(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012798
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】植物の切断装置
(51)【国際特許分類】
A01D 1/08 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
A01D1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114527
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】514135904
【氏名又は名称】有限会社アイエムエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】今口 正一
(57)【要約】
【課題】人が所持した状態で使用され、生長した植物を刈り取るために茎を切断する上で、植物の茎を根寄りの位置で確実に切断し、茎を切断した多くの植物の商品価値が損なわれない状態で採取する。
【解決手段】幅方向に距離を置いて並列して互いに一体化し、植物8の茎8a等を幅方向両側から挟み込む一対の平板状の包囲材2、2の少なくともいずれか一方に、包囲材2の長さ方向先端側への移動時に茎8a等を切断するカッター4を、包囲材2の長さ方向に往復動自在に支持させ、包囲材2をカッター4が支持される本体部21と、本体部21の長さ方向先端側に連続し、茎8a等が差し込まれる先端部22とに区分し、先端部22を本体部21に対し、本体部21の表面側に屈曲、もしくは湾曲させ、カッター4を包囲材2の本体部21の下面側に配置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に距離を置いて並列し、互いに一体的に接合され、植物の茎、もしくは葉を幅方向両側から挟み込む一対の平板状の包囲材と、この両包囲材の少なくともいずれか一方に、前記包囲材の長さ方向に往復動自在に支持され、前記包囲材の長さ方向先端側への移動時に前記茎、もしくは葉を切断するカッターを備え、
前記包囲材は前記カッターが支持される本体部と、この本体部の長さ方向先端側に連続し、前記茎、もしくは葉が差し込まれる先端部とに区分され、前記先端部は前記本体部に対し、前記本体部の表面側に屈曲、もしくは湾曲し、
前記カッターは前記包囲材の前記本体部の下面側に配置されていることを特徴とする植物の切断装置。
【請求項2】
並列する前記包囲材のいずれか一方の前記本体部の前記先端部寄りの位置に、並列する前記包囲材間に取り込んだ前記茎、もしくは葉の前記包囲材間からの抜け出しを阻止するストッパが接続されていることを特徴とする請求項1に記載の植物の切断装置。
【請求項3】
前記ストッパは前記本体部の上面に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の植物の切断装置。
【請求項4】
前記本体部の長さ方向の、前記先端部側の反対側に、並列する前記本体部間に跨り、把手が直接、もしくは間接的に一体的に接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の植物の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に人が所持した状態で使用され、生長した野菜等の植物を刈り取るために茎等を切断する植物の切断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人が所持した状態で使用される植物茎の切断装置は、2枚の刃を鋏状に組み合わせ、両刃を交差させるようにいずれか一方の刃を軸回りに回転させることで、茎をせん断させる方法が一般的である(特許文献1~3参照)。この方法では、茎は2枚の刃の交差位置で切断されるが、茎が固定されていない限り、交差位置は切断が進む程、刃の先端側へ移動しようとするため、常に一定位置で茎にせん断力を加えることにはならず、切断効率が低い。
