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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128346
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】エルミートガウスパルス光源
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
G02F1/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037273
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真人
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA01
2K102BA16
2K102BA21
2K102BB01
2K102BB03
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102BD09
2K102CA00
2K102CA11
2K102DA04
2K102DB02
2K102DB04
2K102DD02
2K102DD05
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】高出力で高品質なエルミートガウスパルスをレーザで直接生成することができるエルミートガウスパルス光源を提供する。
【解決手段】レーザ共振器内に、振幅特性と位相特性を任意に設定可能な光フィルタを挿入し、出力したい光パルスの形状に応じて光フィルタの振幅・位相特性ならびに光変調器の変調度を設定することにより、任意の次数のエルミートガウスパルスを発生する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ共振器内に光位相変調器、光増幅器、光フィルタを備えるFMモード同期レーザにおいて、
前記光フィルタはその振幅および位相特性が可変であり、
出力したい次数のエルミートガウス関数に応じて前記光フィルタの振幅および位相特性を設定することにより、任意の次数のエルミートガウスパルスを発生することを
特徴とするエルミートガウスパルス光源。
【請求項2】
前記光位相変調器において、変調器を繰り返し角周波数Ωmの正弦波で駆動し、
前記光フィルタにおいて、その振幅および位相特性が、前記光位相変調器の変調度、および出力したい前記エルミートガウスパルスのスペクトルA(ω)、ならびにA(ω)をΩmの整数倍だけ正負にシフトした関数A(ω-nΩm)、A(ω+nΩm)(n:整数)から成ることを
特徴とする請求項1記載のエルミートガウスパルス光源。
【請求項3】
前記光位相変調器において、前記変調度は、前記繰り返し角周波数Ωmおよび出力したいパルス幅に対し、前記エルミートガウスパルスの次数に基づいて設定することを特徴とする請求項2記載のエルミートガウスパルス光源。
【請求項4】
前記光位相変調器は、前記パルス幅と、前記変調度との関係で安定な発振の得られる条件の安定領域を決定した2次元マップを有し、前記光位相変調器は、前記2次元マップの安定領域に基づいて前記変調度が設定されることを特徴とする請求項3記載のエルミートガウスパルス光源。
【請求項5】
前記光フィルタにおいて、その振幅および位相をCW(Continuous Wave:連続波)オフセット量に応じた特性に設定することにより、所望のCWオフセットを有するダークおよびブライトエルミートガウスパルスを発生することを特徴とする請求項1記載のエルミートガウスパルス光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルスの振幅がエルミートガウス関数で与えられるエルミートガウスパルスを発生可能なエルミートガウスパルス光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超短光パルス光源は、光通信、光標準・計測、光信号処理などの幅広い用途に用いられている。中でも強制(能動)モード同期レーザは、ピコ~サブピコ秒の光パルスを数十GHz程度の高い繰り返し周波数で生成することが出来ることから、超高速光通信・計測用光源として特に有用である。
【0003】
モード同期レーザから発生するパルス形状は、一般にガウス関数となることが知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。ガウス関数は、式(1)で与えられる。ここで、Aは振幅、Tはパルス幅(1/e幅)を表す。
【数1】
【0004】
ガウス関数は、エルミートガウス関数と呼ばれる関数の中で最も次数の低い関数として知られている。一般にm次のエルミートガウス関数aHGm(t)は、式(2)で与えられる。Tはパルス幅を表すパラメータである。ここで、Hm(t)はエルミート関数と呼ばれる関数であり、mが偶数次の場合は式(3)、mが奇数次の場合は式(4)で定義される。
【0005】
【数2】
【0006】
具体的にm=0~6の場合は、式(5-1)~式(5-7)となる。
【数3】
【0007】
また、エルミートガウス関数のフーリエ変換AHGm(ω)は、式(6)で与えられる。
【数4】
【0008】
具体的にm=0~6の場合は、式(7-1)~式(7-7)となる。
【数5】
【0009】
図1にm = 0~2の場合、図2にm = 3~5の場合のaHGm(t)および AHGm(ω)の形状を示す。これらの図に示すように、時間波形は、mが奇数のときは奇関数、偶数のときは偶関数となっている。スペクトルは、時間波形と同じ形状を有しており、次数の増大とともに符号が反転し且つ実部と虚部とが入れ替わっている。具体的には、mが奇数のときは虚部のみを有する奇関数、偶数のときは実部のみを有する偶関数となっている。
【0010】
エルミートガウス関数は、量子力学における調和振動子に対するシュレディンガー方程式の高次固有解や、光共振器における高次ビームの固有解(エルミートガウスビーム)等、科学、工学の分野で広く知られた関数である。また、式(7-1)~(7-7)で示したように、フーリエ変換しても図1、2に示すように、同じ次数の時間軸、周波数軸での形が変わらない(点対称、又は、線対称すれば、同じ形になる)ことや、次数の異なるエルミートガウス関数の間で直交関係を有すること、すなわち式(8)を満たすなど、興味深い性質を有している。もしこのようなエルミートガウス関数をパルス形状として有する光パルス(以下、エルミートガウスパルスと呼ぶ)を発生することが出来れば、これらの特徴を活かした新たな通信・計測・信号処理技術を創出できるものと期待される。
【0011】
【数6】
【0012】
エルミートガウスパルスを発生するには、モード同期レーザの外部で波形を整形する手法が用いられる。具体的には、レーザから直接出力されるガウスパルスの波形をu(t)とすると、m次のエルミートガウスパルスaHGm(t)を出力するには、伝達関数がF(ω)=AHGm(ω)/U(ω)で与えられる光フィルタをレーザの外部に挿入し整形すればよい。ここで、U(ω)およびAHGm(ω)は、それぞれu(t)およびaHGm(t)のスペクトルである。このような伝達関数は、LCoS(Liquid Crystal on Silicon)素子を用いて容易に実現することができる(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】D. Kuizenga and A. Siegman, “FM and AM mode locking of the homogeneous laser - Part I: Theory”, IEEE J. Quantum Electron., November 1970, vol. 6, no. 11, pp. 694-708
【非特許文献2】H. A. Haus, “A theory of forced mode locking”, IEEE J. Quantum Electron., July 1975, vol. QE-11, no. 7, pp. 323-330
