(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128169
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037014
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】岩野 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】師岡 寿至
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609PP02
5H609PP09
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609RR01
5H609RR27
5H609RR36
5H609RR42
5H609RR43
5H609RR46
(57)【要約】
【課題】エアギャップ周辺にシール構造を設けることなくコイルを直接液冷できる回転電機を提供することにある。
【解決手段】
回転子101と、回転子101とエアギャップ102を介して対向配置される固定子103と、エアギャップ102内に冷媒(冷却油110)を供給する冷媒供給口111dとを備え、回転子101における固定子103との対向面である回転子側対向面には撥油性を有する撥油部101bが設けられ、固定子103における回転子101との対向面である固定子側対向面には親油性を有する親油部103bが設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
前記回転子とエアギャップを介して対向配置される固定子と、
前記エアギャップ内に冷媒を供給する冷媒供給口とを備え、
前記回転子における前記固定子との対向面である回転子側対向面には撥油性を有する撥油部が設けられ、
前記固定子における前記回転子との対向面である固定子側対向面には親油性を有する親油部が設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1の回転電機であって、
前記親油部は、前記回転子の回転中に前記撥油部と対向し得る部分に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1の回転電機であって、
前記固定子は、複数のスロットと、前記複数のスロットに配置されたコイルとを備え、
前記親油部は、前記コイルの外表面のうち前記エアギャップに露出している面であるコイル側露出面に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項3の回転電機であって、
前記親油部は、さらに、前記スロットの外表面のうち前記エアギャップに露出している面であるスロット側露出面に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項4の回転電機であって、
前記親油部は、さらに、前記固定子のティース先端面に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項の回転電機であって、
前記撥油部は、さらに、前記固定子のティース先端面に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1の回転電機であって、
前記回転子は回転軸が上下方向に位置するように配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項1の回転電機であって、
前記冷媒供給口が前記回転子側対向面よりも前記固定子側対向面に近い位置に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項4の回転電機であって、
前記冷媒供給口が、前記コイル側露出面と前記スロット側露出面とによって形成され前記固定子の軸方向に延伸する溝の軸線上に設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項1の回転電機であって、
前記固定子のコイルエンドを覆い冷媒の流路を形成するカバーをさらに備え、
前記冷媒供給口は、前記カバーに設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項7の回転電機であって、
前記固定子側対向面の上端部から上方に延びる側面を有し、前記固定子の上方に冷媒の流路を形成するカバーをさらに備え、
前記カバーにおける前記固定子の上方は開放されており、
前記冷媒供給口は、前記カバーに設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項12】
請求項1の回転電機と、
