(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127807
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】積層フィルム、光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20240912BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240912BHJP
G02B 5/26 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B27/36
G02B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028293
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023034336
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 舜也
(72)【発明者】
【氏名】宇都 孝行
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148FA04
2H148FA09
2H148FA12
2H148FA24
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100BA08
4F100BA21
4F100EH20
4F100GB90
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JN01
4F100JN06
4F100JN18A
4F100JN18B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、高精度な反射波長選択性を備える積層フィルムを提供することである。
【解決手段】 2種類の層を交互に51層以上有する積層フィルムであり、波長300~2000nmの範囲に反射、透過、応答帯域を有し、最も反射帯域の広い波長の短波長端と長波長端をλ1、λ2、短波長端、長波長端の波長分解能をΔg1、Δg2としたときに一定の関係式を満たし、面内屈折率の高い樹脂Aが主成分である層をA層、低い樹脂Bが主成分である層をB層としたときにA、B層の層対の光学層厚みを参照波長λ0で除した層対の波数が0.4×λ1/λ0~0.6×λ2/λ0の範囲Xを含み、範囲Xにて、波数が0.5以上の層対数、0.5未満の層対数をL1、L2としたとき、範囲Xの積層構造が一定の関係式を満たす、積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有する積層フィルムであって、
波長300nm~2000nmの範囲に、反射率が80%以上である反射帯域と、反射率が20%未満である透過帯域を有し、
前記反射帯域と前記透過帯域の間に応答帯域を有し、
最も反射帯域の広い波長における短波長端と長波長端をそれぞれλ1、λ2、短波長端の波長分解能をΔg1、長波長端の波長分解能をΔg2としたときに、式(1)によって表される参照波長λ0を用いた下記式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、
かつ異なる2種類の熱可塑性樹脂層のうち、面内屈折率の高い熱可塑性樹脂Aを主成分とする熱可塑性樹脂層をA層、面内屈折率の低い熱可塑性樹脂Bを主成分とする熱可塑性樹脂層をB層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、
前記範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、前記範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことを特徴とする積層フィルム。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)
式(2): 0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦30×λ0/((λ1-30)×λ1)
式(3): 0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100
【請求項2】
前記層対の波数が、一方の表面側から反対表面側に向かうにつれて徐々に変化する傾斜部分(傾斜部分Y)を含み、かつ前記傾斜部分Yにおいて下記条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
条件(A): 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最小値を含む。
条件(B): 0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最大値を含む。
【請求項3】
下記条件(C)、条件(D)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、請求項2に記載の積層フィルム。
条件(C): 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に、前記傾斜部分Yにおける最小値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が、1つの群につき20個以上60個以下である。
条件(D): 0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に、前記傾斜部分Yにおける最大値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が、1つの群につき20個以上60個以下である。
【請求項4】
前記傾斜部分Yに含まれる各層対の波数と移動平均値との差を、端点を除き一方の表面側から反対表面側に至るまでプロットした残差分布に対し、1周期の離散フーリエ変換(DFT)を適用することにより求められるピーク強度の最大値が1.0×10-5以上1.0×10-2以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記範囲Xに含まれる層対における前記A層と前記B層の光学層厚みの差の絶対値が0.05×λ0以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの少なくとも一方の主成分がポリエステルであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルムを用いてなることを特徴とする、光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある特定の波長の光を選択的に反射するのに好適な積層フィルム、および当該積層フィルムを用いた光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
溶融製膜法によって異なる複数の熱可塑性樹脂を交互に積層した積層フィルムは、積層する樹脂の屈折率と層厚みを制御することで、干渉反射により様々な波長の光を選択的に反射することができる。このような積層フィルムは、特に、光学フィルタとして、車載用途、ディスプレイ用途など、様々な光学用途に用いられている。例えば、近赤外線や赤外線を反射する積層フィルムを自動車や住宅のガラスなどに貼ることによって、熱源として働く赤外線を反射し、冷房効果を上げることが可能である。
【0003】
光学フィルタに用いられる積層フィルムにおいては、所望の反射帯域の末端においてシャープな反射率の勾配を示し、かつ反射帯域における均一な反射性能を示す、波長選択性を有することが重要である。
【0004】
高い波長選択性を有する積層フィルムを得る方法としては、光学層厚みが少なくとも40層以上にわたり実質的に一定となる積層構造を有する積層フィルムとする方法が知られている(特許文献1、2)。このような積層構造により形成される分光スペクトルは、高反射率かつシャープな勾配を有する。所望の反射帯域末端にその分光スペクトルが位置するよう層厚みを設計することにより、特許文献3に開示されるような、当該積層構造を持たない層厚みで設計された場合に比べて、所望の反射帯域末端のシャープ性に優れた積層フィルムを得ることができる。特許文献1や2に開示されたフィルムは、所望の反射帯域に対して反射率が飽和状態にあり、かつシャープ化させたい反射帯域の末端が可視光域に位置する場合には、高い波長選択性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6157490号公報
【特許文献2】特表2022-500693号公報
【特許文献3】特開2023-177790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近赤外帯域を所望の反射帯域とした積層フィルムを製造する際に、光学層厚みが少なくとも40層以上にわたり実質的に一定となる積層構造を除いた部分の層厚み設計と、所望の反射帯域の波長範囲などの条件によっては、所望の反射帯域の末端がシャープ化されないことが判明した。さらに、特許文献1や2に開示されたフィルムの設計は、反射率が飽和しない場合、反射帯域における反射の不均一化が生じるために光学フィルタとして要求される波長選択性を得られなくなる課題がある。
【0007】
本発明の課題は、上記問題を解決し、光学フィルタに要求される高精度な反射波長選択性を実現することが可能な積層フィルムを提供することにある。すなわち、所望の反射帯域の末端においてシャープな反射率の勾配を示し、かつ反射帯域における反射の均一性に優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の構成よりなる。
【0009】
互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有する積層フィルムであって、波長300nm~2000nmの範囲に、反射率が80%以上である反射帯域と、反射率が20%未満である透過帯域を有し、前記反射帯域と前記透過帯域の間に応答帯域を有し、最も反射帯域の広い波長における短波長端と長波長端をそれぞれλ1、λ2、短波長端の波長分解能をΔg1、長波長端の波長分解能をΔg2としたときに、式(1)によって表される参照波長λ0を用いた下記式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ異なる2種類の熱可塑性樹脂層をA層、B層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、前記範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、前記範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことを特徴とする積層フィルム。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)
式(2): 0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦30×λ0/((λ1-30)×λ1)
式(3): 0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100
また、本発明の積層フィルムは以下の態様とすることもでき、さらにこれを用いて光学フィルタとすることもできる。
[1]互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有する積層フィルムであって、波長300nm~2000nmの範囲に、反射率が80%以上である反射帯域と、反射率が20%未満である透過帯域を有し、前記反射帯域と前記透過帯域の間に応答帯域を有し、最も反射帯域の広い波長における短波長端と長波長端をそれぞれλ1、λ2、短波長端の波長分解能をΔg1、長波長端の波長分解能をΔg2としたときに、式(1)によって表される参照波長λ0を用いた下記式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ異なる2種類の熱可塑性樹脂層のうち、面内屈折率の高い熱可塑性樹脂Aを主成分とする熱可塑性樹脂層をA層、面内屈折率の低い熱可塑性樹脂Bを主成分とする熱可塑性樹脂層をB層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、前記範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、前記範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことを特徴とする積層フィルム。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)
式(2): 0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦30×λ0/((λ1-30)×λ1)
式(3): 0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100
[2] 前記層対の波数が、一方の表面側から反対表面側に向かうにつれて徐々に変化する傾斜部分(傾斜部分Y)を含み、かつ前記傾斜部分Yにおいて下記条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、[1]に記載の積層フィルム。
条件(A): 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最小値を含む。
条件(B): 0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最大値を含む。
[3] 下記条件(C)、条件(D)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、[2]に記載の積層フィルム。
条件(C): 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に、前記傾斜部分Yにおける最小値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が、1つの群につき20個以上60個以下である。
条件(D): 0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に、前記傾斜部分Yにおける最大値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が、1つの群につき20個以上60個以下である。
[4] 前記傾斜部分Yに含まれる各層対の波数と移動平均値との差を、端点を除き一方の表面側から反対表面側に至るまでプロットした残差分布に対し、1周期の離散フーリエ変換(DFT)を適用することにより求められるピーク強度の最大値が1.0×10-5以上1.0×10-2以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5] 前記範囲Xに含まれる層対における前記A層と前記B層の光学層厚みの差の絶対値が0.05×λ0以下であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6] 熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの少なくとも一方の主成分がポリエステルであることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の積層フィルム。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の積層フィルムを用いてなることを特徴とする、光学フィルタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反射の波長選択性に優れた積層フィルム、および当該積層フィルムを用いた光学フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】波長700nmから1200nmまでが所望の反射帯域となるよう設計された601層からなる積層フィルムの反射率スペクトル(a)、及び当該積層フィルムの光学層厚み設計(b)である。
【
図2】反射率スペクトルにおける反射帯域、透過帯域、応答帯域を説明する図である。
【
図3】波長700nm、950nm、1200nmにおける層対の波数が0.5で一定となるようにそれぞれ設計された101層からなる積層フィルムの還元スペクトルである。
【
図4】
図1の積層フィルムを構成する積層構造ごとの反射率スペクトルである。
【
図5】本願の積層フィルムの反射率スペクトル(a)、及び当該積層フィルムの光学層厚み設計(b)である。
【
図6】
図1の積層フィルム、及び
図5の積層フィルムの波数分布である。
【
図7】本願の積層フィルムに好適な層厚みの設計方法を説明する図(a)と、(a)に基づき設計された積層フィルムの光学層厚みの一例(b)である。
【
