IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人島根大学の特許一覧

特開2024-12836ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法
<>
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図1
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図2
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図3
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図4
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図5
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図6
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図7
  • 特開-ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012836
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ワイドバンドギャップ半導体の連続波半導体レーザー結晶化方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20240124BHJP
   C30B 1/02 20060101ALI20240124BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
H01L21/20
C30B1/02
C30B29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114586
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】葉 文昌
(72)【発明者】
【氏名】曲 勇作
(72)【発明者】
【氏名】富士本 和馬
【テーマコード(参考)】
4G077
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA10
4G077AB04
4G077BB10
4G077CA03
5F152AA20
5F152CE08
5F152CE09
5F152CE12
5F152CE16
5F152FF09
5F152FG01
5F152FG03
5F152FG23
5F152FG24
5F152FH03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バンドギャップエネルギーが2.8eV以上のワイドバンドギャップ半導体膜のレーザー結晶化と、その膜の単結晶帯成長化による移動度を向上するイドバンドギャップ半導体膜の連続波半導体レーザー結晶化方法を提供する。
【解決手段】当該膜の結晶化方法及び結晶化された膜の製造方法は、酸化インジウムワイドバンドギャップ半導体膜にワイドバンドギャップ半導体膜の吸収係数が3000cm-1~50000cm-1である半導体レーザーをマイクロシェロブロンレーザービーム走査法にて照射する工程を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜にレーザーを照射する工程を含む、当該膜の結晶化方法。
【請求項2】
基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜にレーザーを照射する工程を含む、結晶化された膜の製造方法。
【請求項3】
結晶が単結晶である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
照射するレーザーに対するワイドバンドギャップ半導体膜の吸収係数が3000cm-1~50000cm-1である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ワイドバンドギャップ半導体膜が酸化インジウム膜である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
レーザー照射がマイクロシェロブロンレーザービーム走査法によるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法により製造された膜を含む、薄膜トランジスタ材料。
【請求項8】
基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜の任意の一部の領域にレーザーを照射して当該領域を結晶化させ、レーザー非照射の領域の膜をエッチング除去する工程を含む、ワイドバンドギャップ半導体膜によるパターンの形成方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイドバンドギャップ半導体膜の連続波半導体レーザー結晶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バンドギャップエネルギーが2eV以上と大きい半導体材料が、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)へ応用した時のオフ電流が小さく、省エネ化に有効であることから注目されている。その代表的な材料としてアモルファスIGZOが挙げられるが、応用としてディスプレイのTFTとして使用した場合でも、3次元LSIとして使った場合でも、優れた省エネ効果を得られることが実証されている。
