(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128222
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】バッテリ識別システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240913BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240913BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240913BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240913BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H02J7/02 H
G01R31/389
H01M10/48 P
H01M10/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037080
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真史
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 徹
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA51
2G216CB01
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB01
5G503EA09
5G503GD06
5G503HA01
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】バッテリの製造者(メーカ)の違い等の種別を識別するにあたり、識別のための専用回路や専用端子といった専用部品を改めて設けることなく、既存の部品のみで識別できるようにすること。
【解決手段】複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール、及び、前記バッテリモジュールに固有の導線を介して接続される電子制御ユニットからなるバッテリ装置における前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ識別システムにおいて、前記バッテリモジュールの内部抵抗、前記バッテリモジュールに固有の導線の抵抗、及び、電子制御ユニットの内部抵抗で構成される経路抵抗の抵抗値を得る抵抗値取得部と、前記抵抗値取得部において取得した抵抗値から前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ種別識別部とを備えることにより、上記の課題を解決することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール、及び、前記バッテリモジュールに固有の導線を介して接続される電子制御ユニットからなるバッテリ装置における前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ識別システムにおいて、
前記バッテリモジュールの内部抵抗、前記バッテリモジュールに固有の導線の抵抗、及び、電子制御ユニットの内部抵抗で構成される経路抵抗の抵抗値を得る抵抗値取得部と、
前記抵抗値取得部において取得した抵抗値から前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ種別識別部と
を備えるバッテリ識別システム。
【請求項2】
前記バッテリ種別は、前記バッテリモジュールの製造者種別である請求項1に記載のバッテリ識別システム。
【請求項3】
前記抵抗値取得部は、前記電子制御ユニットの均等化回路内のスイッチをオンにした際に、前記電子制御ユニットの電圧検出回路によって測定された前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルの電圧値から前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値を求める請求項1又は2に記載のバッテリ識別システム。
【請求項4】
前記バッテリ種別識別部は、前記抵抗値取得部で求めた前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値の差分から前記バッテリ種別を識別する請求項3に記載のバッテリ識別システム。
【請求項5】
前記バッテリ種別識別部は、前記抵抗値取得部で求めた前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値の差分に基づき、前記差分が予め設定された閾値を超えるものであるか、又は、閾値以下のものであるかの関係をパターン化して前記バッテリ種別を識別する請求項3に記載のバッテリ識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ識別システムに関し、特に、バッテリの製造者(メーカ)を識別するバッテリ識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリに、当該バッテリの製造者(メーカ)と異なる製造者(メーカ)のバッテリ制御ソフトが組み付けられた場合には、バッテリに劣化が生じることがあることから、バッテリの製造者(メーカ)を識別し、どの製造者が製造したバッテリであるかを把握することは従来から必要とされてきた。バッテリの製造者(メーカ)の違い等の識別の手法としては、従来においては、バッテリの所定電位を検出することで識別する手法、バッテリモジュールの中に抵抗を組み付け、当該抵抗の抵抗値を計測して識別する手法、バッテリモジュールを当該バッテリモジュールに専用の電子制御装置(ECU)に設定されたIDを用いて識別する手法などが採用されてきた。
