IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三生医薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図1
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図2
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図3
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図4
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図5
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図6
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図7
  • 特開-錠剤及び錠剤の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128041
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】錠剤及び錠剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/26 20060101AFI20240912BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K9/26
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61K31/355
A61P3/02 109
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109328
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2021514159の分割
【原出願日】2020-04-14
(31)【優先権主張番号】62/834,177
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/896,674
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】315001213
【氏名又は名称】三生医薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清 俊介
(72)【発明者】
【氏名】峯田 三寿々
(72)【発明者】
【氏名】森実 主税
(72)【発明者】
【氏名】平澤 亙
(57)【要約】
【課題】
錠剤及び錠剤の製造方法に関し、特に、その製造に多大な製造コストをかけることなく、錠剤に含有させる有効成分の量を安定的に制御可能な技術を提供する。
【解決手段】
本発明に係る錠剤は、薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第1の領域と、第1の領域に隣接し薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第2の領域と、を有する。当該第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが含まれる結合剤中において層を形成することなく、分散または溶解している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第1の領域と、
前記第1の領域に隣接し前記薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第2の領域と、を備え、
前記第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが含まれる前記結合剤中において層を形成することなく、分散または溶解していることを特徴とする錠剤。
【請求項2】
前記結合剤は、不活性物質からなる請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記不活性物質は、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである請求項2に記載の錠剤。
【請求項4】
前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備え、
前記第1の領域と前記第2の領域は、前記被覆層を介して隣接することを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項5】
前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面と前記被覆層との界面の展開面積比Sdrが100~700であることを特徴とする請求項4に記載の錠剤。
【請求項6】
前記被覆層は、アスペクト比が10以下である被覆粒子により構成されることを特徴とする請求項4に記載の錠剤。
【請求項7】
前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれていることを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項8】
前記薬効成分又は生体機能性成分は、前記マスキング剤に対する前記薬効成分又は生体機能性成分の溶解度以下となる含有量で、前記マスキング剤に溶融していることを特徴とする請求項7に記載の錠剤。
【請求項9】
前記薬効成分又は生体機能性成分は苦味化合物であり、
前記マスキング剤は前記苦味化合物の苦味を抑制するための苦味抑制剤であることを特徴とする請求項7に記載の錠剤。
【請求項10】
前記苦味抑制剤は、グリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項9に記載の錠剤。
【請求項11】
前記グリセリン脂肪酸エステルは、有機酸エステルであることを特徴とする請求項10に記載の錠剤。
【請求項12】
前記有機酸エステルは、有機酸モノグリセリドであることを特徴とする請求項11に記載の錠剤。
【請求項13】
前記有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドおよび酢酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12に記載の錠剤。
【請求項14】
前記苦味化合物は、薬効成分又は生体機能性成分の薬理学的に許容されるクエン酸塩類およびコハク酸塩類であることを特徴とする請求項9に記載の錠剤。
【請求項15】
前記被覆粒子は、日局トウモロコシデンプンであることを特徴とする請求項6に記載の錠剤。
【請求項16】
薬効成分又は生体機能性成分である第1の成分と、前記第1の成分を含む結合剤とを有する複数の造粒組成物と、他の被混合物とを混合し、
混合して得られる混合物を圧縮成形する錠剤製造方法であって、
圧縮成形の対象である前記複数の造粒組成物それぞれにおいて、前記第1の成分は、前記結合剤中において層を形成することなく、分散または溶解している方法。
【請求項17】
前記結合剤は、不活性物質からなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記不活性物質は、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
圧縮成形の対象である前記複数の造粒組成物それぞれが、前記第1の成分を含む結合剤の外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備えることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれていることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤及び錠剤の製造方法に関し、特に、その製造に多大な製造コストをかけることなく、含有させる有効成分の量を安定的に制御可能な錠剤、及び、そのような錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原薬を含む顆粒を打錠して錠剤を製造する場合、打錠に利用する顆粒としては、賦形剤としての不活性核粒子の外表面に原薬をコーティングし、さらにその上に溶出制御層をコーティングしたものを採用するのが一般的である(例えば、図8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-210415
【特許文献2】特開2019-73459
【特許文献3】特開2019-182856
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yasushi Ochiai, "Smart Particle Design for Advanced Functional Formulations ~Creation and Evaluation of Opusgran(R)~", 特集 先端材料創成に求められる粉体技術 2018、 [online]、The Micromeritics No.61 (2018) 28-34<https://www.jstage.jst.go.jp/article/micromeritics/61/0/61_2018008/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のように原薬を核粒子の外表面にコーティングした顆粒は、ベースとなる核粒子の外表面が平滑な真球に近いもの(例えば、図5のような状態)でないと、その外表面に原薬をコーティングした際にコーティングの層の厚さが均一でなくなってしまい、そのような歪んだ外表面を有する核粒子を用いて製造された顆粒(例えば、図6のような状態)を用いて打錠された錠剤は、それぞれの顆粒が保持する原薬量が個々の核粒子の表面形状に依存する。したがって、このように個々の顆粒粒子が保持する原薬量が安定しない顆粒粒子を用いて錠剤を打錠する場合、その錠剤に含ませる原薬の量を厳密に制御することは困難であった。
【0006】
上記問題は、原薬をコーティングする核粒子の形状を真球に近い状態とできれば、コーティング層を形成する原薬量も安定させることができ、解決することができる。しかしながら、非特許文献1に記載されるように上記従来技術のように原薬を核粒子の外表面にコーティングした顆粒を作成する場合に、ベースとなる核粒子の外表面を平滑な真球とすることのできる、汎用性があり且つ簡便な製造技術はいまだ確立されていない。
このように、原薬を核粒子の外表面にコーティングして顆粒を製造する場合に当該顆粒に含ませる原薬の量を安定させるためには、個々の顆粒が保持する原薬量を安定させるために必須である真球に近い核粒子の製造の困難性から多大な製造コストがかかってしまうことが知られている。
なお、特許文献1には本願発明における顆粒(造粒組成物)の配合の一例が開示されており、特許文献2には本願発明における顆粒(造粒組成物)の製法の一例が開示されており、特許文献3には本願発明における顆粒(造粒組成物)の構成の一例が開示されているが、当該顆粒(造粒組成物)を用いた錠剤が含有させる有効成分の量を安定的に制御できることやマスキング作用を発揮できることについては確認されていなかった。
