(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128304
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240913BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240913BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20240913BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
A23L5/00 L
A23D9/00
A23L13/00 A
A23J3/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037224
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大沼 諒
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B035LC01
4B035LC16
4B035LE05
4B035LG12
4B035LG15
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP31
4B035LP43
4B042AC03
4B042AC10
4B042AD20
4B042AK10
4B042AK13
4B042AP02
4B042AP18
(57)【要約】
【課題】本発明は、加工食品の製造において、作業性が良く、風味も良く、加熱調理工程で生じるドリップ等の流出を抑制することで歩留まり低下を改善することができる加工食品を提供することを課題とする。
【解決手段】原料にパーム系油脂を含むエステル交換油脂を含有し、特定の固体脂含量(SFC)を有する食用油脂を加工食品に配合することで、加工食品製造時の作業性が良く、加工食品の歩留まりを抑制することができることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を配合した、加工食品。
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
(B)10℃での固体脂含量(SFC)/30℃でのSFC比率が0.2~15である。
(C)30℃でのSFCが1~30%である。
【請求項2】
該食用油脂がさらに(D)を満たす、請求項1に記載の加工食品。
(D)10℃でのSFCが10~60%である。
【請求項3】
前記(B)が下記である、請求項1又は2に記載の加工食品。
(B)の10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が1.2~10である。
【請求項4】
前記(A)が下記である、請求項1又は2に記載の加工食品。
(A)ヨウ素価が44以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
【請求項5】
前記(A)が下記である、請求項3に記載の加工食品。
(A)ヨウ素価が44以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
【請求項6】
以下(A)~(C)を満たす全て食用油脂を、植物性蛋白質素材を含む加工食品の生地に練り込み、成型する工程と、成型物を加熱調理する工程を含む、加工食品の製造方法。
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である。
(C)30℃でのSFCが1~30%である。
【請求項7】
植物性蛋白質素材を含む加工食品に、以下(A)~(C)を満たす食用油脂を配合することによる、加熱調理時における加工食品の歩留まり低下を抑制する方法。
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である。
(C)30℃でのSFCが1~30%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のライフスタイル等の変化により、加工食品の利用は拡大している。特に、Plant based foods(PBF)と称される、植物由来の素材を原料に用いた加工食品の開発が増加している。加工食品は加熱調理の際にうま味を含むドリップ等が加工食品から流出してしまうことがある。また、加工食品は消費者や小売業者らが喫食前に再度加熱を施すこともあり、度重なる加熱調理によって、歩留まり低下だけでなく、うま味も減少してしまう場合がある。
【0003】
このような課題に対し、特許文献1ではエステル交換油脂を含む固形状水中油型乳化物を畜肉加工食品の生地に配合すると、作業性向上、ジューシー感やコク味の向上、加熱時の歩留まり抑制効果が得られることが示されている。また特許文献2では、特定の固体脂含量を有する油脂組成物を加熱調理食品に用いることで、成型性、作業性が良く、加熱調理食品の作りたての美味しさやソフトな食感を維持させることができることが開示されている。特許文献3では、液状油と極度硬化油とのエステル交換油脂を含み、油相が特定の固体脂含量を示す流動状油脂組成物を魚肉に混合することで、魚肉とのなじみが良く、ドリップの発生が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-51156号公報