【非特許文献3】G. Baxter, S. Frisken, D. Abakoumov, H. Zhou, I. Clarke, A. Bartos, and S. Poole, “Highly programmable wavelength selective switch based on liquid crystal on silicon switching elements”, in OFC 2006, OTuF2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、非特許文献3に記載のような波形整形法は、光フィルタの挿入損失およびスペクトル形状の整形による損失が不可避である。そのため、これらの光損失を光増幅器で補う必要があり、その結果、パルスに自然放出光雑音が重畳され、光信号対雑音比(OSNR: Optical Signal to Noise Ratio)が劣化してしまう問題があった。即ち、従来の波形整形法では、高出力且つOSNRの高い、高品質なエルミートガウスパルスを生成することが困難であった。
【0015】
また、これまで、m≧1以上の次数のエルミートガウスパルスをレーザで直接出力するのは難しいとされ、そのようなものは存在していない。
【0016】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、高出力で高品質なエルミートガウスパルスをレーザで直接生成することができるエルミートガウスパルス光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる目的を達成するために、本発明に係るエルミートガウスパルス光源は、レーザ共振器内に光位相変調器(周波数変調器)、光増幅器、光フィルタを備えるFMモード同期レーザであって、光フィルタはその振幅および位相特性が可変であり、出力したい次数のエルミートガウス関数に応じて光フィルタの振幅および位相特性を設定することにより、任意の次数のエルミートガウスパルスを発生することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るエルミートガウスパルス光源において、光位相変調器は繰り返し角周波数Ωmの正弦波で駆動し、光フィルタの振幅および位相特性は、光位相変調器の変調度、および出力したいm次のエルミートガウスパルスのスペクトルAHGm(ω)、ならびにAHGm(ω)を繰り返し角周波数Ωmの整数倍だけ正負にシフトした関数AHGm(ω-nΩm)、AHGm(ω+nΩm)(n:整数)を用いて与えられることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るエルミートガウスパルス光源において、光位相変調器の変調度MPMは、繰り返し角周波数Ωmおよび出力したいパルス幅Tに対して適切な値に設定することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るエルミートガウスパルス光源において、振幅にオフセットを与えることによりダークパルスおよびブライトパルスを発生することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るエルミートガウスパルス光源は、モード同期レーザの共振器内に挿入した光フィルタの振幅・位相特性に応じて任意の次数のエルミートガウスパルス列を高いOSNRで発生することができる。従って、本発明により、高出力で高品質なエルミートガウスパルスをレーザで直接生成することができるエルミートガウスパルス光源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】エルミートガウスパルスの(a-1)m=0次の時間波形aHGm(t)、(a-2)m=0次の周波数スペクトルAHGm (ω)、(b-1)m=1次の時間波形aHGm(t)、(b-2)m=1次の周波数スペクトルAHGm (ω)、(c-1)m=2次の時間波形aHGm(t)、(c-2)m=2次の周波数スペクトルAHGm (ω)である。
図2】エルミートガウスパルスの(a-1)m=3次の時間波形aHGm(t)、(a-2)m=3次の周波数スペクトルAHGm (ω)、(b-1)m=4次の時間波形aHGm(t)、(b-2)m=4次の周波数スペクトルAHGm (ω)、(c-1)m=5次の時間波形aHGm(t)、(c-2)m=5次の周波数スペクトルAHGm (ω)である。
図3】本発明の実施形態におけるエルミートガウスパルス光源の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第1の実施形態における1次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の(a)絶対値、(b)位相である。
図5図4に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルス(1次エルミートガウスパルス)の波形の(a)絶対値、(b)位相、(c)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(d)そのスペクトルである。
図6】本発明の第1の実施形態において、安定な1次エルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図7】本発明の第2の実施形態において、安定な2次エルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図8】本発明の第2の実施形態における2次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の(a)絶対値、(b)位相である。
図9図8に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルス(2次エルミートガウスパルス)の波形の(a)絶対値、(b)位相、(c)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(d)そのスペクトルである。
図10】本発明の第3の実施形態において、安定な3次エルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図11】本発明の第3の実施形態における3次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の(a)絶対値、(b)位相である。
図12図11に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルス(3次エルミートガウスパルス)の波形の(a)絶対値、(b)位相、(c)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(d)そのスペクトルである。
図13】本発明の第4の実施形態において、安定な5次エルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図14】本発明の第4の実施形態における5次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の(a)絶対値、(b)位相である。
図15図14に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルス(5次エルミートガウスパルス)の波形の(a)絶対値、(b)位相、(c)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(d)そのスペクトルである。
図16】本発明の第5の実施形態において、安定な10次エルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図17】本発明の第5の実施形態における10次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の(a)絶対値、(b)位相である。
図18図17に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルス(10次エルミートガウスパルス)の波形の(a)絶対値、(b)位相、(c)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(d)そのスペクトルである。
図19】本発明の第6の実施形態において、安定な1次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図20】本発明の第6の実施形態における(a)1次ブライトエルミートガウスパルス、(b)1次ダークエルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の絶対値である。
