(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128139
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20240912BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240912BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D41/34
F16K31/06 320A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024113669
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2020129450の分割
【原出願日】2020-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 方哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮
(72)【発明者】
【氏名】池本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川上 大地
(57)【要約】
【課題】閉弁変曲点を確実に検出することができる。
【解決手段】ソレノイドにおいて発生する逆起電圧の微分値の時系列データを時系列とは逆方向に遡って増加から減少に変化したときの極大点を検出する極大検出部と、前記極大検出部で検出された前記極大点から前記時系列データを前記逆方向に遡り前記極大点からの前記微分値の減少量が所定の閾値を超えるか否かを走査する判定処理を実行し、前記減少量が前記所定の閾値を超える事象が存在する場合には、当該極大点の時間である極大時間を前記燃料噴射弁の閉弁時間として検出する閉弁時間検出部と、を備える電磁弁駆動装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイドコイルに通電されることで発生する磁力に応じて弁体が弁座から離間して開弁され、前記ソレノイドコイルへの通電が停止されることで弁体付勢バネの弾発力に応じて前記弁体が前記弁座に当接して閉弁される燃料噴射弁の通電を制御する制御装置であって、
前記ソレノイドコイルへの通電が開始される時刻又は前記ソレノイドコイルへの通電が停止される時刻に設定される第1の時刻から前記燃料噴射弁が閉弁するまでの既知の時間よりも十分に長い時間として設定されている所定時間ΔTの期間が経過した第2の時刻へと至るまでの前記所定時間ΔTの期間を当該所定時間ΔTの期間よりも短い周期であるサンプリング時間によって刻み、前記ソレノイドコイルにおいて発生する逆起電圧を前記サンプリング時間が刻まれる毎に検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部で検出された逆起電圧を時間で2階微分した2階微分値を算出する微分値算出部と、
前記2階微分値に、その算出元データになっている逆起電圧が前記電圧検出部にて検出された順、すなわち時間が経過する順にインクリメントされている番号n(nは正の整数)が付番された様式にて表される前記2階微分値の時系列データとして格納する格納部と、
前記2階微分値の時系列データを前記番号nが最大値となる前記第2の時刻の側から前記番号nが最小値となる前記第1の時刻側へと向かう方向に順次走査して、前記2階微分値が増加から減少に変化したときの極値に該当する前記2階微分値を極大点として検出する極大検出部と、
前記2階微分値の時系列データを前記極大点から前記第1の時刻へと向かう方向に順次走査して前記2階微分値の時系列データより対象2階微分値を順次選択し、前記極大点と前記対象2階微分値との差である2階微分値減少量が所定の閾値を超えているか否かを判定する判定処理を実行し、前記2階微分値減少量が前記所定の閾値を超えていると判定される場合には、前記第1の時刻から前記極大点へと至るまでの前記サンプリング時間の積算時間である極大時間を演算し、この極大時間に基づいて前記燃料噴射弁の閉弁時間を求める閉弁時間検出部とを備え、
前記閉弁時間検出部は、前記極大検出部によって複数の前記極大点が検出された場合には、前記判定処理を複数の極大点ごとに実行し、前記判定処理の結果、前記極大点からの前記2階微分値減少量が前記所定の閾値を超えると判定される場合には、前記第1の時刻から前記極大点に至るまでの期間の前記サンプリング時間の積算時間である極大時間候補が演算され、この極大時間候補が複数個演算されている場合には、複数個の極大時間候補のうち、前記第1の時刻からの時間が最も短い極大時間候補の値に基づいて前記極大時間および前記閉弁時間を求める制御装置。
【請求項2】
