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特開2024-127824ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127824
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/335 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C08G65/335
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032640
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023034198
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】矢野浩樹
(72)【発明者】
【氏名】太田雅己
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005AA12
4J005BC00
4J005BD05
4J005BD07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程(A)、(B)、(C)および(D)を順に実施することを特徴とする、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
工程(A):ポリアルキレンオキシド化合物とリン脂質とを、アルカリ金属塩の存在下、有機溶媒中にて反応させる工程
工程(B):前記工程(A)の反応物の溶液に対して、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する無機吸着剤を添加して撹拌する工程
工程(C):工程(B)で得られたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に有機溶剤を添加した後、多価カルボン酸の水溶液を添加して撹拌する工程
工程(D):工程(C)で得られたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質溶液にナトリウム金属塩のアルカリ性水溶液を添加して撹拌する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(A)、工程(B)、工程(C)および工程(D)を順に実施することを特徴とする、下記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。

工程(A):
下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と下記式(3)で示されるリン脂質とを、アルカリ金属塩の存在下、有機溶媒中にて反応させることで反応物を得る工程

工程(B):
前記工程(A)の前記反応物の溶液に対して、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する無機吸着剤を添加して撹拌することによって、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を得る工程

工程(C):
工程(B)で得られた前記ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に有機溶剤を添加した後、多価カルボン酸の水溶液を添加して撹拌することで、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質溶液を得る工程

工程(D):
工程(C)で得られた前記ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質溶液にナトリウム金属塩のアルカリ性水溶液を添加して撹拌する工程

【化1】
(式(1)中、
COおよびRCOは、それぞれ独立して、炭素数4~24のアシル基を示し、
kは1~6であり、
Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
nは炭素数2~4のオキシアルキレン基ROの平均付加モル数であって、10~800であり、
Xは炭素数1~3の2価の炭化水素基または-C(=O)(CH)q-であり(qは1~4である)、
pは0または1であり、pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、pが1の場合、Yは、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、マレイミド基、チオール基、tert-ブトキシアミド基、9-フルオレニルメチルオキシアミド基、メチルエステル基またはS-t-ブチルジスルフィド基である。)

【化2】
(式(2)中、
Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
nは炭素数2~4のオキシアルキレン基ROの平均付加モル数であって、10~800であり、
Xは炭素数1~3の2価の炭化水素基または-C(=O)(CH)q-であり(qは1~4である)、
pは0または1であり、pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
pが1の場合、Yは、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、マレイミド基、チオール基、tert-ブトキシアミド基、9-フルオレニルメチルオキシアミド基、メチルエステル基またはS-t-ブチルジスルフィド基であり、
Zは、式(3)で示されるリン脂質のアミノ基との反応性置換基である。)

【化3】
(式(3)中、
COおよびRCOは、それぞれ独立して、炭素数4~24のアシル基を示し、
kは1~6である。)
【請求項2】
前記式(2)において、ROがオキシエチレン基であることを特徴とする、請求項1記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【請求項3】
式(3)で示される前記リン脂質がホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする、請求項1または2記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【請求項4】
前記無機吸着剤が、ケイ酸アルミニウムとマグネシウム・アルミニウム酸化物との少なくとも一方を含有する金属酸化物からなり、前記無機吸着剤の比表面積が50m/g以上、200m/g以下であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【請求項5】
前記多価カルボン酸が、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミン二酢酸および1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸からなる群より選ばれた一種以上であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【請求項6】