前記固定子の内周面上における冷媒の所望の液膜厚さから演算される冷媒の総流量に近づくように前記回転電機に導入される冷媒の流量を制御する流量制御装置とを備えることを特徴とする回転電機冷却システム。
【請求項13】
請求項12の回転電機冷却システムにおいて、
前記流量制御装置は、
前記冷媒供給口に冷媒を吐出するポンプと、
前記ポンプを駆動するモータと、
前記モータを制御するインバータと、
前記液膜厚さから前記総流量を演算し、前記総流量に基づいて前記ポンプの目標回転数を演算し、前記ポンプの回転数を当該目標回転数に制御する回転数指令値を前記インバータに出力する制御装置とを備えることを特徴とする回転電機冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用やモビリティの分野におけるモータ等の回転電機にはコイルやコアを冷却するための冷却構造が設けられている。産業用回転電機では、設置面積の削減のため、小型化や高出力密度化が求められている。また、モビリティ用回転電機では、近年モビリティの電動化が進展し、重量制限の厳しい航空機向けに軽量化が、自動車向けには高出力密度化が進められている。このような状況から、いずれの分野でも回転電機の冷却性能のさらなる向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転電機の軸方向に延びるスロットの開放部(開口部)を密封部材(アンダープレート)で覆うことによってスロット内に冷却通路を形成させ、その冷却通路内に冷却液(絶縁油)を流すことによってスロットに巻装されたコイルを直接液冷させる回転電機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機の固定子の冷却には特にコイル(巻線)の冷却が重要となる。このうち固定子の両端に位置するコイルエンド部については、冷媒を直接噴霧すること(つまり直接液冷)が比較的容易である。しかしながら、回転子と固定子の間に形成されるエアギャップの周辺のコイルの直接液冷には工夫が必要である。例えば、特許文献1のようにスロットの開放部を密閉部材で覆ってスロット内に冷却通路を形成する場合には、スロットに取り付ける密閉部材(アンダープレート)を新たに用意し、さらに固定子と密封部材との接合部などに冷却液の漏洩を防止するシール構造を設ける必要がある。しかし、エアギャップ周辺にシール構造を設けることは技術的に難しく、コストを増加させる。
【0006】
本発明の目的は、エアギャップ周辺にシール構造を設けることなくコイルを直接液冷できる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の回転電機は、回転子と、前記回転子とエアギャップを介して対向配置される固定子と、前記エアギャップ内に冷媒を供給する冷媒供給口とを備え、前記回転子における前記固定子との対向面である回転子側対向面には撥油性を有する撥油部が設けられ、前記固定子における前記回転子との対向面である固定子側対向面には親油性を有する親油部が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エアギャップ周辺にシール構造を設けることなくコイルを直接液冷できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図4】
図1のA-A断面において、固定子の内周面を流下する冷却油の液膜の形状を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る固定子の内周面を流下する冷却油の液膜の形状を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る冷媒流量制御システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明の第1実施形態~第4実施形態に係る回転電機及び冷媒流量制御システムの構成及び動作について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。また、平面図と断面図の各々では、互いに直交するXYZ軸により方向を特定し、+Xを「右」、-Xを「左」、+Yを「上」、-Yを「下」、+Zを「前」、-Zを「後」と規定する。
【0011】
また、本稿の「軸方向」、「周方向」、「径方向」は、次のとおりである。すなわち、「軸方向」とは、回転子101の回転軸Oに沿う方向である。「周方向」とは、回転子101の回転方向(またはその逆回転方向)に沿う方向、すなわち回転軸Oを中心とする円周方向である。「径方向」とは、回転軸Oに直交する方向、すなわち回転軸Oを中心とする円の半径方向である。また、「内周側」は径方向における内側(内径側)を指し、「外周側」はその逆方向、すなわち径方向における外側(外径側)のことを指す。
