(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128306
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】脱塩素ポリマーの製造方法及び脱塩素装置
(51)【国際特許分類】
C08F 8/26 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
C08F8/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037226
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】広崎 真司
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AC04P
4J100HA59
4J100HE26
(57)【要約】
【課題】ポリ塩化ビニリデンの脱塩素を効率的に進行することのできる脱塩素ポリマーの製造方法、並びに、脱塩素装置、当該装置を用いた方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得る照射工程を有する、脱塩素ポリマーの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得る照射工程を有する、
脱塩素ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記照射工程は、無溶剤下で行う、
請求項1に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニリデンの平均粒径が、1.0~50mmである、
請求項1に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記照射工程は、電磁波吸収フィラーの共存下で行う、
請求項1に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記照射工程は、塩素吸収剤の共存下で行う、
請求項1に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
【請求項6】
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有し、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るものであり、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するものである、
脱塩素装置。
【請求項7】
前記反応器内の処理条件が、電磁波照射時間、電磁波照射強度、及び反応温度の少なくともいずれかを含む、
請求項6に記載の脱塩素装置。
【請求項8】
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有する脱塩素装置を用いて、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るステップと、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するステップと、を実行する、
方法。
【請求項9】
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有し、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るものであり、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するものである脱塩素装置において、
前記制御部に、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するステップを実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩素ポリマーの製造方法及び脱塩素装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成樹脂のリサイクル方法等については種々の検討がされている。一般的なリサイクル方法の種類としては、廃棄物を原料として再利用するマテリアルリサイクル、廃棄物を化学的に処理して、製品などの化学原料として再利用するケミカルリサイクル、焼却の際に発生する熱エネルギーを回収・利用するサーマルリサイクルが挙げられる。
【0003】
ポリ塩化ビニリデンは酸素と水蒸気の両方に対して優れたバリア製を持つという特性から、保存食 品用の包装フィルムや家庭用ラップなど、日用品に広く利用されている。ポリ塩化ビニリデンの一部はサラン繊維としてマテリアルリサイクルされ、一部は、触媒によって脱塩素を行い、再利用可能な物質にリサイクルすることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ハロゲン含有プラスチック回収物からハロゲン原子を短時間で除去することのできるハロゲン含有プラスチック回収物の処理方法を提供することを目的として、ハロゲン含有プラスチック回収物とアルカリとアルキレングリコールとを含有するアルキレングリコール分散液をマイクロ波照射によって130~150℃に5~35分加熱して、ハロゲン含有プラスチック回収物からハロゲン原子を、エステル系可塑剤を含んだハロゲン含有プラスチック回収物からはハロゲン原子と共にエステル系可塑材を除去することを特徴とするハロゲン含有プラスチック回収物の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、実施例において軟質ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩素方法が示されており、ハロゲン含有プラスチック回収物の対象としてポリ塩化ビニリデンについても例示されている。しかしながら、従来の方法では、ポリ塩化ビニリデンの脱塩素は効率的に進行しなかった。