前記多価カルボン酸がクエン酸であることを特徴とする、請求項5記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【請求項7】
前記多価カルボン酸の水溶液中の多価カルボン酸の濃度が、0.1重量%以上、10重量%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗癌剤等を内封したリポソーム製剤の研究が広く行われてきており、その血中滞留性を向上する目的で水溶性高分子によるリポソーム表面の修飾が行われている。その一つとして、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が用いられている。このポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は医薬用途で使用するため、限りなく不純物が少ないか、または不純物が存在しないことが好ましい。
【0003】
このようなポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、例えばポリアルキレンオキシドとリン脂質を反応させることにより合成される。この合成したポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の精製法としては、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどが利用されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、これら非特許文献1に記載のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを利用すると、設備の関係上、一度に精製できる量が限られる、使用溶媒量が多量である点から工業的生産に好ましくない。また、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を実施した場合、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に含まれる対イオンであるナトリウムイオンの一部が、シリカゲル由来の金属であるカルシウムイオン等に置換される場合がある。
【0005】
一方、特許文献1では、シリカゲルカラムクロマトグラフィーの代わりに、アルミニウム元素および/またはマグネシウム元素を含有する化合物からなる無機吸着剤を用いて、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を精製する方法が開示されている。上記無機吸着剤を用いて精製することで、高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を効率的に得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.C.Woodle (Biochimica et Biophysica Acta, 1105, 193-200 (1992)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-363278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アルミニウム元素および/またはマグネシウム元素を含有する化合物からなる無機吸着剤を用いて精製を行うと、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に含まれる対イオンであるナトリウムイオンの一部が、無機吸着剤由来の金属であるアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンに置換される場合がある。置換されたアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンをナトリウムイオンへ再置換するためには、一般的には例えばイオン交換樹脂が考えられる。
【0009】
しかし、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質においては、リン脂質の上記金属イオンへの配位能が高いため、イオン交換樹脂を用いてアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンをナトリウムイオンへ再置換することは困難であることがわかった。また、対イオンとしてアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含んだポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は水溶解性が低く、水に溶解させた場合に濁りを生じることがある。
【0010】
以上より、近年求められているさらに高純度なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の効率的な工業的製法は確立されていなかった。
【0011】
本発明の課題は、高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の工業的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する無機吸着剤を用いて精製した後のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に対して、多価カルボン酸水溶液を添加して撹拌すると、無機吸着剤由来のアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを効率的に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法であり、製造されたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は以下のとおりである。
(1) 下記工程(A)、工程(B)、工程(C)および工程(D)を順に実施することを特徴とする、下記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。

工程(A):
下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と下記式(3)で示されるリン脂質とを、アルカリ金属塩の存在下、有機溶媒中にて反応させることで反応物を得る工程

工程(B):
前記工程(A)の前記反応物の溶液に対して、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する無機吸着剤を添加して撹拌することによって、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を得る工程

工程(C):