【0003】
従来のバッテリの識別方法においては、いずれも、識別のための専用回路や専用端子といった専用の部品を用いる必要があった。これらの専用回路、専用端子を設けるためのコストの増大が課題となっている。
【0004】
特許文献1には、予めバッテリにそのバッテリの種類に対応した所定電位の判別端子を設け、この判別端子の電位を設置電位からの電位差である電圧として検出することによりバッテリの種別を識別する発明が開示されている。特許文献1の発明では、バッテリの種別に対応した専用の判別端子を設ける必要があり、そのためのコストの増大は避けられないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッテリの製造者(メーカ)の違い等を識別する手法として、識別のための専用回路や専用端子などの専用部品を設けることなく、バッテリの製造者(メーカ)の違い等を識別する手法は、これまでに開発されていない。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑み、バッテリの製造者(メーカ)の違い等の種別を識別するにあたり、識別のための専用回路や専用端子といった専用部品を改めて設けることなく、既存の部品のみで識別できるようにし、それによってコストダウンや識別のための装置の軽量化に寄与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本件発明のバッテリ識別システムは、複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール、及び、前記バッテリモジュールに固有の導線を介して接続される電子制御ユニット(ECU)からなるバッテリ装置における前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ識別システムにおいて、前記バッテリモジュールの内部抵抗、前記バッテリモジュールに固有の導線の抵抗、及び、電子制御ユニット(ECU)の内部抵抗で構成される経路抵抗の抵抗値を得る抵抗値取得部と、前記抵抗値取得部において取得した抵抗値から前記バッテリモジュールのバッテリ種別を識別するバッテリ種別識別部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記の発明の構成により、バッテリ種別を識別するにあたり、識別のための専用端子などの専用部品を改めて設けることなく、バッテリモジュールにおいて既存の部品である当該バッテリモジュールに接続される導線(ハーネス)の違いのみによってバッテリ種別を識別できるようになり、それによってバッテリモジュールにバッテリ識別のための抵抗を組み込むなどの必要がなくなることから、バッテリ識別においてのコストダウンやバッテリの軽量化に寄与するという作用効果を奏する。
【0010】
また、本件発明においては、前記バッテリ種別は前記バッテリモジュールの製造者種別である。この構成によって、本件発明は、バッテリモジュールに接続される導線(ハーネス)の違いのみによってバッテリの製造者(メーカ)を識別できるようになる。
【0011】
本件発明においては、また、前記抵抗値取得部は、前記電子制御ユニット(ECU)の均等化回路内のスイッチ(均等化SW)をオンにした際に、前記電子制御ユニット(ECU)の電圧検出回路(CVS)によって測定された前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルの電圧値から前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値を求める。この構成によって、本件発明は、専用回路を改めて設置することなく、既存の電子制御ユニット(ECU)の電圧検出回路(CVS)によってバッテリ種別を識別できるようになり、バッテリ識別におけるコストダウンに寄与するという作用効果を奏する。
【0012】
本件発明においては、また、前記バッテリ種別識別部は、前記抵抗値取得部で求めた前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値の差分からバッテリ種別を識別する。この構成によって、本件発明は、単独の経路抵抗の抵抗値からバッテリ種別を識別するよりも正確にバッテリ種別を識別することができるという作用効果を奏する。
【0013】
本件発明においては、また、前記バッテリ種別識別部は、前記抵抗値取得部で求めた前記複数のバッテリセルのそれぞれのバッテリセルに接続されている前記経路抵抗の抵抗値の差分に基づき、前記差分が予め設定された閾値を超えるものであるか、又は、閾値以下のものであるかの関係をパターン化してバッテリ種別を識別する。この構成によって、本件発明は、より正確に、かつ、より効率的にバッテリの種別を識別することができるという作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のとおり、バッテリにおいて既存の部品である当該バッテリモジュールに接続される導線(ハーネス)の違いのみによってバッテリの製造者の違い等の種別を識別できるようになり、それによってバッテリモジュールにバッテリ識別のための抵抗を組み込むなど必要がなくなることから、バッテリの識別においてのコストダウンやバッテリの軽量化に寄与するという作用効果を奏するとともに、それぞれのバッテリの経路抵抗の抵抗値の差分に基づいたパターン化によりバッテリ種別を識別できるようになり、それによって、より正確に、かつ、より効率的にバッテリ種別を識別することができるという作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のバッテリモジュールを電子制御ユニット(ECU)に接続したバッテリ装置のバッテリ識別システムを示すブロック線図である。
【
