の二軸延伸の高倍化を可能とすることができる。
【0063】
かつフィルム製造時に冷却ドラムの回転速度に対するMD延伸工程までのフィルム搬送速度の比率を特定の範囲に調整し、さらに面積倍率4倍以上に二軸延伸を行う方法が挙げられる。冷却ドラムの回転速度に対する次工程(例えばMD延伸工程)へのフィルム搬送速度の比は、その後に高倍率で二軸延伸可能とする観点からは、103%以上がより好ましく、106%以上がさらに好ましい。また、フィルムの安定製膜性の観点からは、116%以下がより好ましく、112%以下がさらに好ましい。
【0064】
続いてMD延伸工程にて一軸延伸フィルムを得る。MD延伸工程では複数のロール群にて1秒以上1000秒以下で予熱を行う。MD延伸工程での予熱温度は好ましくは冷却ドラム温度と同じ温度以上、より好ましくは冷却ドラム温度+10℃以上であり、MD延伸工程での予熱温度は好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下に保たれた複数のロールに接触させて予熱を行う。この際、予熱温度を冷却ドラム温度と同じ温度以上60℃以下とすることで、延伸直前の球晶の成長ならびに結晶の変態を制御でき、高倍率でも安定して延伸することが可能となる。次いで延伸直前に樹脂シートを100℃以上、樹脂シートの融点以下の予熱温度で0.1秒以上100秒以下の時間でさらに予熱を行う。その後、2段階目の予熱温度に保ったまま、MD方向に1.5倍以上10倍以下でロール周速差による延伸を施す。MD方向の延伸倍率は、突刺強度や破断強度を良好とする観点から、下限は1.6倍が好ましく、2.1倍がより好ましく、2.4倍がさらに好ましく、2.6倍が最も好ましい。MD方向の延伸倍率は、安定製膜性の観点からは上限は8倍が好ましく、4倍がさらに好ましい。MD延伸を行った後、室温まで冷却して一軸延伸フィルムを得る。
【0065】
次に、一軸延伸フィルムの両端部をテンターに搬送した後、フィルムテンターの端部をクリップで把持しながら予熱を行う。予熱温度は60℃以上一軸延伸フィルムの融点以下の温度が好ましい。その後、予熱と同じ温度でTD方向に1.5倍以上10倍以下で延伸を施す。TD方向の延伸倍率は突刺強度や破断強度を良好とする観点から1.6倍以上が好ましく、2.1倍以上がより好ましく、2.4倍以上がさらに好ましく、2.6倍以上が最も好ましい。TD方向の延伸倍率は、安定製膜性の観点から8倍以下が好ましく、4倍以下がさらに好ましい。
【0066】
MD延伸倍率とTD延伸倍率の面積延伸倍率は4倍以上であることが好ましい。面積延伸倍率を4倍以上とすることにより、フィルム面内の分子鎖緊張が高まるとともに、結晶も微細化されるため、フィルムの強度を高くすることができる。また、面内に適度な歪みを持たせることで加熱時の膨張を防ぎ、例えば蒸着層を形成して積層体とする際に、蒸着層にピンホール、クラックなどの欠陥を抑制することができる。面積延伸倍率は、6倍以上がより好ましくは、8倍以上がさらに好ましい。面積延伸倍率の上限は特に限定されないが、安定製膜性の観点からは面積延伸倍率は50倍以下が好ましく、35倍以下がより好ましく、さらに好ましくは20倍以下である。
【0067】
テンター内でTD延伸を行った後は、同一テンター内で熱処理及び弛緩処理を施すことが好ましい。熱処理及び弛緩処理は、テンターのクリップで幅方向両端部を緊張把持したまま幅方向に2%以上20%以下の弛緩を10%/分以上500%/分以下の速度で与えつつ、好ましくは50℃以上150℃以下の温度で1秒以上行う。熱処理温度の下限は好ましくは55℃、より好ましくは60℃であり、他方、上限は好ましくは145℃、より好ましくは140℃である。弛緩処理の速度は好ましくは15%/分以上350%/分以下、より好ましくは20%/分以上200%/分以下である。熱処理時間はそれぞれ好ましくは4秒以上60秒以下、より好ましくは8秒以上45秒以下である。かかる弛緩処理及び熱処理を行うことで、フィルムの熱に対する構造安定性を向上させ、例えば蒸着層を形成して積層体とする際に、蒸着層にピンホール、クラックなどの欠陥を抑制することができる。フィルムの熱に対する構造安定性を高める観点から、弛緩処理における弛緩率は好ましくは2%以上15%以下、より好ましくは4%以上11%以下である。
【0068】