図21図20に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルスの(a)1次ブライトエルミートガウスパルスの波形、(b)1次ダークエルミートガウスパルスの波形、および、(c)1次ブライトエルミートガウスパルスの光スペクトル、(d)1次ダークエルミートガウスパルスの光スペクトルである。
図22図21において(a)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(b)パワースペクトルである。
図23】本発明の第6の実施形態において、安定な2次ブライトエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図24】本発明の第6の実施形態において、安定な2次ダークエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図25】本発明の第6の実施形態における(a)2次ブライトエルミートガウスパルス、(b)2次ダークエルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の絶対値である。
図26図25に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルスの(a)2次ブライトエルミートガウスパルスの波形、(b)2次ダークエルミートガウスパルスの波形、および、(c)2次ブライトエルミートガウスパルスの光スペクトル、(d)2次ダークエルミートガウスパルスの光スペクトルである。
図27図26において(a)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(b)パワースペクトルである。
図28】本発明の第6の実施形態において、安定な3次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図29】本発明の第6の実施形態における(a)3次ブライトエルミートガウスパルス、(b)3次ダークエルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の絶対値である。
図30図29に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルスの(a)3次ブライトエルミートガウスパルスの波形、(b)3次ダークエルミートガウスパルスの波形、および、(c)3次ブライトエルミートガウスパルスの光スペクトル、(d)3次ダークエルミートガウスパルスの光スペクトルである。
図31図30において(a)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(b)パワースペクトルである。
図32】本発明の第6の実施形態において、安定な4次ブライトエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図33】本発明の第6の実施形態において、安定な4次ダークエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図34】本発明の第6の実施形態における(a)4次ブライトエルミートガウスパルス、(b)4次ダークエルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の絶対値である。
図35図34に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルスの(a)4次ブライトエルミートガウスパルスの波形、(b)4次ダークエルミートガウスパルスの波形、および、(c)4次ブライトエルミートガウスパルスの光スペクトル、(d)4次ダークエルミートガウスパルスの光スペクトルである。
図36図35において(a)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(b)パワースペクトルである。
図37】本発明の第6の実施形態において、安定な5次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスが得られる条件を示すT-Mマップである。
図38】本発明の第6の実施形態における(a)5次ブライトエルミートガウスパルス、(b)5次ダークエルミートガウスパルス発生用の光フィルタの形状の絶対値である。
図39図38に示す光フィルタを用いて計算機解析により求めた定常パルスの(a)5次ブライトエルミートガウスパルスの波形、(b)5次ダークエルミートガウスパルスの波形、および、(c)5次ブライトエルミートガウスパルスの光スペクトル、(d)5次ダークエルミートガウスパルスの光スペクトルである。
図40図39において(a)種光であるASE雑音からの立ち上がりの様子、および(b)パワースペクトルである。
図41】本発明の実施形態におけるエルミートガウスパルス光源の、実験に用いた波長1.55μm帯高調波FMモード同期エルビウムファイバレーザを示す構成図である。
図42】本発明の第1の実施形態における、LCoS素子で実装した1次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図43図42の光フィルタを用いて得られた1次エルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図44】本発明の第2の実施形態における、LCoS素子で実装した2次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図45図44の光フィルタを用いて得られた2次エルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図46】本発明の第3の実施形態における、LCoS素子で実装した3次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図47図46の光フィルタを用いて得られた3次エルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図48】本発明の第4の実施形態における、LCoS素子で実装した5次エルミートガウスパルス発生用の光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図49図48の光フィルタを用いて得られた5次エルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図50】本発明の第5の実施形態に関し、LCoS素子で実装した7次エルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図51図50の光フィルタを用いて得られた7次エルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図52】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した1次ダークエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図53図52の光フィルタを用いて得られた1次ダークエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図54】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した1次ブライトエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図55図55の光フィルタを用いて得られた1次ブライトエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図56】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した2次ダークエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図57図56の光フィルタを用いて得られた2次ダークエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図58】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した2次ブライトエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図59図58の光フィルタを用いて得られた2次ブライトエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図60】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した3次ダークエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図61図60の光フィルタを用いて得られた3次ダークエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
