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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128350
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】生体試料の線維化評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20240913BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240913BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240913BHJP
【FI】
G01N21/17 630
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N33/48 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037282
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】511155187
【氏名又は名称】株式会社サイフューズ
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 涼
(72)【発明者】
【氏名】前川 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 愛優
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045FA14
2G045FA19
2G045JA03
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB09
2G059BB14
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF02
2G059GG02
2G059HH01
2G059JJ17
2G059JJ22
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】細胞に染色等の加工を行うことなく、非侵襲で、生体試料の線維化領域を観察し、生体試料の状態を評価できる評価方法を提供する。
【解決手段】まず、生体試料を撮影して、輝度値が分布する撮影画像を取得する。その後、撮影画像から、線維化領域に相当する局在領域を抽出する。その際、撮影画像のうち、輝度値が所定の条件を満たす領域を、局在領域として抽出する。あるいは、予め作成した学習モデルに撮影画像を入力して、学習モデルから出力される局在領域を得る。これにより、細胞に染色等の加工を行うことなく、非侵襲で、生体試料の線維化領域を観察し、生体試料の状態を評価できる。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料の評価方法であって、
光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影して、撮影画像を取得する画像取得工程と、
前記撮影画像から、細胞が線維化された線維化領域を抽出する領域抽出工程と、
前記線維化領域を解析し、前記生体試料の状態を評価する評価工程と、
を有する、評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の評価方法であって、
前記領域抽出工程は、
前記撮影画像から、前記生体試料に相当する全体領域を抽出する第1抽出工程と、
前記全体領域のうち、輝度値が所定の閾値よりも高い高輝度領域を抽出する第2抽出工程と、
前記全体領域から、前記高輝度領域および前記高輝度領域よりも内側の領域を除いた残りの領域を、前記線維化領域として抽出する第3抽出工程と、
を有する、評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の評価方法であって、
前記評価工程は、
前記撮影画像における、前記生体試料全体の面積を算出する第1算出工程と、
前記撮影画像における、前記線維化領域の面積を算出する第2算出工程と、
を有する、評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の評価方法であって、
前記評価工程は、
前記生体試料全体の面積と、前記線維化領域の面積とに基づいて、評価指標を算出する第3算出工程
をさらに有する、評価方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の評価方法であって、
前記生体試料は、肝細胞を含む肝臓由来細胞を三次元培養したスフェロイドである、評価方法。
【請求項6】
生体試料の評価方法であって、
光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影した撮影画像を入力情報とし、細胞が線維化された線維化領域を出力情報とする学習モデルを、深層学習により作成する学習工程と、
光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影して、前記撮影画像を取得する画像取得工程と、
