(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128182
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】地中除振壁及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/08 20060101AFI20240913BHJP
C09K 17/22 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
E02D31/08
C09K17/22 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037029
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】今村 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 孝行
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】池田 淳
【テーマコード(参考)】
4H026
【Fターム(参考)】
4H026AA09
4H026AB04
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、除振効果の高い地中除振壁及びその構築方法を提供することである。
【解決手段】地中除振壁10は、振動発生源2と除振対象物3との間の地盤4に埋設され、間隔を置かずに前記振動発生源2に沿って配列された1列又は複数列のソイルポリマー柱11を備える。前記ソイルポリマー柱11は、粉砕された現地の自然土と、前記自然土の間に充填されて前記自然土を結合するゲルと、から組成された混和物である。還元剤と酸化剤のうち一方の薬剤とアクリル酸金属塩と水を含有した第1液と、還元剤と酸化剤のうち他方の薬剤と水を含有した第2液とを孔80に供給し、孔80内にて第1液と第2液と自然土81を混合して撹拌し、それを硬化させることによって、前記ソイルポリマー柱11を造成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源と除振対象物との間の地盤に埋設され、間隔を置かずに配列された1列又は複数列のソイルポリマー柱
を備え、
前記ソイルポリマー柱は、粉砕された現地の自然土と、前記自然土の間に充填されて前記自然土を結合するゲルと、から組成された混和物である
地中除振壁。
【請求項2】
前記ゲルがゴム弾性を有する
請求項1に記載の地中除振壁。
【請求項3】
前記ゲルがアクリル酸金属塩ポリマー又はメタクリル酸金属塩ポリマーから構成される
請求項1又は2に記載の地中除振壁。
【請求項4】
前記ゲルがアクリル酸マグネシウム塩ポリマー又はメタクリル酸マグネシウム塩ポリマーである
請求項3に記載の地中除振壁。
【請求項5】
前記ソイルポリマー柱の列の間には間隔があり、又は無い
請求項1又は2に記載の地中除振壁。
【請求項6】
複数のソイルポリマー柱を1列又は複数列に配列させるよう、前記1列又は複数列のソイルポリマー柱を振動発生源と除振対象物との間の地盤に造成する工程を含み、
前記各ソイルポリマー柱を造成する工程は、
前記地盤を削孔することによって前記地盤に形成された孔に、前記地盤の削孔により粉砕された自然土を前記孔に残留させ、還元剤と酸化剤のうち一方の薬剤とアクリル酸金属塩又はメタクリル酸金属塩と水を含有した第1液と、前記還元剤と前記酸化剤のうち他方の薬剤と水を含有した第2液とを前記孔に供給し、前記孔内にて前記第1液と前記第2液と前記自然土を混合して撹拌し、前記第1液と前記第2液と前記自然土の混合物を硬化させる工程である
地中除振壁の構築方法。
【請求項7】
前記第1液と前記第2液のうち一方が架橋剤を含有する
請求項6に記載の地中除振壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中除振壁及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、建物の近くの道路で発生した振動の伝達を遮断する地中除振壁を開示する。この地中除振壁は、建物の地下構造物に一体化されている。
【0003】
特許文献2は、鉄道線路と家屋との間の地盤に埋設された柱列式除振壁を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-64328号公報
【特許文献2】特開2006-45787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術では、地中除振壁と地下構造物との間に隙間ができ、この隙間が防止効果を低減させてしまう。また、本技術の場合、新築時のみに適用が可能であり、既設対象物に対しては適用が難しい。
