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特開2024-127994神経刺激用のパターン化された刺激強度
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127994
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】神経刺激用のパターン化された刺激強度
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20240912BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/05
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024108124
(22)【出願日】2024-07-04
(62)【分割の表示】P 2022076644の分割
【原出願日】2014-12-16
(31)【優先権主張番号】PCT/US2013/075329
(32)【優先日】2013-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500429332
【氏名又は名称】ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タイラー,ダスティン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シーファー,マシュー
(57)【要約】
【課題】神経刺激信号の強度を経時的に調整することができるシステムを提供する。
【解決手段】パルスジェネレーター12は、個体の神経組織を刺激するための刺激信号を生成し、刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを経時的に調整するように構成してもよい。パルスジェネレーターに電極14を連結し、この電極を、神経組織に刺激信号を印加するように構成してもよい。刺激信号の各パルスを用いて、神経組織における軸索の束を動員できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の神経組織への印加用に刺激信号を生成し、前記刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを経時的に調整するように構成されたパルスジェネレーターと、
前記パルスジェネレーターに連結され、前記刺激信号を前記神経組織に印加するように構成された電極と、を備える、システム。
【請求項2】
前記パターンをなしたパルスは、複数のパルスを含み、前記強度に関するパラメーターは、前記複数のパルスの各々について変更される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記強度に関する前記パラメーターは、前記神経組織からの入力、センサーからの入力、時間入力のうちの少なくとも1つに基づいて変更される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記刺激信号は、前記刺激信号の各々のパルスを用いて軸索の異なる束を動員するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記電極は、複数の接点を含み、
前記電極によって前記神経組織に伝搬される電界を変化させるために、前記刺激信号における各パルスのタイミングおよび強さが前記複数の接点間で調整される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
パルスの強度に関するパラメーターが経時的に調整される刺激信号を、個体の神経組織に印加し、
前記刺激信号の各パルスを用いて前記神経組織における軸索の異なる束を動員し、
前記刺激信号に基づいて、前記個体における所望の身体機能に影響を与えることを含む、方法。
【請求項7】
前記パラメーターは、前記刺激信号の前記パルスの形状を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パラメーターは、パルス振幅、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延およびパルスの形状のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
各パルスによって影響される軸索の前記束に影響を与えるために、各パルスについて少なくとも2つのパラメーターを個々に調整することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記所望の身体機能は、前記個体の身体の一部に関する知覚の調整を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記所望の身体機能は、前記個体の自律機能の調整を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記所望の身体機能は、前記個体の運動機能の調整を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記個体は、壮健な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体のうちの少なくとも1つである、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記印加することは、前記パターン化された強度調整に基づいて、前記個体の前記神経組織と通信して複数の接点を含む電極の特定の接点を作動させることをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記パターン化された強度調整は、前記電極によって前記神経組織に送達される電界を変化させるために、前記複数の接点間の前記刺激信号における各パルスのタイミングおよび強さを調整する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
個体の神経組織への印加用に刺激信号を生成するように構成されたパルスジェネレーターと、
前記神経刺激信号の印加に応答してフィードバック信号を受信するように構成された受信機と、を備え、
前記パルスジェネレーターは、前記フィードバック信号に基づいて、前記刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを調整するように構成されている、装置。
【請求項17】
前記フィードバック信号は、生理学的なフィードバック信号である、前記装置16。
【請求項18】
