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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128283
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/12 20060101AFI20240913BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20240913BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240913BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 1/00 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
B32B13/12
C08F283/12
B05D7/00 D
B05D1/36 Z
C09D133/14
C09D183/04
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037185
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆博
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE07
4D075CA32
4D075CA38
4D075DB12
4D075DC03
4D075EA13
4D075EA43
4D075EB02
4F100AE01A
4F100AE11
4F100AE20A
4F100AH06B
4F100AK25B
4F100AK52B
4F100AK52C
4F100AK52J
4F100AL08B
4F100AL08C
4F100BA03
4F100CC01C
4F100CC03A
4F100CC03B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100GB07
4F100JD04
4F100JL06
4F100JL09
4F100JL11
4F100JM012
4F100JM01B
4J026AA76
4J026AB44
4J026BA27
4J026BA29
4J026BA43
4J026BB04
4J026DB04
4J026FA04
4J026FA07
4J026GA08
4J038CG141
4J038DL031
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】土木建築材料から構成される基材の表面に塗膜が形成された積層体であって、土木建築材料の意匠性を活かしつつ、耐久性の高い塗膜を有する積層体の提供。
【解決手段】土木建築材料から構成される基材(A)、該基材(A)に接した第一塗膜(B)、及び、該第一塗膜(B)に接した第二塗膜(C)を含む積層体。第一塗膜(B)は、水系クリヤー塗料から形成され、第二塗膜(C)は、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成されている。好ましくは、前記水系クリヤー塗料が、無機系樹脂、又は、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む。好ましくは、前記有機無機複合樹脂が、アクリル鎖グラフトポリシルセスキオキサンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木建築材料から構成される基材(A)、該基材(A)に接した第一塗膜(B)、及び、該第一塗膜(B)に接した第二塗膜(C)を含む積層体であって、
第一塗膜(B)は、水系クリヤー塗料から形成され、
第二塗膜(C)は、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成されている、積層体。
【請求項2】
前記水系クリヤー塗料が、無機系樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記水系クリヤー塗料が、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂が、複数の層を有するエマルションである、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記有機無機複合樹脂が、アクリル鎖グラフトポリシルセスキオキサンである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
第一塗膜(B)の厚みが1~100μmであり、第二塗膜(C)の厚みが2~200μmである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
土木建築材料から構成される基材(A)、第一塗膜(B)、及び、第二塗膜(C)のみから構成される、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
前記土木建築材料から構成される基材(A)が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の積層体を製造する方法であって、
土木建築材料から構成される基材(A)の表面に水系クリヤー塗料を塗布し、第一塗膜(B)を形成する工程と、
第一塗膜(B)の表面に、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料を塗布し、第二塗膜(C)を形成する工程、を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築材料から構成される基材の表面に塗膜を有する積層体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル等の外観を損なわずに、耐水性や撥水性を改善する手法として、コンクリートやモルタルの表面にクリヤー塗料を塗布して、透明な樹脂膜を形成することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、コンクリートまたはモルタルに対するコーティング剤として、ラダーシリコーンオリゴマーと、(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーとを共重合したコポリマーと、特定粒径の無機化合物粉末とを含む、コーティング剤が記載されている。該コーティング組成物は、溶剤系の塗料であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-277856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリートやモルタル等の土木建築材料の表面に溶剤系のクリヤー塗料を直接塗装すると、水に濡れたような濡れ色が生じ、溶剤が揮発した後もその濡れ色が残ってしまう場合があった。これにより、土木建築材料の意匠性を損ねる欠点がある。
【0006】
しかし、溶剤系に代えて水系のクリヤー塗料を塗装すると、形成される塗膜の耐久性が不十分で、凍結融解試験において塗膜に割れが生じたり、剥がれやすくなる傾向があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、土木建築材料から構成される基材の表面に塗膜が形成された積層体であって、土木建築材料の意匠性を活かしつつ、耐久性の高い塗膜を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、土木建築材料から構成される基材の表面に、水系クリヤー塗料を塗布して第一塗膜(B)を形成した後、第一塗膜(B)の表面に、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料を塗布して第二塗膜(C)をすることで、濡れ色を生じることなく、耐久性が高く、凍結融解試験で欠陥を生じにくい塗膜を形成できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、土木建築材料から構成される基材(A)、該基材(A)に接した第一塗膜(B)、及び、該第一塗膜(B)に接した第二塗膜(C)を含む積層体であって、
第一塗膜(B)は、水系クリヤー塗料から形成され、
第二塗膜(C)は、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成されている、積層体に関する。
また本発明は、前記積層体を製造する方法であって、
建築材料用基材(A)の表面に水系クリヤー塗料を塗布し、第一塗膜(B)を形成する工程と、
第一塗膜(B)の表面に、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料を塗布し、第二塗膜(C)を形成する工程、を含む、製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、土木建築材料から構成される基材の表面に塗膜が形成された積層体であって、土木建築材料の意匠性を活かしつつ、耐久性の高い塗膜を有する積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。
本実施形態は、土木建築材料から構成される基材(A)、該基材(A)に接した第一塗膜(B)、及び、該第一塗膜(B)に接した第二塗膜(C)を含む積層体に関する。第一塗膜(B)は、水系クリヤー塗料から形成された塗膜である。第二塗膜(C)は、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成された塗膜である。
第一塗膜(B)及び第二塗膜(C)はいずれも透明の塗膜であるため、これら塗膜を通して土木建築材料から構成される基材(A)の表面を視認することができる。
【0012】
本実施形態に係る積層体は、土木建築材料から構成される基材(A)、第一塗膜(B)、及び第二塗膜(C)に加えて、他の層をさらに含んでもよい。しかし、発明の効果を奏するには他の層は必要ではないため、本実施形態に係る積層体は、土木建築材料から構成される基材(A)、第一塗膜(B)、及び第二塗膜(C)のみから構成されるものであってもよい。
【0013】
(土木建築材料から構成される基材(A))
塗布対象である土木建築材料から構成される基材としては、建築物や土木構造物に用いられる基材を意図する。土木建築材料から構成される基材としては、例えば、有機基材(木材を含む)、無機基材等が挙げられる。本発明の一実施形態において、土木建築材料から構成される基材は、金属を含まないことが好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態において、土木建築材料から構成される基材は、多孔質性の有機および/または無機基材であることが好ましい。
【0015】
多孔質性の有機基材としては、特に限定されないが、例えば、木材、合板、パーティクルボード、集成材、MDF(中密度繊維板)等が好ましい。
【0016】
多孔質性の無機基材としては、特に限定されないが、例えば、含セメント組成物を硬化させて得られた基材のほか、石材、セラミックタイル、石こうボード、ケイ酸カルシウム板が好ましい。
【0017】
含セメント組成物を硬化させて得られた基材としては、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、プレストレストコンクリートを含む無機基材が挙げられる。
【0018】
含セメント組成物としては、例えば、コンクリート、モルタル、セメントミルク等が挙げられる。
【0019】
本明細書において、コンクリートとは、セメント、砂、水および砂利を含む材料のことを指す。本明細書において、コンクリートは、その他の成分として、AE剤、減水剤等の化学混和材等を含んでいてもよく、更にエチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム等の混和用ポリマーを含んでもよい。
【0020】
本明細書において、モルタルとは、セメントと細骨材(砂)とを混合し、水で練ったものを意図する。本明細書において、モルタルは、その他の成分として、AE剤、減水剤等の化学混和材等を含んでいてもよく、更にエチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム等の混和用ポリマーを含んでもよい。
【0021】
本明細書において、セメントミルクとは、セメントを水のみを練って得られるものを意図する。
【0022】
本明細書において、セメントとは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料等を主原料とした、水による化学反応で硬化する粉体を意図する。
【0023】
多孔質性の無機基材としては、より具体的には、例えば、打放しコンクリート軽量コンクリート、プレキャストコンクリート、軽量発泡コンクリート(ALC)、モルタル、目地モルタル、石綿セメント板、パルプセメント板、木毛セメント板、セメント系押出成形板、ガラス繊維入りセメント板(GRC)、カーボン繊維入りセメント板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、漆喰、石膏プラスター、ドロマイトプラスター、ブロック、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石、ガラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等が挙げられる。
【0024】
(第二塗膜(C))
第二塗膜(C)は、上塗り塗膜に当たり、第一塗膜(B)に接して形成される樹脂塗膜であって、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成される。第一塗膜(B)上に、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成される第二塗膜(C)を形成することで、土木建築材料から構成される基材と溶剤系クリヤー塗料との接触によって濡れ色が生じるのを回避し、土木建築材料の意匠性を活かしつつ、耐久性が高い樹脂塗膜とすることができる。
【0025】
第二塗膜(C)の厚みは、当業者が適宜設定できるが、塗膜の耐久性向上及び塗膜の密着性又は強度等の観点から、2~200μmであることが好ましく、5~100μmがより好ましい。
【0026】
第二塗膜(C)は、一層の塗膜のみから構成されていてもよいし、複数の塗膜から構成されてもよい。該複数の塗膜は、互いに同一の材料から構成されてもよいし、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成される限り、互いに異なる材料から構成されてもよい。