【0007】
本発明は、製造に多大な製造コストをかけることなく、含有させる有効成分の量を安定的に制御可能な錠剤、及び、そのような錠剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、その製造に多大な製造コストをかけることなく、有効成分の安定的な溶出制御を実現することのできる製剤技術を見出し、本発明を完成したものである。
すなわち本発明は、下記の通りである。
(1)薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第1の領域と、
前記第1の領域に隣接し前記薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第2の領域と、を備え、
前記第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが含まれる前記結合剤中において層を形成することなく、分散または溶解していることを特徴とする錠剤。
(2)前記結合剤は、不活性物質からなる(1)に記載の錠剤。
(3)前記不活性物質は、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである(2)に記載の錠剤。
(4)前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備え、
前記第1の領域と前記第2の領域は、前記被覆層を介して隣接することを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
(5)
前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面と前記被覆層との界面の展開面積比Sdrが100~700であることを特徴とする(4)に記載の錠剤。
(6)前記被覆層は、アスペクト比が10以下である被覆粒子により構成されることを特徴とする(4)に記載の錠剤。
(7)前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれていることを特徴とする(1)に記載の錠剤。
(8)前記薬効成分又は生体機能性成分は、前記マスキング剤に対する前記薬効成分又は生体機能性成分の溶解度以下となる含有量で、前記マスキング剤に溶融していることを特徴とする(7)に記載の錠剤。
(9)前記薬効成分又は生体機能性成分は苦味化合物であり、
前記マスキング剤は前記苦味化合物の苦味を抑制するための苦味抑制剤であることを特徴とする(7)に記載の錠剤。
(10)前記苦味抑制剤は、グリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする(9)に記載の錠剤。
(11)前記グリセリン脂肪酸エステルは、有機酸エステルであることを特徴とする(10)に記載の錠剤。
(12)前記有機酸エステルは、有機酸モノグリセリドであることを特徴とする(11)に記載の錠剤。
(13)前記有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドおよび酢酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(12)に記載の錠剤。
(14)前記苦味化合物は、薬効成分又は生体機能性成分の薬理学的に許容されるクエン酸塩類およびコハク酸塩類であることを特徴とする(9)に記載の錠剤。
(15)前記被覆粒子は、日局トウモロコシデンプンであることを特徴とする(6)に記載の錠剤。
(16)薬効成分又は生体機能性成分である第1の成分と、前記第1の成分を含む結合剤とを有する複数の造粒組成物と、他の被混合物とを混合し、
混合して得られる混合物を圧縮成形する錠剤製造方法であって、
圧縮成形の対象である前記複数の造粒組成物それぞれにおいて、前記第1の成分は、前記結合剤中において層を形成することなく、分散または溶解している方法。
(17)前記結合剤は、不活性物質からなる(16)に記載の方法。
(18)前記不活性物質は、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである(17)に記載の方法。
(19)圧縮成形の対象である前記複数の造粒組成物それぞれが、前記第1の成分を含む結合剤の外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備えることを特徴とする(16)に記載の方法。
(20)前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれていることを特徴とする(16)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の錠剤およびその製造方法によれば、その製造に多大な製造コストをかけることなく、含有させる有効成分の量を安定的に制御可能な錠剤、及び、そのような錠剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る造粒組成物、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑沢剤等を均一に混合してなる混合物を打錠(圧縮成形)して得られる錠剤の断面構造のイメージ図である。第1の領域又は第2の領域では、原薬が溶解ないし分散しており、被覆層を形成していない(個々の顆粒粒子に含まれる原薬量は一定に制御しやすい)。
図2】本発明に係る錠剤に含まれる個々の造粒組成物の断面構造のイメージ図である。
図3図1において模式的に図示した錠剤断面を、実施例1で作製した実際の錠剤について撮影した写真である。
図4】本願造粒組成物の溶出率とベシケアの溶出率とを比較した図である。
図5】打錠に利用する造粒組成物として、賦形剤としての不活性核粒子の外表面に原薬をコーティングし、さらにその上に溶出制御層をコーティングしてなる従来技術の顆粒の断面構造を示す概念図である(核粒子表面が理想的な真球状である場合)。
図6】打錠に利用する造粒組成物として、賦形剤としての不活性核粒子の外表面に原薬をコーティングし、さらにその上に溶出制御層をコーティングしてなる従来技術の顆粒の断面構造を示す概念図である(核粒子の表面形状が歪んでおり、十分な真球度を確保できていない核粒子を用いた場合)。この場合、核粒子の表面形状に依存して、コーティングされる原薬層の原薬量が変動してしまい、個々の顆粒粒子に含ませる原薬量の制御が困難である。錠剤の割断面から見ても明確な被覆層として観察され、且つ、それぞれの核粒子の真球度が低い場合、核粒子外表面にコーティングされる原薬層の総量にバラつきがある。つまり、個々の顆粒粒子ごとの原薬含有量がバラつく。
図7図6に示すような、十分な真球度を確保できていない核粒子(コーティング顆粒粒子)を用いた造粒組成物を使用して錠剤を打錠した場合の錠剤の断面構造の概念図である。
図8図7において模式的に図示した従来の錠剤の断面を、実際の錠剤について撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る錠剤は、薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を打錠することによって製造される。以下、本発明に係る錠剤の打錠に用いられる造粒組成物およびそれを用いた錠剤の製造方法について説明する。
【0013】
本発明に係る造粒組成物は、核粒子を含み、該核粒子は少なくとも薬効成分又は生体機能性成分と結合剤とを含む。本発明に係る造粒組成物における薬効成分又は生体機能性成分は、結合剤及び/又は必要に応じて核粒子に含ませる含有粒子に含有される。また、本発明に係る造粒組成物は、当該核粒子の周囲に被覆粒子が付着した構成とすることもできる。
【0014】
図2は、本発明に係る錠剤に含まれる個々の造粒組成物の断面構造のイメージ図である。以下、図2を用いて、本発明に係る錠剤に含まれる造粒組成物について説明する。
【0015】
本発明に係る造粒組成物は、核粒子として、結合剤と、当該結合剤に含まれる薬効成分又は生体機能性成分とから構成される領域を有している(第1の領域もしくは第2の領域に相当)。
【0016】
図2に示すように、本発明の一態様である核粒子では、結合剤中に、粒子状の薬効成分又は生体機能性成分(含有粒子に相当)が分散するように混合されている。
【0017】
本発明に係る核粒子を構成する結合剤は、不活性物質からなる。具体的に、上記不活性物質としては、例えば、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかを採用可能である。
【0018】
また、上記粒子状の薬効成分又は生体機能性成分と結合剤とからなる核粒子の外表面は、上記結合剤に不溶な物質から構成される被覆粒子によって被覆されている(被覆層)。
【0019】
具体的に、上記被覆粒子は、アスペクト比が10以下である被覆粒子により構成される。上記被覆粒子としては、エチルセルロース、トウモロコシデンプン、コメデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイソウ土、ベントナイト、ゼオライト、二酸化ケイ素、カンテン末、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、タルクから選ばれる1種又は2種以上の粉末を採用することができる。
【0020】
上記薬効成分又は生体機能性成分(第1の成分)としては、特に制限はなく、後述する結合剤に分散又は溶解し得るものであればよい。
【0021】