特許文献2に開示の技術では、複数の地中柱が間隔を置いて千鳥状に配列されているため、地中柱の間から振動が漏れて家屋へ伝播してしまう。そのため、特許文献2に開示の柱列式除振壁の除振効果は高くない。
そこで、本発明は、除振効果の高い地中除振壁及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための本発明の第1の側面によれば、地中除振壁が、振動発生源と除振対象物との間の地盤に埋設され、間隔を置かずに配列された1列又は複数列のソイルポリマー柱を備え、前記ソイルポリマー柱は、粉砕された現地の自然土と、前記自然土の間に充填されて前記自然土を結合するゲルと、から組成された混和物である。
【0007】
本発明の第2の側面によれば、前記ゲルがゴム弾性を有してもよい。
【0008】
本発明の第3の側面によれば、前記ゲルがアクリル酸金属塩ポリマー又はメタクリル酸金属塩ポリマーから構成されてもよい。
【0009】
本発明の第4の側面によれば、前記ゲルがアクリル酸マグネシウム塩ポリマー又はメタクリル酸マグネシウム塩ポリマーであってもよい。
【0010】
本発明の第5の側面によれば、前記ソイルポリマー柱の列の間には間隔があってもよいし、そうでなくてもよい。
【0011】
本発明の第6の側面によれば、地中除振壁の構築方法は、複数のソイルポリマー柱を1列又は複数列に配列させるよう、前記1列又は複数列のソイルポリマー柱を振動発生源と除振対象物との間の地盤に造成する工程を含む。前記各ソイルポリマー柱を造成する工程は、前記地盤を削孔することによって前記地盤に形成された孔に、前記地盤の削孔により粉砕された自然土を前記孔に残留させ、還元剤と酸化剤のうち一方の薬剤とアクリル酸金属塩又はメタクリル酸金属塩と水を含有した第1液と、前記還元剤と前記酸化剤のうち他方の薬剤と水を含有した第2液とを前記孔に供給し、前記孔内にて前記第1液と前記第2液と前記自然土を混合して撹拌し、前記第1液と前記第2液と前記自然土の混合物を硬化させる工程である。
【0012】
本発明の第7の側面によれば、前記第1液と前記第2液のうち一方が架橋剤を含有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ソイルポリマー柱の列が振動発生源から除振対象物への地中波の伝播を防止し、地中除振壁による除振効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、振動発生源と除振対象物との間の地盤に埋設された地中除振壁の斜視図である。
【
図3】
図3は、地中除振壁のソイルポリマー柱の造成工程を示した工程図である。
【
図4】
図4は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【
図5】
図5は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【
図6】
図6は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【
図7】
図7は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【
図8】
図8は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【
図9】
図9は、変形例の地中除振壁の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。実施形態の特徴及び技術的な効果は、以下の詳細な説明及び図面から理解される。ただし、本発明の範囲は、以下に開示された実施形態に限定されない。図面は例示のみのために提供されるため、本発明の範囲は図面の例示に限定されない。以下の説明では、「アクリル」という語を「メタクリル」という語に読み替え、「アクリレート」という語を「メタクリレート」という語に読み替えてもよい。
【0016】
[1. 地中除振壁の構築場所]
図1は、地中除振壁10を示す。
図1では、地盤4の断面が示されている。
図1に示すように、地中除振壁10は、振動発生源2と除振対象物3との間の地盤4に埋設されている。
【0017】
振動発生源2は、例えば地上又は地中に設置されている。振動発生源2は、例えば鉄道線路、鉄道高架橋、地下鉄線路、地下道、車道高架橋、工場、工事現場又は滑走路である。振動発生源2はそれ自体が振動を発生させるか、振動発生源2において動作し、走行し又は滑走する建設機械、列車、自動車及び航空機などのような機械が振動を発生させる。振動発生源2において発生した振動は地中波として地中を伝播する。