ソレノイドコイルに通電されることで発生する磁力に応じて弁体が弁座から離間して開弁され、前記ソレノイドコイルへの通電が停止されることで弁体付勢バネの弾発力に応じて前記弁体が前記弁座に当接して閉弁される燃料噴射弁の通電を制御する制御装置であって、
前記ソレノイドコイルへの通電が開始される時刻又は前記ソレノイドコイルへの通電が停止される時刻に設定される第1の時刻から前記燃料噴射弁が閉弁するまでの既知の時間よりも十分に長い時間として設定されている所定時間ΔTの期間が経過した第2の時刻へと至るまでの前記所定時間ΔTの期間を当該所定時間ΔTの期間よりも短い周期であるサンプリング時間によって刻み、前記ソレノイドコイルにおいて発生する逆起電圧を前記サンプリング時間が刻まれる毎に検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部で検出された逆起電圧を時間で2階微分した2階微分値を算出する微分値算出部と、
前記2階微分値に、その算出元データになっている逆起電圧が前記電圧検出部にて検出された順、すなわち時間が経過する順にインクリメントされている番号n(nは正の整数)が付番された様式にて表される前記2階微分値の時系列データ として格納する格納部と、
前記2階微分値の時系列データを前記番号nが最大値となる前記第2の時刻の側から前記番号nが最小値となる前記第1の時刻側へと向かう方向に順次走査して、前記2階微分値が増加から減少に変化したときの極値に該当する前記2階微分値を極大点として検出する極大検出部と、
前記2階微分値の時系列データを前記極大点から前記第1の時刻へと向かう方向に順次走査して前記2階微分値の時系列データより対象2階微分値を順次選択し、前記極大点と前記対象2階微分値との差である2階微分値減少量Δdthが所定の閾値を超えているか否かを判定する判定処理を実行し、前記2階微分値減少量Δdthが前記所定の閾値を超えていると判定される場合には、前記第1の時刻から前記極大点へと至るまでの前記サンプリング時間の積算時間である極大時間を演算し、この極大時間に基づいて前記燃料噴射弁の閉弁時間を求める閉弁時間検出部とを備え、
前記閉弁時間検出部は、前記極大検出部によって複数の前記極大点が検出された場合には、前記判定処理を複数の極大点ごとに実行し、前記判定処理の結果、前記極大点からの前記2階微分値減少量が前記所定の閾値を超えると判定される場合には、当該判定に該当する前記極大点を閉弁候補点に設定し、
前記閉弁候補点が複数設定されている場合には、複数の前記閉弁候補点のうち、前記2階微分値減少量が最も大きい前記閉弁候補点から前記第1の時刻に至るまでの期間の前記サンプリング時間の積算時間である極大時間が演算され、前記閉弁時間検出部は前記極大時間に基づいて前記燃料噴射弁の閉弁時間を求める制御装置。
【請求項3】
閉弁時間目標値を演算し、前記閉弁時間検出部にて演算される前記閉弁時間が前記閉弁時間目標値になるように前記ソレノイドコイルへの通電時間を補正する補正部を備えている、
請求項1または2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射弁への通電を制御することで燃料噴射弁を駆動する電磁弁駆動装置が知られている(特許文献1参照)。この電磁弁駆動装置は、燃料噴射弁の閉弁から開弁までの期間を一定になるように燃料噴射弁への通電を制御することで、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射量の変動を抑制している。具体的には、電磁弁駆動装置は、燃料噴射弁の閉弁を検知し、この閉弁の時間(以下、「閉弁時間」という。)が目標値になるように燃料噴射弁への通電を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、燃料噴射弁に発生する逆起電圧の微分波形において、時系列で最初に現れる変曲点(以下、「閉弁変曲点」という。)を検出することで閉弁を検知することができるという知見を得た。そこで、発明者らは、閉弁変曲点を検出する手法として、逆起電圧の微分値を時系列で走査していき、微分値の極大値からの減少量が所定の閾値を超えたときには、その極大値を閉弁変曲点として検出する手法を考案した。
【0005】
しかしながら、時系列での微分値では、閉弁変曲点からの減少量が所定の閾値を超えずに、二つ目の変曲点が現れることが起こりえる。そのため、上記手法では、一つ目の変曲点、すなわち閉弁変曲点を検出できない場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、閉弁変曲点を確実に検出することができる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、ソレノイドコイルを有する燃料噴射弁の駆動を制御する制御装置であって、前記ソレノイドコイルにおいて発生する逆起電圧を時系列順に検出する電圧検出部と、前記電圧検出部で検出された逆起電圧を時間で微分した微分値の微分値算出部と、前記微分値の時系列データを格納する格納部と、前記時系列データを時系列とは逆方向に遡って微分値が増加から減少に変化したときの極大点を検出する極大検出部と、前記極大検出部で検出された前記極大点から前記時系列データを前記逆方向に遡り前記極大点からの前記微分値の減少量が所定の閾値を超えるか否かを走査する判定処理を実行し、前記減少量が前記所定の閾値を超える事象が存在する場合には、当該極大点の時間である極大時間を前記燃料噴射弁の閉弁時間として検出する閉弁時間検出部と、を備える制御装置である。
