(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128285
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】セメント組成物及びセメントペースト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240913BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240913BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240913BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240913BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240913BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240913BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B18/14 Z
C04B14/10 A
C04B18/14 A
C04B22/06 Z
C04B22/08 A
C04B24/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037188
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA01
4G112MB00
4G112PB03
4G112PB17
4G112PC09
(57)【要約】
【課題】初期から長期にかけて高い強度発現性を示すセメント組成物及びセメントペーストを提供すること。
【解決手段】セメント、カルシウムアルミネート類、石膏類及びポゾラン物質を含み、カルシウムアルミネート類の化学成分としてのFeO+TiO2の含有率は、カルシウムアルミネート類全質量に対し、0.1~5.4質量%である、セメント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、カルシウムアルミネート類、石膏類及びポゾラン物質を含み、
前記カルシウムアルミネート類の化学成分としてのFeO+TiO2の含有率は、前記カルシウムアルミネート類全質量に対し、0.1~5.4質量%である、セメント組成物。
【請求項2】
硬化時において、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて20℃環境下で測定する材齢1日の圧縮強度が45N/mm2以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
膨張材を更に含む、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
凝結調整剤を更に含む、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセメント組成物及び水を含み、
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対し、30~70質量部である、セメントペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びセメントペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の高層化が進む中、建築物の耐久性向上を目的に使用材料として高強度のモルタル及びコンクリートの需要が高まっている。モルタルやコンクリートを高強度化するために単位セメント量又は結合材量を増量している。このような高強度材料では、セメント、ポゾラン質微粉末、骨材、高性能減水剤が主要な構成成分となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、セメントと、無機質微粉末と、水と、細骨材と、減水剤と、消泡剤と、金属微粉末とを含む高強度セメントモルタル組成物であって、前記セメントは、C3Sを10.0質量%~70.0質量%及びC2Sを10.0質量%~70.0質量%含有し、前記無機質微粉末はシリカフュームを含有することを特徴とする高強度セメントモルタル組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、工期の短縮等を目的として打設後の初期においても高い強度発現性が求められており、高強度材料においても同様の要望がある。
【0006】
したがって、本発明は、初期から長期にかけて高い強度発現性を示すセメント組成物及びセメントペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題について鋭意検討した結果、カルシウムアルミネート類に含まれるFeOとTiO2の量を調整することで、初期及び長期の強度発現性が良好なセメント組成物及びセメントペーストを得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]セメント、カルシウムアルミネート類、石膏類及びポゾラン物質を含み、カルシウムアルミネート類の化学成分としてのFeO+TiO2の含有率は、カルシウムアルミネート類全質量に対し、0.1~5.4質量%である、セメント組成物。
[2]硬化時において、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて20℃環境下で測定する材齢1日の圧縮強度が45N/mm2以上である、[1]に記載のセメント組成物。
[3]膨張材を更に含む、[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[4]凝結調整剤を更に含む、[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[5][1]又は[2]に記載のセメント組成物及び水を含み、水の含有量が、セメント100質量部に対し、30~70質量部である、セメントペースト。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初期から長期にかけて高い強度発現性を示すセメント組成物及びセメントペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のセメント組成物は、セメント、カルシウムアルミネート類、石膏類及びポゾラン物質を含む。
【0012】
セメントは種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0013】