前記フィードバック信号は、前記個体の前記神経組織への前記刺激信号の印加に基づいている、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記フィードバック信号は、センサーからの信号を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
前記パルスジェネレーターは、前記神経組織への印加用に前記刺激信号を電極に送信するように構成されている、請求項16に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年12月16日にファイルされたPCT国際出願第PCT/US2013/075329号の優先権の利益を主張するものであり、その内容全体を、あらゆる目的で本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、総じて神経刺激に関するものであり、特に、神経刺激信号におけるパターンをなしたパルスの強度を調整することができるシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気信号によって神経を刺激することで、個体の神経系の一部を活性化または抑制し、その個体の生物学的機能(たとえば、運動機能、感覚機能、自律機能、臓器機能および/または認知機能)を入れ換えるおよび/または増強することができる。従来、電気信号には、同一の電気パルス(たとえば、一定の周波数、振幅およびパルス間隔)からなる列を含ませており、各々によって規則的な強度の刺激が与えられていた。しかしながら、これらの同一の電気パルスからなる列は、正常な生物学的機能を模していないことが多い。たとえば、感覚神経への入力に対して応答する場合、正常な求心性ニューロンは、軸索の束上でパターンが一定しない活動電位を同期的に生成できる。同一パルスからなる規則的な列がこれらの求心性ニューロンに印加されると、それに対応する同期的な活動電位の規則的な列が脳に伝えられる。脳は、この活動電位の規則的な列を異質なものと解釈し、その結果、ぴりぴりする感覚または他の異常な知覚が生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、総じて神経刺激に関するものであり、特に、神経刺激信号におけるパターンをなしたパルスの強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を調整することができるシステムおよび方法に関する。たとえば、神経刺激信号は、パルスの列を含んでもよく、パターンをなしたこれらのパルスの強度に関連したパラメーターを、経時的に変更してもよい。このようなパターン化された刺激強度を持つ神経刺激信号(すなわち「Ψ-刺激」)は、正常な神経学的機能を模すことができるので、神経刺激信号によって、感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能および/または認知機能をはじめとする異なる生物学的機能に影響を与えることができる。
【0005】
一態様において、本開示は、神経刺激信号の強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を経時的に調整できるシステムを含んでもよい。パルスジェネレーターは、個体の神経組織への印加用の刺激信号を生成して、刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを経時的に調整するように構成してもよい。電極は、パルスジェネレーターに連結してもよく、刺激信号を神経組織に印加するように構成してもよい。たとえば、経時的な強度の調整は、神経組織における軸索の異なる束が強度の調整に基づいて動員されることにつながってもよい。
【0006】
もうひとつの態様では、本開示は、神経刺激信号のための方法を含んでもよい。刺激信号のパルスの強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)に関するパラメーターを、経時的に調整する。刺激信号の各パルスによって、神経組織における軸索の異なる束を動員することができる。刺激信号に基づいて、個体における所望の身体機能に影響を与えることができる。いくつかの例では、この方法が、神経刺激が必要な個体を特定し、神経刺激が必要な当該個体に神経刺激信号を印加することを含んでもよい。たとえば、疾患のある個体の場合、この方法は、疾患状態に罹患している個体を特定することを含んでもよい。
【0007】
別の態様では、本開示は、神経刺激信号の強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を経時的に調整できる装置を含んでもよい。パルスジェネレーターは、神経刺激信号に基づいたフィードバック信号に対して設計することができる。たとえば、フィードバック信号は、生理学的な信号、センサー信号、入力信号などであってもよい。パルスジェネレーターはさらに、フィードバック信号に基づいて、パターンをなした刺激信号のパルスの強度に関するパラメーターを調整するように設計されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記の特徴および他の特徴は、添付の図面を参照した以下の説明を読むことで、本開示が関連する当業者に明らかになろう。
図1図1は、本開示の一態様にかかる、神経刺激信号の強度を調整することができるシステムを示すブロック図である。
図2図2は、神経刺激信号の強度の調整に使用可能なフィードバック信号を受信するために図1のシステムの一部であってもよい受信機を示すブロック図である。
図3図3は、図1に示すシステムによって行うことのできる神経刺激信号の強度の調整例を示すグラフである。
図4図4は、図1に示すシステムの一部であってもよい電極の例示図である。
図5図5は、図1に示すシステムの一部であってもよい電極の例示図である。
図6図6は、本開示の他の態様にかかる、神経刺激のための方法を示すプロセス流れ図である。
図7図7は、図6に示す方法において神経刺激のために用いられる、信号の強度を調整するための方法を示すプロセス流れ図である。
図8図8は、図6に示す方法の神経刺激によって所望の身体機能に影響を与えるための方法を示すプロセス流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
I.定義
