(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128289
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】吊治具、及び吊荷昇降方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/10 20060101AFI20240913BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20240913BHJP
E21D 11/40 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B66C1/10 B
E21D9/06 301D
E21D11/40 C
B66C1/10 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037194
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】596104728
【氏名又は名称】日本メンテナンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597094503
【氏名又は名称】巴機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 篤
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 尚志
(72)【発明者】
【氏名】三木 章生
(72)【発明者】
【氏名】新原 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】西澤 和男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠之
(72)【発明者】
【氏名】石倉 照夫
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
【テーマコード(参考)】
2D054
2D155
3F004
【Fターム(参考)】
2D054AA05
2D054AB03
2D155BA02
2D155BB06
2D155GA07
3F004EA01
3F004EA11
3F004EA26
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して簡易な装置を利用し、しかもチェーンブロックなどを用いることなく、その姿勢を調整しつつ拡幅セグメントを設置することができる吊治具と、これを用いた吊荷昇降方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の吊治具は、揚重装置で吊荷を吊るために用いられる吊治具であって、第1係止手段と第2係止手段、伸縮手段を備えたものである。伸縮部材の伸縮とともに第1係止手段が移動すると、第1係止手段と第2係止手段との離隔である吊点間隔が変化する。吊点間隔を調整することによって、吊られたときの吊荷の姿勢を調整することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重装置で吊荷を吊るために用いられる吊治具であって、
前記揚重装置の尻手部を係止する第1係止手段と、
前記吊荷の一部を係止する第2係止手段と、
伸縮部材が伸縮する伸縮手段と、を備え、
前記第1係止手段は、前記伸縮部材の一部に回転可能に取り付けられ、
前記伸縮部材の伸縮とともに前記第1係止手段が移動すると、該第1係止手段と前記第2係止手段との離隔である吊点間隔が変化し、
前記揚重装置の前記尻手部が前記第1係止手段に係止されるとともに、前記吊荷の一部が前記第2係止手段に係止された状態で、該揚重装置によって該吊荷を吊上げると、該吊荷は鉛直面又は略鉛直面内で回転し、
前記吊点間隔を調整することによって、吊られたときの前記吊荷の姿勢を調整し得る、
ことを特徴とする吊治具。
【請求項2】
前記伸縮手段の一部を収容する函体と、
前記函体に取り付けられる側壁と、をさらに備え、
前記伸縮部材の先端には柱状の連結体が形成され、
前記側壁にはガイド溝が形成され、
前記連結体は、前記伸縮部材の伸縮方向に対して直交又は略直交するように配置されるとともに、前記ガイド溝に挿通され、
前記第1係止手段は、前記連結体に回転可能に取り付けられ、
前記伸縮部材は、前記連結体が前記ガイド溝に案内されつつ伸縮する、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の前記吊治具を用いて、前記揚重装置によって前記吊荷を昇降する方法であって、
