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特開2024-128274難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128274
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240913BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240913BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240913BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/02
C08K3/22
C08K5/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037166
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】東 謙吾
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BN124
4J002BN144
4J002BN174
4J002BN224
4J002CF072
4J002CG011
4J002CG033
4J002DE126
4J002EW047
4J002EW067
4J002FD010
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD133
4J002FD136
4J002FD160
4J002FD207
4J002GB00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐薬品性(特に医療用消毒剤に対する耐薬品性)、成形安定性、流動性および難燃性に優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】(A)粘度平均分子量が20,000~27,000であるポリカーボネート樹脂(A成分)50~80重量部および(B)固有粘度が0.8~1.4dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(B成分)50~20重量部の合計100重量部に対し、(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤(C成分)5~15重量部、(D)五酸化アンチモン(D成分)1~5重量部、(E)衝撃改質剤(E成分)5~15重量部および(F)エステル交換反応防止剤(F成分)0.01~0.5重量部を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粘度平均分子量が20,000~27,000であるポリカーボネート樹脂(A成分)50~80重量部および(B)固有粘度が0.8~1.4dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(B成分)50~20重量部の合計100重量部に対し、(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤(C成分)5~15重量部、(D)五酸化アンチモン(D成分)1~5重量部、(E)衝撃改質剤(E成分)5~15重量部および(F)エステル交換反応防止剤(F成分)0.01~0.5重量部を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
F成分がホスフェート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品。
【請求項4】
医療機器用外装材である請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
ASTM D543に準拠し、次亜塩素酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩、イソプロパノール、過酸化水素、エタノールおよびオルトフタルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む医療用消毒剤と168時間接触させた後に、表面にクラックが発生しないことを特徴とする請求項4に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐薬品性(特に医療用消毒剤に対する耐薬品性)、成形安定性、流動性および難燃性に優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた機械特性、熱的性質および自己消化性を有しているため、機械部品、自動車部品、電気・電子部品および事務機器部品などの多くの用途に用いられている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は溶融粘度が高く射出成型時の流動性が低いため、成形時の残留応力が生じ易いことが欠点である。また、ポリカーボネート樹脂は非晶性樹脂であるため、アルコールや薬品などに接触した際にクラックが生じやすく、侵食性の強い消毒剤を多用する医療機器用外装材への適用が困難であった。上記の課題を解決するために、ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を溶融混合する方法が試みられている。ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を溶融混合する手法として、例えば、ポリカーボネート樹脂にポリエチレンテレフタレート樹脂、相溶化剤およびオレフィン系エラストマーを配合する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、医療用消毒剤に対する耐薬品性は十分ではなかった。さらに、難燃剤が添加されていないため、高度な難燃性が要求される医療機器用外装材には適用困難であった。
【0003】
そのため近年では、高度な耐薬品性および難燃性を達成するために、ポリカーボネート樹脂にポリブチレンテレフタレート樹脂および難燃剤を溶融混合する方法が試みられている。ポリカーボネート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂のポリマーアロイ系難燃処方としては、ハロゲン系難燃剤および三酸化アンチモンの組み合わせを配合することが一般的である。しかしながら、難燃助剤として用いる三酸化アンチモンの触媒作用により、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂のエステル交換反応が促進され、射出成型時の成形安定性および耐薬品性が低下するという問題があった。かかる問題を解決するために、ポリカーボネート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂のポリマーアロイ系難燃処方として、エステル交換反応防止剤を配合する方法(特許文献2)や、三酸化アンチモンよりも触媒作用の低い五酸化アンチモンを配合する方法が試みられている(特許文献3および4)。しかしながら、いずれの文献においても、エステル交換反応を十分に抑制できておらず、成形安定性および医療用消毒剤に対する耐薬品性は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-138675号公報