例えば、薬効成分としては、クロルプロマジン、チオリダジン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ハロペリドール、ペルフェナジン、アリピプラゾール、パリペリドン、アモキサピン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、トラゾドン、ネファゾドン、クロミプラミン、デシプラミン、ノルトリプチリン、レボドパ、ドネペジル、ブロモクリプチン、ペルゴリド、プラミペキソール、ロピニロール、メチルフェニデート、アトモキセチン、プレガバリン、ラコサミド、カルバマゼピン、クロナゼパム、レベチラセタム、オクスカルバゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、トピラマート、バルプロ酸、ジバルプロエクスナトリウム、ゾニサミド、アルプラゾラム、ロラゼパム、オキサゼパム、クロラゼペート、ジアゼパム、ハラゼパム、ゾルピデム、フェノバルビタール、エトクロルビノール、グルテチミド、ペントバルビタール、シルデナフィル、タダラフィル、シクロスポリン、マイコフェノレートモフェチル、シロリムス、タクロリムス、テラゾシンヒドロクロリド、ベナゼプリル、カプトプリル、クロニジンヒドロクロリド、エナラプリル、ヒドララジンヒドロクロリド、ロサルタンカリウム、メチルドペートヒドロクロリド、ミノキシジル、モエキシプリル、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、グアナベンズアセテート、グアナドレルスルフェート、グアンファシンヒドロクロリド、レセルピン、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、カルベジロール、ラベタロール、メトプロロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、アムロジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ベラパミル、フェノフィブラート、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、モサプリド、イトプリド、ドンペリドン、トリメブチン、メトクロプラミド、ビサコジル、ジフェノキシレートヒドロクロリド、ロペラミド、クロピドグレルビスルフェート、フィトナジオン、チクロピジン、ワルファリンナトリウム、リマプロスト、ベラプロスト、アルモトリプタン、エルゴタミン、フロバトリプタン、メチセルギド、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、アザチオプリン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミド、メトトレキサート、ペニシラミン、スルファサラジン、アセトアミノフェン、アスピリン、ジクロフェナク、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、メロキシカム、ピロキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブ、コデイン、フェンタニル、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、レボルファノール、メペリジン、モルヒネ、オキシコドン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、トラマドール、タペンタドールイマチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ、ダサチニブ、レナリドミド、クロファジミン、サイクロセリン、エチオナミド、リファブチン、アルベンダゾール、イベルメクチン、メベンダゾール、プラジクアンテル、バラシクロビル、バルガンシクロビル、インジナビル、ラミブジン、ネルフィナビルメシラート、ネビラピン、リトナビル、オセルタミビル、アモキシシリン、アモキシシリンセフロキシムナトリウム、セフロキシムアセチル、ペニシリン、セフィキシム、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、ジゴキシン、ジソピラミド、フレカイニドアセテート、メキシレチンヒドロクロリド、モリシジンヒドロクロリド、プロカインアミドヒドロクロリド、プロパフェノンヒドロクロリド、キニジン、ソタロールヒドロクロリド、トカイニド、ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、スクラルファート、アカルボース、メトホルミン、ナテグリニド、レパグリニド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、トラザミド、トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリブリド、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、アミロリドヒドロクロリド、ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド、トルセミド、ヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、ポリチアジド、キネタゾン、トリクロルメチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、アロプリノール、コルヒチン、プロベネシド、スルフィンピラゾン、アルブテロールスルフェート、モンテルカストナトリウム、テオフィリン、ジレウトン、アザタジン、クロルフェニラミンマレエート、ジフェンヒドラミンヒドロクロリド、クレマスチン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、ロラタジン、デスロラタジン、及びこれらの薬理学的に許容される塩類などを例示することができる。
【0022】
また、生体機能性成分とは、生体内に吸収されて生体に対して所定の作用を及ぼすもので、サプリメント等の機能性食品などに用いられるものであり、例えば、コエンザイムQ10、ルテイン、クルクミノイド、シリマリン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、フコキサンチン、リコピン、セサミン、α-リポ酸、脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK)及びその誘導体、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ノコギリヤシエキス(オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸、パルミチン酸)、セントジョーンズワート(ヒペリシン)、ロイヤルゼリー(デセン酸)、ヘスペリジン、ノビレチン、ケルセチン、ケンフェロール、ミリシトリン、カテキン、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステイン、ミリセチン、スチルベン、及びこれらの利用可能な誘導体などを例示することができる。
【0023】
なお、本願明細書における薬効成分又は生体機能性成分とは、上述の例に限定されるものではなく、本発明の造粒組成物に適用可能なものであれば、いずれのものも使用することができる。また、本願明細書における薬効成分又は生体機能性成分は、水溶性であってもよいし、非水溶性であってもよい。ここで、本願明細書における薬効成分又は生体機能性成分として、例えば苦味成分を用いる場合には、限定はされないが、例えば、ポリフェノール、ビタミンB群等を採用することができる。
【0024】
また、本発明に係る造粒組成物は、マスキング対象である所定の化合物が有する所定の特性をマスキング剤によりマスキングしてなる構成とすることもできる。このようなマスキングが施された造粒組成物を用いて錠剤を打錠することにより、上記所定の化合物の所定の特性に対してマスキングが施された錠剤を提供することができる。
【0025】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、所定の化合物のマスキングを行う際に、該所定の化合物のマスキング機能を有するマスキング剤中に上記所定の化合物の少なくとも一部がマスキング剤中にアモルファス状態で含まれるように粒子状の核粒子を生成することで、上記所定の化合物のマスキングを効果的に実現することができることを見出した。
【0026】
以下、マスキング対象である所定の化合物をマスキング剤によりマスキングしてなる造粒組成物について詳細に説明する。ここでは、一例として、マスキングの対象とする所定の特性が「苦味」である場合について説明する。
【0027】
苦味成分となるポリフェノールとしては、通常経口摂取できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、カテキン類〔非重合体カテキン類(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレード、エピガロカテキンガレートなどのエピ体カテキン類、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレードなどの非エピ体カテキン類など)、重合体カテキン類〕、テアフラビン類、テアルビジン類、タンニン、大豆イソフラボン、酵素処理ルチン、フラバンジェノール、ヤマモモ抽出物、酵素処理イソクエルシトリン、ピクノジェノール、キサントフモール、ホップフラバノイド、ホップ抽出物、プロアントシアニジン(ブドウ種子ポリフェノール)、ルテオリン、ストリクチニン、ペラルゴニジン、アピゲニン、ジオスミン、ヘスペレチン、ナリンジン、フロレチン、ケンフェノール、ミリセチン、コリラジン、クロロゲン酸、アントシアニン、クェルセチン配糖体、フロレチン配糖体、イソプレノイド、フィチン酸、ゲニステイン、ダイゼイン、グゥアバ葉ポリフェノール等が挙げられる。
【0028】
ポリフェノール以外の苦味成分としては、ペプチド(ロイシン、イソロイシン、バリンといった分岐鎖アミノ酸を少なくとも1個有する2~4アミノ酸からなるペプチド等)、カフェイン(カフェイン抽出物)、ケール、キニーネ、キナ(皮)抽出物、キハダ抽出物、ダンデライオン、センブリ(センブリ抽出物)、ニガキ(ニガキ抽出物)、ガラナ、アブシンチン、ゲンチオオリゴ糖、ミネラル(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩等)、等が挙げられる。
【0029】
このような苦味成分としては、例えば、アジスロマイシン水和物、アスピリン・ダイアルミネート、アセトアミノフェン、アテノロール、アトバコン、アトモキセチン塩酸塩、アトルバスタチンカルシウム水和物、アミオダロン塩酸塩、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミノ安息香酸エチル、アムロジピンベシル酸塩、アモキシシリン水和物、アリピプラゾール、アリメマジン酒石酸塩、アルギン酸ナトリウム、アルベンダゾール、アンピシリン水和物、アンブロキソール塩酸塩、イソソルビド、イトラコナゾール、イブプロフェン、イルベサルタン、インドメタシン、エカベトナトリウム水和物、エタンブトール塩酸塩、エトスクシミド、エバスチン、エピナスチン塩酸塩、エピネフリン塩酸塩、エピリゾール、エフェドリン塩酸塩、エンテカビル水和物、オキシコドン塩酸塩水和物、オセルタミビルリン酸塩、オランザピン、オルメサルタンメドキソミル、オロパタジン塩酸塩、オンダンセトロン、ガランタミン臭化水素酸塩、カルシフェロール配合剤、カルテオロール塩酸塩、カルボシステイン、カンデサルタンシレキセチル、クエチアピンフマル酸塩、グラニセトロン塩酸塩、クラブラン酸カリウム、クラリスロマイシン、グリメピリド、クレマスチンフマル酸塩、クロカプラミン塩酸塩水和物、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、ケトプロフェン、コハク酸ソリフェナシン、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、サルブタモール硫酸塩、サルポグレラート塩酸塩、ジクロフェナクナトリウム、シタフロキサシン水和物、ジヒドロコデインリン酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジフェンヒドラミンサリチル酸塩・ジプロフィリン、ジブカイン塩酸塩配合剤、シプロヘプタジン塩酸塩水和物、ジメモルファンリン酸塩、シルデナフィルクエン酸塩、シロスタゾール、シロドシン、シンバスタチン、スチリペントール、スマトリプタンコハク酸塩、スルタミシリントシル