IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社LIXILグループの特許一覧

<>
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図1
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図2
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図3
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図4
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図5
  • 特開-塗膜、屋根構造体又は建材 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127871
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塗膜、屋根構造体又は建材
(51)【国際特許分類】
   C09D 5/03 20060101AFI20240912BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D5/03
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035331
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023036578
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中大路 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 公亮
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB002
4J038CD001
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG302
4J038KA03
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA02
4J038NA06
4J038NA07
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】構造物表面からの水の落下を好ましく抑制できる、塗膜を提供すること。
【解決手段】構造物の表面に形成される塗膜であって、表面に凹凸を有し、かつ給水機能を有する、塗膜。表面の算術平均粗さRaが1.0~8.5μm、かつ表面の最大高さ粗さRzが6.0~45.0μmであることが好ましい。塗膜の吸水量が60~200mg/21.2cmであることが好ましく、塗膜は、粉体塗料組成物により形成されることが好ましい。構造物は、金属製の構造物であることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に形成される塗膜であって、
表面に凹凸を有し、かつ吸水機能を有する、塗膜。
【請求項2】
表面の算術平均粗さRaが1.0~8.5μm、かつ表面の最大高さ粗さRzが6.0~45.0μmである、請求項1に記載の塗膜。
【請求項3】
吸水量が60~200mg/21.2cmである、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項4】
温度25℃、湿度95%、及び風速0.02~0.05m/sの環境下に前記塗膜を配置した場合において、前記塗膜の表面に付着した結露水が、前記配置した時点から垂れ始めるまでの垂れ始め時間(T)を以下の式(1)で定義した場合に、前記垂れ始め時間(T)が80分以上である、請求項1又は2に記載の塗膜。
T(分)=58.9X-13.1Y+1706.6Z-5.3 (1)
(前記式(1)において、Xは前記塗膜の表面の算術平均粗さRaを示し、Yは前記塗膜の表面の最大高さ粗さRzを示し、Zは前記塗膜の吸水量(mg/21.2cm)を示す。)
【請求項5】
粉体塗料組成物により形成される、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項6】
前記構造物は、金属製の構造物である、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項7】
前記構造物は、屋根構造体又は建材である、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項8】
前記構造物は、屋根構造体であり、前記屋根構造体の屋根体の下面に形成される、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の塗膜が表面に形成された、屋根構造体又は建材。
