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特開2024-128170遊離脂肪酸の製造方法および遊離脂肪酸生産藻類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128170
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】遊離脂肪酸の製造方法および遊離脂肪酸生産藻類
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/6409 20220101AFI20240913BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C12P7/6409
C12N1/13 ZNA
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037015
(22)【出願日】2023-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「FFA生産株における培養条件の最適化とFFA回収・分離手法の確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】西山 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】小俣 達男
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064CA08
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01Y
4B065AA83X
4B065AB01
4B065AC06
4B065AC14
4B065BA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遊離脂肪酸の製造を効率的に行うことのできる脂肪酸の製造方法と遺伝子組換藻類を提供すること。
【解決手段】遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を、pH9.0以上12.0以下の条件下で培養して脂肪酸を生産させる脂肪酸の製造方法、及び、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類。
(A)特定の塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、この塩基配列との同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)別の特定の塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、この塩基配列との同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を、
pH9.0以上12.0以下の条件下で培養して脂肪酸を生産させることを特徴とする脂肪酸の製造方法。
(A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
前記遺伝子組換藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)を親株とすることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸の製造方法。
【請求項3】
前記遺伝子組換藻類が、dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)であることを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪酸の製造方法。
【請求項4】
遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類。
(A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
前記遊離脂肪酸生産藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)に遺伝子組換えを行った藻類であることを特徴とする請求項4に記載の遺伝子組換藻類。
【請求項6】
dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)である遺伝子組換藻類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離脂肪酸生産藻類を用いた遊離脂肪酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料依存からの脱却を目指して、エネルギー物質の持続可能な生産技術の開発が世界中で進められている。その中で、遺伝子組み換え微生物を用いた遊離脂肪酸(Free Fatty Acid:以下、FFAともいう)の細胞外生産系が注目されている。細胞外生産系では、生産されたFFAが菌体外に放出され、細胞を破壊することなくFFAを取り出すことができるため、生産量を飛躍的に増加できると期待されている。そのため、これまでに大腸菌、酵母、シアノバクテリアといった様々な微生物を材料にして、FFAを細胞外へと放出する遺伝子組み換え株が作製されている(非特許文献1~3)。
【0003】
藻類による遊離脂肪酸の製造が、光合成により水と二酸化炭素から脂肪酸を製造することができるため食料生産と競合せず、また、単位面積あたりの脂肪酸の生産量が多いため注目されている。
例えば、非特許文献4には、シアノバクテリアの一種である、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942、以下、7942株ともいう)のSPc株由来で、遺伝子操作によって内在性のアシルACP合成酵素(Aas)の欠損と大腸菌由来のアシルACPチオエステラーゼをコードする遺伝子(`tesA)を導入したFFA生産能に優れたdAS1T株が提案されている。
非特許文献5には、7942株の硝酸イオン輸送体欠損株であるNA3を親株として、アシルACP合成酵素(Aas)の欠損と大腸菌由来のチオエステラーゼ(`tesA)を導入したdAS2T株に、FFAを細胞外に排出するためのrndA1B1を過剰発現するためのプラスミド(pRND1)を導入した細胞外へのFFA放出能に優れたdAS2T/pRND1株が提案されている。
特許文献1には、ペルオキシダーゼの発現を促進した脂肪酸又は脂肪酸を構成成分とする脂質の生産性に優れた遊離脂肪酸生産藻類が提案されている。
ここで、遊離脂肪酸生産藻類が、光合成を盛んに行い、脂肪酸を効率的に生産することのできる温度、pH、光強度等の条件は、当然に他の藻類等の生育にも好ましい条件である。そのため、遊離脂肪酸生産藻類による脂肪酸製造時には、コンタミネーション(他の微生物による汚染)が起こりやすい。そして、コンタミネーションが起こると、他の微生物が栄養源を消費して、遊離脂肪酸生産藻類が利用できる栄養源の割合が少なくなるため、遊離脂肪酸の生産性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-080698号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rebecca M. Lennen., Drew J. Braden., Ryan M. West., James A.Dumesic., Brian F. Pfleger. (2010) A Process for Microbial Hydrocarbon Synthesis: Overproduction of Fatty Acids in Escherichia coli and Catalytic Conversion toAlkanes. Biotechnol Bioeng. June 1; 106(2)
【非特許文献2】Yongjin J. Zhou1., Nicolaas A. Buijs1., Zhiwei Zhu., Jiufu Qin., Verena Siewers., Jens Nielsen. (2016) Production of fatty acid-derived oleochemicals and biofuels by synthetic yeast cell factories. Nat. Commun. 7:11709
【非特許文献3】Liu, X., Sheng, J. and Curtiss, R. (2011) Fatty acid production in genetically modified cyanobacteria.Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 108: 6899-6904.