【0018】
除振対象物3は、振動発生源2において発生した振動を伝えたくない対象物である。除振対象物3は、例えば住宅、住宅群、集合住宅、学校、幼稚園、保育園、図書館、精密機械工場又はオフィスビルである。
【0019】
[2. 地中除振壁]
地中除振壁10は、振動発生源2から地中除振壁10に伝播した地中波の振動エネルギーを吸収して、その地中波を除振対象物3の方へ伝えない。
【0020】
地中除振壁10は、振動発生源2と除振対象物3との間において、間隔を置かずに振動発生源2に沿って配列された1列のソイルポリマー柱11を有する。隣り合うソイルポリマー柱11は、互いに密接して一体化されている。ソイルポリマー柱11は除振対象物3の地下構造物から離れており、土砂がソイルポリマー柱11と除振対象物3の地下構造物との間に存在する。
【0021】
ソイルポリマー柱11の頂から底までの長さは、振動発生源2において発生する振動の周波数に基づいて設定されていてもよい。全てのソイルポリマー柱11は長さが等しくてもよい。これらソイルポリマー柱11の長さが不揃いであってもよい。
【0022】
ソイルポリマー柱11は乾燥に弱く、地中または被覆されていることが望ましいため、ソイルポリマー柱11は、地面の下、強いては、地下水面下に埋まっていることが望ましい。これらソイルポリマー柱11は、頂(頭部)から底までの長さが異なっていてもよいし、等しくてもよい。
なお、ソイルポリマー柱11は乾燥に弱い為、現場で地震等、何らかの原因に起因して地下水位が下がり、ソイルポリマー柱11の一部(上方部)が乾燥状態になっても再び、地下水が上昇し、ソイルポリマー柱11が水を含めば、元のソイルポリマー柱の性状に復元する。
【0023】
図2は、地中除振壁10の水平断面図である。
図2に示すように、各ソイルポリマー柱11は、その側面に、鉛直な中心軸11aの回りの凸円弧状の柱面11b,11cを有する。ソイルポリマー柱11の側面とは、ソイルポリマー柱11が配列される列方向に沿う面をいう。隣り合うソイルポリマー柱11の中心軸11aの間隔は、柱面11bから中心軸11aを通って柱面11cまでの直径よりも短い。これらソイルポリマー柱11の柱面11bが列方向に連続しており、ソイルポリマー柱11の列の側面が波打った波面状に成している。これらソイルポリマー柱11の柱面11cが列方向に連続しており、ソイルポリマー柱11の列の側面が波打った波面状に成している。なお、ソイルポリマー柱11が四角柱状に成してもよい。
【0024】
柱面11bから中心軸11aを通って柱面11cまでの直径は、振動発生源2において発生する振動の周波数に基づいて設定されていてもよい。
【0025】
ソイルポリマー柱11の組成について説明する。
ソイルポリマー柱11は、粉砕された現地の自然土と、その自然土の間に充填されてその自然土を結合するゲルと、から組成された混和物である。
【0026】
ゲルは、弾性ヒステリシスのあるゴム弾性を有する。ゲルは、例えばアクリル酸金属塩ポリマーから構成される。ソイルポリマー柱11がゴム弾性のゲルを含有するため、地中除振壁10が地中波の振動エネルギーを吸収しやすい。弾性ヒステリシスとは、ゲルに荷重を与えてゲルにひずみを生じさせた場合、そのひずみが現在の荷重のみならず過去の荷重の影響を受けることをいう。つまり、ゲルに荷重を与えた後に除荷すると、荷重付与の際の応力ひずみ曲線が除荷の際の応力ひずみ曲線に重ならず、その現象のことを弾性ヒステリシスという。
【0027】
アクリル酸金属塩ポリマーは、アクリル酸マグネシウム塩などのようなアクリル酸金属塩をモノマーとして、アクリル酸金属塩を重合且つ架橋させた重合体である。アクリル酸金属塩は、例えば、アクリル酸マグネシウム塩、アクリル酸リチウム塩、アクリル酸ナトリウム塩、アクリル酸カリウム塩、アクリル酸カルシウム塩又はアクリル酸バリウム塩であってよい。アクリル酸金属塩、特にアクリル酸マグネシウム塩は、人体等の動植物に対する毒性が低い。
【0028】
アクリル酸金属塩ポリマーは、液状組成物が重合によりゲル化したものである。液状組成物は、アクリル酸マグネシウム塩などのようなアクリル酸金属塩と、ポリアルキレングリコールジアクリレートなどのような架橋剤と、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)などのような酸化剤と、チオ硫酸ナトリウムなどのような還元剤と、水とを含有する。液状組成物は、アクリル酸金属塩、架橋剤、酸化剤、還元剤及び水以外に添加物を含有してもよい。
【0029】
アクリル酸金属塩は主剤である。重合前の液状組成物におけるアクリル酸金属塩の含有率が高いほど、重合後のソイルポリマー柱11の弾性係数が高い。重合前の液状組成物におけるアクリル酸金属塩の含有率が高いほど、重合前の液状組成物における架橋剤の含有率が高いことが好ましい。
