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特開2024-127874オキシリピン含有組成物を製造する方法
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  • 特開-オキシリピン含有組成物を製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127874
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】オキシリピン含有組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035449
(22)【出願日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2023036773
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596102816
【氏名又は名称】日本フイルター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】梅津 晶
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BC46
4B065CA02
4B065CA10
4B065CA13
(57)【要約】
【課題】オキシリピン含有材料からのオキシリピンの収量を向上させる手段を提供する。
【解決手段】オキシリピン含有材料の破砕物のゲルを、溶媒で抽出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシリピン含有組成物を製造する方法であって、
オキシリピン含有材料の破砕物のゲルを、溶媒で抽出する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
ゲルが、アルギン酸ゲル又はアガロースゲルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ゲルがアルギン酸ゲルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
ゲルにおけるオキシリピン含有材料の破砕物の含量が、5~30%(w/v)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ゲルの形状が、糸状又は球状である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
抽出工程の前に、オキシリピン含有材料の破砕物のゲルを調製する工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
オキシリピン含有材料の破砕物とゲル化剤とを含むゲル原液を、多価金属イオン化合物の水溶液へ滴下することによりゲルを調製する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ゲル化剤がアルギン酸ナトリウムである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
多価金属イオン化合物が塩化カルシウムである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
塩化カルシウムの水溶液における塩化カルシウム濃度が2.5~20%(w/v)である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
オキシリピン含有材料が植物(藻類に分類されるものを除く)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
オキシリピン含有材料が藻類である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
オキシリピン含有材料がナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属藻類である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
オキシリピンが、8-HEPE、11-HEPE、15-HEPE、18-HEPE、11-HETE、及び15-HETEからなる群より選ばれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
溶媒が、水、アルコール又はその水溶液、及び炭化水素からなる群より選ばれ、かつ、
オキシリピンが、8-HEPE、15-HEPE、及び18-HEPEからなる群より選ばれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
溶媒が水であり、かつ、
オキシリピンが、8-HEPE、15-HEPE、及び18-HEPEからなる群より選ばれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項17】
溶媒が水であり、かつ、
オキシリピンが15-HEPEである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
抽出を連続的に行なう、請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