図62】本発明の第6の実施形態における、LCoS素子で実装した3次ブライトエルミートガウスパルス発生に用いる光フィルタの(a)振幅特性、および(b)位相特性である。
図63図62の光フィルタを用いて得られた3次ブライトエルミートガウスパルスの波形の(a)強度波形、(b) (a)の平方根をとり振幅に換算した波形、および、光スペクトルの(c)線形表示、(d)dB表示である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態におけるエルミートガウスパルス光源の構成を図3に示す。本光源はFMモード同期レーザをもとにしており、レーザを構成するリング共振器は、光ファイバ1、利得媒質として用いる光増幅器2、モードロッカとして用いる光位相変調器3、および振幅・位相特性を任意に設定可能な光フィルタ4を備える。光増幅器2には、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA: Erbium-Doped Fiber Amplifier)、半導体光増幅器(SOA: Semiconductor Optical Amplifier)、固体レーザ素子等を用いる。光位相変調器3には、LN (LiNbO3)結晶を用いたMach-Zehnder変調器等を用い、外部から周波数fm(角周波数Ωm = 2πfm)、変調度MPMの正弦波MPM cos(Ωmt)で駆動する。光フィルタ4には、LCoS等で構成されるプログラマブル光フィルタを用いる。光フィルタ4は振幅(透過)特性だけでなく位相特性も制御できることが望ましい。
【0024】
本発明者らは、従来の手法のように、非特許文献3のような単にエルミートガウスパルスのスペクトルAHGm(ω)を光フィルタ4に用いたとしても、エルミートガウスパルス光源が得られない原因を探ったところ、光位相変調器3の位相変調との関係が重要であるという知見を得た。その結果、以下に詳述するように、光フィルタ4で、位相特性も制御することで、エルミートガウスパルス光源をレーザ等で直接生成することを見出した。
【0025】
光フィルタ4の伝達関数は、本レーザの動作特性に基づき、以下のように設計する。共振器の損失をL、利得をGとし、光フィルタ4の伝達関数をFHGm(ω)とする。共振器を周回する光の電界振幅をaHGm(t)、そのスペクトルをAHGm(ω)とすると、定常状態ではAHGm(ω)は以下の方程式(9)を満たす。ここで、Φ[exp(iMPM cosΩmt)aHGm(t)]は信号aHGm(t)が光位相変調器3で位相変調された後の信号exp(iMPM cosΩmt)aHGm(t)のスペクトルを表している。Φ[exp(iMPM cosΩmt)]はaHGm(t)のスペクトルAHGm(ω)を用いて、式(10)で表される。ここで、Jn(x)はn次の第1種ベッセル関数であり、公式として式(11)を用いている。
【0026】
【数7】
【0027】
その結果、式(9)は、式(12)で表される。GL = 1とおき、式(12)をFHGm(ω)について解くと、式(13)が得られる。従って、FMモード同期レーザを用いて所望の次数のエルミートガウスパルスaHGm(t)を発生させたい場合、光フィルタ4の伝達関数FHGm(ω)は式(13)のように設計すればよい。式(13)は、ベッセル関数Jn(x)を含むことで、光位相変調器3での位相変調を反映することができている。
【0028】
【数8】
【0029】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態ではm=1次のエルミートガウスパルスを発生することが出来る。1次のエルミートガウスパルスの波形aHG1(t)およびスペクトルAHG1(ω)は、式(14)および式(15)で与えられる。このパルスを生成するための光フィルタ4の形状は、式(15)を式(13)に代入し、式(16)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、1次のエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0030】
【数9】
【0031】
本実施形態に用いる光フィルタ4の伝達関数FHG1(ω)の形状の一例を、図4に示す。ここで、パルス幅T = 10 ps、変調角周波数Ωm = 2π×10 GHz、変調指数MPM = 2.4としている。同図の黒い点は、光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。FHG1(ω)は複素関数で与えられ、図4(a)はその絶対値|FHG1(ω)|を、図4(b)は位相arg(FHG1(ω))を示している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図5に示す。図5(a)は定常パルスの波形(振幅の絶対値|aHG1(t)|)、図5(b)はその位相arg(a HG1(t))、図5(c)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図5(d)は定常パルスのスペクトルを縦モードで、1次エルミートガウスパルスの理想的なスペクトル形状(式(15)のAHG1(ω))を包絡線で示している。図5(b)において定常パルスの位相はt = 0を境にπ反転し、t < 0、t > 0のそれぞれでほぼ一定であり、チャープのない(位相が変化しない)1次エルミートガウスパルスが出力できることが判る。通常FMモード同期で得られるパルスにはチャープが不可避であるが、本発明ではチャープのないフーリエ限界(TL: Transform limited)のパルスが得られる点も特徴である。これは、光位相変調器で生じるチャープが、光フィルタFHG1(ω)の位相特性によって共振器内で相殺されているためである。
【0032】
本実施形態で安定なパルスを生成するには、発生させたいパルス幅Tに応じて変調指数MPMを適切に設定する必要がある。即ち、式(9)は定常状態でのパルス発振を表しているのに対し、実際のレーザでは自然放出光(ASE: Amplified Spontaneous Emission)雑音が種光となって発振が開始するため、TとMPMの組み合わせによっては雑音が成長してしまい、発振が不安定となってしまう。図6に、繰り返し周波数10 GHzで安定な1次エルミートガウスパルスが生成可能なTとMPMの組み合わせ(以下これをT-Mマップと呼ぶ)を示す。色を塗った領域が安定な発振の得られる条件を表しており、それ以外の領域では発振が不安定であることを示している。同図より、MPM<3のときは5 ps<T<15 psで、3<MPM<6のときは5 ps <T<7 psで、安定なパルスが得られていることがわかる。図4で用いた条件(MPM =2.4、T= 10 ps)もT-Mマップの安定領域に含まれている。
【0033】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態ではm=2次のエルミートガウスパルスを発生することが出来る。2次のエルミートガウスパルスの波形aHG2(t)およびスペクトルAHG2(ω)は、式(17)および式(18)で与えられる。このパルスを生成するための光フィルタ4の形状は、式(18)を式(13)に代入し、式(19)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、2次のエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0034】
【数10】
【0035】
