(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128021
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】全固体二次電池用合剤シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240912BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108659
(22)【出願日】2024-07-05
(62)【分割の表示】P 2022546326の分割
【原出願日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020146853
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 花英
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】随 献偉
(57)【要約】
【課題】良好な性質を有する全固体二次電池用合剤、また、その全固体二次電池用合剤を含有する二次電池用電極合剤シート、また、その全固体二次電池用シートを使用した二次電池を提供する。また、微細な繊維構造を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有する全固体二次電池用シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】固体電解質及び結着剤を含有する全固体二次電池用合剤であって、結着剤は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂であり、ポリテトラルオロエチレン樹脂は、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有することを特徴とする全固体二次電池用合剤である。また、その全固体二次電池用合剤を含有する全固体二次電池用合剤シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質及び結着剤を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた全固体二次電池用合剤をバルク状に成形する工程(2)
前記工程(2)によって得られたバルク状の全固体二次電池用合剤をシート状に圧延する工程(3)及び
前記工程(3)によって得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(4)
を有する全固体二次電池用シートの製造方法であって、
前記結着剤は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)の混合における回転数は10~1000rpmであることを特徴とする請求項1記載の全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)の回数は2回以上10回以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項4】
前記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂の二次粒子径は300~700μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項5】
前記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂の一次粒子径は150~500μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の全固体二次電池用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体二次電池用合剤、全固体二次電池用合剤シート及びその製造方法並びに全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池において、電極活物質及び導電助剤に対して、結着剤及び溶媒を混合して得られたスラリーを塗工、乾燥することによって、全固体二次電池用シートを作製することが一般的に行われている。
【0003】
他方、ポリテトラフルオロエチレン樹脂はフィブリル化しやすい重合体であり、これをフィブリル化することで結着剤として使用することも行われている。
【0004】
特許文献1には、活性材料とポリテトラフルオロエチレン混合バインダ材とを含む混合物を、ジェットミルによって高せん断処理することにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化する電極の作製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、良好な性質を有する全固体二次電池用合剤、また、その合剤を含有する全固体二次電池用合剤シート及び、また、その全固体二次電池用シートを使用した全固体二次電池を提供することを目的とする。
また、本開示は、微細な繊維構造を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有する全固体二次電池用シートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、固体電解質及び結着剤を含有する全固体二次電池用合剤であって、
結着剤は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂であり、
ポリテトラルオロエチレン樹脂は、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有することを特徴とする全固体二次電池用合剤である。
【0008】
上記全固体二次電池用合剤は、リチウムイオン全固体二次電池用であることが好ましい。
上記全固体二次電池用合剤は、硫化物系全固体二次電池用であることが好ましい。
【0009】
上記全固体二次電池用合剤は、固体電解質及び結着剤を含有する原料組成物を使用して得られた全固体二次電池用合剤であって、原料組成物は、結着剤が粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂であることが好ましい。
上記原料組成物は、実質的に液体媒体を含有しないことが好ましい。
【0010】
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、水分含有量が500ppm以下であることが好ましい。
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、標準比重が2.11~2.20であることが好ましい。
【0011】
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、二次粒子径が500μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を50質量%以上含むことが好ましい。
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、二次粒子径が500μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を80質量%以上含むことが好ましい。
【0012】
本開示は、上記全固体二次電池用合剤を含む全固体二次電池用合剤シートでもある。