上記の熱処理、弛緩処理を経た後は、フィルムをテンターの外側へ導き、室温雰囲気にてフィルム両端部のクリップを解放し、二軸延伸フィルムを得る。得られた二軸延伸フィルムはワインダー工程に搬送した後、フィルムのTD方向の両方の端部をスリットする。その後、蒸着層を積層する面(通常は冷却ドラムと接していた側の表面)に対し、蒸着層の剥離力を高くすることを目的として、表面改質処理を施すことが好ましい。こうして得られたフィルムをロール状に巻き取り、本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムを得ることができる。
【0069】
次に本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆された肥料、飼料、種苗、薬剤の製造方法について、例に挙げて、その製造方法についてより具体的に説明するが、必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0070】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムによって被覆された肥料の製造方法としては、上記の方法で得られたポリヒドロキシアルカン酸フィルムをペレット形状の窪みに成型した上下の金型に導いた後、吸引して金型にフィルムを密着させる。次いで、下側の金型のフィルム上に被覆したい肥料を展開し、上側の金型を下降させて加熱することで上下のフィルムを接着させる。
【0071】
ここで本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムで被覆する肥料としては、ペレット状でもよく、顆粒状や、粉状、ペースト状、液状のものも使用することができる。中でもフィルムでの保護のしやすさや金型形状への追従性の観点から肥料の形状は、顆粒状、粉状、ペースト状、液状のいずれかであることが好ましい。
【0072】
さらにこの時、接着性の観点から、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムに前述したヒートシール層を接着層(E層)として設けておくことが好ましく、その場合はフィルム同士が接する面の少なくとも片側にE層が位置するように金型に配置しておくことがより好ましい。次いで、肥料を被覆したフィルムを金型から取り出し、過剰なフィルム同士の圧着部分を裁断し、除去することでペレット状に加工した被覆肥料を得ることができる。ここで裁断方法としては刃物を搭載した裁断機を用いることが好ましく、あらかじめ刃物を配置した型を用いてバッチ方式で枚葉処理する方法や、回転刃を用いて1方向に連続的に裁断してロープ状に加工した後、直交方向に周期的に裁断する方法や上記の金型に刃物を搭載させて熱圧着と裁断を同時に行う方法などが挙げられる。
【0073】
その他の農林水産素材の被覆方法としては、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムのロールを2つ準備しておき、一定周期で農林水産素材を間に挿入しながらラミネートする方法や、農林水産素材をフィルム上に保持した状態で加熱することで熱収縮させて被覆する方法、減圧によりフィルムを収縮させることで被覆する方法が挙げられる。
【0074】
本発明はかかる製造方法によって、優れた生分解性と強度、柔軟性を有する本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムに被覆された肥料、飼料、種苗、薬剤を得ることできる。
【0075】
本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルム、及び、本発明のポリヒドロキシアルカン酸フィルムを含む包装体、農林水産業資材は、コンポスト機材により生分解させることができる。コンポスト機材としては、60℃前後に加熱、あるいは保温して生分解性を高める産業コンポスト、土壌に穴を掘って製作する簡易コンポスト、土壌に一部または全部を埋設するコンポスト容器、コンポストバッグ等の小型コンポスト、ミミズコンポストやハエを用いたズーコンポストなどの生物利用コンポスト等、公知の機材を用いることができる。本発明のポリヒドロキシアルカン酸、及び、本発明のポリヒドロキシアルカン酸を含む包装体、農林水産業資材が機能層を有しない場合、もしくは機能層が生分解性または低毒性の蒸着層である場合、コンポスト機材に投入し、土壌や微生物含有発酵促進材等の分解用資材との混交等の一般的な処理を施すことで分解することができる。また、生分解性を有さない機能層や他の層を併用する場合、機能層を剥離したうえでコンポスト機材に投入してもよいし、環境毒性や人体毒性等の毒性が低い層であれば、生分解性を有さない場合であってもコンポスト機材に投入し、本発明のポリヒドロキシアルカン酸の分解後に残留物を回収しても構わない。なお、コンポストの目的については、減容化による廃棄物削減、堆肥化、バイオガスの生成等があるが、本発明のポリヒドロキシアルカン酸、包装体及び農林水産業資材は、どの目的のコンポスト機材にも適応する。