工程(B)で得られた前記ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に有機溶剤を添加した後、多価カルボン酸の水溶液を添加して撹拌することで、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質溶液を得る工程

工程(D):
工程(C)で得られた前記ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質溶液にナトリウム金属塩のアルカリ性水溶液を添加して撹拌する工程

【化1】
(式(1)中、
COおよびRCOは、それぞれ独立して、炭素数4~24のアシル基を示し、
kは1~6であり、
Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
nは炭素数2~4のオキシアルキレン基ROの平均付加モル数であって、10~800であり、
Xは炭素数1~3の2価の炭化水素基または-C(=O)(CH)q-であり(qは1~4である)、
pは0または1であり、pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、pが1の場合、Yは、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、マレイミド基、チオール基、tert-ブトキシアミド基、9-フルオレニルメチルオキシアミド基、メチルエステル基またはS-t-ブチルジスルフィド基である。)

【化2】
(式(2)中、
Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
nは炭素数2~4のオキシアルキレン基ROの平均付加モル数であって、10~800であり、
Xは炭素数1~3の2価の炭化水素基または-C(=O)(CH)q-であり(qは1~4である)、
pは0または1であり、pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、
pが1の場合、Yは、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、マレイミド基、チオール基、tert-ブトキシアミド基、9-フルオレニルメチルオキシアミド基、メチルエステル基またはS-t-ブチルジスルフィド基であり、
Zは、式(3)で示されるリン脂質のアミノ基との反応性置換基である。)
【化3】
(式(3)中、
COおよびRCOは、それぞれ独立して、炭素数4~24のアシル基を示し、
kは1~6である。)
【0014】
(2) 前記式(2)において、ROがオキシエチレン基であることを特徴とする、(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【0015】
(3) 式(3)で示される前記リン脂質がホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする、(1)または(2)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【0016】
(4) 前記無機吸着剤が、ケイ酸アルミニウムとマグネシウム・アルミニウム酸化物との少なくとも一方を含有する金属酸化物からなり、前記無機吸着剤の比表面積が50m/g以上、200m/g以下であることを特徴とする、(1)または(2)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【0017】
(5) 前記多価カルボン酸が、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミン二酢酸および1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸からなる群より選ばれた一種以上であることを特徴とする、(1)または(2)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【0018】
(6) 前記多価カルボン酸がクエン酸であることを特徴とする、(5)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【0019】
(7) 前記多価カルボン酸の水溶液中の多価カルボン酸の濃度が、0.1重量%以上、10重量%以下であることを特徴とする、(1)または(2)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製法は、特殊な設備を必要とせず、高純度なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を効率的に得ることができるため、工業的なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法として極めて有用である。
【0021】
また、本発明の製造方法により製造された、アルミニウム化合物および/またはマグネシウム化合物によって精製処理された高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、更にアルミニウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンも顕著に低減されたものであり、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記式(1)で示される本発明の製造方法により製造されたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質(以下、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質という場合がある)において、RCOおよびRCOは、それぞれ独立して炭素数4~24のアシル基である。RCOおよびRCOの炭素数は、12以上であることが更に好ましく、また20以下であることが更に好ましい。RCOおよびRCOは、それぞれ独立して、飽和または不飽和のアシル基であってよく、また直鎖または分岐鎖のアシル基であってよい。
【0023】
このアシル基(RCOおよびRCO)は通常脂肪酸(RCOOHおよびRCOOH)に由来する。RCOおよびRCOの具体例としては、例えば、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸などの飽和および不飽和の直鎖または分岐の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。RCOおよびRCOは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
上記式(1)においてROで表されるオキシアルキレン基は、炭素数2~4(より好ましくは炭素数2または3)のオキシアルキレン基である。ROとしては、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。これらの中ではオキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、特にオキシエチレン基が好ましい。また、1分子内には、nの数だけオキシアルキレン基が存在するが、このオキシアルキレン基は1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わされていてもよく、その組み合わせ方に制限はない。またブロック状であってもランダム状であってもよい。
