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特開2024-128174リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体粒子の製造方法、およびリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池の製造方法
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  • 特開-リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体粒子の製造方法、およびリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128174
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体粒子の製造方法、およびリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240913BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20240913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20240913BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/485
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037019
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
(57)【要約】
【課題】高容量のリチウムイオン二次電池を実現できる前駆体粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、リチウム元素と遷移金属元素とを含有し、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される前駆体粒子の製造方法であって、少なくとも水を含む初期液を調製する初期液調製工程S1と、上記初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物と、を添加して反応液を調製し、上記反応液中に前駆体粒子を析出させる晶析工程S2と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム元素と遷移金属元素とを含有し、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される前駆体粒子の製造方法であって、
少なくとも水を含む初期液を調製する初期液調製工程と、
前記初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物と、を添加して反応液を調製し、前記反応液中に前記リチウムと前記遷移金属とを含有する前駆体粒子を析出させる晶析工程と、
を含む、
前駆体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記晶析工程において、
前記反応液のアンモニウムイオンの濃度を、0.3mol/L以上1.1mol/L以下とし、かつ
反応時間を、5時間以上40時間以下とする、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記初期液が、アンモニウムイオン供与体をさらに含む、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記初期液が、前記リチウムの水溶性塩と、前記遷移金属の水溶性塩と、をさらに含む、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記強塩基性化合物が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記晶析工程を、CO雰囲気下で行う、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記晶析工程において、前記反応液に超音波を照射する、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた前記前駆体粒子を焼成する焼成工程を含む、リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物を用いて正極を作製する正極作製工程を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体粒子の製造方法、およびリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池が知られている。リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法に関する先行技術文献として、特許文献1~5が挙げられる。例えば特許文献1には、晶析反応を利用して、リチウムを含まず遷移金属を含有する炭酸塩複合物(前駆体)を得る晶析工程と、この炭酸塩複合物をリチウム源と混合して焼成する焼成工程とを含む、リチウムイオン二次電池用のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-136096号公報
【特許文献2】特開2015-026559号公報
【特許文献3】特開2015-002120号公報
【特許文献4】特開2013-171744号公報
【特許文献5】特開2017-228535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池は、その普及に伴い、さらなる高容量化が求められている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される前駆体粒子の製造方法であって、高容量のリチウムイオン二次電池を実現できる前駆体粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により、リチウム元素と遷移金属元素とを含有し、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される前駆体粒子の製造方法が提供される。この製造方法は、少なくとも水を含む初期液を調製する初期液調製工程と、上記初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物と、を添加して反応液を調製し、上記反応液中に上記リチウムと上記遷移金属とを含有する前駆体粒子を析出させる晶析工程と、を含む。
【0006】
このような方法で製造された前駆体粒子の焼成物を正極活物質として用いることにより、高容量のリチウムイオン二次電池を好適に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る前駆体粒子の製造方法を説明するフローチャートである。