【0027】
第二塗膜(C)を構成する溶剤系クリヤー塗料とは、有機溶剤を含む塗料であって、顔料を含まず、透明の塗膜を形成する塗料である。透明の塗膜を形成するため、土木建築材料から構成される基材の外観を損なうことがない。
【0028】
次に、第二塗膜(C)を形成する、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料について説明する。
(有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料)
溶剤系クリヤー塗料には、有機無機複合樹脂が含まれる。
前記有機無機複合樹脂は、無機成分であるポリシロキサン成分と、有機成分であるビニル系重合体成分とを含む。ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分は、グラフト結合していることが好ましい。前記ビニル系重合体成分は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主体として形成されるアクリル鎖であることが特に好ましい。
【0029】
(ポリシロキサン成分)
前記ポリシロキサン成分とは、加水分解性シリル基を有するシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応によって得られるポリシロキサンを指す。該ポリシロキサン成分では、各構成単位は、シロキサン結合(Si-O-Si結合)によって結合している。
特に、前記ポリシロキサンは、ポリシルセスキオキサンであることが好ましい。該ポリシルセスキオキサンとは、組成式が(RSiO1.5で表されるシロキサン系の重合体骨格を指し、少なくともオルガノトリアルコキシシランを含むアルコキシシラン成分の加水分解縮合物から構成される。
【0030】
前記ポリシロキサン成分は、少なくとも、シラン化合物(a)、並びに、シラン化合物(b)及び/又はシラン化合物(c)を含むことが好ましい。
・ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(a)に由来する構成単位
・アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(b)に由来する構成単位
・アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物(c)に由来する構成単位
【0031】
前記シラン化合物(a)は、ラジカル反応性基と、加水分解性シリル基とを有するシラン化合物である。該ラジカル反応性基としては、ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すものが選択される。このようなラジカル反応性基を使用することによって、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合が可能になると共に、有機無機複合樹脂の製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。
【0032】
ラジカル重合におけるメタクリロイル基の成長反応性よりも低いラジカル反応性を示すラジカル反応性基としては、ビニル基、アリル基、p-スチリル基、メルカプト基が挙げられる。これらのうち1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記ラジカル反応性基としては、ビニル基を用いることが好ましい。尚、ここで言うビニル基は、ケイ素原子に直接結合したビニル基を指し、アリル基やp-スチリル基に含まれるビニル基を指すものではない。当該ラジカル反応性基は、ビニル基のみであってもよいし、ビニル基と、アリル基、p-スチリル基、及びメルカプト基からなる群より選択される少なくとも1種の基とを併用してもよい。
【0034】
前記ラジカル反応性基は、シラン化合物(a)のケイ素原子に直接結合していることが好ましい。このようなラジカル反応性基を使用することによって、炭化水素基のみを介したポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合が可能になると共に、製造時のゲル化が抑制され、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト結合を炭化水素基のみを介して実現するため、アクリロイル基やメタクリロイル基等のエステル含有基や、ビニルオキシ等のエーテル結合含有基などを有するアルコキシシランを使用しないことが好ましい。
【0035】
また、シラン化合物(a)は、加水分解性シリル基を有する化合物である。具体的には、ケイ素原子上にアルコキシ基を1~3個有する化合物であることが好ましい。つまり、シラン化合物(a)は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、及びトリオルガノモノアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、モノオルガノトリアルコキシシランを含むことが好ましい。ここで、モノオルガノトリアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、1個の有機基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。ジオルガノジアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、2個の有機基と、2個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。トリオルガノモノアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、3個の有機基と、1個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。
【0036】
シラン化合物(a)が有する有機基とは、アルコキシ基以外の有機基を指し、その具体例は特に限定されないが、例えば、前述したラジカル反応性基の他、炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基等の炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基やアリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記炭素数1~6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基である。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3であり、特に好ましくは1~2である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0037】
シラン化合物(a)が有するアルコキシ基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0038】
シラン化合物(a)の具体例としては特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、p-スチリルジメチルメトキシシラン、p-スチリルメチルジエトキシシラン、p-スチリルジメチルエトキシシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このうち、ビニル基を有するシラン化合物が好ましく、ビニルトリアルコキシシランが特に好ましい。
【0039】
シラン化合物(a)の使用量は少ないほうが製造時のゲル化を抑制することができ、また、多いほうがポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間のグラフト率を高めて第二塗膜(C)の物性を高めることができる。これらの観点から、ポリシロキサン成分に含まれる全構成単位に対して、シラン化合物(a)に由来する構成単位の占める割合は、0.1重量%以上30重量%以下が好ましく、1重量%以上20重量%以下が好ましく、3重量%以上10重量%以下がさらに好ましい。
【0040】
前記シラン化合物(b)は、アルキル基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物であり、前記シラン化合物(c)は、アリール基と加水分解性シリル基とを有するシラン化合物である。シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)は、前記ラジカル反応性基を持たないシラン化合物である。
【0041】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、及びトリオルガノモノアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、モノオルガノトリアルコキシシランを含むことが好ましい。
【0042】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)がケイ素原子上の置換基として有する有機基は、前記ラジカル反応性基を含まず、アルコキシ基以外の有機基であって、それぞれ、アルキル基、又は、アリール基である。アルキル基を有するシラン化合物(b)とアリール基を有するシラン化合物(c)を併用することで、製造時のゲル化を抑制しやすくなり、また、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性と、第二塗膜(C)による透水性低減を高いレベルで両立することができる。
【0043】
シラン化合物(b)はケイ素原子上の置換基としてアルキル基を有する。該アルキル基としては特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基等が挙げられる。前記アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。また、前記アルキル基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。アルキル基は、メチル基及び/又はエチル基であることが特に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。前記アルキル基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0044】
シラン化合物(c)はケイ素原子上の置換基としてアリール基を有する。該アリール基としては特に限定されず、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、前記アリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、非ラジカル反応性置換基を有しても良い。前記アリール基の炭素数は、6~10が好ましい。前記アリール基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0045】
中でも、シラン化合物(b)が前記アルキル基としてメチル基及び/又はエチル基を含み、かつ、シラン化合物(c)が前記アリール基としてフェニル基を含むことが好ましい。さらに、シラン化合物(b)が前記アルキル基としてメチル基を含み、かつ、シラン化合物(c)が前記アリール基としてフェニル基を含むことが特に好ましい。
【0046】
シラン化合物(b)及びシラン化合物(c)がケイ素原子上の置換基として有するアルコキシ基としては特に限定されないが、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0047】
シラン化合物(b)の具体例としては特に限定されないが、モノオルガノトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。ジオルガノジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。トリオルガノモノアルコキシシランとしては、例えば、トリメチルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
シラン化合物(c)の具体例としては特に限定されないが、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、トリルトリメトキシシラン、トリルトリエトキシシラン、トリルトリプロポキシシラン、キシリルトリメトキシシラン、キシリルトリエトキシシラン、キシリルトリプロポキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、ナフチルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
シラン化合物(b)としては、メチルトリアルコキシシラン、及び/又は、エチルトリアルコキシシランを使用し、シラン化合物(c)としては、フェニルトリアルコキシシランを使用することが好ましい。さらに、シラン化合物(b)としては、メチルトリアルコキシシランを使用し、シラン化合物(c)としては、フェニルトリアルコキシシランを使用することが特に好ましい。
【0050】
前記ポリシロキサン成分中において、シラン化合物(b)が有するアルキル基とシラン化合物(c)が有するアリール基の比率は特に限定されないが、有機無機複合樹脂の安定性と、第二塗膜(C)による透水性低減のバランスの観点から、前記アルキル基:前記アリール基のモル比が1:99~80:20であることが好ましい。10:90~75:25であることが好ましく、20:80~70:30がより好ましく、30:70~70:30が特に好ましく、40:60~70:30が最も好ましい。
【0051】
前記ポリシロキサン成分中において、シラン化合物(a)が有するラジカル反応性基、シラン化合物(b)が有するアルキル基、及び、シラン化合物(c)が有するアリール基の合計モル数に対する、前記ラジカル反応性基の割合が20モル%以下となるように、各シラン化合物の使用量を設定することが好ましい。前記ラジカル反応性基の割合が20モル%を超えると、有機無機複合樹脂の製造時にゲル化しやすくなったり、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0052】
(ビニル系重合体成分)