【0012】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る回転電機100の軸方向における断面図である。回転電機100は、インナーロータ型のラジアルギャップ型回転電機で、回転子101と、回転子101とエアギャップ102を介して対向配置される固定子103と、回転子101と共に回転するシャフト104と、シャフト104の両端を支持する軸受け105、106と、軸受け105を保持する第1エンドブラケット107と、軸受け106を保持する第2エンドブラケット108と、固定子103をその外周から覆って固定するハウジング109とを備える。
【0013】
回転子101は、固定子103から発生する磁力により回転される部分で、固定子103との対向面である回転子側対向面(回転子101の外周面)101aには撥油性を有する撥油部101bが設けられている。
【0014】
撥油部101bの撥油性は例えば回転子101の表面処理によって付与できる。表面処理の仕方には幾つかの方法があるが、代表的なものとしてはコーティング処理が挙げられる。例えば、撥油性のコーティングとしてはフッ素系のコーティング剤を塗布する方法が知られている。また、コーティング剤の塗布に代えてスプレー等により撥油性物質を吹き付けても良い。
【0015】
回転子101には、回転子コア(回転子鉄心)101cと、回転子コア101cの外周面に固定された複数の扇状永久磁石101dとが設けられている。なお、1つの円環状の永久磁石101dを回転子コア101cに挿入し固定してもよく、複数の平板状の永久磁石101dを回転子コア101cに設けられた複数の磁石挿入孔に挿入して固定させてもよい。回転子コア101cの中心には貫通孔101eが設けられ、貫通孔101eにはシャフト104が圧入等により固定されている。回転子101の回転軸は上下方向(Y軸方向)に位置するように配置されていることが好ましい。
【0016】
固定子103は、回転子101を回転させるための磁力を発生させる部分であり、固定子103の回転子との対向面である固定子側対向面103aには親油性を有する親油部103b(
図4,5参照)が設けられている。
【0017】
親油部103bの親油性は例えば固定子103の表面処理によって付与できる。表面処理の仕方には幾つかの方法があるが、代表的なものとしてはコーティング処理が挙げられる。例えば、親油性コーティングの例としては、有機系の樹脂材料でコーティングする方法が挙げられる。一般にコイルの絶縁、固定に用いられるワニスは、有機系の樹脂材料が多く親油性を有する場合があるため、これを親油性の表面処理の代用とすることもできる。また、コーティング剤の塗布に代えてスプレー等により親油性物質を吹き付けても良い。親油部103bは、回転子101の回転中に撥油部101bと対向し得る部分に設けられていることが好ましい。
【0018】
固定子103は、積層鋼板により形成された固定子コア103cを備える。
【0019】
図2は、
図1のA-A断面図である。
図2に示すように、固定子コア103cには、その内周側に軸方向に延伸するスロット103d(溝)が周方向に沿って複数設けられている。また、複数のスロット103dのうち隣り合う2つのスロット103dにより挟まれたティース103eが複数形成されている。したがって、固定子コア103cは、複数のスロット103dと複数のティース103eを備えている。
【0020】
複数のスロット103dのそれぞれには、コイル103fが挿入されている。また、スロット103d内に挿入されたコイル103fの内周側露出面103gはスロット103dから突出せず、コイル103fの内周側露出面103gとスロット103dの内周側露出面103hとによって形成された固定子103の軸方向に延伸する溝であって、冷却油110の流下が可能なスペース(ベントスペースとも称する)103iが設けられている。つまり、各スロット103dでは、その外周側(径方向外側)にコイル103fが位置し、その内周側(径方向内側)にベントスペース103iが位置している。これにより固定子103(固定子コア103c)の内周面には複数のベントスペース103iによって複数の凹部が設けられている。
【0021】
コイル103fの内周側露出面103gとは、各スロット103dに挿入されたコイル103fを構成する複数の線材(例えば平角線)のうち最も回転子に近い位置(つまり最も径方向内側)に配置された線材のベントスペース103i(換言すると固定子103の内周面)に露出した面である。つまりコイル103fの内周側露出面103gは、ベントスペース103iと、エアギャップ102と、回転子101とに対向する面である。コイル103fの内周側露出面103gには親油部103bが設けられていることが好ましい(
図4,5)。
【0022】