【非特許文献4】Kato, A., Use, K., Takatani, N., Ikeda, K., Matsuura, M., Kojima, K., Aichi, M., Maeda, S., Omata, T. (2016) Modulation of the balance of fatty acid production and secretion is crucial for enhancement of growth and productivity of the engineered mutant of the cyanobacterium Synechococcus elongatus. Biotechonol for Biofu. Vol. 9, 91
【非特許文献5】Kato A, Takatani N, Use K, Uesaka K, Ikeda K, Chang Y, et al. (2015)Identification of a cyanobacterial RND-type efflux system involved in export of free fatty acids. Plant Cell Physiol. 56:2467-77.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遊離脂肪酸の製造を効率的に行うことのできる脂肪酸の製造方法と遺伝子組換え藻類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を、
pH9.0以上12.0以下の条件下で培養して脂肪酸を生産させることを特徴とする脂肪酸の製造方法。
(A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
2.前記遺伝子組換藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)を親株とすることを特徴とする1.に記載の脂肪酸の製造方法。
3.前記遺伝子組換藻類が、dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)であることを特徴とする1.または2.に記載の脂肪酸の製造方法。
4.遊離脂肪酸生産藻類に、下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類。
(A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
5.前記遊離脂肪酸生産藻類が、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株(Synechococcus elongatus PCC 7942)に遺伝子組換えを行った藻類であることを特徴とする4.に記載の遺伝子組換藻類。
6.dAS1T_SV株(受託番号NITE FERM BP-22464)またはdAS2T_pRND1_SV株(受託番号NITE FERM BP-22465)である遺伝子組換藻類。
【発明の効果】
【0008】
本発明において使用する遺伝子組換藻類は、遺伝子組換え前と比較して、アルカリ条件下での脂肪酸生産性に優れている。一般的な藻類の至適pHはpH8.0程度であるため、pH9~12の範囲内を保つことにより、他の微生物、特に他の藻類によるコンタミネーションの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験1における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、180uE/m・sの連続光照射下で培養したときの、菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。
図2】実験2における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、pH10で培養したときの、菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。
図3】実験2における、dAS1T_SV株とdAS1T株を、pH11で培養したときの、菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。
図4】実験3における、dAS2T_pRND1_SV株とdAS2T_pRND1株を、pH10で培養したときの、菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。
図5】実験3における、dAS2T_pRND1_SV株とdAS2T_pRND1株を、pH11で培養したときの、菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
SodBは、Synechocystis sp. PCC 6803株由来のスーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase)であり、遺伝子sodB(配列番号1)にコードされている。sodBの配列情報は、データベースCyanobaseのslr1516(https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?syn:slr1516)に登録されている。
VktAは、過酸化水素耐性菌であるビブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)由来のカタラーゼ(catalase)であり、遺伝子vktA(配列番号2)にコードされている。vktAの配列情報は、DDBJ/GenBank/EMBL番号AB030821(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/9967435)に登録されている。
【0011】
活性酸素種であるO は、スーパーオキシドディスムターゼにより過酸化水素へと変換され、さらにカタラーゼにより水へと分解される。このように、sodBとvktAとは、活性酸素種除去に関するタンパク質をコードするDNAである。
本発明者らは、sodBとvktAとを導入した藻類が、遺伝子組換え前と比較して耐アルカリ性が向上することを発見し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、遊離脂肪酸生産藻類に下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を、pH9.0以上12.0以下の条件下で培養して脂肪酸を生産させる脂肪酸の製造方法と、遊離脂肪酸生産藻類に下記(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類に関する。