【実施例0076】
本発明の実施形態にかかる特性の測定方法、および効果の評価方法は次の通りである。ただし、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、評価方法については特に記載が無い限りは、温度25℃、相対湿度50%にて実施した。
【0077】
(1)フィルムの溶融比抵抗
50mmφの試験管内にフィルムを切り刻んで120g投入し、窒素雰囲気下180℃に加熱して溶融させ、3cm×5cm(面積S)の銅製電極を1cm(間隔D)の間隔を保持して平行に対向させて挿入した。その後、電極間に5000Vの直流電圧(電圧V)を加えた際に流れる電流の最大値I(A)を測定し、下記式(iii)より算出した。
溶融比抵抗(MΩ・cm)=(V×S)/(I×D)/10・・・式(iii)
なお、式(iii)において、V(V)は直流電圧、S(cm)は電極面積、I(A)は電極間に直流電圧を加えた際に流れる電流の最大値、D(cm)は2本の電極間の間隙を指す。
【0078】
(2)フィルムの厚み
フィルムの任意の5箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下にて、ミツトヨ製高精度デジタル測長機“ライトマチックVL50B”を用いて測定した。5箇所の測定値の算術平均値をフィルムの厚み(μm)とした。
【0079】
(3)主配向軸方向ならびに主配向軸方向と直交する方向
フィルム製造工程における流れ方向(MD)を主配向軸方向、またフィルム製造工程における流れ方向とフィルム面内で直交する方向(TD)を主配向軸と直交する方向とした。方向が不明なフィルムについては、以下に記載する方法で求めた。
【0080】
任意の方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出してサンプル<1>とし、サンプル<1>の長辺の方向を0°と定義した後、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取した。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、サンプル<3>~<12>を採取した。
【0081】
次に、各サンプルを引張試験機(エー・アンド・デイ製“テンシロン万能試験機”RTG-1210)に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離30mmでセットし、25±5℃、65±10%RHの温湿度雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行った。その後、サンプルが破断した際の荷重を読み取り、試験前の試料の断面積((2)で求めたフィルム厚み×幅)で除した値を破断強度として算出した。合計5回の測定値の算術平均値を当該サンプルの破断強度(MPa)とした。
【0082】
サンプル<1>からサンプル<12>の破断強度を比較し、破断強度が最も大きなサンプルの長辺方向をフィルムの主配向軸方向とした。また、破断強度が最も大きなサンプルの短辺方向を、フィルムの主配向軸方向と直交する方向とした。
【0083】
(4)破断強度
主配向軸方向、ならびに主配向軸方向と直交する方向について、(3)と同様にして各方向の引張測定を行い、主配向軸方向の破断強度S1(MPa)、主配向軸方向と直交する方向の破断強度S2(MPa)をそれぞれ求めた。
【0084】
(5)熱機械分析(TMA)による収縮開始温度
フィルムの主配向軸方向を長辺として、幅4mm、長さ50mmの矩形サンプルを切り出し、試長10mmの条件で下記の熱機械分析装置の金属製チャックで挟み込んだ。その後、荷重を一定とした下記条件にて熱収縮曲線を求めた。得られた熱収縮曲線から1%収縮した温度を読み取り、主配向軸方向の収縮開始温度T1(℃)を求めた。
【0085】
フィルムの主配向軸方向と直交する方向を長辺とした矩形サンプルについても同様に測定し、主配向軸方向と直交する方向の収縮開始温度T2(℃)を求めた。