【0013】
本開示は、固体電解質及び結着剤を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた全固体二次電池用合剤をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の全固体二次電池用合剤をシート状に圧延する工程(3)
を有する全固体二次電池用合剤シートの製造方法であって、結着剤は、粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする全固体二次電池用合剤シートの製造方法でもある。
【0014】
本開示は、上記全固体二次電池用合剤シートを有する全固体二次電池でもある。
【発明の効果】
【0015】
本開示においては、全固体二次電池用合剤シート形成時に溶媒を使用せず、水分の少ないポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)粉体を結着剤として用いることで、固体電解質の劣化が少ない電池を製造することができる。更に、本開示の製造方法においては、微細な繊維構造を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有する全固体二次電池用合剤シートを製造することができ、また、スラリーを作製しないことから、製造プロセスの負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、全固体二次電池において好適に使用することができる全固体二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートを提供する。
本開示の全固体二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートにおいては、PTFEを結着剤として使用するものである。従来の全固体二次電池用合剤においては、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体等の、溶媒に溶解する樹脂を結着剤として使用し、これを含有するスラリーの塗布・乾燥によって、全固体二次電池用合剤を作成する方法が一般的であった。
【0017】
粒子状態のPTFEにせん断応力を与えると、容易にフィブリル化することが知られている。このようなフィブリル化する性質を利用して、PTFEを結着剤として使用することができる。すなわち、フィブリル化したPTFEがその他の粉体成分等に絡みつくことで、粉体成分を結着させ、これによって粉体成分を成形する際のバインダーとして作用することができる。
【0018】
しかし、フィブリル化したPTFEを結着剤として使用する場合でも、フィブリル化が充分でなければ、全固体二次電池用合剤として使用した際に良好な性能を発揮することはできない。本開示においては、この点についての検討を行い、PTFEが、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するように、微細なフィブリル化加工を行うことによって、フィブリル化したPTFEが全固体二次電池用合剤の結着剤として、固体電解質の劣化を少なくすることができ、良好な性能を発揮することができるものである。
【0019】
すなわち、本開示は、PTFEを結着剤として使用するに際して、微細な繊維構造を有するものとすることで、良好な性質を有する全固体二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートを得ることができることを見出し、これによって本開示を完成したものである。
【0020】
本開示の全固体二次電池用合剤は、電極活物質及び結着剤を含有する原料組成物を使用して得られるものであり、結着剤は粉末状のPTFEであることが好ましい。原料として、PTFE水分散液ではなく、PTFE粉体を使用することから、全固体二次電池用合剤中に原料由来の水分が少なく、水分の混在による問題を生じることがなく、これによって、電池性能を向上させることができるという利点もある。また、イオン伝導の優れた電池とすることができる。
【0021】
更に、上記原料組成物は、実質的に液体媒体を含有しないことが好ましい。このように、本開示の全固体二次電池用合剤は、製造において溶媒を使用しないという利点を有する。すなわち、従来の全固体二次電池用合剤形成方法は、結着剤が溶解した溶媒を使用して、全固体二次電池用合剤成分である粉体を分散させたスラリーを調製し、当該スラリーの塗布・乾燥によって全固体二次電池用合剤シートを調製することが一般的であった。この場合、バインダーを溶解する溶媒を使用する。しかし、従来一般に使用されてきたバインダー樹脂を溶解することができる溶媒は酪酸ブチル等の特定の溶媒に限定され、また、これらは固体電解質を劣化させ、電池性能の低下原因となる。また、ヘプタンなどの低極性溶媒では溶解するバインダー樹脂が非常に限定されるうえ、引火点が低く、取り扱いが煩雑である。
【0022】
本開示の全固体二次電池用合剤は、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するPTFEを構成要素として有するものである。本開示においてはフィブリル径(中央値)が70nm以下である点が重要である。このようにフィブリル径が細いPTFEが全固体二次電池用合剤中に存在し、これが全固体二次電池用合剤を構成する成分の粉体同士を結着させる作用を奏することによって、本発明の目的を達成するものである。
【0023】
上記フィブリル径(中央値)は、以下の方法によって測定した値である。
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型 日立製作所製)を用いて、全固体二次電池用合剤シートの拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得る。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分する。
(3)上方の直線上にある全てのPTFE繊維について、PTFE繊維1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該PTFE繊維の直径とする。測定する3箇所は、PTFE繊維と直線との交点、交点からそれぞれ上下に0.5μmずつずらした場所を選択する。(未繊維化のPTFE一次粒子は除く)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのPTFE繊維に対して行う。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりPTFE繊維の直径を測定する。これを繰り返し、測定した繊維数が80本を超えた時点で終了とする。
(6)上記測定した全てのPTFE繊維の直径の中央値をフィブリル径の大きさとした。
【0024】
上記フィブリル径(中央値)は、65nm以下であることが好ましく、62nm以下であることが更に好ましい。なお、フィブリル化を進めすぎると、柔軟性が失われる傾向にある。下限は特に限定されるものではないが、強度の観点から、例えば、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましい。
【0025】
上記フィブリル径(中央値)を有するPTFEを得る方法としては特に限定されるものではないが、例えば、