【請求項10】
屋根体の下面に請求項1又は2に記載の塗膜が形成された、屋根構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗膜、屋根構造体又は建材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外構造物や屋内構造物等の構造物の表面に、雨水や結露水等の水が付着することで、水が落下してユーザやその所有物を濡らす問題があった。上記の問題に対し、例えば、特許文献1に開示されているように、板体下面部全体に等間隔の溝を形成して結露水を除去する溝付板に関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-144941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、板体(溝)を所定の角度で傾斜させて溝の中の結露水を除去するものであり、構造物の構造自体が制限される。特許文献1の溝付板の溝を形成する方法としては、薄く形成された金属又はプラスチックの板体自体を連続して凹凸に屈曲させる方法が挙げられているが、このような方法は構造物のデザイン性が大きく制限されるだけでなく、コストも増大する。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、構造物表面からの水の落下を好ましく抑制できる、塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、構造物の表面に形成される塗膜であって、表面に凹凸を有し、かつ吸水機能を有する、塗膜に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の塗膜からの水の落下量を測定する測定装置を示す図である。
図2】本開示に係る屋根構造体の一例を示す斜視図である。
図3】本開示に係る屋根構造体の一例を示す斜視図である。
図4】本開示に係る屋根構造体の一例を示す斜視図である。
図5】本開示に係る屋根構造体の一例を示す斜視図である。
図6】本開示に係る屋根構造体の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<塗膜>
本実施形態に係る塗膜は、構造物の表面に直接、又はラッピングシート若しくは電着塗膜等の他の塗膜を介して間接に形成される塗膜である。該塗膜が表面に形成される構造物の種類としては、特に限定されず、屋根を有する屋根構造体であってもよいし、屋外構造体であってもよいし、屋内構造体であってもよいし、折板屋根を有する屋根構造体であってもよい。或いは、これらを構成する建材であってもよい。本実施形態に係る塗膜は、構造物表面からの水の落下を好ましく抑制できる。従って、本実施形態に係る塗膜は、構造物により形成される空間の上面に形成されることが好ましい。例えば、カーポート、ガーデンルーム、ガレージ、庇、倉庫、浴室等の屋根、天井、梁等や、橋、トンネル等の公共構造物により形成される空間の上面が挙げられる。本実施形態に係る塗膜が形成される箇所は上記には限定されず、構造物の側面に塗膜が形成されてもよい。
【0009】
本実施形態に係る塗膜が表面に形成される構造物は、アルミニウム、鉄鋼、ステンレス等の金属製の構造物であることが好ましい。上記構造物は、表面に結露が発生しやすいが、本実施形態に係る塗膜が表面に形成されることで、構造物表面からの水の落下を好ましく抑制できるためである。上記構造物は、金属製の構造物には限定されず、ポリカーボネート、アクリル樹脂、FRP(繊維強化プラスチック)、塩化ビニル等の樹脂製の構造物であってもよい。
【0010】
本実施形態に係る塗膜は、表面に凹凸を有する。具体的には、塗膜の表面の算術平均粗さRaが1.0~8.5μm、かつ表面の最大高さ粗さRzが6.0~45.0μmであることが好ましい(以下、表面の算術平均粗さRaを、単に「Ra」、表面の最大高さ粗さRzを、単に「Rz」と記載する場合がある)。塗膜表面が上記の条件を満たすことで、塗膜表面に付着する結露水等の水が毛細管現象によって塗膜表面の凹凸に入り込みやすくなるため、水が滴下(落下)することを抑制できる。塗膜表面の凹凸に入り込んだ結露水等の水は、温度条件、湿度条件、天候、風速等の発生条件が解消されると、時間経過に伴い気化することで消失する。上記Raは、4.0~8.5μmであることが好ましい。Rzは、20.0~45.0μmであることが好ましい。
【0011】
本明細書において、塗膜の表面の算術平均粗さRa、及び塗膜の表面の最大高さ粗さRzは、JIS B0601-2001に準拠した測定方法により測定される。Ra、及びRzの測定は、市販の表面粗さ測定機を用いて行うことができる。Ra、及びRzの測定は、所定の方向と、該所定の方向に直交する方向と、でそれぞれ測定することが好ましい。この場合、各方向で測定されたRa、及びRzの平均値が上記数値範囲を満たすことが好ましく、各方向で測定されたRa、及びRzの何れも上記数値範囲を満たすことがより好ましい。