【0025】
上記式(1)においてnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、10~800(より好ましくは20~500)の数である。nが10以上であると、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をドラッグデリバリーシステムに使用した場合にデリバリー効果が高くなる。またnが800以下であると、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を製造する際、原料である上記式(2)のポリアルキレンオキシド化合物の粘度がさほど上昇しないので、作業性が向上する。
【0026】
上記式(1)において、kは、1~6であり、好ましくは1~4、より好ましくは2~4、さらに好ましくは2である。
【0027】
上記式(1)において、Xは、炭素数1~3の2価の炭化水素基または-C(=O)(CH-(ここでqは1~4)である。pは0または1である。
【0028】
Xを構成する炭化水素基の具体的例としては-CH-、-CHCH-、-(CH)、-CH(CH)CH-などが挙げられる。
【0029】
上記式(1)において、pが0の場合には、Yは、水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これの中ではメチル基が特に好ましい。
また、pが1の場合には、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基、マレイミド基、チオール基、tert-ブトキシアミド基、9-フルオレニルメチルオキシアミド基、メチルエステル基またはS-t-ブチルジスルフィド基であり、好ましくはアミノ基である。
【0030】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する化合物を含む無機吸着剤に由来するアルミニウム含量、マグネシウムの含量が少ない。具体的には、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中に存在するアルミニウム含量およびマグネシウム含量の合計値が、0.1mol%以上、5.0mol%以下である。ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中に存在するアルミニウム含量およびマグネシウム含量の合計値は、3.0mol%以下であることが好ましく、2.0mol%以下であることが更に好ましい。
【0031】
ただし、無機吸着剤がアルミニウム元素を含有し、マグネシウム元素を含有しない場合には、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中に存在するアルミニウム含量が、0.1mol%以上、5.0mol%以下であり、マグネシウムは含有されていない。
ただし、無機吸着剤がマグネシウム元素を含有し、アルミニウム元素を含有しない場合には、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中に存在するマグネシウム含量が、0.1mol%以上、5.0mol%以下であり、アルミニウムは含有されていない。
【0032】
また、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、式(3)で示されるリン脂質含量が0.5重量%以下であり、高純度である。この観点からは、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、式(3)で示されるリン脂質含量が0.3重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることが更に好ましい。
【0033】
また、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、工程(A)によって式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物より副生する、リン脂質が結合していないポリエチレングリコール誘導体の含有量が、
5.0重量%以下であることが好ましく、3.0重量%以下であることが更に好ましい。式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の含有量は0重量%であってもよい。
【0034】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、以下の工程(A)~(D)を順次実施することで製造可能である。
【0035】
(工程(A))
工程(A)では、式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と式(3)で示されるリン脂質のアミノ基とを、水溶液がアルカリ性を示すアルカリ金属塩の存在下、有機溶媒中にて反応させる工程である。
【0036】
式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物および式(3)で示されるリン脂質において、RCO、RCO、RO、k、n、X、pおよびYは、上記式(1)で説明したものと同じである。
【0037】
式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物において、Zは活性付与基であって、ポリアルキレンオキシド化合物に対して、式(3)で示されるリン脂質のアミノ基との反応活性を付与する基であり、電子吸引性基、その他の基が含まれる。このような基として、具体的には、イミダゾール基、4-ニトロフェニルオキシ基、ベンゾトリアゾール基、塩素、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、カルボニロキシ-N-2-ピロリジノン基、カルボニル-2-オキシピリミジン基、N-スクシンイミジルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイル基などが挙げられる。この中でも特にN-スクシンイミジルオキシ基、4-ニトロフェニルオキシ基が好ましい。
【0038】
式(3)で示されるリン脂質は、天然リン脂質でも合成リン脂質でもよい。また、kは1~6であるが、2~4が好ましく、2であることが好ましい。特にホスファチジルエタノールアミンが好ましい。具体例として、例えば大豆および大豆水添ホスファチジルエタノールアミン、卵黄および卵黄水添ホスファチジルエタノールアミン等の天然および合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。
【0039】