酸塩水和物、スルピリン、セチリジン塩酸塩、セチルピリジニウム配合剤、セトラキサート塩酸塩、セファレキシン、セフカペンピボキシル塩酸塩水和物、セフジトレンピボキシル、セフジニル、セフテラムピボキシル、セフポドキシムプロキセチル、セレギリン塩酸塩、ゾニサミド、ゾルピデム酒石酸塩、ゾルミトリプタン、タムスロシン塩酸塩、タルチレリン水和物、チアラミド塩酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、テオフィリン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、デキサメタゾン、テビペネムピボキシル、テルミサルタン、ドカルパミン、ドキサゾシンメシル酸塩、トスフロキサシントシル酸塩水和物、ドネペジル塩酸塩、トラマドール塩酸塩、トリアゾラム、トリアムシノロンアセトニド、トリメトキノール塩酸塩水和物、ドロキシドパ、トロキシピド、ドンペリドン、ナフトピジル、ナプロキセン、ナリジクス酸、ニフェジピン、バラシクロビル塩酸塩、バルサルタン、バルプロ酸ナトリウム、パロキセチン塩酸塩水和物、ピオグリタゾン塩酸塩、ビカルタミド、ピコスルファートナトリウム水和物、ヒドロキシジンパモ酸塩、ヒドロクロロチアジド、ピパンペロン塩酸塩、ピランテルパモ酸塩、ファモチジン、ファロペネムナトリウム水和物、フェナセチン、フェニルブタゾン、フェノバルビタール、プラノプロフェン、プラバスタチンナトリウム、フレカイニド酢酸塩、プレガバリン、ブロチゾラム、プロカテロール塩酸塩、プロプラノロール塩酸塩、ベポタスチンベシル酸塩、ベンザルコニウム塩化物、ベンジルペニシリンベンザチン水和物、ベンズブロマロン、ベンゼトニウム塩化物、ペンタゾシン、ペントキシベリンクエン酸塩、ホスホマイシンカルシウム水和物、ボセンタン水和物、ポラプレジンク、ポリカルボフィルカルシウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ミグリトール、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン、ミチグリニドカルシウム水和物、メキタジン、メチルエフェドリン塩酸塩、メトクロプラミド、メトロニダゾール、メフェナム酸、メベンダゾール、メマンチン塩酸塩、メロキシカム、モサプリドクエン酸塩水和物、ラフチジン、ラモセトロン塩酸塩、ラモトリギン、ランソプラゾール、リザトリプタン安息香酸塩、リスペリドン、リトナビル、リルマザホン塩酸塩水和物、レベチラセタム、レボセチリジン塩酸塩、レボフロキサシン水和物、ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩、ロスバスタチンカルシウム、ロピナビル、ロピニロール塩酸塩、ロラタジン、等が挙げられる。
【0030】
上記被覆粒子としては、生体が受容可能で、特に薬学的又は食品衛生的に許容し得、かつ上記結合剤に不溶な粒子であればよく、医薬や機能性食品などの被覆粒子として公知のものを使用することができる。例えば、エチルセルロース、トウモロコシデンプン、コメデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイソウ土、ベントナイト、ゼオライト、二酸化ケイ素、カンテン末、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、タルクなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
これら被覆粒子の粒径は、特に制限されるものではないが、d50=5~70μm、特にd50=10~30μmとすることが好ましく、粒径が大きすぎると、上記核粒子への付着性に劣り、また吸水性も不十分となる場合があり、一方粒径が小さすぎると、造粒操作において流動床を形成する際に飛散しやすくなる。また、この被覆粒子の粒径は、後述するSdr値にも影響する場合があり、Sdr値が本発明の範囲となるように考慮することが好ましい。更に、特に制限されるものではないが、この被覆粒子は安息角が60°以下、特に50°以下であることが好ましく、これにより得られた造粒組成物の流動性が向上して、当該造粒組成物を打錠する場合などの次工程における作業性や生産性をより向上させることができる。
【0032】
更に、この被覆粒子は、特に制限されるものではないが、アスペクト比が11以下、特に4以下であることが好ましく、被覆粒子のアスペクト比が11を超えると、後述するSdr値が大きくなり、また得られる造粒組成物がSdr値のばらつきが大きなものとなり易く、本発明のSdr値を安定的に達成できない場合がある。この点は、後述する。なお、被覆粒子のアスペクト比の測定は、簡便には、被覆粒子を例えばシリコーンオイル等の不活性流体に均一に懸濁したあと、スライドガラスに封入して顕微鏡で撮像し、その撮像画像から無作為に選定した粒子の顕微鏡像における長径/短径比として容易に求めることができる。
【0033】
上記結合剤は、薬学的又は食品衛生的に許容し得るもので、上記含有粒子同士及び該含有粒子と上記被覆粒子とを結合して粒状の形体を保持することができるものか、薬効成分又は生体機能性成分の溶出性を制御する高分子であればよく、造粒操作に用いられる公知の結合剤を用いることができる。具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ゼラチン、カラギーナン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレートなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上の高分子物質を水やエタノールなどの溶媒に溶解したものを上記結合剤として用いることができる。なお、水以外の溶媒としては、エタノールの他に、酢酸、アセトン、t-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、2-プロパノール、メタノール、アンモニア、ヘキサン、ピリジン、ジクロロメタンなども例示することができる。
【0034】
なお、苦味抑制剤を含むマスキング剤としてのグリセリン脂肪酸エステルは、例えば、有機酸エステルであることが望ましい。さらに、苦味抑制剤を含むマスキング剤としての有機酸エステルは、例えば、有機酸モノグリセリドであることが好ましい。
【0035】
ここで、苦味抑制剤を含むマスキング剤としての有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドおよび酢酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上とすることができる。
【0036】
次に、上記含有粒子は、上記結合剤と共に核粒子を形成するものであり、該核粒子の核となり、この含有粒子の存在により、結合剤がゲル強度の弱い希薄なものであっても核粒子の形体を良好に保持し得るものである。この含有粒子としては、上記薬効成分及び/又は生体機能性成分が結合剤中で粒子の形体で存在し得るものであれば、これを含有粒子とすることができる。また、薬効成分や生体機能性成分とは別途に含有粒子を配合してもよく、この場合の含有粒子としては、薬学的又は食品衛生的に許容し得るものであればよく、上記被覆粒子として例示したものと同様のものを例示することができる。
【0037】
加えて、上記含有粒子には、ゲル化作用を有する高分子物質の代わりに、粒状の形体を保持することができるものであれば適正に用いることができる。温度依存的に液体から固体に変化しうるものであれば、含有粒子とすることができる。これには、常温では固体だが加熱すると流動し液体状になるものが該当し、軟化点が50℃以上から200℃の範囲にある樹脂、融点が80℃以下の油脂ないし界面活性剤などが該当する。具体的には、例えば、樹脂としては、低密度ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィン、シェラックなどを例示することができ、油脂としては、水素添加硬化油、ミツロウ、コメヌカロウ、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどを例示することができ、界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセリル、ベヘニン酸モノグリセリル、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコー20000、ポリオキシエチレン付加ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンおよび/またはポリオキシプロピレン付加グリコールなどを例示することができる。
【0038】
本発明の造粒組成物は、上述のように、上記核粒子を形成する含有粒子及び/又は結合剤に薬効成分又は生体機能性成分が含有されたものである。その形態としては、例えば特許文献3の図1~3に示した3種の形態が包含される。
【0039】
本発明の造粒組成物は、図2に示されているように核粒子3の周囲に被覆粒子4が付着したものである。この場合、被覆粒子4は、上述のように結合剤2に不溶なものであるから、表面が溶解することなく、そのままの形態で核粒子3に付着し、核粒子3と被覆粒子4との間に明確な界面が存在する。また、被覆粒子4は核粒子3の表面を覆っており、被覆粒子同士の間隙の幅及び深さは、被覆粒子の形状および大きさに依存する。つまり、本発明の造粒組成物の表面粗さは、被覆粒子の形状および大きさによって決定される。ところで、物体表面のうねり、粗さ、小さな凹凸の評価方法は、国際規格「ISO 25178表面性状(面粗さ測定)」に定められている。そのうちの「界面の展開面積比Sdr」とは、特定の範囲(例えば50μm四方)に認められる凹凸を押し広げて平滑に展開した表面積が、当該範囲に凹凸が全く存在しなかった場合の完全な平滑表面に比べてどの程度増加したのか、百分率(%)で数値化したものである。界面の展開面積比Sdrは白色光干渉顕微鏡を用いて、対象物に白色光を表面に照射しながらレンズをZ方向に移動して得られる干渉縞から、対象物表面のうねり、粗さ、小さな凹凸の三次元情報を得て、測定することができる。
【0040】
ここで、造粒物の表面粗さが表面の滑り性や絡みやすさに影響を及ぼし、ひいては偏析を生じさせている場合、偏析の度合と界面の展開面積比Sdrとの間には相関関係が認められることになり、更に造粒物の表面粗さが被覆粒子の形状および大きさによって決定されていることから、本発明の造粒組成物において適切な被覆粒子と界面の展開面積比Sdrを選定することによって、造粒物の偏析をより確実に防ぐことができる。
【0041】
そこで、本発明の造粒組成物においては、この界面の展開面積比Sdrを100~700、好ましくは150~400とするものであり、Sdrが大きすぎると、上記核粒子と他の賦形剤や薬効成分又は生体機能性成分を混合する際に、造粒物同士の結着性、絡みやすさが強すぎて偏析が生じる場合があり、一方Sdrが小さすぎると、混合操作において均一な分散状態を維持できないほど粒子同士が滑って、やはり偏析しやすくなる。
【0042】
