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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127849
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】直列積層型全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240912BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/525
H01M10/0562
H01M4/66 A
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034558
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023034636
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川山 巌
(72)【発明者】
【氏名】土井 俊哉
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA04
5H017AS01
5H017AS10
5H017BB19
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE05
5H017EE06
5H017HH03
5H017HH05
5H029AJ05
5H029AK02
5H029AK03
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ24
5H029CJ30
5H029DJ07
5H029DJ17
5H029EJ01
5H029EJ05
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ12
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA07
5H050DA08
5H050FA02
5H050FA19
5H050GA24
5H050GA29
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】低温(特に室温)においても、全固体二次電池を提供する。
【解決手段】少なくとも集電体、正極活物質層及び固体電解質層を備えるセルを直列に2個以上積層した直列積層型全固体二次電池であって、
(1)第1集電体上に、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、又は
(2)第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、
直列積層型全固体二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも集電体、正極活物質層及び固体電解質層を備えるセルを直列に2個以上積層した直列積層型全固体二次電池であって、
(1)第1集電体上に、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、又は
(2)第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、
直列積層型全固体二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層は、正極活物質から構成される、請求項1に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層が、イオンビームアシスト蒸着膜又は原子ビームアシスト蒸着膜である、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質中の正極活物質が、岩塩型結晶構造を有する、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層を構成する正極活物質が、リチウム含有遷移金属酸化物、バナジウム酸化物又はモリブデン酸化物である、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項6】
前記リチウム含有遷移金属酸化物におけるリチウムの含有量が、リチウム含有リン酸遷移金属化合物を構成する遷移金属1モルに対して、1.1~2.0モルである、請求項5に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質層を構成する正極活物質結晶が配向している、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項8】
前記正極活物質層の膜厚が0.1~100μmである、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項9】
前記(1)を満たし、前記第1集電体が銅から構成される、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項10】
前記セルが、前記正極活物質層と隣接して、さらに、導電性中間層を備える、請求項9に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項11】
前記導電性中間層が導電性酸化物から構成される、請求項10に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項12】
前記(2)を満たし、前記第1集電体がアルミニウムから構成される、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項13】
前記第2集電体が、銅及び/又はアルミニウムから構成される、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項14】
負極を備えていない、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【請求項15】
ポリマー基板又はシリコンウェハー上に形成される、請求項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列積層型全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜型全固体リチウムイオン電池は、高い安全性を有する小型軽量な電池であり、生体用デバイスやICチップ等への応用が期待されている。なかでも、リチウム含有酸化物を正極活物質として機能させるには、リチウムイオン伝導パスを形成するために、リチウム含有酸化物を高度に結晶化させる必要がある。その代表的な正極材料であるLiCoO(LCO)は、合成温度の違いにより、高温相(HT-LCO)と低温相(LT-LCO)とがある。このうち、正極活物質として適してするのはHT-LCOであり、HT-LCOの結晶化のために600℃程度の基板加熱が必要である(例えば、非特許文献1~2参照)。
【0003】
しかしながら、このような高温での成膜プロセスを行うと、シリコン電子デバイス等への組み込み等の障害となるほか、基板、負極、固体電解質等の材質及び構造を制限してしまう。
【0004】
そこで、低温(特に室温)において、全固体二次電池を製造できれば、層間の反応を抑制することができるため、多層構造の全固体二次電池である直列積層型全固体二次電池を製造することも可能である。
【0005】
しかしながら、高温に加熱した基材上への形成あるいは高温アニール処理などの高温処理によらず、リチウム含有酸化物を直接結晶として基板上に形成することも、物理蒸着(真空蒸着、DCスパッタ法、パルスレーザーデポジション(PLD)、エアロゾルデポジション(AD))や化学蒸着等で試みられている。これらの手法は、いわゆるリチウム全固体電池を実現する手法としても期待されている。しかし、現状は実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Ohnishi and K. Takada, Appl. Phys. Express 5 (2012) 055502.