【0030】
架橋剤は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)などのような多価金属化合物又はポリアルキレングリコールジアクリレートである。
多価金属化合物は、アクリル酸金属塩以外の多価金属化合物である。多価金属塩化合物は、二価又は三価以上の金属塩化合物であってよい。二価の金属としては、マグネシウム、カルシウム及びバリウム等が挙げられる。三価以上の金属としてはアルミニウム、チタン及びセリウム等が挙げられる。これらの内でも得られるゲルの強度を制御し易い点から三価の金属塩化合物が好ましい。多価金属化合物の具体的な化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ミョウバン、ナトリウムミョウバン、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム)、ポリ硫酸塩化アルミニウム(塩基性硫酸塩化アルミニウム)、塩化チタン及び硝酸セリウム等が挙げられる。
ポリアルキレングリコールジアクリレートは、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリブチレングリコールジアクリレート、又は、ポリエチレン-ポリプロピレンブロック重合体のジアクリレートである。ポリエチレングリコールジアクリレートとしては、東亞合成社製の商品名「アロニックス(登録商標)M-245」が挙げられる。ポリアルキレングリコールジアクリレートは、例えばポリアルキレングリコールとアクリル酸との反応から得ることができる。
【0031】
酸化剤及び還元剤は、レドックス系重合開始剤などのような重合開始剤の構成要素である。
【0032】
酸化剤は、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩化合物である。酸化剤は、例えば過炭酸ソーダ、過ホウ酸ソーダ、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム及び過酸化水素などのような過酸化物であってもよい。
【0033】
還元剤は、例えばチオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸カリウムなどのようなチオ硫酸塩化合物である。還元剤は、例えば重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸カリウムなどのような重亜硫酸塩化合物であってもよい。還元剤は、次亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム(ロンガリット)、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、第一鉄塩、チオ尿素、硫酸銅又はアミン類であってもよい。アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ジメチルアミノプロピオニトリル、ジメチルアミノプロパノール、ピペラジン及びモルホリンなどが挙げられる。
【0034】
液状組成物に含有される添加物としては、例えばアクリル酸金属塩の重合速度を遅らせる遅延剤がある。
【0035】
液状組成物の一例として、アクリル酸マグネシウム塩とポリエチレングリコールジアクリレート(アロニックスM-245)とペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)と、チオ硫酸ナトリウムと水の混合物が挙げられる。
【0036】
[3. 地中除振壁の構築方法]
図3を参照して、地中除振壁10の構築方法について説明する。
図3は、1体のソイルポリマー柱11を造成する工程を(a)から(g)までの順に示した工程図である。
【0037】
図3(a)に示すように、削孔撹拌装置70を振動発生源2の脇に設置する。削孔撹拌装置70は、ロッド71、掘削撹拌器72、回転駆動機、昇降機、第1供給機及び第2供給機を有する。ロッド71は1重管構造又は2重管構造となっている。掘削撹拌器72はロッド71の下端に接続されている。掘削撹拌器72は、ロッド71の下端に接続されるシャフト73と、シャフト73から径方向外方へ延び出た複数の撹拌翼74と、最も下の撹拌翼74に取り付けられたビット75と、シャフト73の下端に取り付けられたビット76と、シャフト73の下端に設けられたノズルとを有する。ロッド71が地上において回転駆動機に連結されている。回転駆動機は、ロッド71を回転駆動する。回転駆動機は、昇降機に搭載されている。昇降機は、ロッド71及び回転駆動機を昇降させる。第1供給機が第1供給管及びスイベルを介してロッド71に接続される。第1供給機は、第1液をロッド71に供給する。第2供給機が第2供給管及び前記スイベルを介してロッド71に接続されている。第2供給機は、第2液をロッド71に供給する。なお、削孔撹拌装置70が、昇降機に搭載されるとともに、ロッド71を通じて掘削撹拌器72に起振力を与える起振機を備えてもよい。
