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特開2024-127873トリフルオロ酢酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127873
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】トリフルオロ酢酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/14 20060101AFI20240912BHJP
   C07C 69/63 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07C67/14
C07C69/63
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035432
(22)【出願日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2023036242
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 達也
(72)【発明者】
【氏名】金村 崇
(72)【発明者】
【氏名】井本 匡美
(72)【発明者】
【氏名】田窪 征司
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006BC31
4H006BM10
4H006BM71
(57)【要約】
【課題】アミン又はフッ化カリウムを使用することなく、且つ、例えば蒸留のような簡便な方法でトリフルオロ酢酸を精製可能な、トリフルオロ酢酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】トリフルオロ酢酸エステルの製造方法であって、炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより、トリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程を有する、トリフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロ酢酸エステルの製造方法であって、
炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより、トリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程を有する、トリフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程において、炭素数1~4の低級アルコール1モルに対し、CFCOFを1~3モルのモル比で添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記炭素数1~4の低級アルコールはエタノールである、請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
トリフルオロ酢酸エステルと、HFと、CFCOFとを含み、CFCOFの含有量は0.1~30質量%である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トリフルオロ酢酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロ酢酸エステルは、従来より医農薬の原料として活用されており、今後もその重要は高まるものと考えられる。
【0003】
トリフルオロ酢酸エステルの製造方法として、特許文献1及び2に開示されるような、CFCOFをフッ化カリウムの存在下、エタノールと反応させる方法が公知である。それ以外にも、特許文献3に開示されるような上記フッ化カリウムの替わりにアミンを使用する方法も公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許出願公開第104402714号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第104370730号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第102351694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本開示の目的とするところは、アミン又はフッ化カリウムを使用することなく、且つ、例えば蒸留のような簡便な方法でトリフルオロ酢酸を精製可能な、トリフルオロ酢酸の製造方法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数1~4の低級アルコールに対し、過剰量のCFCOFを添加することにより、アミンやフッ化カリウムといった添加剤を使用することなく、且つ、反応後生成物を蒸留するだけでトリフルオロ酢酸エステルを得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示は、以下のトリフルオロ酢酸エステルの製造方法を提供する。
項1.
トリフルオロ酢酸エステルの製造方法であって、
炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより、トリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程を有する、トリフルオロ酢酸エステルの製造方法。
項2.
前記反応工程において、炭素数1~4の低級アルコール1モルに対し、CFCOFを1~3モルのモル比で添加する、項1に記載の製造方法。
項3.
前記炭素数1~4の低級アルコールはエタノールである、項1又は2の製造方法。
項4.
トリフルオロ酢酸エステルと、HFと、CFCOFとを含み、CFCOFの含有量は0.1~30質量%である、組成物。
【発明の効果】
【0008】
以上にしてなる本開示に係るトリフルオロ酢酸エステルの製造方法によれば、アミン又はフッ化カリウムを使用することなく、且つ、反応生成物に対して蒸留のような簡便な操作を実施するだけでトリフルオロ酢酸を精製することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0010】
本開示のトリフルオロ酢酸エステルの製造方法は、炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより、トリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程を有する。
【0011】
炭素数1~4の低級アルコールとしては、公知のものを広く使用することができ、特に限定はない。ただし、目的とする化合物としてはトリフルオロ酢酸エチルの有用性が特に高いため、エタノールを使用することが好ましい。
【0012】
CFCOFは、炭素数1~4の低級アルコールに対し、該炭素数1~4の低級アルコールと等モル以上添加、つまり、炭素数1~4の低級アルコール1モルに対してCFCOFを1モル以上の比率で添加する。CFCOFを炭素数1~4の低級アルコールに対して等モル以上添加しない場合、得られる反応生成物内に炭素数1~4の低級アルコールが混在することとなり、最終目的物であるトリフルオロ酢酸エステルを精製する工程を簡略化することができない。生成物として炭素数1~4の低級アルコール/トリフルオロ酢酸エステル、水/トリフルオロ酢酸エステル/炭素数1~4の低級アルコール、炭素数1~4の低級アルコール/HF等の共沸組成物が生成してしまうと、トリフルオロ酢酸エステルの分離が困難となる。
【0013】