本実施形態において、繰り返し周波数10 GHzで安定な2次エルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを、図7に示す。同図より、T = 10 ps近傍において広い範囲のMPMで安定なパルスが得られていることがわかる。本実施形態に用いる光フィルタ4の伝達関数FHG2(ω)の形状の一例を、図8に示す。ここで、図7のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 10 ps、変調角周波数Ωm = 2π× 10 GHz、変調指数MPM = 1.0としている。同図の黒い点は光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。FHG2(ω)は複素関数で与えられ、図8(a)はその絶対値|FHG2(ω)|を、図8(b)は位相arg(FHG2(ω))を示している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図9に示す。図9(a)は定常パルスの波形(振幅の絶対値|aHG2(t)|)、図9(b)はその位相arg(aHG2(t))、図9(c)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図9(d)は定常パルスのスペクトルを縦モードで、2次エルミートガウスパルスの理想的なスペクトル形状(式(18)のAHG2(ω))を包絡線で示している。得られた波形は理想的な形状aHG2(t)、AHG2(ω)によく一致している。
【0036】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態ではm=3次のエルミートガウスパルスを発生することが出来る。3次のエルミートガウスパルスの波形aHG3(t)およびスペクトルAHG3(ω)は、式(20)および式(21)で与えられる。このパルスを生成するための光フィルタ4の形状は、式(21)を式(13)に代入し、式(22)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、3次のエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0037】
【数11】
【0038】
本実施形態において、繰り返し周波数10 GHzで安定な3次エルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを、図10に示す。同図より、T = 9 ps近傍において広い範囲のMPMで安定なパルスが得られていることがわかる。本実施形態に用いる光フィルタ4の伝達関数FHG3(ω)の形状の一例を、図11に示す。ここで、図10のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 9.5 ps、変調角周波数Ωm = 2π× 10 GHz、変調指数MPM = 2.4としている。同図の黒い点は光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。FHG3(ω)は複素関数で与えられ、図11(a)はその絶対値|FHG3(ω)|を、図11(b)は位相arg(FHG3(ω))を示している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図12に示す。図12(a)は定常パルスの波形(振幅の絶対値|aHG3(t)|)、図12(b)はその位相arg(aHG3(t))、図12(c)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図12(d)は定常パルスのスペクトルを縦モードで、3次エルミートガウスパルスの理想的なスペクトル形状(式(21)のAHG3(ω))を包絡線で示している。得られた波形は理想的な形状aHG3(t)、AHG3(ω)によく一致している。
【0039】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態ではm=5次のエルミートガウスパルスを発生することが出来る。5次のエルミートガウスパルスの波形aHG5(t)およびスペクトルAHG5(ω)は、式(23)および式(24)で与えられる。このパルスを生成するための光フィルタ4の形状は、式(24)を式(13)に代入し、式(25)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、5次のエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0040】
【数12】
【0041】
本実施形態において、繰り返し周波数10 GHzで安定な5次エルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを、図13に示す。同図より、T = 5 ps近傍において安定なパルスが得られていることがわかる。なお、低次のエルミートガウスパルスに比べて、次数が高くなるほど安定領域が狭くなっていることが、これらのT-Mマップよりわかる。本実施形態に用いる光フィルタ4の伝達関数FHG5(ω)の形状の一例を、図14に示す。ここで、図13のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 4.8 ps、変調角周波数Ωm = 2π× 10 GHz、変調指数MPM = 2.4としている。同図の黒い点は光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。FHG5(ω)は複素関数で与えられ、図14(a)はその絶対値|FHG5(ω)|を、図14(b)は位相arg(FHG5(ω))を示している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図15に示す。図15(a)は定常パルスの波形(振幅の絶対値|aHG5(t)|)、図15(b)はその位相arg(aHG5(t))、図15(c)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図15(d)は定常パルスのスペクトルを縦モードで、5次エルミートガウスパルスの理想的なスペクトル形状(式(24)のAHG5(ω))を包絡線で示している。得られた波形は理想的な形状aHG5(t)、AHG5(ω)によく一致している。
【0042】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態ではm=10次のエルミートガウスパルスを発生することが出来る。10次のエルミートガウスパルスの波形aHG10(t)およびスペクトルAHG10(ω)は、式(26)および式(27)で与えられる。このパルスを生成するための光フィルタ4の形状は、式(27)を式(13)に代入し、式(28)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、10次のエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0043】
【数13】
【0044】
本実施形態において、繰り返し周波数10 GHzで安定な10次エルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを、図16に示す。同図より、T = 5 ps近傍において安定なパルスが得られるものの、低次のエルミートガウスパルスに比べて、安定領域がより狭いことがT-Mマップよりわかる。本実施形態に用いる光フィルタ4の伝達関数FHG10(ω)の形状の一例を、図17に示す。ここで、図16のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 5.0 ps、変調角周波数Ωm = 2π× 10 GHz、変調指数MPM = 2.0としている。同図の黒い点は光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。FHG10(ω)は複素関数で与えられ、図17(a)はその絶対値|FHG10(ω)|を、図17(b)は位相arg(FHG10(ω))を示している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図18に示す。図18(a)は定常パルスの波形(振幅の絶対値|aHG10(t)|)、図18(b)はその位相arg(aHG10(t))、図18(c)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図18(d)は定常パルスのスペクトルを縦モードで、10次エルミートガウスパルスの理想的なスペクトル形状(式(27)のAHG10(ω))を包絡線で示している。得られた波形は理想的な形状aHG10(t)、AHG10(ω)によく一致している。