・評価装置:TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)
・温度:初期温度25℃、最大温度:160℃、昇温レート:10℃/分
・最大温度到達後の保持時間:10分
・荷重制御モード:Fモード(荷重制御モードで荷重一定)
・荷重:29.4mN(一定)。
【0086】
(6)120℃15分間の加熱処理によって求められるフィルムの主配向軸方向の熱収縮率H1と主配向軸と直交する方向の熱収縮率H2
主配向軸方向ならびに主配向軸と直交する方向についてフィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出し、中央部の100mm間に油性マジックでマークをつけ、その長さを万能投影機にて測長することで初期長I0を求める。次いで測長したサンプルを120℃に調整したギア式熱風オーブンにセットし、2.1gの荷重を吊るしたフィルムの最下部に取付けて、ギアを回転させながら15分間熱処理する。その後フィルムを取出し常温に冷ましてからマーク間の長さを万能投影機にて測長することで熱収長IHを求める。測長したI0とIHから下記(III)式より120℃熱収縮率(単位:%)を算出した。各サンプルの主配向軸方向ならびに主配向軸と直交する方向で同様の測定を5回ずつ行い、主配向軸方向の平均値をH1(%)、主配向軸と直交する方向の平均値をH2(%)とした。
120℃熱収縮率(%)=(I0-IH)/I0×100 ・・・(III)。
【0087】
(7)破断伸度
主配向軸方向について、(3)と同様にして引張測定を行い、破断した際のチャック間距離L(mm)を読み取った。初期チャック間距離L0(mm)とL(mm)から、(L-L0)/L0×100の計算式により破断伸度(%)を求め、合計5回の測定値の算術平均値を主配向軸方向の破断伸度L1(%)とした。
【0088】
主配向軸方向と直交する方向についても同様に測定し、主配向軸と直交する方向の破断伸度L2(%)とした。
【0089】
(8)融点
示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO2 DSC vesta)を用いて、JIS K7121-1987、JIS K7122-1987に準拠して測定および解析を行った。試料を5.0mg秤量し、-50℃から20℃/分で200℃まで昇温した際のDSC曲線を測定し、吸熱側の最大ピーク温度を樹脂またはフィルムの融点とした。なお、吸熱ピークが複数存在する場合は、最も吸熱量が大きいピーク温度を融点として採用した。
【0090】
(9)重量平均分子量Mw
試料10mgに後述の測定溶媒5mLを加え、試料が溶解するまで室温で攪拌した。その後、0.45μmフィルターを用いてろ過を行い、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて下記条件で重量平均分子量Mwを求めた。
・検出器:示差屈折率検出器RI (東ソー製RI-8020、感度32)
・カラム:TSKgel GMHHR-M(7.8mm×30cm、東ソー製) 、2本
・溶媒:クロロホルム
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・注入量:0.200mL
・標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン
・データ処理:東レリサーチセンター製GPC データ処理システム。
【0091】
(10)結晶子サイズ
(10-1)回折プロファイル
フィルム試料を主配向軸に2cm、主配向軸に直交する方向に1cmに切り出し、合計厚みが100μm以上になるように重ね、主配向軸に対して垂直方向にX線をサンプル中心部に入射するようにサンプルをホルダーに固定した後、フィルム厚み方向の反射測定を以下の条件で行い、2次元のX線回折像を得た。
・装置:Bruker Axs社製 D8 DISCOVER μHR Hybrid
・X線源:CuKα線(多層膜ミラー使用)、波長λ=0.15418nm
・出力:50kV、22mA
・スリット径:(X線源側)1mm-1mm-0.1mmΦ(試料側)
・検出器:2次元検出器(Vantec500)
・スキャン:2θ=20°
・仰角:ω=10°
・カメラ長:10cm
・積算時間:300秒/フレーム。
【0092】
(10-2)配向度