抽出物を、pH2.5~5.0でのカラム精製に供する工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシリピン含有組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシリピンは、微生物(藻類等)、植物や動物等の多種の生物が含有する物質であり、様々な生理活性を有することが知られている。オキシリピンは、原料物質である脂肪酸から産生される。
オキシリピンを製造する手段として、ナンノクロロプシス属藻類の破砕物を水で抽出する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-136959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1の水抽出物を藻類破砕物から分離するためにクエン酸添加により藻類破砕物を凝集させたところ、オキシリピンの収量が低下することを初めて見いだした。具体的には、藻類破砕物の凝集を経て取得した水抽出物に含まれる15-HEPE(オキシリピンの一種)の量が、水抽出前の藻類破砕物に含まれていた15-HEPE量の10%程度であったことを見出した。
そこで、藻類破砕物を凝集する工程を用いることなくオキシリピンを製造する手段の提供を課題として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を鋭意検討したところ、本発明者は、藻類破砕物をゲル化して溶媒抽出に供すると、藻類破砕物を凝集させることなくオキシリピン含有組成物を取得できることを見いだした。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔19〕に関するものである。
〔1〕オキシリピン含有組成物を製造する方法であって、
オキシリピン含有材料の破砕物のゲルを、溶媒で抽出する工程を含む、製造方法。
〔2〕ゲルが、アルギン酸ゲル又はアガロースゲルである、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕ゲルがアルギン酸ゲルである、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔4〕ゲルにおけるオキシリピン含有材料の破砕物の含量が、5~30%(w/v)である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔5〕ゲルの形状が、糸状又は球状である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔6〕抽出工程の前に、オキシリピン含有材料の破砕物のゲルを調製する工程を更に含む、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔7〕オキシリピン含有材料の破砕物とゲル化剤とを含むゲル原液を、多価金属イオン化合物の水溶液へ滴下することによりゲルを調製する、前記〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕ゲル化剤がアルギン酸ナトリウムである、前記〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕多価金属イオン化合物が塩化カルシウムである、前記〔7〕に記載の製造方法。
〔10〕塩化カルシウムの水溶液における塩化カルシウム濃度が2.5~20%(w/v)である、前記〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕オキシリピン含有材料が植物(藻類に分類されるものを除く)である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔12〕オキシリピン含有材料が藻類である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔13〕オキシリピン含有材料がナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属藻類である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔14〕オキシリピンが、8-HEPE、11-HEPE、15-HEPE、18-HEPE、11-HETE、及び15-HETEからなる群より選ばれる、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔15〕溶媒が、水、アルコール又はその水溶液、及び炭化水素からなる群より選ばれ、かつ、
オキシリピンが、8-HEPE、15-HEPE、及び18-HEPEからなる群より選ばれる、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔16〕溶媒が水であり、かつ、
オキシリピンが、8-HEPE、15-HEPE、及び18-HEPEからなる群より選ばれる、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔17〕溶媒が水であり、かつ、
オキシリピンが15-HEPEである、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔18〕抽出を連続的に行なう、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔19〕抽出物を、pH2.5~5.0でのカラム精製に供する工程を更に含む、前記〔1〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