図2図2は、一実施形態に係る前駆体粒子の焼成物を用いたリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図2のリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けないリチウムイオン二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0009】
なお、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池全般をいい、リチウムイオンキャパシタ等をも包含する用語である。
【0010】
〔前駆体粒子〕
まず、ここに開示される製造方法によって得られる前駆体粒子について説明する。本実施形態に係る前駆体粒子は、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される粒子である。前駆体粒子は、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換されることにより、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用することができる。したがって、前駆体粒子は、リチウムイオン二次電池の正極活物質に用いられるリチウム含有前駆体粒子ともいえる。前駆体粒子は、好ましくは、焼成によって層状岩塩型結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物に変換される粒子である。なお、粒子の結晶構造は、従来公知の方法(例えば、X線回折法(XRD;X-ray diffraction))により、確認することができる。
【0011】
前駆体粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物に変換される粒子状の化合物である。前駆体粒子は、炭酸塩、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の化合物であってよい。なかでも、前駆体粒子は、炭酸塩であることが好ましい。
【0012】
前駆体粒子は、一つの粒子内にリチウム元素(Li元素)と遷移金属元素(TM元素)とを含有する。したがって、ここに開示される前駆体粒子は、Li元素を含有しTM元素を含有しない第1粒子と、TM元素を含有しLi元素を含有しない第2粒子と、の混合物とは異なっている。TM元素は、特に限定されず、例えば、Zr、Mo、Co、Fe、Ni、Mn、Cu、Cr、V、Nb、Pt、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、Ti、Nb、W等のうちの少なくとも1つの元素である。TM元素は、Ni、Co、およびMnからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、Ni、Co、およびMnを含有することがより好ましい。これにより、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。
【0013】
前駆体粒子は、典型的には、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるすべての金属元素(例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の場合は、Li、Ni、Co、Mn)を含有する。前駆体粒子は、Na、Mg、Ca、Al、Zn、Sn等の遷移金属以外の金属元素をさらに含有していてもよい。前駆体粒子は、B、Si、P等の半金属元素、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素等をさらに含有していてもよい。
【0014】
前駆体粒子は、酸素元素をさらに含有することが好ましい。例えば、前駆体粒子が炭酸塩である場合には、酸素元素および炭素元素を含有する。なお、前駆体粒子に含まれている元素の種類は、従来公知の方法(例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析)により、確認することができる。
【0015】
前駆体粒子において、遷移金属元素(複数種類を含む場合は、それらの合計)に対するリチウム元素の原子比(Li元素/TM元素)は、0.75~1.25が好ましく、0.8~1.2がより好ましく、1.05~1.1がさらに好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池の初期抵抗を特に小さく抑えられる。なお、遷移金属元素に対するリチウム元素の原子比も、従来公知の方法(例えば、上記したICP発光分光分析法)により、確認することができる。
【0016】
前駆体粒子は、典型的には、粉末状である。前駆体粒子は、典型的には、略球状である。ただし、不定形状等であってもよい。なお、本明細書において「略球状」とは、全体として概ね球体と見なせる形態を示し、電子顕微鏡の断面観察画像に基づく平均アスペクト比(長径/短径比)が、概ね1~2、好ましくは1~1.5、より好ましくは1~1.2であることをいう。
【0017】
前駆体粒子は、典型的には、複数の一次粒子が物理的または化学的な結合力によって凝集した二次粒子状である。ただし、前駆体粒子は、一次粒子を含んでいてもよいし、一次粒子から構成されていてもよい。なお、本明細書において「一次粒子」とは、前駆体粒子を構成する粒子の最小単位をいい、具体的には、外見上の幾何学的形態から判断した最小の単位をいう。
【0018】
前駆体粒子は、非晶質(アモルファス)であることが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池を繰り返し充放電した際の抵抗上昇を特に小さく抑えることができ、サイクル特性を向上できる。これは、前駆体粒子が非晶質であることによって、焼成時に遷移金属元素の再配列が容易となり、組成が均質な(バラつきの少ない)リチウム遷移金属複合酸化物を得られやすくなるためと考えられる。ただし、前駆体粒子は、非晶質であってもよい。なお、前駆体粒子が炭酸塩である場合は、通常、前駆体粒子は非晶質である。一方、前駆体粒子が水酸化物である場合には、通常、前駆体粒子は結晶質である。
【0019】
なお、前駆体粒子が非晶質か否か(粒子の結晶性)は、X線回折法(XRD)により、確認することができる。詳しくは、前駆体粒子に対してXRDによる測定を行い、X線回折スペクトルにおいて金属水酸化物由来のR3m相の(003)面のピークを観察することで確認することができる。前駆体粒子が非晶質である場合は、X線回折スペクトルにおいて、ピークがブロードなハローパターンとなる。一方、前駆体粒子が結晶質である場合は、R3m相の(003)面にシャープなピークが見られる。
【0020】