【0038】
次に、第1液及び第2液を準備して、第1液及び第2液をそれぞれ第1供給機及び第2供給機に入れる。第1液及び第2液は重合前の液状組成物の構成要素であり、第1液と第2液が混合されることによって液状組成物が生成される。液状組成物の組成のうち酸化剤と還元剤が別々に第1液と第2液に含有していれば、アクリル酸金属塩及び架橋剤が第1液と第2液のどちらに含有してもよい。例えば、第1液と第2液の組成は、下記の表の中の(a)~(d)の何れかの通りである。なお、第1液の一例として、アクリル酸マグネシウム塩と、ポリエチレングリコールジアクリレート(アロニックスM-245)とペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)と水の混合物が挙げられ、第2液の一例として、チオ硫酸ナトリウムと水の混合物が挙げられる。
【0039】
【0040】
次に、
図3(b)及び
図3(c)に示すように、ロッド71及び掘削撹拌器72を回転駆動機により回転駆動しながら、ロッド71及び掘削撹拌器72を昇降機により下方へ推進させることによって、掘削撹拌器72を地盤4に貫入する。これにより、地盤4を削孔するとともに、掘削撹拌器72のビット75,76により粉砕されて孔80内に残留した自然土81を掘削撹拌器72の撹拌翼74により撹拌する。自然土は撹拌により更に粉砕される。
【0041】
なお、掘削撹拌器72を地盤4に貫入するのと並行して、第1供給機及び第2供給機により第1液及び第2液をロッド71に供給してもよい。この場合、第1液及び第2液がロッド71を通じて掘削撹拌器72へ送られて、第1液及び第2液が掘削撹拌器72のノズルから噴出される。第1液及び第2液が互いに混合されて液状組成物になり、更に液状組成物が自然土と混合され、液状組成物と自然土の混合体が掘削撹拌器72の撹拌翼74により撹拌される。第1液及び第2液は、ロッド71内にて混合されることなく別々に掘削撹拌器72に送られてもよいし、ロッド71内にて混合されて掘削撹拌器72に送られてもよい。つまり、ロッド71は、第1液及び第2液のそれぞれが流通する2つの流路を有してもよいし、第1液及び第2液に共通の1つの流路を有してもよい。特に、液状組成物のゲル化速度が速いのであれば、第1液及び第2液は、ロッド71内にて混合されることなく別々に掘削撹拌器72に供給されて、混合された状態で又は別々に掘削撹拌器72から噴出されることが好ましい。
【0042】
次に、
図3(d)及び
図3(e)に示すように、昇降機により掘削撹拌器72を孔80の底から引き上げて、先端処理を実施する。先端処理とは、孔80の底を締め固めることをいい、例えば第1液及び第2液を掘削撹拌器72のノズルから噴出しながら、掘削撹拌器72を孔80の底へ押し込むことをいう。
【0043】
次に、
図3(e)及び
図3(f)に示すように、ロッド71及び掘削撹拌器72を回転駆動機により回転駆動しながら、ロッド71及び掘削撹拌器72を昇降機により引き上げる。この際、第1供給機及び第2供給機により第1液及び第2液をロッド71に供給し、第1液及び第2液を掘削撹拌器72のノズルから噴出してもよい。特に掘削撹拌器72の貫入時に第1液及び第2液を供給していなければ、掘削撹拌器72の引き上げ時に第1液及び第2液を必ず供給する。特に、液状組成物のゲル化速度が速いのであれば、掘削撹拌器72の貫入時に第1液及び第2液を供給せずに、掘削撹拌器72の引き上げ時に第1液及び第2液を供給することが好ましい。
【0044】
掘削撹拌器72の引き上げ及び回転により、液状組成物と自然土の混合物82が掘削撹拌器72の撹拌翼74により撹拌される。
【0045】
掘削撹拌器72の孔80の上端まで引き上げたら、掘削撹拌器72を孔80から地上へ引き上げる。孔80内の混合物82が硬化して、ソイルポリマー柱11となる。
【0046】
その後、振動発生源2に沿って位置を変えて、同様にして別のソイルポリマー柱11を造成する。
【0047】
なお、ソイルポリマー柱11の造成順序はどのような順であってもよい。例えば、ソイルポリマー柱11を並び順に造成してもよい。1つ置きの並び順にソイルポリマー柱11を造成し、その後、それらソイルポリマー柱11の間にソイルポリマー柱11を順に造成してもよい。隣り合わない2以上のソイルポリマー柱11を同時に造成してもよい。隣り合うソイルポリマー柱11を同時に造成してもよく、この場合、隣り合う掘削撹拌器72の撹拌翼74が上下にずれていることによってこれら撹拌翼74の干渉を防止できる。
