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特開2024-127825金属酸化物膜、金属酸化物積層体、及び金属酸化物積層体の製造方法
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  • 特開-金属酸化物膜、金属酸化物積層体、及び金属酸化物積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127825
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】金属酸化物膜、金属酸化物積層体、及び金属酸化物積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20240912BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20240912BHJP
   C23C 18/12 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/448
C23C18/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032743
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023035355
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 宗明
(72)【発明者】
【氏名】藤村 俊伸
(72)【発明者】
【氏名】中里 克己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 享平
(72)【発明者】
【氏名】平田 純也
【テーマコード(参考)】
4K022
4K030
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022BA33
4K022DA06
4K022DB19
4K022DB24
4K022DB26
4K030AA01
4K030AA18
4K030BA02
4K030BA27
4K030BA42
4K030BB05
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA12
4K030CA17
4K030EA01
4K030FA10
4K030JA01
4K030LA02
4K030LA15
(57)【要約】
【課題】クラックがなく、耐熱性、放熱性、及び絶縁性に優れる金属酸化物積層体が得られる金属酸化物膜を提供すること。
【解決手段】非晶質の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜は、組成式:YaAlbOcCd(式中、Yはイットリウム原子、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子、及びCは炭素原子を示し、a、b、c、及びdはモル比を示し、a+b+c+d=100であり、aは1以上40以下、bは2以上40以下、cは45以上75以下、及びdは0.1以上20以下である。)で表され、厚さが0.1μm以上30μm以下である金属酸化物膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の金属酸化物膜であって、
前記金属酸化物膜は、組成式:YaAlbOcCd(式中、Yはイットリウム原子、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子、及びCは炭素原子を示し、a、b、c、及びdはモル比を示し、a+b+c+d=100であり、aは1以上40以下、bは2以上40以下、cは45以上75以下、及びdは0.1以上20以下である。)で表され、厚さが0.1μm以上30μm以下である金属酸化物膜。
【請求項2】
厚さが0.2mm以上20mm以下であるシート状の金属材上に、請求項1に記載の金属酸化物膜が直接積層されている金属酸化物積層体。
【請求項3】
前記金属材が、銅若しくは銅合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金である請求項2に記載の金属酸化物積層体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の金属酸化物積層体の製造方法であって、