前記有機無機複合樹脂において有機成分を構成する前記ビニル系重合体成分とは、ラジカル重合性モノマー成分の重合によって形成されたものである。該ビニル系重合体成分では、各構成単位は、ラジカル重合性基間の重合反応によって結合しており、即ち炭素-炭素結合によって結合している。該ビニル系重合体成分は、ポリシロキサン成分に対するグラフト鎖であり得る。
【0053】
前記ビニル系重合体成分は、少なくとも、ラジカル重合性基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位を含む。
前記ラジカル重合性基とは、付加重合によってビニル系重合体成分を形成し得る基を指し、通常、炭素-炭素二重結合を指す。
前記加水分解性シリル基とは、加水分解・脱水縮合反応によってシロキサン結合を形成し得る基を指し、代表例としてはアルコキシリル基が挙げられる。
【0054】
単量体(d)としては、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び/又は、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーを除く加水分解性シリル基を有さないラジカル重合性モノマーを使用することが好ましい。単量体(d)として、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーのみを使用してもよいし、該(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のラジカル重合性モノマーを併用してもよい。
【0055】
前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の、炭素数が1~22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のω-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
ビニル系重合体成分を形成するラジカル重合性モノマー成分全体に対して前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーが占める割合は適宜設定できる。しかし、製造される有機無機複合樹脂の土木建築材料への密着性の観点から、前記ラジカル重合性モノマー成分の総量のうち(メタ)アクリル酸エステルモノマーが60重量%以上を占めることが好ましく、65重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0057】
前記ビニル系重合体成分は、加水分解性シリル基を有さない単量体(d)に由来する構成単位のみから構成されてもよいが、単量体(d)に由来する構成単位に加えて、ラジカル重合性基と加水分解性シリル基とを有する単量体(e)に由来する構成単位をさらに含むことが好ましい。単量体(e)を使用してビニル系重合体成分を形成することで、ビニル系重合体成分に加水分解性シリル基を導入することができ、ビニル系重合体成分とポリシロキサン成分との相溶性が向上し、有機無機複合樹脂の安定性が改善され得る。さらに、第二塗膜(C)による透水性低減をより高度に発現することが可能となる。
【0058】
単量体(e)としては特に限定されないが、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0059】
単量体(e)が有する加水分解性シリル基は、ケイ素原子にアルコキシ基を結合してなる基を指す。該アルコキシ基としては特に限定されず、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。単量体(e)が有する加水分解性シリル基は、ケイ素原子上にエトキシ基を有するシリル基であることが好ましく、トリエトキシシリル基であることが特に好ましい。エトキシ基を有するシリル基は、メトキシ基を有するシリル基よりも加水分解性が低いため、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性がより良好となり、また、形成される第二塗膜(C)の均一性を高めやすく、透水性をより低減し得るという利点がある。
【0060】
単量体(e)の使用量は、適宜設定できるが、単量体(e)を使用することによる効果を奏する観点から、ビニル系重合体成分を形成するラジカル重合性モノマー成分の総量のうち、0.1~30重量%であることが好ましく、0.5~20重量%がより好ましく、1~10重量%が特に好ましい。
【0061】
ビニル系重合体成分を構成するモノマーの種類及び割合は、基材の種類や、第二塗膜(C)に求める物性を考慮して適宜選択することができるが、第二塗膜(C)の透水性をより低減し得る観点から、形成されるビニル系重合体成分のガラス転移温度(Tg)が0℃以上となるように選択することが好ましい。ビニル系重合体成分のTgは10℃以上であることがより好ましく、20℃以上が特に好ましい。ビニル系重合体成分のTgの上限は特に限定されないが、200℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。Tgは、下記Foxの式に基づいて算出できる。
Foxの式:
1/(Tg(K))=Σ(Mi/Tgi)
(式中、Miは重合体を構成する単量体i成分の重量分率、Tgiは単量体iのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。)
【0062】
ホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK-FOURTH EDITION-(J.Brandrupら)に記載のガラス転移温度(Tg)を参考とする。TgをFoxの式より計算する場合には、加水分解性シリル基を有する単量体を考慮せずに計算する。
【0063】
また、ビニル系重合体成分を構成するモノマーの種類及び割合は、溶解度パラメータ値(SP値)が、9.0~11.0(cal/cm1/2の範囲にあるように選択されることが好ましい。ビニル系重合体成分のSP値がこの範囲にあると、製造される有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かして溶剤系クリヤー塗料を提供することが容易になる。特に、SP値が9.0~10.0(cal/cm1/2の範囲にあるビニル系重合体成分とポリシロキサン成分との複合化は一般には困難であるが、本願で開示する製造方法によると、このようなSP値を示すビニル系重合体成分とポリシロキサン成分を複合化した有機無機複合樹脂を好適に製造することができる。前記SP値は、9.2~10.0(cal/cm1/2がより好ましく、9.4~9.9(cal/cm1/2が特に好ましい。
【0064】
SP値は、Fedors[Robert F.Fedors,Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974)]に記載の方法に基づき、下記の式によって算出される値δである。
Fedorsの式:δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
式中、Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)を示し、Δvi:モル体積(cm/mol)を示す。
【0065】
前記ビニル系重合体成分を構成するモノマー単位に含まれる炭素数は、特に限定されないが、例えば有機無機複合樹脂を弱溶剤に溶かして塗料とするに際しては、前記モノマー単位の側鎖の炭素数が平均で3~7の範囲にあることが好ましく、3.3~6.7の範囲にあることがより好ましく、3.5~6.2の範囲にあることがさらに好ましい。前記側鎖の炭素数とは、例えば(メタ)アクリル酸エステルモノマーの場合、エステル部分の炭素数であり、それ以外のモノマーの場合、重合体の主鎖を形成する炭素-炭素不飽和結合を除く部位の炭素数である。具体的に述べると、メタクリル酸メチルの側鎖の炭素数は1、メタクリル酸ブチルの側鎖の炭素数は4、メタクリル酸シクロヘキシルは6、メタクリル酸2-ヒロドキシエチルの側鎖の炭素数は2、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの側鎖の炭素数は6、スチレンの側鎖の炭素数は6である。メタクリル酸ブチルやメタクリル酸シクロヘキシル等の、主鎖周りの立体障害が大きいモノマーを多く使用すると、ポリシロキサン成分との相溶性が低下するため一般には複合化が困難になるが、本願で開示する製造方法によると、このような炭素数が大きいモノマーを多く使用しても、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分が複合化した有機無機複合樹脂を製造することができる。
【0066】
前記有機無機複合樹脂において、前記ポリシロキサン成分:前記ビニル系重合体成分の重量比は適宜設定できるが、有機無機複合樹脂の安定性と、第二塗膜(C)による土木建築材料への透水性低減の観点から、20:80~99:1であることが好ましく、30:70~90:10がより好ましく、40:60~80:20がさらに好ましく、40:60~70:30が特に好ましく、40:60~60:40が最も好ましい。
【0067】
有機無機複合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、所望の物性に応じて適宜決定できるが、例えば、2000~50万の範囲であってよい。この範囲では、製造時のゲル化を回避しつつ、有機無機複合樹脂は貯蔵安定性に優れ、土木建築材料への透水性が低減された第二塗膜(C)を形成することができる。中でも、溶剤系クリヤー塗料の粘度を高め、施工時にたれにくく、第二塗膜(C)の厚みを確保しやすい利点があるため、有機無機複合樹脂の重量平均分子量は5万以上であることが好ましく、6万以上がより好ましく、8万以上が特に好ましい。なお、有機無機複合樹脂の重量平均分子量は、実施例の項に記載した方法によって決定できる。
【0068】
(有機無機複合樹脂の製造方法)
次に、有機無機複合樹脂を製造する方法について説明する。有機無機複合樹脂は、シラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応によってポリシロキサン成分を得た後、該ポリシロキサン成分の存在下で、ラジカル重合性モノマー成分のラジカル重合を行ってビニル系重合体成分を形成することで製造できる。以下、各工程について説明する。
【0069】
(加水分解及び脱水縮合反応)
まず、シラン化合物(a)、シラン化合物(b)、及びシラン化合物(c)を含むシラン成分を、水と縮合触媒の存在下で、加水分解及び脱水縮合反応させることによって、ポリシロキサン成分を形成することができる。製造されたポリシロキサン成分は、シラン化合物(a)に由来するラジカル反応性基を有する。
【0070】
好ましい実施形態によると、各シラン化合物に含まれる一部のアルコキシ基が未反応で残留し、または、該シラン化合物が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留することで、製造されたポリシロキサン成分は、反応性ケイ素基をさらに有することができる。ここで、反応性ケイ素基とは、アルコキシシリル基とシラノール基の双方を含む概念である。
【0071】
前記加水分解及び脱水縮合反応では水を添加して該反応を進行させることが好ましい。この時、水の使用量を制御することによって、ラジカル重合時のゲル化を抑制し、有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を改善することができる。この観点から、水の使用量は、シラン化合物に含まれるケイ素原子に直接結合したアルコキシ基の合計モル数を100%とし、これに対して20モル%以上60モル%以下であることが好ましい。
【0072】
前記加水分解および脱水縮合工程では、水に加えて、水以外の有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤としては、水と併用するため水溶性の有機溶剤が好ましい。また、シラン化合物の溶解性を確保するため、炭素数が4以上の有機溶剤が好ましい。
【0073】
有機無機複合樹脂の製造後や、塗膜の形成時に有機溶剤を揮発させることになるため、大気圧下における沸点が150℃以下の有機溶剤が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0074】
前記加水分解及び脱水縮合反応は、反応促進のため、縮合触媒の存在下で行うことが好ましい。縮合触媒としては、酸性触媒、塩基性触媒と、中性塩を使用することができる。
【0075】
酸性触媒としては、シラン化合物や有機溶剤との相溶性から、有機酸が好ましく、リン酸エステルやカルボン酸がより好ましい。有機酸の具体例としては、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ピロリン酸ブチル(又はジブチルピロホスフェート)、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸等が挙げられる。
【0076】
塩基性触媒としては、例えば、N-エチルモルホリン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等のアミン系化合物や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物等が挙げられる。
【0077】
中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、例えば、カチオンとして第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、グアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれかと、アニオンとしてフッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。特に、アニオンとしては、求核性が高いため、第十七族元素イオンが好ましく、カチオンとしては、求核作用を阻害しないように、嵩高くないイオンとして、第一族元素イオン、第二族元素イオンが好ましい。
【0078】
中性塩の具体的な化合物は特に限定されないが、例えば、好ましい中性塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ラビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ラビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ラビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムが挙げられる。