【0045】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態では、形状がエルミートガウス関数で与えられるブライトおよびダークパルスを発生することが出来る。ダークパルスは、連続波(CW(continuous wave))光の一部がある形状で削り取られたパルスである。一方、ブライトパルスは、ダークパルスとは対照的に、凸の光パルス等にCWのオフセットが重畳されたものもの等がある。
【0046】
エルミートガウスパルスを含め通常のパルスは、その裾野が両端でゼロに収束している。すなわち、ゼロレベルにある裾野からパルスが立ち上がり、ピークを超えるとゼロレベルにある裾野に向かって収束している。一方、ブライトパルスは、その裾野がゼロ以外の有限のレベルに収束しているパルスである。すなわち、ある一定レベルの裾野からパルスが立ち上がり、ピークを超えると一定レベルにある裾野に向かって収束している。また、ダークパルスは通常のパルスが反転した形状を有し、元のパルスで極大値であった振幅が極小値に反転しているパルスである。以下では、ブライトパルス、ダークパルスを特徴づけるパラメータとしてγを導入する。γとは裾野レベルのオフセットを表す規格化振幅値であり、ブライトパルスやダークパルスの深さを表す指標である。以降では、γ=1に固定する。このときダークパルスの極小値は0となる。
【0047】
m次のエルミートガウスパルスの波形をaHGm(t)、スペクトルをAHGm(ω)とおくと、オフセット振幅がγのブライトエルミートガウスパルスの波形とスペクトルは、式(29)および式(30)で与えられる。ここで、Rτ(t)は振幅が1、パルス幅がτの矩形パルスであり、これがパルス1周期分(すなわち時間幅τ)の振幅オフセットに対応している。同様に、ダークエルミートガウスパルスの波形とスペクトルは、式(31)および式(32)で与えられる。
【0048】
【数14】
【0049】
その結果、m次のブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するための光フィルタ4の伝達関数は、式(30)、(32)を式(13)に代入し、それぞれ式(33)および式(34)で与えられる。この光フィルタを共振器内に挿入することにより、ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成することが出来る。
【0050】
【数15】
【0051】
本実施形態において、繰り返し周波数10 GHzで安定な1次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを、図19に示す。1次エルミートガウスパルスは奇関数であり、ブライトパルスとダークパルスは左右対称の関係にあるため、両者のT-Mマップは等しい。以下に示すm=3、5の場合も同様である。同図より、MPM = 2.4付近を境に安定領域が2つ存在することがわかる。これは、MPM = 2.4では0次ベッセル関数がJ0(MPM)=0となり、FM変調によってDC成分が0となるため、ブライトおよびダークパルスの生成に必要なDCオフセットを生成できないためである。1次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスに用いる光フィルタ4の伝達関数FHG1 pb(ω)およびFHG1 pd(ω)の形状の一例を、図20に示す。ここで、図19のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 5.0 ps、変調角周波数Ωm = 2π× 10 GHz、変調指数MPM = 2.0としている。同図の黒い点は光スペクトルの縦モード(10 GHz間隔)が存在する周波数を表している。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図21に示す。図21(a)、(b)は定常パルスの波形(振幅aHG1 pb(t)およびaHG1 pd(t)ならびにそれらの位相)、図21(c)、(d)はそれらのスペクトル(AHG1 pb(ω)およびAHG1 pd(ω))を示している。図22(a)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図22(b)は定常パルスのパワースペクトルを縦モードで、理想的なスペクトル形状を包絡線で示している。得られた波形およびスペクトルは理想的な形状によく一致している。
【0052】
次に、2次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを図23および図24に、光フィルタ4の伝達関数FHG2 pb(ω)およびFHG2 pd(ω)の形状の一例を図25(a)、(b)にそれぞれ示す。ブライトパルスは図23のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 10.0 ps、変調指数MPM = 2.0、ダークパルスは図24のT-Mマップをもとに、T = 10.0 ps、MPM = 3.0としている。これらのフィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図26に示す。図26(a)、(b)は定常パルスの波形(振幅aHG2 pb(t)およびaHG2 pd(t))、図26(c)、(d)は定常パルスのスペクトル(AHG2 pb(ω)およびAHG2 pd(ω))を示している。図27(a)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図27(b)は定常パルスのパワースペクトルを縦モードで、理想的なスペクトル形状を包絡線で示している。得られた波形およびスペクトルは理想的な形状によく一致している。
【0053】
次に、3次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを図28に、光フィルタ4の伝達関数FHG3 pb(ω)およびFHG3 pd(ω)の形状の一例を図29にそれぞれ示す。図28のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 5.0 ps、変調指数MPM = 2.0としている。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図30に示す。図30(a)、(b)は定常パルスの波形(振幅aHG3 pb(t)およびaHG3 pd(t)ならびにそれらの位相)、図30(c)、(d)は定常パルスのスペクトル(AHG3 pb(ω)およびAHG3 pd(ω))を示している。図31(a)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図31(b)は定常パルスのパワースペクトルを縦モードで、理想的なスペクトル形状を包絡線で示している。得られた波形およびスペクトルは理想的な形状によく一致している。
【0054】
次に、4次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを図32および図33に、光フィルタ4の伝達関数FHG4 pb(ω)およびFHG4 pd(ω)の形状の一例を図34(a)、(b)にそれぞれ示す。ブライトパルスは図32のT-Mマップをもとに、パルス幅T =5.0 ps、変調指数MPM = 2.0、ダークパルスは図33のT-Mマップをもとに、T = 5.0 ps、MPM = 3.0としている。これらのフィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図35に示す。図35(a)、(b)は定常パルスの波形(振幅aHG4 pb(t)およびaHG4 pd(t))、図35(c)、(d)は定常パルスのスペクトル(AHG4 pb(ω)およびAHG4 pd(ω))を示している。図36(a)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図36(b)は定常パルスのパワースペクトルを縦モードで、理想的なスペクトル形状を包絡線で示している。得られた波形およびスペクトルは理想的な形状によく一致している。
【0055】