イットリウムの塩又は錯体、及びアルミニウムの塩又は錯体を含む塗工液を霧化又は液滴化し、得られたミスト又は液滴をキャリアガスで搬送する工程と、
前記ミスト又は液滴を250℃以上500℃以下の温度雰囲気下、金属材上で反応して金属酸化物膜を得る工程を含む金属酸化物積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜、金属酸化物積層体、及び金属酸化物積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップやアンテナなどの電子部品が発する熱を系外に放出するために金属性の放熱部材が使用されている。この放熱部材の中には電気を通さないように絶縁層が設けられている放熱回路基板がある。しかしながら、近年の電気自動車に代表される大電流化により放熱部材は高温で使用されることが多くなってきている。そのため絶縁材料には耐熱性、強度、絶縁性に優れたアルミナやジルコニア等が使われる。
【0003】
特許文献1では、絶縁層としてジルコニア強化アルミナ板(ZTA)と、箔状の銅板を直接接合し貼り合わせた基板(CBC基板:CeramicBonding Cupper)が提案されている。
【0004】
特許文献2では、非晶質のYAl12(YAG)やYAlをアルミナ基板へ成膜する方法が提案されている。
【0005】
特許文献3では、CVD(Chemical Vapor Deposition法)によるイットリウムとアルミニウムの複合金属酸化物膜の成膜方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1996-195450号公報
【特許文献2】特開2021-73372号公報
【特許文献3】国際公開第2021/002339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された基板は、熱プレス法で作製されているため、薄膜にすることができず、絶縁層を150μm以上にする必要があり、放熱性が十分でないといった問題があった。さらに、金属材とセラミックスの熱膨張性が著しく異なるため、温度変化によりセラミックスが内部応力を吸収しきれずに、セラミックスにクラックが入ることや、セラミックスが剥離するといった問題を抱えていた。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法は、成膜後にクラックが認められる。さらに、線膨張係数が異なる基板へ成膜する場合する場合クラックが発生しやすくなる。そのため、線膨張係数の高い銅、その合金、アルミニウム、又はその合金に成膜するとクラックが発生し、生産性が悪化する。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の方法は、1μmを超えるとクラックが発生しやすくなる。特に線膨張係数の高い銅、その合金、アルミニウム、又はその合金に成膜するとクラックが発生し生産性が悪化する場合があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、クラックがなく、耐熱性、放熱性、及び絶縁性に優れる金属酸化物積層体が得られる金属酸化物膜を提供することであり、さらに、その金属酸化物積層体、及び金属酸化物積層体の製造方法を提供しようとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、非晶質の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜は、組成式:YaAlbOcCd(式中、Yはイットリウム原子、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子、及びCは炭素原子を示し、a、b、c、及びdはモル比を示し、a+b+c+d=100であり、aは1以上40以下、bは2以上40以下、cは45以上75以下、及びdは0.1以上20以下である。)で表され、厚さが0.1μm以上30μm以下である金属酸化物膜に関する。
【0012】
また、本発明は、厚さが0.2mm以上20mm以下であるシート状の金属材上に、前記金属酸化物膜が直接積層されている金属酸化物積層体に関する。
【0013】
また、本発明の金属酸化物積層体の好ましい態様としては、前記金属材が銅若しくは銅合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金であるとよい。
【0014】