前記撮影画像を、前記学習モデルに入力して、前記学習モデルから出力される前記線維化領域を得る領域抽出工程と、
前記線維化領域を解析し、前記生体試料の状態を評価する評価工程と、
を有する、評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の細胞により構成される生体試料を光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)により撮影し、得られた断層画像に基づいて、生体試料を観察する観察装置が知られている。従来の観察装置については、例えば特許文献1に記載されている。この種の観察装置を使用すれば、生体試料の立体構造を非侵襲で観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-181348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スフェロイド等の生体試料は、他の部分と細胞の状態が異なる特異部を有する場合がある。例えば、肝細胞を含む肝臓由来細胞を三次元培養したスフェロイド(以下では「肝スフェロイド」と称する)では、培養の過程で、肝スフェロイドの一部が線維化してしまう場合がある。
【0005】
従来、線維化領域などの生体試料中の特異部を観察する方法としては、蛍光試薬を用いて対象の切片を観察する方法が知られている。この方法によれば観察対象がダメージを受ける。このため、生体試料の特異部を、ダメージを与えず自然な状態のまま観察する技術が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、細胞に染色等の加工を行うことなく、非侵襲で、生体試料の線維化領域を観察し、生体試料の状態を評価できる評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、生体試料の評価方法であって、光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影して、撮影画像を取得する画像取得工程と、前記撮影画像から、細胞が線維化された線維化領域を抽出する領域抽出工程と、前記線維化領域を解析し、前記生体試料の状態を評価する評価工程と、を有する。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の評価方法であって、前記領域抽出工程は、前記撮影画像から、前記生体試料に相当する全体領域を抽出する第1抽出工程と、前記全体領域のうち、輝度値が所定の閾値よりも高い高輝度領域を抽出する第2抽出工程と、前記全体領域から、前記高輝度領域および前記高輝度領域よりも内側の領域を除いた残りの領域を、前記線維化領域として抽出する第3抽出工程と、を有する。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の評価方法であって、前記評価工程は、前記撮影画像における、前記生体試料全体の面積を算出する第1算出工程と、前記撮影画像における、前記線維化領域の面積を算出する第2算出工程と、を有する。
【0010】
本願の第4発明は、第3発明の評価方法であって、前記評価工程は、前記生体試料全体の面積と、前記線維化領域の面積とに基づいて、評価指標を算出する第3算出工程をさらに有する。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明または第2発明の評価方法であって、前記生体試料は、肝細胞を含む肝臓由来細胞を三次元培養したスフェロイドである。
【0012】
本願の第6発明は、生体試料の評価方法であって、光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影した撮影画像を入力情報とし、細胞が線維化された線維化領域を出力情報とする学習モデルを、深層学習により作成する学習工程と、光干渉断層撮影により前記生体試料を撮影して、前記撮影画像を取得する画像取得工程と、前記撮影画像を、前記学習モデルに入力して、前記学習モデルから出力される前記線維化領域を得る領域抽出工程と、前記線維化領域を解析し、前記生体試料の状態を評価する評価工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本願の第1発明~第5発明によれば、生体試料の撮影画像から、線維化領域を抽出できる。これにより、細胞に染色等の加工を行うことなく、非侵襲で、生体試料の線維化領域を観察し、生体試料の状態を評価することができる。
【0014】
特に、本願の第2発明によれば、生体試料の外表面に広がる線維化領域を、精度よく抽出できる。
【0015】
特に、本願の第3発明によれば、線維化領域の大きさに基づいて、生体試料の状態を評価できる。
【0016】
特に、本願の第4発明によれば、生体試料の全体に対する線維化領域の大きさの割合に基づいて、生体試料の状態を評価できる。
【0017】
特に、本願の第6発明によれば、学習モデルを用いて、生体試料の撮影画像から、精度良く線維化領域を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】観察装置の構成を示した図である。