【非特許文献2】X. Zhu, Z. Guo, G. Du, P. Zhang, H. Liu, Surface & Coatings Technology, 204 (2010) 1710-1714.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、低温(特に室温)においても、全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造の直列積層型全固体二次電池は、低温(特に室温)においても、全固体二次電池を提供することができることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の態様を包含する。
【0009】
項1.少なくとも集電体、正極活物質層及び固体電解質層を備えるセルを直列に2個以上積層した直列積層型全固体二次電池であって、
(1)第1集電体上に、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、又は
(2)第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、
直列積層型全固体二次電池。
【0010】
項2.前記正極活物質層は、正極活物質から構成される、項1に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0011】
項3.前記正極活物質層が、イオンビームアシスト蒸着膜又は原子ビームアシスト蒸着膜である、項1又は2に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0012】
項4.前記正極活物質中の正極活物質が、岩塩型結晶構造を有する、項1~3のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0013】
項5.前記正極活物質層を構成する正極活物質が、リチウム含有遷移金属酸化物、バナジウム酸化物又はモリブデン酸化物である、項1~4のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0014】
項6.前記リチウム含有遷移金属酸化物におけるリチウムの含有量が、リチウム含有リン酸遷移金属化合物を構成する遷移金属1モルに対して、1.1~2.0モルである、項5に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0015】
項7.前記正極活物質層を構成する正極活物質結晶が配向している、項1~6のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0016】
項8.前記正極活物質層の膜厚が0.1~100μmである、項1~7のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0017】
項9.前記(1)を満たし、前記第1集電体が銅から構成される、項1~8のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0018】
項10.前記セルが、前記正極活物質層と隣接して、さらに、導電性中間層を備える、項9に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0019】
項11.前記導電性中間層が導電性酸化物から構成される、項10に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0020】
項12.前記(2)を満たし、前記第1集電体がアルミニウムから構成される、項1~8のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0021】
項13.前記第2集電体が、銅及び/又はアルミニウムから構成される、項1~12のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0022】
項14.負極を備えていない、項1~13のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【0023】
項15.ポリマー基板又はシリコンウェハー上に形成される、項1~14のいずれか1項に記載の直列積層型全固体二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低温(特に室温)においても、全固体二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例で用いた成膜装置であるイオンビームアシストパルスレーザー蒸着(PLD)システムの概要図である。
図2】イオンビーム照射あり(参考例1)と無し(比較参考例1)で成膜したLCO薄膜及びAl基板のX線回折(XRD)θ-2θ測定結果である。
図3】イオンビーム照射あり(参考例1)と無し(比較参考例1)で成膜したLCO薄膜の014回折の極点図である。
図4】イオンビーム照射あり(参考例1)で成膜したLCO薄膜において、イオンビームの入射方向とLCO薄膜の配向方向との関係である。
図5】イオンビーム照射により作製したLCO薄膜(参考例1)を正極とするリチウムイオン電池の充放電特性である。
図6】イオンビーム照射無し(比較参考例2)及び加速電圧100Vのアルゴンイオンビーム照射下(参考例2)で、石英ガラス基板上に作製したLCO薄膜のXRDθ-2θ測定結果である。
図7】加速電圧100Vのアルゴンイオンビーム照射下(参考例2)で、石英ガラス基板上に作製したLCO薄膜の(014)面の極点図である。
図8】参考例3において、様々な加速電圧のアルゴンイオンビーム照射下で、石英ガラス基板上に作製したLCO薄膜のXRDθ-2θ測定結果である。
図9】実施例1の直列積層型全固体二次電池の断面図を示す。
図10】実施例2の直列積層型全固体二次電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で表示する場合、A以上B以下を意味する。
【0027】
また、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する。
【0028】
本発明の直列積層型全固体二次電池(特に直列積層型全固体リチウムイオン二次電池)は、少なくとも集電体、正極活物質層及び固体電解質層を備えるセルを直列に2個以上積層した直列積層型全固体二次電池であって、
(1)第1集電体上に、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、又は
(2)第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している。
【0029】
1.集電体(第1集電体及び第2集電体)
集電体(第1集電体及び第2集電体)としては、導電性を有し集電体としての機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、ステンレス等が挙げられる。
【0030】
集電体(第1集電体及び第2集電体)を基材として使用する場合はそのまま使用することができ、一方、集電体(第1集電体及び第2集電体)を多層の上に形成する場合は、その形成方法も公知方法にしたがうことができるが、正極活物質層と同様、物理蒸着法(真空蒸着法、DCスパッタ法、RFスパッタ法、パルスレーザーデポジション(PLD)法、エアロゾルデポジション(AD)法等)、化学気相蒸着(CVD)法等が好ましい。
【0031】
特に、現行のリチウムイオン二次電池においては、ほとんど全ての正極集電体には、アルミニウムが集電体として用いられている。アルミニウムは、高い耐腐食性を有しており、且つ安価で柔軟性に富むため、正極集電体として広く用いられている。この観点からは、特に要件(2)を採用する場合には、正極集電体に相当する第1集電体をアルミニウムから構成し、負極集電体に相当する第2集電体を銅及び/又はアルミニウムから構成することが好ましい。なお、第2集電体を、酸化物層であることが多い正極活物質層上に形成しやすい層とすることからは、正極集電体に相当する第1集電体をアルミニウムから構成し、負極集電体に相当する第2集電体を銅から構成することがより好ましい。