【特許文献2】特開2011-132313公報
【特許文献3】特開2014-1374号公報
【特許文献4】特開2021-178921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に鑑み、本発明の目的は、耐薬品性(特に医療用消毒剤に対する耐薬品性)、成形安定性、流動性および難燃性に優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、ポリブチレンテレフタレート樹脂、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、五酸化アンチモン、衝撃改質剤およびエステル交換反応防止剤を添加することにより、耐薬品性(特に医療用消毒剤に対する耐薬品性)、成形安定性、流動性および難燃性に優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、上記課題は、下記1~5項により達成される。
【0007】
1.(A)粘度平均分子量が20,000~27,000であるポリカーボネート樹脂(A成分)50~80重量部および(B)固有粘度が0.8~1.4dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(B成分)50~20重量部の合計100重量部に対し、(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤(C成分)5~15重量部、(D)五酸化アンチモン(D成分)1~5重量部、(E)衝撃改質剤(E成分)5~15重量部および(F)エステル交換反応防止剤(F成分)0.01~0.5重量部を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
2.F成分がホスフェート化合物であることを特徴とする前項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
3.前項1または2に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品。
4.医療機器用外装材である前項3に記載の成形品。
5.ASTM D543に準拠し、次亜塩素酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩、イソプロパノール、過酸化水素、エタノールおよびオルトフタルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む医療用消毒剤と168時間接触させた後に、表面にクラックが発生しないことを特徴とする前項4に記載の成形品。
【0008】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0009】
(A成分:ポリカーボネート樹脂)
本発明において使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0010】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0011】
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ-トをA成分として使用することが可能である。
【0012】
例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis-TMC”と略称することがある)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ-ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0013】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)~(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。
(1)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBCFが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10~95モル%(より好適には50~90モル%、さらに好適には60~85モル%)であり、かつBCFが5~90モル%(より好適には10~50モル%、さらに好適には15~40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBis-TMCが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0014】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0015】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報及び特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。
【0016】
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05~0.15%、好ましくは0.06~0.13%であり、かつTgが120~180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが160~250℃、好ましくは170~230℃であり、かつ吸水率が0.10~0.30%、好ましくは0.13~0.30%、より好ましくは0.14~0.27%であるポリカーボネート。
【0017】
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62-1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0018】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0019】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマー固相エステル交換法および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、20,000~27,000であり、好ましくは21,000~26,000、より好ましくは22,000~25,000である。粘度平均分子量が20,000未満である場合、耐薬品性および難燃性が低下する。一方、粘度平均分子量が27,000を超えると、耐薬品性、成形安定性および流動性が低下する。
【0022】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0023】
尚、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20~30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を使用することも出来る。
さらにポリカーボネート樹脂として、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、すなわち再生ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては防音壁、自動車窓、透光屋根材および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、導光板、メガネレンズ、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