後述の実施例で示されるように、本発明に従うと、藻類破砕物を凝集させることなくオキシリピン含有組成物で製造できる。したがって、本発明は、従来技術にはない利点を持つオキシリピンの製造手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例2(ゲル中の破砕物含量及びゲル形状の抽出への影響)の結果を示す。
図2図2は、実施例3(ゲル化の際の塩化カルシウム溶液の濃度の検討)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔オキシリピン〕
本発明におけるオキシリピンとは、エイコサペンタエン酸(EPA)又はアラキドン酸(AA)を原料物質として生物によって産生される物質をいう。
エイコサペンタエン酸(EPA)を原料物質とするオキシリピンとしては、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)、11-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(11-HEPE)、15-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(15-HEPE)、18-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(18-HEPE)、17,18-ジヒドロキシエイコサペンタエン酸(Resolvin E3)やプロスタグランジンG3(PGG3)等が挙げられる。
アラキドン酸(AA)を原料物質とするオキシリピンとしては、11-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(11-HETE)、15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15-HETE)やプロスタグランジンG2(PGG2)等が挙げられる。
これらのなかでも、8-HEPE、11-HEPE、15-HEPE、18-HEPE、11-HETE、及び15-HETEの製造に対して好適に本発明を適用できる。
オキシリピン含有材料が複数種類のオキシリピンを含む場合、当該複数種類のオキシリピンを含有する組成物を本発明に従い製造できる。
【0010】
〔オキシリピン含有材料〕
本発明では、オキシリピンを含有する生物由来の材料を特に制限なく使用できる。
オキシリピンを含有する生物としては、藻類、微生物(藻類に分類されるものを除く)、植物(藻類に分類されるものを除く)や動物が挙げられる。
藻類としては、ナンノクロロプシス属藻類、クロレラ属藻類や、ユーグレナ属藻類等が挙げられる。
微生物(藻類に分類されるものを除く)としては、ラビリンチュラ、クサレケカビや、酵母等が挙げられる。
植物(藻類に分類されるものを除く)としては、エゴマ、アマや、チア等が挙げられる。
動物としては、マグロ、イワシや、オキアミ等が挙げられる。
オキシリピン含有材料は、好ましくは藻類又は植物(藻類に分類されるものを除く)、より好ましくは藻類、さらに好ましくはナンノクロロプシス属藻類に由来する。
オキシリピン含有材料は、微生物寄託機関や市場から入手可能であり、自然界から単離してもよい。
本発明は、1種類以上のオキシリピン含有材料を用いて実施できる。
以下、ナンノクロロプシス属藻類について詳述する。
【0011】
〔ナンノクロロプシス属藻類〕
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)は、不等毛植物門、真正眼点藻綱に属する単細胞藻類である。
ナンノクロロプシス属藻類は、オキシリピンを産生して細胞内に蓄積できるものを特に制限なく使用できる。具体例としては、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・ガティタナ(Nannochloropsis gaditana)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・アトムス( Nannochloropsis atomus)、ナンノクロロプシス・マキュラタ(Nannochloropsis maculata)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)や、ナンノクロロプシス・エスピー(Nannochloropsis sp.)等が挙げられる。これらのなかでは、ナンノクロロプシス・オセアニカ及びナンノクロロプシス・ガティタナが好ましく、ナンノクロロプシス・オセアニカが特に好ましい。
ナンノクロロプシス・オセアニカとしては、国立研究開発法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設(NIESコレクション)に寄託されているNIES-2145株や、NCMA(The National Center for Marine Algae and Microbiota)(米国)に寄託されているCCMP-1779株が挙げられ、NIES-2145株が好ましい。
ナンノクロロプシス属藻類は、微生物寄託機関や市場から入手可能であり、自然界から単離してもよい。
【0012】
ナンノクロロプシス属藻類は、公知の方法に従い培養できる。
培地としては、後述する実施例で用いたESM培地の他、NIESコレクションのホームページ([online],[令和5年2月21日検索],インターネット,<https://mcc.nies.go.jp/02medium.html>)の「2. 海産および汽水産藻類用培地」に挙げられているもの等を使用できる。
培養条件は藻類の種類や培養規模に応じて適宜設定できるが、ナンノクロロプシス・オセアニカは、温度20~25℃、白色光照射下又は自然光下で(好ましくは光量子密度:17~300μmol/m2/秒)で振盪培養又は通気培養することが好ましい。