また、スロット103dの内周側露出面103hとは、各スロット103dを構成する面のうちベントスペース103i(換言すると固定子103の内周面)に露出した面である。
図2に示した各スロット103dには、互いに対向する2つの内周側露出面103hが設けられている。スロット103dの内周側露出面103hには親油部103bが設けられていることが好ましい(
図4,5)。
【0023】
コイル103fは例えば、平角線で固定子コア103cに分布巻きされている。そのため、固定子コア103cの軸方向の端部には、
図1に示すように、第1コイルエンド103kと第2コイルエンド103lが形成されている。
【0024】
シャフト104は回転子101と共に回転する軸で、第1エンドブラケット107に固定された軸受105と、第2エンドブラケット108に固定された軸受105とにより回転自在に支持されている。
【0025】
第1エンドブラケット107と第2エンドブラケット108は円板状の部材で、ハウジング109の軸方向における両側に取り付けられ、ハウジング109の軸方向の両端に位置する開口部を塞いでいる。
【0026】
ハウジング109は円筒状の部材で、円筒内には固定子コア103cが圧入等により固定されている。ハウジング109の軸方向の両端には、第1エンドブラケット107と第2エンドブラケット108が取り付けられ、固定子103と回転子101は保護されている。
【0027】
ハウジング109の上部には、冷却油(冷媒)110(
図4,5参照)をハウジング109の外側から内側に導入するため導入口109aが設けられている。また、ハウジング109の下部には、冷却油110をハウジング109の内側から外側に排出するため排出口109bが設けられている。
【0028】
固定子コア103cの上側(+Y方向側)の端部には、第1コイルエンド103kを覆う略円環状のカバーであり、その内部に冷却油110の環状流路112を形成する流路形成部材111がさらに設けられている。
【0029】
流路形成部材(カバー)111は、円環状の円板部111aと、円板部111aの径方向内側の端部から下側に突出する円筒状の円筒部111bと、円筒部111bの下端から外径方向に鍔状に突出する鍔部111cとを備える。
【0030】
円板部111aの径方向外側の端部は導入口109aよりも上方で、ハウジング109の内周面に接合されている。一方、円筒部111bの下端は固定子コア103cの上端に接合されている。また、鍔部111cはベントスペース103iの上端をふさいでいる。これにより、ハウジング109の内周と固定子コア103cの上端と流路形成部材111とによって挟まれた密閉された空間を形成することができ、この空間は冷却油(冷媒)110が流通する環状流路112となる。
【0031】
環状流路112内のハウジング109の内周側には導入口109aが設けられ、導入口109aを介して環状流路112内に冷却油110が導入されるようになっている。なお、流路形成部材111の素材は、渦電流損失が発生しない絶縁材料や、磁気特性に影響しない非磁性材料が望ましい。
【0032】
図3は、
図1のB-B断面図である。
図3に示すように、鍔部111cには冷媒供給口111dが設けられている。
【0033】
冷媒供給口111dは、環状流路112内に導入された冷却油110をエアギャップ102内に供給する開口である。冷媒供給口111dは、親油部103bに対して冷却油110を供給できるように、撥油部101bの設けられた回転子の外周面よりも親油部103bの設けられた固定子103の内周面に近い位置に設けることが好ましい。具体的には、冷媒供給口111dは、コイル103fの内周側露出面103gとスロット103dの内周側露出面103hとによって形成された固定子103の軸方向に延伸する溝(ベントスペース103i)の軸線上(ベントスペース103iの上方)に設けることが好ましい。冷媒供給口111dは、鍔部111cの板面に対して垂直に形成しても良いし、コイルeの内周側露出面103gに向かって冷却油110が流れ落ちるように板面と鋭角を成すように斜めに形成しても良い。
【0034】
図4は、
図1のA-A断面において、固定子103の内周面103aを流下する冷却油110の液膜の形状を模式的に示す断面図である。親油部103bは固定子103の内周面103aに次のように設けることが好ましい。
【0035】
すなわち、親油部103bは、ベントスペース103i内を移動する冷却油110をコイル103fと直接接触させてコイル103fを冷却する観点から、コイル103fの内周側露出面103gに設けられていることが好ましく、コイル103fの全表面に設けられていても良い。
【0036】
さらに、親油部103bは、固定子コア103cを冷却し鉄損を抑制するとともに、冷却油110をベントスペース103i内に保持して冷却効率を向上させる観点から、スロット103dの内周側露出面103hに設けられていることが好ましい。