【0032】
一方、銅は、負極集電体として広く用いられているため、正極集電体として用いることができれば、バイポーラ型の積層構造が容易に形成することができる。この観点からは、特に要件(1)を採用する場合には、正極集電体に相当する第1集電体を銅から構成し、負極集電体に相当する第2集電体を銅及び/又はアルミニウムから構成することが好ましい。なお、第2集電体を、酸化物層であることが多い正極活物質層上に形成しやすい層とすることからは、正極集電体に相当する第1集電体及び負極集電体に相当する第2集電体のいずれも、銅から構成することがより好ましい。
【0033】
集電体の形状としては、特に制限されることはなく、第1集電体及び第2集電体ともに、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。
【0034】
集電体の厚みは、特に制限されるわけではないが、薄くすることで本発明の直列積層型全固体二次電池のエネルギー密度を、正極活物質のエネルギー密度に近づけることができる。このような観点から、集電体の厚みは、例えば、0.001~200μmが好ましく、0.01~100μmがより好ましい。
【0035】
2.正極活物質層
正極活物質層は、上記のとおり、従来は、HT-LCOの結晶化のために600℃程度の基板加熱が必要となっていた。また、従来は、正極活物質の他に、カーボンブラックに代表される導電剤や、ポリフッ化ビニリデンに代表されるバインダーを相当量含ませる必要があった。
【0036】
それに対して、本発明では、正極活物質層は、導電剤及びバインダーを含まない構成とすることも可能である。本発明では、正極活物質層を例えばイオンビームアシスト蒸着膜又は原子ビームアシスト蒸着膜とする場合には、成膜時に高温に基板を加熱する必要はなく、室温で正極活物質正極活物質層を上記した集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層の上に形成することが可能である。
【0037】
本発明において、正極活物質層をイオンビームアシスト蒸着膜又は原子ビームアシスト蒸着膜とする場合、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層の上に、イオンビーム及び/又は原子ビームを照射しながら前記正極活物質層を室温で形成することができる。
【0038】
特に、イオンビームアシスト蒸着膜又は原子ビームアシスト蒸着膜は、高温に晒さずとも、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向することができるものであるため、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層や固体電解質層との間の不要な反応を抑制し、固体電解質層中の固体電解質の結晶化を抑制し、直列積層型全固体二次電池の劣化を抑制しやすい。
【0039】
照射するイオンビームとしては、特に制限されるわけではないが、低温(例えば0~150℃)において、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく反応を生じさせにくい観点から、アルゴンイオンビーム、ヘリウムイオンビーム、ネオンイオンビーム、クリプトンイオンビーム、キセノンイオンビーム、酸素イオンビーム、窒素イオンビーム等が挙げられる。これらのイオンビームは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0040】
なかでも、不活性ガスのイオンビーム(アルゴンイオンビーム、ヘリウムイオンビーム、ネオンイオンビーム、クリプトンイオンビーム、キセノンイオンビーム、窒素イオンビーム等)と、酸素イオンビームとを併用した場合には、得られる正極活物質層の結晶性を向上させやすく、電池の容量(特に放電容量)を向上させやすい。
【0041】
なお、複数のイオンビームを併用する場合、その組成は特に制限はなく、例えば、不活性ガスのイオンビームを1~99体積%、酸素イオンビームを1~99体積%とすることができる。
【0042】
照射する原子ビームとしては、特に制限されるわけではないが、低温(例えば0~150℃)において、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく、副反応を生じさせにくい観点から、アルゴンビーム、ヘリウムビーム、ネオンビーム、クリプトンビーム、キセノンビーム、酸素ビーム、窒素ビーム等が挙げられる。これらの原子ビームは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0043】
なかでも、不活性ガスの原子ビーム(アルゴンビーム、ヘリウムビーム、ネオンビーム、クリプトンビーム、キセノンビーム、窒素ビーム等)と、酸素ビームとを併用した場合には、得られる正極活物質層の結晶性を向上させやすく、電池の容量(特に放電容量)を向上させやすい。
【0044】
なお、複数の原子ビームを併用する場合、その組成は特に制限はなく、例えば、不活性ガスの原子ビームを1~99体積%、酸素ビームを1~99体積%とすることができる。
【0045】
本発明では、イオンビームと原子ビームのいずれかのみを照射してもよいが、双方を照射することもできる。
【0046】
イオンビーム及び/又は原子ビームの加速電圧は、低温(例えば0~150℃)において、非晶質化を抑制しやすく、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすい観点からは、100~450Vが好ましく、220~380Vがより好ましく、容量の観点では、100~450Vが好ましく、120~350Vがより好ましい。
【0047】
このように、好ましくは集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層に対してイオンビーム及び/又は原子ビームを照射しながら、正極活物質層を形成することにより、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させ、正極活物質からなる正極活物質層を形成することができる。
【0048】
この際、イオンビーム及び/又は原子ビームの入射角度はある程度任意に選択できる。正極活物質の結晶はイオンビーム及び/又は原子ビームに対して特定の結晶方位を向けながら結晶成長することができる。具体的には、正極活物質としてLi1+x1Co1-x1を採用する場合には、結晶の[014]方向がビーム入射方向を向きながら結晶成長しやすい。つまり、ビーム入射方向と結晶の(014)面が垂直になる向きに結晶成長しやすい。一般に成膜法で作製した結晶性の薄膜は基板に対してある特定の結晶面が平行になり易い性質を有するので、イオンビーム及び/又は原子ビームを照射しながら正極活物質層を形成することにより、特定の方向に結晶が揃った正極活物質層を形成することができる。このため、イオンビーム及び/又は原子ビームの入射角度を変えることで、所望の方向に結晶方位が揃った正極活物質層を結晶成長させることができ、正極活物質層を構成する正極活物質結晶が配向している薄膜電池を製造することが可能である。具体的には、正極活物質としてLi1+x1Co1-x1を採用し、イオンビーム及び/又は原子ビームの入射角度が55°(基板面とのなす角度が35°)である場合には、基板面とLi1+x1Co1-x1の(012)面が平行で((012)配向)かつ[014]方向がビーム入射方向に平行である方向に結晶が単結晶的に揃った(3軸配向)正極活物質を形成することができる。
【0049】
このため、イオンビーム及び/又は原子ビームの入射角度は、厳密に制御する必要はないが、低温(例えば0~150℃)において、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすい観点から、10~80°が好ましく、30~70°がより好ましい。また、正極活物質の結晶方位を揃える必要がない場合には、それ以外の入射角度からイオンビーム及び/又は原子ビームを照射しても正極活物質は結晶化するので、どのような入射角度で照射しても構わない。特定方向に配向していない結晶化膜においても、目的とする本発明の直列積層型全固体二次電池に通常使用される正極活物質層として動作することができる。