【0013】
〔オキシリピン含有組成物の製造方法〕
本発明では、オキシリピン含有材料の破砕物のゲル(以下、「破砕物ゲル」ともいう)を溶媒で抽出することにより、オキシリピン含有組成物を製造する。
以下、「オキシリピン含有材料の破砕」、「破砕物ゲルの調製」及び「破砕物ゲルの溶媒抽出」について詳述する。
【0014】
〔オキシリピン含有材料の破砕〕
オキシリピンの収量を高めるために、オキシリピン含有材料を破砕する。
破砕手段は、オキシリピン含有材料を破壊できる限り特に制限されない。破砕手段としては、ビーズ式ホモジナイザー、ポリトロンホモジナイザー、圧力式ホモジナイザーや、超音波式ホモジナイザー等が挙げられる。
動物由来の材料の場合、例えば、当該材料を液体媒体と共にブレンダーで粗砕した後、ポリトロンホモジナイザーで微粉砕することで破砕物が得られる。
植物由来の材料の場合、例えば、当該材料をジルコニアビーズと共に乳鉢に投入し、乳棒ですり潰すことで破砕物が得られる。
藻類由来の材料の場合、例えば、培養液から回収した藻細胞を液体媒体中に懸濁させ、破砕手段に供することで破砕物が得られる。
液体媒体としては、水、アルコール、又は水とアルコールとの混合液が挙げられ、スケールアップ時の安全性の点で水(特に、純水)が好ましい。アルコールとしてはメタノールやエタノール等が挙げられ、エタノールが好ましい。水とアルコールとの混合液におけるアルコール含量は、混合液の総質量に対して20~80質量%、好ましくは40~60質量%である。液体媒体には、pHの調整を目的として2-モルホリノエタンスルホン酸を添加してもよい。
【0015】
〔破砕物ゲルの調製〕
本発明では、オキシリピン含有材料の破砕物をゲル化する。
ゲル化手段は、破砕物に含まれるオキシリピンを損なわない限り特に制限されず、公知の手段を使用できる。
好ましい態様では、オキシリピン含有材料の破砕物とゲル化剤とを含むゲル原液を、多価金属イオン化合物の水溶液へ滴下することによりゲルを調製する。
【0016】
ゲル化剤は、公知の物質を使用できる。ゲル化剤としては、アルギン酸ナトリウム、アガロース(寒天)、ゼラチンや、グルコマンナン等が挙げられる。
ゲル化剤は、好ましくはアルギン酸ナトリウム又はアガロースであり、より好ましくはアルギン酸ナトリウムである。換言すれば、破砕物ゲルは、好ましくはアルギン酸ゲル又はアガロースゲルであり、より好ましくはアルギン酸ゲルである。
【0017】
多価金属イオン化合物は、調製後の洗浄処理等によって崩壊しない強度を有するゲルを形成するために使用する。
多価金属イオンとしては、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが挙げられる。
多価金属イオン化合物としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウムや、塩化マグネシウム等が挙げられる。
多価金属イオン化合物は、好ましくは塩化カルシウム又は乳酸カルシウムであり、より好ましくは塩化カルシウムである。
多価金属イオン化合物の水溶液における当該化合物の濃度(多価金属イオン化合物の質量(w)/水溶液の体積(v))は、強度に優れたゲル調製の観点から、好ましくは0.625~20%(w/v)、より好ましくは2.5~20%(w/v)である。
【0018】
なお、カルシウムイオン濃度が高いオキシリピン含有材料では、アルギン酸ナトリウムとの混合時にアルギン酸ゲルが瞬時に生じてしまい、所望の形状のゲルを調製出来ないことがある。この場合、式1または式2に記載の反応に従いオキシリピン含材料中のカルシウムイオン濃度を低下させることを目的に、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを加えてもよい。

式1:CaCl2+2NaHCO3→CaCO3↓+2NaCl+H2
式2:CaCl2+Na2CO3→CaCO3↓+2NaCl
【0019】
ゲルにおける破砕物の含量(破砕物の質量(w)/ゲルの体積(v))は、好ましくは5~30%(w/v)、より好ましくは7~27%(w/v)である。前記の破砕物含量の範囲であると、オキシリピンの抽出速度を高めることができる。
なお、ゲルにおける破砕物の含量は、前述したゲル原液における破砕物の含量として把握することもできる。
【0020】
ゲルの形状は特に制限されない。
ゲルの形状の例としては、糸状、球状や、シート状等が挙げられる。
ゲルの形状は、抽出溶媒との接触効率の観点で、好ましくは糸状又は球状である。
【0021】
〔破砕物ゲルの溶媒抽出〕
溶媒は、オキシリピンを溶解できる物質を特に制限なく使用できる。
溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられる。
なかでも、複数種類のオキシリピンを溶解できる水が好ましい。
他方、有機溶媒を用いて、その極性に対応したオキシリピンを選択的に抽出してもよい。
【0022】
水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水や、蒸留水等を特に制限なく使用できるが、抽出物の純度の点で、純水又は超純水が好ましい。純水としては電気伝導率が1μS/cm以下であるものが好ましい。超純水としては電気伝導率が0.06μS/cm以下であり、かつTOCが5ppb以下であるものが好ましい。純水や超純水は、市販の製造装置(例えば、Milli-Q(登録商標))を用いて製造できる。
【0023】
有機溶媒としては、アルコール、炭化水素やエステル等が挙げられる。
有機溶媒は、好ましくはアルコール又は炭化水素である。