前駆体粒子の平均粒子径は、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、7μm以上がさらに好ましく、また、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。本発明者の知見によれば、前駆体粒子の平均粒子径は、焼成によって得られるリチウム遷移金属複合酸化物の性状に影響を及ぼし、ひいては電池特性にも大きく影響し得る。後述する試験例にも記載する通り、前駆体粒子の平均粒子径を上記範囲とすることで、正極内(詳しくはリチウム遷移金属複合酸化物粒子間)に好適な導電パスが形成されやすくなり、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、メジアン径(D50粒径)を指し、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径をいう。また、前駆体粒子の平均粒子径は、例えば後述する製造方法における晶析工程S2の反応時間によって、好適に調整できる。
【0021】
前駆体粒子のタップ密度は、1.5g/cm以上が好ましく、1.8g/cm以上がより好ましく、2.0g/cm以上がさらに好ましく、また、2.8g/cm以下が好ましく、2.5g/cm以下がより好ましい。本発明者の知見によれば、前駆体粒子のタップ密度は、焼成によって得られるリチウム遷移金属複合酸化物の性状に影響を及ぼし、ひいては電池特性にも大きく影響し得る。後述する試験例にも記載する通り、前駆体粒子のタップ密度を上記範囲とすることで、正極が適度に緻密化され充填率が高くなる結果、正極内に好適な導電パスが形成されやすくなり、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。なお、本明細書において「タップ密度」とは、タッピング式の密度測定装置を用いて、JIS K1469:2003に準拠して測定した値をいう。また、前駆体粒子のタップ密度は、例えば後述する製造方法における初期液調製工程S1の初期液の組成や、晶析工程S2における反応液のアンモニウムイオンの濃度によって、好適に調整できる。
【0022】
〔前駆体粒子の製造方法〕
次に、上記したような前駆体粒子の製造方法の一好適例について説明する。図1は、一実施形態に係る前駆体粒子の製造方法を説明するフローチャートである。本実施形態に係る前駆体粒子の製造方法は、共沈法を利用するものであり、初期液を調製する初期液調製工程S1と、反応液を調製して、反応液中に前駆体粒子を析出させる晶析工程S2とを、この順に含む。ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0023】
初期液調製工程S1は、例えば反応槽内で、少なくとも水を含む初期液を調製する工程である。水としては、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、蒸留水、限外濾過水、逆浸透水等を好適に用いることができる。初期液は、後述する晶析工程S2において晶析反応を緩和するバッファー液として機能し得る。初期液を経て晶析反応させることにより、得られる前駆体粒子の形態制御がしやすくなり、上記した性状の前駆体粒子を好適に製造できる。初期液は、水のみで構成されていてもよいし、水に溶質が分散した溶液の状態であってもよい。ただし、初期液は、晶析反応を生じさせるような化合物、例えば後述する強塩基性化合物等を含まないことが好ましい。
【0024】
本実施形態において、初期液は、アンモニウムイオン供与体をさらに含んでいる。初期液は、典型的には、溶媒としての水に、アンモニウムイオン供与体が溶解した水溶液である。初期液にアンモニウムイオン供与体(詳しくはアンモニウムイオン)を含むことで、後述する晶析工程S2において、核の生成ないし成長を促進したり、一次粒子間の接着性ないし付着性を高めたりすることができる。これにより、前駆体粒子を緻密なものとすることができ、上記した性状の(特には上記したタップ密度の範囲を満たす)前駆体粒子を好適に製造できる。ひいては、電池特性(例えばハイレート特性)を向上できる。
【0025】
アンモニウムイオン供与体の水溶液は、例えば市販品(アンモニア溶液)を購入してもよいし、少なくとも水を含む溶媒とアンモニウムイオン供与体とを任意の割合で混合して調製することもできる。混合には、マグネティックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等の従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。アンモニウムイオン供与体としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム(NHOH)、ハロゲン化アンモニウム、アンモニア水等を適宜使用し得る。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、初期液のpHを中性~酸性側に調整する観点から、酸性物質、例えば硫酸アンモニウムが好ましい。特に限定されるものではないが、初期液におけるアンモニウムイオンの濃度は、0.01~0.5mol/Lが好ましく、0.05~0.3mol/Lがより好ましく、0.1~0.2mol/Lがさらに好ましい。
【0026】
溶媒は、典型的には水であるが、水を主体とする混合溶媒であってもよい。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤、例えば低級アルコール、低級ケトン等を用い得る。この場合、初期液は、水性溶液であってよい。
【0027】
好適な一態様において、初期液は、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、をさらに含んでいる。リチウムの水溶性塩は、前駆体粒子のリチウム源(Li源)であり、遷移金属の水溶性塩は、前駆体粒子の遷移金属源(TM源)である。これらの原料は、典型的には、晶析工程S2で使用されるものと同じである。すなわち、Li源とTM源との一部を、先行して初期液に含ませている。初期液において、遷移金属元素(TM元素)は、アンモニウムイオン供与体から供与されるアンモニウムイオンと錯体を形成し得る。初期液に予めLi源とTM源とを含むことで、後述する晶析工程S2において、Li析出率を増大させることができる。これにより、Li回収率(Li投入量に対するLi析出量の比)を向上でき、生産性を高められる。また、投入するLi量を低減できるので、余分なLi由来のアニオン成分を低減でき、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。
【0028】
初期液のpHは、8未満に調整することが好ましく、7.5未満に調整することがより好ましく、例えば5~7に調整するとよい。また、本工程の温度環境は、10℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。一方、アンモニアの揮発を抑制する等の観点から、50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。
【0029】