次に、5次ブライトおよびダークエルミートガウスパルスを生成するためのT-Mマップを図37に、光フィルタ4の伝達関数FHG3 pb(ω)およびFHG3 pd(ω)の形状の一例を図38にそれぞれ示す。図37のT-Mマップをもとに、パルス幅T = 4.6 ps、変調指数MPM = 1.3としている。本フィルタを用いてレーザの定常解を計算機解析により求めた結果を、図39に示す。図39(a)、(b)は定常パルスの波形(振幅aHG5 pb(t)およびaHG5 pd(t)ならびにそれらの位相)、図39(c)、(d)は定常パルスのスペクトル(AHG5 pb(ω)およびAHG5 pd(ω))を示している。図40(a)は種光であるASE雑音から定常解へ立ち上がる様子、図40(b)は定常パルスのパワースペクトルを縦モードで、理想的なスペクトル形状を包絡線で示している。得られた波形およびスペクトルは理想的な形状によく一致している。
【0056】
以下では具体的な実験例を示す。実験では、図41に示すように、光ファイバリング共振器(共振器長15 m、自由スペクトル間隔(Free Spectral Range: FSR)13.6 MHz)を用いている。光ファイバリング共振器は、高出力1.48μm半導体レーザ(LD: Laser Diode)6と、半導体レーザ6からの励起光を光ファイバ共振器に結合する波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)カプラ7と、WDMカプラ7で結合された励起光を増幅する偏波保持エルビウムファイバ(図3の光増幅器2に対応)5と、共振器長を可変にするPZT(Piezoelectric Transducer)素子10と、20%をレーザ出力とし残り80%を光ファイバ共振器に分波するカプラ11と、カプラ11からの光を整流するアイソレータ12と、アイソレータ12及び周波数シンセサイザ16、位相シフタ15、アンプ14とそれぞれ接続される位相変調器(図3の光位相変調器3に対応)8と、位相変調器8からの光を波長フィルタ(エタロン)9を介したLCoS素子(図3の光フィルタ4に対応)13とからなる。LCoS素子13の周波数分解能は1 GHzである。LCoS素子13からの光は、WDMカプラ7で結合される。
【0057】
本発明の第1の実施形態における1次エルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図42に示す。図42(a)は振幅特性、図42(b)は位相特性を示している。実験に用いたLCoS素子13は本来1 GHzの周波数分解能を有するものの、レーザの縦モード周波数の揺らぎを考慮して、図42(a)に示すように縦モード間隔ごとにFHG1(ω)をステップ状に近似し、これをLCoS素子13に実装している。
【0058】
このフィルタを使って発生させた1次エルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図43に示す。図43(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図43(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図43(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図43(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図5に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り1次エルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0059】
本発明の第2の実施形態における2次エルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図44に示す。図44(a)は振幅特性、図44(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた2次エルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図45に示す。図45(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図45(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図45(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図45(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図9に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り2次エルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0060】
本発明の第3の実施形態における3次エルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図46に示す。図46(a)は振幅特性、図46(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた3次エルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図47に示す。図47(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図47(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図47(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図47(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図12に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り3次エルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0061】
本発明の第4の実施形態における5次エルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図48に示す。図48(a)は振幅特性、図48(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた5次エルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図49に示す。図49(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図49(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図49(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図49(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図15に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り5次エルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0062】
本発明の第5の実施形態における10次エルミートガウスパルスに関しては観測が困難であったため、ここでは7次エルミートガウスパルスを発生させた結果を示す。7次エルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を図50に示す。図50(a)は振幅特性、図50(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた7次エルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図51に示す。図51(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図51(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図51(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図51(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り7次エルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0063】