上記の通り、CFCOFは炭素数1~4の低級アルコール1モルに対して1モル以上の比率で添加し、1モルを超える比率で添加することが好ましく、1.02モル以上の比率で添加することがより好ましく、1.05モル以上の比率で添加することがさらに好ましい。CFCOFを添加する上限としては、原料であるCFCOFを回収するロスを回避するため、炭素数1~4の低級アルコール1モルに対して3モルの比率であることが好ましく、1.5モルの比率であることがより好ましく、1.2モルの比率であることがさらに好ましい。
【0014】
炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における温度条件は、CFCOFが反応粗体に溶解することを抑制し、蒸留時におけるリサイクル量が過度とならないようにするために、-20℃以上とすることが好ましく、0℃以上とすることがより好ましく、10℃以上とすることがさらに好ましい。
【0015】
また、炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における温度条件は、反応機器への腐食を抑制し、また、反応圧力を高めないようにするために、100℃以下とすることが好ましく、95℃以下とすることがより好ましく、90℃以下とすることがさらに好ましい。
【0016】
炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における反応は、反応生成物及び原料のロスを低減するため、密閉下に行うことが好ましい。この際、窒素又はアルゴン等の添加はCFCOFの回収率の低下原因となるので行わないことが好ましい。反応圧力は反応温度により減圧にも加圧にもなりうるが、反応速度を速くするという理由からマイナス0.05MPaG以上とすることが好ましく、0.0MPaG以上とすることがより好ましく、0.1MPaG以上とすることがさらに好ましい。
【0017】
炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における反応圧力は、漏洩防止(安全性)という理由から、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましく、0.8MPaG以下とすることがさらに好ましい。
【0018】
炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における反応時間は、温度を安定に保つ(徐熱)ために、1時間以上とすることが好ましく、2時間以上とすることがより好ましく、3時間以上とすることがさらに好ましい。
【0019】
炭素数1~4の低級アルコールにCFCOFを添加してトリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程における反応時間は、生産性向上を考慮し、24時間以下とすることが好ましく、20時間以下とすることがより好ましく、16時間以下とすることがさらに好ましい。
【0020】
炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより得られる反応生成物を、精製工程を経て純度の高いトリフルオロ酢酸エステルを得ることができる。
【0021】
精製工程における精製方法は、公知の精製方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。但し、簡便な方法であることから、蒸留により精製を実施することが好ましい。
【0022】
本開示は、トリフルオロ酢酸エステルと、HFと、CFCOFとを含み、CFCOFの含有量は0.1~30質量%である組成物を開示する。
【0023】
本開示の組成物中に含まれるCFCOFの含有量は、本開示の組成物100質量%中に0.1質量%以上であり、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。
【0024】
一方、本開示の組成物中に含まれるCFCOFの含有量は、本開示の組成物100質量%中に30質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
トリフルオロ酢酸エステルの含有量は、本開示の組成物100質量%中に70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
一方、トリフルオロ酢酸エステルの含有量は、本開示の組成物100質量%中に90質量%以下であることが好ましく、89質量%以下であることがより好ましく、88質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
HFの含有量は、本開示の組成物100質量%中に10質量%以上であることが好ましく、11質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
一方、HFの含有量は、本開示の組成物100質量%中に15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本開示の組成物は、炭素数1~4の低級アルコールに対し、CFCOFを等モル以上添加することにより得ることができる。
【0030】
本開示の組成物は、その効果及び目的を阻害しない範囲内で、トリフルオロ酢酸、トルエン、及び水、からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0031】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示はこうした例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0032】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示がこれらに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
1Lのステンレスオートクレーブにエタノール204g 4.43mol (水分:0.2%含む)を仕込み、60℃に加熱攪拌しながら、CF3COF 585g 5.04molを一定流量で仕込みながら反応させた。反応圧力は最終的に0.6MPaGになった。反応後、反応混合物を精留塔に仕込み常圧下に精留を行った。低沸点のCF3COFを回収、沸点20℃のHF留分を抜き出したのち、高純度のトリフルオロ酢酸エチル 580gを回収した(収率92%)。
【0034】
(実施例2~6)
下記表1の通り、実施例1に準じた方法で実施例2~6を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
(比較例1)
1Lのステンレスオートクレーブにエタノール204g 4.435mol (水分:0.2%含む)を仕込み、60℃に加熱攪拌しながら、CF3COF 250g 2.16molを一定流量で仕込みながら反応させた。反応圧力は最終的に大気圧になった。反応後、反応混合物を精留塔に仕込み常圧下に精留を行った。エタノールとトリフルオロ酢酸エチルとの共沸組成物が形成され、精留にて分離できず、トリフルオロ酢酸エチルを得ることは出来なかった。
【0037】
下記表2に示す通り、各実施例では得られる組成物中のアルコールを排除することができたが、比較例1では上記の通りエタノールとトリフルオロ酢酸エチルとの共沸組成物が形成された。
【0038】
【表2】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロ酢酸エステルの製造方法であって、
エタノールに対し、CFCOFを等モル以上添加し、60℃以上90℃未満で反応させることにより、トリフルオロ酢酸エステル及びHFを得る反応工程を有する、トリフルオロ酢酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程において、エタノール1モルに対し、CFCOFを1~3モルのモル比で添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
トリフルオロ酢酸エステルと、HFと、CFCOFとを含み、CFCOFの含有量は0.1~30質量%である、組成物。