【0003】
一方、刃を平行移動させることで、茎を切断する方法がある(特許文献4参照)。この方法によれば、拘束した状態にある茎に対して刃(横断刃)が平行移動することから、静止した茎に刃を食い込ませることができるため(段落0013)、特許文献1~3より効果的に茎を切断することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56-12954号公報(明細書第2頁第15行~第7頁第13行、第1図~第3図)
【特許文献2】特開平2-238819号公報(公報第2頁下左欄第7行~第4頁下左欄第9行、第1図~第3図)
【特許文献3】特開平7-99818号公報(段落0007~0020、
図1~
図4)
【特許文献4】特開2001-37330号公報(段落0008~0023、
図1~
図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
但し、特許文献4は接ぎ木する対象の茎に切れ目を入れながら、切断する方法(装置)であり、例えば植物を水耕栽培等する場合のように、苗が苗床等内で刈り取りに適した大きさにまで生長した茎、または葉を切断するような場合には適していない。
【0006】
具体的に言えば、特許文献4では苗床等内に根を張り、苗床等の上面から茎が突出している植物の茎を根寄りの位置で確実に切断し、商品価値を保有したまま、苗(苗木)を採取することまでは考えられていない。
【0007】
「商品価値を保有したまま」とは、茎の葉寄りの部分ではなく、茎の根寄りの部分を確実に切断し、茎を切断した後の多くの植物の商品価値が損なわれない状態で植物を採取することを意味する。採取される商品としてはこの他、ベビーリーフのような植物の葉のみの場合があり、その場合、茎以下は苗床に残されることもある。
【0008】
本発明は上記背景より、主に植物の茎を根寄りの位置で確実に切断し、商品価値を損なわずに植物の採取を可能にする植物の切断装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の植物の切断装置は、幅方向に距離を置いて並列し、互いに一体的に接合され、植物の茎、もしくは葉を幅方向両側から挟み込む一対の平板状の包囲材と、この両包囲材の少なくともいずれか一方に、前記包囲材の長さ方向に往復動自在に支持され、前記包囲材の長さ方向先端側への移動時に前記茎、もしくは前記葉を切断するカッターを備え、
前記包囲材が前記カッターが支持される本体部と、この本体部の長さ方向先端側に連続し、前記茎、もしくは前記葉が差し込まれる先端部とに区分され、前記先端部が前記本体部に対し、前記本体部の表面側に屈曲、もしくは湾曲し、前記カッターが前記包囲材の前記本体部の下面側に配置されていることを構成要件とする。
【0010】
「幅方向に距離を置いて並列し、互いに一体的に接合される一対の包囲材」とは、
図2-(a)に示すように一対の包囲材2、2が幅方向に距離を置いて並列した状態で互いに接合され、1本化されることを言うが、分離自在に接合されることを含む。両包囲材2、2は直接、接合される場合と、後述の把手6や調整材3等の中間材を介して間接的に接合される場合がある。
【0011】
両包囲材2、2は基本的には互いに平行に配置されるが、必ずしも平行である必要はなく、並列する包囲材2、2間の幅方向の距離が長さ方向に変化する場合もある。「茎、もしくは葉を幅方向両側から挟み込む」とは、茎8aや葉8cを包囲材2、2の幅方向に挟み込むことを言う。植物8は主に野菜や果物であるが、苗木も含む。「平板状」は基本的には平板であるが、カッター4を実質的に直線運動させることができれば、僅かに湾曲する場合や多角形状に屈曲する場合を含む。
【0012】
「包囲材の長さ方向に往復動自在に支持されるカッター」とは、手動による往復動を含め、