本発明の第6の実施形態における1次のダークエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図52に示す。図52(a)は振幅特性、図52(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた1次ダークエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図53に示す。図53(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図53(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図53(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図53(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図21に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り1次ダークエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0064】
本発明の第6の実施形態における1次のブライトエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図54に示す。図54(a)は振幅特性、図54(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた1次ブライトエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを図55に示す。図55(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図55(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図55(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図55(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図21に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り1次ブライトエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0065】
本発明の第6の実施形態における2次のダークエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図56に示す。図56(a)は振幅特性、図56(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた1次ダークエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図57に示す。図57(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図57(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図57(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図57(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図26に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り2次ダークエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0066】
本発明の第6の実施形態における2次のブライトエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図58に示す。図58(a)は振幅特性、図58(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた2次ブライトエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図59に示す。図59(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図59(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図59(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図59(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図26に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り2次ブライトエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0067】
本発明の第6の実施形態における3次のダークエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図60に示す。図60(a)は振幅特性、図60(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた1次ダークエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図61に示す。図61(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図61(b)はその平方根をとり振幅a(t)に換算したもの、図61(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図61(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図30に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り3次ダークエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【0068】
本発明の第6の実施形態における3次のブライトエルミートガウスパルスの発生に用いた光フィルタの形状を、図62に示す。図62(a)は振幅特性、図62(b)は位相特性を示している。このフィルタを使って発生させた2次ブライトエルミートガウスパルスの波形と光スペクトルを、図63に示す。図63(a)は光サンプリングオシロスコープで観測した強度波形a2(t)、図63(b)はその√をとり振幅a(t)に換算したもの、図63(c)は光スペクトラムアナライザで観測したパワースペクトルA2(ω)、図63(d)はそのdB表示(10 log|A2(ω)|)である。実線は実験結果、破線は図30に示した計算機解析結果である。両者はよく一致しており、設計通り2次ブライトエルミートガウスパルスが発生できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上詳細に説明したように、本発明は、レーザ共振器内に挿入した光フィルタの振幅・位相特性を適切に設計することによって、任意の次数のエルミートガウスパルスを容易に発生することができる。本発明によって得られるエルミートガウスパルスは、超高速光通信用の信号パルスや光信号処理をはじめとする幅広い用途、機器、システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 光ファイバ
2 光増幅器
3 光位相変調器
4 光フィルタ
5 偏波保持エルビウムファイバ
6 半導体レーザ(励起LD)
7 波長分割多重(WDM)カプラ
8 位相変調器
9 波長フィルタ(エタロン)
10 PZT素子
11 カプラ
12 アイソレータ
13 LCoS素子
14 アンプ
15 位相シフタ
16 周波数シンセサイザ

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