カルシウムアルミネート類としては、CaOをC、Al2O3をA、Na2OをN、及びFe2O3をFとして表したとき、C3A、C2A、C12A7、CA、又はCA2等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、C4AF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC3A3・CaF2やC11A7・CaF2等と表示されるカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、C8NA3やC3N2A5等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、並びにC3A3・CaSO4等と表示されるカルシウムサルホアルミネートを総称するものである。カルシウムアルミネート類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0014】
本実施形態に係るカルシウムアルミネート類において、化学成分としてのFeO+TiO2の含有率は、カルシウムアルミネート類全質量に対し、0.1~5.4質量%である。FeO+TiO2の含有率が上記範囲外であると、早期及び長期の強度発現性に優れない。FeO+TiO2の含有率は、早期の強度発現性及び長期の強度発現性を両立しやすいという観点から、カルシウムアルミネート類全質量に対し、0.2~4.7質量%であることが好ましく、0.22~4.2質量%であることがより好ましく、0.25~3.8質量%であることが更に好ましい。
【0015】
本実施形態に係るカルシウムアルミネート類において、化学成分としてのCaO+Al2O3の含有率は、カルシウムアルミネート類全質量に対し、80~97質量%であることが好ましく、85~95質量%であることがより好ましく、87~94質量%であることが更に好ましい。CaO+Al2O3の含有率が上記範囲内であれば、早期の強度発現性及び長期の強度発現性を両立しやすい。
【0016】
本実施形態に係るカルシウムアルミネート類において、化学成分としてのCaOとAl2O3の含有モル比([CaOのモル数]/[Al2O3のモル数])は、1~1.8であることが好ましく、1.02~1.6であることがより好ましく、1.04~1.5であることが更に好ましい。CaOとAl2O3の含有モル比が上記範囲内であれば、早期強度の良好な発現性を具備しつつ、凝結開始時間を適度に調整しやすくなるため可使時間を確保しやすい。
【0017】
化学成分の確認は、蛍光X線(JIS R 5204:2019)、湿式方法(JIS R 5202:2015)等により算出することができる。
【0018】
本実施形態に係るカルシウムアルミネート類は、結晶質のもの、非結晶質のもの、非晶質及び結晶質が混在したもののいずれも使用可能であり、結晶質のもの、又は、非晶質及び結晶質が混在したものが好ましい。本明細書において、結晶質とはガラス化率が10%以下のものを指し、非結晶質とはガラス化率が90%以上のものを指し、非晶質及び結晶質が混在したものとはガラス化率が結晶質と非晶質の間にあるものを指す。カルシウムアルミネート類のガラス化率は、1~98%であることが好ましく、1.5~75%であることがより好ましく、2~50%であることが更に好ましい。
ガラス化率は、粉末エックス線回折装置等を用い、質量;M1のカルシウムアルミネート類に含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、下記式から算出することができる。
ガラス化率(%)=(1-M2/M1)×100
【0019】
カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましく、4500cm2/g以上であることがより好ましい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で8000cm2/g以下であることが好ましい。
【0020】
カルシウムアルミネート類の含有量は、セメント100質量部に対し、10~50質量部であることが好ましく、15~45質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることが更に好ましい。カルシウムアルミネート類の含有量が上記範囲内であれば、初期の強度発現性が更に向上する。
【0021】
カルシウムアルミネート類の製造方法は特に限定されるものではない。製造方法としては、例えば、原料を適宜選定の上、所望の配合となるよう調混合し、調合物が概ね溶融する温度、例えば約1300~1850℃で加熱し、溶融後に冷却する。冷却速度は、所望のガラス化率となるように調整すればよい。一般的には冷却速度を速くするほどガラス化率は高くなり、非結晶質となりやすい。冷却したカルシウムアルミネート類を各種ミル等で粉砕し、分級することで粉末度を調整することができる。
【0022】
カルシウムアルミネート類に含まれるCaO、Al2O3、FeO、TiO2の各化学成分源となる原料については特に限定されるものではない。原料としては、例えば、CaO源は炭酸カルシウム、石灰石又は生石灰等、Al2O3源はボーキサイト、水酸化アルミニウム、バン土頁岩又はコランダム等、FeO源は鉄鉱石、酸化鉄、TiO2源は酸化チタン、水酸化チタン、金紅石等が挙げられる
【0023】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。石膏類の粉末度は、長期の強度発現性を更に高めるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましく、5000cm2/g以上であることがより好ましい。石膏類の粉末度は、ブレーン比表面積で15000cm2/g以下であることが好ましい。
【0024】
石膏類の含有量は、セメント100質量部に対し、無水物換算で5~40質量部であることが好ましく、10~35質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることが更に好ましい。石膏類の含有量が上記範囲内であれば、長期の強度発現性が更に向上する。
【0025】
ポゾラン物質としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ、火山灰、酸性白土や活性白土、カオリン鉱物等のアルミノケイ酸質の粘土鉱物やそれらの焼成物が挙げられる。ポゾラン微粉末は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。ポゾラン微粉末の粉末度は、流動性及び長期の強度発現性が更に優れるという観点から、ブレーン比表面積で4000~250000cm2/gであることが好ましく10000~230000cm2/gであることがより好ましく、40000~210000cm2/gであることが更に好ましい。
【0026】
ポゾラン物質の含有量は、セメント100質量部に対し、5~30質量部であることが好ましく、7~25質量部であることがより好ましく、10~20質量部であることが最も好ましい。ポゾラン物質の含有量が上記範囲内であれば、早期の強度発現性と長期の強度発現性を両立しやすい。
【0027】
本実施形態のセメント組成物は細骨材を含んでもよい。細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石等の骨材を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm未満のもの(5mmふるい通過分)を使用するのが好ましい。