工程(A)で使用する、水溶液がアルカリ性を示すアルカリ金属塩としては、上記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、式(3)のリン脂質のアミノ基とを結合させることができ、水に溶解して水溶液にした場合のpHが7.1~13、好ましくは7.1~11のアルカリ性を示すアルカリ金属の炭酸塩、リン酸塩または酢酸塩であり、さらにナトリウムを含む固体塩であることが好ましい。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムなどである。この中でも特に炭酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
金属塩の使用量は、mol比率でみて、式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の0.1~1000mol倍であることが好ましい。金属塩の使用料が0.1倍モル以上であると反応が速やかに進行するため好ましい。また、これが1000mol倍以下であると攪拌が容易であるので好ましい。金属塩の使用量は特に、1~500mol倍であるのが好ましい。
【0041】
式(2)のポリアルキレンオキシド化合物と式(3)のリン脂質の仕込み量は、モル比(式(2)のポリアルキレンオキシド化合物:式(3)のリン脂質)で、1:1あるいは1:1超(リン脂質が過剰)となるように設定することが望ましい。具体的には、式(2)のポリアルキレンオキシド化合物と式(3)のリン脂質のモル比(式(2)のポリアルキレンオキシド化合物:式(3)のリン脂質)が1:1~1:5、好ましくは1:1.1~1:2、さらに好ましくは1:1である。
【0042】
リン脂質が過剰となる場合、後に述べる工程において生成物から除去することが可能である。一方、ポリアルキレンオキシド化合物が過剰となる場合、反応終了後に未反応のポリアルキレンオキシド化合物が残存する。ポリアルキレンオキシド化合物の分子量が約500以上の場合、残存するポリアルキレンオキシド化合物の除去は困難であることが多く、高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を得るのが難しくなるので、上記モル比が好ましい。
【0043】
工程(A)では、式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、式(3)で示されるリン脂質とを、上記のように上記金属塩の存在下に反応させることができる。
【0044】
工程(A)の反応に使用する有機溶媒は、出発原料および反応生成物と反応しないか、ほとんど反応しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼンおよびトルエンなどの非プロトン性溶媒などが挙げられる。これらの中ではトルエン、クロロホルムが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、上記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の末端活性基と反応するので好ましくない。ジクロロメタン等でも反応性には問題はないが、低沸点であるため作業上好ましくない。
【0045】
工程(A)の反応の反応温度は30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は1時間以上、好ましくは2~15時間とするのが望ましい。反応時間が15時間を超えるとポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が熱履歴の増大によって分解し、純度が低下する可能性があるため好ましくない。
【0046】
このようにして式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と式(3)で示されるリン脂質とを反応させることにより、式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が得られる。
【0047】
なお、工程(A)において、上記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の末端Yがアミノ基、カルボキシル基またはチオール基、特にアミノ基の場合には、これらの基を保護して反応に供するのが好ましい。例えば、アミノ基の場合にはtert-ブトキシカルボニル基または9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基等の保護基を付けることが好ましい。また,カルボキシル基の場合にはメチル基等によりエステル化して保護することが好ましい。またチオール基の場合にはS-t-ブチルスルフィド基等の保護基を付けて保護するのが好ましい。
【0048】
工程(A)で得られた反応液から固体塩を濾過後、濾液を濃縮または貧溶媒に投入して結晶化するなどの方法により、上記式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を精製できる。濾過に使用する濾材は、被処理液の不溶物を除去することができるものであれば特に制限はなく、通常は保集粒子細孔径が1~10μmで耐溶媒性を有する紙、ガラスなど各種の材質のフィルターを使用することができる。濾過方法には制限なく、例えば減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過などの方法を用いることができる。
【0049】
得られたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質またはポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む工程(A)の溶液を、下記のような工程(B)~(D)を経ることにより、さらに高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を得ることができる。なお、工程(B)~(D)は、上記の濾過により工程(A)の反応液から固体塩を除去した後に行うことが好ましい。
【0050】
(工程(B))
工程(B)では、工程(A)で得られた反応物の溶液に対して、アルミニウム元素とマグネシウム元素との少なくとも一方を含有する無機吸着剤を添加して攪拌することによって、Z由来の化合物、および式(3)で示される過剰のリン脂質(未反応のリン脂質:例えばホスファチジルエタノールアミン)の除去を行う。ここで、工程(A)で得られた反応物を有機溶剤に溶解して前記溶液としてよい。あるいは、工程(A)で得られた反応液を濾過した濾液を前記溶液として用いることができる。工程(B)で用いる有機溶剤は、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、アセトンなどが好ましく、特に酢酸エチルが好ましい。
【0051】
無機吸着剤を用いて処理する温度は10~85℃、好ましくは40~70℃、時間は10分~5時間、好ましくは30分~3時間とするのが望ましい。工程(A)で得られた結晶を加熱溶解し、無機吸着剤で処理してもよいが、上記温度で結晶が溶解しない場合や溶液の粘度が高い場合が多いため、酢酸エチルなどの本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を溶解する溶媒に希釈して処理することが好ましい。