晶析工程S2は、例えば反応槽内で、初期液調製工程S1で調製した初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物とを添加し、混合して、反応液を調製し、反応液中にリチウムと遷移金属とを含有する前駆体粒子を析出させる工程である。リチウムの水溶性塩と遷移金属の水溶性塩とアンモニウムイオン供与体と強塩基性化合物との添加の順序は、特に限定されない。例えば、まず、リチウムの水溶性塩と遷移金属の水溶性塩とを混合して混合液を調製し、この混合液とアンモニウムイオン供与体と強塩基性化合物とを、初期液に略同時に添加してもよい。また、混合には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。
【0030】
これらの原料を添加し混合することにより、反応液中で晶析反応を生じさせて、Li元素とTM元素とを含有する前駆体粒子の核を析出させることができる。さらに、所定の時間、晶析反応を継続することで、析出した核を成長させ、所望の粒子径(典型的には二次粒子径)を有する前駆体粒子を得ることができる。
【0031】
リチウムの水溶性塩は、上述の通り、前駆体粒子のLi源である。リチウムの水溶性塩としては、例えば、ハロゲン化リチウム(例、塩化リチウム等)、硫酸リチウム、硝酸リチウム等の水溶性のイオン化合物を適宜使用し得る。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、反応性等の観点から、ハロゲン化リチウムが好ましく、資源由来のものを使用可能であることから、塩化リチウムがより好ましい。リチウムの水溶性塩は、水和物の状態であってもよい。
【0032】
特に限定されるものではないが、リチウムの水溶性塩は、反応液中のリチウムの濃度が、概ね0.1~2mol/Lの範囲となるように添加することが好ましく、例えば、0.4~1.0mol/L、あるいは1.0~1.4mol/L、1.1~1.4mol/Lとなるように添加することがより好ましい。これにより、上記した性状の前駆体粒子を好適に製造できる。
【0033】
遷移金属の水溶性塩は、上述の通り、前駆体粒子のTM源である。遷移金属の水溶性塩としては、例えば、遷移金属の、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等を適宜使用し得る。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、酸性物質、例えば硫酸塩が好ましい。遷移金属の水溶性塩は、水和物の状態であってもよい。反応液において、遷移金属元素(TM元素)は、初期液のアンモニウムイオン供与体から供与されるアンモニウムイオンと錯体を形成し得る。
【0034】
特に限定されるものではないが、遷移金属の水溶性塩は、反応液中の遷移金属の濃度(複数種類を含む場合は、それらの合計濃度)が、概ね0.1~0.5mol/Lの範囲となるように添加することが好ましく、例えば、0.1~0.3mol/L、0.1~0.29mol/L、あるいは0.3~0.4mol/Lとなるように添加することがより好ましい。これにより、上記した性状の前駆体粒子を好適に製造できる。
【0035】
特に限定されるものではないが、反応液において、遷移金属(複数種類を含む場合は、それらの合計)に対するリチウムのモル比(Li/TM)は、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。これにより、リチウムが充分量となり、上記した性状、例えば上記原子比(Li元素/TM元素)を満たす前駆体粒子を好適に製造できる。上記モル比(Li/TM)は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が特に好ましく、さらには1.7以下、1.5以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下が特に好ましい。これにより、析出した前駆体粒子にリチウム塩が混入することを抑えられ、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。また、Liの使用量を削減して、Li回収率(Li投入量に対するLi析出量の比)を向上でき、生産性を高められる。なお、リチウムに対する遷移金属のモル比は、リチウムのモル濃度に対する遷移金属のモル濃度の比と一致する。
【0036】
アンモニウムイオン供与体としては、初期液調製工程S1に例示したような化合物を適宜使用し得るが、初期液調製工程S1で用いたものと同じ化合物を使用することが好ましい。例えば初期液調製工程S1で硫酸アンモニウムを用いた場合は、本工程でも硫酸アンモニウムを用いることが好ましい。
【0037】
特に限定されるものではないが、アンモニウムイオン供与体は、反応液中のアンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.1~1.5mol/L程度となるように添加することが好ましく、0.2~1.2mol/Lとなるように添加することがより好ましく、0.3~1.1mol/Lとなるように添加することがさらに好ましい。これにより、反応液中の遷移金属元素を好適に錯形成させることができ、後述する試験例にも記載する通り、上記した性状の(特には、上記したタップ密度の範囲を満たす)前駆体粒子を好適に製造できる。ひいては、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。アンモニウムイオンの濃度は、0.45mol/L以上が好ましく、0.6mol/L以上がより好ましく、0.75mol/L以上がさらに好ましく、0.9mol/L以上が特に好ましい。
【0038】
強塩基性化合物は、Li元素および遷移金属元素を核として析出させるための成分、すなわち、沈殿物の形成作用を有する化合物である。強塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、硫酸塩等を適宜使用し得る。これらの強塩基性化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでもアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩が好ましい。炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、なかでも、炭酸ナトリウムが好ましい。本発明者の検討によれば、Li元素はTM元素に比べて相対的に晶析しにくいが、炭酸塩を用いることで、Li元素をLiCOとして好適に晶析させることができる。また、Li元素とTM元素とが炭酸塩として溶液中に析出することで、非晶質の前駆体粒子を得ることができる。
【0039】
強塩基性化合物は、一度に添加してもよいが、反応液のpHが急激に変化することを防止するために、徐々に滴下することが好ましい。強塩基性化合物は、溶液のpHがアルカリ性を呈するように添加することが好ましく、pHが7.5以上、例えば7.5~10、さらには8~9の範囲となるように添加することが好ましい。この場合、溶液中の塩基性化合物の濃度は、例えば、1~10mol/L、好ましくは3~7mol/L程度となり得る。晶析反応の間、反応液のpHは略一定(±0.5程度の範囲内)に維持することが好ましい。
【0040】