【0028】
細骨材の粒度は特に限定されるものではなく、必要とする細骨材の粒度の範囲内で調整することができる。細骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタル時において、より良好な流動性が得られやすく、ブリーディングを抑制しやすいという観点から、細骨材の粗粒率は、1~4であることが好ましく、1.5~3.8であることがより好ましく、2~3.5であることが最も好ましい。
【0029】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、160~640質量部であることが好ましく、200~550質量部であることがより好ましく、280~450質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られやすい。
【0030】
本実施形態のセメント組成物は膨張材を含んでもよい。膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm2/gのものを使用することが好ましい。
【0031】
膨張材の含有量は、セメント100質量部に対し、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~8質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることが更に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、早期及び長期の強度発現性、寸法変化率等がより一層優れたものとなる。
【0032】
本実施形態のセメント組成物は減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤が挙げられる。これらの中ではポリカルボン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0033】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましく、0.5~1.5質量部であることが更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、セメントペーストとした際により良好な流動性が得られやすい。
【0034】
本実施形態のセメント組成物は凝結調整剤を含んでもよい。凝結調整剤としては、凝結遅延剤と凝結促進剤があり、求めるセメントペーストの性質に応じて適宜使い分けることができ、併用してもよい。凝結調整剤としては、十分な可使時間の確保と早期の硬化を両立しやすいという観点から、凝結遅延剤と凝結促進剤を併用することが好ましい。
【0035】
凝結遅延剤を含むことで、セメントペーストの練り上り温度が高くなる夏場等においても、可使時間を確保しやすい。凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸又はその塩;ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩;糖類が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩及びアルカリ金属炭酸塩が好ましい。凝結遅延剤は、粉体であってもよく、液状体(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)であってもよい。凝結遅延剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0036】
凝結遅延剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.1~7.5質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3.5質量部であることが最も好ましい。凝結遅延剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を更に確保しやすく、初期強度発現性が低下しにくい。
【0037】
凝結促進剤としては、アルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩、水酸化物等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩は、アルカリ金属(水素原子を除く周期表第一族元素)の炭酸塩又は過炭酸塩であれば特に限定されるものではない。アルカリ金属炭酸塩としては、強度発現性を更に促進させるという観点から、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。凝結促進剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0038】
凝結促進剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.1~7.5質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3.5質量部であることが最も好ましい。凝結促進剤の含有量が上記範囲内であれば、凝結までの時間を早めつつ、可使時間を確保しやすい。
【0039】
凝結遅延剤と凝結促進剤とを併用する場合、その合計の含有量は、早期硬化性と可使時間の確保とを両立しやすいという観点から、セメント100質量部に対し、0.2~10質量部であることが好ましく、0.5~7質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることが更に好ましい。凝結遅延剤と凝結促進剤の配合は、質量比で3:7~7:3であることが好ましく、4:6~6:4であることが好ましい。
【0040】
本実施形態のセメント組成物は増粘剤を含有してもよい。増粘剤の種類は特に限定されず、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤が挙げられる。増粘剤としてはセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のメチルセルロース系増粘剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0041】
増粘剤の含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~2質量部であることが好ましく、0.02~1質量部であることがより好ましく、0.03~0.5質量部であることが最も好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、セメントペーストとした際により良好な流動性が得られやすく、圧縮強度も向上しやすい。
【0042】