【0003】
アモルファスIGZOの欠点は、MOSFETにしたときの性能指標である移動度が10cm2/Vsと低いことである。その移動度は、単結晶Siの約500cm2/Vs、多結晶Siの約100cm2/Vsと比較すると格段に低い。
移動度が小さいために、次世代超高解像度ディスプレイではフレームレートを上げられず、また3次元LSIへの応用では周波数を上げられない課題が生じる。
【0004】
この課題を解決する方法として、成膜時に水素添加してアモルファス化したIn2O3膜を250℃程度の熱アニールによって、結晶粒径が0.1μm程度の多結晶In2O3に固相成長させる方法が考案されている(非特許文献1)。これにより、MOSFETの移動度は140cm2/Vsと高く、且つワイドバンドギャップ材料のメリットである低いオフ電流を実現した(非特許文献1)。
【0005】
また、TFT応用を念頭にした多結晶Si膜の研究も、最初はa-Si膜の熱アニール固相多結晶化から始まり、その後に高品質な多結晶Si膜が形成できるレーザー結晶化で最終的に実用されたように、酸化物膜でもレーザーで結晶化する方法が提案された(非特許文献2)。非特許文献2では、InZnO膜を波長308nmのエキシマレーザーで結晶化し、TFTに応用された。
【0006】
しかし、エキシマレーザーはパルスレーザーであるため、加熱時間は長くても20nsと短いために、数10nmの小さい結晶粒径しか得られず、熱アニール法よりも劣ったTFT特性でしか得られていなかった。
【0007】
更にこの先、多結晶膜をMOSFETに利用した場合、解決できないジレンマに陥ってしまう(図1)。すなわち、非晶質は均質であるため均一性の課題はないが、その反面、移動度が小さく応答が遅い。そこで、移動度を向上させようと多結晶にすると、多結晶の粒界を大きくするほど移動度は上がるが、MOSFETにまたがる粒界数は少なくなるので、またがる粒界数の相違によってMOSFET間の移動度のばらつきが顕著になる。したがって、多結晶では移動度と均一性を同時に満足することはできない。
この課題を解決するには、半導体膜を単結晶化することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6544090号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-022-28480-9
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 102, 122107 (2013); https://doi.org/10.1063/1.4798519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記背景のもと、バンドギャップエネルギーが2.8eV以上のワイドバンドギャップ半導体膜のレーザー結晶化と、その膜の単結晶帯成長化が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ワイドバンドギャップ半導体膜としてIn2O3膜を連続波半導体レーザーで結晶化することに成功し、且つμCLBS法で単結晶帯成長することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜に半導体レーザーを照射する工程を含む、当該膜の結晶化方法。
[2] 基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜に半導体レーザーを照射する工程を含む、結晶化された膜の製造方法。
[3] 結晶が単結晶である[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 照射するレーザーに対するワイドバンドギャップ半導体膜の吸収係数が3000cm-1~50000cm-1である[1]又は[2]に記載の方法。
[5] ワイドバンドギャップ半導体膜が酸化インジウム膜である[1]又は[2]に記載の方法。
[6] レーザー照射がマイクロシェロブロンレーザービーム走査法によるものである[1]又は[2]に記載の方法。
[7] [2]に記載の方法により製造された膜を含む、薄膜トランジスタ材料。
[8] 基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜の任意の一部の領域にレーザーを照射して当該領域を結晶化させ、レーザー非照射の領域の膜をエッチング除去する工程を含む、ワイドバンドギャップ半導体膜によるパターンの形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ワイドバンドギャップ半導体膜の半導体レーザーによる多結晶膜形成法やμCLBS法による単結晶帯形成法が提供される。本発明により得られる単結晶帯は、高いデバイス均一性を有する。また、高移動度と低オフ電流を両立することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多結晶のジレンマを説明する図。
図2】欠陥による光吸収を示すTaucプロット。
図3】様々な条件で堆積したIn2O3膜のα-λプロット。
図4】マイクロシェロブロンレーザービーム走査法によるレーザー照射法の概要を示す図。
図5】本発明の実施形態1で得たIn2O3膜のEBSD結晶方位マップと結晶方位を色で表した逆極点図方位マップ。