【特許文献2】特開2018-38430号公報
【特許文献3】特開2015-89350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、エステル交換油脂を調製し、さらにこれを配合した水中油型乳化物でないと効果が得られないことから、製造に煩雑さが残る。特許文献2では、10℃~30℃での温度域において、適度な結晶量が存在する油脂を用いることで、加熱調理食品に練り込んだ際の成型性、作業性が向上するとある。また、10℃~30℃での固体脂含量の変化が少ない横型油脂と言われる油脂を使用することで、この効果が高まることも記載されている。しかしながら、食感の評価が示されているものの、歩留まり改善までは示されていない。特許文献3では、加熱するような加工食品に流動状油脂組成物を配合した時の作業性やドリップ抑制は示されておらず、加熱条件下で同様の効果が得られるか不明である。
【0006】
よって、本発明は、加工食品の製造において、作業性が良く、風味も良く、加熱調理工程で生じるドリップ等の流出を抑制することで歩留まり低下を改善することができる加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が検討を行ったところ、原料にパーム系油脂を含むエステル交換油脂を含有し、特定の固体脂含量(SFC)を有する食用油脂を加工食品に配合することで、加工食品製造時の作業性が良く、加工食品の歩留まりを抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を配合した、加工食品、
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する、
(B)10℃での固体脂含量(SFC)/30℃でのSFC比率が0.2~15である、
(C)30℃でのSFCが1~30%である、
(2)該食用油脂がさらに(D)を満たす、(1)に記載の加工食品、
(D)10℃でのSFCが10~60%である、
(3)前記(B)が下記である、(1)又は(2)に記載の加工食品、
(B)の10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が1.2~10である、
(4)前記(A)が下記である、(1)又は(2)に記載の加工食品、
(A)ヨウ素価が44以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する、
(5)前記(A)が下記である、(3)に記載の加工食品、
(A)ヨウ素価が44以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する、
(6)以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を、植物性蛋白質素材を含む加工食品の生地に練り込み、成型する工程と、成型物を加熱調理する工程を含む、加工食品の製造方法、
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する、
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である、
(C)30℃でのSFCが1~30%である、
(7)植物性蛋白質素材を含む加工食品に、以下(A)~(C)を満たす食用油脂を配合することによる、加熱調理時における加工食品の歩留まり低下を抑制する方法、
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する、
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である、
(C)30℃でのSFCが1~30%である、
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工食品の作業性が良好で、加熱時の歩留まりが抑制された、風味の良い加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明は、以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を配合した、加工食品に関する。具体的には、以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を加工食品に配合することで、作業性が良く、加熱時の歩留まりの低下の改善が可能となる。
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である。
(C)30℃での固体脂含量(SFC)が1~30%である。