【0079】
縮合触媒の添加量は適宜調節できるが、例えば、シラン化合物に対して10ppm~3重量%程度であってよい。
【0080】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施する際の反応温度は当業者が適宜設定できるが、例えば反応液を50~150℃の範囲に加熱することが好ましい。反応時間に関しても当業者が適宜設定できるが、例えば10分間~12時間程度であってよい。
【0081】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施した後、加水分解工程で発生したアルコールを反応液から除去する工程を実施することが好ましい。アルコールを除去することによって、アルコールを副生する加水分解反応をより進めることができる。当該アルコールの除去工程は、加水分解および脱水縮合工程後の反応液を減圧蒸留に付してアルコールを留去することで実施できる。減圧蒸留の条件は当業者が適宜設定することが可能である。
【0082】
加水分解及び脱水縮合反応では、シラン化合物(a)が有するラジカル反応性基は実質的に影響を受けることがないため、当該反応で製造されたポリシロキサン成分は、上述したように、シラン化合物(a)に由来するラジカル反応性基を有することになる。
【0083】
(ラジカル重合)
次いで、加水分解及び脱水縮合反応によって得られたポリシロキサン成分と、単量体(d)を含むラジカル重合性モノマー成分とを混合してラジカル重合を行う。これによって、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分とを含む有機無機複合樹脂を製造することができる。当該ラジカル重合では、まず、単量体(d)を含むラジカル重合性モノマー成分の重合が進行してビニル系重合体成分が優先的に形成された後、該ビニル系重合体成分の主鎖末端に、ポリシロキサン成分が有する、低いラジカル反応性を示すラジカル反応性基が反応することで、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分間の複合化を実現することができる。ただし、前記低いラジカル反応性を示すラジカル反応性基の一部が、ビニル系重合体成分の主鎖末端ではない部分に共重合する場合もあり得る。
【0084】
前記ラジカル重合の手法は常法によることができ、塊状ラジカル重合法、溶液ラジカル重合法、非水分散ラジカル重合法など、公知の重合方法を使用することができる。
【0085】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤の存在下で実施することができる。該ラジカル重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、ラジカル重合性モノマー成分100重量部に対して、0.1~10重量部であってよく、0.5~7重量部が好ましい。
【0087】
前記ラジカル重合は、β-ジカルボニル化合物の存在下で実施してもよい。β-ジカルボニル化合物とは、2個のカルボニル基が1個の炭素原子を挟んで結合している構造を有する化合物のことをいう。β-ジカルボニル化合物を重合系に存在させることで、ラジカル重合時に、ポリシロキサン成分が有するシラノール基の脱水縮合反応が進行するのを抑制できる。β-ジカルボニル化合物としては特に限定されないが、例えば、アセチルアセトン、ジメドン、シクロヘキサン-1,3-ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、メルドラム酸等が挙げられる。β-ジカルボニル化合物の使用量は、例えば、ポリシロキサン成分100重量部に対して0.01~10重量部であってよく、0.1~5重量部程度であってもよい。
【0088】
ラジカル重合時の重合温度は常法によることができる。また、前記加水分解及び脱水縮合反応、並びに、前記ラジカル重合は、酸素分子を実質的に含まない雰囲気下で実施することが好ましい。
【0089】
以上のラジカル重合によって、ビニル系重合体成分が形成されると共に、該ビニル系重合体成分の主鎖末端に、前記低いラジカル反応性を示すラジカル反応性基が反応してポリシロキサン成分が結合することで、ポリシロキサン成分とビニル系重合体成分がグラフト結合してなる有機無機複合樹脂を製造することができる。
【0090】
好ましい実施形態によると、製造される有機無機複合樹脂に含まれるポリシロキサン成分は、反応性ケイ素基(アルコキシシリル基及び/又はシラノール基)を有することができる。この反応性ケイ素によって、有機無機複合樹脂は反応性ケイ素基の加水分解・脱水反応を利用した硬化性を示すことができる。
【0091】
この場合、反応性ケイ素の安定性を確保するため、製造された有機無機複合樹脂に脱水剤を混合してもよい。これによって、ポリシロキサン成分に反応性ケイ素基を有する有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を向上させることができる。脱水剤としては、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチル、オルソ酢酸メチル、又はオルソ酢酸エチルが好ましい。これらのうち1種のみを使用してもよいし、複数種を使用してもよい。
【0092】
脱水剤の使用量は特に限定されず、脱水前の有機無機複合樹脂に含まれる水分量と、脱水後の目的の含水量を勘案して当業者が適宜決定できる。一例として、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01~20重量部程度であり、0.1~10重量部程度であってもよい。
【0093】
(硬化触媒)
前述した有機無機複合樹脂は、硬化触媒の存在下で硬化反応が促進され、第二塗膜(C)形成時の作業時間を短縮することができる。そのため、前記溶剤系クリヤー塗料は、有機無機複合樹脂と混合された状態で硬化剤を含有するか、または、硬化剤を別のパッケージで含む2液の形態の組成物であることが好ましい。
【0094】
当該硬化触媒としては、加水分解性シリル基の加水分解反応および脱水縮合反応を利用した硬化性樹脂組成物に対して用いる硬化触媒として公知の物質を適宜使用することができる。具体的には、硬化触媒として、上述した縮合触媒を使用することができ、また、有機錫化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、有機アミン化合物などを使用することができる。
【0095】
硬化触媒の使用量は、硬化温度と硬化時間とに応じて適宜調整できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して0.01~20重量部程度が好ましく、0.1~10重量部程度がより好ましい。
【0096】
(有機溶剤)
前記溶剤系クリヤー塗料は、有機溶剤を含む。有機溶剤としては特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;塩化メチレン、メチルクロロホルム、四塩化炭素、ジクロロジフルオロメタン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0097】
中でも、コーティング時の安全性の観点、及び、基材である土木建築材料に対する浸食を抑制できる観点から、前記有機溶剤は、弱溶剤を含むことが好ましい。
【0098】
弱溶剤としては、労働安全衛生法において第3種有機溶剤に分類されている溶剤、および、第3種有機溶剤に相当する溶剤が挙げられる。具体例としては、ガソリン、灯油、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリットおよびミネラルターペンを含む)が挙げられる。
【0099】
より具体的には、第3種有機溶剤である芳香族炭化水素を100%含有するソルベッソ100(エクソンモービル製)や、非水系で芳香族含有量が50%以下の溶剤として、アイソパーE、アイソパーG、Aソルベント(以上、新日本石油製)、LAWS(シェル化学製)、ペガソールAN45、エクソンナフサNo.6、エクソンナフサNo.5、エクソンナフサNo.3、エクソ-ルD40、エクソ-ルD80(以上、エクソンモービル製)、IPソルベント1620、IPソルベント2028(以上、出光石油化学製)などが挙げられる。
【0100】
前記溶剤系クリヤー塗料中、有機溶剤の配合量は特に限定されず、当業者が適宜決定できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して10~500重量部程度であってよい。
【0101】
(他の成分)
前記溶剤系クリヤー塗料は、有機無機複合樹脂、硬化触媒、及び有機溶剤以外の成分を含有してもよい。そのような成分としては、顔料、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、艶消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤など、公知の塗料用添加物が挙げられる。
【0102】
特に、前記溶剤系クリヤー塗料は、第二塗膜(C)表面の光沢を低減して、基材である土木建築材料の風合いを生かし、積層体の外観を良好にする観点から、艶消し剤をさらに含むことが好ましい。そのような艶消し剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、シリカ、酸化チタン、雲母、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0103】
前記溶剤系クリヤー塗料中、艶消し剤の配合量は特に限定されず、当業者が適宜決定できるが、例えば、有機無機複合樹脂100重量部に対して1~20重量部程度であってよい。
【0104】
前記溶剤系クリヤー塗料は、さらに、加水分解性シリル基を有する重合体、特にポリ(メタ)アクリル系重合体を含有してもよい。該重合体を配合することによって、第二塗膜(C)に柔軟性を付与することができる。
【0105】
(第一塗膜(B))
第一塗膜(B)は、下塗り塗膜に当たり、土木建築材料から構成される基材(A)に接して形成される樹脂塗膜であって、水系クリヤー塗料から形成される。土木建築材料から構成される基材(A)上に、溶剤系クリヤー塗料ではなく、水系クリヤー塗料から形成される塗膜を形成することで、濡れ色を生じることなく土木建築材料の意匠性を活かしつつ、樹脂塗膜を形成することができる。
【0106】
第一塗膜(B)の厚みは、当業者が適宜設定できるが、濡れ色防止の観点及び第一塗膜(B)の密着性又は強度等の観点から、1~100μmであることが好ましく、2~80μmがより好ましい。
【0107】
第一塗膜(B)は、一層の塗膜のみから構成されていてもよいし、複数の塗膜から構成されてもよい。該複数の塗膜は、互いに同一の材料から構成されてもよいし、水系クリヤー塗料から形成される限り、互いに異なる材料から構成されてもよい。
【0108】
第一塗膜(B)を構成する水系クリヤー塗料とは、有機溶剤の代わりに水を含む塗料であって、顔料を含まず、透明の塗膜を形成する塗料である。透明の塗膜を形成するため、土木建築材料から構成される基材の外観を損なうことがない。
【0109】
水系クリヤー塗料に含まれる樹脂の具体例としては、無機系樹脂や、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂が挙げられる。以下、各樹脂を含む水系クリヤー塗料について説明する。
【0110】
(無機系樹脂を含む水系クリヤー塗料)
水系クリヤー塗料に含まれる樹脂の一態様である無機系樹脂としては、ポリシロキサン系樹脂が挙げられる。
前記ポリシロキサン系樹脂は、少なくとも、シラン化合物(g)に由来する構成単位(g’)を含むことが好ましい。さらに、構成単位(g’)に加えて、両末端に加水分解性シリル基を有する重合体(h)に由来する構成単位(h’)、シラン化合物(i)に由来する構成単位(i’)、単量体(j)に由来する構成単位(j’)、及び/又は、オリゴマー(k)に由来する構成単位(k’)を含んでもよい。
【0111】
前記ポリシロキサン系樹脂は、シラン化合物(g)と、任意で、重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)と、を縮合してなるポリシロキサン系樹脂であってよい。また、シラン化合物(g)と、任意で、重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)と、を縮合してなるポリシロキサン系樹脂に、単量体(j)及び/又はオリゴマー(k)をグラフトしてなるグラフト重合ポリシロキサン系樹脂であってもよい。
【0112】
<シラン化合物(g)に由来する構成単位(g’)>
前記ポリシロキサン系樹脂は、シラン化合物(g)に由来する構成単位(g’)を含む。
シラン化合物(g)は、加水分解性シリル基を有し、かつ、ラジカル重合性不飽和基を有さないシラン化合物である。具体的には、上述したシラン化合物(b)又は(c)を使用することができる。特に、加水分解性シリル基を3個有するシラン化合物であるモノオルガノトリアルコキシシランが、網目構造のポリマーを形成することができるため好ましい。入手性の観点から、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0113】
前記ポリシロキサン系樹脂中の構成単位(g’)の量は、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%~90重量%であることが好ましく、20重量%~80重量%であることがより好ましく、30重量%~70重量%であることがさらに好ましい。構成単位(g’)の量が、ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して10重量%~90重量%であると、得られる硬化物の耐久性および耐候性がより良好となる。
【0114】
<両末端に加水分解性シリル基を有する重合体(h)に由来する構成単位(h’)>
前記ポリシロキサン系樹脂は、両末端に加水分解性シリル基を有する重合体(h)に由来する構成単位(h’)を含むことが好ましい。
重合体(h)は、両末端に存在する加水分解性シリル基と、主鎖(主鎖骨格)である重合体(分子鎖)と、を含む重合体である。重合体(h)は、テレケリックオリゴマーであるとも言える。
【0115】
(加水分解性シリル基)
重合体(h)の両末端に存在する加水分解性シリル基としては、特に限定されず、例えば、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基等が挙げられる。