図2】観察装置の制御ブロック図である。
図3】画像処理/評価装置の機能を、概念的に示したブロック図である。
図4】肝スフェロイドの例を模式的に示した図である。
図5】評価処理の流れを示したフローチャートである。
図6】断層画像を模式的に示した図である。
図7】線維化領域の領域抽出工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】全体領域を抽出した結果を、模式的に示した図である。
図9】線維化領域を抽出した結果を、模式的に示した図である。
図10】肝スフェロイドの評価工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図11】学習モデルを利用する場合の、評価処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
<1.観察装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る観察装置1の構成を示した図である。この観察装置1は、試料容器90内に保持された生体試料9を撮影し、得られた画像に基づいて、生体試料9の状態を評価する装置である。この観察装置1で観察および評価する生体試料9は、繊維化を起こし得る構成や構造のものであればよい。生体試料9としては、例えば、いわゆる肝スフェロイドが挙げられる。肝スフェロイドは、肝臓を構成する複数種類の細胞のうち、肝実質細胞(肝細胞)を含む2種類以上の細胞を含む細胞集塊である。肝実質細胞(肝細胞)以外の細胞としては、肝類洞内皮細胞、クッパー細胞、肝星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、中皮細胞などがある。
【0021】
図1に示すように、観察装置1は、ステージ10、撮像部20、およびコンピュータ30を備えている。
【0022】
ステージ10は、試料容器90を支持する支持台である。試料容器90には、例えば、ウェルプレートが使用される。ウェルプレートは、複数のウェル(凹部)91を有する。各ウェル91は、U字状またはV字状の底部を有する。生体試料9は、各ウェル91の底部付近に、培養液とともに保持される。試料容器90の材料には、光を透過する透明な樹脂またはガラスが使用される。
【0023】
ステージ10は、上下方向に貫通する開口部11を有する。試料容器90は、ステージ10の当該開口部11に嵌め込まれた状態で、水平に支持される。したがって、試料容器90の下面は、ステージ10に覆われることなく、撮像部20へ向けて露出する。
【0024】
撮像部20は、試料容器90内の生体試料9を撮影するユニットである。撮像部20は、ステージ10に支持された試料容器90の下方に配置されている。本実施形態の撮像部20は、生体試料9の断層画像および三次元画像を撮影することが可能な、光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)装置である。
【0025】
図1に示すように、撮像部20は、光源21、物体光学系22、参照光学系23、検出部24、および光ファイバカプラ25を有する。光ファイバカプラ25は、第1光ファイバ251~第4光ファイバ254が、接続部255において連結されたものである。光源21、物体光学系22、参照光学系23、および検出部24は、光ファイバカプラ25により構成される光路を介して、互いに接続されている。
【0026】
光源21は、LED等の発光素子を有する。光源21は、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光を出射する。生体試料9を侵襲することなく、生体試料9の内部まで光を到達させるために、光源21から出射される光は、近赤外線であることが望ましい。光源21は、第1光ファイバ251に接続されている。光源21から出射される光は、第1光ファイバ251へ入射し、接続部255において、第2光ファイバ252へ入射する光と、第3光ファイバ253へ入射する光とに、分岐される。
【0027】
第2光ファイバ252は、物体光学系22に接続されている。接続部255から第2光ファイバ252へ進む光は、物体光学系22へ入射する。物体光学系22は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を含む複数の光学部品を有する。第2光ファイバ252から出射された光は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を通って、試料容器90内の生体試料9へ照射される。このとき、対物レンズ222により、光が生体試料9へ向けて収束する。そして、生体試料9において反射した光(以下「観察光」と称する)は、対物レンズ222およびコリメータレンズ221を通って、再び第2光ファイバ252へ入射する。
【0028】
図1に示すように、物体光学系22は、走査機構223に接続されている。走査機構223は、コンピュータ30からの指令に従って、物体光学系22を、鉛直方向および水平方向に微小移動させる。これにより、生体試料9に対する光の入射位置を、鉛直方向および水平方向に微小移動させることができる。