【0012】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。ここでいう「パーム系油脂」とは、パーム油、並びにパーム油を原料として、乾式分別、溶剤分別、ディタージェント分別等の分別工程を経て得られた油脂をさす。具体的には、パームステアリン、パームステアリン分別高融点油、パームステアリン分別低融点油、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム中融点油、パーム中融点油の分別高融点油、パーム中融点油の分別低融点油等が挙げられる。より好ましくはパームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム中融点油、さらに好ましくはパームオレイン、パームスーパーオレイン、さらにより好ましくはパームオレインである。適当なパーム系油脂を原料に選択することで、加工食品の加熱時の歩留まりを改善することができる。なお、溶剤分別に用いる溶剤は、ヘキサンやアセトンが例示でき、分別方法は組み合わせても良い。
【0013】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。ここでいう「エステル交換」は油脂に結合した脂肪酸を、触媒を用いてエステル交換する加工方法をいう。本発明で用いる触媒は、ナトリウムメチラートなどの化学触媒、ランダムエステル交換活性を有するリパーゼ、位置特異性エステル交換活性を有するリパーゼ等を用いることができる。製造の観点から、ランダムエステル交換を用いることが好ましい。リパーゼは市販品を使用することができ、その種類は問わない。
【0014】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、(B)10℃での固体脂含量(SFC)/30℃でのSFC比率が0.2~15である。上限はより好ましくは1.2以上、1.5以上,2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、又は4.1以上である。下限はより好ましくは10以下、9以下、8.5以下、8以下、7以下、6以下、又は5以下である。適当なSFC比率であることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0015】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、さらに(C)30℃でのSFCが1~30%が好ましい。下限はより好ましくは2%以上、3%以上、5%以上、7%以上、9%以上、又は10%以上である。上限はより好ましくは28%以下、25%以下、20%以下、15%以下、又は14%以下である。適当なSFCであることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0016】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、さらに(D)10℃でのSFCが10~60%であることが好ましい。下限はより好ましくは13%以上、16%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は51%以上である。上限はより好ましくは58%以下、56%以下、又は55%以下である。適当なSFCであることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。下限を下回る場合、或いは上限を上回る場合、食用油脂が加工食品の生地に練り込まれず、加工食品の成型時の作業性が悪い場合がある。
【0017】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、(A)ヨウ素価が44以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有することが好ましい。下限はより好ましくは46以上、48以上、50以上、又は53以上である。上限はより好ましくは70以下、68以下、65以下、又は60以下である。適当なパーム系油脂を原料に用いることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0018】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、構成脂肪酸組成中のパルミチン酸含量が4.5質量%以上であることが好ましい。下限はより好ましくは5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上である。上限はより好ましくは65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、又は43質量%以下である。適当なパルミチン酸含量であることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0019】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、構成脂肪酸組成中の不飽和脂肪酸含量が90質量%以下であることが好ましい。上限はより好ましくは88質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、又は65質量%以下である。上限はより好ましくは30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、又は52質量%以上である。適当な不飽和脂肪酸含量であることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。なお、ここでいう「不飽和脂肪酸」とは、炭素数18の不飽和脂肪酸の合計量をさし、シス体、トランス体を含む。