(10-1)で得られた回折像から、回折角(2θ)が19°以上21°以下の範囲にあるピークについて、90°を厚み方向とした円周角で40°から140°にスキャンして得られた厚み方向の配向プロファイルの半値幅H0を求め、下記式を用いて配向度を求めた。
配向度=(180-H0)/180
(10-3)結晶子サイズ
(10-1)で得られた回折像から、90°を厚み方向とした円周角で80°から100°の範囲をスキャンして2θプロファイル化した。2θプロファイルのうち回折角(2θ)が19°以上21°以下の範囲にある配向度0.50以上のピークのうち最も強度が高いピークをPBとして分離した後、そのピークの半値幅から、Scherrerの式より結晶子サイズを求めた。尚、Scherrer定数は0.9とし、半値幅の補正値はNIST製のX線回折用標準Si粉末を上記の光学系で測定し、Si回折ピーク(111)から求めた。
【0093】
(11)生分解性
JIS K6954(2008)に準じて湿潤合成コンポストを1L作製し、10Lのポリプロピレン製容器の中に投入した。次いで、5cm×5cmに切り出した評価用フィルムを、内側に2cm角の正方形の形がくり抜かれたポリエチレン製ホルダーで挟み込み、ホルダー内部のフィルムが外部に露出された状態とした。
【0094】
その後、ポリプロピレン製容器内の湿潤合成コンポストに、ホルダーで固定されたフィルムサンプルを投入、28±2℃に制御したオーブン中で、60日間の培養試験をJIS K6954(2008)に準じた方法で実施した。なお、フィルムサンプルを投入する際には、ホルダー中の2cm角のフィルム露出部分がすべて湿潤合成コンポストに覆われる状態とした。また、最初の投入を行った後、2日置きにフィルムサンプルを取り出し、湿潤合成コンポストをスコップで攪拌した後、再度フィルムサンプルを投入することを繰り返し実施した。
【0095】
最初の投入から60日間経過後に、フィルムサンプルを容器から取り出し、デジタルカメラで画素数は1200dpi(200万画素)以上として写真を撮影した。写真の画像から、ホルダーの内側の2cm角の枠内に残存したサンプルの面積を求め、(ホルダー内のサンプル初期面積-ホルダー内のサンプル残存面積)/(ホルダー内のサンプル初期面積)×100の計算式を用いて崩壊面積比率(%)を求めた。合計3個のホルダーを同一のコンポスト内で評価し、3個の測定値の算術平均値をフィルムサンプルの崩壊面積比率(%)とし、以下の基準で判定を行った。
A:崩壊面積比率が60%以上
B:崩壊面積比率が40%以上、60%未満
C:崩壊面積比率が20%以上、40%未満
D:崩壊面積比率が5%以上、20%未満
E:崩壊面積比率が5%未満
生分解性は、D以上が好ましい。
【0096】
(12)アルミニウム蒸着後の水蒸気バリア性
(12-1)アルミニウム蒸着加工
フィルム走行装置を具備した真空蒸着装置内にフィルムをセットして、1.00×10-2Paの減圧状態にした後に、20℃の冷却金属ドラムの上で、アルミニウム金属を加熱蒸発させながらフィルムを走行させて蒸着薄膜層を形成した。その際、蒸着膜の厚みが100nmになるよう制御した。蒸着後、真空蒸着装置内を常圧に戻して、巻取ったフィルムを巻き返した後、40℃の温度で2日間エージングして、フィルムにアルミニウムの蒸着層が積層された積層体を得た。
【0097】
(12-2)水蒸気バリア性(機能層の特性)
(12-1)の通り作製したアルミニウム蒸着層積層体について、MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率測定装置“PERMATRAN-W”(登録商標)3/30を用いて、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。測定はサンプル毎に5回行い、得られた値の平均値を算出し、該フィルムの水蒸気透過率とした(単位:g/m/day)。得られた水蒸気透過率より、積層体の水蒸気バリア性を下記基準に従い判定した。B以上を水蒸気バリア性良好とし実用上問題ないレベルとした。
A:20g/m/day以下。
B:20g/m/dayより大きく60g/m/day以下。
C:60g/m/dayより大きく90g/m/day以下。
D:90g/m/dayより大きく120g/m/day以下。
E:120g/m/dayより大きい。
【0098】
(13)搬送速度・張力を変えた際の破れ発生
300mm幅、200m長(6インチ、350mm長コア巻)のフィルムを準備し、下記条件で、3インチ、350mm長コアに巻返しを行い、搬送速度、張力を変増加しながら下記の基準で判定を行った。