【0048】
先に造成したソイルポリマー柱11の隣りにソイルポリマー柱11を造成する際には、先のソイルポリマー柱11のうち後の孔80と重なる部分が掘削撹拌器72により粉砕されて、後の混合物82と混合される。
先に造成したソイルポリマー柱11の隣りにソイルポリマー柱11を造成する場合、先のソイルポリマー柱11の硬化前に隣りソイルポリマー柱11を造成してもよいし、先のソイルポリマー柱11の硬化後に隣りソイルポリマー柱11を造成してもよい。
【0049】
なお、撹拌翼74が折り畳めるように、撹拌翼74の基端が回転可能にシャフト73に連結されてもよい。この場合、掘削撹拌器72の貫入時には、撹拌翼74をシャフト73に沿って折り畳んだ状態で、掘削撹拌器72のビット76により地盤4を削孔する。その後、撹拌翼74を展開する。その後、掘削撹拌器72を回転させながら引き上げると、孔の周囲の地盤4が撹拌翼74によって粉砕されるため、孔が拡径されるよう地盤4が削孔される。掘削撹拌器72の回転及び引き上げの際には、第1液及び第2液を掘削撹拌器72のノズルから噴出するため、粉砕された自然土と液状組成物が混合されて撹拌される。
【0050】
[4. 有利な効果]
ソイルポリマー柱11がゴム弾性のゲルを含有するため、ソイルポリマー柱11が振動エネルギーを吸収しやすい。そのような複数のソイルポリマー柱11が、振動発生源2に沿って配列されて、振動発生源2と除振対象物3の間の地盤に埋設されているため、振動発生源2において発生した地中波がこれらソイルポリマー柱11によって減衰される。よって、ソイルポリマー柱11の列は、振動発生源2から除振対象物3への地中波の伝播を防止する。
【0051】
ソイルポリマー柱11が、アクリル酸金属塩ポリマーからなるゲルと自然土とから組成される混和物である。そのため、ソイルポリマー柱11は適度な硬さ及び粘弾性を有する。このようなソイルポリマー柱11は、地中波の振動エネルギーの吸収性に優れている上、周囲の地盤4の崩壊を抑制する。
【0052】
複数のソイルポリマー柱11が間隔を置かずに連続して配列されている。そのため、地中波が地中除振壁10によって遮断され、地中波の漏れが起こりにくい。
【0053】
ソイルポリマー柱11に含有されたアクリル酸金属塩ポリマー、特にアクリル酸マグネシウム塩ポリマーは、ソイルポリマー柱11の周囲の地盤4を汚染しない。
【0054】
掘削により発生した自然土がソイルポリマー柱11の材料に用いられるため、その自然土を有効利用することができ、建設残土の発生を抑制できる。地中除振壁10の原材料の量も抑制できる。
【0055】
ソイルポリマー柱11を造成する工程には、周囲の土留めなどが不要である。そのため、振動発生源2と除振対象物3の間が狭隘であっても、地中除振壁10を構築することができる。
【0056】
ソイルポリマー柱11がゴム弾性のゲルを含有するため、地中除振壁10の靱性が高い。
【0057】
[5. 変形例]
以上、実施形態について説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態及び図示例に限定されるものではない。以下に、上記の実施形態から変更した幾つかの変形例を挙げる。以下に挙げる複数の変更点のうち幾つかを組み合わせて適用してもよい。
【0058】
(1) 第1の変形例
上記実施形態では、隣り合うソイルポリマー柱11の中心軸11aの間隔が、柱面11bから中心軸11aを通って柱面11cまでの直径よりも短い。それに対して、
図4に示すように、隣り合うソイルポリマー柱11の中心軸11aの間隔がソイルポリマー柱11の直径に等しくてもよい。つまり、ソイルポリマー柱11が円柱状に成しており、隣り合うソイルポリマー柱11が接していてもよい。この場合、先に造成したソイルポリマー柱11の隣りにソイルポリマー柱11を造成する際には、先のソイルポリマー柱11が掘削撹拌器72により粉砕されない。
【0059】
(2) 第2の変形例
上記実施形態では、地中除振壁10は1列のソイルポリマー柱11を有する。それに対して、
図5に示すように、地中除振壁10が2列のソイルポリマー柱11を有してもよい。2列は互いに平行である。2列のソイルポリマー柱11は、除振効果の向上に寄与する。
【0060】
一方の列のソイルポリマー柱11の組成が他方の列のソイルポリマー柱11の組成と異なってもよく、このことは、地中除振壁10によって遮断される地中波の周波数の広域化又は多様化に寄与し得る。ただし、一方の列のソイルポリマー柱11の組成が他方の列のソイルポリマー柱11の組成と同じであってもよい。