また、本発明は、前記金属酸化物積層体の製造方法であって、イットリウムの塩又は錯体、及びアルミニウムの塩又は錯体を含む塗工液を霧化又は液滴化し、得られたミスト又は液滴をキャリアガスで搬送する工程と、前記ミスト又は液滴を250℃以上500℃以下の温度雰囲気下、金属材上で反応して金属酸化物膜を得る工程を含む金属酸化物積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属酸化物膜は0.1μm以上30μm以下という極めて薄く、かつ絶縁性の高い金属酸化物膜であるため、高い放熱性と絶縁性を両立することができる金属酸化物積層体が得られる。さらに、この金属酸化物膜は非晶質であり、かつアルミニウムとイットリウムが適切な比率で混合していることから、クラックがなく、放熱性、絶縁性、及び耐熱性に優れた金属酸化物積層体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属酸化物膜の成膜装置の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<金属酸化物膜>
本発明の金属酸化物膜は非晶質であり、組成式:YaAlbOcCd(式中、Yはイットリウム原子、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子、及びCは炭素原子を示し、a、b、c、及びdはモル比を示し、a+b+c+d=100であり、aは1以上40以下、bは2以上40以下、cは45以上75以下、及びdは0.1以上20以下である。)で表され、厚さが0.1μm以上30μm以下である。
【0018】
前記組成式において、耐熱性の観点から、aは3以上36以下であることが好ましく、3以上25以下であることがより好ましい。絶縁性の観点から、bは8以上であることが好ましい。また、耐熱性の観点から、bは36以下であることが好ましく、33以下であることがより好ましい。成膜後のクラックの発生を抑制する観点から、cは55以上であることが好ましく、耐熱性の観点から、cは65以下であることが好ましい。金属酸化物膜が固くなることを防止し、高温下で線膨張差による応力が発生したときに金属酸化物内のアモルファス炭素により、金属酸化物に強靭性が付与されることで金属酸化物膜層が割れにくくなる観点から、dは0.5以上であることが好ましく、そして、絶縁性を高める観点から、dは14以下であることが好ましい。なお、上記の組成比はダイナミックSIMSにより求めることができる。
【0019】
上記の組成式において、式:c/(a+b)の計算値は、成膜後のクラックおよび耐熱性の観点から、1.5以上2.5以下が好ましく、1.55以上2.0以下がより好ましく、1.6以上1.7以下がさらに好ましい。特に金属基材上に成膜する場合には、前記の式:c/(a+b)の計算値が1.55以上である金属酸化物膜は、適度に水酸基を有するため、金属との高温下での密着性が高くなり、クラックの発生を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0020】
前記金属酸化物膜は厚さが0.1μm以上30μm以下であり、好ましくは0.8μm以上20μm以下である。厚さが0.1μm以上30μm以下であれば、絶縁性、放熱性が良好であり、100℃以上に加熱した場合でも、金属酸化物膜にクラックが発生しにくくなる。また、前記金属酸化物膜は、非晶質であることにより、金属酸化物膜に柔軟性が付与されるため、高温下での密着性に優れ冷熱試験時にクラックが発生しにくくなる。
【0021】
<金属酸化物積層体>
本発明の金属酸化物積層体は、厚さが0.2mm以上20mm以下であるシート状の金属材上に、前記金属酸化物膜が直接積層されている。
【0022】
前記金属材は、放熱性の観点から、熱伝導率の高い材質が好ましく、中でも材質が銅若しくは銅合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金であることがより好ましい。さらに、金属材中に銅原子やアルミニウム原子が含まれる場合には、前記金属酸化物膜との界面で、金属酸化物膜中のアルミニウム原子若しくはイットリウム原子と、金属材中のアルミニウム原子若しくは銅原子と直接あるいは酸素原子を介して結合することで、金属材と金属酸化物膜とは高い密着性を有することが可能となり、より高い耐冷熱性を得ることができる。
【0023】