図2】本発明のバッテリモジュールにおける1つのバッテリセルを、ハーネス(導線)を介して電子制御ユニット(ECU)に接続したバッテリ装置の電圧検出回路構成を示す図である。
【
図3】本発明のバッテリモジュールにおける複数のバッテリセルを、ハーネス(導線)を介して電子制御ユニット(ECU)に接続したバッテリ装置の経路抵抗の回路構成を示す図である。
【
図4】本発明の経路抵抗値の差分をパターン化した表を示す図である。
【
図5】本発明のバッテリ識別を実施する手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本件発明の実施例について説明する。
図1は、本発明のバッテリモジュールを電子制御ユニットのバッテリ識別システムに接続した状態を示すブロック線図である。10はバッテリモジュール、20は電子制御ユニット(ECU:electric control unit)、30はバッテリ識別システムを示す。
【0017】
バッテリモジュール10には、当該バッテリモジュールに固有の導線であるハーネス(導線)11が接合されている。ハーネス(導線)11は、他の電子装置にバッテリモジュール10を接続しバッテリモジュール10から当該他の電子装置に電力を供給する際に、当該他の電子装置とバッテリモジュール10を接続するための導線である。
【0018】
本発明においては、ハーネス(導線)11は、バッテリモジュール10に固有の導線として設計される。すなわち、バッテリモジュール10のユーザ(例えば、バッテリを電気自動車に使用する自動車メーカ)は、バッテリモジュール10に対応するハーネス(導線)11を、バッテリモジュール10に応じて設計し、その設計の内容で、バッテリメーカ及びハーネスのメーカに、それぞれ、バッテリモジュール10及び当該バッテリモジュールに対応するハーネス(導線)11の製造を発注する。製造が発注されたバッテリモジュール10及び当該バッテリモジュールに対応するハーネス(導線)11は、最終的に、ハーネス(導線)11がバッテリモジュール10に接合されている状態で、ユーザに納品されることになる。
【0019】
バッテリモジュール10、及び、当該バッテリモジュール10に対応するハーネス(導線)11の設計において、ユーザが、ハーネス(導線)11の線径や線長をバッテリモジュール10の製造者ごとに変えて設計すると、バッテリモジュール10の各バッテリセルのそれぞれに接続されるハーネス(導線)11の抵抗値は、バッテリセルごとに異なる値となる。バッテリモジュール10にハーネス(導線)11が接合されている状態の納品物において、ハーネス(導線)11の設計者であるユーザは、バッテリモジュール10に結合されているハーネス(導線)11を含む経路抵抗値を知り得るので、納品物のハーネス(導線)11の抵抗値を含む経路抵抗値を測定すれば、バッテリモジュール10のメーカ(製造者種別)を識別し得ることになる。本件発明は、ハーネス(導線)11の設計を担っていることによる、ユーザにおけるメリットを生かしてなされた発明である。
【0020】
電子制御ユニット(ECU)20は、電圧検出回路(CVS:cell voltage sensor)22及び均等化回路23を含む集積回路(LIB-TC:Lithium ion battery integrated circuit)21を内蔵している。バッテリモジュール10の各バッテリセルのセル電圧が均等でないと、バッテリモジュール10の劣化が速く進行するため、均等化回路23によって各バッテリセルのセル電圧が均等化されるように、均等化回路23のスイッチ(SW:switch)が制御される。すなわち、セル電圧の高いバッテリセルでは均等化回路23のスイッチ(SW)をONにして電流を流して放電させ、余剰エネルギーを消費させるようになっている。
【0021】
均等化回路内23のスイッチ(SW)をONにした際に、電圧検出回路(CVS)22によって電圧値を測定することで、バッテリモジュール10の内部抵抗、ハーネス(導線)11の抵抗、及び、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗で構成される経路抵抗の抵抗値を求めることができ、この経路抵抗の抵抗値はハーネス(導線)11の抵抗値を反映した値であるといえる。電圧検出回路(CVS)22で測定された電圧値のデータは、バッテリ識別システム30に送信される。
【0022】
バッテリ識別システム30は、抵抗値取得部31とバッテリ種別識別部32を備える。電子制御ユニット(ECU)20の電圧検出回路(CVS)22からバッテリ識別システム30に送信された各バッテリセルの測定電圧のデータは、抵抗値取得部31で受信され、抵抗値取得部31において各バッテリセルの測定電圧から、それぞれのバッテリセルに結合されているバッテリモジュール10の内部抵抗、ハーネス(導線)11の抵抗、及び、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗からなる経路抵抗の抵抗値が求められる。抵抗値取得部31で求められた上記経路抵抗の抵抗値のデータはバッテリ種別識別部32に送られる。
【0023】
バッテリ種別識別部32では、上記経路抵抗の抵抗値が、上記経路抵抗が含むハーネス(導線)11が結合されているバッテリモジュール10ごとに特有の値であることを利用して、上記経路抵抗の抵抗値のデータからバッテリモジュール10の種別を識別する。具体的な例としては、上記経路抵抗の抵抗値のデータを、ユーザが保持するバッテリモジュール10と各バッテリセルの経路抵抗値と製造者(メーカ)の関係を示す資料のデータと照合することによりバッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する。
【0024】