A:速度10m/分、搬送張力70N/mで巻き返しても破れが発生しなかった。
B:速度5m/分、搬送張力50N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度10m/分、搬送張力70N/mに変更すると破れが発生した。
C:速度5m/分、搬送張力30N/mで巻き返しても破れが発生しなかったが、速度5m/分、搬送張力50N/mに変更すると破れが発生した。
D:速度5m/分、搬送張力30N/mで巻き返すと破れが発生した。
【0099】
(14)フィルムの欠点数
300mm幅、10m長(6インチ、350mm長コア巻)のフィルムを準備し、下記条件で、3インチ、350mm長コアに巻返しを行った。巻き返し途中のフィルムにLEDライトを当てながら目視でフィルム表面を観察し、最長2mm以上の欠点の個数をカウントし、下記基準で判定を行った。
A:10mあたりの欠点が1個以下
B:10mあたりの欠点が2個以上4個以下
C:10mあたりの欠点が5個以上10個以下
D:10mあたりの欠点が11個以上20個以下
E:10mあたりの欠点が21個以上30個以下
F:10mあたりの欠点が31個以上。
【0100】
(15)金属元素量
秤取した樹脂またはフィルムを、硫酸および硝酸で加熱分解し、希硝酸で溶解して定容とした。この溶液について、ICP発行分光分析法および原子吸光分析法により、樹脂またはフィルムの金属含有量を質量基準で求めた。なお、ICP発光分光分析法は日立ハイテクサイエンス製 PS3520VDDII、原子吸光分析法は日立ハイテクノロジーズ製Z2300をそれぞれ使用した。
【0101】
(16)重量保持率
下記装置、条件にて重量変化測定を行い、昇温完了後に最終温度で30分保持後の重量を初期重量で除して重量保持率を求めた。なおフィルム融点(℃)は(8)に記載の方法で得られた値を用いた。
測定装置:TGA-50H(島津製作所製)
試料容器:アルミニウムパン
試料重量:15mg
測定雰囲気:窒素ガス(20ml/分)
昇温条件:30℃から(フィルム融点(℃)+30℃)まで
昇温速度:10℃/分
保持条件:最終温度(フィルム融点(℃)+30℃)で30分間。
【0102】
(17)ポリヒドロキシアルカン酸樹脂ならびにポリヒドロキシアルカン酸以外の樹脂成分の含有量
フィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いてポリヒドロキシアルカン酸樹脂の含有量(質量%)を測定した。ポリヒドロキシアルカン酸以外の樹脂成分はフィルム全体を100(質量%)としポリヒドロキシアルカン酸樹脂の含有量(質量%)を差し引いた値から求めた。積層フィルムの場合は積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価した。なお、実施例及び比較例においては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0103】
(18)突刺強度
JIS Z1707(2019)に準じて、以下の条件でフィルムの突刺強度(gf)を測定した。尚、5回の測定を行い、各測定値を測定したフィルムの厚み(μm)で割ったあとに20(μm)を掛けた値を求め、それらの平均値を突刺強度(厚み20μm換算値)として採用した。
装置 :KATOTECH社製 HANDY-TYPE COMPRESSION TESTER KES-G5
(測定条件)
SENS:10
SPEED:0.20cm/秒
STROKE:20mm/10V
ニードル径:1.0mmφ
穴径:10.0mmφ
各実施例及び比較例におけるポリヒドロキシアルカン酸フィルムの製造には、以下の原料を使用した。なお、押出機に投入する前には、いずれも40℃で24時間の減圧乾燥を実施し、水分を除去した。
PHA1:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、結晶核剤:ペンタエリスリトール=1質量%、重量平均分子量Mw:45万、融点:153℃)。