【0050】
しかしながら、正極活物質中をLiイオンが動く速さは特定の結晶面に平行な方向が非常に速く、それ以外の方向には遅いので、正極活物質層中の正極活物質粒子の結晶方位は揃っている(配向している)ことが電池特性にとっては好ましい。
【0051】
次に、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層の上に形成する正極活物質層は、薄膜電池に通常使用される正極活物質層とすることができる。
【0052】
形成される正極活物質層を構成する正極活物質の結晶構造は、特に制限されるわけではないが、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく、得られる直列積層型全固体二次電池の性能の観点から、岩塩型結晶構造が好ましい。
【0053】
形成される正極活物質層を構成する正極活物質は、特に制限されるわけではなく、リチウム含有遷移金属酸化物、バナジウム酸化物(V等)、モリブデン酸化物(MoO等)等が挙げられ、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすい観点から、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。これらの酸化物はいずれも、上記のイオンビーム及び/又は原子ビームの照射により正極活物質層を形成することができる。
【0054】
このリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、一般式(1):
Li1+x1 1-x1 (1)
[式中、x1は、-0.12~0.34を示す。Mは周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子を示す。]
で表されるリチウム含有遷移金属酸化物(1)、
一般式(2):
Li1+x2 2-x2 (2)
[式中、x2は、-0.12~0.34を示す。Mは周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子を示す。]
で表されるリチウム含有遷移金属酸化物(2)、
一般式(3):
Li2+x3 1-x3 (3)
[式中、x3は、-0.12~0.34を示す。Mは周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子を示す。]
で表されるリチウム含有遷移金属酸化物(3)、
一般式(4):
Li1+x4 1-x4PO (4)
[式中、x4は、-0.12~0.34を示す。Mは周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子を示す。]
で表されるリチウム含有リン酸遷移金属化合物(4)、
一般式(5):
Li3+x5 2-x5(PO (5)
[式中、x5は、-0.12~0.34を示す。Mは周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子を示す。]
で表されるリチウム含有リン酸遷移金属化合物(5)
等が挙げられる。
【0055】
なかでも、リチウム含有リン酸遷移金属化合物におけるリチウムの含有量は、特に制限されるわけではないが、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく、得られる直列積層型全固体二次電池の性能の観点から、リチウム含有リン酸遷移金属化合物を構成する遷移金属1モルに対して、1.1~2.0モルであることが好ましい。このような観点から、一般式(1)~(5)において、x1、x2、x3、x4及びx5は、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく、得られる直列積層型全固体二次電池の性能の観点から、いずれも、-0.12~0.34が好ましく、0~0.33がより好ましく、0.10~0.32がさらに好ましい。
【0056】
一般式(1)~(5)において、M、M、M、M及びMは、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすく、得られる直列積層型全固体二次電池の性能の観点から、いずれも、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Zn等が好ましく、M、M及びMについてはMg、Al、Mn、Fe、Co、Ni、Zn等がより好ましく、MについてはMn、Fe、Co、Ni等がより好ましく、MについてはV等がより好ましい。これらの周期表第3周期典型金属原子又は遷移金属原子は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0057】
このような条件を満たす正極活物質としては、具体的には、Li1+x1Mn1-x1、Li1+x1Fe1-x1、Li1+x1Co1-x1、Li1+x1Ni1-x1、Li1+x1Co(Ni1/2Mn1/21-x1、Li1+x1(Ni1/3Mn1/3Co1/31-x1、Li1+x2Mn2-x2、Li1+x2Mn2-x2-y2y2(Mは、Mg、Al、Fe、Co、Ni又はZn;y2は0~0.50)、Li2+x3Mn1-x3、Li2+x3Mn1-x3-y3y3(Mは、Mg、Al、Fe、Co、Ni又はZn;y3は0~0.50)、Li1+x41-x4PO(Mは、Mn、Fe、Co、Ni又はZn)、Li3+x52-x5(PO、V、MoO等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0058】
正極活物質層の形成方法は、特に制限されないが、イオンビーム及び/又は原子ビームを照射しながら正極活物質層を形成するため、物理蒸着法が好ましい。
【0059】
物理蒸着法としては、イオンビームスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、熱蒸着法、レーザーアブレーション法等が好ましい。イオンビームスパッタリング法ではイオンビームを、電子ビーム蒸着法では電子ビームを、レーザーアブレーション法ではアブレーション用レーザーをターゲット材料に照射することにより、照射部分のターゲット材料が、原子、分子、イオン又はクラスターとして成膜室中に放出され、対向する集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層に堆積させることができる。本発明では、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層にはイオンビーム及び/又は原子ビームを照射しているため、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させることができる。
【0060】
レーザーアブレーション法を用いて成膜する場合にはアブレーション用レーザーのエネルギー密度は、特に制限されるわけではないが、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすい観点から、0.5~50J/cmが好ましく、1~10J/cmがより好ましい。
【0061】
アブレーション用レーザーの周波数は、特に制限されるわけではないが、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させやすい観点から、1~500Hzが好ましく、10~100Hzがより好ましい。
【0062】
物理蒸着法を採用する場合の系中の圧力は、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層上にターゲット材料を積層させやすくするとともに、イオンビーム、原子ビームの平均自由行程、副反応を抑制しやすい観点から1Pa以下が好ましく、0.1Pa以下がより好ましく、更に低い圧力(1×10-10Pa等の高真空度)であっても構わない。
【0063】