【0037】
さらに、冷却油110がティース103eの先端面103jに沿って容易に移動することで固定子コア103cを冷却し鉄損を抑制できるように、親油部103bはティース103eの先端面103jに設けてもよい。
【0038】
なお、親油部103bを、コイル103fの内周側露出面103g、スロット103dの内周側露出面103h、ティース103eの先端面103jの全てに設けることにより、固定子103の内周面全体を親油処理した場合には、冷却油110の液膜流れは、コイル103fの内周側露出面103gのみならず、ティース103eの先端面103jにも形成される。このような液膜流れは、コイル銅損のみならず、固定子鉄損も比較的大きな特性を持つ回転電機の冷却に有効である。
【0039】
[動作]
上記のように構成される回転電機100において、冷却油110は、例えば外部の圧送ポンプから、導入口109aを介して環状流路112内に導入され、冷媒供給口111dからベントスペース103iに流下する。
【0040】
冷媒供給口111dからベントスペース103i内に供給された冷却油110は、
図4に示すように、親油部103bであるコイル103fの内周側露出面103gと、スロット103dの内周側露出面103hと、ティース103eの先端面103jとの親油部103bを液膜となって流下しながら、コイル103f及び固定子コア103cと直接接触して熱交換することで固定子103を冷却する。
【0041】
また、ベントスペース103iを流下する冷却油110には、ベントスペース103iやティース103eの先端面103jから離脱して回転子101側に向かおうとするものも存在し得るが、回転子101の外周面には撥油部101bが設けられており、そのような冷却油110は撥油部101bにより固定子103側に弾かれてベントスペース103i内やティース103eの先端面103j上に戻されることになる。
【0042】
すなわち回転子101の外周面に撥油部101bを設けることにより固定子103を冷却する冷却油110の流量を増加でき、エアギャップ102に流入した冷却油110は専ら固定子103の内周面を液膜となって流下するので、冷却油110による冷却効率を向上することができる。つまり、このような事情から、親油部103bは、回転子101の回転中に撥油部101bと対向し得る部分に設けられていることが好ましい。
【0043】
以上のようにベントスペース103iを流下した冷却油は、排出口109bから流出され、冷却器(熱交換器)により冷却され、ポンプにより圧送され、再び導入口109aより回転電機100内に流入する。
【0044】
[効果]
上記のように構成された本実施形態に係る回転電機100では、回転子101の回転中に冷媒供給口からエアギャップ102内に供給された冷媒(冷却油110)は、回転子101の外周面に設けられた撥油部101bによって固定子103の内周面103aに向かって弾かれ、固定子103の内周面103aに設けられた親油部103bを伝いながらエアギャップ102内を容易に移動し得る。つまり、本実施形態によれば、エアギャップ102の周辺に流路形成部材やシール構造を設けることなく固定子103のコイル103fを冷媒(冷却油110)で直接冷却できる。これにより、コイル103fを冷却するための構造を簡素化でき、コストの増加を抑制できる。
【0045】
また、本実施形態及び後述の各実施形態のように回転子101の回転軸が上下方向(Y軸方向)に位置するように配置するとベントスペース103iも上下方向に配置されることになる。これにより、重力の作用によってベントスペース103i内を上から下に向かって冷媒(冷却油110)を流下させ易くなり、固定子103の冷却効率を向上できる。
【0046】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る固定子203の内周面を流下する冷却油110の液膜の形状を模式的に示す図である。本実施形態に係る固定子203が、第1実施形態に係る固定子103と異なる点は、撥油部203mが、固定子203のティース203eの先端面203jに設けられていることである。
【0047】
これにより、本実施形態では、
図5に示すように、ティース203eの先端面203jに冷却油110の液膜が形成されず、コイル103fの内周側露出面103gとスロット103dの内周側露出面103hとにのみ冷却油110の液膜が形成される。
【0048】
[効果]
本実施形態に係る回転電機200では、撥油部が、回転子101の外周面101aだけでなく、さらに、固定子203のティース203eの先端面203jに設けられている。これにより、冷却油110が回転子101の外周面101aに接触し、冷却油110が回転子101により撹拌されて摩擦損失が発生する虞を抑制することができる。また、冷却油110の液膜が回転子101の外周面に接触する部分を第1実施形態と比較して小さくすることができ、固定子コア203cに対する冷却を抑制できるので、固定子鉄損よりも銅損が比較的大きな特性を持つ回転電機の冷却に有効である。