【0025】
(B成分:ポリブチレンテレフタレート樹脂)
本発明の樹脂組成物はB成分としてポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する。ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と炭素数4のアルキレングリコールまたはそのエステル形成誘導体を重縮合して得られるものである。またポリブチレンテレフタレート樹脂は、それ自身重量70%以上を含有する共重合体であってもよい。
【0026】
テレフタル酸およびその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の脂肪族、芳香族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体等が、また、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分として、通常のアルキレングリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等、1,3-オクタンジオール等の低級アルキレングリコール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物またはそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0027】
本発明では、上記の如き化合物をモノマー成分として重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート樹脂は何れも本発明のB成分として使用することができ、単独で、または2種類以上混合して使用される。
【0028】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂は、溶剤としてo-クロロフェノールを用い、25℃で測定した固有粘度が0.8~1.4dl/gであり、好ましくは0.85~1.35dl/g、より好ましくは0.9~1.3dl/gである。固有粘度が0.8dl/g未満では耐薬品性および難燃性が低下する。また、1.4dl/gを超えると流動性および成形安定性が低下する。
【0029】
B成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部中、20~50重量部であり、好ましくは25~47重量部、より好ましくは30~45重量部である。B成分の含有量が20重量部未満の場合、十分な耐薬品性および流動性が得られず、50重量部を超えると成形安定性および難燃性が低下する。
【0030】
(C成分:臭素化ポリカーボネート系難燃剤)
本発明の樹脂組成物はC成分として臭素化ポリカーボネート系難燃剤を含有する。臭素化ポリカーボネート系難燃剤は耐熱性に優れ、かつ大幅に難燃性を向上できる。本発明で使用する臭素化ポリカーボネート系難燃剤は、下記式(1)で表される構成単位が全構成単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも80モル%であり、特に好ましくは実質的に下記式(1)で表される構成単位からなる臭素化ポリカーボネート化合物である。
【0031】
【化1】
【0032】
式(1)中、Xは臭素原子、Rは炭素数1~4のアルキレン基、炭素数1~4のアルキリデン基または-SO-である。
また、かかる式(1)において、好適にはRはメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、-SO-、特に好ましくはイソプロピリデン基を示す。
【0033】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤は、残存するクロロホーメート基末端が少なく、末端塩素量が0.3ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2ppm以下である。かかる末端塩素量は、試料を塩化メチレンに溶解し、4-(p-ニトロベンジル)ピリジンを加えて末端塩素(末端クロロホーメート)と反応させ、これを紫外可視分光光度計(日立製作所製U-3200)により測定して求めることができる。末端塩素量が0.3ppm以下であると、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性がより良好となり、更に高温の成形が可能となり、その結果成形加工性により優れた樹脂組成物が提供される場合がある。
【0034】
また臭素化ポリカーボネート系難燃剤は、残存する水酸基末端が少ないことが好ましい。より具体的には臭素化ポリカーボネート系難燃剤の構成単位1モルに対して、末端水酸基量が0.0005モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.0003モル以下である。末端水酸基量は、試料を重クロロホルムに溶解し、H-NMR法により測定して求めることができる。かかる末端水酸基量であると、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が更に向上する場合がある。
【0035】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤の比粘度は、好ましくは0.015~0.1、より好ましくは0.015~0.08である。臭素化ポリカーボネート系難燃剤の比粘度は、前述した本発明のA成分であるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を算出するに際し使用した上記比粘度の算出式に従って算出されたものである。
【0036】
C成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、5~15重量部であり、好ましくは6~14重量部、より好ましくは7~13重量部である。C成分の含有量が5重量部未満の場合、十分な難燃性および流動性が得られず、15重量部を超えた場合、耐薬品性および成形安定性が低下する。
【0037】
(D成分:五酸化アンチモン)
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、D成分として五酸化アンチモンを含有する。五酸化アンチモンは、C成分との相乗効果によって難燃性を高める難燃助剤として難燃効果を向上させる作用を有する。
【0038】
C成分の難燃助剤としては、一般的に三酸化アンチモンが用いられる場合が多いが、ポリカーボネート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物に難燃助剤として三酸化アンチモンを使用すると、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とのエステル交換反応が生じやすく、樹脂組成物の耐薬品性および成形安定性が大幅に低下する。一方、難燃助剤として五酸化アンチモンを使用した場合、エステル交換反応が抑制され、樹脂組成物の耐薬品性および成形安定性が損なわれない。
【0039】
五酸化アンチモンとしては、例えば、xNaO・Sb・yHO(x=0~1の有理数、y=0~4の有理数)で表される化合物が用いられる。五酸化アンチモンの粒径は特に限定されないが、0.5~50μmが好ましい。また、五酸化アンチモンは必要に応じてエポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物などにより表面処理されていてもよい。