アルコールの炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2である。アルコールとしては、エタノールやメタノール等が挙げられ、エタノールが好ましい。
炭化水素の炭素数は、好ましくは5~11、より好ましくは6~8である。炭化水素としては、ヘキサンやオクタン等が挙げられ、ヘキサンが好ましい。
エステルを構成するアルコールの炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2である。エステルを構成する酸の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは2~3である。エステルとしては、酢酸エチルや酢酸メチル等が挙げられ、酢酸エチルが好ましい。
【0024】
溶媒は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。
溶媒は、単一種類を使用してもよく、複数種類を併用してもよい。
溶媒は、水と有機溶媒との混合物(例えば、アルコールの水溶液や、酢酸エチルと水の混合物等)であってもよい。
【0025】
本発明の一態様では、オキシリピンが8-HEPE、15-HEPE、及び18-HEPEからなる群より選ばれる場合、水、アルコール(好ましくは、エタノール)又はその水溶液、及び炭化水素(特にヘキサン)からなる群より選ばれる溶媒を用いることが好ましい。
【0026】
抽出手段に特に制限はなく、破砕物ゲルと溶媒とが混合されればよい。
破砕物ゲルを溶媒へ添加することが好ましいが、溶媒を破砕物ゲルへ添加してもよい。
抽出は、バッチ式で実施してもよいが、オキシリピン収量を向上させる観点から、抽出物を採取しつつ、新鮮な溶媒を供給する連続抽出が好ましい。
使用する溶媒の量は特に制限されない。例えば、藻類破砕物ゲルの場合、破砕に供した藻類の湿潤質量(湿重量)に対して、好ましくは550~1200倍、より好ましくは600~800倍の質量に相当する体積で用いる。
別の態様では、例えば、藻類破砕物ゲルの場合、ゲルに含まれる藻類の湿潤重量(湿重量)に対して、好ましくは50~1200倍、より好ましくは80~800倍の質量に相当する体積で用いる。
さらに別の様態では、例えば、藻類破砕物ゲルの場合、ゲルの体積に対して、好ましくは10~400倍、より好ましくは20~200倍に相当する体積で用いる。
藻類破砕物ゲルを連続抽出する場合、溶媒の供給速度は、例えば20~100mL/分、好ましくは40~55mL/分である。
抽出を攪拌しながら行うと抽出速度の点で好ましい。
抽出温度は特に制限されないが、4~25℃下で行うとオキシリピンの分解抑制の点で好ましい。
抽出時間は特に制限されないが、例えば0.5~36時間である。
【0027】
本発明は特定の理論により限定されるものではないが、溶媒中へ抽出されたオキシリピンの破砕物への再吸着(収量低下に繋がる現象)がゲルの存在により抑制されることで、オキシリピンの収量は向上すると考えられる。
【0028】
〔溶媒抽出物のカラム精製〕
オキシリピンの純度を高めるために、溶媒抽出物をカラム精製に供することが好ましい。
本発明では、疎水性相互作用を利用するカラム精製技術を使用できる。例えば、極性化合物の保持に有効な官能基(例えば、N-ビニルピロリドン)が導入されたポリマー(例えば、スチレン/ジビニルベンゼンポリマー)からなる固相カラム(例えば、商品名:STRATA-X。供給者:島津ジーエルシー)や、多孔質構造のスチレンポリマーからなる合成吸着剤(商品名:SP850。供給者:三菱ケミカル)を充填した固相カラム等を好適に使用できる。
カラム精製は、オキシリピンを非解離状態に保ち、固相カラムとの疎水性相互作用を強める点でpH2.5~5.0で行うことが好ましい。pHの調節は、酸(例えば、クエン酸)又はアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)を添加することで達成できる。
カラム精製は複数回実施してもよい。
【0029】
〔オキシリピン含有組成物〕
破砕物ゲルを溶媒で抽出し、任意選択により更にカラム精製に供することで、オキシリピンを含有する組成物が得られる。
例えば、抽出前の藻類破砕物に含まれていた15-HEPE量の80~98%を含むオキシリピン含有組成物を本発明に従い製造できる。
【0030】
〔オキシリピンの用途〕
本発明にしたがい得られたオキシリピンはその生理活性に応じて様々な用途で使用できる。例えば、PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)活性化作用を持つ8-HEPEは生活習慣病や内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)などに対して有効である。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
オキシリピン含有材料として、ナンノクロロプシス属藻類を使用した。
【0033】
〔実施例1:藻類破砕物ゲルの溶媒抽出〕
〔ナンノクロロプシス属藻類の培養〕
国立研究開発法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設より分譲を受けたナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)NIES-2145株を使用した。
【0034】
培養培地として、下記の組成を有するESM培地を使用した。
【0035】

【0036】