【0049】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係る回転電機300の断面図である。本実施形態に係る回転電機300が、第1実施形態に係る回転電機100と異なる点は、流路形成部材311の形状である。
【0050】
即ち、第1実施形態に係る流路形成部材(カバー)111は、円板部111aと円筒部111bと鍔部111cとを備える。一方、本実施形態に係る流路形成部材311は円筒部311bと鍔部311cとを備えるが、円板部111aを備えない。
【0051】
すなわち、本実施形態に係る回転電機300は、固定子303の回転子101に対向する固定子側対向面303aの上端部から上方に延びる側面(円筒部111b)を有し、固定子303の上方に冷媒(冷却油110)の流路を形成する流路形成部材(カバー)311をさらに備え、流路形成部材(カバー)311における固定子303の上方は開放されている。そして、冷媒供給口311dは、流路形成部材(カバー)311に設けられている。
【0052】
[効果]
本実施形態に係る回転電機300の流路形成部材(カバー)311では、固定子303の上方が開放されている。これにより、回転電機300の構造をさらに簡素化することができる。
【0053】
なお、エアギャップ102に流入する冷却油110の流量は、冷却油110の物性と、環状流路312内の冷却油110の液位と、冷媒供給口111dの形状や開口面積等とで決まる。このため、回転電機300の発熱による損失が略一定で冷却油110の流量を能動的に制御する必要性が小さい特性を持つ回転電機の冷却に有効である。
【0054】
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態に係る冷媒流量制御システム400のシステム構成図である。本実施形態に係る冷媒流量制御システム400は、ポンプ412から回転電機100に吐出される冷却油110の流量を制御するシステムである。また、冷媒流量制御システム400と回転電機100とによって構成されるシステムを回転電機冷却システムと称することがある。
【0055】
図7に示すように、冷媒流量制御システム400は、冷却油110を循環させる冷却油循環系統410と、ポンプ制御系統420とを備える。
【0056】
冷却油循環系統410は、回転電機100の導入口109a及び排出口109bと、排出口109bから排出された冷却油110を冷却する熱交換器411と、熱交換器411によって冷却された冷却油110を吸込んで導入口109aに吐出するポンプ412と、冷却油110を流通させるための配管である冷却油配管413とを備える。
【0057】
ポンプ制御系統420は、ポンプ412を回転駆動するモータ421と、モータ421の回転数を制御するインバータ422と、冷却油110の液膜の厚さの指定値が入力される入力装置423と、インバータ422に指令値を出力することでインバータ422を介してモータ421の回転数を制御する制御装置424とを備える。
【0058】
制御装置424は、例えばコンピュータであり、入力I/F(Interface:インターフェイス)424aと、処理装置(例えばCPU(Central Processing Unit))424bと、記憶装置(例えばメモリ)424cと、出力I/F424dとを備える。これらは相互に内部バス424eを介して接続されている。
【0059】
処理装置424bは、入力I/F424aを介して入力装置423から入力、または、記憶装置424cに記憶された冷却油110の所望の液膜厚さmから冷却油110の総流量(目標流量)Qを演算し、総流量Qからポンプ412の目標回転数を演算し、ポンプ412の回転数を演算した目標回転数に制御する回転数指令値をインバータ422に出力することでポンプ412の回転数を目標回転数に制御する。処理装置424bには、流量演算部424fと流量制御部424gとが設けられている。
【0060】
流量演算部424fは、回転電機100内を流れる冷却油110を所望の液膜厚さmにするために回転電機100に導入すべき冷却油110の総流量Qを演算する際に、例えば以下の公知の3つの数式(上から式1-3と称する)を利用して演算できる。
【0061】
【0062】
上記式1において、qは単位幅あたりの体積流量、μは冷却油110の粘性係数、ρは冷却油110の密度、gは重力加速度、νは冷却油110の動粘性係数である。なお、式1は垂直壁面上の液膜流の液膜厚さmを演算するための式であるが、壁面が傾斜している場合には他の式を用いることで液膜厚さmの演算は可能である。
【0063】
式1より、単位幅あたりの体積流量qは次式(式2)となる。