上記の経路抵抗の抵抗値のデータからバッテリモジュール10の種別を識別する手法としては、上記のように経路抵抗の抵抗値そのものからバッテリモジュール10の種別を識別する手法の他に、複数の経路抵抗の抵抗値の差分の値からバッテリモジュール10の種別を識別する手法もある。複数の経路抵抗の抵抗値の差分の値からバッテリモジュール10の種別を識別する手法については、後述する。
【0025】
図2は、バッテリモジュール10における1つのバッテリセルに着目し、バッテリモジュール10の当該1つのバッテリセルをハーネス(導線)11を介して電子制御ユニット(ECU)20に接続したバッテリ装置において、ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値を求めるための回路構成を示す図である。バッテリモジュール10の1つのバッテリセルの電圧値V1によって、電圧検出回路(CVS)22において出力電圧V2が測定されることが示されている。
【0026】
バッテリモジュール10の1つのバッテリセルは、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm0及びRm1を介してバッテリモジュール10の端子に接続され、内部抵抗Rm0及びRm1に接続された端子のそれぞれは、抵抗Rh0及びRh1のハーネス(導線)11に接続される。
【0027】
抵抗Rh0及びRh1のハーネス(導線)11は、バッテリモジュール10の反対側で、それぞれ、電子制御ユニット(ECU)20の端子に接続される。抵抗Rh0のハーネス(導線)11が接続された端子からは、電子制御ユニット(ECU)20内で、電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc0及びコンデンサC0を介して接地される経路と、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re0を介して均等化回路(SW)23の端子に接続される経路とに分岐される。
【0028】
一方で、抵抗Rh1のハーネス(導線)11が接続された端子からは、電子制御ユニット(ECU)20内で、電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc1を介して電圧検出回路(CVS)22の端子に接続される経路と、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re1を介して均等化回路(SW)23の反対側の端子に接続される経路とに分岐される。また、抵抗Rh0のハーネス(導線)11が接続される電子制御ユニット(ECU)20の端子と、電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc1が接続される電圧検出回路(CVS)22の端子は、コンデンサC1を介して接続される。
【0029】
上記の
図2の回路構成により、バッテリモジュール10の1つのバッテリセルによってV1の電圧がかけられたときに、電圧検出回路(CVS)22において、電圧V2を測定することにより、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm1、抵抗Rh1のハーネス(導線)11、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re1と放電抵抗Re0、抵抗Rh0のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm0の経路抵抗の抵抗値を求めることができ、この抵抗値からバッテリ種別の識別が可能となる。
【0030】
ここで、上記の
図2の回路構成により、バッテリモジュール10の1つのバッテリセルによってV1の電圧がかけられたときに、電圧検出回路(CVS)22において、電圧V2を測定することにより、上記の経路抵抗の抵抗値を求めることができることについて補足説明する。上記の
図2の回路構成において、均等化回路23のスイッチ(SW)がオフの間に、コンデンサC0及びC1に電荷が蓄えられる。この状態で均等化回路23のスイッチ(SW)をオンにすると、その直後の瞬間においては、コンデンサC0及びC1の電荷が放電されて、電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc0とフィルタ抵抗Rc1に電流が流れるとともに、上記のバッテリモジュール10の内部抵抗Rm1、抵抗Rh1のハーネス(導線)11、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re0と放電抵抗Re1、抵抗Rh0のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm0の経路に電流値iの電流が流れる。このとき、バッテリモジュール10の1つのバッテリセルによる電圧V1は、
V1=i×(Rm0+Rm1+Rh0+Rh1+Re0+Re1) 式(1)
で表される。
【0031】
上記の放電の状態を維持して、充分な時間が経過し、コンデンサC0及びC1の電荷がなくなった状態においては、フィルタ抵抗Rc0及びRc1の抵抗値が放電抵抗Re0及びRe1の抵抗値より十分に大きな値とするとき、上記のバッテリモジュール10の内部抵抗Rm1、抵抗Rh1のハーネス(導線)11、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re1と放電抵抗Re0、抵抗Rh0のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm0で形成される経路には、電流値iの電流が流れつつけているものの、電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc0とフィルタ抵抗Rc1には、ほとんど電流が流れない。したがって、電子制御ユニット(ECU)20の放電抵抗Re0と放電抵抗Re1で構成される経路にかかる電圧は、その経路と並列に構成されている電子制御ユニット(ECU)20のフィルタ抵抗Rc0とフィルタ抵抗Rc1で構成される経路において測定された電圧V2と等しい。したがって、電圧検出回路(CVS)22によって測定された電圧値V2は、