図3に示すような電動シリンダやエアシリンダその他の伸縮機構を用い、カッター4が包囲材2の長さ方向に沿って往復動可能な状態に包囲材2に支持されることを言う。手動の場合、カッター4は往復動である直線運動をガイドする案内部材に沿い、カッター4に一体化した把手が保持されたまま、把手と共にカッター4が手動で往復動する他、先端部22側への移動のみを手動で操作し、原位置への復帰をコイルスプリングその他のばね(付勢部材)がすることもある。
【0013】
カッター4を往復動させる伸縮機構としては、上記した電動シリンダ等の他、例えばモータ等の駆動装置で回転する回転軸の回転に連動する円板やクランクの回転運動を直線運動に変換する機構の他、ソレノイド等の使用も可能である。
【0014】
「包囲材の長さ方向先端側への移動時に茎、もしくは葉を切断するカッター」とは、カッター4が包囲材2の長さ方向先端側(先端部22側)へ移動したときに、植物8の茎8aや葉8cを切断することを言う。
【0015】
但し、カッター4が本体部21から先端部22側へ移動するときには、両包囲材2、2の植物8への差し込みにより包囲材2の先端部22から植物8が掬われ、先端部22から本体部21側に入り込むことになるため、カッター4は基本的には包囲材2の本体部21の区間で植物8の茎8aや葉8cを切断することになる。実際にはストッパ7は主にカッター4が茎8aを切断するときにカッター4と対になってせん断効果を発揮するため、有効に機能する。カッター4は先端部22の区間で茎8aや葉8c(以下、茎8a等とも言う)を切断することもある。
【0016】
カッター4が茎8a等を切断するとき、並列する包囲材2、2の内、いずれか一方の本体部21の先端部22寄りの位置に、並列する包囲材2、2間に取り込んだ茎8a等の包囲材2、2間からの抜け出しを阻止するストッパ7が接続されていれば(請求項2)、カッター4による切断時に茎8a等を固定することができるため、茎8a等の切断効果が上がる。カッター4による茎8a等の切断時に、ストッパ7が切断(移動)中のカッター4を停止させることなく、カッター4の移動による茎8a等の移動を停止させるため、カッター4の移動速度をそのまま茎8a等に与えることができることによる。ストッパ7は本体部21に接続されるため、茎8a等は並列する本体部21、21間に取り込まれる。
【0017】
「並列する包囲材間に取り込んだ茎、もしくは葉の包囲材間からの抜け出しを阻止するストッパ」とは、並列する包囲材2、2の植物8側への移動に伴って先端部22、22間に取り込んだ植物8の茎8a等を、ストッパ7を超えて本体部21、21間へ誘導した状態で、カッター4が茎8a等を切断するときに、カッター4の移動と共に茎8a等がカッター4の移動の向きに移動することを阻止することを言う。
【0018】
このために、ストッパ7は
図2-(a)に示すように包囲材2、2(本体部21、21)間に跨るように配置され、一方の包囲材2の本体部21に、茎8a等を先端部22側から本体部21側へ誘導する回転の向きに回転自在に支持軸7aで軸支される。請求項2における「接続」はこのようにストッパ7が本体部21に回転自在に支持されることを言う。茎8a等が本体部21側から先端部22側へ抜け出そうとする回転の向きには、ストッパ7はばね等により復元力を与えられ、両本体部21、21に跨った状態で本体部21のいずれかの部分に係止した状態にある。
【0019】
切断装置1の植物8側への移動の結果、植物8の茎8a等が先端部22、22間から本体部21、21間に移動するとき、茎8a等は茎8a等側へ付勢されているストッパ7に接触したまま、復元力に抗してストッパ7をカッター4側へ回転させる。茎8a等がストッパ7を越えたところで、ストッパ7は復元力で元の位置(原位置)に復帰し、本体部21に係止して停止する。茎8a等は停止状態を維持するストッパ7に、先端部22側への移動を阻止される。
【0020】
特にストッパ7が本体部21の上面に配置(接続)されていれば(請求項3)、カッター4との衝突が回避される上、カッター4による茎8a等の切断(せん断)効果が得られる。この場合、ストッパ7とカッター4が包囲材2の板厚分の距離を隔てて茎8a等をせん断することになる。例えばカッター4が茎8a等を挟んでストッパ7に衝突する場合、カッター4が茎8a等を切断した直後にストッパ7に衝突することで、カッター4の切断時の速度が低下し、静止するため、茎8a等の切断が不完全になる可能性がある上、カッター4に損傷を与え易い。