本発明の造粒組成物における界面の展開面積比Sdrは、上述するように上記被覆粒子の大きさや形状に大きく影響され、被覆粒子の大きさ及び形状を調整することにより、上記Sdr値を安定的に達成することができる。具体的には、上記被覆粒子の粒径やアスペクト比を上述の範囲に調整することにより、上記Sdr値を安定的に達成しやすくなる。この場合、被覆粒子の大きさと共にその形状もSdr値に大きく影響し、例えば後述する比較例1のように、アスペクト比が上述した好適範囲を超えた柱状もしくは針状の被覆粒子を用いた場合、得られる造粒粒子のSdr値が大きくなるばかりでなく、そのSdr値のばらつきも非常に大きくなり、上記Sdr値を安定的に達成することが困難になりやすい。なお、本願発明の造粒組成物では、上記範囲の界面の展開面積比Sdrが達成されていればよく、被覆粒子の大きさ(粒径)や形状(アスペクト比)に制限されるものではない。
【0043】
このような形態の本発明に係る造粒組成物を得るには、上記結合剤及び上記薬効成分又は生体機能性成分(必要に応じて疎水性液体に分散又は溶解した状態としたもの)を水又はその他の溶媒に溶解又は分散し、更に必要に応じて別途上記含有粒子を配合して造粒溶液を調製し、上記被覆粒子を流動させた流動床にこの造粒溶液を滴下し、その液滴の表面に上記被覆粒子を付着させて水やその他の溶媒を被覆粒子に吸収させることにより、粒状に造粒する方法を好適に採用することができる。
【0044】
この場合、本発明の造粒組成物によれば、上記造粒溶液を調製する際に上記結合剤を構成する上記高分子物質の濃度を低く設定することができる。そして、このようにゲル化剤(高分子物質)濃度が希薄でゲル強度が低い造粒溶液であっても、上記含有粒子の存在により、液滴が上記流動床において粒子状の形体を保持し得る核粒子となってその周囲に上記被覆粒子が付着した良好な造粒物を得ることができるものである。
【0045】
なお、本発明の造粒組成物には、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、公知の添加剤を適宜配合することができ、例えば、必要に応じて甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、酸化防止剤、香料、酸味料、調味料、pH調整剤などを、上記核粒子内に配合することができる。
【0046】
続いて、本発明に係る造粒組成物を用いて打錠する錠剤の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の錠剤は、例えば、上記造粒組成物、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑沢剤を含む混合物を打錠することによって製造することができる。
【0048】
賦形剤としては、特に制限はなく、結晶セルロース、乳糖、デキストリン、ブ
ドウ糖、糖アルコール、ヒロドキシプロピルセルロース、加工デンプン、難消化性デキストリン、難消化性デンプンなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上を好適に使用することができる。
【0049】
崩壊剤としては、特に制限はなく、寒天、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプンなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上を好適に使用することができる。
【0050】
錠剤結合剤としては、特に制限はなく、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒロドキシプロピルメチルセルロース、デンプン、加工デンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上を好適に使用することができる。
【0051】
滑沢剤としては、特に制限はなく、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、微粒二酸化ケイ素、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油などを例示することができ、これらの1種又は2種以上を好適に使用することができる。
【0052】
なお、本発明の錠剤には、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、公知の添加剤を適宜配合することができ、例えば、必要に応じて賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤、滑沢剤、甘味料、香料及び着色料等を、単独で又は混合物などを、上記錠剤内に配合することができる。
【0053】
上述のような造粒組成物、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑沢剤等を均一に混合してなる混合物を、ロータリ式連続打錠機やエキセントリック式打錠機を用いて打錠することで、本発明に係る錠剤が製造される。
【0054】
図1は、本発明に係る造粒組成物、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑沢剤等(他の被混合物)を均一に混合してなる混合物を打錠(圧縮成形)して得られる錠剤の断面構造のイメージ図である。すなわち、本発明に係る錠剤は、薬効成分又は生体機能性成分である第1の成分と、第1の成分を含む結合剤とを有する複数の造粒組成物と、他の被混合物とを混合し、混合して得られる混合物を圧縮成形することで製造される。
【0055】
本発明の造粒組成物と、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑沢剤等を均一に混合してなる混合物を圧縮成形することにより、図1に示すような錠剤が得られる。
【0056】
本発明に係る錠剤中には、図1に示すように、本発明に係る複数の造粒組成物が均質に分散しており、当該錠剤中において、これら複数の造粒組成物同士が不活性賦形剤を介して隣り合っている。
【0057】
このとき、互いに隣り合っている二つの造粒組成物それぞれが備える薬効成分又は生体機能性成分と結合剤とからなる核粒子の一方が「第1の領域」に相当し、他方が「第2の領域」に相当する。
【0058】
なお、隣り合う二つの造粒組成物の間の位置関係としては、不活性賦形剤が介在する状態も、不活性賦形剤が介在せずに両組成物が接触している状態も生じ得るが、これらのいずれの状態も「隣接」の概念に含まれるものとする。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
(造粒組成物の作製)
<実施例1>
実施例1に係る結果として作成される錠剤を構成する造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表1に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)ゾル液を50~80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が当該冷却媒体中で冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。表1において、トウモロコシデンプン1は薬効成分もしくは栄養機能性成分の代替として「含有粒子」として核粒子に含有されるものであり、トウモロコシデンプン2は被覆粒子となるものである。実施例1では、あくまで本発明に係る製剤技術による錠剤の構造や機能の把握・評価のために、トウモロコシデンプン1を薬効成分もしくは栄養機能性成分に見立てて配合しているが、実際に薬効成分もしくは栄養機能性成分を含有する本発明に係る造粒組成物を製造する場合には、上記トウモロコシデンプン1の代わりに、薬効成分もしくは栄養機能性成分が含有される。
【0060】
(口腔内崩壊錠の作製)
実施例1に係る結果として作成される錠剤は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される錠剤が表2に示す組成となるように各成分を秤量し、40cm×70cmの透明ポリエチレン袋に入れて封をし、手で10分間転倒混合して打錠用混合末を調製し、ロータリ式打錠機(PICCOLA D8)で、円形扁平型(直径7mm、1錠あたりの重量120mg)の口腔内崩壊錠を製した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】
【0063】
(本願造粒組成物における原薬含有安定性評価)
<実施例2>
本願造粒組成物における原薬含有安定性評価は、個々の造粒組成物粒子における原薬含有量のばらつきを評価することで実施できるが、当該粒子1個に含まれる原薬の含量は極めて微量であるため、高速液体クロマトグラフィなどによる直接濃度測定は困難である。したがって、実施例2では造粒組成物粒子を複数含む錠剤を製したのち、当該粒子の複数が割断面に現れるよう錠剤ごと割断し、当の割断面に観察される原薬粒子の像を計数し各粒子間で比較し、ばらつきを評価することで、原薬含有安定性の評価に代えた。
(評価手法)
実施例1の上述のような手法によって打錠された錠剤の内部構造は、例えば、3次元X線顕微鏡を用いた非破壊での3次元構造観察や、イオンミリング装置を用いた断面加工による詳細観察を行うことで、確認することができる(東芝ナノアナリシス株式会社ホームページ 「顆粒剤コーティング層の観察」 https://www.nanoanalysis.co.jp/business/case_example_223.html)
実施例2においてはキーエンス社製 デジタルマイクロスコープVHX-900Fを用いて錠剤の内部構造を観察した。
【0064】
また、飛行時間型2 次イオン質量分析法(TOF-SIMS/断面分析)を行うことにより、錠剤内部の無機・有機物成分ならびに原薬粒子の分布を可視化して観察することもできる(株式会社 住化分析センター「X線CT及びTOF-SIMSによる錠剤内部イメージング」 https://www.scas.co.jp/technical-informations/technical-news/pdf/tn369.pdf
実施例2においてはキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-900Fを用いて錠剤の内部構造を観察した。
【0065】
図1に示すように、上述のようにして錠剤中に分散して含まれる各造粒組成物含まれる上記薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが含まれる核粒子内において層を形成することなく、分散している。また、それぞれの造粒組成物を構成する核粒子中には、核粒子溶液を作製する際に、上記薬効成分又は生体機能性成分と結合剤とを十分に攪拌混合することによって、互いにほぼ等しい濃度で上記薬効成分又は生体機能性成分が含有されている。このように、混合のための攪拌に十分な時間をかけることで、濃度が不均一な状態にある混合物において、時間とともに混合が進み濃度が均一な状態になっていくことは、攪拌技術における拡散現象として知られている(京都大学、「化学実験法 II(吉村洋介)、2014年度の講義プリント、第5回(5月15日): 混合・拡散のはなし」http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/ubung/yyosuke/chemmeth/chemmeth05.pdf)。