物理蒸着法を採用する場合の系中の雰囲気は、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層上にターゲット材料を積層させやすくするとともに、副反応を抑制しやすい観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気が好ましい。また、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスに水素ガスを混合した還元性ガス雰囲気とすることも可能である。また酸化物を成膜することから窒素ガス、アルゴンガス等に酸素ガスを一定割合で混合したガス雰囲気とすることもできる。
【0064】
上記した正極活物質層を形成する工程は、高温で行うことも可能であるが、本発明では低温で成膜しても、正極活物質を結晶化しつつ特定方向に配向させることができることから、低温で正極活物質層を形成した場合には、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層や固体電解質層との間の不要な反応を抑制し、固体電解質層中の固体電解質の結晶化を抑制し、直列積層型全固体二次電池の劣化を抑制しやすい。つまり、本発明では、低温で正極活物質層を形成することで、正極活物質からなる正極活物質層を形成できるとともに、各層間の副反応を抑制できるために複数のセルを積層した直列積層型全固体二次電池としやすい。このため、本発明では、正極活物質層を形成する工程、好ましくは全ての工程を、0~50℃、好ましくは5~45℃、より好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃で行うことができる。つまり、正極活物質層を形成する工程、好ましくは全ての工程において、集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層の温度を、0~50℃、好ましくは5~45℃、より好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃とすることができる。
【0065】
成膜時間は、特に制限はなく、所望の厚みの正極活物質層が得られる時間とすることができる。
【0066】
このようにして集電体(第1集電体)又は後述の導電性中間層上に形成される正極活物質層は、上記のとおり、正極活物質層を構成する正極活物質結晶が配向することができる。ここで、正極活物質層においては、全ての正極活物質結晶が配向していてもよいが、一部(例えば、10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上)の正極活物質結晶が配向し、配向している箇所を一部分のみに有する場合も包含する。本発明の製造方法によれば、上記のとおり、イオンビーム及び/又は原子ビームに対して特定の面を向きながら結晶成長することができ、具体的には、正極活物質としてLi1+x1Co1-x1を採用する場合には、(014)面を向きながら結晶成長することができる。このため、正極活物質層は、イオンビーム及び/又は原子ビームに対して特定の方向に配向しながら結晶成長したものであり、正極活物質としてLi1+x1Co1-x1を採用し、イオンビーム及び/又は原子ビームの入射角度が55°である場合には、(012)配向の正極活物質層が形成され得る。
【0067】
このようにして得られる正極活物質層の膜厚は、特に制限されるわけではないが、本発明の直列積層型全固体二次電池としての性能等の観点から、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。
【0068】
しかも、本発明によれば、上記のように、室温近傍等の低温において正極活物質層を形成することができる。従来技術では、正極活物質層を作成する際に600℃といった高温での処理が必要になるため、2セル目を積層しようとする際には、既に形成した各層での反応や原子の相互拡散が生じてしまうために、積層構造とすることができなかったが、本発明では、全ての層を室温近傍等の低温において形成することができるため、直列に積層した直列積層型全固体二次電池(特に直列積層型全固体リチウムイオン二次電池)を簡便に作製することも可能である。
【0069】
3.固体電解質層
固体電解質層は、従来から公知の構成とすることができ、形成方法も公知方法にしたがうことができるが、物理蒸着法(真空蒸着法、DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンビームアシスト又は原子ビームアシストしながらの物理蒸着法、パルスレーザーデポジション(PLD)法等)が好ましい。
【0070】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、
硫化物無機電解質として、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-Al、LiS-SiS-LiPO、LiS-P-GeS、LiS-LiO-P-SiS、LiS-GeS-P-SiS、LiS-SnS-P-SiS、LiS-P-LiN、LiS-P-P等が挙げられ、
酸化物無機電解質として、LiTi(PO、LiZr(PO、LiGe(PO等のNASICON型酸化物;(La,Li)TiO等のペロブスカイト型酸化物;LiO-P;LiO-P-LiN等が挙げられ、
その他の無機固体電解質として、例えば、LiPON、LiNbO、LiTaO、LiPO、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
【0071】
さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質として用いることができる。
【0072】
固体電解質層の膜厚は、特に制限されるわけではないが、薄くすることで本発明の直列積層型全固体二次電池のエネルギー密度を、正極活物質のエネルギー密度に近づけることができる。このような観点から、固体電解質層の厚みは、例えば、本発明の直列積層型全固体二次電池としての性能等の観点から、5~5000nmが好ましく、10~1000nmがより好ましい。
【0073】
4.導電性中間層
本発明の直列積層型全固体二次電池においては、正極活物質層と隣接して、つまり、第1集電体と正極活物質層との間に、さらに、導電性中間層を備えることもできる。
【0074】
特に、銅を正極集電体、つまり、第1集電体として使用する場合には、(1)銅の酸化還元電位が低いために、充電時に銅が酸化される虞がある、(2)正極活物質層の成膜時に銅基板が酸化される虞がある、(3)正極活物質層の成膜時に銅基板が正極活物質と反応する虞がある、といった懸念があるものの、第1集電体と正極活物質層との間に、さらに、導電性中間層を備える場合には、このような懸念を全て解消し得る点で有用である。
【0075】
このような導電性中間層を構成する材料としては、特に制限されるわけではないが、導電性酸化物を採用することができる。導電性酸化物としては、具体的には、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、ニオブドープSrTiO、ランタンドープSrTiO等が挙げられる。
【0076】
導電性中間層は、形成方法は公知方法にしたがうことができるが、物理蒸着法(真空蒸着法、DCスパッタ法、RFスパッタ法、パルスレーザーデポジション(PLD)法、エアロゾルデポジション(AD)法等)、化学気相蒸着(CVD)法等が好ましい。
【0077】
導電性中間層の膜厚は、特に制限されるわけではないが、薄くすることで本発明の直列積層型全固体二次電池のエネルギー密度を、正極活物質のエネルギー密度に近づけることができる。このような観点から、導電性中間層の厚みは、例えば、本発明の直列積層型全固体二次電池としての性能等の観点から、10~5000nmが好ましく、50~1000nmがより好ましい。
【0078】
5.直列積層型全固体二次電池
本発明の直列積層型全固体二次電池は、少なくとも、集電体、正極活物質層及び固体電解質層を備えるセルを直列に2個以上(好ましくは2~100個)積層した直列積層型全固体二次電池であるが、
(1)第1集電体上に、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、又は