【0008】
(2)上記(1)の制御装置であって、前記閉弁時間検出部は、前記極大検出部が複数の極大点を検出した場合には前記判定処理を前記極大点ごとに実行し、前記判定処理の結果、前記減少量が前記所定の閾値を超える事象が存在すると判定されたときの前記極大点である閉弁候補点が複数存在する場合には、前記閉弁候補点の極大時間のうち、最も短い前記極大時間を前記閉弁時間として検出してもよい。
【0009】
(3)上記(1)の制御装置であって、前記閉弁時間検出部は、前記極大検出部が複数の極大点を検出した場合には前記判定処理を前記極大点ごとに実行し、前記判定処理の結果、前記減少量が前記所定の閾値を超える事象が存在すると判定されたときの前記極大点である閉弁候補点が複数存在する場合には、前記閉弁候補点のうち、前記減少量が最も大きい閉弁候補点の極大時間を、前記閉弁時間として検出してもよい。
【0010】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかの制御装置であって、前記燃料噴射弁は、弁座と、前記弁座に対して離間又は当接して燃料通路を開閉する弁体と、先端に前記弁体が固定されてニードルと、ニードル5と同軸に設けられている可動コアと、を有し、前記弁体は、前記ソレノイドコイルに通電されることで発生する磁力によって引き上がるように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、閉弁変曲点を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る燃料噴射弁Lの構成例である。
【
図2】本実施形態に係る電磁弁駆動装置1の構成例である。
【
図3】本実施形態に係る時系列データの一例を説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る閉弁時間の検出方法の一例を説明する図である。
【
図5】本実施形態に係る制御装置300の動作の流れの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る電磁弁駆動装置1は、燃料噴射弁Lを駆動する駆動装置である。具体的には、本実施形態に係る電磁弁駆動装置1は、車両に搭載された内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁L(電磁弁)を駆動対象とする電磁弁駆動装置である。
【0014】
燃料噴射弁Lは、車両に搭載されたガソリンエンジンあるいはディーゼルエンジン等の内燃機関に燃料を噴射する電磁弁(ソレノイド弁)である。以下に、燃料噴射弁Lの構成例について、
図1を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、燃料噴射弁Lは、固定コア2、弁座3、ソレノイドコイル4、ニードル5、弁体6、リテーナ7、ロアストッパ8、弁体付勢バネ9、可動コア10、及び可動コア付勢バネ11を備える。本実施形態では、固定コア2、弁座3、及びソレノイドコイル4が固定部材であり、ニードル5、弁体6、リテーナ7、ロアストッパ8、弁体付勢バネ9、可動コア10、及び可動コア付勢バネ11が可動部材である。
【0016】
固定コア2は、円筒状の部材であり、燃料噴射弁Lのハウジング(不図示)に固定されている。固定コア2は、磁性材料によって形成されている。弁座3は、燃料噴射弁Lのハウジングに固定されている。弁座3は、噴射孔3aを有する。噴射孔3aは、燃料が噴射される孔であって、弁座3に弁体6が着座した場合に閉鎖し、弁体6が弁座3から離間した場合に開放される。
【0017】
ソレノイドコイル4は、電線が環状に巻回されることにより形成されている。ソレノイドコイル4は、固定コア2と同心状に配置されている。ソレノイドコイル4は、電磁弁駆動装置1と電気的に接続されている。ソレノイドコイル4は、電磁弁駆動装置1から通電されることで、固定コア2及び可動コア10を含む磁路を形成する。
【0018】
ニードル5は、固定コア2の中心軸に沿って延在する長尺状の棒部材である。ニードル5は、固定コア2及び可動コア10を含む磁路により発生する吸引力によって、固定コア2の中心軸の軸方向(ニードル5の延在方向)に移動する。なお、以下の説明において、固定コア2の中心軸の軸方向において、上記吸引力により可動コア10が移動する方向を上方と称し、上記吸引力により可動コア10が移動する方向と反対の方向を下方と称する。