図8】実施例1の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図9】実施例2の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図10】実施例3と実施例4の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図11】実施例5の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図12】実施例6と実施例17~実施例21の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図13】実施例7の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図14】実施例8の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図15】実施例9の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図16】実施例10の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図17】実施例11の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図18】実施例12の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図19】実施例13の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図20】実施例14、実施例22、実施例23の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図21】実施例15の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図22】実施例16の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図23】比較例1の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図24】比較例2の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図25】比較例3の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図26】比較例4の積層フィルムの層厚み設計である。
【
図27】比較例5の積層フィルムの層厚み設計である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層フィルムについて具体的に説明する。本発明の積層フィルムは、以下の実施の形態(実施例を含む。)に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。また、説明を簡略化する目的で、一部の説明は本発明の好ましい態様の一つを挙げて行う。
【0013】
本発明の積層フィルムは、互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有する積層フィルムであって、波長300nm~2000nmの範囲に、反射率が80%以上である反射帯域と、反射率が20%未満である透過帯域を有し、前記反射帯域と前記透過帯域の間に応答帯域を有し、最も反射帯域の広い波長における短波長端と長波長端をそれぞれλ1、λ2、短波長端の波長分解能をΔg1、長波長端の波長分解能をΔg2としたときに、式(1)によって表される参照波長λ0を用いた下記式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ異なる2種類の熱可塑性樹脂層のうち、面内屈折率の高い樹脂Aからなる熱可塑性樹脂層をA層、面内屈折率の低い樹脂Bからなる熱可塑性樹脂層をB層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、前記範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、前記範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことを特徴とする。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)
式(2): 0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦30×λ0/((λ1-30)×λ1)
式(3): 0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100 。
【0014】
本発明の積層フィルムは、互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有することが必要である。ここで、熱可塑性樹脂層とは、熱可塑性樹脂を主成分とする層である。主成分とは、層を構成する全成分を100質量%としたときに、層中に50質量%より多く含まれる成分をいう。なお、層中に熱可塑性樹脂に該当する成分が複数種含まれる場合は、すべての成分を合わせて熱可塑性樹脂の量を算出するものとする。2種類の熱可塑性樹脂層が互いに異なるとは、(1)組成が異なる、(2)示差走査熱量測定(DSC)においてガラス転移温度や融点が異なる、(3)透過型電子顕微鏡観察(TEM)で断面観察したときの染色後の画像のコントラストが異なる、の少なくとも一つに該当する場合を指す。
【0015】
「組成が異なる」とは、以下に示す「組成が同じである」と見なす条件に該当しないことをいう。「組成が同じ」であるとは、各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の化学構造の繰り返し単位が95mol%以上100mol%以下共通している場合、若しくは各熱可塑性樹脂層の構成成分を比較したときに95質量%100質量%以下の成分が共通する場合をいう。
【0016】
例えば、前者について、ポリエチレンテレフタレートであれば、エチレングリコール単位とテレフタル酸単位がエステル結合により結合した構成単位(エチレンテレフタレート単位)を主たる構成単位として有するが、ホモポリエチレンテレフタレートからなる層とイソフタル酸を10mol%共重合させたポリエチレンテレフタレートからなる層のように、層を構成する樹脂がポリエチレンテレフタレートという共通の化学構造を有しながら共重合成分量が5mol%を超える場合は、両者の組成は異なるものとみなす。また、後者について、ホモポリエチレンテレフタレートのみからなる層とホモポリエチレンテレフタレートを90質量%含み残りの10質量%が他の成分である層のように、同じ構成成分を主成分としつつも5質量%を超える成分が互いに異なる場合も、両者の組成が異なるものとみなす。各熱可塑性樹脂層の具体的な組成/化学構造の繰り返し単位構造は、各熱可塑性樹脂層を切削して取り出す、あるいは、当該層を削り最表層に出すことで、赤外分光法(FT-IR法やナノIR法)、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC-MS)、核磁気共鳴装置(NMR)などを利用して、特定することが出来る。
【0017】
一方で、熱可塑性樹脂層ごとに抽出した上で、上記方法による組成の同定が困難である場合は、示差走査熱量測定(DSC)において、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層が、異なる融点および/またはガラス転移点を示すことで「異なる」ことを判断することができる。なお、本発明において、異なる融点および/または異なるガラス転移温度を示すとは、融点とガラス転移点との少なくとも一方が0.1℃以上、好ましくは2℃以上異なることを表す。例えば、積層フィルムの示差走査熱量測定を行った際に、ガラス転移点、融点(吸熱ピーク)のいずれかが複数確認される場合は、組成が異なる複数の層が存在することとなる。なお、本発明においては、ガラス転移温度、融点の測定は、測定対象物が積層フィルムになる点以外は実施例の「(8)熱可塑性樹脂のガラス転移温度、融点」の項に記載の方法と同様の方法で行うことができる。
【0018】
また、「(8)熱可塑性樹脂のガラス転移温度、融点」の項に記載の25℃以上300℃以下の測定温度範囲において、熱可塑性樹脂層がガラス転移点および融点を示さない場合があるが、一方の熱可塑性樹脂層がガラス転移点あるいは融点を示し、もう一方の熱可塑性樹脂層が示さない場合は、温度差として算出はできないが、熱可塑性樹脂層が異なるものとして解釈する。また、例えば、積層フィルムの示差走査熱量測定を行った際に、ガラス転移点が2箇所見られる一方で融点が1点しか見られない場合は、2種類の熱可塑性樹脂層のうち、1種類の熱可塑性樹脂層が融点をもたない非晶性の熱可塑性樹脂からなると解釈できる。また、別の態様として、融点が2点確認できる一方で、上記温度範囲内にガラス転移温度あるいは結晶化温度が1点以下しか確認できない場合は、温度範囲外の低温領域にガラス転移温度あるいは結晶化温度が存在する熱可塑性樹脂層を含んでいると解釈することができる。
【0019】
本発明の積層フィルムにおいて、交互に積層したとは、異なる熱可塑性樹脂層が厚み方向に規則的な配列で積層されていることを示す。具体的には、2種類の熱可塑性樹脂層をA層(以下、「A」と表記することがある。)、B層(以下、「B」と表記することがある。)としたときに、A(BA)n、B(AB)n(nは繰り返し単位数を表す自然数、以下同じ。)のように順に積層されたものが挙げられる。このように異なる2種類の熱可塑性樹脂層が交互に積層することにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より所望の波長の光を選択的に反射させる干渉反射を発現させることが可能となる。
【0020】
上記のA(BA)nもしくは、B(AB)nの構成の場合、積層体の最表層に位置する熱可塑性樹脂層(前者であればA層、後者であればB層)の主成分である樹脂(それぞれ、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bとする。)が、結晶性を示す熱可塑性樹脂であることが好ましい。この場合、当該結晶性を示す熱可塑性樹脂を主成分とする単膜フィルムと同様の製膜条件で、積層フィルムを得ることが可能となる。最表層の熱可塑性樹脂層が非晶性を示す場合、後述の一般的な二軸延伸により二軸延伸フィルムを製造した場合に、ロールやクリップなどの製造設備への粘着による製膜不良や表面状態の悪化などが生じる場合がある。なお、熱可塑性樹脂の結晶性は、当該熱可塑性樹脂層を切削して抽出し、「(8)熱可塑性樹脂のガラス転移温度、融点」の項に記載のとおり、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて融点(吸熱ピーク)の有無を確認することで判断できる。本発明の積層フィルムにおいては、結晶性とは融解エンタルピーが10J/g以上を示す場合とし、結晶性に該当しない場合を非晶性と定義する。
【0021】
また、本発明の積層フィルムはA(BA)nBの構成、すなわち、一方の最表面にA層が位置し、反対側の最表面にB層が位置する構成とすることもできる。この場合、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの少なくとも一方が非晶性を示すと、上述の通り非晶性の熱可塑性樹脂に起因する製膜上の問題が発生することがある。そのため、このような層構成の場合は、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bはいずれも結晶性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の積層フィルムを形成する異なる2種類の熱可塑性樹脂層は、結晶性/非晶性の組み合わせであることも好ましい。異なる2種類の熱可塑性樹脂層を結晶性/非晶性の組み合わせとすることにより、積層フィルムを製造する際の延伸工程において、各層の配向状態を高度に制御することが可能となる。各層の配向状態を高度に制御することにより、延伸工程に続く熱処理工程において、各層の熱収縮による厚みの設計値と実測値との誤差が軽減されるため、積層精度を高めることができる。
【0023】
加えて、積層精度を高める観点から、本発明の積層フィルムを形成する異なる2種類の熱可塑性樹脂層は、それぞれ同一の基本骨格を供えた熱可塑性樹脂を主成分とする組み合わせとすることが好ましい。ここでいう基本骨格とは、熱可塑性樹脂を構成する繰り返し単位であって最も多く含まれるものことであり、具体例を挙げると、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであれば、その基本骨格はエチレンテレフタレート骨格となる。例えば、一方の熱可塑性樹脂層として主成分がポリエチレンテレフタレートである層を用いる場合は、高精度な積層構造が実現しやすい観点から、もう一方の熱可塑性樹脂層はポリエチレンテレフタレートと同一の基本骨格であるエチレンテレフタレート骨格を含むポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましい。このような態様とすることで積層精度が高くなり、さらに積層界面での層間剥離も生じにくくなる。
【0024】
本発明の積層フィルムは、干渉反射を発現させる観点から、互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層を交互に51層以上積層した構造を有する。積層フィルムにおいて、互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層の繰り返し数が合計で50層以下の場合は、反射帯域を形成することができない。通常、前述の干渉反射は、層数が増えるほど高い反射率を実現できるものであるため、互いに異なる2種類の熱可塑性樹脂層の繰り返し数が合計で51層以上であることにより、反射帯域を形成することが可能となる。また、反射帯域の波長ごとに、干渉反射を発現する層の数を増やすことで、反射帯域の反射率をさらに上昇させることができる。上記観点から、積層フィルムの層数は好ましくは合計で401層以上であり、さらに好ましくは、601層以上である。干渉反射を実現する観点からは、層数に上限はないものの、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、積層フィルムの厚みが大きくなることでのハンドリング性の悪化が生じるために、現実的には10001層程度が実用範囲となり、好ましくは1001層程度である。
【0025】
従来技術の課題を説明するため、積層フィルムの反射率スペクトルと、積層フィルムを構成する各層の光学層厚みの一例を
図1に示す。
図1のaは、特許文献1を参考に波長700nmから1200nmまでが反射帯域となるよう設計された異なる2種類の樹脂(A層:面内屈折率1.66のポリエチレンテレフタレート、B層:面内屈折率1.55の共重合ポリエチレンテレフタレート)が、表層をA層として交互に601層積層された積層フィルムの反射率スペクトル(符号1)である。
図1のbに示す光学層厚みは、積層フィルムの一方の面から反対側の面に至るまでの区間について、一方の面の表層を基準とした隣接するA層とB層の光学層厚み(nm)を示したものである。本願において光学層厚みは、各層の面内屈折率と層厚みの積で表される。
【0026】
ここで、本発明における各層の層厚みは、積層フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影および観察することにより求められる。また、本発明における各層の面内屈折率(以下、単に屈折率と記すことがある。)は、特に断りがない限り、波長633nmにおける屈折率を用いる。表層の屈折率はサイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-4000によって測定し、内層の屈折率は位相差測定装置によって積層フィルムの正面位相差を測定することにより求められる(ともに、詳細な測定方法は後述する。)。
【0027】
図1のbにおいて、符号2~5は順に、積層構造(中間部分)の光学層厚み、積層構造(光学層厚みの小さい表面側)の光学層厚み、積層構造(光学層厚みの大きい表面側)の光学層厚み、積層構造(全体)の光学層厚みを表す(以下、これらの積層構造について積層構造2~5ということがある。)。
図1のbに示す層構成の積層フィルムは、光学層厚みが直線的な増加傾向を示す501層の積層構造(符号2)に、光学層厚みが最小値から正の方向に屈曲した50層の積層構造(屈曲の程度は10nmが好ましく、より好ましくは5nmである。)(符号3)と、光学層厚みが最大値から負の方向に屈曲した50層の積層構造(屈曲の程度は10nmが好ましく、より好ましくは5nmである。)(符号4)が接合された積層構造(符号5)をとる。
【0028】
図1のaに示すように、積層フィルム全体の積層構造5により形成される反射率スペクトル1は、反射帯域の短波長端において、積層構造3の寄与によりシャープな勾配を示す。一方で、反射帯域の長波長端では反射率スペクトルの勾配が短波長端に比べブロードであり、積層構造3から予想されるような反射率スペクトルのシャープ化を、積層構造4では達成できていないことが読み取れる。加えて、反射帯域の長波長端における反射率は短波長端に比べ高く、反射帯域内の反射率にも偏りが存在している。通常、この反射率の偏りは反射帯域の幅が広がるほどに増大し、積層フィルムの光学フィルタとしての性質を悪化させる要因となる。
【0029】
反射波長選択性の高い積層フィルムにおける反射率の偏りを解消する手法として、特許文献1、2では、原料の屈折率差の増大、または層数の増加により高反射率化する手法がとられてきた。しかしながら、これらの手法は、反射帯域内の反射率を99%以上に飽和させることで、反射率の偏りを目立たなくする手法であり、本質的な解決策ではない。また、反射帯域によっては反射帯域末端のシャープ化が達成できなくなる問題は依然として未解決である。したがって、特許文献1、2に記載の設計は、所望の反射帯域に対して、反射率を飽和させられるだけの層数、原料設計が許容される場合に対しては波長選択性に優れた積層フィルムが得られるが、そうでない場合、反射帯域末端における反射率のシャープ化と反射帯域内の反射率の均一化の両立が困難となる課題がある。この課題の解決は、今後層数と樹脂設計に関する制約が厳しくなるに従い、より重要となる一方で、上記課題を解決する具体的な設計指針については未解明であった。