【0116】
重合体(h)の両末端に存在する加水分解性シリル基は同一でもよく異なっていてもよいが、分子鎖同士の絡み合いを解きほぐすためには、自由鎖末端が架橋構造全体として均一に存在する方がよいので、反応性に大きな差が無い方が好ましい。
【0117】
重合体(h)において、加水分解性シリル基は両末端にのみ有していても良いが、両末端以外に主鎖中にも有していても良い。重合体(h)は、加水分解性シリル基を1分子に平均して1.0個より多く有しており、1.5~3.0個有していることがより好ましく、1.8~2.5個有していることがよりさらに好ましい。
【0118】
(主鎖)
重合体(h)の主鎖は、特に限定されないが、合成が容易という利点があることから、ポリアルキレンオキサイド系重合体、ポリ(メタ)アクリル系重合体、およびポリイソブチレン系重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に、耐候性に優れる硬化物が得られるという利点があることから、ポリ(メタ)アクリル重合体であることがより好ましい。
【0119】
(ポリアルキレンオキサイド系重合体)
重合体(h)の主鎖は、ポリアルキレンオキサイド系重合体であってもよい。ポリアルキレンオキサイド系重合体の主要な構成単位(アルキレンオキサイド系モノマー単位)としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、等が挙げられる。
【0120】
(ポリ(メタ)アクリル系重合体)
重合体(h)の主鎖は、ポリ(メタ)アクリル系重合体であることが好ましい。ポリ(メタ)アクリル系重合体の主要な構成単位((メタ)アクリル系モノマー単位)としては、各種のものを用いることができる。
【0121】
なかでも、生成されるポリ(メタ)アクリル系重合体の物性等の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーが好ましく、より好ましくは、アクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくは(メタ)アクリル酸とエステル結合しているアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、より具体的には、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソプロポキシエチル等のアルキル基を有しており、かつ、上記アルキル基は炭素数が1~5のアルコキシ基を有している(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;アルキル基の炭素数が1~5個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;アルキル基の炭素数が6~15個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;アルキル基の炭素数が16~25個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;等が挙げられる。
【0122】
ポリ(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系モノマーと、その他の従来公知なモノマーとを共重合、更にはブロック共重合させてなる重合体であってもよい。
【0123】
(ポリイソブチレン系重合体)
重合体(h)の主鎖は、ポリイソブチレン系重合体であってもよい。ポリイソブチレン系重合体は、イソブチレン単位を主要な構成単位とする重合体である。
【0124】
重合体(h)の数平均分子量は特に制限はないが、500~1,000,000であってよく、1000~100,000が好ましい。分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)も特に限定されないが、1.8未満であってよく、1.3以下が好ましい。
【0125】
重合体(h)の数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により求められる。通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにておこない、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0126】
重合体(h)の製造方法としては特に限定されず、従来公知な方法により、主鎖の両末端に加水分解性シリル基を導入することができるが、構造制御(分子量、分子量分布、末端官能化率など)の容易性の観点から、リビングラジカル重合法、リビングカチオン重合法、リビングアニオン重合法等のリビング重合法が挙げられる。特に、精度よく両末端に加水分解性シリル基を導入できることから、リビングラジカル重合法が好ましい。
【0127】
前記ポリシロキサン系樹脂中の構成単位(h’)の量は、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して1重量%~10重量%であることが好ましく、3重量%~7重量%であることがより好ましい。
【0128】
前記ポリシロキサン系樹脂における、構成単位(g’)および構成単位(h’)の比率は、構成単位(g’)および構成単位(h’)の合計量100重量%に対し、構成単位(g’)が90~99重量%であり、構成単位(h’)が1~10重量%であることが好ましく、構成単位(g’)が93~97重量%であり、構成単位(h’)が3~7重量%であることがより好ましい。
【0129】
<シラン化合物(i)に由来する構成単位(i’)>
前記ポリシロキサン系樹脂は、シラン化合物(i)に由来する構成単位(i’)を含むことが好ましい。
シラン化合物(i)は、ラジカル重合性不飽和基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物である。シラン化合物(i)としては、上述したシラン化合物(a)や、上述したシラン化合物(e)が挙げられる。
【0130】
シラン化合物(g)、重合体(h)及びシラン化合物(i)を脱水縮合して得られるポリシロキサン系樹脂の数平均分子量は特に制限はないが、500~100,000の範囲が好ましく、1,000~10,000が更に好ましい。
【0131】
ここで、ポリシロキサン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により求められる。通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量はポリスチレン換算で求めることができる。
【0132】
前記ポリシロキサン系樹脂が構成単位(i’)を含む場合、前記ポリシロキサン系樹脂中の構成単位(i’)の量は、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して1重量%~10重量%であることが好ましく、1.5重量%~8重量%であることがより好ましく、2重量%~6重量%であることがさらに好ましい。
【0133】
<単量体(j)に由来する構成単位(j’)>
前記ポリシロキサン系樹脂は、単量体(j)に由来する構成単位(j’)を含むことが好ましい。
単量体(j)は、ラジカル重合性不飽和基を有し、かつ、加水分解性シリル基を有さない単量体である。単量体(j)中のラジカル重合性不飽和基は、シラン化合物(i)に由来するラジカル重合性不飽和基との間でラジカル重合を行い、シラン化合物(g)、重合体(h)及びシラン化合物(i)を脱水縮合してなるポリシロキサン鎖(縮合物ともいう)に対して前記単量体(j)に由来するグラフト鎖を形成する。
【0134】
単量体(j)としては特に限定されないが、例えば、以下に示すような酸と塩基からなる塩構造を有する単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびその他の単量体が挙げられる。これらの各単量体の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、前記ポリシロキサン系樹脂を水に均一に分散または可溶な状態となっている水溶液にできるという利点があることから、単量体(j)は、酸と塩基からなる塩構造を有する単量体を含むことが好ましい。
【0135】
(酸と塩基からなる塩構造を有する単量体)
前記酸と塩基からなる塩構造を有する単量体における、塩構造は、例えば、強酸と強塩基との中性塩の構造、強酸と弱塩基との中性塩の構造、弱酸と強塩基との中性塩の構造、または弱酸と弱塩基との中性塩の構造であり得る。より具体的な塩構造としては、例えば、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム等(強酸と強塩基との中性塩の構造)、スルホン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等(強酸と弱塩基との中性塩の構造)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等(弱酸と強塩基との中性塩の構造)、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等(弱酸と弱塩基との中性塩の構造)等が挙げられる。塩構造は、スルホン酸ナトリウムまたはスルホン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0136】
酸と塩基からなる塩構造を有する単量体としては、より具体的には、ADEKA(株)製アデカリアソープSR-05、SR-10、SR-20、SR-1025、SR-2025、SR-3025、SR-10S、NE-10、NE-20、NE-30、NE-40、SE-10、SE-20、ER-10、ER-20、ER-30、ER-40、日本乳化剤(株)製Antox-MS-60、RMA-1120、RMA-564、RMA-568、RMA-506、MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RMA-1120、MPG130-MA、MPG-130MA、RMA-150M、RMA-300M、RMA-450M、RA-1020、RA-1820、第一工業製薬(株)製アクアロンKH-05、KH-10、RN-20、RN-30、RN-50、RN-2025、HS-10、HS-20、HS-1025、BC05、BC10、BC0515、BC1025、三洋化成工業(株)製エレミノールJS-2、JS-20、RS-30、花王(株)製ラテムルS-180、S-180A、PD-104、PD-420、PD-430、スルホエチルメタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸ナトリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カリウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カリウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸カルシウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸カルシウム、スルホエチルメタクリル酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸アンモニウム、アクリルアミド-tブチルスルホン酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸アンモニウム等が挙げられる。
【0137】
((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~18個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルであってよく、水酸基、エポキシ基等の官能基を含まない(メタ)アルキル単量体であり得る。(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また、環状であるシクロアルキル基であってもよい。
【0138】
((メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体)
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ラジカル重合性単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ラジカル重合性単量体;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するラジカル重合性単量体(特に、ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル)等の親水性を有するラジカル重合性単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体;トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のふっ素含有ラジカル重合性単量体;等が挙げられる。
【0139】
前記ポリシロキサン系樹脂が構成単位(j’)を含む場合、前記ポリシロキサン系樹脂中の構成単位(j’)の量は、前記ポリシロキサン系樹脂の全量100重量%に対して5重量%~85重量%であることが好ましく、10重量%~70重量%であることが好ましく、30重量%~60重量%であることが好ましい。
【0140】
<オリゴマー(k)に由来する構成単位(k’)>
前記ポリシロキサン系樹脂は、オリゴマー(k)に由来する構成単位(k’)を含むことが好ましい。
オリゴマー(k)は、ラジカル重合性不飽和基を有し、主鎖が炭素原子を含み、かつ、Si-O-Si結合を含まず、数平均分子量が1000~100000程度のオリゴマーである。オリゴマー(k)中のラジカル重合性不飽和基は、シラン化合物(i)及び単量体(j)に由来するラジカル重合性不飽和基との間でラジカル重合を行い、ポリシロキサン鎖に対してグラフト鎖を形成する。また、オリゴマー(k)の構造は、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよい。
【0141】
前記オリゴマー(k)の主鎖は、合成が容易という利点があることから、ポリアルキレンオキサイド系重合体、ポリ(メタ)アクリル系重合体、およびポリイソブチレン系重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に、より耐候性に優れる硬化物を提供できることから、ポリ(メタ)アクリル重合体であることがより好ましい。各重合体を構成する主鎖の詳細は、重合体(h)の主鎖について述べたことと同様であるので、記載を省略する。