PHAマスターチップ1:PHA1にステアリン酸ナトリウムを含有させ、ナトリウム元素量を2500質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PHAマスターチップ2:PHA1にステアリン酸マグネシウムを含有させ、マグネシウム元素量を2500質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PHA2:PHA1を80質量%、PHAマスターチップ1を20質量%の比率で混合し、PHA樹脂中に含まれるナトリウム元素量を500質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PHA3:PHA1を80質量%、PHAマスターチップ2を20質量%の比率で混合し、PHA樹脂中に含まれるマグネシウム元素量を500質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PHA4:PHA1を60質量%、PHAマスターチップ1を40質量%の比率で混合し、PHA樹脂中に含まれるナトリウム元素量を1000質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PHAマスターチップ3:PHA1にステアリン酸ナトリウムを含有させ、ナトリウム元素量を500質量ppmに調整したポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)。
PLA1:ポリ乳酸(D体1%)、融点170℃。
PLAマスターチップ1:PLA1にステアリン酸ナトリウムを含有させ、ナトリウム元素量を2500質量ppmに調整したポリ乳酸。
PLAマスターチップ2:PLA1にステアリン酸マグネシウムを含有させ、マグネシウム元素量を2500質量ppmに調整したポリ乳酸。
PLA2:PLA1を80質量%、PLAマスターチップ1を20質量%の比率で混合し、PLA樹脂中に含まれるナトリウム元素量を500質量ppmに調整したポリ乳酸。
PLA3:PLA1を80質量%、PLAマスターチップ2を20質量%の比率で混合し、PLA樹脂中に含まれるマグネシウム元素量を500質量ppmに調整したポリ乳酸。
PLA4:PLA1を60質量%、PLAマスターチップ1を40質量%の比率で混合し、PLA樹脂中に含まれるナトリウム元素量を1000質量ppmに調整したポリ乳酸。
PLAマスターチップ3:PLA1にステアリン酸ナトリウムを含有させ、ナトリウム元素量を500質量ppmに調整したポリ乳酸。
【0104】
(実施例1)
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA2)とポリ乳酸(PLA2)を原料とし、2カ所の投入口を有するベント式同方向二軸押出機を用いて、吐出口から遠い側(滞留時間が長い側)の投入口からポリ乳酸(PLA2)を、吐出口に近い側(滞留時間が短い側)の投入口からポリヒドロキシアルカン酸(PHA2)をそれぞれ別々に投入した。なお、複数の原料を混合したのち、同一の投入口から供給した場合を、表中では通常フィードと記載している。また、複数の原料をそれぞれ別の投入口から供給した場合を、表中ではサイドフィードと記載している。なお、単軸押出機1台での単層構成の場合、表中ではA層と記載している。投入樹脂を、押出機内で、180℃で溶融した後、250μmカットのメッシュ状フィルタで異物を除去し、スリット状口金より30℃に設定した冷却ドラム上に吐出した。その際、ワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させて未延伸の樹脂シートを得た。
【0105】
その後、冷却ドラム速度に対する搬送速度の比率を108%に設定し、冷却ドラムからMD延伸工程までの搬送を行った。
【0106】
続いて、MD延伸工程の第一の予熱区間(表における予熱1)において、30℃で10秒間の予熱を実施後、第二の予熱区間(表における予熱2)において、150℃で3秒間の予熱を実施した後、ロール周速差で4倍にMD延伸を行った。その後、室温まで冷却してMD一軸延伸フィルムを得た。
【0107】
次に、MD一軸延伸フィルムをテンター入口まで搬送してクリップで端部を把持した後、クリップで把持しながら100℃の予熱を行った。そして、100℃でTD方向に4倍に延伸を行った後、連続して120℃の熱処理を15秒間行いながら幅方向に8%弛緩を60%/分の速度で行い、次いで室温雰囲気でクリップを開放して二軸延伸フィルムを得た。
【0108】
フィルム物性、及び、評価を表に示す。
【0109】
(実施例2~10)
原料組成及び製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0110】
(実施例11)