【0030】
上記課題を解決する観点から、本発明の積層フィルムは、波長300nm~2000nmの範囲に、反射率が80%以上である反射帯域と、反射率が20%未満である透過帯域を有し、反射帯域と透過帯域の間に応答帯域を有し、最も反射帯域の広い波長における短波長端と長波長端をそれぞれλ1、λ2、短波長端の波長分解能をΔg1、長波長端の波長分解能をΔg2としたときに、式(1)によって表される参照波長λ0を用いた下記式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ異なる2種類の熱可塑性樹脂層をA層、B層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、前記範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、前記範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことを特徴とする。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)
式(2): 0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦30×λ0/((λ1-30)×λ1)
式(3): 0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100
ここで、反射率は、分光光度計で300nm~2000nmの光の反射率を1nm刻みで5回測定し、その平均値を算出することにより測定することができる(詳細な測定方法は後述する。)。
【0031】
本発明の積層フィルムにおける透過帯域、応答帯域、反射帯域の定義について、図面を用いて説明する。
図2は、積層フィルムの反射率スペクトルの模式図である。符号6~9で示す帯域は順に、反射率が連続して20%未満の帯域、符号6で示す帯域と符号8で示す帯域の間に位置する帯域、反射率が連続して80%以上の帯域、上記のいずれにも該当しない帯域を表す。本発明においては、これら
図2の符号6~9で表す帯域を順に、透過帯域、応答帯域、反射帯域、透過帯域、応答帯域、反射帯域のいずれにも該当しない帯域と定義する。また、反射帯域における短波長端と長波長端とは、その反射帯域に含まれる波長の中で、最も短い波長と最も長い波長のことをいう。
【0032】
参照波長λ0は、上述の測定方法により求められた反射帯域の中で、最も反射帯域幅の広い反射帯域(以下、単に広反射帯域と記述することがある。)の波長のうち、最も波長の短い、短波長端にあたる波長λ1と、最も波長の長い、長波長端にあたる波長λ2を用いて、上記式(1)から求められる。参照波長は、後述する還元スペクトルにおいて、広反射帯域を2等分する点であり、広反射帯域の光学的中心の波長を表す。参照波長λ0は、反射率スペクトルにおける広反射帯域の中心の波長(λ1+λ2)/2よりも短波長側に位置する。
【0033】
層対の波数(mで表す。)は、層対の光学層厚みを参照波長で割ることにより求められる。積層フィルムの反射波長を層対の波数mを用いて表すと、下記(I)式によって決定される
【0034】
【0035】
ここで、λは反射波長、nAはA層の面内屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の面内屈折率、dBはB層の厚みである。nAdA+nBdBはA層とB層からなる層対の光学層厚みを表す。
【0036】
反射波長において層対の波数が0.5であるとは、反射波長において層対を構成するA層とB層が干渉反射により光を強め合い、層の屈折率差に起因した高い反射性能を有することを意味する。層対を構成するA層とB層の光学層厚みがともに反射波長の4分の1である設計は、層対が反射波長の光を最も強く反射する、λ/4設計と呼ばれる設計であり、層対の波数が0.5である条件に含まれる。所望の反射波長λにおいて、波数mが0.5となるように層の屈折率、および層の厚みを制御することにより、高い反射率を得ることができる。
【0037】
続いて、式(2)、式(3)における波長分解能について説明する。本発明における波長分解能は、反射率スペクトルを、縦軸を反射率、横軸を参照波長/波長に変換したスペクトル(以後、還元スペクトルと記述することがある。)から求められる。広反射帯域は、還元スペクトルにおいて横軸の値が1(=λ0/λ0)となる点を含む反射帯域に対応する。広反射帯域の短波長端の波長分解能Δg1は、還元スペクトルのλ0/λ1に隣接する応答帯域の幅から求められ、広反射帯域の長波長端の波長分解能Δg2は、還元スペクトルのλ0/λ2に隣接する応答帯域の幅から求められる。
【0038】
波長分解能の表す意味について、以下に詳細に説明する。まず、シャープな勾配を有する還元スペクトル(以降、シャープな還元スペクトルと呼ぶことがある。)の波長分解能について、
図3を用いて説明する。
図3は、参照波長λ0がそれぞれ700nm、950nm、1200nmであり、層対の波数が参照波長において0.5となるように設計された、異なる2種類のA層:面内屈折率1.66のポリエチレンテレフタレート、B層:面内屈折率1.55の共重合ポリエチレンテレフタレート)が交互に101層積層された積層フィルムの還元スペクトルの一例である。
【0039】
図3に示すとおり、層対の波数が参照波長において0.5となる積層構造の還元スペクトルは実質的に一致しており、波長分解能Δg1、およびΔg2は実質的に同じ値となる。ここで重要なことは、反射波長において層対の波数が実質的に0.5となる積層構造によって形成される還元スペクトルは、積層数、熱可塑性樹脂層の屈折率差が同じである場合に一定であり、反射率スペクトルが反射波長の増加に伴い広帯域化する、波長依存性を有する一方で、波長に依存しないことである。したがって、反射波長において層対の波数が実質的に0.5となる積層構造によって形成される還元スペクトルの波長分解能は、所望の広反射帯域の短波長端と長波長端のシャープ化を検討する際の重要な指標となりうる。
【0040】
従来の積層フィルムの波長分解能の一例として、
図1aの反射率スペクトルを還元スペクトルに変換した図を
図4に示す。
図4の還元スペクトル10~13は、
図1のbに示す積層構造2~5がそれぞれ形成する反射率スペクトルを、シミュレーションにより計算し、反射率スペクトル1の参照波長を用いて還元スペクトルへ変換することで得られる還元スペクトルである。すなわち、
図4の還元スペクトル10、11、12、13を形成する積層構造は、それぞれ
図1のbの積層構造2、3、4、5に対応している。
【0041】
本発明者らが、シャープな還元スペクトルを形成する積層構造(以降、シャープ性を有する積層構造と呼ぶことがある。)を導入した積層フィルムにおいて、広反射帯域末端のシャープ性が低下する要因を鋭意検討した結果、広反射帯域内部を反射波長とする積層構造によって形成される、ブロードな還元スペクトルに起因していることを明らかにした。積層構造2によって形成される還元スペクトル10は、反射帯域末端における反射率の勾配が還元スペクトル11、12に比べてブロードであり、裾の広がったような還元スペクトルを有する。以下、反射帯域末端において、このようにシャープな還元スペクトルよりも勾配がブロードである部分をテーリングと呼ぶ。
【0042】
図4に示すように、従来の積層フィルムは、積層構造2に積層構造3を接合し、還元スペクトル10におけるテーリングを、シャープな還元スペクトル11で覆うことで、広反射帯域末端の短波長端でシャープ化を達成している。一方、広反射帯域の長波長端では、積層構造4によって形成される還元スペクトル12は還元スペクトル13のテーリングの内部に位置しており、その結果、広反射帯域の長波長端はシャープな還元スペクトル12によるシャープ化を達成できていない。
図4の積層フィルムにおいて、還元スペクトル13における波長分解能Δg2は0.19であり、積層構造4によって形成される還元スペクトル12の波長分解能Δg2の0.18より大きいことから、還元スペクトル13の波長分解能Δg2は長波長端においてテーリングによるブロード化が顕著な状態にあることを示している。
【0043】
このように、積層フィルムの波長分解能は、反射帯域末端においてテーリングを有する還元スペクトルと、シャープな還元スペクトルの分離度を表す指標である。広反射帯域のシャープ性に直結している。シャープな還元スペクトルがテーリングを有する還元スペクトルに内包されているほど、波長分解能は上昇する。一方で、シャープな還元スペクトルの反射波長をテーリングの波長から離す、またはテーリングを有する還元スペクトルのテーリング幅を縮小させることにより、波長分解能を低下させることが可能である。本発明者らは後述する層厚み設計によって、積層フィルムの波長分解能がシャープな還元スペクトルの波長分解能の範囲に含まれるように積層フィルムの波長分解能を制御することで、所望の広反射帯域末端でシャープ化を達成できることを見出した。
【0044】
本発明の積層フィルムの還元スペクトルについて
図5に示す。
図5において、符号18~21はそれぞれ順に、積層構造(中間部分)の光学層厚み、積層構造(光学層厚みの小さい表面側)の光学層厚み、積層構造(光学層厚みの大きい表面側)の光学層厚み、積層構造(全体)の光学層厚みを表す(以下、これらについて順に積層構造18~21ということがある。)。また、
図5において符号14~17は、順に積層構造18に対応する還元スペクトル、積層構造19に対応する還元スペクトル、積層構造20に対応する還元スペクトル、積層構造21に対応する還元スペクトルを表す。
【0045】
図5のaは、
図1と同様の層数、原料設計で積層された積層フィルムの還元スペクトルである。還元スペクトル14~17は、
図5のbに示す積層構造18~21が形成する還元スペクトルに対応する。
図5のaに示す本発明の積層フィルムの還元スペクトル17における波長分解能Δg2は0.11であり、Δg2≦30×λ0/((λ2-30)×λ2)=0.18の関係が満たされている。これは、広反射帯域の長波長端においてシャープな還元スペクトル16がテーリングを有する還元スペクトル14から分離していることを意味している。したがって、全体の還元スペクトル17において広反射帯域の長波長端でシャープ化が達成される。
【0046】
上記結果は、反射波長において層対の波数が0.5となる積層構造の波長分解能が、短波長端と長波長端で変わらないことから、短波長端の波長分解能Δg1でも同様の議論が成り立つ。したがって、所望の反射帯域の末端における積層フィルムの波長分解能が式(2)、または式(3)を満たすことで、所望の反射帯域の末端においてシャープな還元スペクトルを得ることができる。
また、Δg1、およびΔg2の値は小さいほど、シャープな還元スペクトルがテーリングを有する還元スペクトルから分離されるため、広反射帯域の末端でシャープ性が向上する。
よって、Δg1の範囲を表す式(2)は、好ましくは0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦20×λ0/((λ1-20)×λ1)であり、より好ましくは0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)≦Δg1≦10×λ0/((λ1-10)×λ1)である。Δg1が0.1×λ0/((λ1-0.1)×λ1)未満である場合、広反射帯域内部でテーリングが露出し、広反射帯域の反射性能が低下する場合がある。
【0047】
Δg2の範囲を表す式(3)は、好ましくは0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦20×λ0/((λ2-20)×λ2)であり、より好ましくは0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)≦Δg2≦10×λ0/((λ2-10)×λ2)である。Δg2が0.1×λ0/((λ2-0.1)×λ2)未満である場合、広反射帯域内部でテーリングが露出し、広反射帯域の反射性能が低下する場合がある。
【0048】
本発明の積層フィルムの波長分解能(Δg1、Δg2)をかかる範囲に調整する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂の組成(例えば、各層を構成する樹脂の粘度の差)を調整する方法、シャープ性を有する積層構造を調整する方法、テーリングを有する還元スペクトルを形成する積層構造を調整する方法等が挙げられる。
【0049】
まず、熱可塑性樹脂の組成の調整について説明する。積層フィルムは実際の製膜工程において、装置の積層精度と稼働安定状態に起因して、設計値と実測値からの層厚みの誤差を生じる。特に、反射帯域末端における高いシャープ性を実現するには、積層フィルムを構成する各層の層厚みの誤差の軽減は重要であり、高い積層精度が求められる。
【0050】
このような高い積層精度の達成方法としては、例えば、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bに粘性樹脂を用いる方法や、粘弾性挙動を示す樹脂を用いる方法があり、粘弾性挙動を示す樹脂を用いる場合は、粘度のべき乗則から求められるべき指数の差の絶対値が0.15以下であるとよい。より好ましくは0.10以下であり、さらに好ましくは、0.05以下である。ここでべき乗則とは、「溶融粘度=定数×剪断速度の-べき指数乗」で表される粘度特性のことである。粘性樹脂とは、280℃の条件において、剪断速度と溶融粘度曲線の関係から求められるべき指数が0.1以下の樹脂のことであり、より好ましくは、0.05以下の樹脂である。熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bに粘性樹脂を用いるか、もしくは、粘弾性挙動を示す樹脂を用いる場合は、粘度のべき乗則から求められるべき指数の差の絶対値が0.15以下であることによって、溶融押出プロセスにおいてA層とB層の積層構造の崩壊による層厚みの乱れが抑制され、積層精度を高めることができるため、設計通りの高いシャープ性を実現する積層フィルムを得ることができる。
【0051】
また、280℃の条件において、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの溶融粘度の差が4000poise以下であることが、上記達成方法を満たす条件として好ましい。より好ましくは2900poise以下、さらに好ましくは2000poise以下であり、特に好ましくは、1000poise以下である。
【0052】
反射帯域末端で高いシャープ性を有する積層構造の調整では、シャープな還元スペクトルがテーリングを有する還元スペクトルから露出するように、層厚みを設計することが重要である。そのような層厚み設計としては、例えば、シャープ性を有する積層構造の層数を増加させる、A層とB層の屈折率差を拡大させる方法が挙げられる。この方法では、波長633nmにおけるA層とB層の面内屈折率の差の絶対値が0.05以上であることが好ましい(屈折率の詳細な測定方法は後述する)。
【0053】
シャープな還元スペクトルの反射帯域はA層とB層の面内屈折率の差の絶対値が増加に伴って広帯域化される。したがって、波長633nmにおけるA層とB層の面内屈折率の差の絶対値が0.05以上であることによって、シャープな還元スペクトルのシャープ性が向上し、テーリングを有する還元スペクトルから露出しやすくなるために、所望の反射帯域の末端における波長分解能が上記の式(2)、または式(3)を好ましく満たす積層フィルムを得ることができる。上記観点から、波長633nmにおけるA層とB層の面内屈折率の差の絶対値は好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.15以上である。還元スペクトルの観点からは、A層とB層の面内屈折率の差の絶対値に上限はないものの、A層とB層の面内屈折率の差の絶対値の拡大は、前記(I)式に基づく層厚み設計において、A層とB層の層厚みの差の拡大を意味するため、層間剥離が生じやすくなるために、現実的には2.00が実用的な上限となり、好ましくは0.40、さらに好ましくは0.25である。
【0054】
テーリングを有する積層構造の調整としては、所望の広反射帯域末端の近傍を反射波長とする層対の数の調整や、後述する縦軸を参照波長/層対の反射波長、横軸を層対番号とした図に基づく層対の波数の設計が挙げられる。所望の広反射帯域末端の近傍を反射波長とする層対の数の調整は、テーリング幅の縮小に寄与する。所望の広反射帯域末端の近傍を反射波長とする層対の数を減らすことで、所望の広反射帯域末端における反射率の低下とテーリング幅の縮小が生じ、シャープな還元スペクトルに内包されることで、波長分解能を高めることができる。
【0055】
テーリングを有する積層構造の層対の数は、全体の層対の数の80.0%以下であることが好ましく、より好ましくは75.0%以下、さらに好ましくは70.0%以下である。テーリングを有する積層構造の層対の数を全体の層対の数の80.0%以下とすることにより、テーリングを有する還元スペクトルのテーリング幅が縮小し、波長分解能の低下に適した還元スペクトルとなる。下限は所望する広反射帯域の波長範囲、層数、A層とB層の屈折率差によって変化しうるが、テーリングを有する積層構造の層対の数の削減は、広反射帯域末端の反射率低下を意味し、反射の均一性を低下させる要因となるため、50.0%が現実的である。
【0056】