【0052】
無機吸着剤での処理温度が10℃未満では、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が析出する場合があり、吸着剤を除去する場合にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質も一緒に除去されて収率が下がるので好ましくない。また、85℃を超えると、微量の水分が存在する場合、吸着剤処理中にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の加水分解等が起こる可能性がある。
【0053】
無機吸着剤の使用量は、処理する反応物100重量部に対して0.1~200重量部、好ましくは1~50重量部とするのが望ましい。吸着剤量が0.1~200重量部であると、Z由来の化合物および未反応の過剰なリン脂質を充分に効率よく除去することができる。
【0054】
工程(B)で無機吸着剤処理を行い、濾過などの方法により無機吸着剤を除去した後、冷却を行うか、または貧溶媒を用いて結晶化させることができる。好ましくは、10℃以下に冷却して行えば、結晶化が十分に行われ、良好な収率で結晶が得られる。無機吸着剤除去後、溶媒を留去して結晶化してもよいが、溶媒を留去する場合、80℃以下、減圧下で行うことが望ましい。有機溶媒の留去温度が80℃ を越えると、式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質のアシル基が分解するなど、望ましくない副反応が起こるおそれがある。
【0055】
工程(B)で用いる無機吸着剤は、アルミニウム元素を含有し、マグネシウム元素を含有しない無機吸着剤、マグネシウム元素を含有し、アルミニウム元素を含有しない無機吸着剤、またはアルミニウム元素およびマグネシウム元素を含有する無機吸着剤である。
【0056】
こうした無機吸着剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等を含有する無機吸着剤が挙げられる。好ましくは、無機吸着剤が、ケイ酸アルミニウムとマグネシウム・アルミニウム酸化物との少なくとも一方を含有する金属酸化物からなることが好ましい。無機吸着剤は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。また、無機吸着剤の、比表面積は、50m/g以上200m/g以下であるとよい。
このような無機吸着剤の市販品としては、キョーワード200B(Al・HO)、キョーワード200(Al(OH)・nHO)、キョーワード300(2.5MgO・Al・0.7CO・nHO)、キョーワード500(MgAl(OH)16CO・4HO)、キョーワード600(2MgO・6SiO・nHO)、キョーワード700(Al・9SiO・HO)、キョーワード1000(Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO)、キョーワード2000(Mg0.7Al0.31.15)、(協和化学工業(株)製、商標)などが挙げられる。
【0057】
工程(B)を行うにあたり、さらに純度を上げたい場合、同様に工程(B)を数回繰り返すことにより、さらに純度の優れたポリアルキレンオキサイド修飾リン脂質を得ることができる。
【0058】
(工程(C))
工程(C)では、工程(B)で得られたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に有機溶剤を添加した後、多価カルボン酸の水溶液を添加して撹拌することで、無機吸着剤由来のアルミニウムおよび/またはマグネシウムの除去を行う。
【0059】
工程(C)で用いる有機溶剤は、目的物であるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を溶解するが、水とは混和しない溶媒が好ましい。有機溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタンなどが好ましく、特にクロロホルムが好ましい。
【0060】
多価カルボン酸水溶液を用いて処理する温度は10~50℃、好ましくは20~35℃、時間は10分~4時間、好ましくは30分~2時間とするのが望ましい。処理する温度が10℃未満では、無機吸着剤由来のアルミニウムまたはマグネシウムの除去効率が悪化するため好ましくない。また50℃を超えると、多価カルボン酸水溶液中の水分によって多価カルボン酸水溶液処理中にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の加水分解が起こる可能性がある。
【0061】
工程(C)で使用する多価カルボン酸としては、水に溶解して水溶液にした場合のpHが1~6、好ましくは2~5の酸性を示し、金属イオンとの配位能が高いものが好ましい。
【0062】
具体的には、多価カルボン酸は、例えばクエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミン二酢酸、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸などが挙げられる。その中でもクエン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸が好ましく、特にクエン酸が好ましい。
【0063】
多価カルボン酸水溶液の濃度は0.1重量%~10重量%、好ましくは1~5重量%とするのが望ましい。多価カルボン酸水溶液の濃度が0.1重量%~10重量%であると、無機吸着剤由来のアルミニウムおよび/またはマグネシウムを十分に効率よく除去することができる。
【0064】
工程(C)を行うにあたり、さらに純度を上げたい場合、同様に工程(C)を数回繰り返すことにより、さらに純度の優れたポリアルキレンオキサイド修飾リン脂質溶液を得ることができる。
【0065】
(工程(D))
工程(D)では、工程(C)処理後のポリアルキレンオキサイド修飾リン脂質溶液に、アルカリ性を示すナトリウム金属塩のアルカリ性水溶液を添加して撹拌する等の方法により、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中の対イオンである水素イオンをナトリウムイオンへ置換する。
【0066】
工程(D)で用いる有機溶剤は、目的物であるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を溶解するが、水とは混和しない溶媒が好ましい。有機溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタンなどが好ましく、特にクロロホルムが好ましい。
【0067】
工程(D)で使用するアルカリ性を示すナトリウム金属塩は、水溶性であれば特に制限はない。例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなどを挙げることができる。これらの中で炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0068】