(A)配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNA、または、該SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNA、または、該VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であり、かつ、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
以下、(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類を本発明の藻類という。
【0013】
本発明の藻類は、高アルカリであるpH9.0~12.0において、遺伝子組換え前と比較して、高い脂肪酸生産性を示す。なお、この活性酸素種を除去するタンパク質をコードするDNAの導入によりアルカリ条件下で高い脂肪酸生産性を示すメカニズムは不明である。アルカリ条件下では、他の微生物、特に、他の藻類の活動性は低下するため、pH9.0以上12.0以下で本発明の藻類を培養することにより、他の微生物の増殖を抑制することができるため、本発明の藻類を効率的に培養することができ、それにより脂肪酸を効率的に製造することができる。
【0014】
本発明で遊離脂肪酸生産藻類に組み込むDNAのうち、SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であるDNAは、酵素活性の点から、同一性は高いことが好ましく、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましく、96%以上がよりさらに好ましい。
SodBをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であるDNAが、スーパーオキシドディムターゼ活性を有するタンパク質をコードするかは、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)活性染色法等により確認することができる。
【0015】
本発明で遊離脂肪酸生産藻類に組み込むDNAのうち、VktAをコードするDNAと塩基配列の同一性が80%以上であるDNAは、酵素活性の点から、同一性は高いことが好ましく、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましく、96%以上がよりさらに好ましい。
VktAをコードするDNAとの塩基配列の同一性が80%以上であるDNAが、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするかは、過酸化水素の消去を240nmの吸光度変化を測定すること等により確認することができる。
【0016】
本発明で使用する、(A)、(B)で表されるDNAを組み込む遊離脂肪酸生産藻類としては特に制限されず、公知の遊離脂肪酸藻類、または公知の藻類に遊離脂肪酸を生産するための遺伝子組換えを行った藻類を用いることができる。これらの藻類としては、シネココッカス属、シネコシスティス属等が挙げられる。具体的には、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株や、非特許文献4、5に記載の7942株を親株とするdAS1T株、dAS2T_pRND1株等が挙げられる。なお、シネココッカス・エロンガタスPCC7942株は、パスツール研究所(フランス)等から入手可能である。
遊離脂肪酸藻類への、(A)、(B)で表される遺伝子の導入は、自然形質転換、相同組換え等により行うことができる。
【0017】
本発明で使用する、(A)、(B)の両方を導入した遺伝子組換藻類としては、例えば、dAS1T株に配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNAと配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNAとを導入したdAS1T_SV株、dAS2T_pRND1株に配列番号1で表される塩基配列を含みSodBをコードするDNAと配列番号2で表される塩基配列を含みVktAをコードするDNAとを導入したdAS2T_pRND1_SV株が挙げられる。
【0018】
dAS1T_SV株、dAS2T_pRND1株は、いずれもシネココッカス・エロンガタスPCC7942株の遺伝子組換株であり、グラム陰性の桿菌であり、酸素発生型光合成により完全独立栄養で増殖可能であり、培地では緑色を呈す。
dAS1T SV株は、遺伝子組換株であり、大腸菌K-12株のアシルACPチオエステラーゼ遺伝子`tesAがゲノムのアシルACP合成酵素遺伝子の中に導入されており、アシル-ACPシンテターゼ遺伝子の機能は欠損している。また、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のスーパーオキシドディスムターゼ遺伝子sodB、およびビブリオ菌Vibrio rumoiensisのカタラーゼ遺伝子vktA、スペクチノマイシン耐性遺伝子がゲノムのORF2497とORF2498の間に導入されている。
【0019】
dAS2T pRND1株は、dAS1T SV株と同様にEschericia coli K-12株由来のアシル-ACPチオエステラーゼを、宿主であるSynechococcus elongatus PCC 7942のアシルACPシンテターゼ遺伝子の内部にマーカーレスで導入している。さらに、カナマイシン耐性遺伝子と宿主由来の脂肪酸排出輸送体遺伝子を有するプラスミドpRND1が導入されている。また、Synechocystis sp. PCC 6803のスーパーオキシドディスムターゼ遺伝子sodB、およびビブリオ菌Vibrio rumoiensisのカタラーゼ遺伝子vktA、スペクチノマイシン耐性遺伝子がSynechococcus elongatus PCC 7942 ORF2497とORF2498の間に導入されている。
【0020】
dAS1T_SV株は受託番号NITE FERM BP-22464として、dAS2T_pRND1_SV株は受託番号NITE FERM BP-22465として、それぞれ独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2022年12月27日付で国際寄託されている。
dAS1T_SV株は、遺伝子組換え前のdAS1T株と比較して、アルカリ条件下での増殖性はほとんど変わらないが、脂肪酸生産性が向上している。
dAS2T_pRND1_SV株は、遺伝子組換え前のdAS2T_pRND1株と比較して、アルカリ条件下での増殖性、脂肪酸生産性の両方が向上している。
【0021】