(2)第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセルを直列に2個以上積層している、
のいずれかを満たしている。
【0079】
要件(1)を満たす場合、繰り返す構成単位であるセルは、例えば、第1集電体の上に形成される構成要素を意味しており、「正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセル」、「導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセル」が挙げられる。
【0080】
このため、要件(1)を満たす場合、本発明の直列積層型全固体二次電池は、
・第1集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
等が挙げられる。
【0081】
また、要件(2)を満たす場合、繰り返す構成単位であるセルは、例えば、「第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセル」、「第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備えるセル」が挙げられる。
【0082】
このため、要件(2)を満たす場合、本発明の直列積層型全固体二次電池は、
・第1集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
・第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層、第2集電体、第1集電体、導電性中間層、正極活物質層、固体電解質層及び第2集電体をこの順に備える全固体二次電池
等が挙げられる。
【0083】
いずれにしても、好ましくは全ての製造工程を、0~50℃、好ましくは5~45℃、より好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃で行うことができ、層間の不要な反応を抑制し、固体電解質層中の固体電解質の結晶化を抑制し、直列積層型全固体二次電池の劣化を抑制しやすい。
【0084】
また、上記のとおり、好ましくは全ての製造工程を、0~50℃、好ましくは5~45℃、より好ましくは10~40℃、さらに好ましくは15~35℃で行うことができるため、本発明の本発明の直列積層型全固体二次電池は、ポリマー基板やシリコンウェハーのような、耐熱性の乏しい基板上に製造することも可能である。
【0085】
このようにして得られる本発明の直列積層型全固体二次電池は、上記のとおり、正極活物質層を構成する正極活物質結晶が配向させることができ、性能向上が期待されるとともに、全ての製造工程を室温近傍で行うことができ、層間の不要な反応を抑制し、固体電解質層中の固体電解質の結晶化を抑制し、直列積層型全固体二次電池の劣化を抑制しやすい一方、正極活物質層の堆積速度を高速度化するものではないため、携帯電話用途、ウェアラブル端末、衣服への組み込み用途、LSIチップへの混載用電池、IoTセンサーチップへの混載用電池等の小型の薄膜電池用途に有効に使用することができる。
【0086】
また、場合によっては、上記した薄膜電池のみならず、送受信回路及び発電素子を同一基板上に形成し、電子デバイスとすることも可能である。この場合、送受信回路及び発電素子は、従来から公知の構成とすることができ、形成方法も公知方法にしたがうことができる。
【0087】
また、薄膜化及び多層化することにより、正極活物質以外の電池の容量に直接寄与しない構成要素である、集電体、固体電解質、負極、導電剤等の割合を非常に小さく、もしくはゼロにすることが可能である。特に、本発明の直列積層型全固体二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池とは異なり、負極を備えない構成とすることも可能であるため、従来のリチウムイオン二次電池と比較してはるかに高容量の電池を実現できる。仮に、本発明の直列積層型全固体二次電池において、負極を含ませる場合は、負極は、固体電解質層と第2集電体との間に形成することが好ましい。
【実施例0088】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
なお、実施例で用いた成膜装置であるイオンビームアシストパルスレーザー蒸着(PLD)システムの概要図を図1に示す。
【0090】
参考例1:イオンビームアシスト物理蒸着(PLD)法を用いたアルミニウム基板上のLiCoO 薄膜の作製
金属アルミニウム基板上に、LiCoO(LCO)薄膜を作製した。
【0091】
ターゲット材料として、LIO粉末およびCoCO粉末を、Li:Co比が1.1:1.0となるように秤量し、800℃で仮焼き、再度粉砕後900℃で本焼したLi1.1CoO焼結体を用いた。圧力5.0×10-4Paまで真空引きを行った後、イオンビーム発生装置におけるニュートラライザ(RFN)及びイオンガンにそれぞれアルゴンガスを3.0sccm/2.5sccmで流した。このとき、チャンバー内のガス圧は5.0×10-2Paである。アブレーション用レーザーは、エネルギー密度1.2J/cm、レーザー周波数を20Hzとした。成膜時間は30分、形成される正極活物質層の膜厚は約600nmであった。PLDでは、アブレーション用レーザーをターゲット材料に照射することにより、照射部分の物質が原子、分子、イオン又はクラスターとして瞬間的に蒸発又は剥離(アブレーション)し、対向する基板に堆積する。本実施例では、成膜中に同時にアルゴンイオンビームを試料に照射した。成膜時に基板加熱はしていないが、イオンビーム照射によって基板温度が最大100℃程度まで上昇した。
【0092】
参考例1における各種成膜条件を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
図2はイオンビーム照射あり(参考例1)と無し(比較参考例1)で成膜したLCO薄膜及びAl基板のX線回折(XRD)θ-2θ測定結果である。Al基板とイオンビーム照射無しでLCO薄膜の成膜を行った試料(比較参考例1)においては、Al基板由来の回折ピークのみが観測された。これは、イオンビーム照射無しではLCO薄膜が結晶化しておらず、アモルファス状態で堆積していることを示している。これに対して、イオンビーム照射ありの試料(参考例1)では、2θ=37.30°に回折ピークがみられた。回折角からLCO薄膜が結晶化し全ての領域において(012)配向であることが分かる。
【0095】
図3は、同じ薄膜の014回折の極点図である。014回折及びそれと等価な回折ピークが3回対称であることが分かる。(014)は(012)面とのなす角は54.02°又は58.20°であり、これはイオンビームの入射角度である55°と近似している。つまり、(014)面がイオンビームの入射方向に向いて結晶成長していることが理解できる。これらから、LCO薄膜はイオンビームアシストによって、室温結晶化し、且つ、図4に示すように全ての領域において(012)配向で成長し、面内にも(014)面がイオンビーム照射方向に向いている、2軸配向していることが確認できた。
【0096】
作製したLiCoO(LCO)薄膜からなる正極活物質層上に、スパッタ法を用いて非晶質のLiPOを電解質として積層し、続いて金属Liを負極として真空蒸着し、その上に保護層としてCu薄膜をスパッタ法にて積層した。これらのプロセスはすべて室温で行った。
【0097】
図5は、イオンビーム照射により作製したLCO薄膜(参考例1)を正極とするリチウムイオン電池の室温における充放電特性である。充電および放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=4.2V、E=2.5Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。3.7~4.2Vの間にプラトーを持つ、典型的な充放電特性が得られた。
【0098】
また試料に照射するビームをアルゴン原子ビームとして同様に電池を作製し、同様に評価したところ、同様の結果が得られた。
【0099】