【0007】
この理由は、ポリ塩化ビニルが-(CH2-CHCl)-という構成単位を有するのに対して、ポリ塩化ビニリデンは-(CH2-CCl2)-という構成単位を有するためと考えられる。つまり、ポリ塩化ビニルの-(CH2-CHCl)-から1つの塩素を引き抜く機構と、ポリ塩化ビニリデンの-(CH2-CCl2)-から1つの塩素を引き抜き、さらに、-(CH2=CCl)-からもう1つの塩素を引き抜く機構が相当程度異なるため、特許文献1に記載の方法では、ポリ塩化ビニリデンの脱塩素は効率的に進行しなかったものと考えられる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ポリ塩化ビニリデンの脱塩素を効率的に進行することのできる脱塩素ポリマーの製造方法、並びに、脱塩素装置、当該装置を用いた方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、ポリ塩化ビニリデンの脱塩素される構造に着目して所定の周波数の電磁波を照射することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得る照射工程を有する、
脱塩素ポリマーの製造方法。
〔2〕
前記照射工程は、無溶剤下で行う、
〔1〕に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
〔3〕
前記ポリ塩化ビニリデンの平均粒径が、1.0~50mmである、
〔1〕又は〔2〕に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
〔4〕
前記照射工程は、電磁波吸収フィラーの共存下で行う、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
〔5〕
前記照射工程は、塩素吸収剤の共存下で行う、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の脱塩素ポリマーの製造方法。
〔6〕
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有し、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るものであり、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するものである、
脱塩素装置。
〔7〕
前記反応器内の処理条件が、電磁波照射時間、電磁波照射強度、及び反応温度の少なくともいずれかを含む、
〔6〕に記載の脱塩素装置。
〔8〕
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有する脱塩素装置を用いて、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るステップと、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するステップと、を実行する、
方法。
〔9〕
電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有し、
前記反応器が、前記電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るものであり、
前記制御部が、前記脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するものである脱塩素装置において、
前記制御部に、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、前記反応器内の処理条件を制御するステップを実行させる、
プログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリ塩化ビニリデンの脱塩素を効率的に進行することのできる脱塩素ポリマーの製造方法、並びに、脱塩素装置、当該装置を用いた方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
1.脱塩素ポリマーの製造方法
本実施形態の脱塩素ポリマーの製造方法は、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得る照射工程を有し、必要において加熱工程を有してもよい。以下、各工程について詳説する。
【0015】
1.1.熱処理工程
本実施形態の脱塩素ポリマーの製造方法は、照射工程の前に熱処理工程を有してもよい。熱処理工程を有することにより、照射工程の反応効率がより向上する傾向にある。熱処理工程の温度は、好ましくは、100~200℃であり、110~170℃であり、120~140℃である。また、熱処理工程の処理時間は、好ましくは、1時間~20日であり、6時間~15日であり、12時間~10日である。
【0016】
1.2.照射工程
照射工程は、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得る工程である。上記照射工程を経ることにより、ポリ塩化ビニリデンから脱塩素ポリマーを得ることができる。
【0017】
結合を切るためには、その結合が関与する分子振動に一定以上のエネルギーを与えることが考えられる。従来の加熱によるアプローチではあらゆる分子振動モードにエネルギーが分配され、目的とする結合以外にも作用するため、切断の選択制がなく、また非効率でもある。そこで、分子振動の共鳴域である赤外域の電磁波を照射することで、目的とする結合の分子振動を選択的に励起することで、目的とする切断反応を誘起することが考えられる。
【0018】