図6】従来の熱アニール法で得られたIn2O3膜のEBSD結晶方位マップ。
図7】本発明の実施形態1で、レーザーの選択照射によりIn2O3膜をレーザー照射領域のみ選択的に結晶化させたIn2O3膜のEBSD結晶方位マップ。
図8】本発明の実施形態2でμCLBS法により単結晶化したIn2O3膜のEBSD結晶方位マップ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜に半導体レーザーを照射する工程を含む、当該膜の結晶化方法、及び、結晶化された膜の製造方法に関する。
【0016】
レーザーアニールをする際、対象となる膜材料は照射するレーザー光を吸収できなければ、対象物を溶融して結晶成長させることはできない。ここで対象材料の光吸収は、対象材料の光学バンドギャップエネルギーEgとレーザーのフォトンエネルギーELの関係で決まり、EL>Egの関係を満たさないと光吸収は起きない。例えば、In2O3膜のEgは約3.7eVであることから、レーザーの波長は335nm以下である必要がある。このため、使用可能なレーザー光は、波長248nmまたは308nmのエキシマレーザーとなる。
【0017】
しかし、エキシマレーザーはパルスレーザーであるために、膜の加熱時間が短くなり、大きな粒径は得られない。最近ではエキシマレーザーに代わる低コストなレーザー光源として紫外連続波半導体レーザーが期待されているが、最短波長が378nmであるため、酸化物半導体膜は半導体レーザーを吸収することができない。
また、連続波レーザーである半導体レーザーは、レーザーアニール光源に使えなかったため、単結晶帯成長もできなかった。
【0018】
そこで本発明者は、Si膜や、Cu2O膜を単結晶化する方法として、シェブロンレーザービーム走査法(μCLBS)を発明した(特許第6544090号)。この方法はシェブロン型の連続波レーザービームをこれら膜に走査することで、走査領域に単結晶帯を形成する方法である。Si単結晶帯にMOSFETの一種である薄膜トランジスタ(TFT)を形成したところ、移動度は540cm2/Vsとなり、単結晶並みの性能が得られた。この技術を利用すれば、In2O3膜も単結晶帯成長できる可能性がある。
さらに本発明者は、半導体材料では、バンド間の光吸収以外に、酸素欠損などの欠陥による光吸収に着目した。
【0019】
半導体材料の光学バンドギャップを求める方法として、Taucプロットが良く知られている。ここで、図2に示したIn2O3膜のTaucプロットを用いて本発明を説明する。
Taucプロットでは、横軸はフォトンエネルギーE(eV)であり、縦軸は(αE)2である、ここでαは吸収係数である。Eはhvとして得られ、vは波長λとの間にv=c/λの関係が成り立つ。ここでhはプランク定数、vは光の周波数、cは光速である。
図2において、(αE)2が直線的に増大する領域の接線(図に点線で示した)が横軸に交わる点が、この材料のバンドギャップエネルギーとなり、この例では3.65eVとなる。3.65eV以下では欠陥による光吸収となるため、αは0とはならない。従って、αEは0にはならない。すなわち、この領域での欠陥密度を増やせば、3.65eV以下のEを持つ光でも吸収させることができる。そしてλが450nm以下の連続波半導体レーザーでもレーザーアニールに使えることになる。
【0020】
図2のTaucプロットを、α-λプロットとして表した図が図3の曲線(ii)である。図3では、In2O3膜の成膜時O2/Ar流量比を変えることで欠陥密度を制御して吸収係数を変化させている。λがおよそ350nm以上の吸収係数が欠陥による光吸収である。そして、O2流量を増やしてIn2O3の酸素を飽和させると吸収係数は1000cm-1以下になる(図示せず)。
成膜条件によって曲線(i)~(iv)で示されるように欠陥密度が変化し、吸収係数は、例えば波長405nmにおいて2桁近くのオーダーで変動していることがわかる。
以上のことから、λが450nm以下の連続波半導体レーザーでも、ワイドバンドギャップ半導体膜の結晶化が可能となった。
【0021】
本発明において使用される基板の種類と材質は、薄膜トランジスタ材料として使用されるものであれば特に限定されるものではなく、任意のものを使用することができる。
例えば、ガラスや石英製の基板、プラスチック製の基板(例えばポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂等)などが挙げられる。
【0022】
本発明において使用されるワイドバンドギャップ半導体膜は、バンドギャップエネルギーが2.8eV以上であればよく、特に限定されるものではない。例えば、In2O3膜、ZnO膜、SnO膜、SnO2膜、GaN膜、GaInN膜などを使用することができる。
そして薄膜を形成させる方法は、例えばスパッタリング、真空蒸着法、化学気相堆積法など、古くから行われている方法を採用することができる。
ワイドバンドギャップ半導体膜を基板に堆積させる厚さは、5~100nm、例えば50nmである。
【0023】
本発明においては、基板に形成した薄膜に対して、基板を所定の速度で移動しながら連続波半導体レーザーまたはパルス駆動された連続波半導体レーザーを照射し、非晶質または多結晶の薄膜を再結晶化させる。
レーザービーム形状は、一般的なラインビームを使うことができる。この場合は、結晶核は制御されないので、多結晶膜となる。
【0024】