【0066】
図3は、図1において模式的に図示した錠剤断面を、実施例1で作製した実際の錠剤について撮影した写真である。図3の上段の写真は、実施例1に係る錠剤の断面の一部を示しており、同図下段の写真は上段の写真における一部を拡大して示している。図3に示す写真の撮影にあたり、撮影対象である錠剤を半分に切り、その切断面をヤスリで滑らかに整えたものを撮影用試料とし、当該断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス、VHX-900F)で撮影した。なお、図3の写真上で複数視認される黒い粒は、ヤスリによって錠剤の切断面を平滑化する際に付着したヤスリの削りカスであり、本願発明の錠剤に含有されているものではない。
【0067】
図3に示す錠剤の作成においては、薬効成分もしくは栄養機能性成分の代替としてトウモロコシデンプンを用い、当該トウモロコシデンプンをゼラチンからなる結合剤に混合することで、核粒子を構成した。図3に示すように、第1の領域を構成するゼラチンの中に、トウモロコシデンプンの粒子(含有粒子に相当)が分散していることが分かる。なお、図3に示す錠剤の断面写真中で確認される複数の造粒組成物の中から画像上での平均外径が近いものを任意に3個選定し、それぞれを構成する核粒子に含まれるトウモロコシデンプン粒子(含有粒子)の数を断面写真上で目視でカウントしたところ、第1の核粒子の領域内に含まれる含有粒子の数は2230個であり、第2の核粒子の領域内に含まれる含有粒子の数は2512個であり、第3の核粒子の領域内に含まれる含有粒子の数は2780個であった。このように、個々の核粒子中に含まれている含有粒子の数のバラつきは、分散で表すと「75641」であった。
【0068】
従来のコーティング顆粒粒子含む混合物を打錠した際、溶出制御層が打錠圧によって変形もしくは破壊され、当初設計された通りの溶出性が得られない。これを防ぎ十分な硬度、及び成形性をもつ錠剤を製造するためには、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑択剤の選定、さらに厳密な工程管理が必要となる。一方、本願粒子を打錠した場合、核粒子に変形があったとしても、元来自由な形状をしているため、変形による溶出効果の影響を受け難いため、溶出制御性が保たれ、賦形剤、崩壊剤、錠剤結合剤および滑択剤の選定の自由度が増し、厳密な工程管理は必要としない。
【0069】
<比較例1>
図5および図6は、打錠に利用する造粒組成物として、賦形剤としての不活性核粒子の外表面に原薬をコーティングし、さらにその上に溶出制御層をコーティングしてなる従来の顆粒の断面構造を示す概念図である。図7は、図6に示すような、十分な真球度を確保できていない核粒子を用いた造粒組成物を使用して錠剤を打錠した場合の錠剤の断面構造の概念図である。
【0070】
図5図7に示すように、薬効成分又は生体機能性成分が含有された領域は、不活性核粒子の外表面に層状に形成されており、賦形剤としての不活性核粒子と、賦形剤、崩壊剤、結合剤および滑沢剤等を均一に混合してなる混合物とを隔絶する被覆層として存在している。
【0071】
図8は、図7において模式的に図示した従来の錠剤の断面を、実際の錠剤について撮影した写真である。実施例2と同様の方法で撮影を行った。図11の上段の写真は錠剤の断面の一部を示しており、同図下段の写真は上段の写真における一部を拡大して示している。図8に示す写真の撮影にあたり、撮影対象である錠剤を半分に切り、その切断面をヤスリで滑らかに整えたものを撮影用試料とし、当該断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス、VHX-900F)で撮影した。なお、図8の写真上で複数視認される黒い粒は、ヤスリによって錠剤の切断面を平滑化する際に付着したヤスリの削りカスであり、本願発明の錠剤に含有されているものではない。
【0072】
図8の写真からも視認できるように、原薬層が、不活性核粒子の外表面に層状に形成されており、賦形剤としての不活性核粒子と、賦形剤、崩壊剤、結合剤および滑沢剤等を均一に混合してなる混合物とを隔絶する被覆層として存在している。つまり、図8に示す従来の錠剤は、打錠に用いられる顆粒の核粒子の真球度が低い場合、当該錠剤に含まれる原薬の総量は安定しない。
【0073】
なお、図8に示す錠剤の断面写真中で確認される複数の造粒組成物の中から画像上での平均外径が近いものを任意に3個選定し、それぞれを構成する核粒子の外周を包囲する原薬層が画像上で占めるピクセル数(つまり、画面上での原薬層の面積に相当)を確認した。具体的には、断面写真上で核粒子の外周を包囲する原薬層を、画像処理ソフトであるJtrim Version 1.53c(http://www.woodybells.com/jtrim.html)によって抽出し、当該抽出された原薬層の領域のピクセル数を、ピクセル数計算ソフトであるPixel Counter バージョン1.00(https://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se385899.html)によりカウントした。上記ピクセル数の確認の結果、第1の核粒子の外周を包囲する原薬層のピクセル数は「3132」であり、第2の核粒子の外周を包囲する原薬層のピクセル数は「2836」であり、第3の核粒子の外周を包囲する原薬層のピクセル数は「3425」であった。このように、個々の核粒子の外周を包囲する原薬層のピクセル数のバラつきは、分散(標準偏差)で表すと「86731」であり、本発明の実施例1に係る錠剤を構成する各造粒組成物に含まれる含有粒子の数(原薬量に相当)についての分散よりも遥かに大きい値であることが分かった。
【0074】
つまり、本願発明に係る造粒組成物では、従来の原薬等を核粒子外周面にコーティングする製法に比べて、造粒組成物毎に含有させる原薬量を大幅に安定させることができることが分かる。本発明に係る造粒組成物における核粒子に含まれる薬効成分又は生体機能性成分の量は、結合剤と薬効成分又は生体機能性成分とを十分に攪拌混合して作製される核粒子溶液をどの程度の容量の液滴として吐出するか(吐出量)をコントロールすることで高精度かつ容易に調整することができ、それが実際の切断面写真からも確認することができた。
【0075】
このように、本発明に係る錠剤を構成する各造粒組成物は、その核粒子の製造時に特別に真球度を維持するための加工の手間やコストを掛けずとも(つまり、核粒子の真球度が低い場合)、それぞれの核粒子に含まれる薬効成分又は生体機能性成分の量を一定に維持することができることが分かる。一方、従来の、原薬層を核粒子の外周面にコーティングする製造方法の場合、その核粒子の製造時に特別に真球度を維持するための加工の手間やコストを掛けず、その真球度が低い場合、それぞれの核粒子に含まれる薬効成分又は生体機能性成分の量は、本発明に係る造粒組成物に比べて大幅にばらついていることが分かった。
【0076】
なお、図2を用いて例示した核粒子は、薬効成分又は生体機能性成分が、粒子の状態で結合剤中に分散しているが、これに限られるものではなく、例えば、薬効成分又は生体機能性成分が、結合剤中に溶解した状態の核粒子とすることもできることは言うまでもない。
【0077】
(造粒組成物のマスキング効果の評価)
<実施例3、比較例2~3>
【0078】
まず、下記表3の処方を用いて、マスキング対象である苦味化合物としてコハク酸ソリフェナシンを採用した造粒組成物を調製した。なお下記表3では、結果として作製される乾燥状態での造粒組成物全体を100%としたときの各成分の含有量を示している。
【0079】
【表3】

【0080】
<実施例3>
まず、実施例3に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表3の実施例3に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンをアモルファス状態で含むコハク酸モノグリセリド(融点70℃)のゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0081】
<比較例2>
比較例2に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表3の比較例2に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、ゼラチンのゾル液を約65℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0082】
<比較例3>
比較例3に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表3の比較例3に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、硬化油のゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0083】
<実施例4~7、比較例4~5>
続いて、下記表4を用いて、苦味化合物として塩酸キニーネを採用した造粒組成物の処方について説明する。下記表4では、結果として作製される乾燥状態での造粒組成物全体を100%としたときの各成分の含有量を示している。
【0084】
【表4】
【0085】
<実施例4~7>
実施例4~7に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表4の実施例4~7に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、塩酸キニーネをアモルファス状態で含むコハク酸モノグリセリドのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0086】
<比較例4>
比較例4に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表4の比較例4に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、塩酸キニーネをアモルファス状態で含む酒石酸モノグリセリドのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0087】
<比較例5>
比較例5に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表4の比較例5に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、塩酸キニーネをアモルファス状態で含む硬化油のゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0088】
なお、上述した造粒組成物製造方法では、冷却媒体として粉床を用いた例を示したが、核粒子溶液と相溶性のない媒体であればこれに限られるものではなく、例えば冷却媒体として油脂や空気を採用することもできることは言うまでもない。
【0089】