吊られたときの前記吊荷が目的の姿勢となるように、前記伸縮部材を伸縮することによって前記吊点間隔を調整する吊点間隔調整工程と、
前記吊点間隔調整工程で調整された前記吊点間隔を維持したまま、前記揚重装置の前記尻手部を前記第1係止手段に係止するとともに、前記吊荷の一部を前記第2係止手段に係止する吊荷係止工程と、
目的の姿勢とされた状態で、前記吊荷を前記揚重装置によって荷揚げ又は荷降しする昇降工程と、を備えた、
ことを特徴とする吊荷昇降方法。
【請求項4】
解析及び/又は試験を行うことによって、吊られたときの前記吊荷が目的の姿勢となる前記吊点間隔を、あらかじめ把握する吊点間隔把握工程を、さらに備え、
前記吊点間隔調整工程では、前記吊点間隔把握工程で把握された前記吊点間隔となるように、前記伸縮部材を伸縮する、
ことを特徴とする請求項3記載の吊荷昇降方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、揚重装置によって吊荷を荷揚げし、荷降しする(以下、「昇降する」という。)技術に関するものであり、より具体的には、吊荷が特定の姿勢となるように調整したうえでその吊荷を昇降することができる吊治具と、これを用いた吊荷昇降方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、トンネル切羽の安定を図りつつシールドマシンで地中を掘進し、セグメントで覆工することによって、地下に鉄道トンネルや道路トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなどを構築する工法である。地上環境への影響を抑制することができる非開削工法であることから、近年ではこのシールド工法が多用される傾向にあり、さらに大断面化や大深度化、長距離化などが進んでいるところである。
【0003】
シールド工法によって構築されたトンネル(以下、単に「シールドトンネル」という。)では、地中拡幅工事が行われることがある。例えば、道路トンネルや鉄道トンネルの分合流区間や、道路トンネルの非常駐車帯、鉄道トンネルの駅舎部などは、本線シールドトンネル区間より大断面となることから、一旦、本線シールドトンネルと同じ断面で構築した後に地中拡幅工事が行われる。あるいは、大断面トンネルを構築するにあたって、平行する2本のシールドトンネルを構築した後に、それぞれ地中拡幅工事を行うことによって1本の大断面トンネルを完成させる技術もある。もちろん、既設のシールドトンネルの断面を拡張したいケースでも地中拡幅工事が行われる。
【0004】
図8は、シールドトンネルに対して地中拡幅工事を行い、拡幅部に対して新たに拡幅セグメントSGを設置した状態を模式的に示す断面図である。この図に示すような拡幅工事を行う手順は、概ね次のとおりである。まず、既設のセグメント(図に示す破線位置にあったセグメント)を撤去し、バックホウなどの建設機械を用いて地山を掘削して拡幅部を形成する。そして、拡幅部の地山部分を覆うように拡幅セグメントSGを設置するとともに裏込め注入を行っていく。
【0005】
上記したとおり、例えば直径φ16mのシールドトンネルが計画されるなどその大断面化が進んでおり、これに伴って拡幅セグメントSGも大型のもの(例えば、重量11トン)が使用されるようになってきた。しかしながら、大断面とはいえシールドトンネル内で活用できる空間は極めて限定的であり、大型の揚重機を利用することが難しいこともある。また、
図8から分かるように拡幅セグメントSGは、それぞれ設置したときの角度(姿勢)が異なるため、吊上げたときの拡幅セグメントSGが設置時の姿勢となるように調整する必要がある。そこで、従来では比較的小型の揚重装置を用い、さらに
図9に示すようにチェーンブロックCBなどを併用しながら拡幅セグメントSGを吊上げ、そして吊下ろしていた。小型の揚重機によって、拡幅セグメントSGの一端(
図9では右側)を吊り上げるとともに、チェーンブロックCBを介して拡幅セグメントSGの中央付近を吊り上げ、このチェーンブロックCBの長さを調整することによって拡幅セグメントSGの姿勢を調整していたわけである。
【0006】
このように、狭隘なスペースで拡幅セグメントSGを設置し、しかもその姿勢を調整する作業は、非効率であるうえ、安全性の面でも適当ではない。そこで、これまでにも狭隘なシールドトンネル内で効率的にセグメントを設置する種々の技術が提案されている。例えば特許文献1では、拡幅セグメントを回転しながら設置する発明について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される発明によれば、様々な角度に対応しつつ拡幅セグメントSGを設置することができ、しかも効率的かつ安全に作業行うことができる。他方、特許文献1の発明を実施するにあたっては、拡幅セグメント配置装置が必要であり、すなわちその装置にかかる製造費や維持費が必要になるといった課題もあった。