固体電解質及び結着剤を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた全固体二次電池用合剤をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の全固体二次電池用合剤をシート状に圧延する工程(3)によって行う方法を挙げることができる。
【0026】
このような方法において、例えば、工程(1)においては原料組成物の混合条件を1000rpm以下とすることにより、柔軟性を維持しながらもPTFEのフィブリル化を進行させることができ、与えるせん断応力をコントロールすることで、PTFEのフィブリル径(中央値)を70nm以下とすることができる。
【0027】
また、工程(3)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、さらに薄いシート状に圧延する工程(4)を有することも好ましい。また、工程(4)を繰り返すことも好ましい。
また、工程(3)又は工程(4)のあとに、得られた圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(5)を有することによってもフィブリル径を調整することができる。工程(5)は、例えば1回以上12回以下繰り返すことが好ましい。
【0028】
すなわち、せん断力をかけることによって、PTFE粉体をフィブリル化し、これが固体電解質等の粉体成分と絡み合うことによって、全固体二次電池用合剤を製造することができる。なお、当該製造方法については後述する。
【0029】
本開示において、上記PTFE樹脂としては特に限定されず、ホモポリマーであってもよいし、フィブリル化させることのできる共重合体であってもよい。
共重合体の場合、コモノマーであるフッ素原子含有モノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロアルキル・フルオロビニルエーテル等を挙げることができる。
【0030】
なお、上記「PTFE粉体」とは、液体媒体と混在した分散状態ではなく、粉体としての固体状態を意味するものである。このような状態のものを利用し、液体媒体が存在しない状態のPTFEを使用して全固体二次電池用合剤を製造することで、本開示の目的が好適に達成できる。
【0031】
本開示の全固体二次電池用合剤を調製する際の原料となる粉末形状のPTFEは、水分含有量が500ppm以下であることが好ましい。
水分含有量が500ppm以下であることによって、固体電解質の劣化を低減させるという点で好ましい。
上記水分含有量は、300ppm以下であることが更に好ましい。
【0032】
本開示の全固体二次電池用合剤を調製する際の原料となる粉末形状のPTFEは、標準比重が2.11~2.20であることが好ましい。標準比重が当該範囲内のものであることによって、強度の高い電極合剤シートを作製できるという点で利点を有する。上記標準比重の下限は、2.12以上であることがより好ましい。上記標準比重の上限は、2.19以下であることがより好ましく、2.18以下であることが更に好ましい。
【0033】
標準比重〔SSG〕はASTM D-4895-89に準拠して試料を作製し、得られた試料の比重を水置換法によって測定する。
【0034】
上記粉末状のPTFEは、二次粒子径が500μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。二次粒子径が500μm以上のPTFEが当該範囲内のものであることによって、強度の高い合剤シートを作製できるという利点を有する。
二次粒子径が500μm以上のPTFEを用いることで、より抵抗が低く、靭性に富んだ合剤シートを得ることができる。
【0035】
上記粉末状のPTFEの二次粒子径の下限は、300μmであることがより好ましく、350μmであることが更に好ましい。上記二次粒子径の上限は、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることが更に好ましい。二次粒子径は例えばふるい分け法などで求めることができる。
【0036】
上記粉末状のPTFEは、より高強度でかつ均質性に優れる電極合剤シートが得られることから、平均一次粒子径が150nm以上であることが好ましい。より好ましくは、180nm以上であり、更に好ましくは210nm以上であり、特に好ましくは220nm以上である。
PTFEの平均一次粒子径が大きいほど、その粉末を用いて押出成形をする際に、押出圧力の上昇を抑えられ、成形性にも優れる。上限は特に限定されないが500nmであってよい。重合工程における生産性の観点からは、350nmであることが好ましい。
【0037】
上記平均一次粒子径は、重合により得られたPTFEの水性分散液を用い、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定できる。
【0038】
本開示に使用するPTFEは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するPTFEとしては、例えば、粒子中に高分子量のポリテトラフルオロエチレンのコアと、より低分子量のポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含むポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。このような変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0039】
上述したような各パラメータを満たす粉末形状のPTFEは、従来の製造方法により得ることができる。例えば、国際公開第2015-080291号や国際公開第2012-086710号等に記載された製造方法に倣って製造すればよい。
【0040】
本開示において、結着剤の含有量の下限は、全固体二次電池用合剤中、好ましくは0.2質量%で以上であり、より好ましくは0.3質量%以上である。1.0質量%を超えることが更に好ましい。結着剤の含有量の上限は、全固体二次電池用合剤中、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは6.0質量%以下である。結合剤が上記範囲内であれば、電極抵抗の上昇を押さえながら、ハンドリング性に優れた自立性のあるシートの成形が可能である。
【0041】
本開示の全固体二次電池用合剤に使用される固体電解質は、硫化物系固体電解質であっても、酸化物系固体電解質であってもよい。特に、硫化物系固体電解質を使用する場合、柔軟性があるという利点がある。
【0042】
上記硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、Li2S-P2S5、Li2S-P2S3、Li2S-P2S3-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、LiI-Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li3PS4-Li4GeS4、Li3.4P0.6Si0.4S4、Li3.25P0.25Ge0.76S4、Li4-xGe1-xPxS4(x=0.6~0.8)、Li4+yGe1-yGayS4(y=0.2~0.3)、LiPSCl、LiCl、Li7-x-2yPS6-x-yClx(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物を使用することができる。
【0043】