レーザービーム形状は、図4で示すように特許第6544090号公報に記載のマイクロシェブロンビームを使うこともできる。この場合はマイクロシェブロンレーザービーム走査(μCLBS)法と称する。具体的には、半導体レーザ装置からのレーザ光(線状の出力光)を、ダブプリズムを用いてレーザ光の半分を反転させて光の進行方向から見て略V字状(シェブロン状)のビームスポットに形状変更し、平面的に広がる非晶質の薄膜に対して、ビームスポットをV字頂点が進行方向前側となるように配向して相対的に移動(走査)させ、照射軌跡部分をラテラル成長により単結晶化させる。
図4において、ビームスポット41を略V字とすることにより膜40に略V字型の溶融領域42が形成され、固液界面は進行方向に対して凸となり、レーザスキャン経路両端での核発生による融液部への結晶成長は妨げられ、レーザの進行とともに単結晶化領域43が連続形成される。
【0025】
レーザー照射の対象となるワイドバンドギャップ半導体膜の吸収係数は、3000cm-1~50000cm-1である。
レーザー照射条件は、走査速度によってレーザーパワー密度条件も変わってくるが、一般的な条件として走査速度を10mm/sに固定した場合では、好ましいレーザーパワー密度は2.5×106W/cm2である。
【0026】
このようにして結晶化させたワイドバンドギャップ半導体膜は、結晶粒径が0.2μm以上の多結晶、または4μm以上の単結晶を得ることができる。
本発明のワイドバンドギャップ半導体膜は、透明ディスプレイ用TFT や3 次元LSI 用TFT などの薄膜トランジスタ材料として使用することができる。
【0027】
さらに本発明においては、基板上に形成されたワイドバンドギャップ半導体膜の任意の一部の領域、すなわち膜を残しておきたい領域にレーザーを照射することにより、この一部の領域を結晶化させてもよい。そして、レーザーを照射しなかった領域(非晶質又は微結晶領域)の膜をエッチング除去することにより、ワイドバンドギャップ半導体膜による任意形状のパターンを形成することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0028】
Inをターゲットに、アルゴンと酸素を使った直流スパッタリング法により、InOx膜を50nm 堆積した。この時、酸素流量が総流量に占める割合を12%とし、基板温度を100℃とした。この結果、図3の曲線(iv)に示すように、波長405nmで吸収係数8000cm-1を持つInOx膜が得られた。その後、波長405nmのレーザー走査により、走査速度10mm/s、レーザーパワー0.43W(推定パワー密度2.7×106W/cm2)の条件で、In2O3膜を結晶化した。この場合吸収係数は比較的小さいので、膜に吸収されたレーザーパワーは実質的に小さく、膜を加熱して多結晶化させるのみとなる。
【0029】
結晶化させたIn2O3膜の結晶性を電子後方散乱回折法(EBSD)により評価した結果を、結晶方位を色で表した逆極点図方位マップとともに図5に示す。また比較対象に熱アニール法により得られたIn2O3膜の結果を図6に示す。熱アニール法で得られる結晶粒径が約0.2μmであるのに対して、本発明のレーザーアニール法では0.8μm程度であった。
本発明の方法により、熱アニールすることなく、レーザー照射により、粒径が大きく、かつ、結晶方位が比較的揃って結晶粒径の均一性が高い多結晶In2O3膜を得ることができた。
【0030】
更に図7に示すように、本発明ではレーザーを選択照射することにより選択的に多結晶領域を形成することができる。非照射領域は非晶質または微結晶質である。酸化物半導体において、非晶質または微結晶質は酸に弱いことから、これら領域を選択エッチングすることにより、レーザー照射で多結晶化された領域のみを残すことができる。すなわち、フォトリソグラフィ技術なしでIn2O3膜をパターニングすることができる。
【実施例0031】
Inをターゲットに、アルゴンと酸素を使った直流スパッタリング法により、InOx膜を50nm 堆積した。この時、酸素流量が総流量に占める割合を9.5%とし、基板温度を250℃とした。この結果、図2、及び図3(ii)に示すように、波長405nmで吸収係数36000cm-1を持つInOx膜が得られた。その後、波長405nmレーザーによるマイクロシェブロンレーザービーム走査(μCLBS)法により、走査速度1mm/s、レーザーパワー0.4W(推定パワー密度2.5×106W/cm2)の条件で、In2O3膜を結晶化した。
本発明の方法により結晶化させたIn2O3膜の結晶性を電子後方散乱回折法(EBSD)により評価した結果を図8に示す。粒径は5μm以上であり、単結晶TFTを形成するのに十分な大きさに成長していることがわかる。
【0032】
本発明の方法により得られたワイドバンドギャップ半導体膜は、単結晶であるためデバイスとしての均一性が高く、環境の湿度や酸素に対する安定性も高い。また、高移動度と低オフ電流を両立することが可能となった。
さらに、基板の制約なく単結晶酸化物半導体薄膜を形成できる本手法は、透明ディスプレイ用TFT や3 次元LSI 用TFT などの革新的なデバイスの実現に寄与することができる。
【0033】
これに対し、比較例として固相結晶化したIn2O3膜は、結晶粒径約140 nm の多結晶膜を示した(図6)。また、各結晶粒で結晶方位はランダムであった。これらはスパッタ成膜時に多量の結晶核が形成され、熱アニールにより核成長が起こったと考えられる。結晶粒界は、デバイス応用した際に性能劣化や特性ばらつきの原因となる。
【符号の説明】
【0034】
40:膜
41:ビームスポット
42:溶融領域
43:単結晶化領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8