なお、反応液は、水と、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物と、で構成されていてもよいし、他の化合物をさらに含んでもよい。反応液に含まれ得る成分の一例として、前駆体粒子に含まれ得る半金属元素(例えばB、Si、P等)や、非金属元素(例えばS、F、Cl、Br、I等)等が挙げられる。
【0041】
本工程の反応温度は、使用する原料の溶解度や、核生成を促進する等の観点から、10℃以上が好ましく、25℃以上が好ましい。一方、アンモニアの揮発を抑制する等の観点から、50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。
【0042】
本工程の反応時間は、例えば反応液中のアンモニウムイオンの濃度や反応温度等によっても変化し得るため、特に限定されるものではないが、概ね1~50時間とすることが好ましく、5~40時間とすることがより好ましい。これにより、後述する試験例にも記載する通り、上記した性状の(特には、上記した平均粒子径の範囲を満たす)前駆体粒子を好適に製造できる。ひいては、電池特性(例えばハイレート特性やサイクル特性)を向上できる。反応時間は、例えば10時間以上、15時間以上であってもよい。また、反応時間は、作業効率や生産性の観点から、例えば30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。
【0043】
本工程では、晶析反応(特には核生成)を促進する観点から、反応液に超音波を照射することが好ましい。これにより、後述する試験例にも記載する通り、Li回収率(Li投入量に対するLi析出量の比)を向上でき、生産性を高められる。さらに、粒子同士の凝集をも抑制し得、上記した性状の(特には、上記した平均粒子径の範囲を満たす)前駆体粒子を得られやすくなる。超音波の照射方法としては、反応槽自体を超音波で振動させてもよいし、反応槽内(反応液中)に超音波振動プローブを投入してもよい。超音波振動の条件は、例えば反応液の組成や反応槽のサイズ等によって適宜設定し得るが、周波数を5~100kHz、10~50kHz、10~30kHz程度に設定し、出力を10~500W、50~100W、100~200W程度とするとよい。
【0044】
なお、強塩基性化合物として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩を用いる場合は、本工程を、CO雰囲気下で行うことが好ましく、初期液調製工程S1~晶析工程S2(本工程)の全工程を、CO雰囲気下で行うことがより好ましい。これにより、後述する試験例にも記載する通り、晶析反応(特には核生成)が促進されて、リチウムの炭酸塩(LiCO)が活発に生成される。したがって、晶析しにくいLi元素を炭酸塩として好適に晶析させることができる。ただし、初期液調製工程S1~晶析工程S2(本工程)は、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0045】
晶析反応により、前駆体粒子は沈殿物として得ることができる。沈殿物は、公知方法に従い、回収することができる。例えば、沈殿物を濾過等の固液分離法によって回収した後、水等で洗浄し乾燥させることで、前駆体粒子を得ることができる。
【0046】
〔リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法〕
本実施形態に係る前駆体粒子は、焼成によりリチウム遷移金属複合酸化物に変換される。すなわち、ここに開示される技術によれば、上記前駆体粒子を焼成する焼成工程を含む、リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法が提供される。このリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適に用いることができる。
【0047】
また、従来一般的に採用されている正極活物質の製造方法においては、例えば特許文献1に記載されるように、リチウムを含まず遷移金属を含有する炭酸塩複合物(前駆体)に、リチウム源を混合して焼成している。これに対して、本実施形態の前駆体粒子は、TM元素に加えてLi元素を含有しているため、本実施形態に係る前駆体粒子を用いる場合には、Li塩を添加する必要がない。したがって、簡便に正極活物質を製造することができ、正極活物質の生産性を向上できる。
【0048】
焼成は、従来公知の焼成炉で行うことができる。特に限定されるものではないが、焼成温度は、例えば、600~1000℃程度とするとよい。焼成時間は、概ね1時間以上、例えば1~48時間、好ましくは5~24時間とするとよい。焼成雰囲気は、得られる酸化物の結晶性を高める観点から、酸素含有雰囲気、例えば、酸素雰囲気ないし大気雰囲気とすることが好ましい。酸素含有雰囲気の酸素濃度は、10体積%以上が好ましく、18~100体積%がより好ましい。
【0049】
〔リチウムイオン二次電池〕
焼成によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、初期容量が向上したものとなる。好ましくは、さらに初期抵抗やサイクル後の抵抗上昇率が小さいものとなり、ハイレート特性やサイクル特性に優れたものとなる。以下、リチウムイオン二次電池の具体的な構成例を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図2は、一実施形態に係る前駆体粒子の焼成物を用いたリチウムイオン二次電池100の構成を模式的に示す断面図である。図2のリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と、非水電解質(図示せず)とが、扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されてなる密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0051】
図3は、捲回電極体20の構成を示す模式分解図である。図2および図3に示すように、捲回電極体20は、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0052】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。正極活物質層54は、正極活物質として、上述の本実施形態に係る前駆体粒子の焼成物であるリチウム遷移金属複合酸化物を少なくとも含む。また正極活物質層54は、導電材、バインダ等をさらに含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0053】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0054】
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができ、その例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70は、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0055】