【0009】
とはいえ、小型の揚重機とチェーンブロックCBを併用する従来技術は、非効率かつ不安全であり、チェーンブロックCBを用いることから高さ制限が厳しい場所ではそもそも採用できないといった問題もある。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して簡易な装置を利用し、しかもチェーンブロックなどを用いることなく、その姿勢を調整しつつ拡幅セグメントを設置することができる吊治具と、これを用いた吊荷昇降方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、吊荷(例えば、拡幅セグメントSG)側の吊位置に対して、揚重機側の吊位置を変更することによって、吊上げたときの吊荷の姿勢を調整する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の吊治具は、揚重装置で吊荷を吊るために用いられる吊治具であって、第1係止手段と第2係止手段、伸縮手段を備えたものである。このうち第1係止手段は、揚重装置の尻手部を係止する手段であり、第2係止手段は、吊荷の一部を係止する手段であり、伸縮手段は、伸縮部材が伸縮するものである。なお、第1係止手段は、伸縮部材の一部に回転可能に取り付けられる。また、伸縮部材の伸縮とともに第1係止手段が移動すると、第1係止手段と第2係止手段との離隔である吊点間隔が変化する。揚重装置の尻手部が第1係止手段に係止されるとともに、吊荷の一部が第2係止手段に係止された状態で、揚重装置によって吊荷を吊上げると、吊荷は鉛直面又は略鉛直面内で回転する。そして、吊点間隔を調整することによって、吊られたときの吊荷の姿勢を調整することができる。
【0013】
本願発明の吊治具は、伸縮手段の一部を収容する函体と、函体に取り付けられる側壁をさらに備えたものとすることもできる。この場合、伸縮部材の先端には柱状の連結体が形成され、側壁にはガイド溝が形成される。また連結体は、伸縮部材の伸縮方向に対して略直交(直交を含む)するように配置されるとともにガイド溝に挿通され、第1係止手段は、連結体に回転可能に取り付けられる。これにより伸縮部材は、連結体がガイド溝に案内されつつ伸縮する。
【0014】
本願発明の吊荷昇降方法は、本願発明の吊治具を用いて、揚重装置によって吊荷を昇降する方法であって、吊点間隔調整工程と吊荷係止工程、昇降工程を備えた方法である。このうち吊点間隔調整工程では、吊られたときの吊荷が目的の姿勢となるように、伸縮部材を伸縮することによって吊点間隔を調整する。また吊荷係止工程では、吊点間隔調整工程で調整された吊点間隔を維持したまま、揚重装置の尻手部を第1係止手段に係止するとともに、吊荷の一部を第2係止手段に係止する。そして昇降工程では、目的の姿勢とされた状態で、吊荷を揚重装置によって荷揚げし、あるいは荷降しする。
【0015】
本願発明の吊荷昇降方法は、吊点間隔把握工程をさらに備えた方法とすることもできる。この吊点間隔把握工程では、解析や試験を行うことによって、吊られたときの吊荷が目的の姿勢となる吊点間隔を、あらかじめ把握する。この場合、吊点間隔調整工程では、吊点間隔把握工程で把握された吊点間隔となるように、伸縮部材を伸縮する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の吊治具、及び吊荷昇降方法には、次のような効果がある。
(1)チェーンブロックなどを利用する必要がなく、作業者による重量物(吊荷)への接近作業を低減することができる。その結果、挟まれ災害や吊り荷の落下などの事故の発生を従来に比して回避することができる。
(2)また、チェーンブロックなどを用いることなく、その姿勢を調整しつつ吊荷を吊上げることができる。その結果、吊荷の昇降作業にかかる施工時間を短縮することができ、工期短縮にも貢献する。
(3)さらに、チェーンブロックなどを利用する必要がないことから、高さ制限が厳しい空間においても吊荷の昇降作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】(a)は伸縮部材が収縮した吊治具を示す平面図、(b)は伸縮部材が伸長した吊治具を示す平面図。
【
図3】(a)は
図1に示すA-A矢視の断面図、(b)は
図1に示すB-B矢視の断面図。
【
図4】(a)は第1係止手段を側方から見た側面図であり、(b)は第1係止手段を主軸直角方向の面で切断した断面図。
【
図6】(a)は伸縮部材が伸長していない状態の吊治具を用いて吊上げられた拡幅セグメントを模式的に示す側面図、(b)は伸縮部材が全ストロークの半分程度だけ伸長した状態の吊治具を用いて吊上げられた拡幅セグメントを模式的に示す側面図、(c)は伸縮部材が全ストローク伸長した状態の吊治具を用いて吊上げられた拡幅セグメントを模式的に示す側面図。