前記銅若しくは銅合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金は、公知のものが適用できる。前記銅若しくは銅合金としては、例えば、組成式CuxMyTz(Cuは銅原子を示し、Mはクロム、ベリリウム、モリブデン、窒素、又はリン原子を示し、TはCu及びM以外の単独又は複数の原子を示す。x、y、zは重量比を示し、x+y+z=100であることが好ましく、xは60以上100以下であることが好ましく、yは0以上40以下であることが好ましく、zは0以上5以下であることが好ましい。)である化合物が挙げられる。ここで、金属材中の銅原子は多い方が好ましく、高い密着性が求められる場合には、xは80以上100以下であることがより好ましい。
【0024】
また、前記アルミニウム若しくはアルミニウム合金は、組成式:AlxMyTz(Alはアルミニウム原子を示し、Mは銅、マグネシウム、原子を示し、TはAl及びM以外の単独又は複数の原子を示す。x、y、zは重量比を示し、x+y+z=100であり、xは80以上100以下であることが好ましく、yは0以上20以下であることが好ましく、zは0以上3以下であることが好ましい。)である化合物が挙げられる。ここで、金属材中のアルミニウム原子は多い方が好ましく、高い密着性が求められる場合には、xは90以上100以下であることがより好ましい。
【0025】
上記の各組成式で表される化合物は熱伝導率が高く放熱部材としてより適している。
【0026】
前記金属材は厚さが0.2mm以上20mm以下であるシート形状であり、好ましくは0.5mm以上20mm以下である。前記金属材の厚さが0.2mmより小さい場合には放熱性能が十分でなく、20mmより大きくなると放熱回路基板として用いる場合の実装工程で不便が生じる。
【0027】
<金属酸化物積層体の製造方法>
前記金属酸化物積層体において、前記金属酸化物膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、真空蒸着やイオンプレーティング、スパッタリングなどの物理気相成長法やプラズマCVDや原子層体積(ALD)、有機金属CVD、ミストCVD等の化学気相成長法や、スプレーやインクジェット、スピンコート、ディップコートのように塗工液を金属材上で反応させる塗布法が好ましく挙げられる。中でも、成膜速度や成膜の膜厚均一性に優れることから、化学気相成長法と塗布法が好ましい。
【0028】
前記化学気相成長法と塗布法においては、アルミニウム塩又は錯体、及びイットリウム塩又は錯体を含む塗工液を、250℃以上500℃以下の温度雰囲気下で、金属材上に置いて加熱反応させることにより金属酸化物膜を成膜することで、金属材中の金属原子と金属酸化物膜中のアルミニウム原子又はイットリウム原子が直接あるいは酸素結合を介して結合するため界面の密着性が高くなり好ましく、300℃以上450℃以下がより好ましい。成膜温度が500℃を超えると、金属材に対して熱負荷が大きく、得られる積層体の寸法安定性が悪くなるうえに、金属材と金属酸化物膜の熱膨張率の差が大きいことから、成膜後に室温に戻した際の金属酸化物膜にクラックが入ることや反りが発生することがある。
【0029】
とくに、金属材上で塗工液を加熱反応させる際に、前記塗工液を霧化又はミスト化し、得られたミスト又は液滴を窒素等のキャリアガスで金属材上に搬送する工程と、前記ミスト又は液滴を、250℃以上500℃以下の温度にした、前記金属材上で加熱反応させることにより、成膜する方法(mCVDと略す。)が最も好ましい。この方法は化学気相成長法の1種類である。このように、アルミニウムの塩又は錯体、及びイットリウムの塩又は錯体を含む塗工液を微小な液滴にして反応させることにより、膜厚が薄く、非晶質であり、YとAlが均一に分散した金属酸化物が得られる。また、この方法であれば、霧化又はミスト化した塗工液中のアルミニウムの塩又は錯体、及びイットリウムの塩又は錯体の反応性があがっているため、250℃以上500℃以下という温度で金属酸化物が得ることできることから、金属材を劣化させることなく成膜することができる。さらに、mCVDで250℃以上500℃以下の温度領域で成膜することで、金属酸化物膜中の炭素原子の含有量を本発明の範囲内に制御し易く、また上記の式:c/(a+b)を1.55以上2.0以下に制御することが可能となる点で好ましい。mCVD及びその装置としては、例えば、特開2018-140352号公報、特開2018-172793号公報等が参考になる。
【0030】
前記塗工液は、アルミニウム錯体又は塩を0.2重量%以上20重量%以下、イットリウム錯体又は塩を0.2重量%以上20重量%以下含むことが好ましい。アルミニウム錯体又は塩、及びイットリウム錯体又は塩が0.2重量%より少ないと成膜時間が長くなる。また、20重量%より多くなると炭素含有量が多くなり絶縁性が低下する原因となる。