ナトリウム金属塩水溶液を用いて処理する温度は10~50℃、好ましくは20~35℃、時間は10分~4時間、好ましくは30分~2時間とするのが望ましい。処理する温度が10℃未満では、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中の対イオンである水素イオンをナトリウムイオンへ置換する効率が悪化するため、好ましくない。また50℃を超えると、ナトリウム金属塩水溶液中の水分によってナトリウム金属塩水溶液処理中にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の加水分解が起こる可能性がある。
ナトリウム金属塩水溶液の濃度は1重量%~20重量%、好ましくは5~15重量%とするのが望ましい。クエン酸水溶液の濃度が5重量%~15重量%であるとポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中の対イオンである水素イオンをナトリウムイオンへ効率的に置換することができる。
【0069】
ナトリウム金属塩水溶液処理後の溶液から目的物を単離する方法は特に制限はないが、脱溶剤によって溶剤を除去し、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を乾燥固化して単離する方法が好ましい。
【実施例0070】
(実施例1)
(モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジパルミトイルホスホエタノールアミンの合成)
【0071】
(工程(A))
ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(分子量5000、30g、6mmol)にトルエン(140mL)を加え、115℃で還流し、1時間脱水した。40℃に冷却後、N,N´-ジスクシンイミジルカーボネート(4.61g、18mmol)、ピリジン(2.14g、27mmol) を加え、80℃で8時間反応させた。反応液に酢酸エチル(150mL)、ヘキサン(85mL)を加え、10℃に冷却した。析出した結晶を濾過し、活性化体を得た。次に、トルエン(200mL)、炭酸ナトリウム(0.70g、6.6mmol)、ジパルミトイルホスホエタノールアミン(4.57g、6.6mmol)を加え、65 ℃ に昇温後、6時間反応させたのち酢酸エチル(170mL)を加えて希釈し、炭酸ナトリウムを濾過した。
【0072】
(工程(B))
濾液に、無機吸着剤としてキョーワード#700(6.0g)を加え、40℃にて0.5時間撹拌した。無機吸着剤を濾過後、同様に、吸着剤処理を2回行った。
【0073】
(工程(C))
吸着剤処理後の濾液に対してエバポレーターを用いて50℃で濃縮乾固させたのち、クロロホルム(300mL)を加え、溶解させた。次に、2重量%クエン酸水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、同様に、クエン酸水溶液処理を1回行った。
【0074】
(工程(D))
クエン酸水溶液処理後の有機層に10重量%炭酸ナトリウム水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、有機層を濃縮、乾燥することで目的化合物18.9g(収率55.3mol%)を得た。
【0075】
(実施例2)
(モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジミリストイルホスホエタノールアミンの合成)
【0076】
(工程(A))
ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(分子量2000、30g、15mmol)にトルエン(40mL)を加え、115℃で還流し、1時間脱水した。60℃ に冷却後、p―ニトロフェニルクロロホルメート(3.33g、16.5mmol)、トリエチルアミン(1.82g、18mmol)を加え、60℃で6時間反応させた。反応液をろ過したのち、酢酸エチル(40mL)を加えて25℃に冷却した。ヘキサン(120mL)を加えて0.5時間撹拌させたのち析出した結晶を濾過し、活性化体を得た。次に、トルエン(200mL)、炭酸ナトリウム(24.6g、233mmol)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(11.5g、18mmol)、トルエン(50mL)を加え、68℃に昇温後、12時間反応させたのち酢酸エチル(170mL)を加えて希釈し、炭酸ナトリウムを濾過した。濾液に酢酸エチル(370mL)加え、3℃ に冷却した。析出した結晶を濾過し、結晶を得た。
【0077】
(工程(B))
得られた結晶に酢酸エチル(240mL)を加え溶解させた後、無機吸着剤としてキョーワード#2000(6.0g)およびキョーワード#700(0.3g)を加え、55℃ にて0.5時間撹拌した。無機吸着剤を濾過後、濾液を3℃に冷却し、析出した結晶を濾過し、結晶を得た。同様に、吸着剤処理を2回行った。
【0078】
(工程(C))
無機吸着剤処理後の結晶に対して、クロロホルム(300mL)を加え、溶解させた。次に、2重量%クエン酸水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、同様に、クエン酸水溶液処理を1回行った。
【0079】
(工程(D))
クエン酸水溶液処理後の有機層に10重量%炭酸ナトリウム水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、有機層を濃縮、乾燥することで目的化合物20.5g(収率51.8mol%)を得た。
【0080】
(比較例1)
(モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジパルミトイルホスホエタノールアミンの合成)
【0081】
(工程(A))
ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(分子量5000、30g、6mmol)にトルエン(140mL)を加え、115℃で還流し、1時間脱水した。40℃に冷却後、N,N´-ジスクシンイミジルカーボネート(4.61g、18mmol)、ピリジン(2.14g、27mmol)を加え、80℃で8時間反応させた。反応液に酢酸エチル(150mL)、ヘキサン(85mL)を加え、10℃に冷却した。析出した結晶を濾過し、活性化体を得た。次に、トルエン(200mL)、炭酸ナトリウム(0.70g、6.6mmol)、ジパルミトイルホスホエタノールアミン(4.57g、6.6mmol)を加え、65℃に昇温後、6時間反応させたのち酢酸エチル(170mL)を加えて希釈し、炭酸ナトリウムを濾過した。
【0082】
(水による洗浄処理)