【0040】
更に、本発明で使用される五酸化アンチモンとしては、水に分散した場合のスラリーのpHが5~9のものが好ましく、pHが6~8のものがより好ましい。スラリーのpHが5未満あるいは9を超えるものは、溶融時にポリカーボネート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂の分解を促進し、樹脂からの発生ガス量が増加し、成形安定性および成形品外観が低下する場合がある。
【0041】
D成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、1~5重量部であり、好ましくは1.3~4.5重量部、より好ましくは1.5~4重量部である。D成分の含有量が1重量部未満の場合、十分な難燃性が得られず、5重量部を超えた場合、耐薬品性および成形安定性が低下する。
【0042】
(E成分:衝撃改質剤)
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、E成分として衝撃改質剤を含有する。衝撃改質剤はブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびシリコーン・アクリル複合ゴムからなる群より選ばれる1種のゴムに(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む少なくとも1種の化合物をグラフト重合させてなるグラフト重合体であることが好ましく、コアシェル構造を有するグラフト重合体がより好ましい。コアシェル型グラフト重合体はガラス転移温度が10℃以下のゴム成分をコアとして、(メタ)アクリル酸エステル化合物、芳香族アルケニル化合物を始めとし、これらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上をシェルとして共重合されたグラフト共重合体である。
【0043】
E成分のゴム成分としては、ブタジエン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴム、イソブチレン-シリコーン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができる。また、ゴム成分のガラス転移温度は好ましくは-10℃以下、より好ましくは-30℃以下であり、これらの点より、ゴム成分としては特にブタジエン系ゴム、アクリル系シリコーン・アクリル複合ゴムが好ましい。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。
【0044】
ゴム成分にコアシェル型グラフト重合体のシェルとして共重合するビニル化合物における芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができる。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの中でも特にメタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステルを必須成分として含有することが好ましく、機械特性、難燃性、耐薬品性の観点から、芳香族ビニル成分を含まない方がさらに好ましい。より具体的には、メタクリル酸エステルはグラフト成分100重量%中(コアシェル型重合体の場合にはシェル100重量%中)、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含有されることが好ましい。ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有する弾性重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数~数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。コアシェル型のグラフト重合体の場合、その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0045】
かかる重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばゴム成分として、ブタジエンゴムを主成分とするものは、三菱ケミカル(株)製のメタブレンEシリーズ(例えばシェル成分がメチルメタクリレートを主成分とするE-875A、シェル成分がメチルメタクリレート・スチレンを主成分とするE-870Aなど)が挙げられる。アクリルゴムを主成分とするものは、三菱ケミカル(株)製のWシリーズ(例えば例えばシェル成分がメチルメタクリレートを主成分とするW-600Aなど)が挙げられる。シリコーン・アクリル複合ゴムを主成分とするものは三菱ケミカル(株)製のメタブレンSシリーズ(例えば例えばシェル成分がメチルメタクリレートを主成分とするS-2001、S-2030など)が挙げられる。
【0046】
E成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、5~15重量部であり、好ましくは6~14重量部、より好ましくは7~13重量部である。E成分の含有量が5重量部未満では、十分な耐薬品性が得られず、15重量部を超えると難燃性が低下する。
【0047】
(F成分:エステル交換反応防止剤)
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、F成分としてエステル交換反応防止剤を含有する。エステル交換反応防止剤としては、エステル交換反応触媒を失活する化合物であれば特に制限なく用いることができるが、ホスファイト化合物、ホスフェート化合物、亜ホスホン酸化合物、ホスホン酸化合物およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンが好適である。その中でも、ホスフェート化合物は、エステル交換反応触媒の失活速度が速いため、より好ましく用いられる。
【0048】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート金属塩などを挙げることができる。
【0049】
上記エステル交換反応防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0050】
F成分の含有量は、A成分とB成分の合計100重量部に対し、0.01~0.5重量部であり、好ましくは0.02~0.4重量部、より好ましくは0.03~0.3重量部である。含有量が0.01重量部未満ではエステル交換反応が促進されるため、耐薬品性、難燃性および成形安定性が低下する。0.5重量部を超えると、難燃性および耐薬品性が低下する。
【0051】
(その他の添加剤)
(i)ドリップ防止剤
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ドリップ防止剤を含有することができる。このドリップ防止剤の含有により、成形品の物性を損なうことなく、良好な難燃性を達成することができる。
【0052】
ドリップ防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。
【0053】