【0012】
本実施形態に係る塗膜は、吸水機能を有する。具体的には、吸水量が60~200mg/21.2cmであることが好ましい。塗膜が上記条件を満たすことで、塗膜表面に付着する結露水等の水の飽和量が大きくなるため、液滴が大きくなりにくく、水が滴下(落下)することを抑制できる。
【0013】
本明細書において、上記吸水量は、塗膜表面に留まる水の総重量を意味する。上記吸水量は、例えば、塗膜表面上の所定の面積(半径1.5cmの3つの円の面積の合計)に1つの円あたり各10gの水を接触させ、24時間後に水を回収し、回収した水の重量、回収前後の塗膜の重量差、及び水の揮発重量を加味することにより求められる。上記吸水量は、80~200mg/21.2cmであることがより好ましい。
【0014】
本実施形態に係る塗膜は、塗膜の表面に結露水(水)が発生した後、結露水が垂れ始めるまでの時間である垂れ始め時間が、従来の塗膜と比較して長い。これによって、結露水が滴下(落下)する前に天候等の条件が変化し、結露水が揮発等する可能性が高くなる。このため、結露水が滴下(落下)することを抑制できる。
【0015】
上記垂れ始め時間は、特定条件下(例えば、温度25℃、湿度95%、及び風速0.02~0.05m/sの環境下)に塗膜を配置(例えば、塗膜面を鉛直下方に向けて配置)して測定することができる。垂れ始め時間は、上記塗膜の配置時点から、塗膜の表面に付着した結露水が下方に落下するまでの時間を計測することにより測定することができる。測定には、例えば市販の重量データロガーを用いることができる。
【0016】
上記垂れ始め時間(T)は、上記特定条件下(温度25℃、湿度95%、及び風速0.02~0.05m/sの環境下)において、上記塗膜の表面の算術平均粗さRa、及び塗膜の表面の最大高さ粗さRz、並びに上記塗膜の吸水量(mg/21.2cm)に対して以下の式(1)の関係を有する。
T(分)=58.9X-13.1Y+1706.6Z-5.3 (1)
(上記式(1)において、Xは塗膜の表面の算術平均粗さRaを示し、Yは塗膜の表面の最大高さ粗さRzを示し、Zは塗膜の吸水量(mg/21.2cm)を示す。)
【0017】
上記式(1)は、実際に複数の塗膜のRa、Rz、吸水量をそれぞれ測定することにより求められた式であり、決定係数は約0.72であり有意な相関を示す式である。
【0018】
本実施形態に係る塗膜は、上記式(1)により求められる、垂れ始め時間(T)が80分以上であることが好ましく、90分以上であることがより好ましく、100分以上であることが更に好ましい。上記垂れ始め時間は、上記式(1)により求められた時間以外に、上記の方法で実際に測定された時間であってもよい。
【0019】
本実施形態に係る塗膜は、塗料組成物により形成される。塗料組成物の種類としては、上記Ra、Rzの条件を満たす凹凸を形成できるものであれば特に限定されないが、粉体塗料組成物であることが好ましい。粉体塗料組成物により上記塗膜を形成することによって、塗膜厚さを比較的厚くすることができるため、上記Ra、Rzの条件を満たし易くなる。以下、粉体塗料組成物を例に挙げて説明する。
【0020】
<粉体塗料組成物>
本実施形態に係る粉体塗料組成物は、樹脂と、顔料と、硬化剤と、添加剤と、を含む。また、表面調整剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0021】
(樹脂)
樹脂としては、粉体塗料に使用される公知の樹脂を使用することができ、特に限定されない。樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂は、カルボン酸と多価アルコールとを反応させたものであり、常温で固体状の樹脂である。その軟化点は、100~150℃のものが好ましい。このようなポリエステル樹脂としては、ポリエステル樹脂粉体塗料の製造に用いられる公知のポリエステル樹脂を特に制限なく使用することができる。ポリエステル樹脂の製造に用いることのできるカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,2-オクタデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸、これらの多価カルボン酸の低級アルキルエステル及びその無水物、あるいはリンゴ酸、酒石酸、1,2-ヒドロキシステアリン酸、パラオキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