【0019】
弁体6は、ニードル5における下方の先端に形成されている。弁体6は、弁座3に着座することによって噴射孔3aを閉鎖し、弁座3から離間することによって噴射孔3aを開放する。リテーナ7は、ガイド部材71及びフランジ72を備える。ガイド部材71は、ニードル5における上方の先端に固定された円筒状の部材である。フランジ72は、上方におけるガイド部材71の端部において、ニードル5の径方向に突出するように形成されている。フランジ72は、下方の端面が可動コア付勢バネ11との当接面である。また、フランジ72における上方の端面は、弁体付勢バネ9との当接面である。例えば、弁体6は、可動コア10と別体となったニードル弁であって、ソレノイドコイルに通電されることで発生する磁力によって引き上がる。
【0020】
ロアストッパ8は、弁座3とガイド部材71との間のニードル5に固定された円筒状の部材である。このロアストッパ8は、上方の端面が可動コア10との当接面である。
【0021】
弁体付勢バネ9は、固定コア2の内部に収容された圧縮コイルバネであり、ハウジングの内壁面と、フランジ72と間に介挿されている。弁体付勢バネ9は、弁体6を下方に付勢する。すなわち、コイル14に通電されてない場合には、弁体付勢バネ9の付勢力により、弁体6が弁座3に当接される。
【0022】
可動コア10は、ガイド部材71とロアストッパ8との間に配置されている。可動コア10は、円筒状の部材であり、ニードル5と同軸に設けられている。この可動コア10は、中央にニードル5が挿通される貫通孔が形成されており、ニードル5の延在方向に沿って移動可能である。可動コア10の上方の端面は、リテーナ7、固定コア2及び可動コア付勢バネ11との当接面である。一方、可動コア10の下方の端面は、ロアストッパ8との当接面である。可動コア10は、磁性材料によって形成されている。
【0023】
可動コア付勢バネ11は、フランジ72と可動コア10との間に介挿されている圧縮コイルバネである。可動コア付勢バネ11は、可動コア10を下方に付勢する。すなわち、可動コア10は、ソレノイドコイル4に給電されていない場合には、可動コア付勢バネ11の付勢力により、ロアストッパ8に当接される。
【0024】
次に、本実施形態に係る電磁弁駆動装置1について、説明する。
【0025】
図2に示すように、電磁弁駆動装置1は、駆動装置200及び制御装置300を備える。
【0026】
駆動装置200は、電源装置210及びスイッチ220を備える。
【0027】
電源装置210は、バッテリ及び昇圧回路の少なくともいずれかを備える。前記バッテリは、車両に搭載されている。前記昇圧回路は、前記バッテリの出力電圧であるバッテリ電圧Vbを昇圧し、その昇圧した電圧である昇圧電圧Vsを出力する。
【0028】
電源装置210は、昇圧電圧Vsをソレノイドコイル4に出力することでソレノイドコイル4に通電する。電源装置210は、バッテリ電圧Vbをソレノイドコイル4に出力することでソレノイドコイル4に通電してもよい。電源装置210からソレノイドコイル4へ出力される電圧は、制御装置300によって制御される。また、ソレノイドコイル4への通電は、制御装置300によって制御される。
【0029】
スイッチ220は、制御装置300によってオン状態又はオフ状態に制御される。スイッチ220がオン状態に制御されると、電源装置210から出力される電圧がソレノイドコイル4に供給される。これにより、ソレノイドコイル4への通電が開始される。スイッチ220がオフ状態に制御されると、電源装置210からソレノイドコイル4への電圧の供給が停止される。
【0030】
制御装置300は、電圧検出部310及び制御部320を備える。
【0031】
電圧検出部310は、ソレノイドコイル4に発生する電圧値Vcを時系列順に検出する。例えば、電圧Vcは、ソレノイドコイル4の両端の電圧である。電圧検出部310は、検出した電圧値Vcを制御部320に出力する。電圧検出部310は、ソレノイドコイル4において発生する逆起電圧を時系列順に検出する。ここで、逆起電圧とは、ソレノイドコイル4への通電を停止した後の電圧値Vcである。
【0032】
制御部320は、ソレノイドコイル4への通電時間を制御することで燃料噴射弁Lから噴射される燃料の噴射量(以下、「燃料噴射量」という。)を一定に制御している。制御部320は、電圧検出部310で検出されたソレノイドコイル4の逆起電圧の微分波形において、最初に現れる変曲点(以下、「閉弁変曲点」という。)を検出することで閉弁を検知する。例えば、制御部320は、閉弁変曲点が現れた時間を、閉弁時間として検出する。そして、制御部320は、その閉弁時間が目標値になるようにソレノイドコイル4への通電時間を補正することで、燃料噴射量を常に一定に制御する。一例として、閉弁時間とは、ソレノイドコイル4に対する通電を開始してから、燃料噴射弁Lが閉弁するまでの時間であるが、これに限定されず、ソレノイドコイル4に対する通電が停止されてから、燃料噴射弁Lが閉弁するまでの時間でもよい。