また、本発明ではドリップ防止剤として被覆分岐PTFEを使用することができる。被覆分岐PTFEは分岐状ポリテトラフルオロエチレン粒子および有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体であり、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの外部に有機系重合体、好ましくはスチレン系単量体由来単位及び/又はアクリル系単量体由来単位を含む重合体からなるコーティング層を有する。前記コーティング層は、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの表面上に形成される。また、前記コーティング層はスチレン系単量体及びアクリル系単量体の共重合体を含むことが好ましい。
【0054】
(ii)フェノール系安定剤
本発明の樹脂組成物はフェノール系安定剤を含有することができる。フェノール系安定剤としては一般的にヒンダードフェノール、セミヒンダードフェノール、レスヒンダードフェノール化合物が挙げられるが、ポリカーボネート樹脂に対して熱安定処方を施すという観点で特にヒンダードフェノール化合物がより好適に用いられる。
【0055】
(iii)紫外線吸収剤
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は紫外線吸収剤を含有することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、環状イミノエステル系などの化合物が例示される。
【0056】
さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。
上記紫外線吸収剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0057】
(iv)ヒンダードアミン系光安定剤
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物はヒンダードアミン系光安定剤を含有することができる。ヒンダードアミン系光安定剤は一般にHALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼ばれ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格を構造中に有する化合物である。
【0058】
ヒンダードアミン系光安定剤はピペリジン骨格中の窒素原子の結合相手により大きく分けて、N-H型(窒素原子に水素が結合)、N-R型(窒素原子にアルキル基(R)が結合)、N-OR型(窒素原子にアルコキシ基(OR)が結合)の3タイプがあるが、ポリカーボネート樹脂に適用する際、ヒンダードアミン系光安定剤の塩基性の観点から、低塩基性であるN-R型、N-OR型を用いるのがより好ましい。
ヒンダードアミン系光安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0059】
(v)離型剤
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物には、その成形時の生産性向上や成形品の歪みの低減を目的として、更に離型剤を配合することが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1-アルケン重合体など、酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。中でも好ましい離型剤として脂肪酸エステルおよびポリオレフィン系ワックスが挙げられる。
【0060】
(vi)染顔料
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。また極微量の染顔料による着色、かつ鮮やかな発色性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物もまた提供可能である。
【0061】
(vii)充填材
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、強化フィラーとして各種充填材を配合することができる。例えば、ケイ酸塩鉱物、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、グラファイト、気相成長法極細炭素繊維(繊維径が0.1μm未満)、カーボンナノチューブ(繊維径が0.1μm未満であり、中空状)、フラーレン、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、金属酸化物粒子、金属酸化物繊維、金属酸化物バルーン、並びに各種ウイスカー(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカーおよび塩基性硫酸マグネシウムなど)などが例示される。これらの強化フィラーは1種もしくは2種以上を併用して含むものであってもよい。
【0062】
(viii)その他の添加剤
その他、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。
【0063】
かかる添加剤としては、摺動剤(例えばPTFE粒子)、光拡散剤(例えばアクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子)、帯電防止剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)およびフォトクロミック剤などが挙げられる。
【0064】
(樹脂組成物の製造)
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分~F成分および任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、その後ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0065】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。
【0066】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0067】
溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0068】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~3.5mmである。
【0069】
(本発明の樹脂組成物からなる成形品)
本発明における樹脂組成物は、通常上述の方法で得られたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0070】
また本発明における樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
【0071】
本発明の成形品は、ASTM D543に準拠し、次亜塩素酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩、イソプロパノール、過酸化水素、エタノールおよびオルトフタルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む医療用消毒剤と168時間接触させた後に、表面にクラックが発生しない。
【発明の効果】