本開示の文脈において、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈によってそうでないと明らかに示されないかぎり、複数形も含み得る。「含む(comprises)」および/または「含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用する場合、記載された特徴、工程、動作、要素および/または構成要素の存在を示すことができるが、1つまたは複数の特徴、工程、動作、要素、構成要素および/または群の存在または追加を排除しない。本明細書で使用する場合、「および/または」という用語は、列挙された関連項目のうち1つまたは複数のあらゆる組み合わせを含み得る。また、本明細書では、さまざまな要素を説明するのに「第1の」「第2の」などの用語を用いることもあるが、これらの要素は、これらの用語によって限定されるべきではなく、これらの用語は、単に1つの要素を別の要素と区別するのに用いられているだけである。よって、後述する「第1の」要素は、本開示の教示内容から逸脱することなく、「第2の」要素と呼ぶこともあるだろう。動作(または行為/工程)の順序は、そうでないことが具体的に示されないかぎり、特許請求の範囲または図面に提示された順番に限定されるものではない。
【0010】
本明細書で使用する場合、「神経刺激」という用語は、刺激信号によって生物学的機能を入れ換える、回復させるおよび/または増強するために、個体の神経系の少なくとも一部を治療的に活性化または抑制することを意味することができる。いくつかの例では、刺激信号は、1つまたは複数の電極によって個体の神経組織に印加することができる。
【0011】
本明細書で使用する場合、「刺激信号」という用語は、個体の生物学的機能を入れ換える、回復させるおよび/または増強するために、個体の神経系の一部を活性化または抑制することができる信号を意味することができる。たとえば、刺激信号は、電気信号、磁気信号、光信号、光遺伝信号、化学信号などのうち、1つまたは複数を含んでもよい。いくつかの例では、刺激信号は、パルスの列を含んでもよい。
【0012】
本明細書で使用する場合、「パルス」という用語は、電流および/または電圧の非正弦波形を意味することができる。いくつかの例では、パルスは、電荷バランスのとれたものであってもよい。他の例では、複数のパルスを、1つまたは複数のパルスパターンにアレンジ可能である。パルス形状の例としては、方形、矩形、のこぎり、対数、指数などがあげられる。
【0013】
本明細書で使用する場合、「生物学的機能」という用語は、神経系によって制御される個体の体内で生じるプロセスを意味することができる。生物学的機能の例として、運動機能、感覚機能、自律機能、臓器機能、認知機能があげられる。「生物学的機能」および「身体機能」という用語は、本明細書では、交換可能に用いることができる。
【0014】
本明細書で使用する場合、「電極」という用語は、個体の身体の一部と接触して刺激信号を伝える1つまたは複数の導電体を意味することができる。いくつかの例では、個々の導電体は、「接点」を意味することができる。たとえば、電極は、多接点電極および/または複数の単接点電極であってもよい。
【0015】
本明細書で使用する場合、「神経組織」は、刺激に反応して、刺激に対する応答を引き起こす体内のさまざまな臓器または組織にインパルスを伝達することができる軸索の束を意味することができる。神経組織としては、たとえば、中枢神経系の軸索(たとえば、脳および/または脊髄内の軸索など)の束または末梢神経系の軸索(たとえば、運動神経の軸索、自律神経の軸索および/または感覚神経の軸索など)の束があげられる。「軸索」および「神経繊維」という用語は、本明細書では、交換可能に用いることができる。
【0016】
本明細書で使用する場合、「パターン化された刺激強度」(または「Ψ-刺激」)という用語は、神経刺激信号におけるパターンをなしたパルスの強度に関する1つまたは複数の刺激パラメーターのバリエーションを意味することができる。一例において、1つまたは複数の刺激パラメーターのバリエーションは、神経組織内の軸索の異なる束の動員につながることがあるため、「パターン化された強度刺激」は、神経組織の束ベースのエンコーディングを意味することができる。「パターン強度調整」および「パターン化された刺激強度」という用語は、本明細書では、交換可能に用いることができる。
【0017】
本明細書で使用する場合、刺激信号の「強度」という用語は、刺激信号の強さおよび/またはタイミングを意味することができる。いくつかの例では、強度は、刺激信号の1つのパルスおよび/またはパターンをなした複数のパルスによって動員される神経繊維数に対応してもよい。
【0018】
本明細書で使用する場合、「刺激パラメーター」という用語は、刺激信号の強度に関連した1つのパルスおよび/またはパターンをなしたパルスのパラメーターを意味することができる。刺激パラメーターの例として、最大値、パルス幅、パルス間隔、パルスの形状(たとえば、方形、矩形、指数、対数、のこぎりなど)、パルスの形状に影響するパラメーター、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延などがあげられる。「刺激パラメーター」、「強度パラメーター」、「パルスパラメーター」という用語は、本明細書では、交換可能に用いることができる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「個体」という用語は、ヒト、ブタ、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、エイプ、ウサギ、ウシなどを含むがこれらに限定されるものではない温血生物を意味することができる。「個体」、「被検体」、「患者」、「ユーザー」とい用語は、特に明記しないかぎり、本明細書では、交換可能に用いることができる。

II.概要
【0020】
本開示は、総じて神経刺激に関するものであり、特に、神経刺激信号におけるパターンをなしたパルスの強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を調整することができるシステムおよび方法に関する。たとえば、個体の神経組織への印加用の刺激信号を生成可能であり、刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを経時的に調整可能である。刺激信号を神経組織に印加すると、神経組織における軸索の束を、刺激信号のパルスごとに動員できる。
【0021】
末梢神経系および/または中枢神経系における、パターン化された刺激強度(すなわち「Ψ-刺激」)での神経刺激は、感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能、臓器機能および/または認知機能をはじめとする異なる生物学的機能に影響を与えることができる。たとえば、神経刺激を用いて、正常な健常個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体または疾患のある個体(たとえば、自律神経障害、運動障害および/または感覚障害のある個体など)における生物学的機能に影響を与えることができる。一例において、生物学的機能は、1本以上の肢を失った個体または麻痺のある個体における感覚回復を含んでもよい。感覚回復は、失われた生物学的感覚の代わりに、「仮想の」感覚を与えることを含んでもよい。他の例では、生物学的機能は、タッチ式のバーチャルリアリティ、ユーザーインターフェース、臨床診断、機械的診断、ロボット制御および/またはテレプレゼンスのために、正中神経、尺骨神経および/または橈骨神経を刺激することによって、健常個体に人工的な感覚を与えることを含んでもよい。