上記硫化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0044】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0045】
具体的な化合物例としては、例えば、LixaLayaTiO3〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、LixcBycMcc
zcOnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦2、0≦zd≦2、0≦ad≦2、1≦md≦7、3≦nd≦15)、Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfOzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、LixgSygOzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4-3/2w)N w(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.51Li0.34TiO2.94、La0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも1つの元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったLLZ系セラミックス材料も挙げられる。また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD1(D1は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
具体例として、例えば、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2-GeO2、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2等が挙げられる。
【0046】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0047】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。
結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94など)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3など)、ガーネット型(Li7La3Zr2O12(LLZ)など)等が挙げられる。なかでも、NASICON型が好ましい。
【0048】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0049】
本開示の全固体二次電池用合剤は、特に、リチウムイオン全固体二次電池に好適である。
また、硫化物系全固体二次電池に好適である。
本開示の全固体二次電池用合剤は、全固体二次電池に使用するにあたっては、通常、シート状の形態で使用される。
【0050】
本開示の全固体二次電池用合剤シートは、正極用シートとすることもできるし、負極用シートとすることもできる。更に、固体電解質層用シートとすることもできる。これらのうち、電極用シートとする場合は、更に、活物質粒子を含有するものである。活物質粒子は、正極活物質、負極活物質とすることができる。本開示の全固体二次電池用シートは、正極活物質を使用した正極用シートとしてより好適に使用することができる。また、電極シートとする場合、必要に応じて、導電助剤を含有するものであってもよい。
【0051】
以下、電極活物質、導電助剤等について説明する。
【0052】
(電極活物質)
本開示の全固体二次電池用合剤シートを正極用シートとして使用する場合、全固体二次電池用合剤シートには正極活物質を配合する。上記正極活物質は、固体電池の正極活物質として公知の正極活物質を適用可能である。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を用いることが好ましい。
上記正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物、導電性高分子等が挙げられる。
なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0053】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MaMn2-bM1
bO4
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;M1はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・マンガンスピネル複合酸化物、
式:MNi1-cM2cO2
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;M2はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・ニッケル複合酸化物、または、
式:MCo1-dM3
dO2
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;M3はFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)
で表されるアルカリ金属・コバルト複合酸化物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0054】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO2、MMnO2、MNiO2、MMn2O4、MNi0.8Co0.15Al0.05O2、またはMNi1/3Co1/3Mn1/3O2等が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
MNihCoiMnjM5
kO2 (3)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M5はFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0055】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記式(4)
MeM4
f(PO4)g (4)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M4はV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0056】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0057】
その他の正極活物質としては、MFePO4、MNi0.8Co0.2O2、M1.2Fe0.4Mn0.4O2、MNi0.5Mn1.5O2、MV3O6、M2MnO3(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属である。)等が挙げられる。特に、M2MnO3、MNi0.5Mn1.5O2等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であって、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0058】