ポリエステル樹脂の製造に用いることのできる多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂は、常温で固体状の樹脂であり、その樹脂の軟化点は、50~150℃のものが好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂粉体塗料の製造に用いられる公知のエポキシ樹脂を特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル樹脂、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル樹脂、アミノグリシジルエーテル樹脂、ビスフェノールAD型ジグリシジルエーテル樹脂、ビスフェノールZ型ジグリシジルエーテル樹脂、O-クレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、ビフェノールグリシジルエーテル樹脂、シクロペンタジエン骨格エポキシ樹脂、ナフタレン骨格エポキシ樹脂、GMAアクリル樹脂等が挙げられる。上記以外に、上記の樹脂の置換基を他の置換基に置き換えた樹脂、例えば、CTBNやエステル化等の変成を行った樹脂も制限なく使用することができる。
【0025】
フッ素樹脂は、含フッ素モノマーを重合(又は共重合)して得られる含フッ素共重合体である。上記含フッ素モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、(パー)フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル〔(パー)フルオロアルキル基の炭素数は、1~18個である。〕等が代表的なものとして挙げられる。
【0026】
フッ素樹脂は、上記の含フッ素モノマーと、上記の含フッ素モノマー以外の重合性モノマーとを共重合させたものでもよい。含フッ素モノマー以外の重合性モノマーとしては、ビニルエーテル類、オレフィン類、アリルエーテル類、ビニルエステル類、アリルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類等が挙げられる。
【0027】
フッ素樹脂は、硬化剤等と反応する反応性部位を有していてもよい。上記反応性部位は、例えば、反応性基含有モノマーと、上記含フッ素モノマー等とを共重合することにより導入される。反応性基含有モノマーが含有する反応性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ニトリル基、グリシジル基、イソシアネート基等の官能基が挙げられる。フッ素樹脂は、上記の中でも、水酸基含有モノマーにより水酸基が導入された水酸基含有フッ素樹脂であることが、樹脂の安定性や溶融粘度の制御等の観点から好ましい。
【0028】
(添加剤)
添加剤は、粉体塗料組成物中に含有されることで、形成される塗膜の表面に凹凸を形成する。このような添加剤としては、例えば、ポリオレフィン系添加剤、シリコーン化合物、樹脂ビーズ等が挙げられる。
【0029】
ポリオレフィン系添加剤は、粉体塗膜形成時において少なくとも一部が溶融することにより、塗膜表面に凹凸を形成する。ポリオレフィン系添加剤としては、ポリエチレン系添加剤、ポリプロピレン系添加剤、ポリフルオロエチレン系添加剤、ポリエチレン/ポリフルオロエチレン系添加剤等が挙げられる。ポリエチレン/ポリフルオロエチレン系添加剤は、予めポリエチレンとポリフルオロエチレンとが混合されている添加剤である。
【0030】
ポリオレフィン系添加剤は、粉体塗料組成物中に0.1~3.0質量%含有されることが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満である場合、塗膜表面に所定のRa、Rzを有する凹凸を形成することが困難である。上記含有量が3.0質量%を超える場合、塗膜表面に所定のRa、Rzを有する凹凸を形成することが困難であり、かつ、塗膜の外観も悪化する。
【0031】
ポリオレフィン系添加剤の粒径は、平均粒径D50が6.0~9.0μmであることが好ましい。
【0032】
樹脂ビーズは、粉体塗膜形成時の硬化温度で少なくとも一部の形状が維持されることにより、塗膜表面に凹凸を形成する。このような樹脂ビーズを構成する樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリオレフィン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等が挙げられる。樹脂ビーズの粒径は平均粒径D50が30~80μmであることが好ましい。
【0033】
