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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128282
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】土木建築材料用コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037184
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆博
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
(72)【発明者】
【氏名】中島 亨
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG171
4J038DL031
4J038GA15
4J038KA06
4J038MA13
4J038MA14
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】安定性が良好で、かつ、コンクリート等の土木建築材料の透水性を低減可能なコーティング組成物の提供。
【解決手段】有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び、有機溶剤、を含有する、土木建築材料に対して塗布するためのコーティング組成物。前記有機無機複合樹脂が、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)単位、アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)単位、及び、アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)単位、を含むポリシロキサン成分、並びにラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)単位を含むビニル系重合体成分、を含む。前記ポリシロキサン成分中において前記ラジカル重合性基の割合が20モル%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び、有機溶剤、を含有する、土木建築材料に対して塗布するためのコーティング組成物であって、
前記有機無機複合樹脂が、
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)に由来する構成単位、
アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)に由来する構成単位、及び、
アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)に由来する構成単位、を含むポリシロキサン成分、並びに
ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位を含むビニル系重合体成分、を含み、
前記ポリシロキサン成分の構成単位である前記シラン化合物(a)、前記シラン化合物(b)、及び前記シラン化合物(c)において、ラジカル重合性基、アルキル基及びアリール基の合計モル数に対する、ラジカル重合性基の割合が20モル%以下である、コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリシロキサン成分中において、前記アルキル基:前記アリール基のモル比が1:99~80:20である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ビニル系重合体成分のガラス転移温度が0℃以上である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記ポリシロキサン成分:前記ビニル系重合体成分の重量比が20:80~99:1である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記有機溶剤が弱溶剤を含む、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記コーティング組成物がさらに艶消し剤を含む、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記ビニル系重合体成分が、さらに、(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性基と加水分解性シリル基とを有する単量体(e)に由来する構成単位を含む、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記単量体(e)に含まれる前記加水分解性シリル基がトリエトキシシリル基である、請求項7に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記有機無機複合樹脂の重量平均分子量が5万以上である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記土木建築材料が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
土木建築材料から構成される基材、及び、該基材の表面に形成されたコーティング層を有する積層体であって、
前記コーティング層が、請求項1又は2に記載のコーティング組成物を用いて形成されたものである、積層体。
【請求項12】
前記土木建築材料が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、請求項11に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築材料に対して塗布するためのコーティング組成物、及び、該組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等の土木建築材料は、雨などによって水が掛かると、水が内部に侵入して水酸化カルシウム等を溶解させ、溶解した水酸化カルシウムが表層へ出て乾燥し、二酸化炭素と反応することで不溶性の炭酸カルシウムとなって美観を損ねてしまうエフロレッセンス(白華現象)が発生する。
【0003】
そのため、コンクリートの保護剤として、シラン系の含浸材がしばしば使用されており、これをコンクリート表面に塗布することで透水を抑制することが行われている。
【0004】
また、特許文献1では、コンクリートまたはモルタルに対するコーティング剤として、(メタ)アクリロキシアルキル基の含有量が1~50モル%であるラダーシリコーンオリゴマーと、(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーとを共重合したコポリマーと、特定粒径の無機化合物粉末とを含む、コーティング剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-277856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリートの保護剤として従来使用されているシラン系の含浸材では、透水を抑制する効果が十分ではない場合があり、改善が求められている。
【0007】
また、特許文献1に記載のコポリマーは、安定性が低く、重合時又は貯蔵時にゲル化しやすい傾向がある。更に、特許文献1では、該コポリマーから得られる塗膜は耐水性が良好で、水に浸漬しても膨れなどの変化が生じないことが記載されているが、透水性に関しては記載されていない。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、安定性が良好で、かつ、コンクリート等の土木建築材料の透水性を低減可能なコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の構成を有する有機無機複合樹脂を含む組成物は安定性が良好であり、該組成物を土木建築材料の表面に塗布してコーティング層を形成することで、透水性を低減できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び、有機溶剤、を含有する、土木建築材料に対して塗布するためのコーティング組成物であって、
前記有機無機複合樹脂が、
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)に由来する構成単位、
アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)に由来する構成単位、及び、
アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)に由来する構成単位、を含むポリシロキサン成分、並びに
ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位を含むビニル系重合体成分、を含み、
前記ポリシロキサン成分の構成単位である前記シラン化合物(a)、前記シラン化合物(b)、及び前記シラン化合物(c)において、ラジカル重合性基、アルキル基及びアリール基の合計モル数に対する、ラジカル重合性基の割合が20モル%以下である、コーティング組成物に関する。
また本発明は、土木建築材料から構成される基材、及び、該基材の表面に形成されたコーティング層を有する積層体であって、
前記コーティング層が、前記コーティング組成物を用いて形成されたものである、積層体にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定性が良好で、かつ、コンクリート等の土木建築材料の透水性を低減可能なコーティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。
本実施形態は、土木建築材料の表面に塗布しコーティング層を形成するためのコーティング組成物に関する。該コーティング組成物は、少なくとも、有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び、有機溶剤、を含有する。
【0013】
(有機無機複合樹脂)
前記有機無機複合樹脂は、無機成分であるポリシロキサン成分と、有機成分であるビニル系重合体成分とを含む。ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分は、グラフト結合していることが好ましい。
【0014】
(ポリシロキサン成分)
前記ポリシロキサン成分とは、加水分解性シリル基を有するシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応によって得られるポリシロキサンを指す。該ポリシロキサン成分では、各構成単位は、シロキサン結合(Si-O-Si結合)によって結合している。
【0015】
本実施形態におけるポリシロキサン成分は、少なくとも以下に示す3種類の構成単位を含む。
・ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)に由来する構成単位
・アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)に由来する構成単位
・アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)に由来する構成単位
【0016】
前記シラン化合物(a)は、ラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物である。該ラジカル重合性基としては、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すものが選択される。このようなラジカル重合性基を使用することによって、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合が可能になると共に、有機無機複合樹脂の製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。
【0017】
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基としては、ビニル基、アリル基、p-スチリル基、メルカプト基が挙げられる。これらのうち1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記ラジカル重合性基としては、ビニル基を用いることが好ましい。尚、ここで言うビニル基は、ケイ素原子に直接結合したビニル基を指し、アリル基やp-スチリル基に含まれるビニル基を指すものではない。当該ラジカル重合性基は、ビニル基のみであってもよいし、ビニル基と、アリル基、p-スチリル基、及びメルカプト基からなる群より選択される少なくとも1種の基とを併用してもよい。
【0019】
前記ラジカル重合性基は、シラン化合物(a)のケイ素原子に直接結合していることが好ましい。このようなラジカル重合性基を使用することによって、炭化水素基のみを介したポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合が可能になると共に、製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合を炭化水素基のみを介して実現するため、アクリロイル基やメタクリロイル基等のエステル含有基や、ビニルオキシ等のエーテル結合含有基などを有するアルコキシシランを使用しないことが好ましい。
【0020】
また、シラン化合物(a)は、加水分解性シリル基を有する化合物である。具体的には、ケイ素原子上にアルコキシ基を1~3個有する化合物であることが好ましい。つまり、シラン化合物(a)は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、及びトリオルガノモノアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、モノオルガノトリアルコキシシランを含むことが好ましい。ここで、モノオルガノトリアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、1個の有機基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。ジオルガノジアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、2個の有機基と、2個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。トリオルガノモノアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、3個の有機基と、1個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。
【0021】
シラン化合物(a)が有する有機基とは、アルコキシ基以外の有機基を指し、その具体例は特に限定されないが、例えば、前述したラジカル重合性基の他、炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基等の炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基やアリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記炭素数1~6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基である。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3であり、特に好ましくは1~2である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0022】
シラン化合物(a)が有するアルコキシ基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0023】
シラン化合物(a)の具体例としては特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、p-スチリルジメチルメトキシシラン、p-スチリルメチルジエトキシシラン、p-スチリルジメチルエトキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このうち、ビニル基を有するシラン化合物が好ましく、ビニルトリアルコキシシランが特に好ましい。
【0024】
シラン化合物(a)の使用量は少ないほうが製造時のゲル化を抑制することができ、また、多いほうがポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト率を高めてコーティング層の物性を高めることができる。これらの観点から、ポリシロキサン成分に含まれる全構成単位に対して、シラン化合物(a)に由来する構成単位の占める割合は、0.1重量%以上30重量%以下が好ましく、1重量%以上20重量%以下が好ましく、3重量%以上10重量%以下がさらに好ましい。
【0025】
前記シラン化合物(b)は、アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物であり、前記シラン化合物(c)は、アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物である。シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)は、前記ラジカル重合性基を持たないシラン化合物である。