【0031】
上記のmCVDにおいては、金属の酸化を抑えるために酸素が1体積%以下の環境下で成膜することが好ましい。また、上記の式:c/(a+b)の計算値を、1.55以上にするために、酸素源として、水やアルコール等熱分解により水を生成するものを使用することが好ましい。ここで、酸素源とはアルミニウム錯体又は塩、及びイットリウム錯体又は塩を金属酸化物にするための酸素原子の供給源である。
【0032】
このように、金属材上でアルミニウム錯体又は塩、及びイットリウム錯体又は塩を含む塗工液を微小なミスト又は液滴にしたうえで反応させることにより、金属材の表面凹凸を埋めることも可能となる。
【0033】
前記金属酸化物積層体は、前記金属酸化物膜の片面に前記金属材が直接積層され、また、前記金属酸化物膜の他面に導電金属層が設けられることにより、放熱回路基板として用いることができる。また、このような放熱回路基板は、放熱部材として利用できる。
【実施例0034】
以下に本発明を実施例等によって説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0035】
<製造例>
<塗工液の調整>
<実施例1>
<金属酸化物膜の形成>
図1に示す成膜装置(mCVDの装置)を用い、以下の方法にて金属材上に金属酸化物膜を形成した。ガラス製の円筒(直径13cm、高さ15cm)の底部から1cmの位置にポリエチレン製フィルムをOリングとコーキング剤で固定した。円筒の上部はテフロン(登録商標)製の蓋を設け、付帯には2か所穴をあけて、窒素ガス供給とミスト搬送用のガラス製配管を挿入した。ミスト搬送用のガラス管はホットプレートの上の金属材から1~2cmの距離まで設置した。円筒は水浴に浸漬し、ポリエチレンの直下に超音波振動子(超音波霧化ユニットHMC-2401:本多電子(株)社製)を設置した。ホットプレートは窒素を充填したボックス内に設置してあり、酸素濃度は1%以下で管理した。円筒の中に上記の塗工液を入れ超音波振動子を起動し、水槽の水及びポリエチレンを経由し超音波を塗工液に伝え、塗工液の一部を霧化した。霧化した塗工液を窒素ガスにより金属材上(30mm×30mm)に輸送した。金属材はホットプレートにより加熱されており、霧化した塗工液を金属材上で化学反応させ金属酸化物層を形成し、積層体を得た。なお、金属酸化物層の膜厚は成膜時間(霧化した塗工液を金属材に噴射した時間)により調整し、以下の方法で測定した。窒素ガス流量は6L/min、超音波振動子の振動数2.4MHz電圧24V電流0.6Aとした。また、使用した金属材、塗工液、ホットプレート温度等の条件は、表1に示す。
【0036】
<金属酸化物膜の膜厚の測定>
金属酸化物膜の膜厚の測定は、上記金属材の代わりにシリコンウエハ上に金属酸化物膜を形成し、表面形状測定器(DektakXT-S:ブルカージャパン(株)社製)により測定した。
【0037】
<金属酸化物膜の組成の測定>
ダイナミックSIMS(PHI ADEPT:Ulvac・PHI社製)によりアルミニウム原子、イットリウム原子、酸素原子、及び炭素原子の単位体積当たりの重量及びその比を算出した。ダイナミックSIMSの条件を以下に記す。一時イオン種:Cs+、一時加速電圧:5.0kV、検出領域:45μm×45μmとした。サンプルとしては、シリコンウエハ上に1μmの金属酸化物膜を形成したものを用意した。サンプル中心部を深部方向に測定し、ケイ素を検出したポイントの深さを1μmと規定した。アルミニウム原子、イットリウム原子、酸素原子、及び炭素原子について、それぞれの二次イオン強度、相対感度係数、及び原子量から、4つの原子のモル比を算出した。単位体積当たりの4つの原子重量の合計値と金属酸化物膜の比重に1%以上の差がなかったことから、金属酸化物膜はおもに4つの原子で構成されるものとして、4つの原子の単位体積当たりのモル比を組成比として算出した。なお、本発明の金属酸化物は少量の水素原子も含むことがあるが、ダイナミックSIMSにおいて検出されないようであれば本発明に含まれるものとする。
【0038】
上記で得られた積層体を用い、以下の評価を行った。
【0039】
<非晶質性の確認>
金属酸化物膜の非晶性は、X線回折(XRD)装置(SmartLab:Rigaku(株)製)を用いて確認した。サンプルとしては、シリンコンウエハとシリコンウエハ上に1μmの金属酸化物膜を形成したものを用意し、以下の条件にて測定した。シリコンウエハと比較し、新たに回折ピークが現れなかった場合を非晶質、回折ピークが現れた場合を結晶質とした。