【0029】
また、撮像部20は、図示を省略した移動機構により、水平方向に移動可能となっている。これにより、撮像部20の視野を、複数のウェル91の間で切り替えることができる。
【0030】
第3光ファイバ253は、参照光学系23に接続されている。接続部255から第3光ファイバ253へ進む光は、参照光学系23へ入射する。参照光学系23は、コリメータレンズ231およびミラー232を有する。第3光ファイバ253から出射された光は、コリメータレンズ231を通って、ミラー232へ入射する。そして、ミラー232により反射された光(以下「参照光」と称する)は、コリメータレンズ231を通って、再び第3光ファイバ253へ入射する。
【0031】
図1に示すように、ミラー232は、進退機構233に接続されている。進退機構233は、コンピュータ30からの指令に従って、ミラー232を、光軸方向に微小移動させる。これにより、参照光の光路長を変化させることができる。
【0032】
第4光ファイバ254は、検出部24に接続されている。物体光学系22から第2光ファイバ252へ入射した観察光と、参照光学系23から第3光ファイバ253へ入射した参照光とは、接続部255において合流して、第4光ファイバ254へ入射する。そして、第4光ファイバ254から出射された光は、検出部24へ入射する。このとき、観察光と参照光との間で、位相差に起因する干渉が生じる。この干渉光の分光スペクトルは、観察光の反射位置の高さによって異なる。
【0033】
検出部24は、分光器241および光検出器242を有する。第4光ファイバ254から出射された干渉光は、分光器241において波長成分ごとに分光されて、光検出器242へ入射する。光検出器242は、分光された干渉光を検出し、その検出信号を、コンピュータ30へ出力する。
【0034】
コンピュータ30の後述する画像取得部41は、光検出器242から得られる検出信号をフーリエ変換することで、観察光の鉛直方向の光強度分布を求める。また、走査機構223により、物体光学系22を水平方向に移動させつつ、上記の光強度分布の算出を繰り返すことにより、三次元空間の各座標における観察光の光強度分布を求めることができる。その結果、コンピュータ30は、生体試料9の断層画像および三次元画像を得ることができる。
【0035】
断層画像は、二次元座標上に配列された複数の画素(ピクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。三次元画像は、三次元座標上に配列された複数の画素(ボクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。すなわち、断層画像および三次元画像は、いずれも、所定の座標上に輝度値が分布した撮影画像である。
【0036】
コンピュータ30は、撮像部20を動作制御する制御部としての機能を有する。また、コンピュータ30は、撮像部20から入力される検出信号に基づいて断層画像および三次元画像を作成し、得られた断層画像および三次元画像に基づいて、生体試料9の状態を評価するデータ処理部としての機能を有する。
【0037】
図2は、観察装置1の制御ブロック図である。図2中に概念的に示したように、コンピュータ30は、CPU等のプロセッサ31、RAM等のメモリ32、およびハードディスクドライブ等の記憶部33を有する。記憶部33内には、観察装置1内の各部を動作制御するための制御プログラムP1と、断層画像および三次元画像を作成して、生体試料9の状態を評価するためのデータ処理プログラムP2とが、記憶されている。
【0038】
また、図3に示すように、コンピュータ30は、上述した光源21、走査機構223、進退機構233、光検出器242、および後述する表示部70と、それぞれ通信可能に接続されている。コンピュータ30は、制御プログラムP1に従って、上記の各部を動作制御する。これにより、試料容器90に保持された生体試料9の撮影処理が進行する。
【0039】
図3は、生体試料9の観察・評価を行うための画像処理/評価装置としてのコンピュータ30の機能を、概念的に示したブロック図である。図3に示すように、コンピュータ30は、画像取得部41、領域抽出部42、および評価部43を有する。画像取得部41、領域抽出部42、および評価部43の各機能は、コンピュータ30のプロセッサ31が、上述したデータ処理プログラムP2に従って動作することにより、実現される。画像取得部41、領域抽出部42、および評価部43が実行する処理の詳細については、後述する。
【0040】
<2.評価処理について>
続いて、上記の観察装置1における生体試料を肝スフェロイドとした場合の、肝スフェロイド9の観察・評価処理について、説明する。
【0041】
図4は、以下の説明において観察対象とする肝スフェロイド9の例を、模式的に示した図である。図4(a),(b)の肝スフェロイド9は、いずれも、評価対象となる線維化領域9aを有する。線維化領域9aは、肝スフェロイド9の他の部分と細胞の状態が異なる部分である。線維化領域9aは、例えば、肝スフェロイド9の一部の領域が損傷と修復を繰り返した結果、過剰な結像組織が蓄積した瘢痕組織として形成される。
【0042】