【0022】
生物学的機能の他の例として、たとえば個体の痛覚を調整することなど、痛みの調整があげられる。別の例では、生物学的機能は、味覚、嗅覚、聴覚、視覚または触覚の回復または増強を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、嚥下の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、胃逆流の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、血圧、食欲などの調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、性的感覚の回復または性的感覚の増強を含んでもよい。別の例では、生物学的機能は、失禁の軽減、排便調節や他の膀胱機能の調節などの泌尿生殖器の調節を含んでもよい。もうひとつの例では、生物学的機能は、授乳のための乳汁分泌の改善を含んでもよい。もうひとつの例では、生物学的機能は、個体における除去された組織または失われた組織の知覚の回復である。さらに別の例では、乳房切除術を受けた個体において、除去された胸部組織の知覚を回復できる。さらに別の例では、生物学的機能は、運動異常の調整を含んでもよい。異なる生物学的機能に対しては、個体の身体の異なる領域に電極を配置し、刺激信号のパターン化された強度調整によって、神経組織内の軸索の異なる束を動員することができる。

III.システム
【0023】
本開示の一態様は、神経刺激信号の強度を調整することができるシステムを含んでもよい。理論に拘泥されるものではないが、神経刺激信号の強度を調整することによって、神経刺激信号が、同一パルスの規則的な列により、従来の刺激と比べて個体の正常な神経学的機能にもっと近い状態でこれを模すことができる、と考えられる。刺激信号を神経組織に印加する時、そのような調整をすれば、刺激信号の各パルスを用いて神経組織における軸索の異なる束を動員できるようになる。
【0024】
図1は、本開示の一態様による神経刺激信号の強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を調整することができるシステム10の一例を示す。システム10は、刺激信号(SS)を生成して調整するためのパルスジェネレーター12と、刺激信号(SS)を個体の神経組織に印加するための電極14と、を含んでもよい。刺激信号(SS)は、いくつかの例では、時間可変の電気信号であってもよい。いくつかの例では、パルスジェネレーター12は、刺激信号(SS)の強度に関する1つまたは複数のパラメーターを変化させるのに、パターン化された刺激強度(すなわち「Ψ-刺激」)を採用してもよい。上述したように、パターン化された刺激強度を用いた神経刺激は、正常な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体、疾患のある個体などの感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能、臓器機能および/または認知機能をはじめとする異なる生物学的機能を活性化および/または抑制できる。
【0025】
パルスジェネレーター12は、刺激信号(SS)を生成するように構成された装置であってもよい。いくつかの例では、パルスジェネレーター12は、刺激信号のパターンをなしたパルスの強度に関するパラメーターを調整するように構成してもよい。一例として、パルスジェネレーター12によって、強度に関するパラメーターを経時的に調整することができる。他の例では、パルスジェネレーター12によって、所望の身体機能に基づいて刺激信号(SS)を生成および/または調整することができる。図2に示す他の例として、パルスジェネレーター12は、所望の身体機能に関する入力に基づいて刺激信号(SS)を生成および/または調整するように構成してもよい。
【0026】
図2に示す例では、パルスジェネレーター12は、受信機22に連結することができる。いくつかの例では、パルスジェネレーター12および受信機22は、1つの装置の構成要素として実施してもよい。他の例では、パルスジェネレーター12および受信機22は各々、パルスジェネレーター12と受信機22との間の通信を容易にする有線および/または無線の接続によって連結された別個の装置として実施してもよい。
【0027】
パルスジェネレーター12および/または受信機22の1つまたは複数の機能は、コンピュータープログラムの命令によって実行させてもよい。これらのコンピュータープログラムの命令を、汎用コンピューター、専用コンピューターおよび/または他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサーに備え付け、そのコンピューターおよび/または他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサーによって実行される命令がパルスジェネレーター12および/または受信機22の機能を実行するための機構を形成するようにマシンを製造してもよい。
【0028】
これらのコンピュータープログラムの命令を非一過性のコンピューター読取可能なメモリーに格納し、そのメモリーが、コンピューターまたは他のプログラム可能なデータ処理装置に対し、その非一過性のコンピューター読取可能なメモリーに格納された命令によってパルスジェネレーター12および/または受信機22の機能を実行する命令を含む製品が製造されるような特別のやり方で機能させることも可能である。
【0029】
また、コンピュータープログラムの命令をコンピューターまたは他のプログラム可能なデータ処理装置にロードして、その装置上での一連の動作ステップによってコンピューターが実行するプロセスを生成することで、その装置上で実行される命令によりブロック図およびこれに付随する説明において具体的に示される構成要素の機能を実行するためのステップを与えてもよい。
【0030】