樹脂ビーズとしては、市販品を用いることができる。例えば、ポリアミド樹脂(ナイロン)ビーズとしてはオルガソール(商品名、アルケマ(株)製)、ダイアミド(商品名、ダイセル・エボニック社製)等、ポリオレフィン樹脂ビーズとしてはミペロンXM(商品名:三井化学(株)製)等を挙げることができる。アクリル樹脂ビーズとしては、ジュリマーMB(商品名、東亜合成(株)製)、タフチックAR(商品名、日本エクスラン工業(株)製)、ラブコロール(商品名、大日精化工業(株)製)、テクポリマーMBX、テクポリマーSBX、テクポリマーSME(商品名、積水化成品工業(株)製)、ファインパールPB、ファインパールPM(商品名、住友化学工業(株)製)、SPGタイプ、SPタイプ(商品名、綜研化学(株)製)等の熱可塑性樹脂ビーズが挙げられる。ウレタン樹脂ビーズとしては、ウレタンビーズ(積水化成品工業(株)製)等、メラミン樹脂ビーズとしては、エポスターL(商品名、日本触媒(株)製)、ベルパールR、ベルパールH、ベルパールC(商品名、エア・ウォーター・ベルパール(株)製)、等の熱硬化性樹脂ビーズを挙げることができる。
【0034】
(顔料)
顔料としては、粉体塗料に使用される公知の着色顔料が使用でき、特に限定されない。顔料としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、チタン黄、ベンガラ等の無機系顔料や、シアニンブルー、シアニングリーン、パーマネントエローFGL、パーマネントレッドF5RK、カルバゾール、キナクリドンレッド、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0035】
(硬化剤)
硬化剤としては、上記ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂と反応し、架橋結合を形成するものであれば特に限定されず、粉体塗料に使用される公知の硬化剤が使用できる。例えば、ブロックイソシアネート硬化剤、アミン硬化剤、エポキシ硬化剤等が挙げられる。上記硬化剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0036】
(その他の成分)
本実施形態に係る粉体塗料組成物は、表面調整剤等、粉体塗料組成物に用いられる公知の物質を含んでいてもよい。例えば、可塑剤、硬化促進剤、架橋促進触媒、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、流動性調整剤、垂れ防止剤、及び消泡剤等を含んでいてもよい。
【0037】
<粉体塗料組成物の製造方法>
本実施形態に係る粉体塗料の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。粉体塗料の製造方法は、例えば、予備混合工程と、溶融混錬工程と、粉砕工程と、分級工程と、を有する。予備混合工程は、上記粉体塗料組成物の原料をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機により予備的に乾式で混合する工程である。溶融混錬工程は、上記乾式混合後の混合物を各種形式の押出機を用いて溶融混錬する工程である。溶融混錬を行った混合物は、冷却ロール、冷却コンベヤ等で冷却して固化し、ペレット状とすることが好ましい。粉砕工程は、溶融混錬工程で均一化されてペレット状となった混合物を、ハンマーミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕する工程である。分級工程は、粉砕工程で粉砕された混合物を、振動ふるい、超音波ふるい、サイクロン式分級器等を用いて特定の粒径を有するものに分級する工程である。
【0038】
<塗膜の形成方法>
本実施形態に係る粉体塗料組成物を被塗装体に塗装する方法は、被塗装体の少なくとも一面に粉体塗料組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、加熱硬化させることで行われる。粉体塗料組成物の塗布方法としては、特に制限されず、静電塗装法、静電吹付法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等を用いることができる。粉体塗料組成物を加熱硬化させる条件としては、硬化に関与する官能基及び硬化剤の量、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、110~230℃とすることができる。塗膜の厚みは、30μm以上とすることができる。粉体塗料組成物を被塗装体に塗装する前に、被塗装体をラッピングシートで被覆してもよい。又は、電着塗膜等の他の塗膜を被塗装体上に形成してもよい。
【0039】
<塗膜の評価方法>
本実施形態に係る塗膜の評価方法は、塗膜における結露水の垂れ性を評価する方法である。塗膜の評価方法は、上記式(1)を利用して、塗膜の上記垂れ始め時間(T)を推定する工程を含んでいてもよい。上記工程は、形成された塗膜の表面の算術平均粗さRa、及び表面の最大高さ粗さRz、並びに吸水量(mg/21.2cm)を測定する工程と、上記測定された数値を上記式(1)に当てはめて、上記垂れ始め時間(T)を推定する工程と、を備えていてもよい。本実施形態に係る塗膜の評価方法は、上記垂れ始め時間(T)が所定の閾値(例えば、80分、90分、又は100分)以上であるか否かにより、塗膜における結露水の垂れ性を評価する工程を含んでいてもよい。