このように、本願発明の造粒組成物は、グリセリン脂肪酸エステル(所定の化合物のマスキング機能を有するマスキング剤)と、当該グリセリン脂肪酸エステルによるマスキングの対象であり、その少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれるコハク酸ソリフェナシンおよび/または塩酸キニーネ(所定の化合物)と、からなる粒子状の核粒子を備えていた。
コハク酸ソリフェナシンまたはその塩の結晶構造を識別できる方法は特に制限されないが、例えば偏光顕微鏡観察法、X線回折法、DSC測定法、近赤外分光法等が挙げられる。例えば、XRD法を用いて評価する場合、測定条件によって多少は変化するため厳密に解されるべきではないが、2θ=10℃付近にみられるソリフェナシン晶質体由来の特異的なピークが見られなければ、完全にアモルファスであると判断できる
実施例3、8、9、10および11では、メイジテクノ株式会社製位相差顕微鏡MT5210Lに偏光フィルターを設置して偏光顕微鏡観察法によって結晶質の複屈折の度合の比較を行ったところ、同量の所定の化合物を顕鏡したときに観察される複屈折の度合よりも、上述した造粒組成物のほうが小さかったため、少なくとも一部がアモルファスであると判定した。
【0090】
また、本願発明において、苦味化合物としてのコハク酸ソリフェナシンもしくは塩酸キニーネは、核粒子に含まれるグリセリン脂肪酸エステルに対する溶解度以下となる含有量で、苦味抑制剤としてのグリセリン脂肪酸エステルに溶融している。
【0091】
なお、所定の化合物およびグリセリン脂肪酸エステルからなる核粒子の周囲には被覆材としての日局トウモロコシデンプン(核粒子よりも粒径の小さい被覆粒子)が付着(粉衣)している。なお、ここでの「被覆」とは、核粒子の外表面を完全に覆う場合に限られるものではなく、核粒子の外表面の一部が被覆粒子の隙間で露出している場合も含む。
【0092】
(苦味マスキング効果の評価)
上記表の各実施例および比較例での造粒組成物におけるマスキングによる効果の度合いは以下のとおりだった(苦味評価)。なお、ここでの苦味評価とは、いわゆる官能評価によるものであり、具体的には、作製された造粒組成物を評価者が口に含み、60秒間舌に乗せて感じる苦味の程度を主観的にスコア化するものである。具体的には、苦味の度合について1から4の4段階に分け、「4:すぐさま吐き出さなければならないほど、しびれるように苦い」、「3:強い苦みを感じるが吐き出すまでではない」、「2:苦いが甘味で緩和できそうと感じる」、「1:ほとんど苦味を感じない」のいずれかを5名のパネラーに選定させ、スコア平均値を算出した。
【0093】
5名の評価パネラーによる苦味評価の結果、苦味化合物としてコハク酸ソリフェナシンを用いた実施例3、比較例2および比較例3(表3)については、実施例3は5名のスコア平均値で1.5となりコハク酸ソリフェナシンの苦味をマスキングできたが、比較例2および3では3.3となり、コハク酸ソリフェナシンの苦味をマスキングできていないことが分かった。
【0094】
また、苦味化合物として塩酸キニーネを用いた実施例4~7および比較例4および5(表4)については、実施例4~6は5名のスコア平均値で1.0となり塩酸キニーネの苦味をマスキングできたが、実施例7では2.2となり実施例4~6よりもマスキング能が若干低下しており、比較例4および5では2.8となり塩酸キニーネの苦味をマスキングできなかった。
【0095】
(検証の結果)
上述のように、本願発明の発明者による鋭意研究の結果、本発明よれば、苦味化合物としてのコハク酸ソリフェナシンを造粒組成物全体に対して20%まで含ませても、苦味をマスキングできることが確認された。また、本発明によれば、苦味化合物としての塩酸キニーネを造粒組成物全体に対して30%まで含ませても、苦味をマスキングできることが確認された。
【0096】
なお、上記核粒子を被覆する被覆材としては、核粒子の外表面を覆うコーティング剤とすることもできる。
【0097】
また、本実施例における苦味化合物としては、例示した塩酸キニーネやコハク酸ソリフェナシンに限らず、例えばエスゾピクロン(例えば、造粒組成物全体に対する含有量5%以下)等を採用することもできる。もちろん、上記の塩酸キニーネ、コハク酸ソリフェナシンおよびエスゾピクロン等を単独で含有する場合に限られるものではなく、これらの内のいずれか二つまたは全ての組み合わせを苦味化合物とする構成としてもよい。
【0098】
さらに、本実施例では、マスキング対象である化合物が苦味化合物である場合(つまり、マスキングの対象となる所定の特性が「苦味」)を例示したが、これに限られるものではなく、マスキングの対象となる特性を有する化合物であれば、本発明に係るマスキング技術を適用可能であることは言うまでもない。
【0099】
(溶出試験)
<実施例3、8~11、比較例6>
下記表5に記載の処方に従い、マスキング対象である苦味化合物としてコハク酸ソリフェナシンを採用した造粒組成物を調製した。下記表5では、結果として作製される乾燥状態での造粒組成物全体を100%としたときの各成分の含有量を示している。
【0100】
【表5】
【0101】
<実施例8>
実施例8に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表5の実施例8に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンの一部をアモルファス状態で含むデカグリセリンステアリン酸エステルのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0102】
<実施例9>
実施例9に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表5の実施例9に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンの一部をアモルファス状態で含むデカグリセリンベヘニン酸エステルのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0103】
<実施例10>
実施例10に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表5の実施例10に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンの一部をアモルファス状態で含むモノステアリン酸ソルビタンのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0104】
<実施例11>
実施11に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表5の実施例11に示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンの一部をアモルファス状態で含むポリエチレングリコール4000のゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0105】
<比較例6>
比較例6に係る造粒組成物は、本願出願人にて以下の方法に基づいて作製された。すなわち、結果として作製される造粒組成物が乾燥後に表5の比較例Aに示す組成となるように(ただし、トウモロコシデンプンは除く)、コハク酸ソリフェナシンの一部をアモルファス状態で含むグリセリンモノベヘネートのゾル液を約80℃の条件下で調製し、室温(例:23℃)下で転動する冷却媒体(日局トウモロコシデンプン)に直径約0.3mmの大きさの液滴として吐出し、当該液滴が冷却されて固化した後、140メッシュの篩をもちいて分級した。
【0106】
(溶出性評価)
実施例3の造粒組成物について、苦味化合物のマスキング具合を評価するために溶出試験を行った。
【0107】
溶出試験は以下の条件で行った。
溶出試験機:Toyama Dissolution Tester NTR‐6400A
溶出試験条件:5mg-苦味化合物/900mL溶出液, 50rpm 37℃, パドル法
溶出液は精製水を用いた。
溶出液中の苦味化合物濃度をHPLCにて定量し、溶出率を比較した。
HPLC:ポンプLC-20AD オートサンプラーSIL-20A コントローラーCBM-20A
UV検出器SPD-20AカラムオーブンCTO-20A(株式会社島津製作所)
【0108】
造粒組成物の溶出性の評価は、実施例3に用いた苦味組成物を含む造粒組成物とベシケア(登録商標)錠OD錠5mg(アステラス製薬)との比較によって行った。ベシケアOD錠5mg中の薬効成分含有顆粒は図5に示すような構造となっており、その断面に薬効成分の層が見られるものである。
【0109】
試験開始からの経過時間(min)と溶出率(%)との関係を示すグラフを図4に示す。図4に示すグラフによると、ベシケアOD錠5mg中の苦味組成物がほぼ全量溶出しきるまでの30分間中に実施例3中の苦味組成物は3割弱しか溶出していない。実施例3の造粒組成物は先行技術よりも苦味組成物の溶出を抑制できており、苦味マスキング効果が高いことがいえる。
【0110】
(マスキング効果の官能試験)
実施例3の造粒組成物について、苦味化合物のマスキング具合を評価するために官能試験を行った。
【0111】
官能試験は以下の方法で行った。
被験者5人に、実施例3の造粒組成物を苦味化合物5mg相当と、ベシケア錠5mg 1錠とを与えた。口の中に30秒間含んだときに感じる苦味についてヒアリングした。
【0112】
官能試験の結果を表6に示す。表中の記号の意味は次のとおりである。
〇:実施例3に係る造粒組成物のほうが苦味を感じない。
△:実施例3に係る造粒組成物とベシケア錠5mgとの違いが分からない。
×:実施例3に係る造粒組成物よりもベシケア錠5mgのほうが苦味を感じない。
下記表6から、実施例2の組成物はベシケアOD錠5mgよりマスキング効果が高いといえる。
【0113】
【表6】
【0114】
続いて、実施例3に係る造粒組成物を用いて作られる口腔内崩壊錠の評価のために以下の表7の組成で口腔内崩壊錠を作成した。
【0115】
(口腔内崩壊錠の作製)
下記表7に示した各成分を秤量し、40cm×70cmの透明ポリエチレン袋に入れて封をし、手で10分間転倒混合して打錠用混合末を調製し、ロータリー式打錠機(PICCOLA D8)で、円形扁平型(直径7mm、1錠あたりの重量120mg)の口腔内崩壊錠を製した。
【0116】
(口腔内崩壊錠を製したときの舌触りの評価)
上記実施例3で得られた造粒組成物(顆粒)を用いて、下記方法により表7に示す組成の口腔内崩壊錠を製した。得られた口腔内崩壊錠について、水を服用せずに口腔内で崩壊させたときの舌触りを5人のパネリストにより官能評価し、本発明の造粒組成物が不快なザラザラ感を引き起こさないかを判定した。いずれのパネリストにおいても、この口腔内崩壊錠は口腔内で約50~65秒後に崩壊し、崩壊途中も崩壊後も、口腔内に固い粒の感触や不快なザラザラ感を感じなかった。
【0117】
【表7】
【0118】
<摩損度の評価>
上述のようにして作製された実施例3に係る造粒組成物を用いて打錠された錠剤について、日本薬局方(http://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/1237-1.pdf)に基づいてElectrolab製摩損度試験計EF-2を用いて摩損度を評価した。内径287mm、深さ約38mmの透明なプラスチック製ドラムに錠剤55錠(約6.6g)を入れ、毎分25回転で100回転させた。終了後に錠剤を取り出し観察したところ、錠剤の割れや欠けを認めたものは0個で、試験前後の錠剤の重量変化から求めた摩損度は0.1%であった。