【
図7】本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図8】拡幅部に対して新たに拡幅セグメントを設置した状態を模式的に示す断面図。
【
図9】揚重装置とチェーンブロックを併用しながら拡幅セグメントを吊上げる状況を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の吊治具、及び吊荷昇降方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明は、吊荷を吊上げ、吊下ろす(つまり、昇降する)ための吊治具と、その吊治具を用いて吊荷を昇降する方法であり、特に吊上げたときの吊荷の姿勢(角度)を調整する必要があるときに有効な技術である。なお、本願発明は様々な吊荷を対象として実施することができるが、便宜上ここではシールドトンネルの拡幅部に設置される拡幅セグメントSGを吊荷とする例で説明する。
【0019】
1.吊治具
はじめに、本願発明の吊治具について詳しく説明する。なお、本願発明の吊荷昇降方法は、本願発明の吊治具を用いて吊荷を昇降する方法である。したがって、まずは本願発明の吊治具について説明し、その後に本願発明の吊荷昇降方法について説明することとする。
【0020】
図1は本願発明の吊治具100を側方から見た側面図であり、
図2は本願発明の吊治具100を上方から見た平面図である。ただし、伸縮部材131を示すため一部を断面図としている。本願発明の吊治具100は、
図1や
図2に示すように、第1係止手段110と第2係止手段120、伸縮手段130を含んで構成され、さらに函体140や側壁150などを含んで構成することもできる。このうち伸縮手段130は、例えば油圧ジャッキのように伸縮部材131が伸縮するものである。そこで便宜上ここでは、伸縮部材131が伸縮する方向のことを「主軸方向(
図1)」と、この主軸方向に対して直交する方向のことを「主軸直角方向(
図2)」ということとする。また、伸縮部材131が伸びていく方向(図では右側)のことを「前方」と、伸縮部材131が縮んでいく方向(図では左側)のことを「後方」ということとする。
【0021】
以下、本願発明の吊治具100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0022】
(伸縮手段)
伸縮手段130は、上記したとおりその一部(伸縮部材131)が伸縮するものであり、油圧ジャッキや電動ジャッキなどを利用することができる。例えば油圧ジャッキを利用した場合、
図2に示すように伸縮手段130は、伸縮部材131と、この伸縮部材131を伸縮させる駆動部132(パワーシリンダなど)によって構成することができる。また伸縮部材131は、移動しない固定部材131Fと、移動可能な移動部材131Mからなるテレスコ(登録商標)ピック構造とされ、
図2(a)に示すように収縮した状態では移動部材131Mが固定部材131F内に収容され、
図2(b)に示すように伸長した状態では移動部材131Mが固定部材131Fから突出する。
【0023】
伸縮部材131(移動部材131M)の前方の端部(以下、「先端部」という。)には、柱状(棒状や管状)の連結体133を取り付けることができる。この連結体133は、その軸が主軸直角方向となるように配置される。なお、伸縮部材131の先端部に取り付けられた連結体133は、当然ながら伸縮部材131の伸長に伴って主軸方向に移動する。
【0024】
(函体と側壁)
函体140は、
図3(a)に示すように伸縮部材131のうち固定部材131Fを収容するいわゆるケーシングである。
図3(a)は、
図1に示すA-A矢視の断面図である。また函体140の前方には、側壁150を取り付けることができる。この側壁150は、
図2に示すように前方(主軸方向)に向かって左右に設けられる。そこで、一方(
図2では上側)の側壁150のことを左側壁150Lと、他方(
図2では下側)の側壁150のことを右側壁150Rということとする。
【0025】
図3(b)は、
図1に示すB-B矢視の断面図であり、側壁150(左側壁150Lと右側壁150R)を模式的に示す図である。この図に示すように側壁150は、側板151と、その側板の頂部に設けられる上フランジ153を含んで構成される。また側板151には、
図1に示すように主軸方向に沿った溝状の開口部(以下、「ガイド溝152」という。)が形成され、ガイド溝152の周囲には溝フランジ155が設けられており、さらに側板151の底部には部分的(図では後方側)に下フランジ154が設けられている。これら上フランジ153や下フランジ154、溝フランジ155は、いずれも側板151を補強するために設けられるものであり、側板151が十分な強度を有するときは省略することもできる。