このため、パルスジェネレーター12および/または受信機22の少なくとも一部は、ハードウェアおよび/またはソフトウェア(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)の形で具現化できる。さらに、システム10の態様は、命令実行システムによって、または命令実行システムとの関連で用いられる媒体において実施される、コンピューター利用可能なプログラムコードまたはコンピューター読取可能なプログラムコードを有する、コンピューター利用可能な記録媒体またはコンピューター読取可能な記録媒体上のコンピュータープログラム製品の形態をとってもよい。コンピューター利用可能な媒体またはコンピューター読取可能な媒体は、一過性の信号ではないどのような非一過性の媒体であってもよく、システム、装置(apparatus)または装置(device)の命令または実行によって、あるいはそれとの関連で用いられるプログラムを含むまたは格納することが可能である。コンピューター利用可能な媒体またはコンピューター読取可能な媒体は、たとえば、電子、磁気、光学、電磁、赤外線または半導体のシステム、装置(apparatus)または装置(device)であり得るが、これらに限定されるものではない。コンピューター読取可能な媒体のより具体的な例(網羅的ではないリスト)としては、ポータブルコンピューターディスケット、ランダムアクセスメモリー、リードオンリーメモリー、消去可能かつプログラム可能なリードオンリーメモリー(またはフラッシュメモリー)、ポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリーがあげられる。
【0031】
受信機22のこのような機能は、入力信号(FS)の受信と、入力信号に関するデータ(PFS)のパルスジェネレーター12への送信を含んでもよい。いくつかの例では、受信機22は、入力信号(FS)の信号処理を実行するように構成されてもよい。たとえば、受信機22によって用いられる信号処理によって、入力信号(FS)は入力信号に関するデータ(PFS)に変換されてもよい。入力信号に関するデータ(PFS)は、パルスジェネレーター12に送信されてもよい。
【0032】
パルスジェネレーター12は、入力信号に関するデータ(FS)に基づいて刺激信号(SS)を生成および/または調整するように構成してもよい。たとえば、入力信号(FS)は、ユーザー入力、神経組織または他の組織からのフィードバック信号入力、センサー信号入力、時間入力などを含んでもよい。他の例として、入力信号は、パルスジェネレーター12によって採用可能な調整パターンまたはエンベロープを規定する刺激パラダイムに関する入力を含んでもよい。
【0033】
図1のシステム10または図2のシステム20のいずれかにおいて、パルスジェネレーター12によって生成される刺激信号(SS)は、複数のパルスを含んでもよい。いくつかの例では、複数のパルスは、電荷のバランスのとれたもの(カソーディックファーストおよび/またはアノーディックファースト)であってもよい。他の例では、個々のパルスが電荷のバランスのとれたものでなくても、パターンをなした複数のパルスが電荷のバランスのとれたものであり得る。さらに他の例では、複数のパルスは電荷のバランスがとれている必要はないが、電気化学的反応生成物が周辺の組織または電極14に対して損傷を生じさせるほどの大きさで生成することがないよう、十分に短時間、複数のパルスを用いることができる。
【0034】
パルスジェネレーター12は、刺激信号(SS)の強度に関する1つまたは複数のパルスパラメーターを調整することで、刺激信号(SS)を調整可能である。強度に関する刺激信号(SS)の1つまたは複数のパルスパラメーターを調整すると、それぞれのパルスを用いて軸索の異なる束を動員できる。たとえば、パルスジェネレーター12は、パルスごとに強度に関するパルスパラメーターを変更できる。他の例として、パルスジェネレーター12は、調整パターンまたは調整エンベロープを規定する刺激パラダイムに基づいて、複数のパルスごとに、強度に関するパルスパラメーターを変更できる。調整パターンまたは調整エンベロープは、刺激信号(SS)の強度に関する1つまたは複数のパルスパラメーターの時間可変変動を表すどのような形状であってもよい。調整パターンまたは調整エンベロープの形状の例として、正弦、三角、台形などがあげられる。いくつかの例では、強度に関する単一のパルスパラメーターを、パルスジェネレーター12によって調整可能である。他の例では、強度に関する異なるパルスパラメーターを、異なる時点に、パルスジェネレーター12によって調整可能である。さらに他の例では、強度に関する複数の異なるパルスパラメーターを、同時に(または実質的に同時に)、パルスジェネレーター12によって調整可能である。
【0035】
1つまたは複数の刺激パラメーターは、刺激信号の強度に関するパルスおよび/またはパターンをなしたパルスのどのようなパラメーターであってもよい。強度に関する刺激パラメーターの例として、最大値、パルス幅、パルス間隔、パルスの形状、パルスの形状に影響するパラメーター、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延などがあげられる。強度パラメーターの他の例として、調整エンベロープに関するパラメーター(たとえば、形状、周波数、振幅など)があげられる。
【0036】
図3は、一連のパルスに対してパルスジェネレーター12によって実行可能な異なる調整の例を、パルス列(たとえば、パルス強度)の経時的な特徴のグラフとして示す。図3のグラフは、調整可能な刺激信号(SS)の異なるパラメーターを示す例示的な概略図である。図3において、ベースライン信号は32で示されている。34では、ベースライン信号の最大値が変更されうる。36では、パルス間隔が変更されうる。38では、パルス間隔および最大値/形状は、組み合わせて変更されうる。要素34および36では、一群のパルスに対して単一のパラメーターが変更される。38では、一群のパルスに対して、あるパラメーター(パルス間隔)が変更され、個々のパルスに対して、あるパラメーター(最大値)が変更される。図3に図示していない別のパラメーターをさらに調整してもよい(たとえば、パルス幅、パルスの形状に影響するパラメーター、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延、調整エンベロープに関するパラメーター(たとえば、形状、周波数、振幅など)といった、刺激信号の強度に関するパルスおよび/またはパターンをなしたパルスのパラメーターなど。
【0037】
再び図1および図2を参照すると、電極14をパルスジェネレーター12に連結して、パルスジェネレーターから送信される刺激信号(SS)を受信することが可能である。電極14は、刺激信号(SS)を神経組織に伝えて所望の生物学的機能に影響を与えるために、個体の神経組織との間をインタフェースしてもよい。電極14は、刺激対象となる神経組織に対して経皮的に、皮下的に、あるいは刺激対象となる神経組織上に直接、配置可能である。いくつかの例では、電極14がインタフェースできる神経組織は、中枢神経系の一部(たとえば、脳深部刺激、脊髄刺激など)を含んでもよい。たとえば、脳深部刺激は、本態性振戦またはパーキンソン病などの運動異常の治療に使用できる。他の例では、脳深部刺激および/または脊髄刺激は、痛みのマネジメントに使用できる。また他の例では、電極がインタフェースできる神経組織は、末梢神経系の一部(たとえば、神経(たとえば、求心性神経、遠心性神経および/または自律神経)および/または神経節)を含んでもよい。
【0038】