比較として、イオンビームを照射しないで作製したLCOで同様の構造を作製し、充放電試験を行ったが、充放電は行われず電池として動作しなかった。
【0100】
参考例2:石英ガラス基板上のLCO薄膜作製
参考例1と同様の方法で、基板のみをAl基板から石英ガラス基板に変更し、LCO薄膜を作製した。作製手法、成膜条件及びターゲット材料は参考例1と同様である。
【0101】
図6はイオンビーム照射無し(比較参考例2)及び加速電圧100Vのアルゴンイオンビーム照射下(参考例2)で、石英ガラス基板上に作製したLCO薄膜のXRDθ-2θ測定結果である。参考例1と同様に、イオンビーム照射により、全ての領域において(012)配向のLCO薄膜が成長していることが確認できた。図7は、(014)面の極点図であるが、これも参考例1と同様に3回対称の回折パターンがみられ、イオンビーム照射方向に(014)面が向いていることが分かる。
【0102】
参考例3:イオンビーム加速電圧依存性
参考例1と同様の方法で、イオンビーム加速電圧のみを100~400Vの範囲で50Vずつ変化させ、Al基板及び石英ガラス基板上でLCO薄膜の成膜を行った。図8は石英ガラス基板上に作製したLCO薄膜の測定結果である。
【0103】
これより、加速電圧が高くなるに従い、XRDピークが低角にシフトする様子が分かる。Al基板においても同様の結果であった。イオンビームの加速電圧100~400Vの範囲で成膜したLCOを参考例1と同様に電池を作製し充放電特性を計測した結果、参考例1と同様にすべて電池として動作した。
【0104】
なお、イオンビームの種類や加速電圧、正極活物質層の成膜厚さ等を変えて実験した結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
参考例4
参考例1と同様の方法で、ターゲット材料の組成を変更し、LiMnO、LiNiO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3薄膜をAl基板及び石英ガラス基板上に作製した。XRD測定を行った結果、LiCoOと同様に、基板加熱なしで結晶化し、イオンビーム照射方向に対して(014)面を向くことを確認した。
【0107】
参考例5
参考例1と同様の方法で、基板をSi基板、Au基板、PEDOT:PSS(導電性ポリマー)基板に変更し、LCO薄膜を作製した。XRDθ-2θ測定を行った結果、これら基板上においてもLCO薄膜が室温で結晶化し、かつ全ての領域において配向することを確認した。実施例1と同様に電池を作製し充放電特性を計測した結果、参考例1と同様にすべて電池として動作した。
【0108】
参考例6
参考例1と同様の方法で、Arガス流量を調節し、成膜時の真空度(ガス圧)を10-2Paから100Paの範囲でLCO薄膜の作製を行った。その結果、10-3Paから1Paの範囲でイオンビーム照射が有効に機能しLCO薄膜が室温結晶化し、全ての領域において配向すること、なかでも、10-1Pa以下では特に結晶性に優れることが確認された。また、10Paから100Paの範囲ではLCOは結晶化しなかった。10-3Paから1Paの範囲で作製したLCO薄膜においては、参考例1と同様に電池を作製し充放電特性を計測した結果、参考例1と同様にすべて電池として動作した。
【0109】
参考例7
また、金属Liを真空蒸着せずに、スパッタ法を用いて形成した電解質としての非晶質のLiPOの上に、保護層としてCu薄膜をスパッタ法にて積層した他は参考例1と同様に、電池を作製し、同様に評価した。イオンビームの種類や加速電圧、正極活物質層の成膜厚さ等を変えて実験した結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
実施例1
イオンビームアシスト物理蒸着(IBAD)法及びパルスレーザー蒸着(PLD法)を用いて10mm角の銅板(銅テープ)上に薄膜型全固体リチウムイオン電池の2直列電池を作製した。
【0112】
まず、第1集電体である厚さ100μmの銅板(銅テープ)上に、PLD法を用いて、厚さ500nmの(In0.95Sn0.05薄膜(導電性中間層)を室温で成膜した。ターゲットには(In0.95Sn0.05焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01Paの3体積%H+Ar雰囲気(H3体積%、Ar97体積%)とした。この(In0.95Sn0.05薄膜は導電性であり、抵抗率は0.01Ω・cm程度であった。
【0113】
この(In0.95Sn0.05薄膜(導電性中間層)の上に、正極活物質層として、IBAD法を用いて、厚さ10μmのLiCoO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLi1.1CoO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。成膜中、基板に対して35°の角度で、Arイオンビームを照射し続けた。Arイオンビームの加速電圧は200Vとした。ターゲットに照射するレーザー光はKrFを使って発生させたエキシマレーザー、繰り返し周波数は20Hz、ターゲット上のレーザーエネルギー密度は1.25J/cmとした。
【0114】
実施例1における各種成膜条件を表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
次に、このLiCoO薄膜(正極活物質層)の上にPLD法を用いて、電解質層として、厚さ500nmのアモルファス状態のLiPO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLiPO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。
【0117】
続いてこのLiPO薄膜(電解質層)の上にPLD法を用いて、第2集電体として、厚さ500nmの銅薄膜を室温で形成した。ターゲットには銅粉末の焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01Paの3体積%H+Ar雰囲気(H3体積%、Ar97体積%)とした。
【0118】
以上のようにして、銅板(銅テープ)上に薄膜型全固体セルを1層分形成した後、その上に、同様の工程で、第2層目の薄膜型全固体セル((In0.95Sn0.05薄膜(導電性中間層)、LiCoO薄膜(正極活物質層)、LiPO薄膜(電解質層)、及び銅薄膜(第2集電体))を作製した。
【0119】
以上のようにして得られる実施例1の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の断面図を図9に示す。
【0120】
以上のようにして得られた実施例1の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の充放電試験を行った。充電及び放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=8.2V、E=5.0Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。7.0~7.6Vの間にプラトーを持つ、典型的な放電特性が得られ、2サイクル目の放電容量が82mAh/g、100サイクル目の放電容量が81mAh/gであった。
【0121】
実施例2
イオンビームアシスト物理蒸着(IBAD)法及びパルスレーザー蒸着(PLD法)を用いて10mm角のアルミニウム板(アルミニウムテープ)上に薄膜型全固体リチウムイオン電池の2直列電池を作製した。
【0122】
まず、第1集電体である厚さ100μmのアルミニウム板(アルミニウムテープ)上に、正極活物質層として、IBAD法を用いて、厚さ10μmのLiCoO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLi1.1CoO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。成膜中、基板に対して35°の角度で、Arイオンビームを照射し続けた。Arイオンビームの加速電圧は200Vとした。ターゲットに照射するレーザー光はKrFを使って発生させたエキシマレーザー、繰り返し周波数は20Hz、ターゲット上のレーザーエネルギー密度は1.25J/cmとした。