【0033】
以下において、制御部320の機能部を説明する。制御部320は、通電制御部330、フィルタ部340、微分演算部350、格納部360、極大検出部370、閉弁時間検出部380及び補正部390を備える。
【0034】
通電制御部330は、電源装置210を制御する。通電制御部330は、スイッチ220をオン状態又はオフ状態に制御する。通電制御部330は、スイッチ220をオン状態に制御することで、電源装置210からの電圧をソレノイドコイル4に対して供給させる。通電制御部330は、スイッチ220をオン状態からオフ状態に制御することで、電源装置210からソレノイドコイル4への電圧の供給を停止させる。通電制御部330は、予め設定された通電開始時間T1においてソレノイドコイル4への通電を開始してから、当該通電を停止するまでの時間(通電停止時間)T2である通電時間Ti(=T2-T1)を制御することで、燃料噴射弁Lから噴射される燃料の噴射量(以下、「燃料噴射量」という。)を一定に制御する。
【0035】
ここで、ソレノイドコイル4への電圧の供給が停止されると、ソレノイドLにて逆起電力が発生し、ソレノイドLの両端に逆起電圧が生じる。この逆起電圧は、時間と共に減少し、所定時間の経過後に消滅する。このような電圧差が消滅するまでに、開弁されていた燃料噴射弁Lの弁体6が弁座3に衝突して閉弁され、弁体6が弁座3に衝突する際に当該電圧差の減少勾配が変化する。本実施形態の制御部320は、この減少勾配の変化を検知することで、燃料噴射弁Lの閉弁を検知する。
【0036】
フィルタ部340は、電圧検出部310から出力された電圧値Vcに対してフィルタ処理を行う。この電圧値Vcは、スイッチ220をオン状態からオフ状態に制御された後の電圧値Vcであって、いわゆる逆起電圧である。フィルタ処理とは、ローパスフィルタによって電圧値Vcの電圧波形に含まれるノイズ成分を除去する処理である。すなわち、フィルタ部340は、電圧値Vcに対してローパスフィルタを適用することにより所定の周波数以上の成分を除去するフィルタ処理を実行する。例えば、ローパスフィルタは、デジタルローパスフィルタである。フィルタ部340は、フィルタ処理後の電圧値Vcを微分演算部350に出力する。
【0037】
微分演算部350は、フィルタ部340でフィルタ処理された電圧値Vcを時間微分することで微分値dの時系列データを生成する。そして、微分演算部350は、生成した微分値dの時系列データを格納部360に格納する。本実施形態の微分値dは、電圧値Vc(逆起電圧)の1階微分であるが、これに限定されず、二階微分以上の高階微分であってもよい。
【0038】
ここで、微分演算部350は、第1の時間から所定時間ΔTが経過した第2の時間までの間において、電圧値Vcの微分値dを生成し、生成した微分値dを時系列順で格納部360に格納する。例えば、第1の時間とは、通電開始時間T1又は通電停止時間T2である。所定時間ΔTは、第1の時間から燃料噴射弁Lが閉弁するまでの時間よりも十分に長い時間であり、予め設定されている。第1の時間から燃料噴射弁Lが閉弁するまでの時間がどの程度の時間(例えば、桁数)になるかは、予め実験などによって既知である。したがって、所定時間ΔTは、その閉弁時間よりも十分に長い時間になるように設定されている。
【0039】
格納部360には、微分演算部350によって生成された微分値dの時系列データが格納される。すなわち、格納部360には、微分演算部350によって生成された微分値dが時系列順で格納される。格納部360に格納される時系列データは、第1の時間から第2の時間への時系列順の微分値dのデータである。一例として、
図3は、格納部360に格納されている時系列データである。
図3に示すように、時系列データは、第1の時間であるt0から、時系列順、すなわち時間が経過する順番に沿ってt1、t2、t3、t4、t5、t6、…、t(n-1)、tnまでの各時間での微分値d1~dnのデータである。ここで、tnは、第2の時間である。Δt=(tn-t0)である。
【0040】
極大検出部370は、格納部360に格納されている時系列データを時系列とは逆方向(第2の方向)に遡って読み込んでいき、微分値dが増加から減少に変化したときの時刻である極大時間及びその極大時間における微分値d(以下、「極大値」という。)を検出する。すなわち、極大検出部370は、格納部360に格納されている時系列データを時系列とは逆方向に遡って読み込んでいき、微分値dが増加から減少に変化したときの極大点(極大時間、極大値)を検出する。
【0041】