上に述べたように、所望の広反射帯域末端の近傍を反射波長とする層対の数を減らす調整方法は、波長分解能を向上させることができる一方で、広反射帯域末端の層対の数の減少により、反射の均一性を低下させる懸念がある。したがって、波長選択性に優れた積層フィルムを得るためには、所望の広反射帯域において、末端のシャープ化と反射の均一性を両立させる層厚み設計方法が重要となる。そこで、かかる範囲の波長分解能を達成することによる反射帯域末端のシャープ化と、反射の均一性を達成する積層フィルムの設計方法として、本発明の積層フィルムは異なる2種類の熱可塑性樹脂層のうち、面内屈折率の高い熱可塑性樹脂Aを主成分とする熱可塑性樹脂層をA層、面内屈折率の低い熱可塑性樹脂Bを主成分とする熱可塑性樹脂層をB層としたときに、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みを参照波長λ0で割ることにより求められる層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)を少なくとも含み、範囲Xにおいて、波数が0.5以上である層対の数をL1、波数が0.5未満である層対の数をL2としたときに、範囲Xにおける積層構造が下記式(4)を満たすことが必要である。
式(4): 0.900≦L1/L2≦1.100
ここで、隣接するA層とB層からなる層対の光学層厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定されるA層とB層の層厚みを用いて、隣接するA層とB層を1対の層対とした場合のA層とB層の光学層厚みの和を計算することで求められる(詳細な測定方法は後述する)。積層フィルムの全ての層に対して、順次、この操作を実施し、層対番号に対して得られる層厚み分布を平均層厚みの分布と定義する。
【0057】
式(4)のL1/L2は、範囲Xを満たす層対の中で、参照波長に対して短波長側を反射波長とする層対の数L1と、参照波長に対して長波長側を反射波長とする層対の数L2の比から求められる。L1/L2が小さい場合、範囲Xを満たす層対が参照波長に対し長波長側に偏った配置となっていることを表す。
【0058】
式(4)を満たすことにより、反射帯域における反射の均一性が向上し、波長選択性に優れた積層フィルムを得ることができる。以下これについて詳しく説明する。
【0059】
まず、従来の積層フィルムが、反射帯域の反射率スペクトルに傾きを生じる理由について説明する。一般に、反射波長が同じ層対の数が多いほど、その波長において層対の干渉反射による光の強め合いが多く発生し、反射率は高くなる。ここで重要なことは、
図3に示すように、光学層厚みが一定な積層構造であっても、形成される反射率スペクトルは反射帯域幅を有しており、干渉反射による光の強め合いは必ずしも同じ反射波長である必要はないことである。
【0060】
したがって、積層フィルムの反射率スペクトルは、各波長を実質的に反射波長とする層対が形成する反射率スペクトルが、干渉反射により合成されたスペクトルである。ここで、各波長を実質的に反射波長とする層対とは、各波長の近傍を反射波長とする層対であって、かつその層対が形成する反射率スペクトルが、各波長を反射波長とする層対の形成する反射率スペクトルの反射帯域内に含まれるような層対のことを意味する。波長λiが反射波長である、すなわち、波長λiにおいて層対の波数が0.5となる層対の、波長λにおける波数mは、式(II)のように表される。
【0061】
【0062】
層対の波数は波長の増加に対し反比例的に減少するとともに、反射波長の増加に対し比例的に増加する。式(II)は、反射波長に対して長波長側は短波長側に比べ波長の増加に伴う層対の波数の減少量が小さいことを示しており、すなわち、長波長側ほど層対の干渉反射による光の強め合いが起こりやすく、高反射率化されやすいことを意味している。
【0063】
したがって、層対の波数を用いた式(II)は、広反射帯域における反射の不均一化が、層対の波数の非線形的な波長依存性に起因していることを表している。本発明者らは、広反射帯域の光学的中心である参照波長に基づいた層配置により、所望の広反射帯域末端のシャープ性と、反射の均一性の両立が達成されることを見出した。
【0064】
従来の積層フィルムの一例として、
図1のbの符号5で示す構成の光学層厚み分布を波数分布に変換し、
図6の積層構造22に示す。参照波長が反射波長である層対の波数は0.5である。
図6の積層構造22に示すように、従来の積層フィルムは対して長波長側を反射波長とする層対の数が多く、層の配置に偏りが見られる。その原因は、層対の波数の波長依存性を考慮していないためである。層厚み設計では、一般的に反射率スペクトル上における広反射帯域の中心波長である(λ1+λ2)/2に基づき設計される。しかしながら、反射率スペクトル上における広反射帯域の中心波長は式(1)で表される広反射帯域の光学的中心である参照波長とは同一ではなく、常に参照波長よりも高い値を示しており、その結果、層の配置に偏りが生じる。
【0065】
参照波長は、広反射帯域のλ0を反射波長とする層対の波数のλ1における層対の波数をm1、λ2における層対の波数をm2とした場合、式(III)を満たす。式(III)は、参照波長において、反射帯域末端における層対の波数の変位が両端で等しくなることを示し、参照波長が、層対の波数の波長依存性を考慮した、光学的な真の中心であることを意味している。
【0066】
【0067】
本発明の積層フィルムの一例として、
図5aの還元スペクトルを形成する波数分布を
図6の積層構造23に示す。
図6の積層構造23の波数分布では、層対の波数が0.5以下、すなわち短波長側を反射波長とする層対の数が、
図6の積層構造22に示す従来の積層フィルムに比べ増加している。加えて、参照波長λ0に基づいた設計であるため、広反射帯域の中心波長である(λ1+λ2)/2に基づき設計された波数分布に比べ、層対の波数の最大値が低下している。よって、参照波長に基づいた設計により、L1/L2によって表される層対の配置のバランスを光学的に最適化することで、層対の干渉反射の波長依存性に起因した短波長端と長波長端の反射率の差の縮小させることができる。そのため、
図5のaに示すように、高いシャープ性と反射の均一性が両立された反射率スペクトルを得ることができる。
【0068】
そのような反射率スペクトルを達成するための層対の配置のバランスとして、L1/L2は0.900≦L1/L2≦1.100であることが必要である。L1/L2を0.900≦L1/L2≦1.100とすることで、広反射帯域を反射波長とする層対が、短波長側、長波長側に偏ることなく配置されているため、反射の均一性が向上する。L1/L2は好ましくは0.950≦L1/L2≦1.050、より好ましくは0.980≦L1/L2≦1.020である。L1/L2<0.90となる場合、反射帯域の長波長側が集中的に高反射率化され、反射の均一性が低下することがある。L1/L2>1.10となる場合、反射帯域の短波長側が集中的に高反射率化され、反射の均一性が低下することがある。
【0069】
本発明の積層フィルムにおいて、式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ式(4)を満たす達成方法の一例として、テーリングを有する積層構造の光学層厚みが、層番号の増加に対し非線形的に増加、あるいは減少するような層厚み設計に加えて、所望の広反射帯域を反射波長とする積層構造を傾斜部分により構成とすることが挙げられる。また、式(2)、(3)を満たす手段の箇所に示すように、各層を構成する樹脂の粘度を好適に調整することも効果的である。
【0070】
上記に述べた層厚み構成の具体的な達成方法として、
図7のaに示すように、設計段階で所望する反射帯域の光学的中心を参照波長とし、縦軸を参照波長/層対の反射波長、横軸を層対番号とした図に基づき層構成を設計する方法が挙げられる。
図7のbは、
図7のaに基づき各層対の波数を調整し、層対を構成するA層とB層の光学層厚みが等しくなるよう設計した積層フィルムの光学層厚み分布の一例である。
図7の符号24~26はそれぞれ順に、積層構造(光学層厚みの小さい表面側)に対応する層対の波数設計、積層構造(中間部分)に対応する層対の波数設計、積層構造(光学層厚みの大きい表面側)に対応する層対の波数設計を表す(以下、これらを順に積層構造24~26ということがある。)。また、
図7の符号27~29はそれぞれ順に、積層構造24に対応する光学層厚みの一例、積層構造25に対応する光学層厚みの一例、積層構造26に対応する光学層厚みの一例を表す(以下、これらを順に積層構造27~29ということがある。)。
【0071】
図7のaの積層構造24~26は、それぞれ
図7のbの積層構造27~29に対応する。
図7のaの積層構造25と
図7のbの積層構造28から顕著に示されるように、
図7aに基づいた設計は、光学層厚みに変換する際に層対の波数の波長依存性を反映した反比例の関数が合成される。
【0072】
図7のaに記載の参照波長/層対の反射波長と層対番号の関係により設計された光学層厚み分布は、所望の反射帯域の光学的中心に基づき設計され、かつ層対の波数の波長依存性が反映されている。そのため、このような設計手段を用いることにより、式(4)を達成することができる。さらに、シャープ性を有する積層構造を用い、上記設計手段により層厚みを設計することで、式(2)、式(3)の少なくとも一つを満たし、かつ式(4)を満たす、広反射帯域末端のシャープ性と反射の均一性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0073】
説明を容易にするため、広反射帯域内部を反射波長とし、かつ層対番号の増加に伴い線形に参照波長/層対の反射波長が減少する積層構造25を用いたが、本発明の積層フィルムにおいて、積層構造25に相当する積層構造は、層対番号の増加に伴い非線形的または離散的に変化してもよい。この場合の非線形関数としては、例えば、指数関数、ロジスティック関数などが挙げられる。
【0074】
このような設計方法は、層対の波数の波長依存性を考慮した干渉反射の制御を特徴とする。上に述べたように、実際には、装置の設計精度や製膜装置の稼働安定性などが影響し、層対の波数の設計値からの誤差が発生するため、式(4)の範囲を逸脱する場合がある。したがって、本発明の積層フィルムは、所望の広反射帯域を反射波長とする積層構造が、層対の波数の設計値からの誤差に強い設計とすることが望ましい。
【0075】
そのような設計の一例としては、層対の波数分布を傾斜部分により構成することが挙げられる。ここで、傾斜部分とは、層対の波数分布において、層対番号の+1で隣接する層対の波数の差の絶対値と、層対番号の-1で隣接する層対の波数の差の絶対値がともに0.05以下となるような積層構造のことを示す。このような傾斜部分を有することにより、本願の範囲である波長300nm~2000nmにおいて、隣接する層対同士が、層対の持つ反射帯域幅によって層対の波数の設計値からの誤差を互いにカバーできるようになるため、層対の波数の設計値からの誤差に耐性を有するようになる。上記理由から、傾斜部分において層対番号の+1で隣接する層対の波数の差の絶対値と、層対番号の-1で隣接する層対の波数の差の絶対値は小さいほどよい。すなわち、同一層数の条件においては、所望の広反射帯域を反射波長とする傾斜部分の数を減らし、傾斜部分一つ当たりに含まれる層数を増やす方が、所望の広反射帯域を反射波長とする傾斜部分の数が多い場合に比べて反射の均一性に優れた積層フィルムを得ることが容易となる。
【0076】
したがって、本発明の積層フィルムは、所望の広反射帯域を反射波長とする積層構造が傾斜部分により構成されていることが好ましく、より好ましくはその積層構造が二つ以下の傾斜部分から構成されていることであり、さらに好ましくは一つの傾斜部分から構成されていることである。
【0077】
本発明の積層フィルムは、前記層対の波数が、一方の表面側から反対表面側に向かうにつれて徐々に変化する傾斜部分(傾斜部分Y)を含み、かつ前記傾斜部分Yにおいて下記条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
条件(A): 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最小値を含む。
条件(B): 0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に極値を1つ以上3つ以下有し、かつその極値に前記傾斜部分Yにおける波数の最大値を含む。
【0078】
ここで、傾斜部分とは積層フィルムの一方の表面側からの層対番号における層対の波数について、巨視的にみて傾斜部分を有することを意味する。ここで巨視的にみて傾斜部分を有するとは、一方の表面側からの層対番号と層対の波数を対応させた場合に、層対番号の+1で隣接する層対の波数の差の絶対値と、層対番号の-1で隣接する層対の波数の差の絶対値がともに0.05以下である部分を意味する。例えば、面内屈折率が1.66であるA層、面内屈折率が1.54であるB層が交互に積層された積層フィルムにおいて、参照波長が995nmである場合、B層を挟んで隣接するA層の厚みの差の絶対値が、積層フィルムの表面側と反対表面側でともに8nm未満であり、かつA層を挟んで隣接するB層の厚みの差の絶対値が、積層フィルムの表面側と反対表面側でともに9nm未満である部分は前記傾斜部分Yに含まれる(A層とB層の屈折率の詳細な測定方法は後述する)。
【0079】
本発明において極値とは、傾斜部分Yにおいて、横軸に一方の表面側からの層対番号、縦軸に層対の波数を取り、7点の中心化移動平均によりスムージングを行うことで得られる曲線上で、層対番号の+1で隣接する層対の波数の差が0.005以下である点を意味する。前記極値が連続している部分が存在する場合、その部分の極値は1つとして数える。前記傾斜部分Yが複数存在する場合、それぞれの傾斜部分Yについて上記と同様の手法で極値を求め、極値の数の合計を用いる。
【0080】
傾斜部分Yが極値を有する場合、極値近傍を反射波長とする層対が、Macleod著「光学薄膜原論(発行所:アドコム・メディア株式会社)」初版(発行年月日:2013年4月20日)、249ページに記載されているような等価膜構造を形成する。ここで重要な点は、等価膜構造全体の屈折率に対応する等価アドミタンスは、等価膜構造を形成する層対の波数の調整、または別の等価膜構造の導入によって調整することができ、A層、B層の屈折率とは異なる値をとることができる点である。条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たすことで、等価膜構造の等価アドミタンスと、等価膜構造と隣接する媒質との屈折率差が小さくなり、広反射帯域末端近傍における反射率の周期的な振動を抑制することができるために、結果広反射帯域末端のシャープ性が向上する。
【0081】
条件(A)を充足することは広反射帯域末端の短波長端のシャープ化に寄与し、0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に含まれる極値の数(以降、短波長端極値数と呼ぶことがある。)は好ましくは1つ以上3つ以下、より好ましくは1つである。短波長端極値数を1つ以上3つ以下とすることで、等価膜構造により広反射帯域末端近傍における反射率の周期的な振動を抑制することができるため、広反射帯域末端のシャープ性が向上する。
【0082】
また、短波長端極値数を1つとすることで、極値により形成される等価膜構造どうしの干渉反射が抑制され、反射帯域における光反射性に優れた積層フィルムを得ることができる。短波長端極値数が0である場合、傾斜部分Yは、短波長端近傍における反射率の周期的な振動を抑制することができないために、広反射帯域末端の短波長端でシャープ性が低下する。短波長端極値数が4つ以上である場合、等価膜構造同士の干渉反射による光の強め合いや弱めあいが多重に発生し、広反射帯域末端の短波長端でシャープ性が低下する要因となることがある。
【0083】
条件(B)を充足することは広反射帯域末端の長波長端のシャープ化に寄与し、0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に含まれる極値の数(以降、長波長端極値数と呼ぶことがある)は好ましくは1つ以上3つ以下、より好ましくは1つである。長波長端極値数を1つ以上3つ以下とすることで、等価膜構造により広反射帯域末端近傍における反射率の周期的な振動を抑制することができるため、広反射帯域末端のシャープ性が向上する。
【0084】
また、長波長端極値数を1つとすることで、極値により形成される等価膜構造どうしの干渉反射が抑制され、反射帯域における光反射性に優れた積層フィルムを得ることができる。長波長端極値数が0である場合、傾斜部分Yは、長波長端近傍における反射率の周期的な振動を抑制することができないために、広反射帯域末端の長波長端でシャープ性が低下する。長波長端極値数が4つ以上である場合、等価膜構造どうしの干渉反射による光の強め合い、弱めあいが多重に発生し、広反射帯域末端のシャープ性が低下する要因となることがある。
【0085】
条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たす積層フィルムを得るためには、所望の条件の範囲内で極値を有するような層厚み設計を採用するとともに、設計した層対以外の部分で極値を生じないものとするために、多層積層装置から口金で吐出されるまでの流路において、樹脂流の乱れが生じにくい製造条件を用いることが好ましい。
【0086】
具体的には、溶融樹脂が壁面から受ける抵抗を減らす観点から、溶融樹脂と接する壁面の最大粗さが0.4μm以下である多層積層装置、ダイを用いることなどが効果的である。加えて、多層積層装置として後述するフィードブロックを用いる場合、積層フィルムの各層に対応するスリットから流出する溶融樹脂の流速を揃えるために、スリットの間隔を揃え、スリットの幅またはスリット長の調整により流速を制御することが効果的である。
【0087】