【0040】
<構造物(屋根構造体又は建材)>
本実施形態に係る構造物は、上記塗膜が表面に形成される。構造物としては、例えば、屋根を有する屋根構造体であってもよいし、構造体を形成する建材であってもよい。屋根構造体の例としては、例えば、カーポート、ガーデンルーム、ガレージ等が挙げられる。
【0041】
屋根構造体としてのカーポート1は、図2に示すように、柱材である支柱2と、支柱2に接続される梁4と、梁4に接続される屋根体3と、を備える。屋根体3は、例えば、図2に示すように複数の長尺材を有し、下面が平面状に形成される。カーポート1において、少なくとも屋根体3の下面に上記塗膜が形成されることが好ましい。これによって、屋根体3の下面からカーポート1の下に駐車した車へと結露水が滴下(落下)することが抑制される。屋根体3の下面(下側の水平面)は放射冷却しやすいため結露水が発生しやすく、また、結露水が垂れた場合には結露水が自動車に直接当たることから、屋根体3の下面に塗膜を形成することがより効果的である。上記には限定されず、カーポートの全体、即ち支柱2及び梁4に対しても上記塗膜が形成されることが好ましい。
【0042】
屋根構造体としてのガーデンルーム1aは、図3に示すように、例えば建物本体Tのサッシ窓等の開口部が形成された外壁T1から所定の間隔で離間し、かつ外壁T1に沿って略平行に配置される。ガーデンルーム1aは、柱材8と、面材5及び採光壁部により構成される前面壁部11と、採光壁部により構成される一対の側面壁部7と、屋根板及び垂木9により構成される屋根体6と、を備える。ガーデンルーム1aにおいて、少なくとも垂木9を含む屋根体6の下面に上記塗膜が形成されることが好ましい。これによって、屋根体6の下面からガーデンルーム1aの内部に結露水が滴下(落下)することが抑制される。上記には限定されず、ガーデンルーム1aの全体に対して上記塗膜が形成されることが好ましい。
【0043】
屋根構造体としてのカーポート1bは、図4に示すように、柱材である支柱2bと、支柱2bに接続される梁4bと、梁4bに接続される屋根体3bと、を備える。図4は、カーポート1bを斜め下方向から見た斜視図である。屋根体3bは、例えば、図4に示すように複数の長尺材を有し、下面が平面状に形成される。カーポート1bは、カーポート1とは異なり、梁4bが屋根体3bの下面側に設けられている梁置き式のカーポートである。カーポート1bにおいて、少なくとも屋根体3bの下面、及び梁4bの下面(水平面)に上記塗膜が形成されることが好ましい。これによって、屋根体3bの下面からカーポート1bの下に駐車した車へと結露水が滴下(落下)することが抑制される。上記には限定されず、梁4bの側面(鉛直面)に対しても上記塗膜が形成されることが好ましく、カーポートの全体、即ち支柱2及び梁4bの側面(鉛直面)に対しても上記塗膜が形成されることが好ましい。
【0044】
屋根構造体としてのガーデンルーム1cは、図5に示すように、柱材8cと、採光壁部により構成される前面壁部11cと、折り戸パネルPにより構成される一対の側面壁部7cと、屋根板及び垂木9cにより構成される屋根体6cと、天井材及び格縁13により構成される天井12と、を備える。ガーデンルーム1cにおいて、少なくとも格縁13を含む天井12の下面、及び垂木9cを含む屋根体6cの下面のいずれかに上記塗膜が形成されることが好ましい。また、上記天井12の下面及び上記屋根体6cの下面の両方に上記塗膜が形成されることが好ましい。これによって、天井12や屋根体6cの下面からガーデンルーム1cの内部に結露水が滴下(落下)することが抑制される。上記には限定されず、ガーデンルーム1cの全体に対して上記塗膜が形成されることが好ましい。
【0045】
屋根構造体1dは、図6に示すように、柱材である支柱2dと、壁面Wと、支柱2d及び壁面Wに支持される屋根体3dと、を有する。屋根構造体1dは、例えば、カーポートや自転車置き場、玄関ポーチ等として使用される。屋根構造体1dにおいて、少なくとも屋根体3dの下面に上記塗膜が形成されることが好ましい。これによって、屋根体3dの下面から屋根構造体1dの内部に結露水が滴下(落下)することが抑制される。上記には限定されず、壁面Wの内面側にも上記塗膜が形成されることが好ましく、屋根構造体1dの全体に対して上記塗膜が形成されることが好ましい。
【0046】
以上、本開示の実施形態に係る塗膜について説明した。しかし、本開示は上記の実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【実施例0047】