本発明の微生物を培養して、脂肪酸を生産させる際の培養条件は、pH9.0以上12.0以下とする以外は特に制限されず、培養する微生物に応じて適切な条件を設定することができる。高アルカリとなるほど、他の微生物の活動性が低下するため、コンタミネーション防止の点からは、pH9.5以上が好ましく、pH10.0以上がより好ましく、pH10.5以上がさらに好ましく、pH11.0以上がよりさらに好ましい。一方、高アルカリになるにつれて、本発明の藻類の活性も多少は低下する。そのため、本発明の藻類による脂肪酸製造の効率性の点からは、pH11.5以下が好ましく、pH11.0以下がより好ましく、pH10.5以下がさらに好ましく、pH10.0以下がよりさらに好ましい。
【0022】
本発明の藻類は、光合成により水と二酸化炭素から脂肪酸を製造する。そのため、脂肪酸の生産性向上の点からは、二酸化炭素濃度が高いことが好ましく、0.04%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましく、1.0%以上であることがよりさらに好ましく、1.5%以上であることがよりさらに好ましい。一方、二酸化炭素濃度が高くなりすぎると、pHを9.0以上12.0以下に保つことが難しくなるとともに、藻類の生育が阻害される場合がある。そのため、二酸化炭素濃度は、4.0%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。なお、二酸化炭素は、pH9.0では、炭酸水素イオン(HCO )と炭酸イオン(CO 2-)がほぼ同濃度で存在し、アルカリ性となるにつれ炭酸イオン濃度が高くなる。
【0023】
培養する際の温度は、15℃以上40℃以下が好ましく、20℃以上がより好ましく、22℃以上がさらに好ましく、24℃以上がよりさらに好ましく、また、38℃以下がより好ましく、36℃以下がさらに好ましく、34℃以下がよりさらに好ましい。
本発明の藻類は、光合成により遊離脂肪酸を生産する。そのため、培養時には光合成のための光を照射することが必要である。光の強度は、30μE/m・s以上1500μE/m・s以下が好ましく、50μE/m・s以上がより好ましく、100μE/m・s以上がさらに好ましく、150μE/m・s以上がよりさらに好ましく、また、1200μE/m・s以下がより好ましく、1000μE/m・s以下がさらに好ましい。
【実施例0024】
dAS1T(非特許文献4)及びdAS2T_pRND1(非特許文献5)に、vktA_sodB/pAM1044(Sae-Tang,P.,Hihara,Y.,Yumoto,I.,Orikasa,Y.,Okuyama,H. and Nishiyama,Y.(2016)、Overexpressed superoxide dismutase and catalase act synergistically to protect the repair of PSII during photoinhibition in Synechococcus elongatus PCC 7942.Plant Cell Physiol.57:1899-1907.)を用いて形質転換を行い、スペクチノマイシンにより形質転換体を選抜し、dAS1T_SV株及びdAS2T_pRND1_SV株を得た。
培養には、BG-11培地を一部改変した基本培地(Suzuki,I.,Kikuchi,H.,Nakanishi,S.,Fujita,Y.,Sugiyama,T. and Omata, T.(1995)、A novel nitrite reductase gene from the cyanobacterium Plectonema boryanum. J.Bacteriol.177:6137-6143.)を用いた。
基本培地のpHは、グッドバッファーであるTESを使用し、水酸化カリウムの添加によりpH8.2に調整した。
藻類を植菌する際には、硫酸アンモニウムをアンモニウムイオンの終濃度が7.5mMとなるように加えて窒素源とした。
【0025】
「実験1」
90mL容量のガラス製培養管に基本培地50mLを入れてオートクレーブにより滅菌処理(121℃、15分)を施した後、dAS1T_SV株、またはdAS1T株を植菌し、50uE/m・sの連続光照射下でOD730が0.5~1.0になるまで培養した(前培養)。
続いて、前培養液を本培養の培地(pH8.2)へOD730が0.01となるように植菌した。本培養の培地は、硫酸アンモニウムの代わりに硝酸カリウムを硝酸イオンの終濃度が30mMとなるように加えて窒素源としたものを用いた。
ガスボンベによる2%CO供給と電球色のLEDライトによる180uE/m・sの連続光照射下で培養しながら藻類の菌体量(OD730)とFFA放出量を測定した(本培養)。
【0026】
FFA濃度は、Free Fatty Acid Quantification Kit(Biovision)で測定した。菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を図1に示す。
・結果
dAS1T_SV株は、dAS1T株と比較して、pH8.2、50~180uE/m・sの連続光照射下における増殖性、脂肪酸生産性にほとんど向上は認められなかった。
【0027】
「実験2」
本培養の培地のpH調整をTESの代わりにグッドバッファーであるCHESとCHAPSを用い、それぞれpH10.0または11.0となるように水酸化カリウムで調製した。それ以外は、実験1と同様にして、dAS1T_SV株、またはdAS1T株を培養した。図2、3に、それぞれpH10と11における菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度と経時変化を示す。
・結果
dAS1T_SV株は、dAS1T株と比較して、pH10では増殖性はほとんど変わらず、pH11では増殖性は少し劣っていた。しかし、dAS1T_SV株は、dAS1T株と比較して、pH10、11ともに、培地中の遊離脂肪酸濃度が高濃度であり、高アルカリ条件下で脂肪酸の生産性に優れていた。
【0028】
「実験3」
dAS2T_pRND1_SV株、dAS2T_pRND1株を用いた以外は、実験2と同様にして培養を行った。図4、5に、それぞれpH10と11における菌体量(OD730)と遊離脂肪酸濃度の経時変化を示す。
・結果
dAS2T_pRND1_SV株は、dAS2T_pRND1株と比較して、pH10、11での増殖性に優れていた。また、dAS2T_pRND1_SV株は、dAS2T_pRND1株と比較して、pH10、11ともに、培地中の遊離脂肪酸濃度が高濃度であり、高アルカリ条件下で脂肪酸の生産性に優れていた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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