【0142】
オリゴマー(k)の数平均分子量は1,000~100,000であってよく、5,000~50,000が好ましく、10,000~25,000がより好ましい。オリゴマー(k)の数平均分子量が上記の範囲内であることにより、可撓性および耐候性に優れる硬化物を提供できる。ここで、オリゴマー(k)の数平均分子量は、重合体(h)について上述の通り測定することができる。
【0143】
オリゴマー(k)の有するラジカル重合性不飽和基の数は、1分子あたり1個以上である限り特に限定されないが、合成中のゲル化抑制の観点から、1個または2個であることが好ましい。
【0144】
オリゴマー(k)は、主鎖中にラジカル重合性不飽和基を有していてもよく、主鎖の末端にラジカル重合性不飽和基を有していてもよく、あるいは、主鎖中と、主鎖の末端の両方にラジカル重合性不飽和基を有していてもよい。中でも、合成が容易であることから、オリゴマー(k)は、主鎖の末端にラジカル重合性不飽和基を有することが好ましい。
【0145】
重合工程におけるオリゴマー(k)の使用量は特に限定されないが、過剰なフリーポリマーの発生を低減する観点から、シラン化合物(i)に由来するラジカル重合性不飽和基の総数(モル)と、オリゴマー(k)の有するラジカル重合性不飽和基の総数(モル)との比率が、200:1~5:1であることが好ましく、100:1~10:1であることがより好ましく、80:1~20:1であることがさらに好ましい。
【0146】
(グラフト重合ポリシロキサン系樹脂)
前記ポリシロキサン系樹脂が、構成単位(j’)及び/又は構成単位(k’)を含む場合、前記ポリシロキサン系樹脂は、グラフト鎖を有するポリシロキサン系樹脂(グラフト重合ポリシロキサン系樹脂)となる。
【0147】
本明細書において、「グラフト重合ポリシロキサン系樹脂」とは、主鎖であるポリシロキサン鎖(シラン化合物(g)と、任意に重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)と、を脱水縮合して得られる縮合物)にグラフト鎖が結合した構造体を意味する。グラフト重合ポリシロキサン系樹脂は、グラフト重合共縮合物であるとも言える。
【0148】
前記ポリシロキサン系樹脂が、グラフト重合ポリシロキサン系樹脂である場合、耐久性に優れる硬化物を提供し得る。そのため、前記ポリシロキサン系樹脂は、グラフト重合ポリシロキサン系樹脂であることが好ましい。
【0149】
<前記ポリシロキサン系樹脂の製造方法>
前記ポリシロキサン系樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知方法によって製造することができるが、以下の工程(1)を含む方法、または、以下の工程(1)と以下の工程(2)とを含む方法により製造することが好ましい:
・工程(1):シラン化合物(g)と、任意に、重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)とを縮合する縮合工程;
・工程(2):製造した縮合物(構成単位(g’)~(c)を含む縮合物)に、単量体(j)及び/又はオリゴマー(k)をラジカル重合するラジカル重合工程。
【0150】
(工程(1))
工程(1)は、シラン化合物(g)と、任意に重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)とを、水(純水)および脱水縮合触媒の存在下で混合し、縮合(脱水縮合)する工程である。これにより、構成単位(g’)と、任意に構成単位(h’)及び/又は(c)とを含む縮合物を得る。
【0151】
シラン化合物(g)と、任意に重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)とを脱水縮合させるために添加する水(縮合水)のモル数(当量)は、各成分の合計モル数に対して、例えば、0.25倍以上であり、好ましくは、0.5倍以上である。また、貯蔵安定性の観点から、4.0倍以下に抑えることが好ましい。
【0152】
工程(1)において使用する脱水縮合触媒は、シラン化合物(g)と、任意に重合体(h)及び/又はシラン化合物(i)とを含む混合物の脱水縮合反応を促進することが可能な物質であれば、特に限定されず、例えば、中性塩触媒、酸性触媒、塩基性触媒等が挙げられる。中でも合成の容易性や貯蔵安定性から、中性塩触媒が好ましい。各触媒の具体例としては、上述したものを使用することができる。
【0153】
脱水縮合触媒の量は、前記シラン化合物(g)、重合体(h)、及び、シラン化合物(i)の合計量に対して、0.1ppm~50000ppm程度であってよく、1ppm~10000ppmが好ましい。
【0154】
工程(1)において、前記シラン化合物(g)、重合体(h)、シラン化合物(i)、水および脱水縮合触媒の他に、希釈溶媒を使用してもよい。前記シラン化合物(g)、重合体(h)、シラン化合物(i)は疎水性であり、反応時に水を使用することから、希釈溶媒は水溶性であることが好ましい。例えば、アルコール系溶媒や、エーテル系溶媒を使用できる。中でも、メタノール、エタノール、2-プロパノールが特に好ましい。
【0155】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で作製した縮合物(構成単位(g’)~(c)を含む縮合物)に対して、前記単量体(j)及び/又はオリゴマー(k)と、ラジカル重合開始剤とを添加し、前記縮合物に、単量体(j)及び/又はオリゴマー(k)をグラフト重合させる工程である。すなわち、工程(1)及び工程(2)を実施することによって、グラフト重合ポリシロキサン系樹脂(構成単位(g’)~(e)を含むポリシロキサン系樹脂)を製造することができる。
【0156】
ラジカル重合開始剤としては従来公知の化合物であってよい。その使用量は、例えば、工程(2)に供する縮合物の全量100重量%に対して0.01~10重量%程度であってよく、0.05~7重量%が好ましい。
【0157】
前記ポリシロキサン系樹脂を、水に分散、乳化、または溶解することにより、前記ポリシロキサン系樹脂を含む水溶液を提供することができる。該水溶液を水性塗料として使用することができる。
【0158】
該水性塗料は、発明の効果を奏する範囲で、当該技術分野において通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、顔料、充填剤、可塑剤、成膜助剤、湿潤・分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、沈降防止剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、凍結防止剤、抗菌剤、抗かび剤、粘着付与剤、防錆剤等が挙げられる。添加剤としては、1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0159】
(加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む水系クリヤー塗料)
水系クリヤー塗料に含まれる樹脂の一態様である加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体(m)、アルコキシシリル基含有単量体(n)、及び、これらと共重合可能な単量体(o)とをラジカル共重合して得られた重合体であってよい。該重合体を含む水系クリヤー塗料は、該重合体を含むエマルションであってよい。該エマルションに含まれる重合体は、単一組成の重合体であってもよいし、組成が異なる複数の層を有するものであってもよい。複数の層を有するエマルションは、コア/シェル型エマルションであることが好ましい。
【0160】
(メタ)アクリル系単量体(m)の具体例としては、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。特に、炭素数4以上のアルキル基および/又はシクロアルキル基を有するメタクリル酸エステルを60重量%以上使用すると、エマルションの貯蔵安定性が大きく向上する。
【0161】
アルコキシシリル基含有単量体(n)は、式:R 3-nSiX(式中、Rは重合性二重結合を有する1価有機基、Rは炭素数1~4のアルキル基、Xは炭素数1~4のアルコキシル基、nは2又は3)で示される有機けい素化合物で、2又は3個のアルコキシル基を有し、反応性二重結合を有する化合物(n1)であってもよい。
化合物(n1)の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上併用して用いることができる。なかでも、エマルションの保存安定性の観点から、Xは炭素数2~4が特に好ましい。
【0162】
化合物(n1)は、コア/シェル型エマルションにおけるシェル部を構成する単量体の1つとして用いることが好ましい。化合物(n1)は、シェル部を構成する単量体100重量部のうち0.5~30重量部用いることが好ましく、1~15重量部用がより好ましい。これにより、シェル部が高度に架橋し、耐候性、耐水性が向上させるとともに、基材への付着性も向上する。
【0163】
また、アルコキシシリル基含有単量体(n)は、式:R 3-aSiY(式中、Rは重合性二重結合を有する1価有機基、Rは炭素数1~4のアルキル基、Yは炭素数1~4のアルコキシル基、aはa<nの関係を有する1又は2の整数)で示される有機けい素化合物であって、1又は2個のアルコキシル基を有し、反応性二重結合を有する化合物(n2)であってよい。
化合物(n2)の具体例としては、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルブトキシシランなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0164】
化合物(n2)は、コア/シェル型エマルションにおけるコア部を構成する単量体の1つとして用いることが好ましい。化合物(n2)は、コア部を構成する単量体100重量部のうち0~20重量部用いることが好ましく、0.5~10重量部がより好ましい。これにより、コア部に緩やかな架橋構造が導入され、柔軟性を損なうことなく、耐水性、塗膜強度を向上させることができる。
【0165】
化合物(n1)および(n2)化合物のアルコキシル基X及びYの炭素数は、X>Yの関係を有することが、付着性、タック性、可とう性、保存安定性の面で好ましい。
【0166】
単量体(o)は特に限定はされず、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ジアリルフタレートなどのビニルエステルやアリル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有ビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有ビニル系単量体;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシスチレン、アロニクス5700(東亜合成化学(株)製)、placcelFA-1、placcelFA-4、placcelFM-1、placcelFM-4(以上、ダイセル化学(株)製)、HE-10、HE-20、HP-10、HP-20(以上日本触媒化学(株)製)、ブレンマーPEPシリーズ、ブレンマーNKH-5050、ブレンマーGLM(以上日本油脂(株)製)、水酸基含有ビニル系変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマーなどの水酸基含有ビニル系単量体;東亜合成化学(株)製のマクロモノマーであるAS-6、AN-6、AA-6、AB-6、AK-5などの化合物、ビニルメチルエーテル、プロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0167】
更に、親水性を有するビニル系単量体も使用可能である。使用可能な親水性基を有するビニル系単量体としては、スチレンスルホン酸ナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートアンモニウム、ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体が挙げられる。
【0168】
また、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体を使用することも可能である。この場合、生成した粒子内部に架橋を有する構造となり、形成した塗膜の耐水性が向上する。
【0169】
更に、トリフルオロ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロ
ピルメタクリレート、β-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレートなどのふっ素含有ビニル系単量体を使用することにより高度な撥水・撥油を付与することも可能である。
【0170】
また、ダイアセトンアクリルアミド、メチルビニルケトン等のカルボニル基含有ビニル系単量体を用い、ヒドラジンおよび/またはヒドラジド基を含有する化合物を配合することにより、架橋性を付与することも可能であり、形成した塗膜の耐水性が向上する。
【0171】
特に、水酸基含有ビニル系単量体および/またはポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体をエマルション粒子の0.5~20重量%に相当する量を用いると、アルコキシシリル基の安定性を損なうことなく、基材との付着性を向上させ、更にエマルションの機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。なかでも、末端に水酸基を持つポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体が特に有効である。
【0172】
動的光散乱法にて測定したエマルションの平均粒子径は20~500nmであることが好ましく、50~300nmがより好ましい。特に付着性が向上するため、平均粒子径は60~160nmが好ましい。
【0173】
次に、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含むエマルションは、(A)、(B)、及び(C)成分を含む混合物を用いて公知の方法で乳化重合を実施することにより得ることができる。
【0174】