その他の正極活物質として、M2MnO3とMM6O2(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M6は、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0059】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y)M7
y]Ozで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物である。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M7は、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,ZrおよびSnからなる群から選択される一種または二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14O2のようなLi2MnO3をベースにLiNiO2やLiCoO2を固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0060】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0061】
上記導電性高分子としては、p-ドーピング型の導電性高分子やn-ドーピング型の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン系、ポリフェニレン系、複素環ポリマー、イオン性ポリマー、ラダー及びネットワーク状ポリマー等が挙げられる。
【0062】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0063】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸させ、又は添加した後、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0064】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での固体電解質の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。その付着量が少なすぎる場合、その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する
場合がある。
【0065】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0066】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm3以上、より好ましくは0.8g/cm3以上、更に好ましくは1.0g/cm3以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における固体電解質を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm3以下、より好ましくは3.7g/cm3以下、更に好ましくは3.5g/cm3以下である。
なお、本開示では、タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cm3として求める。
【0067】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成、即ち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引いたり等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることができる。
【0068】
なお、本開示では、メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0069】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
【0070】
なお、本開示では、上記正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0071】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m2/g以上、より好ましくは0.2m2/g以上、更に好ましくは0.3m2/g以上であり、上限は好ましくは50m2/g以下、より好ましくは40m2/g以下、更に好ましくは30m2/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0072】
なお、本開示では、BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0073】
本開示の二次電池が、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。
上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5~7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、固体電解質との接触面積が大きくなり、全固体二次電池用シートと固体電解質との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0074】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0075】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoO2とLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2等の三元系との組み合わせ、LiCoO2とLiMn2O4若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiFePO4とLiCoO2若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0076】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤中50~99.5質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましい。
また、正極活物質の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極合剤中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0077】
上記負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウム金属、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び、難黒鉛化性炭素等の炭素質材料を含むもの、ケイ素及びケイ素合金等のシリコン含有化合物、Li4Ti5O12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。なかでも、炭素質材料を少なくとも一部に含むものや、シリコン含有化合物を特に好適に使用することができる。
【0078】