以下、実施例により本開示を更に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0048】
[粉体塗料の作製]
以下の表1に示すP-1~P-6に係る各原料をそれぞれ、表1に示す配合量(表1中の数字の単位は質量%を意味する)で配合し、混合した後に溶融混錬し、冷却後、微粉砕したものを分級した。上記の方法により、P-1~P-6に係る粉体塗料組成物を得た。表1中の各原料の詳細を以下に示す。
【0049】
ポリエステル:水酸基含有ポリエステル樹脂 ユピカコートGV570 (日本ユピカ(株)製)、カーボンブラック:MA100 (三菱ケミカル(株)製)、ブロックイソシアネート:ε-カプロラクタムブロックイソシアネート VESTAGON(登録商標) B1530 (エボニック・デグサ社製)、PE/PTFE:PTFE変性PEワックス セラフラワー969 (粒径D50=6μm、BYK社製)、表面調整剤:レジフローP67 (ESTRONCHEMICAL社製)、リン系加工安定剤 IRGAFOS 168 (BASF社製)、及びベンゾイン (富士フイルム和光純薬(株)製)
【0050】
【表1】
【0051】
[試験板の作製]
上記P-1~P-6に係る粉体塗料組成物を用い、板厚1.5mmのアルマイト処理アルミ板を垂直方向に吊り下げ、コロナ帯電式静電粉体塗装機を用いて-90KVの電圧で狙いの膜厚となるように静電塗装した。次いで電気炉にて180℃×30分の条件で焼き付けて溶融・硬化を行い、そのまま室温になるまで放冷して試験板を作製した。
【0052】
[意匠性評価]
P-1~P-6に係る試験板の塗装後の塗膜表面の外観を目視で観察し、以下の評価基準により意匠性を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
[意匠性評価:評価基準]
2:意匠性が良好(全体として均一な質感が観察される)
1:意匠性が不良(質感として部分的な偏りが観察される)
【0054】
[結露水の垂れ性評価]
図1に示す結露発生促進装置1に、P-1~P-6に係る試験板50を組み込み、結露水の垂れ性を評価した。図1は、結露発生促進装置10を水平方向から視た装置概要図である。図1に示すように、結露発生促進装置10は、クールプレート20(CP-520 タイジ株式会社製)と、断熱材30と、仕切り板40と、受け皿60と、を有する。P-1~P-6に係る試験板50は、一対の仕切り板40の間に、塗装面を下方に向けて配置した。上記塗装面の水平面に対する傾斜角度は3°である。クールプレート20は、プレート表面温度が2~3℃となるように設定した。上記試験板50が配置された結露発生促進装置10を、室温25℃、相対湿度90%(風速0.02~0.05m/s)に設定された恒温恒湿槽(ETAC HIFLEX FX234P 楠本化成株式会社製)に2時間配置し、受け皿60に落下した結露水の重量を電子天秤(GF-6100 (株)エー・アンド・デイ製)により測定した。結果を表2に示す。
【0055】
[結露水の垂れ始め時間]
上記結露発生促進装置10を用い、上記P-1~P-6に係る試験板50を上記恒温恒湿槽の環境下に配置した時点から、試験板50の塗膜表面から結露水が垂れ始めるまでの時間(min)を測定した。測定には重量データロガー(AD-1688 (株)エー・アンド・デイ製)を用いた。以下の評価基準により結露水の垂れ性を評価した。結果を表2に示す。
【0056】
[結露水の垂れ性評価:評価基準]
2:結露水の垂れ性が良好(受け皿に落下した結露水の重量が0.09g未満、かつ垂れ始め時間が80min以上)
1:結露水の垂れ性が良好でない(受け皿に落下した結露水の重量が0.09g以上、又は垂れ始め時間が80min未満)
【0057】
[吸水性評価]
P-1~P-6に係る試験板の重量を予め測定した後、塗装面(10cm×15cm)上に、3つのポリプロピレン製の円筒(内径3cm、高さ3cm)を配置し、各円筒の内部に水をそれぞれ10g投入し、投入後の試験板重量を測定した。円筒上部を密閉した状態で温度23℃、相対湿度50%の条件で24時間保持した。その後、水を回収する前の試験板重量を測定した。次いで、投入した水を回収し、回収後の試験板重量を測定した。蒸発量を加味した以下の式(2)に基づいて吸水量を算出した。結果を表2に示す。
吸水量(mg/21.2cm)=((回収後試験板重量)-(投入前試験板重量))-((投入後試験板重量)-(回収前試験板重量)) (2)
【0058】
[Ra、Rzの測定]
表面粗さ測定機 サーフコーダ SE500((株)小坂研究所製)を用い、P-1~P-6に係る試験板の塗装面(10cm×15cm)の表面粗さRa、Rzをそれぞれ測定した。測定は、長手方向(方向1)と、該長手方向に直交する短手方向(方向2)についてそれぞれ行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6