【0021】
これに対し、ストッパ7とカッター4が茎8a等をせん断する場合、カッター4はストッパ7に衝突しないことから、カッター4は速度を低下させずに、茎8a等を軸に直交する方向に貫通することができるため、茎8a等を完全に切り取ることができる上、損傷は回避される。
【0022】
なお、カッター4は包囲材2の本体部21の下面側に配置されているため(請求項1)、ストッパ7とのせん断によるか否かに拘わらず、茎8aを根8b寄りの位置で切断することが可能である。結果的に、茎8aを極力、長く切断することになり、葉8cを傷付けずに茎8aのみを切断することが可能になる。
【0023】
カッター4が茎8aを根8b寄りの位置で切断し、葉8cを傷付けずに茎8aのみを切断することができることで、茎8aの根8b寄りの部分を確実に切断し、茎8aを切断した後の植物8の商品価値が損なわれない状態で植物8を採取することが可能である。商品としての植物8として一部の根8bが付いた状態で出荷されるような場合には、カッター4は根8bを切断することもある。また植物8の一部である葉8cをベビーリーフとして出荷するような場合には、植物8の葉8cのみが切断される。
【0024】
「包囲材が、カッターが支持される本体部と、本体部の長さ方向先端側に連続し、茎、もしくは葉が差し込まれる先端部とに区分され」とは、包囲材2が本体部21と先端部22の2部分を有し、包囲材2の操作により
図4-(a)、(b)に示すように先端部22、22間の開放側の先端から茎8a等が並列する包囲材2、2(先端部22、22)間に差し込まれることを言う。そのまま包囲材2、2が茎8a等側に押し込まれることで、茎8a等は並列する本体部21、21間に入り込む。
【0025】
「先端部が本体部に対し、本体部の表面側に屈曲、もしくは湾曲し」とは、包囲材2を幅方向に見たときに先端部22と本体部21とが鈍角をなすように先端部22が本体部21に対し、本体部21の表面側に傾斜していることを言う。先端部22が本体部21に対して傾斜することで、並列する先端部22、22を植物8の茎8a等の両側に差し込み、本体部21を下げることで、
図4-(c)に示すようにてこの原理を利用して茎8a等(植物8)を先端部22が掬い上げることが可能になる。
【0026】
包囲材2が茎8a等側に押し込まれるとき、茎8a等は並列する先端部22、22間に一旦、入り込む。そのまま、包囲材2の本体部21が力点として押し下げられることで、本体部21と先端部22の境界部分の底面が支点、先端部22が作用点となって茎8a等を、植物8が植えられている苗床10から、あるいは苗床10ごと配置(挿入)されている
図4に示す水耕パネル9等から浮き上がらせる。
図4は植物8の茎8aが苗床10から生長している場合の例を示している。
【0027】
苗床10は水耕栽培の場合には、例えば発泡ポリウレタン樹脂等のスポンジ状材料であり、土耕栽培の場合には、土である。植物8が苗床10ごと、水耕パネル9内に配置されている場合、植物8は
図4-(c)に示すように苗床10ごと、水耕パネル9の孔9aから浮き上がらせられるか、茎8aより上の部分のみが苗床10から浮き上がらせられ、主に苗床10より上に突出している茎8aの部分が切断される。
【0028】
この場合、並列する先端部22、22が茎8aを苗床10から、または水耕パネル9から浮き上がらせることで、
図4-(d)に示すように植物8の茎8aと苗床10等との間に本体部21を差し込み易くなる。このとき、植物8が苗床10ごと、水耕パネル9内に挿入されていた場合には、茎8aが本体部21の上面側に入り込み、苗床10は本体部21の下面側に回り込もうとする。
図4-(d)の状態で、カッター4が茎8aに向かって移動することで、カッター4は茎8aの苗床10寄り(根8b寄り)の位置に入り込み、(e)に示すように茎8aを苗床10から分離させるように切断する。カッター4は本体部21が差し込まれている茎8aと苗床10等との間に入り込む。