【0026】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、及びトリオルガノモノアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、モノオルガノトリアルコキシシランを含むことが好ましい。
【0027】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)がケイ素原子上の置換基として有する有機基は、前記ラジカル重合性基を含まず、アルコキシ基以外の有機基であって、それぞれ、アルキル基、又は、アリール基である。アルキル基を有するシラン化合物(b)とアリール基を有するシラン化合物(c)を併用することで、製造時のゲル化を抑制しやすくなり、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性と、コーティング層による透水性低減を高いレベルで両立することができる。
【0028】
シラン化合物(b)はケイ素原子上の置換基としてアルキル基を有する。該アルキル基としては特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基等が挙げられる。前記アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。また、前記アルキル基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。アルキル基は、メチル基及び/又はエチル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。前記アルキル基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0029】
シラン化合物(c)はケイ素原子上の置換基としてアリール基を有する。該アリール基としては特に限定されず、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、前記アリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記アリール基の炭素数は、6~10が好ましい。前記アリール基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0030】
中でも、シラン化合物(b)が前記アルキル基としてメチル基及び/又はエチル基を含み、かつ、シラン化合物(c)が前記アリール基としてフェニル基を含むことが好ましい。さらに、シラン化合物(b)が前記アルキル基としてメチル基を含み、かつ、シラン化合物(c)が前記アリール基としてフェニル基を含むことが特に好ましい。
【0031】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)がケイ素原子上の置換基として有するアルコキシ基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0032】
シラン化合物(b)の具体例としては特に限定されないが、モノオルガノトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。ジオルガノジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。トリオルガノモノアルコキシシランとしては、例えば、トリメチルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
シラン化合物(c)の具体例としては特に限定されないが、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン、トリルトリプロポキシシラン、キシリルトリメトキシシラン、キシリルトリエトキシシラン、キシリルトリプロポキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、ナフチルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
シラン化合物(b)としては、メチルトリアルコキシシラン、及び/又は、エチルトリアルコキシシランを使用し、シラン化合物(c)としては、フェニルトリアルコキシシランを使用することが好ましい。さらに、シラン化合物(b)としては、メチルトリアルコキシシランを使用し、シラン化合物(c)としては、フェニルトリアルコキシシランを使用することが特に好ましい。
【0035】
前記ポリシロキサン成分中において、シラン化合物(b)が有するアルキル基とシラン化合物(c)が有するアリール基の比率は特に限定されないが、有機無機複合樹脂の安定性と、コーティング層による透水性低減のバランスの観点から、前記アルキル基:前記アリール基のモル比が1:99~80:20であることが好ましい。10:90~75:25であることが好ましく、20:80~70:30がより好ましく、30:70~70:30が特に好ましく、40:60~70:30が最も好ましい。
【0036】
前記ポリシロキサン成分中において、シラン化合物(a)が有するラジカル重合性基、シラン化合物(b)が有するアルキル基、及び、シラン化合物(c)が有するアリール基の合計モル数に対する、シラン化合物(a)が有するラジカル重合性基の割合が20モル%以下となるように、各シラン化合物の使用量は設定される。前記ラジカル重合性基の割合が20モル%を超えると、有機無機複合樹脂の製造時にゲル化しやすくなったり、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0037】
(ビニル系重合体成分)
前記有機無機複合樹脂において有機成分を構成する前記ビニル系重合体成分とは、ラジカル重合性モノマー成分の重合によって形成されたものである。該ビニル系重合体成分では、各構成単位は、ラジカル重合性基間の重合反応によって結合しており、即ち炭素-炭素結合によって結合している。該ビニル系重合体成分は、ポリシロキサン成分に対するグラフト鎖であり得る。
【0038】
本実施形態におけるビニル系重合体成分は、少なくとも、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位を含む。
前記ラジカル重合性基とは、付加重合によってビニル系重合体成分を形成し得る基を指し、通常、炭素-炭素二重結合を指す。
前記加水分解性シリル基とは、加水分解・脱水縮合反応によってシロキサン結合を形成し得る基を指し、代表例としてはアルコキシリル基が挙げられる。
【0039】
単量体(d)としては、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び/又は、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーを除く加水分解性シリル基を有さないラジカル重合性モノマーを使用することが好ましい。単量体(d)として、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーのみを使用してもよいし、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のラジカル重合性モノマーを併用してもよい。
【0040】
前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の、炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のラジカル重合性モノマーとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリルアミド、α-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロ-ル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル化合物;無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物、これら酸無水物と炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖を有するアルコールまたはアミンとのジエステルまたはハーフエステルなどの不飽和カルボン酸のエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレ-トなどのビニルエステルやアリール化合物;ビニルピリジン、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系化合物;イタコン酸ジアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、N-ビニルピロリドンなどのアミド基含有ビニル系化合物;(メタ)アクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルビニルエ-テル、メチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、フルオロオレフィンマレイミド、N-ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