上記負極活物質の含有量は、得られる全固体二次電池用合剤シートの容量を増やすために、全固体二次電池用合剤シート中40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0079】
(導電助剤)
上記導電助剤としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0080】
導電助剤は、電極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0081】
(その他の成分)
全固体二次電池用合剤シートは、更に、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂としては、フッ化ビニリデンや、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0082】
電極活物質に対する熱可塑性樹脂の割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、また、通常3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下の範囲である。熱可塑性樹脂を添加することで、電極の機械的強度を向上させることができる。この範囲を上回ると、電極合剤に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0083】
本開示の全固体二次電池用合剤シートにおいて、結着剤の含有量は、全固体二次電池用合剤シート中の結着剤の割合として、通常0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは20質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、全固体二次電池用合剤シート内で活物質を十分保持できずに全固体二次電池用合剤シートの機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0084】
(製造方法)
本開示の全固体二次電池用合剤シートは、その製造方法を限定されるものではないが、以下に具体的な製造方法の一例を示す。
本開示の全固体二次電池用合剤シートは、
固体電解質及び結着剤を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた全固体二次電池用合剤をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の全固体二次電池用合剤をシート状に圧延する工程(3)
を有する二次電池用電極合剤シートの製造方法によって得ることができる。
【0085】
上記工程(1)において原料組成物を混合しながら、剪断力を付与した段階では、得られる全固体二次電池用合剤は、固体電解質、結着剤等が単に混ざっているだけで定まった形のない状態で存在している。具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサーなどを用いて混合する方法が挙げられる。
【0086】
上記工程(1)において、混合条件は、回転数と混合時間を適宜設定すればよい。例えば、回転数は、1000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは15rpm以上、更に好ましくは20rpm以上であり、また、好ましくは900rpm以下、より好ましくは800rpm以下、更に好ましくは700rpmの範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
【0087】
上記工程(2)において、バルク状に成形するとは、全固体二次電池用合剤を1つの塊とするものである。
バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形などが挙げられる。
また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。上記塊の大きさは、その断面の直径または最小の一辺が10000μm以上であることが好ましい。より好ましくは20000μm以上である。
【0088】
上記工程(3)における具体的な圧延方法としては、ロールプレス機、平板プレス機、カレンダーロール機などを用いて圧延する方法が挙げられる。
【0089】
また、工程(3)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、さらに薄いシート状に圧延する工程(4)を有することも好ましい。工程(4)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。
工程(4)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。
具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0090】
また、フィブリル径を調整する観点で、工程(3)または工程(4)のあとに、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(5)を有することも好ましい。工程(5)を繰り返すことも好ましい。工程(5)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0091】
工程(5)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、圧延シートを折りたたむ方法、あるいはロッドもしくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法などが挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(3)又は工程(4)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0092】
また、工程(5)の後に、工程(4)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。
また、工程(2)ないし、(3)、(4)、(5)において1軸延伸もしくは2軸延伸を行っても良い。
また、工程(5)での粗砕程度によってもフィブリル径(中央値)を調整することができる。
【0093】
上記工程(3)、(4)又は(5)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度および柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
【0094】
上述したように、PTFE粉末は、せん断力をかけることでフィブリル化する。そして、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するものとするには、過度なせん断応力では、フィブリル化が促進しすぎてしまい、柔軟性が損なわれることがある。また、弱いせん断応力では強度の面で充分ではないことがある。このため、混合時や圧延時に、適度なPTFEにせん断応力を与えてフィブリル化を促進し、樹脂を圧延してシート状に延ばす、という工程を上記範囲でおこなうことによって、フィブリル径(中央値)が70nmの繊維状構造を有するものとすることができる。
【0095】