線維化領域9aは、例えば、図4(a)のように、肝スフェロイド9の表面(外側)に局在する場合や、図4(b)のように、肝スフェロイド9の内側に局在することが考えられる。
【0043】
図5は、評価処理の流れを示したフローチャートである。観察装置1において肝スフェロイド9の観察・評価を行うときには、まず、ステージ10に試料容器90をセットする(ステップS1)。試料容器90内には、培養液とともに肝スフェロイド9が保持されている。
【0044】
次に、観察装置1は、撮像部20により、肝スフェロイド9の撮影を行う(ステップS2,画像取得工程)。本実施形態では、撮像部20が、光干渉断層撮影を行う。具体的には、光源21から光を出射し、走査機構223により物体光学系22を微少移動させながら、観察光および参照光の干渉光を、波長成分ごとに、光検出器242で検出する。コンピュータ30の画像取得部41は、光検出器242から出力される検出信号に基づいて、肝スフェロイド9の各座標位置における光強度分布を算出する。これにより、肝スフェロイド9の断層画像D1および三次元画像D2が得られる。
【0045】
観察装置1は、1つの肝スフェロイド9について、複数の断層画像D1と、1つの三次元画像D2とを取得する。また、観察装置1は、撮影対象となるウェル91を変更しながら、ステップS2の処理を繰り返すことにより、複数の肝スフェロイド9の断層画像D1および三次元画像D2を取得する。得られた断層画像D1および三次元画像D2は、コンピュータ30の記憶部33に記憶される。また、コンピュータ30は、得られた断層画像D1および三次元画像D2を、表示部70に表示する。
【0046】
図6は、断層画像D1を模式的に示した図である。図6の例では、略球形の肝スフェロイド9の外周部に、線維化領域9aに相当する領域(以下「局在領域A」と称する)が存在している。コンピュータ30の領域抽出部42は、断層画像D1から、この局在領域Aを抽出する(ステップS3,領域抽出工程)。
【0047】
図7は、ステップS3の肝スフェロイド9の線維化領域9a(上記の「局在領域A」)を抽出する領域抽出工程の流れの一例を示すフローチャートである。図7の例では、まず、領域抽出部42は、断層画像D1から、肝スフェロイド9の全体に相当する全体領域A1を抽出する(ステップS31,第1抽出工程)。具体的には、断層画像D1のうち、輝度値が予め設定された第1閾値よりも高い領域を、全体領域A1として抽出する。図8は、全体領域A1を抽出した結果を、模式的に示した図である。
【0048】
次に、領域抽出部42は、全体領域A1から、輝度値が、所定の第2閾値よりも高い領域を、高輝度領域A2として抽出する(ステップS32,第2抽出工程)。なお、第2閾値は、第1閾値よりも高い値である。図8では、環状の高輝度領域A2が、破線で示されている。略球形の細胞塊の外周部は、輝度が高くなる傾向が強い。このため、ステップS32では、高輝度領域A2を抽出することで、略球形の細胞塊の外周部を特定する。
【0049】
その後、領域抽出部42は、全体領域A1から、高輝度領域A2および高輝度領域A2よりも内側の領域を除いた残りの領域を、局在領域Aとして抽出する(ステップS33,第3抽出工程)。図9は、局在領域Aを抽出した結果を、模式的に示した図である。これにより、球形の細胞塊の外表面に広がる線維化領域9aに相当する局在領域Aを、適切に抽出することができる。
【0050】
このように、ステップS3では、断層画像D1のうち、輝度値が所定の条件を満たす領域を、局在領域Aとして抽出する。局在領域Aの抽出手順は、必ずしも、上記のステップS31~S33の通りでなくてもよい。領域抽出部42は、局在領域Aの位置や輝度値に応じて、適切な手順で、局在領域Aを抽出すればよい。
【0051】
その後、コンピュータ30の評価部43は、ステップS3で抽出された局在領域Aに基づいて、肝スフェロイド9の状態を評価する(ステップS4,評価工程)。このステップS4では、評価部43は、断層画像D1および三次元画像D2における線維化領域9aを解析し、スフェロイド9の状態を評価する。
【0052】
図10は、ステップS4の肝スフェロイド9の状態を評価する評価工程の流れの一例を示すフローチャートである。図10の例の評価工程では、撮影画像である断層画像D1における局在領域Aの面積に基づいて、肝スフェロイド9の状態を評価する。
【0053】
図10の例では、まず、評価部43は、断層画像D1における、スフェロイド9全体の面積を算出する(ステップS41,第1算出工程)。具体的には、評価部43は、断層画像D1における全体領域A1の面積を算出する。全体領域A1の面積は、例えば、全体領域A1に含まれる画素数に基づいて算出すればよい。
【0054】
次に、評価部43は、断層画像D1における、線維化領域9aの面積を算出する(ステップS42,第2算出工程)。具体的には、評価部43は、断層画像D1における局在領域Aの面積を算出する。局在領域Aの面積は、例えば、局在領域Aに含まれる画素数に基づいて算出すればよい。
【0055】
続いて、評価部43は、ステップS41の第1算出工程で算出したスフェロイド9全体の面積と、ステップS42の第2算出工程で算出した線維化領域9aの面積とに基づいて、評価指標を算出する(ステップS43,第3算出工程)。評価指標は、例えば、線維化領域9aの単なる割合(局在領域Aの面積を全体領域A1の面積で除したもの)であってもよいし、局在領域Aの面積と全体領域A1の面積とを予め決められた計算式に代入して算出したものであってもよい。