【0029】
図4に示すように植物8が苗床10に植えられている場合、苗床10の下面から根8bが張り出し、苗床10の上面から茎8aが突出することから、カッター4が苗床10の上面に突出した茎8aの部分を切断することで、植物8を根8bの位置で切断することなく、確実に茎8aの根8b寄りの位置で切断することになる。この場合、カッター4は茎8aと苗床10等との間に入り込むため、茎8aより上にある葉8cの部分を切断することはない。
【0030】
先端部22、22が茎8a等を挟んだ状態で本体部21を押し下げることによる茎8a等の押し上げ操作をし易くする上では、
図1、
図2に示すように本体部21の長さ方向の、先端部22側の反対側に、並列する本体部2、2間に跨り、把手6を直接、もしくは間接的に一体的に接合しておくことが適切である(請求項4)。
【0031】
この場合、支点になる本体部21と先端部22の境界部分から力点までの距離が大きくなるため、より小さい力で植物8(茎8a)を苗床10から浮き上がらせることができる。また並列する本体部2、2の、先端部22側の反対側(上側)に把手6が一体化することで、人が切断装置1を操作する上で、包囲材2、2を持つ必要がないため、操作性も向上する。
【0032】
この他、把手6が両本体部2、2間に跨ることで、植物8の茎8aの太さに応じ、本体部21、21(包囲材2、2)間の距離を調整する場合に、各本体部21を把手6に支持させたまま、把手6に対して本体部21の幅方向の位置調整をすればよい。本体部2、2間の距離を直接、調整する場合のように両本体部2、2間に間隔調整材等を介在させる必要がないため、距離の調整がし易くなる。
【発明の効果】
【0033】
並列する一対の包囲材と、その少なくともいずれかに往復動自在に支持されたカッターを備え、包囲材をカッターが支持される本体部と、本体部の長さ方向先端側に連続する先端部とに区分し、先端部を本体部に対して本体部の表面側に屈曲等させ、カッターを本体部の下面側に配置しているため、茎を切断する場合に、カッターで茎の根寄りの部分を確実に、葉を傷付けずに切断することができる。従って切断した後の植物の商品価値を損うことなく、茎を効果的に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】(a)は
図1に示す切断装置の平面図、(b)は(a)の背面図、(c)は(a)の側面図である。
【
図3】
図1に示す切断装置のカッターとそれを往復動させる駆動装置の連結状態を示した斜視図である。
【
図4】(a)~(e)は
図1に示す切断装置を用いて水耕栽培で生長した植物の茎を切断する手順を示した斜視図である。
【
図5】(a)~(e)は
図1に示す切断装置を用いて土耕栽培で生長した植物の茎を切断する手順を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1、
図2は幅方向に距離を置いて並列し、互いに一体的に接合される一対の平板状の包囲材2、2と、両包囲材2、2の少なくともいずれか一方に、包囲材2の長さ方向に往復動自在に支持されるカッター4を備えた切断装置1の製作例を示す。一対の包囲材2、2は植物8の茎8aや葉8cを包囲材2の幅方向両側から挟み込み、カッター4は包囲材2の長さ方向先端側への移動時に茎8aや葉8cを切断する。以下では、茎8aと葉8cを含む場合に茎8a等と言う。包囲材2は適度の剛性と強度を有し、発錆しにくい例えば鋼板やアルミニウム合金板等の金属板の他、硬質プラスチック等から製作されるが、材料は問われない。
【0036】
図1に示すように包囲材2はカッター4が支持される本体部21と、本体部21の長さ方向先端側に連続し、茎8a等が差し込まれる先端部22とに区分される。先端部22は
図2-(c)に示すように本体部21に対し、本体部21の表面側に屈曲、もしくは湾曲し、包囲材2を幅方向に見たときに本体部21の表面と鈍角をなすように傾斜する。
【0037】