加えて、熱可塑樹脂Aと熱可塑樹脂Bの流動性の違いに起因した対流を防ぐ観点から、280℃において熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの溶融粘度の差が2000poise以下となる組み合わせとすることが効果的である。また、溶融積層体における、A層とB層の密着性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bを結晶性/非晶性の組み合わせとすることや、同一の基本骨格を供えた組み合わせとすることも効果的である。
【0088】
このような製造条件とすることで、溶融積層体の樹脂流が安定化され、条件(A)、条件(B)の少なくとも一つを満たす積層フィルムを効果的に得ることができる。これらの好ましい製造条件のうち、少なくとも3つ以上の条件を併用して積層フィルムを製造することが好ましく、より好ましくは、全ての条件を併用することである。
【0089】
本発明の積層フィルムは、前記傾斜部分Yにおいて、下記条件(C)、(D)の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
条件(C)0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に該部分における層対の波数の最小値との差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が合計で20個以上60個以下である。
条件(D)0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に該部分における層対の波数の最大値との差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数が合計で20個以上60個以下である。
【0090】
ここで、条件(C)または条件(D)を満たすような層対の群に含まれる層対の数は、傾斜部分Yにおいて、横軸に一方の表面側からの層対番号、縦軸に層対の波数を取り、7点の中心化移動平均によりスムージングを行うことで得られる曲線から求められる。層対の群が複数存在する場合、それらに含まれる層対の数の合計を用いる。
【0091】
条件(C)は広反射帯域末端の短波長端の反射率に寄与し、層対の波数の最小値との差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数の合計(以降、短波長端層対数と呼ぶことがある。)は20個以上60個以下であることが好ましい。短波長端層対数を20個以上60個以下とすることで、広反射帯域末端の短波長端の反射率が向上し、広反射帯域末端の短波長端でシャープ性が向上する。高反射率化の観点から、短波長端層対数は好ましくは20個以上60個以下、より好ましくは30個以上60個以下である。
【0092】
短波長端層対数が20個未満である場合、層対の波数が実質的に一定となる積層構造により形成される反射率スペクトルはシャープ性が低く、広反射帯域末端の短波長端におけるシャープ化に寄与しないことがある。一方、短波長端層対数が61個以上である場合、短波長端における反射率の周期的な振動が高反射率化されることで、広反射帯域末端の短波長端でシャープ性が低下することがある。
【0093】
条件(D)は広反射帯域末端の長波長端の反射率に寄与し、層対の波数の最大値との差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数の合計(以降、長波長端層対数と呼ぶことがある。)は好ましくは20個以上60個以下、より好ましくは30個以上60個以下である。長波長端層対数を20個以上60個以下とすることで、広反射帯域末端の長波長端の反射率が向上し、広反射帯域末端の長波長端でシャープ性が向上する。高反射率化の観点から、長波長端層対数は好ましくは20個以上60個以下、より好ましくは30個以上60個以下である。
【0094】
長波長端層対数が20個未満である場合、層対の波数が実質的に一定となる積層構造により形成される反射率スペクトルはシャープ性が低く、広反射帯域末端の長波長端におけるシャープ化に寄与しないことがある。一方、長波長端層対数が61個以上である場合、長波長端における反射率の周期的な振動が高反射率化されることで、広反射帯域末端の長波長端でシャープ性が低下することがある。
【0095】
条件(C)、条件(D)の少なくとも一つを満たす積層フィルムを得るためには、所望の条件の範囲を満たすような設計要件に加えて、所望の広反射帯域末端においてシャープ性を有する積層構造を最表層の樹脂流に影響されづらい設計とすることが好ましい。
【0096】
具体的には、所望の広反射帯域末端においてシャープ性を有する積層構造を、最表層から離れた内層に位置するように層厚みを設計することが効果的である。これにより、溶融積層体において、所望の条件の範囲に含まれる層対は装置内の壁面抵抗による樹脂流の乱れによる影響を受けづらくなり、所望の条件の範囲における積層精度が向上する。したがって、厚み方向におけるシャープ性を有する積層構造部と最表層との距離が、全体の層厚みに対して5%以上となるように設計されることが好ましい。ここで、厚み方向におけるシャープ性を有する積層構造部と最表層との距離とは、シャープ性を有する積層構造部を構成する層のうち、最も最表層に近い層から、当該最表層の内層側の界面までの距離を示す。
【0097】
また、溶融積層体において、熱可塑樹脂Aと熱可塑樹脂Bの流動性の違いに起因した対流を防ぐことも効果的である。具体的には、280℃において熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの溶融粘度の差が2900poise以下、好ましくは1000poise以下となる組み合わせとすることが効果的である。また、溶融積層体における、A層とB層の密着性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bを結晶性/非晶性の組み合わせとすることや、同一の基本骨格を供えた組み合わせとすることも効果的である。
【0098】
このような製造条件とすることで、層対の波数が実質的に一定となる積層構造を高度に積層することが可能となり、条件(C)、条件(D)の少なくとも一つを満たす積層フィルムを効果的に得ることができる。これらの好ましい製造条件のうち、少なくとも1つ以上の条件を併用して積層フィルムを製造することが好ましく、より好ましくは、3つ以上の条件を併用することである。
【0099】
本発明の積層フィルムは、傾斜部分Yに含まれる層対の波数と移動平均値との差を、端点を除き一方の表面側から反対表面側に至るまでプロットした残差分布に対し、1周期の離散フーリエ変換(DFT)を適用することにより求められるピーク強度の最大値が1.0×10-5以上1.0×10-2以下であることが好ましい。
【0100】
ここで、層対の波数の移動平均値とは、傾斜部分Yに含まれる層対の波数と、その層対の前後3つの層対の波数からなる7点の中心化移動平均値を計算することで求められる。端点は、前記の7点の中心化移動平均法で計算することのできない点である。具体的には、傾斜部分Yに含まれる層対の番号を1、2、…n-1、nとした場合、1、2、3、n-2、n-1、nの6点が端点に該当する。残差分布は、端点を除いた傾斜部分Yにおいて、縦軸を層対の波数と移動平均値との差(以下、層対の残差と記述することがある。)、横軸を層対番号としてプロットした分布を表す。
【0101】
以下、ピーク強度について説明する。
図3に示すように、層対の形成する還元スペクトルは、反射帯域の末端において反射率の周期的な振動を生じる。この反射率の周期的な振動はリップルと呼ばれ、隣接する層対の位相差、屈折率差が大きいほど顕著となる。したがって、層対番号の増加に伴う層対の残差の変動が大きいことは、隣接する層対の位相差が大きく変動することを意味している。特に、層対番号の増加に伴う層対の残差の変動が大きい部分が局所的に存在する場合、層対間で意図しない干渉反射が発生し、リップルを含むノイズ状の反射率の振動が生じるために、反射率の低い透過帯域での光透過性を低下させる要因となる。
【0102】
ピーク強度の最大値は、層対番号の増加に伴う層対の残差の変動と局所性を表す指標であり、ピーク強度が大きいことは、層対番号の増加に伴う層対の残差の変動が大きい部分が局所的に存在し、当該部分において光透過性が低下することを意味する。ピーク強度の最大値は、層対の残差を標本点とし、前記傾斜部分Yに含まれる層対の数を標本点数とした1周期のDFTを行うことで得られる、縦軸をピーク強度、横軸を層対番号/標本点数としたパワースペクトルから求められる。ピーク強度の最大値を0.00001以上0.01以下とすることにより、層対間の位相差に起因したリップルの生成が抑制され、透過帯域の光透過性を高めることができる。
【0103】
上記観点から、ピーク強度の最大値は1.0×10-5以上1.0×10-2以下であることが好ましく、より好ましくは1.0×10-5以上5.0×10-3以下、さらに好ましくは1.0×10-5以上1.0×10-3以下である。ピーク強度の最大値が1.0×10-5未満であることは、傾斜部分Yは層対の波数が実質的に一定であることを表し、このような態様では、傾斜部分Yに隣接する媒質との位相差と屈折率差を小さくすることによるリップルの制御が困難となり、広反射帯域末端のシャープ性が低下することがある。また、ピーク強度の最大値が1.0×10-2より大きい場合、上述のように層対間で意図しない干渉反射が発生し、リップルを含むノイズ状の反射率の振動が生じるため、透過帯域での光透過性が低下することがある。
【0104】
ここで、層対の波数が実質的に一定であるとは、層対の残差が、前記傾斜部分Yの全域で実質的に0であることを意味する。層対の残差が実質的に0であることを判定するためには、前記傾斜部分Yにおける層対の波数の増減の傾向を考慮する必要があるため、ピーク強度の最大値が1.0×10-5未満であることを判定基準とすることが好ましい。
【0105】
かかる範囲のピーク強度の最大値を達成する主な方法としては、層対の波数の設計値と実測値との誤差の抑制であり、特に、層対の波数の誤差が局所的にならないよう制御することが重要となる。そこで、層対の波数の誤差が局所的にならないよう制御する方法について説明する。本発明の積層フィルムにおいて、局所的な層対の波数の誤差を生じる主な部分は、反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造部である。なぜならば、反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造部は、積層構造において層対の波数が実質的に一定となるように設計され、他の設計とは異なる層厚みの変化を示すためである。したがって、層対の波数の誤差が局所的にならないよう制御するためには、反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造を高精度に積層することが課題である。
【0106】
上記課題を解決する方法としては、例えば、溶融積層体において、シャープ性を有する積層構造部の流速を安定化させることが好ましい。具体的には、シャープ性を有する積層構造部の層厚みを厚く設計すること、シャープ性を有する積層構造部を最表層から離れた内層に設計することや、先に述べた、樹脂流が乱れにくい製造条件を用いることが挙げられる。
【0107】
シャープ性を有する積層構造部の層厚みを厚く設計する理由について述べる。本発明の積層フィルムの製造においては、2種の熱可塑性樹脂それぞれを溶融させて押し出し、積層装置を用いて交互に積層することで、一つの溶融積層体を得る。このときの溶融押出プロセスにおいて、溶融積層体の各層には熱可塑性樹脂の粘弾性の差に起因した異なる応力が加わっており、これが層厚みの誤差を生じる要因となる。
【0108】
反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造部の層厚みを厚く設計することは、溶融積層体において当該積層構造部の層厚みが厚いことを意味する。溶融積層体の層厚みを厚くすることにより、溶融押出プロセスで、隣接する媒質から受ける応力の効果が相対的に小さくなり、その結果、反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造の層厚みの誤差が抑えられ、ピーク強度の増加を抑制することができる。したがって、設計段階において、反射率スペクトルのシャープ性を有する積層構造部の層厚みを厚くすることにより、ピーク強度の増加を軽減することができる。したがって、本発明の積層フィルムは、シャープ性を有する積層構造部一つあたりの層厚みが積層フィルム全体の厚みに対して3.0%以上となるように設計されることが好ましく、より好ましくは9.0%以上、さらに好ましくは12.0%以上、特に好ましくは13.0%以上である(層厚みの詳細な測定方法は後述する)。
また、シャープ性を有する積層構造部を最表層から離れた内層に設計することも好ましい。具体的には、厚み方向におけるシャープ性を有する積層構造部と最表層との距離が、全体の層厚みに対して5%以上となるように設計されることが好ましい。ここで、厚み方向におけるシャープ性を有する積層構造部と最表層との距離とは、シャープ性を有する積層構造部を構成する層のうち、最も最表層に近い層から、当該最表層の内層側の界面までの距離を示す。これにより、溶融積層体において、シャープ性を有する積層構造部は装置内の壁面抵抗による樹脂流の乱れの影響を受けづらくなり、シャープ性を有する積層構造部の積層精度が向上することで、ピーク強度の最大値が本発明の範囲となる積層フィルムを得ることが容易になる。
【0109】
本発明の積層フィルムは、範囲Xに含まれる層対におけるA層とB層の光学層厚みの差の絶対値が0以上0.05×λ0以下であることが好ましい。ここで、光学層厚みとは、波長633nmにおける層の面内屈折率と層厚みの積によって定義される。範囲Xに含まれる層対におけるA層とB層の光学層厚みの差の絶対値を0.05×λ0以下とすることで、層対を構成するA層とB層の光学位相差の差に起因したノイズ状の反射率の振動が抑制され、透過帯域における光透過性を高めることができる。加えて、範囲Xに含まれる層対におけるA層とB層の光学層厚みの差の絶対値を0以上0.01×λ0以下とすることで、層対のA層とB層がともに反射波長の光の反射に好適な層厚みになるため、反射性能が向上する。したがって、範囲Xに含まれる層対におけるA層とB層の光学層厚みの差の絶対値は、好ましくは0以上0.05×λ0以下であり、より好ましくは0以上0.01×λ0以下である。
【0110】
一方、範囲Xに含まれる層対におけるA層とB層の光学層厚みの差の絶対値が0.05×λ0より大きい場合は、隣接するA層とB層の光学位相差に起因したノイズ状の反射率の振動が透過帯域に生じるため、透過帯域における光透過性が低下する。このような特徴の積層フィルムを得るためには、溶融押出プロセスにおいて、熱可塑性樹脂A吐出量/熱可塑性樹脂B吐出量で表される吐出比が、積層フィルムのB層の面内屈折率/A層の面内屈折率で表される屈折率比に対し、0.90倍以上1.10倍以下となるように、ギアポンプを用いて各熱可塑性樹脂の吐出量を調整することが好ましい(屈折率の詳細な測定方法は後述する)。
【0111】
溶融押出プロセスにおいて、熱可塑性樹脂A吐出量/熱可塑性樹脂B吐出量で表される吐出比を、熱可塑性樹脂Bの面内屈折率/熱可塑性樹脂Aの面内屈折率で表される屈折率比に対し、0.90倍以上1.10倍以下とすることで、隣接するA層とB層の光学層厚みが揃った積層フィルムを得ることができる。吐出比は、好ましくは比屈折率に対し0.90倍以上1.10倍以下であり、より好ましくは0.95倍以上1.05倍以下である。
【0112】
本発明の積層フィルムは、A層とB層の少なくとも一方の主成分がポリエステルであることが好ましく、より好ましくは両方の主成分がポリエステルであることが好ましい。A層とB層の少なくとも一方の主成分がポリエステルであることにより、製膜工程における積層精度を高めることができるため、透過帯域の光透過性に優れたフィルムを得ることができる。
【0113】
A層とB層の少なくとも一方の主成分がポリエステルであることが好ましく、より好ましくは最表層を構成する熱可塑性樹脂が結晶性ポリエステルを主成分とすることである。また、A(BA)nや、B(AB)nのような構成(ここでnは、繰り返し数を表す自然数である。)とした上で、最表層を構成していない層は非晶性ポリエステル、又は最表層を構成する熱可塑性樹脂よりも5℃~100℃低い融点を有する結晶性ポリエステルを主成分とすることがより好ましい。最表層を構成している層が結晶性ポリエステルを主成分とし、最表層を構成していない層が非晶性ポリエステルを主成分とする、または最表層を構成する熱可塑性樹脂よりも5℃~100℃低い融点を有する結晶性ポリエステルを主成分とすることで、より高度な配向の制御が可能となり、熱処理プロセスにおける熱収縮による層厚みムラを制御することができ、積層精度をより高めることができるため、透過帯域の光透過性に優れたフィルムを得ることができる。
【0114】
本発明の積層フィルムに用いることができる熱可塑性樹脂A、Bとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合体,付加重合体,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性および汎用性の観点から、特にポリエステルを用いることがより好ましい。これらは、共重合体であっても、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0115】