非水電解質としては、従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、正極材料による低温抵抗の低減効果が特に高くなることから、カーボネート類が好ましい。カーボネート類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0056】
なお、非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒および支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0057】
このようなリチウムイオン二次電池100は、上記製造方法によって製造されたリチウム遷移金属複合酸化物を用いて正極シート50を作製する正極作製工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0058】
以上、一好適例として、扁平形状の捲回電極体を備える角型のリチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、本実施形態に係る前駆体粒子の焼成物であるリチウム遷移金属複合酸化物は、公知方法に従い、他の種類のリチウムイオン二次電池にも使用可能である。例えば、本実施形態に係る前駆体粒子の焼成物であるリチウム遷移金属複合酸化物を用いて、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池を構築することもできる。また、本実施形態に係る前駆体粒子の焼成物であるリチウム遷移金属複合酸化物を用いて、円筒型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池等を構築することもできる。さらに、電解質を固体電解質とした全固体二次電池を構築することもできる。
【0059】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0060】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
≪試験例I≫
<前駆体粒子の作製(比較例1,2、例2~12)>
〔比較例1〕 比較例1では、初期液を調製せず、かつ原料を一度に混合して前駆体粒子を得た。すなわち、まず、N雰囲気において、反応槽に、Li源としての塩化リチウム(LiCl)を2.4mol/L、TM源としての遷移金属硫酸塩の水和物を1.4mol/L、アンモニウムイオン供与体としての水酸化アンモニウム(NHOH)を0.7mol/L、強塩基性化合物としての炭酸ナトリウム(NaCO)を5.1mol/L添加して、反応液を調製し、5時間、晶析反応させた。その後、固液分離を行い、沈殿物を取り出した。この沈殿物をイオン交換水に浸漬して洗浄し、再度固液分離を行い、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を乾燥させて、比較例1の前駆体粒子を得た。
【0062】
〔比較例2〕 比較例2では、初期液を調製せず、かつアンモニウムイオン供与体を使用せずに前駆体粒子を得た。すなわち、まず、N雰囲気において、反応槽に、6.0mol/Lの塩化リチウム(LiCl)水溶液と、1.5mol/Lの遷移金属硫酸塩の水溶液とを、1:2.3の液量比で添加し、混合した。そこへ、pHが8になるように炭酸ナトリウム(NaCO)を滴下して反応液を調製し、10時間、晶析反応させた。その後、比較例1と同様に沈殿物を回収し、比較例2の前駆体粒子を得た。
【0063】
〔例1〕 例1では、まず、N雰囲気において、反応槽に、初期液として、0.1mol/Lの硫酸アンモニウム((NHSO)水溶液を調製した。この初期液に、6.0mol/Lの塩化リチウム(LiCl)水溶液と、1.5mol/Lの遷移金属硫酸塩の水溶液とを、1:1.2の液量比で添加し、さらに、5.8mol/Lの硫酸アンモニウム((NHSO)水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液と同等液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.3mol/Lとなるように)添加し、かつpHが8になるように炭酸ナトリウム(NaCO)を滴下して反応液を調製し、50時間、晶析反応させた。その後、比較例1と同様に沈殿物を回収し、例1の前駆体粒子を得た。
【0064】
〔例2~12〕 例2では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の4.0倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、1.2mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を20時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例3では、反応時間を10時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例4では、反応時間を5時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例5では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の1.5倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.45mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を5時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。
【0065】
例6では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の1.5倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.45mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を10時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例7では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の2倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.6mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を15時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例8では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の2.5倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.75mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を20時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例9では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の3倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、0.9mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を30時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。