本実施形態においては、上記照射工程において、ポリ塩化ビニリデンに対して周波数500~1200Hzの電磁波を照射することで、2つの塩素原子が炭素原子に結合した構造を有する塩化ビニリデン繰り返し単位から、1つ目の脱塩素が促進されると想定される。また、ポリ塩化ビニリデンに対して周波数1300~2000Hzの電磁波を照射することで、1つの塩素原子が炭素原子に結合した構造を有する塩化ビニリデン繰り返し単位から、2つ目の脱塩素が促進されると想定される。しかしながら、脱塩素ポリマーが得られ理由は上記に限定されない。
【0019】
周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波の照射は、同時に行ってもよいし、交互に複数回照射してもよいし、周波数500~1200Hzの電磁波の照射を行った後に周波数1300~2000Hzの電磁波の照射を行ってもよい。
【0020】
照射工程は、無溶剤下で行うことが好ましい。上記赤外域の電磁波により分子振動を選択的に励起することができるが、溶媒下では振動緩和の影響により、実際に目的とした切断が進行しないことがある。したがって、無溶剤下で行うことにより反応をより好適に進行することができる。
【0021】
さらに、上記反応自体が溶剤の共存を必要とするものではなく、また、電磁波の照射が可能であれば溶剤の供給や攪拌、溶剤と共に使用する脱塩素触媒、溶剤とポリマーとの分離などの等を使用する装置機構も不要となる。そのため、全体的に脱塩素装置を小型化することもできる。
【0022】
ポリ塩化ビニリデンの平均粒径は、好ましくは、1.0~50mmであり、5.0~40mmであり、10~30mmである。ポリ塩化ビニリデンの平均粒径が上記範囲内であることにより、電磁波がポリ塩化ビニリデン塊の奥に浸透しやすくなり、反応効率がより向上する傾向にある。
【0023】
照射工程は、電磁波吸収フィラーの共存下で行うことが好ましい。電磁波吸収フィラーを使用することで、より効率的に電磁波をポリ塩化ビニリデンに対して作用させることが可能となるため、反応効率がより向上する傾向にある。
【0024】
照射工程は、塩素吸収剤の共存下で行うことが好ましい。脱塩素反応により生じ得る塩酸等は脱塩素装置をアタックし、装置の構成部材を劣化させる恐れがある。そのため、系内に塩素吸収剤を共存することで、脱塩素装置の劣化を抑制することができる。
【0025】
照射工程は、常温下で行っても加熱下で行ってもよい。また、積極的な加熱を行わなくとも、反応熱や混練のシェア熱により、系内の温度が上昇していてもよい。照射工程における系内温度は、好ましくは、30~120℃であり、50~100℃であり、70~80℃である。
【0026】
2.脱塩素装置
図1に、本実施形態の脱塩素装置の概略図を示す。本実施形態の脱塩素装置100は、
図1に示すように、電磁波照射部110を備える反応器120と、制御部130と、を有し、必要に応じて、攪拌装置140や温度制御装置150を有してもよい。
【0027】
電磁波照射部110を用いて、反応器120のポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射する。これにより、脱塩素ポリマーを得る。また、この際に、攪拌装置140により系内を攪拌してもよいし、温度制御装置150により系内の温度を制御してもよい。
【0028】
制御部130は、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、反応器内の処理条件を制御する。反応器内の処理条件は、電磁波照射時間、電磁波照射強度、及び反応温度の少なくともいずれかを含んでもよい。制御部130による制御は、特に限定されないが、例えば、脱塩素ポリマーの脱塩素量に応じて、反応器内の電磁波照射時間、電磁波照射強度、及び反応温度の少なくともいずれかを、より脱塩素量を向上するようにフィードバック制御するものであってもよい。
【0029】
3.方法
本実施形態の方法は、電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有する脱塩素装置を用いて、反応器が、電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るステップと、制御部が、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、反応器内の処理条件を制御するステップと、を実行する。
【0030】
なお、本実施形態の方法の具体的態様については、上記脱塩素ポリマーの製造方法と脱塩素装置で述べているため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0031】
4.プログラム
本実施形態のプログラムは、電磁波照射部を備える反応器と、制御部と、を有し、反応器が、電磁波照射部を用いて、ポリ塩化ビニリデンに対して、周波数500~1200Hzと周波数1300~2000Hzの電磁波を照射し、脱塩素ポリマーを得るものであり、制御部が、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、反応器内の処理条件を制御するものである脱塩素装置において、制御部に、脱塩素ポリマーに関する情報に基づいて、反応器内の処理条件を制御するステップを実行させる。
【0032】
プログラムは、読み取り可能な記録媒体に記録された物であってもよい。例えば、プログラムは、脱塩素装置が備えるコンピュータのストレージに記録されてもよく、それによって制御部としての機能部を構成してもよい。なお、本実施形態のプログラムが実行する処理の具体的態様については、上記脱塩素ポリマーの製造方法と脱塩素装置で述べているため、ここでは詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0033】
100 脱塩素装置
110 電磁波照射部
120 反応器
130 制御部
140 攪拌装置
150 温度制御装置