【0061】
一方の列のソイルポリマー柱11の成分比が他方の列のソイルポリマー柱11の成分比と異なってもよく、このことは、地中除振壁10によって遮断される地中波の周波数の広域化又は多様化に寄与し得る。ただし、一方の列のソイルポリマー柱11の成分比が他方の列のソイルポリマー柱11の成分比と同じであってもよい。
【0062】
列の間の地盤4が掘削されることによって、これらの列の間に凹所が形成されていてもよく、この場合、凹所の深さはソイルポリマー柱11の頂から底までの長さよりも小さくてもよい。勿論、列の間に凹所がなくてもよい。列の間に凹所が形成されることによって、除振効果が向上する。特に、凹所は、地中除振壁10によって遮断される地中波の周波数の広域化又は多様化に寄与する。凹所には、現地の自然土以外の充填物(例えば、粘土、シルト、砂、砂利、礫、ポリマーゲル、ソイルポリマー)が埋められてもよい。
【0063】
図5に示す例では、一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置が、他方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置に、揃っている。それに対して、
図6に示すように、一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置が、他方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置から、列方向にずれて、2列のソイルポリマー柱11の中心軸11aがジグザグに配置されていてもよい。ずれ量は例えば中心軸11aのピッチの半分である。
【0064】
図5及び
図6に示す例では、列の間に間隔が設けられている。それに対して、列の間に間隔が設けられなくてもよい。この場合、一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aを結んだ線から、他方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aを結んだ線までの間隔は、柱面11bから中心軸11aを通って柱面11cまでの直径に等しくてもよいし、それよりも短くてもよい。一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aを結んだ線から、他方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aを結んだ線までの間隔がソイルポリマー柱11の直径に等しい場合、何れのソイルポリマー柱11も円柱状であり、一方の列のソイルポリマー柱11が他方の列のソイルポリマー柱11に接している。
【0065】
第2のソイルポリマー柱が、ソイルポリマー柱11の列とソイルポリマー柱11の列の間に設けられてもよい。例えば
図7に示すように、第2のソイルポリマー柱12が、一方の列の先頭のソイルポリマー柱11と他方の列の先頭のソイルポリマー柱11との間に設けられ、ソイルポリマー柱12が、一方の列の最後尾のソイルポリマー柱11と他方の列の最後尾のソイルポリマー柱11との間に設けられてもよい。これらソイルポリマー柱12は、粉砕された現地の自然土と、その自然土の間に充填されてその自然土を結合するゲルと、から組成された混和物である。ソイルポリマー柱12の組成がソイルポリマー柱11の組成と異なってもよいし、同じであってもよい。ソイルポリマー柱12の成分比がソイルポリマー柱11の成分比と異なってもよいし、同じであってもよい。
【0066】
図5、
図6及び
図7に示す例では、地中除振壁10が2列のソイルポリマー柱11を有する。それに対して、地中除振壁10が3列以上のソイルポリマー柱11を有してもよく、この場合、列の間に間隔が設けられてもよいし、そうでなくてもよい。ソイルポリマー柱11が3列以上に配列されている場合でも、隣り合う列のうち一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置が、他方のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置から、列方向にずれて、隣り合う列のソイルポリマー柱11の中心軸11aがジグザグに配置され、全体としてソイルポリマー柱11が千鳥状に配列されていてもよい。また、ソイルポリマー柱11が3列以上に配列されている場合でも、隣り合う列のうち一方の列のソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置が、他方の列にソイルポリマー柱11の中心軸11aの列方向における位置に、揃っていて、全体としてソイルポリマー柱11が格子状に配列されていてもよい。