【0072】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、耐薬品性(特に医療用消毒剤に対する耐薬品性)、成形安定性、流動性および難燃性を高い次元で両立していることから、医療機器用外装材等の医療機器用途に限らず、住宅設備用途、建材用途、生活資材用途、インフラ設備用途、自動車用途、OA・EE用途、屋外機器用途、その他の各種分野において幅広く有用である。したがって本発明の奏する産業上の効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
本発明者が現在最良と考える発明の形態は、上記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例0074】
本発明を実施するための形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法によって実施した。
【0075】
(i)耐薬品性
下記の方法で得られたASTM引張試験片を用いて、ASTM D543に基づいて耐薬品性を測定した。具体的には、23℃環境下で下記の医療用消毒剤を試験片に塗布し、歪み1.0%の応力をかけた状態で168時間放置した後に、試験片表面の外観を確認した。
医療用消毒剤1:次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする医療用消毒剤(Professional Disposables International, Inc.製 PDI Sani-Cloth Bleach Germicidal Disposable Wipe(製品名))
医療用消毒剤2:第四級アンモニウム塩を主成分とする医療用消毒剤(製品名:Professional Disposables International, Inc.製 PDI Sani-Cloth AF3 Germicidal Disposable Wipe)
医療用消毒剤3:過酸化水素を主成分とする医療用消毒剤(The Clorox Compan製 Clorox Healthcare Hydrogen Peroxide Cleaner Disinfectant Wipes(製品名))
医療用消毒剤4:オルトフタルアルデヒドを主成分とする医療用消毒剤(Advanced Sterilization Products製 CIDEX OPA Solution(製品名))
医療用消毒剤5:70体積%イソプロパノール水溶液
医療用消毒剤6:80体積%エタノール水溶液
なお、評価は下記の基準で実施した。
○:試験後にクラックが認められない。
×:試験後にクラックが認められる。
【0076】
(ii)流動性
ISO1133に準拠して250℃/5kg荷重の条件下でメルトボリュームフローレート(以下MVR)を測定した。
【0077】
(iii)成形安定性
流路厚2mm、流路幅8mmのアルキメデス型スパイラルフロー長を射出成形機[住友重機械工業(株)製SG150U]により、シリンダー温度260℃、金型温度70℃、射出圧力98MPaの条件で測定し、スパイラルフロー長の増加率を算出した。スパイラルフロー長の増加率は下記の計算式をもとに算出した。スパイラルフロー長の増加率が小さいほど成形安定性に優れる。
スパイラルフロー長の増加率=55ショット目のスパイラルフロー長/6ショット目のスパイラルフロー長
【0078】
(iv)難燃性
下記の方法で得られたUL試験片(厚さ1.5mm)を用いて、UL94に従い、V試験を実施した。難燃性レベルはV-0>V-1>V-2>規格外の順に低下する。
【0079】
[実施例1~16、比較例1~14]
表1および表2に示す組成で、混合物を押出機の第1供給口から供給した。混合物の供給量は計量器[(株)クボタ製CWF]により精密に計測された。押出は径30mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所TEX30α-38.5BW-3V)を使用し、スクリュー回転数230rpm、吐出量25kg/h、ベントの真空度3kPaで溶融混練しペレットを得た。なお、押出温度については、第1供給口からダイス部分まで260℃で実施した。得られたペレットの一部は、90~100℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて評価用の試験片(ASTM引張試験片及びUL試験片)を成形した。
【0080】
なお、表1および表2中の記号表記の各成分は下記の通りである。
【0081】
(A成分)
A-1:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量23,900のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL-1250WP(製品名))
A-2:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量25,100のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL-1250WQ(製品名))
A-3:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量22,400のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL-1225WP(製品名))
A-4(比較例):芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量30,000のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトK-1300WP(製品名))
A-5(比較例):芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量19,700のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL-1225WX(製品名))
【0082】
(B成分)
B-1:固有粘度が1.07であるポリブチレンテレフタレート樹脂
B-2:固有粘度が1.26であるポリブチレンテレフタレート樹脂
B-3:固有粘度が0.88であるポリブチレンテレフタレート樹脂
B-4(比較例):固有粘度が1.45であるポリブチレンテレフタレート樹脂
B-5(比較例):固有粘度が0.69であるポリブチレンテレフタレート樹脂
【0083】
(C成分)
C-1:臭素化ポリカーボネート系難燃剤(ビスフェノールA骨格を有する臭素化カーボネートオリゴマー、臭素含有量:58.0%、帝人(株)製 FG-8500(製品名))
【0084】
(D成分)
D-1:五酸化アンチモン(Nyacol Nano Technologies, Ink.製 BurnEx 6220(製品名))
【0085】
(E成分)
E-1:衝撃改質剤(コアがシリコーン・アクリル複合ゴムを主成分、シェルがメチルメタクリレートを主成分とするコアシェル構造を有するグラフト共重合体、三菱ケミカル(株)製 メタブレンS―2030(製品名))
【0086】
(F成分)
F-1:エステル交換反応防止剤(ステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、城北化学工業(株)製 JP-518Zn(製品名))
F-2:エステル交換反応防止剤(ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、Songwon Industrial, Co., Ltd.製 SONGNIOX 6260 PW(製品名))
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】