【0056】
ステップS4の評価工程における評価方法は、その他の方法であってもよい。例えば、1つの肝スフェロイド9について複数の断層画像D1を取得している場合、評価部43は、複数の断層画像D1の全体領域A1および局在領域Aの面積に基づいて、肝スフェロイド9全体および線維化領域9aの体積を算出して、当該体積に基づいて評価指標を算出してもよい。
【0057】
評価部43は、算出された評価指標の割合に基づいて、肝スフェロイド9の状態を評価する。例えば、評価指標が肝スフェロイド9における線維化領域9aの面積割合である場合には、評価部43は、評価指標の数値が小さいほど、高い評価を出力する。
【0058】
評価部43により算出された線維化領域9aの大きさ(面積または体積)、線維化領域9aの割合、および評価指標は、評価値Vとして記憶部33に記憶される。また、評価部43は、それらの評価値Vを、表示部70に表示する。
【0059】
以上のように、この観察装置1では、肝スフェロイド9を光干渉断層撮影により撮影し、得られた断層画像D1から、肝スフェロイド9の線維化領域9aに相当する局在領域Aを抽出できる。これにより、細胞に染色等の加工を行うことなく、非侵襲で、肝スフェロイド9の線維化領域9aを観察できる。また、線維化領域9aの大きさを算出することにより、肝スフェロイド9の品質を容易に定量評価できる。線維化領域9aが局在している肝スフェロイド9は、そのままで、あるいは、バイオ3Dプリンタを用いて3D肝臓様構造体となって、線維化モデルなどの各種用途に用いることができる。
【0060】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0061】
<3-1.第1変形例>
上記の実施形態では、ステップS3において、領域抽出部42が、断層画像D1のうち、輝度値が所定の条件を満たす領域を、局在領域Aとして抽出していた。しかしながら、ステップS3において、領域抽出部42は、学習モデルを利用して局在領域Aを抽出してもよい。図11は、学習モデルを利用する場合の、評価処理の流れを示すフローチャートである。
【0062】
図11の例では、まず、コンピュータ30が、深層学習により学習モデルを作成する(ステップS0,学習工程)。学習モデルは、肝スフェロイド9の断層画像D1を入力情報とし、断層画像D1中の線維化領域9aに相当する局在領域Aを出力情報とする入出力器である。コンピュータ30は、予め用意した多数の断層画像D1と、それらの断層画像D1に含まれる局在領域Aとを、教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習モデルを作成する。学習モデルは、記憶部33に記憶される。機械学習アルゴリズムには、例えば、セマンティックセグメンテーションを使用することができるが、これには限られない。
【0063】
学習モデルを作成した後、上記の実施形態と同様に、ステージ10に試料容器90がセットされ(ステップS1)、肝スフェロイド9の撮影が行われる(ステップS2,画像取得工程)。続いて、コンピュータ30の領域抽出部42は、撮影により得られた断層画像D1から、線維化領域9aに相当する局在領域Aを抽出する(ステップS3)。具体的には、領域抽出部42は、ステップS0で作成された学習モデルに、ステップS2で取得した断層画像D1を入力する。そうすると、学習モデルから局在領域Aが出力される。これにより、上述したステップS31~S33のような処理を行うことなく、局在領域Aを得ることができる。
【0064】
<3-2.第2変形例>
上記の実施形態では、断層画像D1から局在領域Aを抽出する場合について説明した。しかしながら、三次元画像D2から局在領域Aを抽出してもよい。三次元画像D2を対象とする場合、上述したステップS3において、三次元画像D2を構成する三次元座標のうち、線維化領域9aに相当する三次元領域を、局在領域Aとして抽出する。抽出の方法は、上記の実施形態のような輝度値に基づく領域抽出であってもよく、上記の第1変形例のような学習モデルを使用した領域抽出であってもよい。
【0065】
<3-3.他の変形例>
上記の実施形態では、試料容器90が、複数のウェル(凹部)91を有するウェルプレートであった。そして、各ウェル91に、1つの生体試料9が保持されていた。しかしながら、1つのウェルの中に、複数の生体試料が保持されていてもよい。その場合、1つの画像の中に、複数の生体試料に相当する領域が含まれていてもよい。また、生体試料を保持する試料容器は、1つの凹部のみを有するディッシュであってもよい。
【0066】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 観察装置
9 生体試料/肝スフェロイド
9a 線維化領域
41 画像取得部
42 領域抽出部
43 評価部
90 試料容器
91 ウェル
A 局在領域
A1 全体領域
A2 高輝度領域
D1 断層画像
D2 三次元画像
V 評価値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11