V2=i×(Re0+Re1) 式(2)
で表される。そうすると、式(1)と式(2)から、上記の抵抗値(Re0+Re1)の値が既知であることにより、上記経路の抵抗値(Rm0+Rm1+Rh0+Rh1+Re0+Re1)を求めることができる。
【0032】
図2は、上記のように、バッテリモジュール10のバッテリ種別の識別のためのハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値を求める回路構成を示したものであるが、バッテリモジュール10のバッテリ種別の識別の手法として、ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値の素データからバッテリ種別を識別するものの他に、ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の差分からバッテリ種別の識別をする手法もある。ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の差分からバッテリ種別の識別をする手法を説明するために、
図3にその回路構成図を、また、
図4に当該差分をパター化して識別するための表を示す。
【0033】
図3では、バッテリモジュール10の複数のバッテリセル(規格として、72セル、60セル、48セルなどがある)の内、起電力がそれぞれV1,V2,V3の3つのバッテリセルが示されている。起電力がV1のバッテリセルは、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm0、抵抗Rh0のハーネス(導線)11、及び、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re0(以上の経路抵抗値をR0とする、すなわち、R0=Rm0+Rh0+Re0)、並びに、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re1、抵抗Rh1のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm1(以上の経路抵抗値をR1とする、すなわち、R1=Rm1+Rh1+Re1)に接続される周回経路を有して、均等化回路(SW)23に接続され、また、抵抗Rh0のハーネス(導線)11と電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re0の間で両者が接続される電子制御ユニット(ECU)20の端子は接地されている。
【0034】
起電力がV2のバッテリセルは、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm1、抵抗Rh1のハーネス(導線)11、及び、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re1(以上の経路抵抗値は上記のとおりR1である)、並びに、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re2、抵抗Rh2のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm2(以上の経路抵抗値をR2とする、すなわち、R2=Rm2+Rh2+Re2)に接続される周回経路を有して、均等化回路(SW)23に接続されている。また、起電力がV3のバッテリセルは、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm2、抵抗Rh2のハーネス(導線)11、及び、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re2(以上の経路抵抗値は上記のとおりR2である)、並びに、電子制御ユニット(ECU)20の内部抵抗Re3、抵抗Rh3のハーネス(導線)11、及び、バッテリモジュール10の内部抵抗Rm3(以上の経路抵抗値をR3とする、すなわち、R3=Rm3+Rh3+Re3)に接続される周回経路を有して、均等化回路(SW)23に接続されている。なお、簡略化のため、電圧検出回路(CVS)22の記載は省略されている。
【0035】
バッテリセルの電圧測定において、バッテリモジュール10内の2つのバッテリセルのそれぞれに接続される経路抵抗の電圧測定値の差分をとれば、同一温度条件で差分を取得することとなるので、温度のばらつきによる影響がなくなり、また、劣化の違いに基づく誤差の影響は相殺され、単独のバッテリセルの電圧測定値よりも正確な値を得ることができるといえる。そこで、バッテリセルの電圧測定において、複数のバッテリセルに着目して、複数のハーネス(導線)11(抵抗Rh0~Rh3)の内の2つの抵抗(例えば、抵抗Rh0と抵抗Rh2)を含む経路抵抗の抵抗値の差(例えば、R0―R2)を求め、その抵抗値の差の値に基づいて、バッテリ種別の識別をすることも有効な手法である。
【0036】
さらに、複数のハーネス(導線)11(抵抗Rh0~Rh3)の内の2つの抵抗を含む経路抵抗の組み合わせ(例えば、抵抗R0と抵抗R2、及び、抵抗R1と抵抗R3)の経路抵抗値の差(例えば、R0―R2、及び、R1―R3)をパター化して、バッテリ種別の識別をする手法も考案されている。
【0037】
図4は、各バッテリセルから均等化回路(SW)23までの経路抵抗値の差分をパターン化した表の図である。すなわち、
図4の表は、
図3の4つ抵抗値(Rh0~R03)のハーネス(導線)11を、それぞれに含む、周回経路のバッテリセルから均等化回路(SW)23までの経路抵抗(R0~R3)に着目して、2つの組み合わせ(R0とR2、及び、R1とR3)の差分(R0―R2、及び、R1―R3)を求め、その差分値が予め設定されている閾値以下である場合0をとし、閾値を超えている場合を1として、A~Dの4つのパターン(A=0,0、B=0,1、C=1,0、D=1,1)にパターン化した表である。