【0123】
実施例2における各種成膜条件を表5に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
次に、このLiCoO薄膜(正極活物質層)の上にPLD法を用いて、電解質層として、厚さ500nmのアモルファス状態のLiPO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLiPO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。
【0126】
続いてこのLiPO薄膜(電解質層)の上にPLD法を用いて、第2集電体として、厚さ500nmの銅薄膜を室温で形成した。ターゲットには銅粉末の焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01Paの3体積%H+Ar雰囲気(H3体積%、Ar97体積%)とした。
【0127】
以上のようにして薄膜型全固体セルを1層分形成した後、その上に、同様の工程で、第2層目の薄膜型全固体セル(アルミニウム薄膜(第1集電体)、LiCoO薄膜(正極活物質層)、LiPO薄膜(電解質層)、及び銅薄膜(第2集電体))を作製した。ただし、第2層目のアルミニウム薄膜(第1集電体)は、第1層目の銅薄膜(第2集電体)の上に、PLD法を用いて、厚さ500nmのアルミニウム薄膜を室温で形成した。ターゲットには厚さ5mmのアルミニウム板(純度99.9%)を使用し、成膜雰囲気は0.01Paの3体積%H+Ar雰囲気(H3体積%、Ar97体積%)とした。
【0128】
以上のようにして得られる実施例2の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の断面図を図10に示す。
【0129】
以上のようにして得られた実施例2の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の充放電試験を行った。充電及び放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=8.2V、E=5.0Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。7.0~7.6Vの間にプラトーを持つ、典型的な放電特性が得られ、2サイクル目の放電容量が105mAh/g、100サイクル目の放電容量が76mAh/gであった。
【0130】
実施例3
イオンビームアシスト物理蒸着(IBAD)法及びパルスレーザー蒸着(PLD法)を用いて、第1集電体である10mm角のAl板(Alテープ)上に、薄膜型全固体リチウムイオン電池の3直列電池を作製した。
【0131】
まず、第1集電体である厚さ100μmのアルミニウム板(アルミニウムテープ)上に、正極活物質層として、IBAD法を用いて、厚さ1μmのLiCoO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLi1.1CoO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。成膜中、基板に対して35°の角度で、Arイオンビームを照射し続けた。Arイオンビームの加速電圧は200Vとした。ターゲットに照射するレーザー光はKrFを使って発生させたエキシマレーザー、繰り返し周波数は20Hz、ターゲット上のレーザーエネルギー密度は1.25J/cmとした。
【0132】
次に、このLiCoO薄膜(正極活物質層)の上にPLD法を用いて、電解質層として、厚さ300nmのアモルファス状態のLiPO薄膜を室温で形成した。ターゲットにはLiPO焼結体を使用し、成膜雰囲気は0.01PaのAr雰囲気とした。
【0133】
続いてこのLiPO薄膜(電解質層)の上にPLD法を用いて、第2集電体として、厚さ500nmの銅薄膜を室温で形成した。ターゲットには銅粉末の焼結体を使用した。
【0134】
以上のようにして薄膜型全固体セルを1層分形成した後、その上に、第1集電体として、厚さ500nmのAl薄膜を室温で形成した。ターゲットには厚さ5mmのアルミニウム板(純度99.9%)を使用した。成膜装置内部には超高純度アルゴンから加熱したTiで酸素を除去したガスを導入することでAlが成膜中に酸化されない超低酸素分圧の状況を作り出した。
【0135】
第2層目及び第3層目の薄膜型全固体セルは第1層目の薄膜型全固体セルの銅薄膜(第2集電体)上に、アルミニウム薄膜(第1集電体)、LiCoO薄膜(正極活物質層)、LiPO薄膜(電解質層)、及び銅薄膜(第2集電体)の順で作製した。ただし、第3層目の銅薄膜(第2集電体)は、10μmとした。
【0136】
以上のようにして得られた実施例3の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の充放電試験を25℃で行った。充電及び放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=12.3V、E=7.5Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。10.5~11.5Vの間にプラトーを持つ、典型的な放電特性が得られ、2サイクル目の放電容量が118mAh/g、100サイクル目の放電容量が110mAh/g(LiCoOの重量で規格化)であった。
【0137】
実施例4
イオンビームアシスト物理蒸着(IBAD)法及びパルスレーザー蒸着(PLD法)を用いて10mm角のポリイミドシート上に薄膜型全固体リチウムイオン二次電池の3直列電池を作製した。
【0138】
まず、ポリイミドシート上に厚さ5μmのAl薄膜を室温で形成した。ターゲットには厚さ5mmのアルミニウム板(純度99.9%)を使用した。成膜装置内部には超高純度アルゴンから加熱したTiで酸素を除去したガスを導入することでAlが成膜中に酸化されない超低酸素分圧の状況を作り出した。この後、実施例3と同様にして、3直列積層型全固体リチウムを作製した。
【0139】
このようにして得られた実施例4の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の充放電試験を25℃で行った。充電及び放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=12.3V、E=7.5Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。10.4~11.3Vの間にプラトーを持つ、典型的な放電特性が得られ、2サイクル目の放電容量が104mAh/g、100サイクル目の放電容量が104mAh/g(LiCoOの重量で規格化)であった。
【0140】
実施例5
イオンビームアシスト物理蒸着(IBAD)法及びパルスレーザー蒸着(PLD法)を用いて10mm角、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上に、薄膜型全固体リチウムイオン二次電池の3直列電池を作製した。
【0141】
まず、シリコンウェハー上に厚さ5μmのAl薄膜を室温で形成した。ターゲットには厚さ5mmのアルミニウム板(純度99.9%)を使用した。成膜装置内部には超高純度アルゴンから加熱したTiで酸素を除去したガスを導入することでAlが成膜中に酸化されない超低酸素分圧の状況を作り出した。この後、実施例3と同様にして、3直列積層型全固体リチウムを作製した。
【0142】
このようにして得られた実施例5の直列積層型全固体リチウムイオン二次電池の充放電試験を25℃で行った。充電及び放電は、定電流(Cレート:0.1C)で行い、それぞれE=12.3V、E=7.5Vに達した時点で打ち切り、その後の待機時間はどちらも5分とした。10.4~11.3Vの間にプラトーを持つ、典型的な放電特性が得られ、2サイクル目の放電容量が121mAh/g、100サイクル目の放電容量が123mAh/g(LiCoOの重量で規格化)であった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10