反応後の濾液に対してエバポレーターを用いて50℃で濃縮乾固させたのち、クロロホルム(300mL)を加え、溶解させた。次に、蒸留水(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、同様に、水洗浄処理を1回行った。有機層を濃縮、乾燥することで目的化合物22.9g(収率67.1mol%)を得た。
【0083】
(比較例2)
(モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジステアロイルホスホエタノールアミンの合成)
【0084】
(工程(A))
ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(分子量2000、20g、10mmol)にトルエン(80mL)を加え、110℃ で還流し、1時間脱水した。50℃ に冷却後、1,1´-カルボニルジイミダゾール(1.95g、12mmol)を加え、2時間反応させることにより、活性化体を得た。次に、炭酸ナトリウム(42.4g、400mmol)、ジステアロイルホスホエタノールアミン(11.22g、15mmol)を加え、65℃ に昇温後、8時間反応させた。炭酸ナトリウムを濾過後、濾液にヘキサン(300mL)を入れ、結晶化させた。結晶を濾過後、結晶にアセトン(80mL)を加え、50℃ に加温した。グラスフィルターにて濾過し、不溶物を除去した。濾液にヘキサン(160mL)を加え、晶析させ、5℃まで冷却した。その後、結晶を濾過した。
この結晶に酢酸エチル(400mL)を加え、65℃で溶解し0.5時間撹拌後、5℃に冷却した。析出した結晶を濾過した。同様に酢酸エチルでの再結晶工程をもう1回行った。
【0085】
(工程(B))
工程(A)で得られた結晶を酢酸エチル(400mL)にて溶解し、無機吸着剤としてキョーワード#2000(5g)、キョーワード#700(0.8g)を加え、65℃にて1時間撹拌した。無機吸着剤を濾過後、5℃に冷却し、結晶化させた。結晶を濾過後、同様に、無機吸着剤処理を1回行った。ヘキサン(200mL)にて結晶洗浄後、濾過、乾燥し、目的化合物14.6g(収率53.1mol%)を得た。
【0086】
(比較例3)
(モノメチルポリオキシエチレンカルバミル ジパルミトイルホスホエタノールアミンの合成)
【0087】
(工程(A))
ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(分子量5000、30g、6mmol)にトルエン(140mL)を加え、115℃で還流し、1時間脱水した。40℃に冷却後、N,N´-ジスクシンイミジルカーボネート(4.61g、18mmol)、ピリジン(2.14g、27mmol)を加え、80℃で8時間反応させた。反応液に酢酸エチル(150mL)、ヘキサン(85mL)を加え、10℃に冷却した。析出した結晶を濾過し、活性化体を得た。次に、トルエン(200mL)、炭酸ナトリウム(0.70g、6.6mmol)、ジパルミトイルホスホエタノールアミン(4.57g、6.6mmol)を加え、65℃に昇温後、6時間反応させたのち酢酸エチル(170mL)を加えて希釈し、炭酸ナトリウムを濾過した。
【0088】
(工程(B))
濾液に、無機吸着剤としてキョーワード#700(6.0g)を加え、40℃にて0.5時間撹拌した。無機吸着剤を濾過後、同様に、吸着剤処理を2回行った。
【0089】
(塩酸水溶液による洗浄処理)
吸着剤処理後の濾液に対してエバポレーターを用いて50℃で濃縮乾固させたのち、クロロホルム(300mL)を加え、溶解させた。次に、2重量%塩酸水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、同様に、塩酸水溶液処理を1回行った。
【0090】
(工程(D))
塩酸水溶液処理後の有機層に10重量%炭酸ナトリウム水溶液(450mL)を加え、25℃で1時間撹拌した。静置分層させた後、水層を除去し、有機層を濃縮、乾燥することで目的化合物17.7g(収率51.8mol%)を得た。
【0091】
各実施例、比較例について、製造工程の概要を表1にまとめる。
【0092】
(不純物の分析)
各実施例、比較例の各生成物について、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって不純物含量を測定した。
具体的には、TLCに際して、展開溶媒としてクロロホルム、メタノール、水の混合比が85:14:1容量比の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて既知量の標準物質との比較により、不純物の定量を行った。
不純物として、式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質のモノアシル体(Lyso-PEG)、工程(A)によって式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物より副生する、リン脂質が結合していないポリエチレングリコール誘導体(PEG誘導体)、式(3)で示されるリン脂質(PE)を定量した。結果を表2、表3に示す。
【0093】
(各金属元素の定量)
(各金属元素の定量)
各金属元素をICP発光分光分析により定量した。すなわち、各実施例、比較例で得られた各ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質中の対イオンである金属イオン量(ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム)を定量した。具体的にはICP発光分光分析に際して各実施例、比較例の各生成物をコニカルビーカーに正確に秤取り、およそ180℃から250℃のホットプレート上で硝酸および過塩素酸を用いて分解した。その後水を加えて定容し、ICP発光分光分析装置(iCAP PRO XP DuO ICP-OES、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて金属イオン量(ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム)を定量した。計量結果を表2、表3に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
表1、表2の結果から、実施例によれば、リン脂質含量が少なく、またアルミニウム元素およびマグネシウム元素の含有量が少ない高純度なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が得られた。
【0098】
比較例1では、無機吸着剤による吸着処理を行っていない。このため、生成物中のアルミニウム含量、マグネシウム含量は低いが、リン脂質含量が高い。
【0099】
比較例2では、無機吸着剤による吸着処理を行っているので、リン脂質含量は低くなっている。しかし、アルミニウム含量およびマグネシウム含量が高くなっている。
【0100】
比較例3では、無機吸着剤による吸着処理を行っているので、リン脂質含量は低くなっている。しかし、多価カルボン酸水溶液のかわりに1価の酸である塩酸水溶液で処理をおこなっているため、アルミニウムおよびマグネシウムの除去が不十分であり、アルミニウム含量およびマグネシウム含量が高くなっている。