9LのESM培地を入れた11L透明容器へ、NIES-2145株の前培養液1L(細胞数:1×109cells/mL)を接種した(接種後の培地における細胞数:1×108cells/mL)。この透明容器へ空気(CO2濃度:2%)を吹き込み(流量:3L/分)つつ、白色光を照射(光源:白色LED。光量子密度:300μmol/m2/秒)し、20℃の液温下にて培養を行った。
【0037】
〔藻類の破砕〕
培養3日目に、約70g(湿潤質量)の藻体を遠心分離により回収し、-20℃で保存した。この操作を2回行い、合計140gの藻体を得た。このうち110gへ、藻体の湿潤質量1gあたり2mLの純水を加えて懸濁した。懸濁液の総体積は約330mLであった。この懸濁液の10mLと25gのジルコニアビーズ(粒径:0.1mm)とを50mL破砕チューブに入れ、マルチビーズショッカー(安井器械(株))で破砕(2500rpmで1分間)して、藻類破砕物を得た。
【0038】
〔藻類破砕物ゲルの溶媒抽出〕
藻類破砕物とアルギン酸ナトリウム(ゲル化剤)とを含むゲル原液を、塩化カルシウム(多価金属イオン化合物)の水溶液へ、注射器を用いて滴下することにより、球状のゲルを調製した。
塩化カルシウム水溶液における塩化カルシウム濃度は10%(w/v)であった。
ゲルにおける藻類破砕物の含量は、24.4%(w/v)であった。
藻類破砕物のゲルを、破砕に供した藻体の湿潤質量(湿重量)に対して18.2倍の体積の純水(抽出溶媒)を含む抽出槽へ添加し、振とう撹拌機(80~100rpm)で攪拌しながら、室温(約20℃)下で24時間、水抽出を行った。水抽出中、抽出槽へ純水(抽出溶媒)を48~55mL/分の速度で供給した。使用した溶媒の総量は、破砕に供した藻類の湿潤質量(湿重量)に対して628~728倍であった。また、この溶媒の総量は、ゲルに含まれる藻類の湿潤重量(湿重量)に対して628~728倍であった。また、この溶媒の総量は、ゲルの体積に対して168~192倍であった。
抽出槽からの排出液に、クエン酸を添加してpHを3.5~4.5に調節したものを、続くカラム精製に供した。
【0039】
〔水抽出物のカラム精製〕
150mLの吸着材(商品名:SP850。供給者:三菱ケミカル)を充填したカラム(内径3cm×高さ22.5cm)を使用した。
抽出槽からの排出液の全量をカラムへロードし、続いて、450mLの純水を15分間かけて通水した(1回目の吸着材洗浄)。
カラムから取り出した吸着材を、450mLの純水を含む1L瓶へ移し、スターラーで10分間攪拌し、吸着材に混入した固形物を除去した(2回目の洗浄)。
洗浄後の吸着材へ、40%エタノール水溶液(450mL)を添加し、スターラーで10分間攪拌して、吸着材から夾雑物を除去した(3回目の洗浄)。
吸着材を再度、カラム(内径5cm×高さ50cm)へ充填し、450mLの99.5%エタノールを通液し、溶出液を50mL毎に採取して、9つの画分(50mL×9)を分取した。
分取した9つの画分のそれぞれについて、その100μLを、900μLのエタノールと混合して10倍希釈した後、液体クロマトグラフィーに供したところ、溶出順で4~9番目の画分から15-HEPEが検出された。4~9番目の画分の15-HEPE濃度は下記の通りであった。
【0040】

【0041】
4~9番目の画分に含まれていた15-HEPEの総量は115.1mgであった。
また、藻体1g(湿重量(FW: Fresh Weight))あたりの15-HEPE収量(μg/gFW)は1046.36μg/gFWであった。
【0042】
更に、前記4~9番目の画分の各クロマトグラムにおいて15-HETEのピークを特定することで、その濃度を測定した。
【0043】
【0044】
4~9番目の画分に含まれていた15-HETEの総量は22.9mgであった。
また、藻体1g(湿重量(FW: Fresh Weight))あたりの15-HETE収量(μg/gFW)は208.18μg/gFWであった。
【0045】
なお、液体クロマトグラフィーの条件は以下のとおりであった。
カラム:Phenomenex社製Kinetex C8(内径:2.1mm。長さ:150mm。粒子径:2.6μm)
注入量:10μL
カラム温度:40℃
移動相A:0.1%ギ酸水溶液
移動相B:アセトニトリル
グラジエント:移動相A90%→5%
流速:0.4mL/分
検出波長:234nm
【0046】
〔実施例2:ゲル中の破砕物含量及びゲル形状の抽出への影響〕
実施例1で調製した藻体(-20℃で保存)をオキシリピン含有材料として使用した。
10g(湿潤質量)の藻体へ、藻体の湿潤質量1gあたり2mLの純水を加えて懸濁した。懸濁液の総体積は約30mLであり、懸濁液中の藻体濃度は33.3%(w/v)であった。この懸濁液の10mLと25gのジルコニアビーズ(粒径:0.1mm)とを50mL破砕チューブに入れ、マルチビーズショッカー(安井器械(株))で破砕(2500rpmで1分間)して、藻類破砕物を得た。この藻類破砕物を用いて、下記3種類のゲル原液を調製した。

ゲル原液1
藻類破砕物10mLに2.5%(w/v)アルギン酸ナトリウムを加えて、ゲル原液1(破砕物含量:26.67%(w/v)。アルギン酸ナトリウム濃度:0.5%(w/v))を得た。

ゲル原液2
藻類破砕物5mLに純水5mLを加えて2倍希釈したのち、2.5%(w/v)アルギン酸ナトリウムを加えて、ゲル原液2(破砕物含量:13.33%(w/v)。アルギン酸ナトリウム濃度:0.5%(w/v))を得た。

ゲル原液3
藻類破砕物2.5mLに純水7.5mLを加えて4倍希釈したのち、2.5%(w/v)アルギン酸ナトリウムを加えて、ゲル原液3(破砕物含量:6.67%(w/v)。アルギン酸ナトリウム濃度:0.5%(w/v))を得た。
【0047】