【0020】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、構成脂肪酸組成中のパルミチン酸と不飽和脂肪酸との含量比(パルミチン酸含量/不飽和脂肪酸含量)が0.05~2であることが好ましい。より好ましくは下限が0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.3以上、0.35以上、0.4以上、又は0.5以上である。上限がより好ましくは1.8以下、1.5以下、1以下、0.9以下、0.85以下、又は0.8以下である。適当な含量比であることで、加工食品の製造時の作業性が良く、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0021】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、該エステル交換油脂の原料として、該パーム系油脂以外に他の油脂を混合しても良い。他の油脂として使用できる油脂は、動物性或いは植物性のどちらも該当する。具体的には、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、米油、ゴマ油、さらにはサル脂、カカオ脂、シア脂、イリッペ脂、アランブラッキア脂、高ステアリン酸・高オレイン酸ヒマワリ油、カカオバター代替脂の製造に使用されるエステル交換油脂及びこれらの分別油等の加工油脂、並びにこれらの分別油、硬化油、エステル交換油脂、水素添加油等、目的に応じて適宜選択し、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。また、動物性油脂としては、具体的には乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油、藻類油、微生物発酵由来の油脂及びこれらの分別油、硬化油、エステル交換油脂、水素添加油等を1種以上用いることができる。より好ましくはパーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、米油、ゴマ油、極度硬化油である。
【0022】
食用油脂中の該エステル交換油脂と他の油脂との混合比率は、該エステル交換油脂:他の油脂が0.1:99.9~100:0の範囲が好ましい。より好ましくは1:99~100:0、さらに好ましくは5:95~100:0、さらにより好ましくは10:90~100:0である。適当な量の該エステル交換油脂を含むことで、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
なお、本発明の目的物である加工食品は、その商品設計段階で畜肉不使用や動物性素材不使用とするならば、植物性の油脂を用いることが望ましい。
【0023】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂の好ましい態様は、該パーム系油脂を100質量%原料とし、エステル交換を施した油脂である。具体的には、パーム油のエステル交換油脂、パームオレインのエステル交換油脂、パーム中融点油のエステル交換油脂、パームスーパーオレインのエステル交換油脂等が挙げられる。この態様において、パームオレイン、パーム中融点油、パームスーパーオレイン単独で原料に用いるのが好ましい。より好ましくは、パームオレイン、パームスーパーオレイン単独、最も好ましくはパームオレイン単独で、原料に用いるのが良い。
【0024】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は、必要に応じて不活性ガスを含有しても良い。この場合、不活性ガスを該食用油脂中に5~20容量%が好ましい。より好ましくは下限が8容量%以上、又は12容量%以上である。より好ましくは上限が17容量%以下、又は15容量%以下である。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素及びこれら不活性ガスの混合物を使用することができる。
【0025】
本発明の加工食品において、配合する食用油脂は各油脂を溶解、混合したものを混捏しながら冷却しても良い。さらに混捏中に上記不活性ガスを吹き込んでも良い。また、該食用油脂をオンレーター、ボテーター、パーフェクター、コンプレクター等で急冷練り込み処理することにより製造することも可能である。
【0026】
本発明に係る加工食品において、該食用油脂は該加工食品中に0.1~40質量%配合するのが良い。より好ましくは下限が0.8質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上である。より好ましくは上限が30質量%以下、28質量%以下、又は25質量%以下である。適当な量の該食用油脂を含むことで、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。