いくつかの例では、電極14は、N個(ここで、Nは2以上の正の整数である)の電極接点を含み得る一組の複数の接点を含んでもよい。たとえば、パルスジェネレーター12は、複数の接点間の刺激信号(SS)における各パルスのタイミングと強さを調整して、電極14によって神経組織に伝搬される電界を変化させることができる。いくつかの例では、図4に概略的に示すように、電極14(たとえば、電極アレイなど)は、複数の単接点電極42a~dを含んでもよい。たとえば、繊維束の間または中に複数の電極があってもよい。他の例では、電極は、脳内および/または脊髄内に配置されてもよい。他の例では、図5に概略的に示すように、電極14は、複数の接点42m~iのある多接点電極(たとえば、神経カフ電極、スパイラル電極など)を含んでもよい。
【0039】
上述したように、パルスジェネレーター12からのパターン化された刺激強度を持つ刺激信号(SS)は、感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能、臓器機能および/または認知機能をはじめとする異なる生物学的機能に影響を与えることができる。一例において、生物学的機能は、1本以上の肢を失った個体または麻痺のある個体における感覚回復を含んでもよい。他の例では、生物学的機能は、痛みの調整を含んでもよい。別の例では、生物学的機能は、味覚の回復を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、嚥下の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、胃逆流の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、血圧、食欲などの調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、聴覚、視覚などの回復を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、性的感覚の回復または性的感覚の増強を含んでもよい。別の例では、生物学的機能は、失禁の軽減、排便調節などの泌尿生殖器調節を含んでもよい。
さらに別の例では、乳房切除術を受けた個体において、除去された胸部組織の知覚を回復できる。さらに別の例では、生物学的機能は、運動異常の調節を含んでもよい。異なる生物学的機能について、個体の身体の異なる領域に電極を配置可能であり、刺激信号のパターン化された強度調整を、神経組織内の軸索の異なる束の動員につなげることができる。

IV.方法
【0040】
本開示のもうひとつの態様は、神経刺激信号の強度(たとえば、強さおよび/またはタイミング)を調整するための方法を含んでもよい。所望の身体機能に影響を与えるための神経刺激用の一例である方法60を、図6に示す。神経刺激に用いられる信号の強度を調整するための他の例である方法70を、図7に示す。神経刺激で所望の身体機能に影響を与えるための別の例である方法80を、図8に示す。いくつかの例では、この方法は、神経刺激が必要な個体を特定し、神経刺激が必要な当該個体に神経刺激信号を印加することを伴ってもよい。たとえば、疾患のある個体の場合、この方法は、病状に悩む個体を特定することを含んでもよい。
【0041】
図6から図8の方法60~80は、それぞれ、フローチャートの実例でのプロセス流れ図として図示されている。簡単にするために、方法60~80は、シリアルに実行されるものとして図示し、説明されている。しかしながら、いくつかの工程が、本明細書にて図示して説明した他の工程とは異なる順序でおよび/または他の工程と同時に起こり得るため、本開示が図示の順序に限定されないことは理解され、自明であろう。さらに、方法60~80を実行するのに図示の態様がすべて必要とされないこともある。
【0042】
それぞれのフローチャート図の1つまたは複数のブロックならびに、ブロックフローチャート図のブロックの組み合わせは、コンピュータープログラムの命令によって実行されてもよい。これらのコンピュータープログラムの命令を、汎用コンピューター、専用コンピューターおよび/または他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサーに備え付け、そのコンピューターおよび/または他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサーによって実行される命令がパルスジェネレーター12および/または受信機22の機能を実行するための機構を形成するようにマシンを製造してもよい。換言すると、非一過性のメモリーに格納されたコンピューター実行可能な命令にアクセス可能なプロセッサーを含むシステムによって、工程/行為を実行してもよい。
【0043】
本開示の方法60~80は、ハードウェアおよび/またはソフトウェア(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)の形で具現化してもよい。さらに、本開示の態様は、命令実行システムによって、または命令実行システムと共に用いられる媒体の形で具現化される、コンピューター利用可能なプログラムコードまたはコンピューター読取可能なプログラムコードを有する、コンピューター利用可能な記録媒体またはコンピューター読取可能な記録媒体上のコンピュータープログラム製品の形態をとってもよい。コンピューター利用可能な媒体またはコンピューター読取可能な媒体は、システム、装置(apparatus)または装置(device)の命令または実行によって、あるいはそれと共に用いられるプログラムを含むまたは格納することが可能な、どのような非一過性の媒体であってもよい。
【0044】
図6を参照すると、本開示の一態様は、身体機能に影響を与えるために神経を刺激するための方法60を含んでもよい。62では、個体の神経組織への印加のために、刺激信号(たとえば、SS)を、(たとえばパルスジェネレーター12によって)生成可能である。神経組織は、中枢神経組織および/または末梢神経組織(運動神経、感覚神経および/または自律神経)を含んでもよい。刺激信号は、所望の生物学的機能に合わせて形成されたパラメーターで構成されてもよい。たとえば、刺激信号は、パターンにアレンジ可能な複数のパルスを含んでもよい。上述したように、神経刺激は、正常な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体、疾患のある個体などに適用可能である。たとえば、刺激信号は、複数のパルス(たとえば、調整パターンまたはエンベロープにアレンジされている)を含んでもよい。
【0045】