本開示の全固体二次電池用合剤シートは、上記の通り、正極用シート、負極用シートのいずれとすることもできる。正極用合剤シート又は負極用シートとする場合、上記全固体二次電池用合剤シートの製造において、固体電解質及び結着剤と共に、正極活物質又は負極活物質を混合するようにすればよい。
【0096】
以下、正極及び負極について説明する。
(正極)
本開示において、正極は、集電体と、上記正極用シートとから構成されることが好適である。
正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0097】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。
金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0098】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極合剤シートの電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0099】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記正極用シートと集電体とを接着剤を介して積層し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0100】
正極用シートの密度は、好ましくは2.0g/cm3以上、より好ましくは2.1g/cm3以上、更に好ましくは2.3g/cm3以上であり、また、好ましくは4.0g/cm3以下、より好ましくは3.9g/cm3以下、更に好ましくは3.8g/cm3以下の範囲である。この範囲を上回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。下回ると硬く割れやすい活物質の含有量が低く、容量の低い電池となってしまう場合がある。
【0101】
正極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の厚さを差し引いた合剤シートの厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0102】
また、上記正極の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0103】
(負極)
本開示において、負極は、集電体と、上記負極用シートとから構成されることが好適である。
負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0104】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0105】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記負極用シートと集電体とを接着剤を介して積層し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0106】
負極用シートの密度は、好ましくは1.3g/cm3以上、より好ましくは1.4g/cm3以上、更に好ましくは1.5g/cm3以上であり、また、好ましくは2.0g/cm3以下、より好ましくは1.9g/cm3以下、更に好ましくは1.8g/cm3以下の範囲である。この範囲を上回ると、集電体と活物質との界面付近への固体電解質の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0107】
負極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤シートの厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0108】
(全固体二次電池)
本開示は、上記全固体二次電池用合剤シートを用いた全固体二次電池でもある。
当該全固体二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。また、当該全固体二次電池は、硫化物系全固体二次電池であることが好ましい。
本開示の全固体二次電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する固体電解質層を備える全固体二次電池であって、正極、負極及び固体電解質層に、上述した本開示の全固体二次電池用合剤シートである、正極用シート、負極用シート、又は固体電解質層シートを含有するものである。なお、本開示の全固体二次電池は、正極、負極及び固体電解質層の一部に、本開示の全固体二次電池用合剤シートでないものを用いるものであっても良い。
【0109】
本開示に全固体二次電池の積層構造は、正極用シート及び正極集電体を備える正極と、負極用シート及び負極集電体を備える負極と、上記正極及び上記負極に挟持される硫化物系固体電解質層を備える。
以下、本開示に係る全固体二次電池に用いられるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0110】
(セパレータ)
本開示の全固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0111】
(電池設計)
本開示の全固体二次電池は、さらに電池ケースを備えていてもよい。本開示に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、硫化物系固体電池用電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0112】
本開示の全固体二次電池の製造方法は、例えば、まず、上記正極、固体電解質層シート、負極を順に積層し、プレスすることにより全固体二次電池としてもよい。
本開示の全固体二次電池用合剤シートを使用することにより、系内の水分が少ない状態で全固体二次電池の製造を行うことができ、良好な性能を有する全固体二次電池とすることができ、好適である。
【実施例0113】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。
以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0114】
〔作製例1〕
重合開始からTFEが367g(TFEの全重合量1032gに対して35.6質量%)消費された時点で、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノン12.0mgを水20mlに溶解した水溶液をTFEで圧入した(水性媒体に対して濃度4.0ppm)。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から1000gになった時点でTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了してポリテトラフルオロエチレン水性分散体(固形分31.2質量%)を得た。得られたポリテトラフルオロエチレン水性分散体を固形分濃度15%まで希釈し、攪拌機付き容器内で硝酸の存在下において静かに、攪拌しポリテトラフルオロエチレンを凝固させた。凝固したポリテトラフルオロエチレンを分離し、160℃において18時間乾燥し、粉末状のPTFE-1を得た。
【0115】
〔作製例2〕
国際公開第2015‐080291号の作成例3を参考にして、粉末状のPTFE-2を作製した。
【0116】
〔作製例3〕
国際公開第2012/086710号の作製例1を参考にして、粉末状のPTFE-3を作製した。
【0117】
〔作製例4〕