また、コア/シェル型エマルションは、まず、(A)、(n2)、及び(C)成分を含む混合物を用いて第1段の乳化重合を行い、得られたコア部の存在下に、(A)、(n1)、及び(C)を含む混合物を用いて第2弾の乳化重合を行って、シェル部を形成することで製造できる。なお、コア部の重合、又は、シェル部の重合は、それぞれ、何回かに分割して行ってもよい。
【0175】
また、コア成分が、シェル成分よりも十分に疎水性が高い場合には、シェル成分の重合を行った後にコア成分の重合を行っても、目的とするコア/シェル型エマルションを得ることができる。
【0176】
乳化重合に際しては、通常、界面活性剤、及び、重合開始剤を使用すればよい。詳細に関しては、特開2019-19260号公報の記載を参照することができる。
【0177】
加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂エマルション中の樹脂固形分濃度は、20~70重量%になるように調整することが好ましく、30~60重量%がより好ましい。
【0178】
加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む水系クリヤー塗料には、硬化性や基材への付着性を向上させる観点から、硬化剤を添加してもよい。このような硬化剤としては、例えば、アルコキシシリル基の加水分解・縮合を促進する物質、オルガノシリケートおよび/またはその変性物、イソシアネート化合物、ケトイミノ基含有アルコキシシラン化合物等が挙げられる。
前記アルコキシシリル基の加水分解・縮合を促進する物質としては、例えば、有機金属化合物、酸性触媒、塩基性触媒等が挙げられる。
前記オルガノシリケートおよび/またはその変性物としては、テトラアルコキシシランや、それらの部分加水分解・縮合物等が挙げられる。
前記イソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物や、そのイソシアヌレート変性体、アダクト変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、イソシアネート基をブロック剤(フェノール・εカプロラクタム等)でマスクした化合物等が挙げられる。
前記ケトイミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、分子中の一級アミノ基にケトンを反応させたケトイミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物であって、例えば、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-トリメトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。
各硬化剤の使用量は、所望の物性に応じて適宜設定してよい。
【0179】
加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む水系クリヤー塗料には、必要に応じて、通常塗料に用いられる顔料(二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、カーボン、弁柄、黄土、シアニンブルーなど)や成膜助剤、コロイダルシリカ、可塑剤、溶剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、凍結防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、消泡剤などの通常塗料に用いられる添加剤を添加することもできる。
【0180】
(積層体の製造方法)
本実施形態に係る積層体は、土木建築材料から構成される基材(A)の片面に、水系クリヤー塗料を塗布し硬化させて第一塗膜(B)を形成した後、該第一塗膜(B)の表面に有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料を塗布し硬化させることで製造することができる。塗布や硬化の条件は特に限定されないが、硬化させる際には、常温で一定時間放置してもよいし、熱源を用いて加熱することで溶剤の蒸発と硬化反応を促進してもよい。
【0181】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
土木建築材料から構成される基材(A)、該基材(A)に接した第一塗膜(B)、及び、該第一塗膜(B)に接した第二塗膜(C)を含む積層体であって、
第一塗膜(B)は、水系クリヤー塗料から形成され、
第二塗膜(C)は、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料から形成されている、積層体。
[項目2]
前記水系クリヤー塗料が、無機系樹脂を含む、項目1に記載の積層体。
[項目3]
前記水系クリヤー塗料が、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂を含む、項目1に記載の積層体。
[項目4]
前記加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂が、複数の層を有するエマルションである、項目3に記載の積層体。
[項目5]
前記有機無機複合樹脂が、アクリル鎖グラフトポリシルセスキオキサンである、項目1~4のいずれかに記載の積層体。
[項目6]
第一塗膜(B)の厚みが1~100μmであり、第二塗膜(C)の厚みが2~200μmである、項目1~5のいずれかに記載の積層体。
[項目7]
土木建築材料から構成される基材(A)、第一塗膜(B)、及び、第二塗膜(C)のみから構成される、項目1~6のいずれかに記載の積層体。
[項目8]
前記土木建築材料から構成される基材(A)が、押出成形セメント板、軽量気泡コンクリート、プレキャストコンクリート、サイディングボード、木質系セメント板、パルプセメント板、スレート板、繊維強化セメント板、コンクリートブロック、又はプレストレストコンクリートである、項目1~7のいずれかに記載の積層体。
[項目9]
項目1~8のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
建築材料用基材(A)の表面に水系クリヤー塗料を塗布し、第一塗膜(B)を形成する工程と、
第一塗膜(B)の表面に、有機無機複合樹脂を含む溶剤系クリヤー塗料を塗布し、第二塗膜(C)を形成する工程、を含む、製造方法。
【実施例0182】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0183】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
<基材>
エンジニアリングテストサービス社製のモルタル試験体
【0184】
<コーティング層>
(シランモノマー)
メチルトリメトキシシラン(略称「M-TMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6366」
フェニルトリメトキシシラン(略称「Ph-TMS」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6124」
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(略称「TSMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-174」
ビニルトリメトキシシラン(略称「V-TMS」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-171」
【0185】
(ビニル系モノマー)
メチルメタクリレート(略称「MMA」):三菱ガス化学(株)製
ブチルアクリレート(略称「BA」):(株)日本触媒製
ブチルメタクリレート(略称「BMA」):富士フイルム和光純薬(株)製
スチレン:富士フイルム和光純薬(株)製
γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(略称「DSMA」):ダウ・東レ(株)製の「Z-6033」
γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(略称「TESMA」):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「Y-9936」
グリシジルメタクリレート(略称「GMA」):日油(株)製の「ブレンマーG」
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(略称「HEMA」):三菱ケミカル(株)製
アクリルアミド-t-ブチルスルホン酸ナトリウム(略称「ATBS-Na」):東亞合成(株)社製の「ATBS-Na」
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート:新中村化学工業(株)製の「NKエステルM-90G」
ポリエチレングリコール-モノメタクリレート(略称「PE-200」):日油(株)製の「ブレンマーPE-200」
エーテルサルフェート型アンモニウム塩(略称「SR-10」):ADEKA(株)社製の「アデカリアソープSR-10」、市販分類「反応性アニオン乳化剤」、下記式(A)で表される化合物:
【0186】
【化1】
【0187】
エーテルサルフェート型アンモニウム塩(有効成分25%):ADEKA(株)社製の「アデカリアソープSR-1025」
エチレンオキサイド付加型反応性ノニオン界面活性剤:ADEKA(株)社製の「アデカリアソープER-20」
アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム:三洋化成(株)製の「エレミノールJS-20」
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル:花王(株)製の「ラテムルPD-430S」
【0188】
(その他)
純水
脱イオン水
炭酸水素ナトリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
ジブチルホスフェート:城北化学工業(株)製の「DBP」
2-プロパノール:ナカライテスク(株)製
ラジカル重合開始剤:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル):東京化成工業(株)製
2-ヒドロキシ-2-スルフィナート酢酸二ナトリウム塩 混合物:Bruggemann Chemical社製の「Bruggolite FF-6」
t-ブチルハイドロパーオキサイド:化薬アクゾ(株)製の「カヤブチルH-70」
硫酸第一鉄・7水和物:富士フイルム和光純薬(株)製
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
n-ドデシルメルカプタン(略称「n-DM」):富士フイルム和光純薬(株)製
2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(略称「V-59」):富士フイルム和光純薬(株)製
S100(鉱油、クメン、キシレン、トリメチルベンゼン混合物):三和化学(株)製
LAWS(ミネラルスピリット、キシレン、トリメチルベンゼン、ノナン混合物):シェルケミカルズジャパン(株)製
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(略称「DPDM」):Clariant製
イソプロピルアルコール(略称「IPA」):富士フイルム和光純薬(株)製
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略称「PMA」):三協化学(株)製
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート:JNC(株)製の「CS-12」
カネカXMAP SA120S(ポリマー主鎖の両方の末端に加水分解性シリル基を有する液状アクリル樹脂、粘度70Pa・s(23℃ ))(略称「SA120S」):(株)カネカ製
カネカXMAP MM110C(ポリマー主鎖の片方の末端にアクリロイル基を有する液状アクリル樹脂、粘度43Pa・s(23℃))(略称「MM110C」):(株)カネカ製
ACEMATT TS-100(シリカ):EVONIK社製
ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル:ナガセケムテックス(株)製の「デナコールEX-920」
親水性セグメントを付与したポリカルボジイミド樹脂:日清紡ケミカル(株)製の「カルボジライトV-04」
エチルポリシリケート:多摩化学工業(株)製の「シリケート40」
γ-メルカプト-プロピルトリエトキシシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-1891」
シランカップリング剤Z:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-1122」とモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-187」とをモル比1:2.2で反応させたもの。
γ-メルカプト-プロピルトリメトキシシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A-189」
N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン:JNC(株)製の「サイラエースS340」
ジブチル錫ビスドデシルメルカプチド:日東化成(株)製
ジブチル錫ジブチルマレート:日東化成(株)製の「ネオスタンU-20」
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート):川研ファインケミカル(株)製の「ALCH-TR」
2,4,7,9-テトラメチルデシン-4,7-ジオール:日信化学工業(株)製の「サーフィノールAD01」
【0189】
〔合成例1〕
(共縮合物(主鎖)の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、V-TMSを4.1重量部と、M-TMSを33.7重量部と、Ph-TMSを28.5重量部と、SA120Sを3.0重量部と、純水を17.9重量部と、DBPを0.019重量部と、を仕込み、反応温度105℃にて3時間撹拌しながら反応させ、共縮合物を得た。