64では、刺激信号におけるパターンをなしたパルスの強度パラメーターを、(たとえばパルスジェネレーター12によって)変更してもよい。この変更は、所望の身体機能に基づくものであってもよい。たとえば、刺激信号の強度に関する1つまたは複数のパラメーターを調整することができる。強度に関する刺激信号の1つまたは複数のパルスパラメーターが調整されると、各々のパルスで軸索の異なる束を動員することができる。たとえば、強度に関するパラメーターは、パルスごとに変更できる。他の例として、強度に関するパルスパラメーターは、(たとえば、刺激信号の強度に関する1つまたは複数のパルスパラメーターの時間可変変動を表す任意の形状の)調整パターンまたは調整エンベロープに基づいて、複数のパルスごとに、変更できる。いくつかの例では、強度に関する単一のパラメーターを調整可能である。他の例では、強度に関する異なるパラメーターを、異なる時点で調整可能である。さらに他の例では、強度に関する複数の異なるパルスパラメーターを、同時に(または実質的に同時に)、パルスジェネレーター12によって調整可能である。1つまたは複数の刺激パラメーターは、刺激信号の強度に関するパルスおよび/またはパターンをなしたパルスのどのようなパラメーターであってもよい。強度に関する刺激パラメーターの例として、最大値、パルス幅、パルス間隔、パルスの形状、パルスの形状に影響するパラメーター、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延などがあげられる。
【0046】
66では、調整された刺激信号を、(電極14の1つまたは複数の接点を起動することで)個体の神経組織に印加して、身体機能に影響を与えることができる。上述したように、電極は、刺激対象となる神経組織に対して経皮的に、皮下的に、あるいは刺激対象となる神経組織上に直接、配置可能である。いくつかの例では、電極がインタフェースできる神経組織は、中枢神経系の一部(たとえば、脳深部刺激、脊髄刺激など)を含んでもよい。たとえば、脳深部刺激は、本態性振戦またはパーキンソン病などの運動異常の治療に使用できる。他の例では、脳深部刺激および/または脊髄刺激は、痛みのマネジメントに使用できる。他の例では、電極がインタフェースできる神経組織は、末梢神経系の一部(たとえば、神経(たとえば、求心性神経、遠心性神経および/または自律神経)および/または神経節)を含んでもよい。たとえば、身体機能は、感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能、臓器機能および/または認知機能であってもよい。一例において、生物学的機能は、1本以上の肢を失った個体における感覚回復を含んでもよい。他の例では、生物学的機能は、痛みの調整を含んでもよい。別の例では、生物学的機能は、味覚の回復を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、嚥下の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、胃逆流の調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、血圧、食欲などの調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、聴覚、視覚などの回復を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、性的感覚の回復または性的感覚の増強を含んでもよい。別の例では、生物学的機能は、失禁の軽減、排便調節などの泌尿生殖器調節を含んでもよい。さらに別の例では、生物学的機能は、運動異常の調節を含んでもよい。
【0047】
異なる生物学的機能に対しては、個体の身体の異なる領域に電極を配置し、刺激信号のパターン化された強度調整を、神経組織内の軸索の異なる束の動員につなげてもよい。電極は、刺激対象となる神経組織に対して経皮的に、皮下的に、あるいは刺激対象となる神経組織上に直接、配置可能である。たとえば、神経刺激の場合、電極は、患者の皮膚に配置可能である(経皮電気神経刺激)。
【0048】
図7は、神経刺激に使用可能な信号の強度を調整するための方法70の一例を示す。72では、刺激信号(たとえば、SS)を、(たとえば電極14によって)個体の神経組織に印加することができる。いくつかの例では、刺激信号は、時間可変電気信号であってもよい。たとえば、刺激信号は、複数のパルスを含んでもよい。それぞれのパルスは、同一形状および/または異なる形状(たとえば、矩形、三角形、台形、正弦波など)であってもよい。いくつかの例では、複数のパルスは、電荷バランスのとれたものであってもよい(たとえば、個々に電荷バランスがとれているか、パターンをなしたパルスが電荷バランスのとれたものであってもよい)。他の例では、複数のパルスを短時間、印加してもよく、その場合、複数のパルスが電荷のバランスのとれたものである必要がない。
【0049】
74では、刺激信号の印加に応答したフィードバック信号(たとえば、FS)を、(たとえば受信機22によって)受信できる。たとえば、フィードバック信号は、ユーザー入力、神経組織または他の組織からのフィードバック信号入力、センサー信号入力、時間入力などを含んでもよい。フィードバック信号は、たとえば、調整パターンまたはエンベロープを規定する刺激パラメーターに関する入力および/または刺激パラダイムに関する入力を含んでもよい。いくつかの例では、信号処理が、(たとえば、受信機22および/またはパルスジェネレーター12によって)フィードバック信号に対して実行されてもよい。一例として、信号処理によって、入力信号を、刺激信号を調整するのに印加可能な入力信号に関するデータ(たとえば、PFS)に変換することができる。
【0050】
76では、刺激信号の強度パラメーターを、(たとえばパルスジェネレーター12によって)フィードバック信号に基づいて調整できる。他の例では、刺激信号の2つ以上の強度パラメーターを、刺激信号に基づいて変更してもよい。強度に関する刺激信号の1つまたは複数の強度パラメーターを調整すると、それぞれのパルスを用いて軸索の異なる束を動員できる。たとえば、フィードバック信号に基づいて、各々のパルスに対する強度パラメーターを変更してもよい。もうひとつの例として、フィードバック信号に基づいて、調整パターンまたは調整エンベロープ(たとえば、正弦波、三角形、台形などの任意の時間可変形状など)を規定する刺激パラダイムに従って、複数のパルスに対する強度パラメーターを変更してもよい。いくつかの例では、強度に関する単一の強度パラメーターを調整してもよく、他の例では、強度に関する異なる強度パラメーターを、異なる時点および/または同時に(または実質的に同時に)調整してもよい。調整可能な強度パラメーターの例として、最大値、パルス幅、パルス間隔、パルスの形状、パルスの形状に影響するパラメーター、リチャージ位相振幅、リチャージ遅延などがあげられる。強度パラメーターの他の例として、調整エンベロープに関するパラメーター(たとえば、形状、周波数、振幅など)があげられる。
【0051】