カッター3は茎8aを切断する場合に、茎8aを極力、長く切断し、植物8の葉8cを傷付けないよう、包囲材2の本体部21の下面側に配置されている。図面では包囲材2、2の対向する側の反対側である幅方向の両外側に、採取し、茎8aを切断した後の植物8の、または葉8cを切断した後の葉8cの包囲材2、2からの落下を防止するための側壁23を一体的に形成している。葉8cを商品(ベビーリーフ)として出荷する場合には、葉8cのみが切断される。
【0038】
図1、
図2に示す例では2本の包囲材2、2を長さ方向の全長に亘り、幅方向に一定の間隔を置いて配列させ、本体部21の内、先端部22の反対側(後方側)に両包囲材2、2間に跨る調整材3を配置し、各包囲材2を調整材3にねじ31等を用いて接合することで、両包囲材2、2を一体的に接合している。両包囲材2、2間の間隔は必ずしも一定である必要はない。調整材3とこれに接合される後述の把手6その他も金属板や硬質プラスチック等から製作されるが、材料は問われない。
【0039】
両包囲材2、2の接合方法は問われず、各本体部2の後方側の幅を大きくし、この幅広の部分を互いに直接、重ねて接合するようなこともできる。いずれの場合にも、
図2-(b)に示すように調整材3か本体部21の少なくともいずれか一方に幅方向に長い挿通孔3aを形成しておくことで、並列する包囲材2、2間の間隔の調整が自在な状態に接合することができる。本体部21に幅広部分が形成される場合には、幅広部分に挿通孔が形成される。
【0040】
調整材3を包囲材2、2間に跨設する場合、図示するように切断装置1を所持し、操作するための把手6を調整材3に接合することができる他、カッター4自体と、カッター4を往復動させる伸縮装置としての駆動装置5を調整材3に接合することができる。特に調整材3は両包囲材2、2の間に確保された、植物8の茎8a等を取り込むための空隙を覆うように配置されるため、茎8a等が入り込む包囲材2、2間の空隙の位置にカッター4を配置することができる利点がある。実際には、カッター4自体は
図2-(b)に示すように両本体部21、21間に跨るように配置され、その内の空隙に位置する区間が茎8a等を切断する。
【0041】
調整材3を使用しなくても、両包囲材2、2に同時に跨るように把手6を接合することはでき、その場合、把手6に駆動装置5を支持させることもできる。包囲材2、2の後方側に把手6を接合した場合には、切断装置1を操作する上で、包囲材2、2を保持する必要がなく、把手6を保持した状態で、
図4に示すように植物8の茎8aの浮き上がらせと、駆動装置5の操作による茎8aの切断をすることができるため、駆動装置5の操作性と切断装置1の操作性が良好になる。
【0042】
駆動装置5の機構は、それに連結されたカッター4を本体部21の軸方向に往復動させることができれば、問われない。
図3に示す例の駆動装置5は電動シリンダやエアシリンダ等のシリンダ本体51と、シリンダ本体51から軸方向に出没(出入り)するロッド52を備え、ロッド52にカッター4が直接、もしくは間接的に接続される。ロッド52のシリンダ本体51からの突出時にカッター4が先端部22側へ移動し、シリンダ本体51への没入時にカッター4が原位置に復帰する。この例ではロッド52にブラケット53を接続し、ブラケット53にカッター4を直接、もしくは間接的に固定状態に接合している。シリンダ本体51も調整材3か把手6に支持されるよう、調整材3か把手6に接合されるブラケット54に接続される。
【0043】
駆動装置5はシリンダ本体51のいずれかの部分に配置される、または調整材3か把手6に設置される操作スイッチが操作され、ONになったときに、ロッド52が一定の速度で突出し、ロッド52に接続されたカッター4が植物8の茎8a等を切断した後、ロッド52はシリンダ本体51内に没入する。一度の操作スイッチの操作でカッター4が一往復する。
【0044】