ビニル系重合体成分を形成するラジカル重合性モノマー成分全体に対して前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーが占める割合は適宜設定できる。しかし、製造される有機無機複合樹脂の土木建築材料への密着性の観点から、前記ラジカル重合性モノマー成分の総量のうち(メタ)アクリル酸エステルモノマーが60重量%以上を占めることが好ましく、65重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0043】
前記ビニル系重合体成分は、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位のみから構成されてもよいが、単量体(d)に由来する構成単位に加えて、(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性基と加水分解性シリル基とを有する単量体(e)に由来する構成単位をさらに含むことが好ましい。単量体(e)を使用してビニル系重合体成分を形成することで、ビニル系重合体成分に加水分解性シリル基を導入することができ、ビニル系重合体成分とポリシロキサン成分との相溶性が向上し、有機無機複合樹脂の安定性が改善され得る。さらに、コーティング層による透水性低減をより高度に発現することが可能となる。
【0044】
単量体(e)としては特に限定されないが、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0045】
単量体(e)が有する加水分解性シリル基は、ケイ素原子にアルコキシ基を結合してなる基を指す。該アルコキシ基としては特に限定されず、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。単量体(e)が有する加水分解性シリル基は、ケイ素原子上にエトキシ基を有するシリル基であることが好ましく、トリエトキシシリル基であることが特に好ましい。エトキシ基を有するシリル基は、メトキシ基を有するシリル基よりも加水分解性が低いため、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性がより良好となり、また、形成されるコーティング層の均一性を高めやすく、透水性をより低減し得るという利点がある。
【0046】
単量体(e)の使用量は、適宜設定できるが、単量体(e)を使用することによる効果を奏する観点から、ビニル系重合体成分を形成するラジカル重合性モノマー成分の総量のうち、0.1~30重量%であることが好ましく、0.5~20重量%がより好ましく、1~10重量%が特に好ましい。
【0047】
ビニル系重合体成分を構成するモノマーの種類及び割合は、基材の種類や、コーティング層に求める物性を考慮して適宜選択することができるが、コーティング層の透水性をより低減し得る観点から、形成されるビニル系重合体成分のガラス転移温度(Tg)が0℃以上となるように選択することが好ましい。ビニル系重合体成分のTgは10℃以上であることがより好ましく、20℃以上が特に好ましい。ビニル系重合体成分のTgの上限は特に限定されないが、200℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。Tgは、下記Foxの式に基づいて算出できる。
Foxの式:
1/(Tg(K))=Σ(Mi/Tgi)
(式中、Miは重合体を構成する単量体i成分の重量分率、Tgiは単量体iのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。)
【0048】
ホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK-FOURTH EDITION-(J.Brandrupら)に記載のガラス転移温度(Tg)を参考とする。TgをFoxの式より計算する場合には、加水分解性シリル基を有する単量体を考慮せずに計算する。
【0049】
また、ビニル系重合体成分を構成するモノマーの種類及び割合は、溶解度パラメータ値(SP値)が、9.0~11.0(cal/cm1/2の範囲にあるように選択されることが好ましい。ビニル系重合体成分のSP値がこの範囲にあると、製造される有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かしてコーティング組成物を提供することが容易になる。特に、SP値が9.0~10.0(cal/cm1/2の範囲にあるビニル系重合体成分とポリシロキサン成分との複合化は一般には困難であるが、本願で開示する製造方法によると、このようなSP値を示すビニル系重合体成分とポリシロキサン成分を複合化した有機無機複合樹脂を好適に製造することができる。前記SP値は、9.2~10.0(cal/cm1/2がより好ましく、9.4~9.9(cal/cm1/2が特に好ましい。
【0050】
SP値は、Fedors[Robert F.Fedors,Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974)]に記載の方法に基づき、下記の式によって算出される値δである。
Fedorsの式:δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
式中、Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)を示し、Δvi:モル体積(cm/mol)を示す。
【0051】
前記ビニル系重合体成分を構成するモノマー単位に含まれる炭素数は、特に限定されないが、例えば有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かして塗料とするに際しては、前記モノマー単位の側鎖の炭素数が平均で3~7の範囲にあることが好ましく、3.3~6.7の範囲にあることがより好ましく、3.5~6.2の範囲にあることがさらに好ましい。前記側鎖の炭素数とは、例えば(メタ)アクリル酸エステルモノマーの場合、エステル部分の炭素数であり、それ以外のモノマーの場合、重合体の主鎖を形成する炭素-炭素不飽和結合を除く部位の炭素数である。具体的に述べると、メタクリル酸メチルの側鎖の炭素数は1、メタクリル酸ブチルの側鎖の炭素数は4、メタクリル酸シクロヘキシルは6、メタクリル酸2-ヒロドキシエチルの側鎖の炭素数は2、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの側鎖の炭素数は6、スチレンの側鎖の炭素数は6である。メタクリル酸ブチルやメタクリル酸シクロヘキシル等の、主鎖周りの立体障害が大きいモノマーを多く使用すると、ポリシロキサン成分との相溶性が低下するため一般には複合化が困難になるが、本願で開示する製造方法によると、このような炭素数が大きいモノマーを多く使用しても、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分が複合化した有機無機複合樹脂を製造することができる。
【0052】
本実施形態に係る有機無機複合樹脂において、前記ポリシロキサン成分:前記ビニル系重合体成分の重量比は適宜設定できるが、有機無機複合樹脂の安定性と、コーティング層による土木建築材料への透水性低減の観点から、20:80~99:1であることが好ましく、30:70~90:10がより好ましく、40:60~80:20がさらに好ましく、40:60~70:30が特に好ましく、40:60~60:40が最も好ましい。
【0053】
有機無機複合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、所望の物性に応じて適宜決定できるが、例えば、2000~50万の範囲であってよい。この範囲では、製造時のゲル化を回避しつつ、有機無機複合樹脂は貯蔵安定性に優れ、土木建築材料への透水性が低減されたコーティング層を形成することができる。中でも、コーティング組成物の粘度を高め、施工時にたれにくく、コーティング層の厚みを確保しやすい利点があるため、有機無機複合樹脂の重量平均分子量は5万以上であることが好ましく、6万以上がより好ましく、8万以上が特に好ましい。なお、有機無機複合樹脂の重量平均分子量は、実施例の項に記載した方法によって決定できる。
【0054】
(有機無機複合樹脂の製造方法)
次に、有機無機複合樹脂を製造する方法について説明する。有機無機複合樹脂は、シラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応によってポリシロキサン成分を得た後、該ポリシロキサン成分の存在下で、ラジカル重合性モノマー成分のラジカル重合を行ってビニル系重合体成分を形成することで製造できる。以下、各工程について説明する。