国際第2012‐063622号の調整例1を参考にして、粉末状のPTFE-4を作製した。
作製したPTFEの物性表を表1に示す。
【0118】
【0119】
(実施例1)
硫化物系固体電解質(0.75Li2S・0.25P2S5)と粉末状PTFE-1を秤量し、乳鉢にて200rpmで1時間撹拌し混合物を得た。
なお、粉末状のPTFE-1は真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。粉末状PTFEは事前に、目開き500μmのステンレスふるいを用いてふるいにかけ、ふるい上に残ったものを用いた。固形分は質量比で固体電解質:結着剤=95:5となるようにした。
得られた混合物をバルク状に成形し、シート状に圧延した。
その後、先程得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、再度バルク状に成形した後、平らな板の上で金属ロールを用いてシート状に圧延することで、フィブリル化を促進させる工程を四度繰り返した。その後、更に圧延することで、厚さ500μmのシート状固体電解質層を得た。さらに、シート状固体電解質層を切り出し、プレス機に投入し圧延をおこなった。さらに、5kNの荷重を繰り返しかけて厚みを調整した。最終的な固体電解質層の厚みは150μmになるようにギャップを調整した。なお、上記作業はArグローボックス内(露点約-80℃)で行った。初回の圧延率が最も大きく39%であった。
【0120】
(実施例2、3、4)
各々、表2に示す粉末状PTFEを用い、その他は実施例1と同様にして、固体電解質層を作製した。
【0121】
(実施例5)
表2に示す粉末状PTFEをふるいにかけずに用いた他は、実施例1と同様にして、固体電解質層を作製した。
【0122】
(比較例1)
硫化物系固体電解質(0.75Li2S・0.25P2S5)と表2に示す粉末状PTFEとを秤量し、乳鉢にて200rpmで1時間撹拌し混合物を得た。
なお、粉末状のPTFEは真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。固形分は質量比で固体電解質:結着剤=95:5となるようにした。
得られた混合物をバルク状に成形し、シート状に圧延した。
その後、先程得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、再度バルク状に成形した後、平らな板の上で金属ロールを用いてシート状に圧延することで、フィブリル化を促進させる工程を四度繰り返した。
その後、更に圧延することで、厚さ500μmのシート状固体電解質層を得た。さらに、シート状固体電解質層を切り出し、プレス機に投入し圧延をおこなった。さらに、8kNの荷重を繰り返しかけて厚みを調整した。最終的な固体電解質層の厚みは150μmになるようにギャップを調整した。なお、上記作業はArグローボックス内(露点約-80℃)で行った。初回の圧延率が最も大きく61%であった。
【0123】
(比較例2)
表2に示す粉末状PTFEを用い、その他は比較例1と同様にして、シート状固体電解質層を作製した。
【0124】
(参考例1)
VDF:HFPの共重合体をバインダー用意し、これを酪酸ブチル(キシダ化学社製)中に添加し、ミックスローターにて撹拌し、バインダー溶液を調製した。ここで、バインダー溶液全体を100質量%としてバインダーが5質量%含まれるようにした。結着剤溶液に、硫化物系固体電解質(0.75Li2S・0.25P2S5)を添加し、超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理行うことで、硫化物系固体電解質とバインダーとが分散した「固体電解質層用スラリー」を得た。固形分は質量比で固体電解質:結着剤=95:5となるようにした。最終的に得られたスラリーにおいては、固形分比率が68質量%であった。作製した電解質スラリーを剥離可能な基材上にドクターブレードを用いて塗工し、乾燥させた。その後、プレスを行い、実施例1と同じ密度に成るよう、プレスを行い、固体電解質ペレットを作製した。なお、上記作業はArグローボックス内(露点約-80℃)で行った。
【0125】
各試験は以下の方法で行った。
[含有水分量測定]
粉末状のPTFEは真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。真空乾燥後のPTFEの水分量は、ボートタイプ水分気化装置を有するカールフィッシャー水分計(ADP-511/MKC-510N 京都電子工業(株)製)を使用し、水分気化装置で210℃に加熱して、気化させた水分を測定した。キャリアガスとして、窒素ガスを流量200mL/minで流し、測定時間を30分とした。また、カールフィッシャー試薬としてケムアクアを使用した。サンプル量は1.5gとした。
【0126】
[PTFEのフィブリル径(中央値)]
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型 日立製作所製)を用いて、シート状固体電解質層の拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得る。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分する。
(3)上方の直線上にある全てのPTFE繊維について、PTFE繊維1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該PTFE繊維の直径とする。測定する3箇所は、PTFE繊維と直線との交点、交点からそれぞれ上下0.5μmずつずらした場所を選択する。(未繊維化のPTFE一次粒子は除く)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのPTFE繊維に対して行う。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりPTFE繊維の直径を測定する。これを繰り返し、測定した繊維数が80本を超えた時点で終了とする。
(6)上記測定した全てのPTFE繊維の直径の中央値をフィブリル径の大きさとした。
【0127】
[固体電解質の導電率]
導電率を以下の方法により測定した。
作製した固体電解質シートの表面にスパッタにより金電極を作製した後、Φ10mmに打ち抜いた。ステンレス集電体で挟み込んで測定用セルとした。このセルを乾燥アルゴン雰囲気中で、インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製1260型)を用いて、周波数範囲0.1Hz~8MHzで交流インピーダンス測定を行い、導電率を決定した。比較例1の値を100%として規格した。
【0128】
[柔軟性評価]
作製した固体電解質シートを縦2cm、横6cmに切り取り試験片とした。直径4mmサイズの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、以下の基準で評価した。傷や割れが確認されない場合は○、ひび割れが確認された場合は×と評価した。
【0129】
[強度測定]
デジタルフォースゲージ(イマダ製 ZTS-20N)を使用して、100mm/分の条件下、4mm幅の短冊状の電極合剤試験片にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。比較例1の値を100%として規格した。
【0130】
試験結果を、表2に示す。
【0131】
【0132】
表2の結果から、実施例のシート状固体電解質層は、物性に優れたものであった。