各ゲル原液5mLを、塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム濃度:10%(w/v))へ、注射器を用いて滴下することにより、球状のゲルを調製した。
更に、各ゲル原液5mLを、塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム濃度:10%(w/v))へ、注射器を用いて射出することにより、糸状のゲルを調製した
各ゲルを回収し、25mLの純水に投入して洗浄した。調製した6種類のゲルの物性は以下の通りである。


【0048】
藻類破砕物のゲルを、150mLの純水(抽出溶媒)を入れた300mL容三角フラスコに投入し、振とう攪拌機(100rpm)で撹拌しながら、20℃下で8時間、水抽出を行った。
使用した溶媒の量は、破砕に供した藻類の湿潤質量(湿重量)に対して30倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルの体積に対して30倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルに含まれる藻類の湿潤重量(湿重量)に対して、ゲルの種類ごとにそれぞれ以下の通りであった。



2時間ごとに抽出液をサンプリングし、抽出液中の15-HEPE濃度(μg/mL)を液体クロマトグラフィーで定量した。結果を図1に示す。
図1に示されるとおり、ゲル中の藻類破砕物の含量が高いほど、15-HEPEの抽出速度は高くなった。一方、ゲルの形状による抽出速度の明確な相違は見られなかった。
【0049】
〔実施例3:ゲル化の際の塩化カルシウム溶液の濃度の検討〕
実施例1で調製した藻体(-20℃で保存)をオキシリピン含有材料として使用した。
10g(湿潤質量)の藻体へ、藻体の湿潤質量1gあたり2mLの純水を加えて懸濁した。懸濁液の総体積は約30mLであった。この懸濁液の10mLと25gのジルコニアビーズ(粒径:0.1mm)とを50mL破砕チューブに入れ、マルチビーズショッカー(安井器械(株))で破砕(2500rpmで1分間)して、藻類破砕物を得た。
藻類破砕物20mLに2.5%(w/v)アルギン酸ナトリウムを加えて、ゲル原液(破砕物濃度:26.67%(w/v)。アルギン酸ナトリウム濃度:0.5%(w/v))を得た。
16種類の塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム濃度:0%(w/v)、0.010%(w/v)、0.020%(w/v)、0.0390%(w/v)、0.0781%(w/v)、0.1563%(w/v)、0.3125%(w/v)、0.625%(w/v)、1.25%(w/v)、2.5%(w/v)、3.8%(w/v)、5.0%(w/v)、6.3%(w/v)、7.5%(w/v)、8.8%(w/v)、又は10%(w/v))のいずれか一つを1.75mL含むウェルへ、ゲル原液0.4mLを滴下した。
0.0781~10%(w/v)の塩化カルシウム濃度下で藻類破砕物はゲル化した。
0.625~10%(w/v)の塩化カルシウム濃度下で、球状ゲルが形成した。
なかでも、2.5~10%(w/v)の塩化カルシウム濃度下で形成した球状ゲルは、洗浄工程(ウェルから塩化カルシウム水溶液を取り除き、2mLの純水を加えてゲルを洗浄する工程)に供しても崩壊せず、その後の溶媒抽出に十分な強度を有していた。
【0050】
続いて、2.5~10%(w/v)の塩化カルシウム濃度下で形成した7種類の球状ゲル0.4mLを、それぞれ、10mLの純水(抽出溶媒)を入れた試験管に投入し、振とう攪拌機(100~120rpm)で撹拌しながら、20℃下で8時間、水抽出を行った。
使用した溶媒の量は、破砕に供した藻類の湿潤質量(湿重量)に対して25倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルに含まれる藻類の湿潤重量(湿重量)に対して93.7倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルの体積に対して25倍であった。
8時間後に抽出液をサンプリングし、抽出液中の15-HEPE濃度(μg/mL)を液体クロマトグラフィーで定量した。結果を図2に示す。
図2に示されるとおり、2.5~10%(w/v)の塩化カルシウム濃度下で形成したゲルを用いて、15-HEPEを抽出することができた。
【0051】
〔実施例4:ゲル化剤の種類の検討〕
本実施例では、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウム又はアガロース(寒天)を使用して藻類破砕物のゲルを作成して水抽出を行い、オキシリピンの収量を比較した。
【0052】
(1)藻類破砕物を含むゲル原液の調製
実施例1で調製した藻体(-20℃で保存)をオキシリピン含有材料として使用した。
3g(湿潤質量)の藻体へ、6mLの純水を加えて懸濁した。懸濁液の総体積は約9mLであり、懸濁液中の藻体濃度は33.3%(w/v)であった。
この懸濁液の全量と25gのジルコニアビーズ(粒径:0.1mm)とを50mL破砕チューブに入れ、マルチビーズショッカー(安井器械(株))で破砕(2500rpmで1分間)して、藻類破砕物を得た。この藻類破砕物を、下記(2)及び(3)で述べるゲル化及び水抽出に使用した。
【0053】
(2)アルギン酸ナトリウムを用いたゲル化及び水抽出
藻類破砕物1.2mLに0.625%(w/v)アルギン酸ナトリウム4.8mL(39℃)を添加して混合し、6mLのゲル原液(アルギン酸ナトリウム濃度:0.5%(w/v))を得た。