ここで、時系列データを時系列順とは逆方向に遡るとは、第2の時間から第1の時間へ時系列データを遡ることである。時系列とは、時間が経過する方向であって、第1の時間から第2の時間に向かう方向である第1の方向である。時系列の逆方向とは、時間が経過する方向とは逆の方向であって、第2の時間から第1の時間に向かう方向である第2の方向である。例えば、
図3に示す時系列データの例では、極大検出部370は、第2の時間であるtnから、t(n-1)、…、t6、t5、t4、t3、t2、t1、t0の順に、微分値dを読み込む。すなわち、極大検出部370は、dn、d(n-1)、…、d6、d5、d4、d3、d2、d1、d0の順に、微分値dを読み込む。そして、極大検出部370は、第2の時間から読み込んでいった微分値dが増加から減少に変化したときの変曲点である極大点を検出する。
【0042】
閉弁時間検出部380は、極大検出部370で極大点が検出された場合には、その極大点(極大時間)から第2の方向で微分値dを遡っていき、極大値からの微分値dの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えたか否を走査する閾値判定処理を行う。閉弁時間検出部380は、求めた減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えた場合には、そのときの極大点の極大時間を用いて燃料噴射弁の閉弁時間を求める。例えば、閉弁時間検出部380は、極大点から第2の方向で走査していき、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える事象が存在する場合には、そのときの極大点の極大時間を燃料噴射弁Lの閉弁時間として求める。
【0043】
極大検出部370によって複数の極大点が検出された場合には、閉弁時間検出部380は、その極大点ごとに閾値判定処理を行う。そして、極大点ごとに閾値判定処理を行った結果、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えた極大点(以下、「閉弁候補点」という。)が複数存在する場合には、閉弁時間検出部380は、複数の閉弁候補点のうち、第1の時間からの時間が最も短い閉弁候補点の極大時間を、閉弁時間として検出してもよい。
【0044】
また、閉弁候補点が複数存在する場合には、閉弁時間検出部380は、複数の閉弁候補点のうち、減少量が最も大きい閉弁候補点の極大時間を閉弁時間として検出してもよい。
【0045】
本実施形態の閉弁時間の検出方法の一例を、
図4を用いて説明する。例えば、格納部360には、第1の時間であるt0から、第2の時間であるt18までの時系列データが格納されている。極大検出部370は、格納部360に格納されている時系列データを、第2の時間であるt18から遡って読み込んでいき、微分値dが増加から減少に変化する極大点があるか否かを順番に走査する。そして、極大検出部370は、極大点を検出した場合には、その極大点を閉弁時間検出部380に出力する。
図4の例では、極大検出部370は、時間t10であり微分値d10で示す点P10を極大点として検出する。
【0046】
閉弁時間検出部380は、極大点である点P10の時間t10から第2の方向で時系列データを遡っていき、微分値d10(極大値)からの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える微分値dが存在するか否かを走査する。
図4に示す例では、極大点である点P10の時間t10から第2の方向で系列データを遡った場合には、点P4において微分値d10(極大値)からの減少量Δd(=d10-d4)が所定の閾値Δdthを超えるため、閉弁時間検出部380は、極大点である点P10が閉弁変曲点として、極大時間であるt10を閉弁時間として検出する。
【0047】
閉弁時間検出部380は、極大検出部370で極大点が検出された場合には、その極大点において、以下の第1の条件から第3の条件のうち、少なくともいずれかの条件が成立するか否かを判定する条件判定処理を実行してもよい。そして、閉弁時間検出部380は、条件判定処理において、以下の第1の条件から第3の条件のうち、少なくともいずれかの条件が成立した場合にはその極大点の極大時間が閉弁時間ではないとして、次の極大点に対して条件判定処理を行う。閉弁時間検出部380は、条件判定処理において、以下の第1の条件から第3の条件のうち、いずれの条件も成立しない場合であって、閾値判定処理によって減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える場合があれば、その極大点の極大時間を燃料噴射弁の閉弁時間として求める。
【0048】
(a)第1の条件:極大点(極大時間)から第1の時間まで微分値dを遡った場合において、微分値dが所定値dy以上上昇する場合。
(b)第2の条件:極大点(極大時間)から第1の時間まで微分値dを遡った場合において、微分値dがその極大点の極大値以上になった場合。