図8は、神経刺激を用いて所望の身体機能に影響を与えるための方法80の一例を示す。神経刺激は、軸索の束を動員して所望の身体機能に影響を与えるためのパターン化された刺激強度(すなわち「Ψ-刺激」)を含んでもよい。82では、(たとえばパルスジェネレーター12によって)強度が経時的に調整された刺激信号(たとえば、SS)を、(たとえば電極14によって)個体の神経組織に印加できる。たとえば、強度は、フィードバック信号に基づいて、経時的に調整されてもよい。上述したように、たとえば、フィードバック信号は、ユーザー入力、神経組織または他の組織からのフィードバック信号入力、センサー信号入力、時間入力などを含んでもよい。上述したように、神経刺激は、正常な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体、疾患のある個体などに印加できる。
【0052】
84では、刺激信号の各パルスを用いて、神経組織における軸索の異なる束を動員できる。たとえば、パターン化された刺激強度を、タイミングおよび/または強さに関して調整し、各パルスから神経組織に伝搬される電界を変化させることができる。88では、動員された軸索の束に基づいて、所望の身体機能に影響を与えることができる。たとえば、身体機能は、感覚機能(たとえば、知覚)、自律機能、運動機能、臓器機能および/または認知機能であってもよい。いくつかの例では、パターン化された刺激強度は、所望の身体機能に影響を与えるために、特異的であってもよい。

V.追加の装置、システムおよび方法
【0053】
(たとえば、上述したシステムおよび方法による)パターン化された刺激強度(すなわち「Ψ-刺激」)を用いた神経刺激は、正常で健常な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体あるいは、特定の生物学的機能に影響する自律神経障害、運動障害および/または感覚障害のある個体などの疾患のある個体の末梢神経系および/または中枢神経系に適用できる。パターン化された刺激強度は、信号が実際の生物学的信号を模すことを可能にし、他のタイプの刺激よりも自然に生物学的機能を起こさせることができる。
【0054】
パターン化された刺激強度での神経刺激の応用の一例として、個体に「仮想の」感覚を与えることができる。たとえば、正中神経、尺骨神経および/または橈骨神経を刺激して、人工的な感覚を与えることが可能である。もうひとつの例では、仮想の感覚は、感覚神経が可能にする(たとえば、触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚)バーチャルリアリティ、(たとえば、コンピューティング装置との)ユーザーインターフェース、テレプレゼンスを可能にする。
【0055】
他の例では、仮想の感覚を用いることは、臨床医が遠隔地から患者を物理的に診断するなどの医療用途を含んでもよい。仮想の感覚の他の使用例は、ゲームの用途でのバーチャルコンタクトおよび/または個体が別の個体と仮想的にコンタクトできるようにすることで、ソーシャルメディアを増強すること(たとえば、個体に別の個体の手を握っている感覚を知覚させるなど)を含んでもよい。
【0056】
他の例として、これがなければ個体が物理的にまたは安全に経験できない知覚された感覚を可能にするのに、個体の指を使うことがあげられる。このようなシステムを用いると、大工が従来の大工道具を使わずに自分の指を使って壁面を調べ、鋲またはワイヤを感じることができる。もうひとつの例では、産科医が、子宮の検査をしている間に胎児の心拍を感じることができる。もうひとつの例では、胸部、腹部または身体の他の位置における不規則な組織塊を示す超音波情報を、臨床医が「感じる」ことができる。現在の検知ツールは、物理情報をユーザーが解釈する可視情報に変換する。パターン化された強度調整を用いると、臨床医は、目視ではなく、あるいは目視に加えて触れた感覚を用いることで、患者をより良く解釈して診断できることがある。
【0057】
仮想の感覚のもうひとつの使用例として、ロボット工学システム(たとえば、ドローンの操縦士、ロボット航空機など)からのフィードバックをオペレーターに返し、航空機内または航空機に対して起こっていることを操縦士が感じられるようにすることで、ロボット工学システムの制御と動作を改善できるロボット制御があげられる。
【0058】
本開示の他の用途は、感覚を実際に(物理的に)経験することが安全ではない状況を含み得る。たとえば機械工は、エンジン内のセンサーからの振動または温度情報を「感じる」ことによって、エンジンの性能を診断できる。エンジン内の圧力および力は、安全に感じられるものをはるかに越えるであろうが、本開示によって、センサーからのデータを一定の割合で触った感覚に置き換えることができる。
【0059】
上記の説明から、当業者であれば、改善、変更、改変を理解できるであろう。このような改善、変更、改変は、当業者の技能の範囲内であり、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの末梢神経組織の感覚神経の束へ印加するための少なくとも一つのパルスパターンを含む刺激信号を生成するように構成されたパルスジェネレーターと、
前記パルスジェネレーターに連結され、前記ユーザにおいて人工的な感覚を生み出すために前記刺激信号を前記末梢神経組織に印加するように構成された電極と、
前記パルスジェネレーターに連結され、フィードバック信号を受信し、前記フィードバック信号を処理して前記フィードバック信号を前記フィードバック信号に関するデータに変換し、前記フィードバック信号に関する前記データを前記パルスジェネレーターに伝達する受信機と、
を備えるシステムであって、
前記刺激は、触覚が可能にするバーチャルリアリティにおいて、前記ユーザに前記人工的な感覚を経験させ、
前記パルスジェネレーターは、前記フィードバック信号に関する前記データを受信し、前記フィードバック信号に関する前記データに基づいて、前記末梢神経組織の感覚神経の異なる束を動員することによって、前記人工的な感覚をアップデートするために、前記刺激信号の時間可変変動を表す前記刺激信号の調整エンベロープと、前記刺激信号の前記少なくとも一つのパルスパターンの振幅及びパルス間隔を調整するように構成され、
前記フィードバック信号は、前記触覚が可能にするバーチャルリアリティに関係する、システム。
【請求項2】
前記電極は、複数の接点を含み、
前記電極によって前記末梢神経組織に伝搬される電界を変化させるために、前記刺激信号が前記複数の接点間で調整される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記人工的な感覚は、前記ユーザの体の一部に関連する感覚認知である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記ユーザは、健常な個体、1本以上の肢を失った個体、麻痺のある個体のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のシステム。
【外国語明細書】