【0055】
(加水分解及び脱水縮合反応)
まず、シラン化合物(a)、シラン化合物(b)、及びシラン化合物(c)を含むシラン成分を、水と縮合触媒の存在下で、加水分解及び脱水縮合反応させることによって、ポリシロキサン成分を形成することができる。製造されたポリシロキサン成分は、シラン化合物(a)に由来するラジカル重合性基を有する。
【0056】
好ましい実施形態によると、各シラン化合物に含まれる一部のアルコキシ基が未反応で残留し、または、該シラン化合物が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留することで、製造されたポリシロキサン成分は、反応性ケイ素基をさらに有することができる。ここで、反応性ケイ素基とは、アルコキシシリル基とシラノール基の双方を含む概念である。
【0057】
前記加水分解及び脱水縮合反応では水を添加して該反応を進行させることが好ましい。この時、水の使用量を制御することによって、ラジカル重合時のゲル化を抑制し、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。この観点から、水の使用量は、シラン化合物に含まれるケイ素原子に直接結合したアルコキシ基の合計モル数を100%とし、これに対して20モル%以上60モル%以下であることが好ましい。上限は55モル%以下がより好ましい。下限は25モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が特に好ましい。
【0058】
前記加水分解および脱水縮合工程では、水に加えて、水以外の有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤としては、水と併用するため水溶性の有機溶剤が好ましい。また、シラン化合物の溶解性を確保するため、炭素数が4以上の有機溶剤が好ましい。以上の観点から、好ましい有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
有機無機複合樹脂の製造後や、塗膜の形成時に有機溶剤を揮発させることになるため、大気圧下における沸点が150℃以下の有機溶剤が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0060】
前記加水分解及び脱水縮合反応は、反応促進のため、縮合触媒の存在下で行うことが好ましい。縮合触媒としては、酸性触媒、塩基性触媒と、中性塩を使用することができる。
【0061】
酸性触媒としては、シラン化合物や有機溶剤との相溶性から、有機酸が好ましく、リン酸エステルやカルボン酸がより好ましい。有機酸の具体例としては、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ピロリン酸ブチル(又はジブチルピロホスフェート)、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸等が挙げられる。
【0062】
塩基性触媒としては、例えば、N-エチルモルホリン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等のアミン系化合物や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物等が挙げられる。
【0063】
中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、例えば、カチオンとして第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、グアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれかと、アニオンとしてフッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。特に、アニオンとしては、求核性が高いため、第十七族元素イオンが好ましく、カチオンとしては、求核作用を阻害しないように、嵩高くないイオンとして、第一族元素イオン、第二族元素イオンが好ましい。
【0064】
中性塩の具体的な化合物は特に限定されないが、例えば、好ましい中性塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ラビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ラビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ラビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムが挙げられる。
【0065】
縮合触媒の添加量は適宜調節できるが、例えば、シラン化合物に対して10ppm~3重量%程度であってよい。
【0066】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施する際の反応温度は当業者が適宜設定できるが、例えば反応液を50~150℃の範囲に加熱することが好ましい。反応時間に関しても当業者が適宜設定できるが、例えば10分間~12時間程度であってよい。
【0067】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施した後、加水分解工程で発生したアルコールを反応液から除去する工程を実施することが好ましい。アルコールを除去することによって、アルコールを副生する加水分解反応をより進めることができる。当該アルコールの除去工程は、加水分解および脱水縮合工程後の反応液を減圧蒸留に付してアルコールを留去することで実施できる。減圧蒸留の条件は当業者が適宜設定することが可能である。
【0068】
加水分解及び脱水縮合反応では、シラン化合物(a)が有するラジカル重合性基は実質的に影響を受けることがないため、当該反応で製造されたポリシロキサン成分は、上述したように、シラン化合物(a)に由来するラジカル重合性基を有することになる。
【0069】
(ラジカル重合)
次いで、加水分解及び脱水縮合反応によって得られたポリシロキサン成分と、単量体(d)を含むラジカル重合性モノマー成分とを混合してラジカル重合を行う。これによって、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分とを含む有機無機複合樹脂を製造することができる。当該ラジカル重合では、まず、単量体(d)を含むラジカル重合性モノマー成分の重合が進行してビニル系重合体成分が優先的に形成された後、該ビニル系重合体成分の主鎖末端に、ポリシロキサン成分が有する、低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基が反応することで、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間の複合化を実現することができる。ただし、前記低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基の一部が、ビニル系重合体成分の主鎖末端ではない部分に共重合する場合もあり得る。
【0070】
前記ラジカル重合の手法は常法によることができ、塊状ラジカル重合法、溶液ラジカル重合法、非水分散ラジカル重合法など、公知の重合方法を使用することができる。
【0071】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤の存在下で実施することができる。該ラジカル重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、ラジカル重合性モノマー成分100重量部に対して、0.1~10重量部であってよく、0.5~7重量部が好ましい。
【0073】
前記ラジカル重合は、β-ジカルボニル化合物の存在下で実施してもよい。β-ジカルボニル化合物とは、2個のカルボニル基が1個の炭素原子を挟んで結合している構造を有する化合物のことをいう。β-ジカルボニル化合物を重合系に存在させることで、ラジカル重合時に、ポリシロキサン成分が有するシラノール基の脱水縮合反応が進行するのを抑制できる。β-ジカルボニル化合物としては特に限定されないが、例えば、アセチルアセトン、ジメドン、シクロヘキサン-1,3-ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、メルドラム酸等が挙げられる。β-ジカルボニル化合物の使用量は、例えば、ポリシロキサン成分100重量部に対して0.01~10重量部であってよく、0.1~5重量部程度であってもよい。
【0074】
ラジカル重合時の重合温度は常法によることができる。また、前記加水分解及び脱水縮合反応、並びに、前記ラジカル重合は、酸素分子を実質的に含まない雰囲気下で実施することが好ましい。