【0027】
本発明に係る加工食品において、該食用油脂以外に他の油脂を混合しても良い。他の油脂として使用できる油脂は上述の動物性或いは植物性の油脂が挙げられる。他の油脂は、本発明の効果を妨げない範囲で、また加工食品の品質設計等に影響しない範囲で適宜使用することができる。該食用油脂は、該加工食品の油分の30質量%~100質量%で配合することが好ましい。より好ましくは下限が40質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上である。最も好ましくは100%である。適当な量の該食用油脂を配合することで、加工食品の加熱時の歩留まり低下を改善することができる。なお、使用する他の油脂も加工食品の商品設計段階で畜肉不使用や動物性素材不使用とするならば、植物性の油脂を用いることが望ましい。
【0028】
本発明の加工食品は、植物性蛋白質素材を含むことが好ましい。該加工食品中に植物性蛋白質素材を好ましくは乾燥重量で1質量%以上配合することで、本発明の効果を好ましく得ることができる。より好ましくは5質量%以上、又は10質量%以上で、本発明の効果をさらに発揮することができる。
【0029】
本発明で用いる植物性蛋白質素材の由来は、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、ヒマワリ、コーン、紅花、ヤシ等の油糧種子、或いは米、大麦、小麦等の穀物種子等が挙げられる。植物由来の蛋白質素材の具体例として、上述の油糧種子或いは穀物種子の粉砕物、抽出蛋白、濃縮蛋白、分離蛋白等である。例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、分離エンドウ蛋白、分離緑豆蛋白等が挙げられる。本発明には豆類由来の蛋白質が好ましく、特に大豆を主原料とする蛋白質素材が好適である。
【0030】
本発明で用いる植物性蛋白質素材は、組織状植物性蛋白質素材または粉末状植物性蛋白質素材から選ばれる1以上をさす。本発明の効果を最大限に得るには、組織状植物性蛋白質素材を含むことが望ましい。
【0031】
植物性蛋白質素材として使用できる組織状植物性蛋白質素材とは、上述の植物由来の蛋白質素材を配合し、一軸又は二軸押出成形機(エクストルーダー)を用いて高温高圧下に組織化して得られるもので、粒状や繊維状、フレーク状、スライス肉状、膜状などの形状がある。組織状植物性蛋白質素材は、所望の商品形態に応じ、任意の形状や大きさの製品を適宜選択し使用することができる。大豆ミート、大豆パフと言われる商品形態も使用することができる。該組織状植物性蛋白質素材は、製品形態に適した形状に、粉砕して使用しても良い。なお、水戻し済みで流通する製品も存在するが、本発明には乾燥品(水分10質量%以下)を用いることが好ましい。また、豆腐を圧搾することで組織化した大豆素材も、本発明に好適である。本発明には豆類を主原料とする組織状豆類蛋白質素材が好ましく、特に大豆を主原料とする組織状大豆蛋白質素材が好適である。
組織状植物性蛋白質素材中の蛋白質含量は、該素材の乾燥重量中、少なくとも30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは40質量%以上、又は50質量%である。
【0032】
本発明で用いる植物性蛋白質素材として使用できる粉末状植物性蛋白質素材とは、上述の植物性種子原料を粉末化したもので、蛋白質を脱脂後の固形分あたり50質量%以上含むものである。本発明には豆類由来が好ましく、特に大豆由来が好適である。市販の粉末状植物性蛋白質素材を適宜選択して使用することができる。また、粉末状植物性蛋白質素材は、生地中での分散性を高めるために、あらかじめ油脂を添加して粉末化したものも使用することができる。
また、本発明は、エマルションカード等、生地同士のつなぎの機能を付与した水中油型乳化物にも使用することができる。この場合も、大豆を主原料とする粉末状大豆蛋白質素材が好適である。なお、ここでいうエマルションカードとは、少なくとも粉末状植物性蛋白質素材、水、油脂を含有し、均質化した乳化物をさす。
【0033】
本発明に係る加工食品は、動物性素材を含んでも良い。ここでいう動物性素材とは、畜肉または動物性油脂、卵白等が挙げられる。
ここでいう畜肉とは、牛、豚、鶏、馬、羊、鹿、猪、七面鳥、鴨、駝鳥、鯨などの鳥獣肉を指し、これらを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ここでは鳥獣は陸上動物でも水生動物でも良いが、陸上動物が好ましい。また、使用する肉の部位、形状は特に限定されない。畜肉を該加工食品に使用する場合、その使用量は該加工食品中30質量%以下が好ましい。より好ましくは20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、2質量%以下、又は0質量%以下である。畜肉の使用量は、製品に求められる品質やコンセプトに応じて適宜決定すれば良い。本発明の趣旨から、畜肉は使用しない態様が望ましい。
【0034】
(その他原料)