カッター4による茎8a等の切断効果を上げる上では、カッター4の刃をカッター4の往復動する方向に対して数°~数10°、傾斜させることが合理的であるから、カッター4の軸方向が往復動の方向に対して傾斜することになる。図面では特に往復動方向に対して軸方向が傾斜したカッター4を安定させてブラケット53に接合するために、カッター4の根本側の一部区間を保持できる保持材55にカッター4を保持(拘束)させた上で、保持材55をブラケット53にねじ55c等で接合している。カッター4の軸方向と往復動する方向とのなす角度は15~20°が好適である。
【0045】
カッター4は例えば
図3に示すように保持材55にはねじ41等により直接、接合される。
図3ではこの他、保持材55のカッター4側の面(上面)に形成されたカッター4の厚み分程度の深さを有する溝55a内にカッター4を収納した上で、カッター4の表面に重なる押さえ材55bを保持材55に接合し、保持材55と押さえ材55bとでカッター4を挟持することで、カッター4を拘束している。
【0046】
カッター4は茎8aを切断する場合に、茎8aの根8b寄りの部分を切断するよう、上記のように包囲材2の本体部21の下面側に配置される関係で、ロッド52に接合されたブラケット53は
図3に示すようにロッド52への接続部分になる起立部53aと、その下方からカッター4側へ連続し、起立部53aに直交する水平部53bの2部分を有する。
図2-(c)に示すように水平部53bが両包囲材2、2の下面側に配置された状態で、起立部53aがロッド52に接続される。
【0047】
水平部53bの包囲材2(本体部21)に対する位置調整は、
図3に示すように起立部53aを挿通する挿通孔53cを起立部53aの長さ方向に長い形状に形成することで、可能になる。この挿通孔53cの長さの範囲でカッター4と本体部21背面との距離、すなわち切断すべき茎8aの位置を調整することができる。
【0048】
シリンダ本体51を調整材3に接合するブラケット54もシリンダ本体51への接続部分になる起立部54aと、その下方から把手6側へ連続し、起立部54aに直交する水平部54bの2部分を有する。ブラケット54は調整材3には、
図3に示すように水平部54bに、本体部21の長さ方向に平行に形成された長孔状の挿通孔54cにおいてねじ31等によりシリンダ本体51の軸方向の位置調整が自在な状態に接合される。
【0049】
図面ではまた、
図3に示すようにブラケット53の水平部53b上に、本体部21の背面との間の間隔を保持する間隔保持材56を接合し、間隔保持材56を本体部21の背面との間に介在させることで、カッター4が常に本体部21の下面側に位置するようにし、ロッド52の往復動時にカッター4が本体部21の下面に接触することを回避している。
【0050】
並列する包囲材2、2の内、いずれか一方の本体部21の先端部22寄りの位置には、必要により
図2-(a)に示すようにカッター4による茎8a等の切断時に、茎8a等の移動を拘束し、茎8a等を安定させるためのストッパ7が接続される。ストッパ7はカッター4との衝突を回避し、カッター4が一定速度で茎8a等を切断しきるようにする上では、本体部21の上面に接続される。カッター4がストッパ7に衝突することで茎8a等を切断する場合には、ストッパ7は本体部21の下面に接続される。
【0051】
ストッパ7は先端部22の先端から包囲材2、2間に入り込んだ植物8の茎8a等をストッパ7のカッター4側へ誘導しながら、一旦、取り込んだ植物8を先端部22側へ移動させないよう、切断装置1を平面で見たときの時計回り側に自由に回転可能で、反対回りには回転しない状態に本体部21に接続されている。詳しくは、例えばストッパ7を本体部21に軸支する
図2-(a)に示す支持軸7aの周りに配置されるコイルスプリング等によりストッパ7自体が平面上、反時計回りの向きに付勢され、その付勢の向きにストッパ7のいずれかの部分が本体部21に係止している。
【0052】
並列する本体部21、21間にまで入り込んだ植物8の茎8a等は切断装置1の植物8側への移動に伴い、植物8側へ付勢されているストッパ7を支持軸7a回りにカッター4側へ回転させながら、ストッパ7を乗り越える。茎8a等がストッパ7を乗り越えたところで、ストッパ7は復元力で元の位置に復帰し、静止する。ストッパ7の静止状態からはストッパ7は先端部22側へは回転できないため、茎8a等はカッター4による切断時にストッパ7によって移動を拘束され、カッター4は固定状態にある茎8a等を切断する。