【0075】
以上のラジカル重合によって、ビニル系重合体成分が形成されると共に、該ビニル系重合体成分の主鎖末端に、前記低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基が反応してポリシロキサン成分が結合することで、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分がグラフト結合してなる有機無機複合樹脂を製造することができる。
【0076】
好ましい実施形態によると、製造される有機無機複合樹脂に含まれるポリシロキサン成分は、反応性ケイ素基(アルコキシシリル基及び/又はシラノール基)を有することができる。この反応性ケイ素によって、有機無機複合樹脂は反応性ケイ素基の加水分解・脱水反応を利用した硬化性を示すことができる。
【0077】
この場合、反応性ケイ素の安定性を確保するため、製造された有機無機複合樹脂に脱水剤を混合してもよい。これによって、ポリシロキサン成分に反応性ケイ素基を有する有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を向上させることができる。脱水剤としては、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチル、オルソ酢酸メチル、又はオルソ酢酸エチルが好ましい。これらのうち1種のみを使用してもよいし、複数種を使用してもよい。
【0078】
脱水剤の使用量は特に限定されず、脱水前の有機無機複合樹脂に含まれる水分量と、脱水後の目的の含水量を勘案して当業者が適宜決定できる。一例として、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01~20重量部程度であり、0.1~10重量部程度であってもよい。
【0079】
(硬化触媒)
前述した有機無機複合樹脂は、硬化触媒の存在下で硬化反応が促進され、コーティング層形成時の作業時間を短縮することができる。そのため、本実施形態に係るコーティング組成物は、有機無機複合樹脂と混合された状態で硬化剤を含有するか、または、硬化剤を別のパッケージで含む2液の形態の組成物であることが好ましい。
【0080】
当該硬化触媒としては、反応性シリル基の加水分解反応および脱水縮合反応を利用した硬化性樹脂組成物に対して用いる硬化触媒として公知の物質を適宜使用することができる。具体的には、硬化触媒として、上述した縮合触媒を使用することができ、また、有機錫化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、有機アミン化合物などを使用することができる。
【0081】
有機錫化合物の具体例としては、ジオクチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケートとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジステアレート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫ビス(エチルマレート)、ジブチル錫ビス(ブチルマレート)、ジブチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジブチル錫ビス(オレイルマレート)、スタナスオクトエート、ステアリン酸錫、ジ-n-ブチル錫ラウレートオキサイドが挙げられる。また、分子内にS原子を有する有機錫化合物の具体例としては、ジブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジオクチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、オクチルブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート等が挙げられる。
【0082】
チタンキレート化合物の具体例としては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0083】
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0084】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリメチルアミン、テトラメチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N’-ジエチル-2-メチルピペラジン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等が挙げられる。
【0085】
硬化触媒の使用量は、硬化温度と硬化時間とに応じて適宜調整できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01~20重量部程度が好ましく、0.1~10重量部程度がより好ましい。
【0086】
(有機溶剤)
本実施形態に係るコーティング組成物は、有機溶剤を含む。有機溶剤としては特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;塩化メチレン、メチルクロロホルム、四塩化炭素、ジクロロジフルオロメタン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0087】
中でも、コーティング時の安全性の観点、及び、基材である土木建築材料に対する浸食を抑制できる観点から、前記有機溶剤は、弱溶剤を含むことが好ましい。
【0088】
弱溶剤としては、労働安全衛生法において第3種有機溶剤に分類されている溶剤、および、第3種有機溶剤に相当する溶剤が挙げられる。具体例としては、ガソリン、灯油、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリットおよびミネラルターペンを含む)が挙げられる。
【0089】
より具体的には、第3種有機溶剤である芳香族炭化水素を100%含有するソルベッソ100(エクソンモービル製)や、非水系で芳香族含有量が50%以下の溶剤として、アイソパーE、アイソパーG、Aソルベント(以上、新日本石油製)、LAWS(シェル化学製)、ペガソールAN45、エクソンナフサNo.6、エクソンナフサNo.5、エクソンナフサNo.3、エクソ-ルD40、エクソ-ルD80(以上、エクソンモービル製)、IPソルベント1620、IPソルベント2028(以上、出光石油化学製)などが挙げられる。
【0090】
本実施形態に係るコーティング組成物中、有機溶剤の配合量は特に限定されず、当業者が適宜決定できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して10~500重量部程度であってよい。
【0091】
(他の成分)
本実施形態に係るコーティング組成物は、有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び有機溶剤以外の成分を含有してもよい。そのような成分としては、顔料、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、艶消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤など、公知の塗料用添加物が挙げられる。
【0092】
特に、本実施形態に係るコーティング組成物は、コーティング層表面の光沢を低減して、基材である土木建築材料の風合いを生かし、積層体の外観を良好にする観点から、艶消し剤をさらに含むことが好ましい。そのような艶消し剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、シリカ、酸化チタン、雲母、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0093】
本実施形態に係るコーティング組成物中、艶消し剤の配合量は特に限定されず、当業者が適宜決定できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して1~20重量部程度であってよい。
【0094】
本実施形態に係るコーティング組成物は、さらに、反応性シリル基を有する重合体、特にポリ(メタ)アクリル系重合体を含有してもよい。該重合体を配合することによって、コーティング層に柔軟性を付与することができる。
【0095】
(基材)
本実施形態に係るコーティング組成物は、土木建築材料の表面に対して塗布され、コーティング層を形成するために使用される。
塗布対象である土木建築材料としては、建築物や土木構造物に用いられる基材を意図する。土木建築材料用基材としては、例えば、有機基材(木材を含む)、無機基材等が挙げられる。本発明の一実施形態において、土木建築材料用基材は、金属を含まないことが好ましい。本実施形態に係るコーティング組成物は、このような基材の表面に塗布され、コーティング層を形成することによって、該基材の透水性を低減することができる。