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA2)とポリ乳酸(PLA2)を原料とし、2カ所の投入口を有するベント式同方向二軸押出機を用いて、吐出口から遠い側(滞留時間が長い側)の投入口からポリ乳酸(PLA2)を、吐出口に近い側(滞留時間が短い側)の投入口からポリヒドロキシアルカン酸(PHA2)をそれぞれ別々に投入し、一方の単軸押出機(A層)に供給した。また、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA1)とポリ乳酸(PLA1)を表の割合でブレンドしたのち、他方の単独押出機(B層)に供給した。各押出機で、それぞれ170℃で溶融し、250μmカットのメッシュ状フィルタで異物を除去した後、フィードブロックでA層/B層/A層(厚み比=5/10/5)となるように積層した。その後、スリット状口金より、30℃に設定した冷却ドラム状に吐出した。その際、ワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させて未延伸の積層樹脂シートを得た。
【0111】
その後は実施例1と同様にしてMD延伸、TD延伸を行い、二軸延伸フィルムを得た。
【0112】
フィルム物性、及び、評価を表に示す。
【0113】
(実施例12~15)
原料組成、積層比、製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例11と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0114】
(実施例16~18)
熱処理温度を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0115】
(比較例1)
原料組成、積層比、製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例11と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0116】
得られたフィルムは、溶融比抵抗が高いため冷却ドラムとの密着性が不良となり、加工性、フィルム品位が劣るものであった。
【0117】
(比較例2)
原料組成、製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0118】
得られたフィルムは重量保持率が低いため押出時に異物や気泡が発生し、製膜安定性が劣っていたほか、加工性、フィルム品位が劣るものであった。
【0119】
(比較例3)
原料組成、製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0120】
得られたフィルムは、溶融比抵抗が低いため冷却ドラムとの密着性が不良となった上に、重量保持率も低く、製膜安定性が劣っていたほか、加工性、機能層の特性、フィルム品位が劣るものであった。
【0121】
(比較例4)
原料組成、製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0122】
得られたフィルムは、重量保持率が低いため押出時に異物や気泡が発生し、製膜安定性が劣っていたほか、加工性、機能層の特性、フィルム品位が劣るものであった。
【0123】
(比較例5)
原料組成及び製膜条件を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0124】
得られたフィルムは、生分解性に劣るほか、溶融比抵抗が高いため冷却ドラムとの密着性が不良となり、加工性、フィルム品位が劣るものであった。
【0125】
【表1-1】
【0126】
【表1-2】
【0127】
【表2-1】
【0128】
【表2-2】
【0129】
【表3-1】
【0130】
【表3-2】
【0131】
【表4-1】
【0132】
【表4-2】
【0133】
【表5-1】
【0134】
【表5-2】
【0135】
【表6-1】
【0136】
【表6-2】
【0137】
【表7-1】
【0138】
【表7-2】
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の実施形態にかかるポリヒドロキシアルカン酸フィルムは、生分解性、品位を良好とすることができることから、廃棄時の環境負荷が低減可能な包装体、農林水産業資材として好適に用いられる。