(c)第3の条件:極大点(極大時間)から第1の時間に向かって微分値dを遡った場合に、所定時間が経過するまでにおいて所定の閾値Δdthを超える減少量Δdが存在しない場合。
【0049】
上記第1の条件の例としては、極大点10から第1の時間に向かって時系列データを遡った場合において、微分値dが上昇していき、点P5(
図4に示す点P5´)の微分値d5から点P4(
図4に示す点P4´)の微分値d4への変化量が所定値dy以上となった場合には、閉弁時間検出部380は、極大点である点P10を閉弁変曲点から除外する。
【0050】
上記第2の条件の例としては、極大点10から第1の時間に向かって時系列データを遡った場合において、微分値dが上昇していき、点P4(
図4に示す点P4´)の微分値d4が極大値であるd10以上となった場合には、閉弁時間検出部380は、極大点である点P10を閉弁変曲点から除外する。
【0051】
上記第3の条件の例としては、極大点である点P10から第1の時間に向かって時系列データを遡った場合において、所定時間(例えば、t10-t0)が経過するまでに所定の閾値Δdthを超える減少量Δdが存在しない場合(
図4に示す一点鎖線)には、閉弁時間検出部380は、極大点である点P10を閉弁変曲点から除外する。
【0052】
補正部390は、閉弁時間検出部380によって得られた閉弁時間に応じて通電時間Tiを補正する。例えば、補正部390は、閉弁時間が目標値になるように通電時間Tiを補正する。一例として、補正部390は、閉弁時間と目標値との差がなくなるように通電停止時間を調整することで通電時間Tiを補正する。
【0053】
以下において、制御装置300の動作の流れの一例を、
図5を用いて説明する。
制御装置30は、燃料噴射弁Lを開弁させる場合には、予め設定された通電開始時間T1においてソレノイドコイル4への通電を開始してから、通電時間Tiを経過した通電停止時間T2でソレノイドコイル4への通電を停止する(ステップS101)。
【0054】
制御部320は、ソレノイドコイル4への通電を停止した後の第1の時間から第1の方向に向かって、電圧値Vcに対して時間微分していき、電圧値Vcの微分値dを生成する(ステップS102)。そして、制御部320は、その生成した電圧値Vcの微分値dを格納部360に格納することで、第1の時間から第2の時間までの微分値dの時系列データを格納する(ステップS103)。
【0055】
制御部320は、格納部360に格納されている時系列データを第2の時間から第2の方向に遡って読み込んでいき、微分値dが増加から減少に転じる極大点を走査する(ステップS104)。そして、制御部320は、極大点を検出したか否かを判定する(ステップS105)。制御部320は、極大点を検出したと判定した場合には、その極大点を基準点として設定する(ステップS106)。制御部320は、時系列データにおいて、基準点から一定時間(例えば、微分値dのサンプリング時間)だけ第2の方向へ遡った時間の微分値を対象微分値として選択する(ステップS107)。例えば、制御部320は、時系列データにおいて、点Pnを基準点とした場合には、基準点から一定時間だけ第2の方向へ遡った点Pn-1の時間の微分値を対象微分値として選択する。
【0056】
制御部320は、基準点の微分値dから対象微分値への減少量Δdを求め(ステップS108)、その求めた減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えたか否を判定する閾値判定処理を行う(ステップS109)。制御部320は、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えた場合には、現在の基準点を閉弁変曲点として確定する(ステップS110)。すなわち、制御部320は、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えた場合には、現在の基準点の時間(極大時間)を閉弁時間として確定する。
【0057】
ステップS109において、制御部320は、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えていない場合には、第1の条件から第3の条件のうち、いずれかの条件が成立しているか否かを判定する(ステップS111)。制御部320は、第1の条件から第3の条件のうち、いずれかの条件が成立している場合には、現在の基準点から第2の方向に再度遡って読み込んでいき、微分値dが増加から減少に転じる極大点を走査する(ステップS112)。そして、制御部320は、ステップS105に戻り、極大点を検出したか否かを判定する。なお、極大点を検出したと判定した場合には、制御部320は、現在の基準点をクリアし、新たに検出した極大点を基準点として設定する。そして、制御部320は、ステップS107に移行する。