【0026】
図3(b)に示すように、左側壁150Lと右側壁150Rそれぞれにガイド溝152が形成される。そして、主軸直角方向となるように配置された連結体133は、その両端が通過するようにガイド溝152に挿通される。したがって連結体133は、ガイド溝152内でのみ移動するように制限され、換言すると連結体133はガイド溝152に案内されるように移動し、すなわち伸縮部材131(移動部材131M)はガイド溝152に沿って伸縮することとなる。
【0027】
(第1係止手段)
第1係止手段110は、揚重装置の「尻手部」を係止する手段である。ここで尻手部とは、揚重機のワイヤープの先端(下端)や、その先端に取り付けられたフック、あるいはそのフックに掛けられた玉掛ロープなど、吊荷に接近する部分である。
図4は、第1係止手段110の例を模式的に示す図であり、(a)は側方から(主軸直角方向に)見た側面図であり、(b)は主軸直角方向の面で切断した(主軸方向に見た)断面図である。
【0028】
第1係止手段110は、伸縮部材131に対して回転可能となるように、伸縮部材131の先端部に取り付けられる。例えば
図4(a)に示す第1係止手段110は、連結体133に取り付けられ、この連結体133を回転軸として回転する構成とされている。また
図4(b)に示すように、この場合の第1係止手段110は、左本体板111Lと右本体板111R、ピン112を含んで構成される。左本体板111Lと右本体板111Rの上方にはそれぞれ挿通孔(以下、「第1挿通孔」という。)が設けられ、その下方にもそれぞれ挿通孔(以下、「第2挿通孔」という。)が設けられている。そして、第2挿通孔に連結体133が挿通され、これにより第1係止手段110は伸縮部材131にピン結合(ヒンジ結合)されることとなり、すなわち第1係止手段110は伸縮部材131に対して回転可能とされる。
【0029】
一方、
図4(b)に示すように、第1挿通孔にはピン112が着脱可能に挿通され、挿通されたピン112はナットで締め付けることができる。そして、このピン112に玉掛ロープやUボルトを取り付けたり、あるいはピン112に揚重機のフックを直接掛けたりすることによって、揚重装置の尻手部を第1係止手段110に係止することができる。
【0030】
ところで、揚重機で拡幅セグメントSGを吊上げるとき(以下、単に「使用時」という。)、第1係止手段110はその軸が鉛直方向となるような配置とされることから、使用時における第1係止手段110は略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能となる。ただし使用時には、第1係止手段110そのものは回転することができず、伸縮手段130や函体140、側壁150(以下、これらをまとめて「本体部」という。)が略鉛直面内で回転することになり、これにより拡幅セグメントSGも略鉛直面内で回転する。
【0031】
(第2係止手段)
第2係止手段120は、拡幅セグメントSGの一部を係止する手段である。この第2係止手段120は、例えば
図1に示すツイストロック機構を利用することができる。拡幅セグメントSGに所定の開口部を設けておき、その開口部に第2係止手段120の底板を挿入した後、底板を回転することによって第2係止手段120を拡幅セグメントSGに係止(ロック)するわけである。もちろん第2係止手段120は、
図1に示すツイストロック機構のほか、フックを設けたり、Uボルトやアイボルトを設けたり、玉掛ロープを取り付けたり、従来用いられている種々の技術を利用することができる。
【0032】
第2係止手段120は、例えば函体140に固定され、その位置が変化することはない。これに対して第1係止手段110は、伸縮部材131の伸縮に伴ってその位置が変化する。そのため、第2係止手段120から第1係止手段110までの距離(以下、「吊点間隔HD」という。)は、
図5に示すように伸縮部材131の伸縮に伴って変化することとなる。
図5は、
図1から側壁150を取り外した状態を示す側面図である。
【0033】
第1係止手段110には、揚重機が持ち上げようとする力、すなわち鉛直上向きの力が作用し、第2係止手段120には、拡幅セグメントSGの自重、すなわち鉛直下向きの力が作用する。したがって、吊治具100の使用時において第1係止手段110と第2係止手段120が鉛直線上に並ばない限りは、系全体に回転モーメントが発生し、吊点間隔HDが大きくなるほどその回転モーメントは大きくなる。そして、大きな回転モーメントが発生するほど、吊治具100の本体部は略鉛直面内で大きく回転し、これに伴って拡幅セグメントSGも略鉛直面内で大きく回転する。つまり、伸縮部材131の伸長の程度によって吊点間隔HDを調整することができ、その結果、拡幅セグメントSGの回転の程度、すなわち吊上げたときの拡幅セグメントSGの姿勢を調整することができるわけである。