【0096】
本発明の一実施形態において、土木建築材料用基材は、多孔質性の有機および/または無機基材であることが好ましい。
【0097】
多孔質性の有機基材としては、特に限定されないが、例えば、木材、合板、パーティクルボード、集成材、MDF(中密度繊維板)等が好ましい。
【0098】
多孔質性の無機基材としては、特に限定されないが、例えば、含セメント組成物を硬化させて得られた基材のほか、石材、セラミックタイル、石こうボード、ケイ酸カルシウム板が好ましい。
【0099】
含セメント組成物を硬化させて得られた基材としては、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、プレストレストコンクリートを含む無機基材が挙げられる。
【0100】
含セメント組成物としては、例えば、コンクリート、モルタル、セメントミルク等が挙げられる。
【0101】
本明細書において、コンクリートとは、セメント、砂、水および砂利を含む材料のことを指す。本明細書において、コンクリートは、その他の成分として、AE剤、減水剤等の化学混和材等を含んでいてもよく、更にエチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム等の混和用ポリマーを含んでもよい。
【0102】
本明細書において、モルタルとは、セメントと細骨材(砂)とを混合し、水で練ったものを意図する。本明細書において、モルタルは、その他の成分として、AE剤、減水剤等の化学混和材等を含んでいてもよく、更にエチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム等の混和用ポリマーを含んでもよい。
【0103】
本明細書において、セメントミルクとは、セメントを水のみを練って得られるものを意図する。
【0104】
本明細書において、セメントとは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体を意図する。
【0105】
多孔質性の無機基材としては、より具体的には、例えば、打放しコンクリート軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、モルタル、目地モルタル、石綿セメント板、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、漆喰、石膏プラスター、ドロマイトプラスター、ブロック、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石、ガラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等が挙げられる。
【0106】
(塗布方法)
本実施形態に係るコーティング組成物は、基材の表面に塗布し、硬化させることでコーティング層を形成することができる。塗布や硬化の条件は特に限定されないが、硬化させる際には、常温で一定時間放置してもよいし、熱源を用いて加熱することで溶剤の蒸発と硬化反応を促進してもよい。
【0107】
(積層体)
また、本発明の別の態様は、土木建築材料から構成される基材、及び、該基材の表面に、前記コーティング組成物を用いて形成されたコーティング層を有する積層体にも関する。
【0108】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び、有機溶剤、を含有する、土木建築材料に対して塗布するためのコーティング組成物であって、
前記有機無機複合樹脂が、
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル重合性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)に由来する構成単位、
アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)に由来する構成単位、及び、
アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)に由来する構成単位、を含むポリシロキサン成分、並びに
ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位を含むビニル系重合体成分、を含み、
前記ポリシロキサン成分の構成単位である前記シラン化合物(a)、前記シラン化合物(b)、及び前記シラン化合物(c)において、ラジカル重合性基、アルキル基及びアリール基の合計モル数に対する、ラジカル重合性基の割合が20モル%以下である、コーティング組成物。
[項目2]
前記ポリシロキサン成分中において、前記アルキル基:前記アリール基のモル比が1:99~80:20である、項目1に記載のコーティング組成物。
[項目3]
前記ビニル系重合体成分のガラス転移温度が0℃以上である、項目1又は2に記載のコーティング組成物。
[項目4]
前記ポリシロキサン成分:前記ビニル系重合体成分の重量比が20:80~99:1である、項目1~3のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目5]
前記有機溶剤が弱溶剤を含む、項目1~4のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目6]
前記コーティング組成物がさらに艶消し剤を含む、項目1~5のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目7]
前記ビニル系重合体成分が、さらに、(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性基と加水分解性シリル基とを有する単量体(e)に由来する構成単位を含む、項目1~6のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目8]
前記単量体(e)に含まれる前記加水分解性シリル基がトリエトキシシリル基である、項目7に記載のコーティング組成物。
[項目9]
前記有機無機複合樹脂の重量平均分子量が5万以上である、項目1~8のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目10]
前記土木建築材料が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、項目1~9のいずれかに記載のコーティング組成物。
[項目11]
土木建築材料から構成される基材、及び、該基材の表面に形成されたコーティング層を有する積層体であって、
前記コーティング層が、項目1~10のいずれかに記載のコーティング組成物を用いて形成されたものである、積層体。
[項目12]
前記土木建築材料が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、項目11に記載の積層体。
【実施例0109】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0110】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
<基材>
エンジニアリングテストサービス社製のモルタル試験体
【0111】
<コーティング層>
(シラン化合物)
メチルトリメトキシシラン(略称「M-TMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6366」
フェニルトリメトキシシラン(略称「Ph-TMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6124」
ビニルトリメトキシシラン(略称「V-TMS」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-171」
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(略称「TSMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-174」
【0112】
(反応触媒)
ジブチルホスフェート(略称「DBP」):城北化学工業(株)製
【0113】
(溶剤)
S100(鉱油、クメン、キシレン、トリメチルベンゼン混合物):三和化学株式会社製
LAWS(ミネラルスピリット、キシレン、トリメチルベンゼン、ノナン混合物):シェルケミカルズジャパン株式会社製
イソプロピルアルコール(略称「IPA」):富士フイルム和光純薬株式会社製
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略称「PMA」):三協化学株式会社製
【0114】
(ビニル系単量体)
シクロヘキシルメタクリレート(略称「CHMA」):株式会社日本触媒製