ポリエステルとは、ジカルボン酸単位とジオール単位がエステル結合により繋がった分子構造を有する樹脂をいう。ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体からの重合により得られるポリエステルが好ましい。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0116】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0117】
本発明の積層フィルムの各層の主成分となる熱可塑性樹脂としては、例えば、上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体などから選択することが好ましい。
【0118】
また、熱可塑性樹脂A、Bには、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤などを、その特性を悪化させない程度に単独で又は複数成分を組み合わせて添加させることができる。
【0119】
以下、本発明の積層フィルムを用いてなる光学フィルタについて説明する。なお、ここで光学フィルタとは、特定の帯域の光を選択的に反射あるいは透過するように設計された光学部材を示す。本発明の積層フィルムは、反射の波長選択性に優れるため、光学フィルタに用いることで波長選択性に優れた光学フィルタを得ることができる。
【0120】
本発明の積層フィルムを用いてなる光学フィルタは、市販されている、ホットミラー、コールドミラー、ハーフミラー、レーザーミラー、ダイクロイックフィルタ、熱線反射膜、近赤外カットフィルタ、単色フィルタ等として種々の用途に用いることができる。例えば、遮熱用途、ディスプレイ用途、光センサ(光計測装置)用途、太陽電池用反射部材用途、偽造防止用途、装飾材料用途、光情報通信用途などが挙げられる。特に本発明の積層フィルムは、近赤外カットフィルタ、ダイクロイックフィルタ、単色フィルタに用いられることが好ましい。これら光学フィルタは、遮熱用途、ディスプレイ用途、光センサ(光計測装置)用途に主に利用されており、波長選択性に加えて、近年、薄型化が求められている。本発明の積層フィルムは、少ない層数ながら、広反射帯域末端のシャープ性と反射の均一性を高い水準で実現できるため、光学フィルタに本発明の積層フィルムを用いることで、波長選択性の向上と、薄型化を両立させることができる。
【0121】
また、本発明の積層フィルムを用いてなる光学フィルタは積層フィルムと少なくとも積層フィルムの一方の面に支持体が積層された構成を持つことが好ましい。
【0122】
支持体としてはガラスや樹脂が挙げられ、樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などが好ましい。また、積層フィルムと支持体の積層方法としては、粘着剤や接着剤などを用いて接着層を形成することによる貼り合わせ等が挙げられ、粘着剤や接着剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等が挙げられる。また、これらの粘着剤や接着剤には、粘着性調整剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、架橋剤等を添加してもよい。これら接着剤の加工前の形態としては、液状、ゲル状、塊状、粉末状、フィルム状などの形態が挙げられる。接着層の固化方法としては、溶剤揮散、湿気硬化、加熱硬化、硬化剤混合、嫌気硬化、紫外線硬化、熱溶融冷却、感圧などが挙げられる。積層方法としてはラミネート成形やインジェクション成形などが挙げられ加熱、加圧、上述した接着層の固化方法を用いることで光学フィルタが作製される。支持体は透明でも着色されていてもよく、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、本発明の光学フィルタを遮熱用途に用いる場合は、透明であることが好ましい。
【0123】
次に、本発明の積層フィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。但し、本発明の積層フィルムは係る例に限定して解釈されるものではない。
【0124】
熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて熱風中あるいは減圧下で乾燥された後、別々の押出機に供給される。押出機内において、融点以上の温度で加熱溶融された各ペレットは、ギアポンプ等で押出量を均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂などが取り除かれる。これらの溶融樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、シート状に吐出される。そして、ダイから吐出されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、未延伸フィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。このとき熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bは、2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、シート状で吐出される前に多層積層装置へ送り込む。
【0125】
本発明の積層フィルムの重要な要素である、所望の広反射帯域末端における高いシャープ性ならびに広反射帯域の反射の高い均一性を実現するためには、波長分解能や層配置のバランスを本願の範囲とするために、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bを高精度に積層させる製造条件が重要となる。特に、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bには、多層積層装置に送り込んだ後に、樹脂流の乱れが起こりにくい原料の組み合わせを用いることが好ましい。具体的には、280℃の条件において、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの溶融粘度の差が4000poise以下であることが、上記達成方法を満たす条件として好ましい。上記観点から、より好ましくは2900poise以下であり、さらに好ましくは2000poise以下であり、特に好ましくは1000poise以下である。
【0126】
積層装置としては、マルチマニホールドダイ、フィードブロック、およびスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の積層フィルムの効果を効率よく得るためには、各層ごとの層厚みを個別に制御できるマルチマニホールドダイ、もしくはフィードブロックが好ましい。さらに各層の厚みを精度良く制御するためには、加工精度0.1mm以下の放電加工、ワイヤー放電加工にて、各層の流量を調整するスリットを有するフィードブロックを用いることがより好ましい。このようなスリットを有するフィードブロックにおいては、各層の流量は、スリットの間隔、スリットの長さ、スリットの幅によって制御される。各層の流速は、各層の流量をスリットの断面積で除した値に比例する。そこで、各層の流速を制御するため、各層の流量はスリットの幅、またはスリットの長さで調整されることが好ましい。このようにしてスリットを調整したフィードブロックは、スリットの断面積が装置の設計精度に影響されづらく、各層の流速を高度に制御することができるため、所望の広反射帯域末端におけるシャープ性と広反射帯域の反射の均一性に優れた積層フィルムが得られる点で好ましい。
【0127】
また、フィードブロック内の壁面抵抗を抑制するため、壁面の粗さを0.4μm以下にすることも好ましい。このような高精度なフィードブロックを用いると、最表層の樹脂流の乱れを抑制することができ、所望の広反射帯域末端におけるシャープ性と広反射帯域の反射の均一性に優れた積層フィルムが得られるようになり好ましい。
【0128】
このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層体はダイへと導かれ、上述の通り未延伸フィルムが得られる。得られた未延伸フィルムは、続いて長手方向および幅方向に二軸延伸されることが好ましい。このとき逐次に二軸延伸してもよいし、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0129】
この際、溶融積層体の最表層が壁面から受ける抵抗を低減するため、多層積層装置からダイにかけての壁面の最大粗さは0.4μm以下にすることが好ましい。このような高精度なフィードブロックを用いると、最表層の樹脂流の乱れを抑制し、積層精度の向上により、所望の広反射帯域末端におけるシャープ性と広反射帯域の反射の均一性に優れた積層フィルムが得られるようになり好ましい。
【0130】
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための一軸延伸を指し、通常は、ロールの周速差により施され、1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては、積層フィルムを構成する樹脂のうち、ガラス転移温度が最も高い樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲内に設定することが好ましい。
【0131】
このようにして得られた一軸延伸フィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0132】
幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいう。幅方向の延伸は通常、テンターを用いて、フィルムの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、対向するクリップ間の距離を徐々に広げることで行う。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては、積層フィルムを構成する樹脂のうち、ガラス転移温度が最も高い樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲内に設定することが好ましい。
【0133】
こうして二軸延伸されたフィルムは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やされて巻き取られる。また、必要に応じて、低配向角およびフィルムの熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用してもよい。
【0134】
つづいて、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0135】
次に、キャストフィルムを、同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6~50倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、面積倍率として8~30倍が特に好ましく用いられる。また、面内の特定方向への配向を強く発現するために、長手方向と幅方向の延伸倍率を異なる数値にすることも好ましい。延伸速度は同じ速度でもよく、異なる速度で長手方向と幅方向に延伸してもよい。また、延伸温度としては、積層フィルムを構成する樹脂のうち、ガラス転移温度が最も高い樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲内に設定することが好ましい。
【0136】
こうして同時二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。二軸延伸されたフィルムは、このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られ、本発明の積層フィルムが製造される。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行ってもよい。熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理する。
【0137】
以上のようにして得られた積層フィルムは、巻き取り装置を介して必要な幅にトリミングされ、巻き取り皺が付かないようにロールの状態で巻き取られる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにフィルム幅方向の両端部にエンボス処理を施してもよい。
【0138】
本発明の積層フィルムは、より強く配向延伸される方向が、幅方向であることが好ましい。長手方向に強く延伸する場合、上述の通りロール間の周速差を利用した引張により延伸することから、延伸時にフィルムとロールが擦れて傷がつく場合や、延伸時に幅方向にフィルムが収縮するネッキング現象が発生しフィルムの厚み斑を誘発しやすくなる場合がある。幅方向延伸においては、幅方向をクリップで把持して延伸するため、擦れて傷が発生する問題は生じず、また、強いネックダウンを生じる可能性も低いことから好ましい。
【0139】
本発明の積層フィルムを延伸する際、延伸時の延伸速度が、30%/分以上5000%/分以下であることが好ましい。延伸速度を当該範囲に設定することで、積層フィルムに適度な熱供給ができ、幅方向での均一な配向制御が達成可能となる。延伸速度が30%/分以下の場合、積層フィルムを構成する樹脂の配向化が十分に達成できないことがある。そのため、幅方向において配向のムラが生じ、熱処理工程において幅方向で層厚みにムラを生じるために、生産性低下を招く場合がある。一方、延伸速度を5000%/分より大きくした場合、熱が十分に供給されないまま積層フィルムを急に延伸することとなり、幅方向のフィルム温度ムラに起因した延伸むらが生じるため、フィルムの破断を招く場合がある。適度な熱供給を行い、かつ、幅方向で均一な延伸を実施できる、より好ましい延伸速度は100%/分以上2000%/分以下である。
【0140】
本発明の積層フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、1~200μmであることが好ましい。光学フィルタの近年の薄膜化傾向に則ると、60μm以下であることが好ましく、より好ましくは45μm以下である。下限はないものの、ロール巻取り性を安定なものとし、フィルム破れなく製膜するためには、現実的には10μm以上の厚みであることが好ましい。10μmより薄い場合、目的とする光学性能を付与できないほか、装置の設計精度、装置の稼働安定状態による層厚みの誤差が相対的に大きくなり、A層とB層の積層精度が不安定となるために、生産性が低下する場合がある。
【実施例0141】
以下、本発明の積層フィルムについて実施例を用いてより具体的に説明する。但し、本発明の積層フィルムはこれに限定されない。
【0142】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0143】
(1)積層フィルムの層構成、層厚み
積層フィルムの層構成は、ウルトラミクロトームを用いて薄片化したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡JEM-1400 Plus((株)日本電子製)を用い、加速電圧100kVの条件で積層フィルムの厚み方向と平行な断面の画像を取得し、画像解析ソフトImagePro-10(Media Cybernetics社製)により解析することで、層構成(積層数、規則配列、各層の層厚み)を測定した。なお、各層間のコントラスト差を大きく得るために、電子染色剤(RuO4など)を使用した染色技術を用いた。また、各層の厚みにあわせて、層厚みが100nm未満の場合は直接倍率4万倍、層厚みが100nm以上500nm未満である場合は直接倍率2万倍、層厚みが500nm以上である場合は厚みに応じて1千倍~1万倍にて観察を実施し、積層フィルムの厚み方向の片側最表層から反対側の最表層にかけてのTEM写真画像を得た。その後、得られたTEM写真画像を圧縮画像ファイル(JPEG)に変換し、積層フィルムの厚み方向に沿って、ImagePro-10(Media Cybernetics社製)を用いて、ラインプロファイルにより位置-輝度データを取得した。
【0144】
そして、表計算ソフト(マイクロソフト社“Excel”(登録商標) Office365)を用いて、位置と輝度の関係をプロットして得られたプロファイルに対し、5点の中央移動平均処理を施した。平均処理は、連続する5点の測定位置に対して輝度の平均処理を施し、同じ計算を、位置を1点ずつ変更して連続処理することで行い、平均処理した位置-輝度プロファイルを取得した。得られた平均処理済の位置-輝度プロファイルにおいて、傾きが正から負、あるいは負から正へ変化する変曲点で囲まれる位置を1つの層と判断した。当該手法で得られた各層に対し、続いて積層フィルムの平面方向(厚み方向に対して垂直な方向)に対して位置-輝度データを取得した。各層毎に得られた輝度の平均値と標準偏差を算出した後、隣接する2層の輝度の平均値の差が、隣接する熱可塑性樹脂層の輝度の標準偏差のいずれよりも大きい場合、これら隣接する2層は異なると判断した。また、当該変曲点間の位置の差(距離)を、各層の層厚みとして算出した。この操作をTEM写真画像ごとに行い、積層フィルムの積層数、各層の層厚みを算出した。
【0145】
(2)積層フィルムの反射率