【0067】
第1の変形例において列方向に隣り合う円柱状のソイルポリマー柱11が接していることについて説明したが、その説明は、ソイルポリマー柱11が複数列に配列されている場合でも、複数列のうち少なくとも1つの列に適用してもよい。その説明が全列に適用されてもよい。例えば、
図8又は
図9に示すように、各列では、複数の円柱状のソイルポリマー柱11が接して配列されており、全体としてソイルポリマー柱11が千鳥状に配置されている。
図8では、隣り合う列が離れており、
図9では、隣り合う列が接している。
【0068】
(3) 第3の変形例
上記実施形態では、地中除振壁10は1列のソイルポリマー柱11を有する。それに対して、
図10に示すように、地中除振壁10が1列のソイルポリマー柱11と1列のソイルセメント柱14を有してもよい。これらソイルセメント柱14は、振動発生源2と除振対象物3との間の地盤4に埋設されているとともに、間隔を置かずに振動発生源2に沿って配列されている。ソイルセメント柱14の列はソイルポリマー柱11の列に対して平行である。
【0069】
ソイルセメント柱14は、粉砕された現地の自然土と、その自然土の間に充填されてその自然土を結合するセメントと、から組成された混和物である。
【0070】
ソイルセメント柱14はソイルポリマー柱11と同様に造成され、ソイルセメント柱14の列はソイルポリマー柱11と同様に造成される。ただし、ソイルポリマー柱11の造成に際しては、第1液及び第2液を掘削撹拌器72のノズルから噴出するのに対して、ソイルセメント柱14の造成に際しては、フレッシュセメントを掘削撹拌器72のノズルから噴出する点で、ソイルセメント柱14の造成方法がソイルポリマー柱11の造成方法と異なる。
【0071】
ソイルポリマー柱11の列がソイルセメント柱14の列よりも除振対象物3の方に寄り、ソイルセメント柱14の列がソイルポリマー柱11の列よりも振動発生源2の方に寄っている。ただし、逆に、ソイルセメント柱14の列がソイルポリマー柱11の列よりも除振対象物3の方に寄り、ソイルポリマー柱11の列がソイルセメント柱14の列よりも振動発生源2の方に寄っていてもよい。
【0072】
ソイルポリマー柱11の列に加えてソイルセメント柱14の列が振動発生源2と除振対象物3の間の地盤4に埋設されていることは、除振効果の向上に寄与する。
【0073】
なお、列の先頭のソイルポリマー柱11と列の先頭のソイルセメント柱14との間に、ソイルポリマー柱又はソイルセメント柱が設けられてもよい。同様に、列の最後尾のソイルポリマー柱11と列の最後尾のソイルセメント柱14との間に、ソイルポリマー柱又はソイルセメント柱が設けられてもよい。
【0074】
また、ソイルポリマー柱11の列とソイルセメント柱14の列との間の地盤4が掘削されることによって、これらの列の間に凹所が形成されていてもよく、この場合、凹所の深さはソイルポリマー柱11の頂から底までの長さよりも小さい。勿論、これら列の間に凹所がなくてもよい。
【0075】
第2の変形例において2列の複数のソイルポリマー柱11の配置について説明したが、その説明はソイルポリマー柱11及びソイルセメント柱14の配置にも適用できる。
第2の変形例において3列以上のソイルポリマー柱11について説明したが、そのうち少なくとも1列(但し、全列を除く。)がソイルセメント柱14の列に置き換えられてもよい。
第1の変形例において列方向に隣り合う円柱状のソイルポリマー柱11が接していることについて説明したが、その説明は、ソイルポリマー柱11の列に適用せずに、ソイルセメント柱14の列に適用してもよいし、ソイルセメント柱14の列とソイルポリマー柱11の列の両方に適用してもよい。
【0076】
(4) 第4の変形例
列の最後尾のソイルポリマー柱11から列方向に間隔を置いて、更に複数のソイルポリマー柱11が間隔を置かずに振動発生源2に沿って列方向に配列されてもよい。
【0077】
(5) 第5の変形例
上記実施形態では、ソイルポリマー柱11がストレートに配列されているが、ソイルポリマー柱11が湾曲に配列されてもよい。例えば、ソイルポリマー柱11が波線に沿って配列されてもよいし、三角波に沿って配列されてもよい。なお、ソイルポリマー柱11が三角波に沿って複数列に配列された上で、他の複数のソイルポリマー柱がそれら列の間に設けられることによって、全体として複数のソイルポリマー柱11と他の複数のソイルポリマー柱がハニカム状に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
2 振動発生源
3 除振対象物
4 地盤
10 地中除振壁
11 ソイルポリマー柱
80 孔
81 自然土
82 混合物