【0066】
例10では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の3.5倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、1.05mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を40時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例11では、硫酸アンモニウム水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の3.5倍液量(すなわち、アンモニウムイオン(NH )の濃度が、1.05mol/Lとなるように)添加し、かつ反応時間を20時間としたこと以外は例1と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例12では、初期液を水のみとした(初期液にアンモニウムイオン供与体を添加しなかった)こと以外は例3と同様の方法で、前駆体粒子を得た。合成条件の概要を、表1に示す。
【0067】
<前駆体粒子の性状の測定>
・平均粒子径:市販のレーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いて、前駆体粒子の体積基準の粒度分布を測定し、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径を、平均粒子径(D50)として求めた。結果を表1に示す。
・タップ密度:市販のタッピング式の密度測定装置を用いて、JIS K1469:2003に準拠して、前駆体粒子のタップ密度を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
<Li回収率>
Li析出量(前駆体粒子として回収された量)をLi投入量で除して、Li回収率を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
各例の前駆体粒子を、酸素含有雰囲気下にて、850℃で10時間焼成することにより、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。得られたリチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:AB:PVDF=85:10:5の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔上に塗布し乾燥することにより正極シートを作製した。
【0070】
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比で、イオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを、厚さ10μmの銅箔上に塗布し、乾燥することにより負極シートを作製した。
【0071】
また、セパレータシートとして、PP/PE/PPの三層構造を有する厚さ20μmの多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
【0072】
上記の正極シートと、負極シートと、セパレータシートとを重ね合わせ、電極端子を取り付けてラミネートケースに収容した。続いて、ラミネートケース内に非水電解液を注入し、ラミネートケースを気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、各例の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0073】
<初期容量の測定>
各評価用リチウムイオン二次電池を、1Cの充電レートで4.1Vまで定電流充電した後、0.2Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電して、このときの放電容量を初期容量として算出した。そして、比較例1の評価用リチウムイオン二次電池の初期容量を100とした場合の、他の評価用リチウムイオン二次電池の初期容量の比を求めた。結果を表1に示す。
【0074】
<初期抵抗の測定>
各評価用リチウムイオン二次電池の充電状態(SOC;State of charge)を、50%に調整した後、25℃の環境下に置いた。100mAの電流値で10秒間の放電を行い、電圧降下量ΔVを求めた。かかる電圧降下量ΔVを放電電流値(100mA)で除して、電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。そして、比較例1の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗を200とした場合の、他の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗の比を求めた。結果を表1に示す。
【0075】
<サイクル後の抵抗上昇率評価>
各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の環境下に置き、1Cの充電レートで4.1Vまで定電流充電した後、1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電する充放電を1サイクルとして、この充放電を200サイクル繰り返した。次に、初期抵抗測定と同じ方法で、200サイクル後の電池抵抗を求め、次の式:(200サイクル後の電池抵抗/初期抵抗)×100;から、サイクル後の抵抗上昇率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の結果より、初期液を調製せず、かつ原料を一度に混合した比較例1、および初期液を調製せず、かつ晶析工程でアンモニウムイオン供与体を使用しなかった比較例2では、相対的に初期容量が低かった。これら比較例に対して、少なくとも水を含む初期液を調製し、かつ晶析工程で強塩基性化合物に加えてアンモニウムイオン供与体を添加した例1~12では、相対的に初期容量が高く、高エネルギー密度であった。かかる結果は、ここに開示される発明の技術的意義を示すものである。
【0078】