【0034】
既述したように拡幅セグメントSGは、それぞれ設置したときの角度(姿勢)が異なるため、吊上げたときの拡幅セグメントSGが設置時の姿勢となるように調整しておくことが望ましい。そこで、目的の姿勢となるようにあらかじめ吊点間隔HDを調整したうえで、吊治具100を拡幅セグメントSGに取り付けるとよい。例えば
図6(a)では、伸縮部材131が伸長していない状態とされた吊治具100を用いて拡幅セグメントSGを吊上げており、
図6(b)では、伸縮部材131が全ストロークの半分程度だけ伸長した状態の吊治具100を用いて拡幅セグメントSGを吊上げており、
図6(c)では、伸縮部材131が全ストローク伸長した状態の吊治具100を用いて拡幅セグメントSGを吊上げている。この結果、
図6(c)の拡幅セグメントSGが最も傾き、次いで
図6(b)の拡幅セグメントSGがやや大きく傾き、
図6(a)の拡幅セグメントSGは水平に近い姿勢とされている。このように、吊点間隔HDを調整するだけで、つまり、伸縮部材131の伸長の程度を調整するだけで、吊上げたときの拡幅セグメントSGの姿勢を調整することができるわけである。
【0035】
2.吊荷昇降方法
続いて、本願発明の吊荷昇降方法ついて説明する。なお、本願発明の吊荷昇降方法は、ここまで説明した吊治具100を用いて吊荷を昇降する方法である。したがって、吊治具100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の吊荷昇降方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.吊治具」で説明したものと同様である。
【0036】
以下、
図7を参照しながら本願発明の吊荷昇降方法ついて説明する。
図7は、本願発明の吊荷昇降方法の主な工程の流れを示すフロー図である。はじめに、その拡幅セグメントSGに適した吊点間隔HD(以下、「適切な吊点間隔HD」という。)を把握する(
図7のStep201)。すなわち、対象の拡幅セグメントSGを吊上げたときに、その拡幅セグメントSGの設置時における姿勢(以下、「設置姿勢」という。)となるような吊点間隔HDを求めるわけである。この適切な吊点間隔HDは、計算によって求めることもできるし、試験的に吊上げることで求めることも、計算と試験を繰り返し行うことで求めることもできる。なお、設置が計画された拡幅セグメントSGごとに、換言すると拡幅セグメントSGの設置姿勢ごとに、それぞれ適切な吊点間隔HDを把握する。
【0037】
その拡幅セグメントSGにとって適切な吊点間隔HDを把握すると、その適切な吊点間隔HDとなるように伸縮部材131を伸長(あるいは収縮)する(
図7のStep202)。吊点間隔HDが調整されると、適切な吊点間隔HDを維持したまま、揚重装置の尻手部を第1係止手段110に係止するとともに、拡幅セグメントSGを第2係止手段120に係止する(
図7のStep203)。次いで、揚重機によって拡幅セグメントSGを吊上げ(
図7のStep204)、その姿勢のまま拡幅セグメントSGを計画された箇所に設置する(
図7のStep205)。そして、適切な吊点間隔HDを変更しながら、計画された拡幅セグメントSGの数だけ、吊点間隔HDの調整(
図7のStep202)~拡幅セグメントSGの設置する(
図7のStep205)といった一連の工程を繰り返し行う。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明の吊治具、及び吊荷昇降方法は、地下に構築される道路トンネルのほか、鉄道トンネルや上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなど、様々な用途のシールドトンネルの地中拡幅工事に利用できる。本願発明によれば効率的かつ安全にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0039】
100 本願発明の吊治具
110 (吊治具の)第1係止手段
111L (第1係止手段の)左本体板
111R (第1係止手段の)右本体板
112 (第1係止手段の)ピン
120 (吊治具の)第2係止手段
130 (吊治具の)伸縮手段
131 (伸縮手段の)伸縮部材
131F (伸縮部材の)固定部材
131M (伸縮部材の)移動部材
132 (伸縮手段の)駆動部
133 (伸縮手段の)連結体
140 (吊治具の)函体
150 (吊治具の)側壁
150L (側壁の)左側壁
150R (側壁の)右側壁
151 (側壁の)側板
152 (側壁の)ガイド溝
153 (側壁の)上フランジ
154 (側壁の)下フランジ
155 (側壁の)溝フランジ
CB チェーンブロック
HD 吊点間隔
SG 拡幅セグメント