【0058】
制御部320は、ステップS111において、第1の条件から第3の条件のいずれの条件にも成立していない場合には、対象微分値から一定時間だけ第2の方向へ遡った時間の微分値を新たな対象微分値として選択する(ステップS113)。そして、制御部320は、ステップS108に移行する。
【0059】
以下において、本実施形態の作用効果について、
図6を用いて説明する。閉弁時においては、可動コア10が下方に下がっていき、燃料噴射弁Lが閉弁するタイミングにおいて、弁体6が弁座3に衝突して可動コア10がリテーナから離間する。これにより、可動コア10の加速度が変化するため、前記磁路内の磁束が変化し、逆起電圧に変化が生じる、その結果、逆起電圧の微分値dにおいて1つ目の変曲点H1が生じる。この1つ目の変曲点H1が閉弁変曲点となる。ただし、閉弁後において燃料の圧力の反響が発生や弁体6のバウンスの発生等により、可動コア10の下降速度が減速されるため逆起電圧に変化が生じ、微分値dにおいて変曲点H1の後において2つ目の変曲点H2が生じる。この変曲点H2は、閉弁による変曲点H1ではない。そのため、閉弁時間検出部380は、2つ目の変曲点H1ではなく、1つ目の変曲点H1を検出することで燃料噴射弁Lの閉弁を検出する。
【0060】
一例として、微分値dの時系列データを第1の方向で極大値を走査していき、極大値からの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えたときには、その極大値を閉弁変曲点として検出する方法がある。この方法では、
図6に示すように、最初に検出した極大値からの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えない場合がある。その結果、一つ目の変曲点H1を検出することができない場合がある。一方、本実施形態の制御装置300は、微分値dの時系列データを第1の方向ではなく、第2の方向で走査していき、極大値からの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えたときには、その極大値を閉弁変曲点として検出する。ここで、一つ目の変曲点H1は、第1の方向では減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えないことが起こりえるが、第2の方向では減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えないことは起こりえない。これは、第2の方向において、変曲点H1の後に極大値が発生することがなく、変曲点H1の後の微分値dは、ゼロに収束するためである。これにより、本実施形態の制御装置300は、閉弁変曲点を確実に検出することができる。
【0061】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0062】
上記実施形態の制御装置300は、極大点から時系列データを第2の方向に遡り極大点からの微分値dの減少量Δdが所定の閾値Δdthを超えるか否かを走査する判定処理を実行し、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える事象が存在する場合には、当該極大点の時間である極大時間を燃料噴射弁Lの閉弁時間として検出する。これにより、閉弁変曲点を確実に検出することができる。
【0063】
制御装置300は、時系列データを第2の時間から第1の時間まで遡って極大検出部370により極大点を検出し、極大検出部370が複数の極大点を検出した場合には判定処理を極大点ごとに実行し、判定処理の結果、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える事象が存在すると判定されたときの極大点である閉弁候補点が複数存在する場合には、閉弁候補点の極大時間のうち、最も短い極大時間を閉弁時間として検出してもよい。これにより、閉弁変曲点の誤検知を抑制することができる。
【0064】
制御装置300は、時系列データを第2の時間から第1の時間まで遡って極大検出部370により極大点を検出し、極大検出部370が複数の極大点を検出した場合には判定処理を極大点ごとに実行し、判定処理の結果、減少量Δdが所定の閾値Δdthを超える事象が存在すると判定されたときの極大点である閉弁候補点が複数存在する場合には、閉弁候補点のうち、減少量Δdが最も大きい閉弁候補点の極大時間を閉弁時間として検出してもよい。これにより、閉弁変曲点の誤検知を抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
L…燃料噴射弁、1…電磁弁駆動装置、300…制御装置、310…電圧検出部、320…制御部、350…微分演算部、360…格納部、370…極大検出部、380…閉弁時間検出部