積層フィルムのフィルム幅方向中央部から5cm四方のサンプルを切り出した。次いで、(株)日立ハイテクノロジーズ製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)を用いて、入射角度θ=12°における波長300nm~2000nmの反射率を測定した。測定条件は、装置付属の積分球に酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)を取り付けた状態でバックグラウンド補正を行い、赤外-可視光源切替波長:850nm、スリット:2nm(可視)/自動制御(赤外)、PbS感度:2(赤外)、ゲイン:2、可視光源の走査速度:600nm/分、赤外光源の走査速度:1500nm/分、サンプリングピッチを1nmとした。同様の測定を5回行い、得られた5回分の反射率データから、波長300nm以上2000nm以下の範囲における平均反射率を求めることで、積層フィルムの反射率スペクトルを得た。なお、上記測定により得られる反射率は相対反射率であり、数値が100%を超えることもある。
【0146】
(3)反射帯域、透過帯域、応答帯域、広反射帯域
(2)項により得られた積層フィルムの波長300nm以上2000nm以下の範囲において1nm間隔で測定した反射率より得られる反射率スペクトルについて、反射帯域、透過帯域、応答帯域、広反射帯域を以下のように定義した。
反射帯域:反射率が連続して80%以上かつ帯域幅が50nm以上の帯域
透過帯域:反射率が連続して20%未満かつ帯域幅が50nm以上の帯域
応答帯域:反射帯域と透過帯域を除いた帯域の中で、反射帯域と透過帯域の間に位置する帯域
広反射帯域:反射帯域の中で、最も帯域幅の広い反射帯域
上記により定義された広反射帯域に含まれる波長のうち、最も短い波長を短波長端の波長λ1、最も長い波長を長波長端の波長λ2とし、下記式(1)に代入することにより、広反射帯域の参照波長λ0を得た。
式(1): λ0=2×λ1×λ2/(λ1+λ2)。
【0147】
(4)広反射帯域末端の波長分解能
(3)項により得られた参照波長に基づき、(2)項で得られた反射率スペクトルを、表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)を用いて、縦軸を反射率(%)、横軸を参照波長(nm)/波長(nm)とする還元スペクトルに変換した。このようにして得られた還元スペクトル上で、広反射帯域末端に隣接する応答帯域の帯域幅を求めることで、広反射帯域末端の短波長端における波長分解能Δg1と、長波長端における波長分解能Δg2を測定した。波長分解能の好ましい値は広反射帯域の波長により変化するため、後述する実施例、比較例の結果を纏めた表では、広反射帯域末端の波長分解能Δg1およびΔg2を以下の基準によりそれぞれ表す。ここで、i=1は広反射帯域末端の短波長端における波長分解能Δg1における基準であり、i=2は広反射帯域末端の長波長端における波長分解能Δg2における基準を示す。
A: Δgiが0.1×λ0/((λi-0.1)×λi≦Δgi≦10×λ0/((λi-10)×λi)を満たす。
B: Aには該当しないが、Δgiが0.1×λ0/((λi-0.1)×λi)≦Δgi≦20×λ0/((λi-20)×λi)を満たす。
C: A、Bには該当しないが、Δgiが0.1×λ0/((λi-0.1)×λi)≦Δgi≦30×λ0/((λi-30)×λi)を満たす。
D: Δgiが0.1×λ0/((λi-0.1)×λi)≦Δgi≦30×λ0/((λi-30)×λi)を満たさない。
【0148】
(5)主配向軸方向
王子計測機器(株)製 位相差測定装置(KOBRA-WPR)を用いた。3.5cm×3.5cmで切り出したサンプルを装置に設置し、平行ニコル回転法を用いて、照射した光(波長633nm)における入射角度0°の配向角を測定し、配向角の方向を主配向軸として定めた。また、(3)項により得られる積層フィルムの反射帯域または応答帯域が波長633nmを含んでいる場合、干渉反射によって測定結果が得られない場合があるため、波長405nm、532nm、785nm、830nm、980nm、1310nm、1550nmのうち、透過帯域に含まれる波長で、波長633nmに最も近い波長を選択して配向方向を決定した。
【0149】
(6)A層とB層の面内屈折率
A層とB層の面内屈折率は、次のようにして測定した。ここでは、表層が同一の熱可塑性樹脂層となる、A(BA)nの規則配列の積層フィルムを例にして説明する。
【0150】
(6-A)A層の面内屈折率
(5)項によって主配向軸を特定した積層フィルムを3.5cm×3.5cmで切り出したサンプルに対し、サイロンテクノロジー社製プリズムカプラSPA-4000を用いて、積層フィルム表層の屈折率測定を行った。波長633nmと波長1550nmの2種類のレーザーを用い、それぞれの波長における面内屈折率を測定した。ここで、面内屈折率は主配向軸方向と、主配向軸方向に垂直な方向それぞれの方向において両方の最表層で求めた値の平均値を求めた。得られた2つの波長における面内屈折率に対し、下記の式(IV)で表されるコーシー(Cauchy)の分散式を適用することで、A層の面内屈折率に関する、コーシー(Cauchy)の分散式の係数を変数とする2次の連立方程式を作成し、これを解くことにより、波長633nmにおけるA層の面内屈折率を算出した。
【0151】
【0152】
ここで、λは測定波長を表す。ni,X、ni,Yはそれぞれ熱可塑樹脂iを含む層の波長λにおける主配向軸方向の屈折率と、主配向軸方向に垂直な方向の屈折率を表す。Ai,X、Bi,Xは熱可塑樹脂iの主配向軸方向におけるコーシー(Cauchy)の分散式の係数を表し、Ai,Y、Bi,Yは主配向軸方向に垂直な方向における係数を表す。
【0153】
また、積層フィルムの反射帯域または応答帯域が測定に使用する波長を含んでいる場合、測定装置の原理上、屈折率の導出にいたらない。したがって、(3)項により得られる積層フィルムの反射帯域または応答帯域が波長633nmまたは波長1550nmを含んでいる場合は、SPA-4000に搭載可能なレーザーの波長で、かつ透過帯域に含まれる波長のうち、波長633nmに近い波長と、波長1550nmに近い波長から一つずつ選択し、上記と同様の方法により波長633nmにおけるA層の面内屈折率を算出した。ここで、SPA-4000に搭載可能なレーザーの波長とは、波長405nm、447nm、473nm、523nm、532nm、542nm、555nm、593nm、633nm、650nm、785nm、830nm、852nm、980nm、1310nm、1550nmのことを指す。
【0154】
(6-B)B層の面内屈折率
王子計測機器(株)製 位相差測定装置(KOBRA-WPR)を用いた。3.5cm×3.5cmで切り出したサンプルを、主配向軸方向が測定装置の配向角0°の軸と並行になるよう装置に設置し、平行ニコル回転法を用いて、523nm、633nm、785nm、1550nmの4つの波長を選択し、各波長における、入射角度0°の正面位相差を測定した。ここで、積層フィルムの測定波長λにおける入射角度0°の正面位相差R(λ)は以下の式(V)で表される。
【0155】
【0156】
ここで、nA,X、nA,Y、nB,X、nB,Y、dA,all、dB,allはそれぞれ、主配向軸方向のA層の屈折率、主配向軸方向に垂直な方向のA層の屈折率、主配向軸方向のB層の屈折率と主配向軸方向に垂直な方向のB層の屈折率、A層の層厚みの合計値、B層の層厚みの合計値を示す。上記式(V)に、(1)項より得られるA層とB層の層厚みの合計値と、(6-A)項より求めたA層のコーシー(Cauchy)の分散式の係数を代入し、B層の面内屈折率に関する、コーシー(Cauchy)の分散式の係数を変数とする4次の連立方程式を作成し、これを解くことにより、波長633nmにおけるB層の主配向軸方向の屈折率と主配向軸方向に垂直な方向の屈折率を求め、2つの屈折率の平均値を面内屈折率とした。また、積層フィルムの反射帯域または応答帯域が測定に使用する波長を含んでいる場合、測定装置の原理上、レターデーションの測定はできず、屈折率の導出にいたらない。したがって、(3)項により得られる積層フィルムの反射帯域または応答帯域が選択した波長を含んでいる場合は、透過帯域に含まれる波長のうち、400nm以上2000nm以下の波長から、選択した波長どうしの間隔が少なくとも100nm以上開くようにして4つ選択し、上記と同様の測定方法により波長633nmにおけるB層の面内屈折率を算出した。
【0157】
(7)A層とB層の面内屈折率差
A層とB層の面内屈折率差は、(6-A)項で得られたA層の面内屈折率と、(6-B)項で得られたB層の面内屈折率との差の絶対値を計算することで求めた。
【0158】
(8)熱可塑性樹脂のガラス転移温度、融点
(株)日立ハイテクノロジーズ社製のロボットDSC-RDC6220を用いた。測定ならびに温度の読み取りは、JIS-K-7122(1987年)に従って実施した。より具体的には、積層フィルムから削り取った試料約5mgをアルミニウム製受皿上、25℃から300℃まで10℃/分の速度で昇温させた際のベースラインと段差転移部分の変曲点での接線との交点におけるガラス転移温度Tg(℃)、および、昇温後に液体窒素で急冷してさらに同じ条件で昇温した際に最も高温側で確認される吸熱ピーク(融点)のピークトップにあたる融点Tm(℃)を読み取った。さらに、2回目の昇温において観測された最も高温側の吸熱ピークとベースラインで囲まれた部分の面積にあたる融解エンタルピーΔHTm(J/g)を求め、吸熱ピークのベースラインとピーク変曲点のうち低温側の変曲点における接線との交点にあたる吸熱ピークの開始温度(℃)を読み取った。
【0159】
(9)熱可塑性樹脂のIV(固有粘度)
溶媒としてオルトクロロフェノールを用いて、温度100℃で20分溶解した後、温度25℃でオストワルド粘度計を用いて測定した溶液粘度から算出した。
【0160】
(10)溶融粘度測定
溶融粘度はフローテスター(島津製作所製 CFT-5000)を用いて測定を行った。280℃まで加熱したシリンダ内に測定する熱可塑性樹脂を3g入れ、3分間加熱したのち測定を開始する。装置の重りの重量を変化させて複数回測定を行い、剪断速度に対する溶融粘度のグラフを求め、剪断速度が100sec-1における樹脂の溶融粘度をグラフより求めた。
【0161】
(11)装置壁面の最大粗さ
多層積層装置、単管、ダイの内壁の最大粗さを表面粗さ計SJ-210(Mitutoyo社製)を用いて下記条件にて測定した。測定は場所を変えて10回測定し、得られたそれぞれの値の平均値を最大粗さ(μm)とした。ここで、多層積層装置とダイの最大粗さについては、それぞれ装置組み立て前の部材を用いて上記の測定を行い、得られた各部材の最大粗さの平均をとることで求めた。得られた多層積層装置、単管、ダイの最大粗さのうち、最も大きい値を装置壁面の最大粗さとした。
<測定条件>
・触針先端半径:2.0μm
・測定範囲:360μm
・針圧:0.75mN
・測定速度:0.25mm/s
・カットオフ値:0.25
・フィルター:ガウシアンフィルタ(2CR75)。
【0162】
(12)層対の波数
(1)項で得られた全ての層の層厚みに対し、(3)項で得られた参照波長λ0と、(6)項で得られたA層、B層の面内屈折率を用いて、参照波長における隣接するA層とB層を一つの層対とした層対の波数mを、表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)を用いて、下記式(I)に基づき一方の最表層からもう一方の最表層に至るまで順に計算することで求めた。さらに、各層対の波数に対し、計算した順番に層対番号を割り振ることで、横軸を層対番号、縦軸を層対の波数とした波数分布を求めた。
【0163】
【0164】
ここで、nAはA層の面内屈折率、dAはA層の厚み、nBはB層の面内屈折率、dBはB層の厚みである。λ=λ0を代入することで、参照波長における隣接するA層とB層を一つの層対とした層対の波数mを求めた。また、積層フィルムがA(BA)nのように奇数回A層とB層を交互に積層させた積層構造を有する場合、当該積層構造の最表層のうち、層厚みが薄い方から層対の波数を計算し、層厚みの厚い最表層を除いた層対の波数を求めた。なお、本実施例、比較例では、キャストドラムに吐出する面の最表層が厚くなるようにスリット幅を調整した。
【0165】
(13)傾斜部分の波数分布と範囲X内に存在する傾斜部分の数
(12)項で得られた波数分布に対し、データ処理を行うことで傾斜部分の数を求めた。まず、層対の波数が(3)項で得られた広反射帯域末端の短波長端の波長λ1と長波長端の波長λ2を用いて表される0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)に含まれる層対に対し、層対番号の+1で隣接する層対の波数の差の絶対値と、層対番号の-1で隣接する層対の波数の差の絶対値がともに0.05以下となる条件で表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)のIF関数を適用し、上記条件を満たす層対の群を抽出した。抽出された層対の群に対し、層対番号が2番以上連続している条件で同様にしてIF関数を適用し、上記条件を満たす層対を抽出することで、(12)項で得られた波数分布から、範囲X内に存在する傾斜部分だけが抽出された波数分布を得た。傾斜部分だけが抽出された波数分布から傾斜部分の数を数えることで、積層フィルムの傾斜部分の数を求めた。
【0166】
(14)層配置のバランスL1/L2
(12)項で得られた層対の波数のうち、(3)項で得られた広反射帯域末端の短波長端の波長λ1と長波長端の波長λ2を用いて表される0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲(範囲X)に含まれる層対について、層対の波数が0.5以上となる層対の数L1と0.5未満となる層対の数L2を計算することで、層配置のバランスL1/L2を求めた。
【0167】
(15)傾斜部分の極値の数(短波長端極値数、長波長端極値数)
(13)項で得られた傾斜部分の波数分布を用いて、データ処理により層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲、および0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲における傾斜部分の極値の数をそれぞれ求めた。傾斜部分を構成する層対に対して、層対番号が+1の層対との層対の波数の差をそれぞれ表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)を用いて計算し、各層対番号における層対の波数の変化量を求めた。層対の波数の変化量の正負が、層対番号-1の層対の波数の変化量の正負と異なる層対を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)のIF関数により抽出し、傾斜部分の極値となる層対を求めた。このようにして得られた傾斜部分の極値を用いて、極値の層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に含まれる極値の数(短波長端極値数)と、0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に含まれる極値の数(長波長端極値数)を求めた。
【0168】
(16)広反射帯域末端を反射する層対の数
(13)項で得られた傾斜部分の波数分布を用いて、広反射帯域末端を反射する層対の数を求めた。
【0169】
(16-A)広反射帯域末端の短波長端を反射する層対の数(短波長端層対数)
まず、(13)項で得られた傾斜部分の波数分布について、傾斜部分の層対の波数の最小値を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)の最小値検索により求めた。次に、傾斜部分を構成する層対のうち、層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲に含まれ、かつ傾斜部分の層対の波数の最小値との差の絶対値が0.03以下となる層対を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)のIF関数により抽出した。このようにして得られた層対の中で、層対番号が2番以上連続している層対の群について、層対の群それぞれの層対の数を求めることで、0.4×λ1/λ0以上0.6×λ1/λ0以下の範囲で、傾斜部分における最小値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数(短波長端層対数)を求めた。
【0170】
(16-B)広反射帯域末端の長波長端を反射する層対の数(長波長端層対数)
まず、(13)項で得られた傾斜部分の波数分布について、傾斜部分の層対の波数の最大値を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)の最大値検索により求めた。次に、傾斜部分を構成する層対のうち、層対の波数が0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲に含まれ、かつ傾斜部分の層対の波数の最大値との差の絶対値が0.03以下となる層対を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)のIF関数により抽出した。このようにして得られた層対の中で、層対番号が2番以上連続している層対の群について、層対の群それぞれの層対の数を求めることで、0.4×λ2/λ0以上0.6×λ2/λ0以下の範囲で、傾斜部分における最大値との波数の差が0.03以下となる連続した層対の群に含まれる層対の数(長波長端層対数)を求めた。
【0171】
本発明の積層フィルムの実施例および比較例の表においては、広反射帯域末端の短波長端を反射する層対の数を短波長端層対数、広反射帯域末端の長波長端を反射する層対の数を長波長端層対数と記載する。
【0172】
(17)層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値