【0064】
【0065】
そして、式2(単位幅あたりの体積流量q)に、液膜の幅Lを掛ける次式(式3)により、冷却油110の総流量Qが求められる。
【0066】
【0067】
重力加速度gは通常の使用条件では定数とみなしてよく、冷却油110の動粘性係数νは概略温度で決まる物性値である。また、液膜の幅Lは、固定子103の断面における親油部103bの長さ(
図4における103h~103jの長さの合計、
図5における103h,103iの長さの合計)であり、親油部103bの形状により一意に定まる。
【0068】
以上より、入力装置423から入力、または、記憶装置424cに記憶された冷却油110の所望の液膜厚さmに基づいて、冷却油110の流量Qが流量演算部424fによって演算される。
【0069】
そして、流量演算部424fによって演算された総流量Qは、流量制御部424gに送信され、流量制御部424gは総流量Qを、例えば、総流量Qとポンプ412の目標回転数との関係が規定されたポンプ412の特性テーブルを参照して、目標回転数に変換し、当該目標回転数からポンプ412を駆動するモータ421の回転数指令値を演算し、それを出力I/F424dを介してインバータ422に送信し、モータ421の回転数を制御する。
【0070】
なお、上記のようにモータ421の回転数を制御するのではなく、図示しない流量調節弁(流調弁)の開度を制御することで回転電機100に導入される冷却油110の流量をQに制御しても良く、モータ421の回転数と当該流調弁の開度とを制御することで流量を制御しても良い。つまり、回転電機100(導入口109a)に導入される冷却油110の総流量が液膜厚さmから演算されるQに近づくように制御可能なハードウェア(流量制御装置)であれば、どのようなハードウェアを採用しても良い。
【0071】
また、冷却油110の所望の液膜厚さmは、冷却油110が回転子101の外周に接触することが無いように、エアギャップ102の隙間より小さいことが好ましい。
【0072】
[効果]
冷却油で固定子を冷却する回転電機では、損失発生状況に応じて冷却油の流量を変化させることが可能である。しかし、冷却油の流量が多すぎると冷却油の液膜の厚さが厚くなり、液膜表面が回転子の外周面に接触する可能性が出てくる。このような状況になると、固定子と回転子の間の冷却油が撹拌されて摩擦損失が発生する。
【0073】
この課題に対し、本実施形態に係る回転電機冷却システムでは、処理装置424bが固定子103の内周面上における冷却油110の所望の液膜厚さmから冷却油110の総流量Qを演算し、総流量Qに基づいてポンプ412の目標回転数を演算し、ポンプ412の回転数を当該目標回転数に制御する回転数指令値をインバータ422に出力することとした。これにより、ポンプ412により冷媒供給口111dに吐出される冷却油110の流量をエアギャップ102における液膜の厚さが指定値mになるように制御できるので、冷却油110が回転子101により撹拌されて摩擦損失が発生する虞を抑制することができる。
【0074】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0075】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサ(マイコン)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0076】
なお、本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。例えば、本発明はインナーロータ型の回転電機で実施形態が記載されているが、アウターロータ型の回転電機でも同様に実施できる。
【符号の説明】
【0077】
100,200,300…回転電機、101,201,301…回転子、101a…回転子側対向面(回転子101の外周面)、101b,203m…撥油部、101c…回転子コア(回転子鉄心)、102…エアギャップ、103,203,303…固定子、103a…固定子側対向面(固定子103の内周面)、103b…親油部、103c…固定子コア、103d…スロット、103e,203e…ティース、103f…コイル、103g…コイルfの内周側露出面、103h…スロット103dの内周側露出面、103i…ベントスペース、103j,203j…ティースの103e,203eの先端面、103k…第1コイルエンド、109…ハウジング、109a…導入口、109b…排出口、110…冷却油(冷媒)、111…流路形成部材(カバー)、111d…冷媒供給口、112…環状流路、303a…固定子側対向面、311…流路形成部材(カバー)、311d…冷媒供給口、312…環状流路、400…冷媒流量制御システム、412…ポンプ、421…モータ、422…インバータ、424…制御装置