さらに、晶析工程において、反応液中のアンモニウムイオン(NH )の濃度を、0.3~1.1mol/Lとし、かつ反応時間を、5~40時間とした例3~12では、相対的に初期抵抗が低く、ハイレート特性に優れていた。特に、上記アンモニウムイオン(NH )の濃度を、0.45mol/L以上とすることで、初期抵抗とサイクル後の抵抗上昇率を、いずれも比較例1の半分以下にまで抑えることができた。また、上記アンモニウムイオン(NH )の濃度を、0.6mol/L以上、さらには0.75mol/L以上とすることで、初期抵抗とサイクル後の抵抗上昇率を一層低減することができた。また、例3と例12との比較から、初期液にアンモニウムイオン供与体を含むことで、初期抵抗を低減することができた。
【0079】
≪試験例II≫
<前駆体粒子の作製(例13~17)>
例13~例16では、初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、を添加した。すなわち、例13では、まず、N雰囲気において、反応槽に、0.1mol/Lの硫酸アンモニウム((NHSO)水溶液と、6.0mol/Lの塩化リチウム(LiCl)水溶液と、1.5mol/Lの遷移金属硫酸塩の水溶液とを、6:1:2.4の液量比で添加し、初期液を調製した。この初期液に、6.0mol/Lの塩化リチウム(LiCl)水溶液と、1.5mol/Lの遷移金属硫酸塩の水溶液とを、1:2.4の液量比で添加し、さらに、5.8mol/Lの硫酸アンモニウム((NHSO)水溶液を、遷移金属硫酸塩の水溶液の2.5倍液量添加し、かつpHが8になるように炭酸ナトリウム(NaCO)を滴下して、反応液を調製し、20時間、晶析反応させた。その後、比較例1と同様に沈殿物を回収し、例13の前駆体粒子を得た。
【0080】
例14では、初期液および反応液において、塩化リチウム水溶液と遷移金属硫酸塩の水溶液との混合比を、1:3.2とし、かつCO雰囲気下で反応させたこと以外は例13と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例15では、初期液および反応液において、塩化リチウム水溶液と遷移金属硫酸塩の水溶液との混合比を、1:3.5とし、かつ晶析反応中、反応液に超音波振動プローブを投入し、周波数20kHz、出力150Wの条件で振動を与え続けたこと以外は例14と同様の方法で、前駆体粒子を得た。例16では、初期液および反応液において、塩化リチウム水溶液と遷移金属硫酸塩の水溶液との混合比を、1:3.2とし、かつ晶析反応中、反応液に超音波振動プローブを投入し、周波数20kHz、出力150Wの条件で振動を与え続けたこと以外は例13と同様の方法で、前駆体粒子を得た。
【0081】
例17では、反応液において、塩化リチウム水溶液と遷移金属硫酸塩の水溶液との混合比を、1:1.8とし、かつCO雰囲気下で反応させ、さらに晶析反応中、反応液に超音波振動プローブを投入し、周波数20kHz、出力150Wの条件で振動を与え続けたこと以外は試験例Iの例6と同様の方法で、前駆体粒子を得た。合成条件の概要を、表2に示す。なお、表2には、比較用として試験例Iの例6をあわせて示している。
【0082】
得られた前駆体粒子について、試験例Iと同様に、性状(平均粒子径、タップ密度)を測定し、Li回収率を算出した。さらに、試験例Iと同様に、評価用リチウムイオン二次電池を作製して、電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、初期液に塩化リチウム水溶液と遷移金属硫酸塩の水溶液とを添加した例13は、添加しなかった例8に比べて、相対的に初期抵抗とサイクル後の抵抗上昇率が低減されていた。このことから、初期液に、リチウムの水溶性塩と遷移金属の水溶性塩とを含有させることで、リチウムイオン二次電池のハイレート特性とサイクル特性を一層向上できるとわかった。さらに、Li回収率は例8の約2倍に増加させることができた。
【0085】
また、CO雰囲気下で晶析反応を行った例14は、N雰囲気下で晶析反応を行った例13に比べて、相対的に初期抵抗とサイクル後の抵抗上昇率が低減されていた。このことから、強塩基性化合物として炭酸塩を使用し、かつ晶析工程をCO雰囲気下で行うことで、リチウムイオン二次電池のハイレート特性とサイクル特性を一層向上できるとわかった。さらに、Li回収率も増加させることができた。
【0086】
また、晶析反応中にCO雰囲気下で反応液に超音波を照射した例15は、CO雰囲気下で反応液に超音波を照射しなかった例14に比べて、相対的に初期抵抗とサイクル後の抵抗上昇率が低減されていた。なお、例16(超音波あり)と例13(超音波なし)の比較から、N雰囲気下で晶析反応を行った場合も、同様の傾向が認められた。このことから、反応雰囲気や初期液の組成等に依らず、晶析反応中に反応液に超音波を照射することで、リチウムイオン二次電池のハイレート特性とサイクル特性を一層向上できるとわかった。さらに、Li回収率も増加させることができた。
【0087】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:リチウム元素と遷移金属元素とを含有し、焼成によってリチウム遷移金属複合酸化物に変換される前駆体粒子の製造方法であって、少なくとも水を含む初期液を調製する初期液調製工程と、上記初期液に、リチウムの水溶性塩と、遷移金属の水溶性塩と、アンモニウムイオン供与体と、強塩基性化合物と、を添加して反応液を調製し、上記反応液中に上記リチウムと上記遷移金属とを含有する前駆体粒子を析出させる晶析工程と、を含む、前駆体粒子の製造方法。
項2:上記晶析工程において、上記反応液のアンモニウムイオンの濃度を、0.3mol/L以上1.1mol/L以下とし、かつ反応時間を、5時間以上40時間以下とする、項1に記載の製造方法。
項3:上記初期液が、アンモニウムイオン供与体をさらに含む、項1または項2に記載の製造方法。
項4:上記初期液が、上記リチウムの水溶性塩と、上記遷移金属の水溶性塩と、をさらに含む、項1~項3のいずれか一つに記載の製造方法。
項5:上記強塩基性化合物が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩である、項1~項4のいずれか一つに記載の製造方法。
項6:少なくとも上記晶析工程を、CO雰囲気下で行う、項5に記載の製造方法。
項7:上記晶析工程において、上記反応液に超音波を照射する、項1~項6のいずれか一つに記載の製造方法。
項8:項1~項6のいずれか一つに記載の製造方法で得られた上記前駆体粒子を焼成する焼成工程を含む、リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
項9:項8に記載の製造方法によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物を用いて正極を作製する正極作製工程を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【0088】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0089】
20 捲回電極体
30 電池ケース
42 正極端子
44 負極端子
50 正極シート(正極)
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
64 負極活物質層
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3