5mLのゲル原液を、丸シャーレに注ぎ、その上から50mLの塩化カルシウム(多価金属イオン化合物)水溶液を注ぎ、シート状のゲルを調製した。塩化カルシウム水溶液における塩化カルシウム濃度は10%(w/v)であった。シート状ゲルにおける藻類破砕物の含量は6.67%(w/v)であった。
シート状ゲルを、50mLの純水中で1回洗浄した。洗浄したシート状ゲルを、150mLの純水(抽出溶媒)を入れた300mL容三角フラスコに投入し、振とう攪拌機(100rpm)で撹拌しながら、20℃下で4時間、水抽出を行った。
使用した溶媒の量は、ゲル含まれる藻類の湿潤質量(湿重量)に対して450倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルの体積に対して30倍であった。
抽出液中の15-HEPE濃度(μg/mL)を液体クロマトグラフィーで定量した。結果を表1に示す。
【0054】
(3)アガロースを用いたゲル化及び水抽出
藻類破砕物1.2mLに0.625%(w/v)アガロース溶液4.8mL(39℃)を添加して混合し、6mLのゲル原液(アガロース濃度:0.5%(w/v))を得た。
5mLのゲル原液を、丸シャーレに注ぎ、室温(約20℃)下で冷却して、シート状のゲルを調製した。シート状ゲルにおける藻類破砕物の含量は6.67%(w/v)であった。
シート状ゲルを、150mLの純水(抽出溶媒)を入れた300mL容三角フラスコに投入し、振とう攪拌機(100rpm)で撹拌しながら、20℃下で4時間、水抽出を行った。
使用した溶媒の量は、ゲル含まれる藻類の湿潤質量(湿重量)に対して450倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルの体積に対して30倍であった。
抽出液中の15-HEPE濃度(μg/mL)を液体クロマトグラフィーで定量した。結果を表1に示す。
【0055】
表1
【0056】
表1に示されるとおり、ゲル化剤としてアガロースを用いた場合にも、アルギン酸ナトリウムと同様に、15-HEPEを水抽出することができた。
【0057】
〔実施例5:藻類破砕物のゲル化の有無の検討〕
本実施例では、同一の藻類破砕物を下記(A)又は(B)の抽出工程に供し、オキシリピンの抽出効率を比較した。
(A)藻類破砕物をゲル化して溶媒抽出(実施例)
(B)藻類破砕物をゲル化することなく溶媒抽出(比較例)
【0058】
(1)藻類破砕物の調製
実施例1で調製した藻体(-20℃で保存)をオキシリピン含有材料として使用した。
71.71g(湿潤質量)の藻体へ、143.42mLの純水を加えて懸濁した。懸濁液の総体積は約205mLであった。
30mLの懸濁液を、3本の50mL破砕チューブへ10mLずつ分注した。各破砕チューブへ25gのジルコニアビーズ(粒径:0.1mm)を入れ、マルチビーズショッカー(安井器械(株))で破砕(2500rpmで2分間)した。
破砕チューブ及びジルコニアビーズを30mLの純水で洗浄して、53mLの藻類破砕物を回収した。この藻類破砕物を20mLに分割したものを、下記の抽出工程(A)及び(B)に供した。20mLの藻類破砕物には、3.33g(湿潤質量)の藻体が含まれていた。
【0059】
(2)溶媒抽出
(A)藻類破砕物をゲル化しての溶媒抽出(実施例)
20mLの藻類破砕物と、5mLの2.5%(w/v)アルギン酸ナトリウム(ゲル化剤)とを含むゲル原液を、100mLの塩化カルシウム(多価金属イオン化合物)水溶液へ、注射器を用いて滴下することにより、球状のゲルを調製した。
ゲル原液におけるアルギン酸ナトリウム濃度は0.5%(w/v)であった。
塩化カルシウム水溶液における塩化カルシウム濃度は10%(w/v)であった。
ゲルにおける藻類破砕物の含量は、13.33%(w/v)であった。
藻類破砕物のゲルを100mLの純水で洗浄した。洗浄後の藻類破砕物のゲルを、500mLの純水(抽出溶媒)を入れた1000mL容試薬ビン投入し、スターラーで撹拌しながら、20℃下で4時間、水抽出を行った。
使用した溶媒の量は、ゲルに含まれる藻類の湿潤質量に対して150倍であった。また、この溶媒の量は、ゲルの体積に対して20倍であった。
水抽出液(500mL)中の15-HEPEを液体クロマトグラフィーで定量した。
抽出完了後に回収したゲルを、250mLのエタノールへ投入し、室温(約20℃)に約30分静置をしてオキシリピンを抽出し、抽出液中の15-HEPEを液体クロマトグラフィーで定量した。
結果を表2に示す。
【0060】
(B)藻類破砕物のゲル化なしの溶媒抽出(比較例)
20mLの藻類破砕物を、500mLの純水(抽出溶媒)を入れた500mL容ビーカーへ投入し、20℃下で4時間静置して水抽出を行った。
続いて、クエン酸(粉体)を添加して水抽出物のpHを3.04へと調節することで藻類破砕物を凝集させ、濾紙(孔径:11μm)を用いて藻類破砕物と濾液とに濾別した。
濾液(500mL)中の15-HEPEを液体クロマトグラフィーで定量した。
濾別した藻類破砕物を濾紙ごと250mLのエタノールへ投入し、室温(約20℃)に約30分静置してオキシリピンを抽出し、抽出液中の15-HEPEを液体クロマトグラフィーで定量した。
結果を表2に示す。
【0061】
表2
【0062】
藻類破砕物をゲル化することなく水抽出を行った比較例では、藻類中の15-HEPEの殆どが藻類破砕物の凝集物中に残存し、水抽出効率は8.63%であった。
一方、本発明に従い藻類破砕物をゲル化して水抽出を行った実施例では、藻類破砕物を凝集する工程を用いなかったため、藻類中の15-HEPEの殆どが水抽出物へと抽出され、水抽出効率は92.98%であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、オキシリピンの製造分野で利用可能である。
図1
図2