【0053】
なお、茎8a等がストッパ7を乗り越えるときに、茎8a等が並列する本体部21、21間のストッパ7を乗り越え易いよう、ストッパ7の長さ方向の先端とその側の本体部21の、並列する本体部21側の面との間に空隙を確保している。この場合、茎8a等はストッパ7を回転させながら、抵抗のない空隙内に入り込もうとするため、ストッパ7を回転させ易く、ストッパ7を乗り越えてカッター4側に入り込み易くなる。
【0054】
図4-(a)~(e)に従い、水耕栽培で生長した植物8の茎8aを切断する手順を説明する。ここでは合成樹脂等の水耕パネル9の孔9a内に個別に挿入されていた、水が含浸するスポンジ状材料の苗床10内で根8bを張り、生長した植物8の茎8aを切断する場合の例を示している。この場合、植物8の茎8aは苗床10の上面から上方へ突出し、苗床10の底面から根8bが生えている。苗床10は弾性で収縮した状態で水耕パネル9の孔9a内に挿入されている。
【0055】
切断装置1は
図4-(a)に示すように並列する先端部22、22間の空隙間に茎8aが入り込むように植物8に対して差し込まれ、(b)に示すようにそのまま水平に、すなわち水耕パネル9の上面に平行に、茎8aが本体部21に接近する位置まで平行移動させられる。
【0056】
茎8aが本体部21寄りに相対移動したところで、(c)に示すように把手6が押し下げられることで、先端部22と本体部21の境界部分の底面が支点となり、先端部22が茎8aを苗床10から、または苗床10ごと、水耕パネル9から浮き上がらせる。苗床10は収縮状態で孔9a内に挿入されているため、茎8aを水耕パネル9から浮き上がらせるとき、苗床10は水耕パネル9の厚さ方向に伸長しながら、茎8aは苗床10に対して相対的に上方へ移動する。
【0057】
茎8aが水耕パネル9から浮き上がったところで、(d)に示すように切断装置1が植物8側へ押し込まれ、茎8aが並列する本体部21、21間に移動させられる。そのまま切断装置1が植物8側へ移動し、茎8aがストッパ7を越えたところで、(e)に示すように駆動装置5の操作によりカッター4がストッパ7側へ移動して茎8aを切断する。茎8aは苗床10に対して上方へ移動しているため、カッター4は茎8aの根8b寄りの部分を切断することができる。
【0058】
図5-(a)~(c)は土耕栽培で生長した植物8の茎8aを切断する場合の手順を示す。この場合も
図4の場合と切断装置1の操作方法は変わらず、切断装置1は(a)に示すように先端部22、22間の空隙間に茎8aが入り込むように植物8に対して差し込まれる。
【0059】
(b)に示すように茎8aが先端部22、22間から本体部21、21間に移行したところで、(c)に示すように把手6を押し下げて植物8を土から浮き上がらせた後、カッター4をストッパ7側へ移動させて茎8aが切断される。
【0060】
なお
図1、
図2に示す切断装置1は基本的には人が所持した状態で使用されるが、自動機(切断機)の一部に組み込まれる他、(多軸)ロボット(自動収穫機)の一部として自動制御される方法で使用されることもある。
【符号の説明】
【0061】
1……切断装置、
2……包囲材、21……本体部、22……先端部、23……側壁、
3……調整材、31……ねじ、3a……挿通孔、
4……カッター、41……ねじ、
5……駆動装置、51……シリンダ本体、52……ロッド、
53……(カッター用)ブラケット、53a……起立部、53b……水平部、53c……挿通孔、
54……(シリンダ本体用)ブラケット、54a……起立部、54b……水平部、54c……挿通孔、
55……保持材、55a……溝、55b……押さえ材、55c……ねじ、56……間隔保持材、
6……把手、
7……ストッパ、7a……支持軸、
8……植物、8a……茎、8b……根、8c……葉、
9……水耕パネル、9a……孔、
10……苗床。