(12)項で得られた層対の波数のうち、層対の波数が0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)のIF関数により抽出した。このようにして抽出された層対それぞれで、層対を構成するA層の光学層厚みとB層の光学層厚みの差の絶対値を(1)項で得られた全ての層の層厚みと、(6)項で得られたA層、B層の面内屈折率を用いて求め、平均値を計算することで、0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値を求めた。ここで、層の光学層厚みは、層の面内屈折率と層厚みの積により計算した。0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値の好ましい値は参照波長λ0に依存するため、後述する実施例、比較例の結果を纏めた表では、積層フィルムの層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値を以下の基準によりそれぞれ表す。
A: 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値が0.00以上0.01×λ0以下を満たす。
B: 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値が0.01×λ0より大きく0.05×λ0以下を満たす。
C: 0.4×λ1/λ0以上0.6×λ2/λ0以下に含まれる層対のA層とB層の光学層厚みの差の絶対値が0.05×λ0より大きい。
【0173】
(18)DFTピーク強度
(13)項により得られた波数分布に対し、データ処置によりDFTピーク強度を計算した。まず、波数分布を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)に出力し、傾斜部分Yの範囲をVBA(ビジュアル・ベーシック・フォア・アプリケーションズ)プログラムから求めた。次に、傾斜部分Yの範囲内でVBAプログラムを用い、各層対番号の前後3点を計算範囲とした7点の中心化移動平均を施し、傾斜部分Yの平均化された波数分布を得た。その後、傾斜部分Yの範囲で、中心化移動平均前の層対の波数を、中心化移動平均後の層対の波数で引くことにより、横軸を層対番号、縦軸を層対の波数の残差とした残差分布を求めた。得られた残差分布に対し、VBAプログラムにより離散フーリエ変換(DFT)を行うことで、横軸を層対番号/標本点数、縦軸をピーク強度としたパワースペクトルを得た。具体的には、残差分布の層対番号を元の層対番号に基づき昇順に1番から振り直し、VBAプログラムで、残差分布の層対の数を標本点数、周期数を1とした離散フーリエ変換(DFT)を行うことでパワースペクトルを得た。得られたパワースペクトルから、表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)の最大値検索により、DFTピーク強度を求めた。
【0174】
(19)広反射帯域末端の勾配(短波長端勾配、長波長端勾配)
広反射帯域末端の勾配は、(3)項により定義される応答帯域のうち、広反射帯域末端で隣接する応答帯域の反射率スペクトルを用い、応答帯域に含まれる、最も短い波長と最も長い波長における反射率の差を波長の差で除した値の絶対値を計算することで求めた。
【0175】
(20)広反射帯域内部の勾配
(3)項により定義される広反射帯域の反射率スペクトルを表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)に出力し、参照波長の反射率を必ず通る条件で最小二乗法による直線近似を行うことで、広反射帯域内部の反射率スペクトルの勾配(%/nm)を求め、広反射帯域内部の勾配とした。
【0176】
(21)広反射帯域のシャープ性の評価(短波長端シャープ性、長波長端シャープ性)
(19)項で得られた広反射帯域末端の勾配(%/nm)を用いて、広反射帯域の短波長端、および長波長端のシャープ性を以下の基準に基づいて評価した。
S: 広反射帯域末端の勾配が9.0(%/nm)以上
A: 広反射帯域末端の勾配が6.0(%/nm)以上9.0(%/nm)未満
B: 広反射帯域末端の勾配が4.0(%/nm)以上6.0(%/nm)未満
C: 広反射帯域末端の勾配が2.0(%/nm)以上4.0(%/nm)未満
D: 広反射帯域末端の勾配が2.0(%/nm)未満。
【0177】
(22)広反射帯域の反射の均一性の評価(反射均一性)
(20)項で得られた広反射帯域内部の勾配(%/nm)を用いて、広反射帯域の反射の均一性を以下の基準に基づいて評価した。
A: 広反射帯域内部の勾配が1.0(10-2%/nm)未満
B: 広反射帯域内部の勾配が1.0(10-2%/nm)以上1.5(10-2%/nm)未満
C: 広反射帯域内部の勾配が1.5(10-2%/nm)以上2.0(10-2%/nm)未満
D: 広反射帯域内部の勾配が2.0(10-2%/nm)以上
(23)広反射帯域の平均反射率
(3)項により定義される広反射帯域における反射率スペクトルの平均反射率を表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)により求めた。
【0178】
(24)透過帯域の平均反射率、光透過性の評価
(3)項により定義される広反射帯域の応答帯域と他の反射帯域の応答帯域に挟まれている、または、広反射帯域の応答帯域と測定波長の上限または下限に挟まれている透過帯域の反射率スペクトルを、表計算ソフト(マイクロソフト社製“Excel”(登録商標) Office365)に出力し、上記透過帯域の平均反射率を求めた。
【0179】
上記透過帯域の反射率スペクトルと平均反射率から、式(VI)のようにして計算される平方平均二乗誤差RMSE(%)を算出し、以下の基準に基づいて光透過性を評価した。
【0180】
【0181】
ここで、λminとλmaxはそれぞれ上記透過帯域の最小波長と最大波長、RiとRaverageはそれぞれ上記透過帯域内の波長に対応した反射率と、平均反射率を表す。上記の方法で算出される平方平均二乗誤差は、上記透過帯域における平均反射率を基準とした反射率のバラつきを指標化した値である。光透過性が悪いことは、上記透過帯域における平均反射率を基準とした反射率のバラつきが大きいことを意味し、この時平方平均二乗誤差は増加する。このようにして得られた平方平均二乗誤差を用いて、以下の基準で積層フィルムの光透過性を評価した。
A: RMSEが2.0(%)未満
B: RMSEが2.0(%)以上4.0(%)未満
C: RMSEが4.0(%)以上6.0(%)未満
D: RMSEが6.0(%)以上。
【0182】
[フィルムに用いた熱可塑性樹脂]
結晶性である熱可塑性樹脂Aとして、以下のものを準備した。
【0183】
(樹脂A-1)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール60質量部の混合物に、テレフタル酸ジメチル量に対して酢酸マグネシウム0.09質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、該エステル交換反応生成物に、テレフタル酸ジメチル量に対して、リン酸85質量%水溶液0.02質量部を添加した後、重縮合反応槽に移行した。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、IV=0.63のポリエチレンテレフタレートを得た。これを樹脂A-1とした。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂A-1の溶融粘度は2000poiseであった。
【0184】
(樹脂A-2)
ジメチルテレフタレート90質量部、ジメチルイソフタレート10質量部、及びブチレングリコール87質量部を混合した混合物に、ジメチルテレフタレート量に対して酢酸カルシウム0.07質量部を添加し、加熱昇温してメタノールを留出させてエステル交換反応を行った。次いで、該エステル交換反応生成物に、ジメチルテレフタレート量に対して、三酸化アンチモン0.03質量部、リン酸85質量%水溶液0.02質量部を添加した後、重縮合反応槽に移行した。次いで、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧し、270℃減圧下で内部を攪拌しメタノールを留出させながら重合し、溶融粘度2000(poise)(測定温度:280℃)相当まで重合度が上がった時点で吐出し、樹脂ペレットを得た。さらに得られた樹脂ペレットを180℃、3mmHgの真空状態にて固相重合を行い、溶融粘度2300(poise)(測定温度:280℃)相当まで重合し、IV=0.75のポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)共重合体(PBT/I)を得た。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂A-2の溶融粘度は2300poiseであった。
【0185】
(樹脂A-3)
ナフタレン2,6-ジカルボン酸ジメチルエステル(NDC)とエチレングリコール(EG)を常法により重縮合して得たIV=0.43のポリエチレンナフタレート(PEN)。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂A-3の溶融粘度は4500poiseであった。
【0186】
(樹脂A-4)
IV=0.64 テレフタル酸(TPA)を14mol%共重合したポリエチレンナフタレート。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂A-4の溶融粘度は3200poiseであった。
【0187】
一方、非晶性である熱可塑性樹脂Bとしては、以下のポリエステル樹脂を準備した。
【0188】
(樹脂B-1)
IV=0.72(スピログリコール(SPG)20モル%およびシクロヘキサンジカルボン酸(CHDC)30モル%)を共重合したポリエチレンテレフタレート。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂B-1の溶融粘度は2300poiseであった。
【0189】
(樹脂B-2)
IV=0.74(シクロヘキサンジメタノール(CHDM)30モル%)を共重合したポリエチレンテレフタレート。なお、温度280℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂B-2の溶融粘度は3500poiseであった。
【0190】
(樹脂B-3)
ポリメタクリル酸メチル(PMMA) 住友化学社製 タイプ LG-2。なお、温度240℃、せん断速度100sec-1で測定した樹脂B-3の溶融粘度は10000poiseであった。280℃、せん断速度100sec-1で測定したときは、1500Poiseであった。
【0191】
<積層フィルム、フィルムの製造>
以下、各実施例、各比較例の通りに積層フィルムとフィルムを作製し、設計条件を表1~4に、層厚み設計を
図8~
図27に、評価結果を表5~8に示す。
図8~
図27は、表1~4の熱可塑性樹脂Aに記載の樹脂からなる熱可塑樹脂層と、熱可塑性樹脂Bに記載の樹脂からなる熱可塑樹脂層を交互に積層させた場合の、熱可塑性樹脂層それぞれの層厚みをプロットした層厚み分布である。ここで、層番号の最初と最後の番号に対応する層は、表1~4の熱可塑性樹脂Aに記載の樹脂からなる最表層である。なお、表1~4の設計条件における傾斜部分の数、短波長端極値数、長波長端極値数、短波長端層対数、長波長端層対数は、
図8~
図27の層厚み設計に対して、表1~4の設計条件における参照波長と、表5~8の評価結果におけるA層とB層の面内屈折率を用いて(12)項の操作により波数分布を算出し、得られた波数分布に対して(13)項、(15)項、(16)項の操作を行うことにより取得した。本発明の特徴である所望の広反射帯域末端のシャープ性と反射の均一性の両立は、干渉反射の波長依存性を考慮した波数分布の設計によって、波長に依存しない還元スペクトルを制御することで達成するものである。したがって、本発明の積層フィルムの波数分布は、所望の広反射帯域末端のシャープ性と反射の均一性を両立するための、一般的な層構成を表したものである。所望の広反射帯域の参照波長やA層とB層の組成を変えることで、様々な広反射帯域、原料組成の積層フィルムに対し、シャープ性と反射の均一性の両立に好適な積層フィルムを得ることができるため、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0192】
(実施例1)
A層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂A-1を、B層を構成する熱可塑性樹脂として樹脂B-1を用いた。樹脂A-1および樹脂B-1を、それぞれ、押出機にて280℃で溶融させ、FSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて吐出比が熱可塑樹脂A吐出量/熱可塑樹脂B吐出量=1.00になるように計量しながら、スリット数197個のスリット板を1枚、198個のスリット板1枚の計2枚用いた構成である393層積層装置にて合流させて、樹脂Aと樹脂Bが厚み方向に交互に393層積層された積層流とした。積層流とする方法は、特開2007-307893号公報〔0053〕~〔0056〕段の記載に従って行った。なお、スリット板間の境界層は、A層同士の合流層とするため、スリット板内のスリット数は、395個となる。ここでは、スリット長さは、全て一定とし、スリット幅(間隙)のみ変化させることにより、各層の層厚みを制御した。表1に記載の設計条件に基づき、
図8に示す層厚みとするべくスリット幅を調整し、393層積層した。次いで、当該積層流をTダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、縦延伸機で95℃、3.3倍の延伸を行った後、両端部をクリップで把持するテンターに導き105℃、4.2倍横延伸した後、次いで230℃で10秒間、さらに240℃で10秒間熱処理を施し、150℃で約3%のTD(幅方向)リラックス(フィルム幅方向に弛緩処理)を実施し、厚み70μmの積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表5に示す。
【0193】
(実施例2~8)
表1記載の設計条件に基づき、順に
図9~14に示す層厚みとした(実施例3、4は
図10に示す層厚みで共通)以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表5に示す。なお、厚みの調整はキャストの引き取り速度の調整により、層厚みの調整はフィードブロックのスリット幅の調整により行った(他の実施例、比較例でも同様)。
【0194】
(実施例9)
表2記載の設計条件に基づき、
図15のような層厚みとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表6に示す。また、
図15に示す層厚み分布はテーリングを有する積層構造である積層構造30のA層とB層の層厚みの増加が指数関数となるように設計した層厚み分布である。ここで、指数関数には以下に示す式(VII)を用いた。
【0195】
【0196】
ここで、Nは積層構造30の層対の数であり、155の値を取る。jは積層構造30における層対番号を示し、1から155の値を取る。d
A,j、d
A,1、d
A,Nは順に層対番号j、1、NにおけるA層の層厚みを示し、d
B,j、d
B,1、d
B,Nは順に層対番号j、1、NにおけるB層の層厚みを示す。数IVのd
A,1、d
A,N、d
B,1、d
B,Nにそれぞれ132nm、178nm、143nm、191nmを代入し積層構造30の層厚み分布を設計することにより、
図15の層厚み分布を設計した。
【0197】
(実施例10~16、比較例1)
A層とB層の熱可塑性樹脂の組み合わせ、層厚み設計、吐出量を表2、3および
図16~
図26(順に実施例10~16、比較例1~4に対応)に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表6、7に示す。
【0198】
(実施例17~21)
最表層の層厚み、吐出量を表4に記載の設計条件とし、
図12のような層厚みとした以外は実施例6と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表8に示す。
【0199】
(実施例22、23)
A層とB層の熱可塑性樹脂の組み合わせ、装置壁面の最大粗さを表4に記載の設計条件とし、
図20のような層厚みとした以外は実施例14と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表8に示す。
【0200】
(比較例2)
表3記載の設計条件に基づき、
図24のような層厚みとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表7に示す。また、
図24に示す層厚み分布はテーリングを有する積層構造である積層構造31のA層とB層のそれぞれの層厚みの増加が、層番号に対し線形に増加するよう設計した層厚み分布である。
【0201】
(比較例3~5)
A層とB層の熱可塑性樹脂の組み合わせ、層厚み設計、吐出量を表3および
図25~
図27(順に比較例3~5に対応)に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表7に示す。但し、比較例5においては、縦延伸時にフィルムがロールに粘着して積層フィルムを得られなかったため、積層フィルムの評価は実施しなかった。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
本発明の積層フィルムは、所望の反射帯域の末端においてシャープな反射率の勾配を示し、かつ反射帯域における反射の均一性に優れる。そのため、特に光学フィルタとして、車載用途、ディスプレイ用途、太陽電池用途など、様々な光学用途に用いることができる。