本発明に係る加工食品は、公知の材料や食品添加物を利用することができる。例えば、野菜、澱粉、調味料(塩、胡椒、砂糖、醤油など)、加工澱粉、食物繊維、卵黄、卵白、乳化剤、香辛料、香料、動物性エキス、植物性エキス、トランスグルタミナーゼ、メチルセルロース、その他の公知の添加物などを、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することができる。ミートレスの加工食品或いは動物性原料不使用の加工食品とするならば、植物性の原料を使用する。
【0035】
本発明に係る加工食品は、その加工食品の所定の方法にて調製することができる。具体的には、原材料の混合工程、加熱工程、レトルト殺菌等の加熱・加圧殺菌工程、製品の冷蔵・冷凍等の工程を経て、該加工食品が得られる。また冷蔵・冷凍された商品を飲食店や家庭で再調理することも、所定の方法に含む。
【0036】
該食用油脂の含有方法は、該食用油脂と加工食品に使用する他の原材料と共に混合しても、或いは、該食用油脂と該植物性蛋白質素材とを混合したものを、加工食品に使用する他の原材料と共に混合しても、加工食品の加熱時の歩留まりを改善した該加工食品を得ることができる。また、組織状植物性蛋白質素材を粉砕して使用する場合、組織状植物性蛋白質素材を水戻しした後に該食用油脂を加えてから粉砕しても、本発明の効果を発揮することができる。
【0037】
本発明に係る加工食品とは、動物性素材を配合した畜肉加工食品、動物性素材を使用せずに植物性素材のみを配合した畜肉様加工食品がある。また、動物性素材と植物性素材の両方を使用するものも、畜肉様加工食品として本発明に係る加工食品である。ここでいう動物性素材とは畜肉、動物性油脂、卵白等、動物由来の素材をさし、植物性素材とは植物性蛋白質素材、植物油脂等植物由来の素材をさす。該加工食品の具体例として、ハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ハム、サラミ、ソーゼージ、餃子、焼売、肉まん、小籠包、メンチカツ、コロッケ、フランクフルト、アメリカンドック、ミートパイ、ラビオリ、ラザニア、ミートローフ、ロールキャベツ、ピーマンやレンコンなどの肉詰め等の練り製品、そぼろ、カレー、キーマカレー、ミートソース等の加工食品が挙げられる。ジャーキーやPBF向け焼き肉用スライス肉様等の加工食品も本発明に含まれる。特に、植物性蛋白質素材は畜肉代替用として加工食品に使用されることがあるが、本発明の練り込み油脂はこのような場合において、特に最大限の効果を発揮することができる。これら加工食品は、冷凍品、冷蔵品、乾燥品、レトルト品の形態も含む。以下、実施例により、より詳細に発明の実施態様を説明する。
【0038】
本発明は、加工食品に、以下(A)~(C)を全て満たす食用油脂を配合することによる、加熱調理時における加工食品の歩留まり低下を抑制する方法と捉えることもできる。該油脂の条件、加工食品の製造方法は上述の通りである。
(A)少なくとも1種以上のパーム系油脂を原料に含む、エステル交換油脂を含有する。
(B)10℃でのSFC/30℃でのSFC比率が0.2~15である。
(C)30℃での固体脂含量(SFC)が1~30%である。
【実施例0039】
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0040】
<油脂の分析方法>
各食用油脂の30℃或いは10℃でのSFCは、IUPAC.2 150(a)Solid Content Determination In Fats By NMRの方法に準拠して測定した。すなわち、80℃環境下で30分間各油脂を保持し、60℃環境下で30分間保持して各油脂を完全に融解した後、0℃環境下で60分間保持して固化させた。その後、30℃或いは10℃環境下に30分間保持した後の固体脂含量をNMR(Bruker社製「minispec mq20」)で測定した。また、各食用油脂のパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸はAOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準拠して測定した。
【0041】
<食用油脂の調製>
以下の方法で、食用油脂実施例1~6、食用油脂比較例1~3、食用油脂参考例1を調製した。なお、何れの油脂原料も不二製油株式会社製を使用した。食用油脂実施例1~6、食用油脂比較例1~3、食用油脂参考例1の組成を表1に示した。
【0042】
食用油脂比較例1は菜種油(ヨウ素価:117)を用いた。
【0043】
食用油脂比較例2はパームスーパーオレイン(ヨウ素価:68)を用いた。
【0044】
食用油脂比較例3は、パーム油をアセトンで分別した高融点側の油脂を用いた(ヨウ素価:30)。
【0045】
食用油脂実施例1は、パームオレイン(ヨウ素価:58)をナトリウムメチラートを用いてランダムエステル交換を行い、脱色、脱臭処理を施したものとした。
【0046】
食用油脂実施例2は、食用油脂比較例2の油脂をナトリウムメチラートを用いてランダムエステル交換を行い、脱色、脱臭処理を施したものとした。
【0047】
食用油脂実施例3は、食用油脂比較例1と食用油脂実施例1を90:10の割合で混合したものとした。