本実施形態のセメント組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、発泡剤、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維等が挙げられる。
【0043】
本実施形態のセメント組成物は、通常用いられる混練器具により上記した各成分を混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、二軸ミキサ等が挙げられる。
【0044】
本実施形態のセメント組成物は、硬化時において、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて20℃環境下で測定する材齢1日の圧縮強度が45N/mm2以上であることが好ましく、50N/mm2以上であることがより好ましく、52N/mm2以上であることがより好ましい。材齢1日の圧縮強度は80N/mm2以下であってもよい。
本実施形態のセメント組成物は、硬化時において、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて20℃環境下で測定する材齢28日の圧縮強度が85N/mm2以上であることが好ましく、90N/mm2以上であることがより好ましく、95N/mm2以上であることがより好ましい。材齢28日の圧縮強度は140N/mm2以下であってもよい。
セメント組成物の硬化時の圧縮強度が上記範囲内であれば、早期から長期にわたって高い強度発現性を示すため、工期を更に短縮でき、且つ一層頑丈なものとなる。
【0045】
本実施形態のセメント組成物は、水と混合してセメントペーストとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント100質量部に対し、30~70質量部であることが好ましく、40~65質量部であることがより好ましく、45~60質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0046】
本実施形態のセメントペーストの調製は、通常のセメントペーストと同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば上述したものを用いることができる。
【0047】
本実施形態のセメント組成物及びセメントペーストは、流動性に優れ、練り混ぜやコテ性状といった施工性に優れ、且つ、早期から長期にかけて高い強度発現性を示すものである。そのため、本実施形態のセメント組成物及びセメントペーストは、工期の短縮ができ、高い強度発現性が求められる各種構造物や現場の補修・補強に好適に用いることができる。その施工方法は特に限定されず、コテ塗り、振動機を用いて敷き均す方法等が選択できる。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実験は全て20℃で行った。
【0049】
[材料]
・セメント:早強ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4500cm2/g)
・石膏:無水石膏(ブレーン比表面積7000cm2/g)
・カルシウムアルミネート類A~E:表1に記載
・ポゾラン物質
ポゾラン物質A:シリカフューム、ブレーン比表面積200000cm2/g
ポゾラン物質B:メタカオリン、ブレーン比表面積120000cm2/g
ポゾラン物質C:メタカオリン、ブレーン比表面積60000cm2/g
ポゾラン物質D:高炉スラグ、ブレーン比表面積4000cm2/g
ポゾラン物質E:高炉スラグ、ブレーン比表面積80000cm2/g
・細骨材:珪砂、粒度調整済み、粗粒率2.65
・減水剤:ポリカルボン酸系減水剤
・膨張材:生石灰系膨張材(ブレーン比表面積3200cm2/g)
・凝結調整剤A:クエン酸
・凝結調整剤B:炭酸リチウム
・増粘剤:メチルセルロース系増粘剤
【0050】
[カルシウムアルミネート類の製造]
CaCO3源(石灰石及び市販試薬)、Al2O3源(ボーキサイト及び市販試薬)、FeO源(市販試薬)及びTiO2源(市販試薬)の原料を用い、ヘンシェル型混合機を使用し、表1に表す化学成分配合量(CaCO3はCaO換算値)となるよう調合した。調合物は大気雰囲気の電気炉中で約1800℃(±50℃)に加熱し、当該温度で60分間保持した後、直ちに炉外に取出した。カルシウムアルミネートAは加熱物表面に散水及び冷風を与えながら冷却し、カルシウムアルミネートB及びEは液体窒素中に加熱物を沈降させて急冷し、カルシウムアルミネートC及びDはそのまま外気にて徐冷した。
冷却したカルシウムアルミネートは、全鋼製のボールミルで所定の粒度になるまで粉砕し、分級装置にかけて回収した。
化学成分の確認は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に基づき蛍光X線分析により行った。
分級した各カルシウムアルミネートのガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量;M1のカルシウムアルミネートに含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
ガラス化率(%)=(1-M2/M1)×100
各カルシウムアルミネートの化学成分、ブレーン比表面積、ガラス化率を表1に示す。
【0051】
【0052】
[セメント組成物の配合設計]
セメント100質量部に対して、セメント、カルシウムアルミネート及びポゾラン物質を表2に示す割合とし、石膏20質量部、膨張材3質量部、細骨材415質量部、減水剤0.8質量部(固形分換算)、増粘剤0.05質量部(固形分換算)、凝結調整剤A1質量部、凝結調整剤B1質量部として配合設計した。
【0053】
[セメントペーストの作製]
20℃環境下において、セメント100質量部に対して、水50質量部を添加し、表2で配合設計したセメント組成物の各材料を添加し、ハンドミキサーで120秒混練しセメントペーストを約3L作製した。
【0054】
【0055】
[評価方法]
各項目については、以下の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
・フレッシュ性状(コンシステンシー)
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下でセメントペーストの引抜きフロー値を測定し、これをコンシステンシーとして評価した。
・圧縮強度
JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、材齢1日及び28日における圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。材齢28日の供試体は翌日に脱型した後、材齢日まで水中で養生した。養生は常に20℃の恒温槽内で行った。
【0056】
【0057】
実施例のセメントペーストは1日及び28日での圧縮強度も優れていた。一方、比較例のセメントペーストは、No.11では練り混ぜが困難であり、練り混ぜられたとしても1日及び28日での圧縮強度が優れないものもあった。