(グラフト共縮合物の作製(側鎖の重合))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器を用い、窒素ガスを導入しつつ75℃に昇温した後、前記共縮合物と、ATBS-Naを5.0重量部と、SR-10を6.0重量部と、MMAを19.0重量部と、BAを26.5重量部と、MM110Cを3.0重量部と、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を1.1重量部と、の混合溶液を、滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。次に、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.1重量部と、メタノールを4.0重量部と、の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、75℃で2時間攪拌した後、純水を84.7重量部と、DBUを3.9重量部加えて1時間攪拌させ、ロータリーエバポレーターにより不揮発成分が50%になるまで脱気を行い、グラフト縮合物である無機系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-1)を得た。
【0190】
(合成例2)
撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水を312重量部、アデカリアソープSR-1025を1.3重量部、5%炭酸水素ナトリウム水溶液を2.0重量部仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。昇温後、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を4.0重量部、10%Bruggolite FF-6水溶液を2.8重量部、硫酸第一鉄・7水和物(0.10%)/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(0.40%)混合水溶液を5.6部添加し、BAを148重量部、スチレンを42重量部、DSMAを10重量部、アデカリアソープSR-1025を7.7重量部、アデカリアソープER-20を6.0重量部、および脱イオン水を72重量部加え乳化したモノマー乳化液を120分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を2.0重量部および2.5%Bruggolite FF-水溶液を3.2重量部2回に分けて添加した。モノマー乳化液を追加終了後、1時間後重合を行った。
次いで、MMAを43.8重量部、BMAを480重量部、スチレンを16重量部、TESMAを10重量部、GMAを12.8重量部、HEMAを12.8重量部、NKエステルM-90Gを7.2重量部、PE-200を14.4重量部、n-DMを3.0重量部、アデカリアソープSR-1025を43.2重量部、アデカリアソープER-20を9.0重量部、および脱イオン水を192重量部加え乳化したモノマー乳化液を300分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を10.0重量部および2.5%Bruggolite FF-6水溶液を15.2重量部7回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1.5時間後重合を行った。得られた合成樹脂エマルジョンに5%炭酸水素ナトリウム水溶液を28重量部添加後、脱イオン水で固形部50%に調整し、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-2)を得た。
【0191】
(合成例3)
撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水を289.6重量部、アデカリアソープSR-1025を0.8重量部、5%炭酸水素ナトリウム水溶液を2.0重量部仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。昇温後、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を4.0重量部、10%Bruggolite FF-6水溶液を2.8重量部、硫酸第一鉄・7水和物(0.10%)/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(0.40%)混合水溶液を5.6部添加し、BMAを75重量部、BAを60重量部、スチレンを61.3重量部、DSMAを3.8重量部、エレミノールJS-20を8.3重量部、ラテムルPD-430Sを6.5重量部、および脱イオン水を92.9重量部加え乳化したモノマー乳化液を100分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を2.0重量部および2.5%Bruggolite FF-水溶液を3.2重量部モノマー追加60分後に添加した。モノマー乳化液追加終了後、2時間後重合を行った。
次いで、MMAを38.4重量部、BMAを308重量部、TESMAを6.9重量部、GMAを12.8重量部、HEMAを12.8重量部、n-DMを2.1重量部、アデカリアソープSR-1025を24.8重量部、ラテムルPD-430Sを12.4重量部、および脱イオン水を126.1重量部加え乳化したモノマー乳化液を190分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を5.2重量部および2.5%Bruggolite FF-6水溶液を10.8重量部4回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1.5時間後重合を行った。
次いで、MMAを21.2重量部、BMAを170.4重量部、TESMAを3.1重量部、NKエステルM-90Gを9.0重量部、PE-200を14.4重量部、n-DMを0.9重量部、アデカリアソープSR-1025を14.2重量部、ラテムルPD-430Sを7.1重量部、および脱イオン水を72.5重量部加え乳化したモノマー乳化液を110分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液を3.2重量部および2.5%Bruggolite FF-6水溶液を6.0重量部3回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1.5時間後重合を行った。得られた合成樹脂エマルジョンに5%炭酸水素ナトリウム水溶液48重量部を添加後、脱イオン水で固形部50%に調整し、加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-3)を得た。
【0192】
〔合成例4〕
(共縮合物(主鎖)の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、M-TMSを43.3重量部、Ph-TMSを37.2重量部、V-TMSを5.3重量部と、反応触媒としてDBPを0.0025重量部と、水を11.1重量部仕込み、ジャケット温度90℃にて3時間還流撹拌しながら反応させた後、発生したメタノールを蒸留により留去することで、共縮合物(ポリシルセスキオキサン)を得た。
(グラフト共縮合物の作製(側鎖の重合))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、S100を1.5重量と、LAWSを3.5重量部と、前記共縮合物と、を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、CHMAを35.0重量部、BAを14.0重量部、TESMAを1.0重量部、S100を1.4重量部、LAWSを3.3重量部と、重合開始剤であるV-59を0.1重量部との混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌してアクリルグラフト鎖を形成した後、S100を21.1重量部、LAWSを49.3重量部、SA120Sを8.6重量部加え、有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-1)を得た。
【0193】
(塗料組成物の作製)
合成例4で得られた有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-1)100重量部に対してACEMATT TS-100を2.5重量部加えて室温で30分攪拌し、有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-1T)を得た。
【0194】
〔合成例5〕
(共縮合物(主鎖)の作製)
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、M-TMSを43.3重量部、Ph-TMSを37.2重量部、V-TMSを5.3重量部と、反応触媒としてDBPを0.0025重量部と、水を11.1重量部仕込み、ジャケット温度90℃にて3時間還流撹拌しながら反応させた後、発生したメタノールを蒸留により留去することで、共縮合物(ポリシルセスキオキサン)を得た。
(グラフト共縮合物の作製(側鎖の重合))
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、S100を1.5重量と、LAWSを3.5重量部と、前記共縮合物と、を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、CHMAを20.0重量部、BAを29.0重量部、TESMAを1.0重量部、S100を1.4重量部、LAWSを3.3重量部と、重合開始剤であるV-59を0.1重量部との混合溶液を滴下ロートから2時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌してアクリルグラフト鎖を形成した後、S100を19.8重量部、LAWSを46.1重量部加え、有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-2)を得た
【0195】
(塗料組成物の作製)
合成例5で得られた有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-2)100重量部に対してACEMATT TS-100を2.5重量部加えて室温で30分攪拌し有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-2T)を得た。
【0196】
(硬化剤の作製)
〔作製例1〕
DPDMを26.3重量部、デナコールEX-920を3.6重量部、カルボジライトV-04を2.9重量部、CS-12を2.9重量部、シリケート40を39.3重量部、ジブチル錫ビスドデシルメルカプチドを1.8重量部、A-1891を2.5重量部、サーフィノールAD01を7.9重量部、サイラエースS340を12.6重量部加えて室温で30分間撹拌して硬化剤(b-k1)を得た。
【0197】
〔作製例2〕
LAWSを34.5重量部、IPAを34.5重量部、シランカップリング剤Zを20重量部、A-189を5重量部、ネオスタンU-20を6重量部加えて室温で30分間撹拌して硬化剤(c-k1)を得た。
【0198】
〔作製例3〕
PMA80重量部に対してALCH-TRを20重量部加えて室温で溶解するまで攪拌させて硬化剤(c-k2)を得た。
【0199】
〔実施例1~7及び比較例1~4〕
(コーティング層の作製)
無機系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-1)または加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-2)を基材であるモルタル試験体の一面へ、エアスプレーを用いて、基材であるモルタル試験体の一面へ0.02kg/mとなるようにむらなく塗装し、120℃で20分養生してクリヤー塗膜を得た。加水分解性シリル基含有アクリル系樹脂含有水系クリヤー塗料(b-3)は硬化剤(b-k1)と表1に示す重量比で混合してから同様に塗装し、養生して下塗りクリヤー塗膜を得た。
続いて、有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-1)または有機無機複合樹脂含有溶剤系クリヤー塗料(c-1T)もしくは(c-2T)と、硬化剤(c-k1)または(c-k2)とを、表1に示す重量比で混合してから、エアスプレーを用いて、下塗りクリヤー塗膜上に、0.1kg/mとなるようにむらなく塗装し、120℃で20分養生して、モルタル試験体上に下塗りクリヤー塗膜と上塗りクリヤー塗膜を含む積層体を得た。
比較例1~4は実施例と同様に塗装を行ったが、下塗りまたは上塗りを行っていない。
【0200】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0201】
(塗膜外観)
目視により塗膜の外観を確認し、透明か不透明かを判断した。
【0202】
(色差)
色彩色差計CR-400(コニカミノルタ(株)製)を用いてL*a*b*の測定を行った。ΔEは、塗装を行っていないモルタル試験体のL*a*b*(参考例)を基準として算出した。ΔEは、JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表色系によって測定される値であり、下記式により算出される値である:
ΔE=(ΔL+Δa+Δb1/2
式中、L*は明度であり、a*とb*は、色度である。
【0203】
(凍結融解試験)
温冷繰返し試験機MIT-602-3-41((株)マルイ製)を用いて、-20℃2時間保持した後、10℃の水へ1時間浸漬を1サイクルとして40サイクル実施し、40サイクル終了後に目視で塗膜外観の評価を行った。○は異常無し、△はクラック有り、×は剥がれ有りとした。
【0204】
(促進耐候性試験)
サンシャインウェザー耐候性試験機(スガ試験機(株)製)を用いて、ブラックパネル温度を63℃、水を2時間毎に18分間噴霧する設定にて試験を行った。試験前と試験1500時間後に光沢計Multi-Gloss268(コニカミノルタ(株)製)で試験体の入射角60°の光沢値を測定し、下記式より光沢保持率を算出した。
光沢保持率(%)=(試験1500時間後光沢値)/(試験前光沢値)×100
【0205】
【表1】
【0206】
表1より以下のことが分かる。実施例1~7で得られた積層体では、塗膜は透明であり、ΔEも小さいことから、素地のモルタルの風合いがそのまま外観として表れており、意匠性が良いと言える。また、凍結融解試験の結果も良好であった。
一方、比較例1~3では、塗膜は透明ではあるものの、濡れ色が発生してL*値が下がっており、ΔEの値が大きくなっており、意匠性の低下が見られる。
比較例4では、意匠性は良好であるものの、実施例1~7と比較すると凍結融解試験の結果が劣っていることが分かる。