【0048】
食用油脂実施例4は、食用油脂比較例1と食用油脂実施例2を60:40の割合で混合したものとした。
【0049】
食用油脂実施例5は、食用油脂比較例1、食用油脂比較例2、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を45:30:25の割合で混合した後、ナトリウムメチラートを用いてランダムエステル交換を行い、脱色、脱臭処理を施したものとした。
【0050】
食用油脂実施例6は、パーム油(ヨウ素価:52)と大豆油(ヨウ素価:131)を85:15の割合で混合した後、ナトリウムメチラートを用いてランダムエステル交換を行い、脱色、脱臭処理を施したものとした。
【0051】
食用油脂参考例1は、パーム系油脂以外の油脂として、パーム核油(ヨウ素価:18)を用いた。
【0052】
【0053】
(検討1)
表2の配合に従い、事前に粉末状大豆蛋白質素材を3倍量の水で撹拌した。また、組織状大豆蛋白質素材を4倍量の水で1時間水戻しした。水戻しした組織状大豆蛋白質素材をケンウッドミキサー(愛工舎製作所社製、攪拌速度140rpm)にて15秒間撹拌して細断した。細断した組織状大豆蛋白質素材と、水とで撹拌した粉末状大豆蛋白質素材とをロボクープにて3分間撹拌し、そこに乾燥卵白を加えて2分間撹拌した。さらに、砂糖、塩等の調味料を加えて0.5分間撹拌し、玉ねぎを加えて0.5分間撹拌した。この生地に、各食用油脂を加えて3分間撹拌し、そこに乾燥パン粉とα化澱粉を加えて0.5分間撹拌した。この生地を1個50gの小判型に成型し、コンベクションオーブンにて180℃で8分間蒸煮した。蒸煮後、ハンバーグを30分間放冷して、粗熱を除去し、ショックフリーザーで冷凍処理して、各食用油脂を配合したハンバーグを得た。
・粉末状大豆蛋白質素材:「サンラバー10」(不二製油株式会社製)
・組織状大豆蛋白質素材:「アペックス650」(不二製油株式会社製)
・乾燥卵白:「乾燥卵白Kタイプ」(キユーピータマゴ株式会社製)
・乾燥パン粉:「W初雪」(富士パン粉工業株式会社製)
・α化澱粉:「パインソフトB」(松谷化学工業株式会社製)
【0054】
(作業性)
作業性として、加工食品の成型時に成型のしやすさを確認した。問題無く成型できたものを○、成型しにくかったものを×とした。
【0055】
(歩留まりの算出方法及び評価方法)
歩留まりは、加熱前後のハンバーグの重量より算出した。すなわち、蒸し加熱後の各ハンバーグの重量を、成型時の各ハンバーグの重量50gで割り、百分率で算出した。なお、各検討群の歩留まりはn=6の平均値とした。
歩留まりの評価方法は、歩留まりが89%以上であれば合格品質に達するとした。
【0056】
(風味の評価方法)
得られたハンバーグを、95℃で6分間湯煎で加熱し、試食に供した。普段から油脂や蛋白質素材を含む加工食品の試作に従事するパネラー5名により、合議にて評価した。評価基準は喫食時の油脂を感じる強度や咀嚼時の油脂の感じる強度とし、その強度が最も強いものを5点、最も弱いものを1点とした。評価が3点以上のものを、製品設計上十分に喫食可能であるとして合格とした。
【0057】
(総合評価)
作業性、歩留まりの評価、風味評価が全て合格基準に達したものを総合評価で合格とした。評価結果を表2に示した。
【0058】
【0059】
(作業性)
作業性については、食用油脂比較例1、2を配合した加工食品において、生地が柔らかすぎて成型しにくかった(比較例1、2)。食用油脂実施例1~6、食用油脂比較例3、食用油脂参考例1をそれぞれ配合した加工食品では、成型性に問題は認められなかった。
【0060】
(歩留まりの評価)
原料にパーム系油脂を含むエステル交換油脂を含有する食用油脂である食用油脂実施例1~6を配合したハンバーグの歩留まりは何れも89%以上であった(実施例1~6)。特に、食用油脂実施例1~4、6を配合したハンバーグの歩留まりが良好であった。食用油脂比較例1、食用油脂実施例2のエステル交換反応前の油脂である食用油脂比較例2を配合したハンバーグの歩留まりも89%以上であった(比較例1、2)一方で、食用油脂比較例3を配合した比較例3では、歩留まりが89%を下回った。食用油脂参考例1を配合した参考例1も歩留まりが89%を下回った。
【0061】
(風味評価)
食用油脂比較例1或いは食用油脂比較例2を配合したハンバーグは、喫食直後及び咀嚼時に感じる油脂の強度が最も弱かった(比較例1、2)。また、食用油脂比較例3を配合したハンバーグも咀嚼時の油脂の感じる強さが弱かった(比較例3)。これに対し、原料にパーム系油脂を含むエステル交換油脂を含有する食用油脂である食用油脂実施例1~6を配合したハンバーグでは、いずれも喫食直後及び咀嚼時に油脂を感じた(実施例1~6)。中でも、食用油脂実施例1、2、5、6を配合したハンバーグ、特に食用油脂実施例1、6を配合したハンバーグで最も強く油脂を感じた。なお、食用油脂参考例1を配合したハンバーグでは喫食直後及び咀嚼時に油脂が感じられたが、その強度は弱かった(参考例1)。
総合評価をすると、原料にパーム系油脂を含むエステル交換油脂を含有する食用油脂を加工食品に配合することで、作業性が良く、加熱時の歩留まりの抑制を改善し、且つ風味の良い加工食品が得られることを確認した。