【0038】
バッテリセルから均等化回路(SW)23までの経路抵抗値(R0~R3)の測定結果から、識別対象のバッテリモジュール10のパターンが、パターン表のA~Dのどのパターンとなるかを判別することにより、バッテリ種別を識別することができる。なお、上記では、4つ抵抗値(Rh0~R03)のハーネス(導線)11に着目したから、A~Dの4つパターンの識別が可能であったが、バッテリモジュール10のセルバッテリの数は、規格では、72セル、60セル、48セルなど、セル数は3セルよりははるかに多く、識別できるパターン数はさらに多くなる。上記のような、パターン化の照合によりバッテリ種別を識別することにより、より効率的かつより正確に、識別することが可能となる。
【0039】
次に、
図5のフロー図を参照して、本発明の実施のフローを説明する。まず、バッテリのユーザ(例えば、バッテリを電気自動車に搭載する自動車メーカ)において、バッテリモジュール10ごとに、固有のハーネス(導線)11を設計する(St1)。この工程(ステップ)で、バッテリモジュール10のユーザ(上記の自動車メーカ)においては、ハーネス(導線)11を、線径や線長を変えて、バッテリモジュール10それぞれの製造者(メーカ)ごとに固有のハーネス(導線)11を設計する。したがって、ユーザはバッテリモジュール10それぞれのハーネス(導線)11の抵抗値を知得することができる。すなわち、ユーザにおいては、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を、ハーネス(導線)11の抵抗値から識別することができるようになっている。
【0040】
バッテリモジュール10のメーカ及びハーネス(導線)11のメーカでは、それぞれ、ユーザの設計に基づき、バッテリモジュール10及びハーネス(導線)11を製造し、ハーネス(導線)11がバッテリモジュール10のそれぞれの端子に結合された状態で、バッテリ製品がユーザに納品される(St2)。
【0041】
ユーザにおいては、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別するため、対応する固有のハーネス(導線)11が結合されているバッテリモジュール10を、当該ハーネス(導線)11を介して電子制御ユニット(ECU)20に接続し、電子制御ユニット(ECU)20に内蔵される集積回路(LIB-IC)21に含まれる電圧検出回路(CVS)22において、均等化回路23のスイッチ(SW)をオンにした際に各バッテリセルの起電力V1によって生ずる電圧の電圧値V2を測定する(St3)。
【0042】
そして、測定された上記の電圧値から、各ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値を求める(St4)。各ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値の用い方としては、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する手法に応じて、経路抵抗の抵抗値そのもの、すなわち、経路抵抗の抵抗値の素データを用いるものと、各経路抵抗の抵抗値の差分を求めて、当該差分値を用いるものがある。
【0043】
各ハーネス(導線)11を含む経路抵抗の抵抗値そのもの、すなわち、上記経路抵抗の抵抗値の素データを用いる場合には、上記経路抵抗の抵抗値の素データをユーザが保持する資料のデータと照合して、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する(St5-1)。
【0044】
経路抵抗の抵抗値の差分を求めて、当該差分値を用いる場合には、当該差分値からバッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する(St5-2,St5-3)。経路抵抗の抵抗値の差分を求めて使用することにより、測定時の温度や劣化に起因する測定誤差が相殺されるため、より正確な値が求まる。
【0045】
経路抵抗の抵抗値の差分から、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する手法としては、経路抵抗の抵抗値の差分値の素データから、バッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する(St5-2)ものの他に、経路抵抗の抵抗値の差分値をパターン化してバッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別する(St5-3)ものがある。
【0046】
経路抵抗の抵抗値の差分値をパターン化する手法としては、当該経路抵抗の抵抗値の差分値が、予め定められている閾値以下か、閾値を超えるかの区別によりパターン化するものがある。経路抵抗の抵抗値の差分値をパターン化してバッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別することにより、より効率的に、かつ、より正確にバッテリモジュール10の製造者(メーカ)を識別することができる。
【0047】
以上、本発明を実施する態様について、実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の態様で実施できるものであることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
10 バッテリモジュール
11 ハーネス(導線)
20 電子制御ユニット(ECU)
21 集積回路(LIB-IC)
22 電圧検出回路(CVS)
23 均等化回路
30 バッテリ識別システム
31 抵抗値取得部
32 バッテリ種別識別部