【0119】
本発明には下記(1)~(33)に示すような錠剤および方法が含まれる。
(1) 薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第1の領域と、
前記第1の領域に隣接し前記薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第2の領域と、を備え、
前記第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが属する領域内において層を形成することなく、分散していることを特徴とする錠剤。
(2) 前記結合剤は、不活性物質からなる(1)に記載の錠剤。
(3) 前記不活性物質は、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである(1)または(2)に記載の錠剤。
(4) 前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備えることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の錠剤。
(5) 前記被覆層は、アスペクト比が10以下である被覆粒子により構成されることを特徴とする(4)に記載の錠剤。
(6) 薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第1の領域と、
前記第1の領域に隣接し前記薬効成分又は生体機能性成分を含む結合剤からなる第2の領域と、を備え、
前記第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが属する領域内において層を形成することなく、前記結合剤に溶解していることを特徴とする錠剤。
(7) 前記結合剤は、不活性物質からなる(6)に記載の錠剤。
(8) 前記不活性物質は、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアセテートフタレートおよび融点80℃以下の硬化油または界面活性剤の少なくともいずれかである(6)または(7)に記載の錠剤。
(9) 前記第1の領域および第2の領域それぞれの外表面を被覆し、前記結合剤に不溶な物質から構成される被覆層を更に備えることを特徴とする(6)から(8)のいずれかに記載の錠剤。
(10) 前記被覆層は、アスペクト比が10以下である被覆粒子により構成されることを特徴とする(9)に記載の錠剤。
(11) 薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物を少なくとも含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
前記造粒組成物は、含有粒子と、被覆粒子と、前記含有粒子同士及び前記含有粒子と前記被覆粒子とを結合して粒状の形体を保持する結合剤とを具備し、前記含有粒子と結合剤とからなる核粒子の周囲に前記被覆粒子が付着してなり、前記被覆粒子が前記結合剤に不溶なものであり、前記含有粒子及び/又は結合剤に前記薬効成分又は生体機能性成分が含有され、かつ界面の展開面積比Sdrが100~700であることを特徴とする錠剤。
(12) 上記被覆粒子のアスペクト比が10以下である(11)に記載の錠剤。
(13) 薬効成分又は生体機能性成分を含む造粒組成物と、他の被混合物とを混合し、混合して得られる混合物を圧縮成形する錠剤製造方法であって、
前記造粒組成物は、含有粒子と、被覆粒子と、前記含有粒子同士及び前記含有粒子と前記被覆粒子とを結合して粒状の形体を保持する結合剤とを具備し、前記含有粒子と結合剤とからなる核粒子の周囲に前記被覆粒子が付着してなり、前記被覆粒子が前記結合剤に不溶なものであり、前記含有粒子及び/又は結合剤に前記薬効成分又は生体機能性成分が含有され、かつ界面の展開面積比Sdrが100~700であることを特徴とする方法。
(14) 上記被覆粒子のアスペクト比が10以下である(13)に記載の錠剤製造方法。
(15) 所定の化合物のマスキング機能を有するマスキング剤と、前記マスキング剤によるマスキングの対象であり、その少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれる所定の化合物と、からなる粒子状の核粒子を備える造粒組成物。
(16) 前記所定の化合物は、前記核粒子を構成する前記マスキング剤に対する前記所定の化合物の溶解度以下となる含有量で、前記マスキング剤に溶融していることを特徴とする(15)に記載の造粒組成物。
(17) 前記核粒子の周囲を被覆する被覆材を更に備えることを特徴とする(15)または(16)に記載の造粒組成物。
(18) 前記被覆材は、前記核粒子よりも粒径の小さい被覆粒子であることを特徴とする(17)に記載の造粒組成物。
(19) 前記被覆材は、前記核粒子の外表面を覆うコーティング剤であることを特徴とする(17)に記載の造粒組成物。
(20) 前記所定の化合物は苦味化合物であり、
前記マスキング剤は前記苦味化合物の苦味を抑制するための苦味抑制剤であることを特徴とする(15)~(19)のいずれかに記載の造粒組成物。
(21) 前記苦味抑制剤は、グリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする(20)に記載の造粒組成物。
(22) 前記グリセリン脂肪酸エステルは、有機酸エステルであることを特徴とする(21)に記載の造粒組成物。
(23) 前記有機酸エステルは、有機酸モノグリセリドであることを特徴とする(22)に記載の造粒組成物。
(24) 前記有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドおよび酢酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(23)に記載の造粒組成物。
(25) 前記苦味化合物は、薬効成分又は生体機能性成分の薬理学的に許容されるクエン酸塩類およびコハク酸塩類であることを特徴とする(20)~(24)のいずれか一項に記載の造粒組成物。
(26)前記苦味化合物は、コハク酸ソリフェナシン、および塩酸キニーネの少なくともいずれかであることを特徴とする(20)~(24)のいずれか一項に記載の造粒組成物。
(27) 前記核粒子は、前記苦味化合物として20%以下のコハク酸ソリフェナシンを含むことを特徴とする(20)~(24)のいずれか一項に記載の造粒組成物。
(28) 前記核粒子は、前記苦味化合物として30%以下の塩酸キニーネを含むことを特徴とする(20)~(24)のいずれか一項に記載の造粒組成物。
(29) 前記被覆粒子は、日局トウモロコシデンプンであることを特徴とする(28)に記載の造粒組成物。
(30) 苦味化合物を、前記苦味化合物の苦味を抑制するための苦味抑制剤に溶融させつつ混合して核粒子溶液を製し、
前記核粒子溶液を液滴として、前記核粒子溶液と相溶性のない所定の冷却媒体に向け射出する造粒組成物製造方法。
(31) 前記冷却媒体は粉体からなる粉床である(30)に記載の方法。
(32) 前記冷却媒体は油脂である(30)に記載の方法。
(33) 前記冷却媒体は空気である(30)に記載の方法。
【0120】
以上、実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の造粒組成物を含む混合物を圧縮成形してなる錠剤であって、
前記造粒組成物は薬効成分又は生体機能性成分を含み、
前記複数の造粒組成物のうちの1つの造粒組成物が、
(a)結合剤と該結合剤中に含まれる薬効成分又は生体機能性成分とから構成される第1の領域を備え、
前記複数の造粒組成物のうちの他の1つの造粒組成物が、
(b)前記第1の領域に隣接する第2の領域であって、結合剤と該結合剤中に含まれる前記薬効成分又は生体機能性成分とから構成される第2の領域を備え、
前記第1の領域および第2の領域内に含まれる薬効成分又は生体機能性成分は、それぞれが含まれる前記結合剤中において層を形成することなく分散または溶解しており、
前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれている
ことを特徴とする錠剤。
【請求項2】
前記薬効成分又は生体機能性成分は、前記マスキング剤に対する前記薬効成分又は生体機能性成分の溶解度以下となる含有量で、前記マスキング剤に溶融していることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項3】
前記薬効成分又は生体機能性成分は苦味化合物であり、
前記マスキング剤は前記苦味化合物の苦味を抑制するための苦味抑制剤であることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項4】
前記苦味抑制剤は、グリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルは、有機酸エステルであることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項6】
前記有機酸エステルは、有機酸モノグリセリドであることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項7】
前記有機酸モノグリセリドは、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドおよび酢酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項8】
前記苦味化合物は、薬効成分又は生体機能性成分の薬理学的に許容されるクエン酸塩類およびコハク酸塩類であることを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項9】
請求項1に記載の錠剤の製造方法であって、
前記方法は、
(i)複数の造粒組成物と他の被混合物とを混合するステップであって、
前記複数の造粒組成物それぞれが、
(a)結合剤と該結合剤中に含まれる薬効成分又は生体機能性成分とから構成される領域を備える、
上記混合するステップ、並びに
(ii)(i)のステップで得られた混合物を圧縮成形するステップ
を含み、
圧縮成形の対象である前記複数の造粒組成物それぞれにおいて、前記薬効成分又は生体機能性成分は、前記結合剤中において層を形成することなく分散または溶解しており、
前記結合剤が前記薬効成分又は生体機能性成分の所定の特性にマスキングを施すマスキング剤である場合に、前記薬効成分又は生体機能性成分の少なくとも一部が前記マスキング剤中にアモルファス状態で含まれていることを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
錠剤の全質量に対し、前記造粒組成物を6.25~10質量%含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の錠剤。
【請求項11】
錠剤の全質量に対し、前記造粒組成物を6.25~10質量%含む、請求項9に記載の製造方法。