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
検出器:D/teX Ultra 250
測定範囲:2θ=ωスキャン
スキャン軸:2θ/θ
長手制限スリット幅:2.0mm
スキャンモード:CONTINUOUS
スキャンスピード:20°/min
【0040】
<成膜後のクラックの評価>
成膜後の金属酸化物のクラックや剥離の有無によって評価した。具体的には、30mm×30mmの積層体に対して光学顕微鏡にて倍率50倍で観察した。クラックや剥離があったものは×、クラックや剥離がなかった積層体は〇として評価した。さらに、クラックや剥離がなかった積層体については、倍率を150倍に上げ観察し、クラックや剥離がなかった積層体は◎として評価した。
【0041】
<絶縁性の評価>
30mm×30mmの積層体の金属酸化物膜上に、導電金属層として銀ペースト(ドータイトFA-451a:藤倉化成(株)社製)で直径10mmの円状主電極を形成し、絶縁計(5450高抵抗計:(株)ADC社製)にて、金属材と主電極間に400Vの直流電圧を印加し電流を測定することで、体積抵抗率の測定を行った。体積抵抗率が2000GΩ以上のものは◎、体積抵抗率が1000GΩ以上2000GΩ未満のものは〇、体積抵抗率が1000GΩ未満のものは×として評価した。
【0042】
<放熱性(熱伝導性)の評価>
ボンベの窒素で置換されたドライグローブボックス中で、30mm×30mmの積層体の金属酸化物膜上に、潮解していない、粒径1mm以下の酢酸アンモニウム(融点112℃、富士フィルム和光純薬製)の粒を10粒のせ、金属材を下にして、120±3℃のホットプレートに乗せた。酢酸アンモニウムが融解する様子をCCDカメラで拡大撮影し、ホットプレートに乗せてから酢酸アンモニウムが完全に液体になるまでの時間T1を測定した。T1が120秒以下であるものは◎、T1が120秒超150秒以下であるものは〇、T1が150秒超であるものは×として評価した。
【0043】
<耐熱性の評価>
密着性は、耐熱性試後の金属材と金属酸化物との剥離又はクラックの有無によって評価した。具体的には、30mm×30mmの積層体に対して、光学顕微鏡にて倍率50倍で観察したのち、空気雰囲気の条件で400℃、450℃、500℃に設定したマッフル炉に入れてから2時間後、積層体を取り出し室温まで冷却した。耐熱性試験後の積層体を光学顕微鏡にて倍率50倍で観察した。耐熱性試験前後の顕微鏡の画像を比較した。積層体にクラック又は剥離が確認された時の最低温度が400℃を×、450℃を△、500℃を〇とし、クラック又は剥離が確認されなかった積層体を◎とした。
【0044】
<実施例2-21、比較例2-4>
実施例1の金属酸化物膜の形成の条件を、表1-7に示す条件に変えたこと以外は、実施例1と同様の操作にて、積層体を作製し、上記の評価を行った。結果を表1-7に示す。
【0045】
<比較例1>
特許文献1の実施例を参考に回路基板を得た。具体的には銅からなる厚さ1.5mmの金属材(30mm×30mm)とZTA(ジルコニア強化アルミナ)からなる厚さ150μmの金属酸化物基板(セラミックス基板、30mm×30mm)とを、ホットプレス機にて加温加圧し接合した。得られた回路基板につき上記の評価を行った。結果を表6に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
表1-7中、Y(acac)4・3H2Oは、イットリウムトリス(アセチルアセトネート)三水和物(三津和薬品化学(株)社製);
Al(acac)3はアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(「アルミキレートA」、川研ファインケミカル(株)社製)を示す。
【0054】
比較例1は、金属酸化物積層体の製造方法として一般的な熱プレス法で作製した金属酸化物積層体である。比較例1で得られる金属酸化物積層体は、膜厚が大きいため実施例に比べ放熱性が低く、結晶性を有するため耐熱試験後に金属酸化物膜が金属材から剥離した。
【0055】
比較例2で得られる金属酸化物積層体は金属酸化物膜の組成が本特許の請求の範囲から外れるため、耐熱性が低くクラックが発生した。
【0056】
比較例3で得られる金属酸化物積層体は金属酸化物膜の組成が本特許の請求の範囲から外れるため、耐熱性が低くクラックが発生した。
【0057】
比較例4で得られる金属酸化物積層体は金属酸化物膜の組成が本特許の請求の範囲から外れるため、成膜後にクラックが発生した。
図1