ブチルアクリレート(略称「BA」):株式会社日本触媒製
γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(略称「TESMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「Y-9936」
【0115】
(反応触媒)
2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(略称「V-59」):富士フイルム和光純薬株式会社製
【0116】
(その他)
カネカXMAP SA120S(ポリマー主鎖の両方の末端に反応性シリル基を有する液状アクリル樹脂、粘度70Pa・s(23℃))(略称「SA120S」):株式会社カネカ製
ACEMATT TS-100(シリカ、艶消し剤):EVONIK社製
シランカップリング剤Z:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-1122」とモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-187」とをモル比1:2.2で反応させたもの。
γ-メルカプト-プロピルトリメトキシシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-189」
ジブチル錫ジブチルマレート:日東化成株式会社製の「ネオスタンU-20」
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート):川研ファインケミカル株式会社製の「ALCH-TR」
大同塗料(株)製のアクアシール1400
なお、アクアシール1400は、コンクリート表面に塗布して吸水防止層を形成するシラン・シロキサン系表面含浸剤として市販されている製品であり、本願発明に係るコーティング組成物の要件を満足しない。
【0117】
(重量平均分子量)
有機無機複合樹脂の重量平均分子量をGPCで測定した。GPCは、送液システムとして東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSK-GEL Hタイプを用い、溶媒としてTHFを用いて行い、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で算出した。
【0118】
〔合成例1〕
(ポリシロキサン成分の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、M-TMSを43.3重量部、Ph-TMSを37.2重量部、V-TMSを5.3重量部と、反応触媒としてDBPを0.0025重量部と、水を11.1重量部仕込み、ジャケット温度90℃にて3時間還流撹拌しながら反応させた後、発生したメタノールを蒸留により留去することで、ポリシロキサン成分を得た。
【0119】
(有機無機複合樹脂の作製(ビニル系重合体成分の形成))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、S100を1.5重量と、LAWSを3.5重量部と、前記ポリシロキサン成分と、を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、CHMAを35.0重量部、BAを14.0重量部、TESMAを1.0重量部、S100を1.4重量部、LAWSを3.3重量部と、重合開始剤であるV-59を0.1重量部との混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌してビニル系重合体成分(ガラス転移温度:21℃)を形成した後、S100を21.1重量部、LAWSを49.3重量部加え、重量平均分子量が69,000の有機無機複合樹脂を得た。さらにSA120Sを8.6重量部加えて混合し、有機無機複合樹脂を含む主剤(A-1)を得た。
【0120】
〔合成例2〕
(ポリシロキサン成分の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、M-TMSを43.3重量部、Ph-TMSを37.2重量部、V-TMSを5.3重量部と、反応触媒としてDBPを0.0025重量部と、水を11.1重量部仕込み、ジャケット温度90℃にて3時間還流撹拌しながら反応させた後、発生したメタノールを蒸留により留去することで、ポリシロキサン成分を得た。
【0121】
(有機無機複合樹脂の作製(ビニル系重合体成分の形成))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、S100を1.5重量と、LAWSを3.5重量部と、前記ポリシロキサン成分と、を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、CHMAを20.0重量部、BAを29.0重量部、TESMAを1.0重量部、S100を1.4重量部、LAWSを3.3重量部と、重合開始剤であるV-59を0.1重量部との混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌してビニル系重合体成分(ガラス転移温度:-16℃)を形成した後、S100を19.8重量部、LAWSを46.1重量部加え、重量平均分子量が95,000の有機無機複合樹脂を含む主剤(A-2)を得た
【0122】
(主剤(A-2T)の作製)
合成例2で得られた有機無機複合樹脂(A-2)100重量部に対してACEMATT TS-100を2.5重量部加えて室温で30分攪拌し、主剤(A-2T)を得た。
【0123】
〔比較合成例1〕
(ポリシロキサン成分の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、M-TMSを43.3重量部、Ph-TMSを37.2重量部、TSMAを5.3重量部と、反応触媒としてDBPを0.0025重量部と、水を11.1重量部仕込み、ジャケット温度90℃にて3時間還流撹拌しながら反応させた後、発生したメタノールを蒸留により留去することで、ポリシロキサン成分を得た。
【0124】
(有機無機複合樹脂の作製(ビニル系重合体成分の形成))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、S100を1.5重量と、LAWSを3.5重量部と、前記ポリシロキサン成分と、を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、CHMAを35.0重量部、BAを14.0重量部、TESMAを1.0重量部、S100を1.4重量部、LAWSを3.3重量部と、重合開始剤であるV-59を0.1重量部との混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下を行っていたが、途中でゲル化が生じ、有機無機複合樹脂が得られなかった。
【0125】
(硬化剤の作製)
〔作製例1〕
LAWSを34.5重量部、IPAを34.5重量部、シランカップリング剤Zを20重量部、A-189を5重量部、ネオスタンU-20を6重量部加えて室温で30分間撹拌して硬化剤(B-1)を得た。
【0126】
〔作製例2〕
PMA80重量部に対してALCH-TRを20重量部加えて室温で溶解するまで攪拌させて硬化剤(B-2)を得た。
【0127】
〔実施例1~3及び比較例1〕
(コーティング層の作製)
各実施例では、各主剤と各硬化剤とを表1に記載の重量比で混合し、刷毛を用いて、基材であるモルタル試験体の一面へ0.2kg/mとなるように、むらなく塗装した。
比較例1では、アクアシール1400(大同塗料(株)製)をそのまま、刷毛を用いて、基材であるモルタル試験体の一面へ0.2kg/mとなるように、むらなく塗装した。
表1に記載の硬化条件で養生を行い、コーティング層(硬化物)を作製した。
【0128】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
(透水性試験)
JIS A 6909(透水試験B法)に準じて、作製したコーティング層(硬化物)および原状試験体の試験面にリナック八千代社製Osmo現場透水量試験器(水平部用)をセメダイン社製POSシール(変成シリコーン系シーリング材)で取り付けた。シーリング材が十分に硬化した後、試験器具上部から水を加えて試験器具内に満たし、試験水が蒸発しないようにパラフィンを加えて蓋をし、試験を開始した。試験開始から7日後の水頭の高さを読み取り、試験開始の高さとの差から透水量を算出した。また、原状試験体を用いた試験(参考例)の透水量を100%とし、各試験体の透水量から透水比を算出した。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1より、実施例1~3は、比較例1と比べて透水量と透水比が低い。以上により、モルタル基材の表面に、本願発明に係るコーティング組成物を塗布してコーティング層を形成することにより、モルタル基材への透水性を低減できることが示された。